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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE RETICENT : THE OUBLIETTE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CHRIS HATHCOCK OF THE RETICENT !!

“I Wanted To Make An Album That Confronted The Horror Of The Alzheimer Illness But Also The Cruel Way We Often Treat Those That Suffer With It.”

DISC REVIEW “THE OUBLIETTE”

「アルツハイマーが生み出す地獄。僕は家族と一緒にその光景を目の当たりにしたんだ。アルツハイマーは高齢者が大半を占めているから、病気を主張できないことが多く、社会的には見捨てられ、忘れ去られてしまうことだってよくあるんだ。僕はこの病気の恐ろしさと同時に、この病気で苦しむ人たちへの残酷な接し方にも向き合うアルバムを作りたいと思ったんだよ。」
65歳以上の6%が何らかの影響を受けるアルツハイマー病。ゆっくりと、しかし確実に重症度が増していく慢性的な神経変性疾患です。ゆるやかに自分自身を失っていく恐ろしい病。
プログメタルプロジェクト THE RETICENT の首謀者 Chris Hathcock は実際にその恐怖を目の当たりにし、その視点と経験を音の書へと綴ることを決意したのです。
「絶望と鬱を永続的に克服する道を知っていればいいのにと心から思うよ。僕たちの多くにとって、それはある意味生涯をかけた戦いになるからね。」
THE RETICENT は音楽に仄暗い感情を織り込む天才です。2016年の “On The Eve of a Goodbye” では、幼馴染だったイヴが自ら死を選ぶまでの悲愴を、すべてを曝け出しながら綴りました。徐々に近づいていく決断の刻。湧き出るような感情と共に迎えるクライマックス “Funeral for a Firefly” の圧倒的な光景は、聴くものの心激しくを揺さぶったのです。
「こんな悲しいテーマのアルバムを書いたのは、アルツハイマー病や認知症についての音楽がほとんどないからだよ。一般的に、多くの人は特に後期の段階でアルツハイマー病がいかに衰弱を強いる残酷な病気であるか、完全に認識していないよね。患者は記憶を失うだけでなく、さらに話すことも、移動することも、食べることも、飲み込むことさえ出来なくなるんだよ。」
そして THE RETICENT は再度真っ暗な感情の海へと旅立ちました。”The Oubliette” はアルツハイマーの7つの進行状況を7つの楽曲へと反映したコンセプトアルバムです。オープニングで、病院で自分の病状にさえ気付かず至福の時を過ごす主人公ヘンリーを紹介されたリスナーは、彼の静かな戦い、容赦のない悪夢を追体験していきます。
「僕はいつも、伝えたいことの感情に合ったサウンドを見つけようとしているんだ。それは伝統的なバンド(ギター、ベース、ドラム)のセットアップであることもあれば、ジャズのコンボやダルシマー、あるいはブラックメタルのようなワイルドな異なるジャンルへの挑戦の時もあるね。」
実際、ほぼすべての楽器を1人でこなす Chris のコンポジションとリリックは完璧に噛み合っています。OPETH のアグレッション、PORCUPINE TREE のアトモスフィア、RIVERSIDE のメランコリーに NEUROSIS の哲学と実験を認めた多様な音劇場は、エセリアルなメロディーやオーセンティックなジャズの響きに希望を、激烈なグロウルとメタルの方法論に喪失を見定めて進行していきます。亡き妻の生存を信じながら、時に彼女の死を思い出す動揺は、天秤のようなコントラストの上で悲しくも描かれているのです。挿入されるスポークンワードやトライバルなパーカッションも、ストーリーの追体験に絶妙な効果をもたらしていますね。
クライマックスにしてタイトルトラック、Oubliette とはヨーロッパ中世に聳え立つ城郭の秘密の地下牢。高い天井に一つの窓。ヘンリーはその唯一の出口、すなわち死を絶望的な懇願と共に迎えるのです。ただし今際の際に垣間見るは遂に訪れた平穏。
「それは複雑で “勝ち目のない” 状況と言えるだろうな。だからこそ、このアルバムが病気の現実に対する認識を高め、病気を経験している人やこれから経験するかもしれない人たちに小さな慰めを提供できたらと願っているんだよ。」
THE RETICENT はアルツハイマー病の認知度を高めるために、そして病と戦う患者や家族のために、またしても悲哀を呼び起こす感情的な傑作を創造しました。Chris Hathcock は音楽でただ寄り添い、世界へ訴えかけるのです。
今回弊誌では、その Chris にインタビューを行うことができました。「この病気で苦しんでいる人たちの世話をする人たちは、真のヒーローだよ。実に困難な仕事だからね。時にはほとんど不可能なくらいに。心が痛むし、イライラするし、意気消沈するし、とにかく絶え間ない葛藤が続くんだ。このアルバムで僕は、そんなヒーローたちにそれでも誰かが理解してくれるとメッセージを直接伝えたかったんだ。」 Jamie King のプロデュースはやはりプログメタルに映えますね。どうぞ!!

THE RETICENT “THE OUBLIETTE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【WAYFARER : A ROMANCE WITH VIOLENCE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SHANE MCCARTHY OF WAYFARER !!

“Thematically We Wanted To Make Something That Ties Into Where We Are From. We Are From Colorado, Which Was At One Point a Frontier Territory On The Expanding American West. That History, And The Legends That Come With It Are Sort Of Ingrained Here And We Have Grown Up With Them.”

DISC REVIEW “A ROMANCE WITH VIOLENCE”

「自分たちがどこから来たのかということを意識したものを作りたかったんだ。俺たちはコロラド出身で、ここはアメリカ西部の開拓地だった。その歴史と、それに伴う伝説がこの地に根付いていて、俺たちはそれを背負って育ってきたんだから。」
アメリカ西部の土には血が染み込んでいます。何世代にも渡り、赤土や山や平原の埃にも。植民地支配者の手によって原住民から流れ落ちた血潮は、そのままアメリカ西部を赤く染め上げたのです。それは発展でも運命でもなく、古代の文化や土地を冷酷に搾取した虐殺でした。
「西部のイメージに浸透している貪欲さや暴力の誘惑を描くことが目的だったと思う。それはすべてが魅力的に見えて、ある種の優雅さを持っているんだけど、俺たちはこのアルバムでその絵を描きつつ、それを取り巻く闇を掘り下げたいと思ったわけさ。」
アメリカ創世の神話には二つの大きな傷があります。奴隷制とそして西部開拓の名の下にネイティブアメリカンの土地と生命を奪ったこと。残念ながら、アメリカの西部進出から1世紀半が経過しその比較的短い時間の中で、闇を闇へと隠蔽する機運はますます強まっています。
コロラド州デンバーの WAYFARER にとって、アメリカーナとウェスタンフォークを散りばめた彼らのエクストリームメタルは、自らの場所に宿る歴史の捻じ曲げ、溶解に抵抗する手段とも言えるのです。
「俺は北欧の音楽や文化を楽しんでいるけど、アメリカ人としては北欧神話をテーマにしたアルバムを書いたり、それを自分たちのイメージとして取り入れたりすることはできないような気がするんだ。だから、彼らとアプローチは似ているんだけど、俺らの祖国の歴史や伝説、そしてこの場所の代名詞とも言える音楽からメタルを創造しているんだ。」
“フォークメタル” という言葉は、例えば、アンティークの木製楽器をメタルに持ち込み、ヴァイキングの夜会を再現する音景をイメージさせます。ただしこのジャンルの起源と本質は、その国の民族史をメタルサウンドで探求することにあるはずです。アメリカにも、血と煙と混乱に満ちた豊かなフォークの歴史があり、そして2020年にそれを最も深く探求しているバンドは間違いなく WAYFARER でしょう。
「映画のようなクオリティーを目指していた。バンドが様々な要素を混ぜ合わせて、キッチュなギミックのようなものを生み出すのは簡単なことだからね。もっと純粋な方法でアプローチすることが重要だったんだ。」
実際、彼らの最新作 “A Romance With Violence” は、アメリカ西部の血なまぐさい歴史を映画のように描き出し、勧善懲悪の善と悪を入れ替えながら、その真実を葬り去ろうとする企みに贖い痛烈に暴露しています。
カウボーイのラグタイムで幕を開ける “The Curtain Pulls Back” でサルーンの情景を映し出した彼らは見事にレコードの映画的なトーンを設定します。
“The Crimson Rider”、”The Iron Horse” で、ガンマンや無法者、大陸横断鉄道の出現について真実を伝え、10分間のフィナーレ “Vaudeville”では、暴力と偽りの希望を煽った貪欲と野心、つまりマニフェストデスティニー時代の現実を鮮明に映し出すのです。DREADNOUGHT の Kelly Schilling、KRALLICE の Colin Marston のゲスト参加もアルバムのストーリーを完璧に補完していますね。
「この時代は君を引き込む世界だけど、同じように簡単に君を堕落させ、内面まで曝け出させる。」
世界中に知られるアメリカの象徴となったカウボーイの原型が、この巨大な国の過去の非常に辛辣で、悲惨で、恐ろしい出来事とどのように関連しているのか。WAYFARER はさながらエンニオ・モリコーネとメタルのいいとこ取り、文字通り暴力とロマンスの対比によって、その難題を如実に描き切ってみせました。
西部開拓はもちろん、ヴァイキングや世界大戦の血生臭い暴力をロマンに変えた、人工の汚れたカーテンを一枚一枚剥ぎ取っていくように。美しい歴史の絵画には必ず血の匂いが添えられているのですから。
今回弊誌では、ギター/ボーカル Shane McCarthy にインタビューを行うことが出来ました。「Red Dead Redemption との比較は公平に思えるね。西部劇のサブジャンルに取り組んだ、近年ではよりメジャーなメディアリリースの一つだからね。」 どうぞ!!

