COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【JINJER : DUEL】 JAPAN TOUR 25′


COVER STORY : JINJER “DUEL”

“There Is No Guarantee That Tomorrow Is Coming, So You Live Right Here And Now.”

DUEL

JINJER のシンガー、ウクライナの英雄 Tatiana Shmayluk は今、メタル世界で最も注目を集める才能のひとりです。カナダの SPIRITBOX とともに披露した “Circle With Me” の驚異的なデュエットはYouTube で100万回以上再生され、何千ものコメント欄で “これまで見たライブの中で最高の瞬間のひとつ” と称賛されています。Shmayluk が Courtney LaPlante の美しいクリーンに乗って原始の活火山を思わせる叫び声を放つ刹那、私たちはヘヴィ・メタル最高の瞬間を目撃します。その自然の脅威にも似た Shmayluk の歌声はリスナーにもはや畏敬の念をさえ抱かせます。そしてそれは、JINJER のニュー・アルバム “Duél” を盛り上げるエネルギーでもあるのです。
ただそんな新たなスーパースターである彼女は、等身大の自分との格差に戸惑い、疲れ、不安と孤独を感じていました。それは、いったいどうやってこの場所にたどり着いたのかわからないという思いに集約されています。
「時々、自分の人生を振り返って、一体何が起こったんだろうと思うことがある。この現実から目をそらさないと、パニックに陥ってしまうのよ」
容赦ないツアー・スケジュール、何億ものクロス・プラットフォーム・ストリーミングの獲得、国際的なオーディエンスを増化、DISTURBED, SLIPKNOT, DEVILDRIVER といったヒーローたちからの招待。Shmayluk にとって、そんな日々はしばしば、とても騒々しく、とてもぼんやりとした夢のように感じられるのです。
「時々、私はこの人生には力不足だと感じるの……いつも強くなければならないことに疲れていたわ」

そんな日々を送る中で、彼女は中世で穏やかにひっそりと生きる人生を夢想するようになります。妄想、白昼夢の中への逃避。とはいえ、Shmayluk はストリーミング時代のロックスターで、絶え間ないツアー、忙しいスケジュール、過剰な刺激を要求される仕事に就いています。そして37歳になった今、彼女はようやく現実を受け入れ、 “人生に身を委ねた” と感じています。
バンドの5枚目のアルバムとなる “Duél” は、Shmayluk のそんな白昼夢から飛び出してきたような作品です。ほとんどの曲は、仮面舞踏会、ハイソサエティ・ソワレなど、血で血を洗うような大騒ぎが繰り広げられる1830年代が舞台。ギタリスト Roman Ibramkhalilov、ベーシスト Eugene Abdukhanov、ドラマー Vlad Ulasevichを擁するバンドは、19世紀のシンフォニック・ミュージックを、ハイパーチャージド・Djent・サウンドで表現しているのです。
オープナー、”Tantrum” はかつて “力不足” “本当にここにいて良いのだろうか?” と自問自答を重ねた Shmayluk の捌け口として機能しました。
「オープニングはどの曲でもいいんだけど、バンドには4人いるからね。だから、レコーディングが終わってからが大変なんだ。アートワークを決め、プレイリストのようなものを作り、曲順を決める!最終的には、本当にハードでヘヴィな曲から始めるのがいいとみんなで決めたんだ。
この曲はアルバムの中でも特に気に入っている。社会的な期待に逆らうこと、たとえクレイジーだと思われてもありのままの自分でいることを歌っている。個人の自由とスタイルについて歌っているの。歌詞を書いたとき、YouTubeで舞踏会のビデオをたくさん見たんだ!私がショーで着ているような服を着て、未来からのゲストとして舞踏会にに現れた様子を、人々の反応を想像してみたんだ。こういう集まりで目立つと、自分はそこにいるべきでないような気がするよね。それがこの曲の核心なんだ」

