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NEW DISC REVIEW + COVER STORY 【KORN : THE NOTHING】


COVER STORY : KORN “THE NOTHING”

KORN Embraces The Sound Of Grief, The Abyss Of The Void, And The Balance Between Darkness And Light With Their 13th Record “The Nothing”

THE GRIEF BEHIND “THE NOTHING”

「”The Nothing” は完全に悲嘆と追悼のレコードだよ。嘆きの曲もあれば、怒りの曲もある。全ては俺が経験したことだ。
俺が経験した感情や物事はまるで共謀してレコードの製作を阻んでいるかのようだった。本当に人生で最悪の年だったよ。
計画はなかったよ。青写真もなし。取り乱した男が自分の身に降りかかったただ酷い何かを理解しようとしていたんだ。正直な作品さ。実は妻の2ヶ月前に母も亡くなっているんだよ…。
だから姉以外全ての女性を人生で失っているんだ。俺はいつも音楽制作をセラピーと捉えているんだけど、だからこそ自分の人生を音楽で水に流してしまう必要があったんだ。ソロツアー、”Follow the Leader” の20周年プランが終わると、俺はひたすら音楽を書いて書いて、書きまくったんだよ。」
深淵、暗黒、虚無。その場所こそが “The Nothing” 生誕の地。そしてその場所こそ Jonathan Davis が、妻の Deven Davis を亡くした2018年の8月以来孤独に沈んでいた闇だったのです。

「”The Nothing” とは全てを変えてしまうような目に見えない力だ。”The NeverEnding Story” で世界を取り込み破壊し尽くす脅威にちなんでつけたんだ。重要なのはこの闇の力が完全に悪というわけでも、善というわけでもない点なんだよ。」
ミヒャエル・エンデ原作、1984年の名作映画 “The NeverEnding Story” で人間の創造性の欠如から生まれた虚無は、35年の月日を経て世界で最もアビスに近いバンドのシンガーとシンクロし、皮肉にも迸るクリエイティブなエナジーを宿すことになりました。

オープナー “The End Begins” でリスナーはそのアビスの淵を覗き込むことになります。「なぜ俺を置いていくんだ?」”終わりの始まり” で聴くことができるのは、Jonathan の嗚咽、絶望、嘆願、そして叫び。レコードのため意図的に作られた感情とは真逆の完全なリアル。”正直な作品” の言葉通り、Jonathan は今回の作品に偽りのない純粋な苦痛を反映させました。
「フェイクなエモーションなんて試したくもなかった。これはファーストテイクなんだよ。俺は時々感情的になりすぎるんだ。もちろん泣きたくなんてなかったよ。だけどそうもいかなくてね。ライブでもそうなることがある。このツアーで何回泣いたか知っているかい?俺はミスターマッチョじゃないんだ。泣きたい時は泣くんだよ。」
これほど彼が、自らに巣食う内なる悪魔を曝け出したアルバムはないでしょう。ギタリスト Brian “Head” Welch も “The Nothing” の制作が究極に直感的だったと認めています。
「Jonathan にとって作詞と作曲はまさにセラピーなんだ。苦しみを音楽と創造性に変えるようなね。彼が昨年経験したのは最悪の出来事としか言いようがないものばかりだった。こんな風に誰かを失うなんてね。だからこそ他のレコードとは別のレベルだと言える。特別で、とても生々しく、究極に本物の作品なんだよ。」
Jonathan は今も喪失と向き合い続けています。「今でも癒しを求めているよ。だけど対処法も学んでいるんだ。ツアーや音楽は俺の避難場所で、逃げ道で、教会なんだよ。確かに楽しいレコードではなかったけど、傑作だと感じている。精神科医に通う代わりに俺には音楽があるんだ。」
ただし、”The End Begins” のバグパイプについては実にポジティブです。「バグパイプは世界最高の楽器さ!とはいえ、全部のアルバムでやりたいって訳じゃない。特別じゃなくなっちゃうからね。だけど “Issues” のレコードを聴いてインスパイアされたんだ。俺が経験した全ての苦しみがこのインタルードに詰まっているよ。」

Jonathan は “The Nothing” の楽曲たちは、全て異なる悲しみのサイクルでステージだと主張しています。
「時間を切り取ったスナップショットみたいな感じだよ。例えば “Cold” は力強く反抗的な曲。苦しみや運命を跳ね返すようなね。一方で “The Darkness is Revealing” は不確かで疑いを抱くような楽曲だよ。つまりこのアルバムは全体が波のように押したり引いたりを繰り返すんだ。小さな、静かな、瞑想的な瞬間は、津波が砂に衝突するような騒々しいコーラスとブレイクダウンに拐われるんだ。 」
その2曲では特に顕著ですが、驚くべきことにこのダークなアルバムでそのメロディーの叙情味、ロマンチシズムは一層輝きを増しています。それはもしかすると、Jonathan がシリアルキラーや幽霊といった “死” の存在に圧倒され、魅了される一面が関連しているのかもしれません。
「俺は確かにダークな世界に魅了されてきた。ただ、年齢を重ねるに連れて “バランス” の重要性に気付き始めたんだ。俺の家ではしょっちゅうおかしな怪奇現象が起きるけど、実際は極めて平和な場所さ。つまり、光と闇の良いバランスが保たれているんだよ。俺にとって平穏とは、その2つが交わる場所にある。」

“Finally Free” は Deven Davis が長き薬物中毒との戦いから解放された安堵と悲痛を込めた葬送歌だと言及したのは James “Munky” Saffer。「中毒と戦った者を知っていれば、もしくは経験したことがあれば、もちろん俺もバンドのメンバーも大抵そうなんだけど、悪魔には贖えないって思う時もあるんだ。彼女は遂に自由になった。だからこのタイトルに決めたんだよ。」
クライマックスは KORN 史上最重とも言える “Idiosyncrasy” で訪れます。「神は俺をバカにしている。奴は笑って見ているんだ。」とそれでも彼が叫び、怒り、絶望を向けるのはしかし虚無に対してだけではなく、むしろ自分自身にでした。
“I failed”。 当然 Jonathan を責める人間など一人もいないでしょう。しかしアルバムにはクローサー “Surrender to Failure” まで、彼の “失敗” を犯してしまったという思いが貫かれています。涙を流しながら不安定に呼吸し、話し、歌い、贖罪の感情をぶちまけます。愛する人を救えなかった、上手くやれなかった。その感覚、トラウマはレコードを支配し、圧倒的な敗北感を植えつけるのです。アルバムが終わる瞬間、嗚咽の後の沈黙がその敗北感を乗り越えた証だとするのは少々希望的観測かもしれませんね。

