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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【TERRA ODIUM : NE PLUS ULTRA】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH Øyvind Hægeland OF TERRA ODIUM !!

“We Didn’t Want To Sound Like The Newer Progressive Bands, Where The Guitar Is More Percussive, And The Keyboard Is Dominating. Nothing Wrong With That, We Just Wanted To Sound Different Than Those Bands.”

DISC REVIEW “NE PLUS ULTRA”

「SPIRAL ARCHITECT は死んでいないよ。新曲もたくさんあるし、全員が次のアルバムを作りたいと思っているんだ。次のアルバムを作るために必要な時間と作業量は恐ろしいほどに大量だけど、いつか何とかして実現したいと思っているからね。せっかくの音楽的なアイデアが日の目を見ないのはもったいないしね」
螺旋の建築。その名に違わぬ SPIRAL ARCHITECT のメタリックな捻れは、テクニックの狂気とアンバランスな歌唱を伴って、唯一のアルバムが今なお語り継がれる伝説となりました。そんな本来あるべきプログ・メタルの喜悦と陶酔を求めるならば、TERRA ODIUM の血統は完璧です。
「TERRA ODIUM ではメンバー全員がそれぞれの個性を発揮できるようにしたかったから、Steve は完璧にフィットしていたよ。もちろん、私は彼が DEATH でプレイしていた頃からのファンで、DEATH は私たちにとって重要なバンドだからね。昔からフレットレスの音が好きで、彼の音と演奏で TERRA ODIUM を他のバンドともっと差別化できると思ったんだ」
ノルウェーの SPIRAL ARCHITECT の元メンバー、ボーカル/ギターの Øyvind Hægeland とドラマーの Asgeir Mickelson。2人が率いるこの新組織は、名前こそ違えど、彼らがかつて創造した幾何学建築の精神を素晴らしく受け継いでいます。MANITOU の達人、ギタリストの Bollie Fredriksen、AMORPHIS のような英雄にオーケストレーションを施してきた Jens Bogren の申し子 Jon Phipps、そして DEATH や TESTAMENT で知られるメタル・アイコン、フレットレス・モンスター Steve Di Giorgio によって完成された TERRA ODIUM は、プログ・メタル愛好家にとって、音を聞く前から食欲をそそられような逸材に違いありません。
「私たちは、新しいプログレッシブ・バンドのように、ギターがよりパーカッシブで、キーボードが支配的なサウンドにはしたくはなかったんだよ。もちろんそれは悪いことではないんだけど、私たちはそういったバンドとは違ったサウンドにしたかったんだ」
エレクトロニカやシンセサウンドの大胆な導入、0000の麻薬はアトモスフェリックで中毒性の高いモダンなプログ・メタル建築を乱立させました。その方法論はシーンに活況をもたらすとともに、定型化や飽和を要因とする終わりの未来も同時に映し出したのです。ただし、プログメタル世界は、車輪の再発明から動き出す鼓動に再び熱を帯びつつあります。
「私たちが曲を作るときは、いつもギターのリフから始まるんだ」
TERRA ODIUM は、永遠に続く誇示よりもドラマ性を優先し、偏執的にディテールにこだわりながらも簡潔で記憶に残る無数のメロディーに彩られた、うっとりするようなギター・サーガを展開していきます。”これ以上はない” 究極のプログ・メタル “Ne Plus Ultra” は、DEATH, CYNIC, VOIVOD, WATCHTOWER, PSYCHOTIC WALTZ といった天才のエキセントリックで探求心を胸に、さらに数トンの音の筋肉、真実のオーケストレーション、壮大なドゥームの威厳をドーピングした異端のタワーマンションとしてその全貌をあらわしたのです。
7分間のヒプノティックな時間の中で、膨大なリフを惜しげもなくドゥームとスラッシュに捧げる “Crawling”、死を招くグルーヴとオーケストラの装飾がうねりの波にそびえ立つ “The Road Not Taken”。氷のように妖しく黒い “Winter” では、目まぐるしいプログレッシブでテックな迷宮でフレットレスの狂気を見せつけます。
中でも、CANDLEMASS や KING DIAMOND の不気味なシアトリカルに浸りながらも、プログレッシブの名手としてその矜持を見せつける “The Thron” は、驚異的なメタルの嗚咽であると同時に、非常に巧妙で変態的な12分の不均衡として TERRA ODIUM の本懐を遂げた楽曲にも思えます。これ以上のものがあるでしょうか?
今回弊誌では、Øyvind Hægeland にインタビューを行うことができました。「音楽業界には、ビッグなライブや当時のバンドが持っていたクールなイメージ、そしてもちろん女の子やお金など、私を惹きつけるものがたくさんあったからね。プログレッシブ/テクニカル・メタルはほとんど、あるいはまったくお金にならないし、ほとんどの女の子はこういった音楽が好きではないという真理に気づくには遅すぎたね!(笑)」 どうぞ!!

TERRA ODIUM “NE PLUS ULTRA” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【WARDRUNA : KVITRAVN】


COVER STORY : WARDRUNA “KVITRAVN”

“Wardruna’s Music Is a Way Of Connecting To Those Energies In The Absence Of Nature. It Becomes a Bridge. It Becomes a Way Of Getting In Touch With These Things I Think a Lot Of People In Modern Society Are Feeling a Loss Of, Or a Longing For. Some Form Of Connection To Our Surroundings.”