WAYFARER “A ROMANCE WITH VIOLENCE” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【GHOSTEMANE : ANTI-ICON】


COVER STORY : GHOSTEMANE “ANTI-ICON”

“Is There a Lack Of Danger In Modern Rock, Compared To Rap? Sometimes. But The Feeling Of Inauthenticity Is More About The Lack of Intent.”

ANTI-ICON

GHOSTEMANE の這い出る混沌、”Anti-Icon” は彼の人生において最も激動の時の産物です。それは歪んだビジョンによる究極のカタルシス。
“トラップメタル” の先駆者、多作の Eric Whitney は8枚のスタジオアルバム、10枚の EP、さらに4つの異なるペルソナのもと無数のコラボレーションまでを踏破し、ヒップホップ、ブラックメタル、ハードコア、ノイズに跨り新種のエクストリームミュージック傾倒者の想像力をかき立ててきました。古代から伝わる神秘主義、オカルトのイメージを織り込みながら。
遺体安置所での乱行パーティー、砂漠で燃やす霊柩車のプロローグを経て、”Anti-Icon” は10/21にリリースされました。淡い肌、黒い口紅に乳白色のコンタクトレンズ。さながら吸血鬼か死体のような彼の写真は、GHOSTEMANE のサウンドと美学の進化を象徴していました。
「Soundcloud にいたラッパーたちはストリートウェアに夢中だった。Supreme のような憧れのブランドは、信頼性の証でもあったんだ。だけど僕にとってそれは、皮肉で偽善的なものだったんだよ。だってそれを持っていないとからかわれるんだからね。僕にロゴはつけないよ。他の誰にも似せたくないから。」
それがアルバムタイトル “Anti-Icon” の源流なのでしょうか?
「アイコンというのは、インターネット時代を象徴する言葉の一つだと感じている。僕にとってアイコンとは、アリス・クーパーやマリリン・マンソンのような人のことだよ。10マイル離れていても誰だかわかる。外見も、声も、アクションフィギュアだって作ることができるほどに特徴的なんだ。でも最近じゃ、YouTuber や TikToker、ネット上のパーソナリティーにレッテルを貼るため。それがアイコンだとしたら、少なくとも僕がなりたいものじゃないね。」

ゴーストの物語は、フロリダ州レイクワースから始まりました。パームビーチから南に8マイル、サンシャインステートの郊外に広がる小さな町。ただし、Eric の記憶は父親の影によって暗く沈んでいます。
Eric が生まれる直前、ニューヨークからこの地に転勤した血液技師の父親は、Eric が4歳の時に交通事故で負傷し、それ以来ソファーと杖に拘束されていました。そうしておそらくはその苦境、その結果としてのオピオイド依存症が父親による Eric への支配を引き起こしたのです。Eric はその “暴君のような、ヘリコプターのような親” の複雑な記憶を歌詞の中で 「巨大な手を持った大きな怖い男たちが、僕の胸に指を突っ込み、何をすべきか命令した」と鮮明に振り返ります。
町の下層中流階級で育った Eric の青春は目立たないものでした。アメフトの男らしさも、オシャレへの努力も、行動的になることも、喉の奥で抑圧されていたからです。
「僕はとても内向的だった。友達も全然いなかったしね。学校じゃ、クールなブランドなんて身につけない子供さ。自分以外の何かになりたい、学校以外の何かをやりたい、ここ以外のどこかに行きたい、彼ら以外の誰かといたい、そんな圧倒的な衝動に駆られた10代だったな。いつも本当の自分との折り合いをつけようとしてるんだ。」

17歳の時に父親を亡くしたことが、Eric の感情的地滑りの引き金となりました。「ソーダのボトルを振ってキャップを開けたようなものさ。」
高校卒業後についた営業職で高額な年俸を得ていた Eric ですが、結局、閉所恐怖症のオフィスは彼が夢見ていた人生ではありませんでした。最初の逃避先はハードコアパンクでした。
「NEMESIS でギターを弾き、スラッジメタル SEVEN SERPENT ではドラムを叩いた。それで楽器のマルチな技術と友情が培われたんだ。今でも僕のキャリアには欠かせないものだ。家のようなものだったんだ。」
スピリチュアリティと仏教も Eric の閉ざした心を開かせました。ハーメティシズムと20世紀初頭の書物キバリオンの発見が彼を突き動かしたのです。
「それは宗教だけど、本当に科学に基づいている。僕にとって宇宙物理学は究極のスピリチュアリティなんだ。何より、僕たちが宇宙の中心じゃなく、もっと大きな存在の証を証明してくれるからね。僕にとって、別の領域への逃避でもあったんだよ。間違いなく今、世界は燃えている。ただ、世界には3つのタイプの人がいてね。僕は世界を売った人でも、世界を燃やした人でもない、ただそれを報告するためにここにいるだけなんだ。」
父親からもらった Dr.Dre の傑作 “The Chronic” を除いて、Eric のヒップホップな要素はこの時点まで皆無でした。しかし、NEMESIS のフロントマン Sam のレコードコレクションがその領域への道を開いたのです。DE LA SOUL, OUTKAST, HIEROGLYPHICS のようなアーティストの軽妙な創造性はまず Eric を魅了しました。それからメンフィスの大御所 THREE 6 MAFIA, マイアミの RAIDER KLAN のダークなライムを発見し、遂に Eric はヒップホップと真に心を通わせます。
「夢中になったよ。理解するべきは、僕が感じる闇や重苦しさは必ずしもヘヴィネスやラウドネスと同義ではないってことだった。それはね、ムードなんだよ。」

たしかに、メタルやハードコアは Eric の渇望するエネルギーとカタルシスを提供していましたが、無限の創造的可能性をもたらしていたのはラップだったのです。
「バンドだと他のメンバーと衝突しながら、自分のアイデアを伝えなきゃならない。ラップだとすべてが自分のアイデアなんだ。自分のやることは自分のやりたいこと。僕は完全にコントロールできるようになった。ただ、ラップ、メタル、インダストリアル、テクノ、アンビエント、アコースティック。それが今までに僕が持っていた全ての音とアイデアだ。胸の奥底にあるオカルト的なディストピアの悪夢を、血まみれになって届けるためのね。僕は何もためらっていない。ジャンルは絵の具のようなものだと思っていて、異なる考えや感情を表現するために異なる色相を使っている。だから、何かを感じたら、それに従う。その感情に合った音を見つけて、たとえそれが不完全なものであっても、たとえそれが “悪い” 音であったとしても、たとえそれに耐えられなくても、自分の外に押し出していくんだ。それが自分の真実に響くものであれば-自分の気持ちに響くものであれば-それはレコードに収録される。それだけさ。」
2014年に GHOSTEMANE が誕生し、カリフォルニアのより寛容なシーンを求めて移住したことが真のターニングポイントとなりました。
「”Ghostmane” ってトラックは音楽的な化学実験だった。これが本当の自分の姿だと気づいたんだ。」

インダストリアルな暗闇とメタリックなエッジ、それに NINE INCH NAILS の不気味さはもちろん当初から明らかに存在していました。ただし、”Anti-Icon” には新たな地平へ向かいつつ自らの精神を掘り下げる、縦と横同時進行のベクトルにおける深遠な変貌が見て取れます。2年というこれまでにない長い制作期間はその証明でもありました。
「多くのことを経験してきたよ。人生で最も変革的な時期だった。僕は自分の中にあるクソを全部取り出して作品に投影したんだ。みんな僕を羨んでいるけど、正直正気を保って自分が何者か忘れないようにすることに苦労してるから。」
“Anti-Icon” へのヒントは Eric の多種多様なサイドプロジェクトにありました。
“アンチ・ミュージック” と呼ばれるノイズプロジェクト GASM は、拷問のような不安感に苛まれていましたし、SWEARR の叩きつけるようなエレクトロは束縛なき陶酔感の中で脈動していました。BAADER-MEINHOF の生々しいブラックメタルは刃をつきつけ、GHOSTEMANE ブランドでリリースした 2019年ハードコアEP “Fear Network” は闘争、そのダークなアコースティックカウンターパート “Opium” は絶対的な虚無感を捉えており、そのすべては “Anti-Icon” への布石とも取れるのですから。
もちろん、2020年において “Anti-Icon” というタイトルはそのまま、”AI” というワードに直結します。人工知能。近未来のディストピア的イメージは、心を開いた Eric と親の威圧感からくる強迫観念、妄想被害の狭間で揺れ動いているのです。
「オピオイドなんて自分には関係ないと思ってた。中毒者のものだってね。だけど困難な時を経験した人なら誰だってそうなり得るんだ。僕はハイになったとさえ感じなくなった。気分が悪くならないように、ただそのために必要だったんだ。」

偽りの愛を繰り返し嘆く “Fed Up”, 「I DON’T LOVE YOU ANYMORE!」のマントラを打ち鳴らす “Hydrochloride”。疑心暗鬼は怒りに変わり、中毒で盲目となった Eric にとってこれはオピオイドへの別れの手紙でもあるのです。どん底へと落ちた Eric を引き止めたのは、まず父親と同様の行動を取った自身への嫌悪感だったのです。つまり、Eric は大の NIN ファンでありながら、ダウンワードのスパイラルではなく、ダウンワードからの帰還を作品へと刻んだと言えるでしょう。古い自分を終わらせ、新たな自分を生み出す。MVで示した燃える霊柩車は過去の灰。”N/O/I/S/E” からの解放。
「不死鳥は灰の中から蘇るだろ?古い自分を壊し、殺し、そこから新たな人間になるんだよ。」
前作はただ痛みと苦悩を記し続けた作品だったのかも知れません。
「”N/O/I/S/E”をレコーディングした時、僕は自由で真実味のある音楽を作りたかった。言葉は不器用で解釈を誤ることがあって、芸術の無形の資質を損なうものだと思っているからね。僕は自分の脳と骨の中を深く掘り下げて、これまで感じてきたあらゆる苦悩や、自分を含め多くの人に襲いかかるあらゆる惨劇を扱ったアルバムを作ったんだ。”N/O/I/S/E” は独自の言語であり、痛みと哀れみの出血する舌であり、恐怖の遠吠えであり、光や地上の音をすべて見失うほど深いところにある。世界が内側から自分自身を引き裂く音だった。」