TWENTY ONE PILOTS も手がける TNSN DVSN が情熱を注いだアートワークも素晴らしく KORN の音楽的感情的カオスと混線を反映していると Brian は語ります。
「沢山のビジュアルアートの中で俺らの目を引いたのが、このギターケーブルか何かのワイヤーのカオスだった。気に入ったと伝えたら、さらに磨きをかけ、ワイヤーで吊られた男はただ敗北し、荒廃しているように見えたんだ。何か大きなものを失えば、大きなトラウマに直面することになる。完璧なアートワークだよ。」
リリースデイトにも実は深い意味が込められています。「13枚目のレコードが13日の金曜日にリリースされる。しかも満月の日で、さらに水星逆行だ。つまり現実的にも比喩的にも、”星が並んで” いるんだよ。」

アウトサイダーのアンセム “Blind”、メインストリームにそのフリーキーな牙を残した “Freak on a Leash”。90年代から00年代に育ったものにとって、KORN とノスタルジアを切り離して語ることは難しいかもしれませんね。
ただし、当時を生きた多くのバンドがセルフパロディーに陥り消えてしまった今でも、彼らはエクストリームミュージックの “制限” に挑んでいるように思えます。実際、Brian “Head” Welch がバンドに復帰してからの作品は、全てクラッシックな KORN とモダンな KORN、光と闇が交差する極上の一点で仕上げられているのですから。
では、Nu-metal という自らが加担し作り上げたムーブメントについてはどのような想いを抱いているのでしょう。Jonathan が振り返ります。
「Nu-metal はメタルにとって最後のメインストリームに切り込んだムーブメントだった。だけどその中でも、俺らは究極のはみ出し者だったんだ。あのシーンはアホな女性蔑視の頭がチンポで出来ているアメフト野郎ばかりだったからね。バンドをやってなきゃ俺を虐めていたような奴らさ。そんな時、メタルコミュニティーが俺らを抱きしめてくれたんだ。ライブでバグパイプを鳴らすような変な奴だけどね。だから KORN, Nu-metal と聴いてディックヘッドだと思われるのは本当に嫌なんだ。」

ゴス、ファンク、ヒップホップ、そして酷く悲惨な歌詞を取り入れた KORN の “Nu” メタルは、ロストジェネレーションを魔法にかけ彼らをチャートに送り込みました。90年代後半の “Follow the Leader” と “Issues” はNo.1を獲得し、7枚のアルバムがトップ5に名を刻み、そうして Backstreet Boys, ‘N Sync, Britney Spears へ果敢に襲いかかりました。
「90年代後半は今よりも、アメリカ文化にとってとても強力な時代だった。全てがよりリアルだったんだ。」
KORN のファンであろうがなかろうが、”The Nothing” が溢れる感情と巧みな作曲術を別次元で融合させた絶佳の宇宙であることは認めざるをえないでしょう。つまり、この新たなレコードは、真の才能、創意工夫、そして知性に恵まれたバンドなら、歴史の始まり”ビッグバン”から四半世紀の時を経ても同等か、それ以上のインパクトを放ち続けられる証明とも言えそうです。ただし、リタイアが頭をチラつく時もあるようですが。

「俺は今49歳になる。」 Brian はそう切り出します。「バンドを始めたのは20代の頭だった。年月を重ねこんなにビッグになるなんて、俺たち誰も思っていなかったんだよ。歳をとりすぎたって思う時もある。俺の好きだったバンドだって40代半ばで消えていった。だから歳をとったって思ったら、ただ去るべき時なんじゃないかってね。」
とは言え、巨人の進撃はまだまだ収まりそうにありません。Jonathan はこう続けます。「奇妙な世の中で、差別だって横行している。だからメタルにとっても厳しい時代だと思うよ。でもだからこそ KORN の存在意義がある。きっと続ける理由を見つけられると思うよ。次のアルバムのアイデアだってもうあるんだ。俺たちはサヴァイバーだから。
妻を亡くしたし、息子も糖尿病を患っている。それでも光はあるんだよ。人生はクソみたいな贈り物だけど、俺は幸運な男さ。自分を憐れむことはないよ。」

参考文献: Interview: Chaos, Heart, Tears + Fate Guided Korn’s ‘The Nothing’; LOUDWIRE

Korn’s Jonathan Davis: “I have the remains of at least seven people in my house”: NME

REVIEW: ‘THE NOTHING’ IS KORN’S BEST ALBUM IN OVER 10 YEARS: REVOLVER

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日本盤のご購入はこちら。WANER MUSIC JAPAN

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SACRED REICH : AWAKENING】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PHIL RIND OF SACRED REICH !!

“Slayer And Metallica Have Always Been Our Main Musical Influences. I Think They Are Two Of The All-Time Great Metal Bands. The Success The Metallica Has Had Is Mind Blowing!”

DISC REVIEW “AWAKENING”

