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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【MDOU MOCTAR : AFRIQUE VICTIME】


COVER STORY: MDOU MOCTAR “AFRIQUE VICTIME”

“I’m Not Calling Anyone To Provoke War, But I Am Calling The Whole World To Stand Up And Revolt Against The Conditions We Face. We Don’t Have The Technology Here In Niger To Manufacture Weapons, So How Are They Entering The Country? Why Are Other Nations Storing Tools Of War On Our Land? France, The US, NATO – They’re All Complicit.”

TEARS OF SAHARA

Mdou Moctar の人生は見えない運命に導かれているようです。彼の物語は、縺れ合う巨大な糸の塊のようであり、その中には何度も立ち止まり、また歩みを進める場所があるのです。
Mdou は80年代半ば、ニジェール南西部の町アバラックで生まれました。彼は、ニジェールの人口の約10%を占める、サハラ砂漠に住む歴史的な遊牧民であるトゥアレグ族の一人。青衣の民、トゥアレグの文化では、音楽はコミュニティの根幹であり、解放の道具であり、闘争からの解放でもあります。しかし、Mdou の宗教的な両親は、彼が創造的に探求することを拒みました。それでも彼は、自転車のワイヤーと廃材を使って最初のギターを手作りし、左手で弾き語りを始めたのです。
その後、トゥアレグ族の伝統的な歌に、隣国ナイジェリアで流行していたドラムマシンやオートチューンを融合させるという新境地を開拓した Mdou。そうして2010年代初頭には、彼の曲のラフ・レコーディングはサハラ砂漠を吹き抜ける幻の風のように、Bluetooth やメモリーカードを介して携帯電話から携帯電話へと侵食していったのです。
これに興味を持ったのが、旅するアメリカ人ブロガーで音楽学者のクリス・カークリーでした。1億人に1人の才能を聴いていると確信したカークリーは、何年もかけて彼を追跡し、Mdou のためにあつらえた左利き用の漆黒のギターを背中に背負って砂漠を自転車で走りつづけました。ミッションは成功します。
2013年から2015年にかけて、Mdou から大量のアルバムが生み出され、カークリーのレーベル Sahel Sounds から世界中にリリースされていきます。時を同じくして、”Purple Rain” のセミオマージュフィルムが制作されます。この作品は、トゥアレグ族の言語であるタマシェック語で撮影された歴史上初の長編作品。カークリーは、Mdou と Prince のカリスマ的な類似性を引き出すことを意図しましたが、1つだけ問題がありました。タマシェック語には「パープル」という言葉が存在しなかったのです。
そうして2015年に公開されたのが、音楽ドラマ “Akounak Tedalat Taha Tazoughai”(訳注:『青の色の雨に少しの赤が混じっている』)でした。この映画はカルトヒットとなり、その後5年間 Mdou のカレンダーを海外ツアーの日程で埋め尽くしました。1980年代の Prince の全盛期に一緒に演奏したリサ・コールマンは、この比較はまったくもって正当であると後に語っています。
こうした伝説をまとめると、マハマドゥ・スーレイマン(Mdou は省略されたニックネームで、Moctar または Mokhtar はアラビア語で「選ばれし者」を意味する)は、アフロビートの父、フェラ・クティのような西アフリカの神話的ミュージシャンと肩を並べる、そんな期待感が渦巻きます。

ただし、Mdou Moctar は神話ではなく一人の人間です。彼は現在、タホアの街に住み、働く男で、彼の仕事は音楽だけではありません。
「アルバムを出すたびに井戸を掘っている。ニジェールでは水の確保が大きな問題になっているんだ。だから村々をまわって、援助を買って出ているんだよ。女性が現地でどのような扱いを受けているか確かめ、医療の改善を促し、家族の中における父親のような存在になりたいと思っているんだ」
世代を超えた才能を持つ Mdou ですが、つまり彼の現実は Prince やフェラ・クティのような大物とは大きく異なるのです。クティは、母親が女性の権利擁護の先駆者であり、1980年代には処刑の脅威にさらされ、ラゴスの警備された屋敷で活動する必要があったといいます。Prince のペイズリー・パークは、それ自体が要塞でした。
Mdou は、タホア、アガデス、そしてその他の地域で、意欲的なミュージシャンの間では大きな影響力を持っていますが、彼は普通に人々の間を歩いています。結婚式のセレナーデを彼に依頼したり、小額で彼の車を借りたりすることも可能。
30代になる以前、Mdou は西洋のロックンロールを知りませんでしたが、エディ・ヴァン・ヘイレンのような新旧の人気バンドの演奏を吸収して以来、彼のテクニックはさらに大胆になっています。フレットを指で叩いても、親指と人差し指をボディに当てて振動させても、噴出する太陽フレアのように音が炸裂し、ファズは空中にそびえ溶けていくのです。
Mdou の演奏は、色、進化するリズム、豊かなメロディーが織りなす変幻自在のライオットと言えるでしょう。それは、エレクトリック・ギターに潜む無限の可能性を思い出させてくれるものであり、錆びついたペンタトニック・シェイプや退屈なロックの決まり文句から新しい血を搾り取ろうとして行き詰るプレイヤーへの解毒剤でもあるのかもしれませんね。
彼の喜びに満ちた現代的なフィンガースタイルの演奏は、砂漠のブルースやトゥアレグのギタースタイルと、ウェスタンロック、サイケデリア、ジャズの要素を融合させています。彼の評価は、サヘル(サブサハラ)のギター音楽を代表する一人というだけでなく、世界で最も優れた、そして間違いなく最も表現力のあるギタリストの一人であるというコンセンサスが徐々に形成されつつあるのです。

2019年の “Ilana: The Creator” によって Mdou はより多くの人に知られるようになりましたが、最新作 “Afrique Victime” は彼をさらに一段推し進めることになりそうです。インディーレーベル Matador からリリースされたこのアルバムは、フランスとアメリカの帝国主義に対する痛烈な反撃であり、ニジェールでの天然資源の略奪に反発する一方で、砂漠の生活の美しさを主張しています。前作 “Ilana” は、この異文化間の抱擁の結果として生まれた作品でした。アメリカで録音されたアルバムは、ニジェールの砂漠からミシシッピ・デルタを経て、西海岸の太陽の光を浴びた海に足を踏み入れるまでの、激しいサイケ・ロックの旅。一方で今回のアルバム “Afrique Victime” は、Mdou の祖国とアフリカ大陸に対する感情を極限まで表現しています。帝国の崩壊や政情不安の中で耐え続けている苦しみを訴えるものから、愛する人や故郷であるアガデス地方での優しい満足感に浸るものまで。つまり、最も直接的で政治的なアルバム。
「僕は自然の中で見たものや、もちろん自分の周りで起きている最近の出来事からインスピレーションを受けて作品を作っている。だから、作品を作った時期によっても内容は異なるよね。現在は、特にカダフィが殺されてからのアフリカの苦悩を強く感じているんだ。様々な国でテロが多発している。ボコ・ハラムのテロリストが毎日のように襲ってきているしね。そして、サヘルやアフリカ全体のさまざまな国で犯罪が起きている。
もちろん、それぞれの国にはより具体的な問題があり、事情は異なっている。ニジェールの場合は、砂漠でのテロリストの問題と、フランスとアメリカの軍事基地が設置されていることによる影響が大きいと思うんだ。他のアラブ諸国からも影響を受けているよ。例えば、最近ではアフリカの指導者イドリス・デビーが殺害された。彼はチャド出身のリーダーだったんだ。彼はテロリスト、特にボコ・ハラムと戦っていた。悲しいことに、彼はもういない」
“Afrique Victime” には、これまでで最も野心的でパワフルな演奏(タイトル曲のヴァン・ヘイレン風の驚くべきソロなど)が収録されていますが、もちろん “Ilana” 以前に磨いたアコースティックな作業をより多く取り入れているため、”Tala Tannam” のような繊細な演奏も封入されています。彼自身の言葉を借りれば、「初期の VAN HALEN と BLACK FLAG と BLACK UHURU」に近いもの。つまり、目の覚めるようなギターライン、新たな政治的怒りと、自分の土着の文化を代表し称えること。彼が挙げたアーティストの精神は間違いなくアルバムへと書き込まれています。