毒を持って毒を制す。Eric の闇に光をもたらしたのは、奇しくも彼と同様ジャンルを渡り歩く賛否両論の “アイコン” Poppy でした。レディング&リーズのフェスで出会った二人は、7月に婚約を発表し、お揃いの漆黒に髪を染めた Poppy は “Lazaretto” の MV まで監修しています。
「彼女は素晴らしいよ。ビジュアルアーティストとして、彼女は他の追従を許さない。それは僕のキャリアの中で、自分自身を十分発揮できていなかった分野の一つだからね。だから彼女に自分の一部を託すのは、奇妙だけど楽しみなアイデアだよね。」
エクストリームミュージックの未来を担う新種として、そのパワー、可能性、そして自らの責任についてはどう考えているのでしょうか?
「ラップにくらべてロックが危険じゃない?時にはね。けど本物じゃない感じはたしかにあるよね。意図が失われたよ。メインストリームでモダンロックは大きく後退している。本当に悲しい曲や怒っている曲はもうラジオじゃ流れていないんだ。壊れた、失われた、悲しい、怒っている、病んでいる、実在の人々と実際につながるための意図がもっとあるべきだと思うんだ。僕にとっては、それが昔との最大の違いなんだ。」
とはいえ、ラップが GHOSTEMANE にとって根幹であることに変わりはありません。高音の叫び声から喉を掻き毟る嗚咽に密やかな囁きのが交互に繰り返されるさまは、さながら体に複数の悪魔が閉じ込められているよう。その悪魔はそうしてリアルを失ったロック世界を侵食していきます。
“Lazaretto” のクイックなリズムとダウンチューンギターの組み合わせには Nu-metal の亡霊が宿り、一方で”Sacrilege” ではハードコア、圧迫的なエレクトロニクス、そして幽玄なムードがダイナミックにブレンドされていて、現代のメタルアイコン CODE ORANGE とのシンクロニシティーを窺わせます。そして、”ASMR (Anti-Social Masochistic Rage) “の突き刺すようなビートは、Eric のアイコン、マリリン・マンソンと同様のダーティーな秘め事を思い起こさせるのです。


Eric にとってこうした多様で変幻自在な音の葉は、やはり暗闇への下降より自らの成長を象徴しています。”Anti-Icon” で最も荒涼とした瞬間 “Melanchoholic” でさえ希望のノートで締めくくられるように。
「僕の中にあったクソみたいなものを全部取り込んで、それを外に投影しているような感じ。今はとても気分がいい。自分の中に溜め込まずにね。」
エリックはどんな種類の伝道活動も嫌いで、「キリスト教と同じくらいラヴェイ派サタニズムを嫌っている」と宣言していますが、それは TikTok などで何が一番ポップになるかを気にするのではなく、他のアーティストが限界に挑戦するように願う気持ちにも通じます。
AUTHOR & PUNISHER, FULL OF HELL, 3TEETH。彼が真の同種と考えるアーティストは、箱の外に踏み出したパフォーマーなのですから。ボストンの VEIN もそのうちの一つ。
「彼らは実験を始めて、自分たちのシーンの人々がどう背を向けるかを経験しているんだ。僕もそれがどんなものか知っている。だから彼らが実験やり続けていること、常に努力していることは、僕にとっては驚くべきことなんだ。」
GHOSTEMANE の目的もより鮮明となりました。
「君が本当に自由であれば、作りたいものを作り、やりたいことをやり、自分の心を語り、制限なく生きることができる。だけど自分自身を傷つけてはならないよ。それがこのプロジェクトの目的だ。GHOSTEMANE は自由な精神を投影したものだから。
僕は自分とそして君たちのために音楽を作り続けるつもりだよ。別の生き方を探している人たちのために、道を切り開いていくんだ。僕は好きな時に好きなように動き、好きなものを作る。選択と独立性は僕たちが受け取った最もユニークな贈り物でだから。それは君だけがコントロールできるもの。痛みや苦悩を通してさえもね。君に治療法を与えることはできないし、どう生きるべきかを伝えることもできないけど、アイデアを与えることはできるから。僕見たこの世界を反映して、君が自由で真の人生への道を辿ることを願っているよ。僕は自分の音楽に種を蒔いてきたからね。解読するのには何年もかかるかもしれない。だけどそれが自由の仕事であり、独立の重荷だ。」

望むのは永遠不滅の音の遺産。
「自分を超えて生きているものを作りたい。この世で何が起こるかは、僕にとってそれほど重要なことじゃない。その先の世代に何が起こるのか、僕が死んだ後に何が起こるのか。全てが塵となり、荒廃した地球上に轟く風が、堕落した都市の記憶を蹴散らした時、僕は自分の音楽のかすかな叫び声を無限に響かせたい。」
最終的には、彼の最優先事項は常にファンでした。「批評家のことなど気にするな、彼らは本当に理解していないんだ。批評家のことなど気にするな、彼らは本当に理解していないんだ」と、熱を帯びて繰り返すリードシングル “AI” が宣言しているように。
「孤独や喪失感を感じたことのある人、この世界には何も残っていないと感じている人、何も持っていないと感じている人のための音楽さ。ただ音だけが聞こえるようになるまで、レコードを大音量で聴いて、落ち込んだことを忘れてほしい。ショーに来て、自分のことを知ってほしいんだ。」
300ドルの Supreme のパーカーを欲しがった15歳の若者は、結局自分で作った服が “ハイアートでプライスレス” あることに気づきました。鬱、中毒、自滅のサイクルから逃れるための教訓は結局のところ希望なのです。
「”Anti-Icon” は暗くて憂鬱で虚無的に聞こえるけど、実はとても希望的なものなんだ。人は常に変化し拡大し続けるものだから。かつての自分がが死ぬわけじゃない。君を押しつぶしているように感じるような人生だって、君がより良い何かとして自分自身を再創造するための新しい材料を作り出しているんだよ。超新星が爆発すると、新しい星が生まれる。エネルギーは永遠に続くんだ。」

参考文献:KERRANG! :How Ghostemane is changing the fabric of heavy music

REVOLVER:GHOSTEMANE: THROUGH THE FRAME

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【OK GOODNIGHT : LIMBO】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH OK GOODNIGHT !!

“We Agree That There Are Not Many Women Seen In This Particular Genre Of Music, But There Is, Without a Doubt, a Vastly Overlooked List Of Women Pioneering The Genre With Amazing Talent, And Doing a Lot For Metal And Rock Music As a Whole.”

DISC REVIEW “LIMBO”

「このメタルという特定の音楽ジャンルに女性があまりいないことには同意するけど、このジャンルを開拓し、素晴らしい才能を持ち、メタルやロック音楽全体のために多くのことを成してきた女性は、間違いなく大きく見落とされているわね。Hayley Williams (PARAMORE) みたいなボーカリストや、素晴らしい友人 Adrienne Cowan (SEVEN SPIRES) , Elizabeth Hull がいなければ、今のような自信を得ることはできなかったと思う。そしてもちろん、母である Sandy Casey の指導と助言がなければ、私はどこにも居場所がなかったでしょうね。彼女は私の人生に影響を与えてくれた、最も刺激的なシンガーよ。」
ロックやメタルの世界における女性の躍動は、間違いなく21世紀におけるメジャーなトピックの一つです。ただし、その開拓には古くはジャニスにスージー・クワトロ、アニー・ハズラムから、アンネケ、ターヤ、エイミー・リーまで、ゼロから土壌を培った幾人もの献身が捧げられています。Casey Lee Williams の母 Sandy Casey もその一人。そうして今、引き継がれた遺産はプログメタルの世界を変革へと導きます。
実は、Casey はすでに有名人です。あの全世界で1億再生以上を記録し第8シーズンまで継続されているモンスターコンテンツ、大ヒット3DCGアニメ “RWBY” のサウンドトラックでメインシンガーを務めているのですから。それだけではありません。彼女の父は Jeff Williams。”RWBY” シリーズのコンポーザーで音楽監督。母との共演もそのサウンドトラックで実現。サラブレッドの血と才能は、そうしてさらなるアーティスティックな飛躍を求めました。
「最初のリハーサルの時から、彼女はこのプロジェクトに参加したいと思っていたし、非常に複雑だけど美しい音楽の上に歌を乗せるという挑戦を受け入れたいと思っていたんだ。」
バークリーの知的な複雑怪奇と、アニメの甘やかな表現力。昼と夜、二つの異世界が出会う逢魔時にはきっとこの魔法の言葉が似合います。OK, GOODNIGHT。
「アルバムのコンセプトは、奇妙な扉が開かれ、地球を荒廃させ、誰でも何でも破壊する異世界の巨人がやってきたような巨大な黙示録の中で生き残ろうとしている若い女の子を中心に展開しているよ。」
デビューフル “Limbo” でバンドが語るのは異世界からもたらされた辺獄のストーリー。幼い頃から日本の文化やアートを愛しアニメを見続けた異能のギタリスト Martin と、映画のサウンドトラックを養分とする鍵盤奏者 De Lima、そして “RWBY” で近未来の理不尽な御伽草子を紡ぐ Casey が交わるにはあまりに完璧な舞台です。
「アトモスフェリックなサウンドとピアノを、大きな作品の一部として使用することで、リスナーの心を掴み、より集中して聴くことができるようになると思う。ヘヴィーなギターリフと優雅なテクスチャーの並置は、このバンドのサウンドの大きな部分を占めているよ。」
ストーリーへの没入感を加速する対比のダイナミズムと、メタルとサントラのマリアージュが投影を加速する音映像。もちろん、その難題はバークリーのカラフルなテクニックと、Casey の伸びやかでムード満載な歌声によって実現されていくのです。
クラッシックやジャズ、ポストロックのキメラさえ基本。ここには PROTEST THE HERO も、DREAM THEATER も、PLINI も、RADIOHEAD も、ほんの少しの Djent も、CASIOPEA のようなジャパニーズフュージョンだって、それにアニメのイントロやアウトロのドラマティシズムまでもが繊細に大胆に織り込まれているのですから。最新 EP “Under the Veil” の幕引きに流れる Casey の気高きソプラノは、20年代プログメタルの辿る道をほんのりと照らしているのかも知れませんね。
今回弊誌では、OK GOODNIGHT にインタビューを行うことが出来ました。「僕たちは皆、好きな音楽や音楽を演奏するようになった経緯が全く違っていて、それがアーティスティックな選択にも表れていると思うよ。それに、長所と短所もそれぞれ違っているよね。」どうぞ!!