「SLAYER と METALLICA はいつだって俺らにとってメインの音楽的影響だったね。彼らは全時代のメタルバンドの中でも最も偉大な2つのバンドだと思う。」
オールドスラッシュ復権の年。POSSESSED や DEATH ANGEL, FLOTSAM AND JETSAM, OVERKILL が圧倒的な作品で先陣を切り、EXHORDER, HEATHEN, DARK ANGEL といった古豪の帰還も控える今年のスラッシュワールドは間違いなく高まる期待感と熱情に支配されています。”伝説” と呼ばれたカルトなヒーローたちの同時多発的再臨は、再び押し寄せる鋭利な波の震源地となっているのです。
興味深いことに、永遠の氷河が溶け出すように長い眠りから目覚めたスラッシュの魂は、大半が SLAYER や METALLICA の血脈を直に受け継いだ “第2世代” の英傑でした。中でも、最も復活作が期待されたバンドの一つが SACRED REICH だと言えるでしょう。
80年代初頭から中頃にかけて、アリゾナで “第1世代” の太陽を全身に浴びたヤングガンズは、しかし先達の真似事に終わらない独自の道を模索します。アグレッシブかつダークなデビューフル “Ignorance” からすでに、ベイエリアとは一線を画すハードコアな一面を垣間見せていた彼らは、南米におけるアメリカ帝国主義を痛烈に皮肉った EP “Surf Nicaragua” でその政治性を開花させます。時代の変遷と共に、音楽的にもファンクやグルーヴの領域まで探求した彼らは、以降一貫してその政治的風刺、アメリカンドリームのダークサイドを描き続けたのです。
2000年の活動休止、2006年のリユニオンを経て、MACHINE HEAD を離脱したオリジナルドラマー Dave McClain を加えた SACRED REICH は不死鳥のスピリットで実に23年ぶりとなる復活作 “Awakening” を世に送り出しました。ニカラグアでの波乗りは、30年の時を超えメタルの津波となってリスナーへと襲いかかります。
オープナー “Awakening” で Wiley Arnett のクラッシックかつ独特なシュレッドとリフパンチの少し奇妙な応酬が繰り広げられると世界は SACRED REICH の帰還を確信します。ただし、同時に23年の時が刻んだ変化と進化の証も感じられるはずです。
「大半はポジティブで励ますようなアルバムなんだ。」ボーカル/ベースを兼任し、SACRED REICH の推進力とも言える Phil Rind は、アートワークやレノンへの愛が示すように、長い空白の間チベット仏教に心酔しスピリチュアルな世界の見方を身につけました。憎しみを捨て去り前へと進む断捨離の心は、時に ANTHRAX の Joey Belladonna を想起させるほどメロディックに歌い上げる新たな武装を Phil へと施し、以前よりも飛躍的にワイドなパフォーマンスをその身に宿すこととなったのです。
吐き捨てる叫けびと伸びやかな歌唱のコントラストが際立つ “Divide & Conquer” はその新武装が最も輝く瞬間でしょう。さらに IRON MAIDEN の誇り高きツインリードを受け継いだエピック “Salvation”、スラッシュアタック “Manifest Reality”、バンドの軌跡である PANTERA のグルーヴをモダンに昇華した “Death Valley”、ハードコアパンクとの架け橋 “Revolution” などアルバムは “メタルの領域” において Phil の言葉通り成熟を遂げ実にバラエティーに富んでいます。
もちろん、デビューフルほどの無鉄砲な突進力やエナジーは存在しませんが、きっと同様に年齢を重ね成熟を遂げたリスナーにとって居心地の良い恐怖を運ぶレコードではあるはずです。何より、ここには Phil が最も憧れる METALLICA と同種の耳に絡みつく “危険な” フックが溢れているのですから。併せて百戦錬磨、Dave McClain の華麗なタム回しが作品に素晴らしきアクセントをもたらしていることも付け加えておきましょう。
今回弊誌では Phil Rind にインタビューを行うことが出来ました。「俺は今こそ音楽にとって偉大な時だと思っているし、生きるのに最良の時代さ。」 新鋭 IRON REGAN とのスプリットも躍動感がありましたね。どうぞ!!

SACRED REICH “AWAKENING” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CHELSEA WOLFE : BIRTH OF VIOLENCE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CHELSEA WOLFE !!

“Gender Is Fluid, And There Is So Much Beauty In Making Space For All Kinds Of Voices In Music. It’s Happening, And It’s Amazing!”

DISC REVIEW “BIRTH OF VIOLENCE”

「昨年、私たちは沢山のツアーを行ったわ。8年ずっと続いてきたツアーに加えてね。だから休みを取って、スロウダウンし、自分自身の心、体、精神のケアを学びなさいと何かが語りかけてきたのよ。」
フォーク、ゴス、ポストパンク、インダストリアル、メタル…2010年、デビューアルバム “The Grime and the Glow” を世に放って以来、Chelsea Wolfe はジャンヌダルクの風姿で立ち止まることなく自らの音の葉を拡張し続けてきました。光と闇、激情と静謐の両極を司り進化を続けるカリフォルニアの歌姫は、しかし遂に安息を求めていました。
「私はただ自分の本能に従っているだけなのよ。そうして今の場所に辿り着いたの。」10年続いた旅の後、千里眼を湛えたスピリチュアルな音求者は、本能に従って彼女が “家” と呼ぶアコースティックフォークの領域へと帰り着いたのです。
Chelsea は最新作 “Birth of Violence” を “目覚め始めるレコード” と呼んでいます。
「批判を受けやすく挑戦的な作品だけど、私は成長して開花する時が来たと感じたのよ。」
ダークロックのゴシッククイーンとして確固たる地位を築き上げた Chelsea にとって、アコースティックフォークに深く見初められたアルバムへの回帰は確かに大胆な冒険に違いありません。ただし、批判それ以上に森閑寂然の世界の中に自らの哲学である二面性を刻み込むことこそ、彼女にとって真なる挑戦だったのです。
「私はいつも自分の中に息づく二面性を保持しているのよ。重厚な一面と衷心な一面ね。それで、みんながヘヴィーだとみなしているレコードにおいてでさえ、私は両者を表現しているの。」
逆もまた真なり。”The Mother Road” の暗静アメリカンフォークに醸造された強烈な嵐は、チェルノブイリの蜘蛛の巣をも薙ぎ払いダイナミズムの黒煙をもうもうとあげていきます。
“Little Grave” や “Perface to a Dream Play” のトラディションに蠢めく闇の嘶き。 PJ Harvey とゴスクイーンが手を取り合う “Be All Things”。何よりタイトルトラック “Birth of Violence” の平穏なるプライドに潜む、咽び叫ぶ非業の祈り。そうして作曲パートナー Ben Chisholm のアレンジとエレクトロの魔法が闇と光の二進法を優しく解き放っていくのです。
アルバムに根ざした仄暗く重厚な影の形は、世界を覆う不合理とピッタリ符合します。無垢なる子供の生まで奪い去る銃乱射の不合理、平穏な暮らしを奪い去る環境の牙の不合理、そしてその生い立ちのみで差別を受ける不合理。結局その起因はどこにあるのでしょう。
ただし変革を起こすのもまた人間です。”目覚め始めるレコード” において鍵となるのは女性の力です。
「そろそろ白か黒か以外の考え方を受け入れるべき時よ。”ジェンダー” の概念は流動的なの。そして全ての種類の声を音楽にもたらすことで沢山の美しさが生まれるのよ。今まさにその波が押し寄せているの!素晴らしいわ!」
長い間会員制の “ボーイズクラブ” だったロックの舞台が女性をはじめとした様々な層へと解放され始めている。その事実は、ある種孤高の存在として10年シーンを牽引し続けた女王の魂を喚起しインスピレーションの湖をもたらすこととなったのです。
安息の場所から目覚める新たな時代。今回弊誌では Chelsea Wolfe に2度目のインタビューを行うことが出来ました。「私の古い辞書で “Violence” とはある一つの意味だったわ。”感情の力” という意味ね。私はそれと繋がって、自らの力に目覚める人間を思い描いたの。特に力に目覚める女性をね。」 日本盤は世界に先駆け9/11に Daymare Recordings からリリース!どうぞ!!