ただし Mdou は、自分の作品を意図した通りにプロモーションすることができていません。
「ツアーはしたいけど、今はあまり音楽に触れられないんだ。新しい生活に適応しなければならないから」
ロンドンからアガデスまで、飛行機で3回、バスで28時間かけて移動しなければならないことを考えると、ロックダウン中の移動は困難を極めます。2月下旬、選挙結果が争われたことで、ニジェールは一時的に不安定な状態に陥っていました。緊張を和らげるために(あるいは反対意見を封じ込めるために)、2週間ほどインターネットさえ使えなくなったのですから。
ブルックリン出身のプロデューサーで、Mdou のベーシスト Mikey Coltun。彼のふわふわの髪の毛とアメリカ訛りは、このバンドの中で明らかに異端児であることを示しています。父親が所有する西アフリカやアバンギャルドのレコードに精通していたMikey は、00年代後半 Sublime Frequencies の “Guitars From Agadez” シリーズに魅了され、10年以上にわたってマリやナイジェリアのグループで演奏してきました。2017年にMdouの初のアメリカ旅行を、ブッカー、マネージャー、ドライバー、そして万能のブースターとして促進した Mikey は、ライブでもベースを担当。そしてアメリカツアーが終わるとニジェールに来てトゥアレグ族として生活をはじめたのです。
「変わった状況に置かれるのが好きなんだ。トゥアレグの生活スタイルは信頼が第一で、みんなとても仲がいい。いつも何人もの人が一緒にいて、足を絡めたり、床に寝そべったりして、お互いに重なり合っている。自分の部屋に行って何かをしようというようなことがないんだ。プライバシーというものは、存在として非常に異なっているんだな。トゥアレグ族は、一人になる時間を利用して考え事をする。それはとても美しいことだよ」
Mikey は、パンデミックに見舞われる前、Mdou の3年間で500回以上のライブを行ったと推測しています。この4人組は1日に何組もの地元の結婚式をこなしていたのです。
「僕がアガデスに到着した最初の夜、僕たちは人里離れた茂みの中の結婚式に車で直行したことを覚えている。アンプや機材を水に浮かべて川から運び、セッティングして、演奏して、解体して……。僕はワシントンDCのパンクシーンで育ったから、このDIYのやり方はとても自然に感じられたんだ。コミュニティに馴染むためには、とにかくやってみることが一番なんだよね」
13年来のつきあいで、Mdou が弟と呼ぶリズムギタリスト Ahmoudou Madassane にとって、欧米に行くことは同胞のためにも重要でした。
「僕は、同志のサポートにとても個人的な思い入れがあるんだ。彼らが直面している問題や障壁は、僕も経験したことがあるから。欧米に行くことで得られるメリットを共有し、彼らの成長を支援したいんだよね」
グループには本物の親近感が漂っています。10代の頃にリビアを1週間かけて歩いたことが、十分な耐久トレーニングになったとMdouは笑います。Ahmoudou は、ジャック・ホワイトのサードマン・スタジオでのレコーディングの合間に、デトロイトのモータウン・ミュージアムを訪れたことを懐かしく思い出しながら、”音楽の歴史にとって重要な場所” を訪れるために、空いた時間を活用しています。
少年時代にひょうたんで演奏してリズム感を磨いた Souleyman にとって、Mdou は尊敬する人から、褒めてくれてジャムをしようと言ってくれる人、そして初めてニジェールの外に連れて行ってくれる人になりました。ドラマーは、「Mdou は私の兄弟だと思っている」と平然といってのけます。

バンドはトゥアレグ文化の大使であることを誇りにしています。彼らは、伝統的なタジェルムストを身にまとい、顔を覆ったり、ベールを肩に流したりしながら、プラム色、クリーム色、そしてこの地方で好まれるインディゴ色を交互に配したローブを着て演奏します。Mdou は、故郷に女子校を建設するための資金調達のために、トゥアレグ族のジュエリーを販売するマーチャンダイジングテーブルを設けています。
Ahmoudou の妹である Fatou は、Les Filles de Illighadad という素晴らしいバンドを率いています。このバンドは、厳格な家父長制の文化の中で活動する、画期的な女性フロントのバンドです。Ahmoudou は必要に応じてオンオフのマネージャーとギタリストを務めていますが、トゥアレグ族初の女性ボーカルバンド Les Filles de Illighadad が国外で人気を博しているのは Mdou の支援の賜物です。女性の権利の問題も、”Afrique Victime” が正面から取り組んでいるテーマなのですから。
「僕は多くの家族と話をして、できる限りの支援をしようとしているんだ。だけど特に遊牧民の家族の場合、女性を教育することを恐れているというのが、ニジェールでの大きな問題のひとつ。砂漠には良い高校がないから、女の子は一人で街に出なければならない。通常、両親は彼女を経済的に支えることができないので、彼女は食べることと家賃を払うことに苦労し、簡単に利用されてしまうんだよね。妊娠した女の子を退学させる学校の傾向が問題をより悪化させている。将来的にはより良い、より支援的な教育機会を提供できればいいんだけど」
親密なバンドは完全にコントロールされています。Mdou と Ahmoudou のリフに続く Mikey の変幻自在のグルーヴ、Souleyman は唇からタバコを垂らしながらドラムを叩いていきます。女性が前に出て月明かりに照らされながら踊り出れば、Mdouは、プリンスのように口角を上げて軽やかに彼女の方向に向かってホットステップを踏み、その後、ハチドリのようなスピードでソロを披露します。
「観客が僕のエネルギー源だということを、何年もかけて理解してきた。観客は僕に勇気を与えてくれ、普段は出せない音を出すことができる。ライブで起こったことは再現できないよ」。
「年配の、白人の、”ワールドミュージック” の観客を相手にしたショーをやったことがあるんだ(笑)。お金はいいかもしれないけど、僕らはいつもそんな場所からは離れていたいと思っていたんだ。”Ilana” や”Afrique Victime” では、BLACK SABBATH やZZ Topをよく聴いていたから、Mdou が実現したいサウンドや感覚は、まさに “クリーンだけど生々しい” というものだったよね」 そう Mikey は付け加えました。

Mdou は当初、歌詞に政治的なテーマを盛り込むことを拒み、代わりに都会に住むトゥアレグ族の若者たちにアピールする音楽を目指していました。”Afrique Victime'” はそのすべてを変えました。基本的にアルバム全体を通して、Mdou は汎アフリカ的な連帯感を表現し、周囲の人々に嫉妬を捨てて信仰を抱くよう呼びかけ、サハラの生活を広くロマンチックに描いています。
ただし、タイトルトラック “Afrique Victime” は、Mdou Moctar がテープに残した中で最も直接的な曲であり、恐るべきアートの反抗です。Mdou は、不安定さを助長する残存する植民地勢力を非難し、ネルソン・マンデラへの不当な扱いを非難し、フランス語でリフレインを繰り返します。
「アフリカは非常に多くの犯罪の犠牲者である/もし我々が黙っていれば、それは我々の終わり/兄弟たちは、アフリカのために何かをしなければならないのだ」
Mdou には伝えなければならないことがありました。
「僕はずっとフランスの統治システムが嫌いだった。フランス人を侮辱しているわけではないけど、政府が僕たちを人間ではないかのように扱うのは耐え難いことだよ。フランスの企業はニジェールのウランと金をすべて採掘しているけど、僕たちの問題は何も解決していない。僕は幼い頃からそれをずっと見てきたんだ。現代の奴隷制度、人種差別、植民地主義が合わさったようなものだよ。さらにこのニジェールでも、肌の色が濃いトゥアレグ族と薄いトゥアレグ族に分かれているんだから。肌の色が濃い人たちは最も力のない少数派で、僕は自分の特権を彼らと分かち合うことを大切にしている。具体的には、僕が利用できるお金のことだよ。だけど、人口の90%が電気を利用できないとしたら、こんなな状況でどうやって良い生活を送ることができるんだい?」
Mdou の声が熱を帯びていきます。
「僕は誰かに呼びかけて戦争を誘発しようとしているわけではないんだよ。”Afrique Victime” では全世界の人々に、僕たちが直面している状況に対して立ち上がって反乱を起こすよう呼びかけているだけなんだ。ニジェールには武器を製造する技術がないのに、どうやって武器が国内に入ってくるんだ? なぜ他の国は僕たちの土地に戦争の道具を保管しているんだろう?フランスもアメリカもNATOも、みんな共犯だよ。ここではみんな、フランスこそが真のテロリストだと言っているよ。なぜ彼らはここにいるのか?なぜだ?」
激しさは頂点に達します。
「アメリカは空から人を殺せるようになったのに、パイロットは砂漠に住む4000人のテロリストを排除できないのか?52カ国の影響力をもってしても、その問題を解決できないのか?どうして?!…それは彼らが我々を弄んでいるからだと思う。彼らは僕の仲間を弄んでいる」