OK GOODNIGHT “LIMBO” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【OCEANS OF SLUMBER : OCEANS OF SLUMBER】


COVER STORY : OCEANS OF SLUMBER

“I FEEL LIKE MY HISTORY IS BROKEN, I FEEL LIKE AMERICA IS BROKEN”

OCEANS OF SLUMBER

女性であること。黒人であること。ヘヴィーメタルには直結しない2つの特徴を持つ Cammie Gilbert は、OCEANS OF SLUMBER へと加入した2015年、自らに一握りの不安を抱えていました。
「メタルの世界に入った時、黒人女性であることや、必ずしもメタルのバックグラウンドばかりを抱えているわけではないことにかなり負い目を感じていたのはたしかね。」
バプテスト派の家庭で育ち、IRON MAIDEN や METALLICA より R&B やヒップホップが鳴り響く街並み。両親は教会の聖歌隊で出会い、プロのミュージシャンである父親が聖歌隊のリーダーを務めていました。”南部出身の黒人女性” としての経験をいかにメタルへと反映させるのか。しかし Cammie は自身のバックグラウンドが、思っていた以上にメタルと調和していることに気づきました。
「私はメタルから歌を教わったわけじゃない。だけど、私が歌を教わったゴスペル、ジャズ、ブルースのヴァイブやエッセンスはプログメタルが存在し成立するまさにその理由の一つなのよ。だから私はメタルが大好きなの。美学やアトモスフィアもそうだけど、エモーションや細部への拘りもね。」

興味深いことに、Cammie の人生に最も早く寄り添ったメタルは、Layne 逝去のあと、黒人ボーカリスト William DuVall と共に前へと進む ALICE IN CHAINS でした。
「初めてロックやオルタナティブを聴き始めた時、ALICE IN CHAINS の “Dirt” が私を揺さぶったの。KORN や SLIPKNOT は激しすぎて家では聴かせてもらえなかったんだけどね。感情が込められているのよ。悲しみや痛み、ヘヴィーな感情を理解するのはあの頃の私にとって未知のことだったのよ。」
Layne Staley や Chris Cornell のソウルフルが彼女のルーツと共鳴したのです。
「当時、私の周りにはロックやメタルにハマっている黒人の子供はあまりいなかった。だから少し孤立していたの。でも、それが私が感じていた音楽だったから。大学まではちょっとした一匹狼だったわ。大人になってライブに行けるようになるまでは、メタルやロックシーンのコミュニティの感覚を得られなかったわね。」

数年後、Cammie は自らロックバンドで歌っていました。彼女が所属していたバンドは、ある日ヒューストンで開催された OCEANS OF SLUMBER のショーのオープニングを務めました。
「私はルーサー・ヴァンドロスを聴いて育ったから、ウォームアップとしてメロディックでビッグな曲を演奏していたの。駐車場で叫んでいたら、Dobber の友達が私を見ていたわ。私はこのショーで唯一の黒人の女の子で、鮮やかなエレクトリックブルーのドレスを着ていたから、かなり目立っていたのよ。私たちがパフォーマンスをしたとき、Dobber たちが真顔で私たちの前に立っていたのを覚えているわ。私は『彼らは私たちを嫌っている』と思ったわ。(笑) でも、そんなことはなかったわね。後日、彼らは私に連絡してきたの。」
バンドは Cammie に何曲か歌ってほしいと頼み、2014年にオリジナル・シンガーの Ronnie が脱退した際、彼女が後任となりました。今では CammieとDobber が OCEANS の舵取りを行い、Dobber が楽曲の「85~90パーセント」を書き、Cammie が作詞を担当しています。そして彼女が加入した後、二人の関係は音楽を超えてロマンチックなものへと発展していきました。


2人を繋ぎ合わせた TYPE O NEGATIVE の “October Rust” も彼女、そしてバンド全体にとって重要なレコードです。
「Peter Steele が大好きなの。私たちは TYPE O NEGATIVE が大好きで、彼らのアルバムは何枚も持っているけど、私にとってはこの作品がメインよ。”Cinnamon Girl”、”Be My Druidess”、そして “Wolf Moon”。Dobber は一度彼らのライブを見たことがあるのよ。うらやましいわ。私は Peter の自伝を読むことで埋め合わせなければならなかったの。バンドに関するメディアならは何でも買っているわ。彼らの曲を聴くのは経験になるのよ。Peter はとても賢い作詞家だから。聴いている音楽の中で一番面白い音楽だと思う。エネルギーを高めてくれるし、幸せな気分にさせてくれるわ。」
ANATHEMA, KATATONIA, SWALLOW THE SUN といった Peaceville 由来のゴシックドゥームな音モスフィアも当然 Cammie の養分です。
「ラブシックな音楽よね。クルーナー的な意味ではなく、切ない憧れとストーリー性を持った、かなりロマンティック。甘くて切なくて、夜にピッタリな音楽だわ。」
EVERGREY のプログレッシブな音の葉は OCEANS OF SLUMBER のスピリットと切っても切り離すことはできません。
「全員 EVERGREY の大ファンなの。”The Storm Within” は私の心を掻き毟り、彼らのエネルギーとボーカル Tom S. Englund が語る経験に引き込まれるわ。彼は信じられないほどソウルフルなのよ。OCEANS は彼らに比較的似ていると感じているの。素晴らしくとてもヘヴィなアルバムよ。」

つまり、メタルは他の何ものにも出来ない方法で人と人を絡み合わせると彼女は信じているのです。
「目を閉じていると、彼らの現実が、経験が伝わるのよ。私はいつも身体の外に出るような体験を探しているから。一瞬、私たちは完全に歌と一体となり、楽曲の書き手と一体となる。」
音楽的にも、プログ、ジャズ、R&B、ドゥームにゴシック、デス、ブラックといくつもの垣根を取り払ったセルフタイトル “Oceans Of Slumber” において、Cammie はそうやって文化や人種の壁も取り払いたいと切に願っています。Dan Swano のミキシングとテキサスヒューストンの組み合わせもその主張を実践していますね。
「ドラマーで私のパートナーでもある Dobber がこのレコードで君のことを語ろうと言ってくれたの。南部に住む黒人女性としての私の気持ちをもっと大きなスケールで OCEANS の音楽に反映させようってね。それってメタルコミュニティにはまだあまり浸透していない視点なの。だから、彼の言葉は、自分の人生の中で感じている怒りやズレ、混乱、葛藤などを、本当に深く掘り下げていくための青信号になったわね。私たちは、明らかにいつも存在し、常に問題となっているものを探求し始めたの。長い間、ある種のカーペットの下に押し込められていた問題をね。」
ジョージフロイド氏が殺害され、Black Lives Matter が世界を揺るがした時、Cammie の発したステイトメントは胸を打ちました。

「私はアメリカの黒人女性で、奴隷の曾孫娘。それは写真の中だけの記憶。幼い頃、私は奴隷の生活を想像しようとしたわ。だけど今起こっている現実は、私の子供じみた想像力の裏にある謎を解き明かしてくれたの。南北戦争ドキュメンタリーの古い写真を見ると、彼らの顔が見えるわ。マーティン・ルーサー・キング・ジュニアに触発された行進の映像を見ると、彼らの顔が見える。そして今、ソーシャルメディアにサインインして、催涙ガスをかけられているデモ参加者を見ると、彼らの顔を見ることができる。そして今は私の顔も見えるのよ。
黒人の上院議員、市長、有名人、勇敢な人々がネット上でこの国の欠点に対する不満を共有しているとき、私はもう怒りの涙を抑えられないの。全国放送のテレビで、これまで以上に多くの黒人が泣いているのを見てきたわ。自分の歴史が壊れたような気がするし、この国が壊れたような気がする。ジョージ・フロイドは転機となった。新世代が「もういい加減にしろ」と言うきっかけになった。彼の人生を奪った紛れもない冷酷さを無視することはできなかったの。彼の死がビデオに撮られたことは、感情的にはぐちゃぐちゃになっていて居心地が悪いけれど、それでも幸運だと思っているわ。それはついに世界に、何十年もの間、ネイティブアフリカンのアメリカ人が注意を喚起しようとしてきたことを、自らの目で見る機会を与えてくれたから。物事はまだ壊れている。とても、とても、壊れている。
アメリカの歴史を考えてみると、白人でない者に良いことはほとんどないの。それが真実よ。色々な情報を鵜呑みにすると胸に空洞感が残るのよ。この国は何かを直しているのではなく、何かを手放しているのだと気づくわ。壊れ始めたのは、間違った方法で、間違った土台と間違った考え方で始まったから。始める前に対処することを選んだ。他者への抑圧を維持することで強さを維持することを選んだ。楽な道を選んだその同じ道が常に足かせになることに気づかずに。もはや息を止めたり、憎しみや抑圧のためのスペースを確保したり、安易な道を選んだりすることはできないわ。国家として、私たちは最も脆弱で最も問題を抱えた人々や地域社会に思いやりとケアを示さなければならないの。彼らを奮い立たせれば、私たち全員が奮い立つでしょう。彼らを貶めるものが我々を貶めるのと同じように。コミュニティに属することは意味があることに気づくのが早ければ早いほど、私たちは前に進み、すべての人のために真の変化を起こすための連帯感を見つけることができるのだから。
抗議活動の勢いを持続させ、前進させるためにはどうすればいいのだろうか。これは、すべての人が反省するための時間。自分の信念が自分の人生をより良いものにしてきたのだろうか?私の信念は、私の周りの人々の生活をより良いものにしただろうか?正直に答えて、よく考えて欲しい。私たちの未来は、それにかかっているから。」