CHELSEA WOLFE “BIRTH OF VIOLENCE” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + COVER STORY 【TOOL : FEAR INOCULUM】


COVER STORY: TOOL “FEAR INOCULUM”

“After 13 Years Wait, Tool’s Fearless Return “Fear Inoculum” Is Not a Reformation But a Reinvention, Not Only a Look Back At The Past, But Also a Go Forward, Towards The Future.”

BIG READ: TIMELINE OF TOOL

1992: “OPIATE”

あの時点では、バンドのヴァイブは異なるものだった。音楽的に、俺らはただバンドとして自分たちの個性、パーソナリティーを見つけ出そうとしていたんだよ。あの頃のドラミングを聴くとやり過ぎだと思うこともある。」 そう Danny Carey が語れば、「L.A. に住むことで溜まった鬱憤を音楽で晴らそうとしていたね。だからあの頃の音楽は、感情的で解き放たれたプライマルスクリームなんだよ。俺は Joni Mitchell と SWANS の大ファンだったから、よりパーソナルで心に響く歌詞を目指していたんだ。」と Maynard James Keenan は語ります。
宗教や因果応報を描いた Maynard のリリックは異端の証。若さに牽引されたアグレッション、清新な表現力の躍動と、未だシンプルな設計にもかかわらずプログレッシブなヒントを覗かせるアレンジメント。”アートメタル” と謳われたデビュー EP “Opiate” には原始的な TOOL のスタンダードが確かに散りばめられていたのです。
面白い事に、Adam の担任教師は Tom Morello の母親で、Maynard と Tom は一時期バンドをやっていました。さらに Danny は Tom の紹介で TOOL に加入しています。確かにカリフォルニアから新たな何かが始まる予感はあったのです。NIRVANA のビッグセールスが後押ししたのは間違いありません。業界のハイエナたちは次の “ビッグシング” を血眼で探していました。そうして全てはこの27分から始まりました。


1993: “UNDERTOW”

デビューフル “Undertow” で、TOOL はアートメタルから “マルチディメンショナル”メタル、多次元の蜃気楼へ向けて、同時に巨大なロックスターへ向けても歩み始めました。
“Sober” や “Prison Sex” の脆くナイーブな音像はオルタナティブロックの信奉者を虜にしましたし、一方でアルバムを覆うダークな重量感は新時代のメタルを期待するキッズの新約聖書に相応しい威厳をも放っていたのです。
「彼らはメタルなのか?インダストリアルなのか?プログレッシブなのか?グランジなのか?」整然と流動、憤怒と制約、そして非言語的知性。Adam が手がけた、大手マーケットチェーンから販売を拒否された危険なアートワークも刺激的。世間は必死で TOOL の “タグ” を見つけようとしましたが、実際彼らはそのどれをも捕食したしかし全く別の何かでした。新進気鋭のプロデューサー Sylvia Massey との再タッグも功を奏したでしょうか。

“Intolerance” で自らの南部バプティスト教会の出自を、そして “Prison Sex” で幼少時に受けた性的虐待を書き殴った Maynard の情熱的で時に独白的な感情の五月雨は、JANE’S ADDICTION のアーティスティックな小宇宙、BLACK SABBATH の邪悪な中毒性、RUSH の複雑怪奇と見事に溶け合い、深みの縦糸と雄大の横糸でアルバムを織り上げていきます。
音楽的な最高到達点とは言えないでしょうが、間違いなく TOOL にとって最も反抗的でエモーショナルかつパワフルなアルバム、そしてロックの “顔” を永遠に変えたアルバムに違いありません。

1996: “Ænima”

ダイナミックな Paul D’Amour がバンドを離れてはじめてのアルバム “AEnima” は、ダークサイケデリックな音の葉で拡張する TOOL 細胞を包み込んだ芸術性の極み。進化した TOOL の宇宙空間では無数のアトモスフェリックな魂がふわふわと漂い、待ち構える鋭き棘に触れては弾け、触れては弾けを繰り返すのです。
タイトルの “AEnima” こそが最大のヒントでしょう。カール・ユングが提唱した、男性の中に存在する無意識の女性 “Anima” とアナル洗浄機 “Enema” のキメラは完全にその音楽とフィットしています。
遂に完全に見開かれた “サードアイ”。新たなベースマン Justin Chancellor はバンドに即興性とシュールでエアリーなムードをもたらしました。自虐と怒りのカタルシスを内包しつつ、広大なサウンドスケープを解き放つ “Eulogy”、Maynard の瞑想的でソウルフルなパフォーマンスが印象的な “H.” は新たなサウンドへの架け橋でした。

そうしてバンドは自らの進化を人間の進化へとなぞらえます。”Forty Six & 2″ は脳に刺激を与えるオデッセイ。現在人のDNAには、44個の常染色体と2個の性染色体が含まれています。つまり人間の次なる進化、46個の常染色体への進行は TOOL の突然変異と通じているのでしょう?
「これは変化のアルバムだ。家を掃除して、改築してやり直すためのね。」96年に Maynard はそう語っています。振り返ってみると “AEnima” はインスタントに “Nu-metal” の波へと加担したモッシュのパートタイマーを “パージ” “追放” する作品だったのかも知れませんね。言葉を変えれば、Kurt Cobain が破壊した後のポスト・ロック世界で、TOOL が “再生” を担う次の王座に座ることは多くの “ジェネレーション X” たちにとって約束されたストーリーに思えたのです。

2001: LATERALUS”

5年ののち、2001年にリリースされた “Lateralus” はミレニアムへの変遷と時代の変遷を重ねたレコードでした。当時 TOOL のファンと LIMP BIZKIT のファンの違いを尋ねられた Maynard はこう答えています。「TOOL のファンは読書ができる。より人生に精通している傾向があるね。」
そこにかつての怒れる男の姿はもうありません。ステップアップを遂げる時が訪れました。「俺たちは間違いなくパンクロックの産物だよ。ただし、ただ反抗するんじゃなく、大義のために反抗しなきゃならない。つまりこのぶっ壊れた音楽産業にだよ。俺らのゴールは、みんなが自分自身のために価値のある何かをするよう促すことなんだ。」
足の筋肉 “vastus lateralis” と外的思考 “lateral thinking” のキメラ “Lateralus” は融和と前進のアルバムです。
Alex Gray のアートワークには、脳に “神” が宿り、より深い人間の気質を仄めかします。つまり TOOL は憎悪、精神性、制限された信念といった後ろ向きなイメージを手放すよう人々に新たな詔を下したのです。
Nathaniel Hawthorne の古典 “緋文字” で David Letterman の皮肉を皮肉った “The Grudge”、人生の価値を投げかける “The Patient”、そしてコミュニケーション崩壊の危険を訴える “Schism”。「コミュニケーションを再発見しよう!」シンガーはそう懇願します。