アフリカで音楽が果たす役割についてはどう感じているのでしょうか。
「僕にとって音楽は武器。音楽があれば、僕の血涙のメッセージを全世界に向けて発信し、私の周りで起こっていることを語ることができる。それ以外の手段はないんだよ。
今のところ、僕の音楽が周りに大きな変化をもたらすことができたとは言えないけれど、いつかはそうなるかもしれないと思って期待しているんだ。たとえ変わらなくても、サヘルで何が起こっているかを人々が少なくとも知ることができただけでも、僕にとっては大きな収穫であり、非常に重要なことなんだ。だからこそ、このような状況に関するメッセージを発信する手段として、僕は音楽を選んだんだよ。
今日、物事はどんどん速く変化している。この種のメッセージを発信しているアーティストは僕だけじゃないよ。サヘル地域では、Tinariwen や Alpha Blondy などのバンドが同じように、革命のメッセージを発信している。みんながベストを尽くしているのだから、僕もその道を歩みたいし、最終的な目的は平和なのだから、そのための努力を続けたいよね」
何世紀にもわたって蓄積されてきた貧困と隷属を解消するだけでなく、Mdouが日々取り組んでいる重要な問題もあります。
「女性の権利も重要な課題だよ。病院の改善は必須だしね。いまだに砂漠の木の下で出産している人がいるけど、これはとても危険だよ。長期的には、すべての女性が学校に通い、自分で医者になったり、音楽の仕事をしたりする機会を持つべきなんだ。機会の平等こそが、現代生活の次のステップだと思っているから」
彼が資金提供していた学校は現在も建設中ですが、最近の市民運動の影響でいくつかの井戸が汚染されたり破壊されたりしているため、Mdou はまずそちらにエネルギーを集中させる必要があると考えています。
「僕たちがやっていることを通じて、情報を広めていきたいと思っているんだ。世界の権力者たちがこの話題に触れ、罪のない人々が無駄に苦しんでいることを真に受けなければ、変化は起こらないと思っているからね。ニジェールでは、電気、教育、食糧へのアクセスが少なく、それが国民を抑圧し続ける不平等なシステムを維持する重要な要因となっている。誰が善人で誰が悪人なのかを皆が知ることは非常に難しく、情報へのアクセスが厳重な秘密にされているんだよ」

国際的なツアーが再開されるたびに、Mdou とバンドを待ち受ける観客は、以前よりも彼の価値観を鋭く認識するようになり、必然的に多くの人が集まり知るようになるでしょう。マタドールは、ジュリアン・ベイカーや QUEENS OF THE STONE AGE などと並んで、”Afrique Victime” を2021年の優先作品として位置づけています。これは、Mdou の無限の可能性と、ますます揺るぎない意志、そして、増大する影響力を実質的な社会変革に結びつける予感を示唆しているのです。
それまでの間、Mdou Moctarはこの相対的な孤独を、自分自身を見つめ直すための時間とするでしょう。それは、彼の血の中にあるものだからです。
「僕の願いは、新しい世代の音楽家が繁栄し、発展し続けることなんだ。僕よりも若いアーティストには、近代化してもトゥアレグ族独特のスタイルを貫くようにアドバイスしている。僕が生きている間に、このメッセージが世界中に伝わっていることは、とても嬉しいことなんだ。長い間、僕の音楽は家ではちょっとしたジョークだと思われていたからね。自分が世界的なアーティストになる可能性があるとは思っていなかった。今でも頭の中では自分は初心者だと思っているよ。そして、それは永遠に変わらないと思うんだ」
特にアフリカでは、教育も重要な課題です。
「若い音楽家にとって最も重要なのは、演奏するための道具、つまり楽器を与えることだよ。ちゃんとしたギターとかね。ニジェールでそれを手に入れるには、旅をしている人が持ち帰るしかないんだから。国内では弦も買えないよ。もうひとつは、ニジェールには音楽学校がないということ。だから、その両方が必要なんだ。
音楽学校については、教え方というよりも、重要なのは彼らが集まり、好きな方法で自由に芸術的表現をすることができる場所を作ることだと思っている。ニジェールでは日常的にそうするのは非常に困難だからね。砂漠に行って演奏したり練習したりして、それが終わったら家に帰らなければならない。それが僕たちのやり方なんだ。音楽が嫌われる可能性があるという危険と、テロリストに狙われるという危険の両方があるからね。だから、彼らには洗練された楽器で演奏できる場所がどうしても必要なんだよね」
最後に、Mdou から若いミュージシャンへのアドバイスを記しておきましょう。
「必ずしも特定のテクニックについてアドバイスするわけじゃない。最近の若い人たちは、早く有名になりたいと思っている人が多いように感じるね。演奏を始めて1、2ヶ月もすれば、エディ・ヴァン・ヘイレンやジミ・ヘンドリックスのようになってコンサートに出られると思っている人もいるだろう。しかし僕は、自分のスタイルや曲を作るためには、時間をかけて努力しなければならないと思っているんだ。努力が必要なんだよ。急いでやろうとしても、正しいビジョンは見えてこないからね。
努力が報われ、努力があってこそ、素晴らしいものを生み出すことができる。だから、僕が一番言いたいのは、忍耐強く、ゆっくりとやることかな」

参考文献: DAZED Mdou Moctar: the shred star of the Sahara

NEW NOISE:Interview: Mdou Moctar, Desert Soul and the Sounds of Freedom

MUSIC RADER:Mdou Moctar: “My intention is for the guitar to be spitting out the sound of revolution”

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ALCATRAZZ : BORN INNOCENT】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JOE STUMP OF ALCATRAZZ !!

“I Hated All That Grunge Shit , There Was No Bad Ass Guitar In It, Just a Bunch Of Dudes In Flannel Shirts And Wool Hats Playing Shit a 10 Year Old Could Play. One Of The Reasons My Early Records Got a Decent Amount Of rpecognition During That Period Was That I Was One Of The Only Guys Making These Kind Of Over The Top Shred Guitar Records During That Time.”

DISC REVIEW “BORN INNOCENT”