プログレッシブに酩酊を誘う “Green Serpent” はそうしたプレッシャーから逃れるために彼女が頼ったアルコールをテーマにしています。
「この曲はアルコール、そしてアルコールの乱用について歌っている。ベラルーシ、ウクライナ、ロシアなどでは、”グリーン・サーペント” はアルコールを意味する言葉だ。それに相当する英語を探そうと翻訳してみたんだけど、これほどしっくりくるものは見つからなかった。これほど詩的な例えはないわ。
この曲は、私のアルコール体験を投影したもので、とても心に響く。ツアー中だと、ショーの前に飲んで、ショーの後に飲むのが習慣になりがちなんだ。ストレスがたまると、それに対処するためにあっちで一杯、こっちで一杯と、考えてみれば、私はアルコール依存症だったのかもしれない。それに、常に英語を話さなければならないから、かなりの精神的エネルギーを使うのよ。お酒は助けになるように見えるけど、いつもひどい気分になって、結局、その価値はないと気づくようになったんだ」
実際、”Duél” は Shmayluk がシラフで書いた初めてのレコードです。12月で彼女は断酒2周年を迎えました。
「今までで最高の決断のひとつだわ。”恥は頭痛よりも痛い” という歌詞がマントラのように刺さる。酔ったときに自分がしたことをとても恥ずかしく感じたのよ。記憶がなくなれば、いつか誰かが私が犯罪を犯した、私が誰かを殺したと言うかもしれない。カフカの “裁判” のヨーゼフ・K のように目が覚めたら、身に覚えのない犯罪で連行されるかも。だから、私は自分自身をコントロールしなければならなかった。もちろん、今でもワインの白昼夢を見るわ。でも、酒を再開するのは60歳になってから」

実際、Shmayluk はカフカを愛しすぎて “Kafka” という楽曲まで制作しました。チェコの有名な作家、フランツ・カフカについてのドキュメンタリーを見ながら、彼女は仲間意識と安堵感を感じていました。特に彼女は、カフカが虐待を受けていた父親に宛てた手紙に特に強く反応しました。”私はいつもあなたから隠れて、自分の部屋で、本の中で、狂った友人たちと、あるいは贅沢な考えを抱いていました”
Shmayluk は、その手紙を読んで大泣きし、すぐに亡き作家の名を冠した曲を書こうと思ったのです。そして、彼女のような実は内向的な芸術家たちが、自分の想像の中や他人の創作物の中に、世間からの避難場所を求めることを白日の下に晒しました。カフカの “変身” に登場するゴキブリのグレゴールのように、彼女はしばしば “無視されている、虫のようだ ” と感じてきたといいます。
「子供の頃、私は本当に作家になりたかった。 散文や自然の描写が大好きで、言葉で風景を表現しようとしたの。 それから自分で物語を作るようになったんだけど、それはかなりくだらないものだった。中学1年生のときには、不条理な詩を書き始めたんだ。ランダムな言葉に韻を踏んだ、かなり前衛的と言えるかもしれない詩をね。
この曲は、(オーストリア系チェコ人の作家)フランツ・カフカのドキュメンタリーにインスパイアされたんだ。 当時はそれほど気にしていなかったかもしれないけれど、30代になった今、より強く心に響いたの。 カフカは傷つきやすく壊れやすい性格で、芸術家としてというより、一人の人間として共感できる。 芸術家として、自分の考えや感情を外に出すことには不安があるからね」

まだ不安と闘っている Shmayluk ですが、断酒してからは気分が和らいでいるといいます。依存症による波や動揺のない生活を取り戻すことは、時として挑戦でもあり、ただじっとしていること、ただ存在することが、どれほど難しく、ほとんど罰のように感じられることか。シラフでアルバムのレコーディングをしたことは、言うまでもなく、彼女にとってまったく違う経験でした。
「以前は怒りっぽかったけど、今は冷静になることを学んだわ」
しかし、酒を飲もうが飲むまいが、Shmayluk はドラマチックなことを好むのは彼女の性格の一部だと認めています。彼女は冷酷な自制心で、そして他人の飲酒習慣を身をもって体験することで、自分のそうした一面と戦わなければならなりませんでした。バーで友人たちと一緒にいるときは、オーケストラの指揮者に自分を例え、「さあ、もう一杯!」とタクトを振るうのです。
もちろん、ウクライナが今置かれている状況も彼女の不安を煽りました。
「”Rogue” “ならず者” は特にウクライナの状況についてだけど、血に飢えた支配者たちによってもたらされたあらゆる状況についても言える。人は権力に貪欲だ。この楽曲は、そうした恐怖を引き起こす血に飢えたすべての王に捧げられる。私たちの運命は残念ながら誰かの手の中にある。 悲しいことに、少なくとも近い将来には変えられないことだと思う。しかし、希望は常にある。 いつも言っているように、希望は最後まで潰えないものだから」