音楽的に、アルバムは以前よりもその壮大さを増しています。Cammie の言葉を借りれば「Dobber は存在しない映画のサウンドトラックのように作曲している」。そうしてこれまで OCEANS の旅は、より内省的なものでしたが今回のセルフタイトルでは、より広い社会的なトピックや過去からインスピレーションを受けていることに気がついたのです。さながら、壊れた世界のサウンドトラックの如く。
「1年ほど前に第二次世界大戦の映像をカラー化した『第二次世界大戦 HDカラー』が公開されたんだけど、Dobber は大の歴史好きだから見に行ったんの。カラーで見ると物凄いわ。とても現代的に見えるから、頭の中では違った感覚になるのよね。戦争の原因となったもの、文化の分派、社会学、心理学を学んだわ。ヒトラーの台頭や、彼がいかに上手くやったのかを。パターンが見えてきて、それが今の時事問題とどのように関係しているのかが分かるようになる。新しいことは何もないことに気づくの。私たちは第一次世界大戦からベトナムまで、戦争と国際関係の深い穴に入っていったのよ。
そのあと『どうやってみんなに歴史を伝えればいいのだろう?みんなこの歴史を知っているのだろうか?!』と思ったわ。人々は歴史を知らないし、それが今の状況にどれだけ影響を与えているかも知らないような気がしたのよ。もしあなたが精神疾患を持っていたら、心理学者はあなたがどのように育ったのか、どこから来たのかを尋ねるでしょう?社会として、文化として、自分の歴史を見なければならないのよ。」

例えばブラックメタルがナチスの問題を抱えるように、メタル世界にも取り払うべき差別の壁は存在します。
「メタルコミュニティの中から、私の視点にこんなにも多くの支持が寄せられていることに驚いたわ。身近な友人の輪の中から、波紋が広がって、まさか共有するとは思ってもいなかった人たち(メタル界の白人男性)が、『俺たちはこれを乗り越えたいんだ。俺たちは解決すべき問題を抱えているし、変化が起こるべき正しい側にいたいんだ。』なんて言葉が寄せられるなんてね。明らかに、ここには多様性があるべきなの。すべてのミュージシャンはその生い立ちや文化ではなく、音楽性に基づいてチャンスが与えられるべきなのよ。その外見ではなく、音楽性でチャンスを与えるべき。そうすれば、音楽だけでなく、バンドのメンバーも多様化して、様々な人たちが集まることになるはずなのよ。」
パンデミックからBLM運動まで、これまでの2020年の出来事を考えると、Cammie の歌詞は今の時代にあまりに符合しています。
「今振り返ってみて、何が私たちをこれほどまで時代と関連性のあるアルバムを作らせたのか、その軌跡を見ようとしているの。私は偶然を信じない。実際、他の人たちも同じような軌跡をたどっていたと思う。人々は今、その歴史や、認識や制度がどのように彼らの周りの世界を形成してきたかに注目しているわ。一度真実とすべての情報を知ると、それを見逃すことはできないの。」

Cammie の作詞へのアプローチは思慮深く、創造的です。”Pray For Fire” では、再生と破壊両方のための火の対照的な機能を探求しています。つまり人々と土地を守るため、国有林での制御された燃焼と、戦闘での火炎放射器の使用。
ファーストシングル “A Return To The Earth Below” では、自身の鬱病との闘いを、より幅広い社会のパターンとともに考察しています。「私は自分自身を助けるために、集中して前を向いて努力し続けなければならないと感じているの。誰にでも対処することや克服しなければならないことがあるわ。それをもう一度紐解いてみると、社会がいかに悪いパターンに陥っているかがわかるのよ。物事がうまくいっているように見えても、ヒトラー・ユーゲントのように、ゆっくりと、誰も気づかないうちに追い越されてしまうこともあるんだから。」
Cammie の文章には遊び心もあります。クローザー “The Red Flower” は女性としての葛藤と矛盾についての曲で、TYPE O NEGATIVE の “Wolf Moon” カヴァーが続きます。
「”The Red Flower” は女性らしさを歌った曲で、Peter Steele の超ロマンティックなラブソングが続くのよ。(笑) 彼は愛に溢れた男で、彼女のストレスを少しでも和らげたいと思っているのよ!あの曲を女性としてカバーするのはちょっと生意気だと思ったけどね。」

Cammie は将来、特に次世代に希望を持っています。
「子供たちは私たちが生きてきた頃よりも多くの情報を目にするようになってきていて、それが良い意味で彼らを形作っていくのは間違いないと思う。これからの世代は、情報に精通し、賢く、感情的に賢い世代。私は彼らが行動を起こして、過ちのいくつかを元に戻すと信じているわ。私は長い目で見て希望を持っているの。」
アメリカの会場が安全に再オープンし、OCEANS OF SLUMBER のツアーが許可されれば、Cammie は、旅を通して経験するすべての景色、匂い、味の感覚をまた満喫したいと語ります。
「会場に到着して、荷物を降ろして、街に繰り出す瞬間が恋しいわ。まだ開場していないし、皆が荷物を積み込んで、サウンドチェックをして、そして会場のドアから飛び出して外に出て、日の光に目を慣らしながら外に立ち、どこの街でも、どこの国でも、賑やかな通りを見て、すべてを受け入れるの。そして、オープン前の小さな探検の時間を過ごすのよ。地元のおやつ屋さんを見つけたり、コーヒーや食べ物を買いに行ったり。それが一番懐かしいわ。戻ってくるかどうかもわからない何かを待っている気分よ。例えば、飼い猫が逃げてしまった時のように。内向的な自分が思っていた以上にステージが必要なの。人が必要なの …ほとんど誰にも会わなかったこの期間で、思っていた以上に人や観客、ビジネスを失ったことは間違いない。ステージに立って、自分の歌を熱心に聴いてくれている人たちが受け止めてくれていることほど素晴らしいことはないの。それこそが繋がりよ。もう二度とそれを経験できないという考えは、心の中の何かを破壊してしまうのよ。」

参考文献: KERRANG!:OCEANS OF SLUMBER’S CAMMIE GILBERT: “I FEEL LIKE MY HISTORY IS BROKEN, I FEEL LIKE AMERICA IS BROKEN”

KERRANG!: OCEANS OF SLUMBER ARE THE SOUNDTRACK TO A BROKEN WORLD

HOLLYWOOD LIFE: OCEANS OF SLUMBER’S CAMMIE GILBERT

LOUDERSOUND : 10 ALBUMS THAT CHANGED CAMMIE’S LIFE

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PALLBEARER : FORGOTTEN DAYS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JOSEPH D. ROWLAND OF PALLBEARER !!

“I Do Have a Great Love For The Bands Who Shifted Into Something Not Quite Prog, Not Quite AOR. Asia, And 80s Rush Are a Great Example Of That.”

DISC REVIEW “FORGOTTEN DAYS”