THE RISE OF NORDIC FOLK

古き良き道を守り続けてきたノルウェーの WARDRUNA は、遠い過去や文化の大仰で滑稽な遺物だと思われるかもしれません。しかし、彼らの音楽が、実際は今日の自分たちを理解する鍵となるのかもしれません。実際、スカンジナビアに行けば、北欧のフォークミュージックが鉄器時代のヨーロッパの公海にバイキングが最後に乗り込んで以来、最大のブームを記録しているのですから。
WARDRUNA は明らかにそのムーブメントの先頭に立っています。彼らのリリシズムの根底には神話や伝説があり、その壮大で瞑想的なサウンドは “Game of Thrones” の中でも特に暴風のエピソードにおいて違和感を感じることはないはずです。彼らのニッチな部分は、毛むくじゃらなジェイソン・モモアと、あごを掻きむしるメタルヘッドの間へ進入しているのです。
WARDRUNA という名前は「ルーンの守護者」と訳され、ニッケルハルパ、ヤギの角、骨笛、西暦500年のドイツ製竪琴のレプリカを使って音楽を奏でます。フロントマンの Einar Selvik は、長い格子状の顎ひげを生やし、ヴァイキング時代のシャープな髪型を整え、凍てつくようなフィヨルドの風景の中で、裸足で自然への頌歌を厳粛に歌い上げるのです。驚くべきことに、”Lyfjaberg (Healing-mountain)” のビデオは1000万回の再生回数を突破しています。
Einar は自らの音楽について「シリアスである必要はないし、深遠である必要もない」と語ります。明るい目をしていて、カリスマ性があり、誠実な人物。シニカルな時代においても、彼の魔法に影響される余地は十分にあるでしょう。彼は、時代や世界を超えて語りかけるような音色、モード、ドラムパターンを採用しています。
「ある意味では、原始の音は俺たちのDNAの中にあると思うし、世界的なものだ。だからどこの国の人であっても、つながることができると思う」

セカンドアルバム “Yggdrasil” がリリースされたあと、WARDRUNA の音楽はヒストリーチャンネルのテレビ番組 “Vikings” で大きく取り上げられ話題となりました。この番組のプロデューサーは最終的に Einar に直接連絡を取り、”Vikings” の シーズン2のサウンドトラックで作曲家の Trevor Morris (The Borgias) とのコラボレーションを依頼したのです。
「音楽業界で成功するには、まず良い音楽を作ること、そして次に聞かれることが重要なんだ。」
少なくとも、WARDRUNA はプログレッシブな音楽を作っています。過去を描き、現在を表現し、未来の予想図を提示する。博物館のケースから古い楽器を取り出しながら。実際、太古の楽器が奏でる刺激的な音に耳を傾けると、多くの海を越える大航海のイメージが浮かんできます。”Assassin’s Creed” のメーカーも確かにそう考えたようで、人気ビデオゲームの最新作 “Valhalla” の音楽に Einar を抜擢しています。新進気鋭の AURORA との共演も実現。
明らかにステレオタイプなポップスターというよりも、頑固な学者タイプである Einar は、北欧の民俗学を掘り下げ、雄鹿、烏、狼への頌歌や、癒しの “薬の歌” と呼んでいる音楽を披露します。新しい歌を研究する際には考古学者、歴史家、言語学者に依頼し、オックスフォードからデンバーまで大学で自らの仕事について講義まで行ってきました。
「自然との関係、お互いとの関係、そして自分自身よりも大きな何かとの関係において、古い文化を利用すること。それが昔話や昔の音を掘り起こす理由だよ。俺は、過去から学ぶ価値があると感じるものに声を与えているだけだからな」
ではなぜ、Einar は古代北欧の神話に惹かれたのでしょうか?
「子供の頃に古代北欧の物語や歴史に心を奪われたんだ。白と黒、善と悪といった一神教的な世界観とはとても違っていたから。それははるかに複雑なものだったよ。10代の頃には、古い伝統の秘教的でスピリチュアルな側面への興味がさらに深まりまったね。でも、それらを音楽的に解釈してくれる人はいなかった。だから俺はそれを試してみたいと思ったんだ。個人的にもっと意味のあることをしたいと思っていたんだよ。古い詩をただ暗唱するだけではなく、その知識を統合することが重要なんだ。」


Einar にとってルーンはどういう意味を持つのでしょうか?
「”ルーン “という言葉には様々な意味がある。書かれた文字の表音系だけじゃなく、秘密、知識、技術、秘教的な知恵、魔法の歌を意味することもある。フィンランドの民間療法の伝統では、魔法の歌は常にルーンと呼ばれているんだ。ルーンの秘密を知ることは、人が持つことのできる最高の知識と考えられていた。だからこそ、俺はとても尊敬の念を持ってアプローチしているんだよ。
ノルウェー語、アイスランド語、アングロサクソン語の3つの異なるルーンの詩がある。それらはことわざやなぞなぞのようなもので、教育するために作られているんだ。その詩を音楽的に表現するにあたって、俺の創造的なコンセプトは、独自の前提で解釈することだったんだ。
つまり、白樺の木を象徴するBのルーンであれば、森に出て白樺の木で遊ぶ。水をテーマにしているのであれば、川の真ん中に立ってボーカルを全部やりながら、水の音を使う。そういった場所を捉えて、それを音楽に反映させていくことだね。」
Einar は自らを「マルチ・ディシプリナリアン」と表現しています。ワークショップで教えたり、レクチャーを行ったり。そして、歴史的に言えば、「確固たる地に立つ」ように努力しています。創造する際、彼は根のない木に登ることに抵抗があるのです。
同時に彼は、教養と素朴さのバランスを求めています。ただ古代の管楽器の起源を理解するだけで、子供のように初めて演奏することの驚きと喜び(そして失敗)を失って何の意味があるのでしょうか?
もちろん、WARDRUNA の音楽は北欧が誇るブラックメタルにも影響を受けています。あの GORGOROTH の元ドラマーという経歴は伊達ではありません。
「スカンジナビアの音楽は、この場所の環境に非常に影響を受けている。非常に重苦しく、メランコリックでダークだけど、俺たちはそこに美しさを見出しているんだ。だから伝統音楽とブラックメタルにも当然通じる所はある。初期のブラックメタルは伝統的な調性に非常に影響を受けているし、もちろんそのテーマは神話やフォークロアなんだからな」