「Robert Fripp のギタープレイが俺を目覚めさせてくれたんだ。」先ごろ Adam Jones の自らを形作ったギタリスト10人が発表されましたが、1位が Robert Fripp、2位が Adrian Belew、3位が Trey Gunn でした。つまりベスト3を KING CRIMSON のメンバーが独占するほど Adam はクリムゾンの影響下にあるわけですが、とりわけ “Lateralus” は70年代の “クリムゾンゴースト” が最も潜んだアルバムと言えるかも知れませんね。つまり決して耳に優しいレコードとは言えません。しかしその分深くワイドでもあります。
“Parabol” と “Parabola” は作品のセンターに据えられた二本柱。実験的で不気味なサウンドスケープから、アドレナリンラッシュを伴い人間の闘争と解放の驚異的なまでに動的な解釈を提示する彼らのダイナミズムは圧倒的です。
そして何よりタイトルトラック “Lateralus” は自然と芸術を駆け抜けるあのフィボナッチ数列に準じています。9/8、8/8、7/8と下降する美しき変拍子の階段は、フィボナッチ数16番目の数字987を意識して構築されました。「無限の可能性を見ろよ」と歌い紡ぐ Maynard。数学者としての TOOL と実証主義者としての TOOL は遂にここにポジティブな融和を果たしたのです。

2006: “10,000 DAYS”

さらに TOOL は “10,000 Days” で魂までをも抱きしめます。10,000日、27年とは土星の公転周期であり、Maynard の母 Judith Marie が脳卒中を患ってから死を迎えるまでの期間でもありました。
“Wings Pt 1” と “Pt 2” で、異なる巨大な概念である悲しみと信仰を同時に内包し音像へと投影する TOOL のスピリチュアルな作曲術は驚異的です。ただ、それ以上に Maynard が初期の「fuuuuuuuck you、buddy!」 といった毒づきや、中期の知的な創意工夫を超越して到達した “崇高” の領域に触れないわけにはいかないでしょう。
「10,000日とは あまりに過酷で長すぎるよ。どうか精霊と子よ、神様をこちらへ連れてきて。彼に伝えて欲しい、信仰の狼煙がいま立ち昇ったと。」
実に崇高かつパーソナルな感情は TOOL が魂の領域まで達した証明。”10,000 Days” はバンド史上最もオープンで、優しく脆く人間的で、それ故に最も感情へと喚起するアルバムに仕上がりました。そうしてその崇高は13年後の成熟へと引き継がれていくのです。

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DREADNOUGHT : EMERGENCE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH KELLY SCHILLING OF DREADNOUGHT !!

“The Term “Female Fronted” Sensationalizes Women And Turns Us Into a Gimmick. We Are All Human Beings Creating Sound And Gender Shouldn’t Be The Focal Point. “

DISC REVIEW “EMERGENCE”

「近年、音楽はジャンルの表現を超えて日々拡大していっているわ。交配と実験が重ねられているの。だからもしかしたら、ジャンル用語自体、大まかなガイドラインとして受け止められるべきなのかもしれないわね。」
プログメタル、ブラックメタル、フォーク、ドゥーム、ジャズ、チェンバー、クラシカル、ポストメタル。コロラド州デンバーに端を発する男性2人女性2人の前衛的メタルカルテットは、”恐れを抱かず” ジャンルの境界を決壊へと導く気炎にして雄心です。
現在、メタル世界の地図において最も多様で革新的な場所の1つ、ダークなプログレッシブドゥームの領域においても、DREADNOUGHT の描き出す無限の音景は実にユニークかつシームレスだと言えるでしょう。
「メンバーのうち2人が人生の大半を木管楽器をプレイしてきたから、作曲の中に盛り込みたいと考えたのね。私は10代の頃に、フォークメタルムーブメントや民族楽器を使用するメタルバンドからインスピレーションを得ているから、フルートを楽曲に取り入れたいと思うのは自然なことだったわ。」
そのドラマティックでカラフルな音の葉の根源が、演奏者のユーティリティ性にあることは明らかでしょう。インタビューに答えてくれたボーカル/ギター/フルート担当の Kelly を筆頭に、ドラム/サックスの Jordan、キーボード/ボーカルの Lauren、そしてベース/マンドリンの Kevin。典型的なロックの楽器以外をナチュラルに導入することで、バンドは多次元的な深みと自由な翼をその筆へと宿すことになりました。
火、風、水、土。THRICE の “The Alchemy Index” から10年の時を経て、今度は DREADNOUGHT が地球に宿る四元素をそのテーマとして扱います。そうして炎の獰猛と優しさを人生へと投影した最新作 “Emergence” は、バンド史上最も思慮深くアトモスフェリック、一方で最もパワフルかつ記憶に残るアルバムに仕上がったのです。
水をテーマとした前作 “A Wake in Sacred Waves” の冒頭とは対照的に、不穏に荒れ狂う5/4で幕を開けるオープナー”Besieged” は “現在最もプログレッシブなメタルバンド” との評価を確信へと導く野心と野生の炎。デリケートなジャズ/ポストロックの低温と、高温で燃え盛るブラックメタルのインテンスはドゥームの組み木で燃焼しせめぎ合い、ダイナミズムのオーバーフローをもたらします。
兆した悲劇の業火はチェンバードゥームと Kate Bush の嫋やかな融合 “Still” でとめどない哀しみへと飛び火し、その暗澹たる感情の炎は KARNIVOOL のリズムと OPETH の劇場感を追求した “Pestilent” で管楽器の嘶きと共にクライマックスを迎えます。それは過去と現代をシームレスに行き来する、”スペースロック” の時間旅行。
とは言え、”Emergence” は前へと歩き出すレコードです。KRALLICE や SEPTICFLESH の混沌とアナログキーボードの温もり、管楽器とボーカリゼーションの絶妙なハーモニーを抱きしめた “Tempered” で複雑な魂の熱を受け入れた後、アルバムはエセリアルで力強き “The Walking Realm” で文字通り命の先へと歩みを続けるのです。
もはや10分を超えるエピックこそ DREADNOUGHT の自然。それにしてもゴーストノートや奇想天外なフィルインを駆使した Jordan のドラムスは群を抜いていますし、Lauren の鍵盤が映し出すイマジナリーな音像の数々も白眉ですね。
今回弊誌では、美麗極まる歌声に激情のスクリーム、そしてマルチな楽器捌きを聴かせる Kelly Schilling にインタビューを行うことが出来ました。「フィーメールフロンテットって用語は女性を特別で、センセーショナルにする、つまり私たちをギミックに変えるのよ。私たちはみんな音を作り出す人間であって、性別を焦点にすべきではないのよね。」どうぞ!!