「Graham は俺のオールタイムフェイバリットのうち3枚のレコード、”Assault Attack”, “Down To Earth”, “No Parole” で歌っているからね。この3枚のレコードは、それこそ若いころ、盤に穴が空くほどに聴いていたんだけど、今でも大好きなんだから彼と一緒に演奏できるなんて最高だよ。」
サングラスにスーツ、ジャパニーズヤクザの出で立ちでカンペを凝視しデシベルの限界を超える Graham Bonnet は、Yasushi Yokoyama のスピリットでギターの超新星を発掘する天才でもありました。
ALCATRAZZ で若き Yngwie Malmsteen, Steve Vai を掘り起こし、Chris Impellitteri のデビューフル “Stand in Line” でもその野声を響かせた怪人が、そうして34年ぶりの監獄島再浮上に目をつけたギタリストこそ Joe Stump でした。
「Yngwie との比較は嬉しいことだよ。だって俺が Yngwie を愛していることは秘密でもなんでもないからね。彼は俺のヒーローの一人で、最大の影響元だよ。だから誇らしく感じているんだ。」
90年代、鳴り物入りで Shrapnel からデビューを果たした “シュレッド卿” (自分発信) は、そのフルピックを多用するクラシカルな様式美が Yngwie のクローンとしてある種のバッシングを浴びた人物でもあります。
しかし、「俺がイライラするのは、(このスタイルの音楽に関しては無知で無学な人に多いんだけど) 俺の演奏すべてが彼のようなサウンドだけだと言われることだよ。俺は様々な影響を受けていて、それは俺の音楽にはっきりと表れているんだから。」 と自らが言及するように、音聖への愛情を注ぎながら、パワーメタルやスラッシュ、エクストリームメタルとよりダークな音像を湛えた邪悪なギター捌きは、”音速を超えたシュレッドマシーン” “スピードメタルメサイア” といった凡人には到底思いつかない仰々しいアルバムタイトルと共に、その自信と独自性を高めていったのです。
「だって俺はあのクソグランジすべてが大嫌いだからな。あの音楽に超クールなギターなんて全然なかっただろ? ただネルシャツとウールハットを身につけた野郎どもが、10歳でも弾けるようなクソをプレイしてただけさ。俺の初期のレコードがあの時期にそれなりの評価を得た理由の一つは、俺がこの手の限界を超えたシュレッドギターレコードを作っていた唯一の男だったからだ。」
限界を超えていたかどうかは議論が別れるところでしょうが、少なくとも Joe Stump は自らの信念を捨て去ることは決してありませんでした。そんな彼の様式美愛が今回遂に ALCATRAZZ 加入という結果に繋がったとも言えるはずです。
そうして再びネオクラシカルな翼を手に入れた ALCATRAZZ にとって、Jimmy Waldo, Gary Shea の名は実に重要な復活の呪文でした。例えば、2016年に Graham がリリースしたソロアルバム “The Book” はたしかに強力なメンバーを揃えた力作でしたが、それでも ALCATRAZZ と呼ぶに相応しいレコードではありませんでした。それはきっと、あの NEW ENGLAND にも所属した Gary のメロディーセンス、そして何より Jimmy の荘厳なハモンドの響きが欠けていたからに他ならないでしょう。
かつてもビッグフットやクリーナクリーといった UMA を題材としてきた Graham が、遂に北極熊へと焦点を当てた “Polar Bear” は、最も名作 “No Parol” の厳かな躍動を運ぶ楽曲かもしれませんね。”Too Young To Die, Too Drunk To Live” の刹那と熱情が瑞々しく蘇ります。
「ALCATRAZZ としても初期の “No Parole” なヴァイブを取り戻したがっていたからね。ただし、より邪悪でメタルな感覚を宿しながらだけど。」
もちろん、”Born Innocent” は単なる焼き直しのアルバムではありません。Chris Impellitteri がゲスト参加を果たしたタイトルトラックにしても、より硬質でダークなサウンドデザインが施行され34年のギャップは巧みに埋められていきます。
おそらく、Yngwie は “No Parol” の時点ではまだ入念にギターソロを構築しており一音一音に神々しささえ感じさせましたが、90年代中盤以降の Yngwie が乗り移ったような荒々しい Joe のギターの濁流も、よりイーヴルな”無垢の誕生” には適しているのかも知れませんね。
“We Still Remember” や “I am the King” を聴けば、Graham のメジャーコードの魔術師たる由縁が伝わるはずです。ポップ畑を通過した彼だからこそ映える、プログレッシブなアレンジメントも嬉しい限り。
さらに、Steve Vai が作曲を行った “Dirty Like the City” では、あの奇天烈ハードロック “Disturbing The Peace” の片鱗を感じることができますし、日本のライジングサン Nozomu Wakai が大暴れの “Finn McCool” は MSG や RAINBOW のハイスピードバージョンと受け取ることも可能でしょう。何より、”Reallity” はハリウッドの孤独に通じる佳曲です。”Hiroshima Mon Amour” の遺産を受け継ぐ歴史ソングは、ロンドンの大火を紡ぐ “London 1699″。
今回弊誌では、Joe Stump にインタビューを行うことができました。「俺はいつも演奏し、練習し、作曲し、レコーディングを行なっている。そうしたくても、そうしたくなくても、1日に6時間以上は必ずギターを手にしているよ。幸運なことに、俺は今でも若いころと全く同じようにギタープレイを愛しているから。」 発言すべてが一周回ってカッコいいです。どうぞ!!

ALCATRAZZ “BORN INNOCENT” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FREAK KITCHEN : CONFUSION TO THE ENEMY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MATTIAS “IA” EKLUNDH OF FREAK KITCHEN !!

“I Think The Change Of Music Industry Is a Brave New World With Tons Of Opportunities. You Can’t Sit Home And Complain It Was Better Before. Adjust Or Die.”

DISC REVIEW “CONFUSION TO THE ENEMY”

急速に拡大を続ける “ギターナード” の世界。真のギターフリークの間で、最もイノベーティブかつ画期的なプレイヤーとして崇拝を浴び続ける “Freak of the Freak” Mattias IA Eklundh。
水道のホースクリップ、テレビのリモコン、櫛、大人のディルドーにラジカセアンプ。目につくもの全てを “ギミック” としてギタープレイに活用し、レフトハンドのハーモニクスから両手タッピング、ミステリアスなスケールにポリリズムの迷宮まで自在に操るマエストロのアイデアは決して尽きることがありません。
同時に、弦は錆び付いても切れるまで交換せず、スウェーデンの自然とジャーマンシェパードを溺愛し、音楽産業の利益追求主義を嫌悪する独特の思想と哲学は Mattias の孤高を一層後押ししているのです。
「FREAK KITCHEN を立ち上げたのは少しだけコマーシャルな音楽を志したから。だけど適度にひねくれていて、様々な要素をミックスしながらね。」 とはいえ Mattias が情熱を注ぐスリーピースの調理場は、ただ難解で複雑な訳ではなく、むしろキャッチーでフックに満ち溢れた色とりどりのスペシャリテを提供して来ました。”Pop From Hell” とも評された、甘やかでインテリジェント、Mattias の “歌心” を最大限に引き出した “Freak Kitchen” はまさにバンドのマイルストーンだったと言えますね。
ジャズからボサノバ、アバンギャルド、ブログにインド音楽と手を替え品を替えエクレクティックに食材を捌き続けるバンドは、そうして最新作 “Confusion to the Enemy” でさらなる未踏の領域へと到達したように思えます。
「AC/DC は僕がいつも帰り着く場所なんだよ。Angus にただ夢中だし、Phil Rudd の熱狂的なファンでもあるんだ。」 近年、AC/DC のやり方に再びインスパイアされたことを明かす Mattias。その言葉を裏付けるかのように、作品には以前よりシンプルでスペースを活用した、ヴィンテージロックやブルースのエネルギッシュな息吹が渦巻いているのです。
例えば “Good Morning Little Schoolgirl” をイメージさせるブルースパワーにアンビエントな風を吹き込んだ “The Era of Anxiety”、スウェーデン語で歌われる “Så kan det gå när inte haspen är på” のシンプルな突進力とスライドギターのスキャット、さらにトラディショナルなブルースのクリシェをベースとしながら、愛車のボルボをパーカッションに EXTREME の “Cupid’s Dead” の要領で問答無用にリフアタックを繰り広げる “Auto” の音景は明らかに魅力的な新機軸でしょう。
もちろん、KINGS X を思わせるダークなオープナー “Morons” から胸を締め付ける雄大なバラード “By The Weeping Willow” まで、クラッシックでヴィンテージなサウンドを背景に Mattias らしいルナティックなギタープレイと甘く切ないメロディーのデコレーションを疎かにすることはありません。
圧巻はタイトルトラック “Confusion to the Enemy” でしょう。バンド史上トップ5に入ると語る楽曲は、アルバムに存在する光と闇を体現した究極なまでにダイナミックなプログレッシブ絵巻。MESHUGGAH を想起させる獰猛なポリリズムと空間を揺蕩うアンビエンス、さらにFKらしいイヤーキャンディーが交互に顔を覗かせる未曾有のサウンドスケープは、バンドが辿り着いた進化の証。
時という “敵” であり唯一の資産を失う前に成し遂げた記念碑的な快作は、そうして “We Will Not Stand Down” で緩やかにエモーショナルにその幕を閉じるのです。
今回弊誌では Mattias IA Eklundh に2度目のインタビューを行なうことが出来ました。「ゼロから何かを生み出す作業は、未だに究極の興奮を運んでくれるんだ。ただのルーティンの練習はそうではないよね。」 どうぞ!!

FREAK KITCHEN “CONFUSION TO THE ENEMY” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【URIAH HEEP : LIVING THE DREAM】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MICK BOX OF URIAH HEEP !!