とはいえ、Einar にとってメタルバンドは “仕事” でしかなかったようですが。
「俺はメタルのバックグラウンドを持っているけど、GORGOROTH のようなバンドはただの仕事だったんだ。それが非常にパワフルな芸術表現であることを除けば、自分の創造的な声を込めるようなものではなかったからな。GORGOROTH で Kristian と知り合った時、二人とも異教徒で、自分たちのルーツや歴史に非常に興味を持っているという共通点を見つけたんだ。だから WARDRUNA を始めたとき、彼を入れるのは自然なことだったよ。最初の頃から、彼は俺のアイデアを跳ね返してくれた男だった。一緒にコンセプトを作っていったんだ。メタルの世界でこれほど多くの人が WARDRUNA に興味を持っているのを見て、ちょっと驚いたよ。反響は圧倒的だった。」
ただし、このネオフォークの信者たちはロックダウンの間、教会を燃やすかわりに、森の中で小さなミードを作ったり、歴史を研究していたのですが。ブラックメタルの現在地については、どう思っているのでしょうか?
「俺は個人的な思いからこのプロジェクトをやっている。それ以外はすべてオマケさ。食品にしても音楽にしても、何かが工業化された途端に栄養がなくなってしまう。音楽に栄養を求める人が増えていると思う。以前のブラックメタルは音楽の背後にある意図を重視していて、テクニックや音質は二の次だった。でも、今ではテクニックが重視されていて、どれだけ良い音を出せるかが重要になってきているよね。だけどね、音楽には、意味を運ぶ全くユニークな能力がある。音の力、言葉の力、そして自分の意志と声の力は、北方の秘教的な伝統の中で重要な要素なんだよ。」
ENSLAVED の Ivar Bjørnson とのコラボレーションはまさにメタルとノルディックフォークの融合でした。
「最初のコラボレーション SKUGGSJA の依頼を受けた時、その前提は『Enslaved meets Wardruna』ということになっていたんだ。もちろん、それは非常に魅力的でクールなものだった。それから数年後に別の作品 (Hugsja) を一緒に書く機会があったんだ。 もっとアコースティックなギターとドラムを使って、より自然な風景に持っていきたいと思ったんだ。今までとは違うセットアップでね。完全な WARDRUNA や ENSLAVED ではなく、その中間のようなものさ。でも WARDRUNA よりギターが主体だ。」

WARDRUNA のニューアルバム “Kvitravn” とは、「白いカラス」を意味し、世界と世界の架け橋の象徴としてそのカラスを使用しています。アルビノの精霊動物は、多くの文化圏の神話に登場します。北欧の伝統では、カラスのフーギンとムニンはオーディンに属し、思考と記憶を象徴しています。
アルバムのストリーミングイベントでは、Einar がスカルド詩に基づいた新曲 “Munin” のソロ・ストリップバック・バージョンを披露しました。
「誰の顔も見えないがパフォーマンスをする。スカルドは北欧の吟遊詩人。彼らは大きな力を持っていた。彼らは物事に名前を付けることができ、そうすることで物事をコントロールすることができたんだ。スカルドは人々の生きた記憶を持っていた。彼らは過去と現在の間の 媒介者としての役割を果たした。オーディンは詩の神だよ」
Einar “Kvitravn” Selvik。自らの呼称の一部を冠した作品は、これまでよりもパーソナルなものにも思えます。
「必ずしも個人的なものだとは言わないよ。アルバムには自分のアーティスト名のバリエーションが入っているけど、自分の名前を冠したアルバムではないからね。というよりも、最初にその名前を名乗ろうと思ったきっかけと同じものに飛び込んでいると言ってもいいだろうな。
ある種のことをより深く掘り下げているとは思うよ。それはおそらく、様々な伝統や自然との関係、そして自分自身をどのように定義しているのかといった人間の領域に焦点を当てているのだろう。
多くの曲は俺の視点から見た曲なんだ。そういう意味では、もちろん少し親近感がある。だからこそ、より個人的なアルバムとして受け止められるのかもしれないけどね。」

動物は Einar にとっていつもインスピレーションをもたらしてくれる源泉です。
「もちろん動物は、トナカイであれ熊であれヘラジカであれオオカミであれ、カラスやヘビであれ、インスピレーションを与えてくれる。このアルバムにはオオカミも登場しているしね。
その曲は、動物と人間の関係をロマンチックにしようとしているわけではないんだけど、俺らが輪になっていた頃に戻ろうとしているんだ。ここノルウェーでは基本的にすべてのオオカミを殺してしまった。多くの人が彼らを殺したいと思っていたからね。
俺ははこの問題を理解している。争いの全体像も理解している。双方の立場を理解しているんだ。自然界で起きている全ての問題は、生態系の一部を取り除けばオオカミだけではなく、自然全体に影響を与えることになる。全体のサイクルが不均衡になるんだよ。俺たちは自然の保護者であり、管理者でなければならないからね。
オオカミを殺すことは有効な解決策ではない。クマやオオカミ、そしてこれらの肉食動物と一緒に暮らすことには、犠牲が伴うことを理解しなければならないんだ。犠牲があるとすれば、それには価値がある。真の価値がね。」
“Kvitravn” で Einar は、記憶の声のように、また21世紀の私たちの良心のように、音の葉に舞い降ります。重要なのは、これが単に歴史の再演ではない点でしょう。彼にとっては、「自分のルーツを知ることで方向性が見えてくる」のです。
「自然が語りかけてきても、俺たちはその声に耳を傾けなくなった。このアルバムは、自然と再接続するための心の叫びなんだよね。それはロマンチックな考えではないよ。古代では、人類は自然と戦い、自然をコントロールしようとしていたんだから。今では、自然からほとんど完全に離れてしまった。2020年の春、一般の人たちが緘黙していたことに改めて気づかされたね」