DREADNOUGHT “EMERGENCE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ARCTIC SLEEP : KINDRED SPIRITS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH KEITH D OF ARCTIC SLEEP !!

“So Much Metal Out There These Days Just Sounds Like a Bunch Of Random Riffs Pasted Together, With No Concern For Melody Or Song Structure Or Dynamics. It’s Just Not Memorable And So Much Of It Sounds The Same To Me.”

DISC REVIEW “KINDRED SPIRITS”

「僕は自分の音楽を表現する時、”ビタースイート” って言葉をよく使うんだけど、それは僕の音楽が憂鬱や悲しみと、心地よさや慰めのコンビネーションだからだと思う。」
“プログレッシブアトモスフェリックドゥーム”。ARCTIC SLEEP の音楽は、その耳慣れないラベルに反して実に雄弁です。スロウ&ドゥームとプログレッシブ&ビューティフル。相反する真逆の理念を見事に調和させるパラドックスの具現化は、ARCTIC SLEEP が結成当時からビッグテーマとする “生と死” を投影した対比の美学を源流としています。
ミルウォーキーのマルチ奏者 Keith D のソロプロジェクトとして2005年に産声をあげた ARCTIC SLEEP は、バンドとなり様々な紆余曲折、メンバーチェンジを繰り返して今再び Keith の手中へと戻ってきました。
ボーカル、ギター、ベース、チェロ、キーボード、ジャンベ、パーカッションなど多種多様な楽器をほぼ一人でこなす鬼才は、もはや人事やコミュニケーションに割く時間すらも惜しみながら荘厳壮大なエピックの建築を続けています。
「僕と愛猫 Yoda はとても強い絆で結ばれていたんだ。その絆がアルバムに影響を及ぼしているね。ただ、このテーマを世界中で “喪失” に苦しんでいる全ての人に届けたいという思いもあるんだよ。」
そうして完成をみた7枚目のフルアルバム “Kindred Spirits” は、亡き Keith の愛猫 Yoda に捧げられた作品であり、”喪失” に苦しむ全ての人々へ差し伸べられた救いの精神。そして、彼の根幹である “生と死” を再度見つめ直すレコードに添えられたアートワークの崇高美は、そのまま音の景色へと反映されているのです。
「僕はスロウでヘヴィーな音楽を愛している。だけど同時に、メロディックでキャッチーなソングライティングも愛しているんだ。」 暗くドゥーミーに沈み渡るリフの波、雲間をかき分け差し込むメロディーの光明、荘厳なるチェロの響き、そして押し寄せるハーモニーの洪水。バンド史上最も “聴きやすい” と語るアルバムにとって、明確なコントラストとフックを宿すオープナー “Meadows” は完璧な招待状となりました。
ANATHEMA の多幸感と KATATONIA の寂寞を同時に抱きしめるタイトルトラックで独特の牛歩戦術を披露して、OPETH の静謐を深々と “Connemara Moonset” に委ねたバンドは、8分のエピック “Cloud Map” でアートワークの黒烏と美姫の逢引を素晴らしく音で描いてみせました。それは例えば PORCUPINE TREE と ALICE IN CHAINS の理想的な婚姻。幽玄でどこか危うく、美麗でしかし憂鬱な交わりの音の葉は、全てを黒と白に決して割り切ることのできないあやふやで愛すべき世界の理をも投影しながらリスナーの感情を穏やかに喚起するはずです。
今回弊誌では、Keith D にインタビューを行うことができました。「最近は沢山のリフをランダムにコピペしたようなメタルバンドが多いけど、彼らはメロディーや構成、ダイナミズムには無関心だよ。だから記憶に残らないし、僕にとっては全部同じように聴こえるんだ。」 どうぞ!!

ARCTIC SLEEP “KINDRED SPIRITS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ANUP SASTRY : ILLUMINATE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ANUP SASTRY !!

“I Don’t Really Think “Djent” Movement Has Gone Away Or Anything. The Entire “Djent” Idea Really Just Falls Under The Larger Category Of Progressive Metal, In My Opinion. Bands Have Been Incorporating Small Pieces Of That “Djent” Style For Years.”

DISC REVIEW “ILLUMINATE”