“We Are a Family Away From Our Family So To Speak. I Have Always Said a Working Band Is a Happy Band And That Is Why We Smile a Lot. “

DISC REVIEW “LIVING THE DREAM”

凛々しきハードロックとプログの幻想が交差する、プロト-メタルの “桃源郷” URIAH HEEP。
波瀾万丈、紆余曲折を潜り抜け、半世紀の年輪を刻んだ今も未来への雄渾なる熱情を宿し続ける不死鳥は、ただ純粋にロックへの殉教に焦がれます。
悪魔の叫び David Byron、ハモンドの魔術師 Ken Hensley、そして Mr. ブルーノート Mick Box。三者三様の個性で織り上げるエピカルでシアトリカルなバンド初期のレガシーは、ヒストリーオブロックの一ページ、秘伝の黄金律として今も色褪せることはありません。
実際、Mick の野性味溢れるハードドライブと、Ken の翳りを帯びたプログレッシブなミステリーは David の艶やかな表現芸術を携えてこの上ないカタルシスを創出し、至高の “夢幻劇” は静の “July Morning” から動の “Easy Livin'” まで “対自核” のダイナミズムを深くその舞台に刻んだのです。
そしてもちろん、彼らの分厚くゴージャスなボーカルハーモニーは、しばしば比較を受ける DEEP PURPLE には存在しないものでしたね。
ただし、バンドのマスターマインド Mick Box は、その両翼を徐々に欠いた後も偉大なスピリットを穢すことは決してありませんでした。
アメリカの空を仰ぎ始めた John Lawton との冒険においても “Sympathy” では “哀れみの涙” をしめやかに流し、Peter Goalby を迎えたNWOBHM とのシンクロ二ティーでもそのキャッチーな魅力は些かも陰ることなく、そして何より Bernie Shaw との現行ラインナップが “Sea of Light” で見せたロマンチシズムは、バンド本来の魅力を存分に主張する新たなる決意の欠片だったのですから。
そして Mick は 長年バンドに貢献を続けた Lee Kerslake を健康問題で、Trevor Bolder に至っては逝去という悲しい理由で欠きながらも遂に更なるマイルストーンを築き上げました。
「まさに僕たちはロックに宿る夢を実現しているよね。そしてそれ故にアルバムタイトルになったんだ。」と語るように最新作 “Living the Dream” は、自らが辿った栄光と自由の軌跡。
オープナー “Grazed by Heaven” を聴けばリスナーは、来年結成50周年を迎えるバンドがこれほどまでにフレッシュでエネルギッシュな音楽を奏でることに驚愕を憶えるはずです。
Phil Lanzon が過去のレガシーを礼賛するハモンドの魔法を奏でれば、浮かび上がるはバンドの心臓、Mick の荒々しくも硬質なリフアタック。そうしてダイナモ Russell Gilbrook の卓越したパワーとテクニックは、Bernie を中心とする壮麗なる5ウェイハーモニーをも誘ってロックとプログの濃密なる交差点を作り上げていくのです。
一方で、クリアー&パーフェクトなプロダクションの妙は、今を生きるバンドの挑戦的でコンテンポラリーな姿をも浮き彫りにしていますね。
言ってみれば “Living the Dream” こそがブリティッシュハードの桃源郷なのかも知れません。タイトルトラックの QUEENにも匹敵する重層のコーラス、ZEP のフォークが花開く “Waters Flowin'”、 GENESIS への敬意を表明した “It’s All Been Said”、想像力を掻き立てる8分のプログエピック “Rocks in the Road” にメランコリックで壮大な “Dreams of Yesteryear”。枚挙に暇がありません。
そうして、キャッチーでフックに満ちた英国のバスストップにおいて、”Falling Under Your Spell” は特別な一曲となりました。
70年代から数えても、バンドにとって屈指のキラーチューン。もちろん、”Easy Livin'” を想起させるビッグなコーラス、ターボを積みこんだシャッフルビートに荒れ狂うオルガンサウンドはある意味ヴィンテージな “幻想への回帰” にも思えます。
しかし、「バンドのキャラクターを保つことはもちろん、同時に新鮮味を持ち込むことも重要だったんだ。」と語るように、サウンドのトータルバランスは群を抜いてモダンでダイナミック、不思議な程にフレッシュで現在を写す煌きのポートレートに思えるのです。テンポチェンジ、転調に静と動のコントラスト。アルバムを通してそうしたフックと緩急は常に新たな驚きと喜びをリスナーへと届けます。
きっとそれは巧みの熟練、そして “情熱” の成せる技なのかもしれませんね。常に音楽シーンの変化に目を光らせているという Mick の言葉は真実です。そして “悪魔と魔法使い” が出会う25回目の “魔の饗宴” は、新たなファンという更なる “罪なきいけにえ” を一層増やすに違いありません。
今回弊誌では、レジェンド Mick Box にインタビューを行うことが出来ました。「いつも言っているんだけど、よく働くバンドはハッピーなバンドだと思うんだ。僕たちもそうだし、だからこそたくさん笑えるんだよ。」どうぞ!!

URIAH HEEP “LIVING THE DREAM” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MAGNUM : LOST ON THE ROAD TO ETERNITY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BOB CATLEY OF MAGNUM !!

With “Lost On The Road To Eternity”, Magnum Have Reached The Landmark Of 20 Albums And 40 Years Career, But They Are Still Just Moving On !!

DISC REVIEW “LOST ON THE ROAD TO ETERNITY”

40年のキャリアが純化した彫琢。英国の伝統と幽玄を織り込んだ匠のシグニチャーサウンドは、記念すべき20枚目のアルバム “Lost on the Road to Eternity” でさらなる高みからリスナーの迷霧を晴らす尊き光明となるはずです。
よりワイドな音色を有する鍵盤の名手 Mark Stanway が加入し、初めて Rodney Matthews がアートワークを手がけた叙事詩 “Chase the Dragon” こそが全ての源流でした。生まれながらに感傷と情緒をその喉へと宿す唯一無二の歌聖 Bob Catley。そして Bob の歌唱を完璧なまでに駆使するギタリスト/コンポーザー Tony Clarkin。翼を得た MAGNUM のコア2人は、80年代を自在に羽ばたきました。
プログの知性とハードロックの鼓動を見事に融合し、フォークとファンタジーのエッセンスを織り込んだ浪漫の頂 “On A Storytellers Night”。Polydor へと移籍を果たしメインストリーム AOR への洗練された扉を開いた “Wings of Heaven”。「新しくエキサイティングな音楽を見つけていくことが、僕たちの存在を異なるものにしていたんだろうな。」と Bob が語る通り、難局の90年代に投下したブルージーな実験 “Rock Art” まで、バンドのクリエイティブな冒険は旋律の魔法を誘いながら濃密な景色を残していったのです。
Bob が「当時はメンバーの何人かが難しい時間を過ごしていたんだ。だから正しいムードを得るために常に戦っていなければならなかったんだよ。」と回顧するように、バンドは時代の潮流にも翻弄されながら95年に解散し、Bob, Tony, Al の HARD RAIN、さらに TEN のメンバーを起用した荘厳なる Bob のソロプロジェクトで雌伏の時を過ごします。
そうして2001年に Tony が THUNDER の Harry James をリクルートし MAGNUM をリフォームすると、彼らはその音の歴史を誇り高く掲げながらも、よりセールスやプレッシャーから開放されて、ただ偉大な作品を製作することのみへと没頭することになるのです。
バンド史上最長、62分のランニングタイムを誇る最新作 “Lost On The Road To Eternity” は各時代のアイコニックなマグナムサウンドを巧みに分配しながら、枯れない泉のごときメロディーの清流を至高のデザインへと注入し何度目かの最高到達点へと導かれています。
アルバムオープナー “Peaches and Cream” は、初期のオーガニックなクラッシックロックをハイクオリティーなプロダクションとアップリフティングなコーラスワークで現代に蘇らせたベテランシェフのスペシャリテ。ヒロイックな8分のエピック “Welcome To Cosmic Cabaret” にも言えますが、さらに深みを増したボーカルの陰影とトーンコントロールの妙は彼らが残り少ない名匠の一群であることを確かに証明していますね。
AVANTASIA で Bob と共演している Tobias Sammet がゲスト参加を果たしたタイトルトラック “Lost On The Road To Eternity” は、オーケストレーションやストリングスを大胆に使用して “On A Storytellers Night” からのロドニーマシューズサーガの続編を生き生きと描きます。
一方で、ファンタジーの世界から一転するポップな “Without Love” ももちろん彼らの得がたき魅力の一つでしょう。今年、JUDAS PRIEST が “Firepower” で、SAXON が “Thunderbolt” で初期のハードロックテイストをキャッチーにリヴァイブさせ英国の矜持を雄々しく取り戻していますが、”Without Love” を聴けば彼らもまたロックにフックを回帰させるガーディアンであることが伝わるはずです。続く “Tell Me What You’ve Got To Say” にも言えますが、バンドがかつて天空へと広げた翼はよりしなやかに、よりポップにリスナーの心を包みこむのです。
アルバムは “Chase the Dragon” のプログレッシブな世界観と知性を反映した “King of the World” でその幕を閉じました。Mark, Harry を失おうとも、依然として MAGNUM のロマンティックなファンタジーが悠久であることを示唆するエナジーに満ち溢れながら。
今回、弊誌では巨匠 Bob Catley にインタビューを行うことが出来ました。「バンドがリスナーの興味を惹く楽曲を作り続けられる限り、リスナーが聴きたいと想い続けてくれる限り僕たちは続けて行くんだよ。」どうぞ!!