WARDRUNA の音楽は、”ペイガニズム” が何を意味するのか、それが過去の意味とどのように異なるのか、という私たちのロマンチックな概念と、自然の不在に対する私たちの “憂鬱” との間の “摩擦”(Einar が繰り返し使う言葉)を探求しているのです。
Einar は野外で歌を「狩り」に出かけます。彼は音楽的に “文盲” であると自称し、直感的に曲を作ります。そしてその直感をドラマチックな自然の空間で演奏するのです。Einar は WARDRUNA の音楽を「自然の不在の中で、自然のエネルギーに接続する方法」だと考えています。
「架け橋になるよ。現代社会では多くの人が自然を失い、憧れを感じていると思う。環境とのつながりのようなものをね」
実際、WARDRUNA の最新作には、ノルウェーの森の香りが漂っています。このアイデアはバンドのヴォーカリストでアレンジャー Lindy-Fay Hella が考え出したもの。彼らはスカンジナビア北部の古代サーミの文化に触発された深い政治的な源を持っていて、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドが彼らの土地の所有権を主張したことにより歴史的に嫌われてきた先住民族です。彼女自身、サーミの血統とリンクしています。
「サーミの人々が不当に扱われてきたことは、アメリカ先住民の歴史と似ているのよ。私の曾祖母がどこから来たのか、自分が誰であるのかを隠さなければならなかったという事実に、私は怒っているの。だから、私の歌い方に彼女の一部が含まれているのは正しい感じがするわ。」
都市景観の中で聴く WARDRUNA も不思議な感覚をもたらしますが、やはり自然の中ではより一層引き立ちます。時代を超越した音楽かもしれませんが、自然環境に根ざしていることが相乗効果を生み出すのでしょう。潜在的に Einar 頭の中では “2+2が5になる” のかも知れませんね。

WARDRUNA はドローン、重なり合う周波数、捻くれたビートなど、何世紀にも、何千年にもわたって儀式に使われてきた音楽のテクニックを使っています。それこそ、石器時代のシャーマンから中世の教会音楽まで。しかし、その目的は何でしょうか? Einar は自らをを説教者とは見なしたくないが、核心的な信念があると語ります。
「俺は、自然をもっとアニミズム的に捉えれば、全員のためになると強く信じている。俺たちは自然の神聖さを取り除いたとたんに、種としての道を踏み外してしまったと思うよ。それは必ずしもスピリチュアルなことではないんだ。というよりもアティテュードだよ。霊的な人であろうと宗教的な人であろうと、そうでない人であろうと、当てはまるからね。俺たちが支配者ではなく、自然を神聖なもの、重要なもの、俺たちの一部であると考える姿勢が大事だよね」
基本的に、アニミズムとは、私たちを取り巻く自然環境の生命力と固有の原動力を探求すること。では彼の宗教観はどのようなものなのでしょうか?
「まあ、どんな自然をベースにした宗教にも、もちろんその土地に応じた多様性はあるだろうけど、俺たちの伝統はこの土地で作られ、形作られている。俺たちの川、俺たちの自然、俺たちの森によってね。君たちの伝統もそうだろう。だから、結局概念は全く同じなんだ。俺たちは間違いなく、様々な意味で同じ伝統を受け継いでいると思っている。ラッピング、飾り付けが少し異なるだけでね」
古代の楽器を蘇らせること。それもアニミズムの一環です。
「自然楽器は、これまで扱ってきた他の種類の楽器とは違うんだ。ある意味では生きていて、自分の意志を持っている。昔の方法でフレームドラムを作っていた時は、動物の皮を剥いで、なめして、皮を削っていたんだからね。
それはとても単調で時間のかかる作業だけど、ゆっくりと新しい形で動物を生き返らせていくのはとても美しいことだよ。このプロセスを経て、自分の楽器をより個人的でアニミズム的に見ることができるようになったんだ。」

例えば地理的にも、歴史的にもヴァイキング文化の中心の一つスコットランドで撮影された映画 “ヴァルハラ ライジング”。この映画の視覚的な一面だけを捉えて、大衆向けのハリウッド作品と論じることは簡単です。一方で、原始的な力がより “先進的” なものに立ち向かう時の寓話、文化的帝国主義に対するアンチテーゼとして受け止めることも可能でしょう。
同様の視点で、メタルのリスナーは WARDRUNA を受け止めているはずです。そこに大仰な滑稽さと、深遠な知性が感じられるから。そして、国境のないメタルが原始の力や太古の歴史に惹かれる理由もそこにあるのかもしれませんね。
「俺は東洋や他の多くの場所に行って、俺たち自身の伝統音楽に非常によく似ているものを見つけることができた。それこそが、本当に古くて原始的な音楽表現がより深いレベルで俺たちに語りかけてくる理由の一つだと思うんだ。言語の壁や文化の壁を超えているように見えるし、リスナーが非常に多様であるという事実。それに、年齢や、リスナーが聴く他の種類の音楽の観点からも。国境を越えているんだよ」
Einar は、WARDRUNAの音楽はヴァイキング時代(西暦780年から1070年まで)と結びついているだけでなく、さらに遡って1万年前まで体験できると強調しています。当時、イギリス諸島はドガーランドと呼ばれる大陸によってヨーロッパ本土とつながっており、初期の中石器時代の狩猟採集民は、この場所を北上して移動してきたこともその理由の一つでしょう。
約8,200年前に津波がドガーランドを一掃したと長い間考えられていました。これは、ノルウェーの海岸沖で起きた「ストレッガ」と呼ばれる海底地滑りによって引き起こされました。最近の研究では、このラグナロクのような出来事は、土地全体とその人々を一掃するものではなかったかもしれないことが示唆されています。それどころか、その後何千年にもわたって気候変動と海面上昇がゆっくりと進行し、残りの群島を水没させてしまったのです。