「両親共にインド出身なんだ。ただ、僕はワシントンDCで生まれ、そのエリアの郊外で育ったんだよ。」
ハイテクニカルドラマー、コンポーザー、レコーディングエンジニア、プロデューサーとしてキャリアを重ねる Anup Sastry は、ワシントンエリアのプログメタルを牽引する雄心であり、世界と興起するインドメタルの地平を繋ぐ架け橋です。
プログのネットワークが彼の存在に気づいたのは2011年のことでした。Anup が YouTube にアップした PERIPHERY のカバー “New Groove” は圧倒的な異彩を放っていたからです。流麗かつ繊細なコンビネーション、革新的なタム&シンバルサウンド、体格を活かしたハードヒット、そして決定的なグルーヴ。独特のテクニックで PERIPHERY を料理したコックの手腕には理由がありました。
古くからの友人で、THE FACELESS, GOOD TIGER など数多の “Tech-metal” アクトで辣腕を振るう Alex Rudinger との切磋琢磨、さらに他ならぬ PERIPHERY の Matt Halpern, Travis Orbin への師事。置かれた環境と抜きん出た才能は、そうして Anup を “Djent” ムーブメントの最前線へと誘うことになりました。
「僕たちは “Djent” をプレイすることにはあまり焦点を当てていなくて、ただ創造的でヘヴィーな音楽を書こうとしていたんだよ。」
インドのライジングスター SKYHARBOR のポリリズミックグルーヴに寄与し、トロントのインストゥルメタルマスター INTERVALS のカラフルな創造性を後押しした Anup のドラミングは、”Djenty” と呼ばれるモダンなリズムアプローチの象徴にもなりました。
ただし、ムーブメントの震源地で迸るマグマとなっていたマイスター本人は、 “Djent” にフォーカスしているつもりはなかったようですね。実際、Anup はこの時期、よりメインストリームのギターヒーロー Marty Friedman や Jeff Loomis にも認められレコードやツアーに起用されています。
とはいえ、一方で Anup は “Djent” が残した功績、レガシーを高く評価もしています。「”Djent” というジャンルについてだけど、僕は本当にムーブメントが過ぎ去ってしまったようには思えないんだ。”Djent” の包括的アイデアは、より大きいプログメタルというカテゴリーにしっかりと根付いている。僕の考えではね。つまり、ここ何年か多くのバンドは “Djent” のスタイルのピースを取り入れている訳さ。」
過ぎ去った言われるムーブメントとしての “Djent”。しかし Anup はプログメタルという “大きな傘” の中でその理念やグルーヴが息づき進化を続けていると主張しているのです。
実際、彼がリリースした最新作 “Illuminate” は、”Djent” のレガシーとモダンメタルの多様性が溶け合った挑戦的かつプログレッシブなルミナリエ。そして、これまでインストゥルメタル道を突き進んでいた Anup が、欠けていた最後のピースとして3人のボーカルを全編に起用したマスリスナーへの招待状です。
“The World” で “Djent” の遺伝子に咆哮を響かせる Chaney Crabb、KORN をイメージさせるタイトルトラック “Illuminate” では Mike Semesky が一際陰鬱な表情を加え 、デスコアの猟奇 “Beneath the Mask” と PERIPHERY のダイナミズム “Story of Usで歌唱をスイッチする Andy Cizek の汎用性も見事。ただし最も見事なのは、ワイドで魅力的な楽曲群を書き上げ、ほぼ全ての楽器を自らでレコーディングした Anup Sastry その人でしょう。
「僕はそのやり方を “プログラミングギター” と呼んでいたんだ。とはいえ、サウンドは本物のギターなんだよ。基本的に僕はリフを一音づつ、もしくはすごく小さいパートをプレイしレコーディングするんだ。つまり、結局編集に大きく頼って細切れを繋げているんだよ。」
チートにも思える彼のレコーディング方法は、しかし弦楽器の達人ではないミュージシャンにとって1つの可能性なのかもしれませんね。
今回弊誌では、怪人 Anup Sastry にインタビューを行うことが出来ました。実は今年、古巣 SKYHARBOR にヘルプで参加しライブを行っています。「プログメタルは、メタルの中でも常に新たなクリエイティブなサウンドを求める性質を持っているジャンルだ。だから僕にとって “Djent” とは、どちらかと言えば、プログメタルというもっと大きな傘の中で探求を続ける、また違った推進力になったと思えるね。」  先日インタビューをアップした ARCH ECHO の Adam Bentley もゲスト参加。どうぞ!!

ANUP SASTRY “ILLUMINATE” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ARCH ECHO: YOU WON’T BELIEVE WHAT HAPPENS NEXT!】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ADAM BENTLEY OF ARCH ECHO !!

“We Felt It Would Be Fun To Go Against The Typical Trends And Have Something More Comical. We Have Fun And Don’t Take Things Too Seriously, And The Artwork Reflects That.”

DISC REVIEW “YOU WON’T BELIEVE WHAT HAPPENS NEXT!”

2010年代の幕開けを前に ANIMALS AS LEADERS が放ったセルフタイトルの煌きは、”Instru-metal” シーンに劇的な転調をもたらしました。
ネクストレベルのテクニック、グルーヴ、創造性、そして多弦の魔法は、Djent ムーブメントの追い風も受けて同世代を激しく刺激し、さらに綺羅星のごとき後続を生み出すこととなったのです。
鬼才のマイルストーンを道しるべに、自らのインスト道を極める俊英たち。彼らはあたかも大樹から自在に伸長する枝葉のように、モダンプログレッシブの世界を細分化し多様に彩りました。
日本が誇る ichika や THE SURREALIST のアンビエントな冒険は出色ですし、同じく日本人 Yas Nomura が所属する THRAILKILL や THE RESONANCE PROJECT の知性と際立った完成度、さらに王道をひた走る主役 POLYPHIA, CHON のチルアウトしたマスライド、Felix Martin の踊る蜘蛛指、Sarah Longfield の眩いエレクトリックパレード、そしてもちろん素晴らしきマスコット、ヒキニート先輩とまさに多士済済、群雄割拠のインストシーン。
ただし、楽器のディズニーランドへと舞い降りた万華鏡の新世代は、トレンドを恐れず喰らい、ジャンルに巣食うマニアの呪縛をも意に介さない点で共闘し、よりマスリスナーへとワイドなアピールを続けているのです。
中でも、あの Steve Vai をして最も先進的なギタープレイヤーの一人と言わしめた Plini の出現を境として、”Fu-djent” の華麗な波が存在感を増しています。Djent のグルーヴを受け継ぎながら、より明確なメロディーとハーモニーを軸に据え、フュージョンの複雑性とキラキラ感をコーティングしたカラフルなイヤーキャンディーとでも言語化すべきでしょうか。隠し味は、音の隅から隅へと込められた類まれなるメジャー感なのかも知れませんね。
INTERVALS, OWANE, Jakub Zytecki, Sithu Aye, Stephen Taranto といったアーティストが “Fu-djent” の魅力を追求する中でも、あのバークリー音楽院から登場した ARCH ECHO の風格とオーラはデビュー作から群を抜いていたようにも思えます。
違いを生んだのは、彼らがより “バンド” だった点でしょうか。名だたるプレイヤーを起用しながら確固とした主役が存在する他のアーティストと比較して、ARCH ECHO はダブルギター、キーボード、ベース、ドラムス全員が主役でした。故に、プログからの DIRTY LOOPS への返答とも称されたコレクティブでファンキー、ウルトラキャッチーな “Hip Dipper” が誕生し得たのでしょう。
最新作 “You Won’t Believe What Happens Next!” は、さらにバンドとしてのシンクロ率を高め熟成を深めた作品です。
「僕たちはバンドを楽しんでやっているし、シリアスに物事を捉え過ぎてはいないんだよ。アートワークはそのアティテュードを反映しているんだ。」
プロデューサーとしてもシーンに一石を投じる Adam Bentley は、”次に何が起こるかきっと君は信じられないだろう!” というタイトル、プログらしさの真逆を行くコミカルなアートワーク、そしてもちろんその音楽も、全てが “楽しさ” に由来する創造性や意外性であると語ってくれました。そして確かに、彼らの新たな旅は意外性に満ちています。
「このアルバムではよりフュージョンを目指した方向性をとったんだ。それに、よりテクニカルにもなっているね。」
一見 “Hip Dipper” 同様メジャー感を前面に押し出した “Immediate Results!” でさえ、その実予測不能のポリリズム、緩急のダイナミズム、スピードの暴力、デュエルの激しさなど総合的な複雑性、テクニカルメーターは前作を大きく凌いでいます。
加えて、”Stella” が象徴するように Djeny な重量感は一層深くバンドの音の葉へと馴染み、一方で “Bocksuvfun” や “Iris” に浸透した RETURN TO FOREVER 譲りのトラディショナルなフュージョンサウンドもそのリアルを増しているのです。
すなわち、バンド全員のインストゥルメタルスーパーパワーを集結し、リラックスしたフュージョンマインドとテンション極まるチャグアタックを渾然一体に導く蜃気楼のパラドックスこそ ARCH ECHO の天性。
今回弊誌では、Adam Bentley にインタビューを行うことが出来ました。「ジャクソンのギターを使っているのは、僕のメタルとプログメタルに対する愛が故なんだよ。」名曲 “Color Wheel” を追加収録した日本盤は、7/17に P-VINE からリリース。どうやら待望の初来日も期待できそうですね。どうぞ!!