「KING CRIMSON や URIAH HEEP, MAGMA といったバンドは、たしかに現在のドゥームに通じている部分があると思う。そして重要なのは、個人的に僕は今日のどんなバンドより遥かに大きなインスピレーションを、そういったバンドから継続的に得ていることなんだ。」
多様化、細分化が進行するモダンメタルの時代において、フューネラルドゥーム、エピックドゥーム、ドゥーム/ストーナー、ゴシックドゥームとその陰鬱な墓標を拡散するドゥームメタルの新たな埋葬は大きなトピックの一つです。
中でも、PALLBEARER 以前、PALLBEARER 以降とまで区分けされるモダンドゥームの棺付き添い人は、愛する70~80年代のプログロックから受け継いだ仄暗き哀愁や知性を伴いながら、プログレッシブドゥームの扉を開けました。
「僕たちは常に変化と進化を第一の目標の一つとして進んできたよ。だから、純粋な続編となるような、似たようなレコードは一つもないはずなんだ。」
PALLBEARER が2017年にリリースした “Heartless” はプログレッシブドゥームのまさに金字塔でした。さながら幾重にも織り込まれた闇のタペストリーが寄り集まるように、繊細で複雑で装飾豊かに設計されたドゥームの聖堂では、その荘厳故に幾度も訪れることを義務付けられたプログとドゥーム、オルタナティブ、そしてクラシカルの宗派を超えた礼拝を司っていたようにも思えます。ただし、真のプログレッシブとは一箇所に留まらず、変化と進化を重ねること。
「僕たちは複雑さや装飾性を自分たちが納得するまで追求してきたんだけど、その領域を離れてもっと広い意味でのエモーショナルなもの、自分たちにとっては違うインパクトのあるものを作りたかったんだ。」
バンドの中心 Joseph D. Rowland は、デビュー作 “Sorrow & Extinction” 製作時に愛する母を失いました。その感情の解放は、10年という時を経て家族をテーマとした “Forgotten Days” に降り注ぐこととなりました。
母の死という喪失が自らをどう変化させ、形成したのか。山ほどの後悔と内省、そして人生における選択の重さをドゥームに認めた作品は、明らかに以前よりダイレクトで、生々しく、そして重苦しく、エモーショナルです。
「僕はね、完全にプログレではなく、完全にAORでもないものにシフトしていったバンドをとても愛しているんだよ。ASIA や80年代の RUSH はまさにその良い例だと思う。」
壮大な組曲の後に素知らぬ顔でポップソングを収録する。クラッシックロックにシンセサイザーや電子の実験を持ち込んでみる。Joseph の言葉を借りれば、プログレッシブから芸術的なやり方で王道に回帰する。過渡期のロック世界に花開いた得体の知れない徒花は、エリック・サティーやグレゴリオ・アレグリといったクラッシックの音楽家と同様に Joseph の内側へと浸透しています。典型からの脱出。そもそもロックとは得体の知れない何かを追い求めることなのかもしれませんね。
実際、これまで交錯した音の樹海を旅してきた PALLBEARER にとって、このレコードは “Asia” であり、”Big Generator” であり、”Moving Pictures” なのかも知れません。オープニングを司る “Forgotten Days” は王道のドゥーム世界へと回帰しながら、即効性と中毒性の高いキャッチーな旋律でリスナーを憂鬱のノスタルジアへと誘います。一方で、KING CRIMSON の “Fallen Angel”, “Starless”, そして “Epitaph” の叙情をドゥームへ繋げた “Silver Wings” はバンドのプログレッシブな哲学を伝えますが、それでも以前より実にオーガニックかつ濃密です。
SUNN O))) や EARTH を手がけた Randall Dunn のアナログでライブ感重視のセンスが、PALLBEARER の新たな旅路のコンパスとなったことは確かでしょう。ハイライトは閉幕の2曲。凍てつくような厳寒に美麗を織り交ぜた “Rite of Passage” では、Brett Campbell が Geddy Lee と Alex Lifeson の一人二役をこなしながらエピックドゥームの進化を提示し、DEPECHE MODE のポストパンクを咀嚼した “Caledonia” を自らの進化の証とするのです。
今回弊誌では、Joseph D. Rowland にインタビューを行うことができました。「YES の楽曲 “Big Generator” には信じられないほどヘヴィーなギターリフが入っているんだ!もちろん、プロダクションの選択やサウンドの中には、今では少し時代遅れと思われるものもあるかもしれないけれど、僕は PALLBEARER とこの曲の間にとても親近感を覚えているんだよ。」 どうぞ!!

PALLBEARER “FORGOTTEN DAYS” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【GARGOYL : GARGOYL】WHEN GRUNGE AND PROG COLLIDE


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DAVE DAVIDSON OF GARGOYL !!

‘For Me a Band Like Alice In Chains Does Have Progressive Edge To Them Even Though They’re Considered Grunge. They Definitely Weren’t Just Taking a Radio Rock Approach, They Always Had Something New To Say With Every Album.”

DISC REVIEW “GARGOYL”

「僕はこのプロジェクトを自分の中にある別の影響を吐き出す場所にしたかったんだ。普段、僕がかかわっている音楽から離れてね。そうすることで、アーティストとしての別の一面を表現することができるから。」
前身バンドも含め、ボストンの名状しがたきデスメタル REVOCATION で2000年から活動を続ける Dave Davidson は、究極に複雑なリフ、慄くようなスクリーム、そしてブラストの嵐の中で20年を過ごしてきました。つまり、自らの全てをエクストリームメタルへと捧げることで、シーン随一のギタープレイヤーという威名を得ることとなったのです。DEATH や CYNIC の正当後継者、魂の継承は彼にこそ相応しい。ただし、それは Dave という多面体の音楽家にとってほんの一面にしか過ぎませんでした。
「自分たちが影響を受けたものにオマージュを捧げたいという気持ちはあったと思うけど、それは自分たちのやり方でやる必要があったんだ。 俺たちは過去を振り返るバンドになろうとしているのではなく、影響を受けてそれを発展させることができるバンドになろうとしているからね。」
AYAHUASCA のギター/ボーカル Luke Roberts を巻き込み立ち上げた新たなプロジェクト GARGOYL で、Dave は自らが多感なスポンジだった90年代の音景を、培った20年の発展を注ぎながら再投影してみせました。グランジ、ゴス、オルタナティブ。具体的には、ALICE IN CHAINS や FAITH NO MORE の面影を、Dave らしいプログレッシブやジャズの設計図で匠のリフォームの施したとでも言えるでしょうか。ALICE IN CHAINS + OPETH, もしくは MARTYR という評価は的を得ているように思えますし、プログレッシブ・グランジという Dave が失笑したラベルにしても、少なくとも作成者の苦悩と意図は十分に伝わるはずです。
「間違いなく、僕たちは全員が ALICE IN CHAINS から大きな影響を受けていると言えるね。そうは言っても、Luke は間違いなく非常にユニークなアプローチを行なっているし、彼は本当に個性的になろうと努力しているんだよ。」
Luke を乗船させたのは明らかに大正解でした。ALICE IN CHAINS の神々しき暗闇が、Layne Staley の絶望を認めた絶唱とギタリスト Jerry Cantrell の朴訥な背声が織りなす、音楽理論を超越した不気味で不思議なハーモニーにより完成を見ていたことは間違いありません。そしてアルバム “Gargoyl” が荘厳極まる “Truth of a Tyrant” のアカペラハーモニーで幕を開けるように、Luke の声によって GARGOYL は、ALICE IN CHAINS の実験をさらに色濃く推し進めているのです。
「僕にとってクラシック音楽やジャズは超ヘヴィーなものなんだよ。不安や実存的な恐怖を呼び起こす緊張感、クライマックスでその緊張感を解消した時のカタルシスや爆発的な解放感など、曲の中にテンションを生み出すことで得られる攻撃性やアティテュードがね。」
実際、”Gargoyl” はブラストやグロウルに頼らなくとも重さの壁を超えられることの証明でもあります。不協和なドゥーム、不規則なアシッドトリップに潜みそそり立つ美麗なる聖堂。LEPROUS にも通じるそのコントラストこそ、真なるヘヴィー、真なるプログレッシブを導く鍵であり、メタルがグランジを捕食した気高き勲章なのかも知れませんね。
今回弊誌では、Dave Davidson にインタビューを行うことが出来ました。「僕にとって ALICE IN CHAINS のようなバンドは、グランジと言われていてもプログレッシブなエッジを持っているんだよ。Jerry Cantrell のソロは特に派手ではないし、夥しいわけではないんだけど、僕ははずっと愛してきた。彼はまた、ユニークなリフを生み出す優れた耳を持っていたしね。とにかく、彼らはただラジオ・ロック的なアプローチを取っていたわけでは全くない。どのアルバムでも常に新たな挑戦に挑んでいたんだ。」  二度目の登場。どうぞ!!

GARGOYL “GARGOYL” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + COVER STOEY 【DEFTONES : OHMS】


COVER STORY : DEFTONES “OHMS”

“I Set Up a Record Player In The Media Room, Which Has Forced Me And My Family To Listen To Records And Start Them From The Beginning And Listen To The Whole Thing, Through The Experience. I’m Trying To Get My Daughter, Who’s 15, Into That Mindset Of Listening To Records. Everybody Right Now Is Spoon-fed Singles, But Listening To Records Is an Experience.”

VOLT = 1 AMPERE × 1 OHM

「MESHUGGAH のように聴こえるかって?いやそこまでヘヴィーじゃないよ。ツーバス祭りかって?そんなの俺たちがやったことあるかい? 怒ってるかって?ああ、怒っている部分もあるよ。だけど、俺たちが全編怒っているだけのレコードを出したことがあったかい?」
ヘヴィーな音楽に繊細で色とりどりのテクスチャーを織り込むのが DEFTONES 不変のやり方です。
「俺は大のヘヴィーメタルファンとは言えない。良い音楽が好きなんだ。どんな音楽でも好きだよ。良い曲があればジャンルは問わないね。俺たちはオープンマインドなんだ。何か一つのジャンルに収まる必要はない。むしろそうであるべきではないと思う。人それぞれでいいんじゃないかな。CANNIVAL CORPSE を聴きたければ聴けばいい。でも俺たちは皆色々な音楽を聴いているから、ある日突然ニッチなものに当てはまらなければならないと決めてしまうと、自分自身を壁に閉じ込めることになってしまうと思うんだ。」
実際、Twitch の DJ 配信で Chino は、N.W.A, Toro y Moi, Brian Eno, BLUT AUS NORD など自らのエクレクティックな趣向を明かしています。
「電子音楽、実験的なもが好きで、何年もヴァイナルを集めているんだ。新しい家でメディアルームにレコードプレーヤーを設置したんだけど、そのおかげで俺も家族もレコードを最初から聴き始めて、通して全部聴くことを余儀なくされているんだ。15歳になる娘に、レコードを聴くというマインドセットを身につけさせようとしているんだよ。今の人はみんなシングルばかり聴いているけど、レコードを聴くのは経験なんだよね。
年寄りの説教みたいに聞こえるかもしれないけど、俺にとってはとても意味のあることなんだ。娘を部屋に呼び、”何のレコードかわからなくてもいいから、一枚選んでみてよ” ってね。この間彼女は TORTOISE というバンドを選んだ。ドラマー2人の6人組で、全てインストゥルメンタルだった。”なぜそれを選んだの?”と聞いたら 彼女は “カバーが気に入ったから” と答えたね。それからそのアルバムを聴いたんだ。
昔はそういう風に音楽を選んでいたんだよ。レコード屋に行って、レコードを見て、かっこよさそうなものがあれば手に入れていた。そして、自分で稼いだお金を使って、レコードを好きになっていったんだ。その精神を自分の中に持ち続けて、若い人たちに伝えようとしているのさ。」