つまり、Einar が自然に耳を傾けるとき、彼は自然がどのように変化しているかを追跡します。現在の気候変動の緊急事態は、”Kvitravn” のメッセージから切り離すことができません。アルバムのクライマックス ”Andvarljod’(’Song Of The Spirit-Weavers’) ” は、北欧神話に登場する北欧人が運命を司ります。WARDRUNA はこの曲の短縮されたスカルディックなパフォーマンスを冬至の日にリリースしました。占星術的に大きな変化をもたらす日に。Einar が「夏が生まれる」と表現したように、その最も暗い日に、この曲は潮の流れが変わる可能性を予告しています。
アルバムに収録されている10分間のバージョンでは、Einar が女性の声のコーラスをバックに、新たな高みに向かって歌い上げます。彼は、「自分の中にも共鳴するような音が出てくる。そうすれば、何かを成し遂げようとしていることがわかるんだ」
HEILUNG, MYRKUR, SKALD, Danheim。かつて古代文明が自然界に対して感じていたつながりが、ネオフォーク、ノルディックフォーク、ダークフォークと呼び方は様々ですが、新鋭を結びつける骨なのかもしれませんね。
「初めて WARDRUNA と仕事を始めた時から、自然との親近感を感じていたの。」と Lindy-Fay Hella は説明します。
「自然の中には、良いものだけでなく、醜さや畏怖といったコントラストも受け入れる余地があるわ。今のところ、私たちの荒々しいサウンドは、スカンジナビアの荒野に根ざしているのよ。そろそろヒゲを生やし始める時期かもしれないわね。」

WARDRUNA のコンサートで Einar が観客とコミュニケーションをとることはほとんどありません。
「WARDRUNA では、曲と曲の間にコミュニケーションをとることは、重要ではないんだ。最後の最後にやるだけさ。それが唯一のコミュニケーションの場なんだ。俺にとってコンサートは儀式だから。1時間から2時間の間に、神聖な空間を作るということだよ。
そこでは人々は音楽とつながり、儀式のように音楽に没頭することができる。教会やモスクなどに行かない人たちは、神聖で厳粛な空間やミーティングを得ることができないと思うからね。
宗教的なものやスピリチュアルなものである必要はないんだよ。俺たちの目標は、ある意味で自分よりも大きな何かと繋がることができるような空間を作ることだから。
それが音楽であれ、周りの人たちであれ何でもいいし、自然そのものでもいい。俺たちの音楽は、北欧の神話や遺跡などを映し出しているけど、本質を突き詰めていくと、核となるのはいつも自然なんだよね。自然とつながるための入り口として捉えている人が多いと思うんだよ。」
そうして、WARDRUNA のコンサートには様々な民族、様々な趣向、様々な年齢のファンが集まります。
「クラシック音楽が好きな人たちが、メタルファンと同じショーに来ているのを見るのはとても魅力的だよ。美しい光景だね。俺たちの音楽が、言語やジャンルを超えて国境を越えていく能力を持っていることは本当に素晴らしいことだと思うよ。ある意味、どの音楽ジャンルにも当てはまらない音楽なんだ。いろんな人に訴えかけることができるからね。」

参考文献: THE QUIETUS:A Kind Of Magic: Wardruna Teach Us To Laugh At Ourselves Again

GREEN GLOBAL TRAVEL:INTERVIEW: WARDRUNA REVIVES ANCIENT NORDIC FOLK TRADITION

METAL RULES: INTERVIEW WITH EINAR SELVIK

AMNPLIFY: INTERVIEW WITH EINAR SELVIK FROM WARDRUNA

SMASH:有料配信ライブ”Wardruna’s virtual release show

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【HEDVIG MOLLESTAD : EKHIDNA】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH HEDVIG MOLLESTAD !!

ALL PICS BY Julia Marie Naglestad & Thor EgilLeirtrø

“If My Work Can Be Considered a Bridge In Music, Nothing Is Better! I’d Love To Be a Bridge Between The Good Qualities In Jazz And The Good Qualities Of Metal. Complexity, Simplicity, Embodied. Like Most Humans.”

DISC REVIEW “EKHIDNA”

「私の作品が音楽の架け橋になるとしたら、それに勝るものはないと思うわ!ジャズの良さとメタルの良さの架け橋になりたいわね。複雑さ、シンプルさ、それが具現化されたもの。ほとんどの人間のようにね。」
上半身はジャズ。下半身はメタル。翼を纏うギリシャ神話の怪物エキドナは、現代の音楽世界に Hedvig Mollestad の姿を借りて降臨しました。そうして彼女の10年にも及ぶアヴァンジャズとヘヴィーロック壮大な実験の軌跡は、サイケデリックなグルーヴを伴いながらプログレッシブの頂点を極めます。
「私はメタルとジャズの真のハイブリッド。ただ TOOL や MASTODON、MEGADETH でさえその音楽の生々しさと強烈な表現は、多くのジャズ歌手の帽子と蝶ネクタイよりもずっと親近感があるからね。」
もちろん、ジャズとロックの融合は何も今に始まったことではありません。例えば源流がジャズならば WEATHER REPORT, RETURN TO FOREVER。ロックならば STEELY DAN でしょうか。ただし、Hedvig の起こす化学反応はよりダイナミックで肉感的。BLACK SABBATH の黒を起源とし脈々と連なるメタルの伝統を受け継いだリフの猛攻、獰猛、邪悪を繊細よりも頭脳的に血肉としているのです。
「私は、自由と同時に、いかに演奏されるべきか “正確に” 知っているものを演奏することの組み合わせが大好きなの。このリフはこの場所でこう変拍子になって、こんなダイナミズムをつけるって正確にね。分かっていればすべてのエナジーを注ぎ込めるでしょ?」
ロックやメタルの愛すべき予定調和と、ジャズの持つ自由奔放。この二つが等しく交わる時、そこにはきっとスピリチュアルな何がが生まれます。Miles Davis の “Bitches Brew” 然り、MAHAVISHNU ORCHESTRA の “Birds of Fire” 然り。超越し、ジャズでもロックでもなくなった名状しがたきスピリットが “Ekhidna” にもたしかに存在するのです。
同時に、温故知新の精神も Hedvig の音の葉をより超越的に彩ります。Miles の時代には存在しなかった MARS VOLTA の宇宙、TOOL の数学、MASTODON の浪漫、SLEEP の重厚を内包したモダンな建築手法は、以前のフュージョンとは一線を画する唯一無二。
実際、6曲で構成されるレコードで、幕開けから17分の空を切り裂く雷撃 (変幻自在なモダンメタルの躍動とサンタナの寛容がテレキネスで惹かれあう “Antilone” は珠玉) のあと訪れる3分の平穏、”Slightly Lighter”。興味深いことに、このオスロの丘の穏やかな呼吸は、70年代のプログやフュージョンに宿った伝説とも、スカンジナヴィアが産み落とす広大なフォークジャズとも、OPETH が引き寄せた音響空間の再現ともとれるのですから。
その多様な思慮深さは幕引きの “One Leaf Left” へと引き継がれます。METALLICA の “One” のようにスロウバーンで映画のようなサウンドスケープは、徐々に歪んだギターでサイケデリックな爆発を誘って行くのです。
スカンジナヴィアは2000年代から続くジャズロック黄金時代の真っ只中にあります。ELEPHANT 9や 絶対神 MOTORPSYCHO を生んだのもこのシーン。完璧な世界ならば、 “Ekhidna” はHedvig Mollestad を彼らのすぐ隣に押し上げ、それ以上にシーンの女王へと祀り上げてしかるべきでしょう。それだけのクオリティー、それだけの驚き、それだけの躍動感がこのレコードには宿っているのですから。
今回弊誌では、ノルウェーの至宝 Hedvig Mollestad にインタビューを行うことができました。「音楽は絶えず動いている。それが音楽の本質よ。探求し、進化し、挑戦し続けている。今後数十年の間に、ライターは音楽のジャンルを正しく記述するための新たな方法を見つけなければならないと思うわ。潜在的に、まだ非常に多くの創造的で正確な、未使用の言葉があると思うから!」 トランペットまで含むシクステッドでの新たな冒険。現代のマクラフリン、それともジェフ・ベックか。どうぞ!!