ARCH ECHO “YOU WON’T BELIEVE WHAT HAPPENS NEXT!” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PAUL MASVIDAL (CYNIC) : MYTHICAL】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PAUL MASVIDAL OF CYNIC !!

“Chuck Gave His Life To Music And Was Always Interested In Learning New Things And Expanding His Art. I Think That Is Where We Connected As Artists. He Found In Me a Creative Young Spirit Looking To Try New Things.”

DISC REVIEW “MYTHICAL”

テクニカル/プログレッシブデスメタルの祖 DEATH がジャンルのリミットを解除したトリガーにして、CYNIC がメタルに宇宙とアトモスフィアをもたらした根源。Paul Masvidal は現代メタル史の筆頭に記載されるべき偉人です。
「Chuck はその人生を音楽に捧げ、いつも新たなことを学ぶ意欲を持ち、自身のアートを広げていったんだ。そういう点が、アーティストとしての僕たちを結びつけたんだと思う。きっと彼は僕の中にも、新たなことに挑戦する若きクリエイティブなスピリットを見つけていたんだろうな。」今は亡きデスメタルのゴッドファーザー Chuck Schuldiner の眼差しには、自身と同様に既成概念という亡霊に囚われない眩いばかりの才能が映っていたはずです。
実際、DEATH の “Human” でメタルとプログレッシブ、ジャズの垣根をやすやすと取り払った後、Paul は CYNIC をはじめ GORDIAN KNOT, ÆON SPOKE といった “器” を使い分けながら野心的な音旅を続けて来たのです。
咆哮と SF のスペーシーな融合 “Focus”、幽玄でアンビエントなアートメタルの極地 “Traced in Air” “Carbon-Based Anatomy”、そして THE BEATLES の精神を受け継ぐアビーロードメタル “Kindly Bent to Free Us”。そうしてもちろん、Paul がメスを握り執刀する音楽の臨床実験は、ソロ作品においても同様に先鋭と神秘の宇宙でした。
「分かっていたことが2つあってね。1つはアコースティックのレコードを作りたかったこと。もう1つは、ヒーリング体験を伴う新たなサウンドテクノロジーに深く興味を惹かれていたこと。」
サウンドスケープを探求するスペシャリストが “MYTHICAL” で到達したのは、音楽と治療の未知なる融合でした。
もちろん、これまでもロックとエレクトロニカを掛け合わせる実験は幾度も行われて来ましたし、ヒーリングを目的とした環境音楽も当然存在しています。
しかし Paul Masvidal が遂に発想した、シンガーソングライター的アコースティックな空間に、集中やくつろぎ、そして癒しを得るためのアイソクロニック音やバイノーラルビートを注入する試みは前代未聞でしょう。
「Lennon/McCartney を愛しているからね。彼ら二人はソングライティングにおいて、最大のインスピレーションなんだ!」
Paul が語るように、シンガーソングライターというルーツ、”家” に回帰した MASVIDAL の音楽は、THE BEATLES への愛情に満ち溢れています。仄かに RADIOHEAD も存在するでしょうか。
コード進行、旋律や歌い回しは “Fab Four” の魔法を深々と継承し、”Kindly Bent to Free Us” からメタリックな外観を取り払ったオーガニックな木造建築は居心地の良い自由で快適な空間を謳歌します。特に CYNIC のメランコリーまで濃密に反映した “Parasite” の美しさは筆舌に尽くしがたいですね。
そして、このアーティスティックな建造物にはスピリチュアルな癒しの効果も付与されています。表となり、裏となり、アルバムを通して耳に届くアイソクロニック音やバイノーラルビートは、不思議と Paul の演奏に調和し、音の治療という奇跡を実現するのです。”メタルが癌に効く” より先に、心と体に “効く” 音楽を作り上げてしまった鬼才の凄み。
「そういった “治療用トーン” や “脳を楽しませるトーン” を音楽に組み込むことができれば、音楽の効果と治癒力を高めることができると思った訳だよ。」音の葉と感情の相互作用を追求し続けるマエストロはそうして最後に大きなサプライズを用意していました。
“Isochronic Tone-Bath”。音浴、つまり音のお風呂体験。EPに用意された5曲から、Paul の演奏を剥ぎ取りヒーリングのトーンのみをレコードの最後に据えたマエストロの真の目的は、”聴く” と “感じる” の同時体験を瞑想と共にリスナーへ提供すること。そうして 「信念を曲げず、信念の元に」 進み続ける冒音者は、再度真に常識に逆らう道を進み、革命的な作品を完成へと導いたのです。
今回弊誌では、Paul Masvidal にインタビューを行うことが出来ました。「Chuck とは素晴らしい思い出が沢山あるよ。その思い出の大半は、僕を笑顔にしてくれるんだよ。僕は彼が充実した作品とインスピレーションを、これからミュージシャンとなる世代に残してくれたことが嬉しいんだ。」 きっと真の音楽は時の荒波にも色褪せません。どうぞ!!

MASVIDAL “MYTHICAL” : 10/10

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