時にヘヴィーで、時に怒り、時にファストで、時にカモメが鳴くレコード。
「カモメの鳴き声を入れたいと思ってたんだ。Don Henley の “Boys of Summer” にはカモメの鳴き声が聴こえるセクションがあって、不気味な気持ちになったものさ。」
カモメの鳴き声を入れようと決めた時、すでに “Pompeji” は完成した後でした。しかし、ビーチの捕食者から12分の音声を入手した彼らは、波の音と鳴き声のサウンドスケープを忍ばせることにまんまと成功したのです。
「こうすれば楽曲の設定が変えられるし、どこかへ連れて行ってくれるよね。俺らのレコードにはいつだって小さな動物や昆虫が隠れているから (笑)」
DEFTONES 9枚目のアルバム “Ohms” に戻ってきたのは、動物の鳴き声だけではありません。”Adrenaline”, “Around The Fur”, “White Pony”, “Deftones” のプロデューサーである Terry Date も久々の帰還を果たしました。
「彼はとても忍耐強い人だけど、挑戦するスペースを与えてくれるんだ。たぶん、一緒に仕事をしていて心地よく感じない人とやっていると、スタジオに入って何かをしなければならないって感じになってしまうんだろうね。Terry と一緒なら何かをやり遂げることができる。うまくいかないかもしれないことをやってみても、俺が立ち止まって「よし、今度は別の視点から見てみよう」と言うまでは、その道を歩ませてくれるんだ。 」
Terry と製作したうちの1枚、”White Pony” は今年20周年を迎えました。昨今、2000年にリリースされたレコードを当時見下していたメディアやライターが Nu-metal について再評価の言葉を投げかけています。
「彼らは常に見下していたと思う。聴くことに罪悪感すら感じていたよね。僕らのことではないと思うけど、間違いなく LIMP BIZKIT とかはそうだよね。当時のリスナーはそれが馬鹿げていることを知っていた。振り返ってみると “あんな音楽を聞いていたなんて信じられない” とかじゃなくて “あの頃はバカだと分かっていても好きだった”ってことさ。それでいいんだよ。ダサいと思って恥ずかしがっちゃだめだよ。好きなものを好きになればいい。誰が気にするんだ?偉そうにするなよ。何の問題もないよ。」

Google によると、”Ohms” とは “導体の2点間の電気抵抗” と定義されています。Chino にとってこの言葉はどのような意味を持つのでしょう?
「ものごとのバランスと極性のことだよ。俺はいつも DEFTONES を陰と陽のバンドだと表現してきた。俺らが作る音楽、歌詞にはいつもそれが並列されていて、そこから美しさが生まれるんだよ。」
美しさといえば、ドラマーの Abe Cunningham は以前、アルバム “White Pony” を自由に走る美しい馬のイメージだと語っていました。”Ohms” のイメージは何なんでしょう?
「サマースカッシュかレモンキューカンバーだな。まあ動物で言えば仔馬だな。新しい野生の仔馬さ。」
タイトルソング “Ohms” を語る時、Chino は興奮を隠せません。
「最初に書かれたものの一つさ。Stephen が3年前にデモを送ってくれてね。彼のメールを開くのが大好きなんだよ。いつも興奮させられるからね。他のメンバーは、この曲の陽気な響きに少し困惑していたけれど。」
そうしてリスナーは、ノイズの嵐から Chino Moreno の言葉を受け取ります。”俺たちは過去というデブリに囲まれて生きている”。それはフロントマンがレコードにおいて、そしてレコード以外でも最近よく口にする言葉です。
とは言え、エクストリームシーンで最もリスペクトを受ける言葉の達人は、しかし歌詞を書くことにそれほど拘りがありません。
「まあ歌詞は、日記のかわりに、より詩的な方法で考えを書き留めているって感じかな。恥ずかしいとまでは言わないけど、簡単じゃないよ。一番好きじゃないことかな。(笑) 言いたいことがどれだけあるのかわからず、止めることもよくあるね。あとはより匿名性の高いものに置き換えてプレッシャーを和らげたりとか。」
Chino にとって、曖昧であることはソングライティングにおいて重要な要素です。常に見えていながら、手の届かない場所にいる、自分自身をカモフラージュする能力。それこそが長年に渡り、Chino にミステリアスな雰囲気を付与してきました。メンバーの Abe にしても自分の人生をかけて演奏してきた楽曲が何についてなのか、分かっていないこともあります。
「歌詞の意味を時々彼に尋ねるんだ。彼はうーん、どうだろう。わからないけどそうなのかな?ってはぐらかすんだ。まあでも、長い間一緒にいるからね。Chino はいつも人生に起こったことを共有したいと思っているんだよ。歌詞は自分から出てきたものだ。内省的というか。だから、最悪な出来事でも、毎晩それを歌えるのはとても幸せなことなんだよ。そうやって悪魔を追い払うことができるんだから。」

たしかに、Abe の内省的という指摘は今回のレコードに強く当てはまるのかもしれませんね。”Koi No Yokan” のコズミックなイメージは近かったにしても、DEFTONES はコンセプトアルバムを作りません。それでも、”Ohms” の楽曲を分解すれば、特定の言葉たちが何度か登場することに気づくはずです。
「自分自身と向き合いながら多くの経験をした。これまで生きたいように生きてきたから、内省的なことをする必要があったんだ。セラピーを受けたんだ。俺はいつも、自分の個人的な感情を他人に話す必要があるのかと感じていた。でも、自分やバンドのことを知らない人と話すのは全く異なる経験になったね。子供の頃からの自分をさらけ出して、なぜ、どうやって今の自分になったのか理解することが出来たからね。」
Chino は毎日朝になるとセラピーに向かい、何週間もかけて自分の人生の物語を辿って行きました。時折疲労も感じましたが、価値のある疲れだったようです。
「良い結果でも悪い結果でも、なぜ自分が人生でその決断を下してきたのか気がついたんだ。解明するのはクールなことだったよ。怖いことでもあるけど、間違いなく健全なことさ。だからこのアルバムのテーマのうちいくつかは、人生で行った選択を認識して、満足いかない状況をどうやって変えていくのか考えられるようになることなんだ。」
恵まれた人生に思えますが、Chino の不満とは何だったのでしょう?
「まあ多くの人が対処していることだと思うけど、ある時に不幸になったり、悲しかったり、寂しかったり、怒ったりすると、どこかしら頭が変になることがあってね。これまでに書いてきた曲を見てもらえればわかると思うけど、僕の感情はいつもどこにだってありえるんだ(笑)。冷静さを保てないことが多くて、親しい友人や家族には嫌な顔をすることもある。だけどそれは彼らに怒っているのではなく、もっとうまくやれるとわかっている自分に怒っているのかもしれないよね。あまり具体的には言いたくないけど、決断を下しても気分が良くならないとしたら、それをどうやって変えるの? 自分に責任を持って、自分を見つめ直すんだよ。多くの人がそうする必要があるけれど、簡単なことじゃないよね。だけどそうやって少しずつ学んでいくんだ。そうすれば少しずつ調整ができるようになる。次の日には少し幸せな気分で 目が覚めるかもしれないよ。」

オープニング曲 “Genesis” で Chino は、”I finally achieve balance” “ついに心のバランスを保つことに成功した” と言っています。もちろん、Chino の歌詞は必ずしも文字通りの意味ではないですし、解釈の余地はありますが。
「あの歌詞はかなり文字通りの表現だった。正直に言うと、完全なバランスが取れたわけではないんだ。だけどバランスを感じる瞬間があるんだよ。それに近い日もあれば、そうでない日もある。 ある日はそれから何マイルも離れていたりしてね。でも、それは時代に不満を感じているということでもあるんだ。すべてが二極化しすぎているよね。誰もが意見を持っていて、フェンス越しに互いに吠え合っていている。頭がおかしくなるよ。どちらか一方を選びたくない、バランスを取りたい。何が言いたいかわかる? この曲もそれを表していると思う。」
“Ohms” とは Chino Moreno の再生なのでしょうか?
「文字通りそうだとは言わないよ。今の自分を以前とは全くの別人だなんて思っていないからね。未だにかなり以前の Chino Moreno を感じているよ。だけど同時に、ある種の変容も感じるんだ。」
たしかに、2020年の DEFTONES のレコードには、変わったものもあれば変わらないものもあります。PANTER や SLAYER を手がけた Terry Date もかつて若き DEFTONES にはすっかり手を焼いていました。有名なスタジオでの映像には、もしゃもしゃナッツを食べてニヤニヤする Chino Moreno, ドミノで遊びながらニヤニヤする Stephen Carpenter, 雑誌を読みながらニヤニヤする Frank Delgado を前に、憔悴しきって言葉を発する Terry の姿が残っています。
「オマエら、あと2,3テイクやれたら、ナッツを食べてドミノをやって雑誌を読んだらいいさ。だけど俺たちはいくつか問題を解決しなきゃならないよ…」
彼らの “遅れることに長けている” 能力は現在も変わっていません。Abe は今回も Terry を悩ませたことを認めます。
「毎回 Terry を辞めさせるんだ。それが俺たちのやり方なんだ。(笑) 以前の3枚でも辞めているし、今回も辞めそうになった。怒らせたくはないんだけどね。唇を噛んで、眼鏡が曇り出すからわかるんだよ (笑)。いつも目標はTDを辞めさせよう!さ。」