MAGNUM “LOST ON THE ROAD TO ETERNITY” : 9.8/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【RIOT V : ARMOR OF LIGHT】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH NICK LEE OF RIOT V !!

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The Pride of NYC, Legend of Metal History, Riot V is Still Alive And Kickin’!! “Armor Of Light” Unites Their Early Hard Rock Sounds With The Magic Of Power Metal ! Shine on!

DISC REVIEW “ARMOR OF LIGHT”

不撓不屈の不沈獣、終天のメタルウォーリアー RIOT V が、ハードロックの血潮とパワーメタルの魔法を等しく装填した光の英雄譚 “Armor of Light” をリリースしました!!メタルの教科書 “Thundersteel” 30周年に刻む新たな闘志の刻印は、40年のキャリアで通過した嵐、凪、そして帰天まで全ての逆境を力に変える躍動と眩耀に満ちています。
ブラックビューティ、黒のレスポールを抱えて独特の艶美な憂いと異国の薫りを奏でた Mark Reale はまさにバンドの心臓でした。2012年、Mark の逝去を受けて RIOT の存続を信じたファンは決して多くはなかったはずです。しかし絶佳なる遺言 “Immortal Soul” “不滅の魂” に Mark が刻んだ通り、バンドが立ち止まることは決してありませんでした。
70年代に生を受け、英国ハードロックにアメリカンな風を吹き込んだ RIOT のターニングポイントは徹頭徹尾パワーメタルへと変貌を遂げた “Thundersteel” だったと言えます。そして類稀なる鋼鉄の “道標” リリース時のベーシスト Don Van Stavern と、89年に加入して以降、Mark と共に流麗なツインリードでクラシカルオリエンタルのカタルシスを提供し続けたトリッキーなギターの名手 Mike Frintz は英雄抜きでバンドの存続を決断します。
MOON TOOTH でモダンなヘヴィープログレッシブを追求する Nick Lee、Tony Moore をフレキシブルに進化させた Todd Michael Hall、VIRGIN STEEL のダイナモ Frank Gilchriest を加えて2014年に日本以外では RIOT V の名でリリースされた復活作 “Unleash the Fire” には確かに Mark の魂が深く宿った鎮魂の焔でした。そして完全に RIOT V 名義でリリースされた “Armor of Light” は亡きギタリストと共に歩む新たなる歴史の幕開けです。
IRON MAIDEN の “Trooper” をイメージさせるエナジーに満ちた勝利のギャロップ “Victory”、ボーカル/ギターハーモニーが正しい場所に正しく配置されたウルトラキャッチャーで由緒正しき哀愁の”リアリズム” “End of the World”、”Thundersteel” のスピードデーモンに真っ向から立ち向かう “Messiah”。オープニングの三連撃はまさにアザラシ無双。KORN の最新作等でエンジニアを務めた Chris “The Wizard” Collier を得て SABATON にも匹敵する現代的なメタルプロダクションを纏った RIOT V は、目まぐるしくもダイナミックなパワーメタルの大斧で作品の冒頭を切り裂きます。
一方で、「Mike と Donnie は Mark の遺産を称えながら素晴らしい仕事を果たしていると思うな。楽曲やリフ、メロディーの中に初期 RIOT のハードロックサウンドと、後期のパワーメタルサウンドをミックスしながらね。」と Nick が語るように、新生 RIOT V の肝は初期と後期の融合。右手にパワーメタルの斧を握りしめ、左手にハードロックのシールドを携えたジョニーの勇姿はさながら無敵の獣神。
奇しくも今年は JUDAS PRIEST の “Firepower”、SAXON の “Thunderbolt”、そして RIOT V の “Armor of Light” と長年メタルを支え続けたベテランが、初期のキャッチーなハードロックテイストをナチュラルに復刻し復活の狼煙を上げています。
実際、後期 RAINBOW を彷彿とさせるロマンティックな “Burn the Daylight”、THIN LIZZY の美学を受け継ぐ神秘的な “Set the World Alight”、初期の RIOT らしいブルーズな響きとホーンセクションが溶け合った “Caught in the Witches Eye” など作品にはオーガニックでユーティリティーな色彩が調和し魅惑のコントラストが渦巻いているのですから。
それにしても、威風堂々の新たなアンセム “Angel’s Thunder, Devil’s Reign” や “Heart of Lion” を聴けば、ツインリードとボーカルハーモニーに加えて、リズムを捻ったクールなキメフレーズの数々がバンドのトレードマークであることを改めて再確認できますね。
後期 RIOT のアイデンティティーともなった、フォークトラッド、クラシカル、ケルトの響きを堪能できるドラマティックな “San Antonio” や “Ready to Shine” も出色の出来。そうしてアルバムは瑞々しい “Thundersteel” の再創生で大円団を迎えます。
まさに珠玉の逸品。今回弊誌では、バンドのレガシーを受け継ぐギタリスト Nick Lee にインタビューを行うことが出来ました。意外にも Sargent House の作品が並ぶプレイリストにも注目です。「アザラシのパワーを感じるんだ!」弊誌2度目の登場。どうぞ!!

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RIOT V “ARMOR OF LIGHT” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【W.E.T. : EARTHRAGE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ROBERT SÄLL OF W.E.T. !!

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Melodic Hard Super-Stars, W.E.T. Has Just Released Definitely One Of The Best Record In The Genre “Earthrage” !! Are You Ready For “Burn” And “Watch Their Fire” ?

DISC REVIEW “EARTHRAGE”