HEDVIG MOLLESTAD “EKHIDNA” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CONFESS : EAT WHAT YOU KILL】BLOOD & PRIDE OF IRANIAN METAL


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH NIKAN KHOSRAVI OF CONFESS !!

ALL PICS BY Camilla Therese

“Of Course Harsh Sentences Weren’t Convenient But I Took Pride For That! Cause It Meant That My Music And My Lyrics Are So Strong And Truthful That They Could Scare a Whole Regime. But At The Same Time It Was Stepping To The World Of Unknowns.”

GIVE BLOOD FOR THE MUSIC

「ポジティブな話をしようじゃないか。もちろん、過去も重要だけど新たなアルバム、新たなツアー、未来について話したいんだ。」
イランで不敬罪に問われノルウェーへと亡命したメタルソルジャー。CONFESS の魂 Nikan Khosravi とのコンタクトはそうして始まりました。Nikan と同様の状況に立たされた時、それでもあなたは過去よりも未来を見つめ、希望を捨てずにいられるでしょうか?
「被告を懲役12年、鞭打ち74回の刑に処す。」2017年、テヘランの裁判官は、冒涜的な音楽を作ったとして政権に起訴されたイランの有名メタルデュオ、CONFESS 2人のメンバーに判決を言い渡しました。特にシンガーでリードギタリスト Nikan “Siyanor” Khosravi(27歳)は、”最高指導者と大統領を侮辱した”、”反体制的な歌詞と侮辱的な内容を含む音楽を制作し世論を混乱させた”、”野党メディアのインタビューに参加した” として非常に重い量刑を受けることとなったのです。
“告白” と題されたデュオの “違法” なレパートリーは、イラン政府の反体制派に対する極端な不寛容さを狙撃する “Encase Your Gun “や、”ファック” をリベラルに使用した “Painter of Pain”、刑務所での地獄を綴る “Evin”など。
2014年、”In Pursuit of Dreams” をリリースした彼らはアルバムが出た数日後、イスラム革命防衛隊(IRGC)のエージェントに逮捕されました。罪状は? “冒涜、悪魔崇拝的なメタルやロックを扱う違法なアンダーグラウンドレーベルの結成と運営、反宗教的、無神論的、政治的、無政府主義的な歌詞を書いたこと”。
2人はイラン最凶の刑務所エヴィンに送還され、10日間独房で過ごした後、一般棟に移されました。解放されたのはそれから数ヶ月後、Nikan の両親が2人の保釈金として自宅を担保に差し出したのです。そして数年後、彼らは裁判にかけられ冒頭の判決が読み上げられました。
「実は最初は強制的に出国させられたんだ!そしてもう一つの理由は、目を覚まさせる率直な暴言というか意見を吐いたアーティストという理由だけで、10年以上も刑務所にいるのはフェアではないと感じたからだよ。どんなやり方でも、僕は刑務所の外にいた方が多くの人の役に立つことができると感じていたしね。」
しかし、センセーショナルな判決を受けたメタル世界の心配はある意味杞憂に終わりました。イランの政権も世界が監視する中で、この言論信教の自由に対する侵害をこれ以上大ごとにする気はなく、政権に牙を剥く狼への抑止力として象徴的な量刑を得られればそれでよかったのかもしれません。
そもそも、Nikan も語っているように、イランではたしかにヘヴィーメタルは禁止された違法な音楽ですが、それでもライブの許可が降りるバンドは存在しているのです。つまり、背教的で違法なメタル代表として迫害を受けたように思われた CONFESS ですが、その実は判決の通り政権への反抗と批判こそが真の迫害理由だったのでしょう。政権に擦り寄るか否かで決定される天国と地獄は、たしかに神の所業ではありません。
ただ、どちらにしても、イランが国民の表現の自由を厳しく制限していることは明らかです。ジャーナリストは今でも逮捕され続けていますし、公共の場で踊ったり顔を隠さなかっただけの女性も酷い罰を受けているのですから。つまり、抑圧的なイランの現政権にとって、芸術を通して自己や思想を表現する CONFESS のようなアーティストは格好の標的だったのです。
「僕は逮捕されたことを誇りに思っていたんだよ! なぜならそれは、僕の音楽と歌詞が非常に強力で真実味があることを意味していたからね。政権全体を脅かすことができたんだから。でも同時に、それは未知の世界に足を踏み入れることでもあったんだ。 」
そんなある種のスケープゴートとされた Nikan ですが、自らのアートが真実で政権に脅威を与えたことをむしろ誇りに思っていました。人生は常にポジティブであれ。そんな Nikan の哲学は、偶然にも彼を迫害されるアーティストの移住を支援する ICORN によってメタルの聖地ノルウェーへと導くことになったのです。
「僕らは今までスラッシュ、グルーヴ、デス、メタルコア、ニューメタル、ハードコアなどと呼ばれてきたけど、すべてを書いている僕自身でも自分たちが何者なのかよくわからないし、正直なところ何のレッテルを貼るべきなのかもわかっていないんだ。今でも新たな場所に行くための新たな要素を探しているからね!どんな楽曲でも、自分をより良く表現するための新しい “追加の” サウンドを今も探しているんだよ。」
ノルウェーで新たなメンバーを加えた Nikan は各メタル誌にて絶賛を受けた新曲 “Eat What You Kill” をリリース。激動のストーリーだけでなく、楽曲にもこれほど説得力を持たせられるのが CONFESS の凄みでしょう。SLIPKNOT も HATEBREED も PANTERA もすべてぶちこんだこの激音の黒溜まりはあまりに強烈。常に前を向き、新たな光を追い求める無神論者。血と誇り、そして文字通り人生すべてをかけたニューアルバム “Revenge At All Costs” の登場は目前です。すべてを賭けた復讐は、きっと過去を完全に断ち切る決意の叫び。
「僕が人間として2015年から今日まで経験してきた全てのことを書いていると言えるね。その期間に起こった全てのこと、会った全ての人について語っているんだ。このアルバムは間違いなく物語を語るアルバムであり、もちろん政治的なアルバムでもあるよ。」独占インタビュー。どうぞ!!