そんなジョークとは裏腹に、DEFTONES は “Ohms” に並々ならぬ情熱を注いでいます。LA の Henson と Trainwreck Studios でレコーディングされた作品には “コーヒー、ジュース、ビール、テキーラ、小便、笑い” を少なめに12曲を制作して10曲が収録されたのです。Abe は嘯きます。
「よく、このアルバムのために6000曲書いたなんて言うバンドがいるけど、ウソばっかりだ (笑)。12曲で充分だよ。」
“Gore” リリース時に、Stephen が「このアルバムで誇れるのは、ただギターを弾いていることだけだ。」と語り論争を引き起こしたことは記憶に新しいはずです。そこから DEFTONES は文字通り学んでいます。Chino が説明します。
「過去に誰かが楽しめなかったレコードが存在するのは確かさ。でも同じメンバーで何枚もアルバムを作るなら全員が参加するべきだよ。俺たちは厳しい過去の経験から学んだんだ。”Gore” で Stephen はあまりレコードにかかわっていないと認めていた。だけどそれは俺たちが彼を必要としていなかったからではない。俺の好きな DEFTONES の楽曲のアイデアは彼が率先して作ったものだしね。誤解のないように言うけど、Stephen は “Gore” にかかわっていたよ。”Phantom Bride” は歌詞とドラム以外すべて彼が書いている。ただ、アルバムに完全に関与していなかっただけで、俺らの曲の方がいいとか思ったわけじゃないんだよ。そうじゃなくて、彼はあの頃何かを乗り越えようとしていたんだ。レコードが完成したあと、少しだけそのことについて話してくれたんだけどね。お前は俺の兄弟だ。全部分かってるからと伝えたけどね。とにかく、重要なのは全員がかかわって、全員がエキサイトすることなんだ。」
“Ohms” は全員がかかわって、全員がエキサイトするレコードなのでしょうか?
「まちがいなくね。Stephen が送ってきた最初のタイトルソングのデモなんて12分もあったんだから(笑)。」
一方で、Abe はすでに次のレコードについて考えるほどこのバンドに夢中です。
「俺はまだ小さな子供なんだよ。また次のレコードを作れることに興奮してるんだから。」
次のレコードを作れること。Abe が常に胸に秘める感謝の理由は想像に難くありません。”Ohms” は正式には DEFTONES 9枚目のアルバムですが、実際は10枚目の作品とも言えます。2013年、ベーシストの Chi Cheng が交通事故で昏睡状態に陥り、命を落とすという悲劇に見舞われたため、製作を断念した歴史があるからです。DEFTONES は再び Terry Date の部屋へと帰ってきました。Chi を除いて…
「彼はいつも俺らと共にある。毎日考えているよ。インスピレーションの源だ。彼はいつもそばにいる。」

メタル、ハードコア、ヒップホップ。ターンテーブルやプログラミングを得意とする Frank Delgado, パンクバンドでプレイしていた Sergio Vega とメンバーの得意分野が分かれることも DEFTONES の強みでしょう。
「レコードを作ろうと思うのは、一人一人が個別に、そして全体的にインスピレーションを受けられるかどうかなんだ。何年もかけてわかったことだけど、それが本当に大切な瞬間なんだよね。 みんなで集まって、誰かが何か音を出し、他のメンバーがそれに反応してさらに何か音を出し、1分後にはその音が1時間前には存在していなかった曲に変わっていくんだよ。そうやって有機的に起こるのが一番いいんだけどね。いつもそうなるとは限らないけどね。 たまに集まって何時間も話し合っても何も出てこないこともあるし、出てきても何も浮かばないこともある。レコードを作るために集まって、30曲書いて10曲に絞るなんてことはしない。文字通り10曲書くんだ。アイデアを出して、途中でスチームが切れたら、”よし、やり直そう “ということになる。それが僕らのやり方なんだよ。」
DEFTONES にとって唯一音楽よりも大事なものは、それを作っているメンバーたちの絆です。
「バカバカしくて子供じみているかもしれないけど、俺たちにとってはハングアップすることがすべてなんだ。一日中くだらない話ばかりしているよ。レコードを作るためだけにレコードを作ることはないね。好きだから作っているんだ。遊びたいし、騒ぐのが好きだ。そのノイズの中から楽曲が生まれるんだよ。」
以前からそうだったように、これからもきっとそうでしょう。

参考文献: KERRANG!THE SECRETS BEHIND DEFTONES’ NEW ALBUM, OHMS: INSIDE THE STUDIO FOR THE FIRST TIME

VULTURE : Deftones Have (Almost) Found Balance

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THOU & EMMA RUTH RUNDLE : MAY OUR CHAMBERS BE FULL】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BRYAN FUNCK OF THOU !!

“I Think Most Folks Who Identify As “Metalheads” Or Whatever Probably Have a Lot More Nuance Than They Let On. I Just Wish They Would Embrace More Of a Balance Than Clinging To a Very Strict Set Of Rules. I Think That’s Why, As a Forty-Year-Old Man, I Still Identify As a Punk Or a Hardcore Kid.”

I STILL IDENTIFY AS A PUNK, OR HARDCORE KID

「”メタルヘッズ” と名乗る人たちの多くは、公平にみてもおそらく自分たちが言うよりもずっと多くの音楽的なニュアンスを持っていると思うよ。だから厳格なルールにしがみつくのではなく、バランスを取ってほしいと願うばかりだね。俺はしっかりバランスを取っているからこそ、40歳になった今でも、パンクやハードコアキッドなんだと思う。頭の中では、そういった概念がより曖昧で広がりを持っているように思えるからね。」
スラッジ、ドゥーム、メタル、ハードコア、グランジ。ルイジアナの激音集団 THOU はそんな音楽のカプセル化に真っ向から贖う DIY の神話です。
「ここ数年で培った退屈なオーディエンスではなく、もっと反応の良い(しかし少なくとも多少は敬意を払ってくれる)オーディエンスを獲得したいからなんだ。 堅苦しいメタル野郎どもを捨てて、THE PUNKS に戻る必要があるんじゃないかな!」
15年で5枚のフルアルバム、11枚の EP、19枚のスプリット/コラボレーション/カバー集。THOU の美学は、モノクロームの中世を纏った膨大なカタログに象徴されています。THE BODY を筆頭とする様々なアーティストとの共闘、一つのレーベルに拘らないフレキシブルなリリース形態、そしてジャンルを股にかける豊かなレコードの色彩。そのすべては、ボーカリスト Bryan Funck の言葉を借りれば “金儲けではなく、アートを自由に行う” ためでした。
2018年、THOU は自らのアートな精神を爆発させました。3枚の EP とフルアルバム、計4枚の4ヶ月連続リリース。ドイツのサイレント映画 “カリガリ博士” に端を発するノイズ/ドローンの実験 “The House Primodial”、Emily McWilliams を中心に女性ボーカルを前面に据えた濃密なダークフォーク “Inconsolable”、ギタープレイヤー Matthew Thudium が作曲を司りグランジの遺産にフォーカスした “Rhea Sylvia”、そしてスラッジ/ドゥームの文脈で EP のカオスを具現化した “Magus”。一般的なバンドが4,5年かけて放出する3時間を僅か4ヶ月で世界に叩きつけた常識外れの THOU が願うのは、そのまま頑ななステレオタイプやルールの破壊でした。
実際、Raw Sugar, Community Records, Deathwish, Sacred Bones とすべての作品を異なるレーベルからリリースしたのも、境界線を破壊し多様なリスナーへとリーチする自由な地平線を手に入れるため。自らが獲得したファンを “退屈” と切り捨てるのも、主戦場としてしまったメタル世界の狭い視野、創造性の制限、クロスオーバーに対する嫌悪感に愛想が尽きた部分はきっとあるのでしょう。
「このバンドはグランジの源流であるパンクのエートス、プログレッシブな政治的内容、メランコリックなサウンドから絶対的な深みへと浸っている。 間違いなく、10代の頃に NIRVANA, SOUNDGARDEN, PEARL JAM, ALICE IN CHAINS を聴いていたことが、音楽制作へのアプローチや、ロックスターのエゴイズムを避けることに大きな影響を与えている。」
“The Changeling Prince” の MV でヴァンパイアのゴシックロッカーを気取ってみせたように、THOU にとってはロックスターのムーブやマネーゲームよりも、音楽世界の常識を覆すこと、リスナーに驚きをもたらすことこそが活動の原動力に違いありません。そのスピリットは、パンク、そしてグランジに根ざす抑圧されたマイノリティーの咆哮が源流だったのです。全曲 NIRVANA のカバーで構成された “Blessings of the Highest Order” はまさにその証明。
「メンタルの病の個人的な影響を探求することがかなりの部分染み込んでいて、それは無慈悲なアメリカ資本主義の闇とは切っても切り離せないものだと思うんだ。」
THOU が次にもたらす驚きとは、10/30にリリースされる、ポストロック/ダークフォークの歌姫 Emma Ruth Rundle とのコラボレーション作品です。90年代のシアトル、オルタナティブの音景色を胸一杯に吸い込んだ偉大な反抗者たちの共闘は、壊れやすくしかしパワフルで、悲しくしかし怖れのない孤立からの脱出。精神の疾患や中毒、ストレスが容赦なく人間を押しつぶす現代で、灰色の世界で屍に続くか、希望の代わりに怒りを燃やし反抗を続けるのか。選択はリスナーの手に委ねられているのかも知れませんね。
今回弊誌では、Bryan Funck にインタビューを行うことができました。「大きな影響力とリソースを持っているレーベルの多くが、自分たちがリリースする音楽やリリースの方法に関して、リスクを負うことを最も嫌がっているように見えるのは本当に悲しいことだよ。彼らの成功により、クリエイティブな決定を下す自由がより広く与えられるはずだと思うんだけど、それは逆のようだね。」2度目の登場。どうぞ!!

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