WORK OF ART, ECLIPSE, TALISMAN。メロディックハードの幾星霜に足跡を刻んだ三雄を頭文字に戴くスーパーグループ W.E.T. が、捲土重来を期すジャンルの王政復古 “Earthrage” をリリースしました!!瑞々しいアリーナロックの雄々しき鼓動は、地平の年輪に印されしかつての栄光を確かに呼び覚まします。
WORK OF ART と ECLIPSE。2000年代以降、メロディックハード希望の星は明らかにこの両雄でした。片や洗練の極みを尽くす AOR、片や情熱と澄明のハードロック。
しかしインタビューで語ったように、スウェーデンの同じ学校から輩出された2つの綺羅星 “W” の象徴 Robert Säll と “E” の象徴 Erik Mårtensson は、至上のメロディーを宿すシンクロニティー、宿命の双子星だったのです。実際、2人の邂逅は、AOR とハードロックの清新なる渾融を導き、ジャンルのレジェンド Jeff Scott Soto の熱情を伴って唯一無二の W.E.T. カラーを抽出することとなりました。
故に Robert の 「最初の2枚では、僕と Erik がかなりコラボレートして楽曲を書いていたんだ。だけど、今回の作品のソングライティングに僕は全く関わらなかったんだよ。」という発言はある意味大きな驚きでした。
それは何より、”Earthrage” が疑いようもなくバンドの最高傑作となり得たのは、前作 “Rise Up” で顕著であった硬質なサウンド、メタルへの接近をリセットし、Robert の得意とする80年代初頭のオーガニックなメロディックロックを指標したからに他ならないと感じていたからです。
つまり、「”Earthrage” を制作する際に Erik と話し合ってあのオーガニックなスタイルを取り戻すべきだと感じた訳さ。」と語るように、もちろん Robert から方向性についてのサジェスチョンはあったにせよ、”Earthrage” における奇跡にも思える有機的な旋律の蒸留、ハーモニーの醸造、ダイナミズムの精錬には改めて責任を一手に負った Erik Mårtensson というコンポーザーの開花と成熟を感じざるを得ませんね。
予兆は充分にありました。ECLIPSE のみならず、NORDIC UNION, AMMUNITION 等、歴戦の猛者達との凌ぎ合いは、明らかに Erik の持つ作曲術の幅を押し広げ、効果的で印象に残るコーラスパートの建築法を実戦の中で磨き上げて行ったのですから。
アルバムオープナー、”Watch The Fire” はまさに Erik とバンドが到達した新たな高みの炎。冒頭に炸裂する生の質感を帯びた強固なリズムと、期待感に満ちたギターリフはまさしく ECLIPSE 人脈から Magnus Henriksson & Robban Bäck 参加の功名。凛として行軍するヴァースでは Jeff と Erik がボーカルを分け合い、さながら DEEP PUPLE の如き伝統のインテンスを見せつけます。
コーラスパートは巨大なフックを宿す獣。トップフォームの Jeff は、久方振りに発揮する本領で徹頭徹尾リスナーのシンガロングを誘うのです。そしてパズルのラストピースは、Desmond Child 譲りのアンセミックなチャントでした。
BOSTON の奥深き音響に Robert のキーボードが映える “Kings on Thunder Road”、MR. BIG の “Nothing But Love” を彷彿とさせるストリングスの魔法 “Elegantly Wasted” を経て辿り着く “Urgent” はアルバムを象徴する楽曲かも知れませんね。
同タイトルのヒットソングを持つ FOREIGNER の哀愁とメジャー感を、コンテンポラリーなサウンドと切れ味で現代へと昇華した楽曲は、あまりに扇情的。
畳み掛けるように SURVIVOR の理想と美学を胸いっぱいに吸い込んだ “Dangerous” で、リスナーの感情は須らく解放され絶対的なカタルシスへと到達するはずです。
そうして一部の隙も無駄もないメロディックハードの殿堂は、”決して終わらない、引き返せない” 夢の続き “The Never-Ending Retraceable Dream” でその幕を閉じました。楽曲のムードが Jeff にとって “引き返せない” 夢である JOURNEY を想起させるのは偶然でしょうか、意図的でしょうか?
今回弊誌では、WORK OF ART でも活躍する稀代のコンポーザー Robert Säll にインタビューを行うことが出来ました。想像以上に明け透けな発言は、しかしだからこそ興味深い取材となっているはずです。「メロディックハードロックがまたチャートの頂点に戻れるとは思えないね。そして僕はそれで構わないと思っているんだよ。」どうぞ!!

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W.E.T. “EARTRAGE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【BAND-MAID : WORLD DOMINATION】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH KANAMI OF BAND-MAID !!

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Welcome Home, Master & Princess. Band-Maid Are Back With Their Second Full Length Record “World Domination”. Literally, They Are Ready For World Domination!

DISC REVIEW “WORLD DOMINATION”

「お帰りなさいませ、ご主人様お嬢さま!」国内、海外で数多の “お給仕” を行い格段の進化を遂げた日本が誇る戦うメイド集団 BAND-MAID が、世界征服を目論む挑戦状 “WORLD DOMINATION” をリリースしました!!ヴァレンタインに届いた57分の峻烈なる宣告は、ワールドクラスの自信と決意に満ちています。
まさに有言実行。前回のインタビューで 「次の作品も、その次の作品も自分たちの作詞作曲を増やしていきたいと思っています!」 と語ったように、最新作 “WORLD DOMINATION” は3つの共作曲を含め全てがオリジナルの楽曲で占められています。そしてその事実はまさしく本物の証。5人を包むメイド服は貫禄さえ纏い、徹頭徹尾 BAND-MAID 色に染め上げられた純粋なハードロックチューンの数々は、瑞々しさと共に偉大な先人たちのスピリットや美学を濃密に継承しているのです。
アルバムオープナー “I can’t live without you.” の圧倒的な躍動感はもはや事件です。KANAMI の創造する不穏で重厚なリフワークはまさに世界征服の狼煙。斬れ味鋭いリズム隊が牽引するファスト&ソリッドな楽曲は、扇情力を増しながら SAIKI の激情を込めたコーラスで制御不能のカタルシスを浴びせます。
「終わらぬ夢を見たいんだ 終わらぬ夢を見たいんだ 音もなく 堕ちていく それでも まだ… I can’t live without you. 」 同時に MIKU の投げかける熱情の詩は、男女間の恋愛以上にバンドとファンの間に存在する熱い想いを代弁し、渦巻くロックのロマンの中で互いに不可欠な関係であることを宣言しているのでしょう。これ以上ないほどに素晴らしき闘いの幕開けです。
“DOMINATION” や “CLANG” を聴けば、バンドの一体感やテクニックの飛躍的な向上が伝わるはずです。楽曲の複雑なデザインを掻い潜り、小節ごとにパターンを変えながら豊かなバリエーションを生み出す AKANE と MISA のアレンジメントは卓越していて、勿論、ファストなフレーズからアウトラインのスケールまで自由自在の KANAMI を加えバンドの創造性はかつて無いほどに沸騰しています。
“One and only” や “Carry on living” は象徴的ですが、散りばめられたブレイクダウン、四つ打ち、エレクトロニカといった現代的なフックの数々もバンドの広がる可能性を示唆していますね。
何より、根幹にブルーズが存在する BAND-MAID のハードロック道は、WHITESNAKE や MR. BIG の持っていたマジックを濃厚に共有しています。同時に、和の精神、J-POP の豊かなメロディーをも引き継いだ5人の戦士は、先述のコンテンポラリーなメタルやラウドの方法論まで総括しながら唯一無二の “メイド・イン・ジャパン” を築き上げているのです。
アルバム後半、連続して収録されたバラードタイプの心揺さぶる2曲、”Daydreaming”, “anemone” はその証明なのではないでしょうか。相川七瀬、B’z、JUDY AND MARY から延々と連なるジャパニーズロックの血脈はフックに満ちたバラードなしでは語れません。モダンなアレンジとセンス、過去と未来のバランス感覚、そして空間の魔法を駆使した多幸感まで誘って聴かせる “BAND-MAID のハードロック” はここに極まっているのかも知れませんね。
今回弊誌では、KANAMI さんにインタビューを行うことが出来ました。”BAND-MAID が世界征服に向け、先に進む1枚”、ハードロックの Up to Date。どうぞ!!

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BAND-MAID “WORLD DOMINATION” : 9.8/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【VON HERTZEN BROTHERS : WAR IS OVER】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MIKKO OF VON HERTZEN BROTHERS !!

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Finland’s Prog Rocking Brothers, Von Hertzen Brothers Are Firmly Back In Dynamic Prog Territory With Their Masterpiece “War is Over” !!