CONFESS “EAT WHAT YOU KILL” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【JAGA JAZZIST : PYRAMID】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH LARS HORNTVETH OF JAGA JAZZIST !!

“I’ve Listened To Tomita’s Albums For Years And It Felt Really Natural To Combine This Inspirations Of Warm Synth Sounds With The Analogue And Organic Sounds Of The Drums, Guitars, Horns And Vibraphone. We Spent a Lot Of Time Making The Synth Melodies Sound As Personal And Organic As Possible, Like a Horn Player Or a Singer. Tomita Was The Biggest Reference To Do That.”

DISC REVIEW “PYRAMID”

「アルバムの音楽を表現するために、何か象徴的なものが欲しかったんだ。今回の音楽はかなり壮大で、ピラミッドの四方や外壁、そしてその中にある神秘的な部屋を音楽で表現することができたと感じたわけさ。」
人類史において最もミステリアスな古代の巨石建造物ピラミッドは、興味深いことに過去と未来を紡ぐノルウェーのフューチャージャズ集団 JAGA JAZZIST 5年ぶりの帰還に最も相応しいアイコンとなりました。
「Ninja Tune とはスケジュールの問題があったんだ。彼らは今年、非常に多くのリリースを抱えていたから。Brainfeeder への移籍は今のところいい感じだよ。僕たちが大好きなアーティストと同僚になれて誇らしいね。」
ジャズを王の眠る部屋だとするならば、そこから無数に伸びる通路が繋ぐ音の部屋こそ JAGA JAZZIST の真骨頂。エレクトロニカ、ミニマル、クラシカル、ポストロック、プログロックと接続するエクレクティックな内部構造、360度見渡せる “神秘の部屋” の有りようは、奇しくも FLYING LOTUS が主催し Kamasi Washington, Thundercat といったジャズの新たなファラオが鎮座する Brainfeeder の理念や野心と完膚なきまでに符合しました。
「たしかにシンセとそのシンセサイザーでの音の出し方に関して、冨田勲に大きなインスピレーションを受けたね。この “Tomita” という曲だけじゃなく、アルバム全体にも影響を与えているんだよ。」
前作 “Starfire” と比較してまず驚くのが “エッジ” の減退と “オーガニック” の伸長でしょう。”Starfire” に見られたアグレッシブなダブやエレクトロニカのサウンドは影を潜め、一方で70年代のプログやフュージョンに通じる神秘的な暖かさが作品全編を覆っています。ある意味、Miles Davis があの時代に描いたスケッチを、現代の技巧、タッチで復元するような冒険とも言えるでしょうか。
特筆すべきその変化は、JAGA JAZZIST の主催 Lars Horntveth が9回も訪れているという、日本が輩出した偉大な作曲家、シンセサイザーアーティスト冨田勲の影響によって引き起こされました。
「彼の温かみのあるシンセサイザーの音に受けたインスピレーションと、ドラム、ギター、ホーン、ビブラフォンのアナログで有機的なサウンドを組み合わせるのはとても自然なことだと感じたわけさ。シンセのメロディーを、ホーン奏者やシンガーのようにできるだけパーソナルでオーガニックなサウンドにするため多くの時間を費やしたんだよ。その手法において、最も参考になったのが富田だったんだ。」
暖かく有機的なアコースティックな楽器の音色を、シンセサイザーという機械で再現することに人生をかけた冨田勲。ゆえに、彼がアナログシンセで奏でるメロディーの夢幻は唯一無二でした。その理想をユニゾンの魔術師 JAGA JAZZIST が8人がかりで現代に蘇らせるのですから面白くないはずがありませんね。
アンビエントからラテン、さらに Chris Squire を想起させるベースフレーズでプログの世界まで到達する “Tomita”。ボレロとファンク、それに夢見がちなサウンドトラックが合わさり最古のミニマルミュージックをアップデートした “Spiral Era”。Fela Kuti の魂、Miles Davis の遺志と共鳴しながらユニゾンと対位法、ポリリズムのカオスで圧倒する “The Shrine”。ネオンを散りばめたジャズ/フュージョンのダンスフロア “Apex”。そのすべては、壮大で美しく、奇妙で夢のようなピラミッドを形成するレトロな未来なのでしょう。
ロックの視点で見れば、”Kid A” 以降の RADIOHEAD や TAME IMPALA まで因数分解してヒエログリフに刻むその慧眼をただ崇拝するのみ。
今回弊誌では、Lars Horntveth にインタビューを行うことができました。「この楽曲は彼の音楽へのオマージュであるのみならず、偉大な政治家としての Fela Kuti に捧げた音楽なんだ。この曲がタイトルに沿った “聖堂” であることを願っているよ。彼の人生と魂に語りかける楽曲になっているとしたら、それは僕たちにとってボーナスのようなものさ。」どうぞ!!