アメリカに住んで数年。しかし、移住4周年が近づくにつれ、彼女は不安感が増していることに気づいています。
「過去のトラウマが出てきたんだ。私は4年ごとに引っ越しをする傾向があるからね。休む時は自分の殻に閉じこもっていたい。特に、いつもフレンドリーなアメリカにはまだ馴染んでいない。私はまだ彼らに慣れようとしているの。私たちウクライナ人はあまり笑わないので、彼らはいつも私が何か悪いことをしたと思っているのよ (笑) 絶え間なくパニックが体中を巡り、西海岸の煙の灰色はおろか、空気を吸うのも大変なの」
明日が来ることが当たり前ではない世界を経験した彼女は、そこから新たな生き方も学びました。
「”Hedonist” はたぶん1年前、いくつかのビジネスを経営し、大成功を収めている女性のインタビューを見て思いついた。”快楽主義” という言葉はすでに知っていたけれど、彼女はそれを新たなレベルに引き上げていた。彼女にとっては精神的、心理的な旅だったけど、今では毎日最高の服を着て、毎日銀の皿で食事をするまでになった。今あるものを最大限に生かし、今を生き、今を楽しむことを学んだのよ。明日が来るとは限らないのだから」

女性であることも、時には生きることを難しくします。
「”Someone’s Daughter” は、女性アーティストが常に自分自身を正当化するよう求められているということ、そして最終的にはすべての女性についての曲。今の世界で女性であることは大変なことなのよ。毎日タフでなければならないし…生まれつきとても穏やかで、冷酷な特質を持っていない女性がたくさんいることは確か。 女性はとてもか弱いかもしれないし、実際、私自身もそういう人間だと思う。 私には保護とケアが必要なのだろうけど、私たちが生きている世界のせいで、私はしばしば一人で物事を進めなければならない。
もちろん、私の周りには私を助け、支えてくれる人たちがいるけど、最終的には自分の道を歩まなければならない。 自分自身を武装しなければならない。この曲のヘヴィな部分は、自分がしなくてもいいと思うような振る舞いを強いられる女性がもつ怒りについて歌っている。私だって戦いたくはない。そんなことはしたくないけど、生き残るためには戦士にならなければならないこともあるの。だから、マリー・キュリーやクレオパトラのような “歴史上の強い女性たち” を讃える曲にしたの」
現代のミュージシャンは、SNS とも戦わなければなりません。
「”A Tongue So Sly” は音楽が複雑なので、完成させるのに数日かかったわ。強いメッセージがある。自分に関する噂やゴシップを耳にしたときのことを歌っているんだ。噂は雪だるま式に大きくなり、その噂が間違っていることを証明しようとするあまり、孤立感を味わうことになる。噂を広める人たちは、本人の言い分には興味がない。彼らはあなたの後ろのドアを閉め、ソーシャルメディアや他の場所で汚いたわごとを吐き出したいだけなの」

いくつもの不安と戦いを乗り越えて、彼女は成長を遂げました。”Duel” とはふたりの自分、良い面と悪い面、内面と外面の戦いのこと。戦いはいつも暴力がその手段ではありません。彼女は意志の力で悪い自分、弱い自分に打ち勝ちました。
「”Duel” とは自分自身と戦争すること、自分の悪い面と良い面、自分の内面と外面。人は常に内面の変化が必要だ。成長しなければ、人生は死を歩くようなものだから。この曲はアルコール依存症を克服した私について書かれたもの。それは意志の力についてであり、私たちは皆それを持っている。自分を信じれば、悪いことにも打ち勝つことができる。この曲は暴力的な決闘のようなものではなく、心理的にはある種の暴力があるかもしれないけれど、自分自身をコントロールし、より良い人間になるということを歌っているんだ」


参考文献: KERRANG! :“There’s no guarantee that tomorrow is coming, so you live right here and now”: Inside Jinjer’s new album, Duél

INSIDE JINJER’S ‘DUÉL’: WILL TATIANA SHMAYLUK EVER FIND PEACE?

来日公演の詳細はこちら!TMMusic

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です