DISC REVIEW “WAR IS OVER”

フィンランドミュージックシーンにおける至高のファミリービジネス、VON HERTZEN BROTHERS。母国、そして UK では押しも押されぬビッグバンドのロックモンスターがリリースした最新作 “War is Over” は、更なる大望を抱き変化を志した新たなチャプターの幕開けです。
Kie, Mikko, Jonne の三兄弟を中心とする VON HERTZEN BROTHERS の音楽は、多様で豊潤なカレイドスコープです。ピュアなクラッシックロックからプログ、ポップ、オルタナティブにワールドミュージックまでナチュラルに横断する神秘のコンポジションは、パワフルかつイマジネーティブなジャンルの交差点として異彩を放っていますね。
特筆すべきは、そのソフィスティケートされた思慮深い作曲術と同次元で繰り出されるワイルドでエネルギッシュなロックマインドでしょう。
柔と剛を自由自在に操舵する血の伝統と絆は、ウルトラキャッチーなメロディーライン、耳を捉えて離さない艶やかなフック、そして洞察力に富んだ深遠なるリリックを纏ってリスナーにモノリシックの意味を伝えるのです。
とは言え、短いリリースインターバルに反して局所的な成功しか収められない焦りで、バンドは疲れ切っていたと Mikko は語ります。もしかすると、ロックサイドに特化した前作 “New Day Rising” でバンドは自由を失い、少し方向性を限定しすぎたのかも知れません。
つまり、KINGSTON WALL のレジェンドで、VHB の2ndアルバムでもプレイしていたドラマー Sami Kuoppamäki が復帰を果たし、HIM の Janne ‘Burton’ Puurtinen をキーボードに起用して制作された ‘War is Over” は、メンバーのみならずレコード会社やマネージメントをも変更し、”燃料切れ” だったバンドが 「前に進み、上昇するため」 の再生の作品なのです。
勿論、バンドが大きな賞賛を捧げる John Lennon へのリスペクトを表明するタイトルトラック “War is Over” は12分のエピックにしてまさにリヴァイブの象徴。アトモスフェリックな電子音に導かれ躍動を始める楽曲は、瑞々しさとダイナミズムに満ちています。
DIZZY MIZZ LIZZY のバランス感覚と KINGSTON WALL のサイケデリカを内包した素晴らしき平和への祈りは、絶え間なく変動するテンポやメロディーで自由の喜びを表現し、コンテンポラリーな音楽が失いつつあるフレキシブルなエナジーを濃密に宿しているのです。
さらに楽曲終盤のファンファーレでは、100本のギターを重ねフィンランドの自由と独立100周年を祝うセレブレーションの意味まで持たせているのですからその豊富なアイデアとロマンチシズムには驚愕の一言ですね。
実際、この壮大なオープナーを皮切りに、アルバムはよりプログレッシブで多様に深化したバンドの “現在” を克明に投影して行きます。
日本やインドのオリエンタルなスケールを導入した BLACK SABBATH と Chick Corea の神々しき融解 “To The End Of The World”、Burton の荘厳なシンセサイザーが映える新天地 “Jerusalem” を経て辿り着く “Frozen Butterflies” はアルバムのハイライトだと言えるでしょう。
根本的にはポップロックの美しきワルツ。しかし幼生が蛹を経て美麗な蝶になるように、プログとポップ、そしてロックの姿を宿命の如く宿した楽曲はまさにバンドの “現在の” クリエイティビティーを象徴しています。
クリーントーンのミニマルな反復リフ、ファストなリズムとシンコペーションはリスナーへ複雑な変拍子を伴うマスロックのような印象すら与え、同時にヘルシンキの大空に羽搏き舞う情熱と冬の凍てつく生命を見事に描写した絶佳のサウンドスケープを保持する楽曲は、バンドのスケールが一次元や二次元の狭い檻では収まらない確固たる証明なのかも知れませんね。
アルバムは作品で最もクラッシックな VHB ソング “Beyond the Storm” でその幕を閉じます。”War is Over” のタイトルが回帰する完璧なまでにスピリチュアルな楽曲は、バンドの祈りと野心をしたためてアルバムのリピートを誘い “円” “サークル” の形態へと導来ました。それは、西洋と東洋の哲学、音楽を等しく学んだ VHB故の絶妙なるエンディングだと言えるでしょう。
恐らくは、彼らの理想とする “エピックロック” に最も接近した傑作。今回弊誌ではボーカルとギターを担当する Mikko von Hertzen にインタビューを行うことが出来ました!本誌二度目の登場。「混乱し、多くの苦難に直面している世界で、平和と思いやりを見ようとすることがどれほど重要かという考えを人々に思い起こさせたいと思ったんだよ。」 どうぞ!!

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VON HERTZEN BROTHERS “WAR IS OVER” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【LOVEBITES : AWAKENING FROM ABYSS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH midori OF LOVEBITES !!

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Female Power Metal Band From Japan,  LOVEBITES Make Their Mark On The Heavy Metal Scene, With Bigger, Louder Debut Full-length “Awakening From Abyss”!! Are You Ready For “Muse Metal”? 

DISC REVIEW “AWAKENING FROM ABYSS”

荒廃した”世界”に舞い降りた凛々しくも美しき女神たち。ミューズメタルの使者 LOVEBITES が下す怒りと希望の鉄槌 “Awakening From Abyss” は、文字通り世界を深淵から “覚醒” へと導きます!
欧州、米国、そして日本の香りが入り交じるオーセンティックかつダイナミックなメタルを、卓越した技術と豊潤なるエモーションで具現化したデビューEP “The Lovebites EP” から約6ヵ月。早くも届けられたバンド初のフルレングス “Awakening From Abyss” は、ギター/キーボード、さらに作曲でもバンドを支える mi-ya をオフィシャルメンバーとして加え、楽曲の幅、サウンド、メロディー共に全てがスケールアップを果たしたまさに “ネクストレベル” の黙示録です。
女神の “ネクストレベル” が世界を見据えていることは、その制作環境からも充分に伝わります。NIGHTWISH, CHILDREN OF BODOM で知られる Mikko KarmilaとMika Jussila のフィンランドチームがサウンドを司り、アートワークを HELLOWEEN の “Sweet Seductions” などを手がけたスペインチームが制作。さらに全てのリリックを英語詞に拘り、ヨーロッパ、北米、メキシコなど海外でのリリース及び、ロンドンでの初ライブに至る道程は既に世界基準と呼ぶに相応しいスケールです。
荘厳なるストリングスのタペストリー、序曲 “The Awakening” がバンドの強固なアンサンブルを導くと、アルバムは IRON MAIDEN を思わせるオリエンタルなテーマが印象的な “The Hammers of Wrath” で幕を開けます。
TESTAMENT の鋭角で迫り来るファストでシャープなリフワーク、メロディックヒステリックな本能のボーカル、タイトでラウドなリズムの息吹は、バンドがリアルなエクストリーム領域に在ることの確かなる証です。
リードトラック “Shadowmaker” を聴けば、必ずやメタルファンの血は湧き肉も躍るはずです。より複雑さと繊細さ、そしてダイナミズムを増した素晴らしき新たなバンドのアンセムは、あまりに扇情的かつドラマティック。細かなギミックを織り込んだ捻りの効いたプログレッシブなリフや、シンフォニックなシンセワーク、中盤のテクニカルなツインリードは、明らかに ANGRA の遺伝子を宿しつつリスナーにエキサイトメントを運びます。
R&B やブルーズの表情を垣間見せるスリージーな “Warning Shot”, “Scream For Me”、さらにストリングスやキーボードを効果的に使用しバラード的な感覚を内包させた “Liar” “Inspire” といった楽曲たちはバンドの持つ多様性、引き出しの多さをまざまざと見せつけています。元々、R&B やソウルを主戦場としていたボーカル asami の黒く眩いエモーションが、メタルの持つ重厚なアグレッションと融合し、想像以上の化学反応をもたらしているとも言えますね。
そして LIGHT BRINGER の Mao が作曲を担当した “Edge of the World” はバンドの未来を象徴する楽曲かも知れません。アコースティックギターとピアノの麗しき調べで幕を開ける世界の果ての物語は、さながら SYMPHONY X の如く、耽美な響きとプログレッシブな展開美でリスナーのイマジネーションを掻き立てます。切なく、甘く、そして激情をも孕んだ魅力的なメロディーの洪水は、リスナーを叙情の海へと沈降させるに充分のメランコリーを湛えているのです。
midori はインタビューで 「残念ながら、LOVEBITES も見た目のせいで “聴かない” “メタルじゃない” という意見があることは知っています。ですが喜ばしいことに、それ以上に、私たちの音楽を正当に評価してくれる人が増えてきていることも知っています。私たちには、”最高のヘヴィ・メタルをやる” という強い信念があるのです。」 と語ってくれました。実際、その想いに一点の曇もないことは、”Awakening From Abyss” のミューズメタルを聴けば伝わるはずです。
アルバムは、文字通りバンド全員の “勇敢な心” を乗せた “Bravehearted” で、闘い続けることを誓いながら勇壮に幕を閉じました。
今回弊誌では、バンドのギタリスト midori さんにインタビューを行うことが出来ました!PERIPHERY, ANIMALS AS LEADERS, そして abstracts という名前まで飛び出す、弊誌読者の皆さまにも非常に共感、シンクロする内容だと思います。どうぞ!!

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LOVEBITES “AWAKENING FROM ABYSS” : 9.6/10

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