JAGA JAZZIST “PYRAMID” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【GREEN CARNATION : LEAVES OF YESTERYEAR】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH KJETIL NORDHUS OF GREEN CARNATION !!

“In Some Ways We Are a “Child” Of that Norwegian Black Metal Era. Through The Years, Many Of Those Early Black Metal Bands Have Changed Quite a Lot, Developing Their Music And Bringing In Other Influences.”

DISC REVIEW “LEAVES OF YESTERYEAR”

「”Light of Day, Day of Darkness” は多くの点で “すべてを備えて” いるよね。まさに過剰な創造性だったよ。そして幸運にも僕たちはすべてをまとめて、音楽の長いリストとしてだけじゃなく1つの曲として見られるように仕上げることができたんだ。」
ノルウェーの闇皇帝 EMPEROR にも血を分けた Tchort 率いる翠色のカーネーションは、00年代に咲いたプログメタルの徒花にも思えました。しかし、音花のラボラトリーで生育された越境の種子は後続の遺伝子へと刻まれ、14年の時を経て遂に GREEN CARNATION 本体の再生をも誘ったのです。
インタビューに答えてくれた GREEN CARNATION の声、Kjetil が初めてバンドに加わった “Light of Day, Day of Darkness” は当時の常識をすべて覆すような異端の書でした。娘の逝去と息子の誕生を同時に体験した Tchort の感情もとにした闇と光の生命譚は、60分で一曲を成す異形の姿を誇っていました。
「最も重要なのはムードとアトモスフィアだからね。実際、”Light of Day, Day of Darkness” の大半かプログレッシブに属するなんて誰もが言えないだろう。僕たちの音楽には酩酊するような要素、ヘヴィーな要素、ドゥーミーな要素など、他にもたくさん存在するからね。」
サックスやシタール、クワイア、それに600を超えるサンプルまで使用して、ブラック、デス、プログはもちろんフォークからゴス、ドゥームまで縦横無尽に敷き詰めた音の絨毯は、ある意味ステレオタイプが定着してきた当時のプログメタル世界を震撼させたのです。
「このアルバムで僕たちにとって最も重要なことの1つは、GREEN CARNATION 最高の面をすべて1つのアルバムに取り込むことだったね。解散以前は5枚のアルバムで何度も実験を繰り返したんだけど、すべてのアルバムに “典型的なグリーンカーネーションの瞬間” があったわけさ。」
目眩く音旅を経て、経済的な不遇とモチベーションの喪失により2007年に活動を休止した GREEN CARNATION。しかし、マイルストーン “Light of Day, Day of Darkness” のワンオフショウを契機として再び翡翠の撫子に血が通い始めます。
5曲45分。最新作 “Leaves of Yesteryear” に純粋な新曲は3曲しか収録されていません。残りの2曲は “My Dark Reflections of Life and Death” の再録と BLACK SABBATH “Solitude” のカバー。しかし、過去曲の再訪を含め、この内容に不満を感じるファンはいないでしょう。
プログメタルでストーリーテリングを行う翡翠の煌めきは、14年の時を超えて成熟を導き一際その輝きを増していました。エピックという過去の忘れ物を取り戻すタイトルトラック、”Leaves of Yesteryear” には、たしかに ULVER, ENSLAVED, ANATHEMA, CANDLEMASS, KATATONIA といった異端メタルの巨人に宿る耽美や重厚、荘厳を想起させながら、より純粋化したプログメタルを紡ぐバンドの知性と哲学が込められています。
クラッシックロックへの憧憬を湛えた “Sentinels” のアラベスクな旋律、記憶に残るリフワーク、70年代に根ざす鍵盤の香りはまさにロックの黄金律。そうして輪廻の導きのもと、作品はよりドラマティックによりプログレッシブに生まれ変わった16分のセンターピース “My Dark Reflections of Life and Death” で “GREEN CARNATION 2020” の壮大を存分に見せつけるのです。
今回弊誌では、不世出のシンガー Kjetil Nordhus にインタビューを行うことができました。「ある意味僕たちはあのノルウェーブラックメタルシーンの “子供” なんだよ。あれから何年にもわたり、初期のブラックメタルバンドの多くは大きな変化を遂げ、音楽を発展させ、他からの影響をもたらしたね。
たとえば、最近 ULVER のファンになった人は、最初のアルバムを聴くとかなりショックを受けるはずだよ。もちろん、僕たちだってジャンルや影響に関して実験的なバンドだしね。 」 どうぞ!!

GREEN CARNATION “LEAVES OF YESTERYEAR” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MORON POLICE : A BOAT ON THE SEA】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SONDRE SKOLLEVOLL OF MORON POLICE !!

“A Lot Of The Music From The Super Famicom Was Also Very Proggy! The Soundtrack Of Secret of Mana (Seiken Densetsu 2) Was Mindblowing When I First Heard It! Beautiful Melodies Mixed With Interesting Technical Parts, Weird Time-Signatures And Atmospheric Landscapes.”

DISC REVIEW “A BOAT ON THE SEA”

「ノルウェーにおけるプログの “魔法” って何なんだろうね。60年代後半からプログバンドはずっとここにあって、長い間人気を博して来たから、若い世代に刷り込まれているんじゃないかな。だから僕たちがここにいるんだよ!」
“プログレッシブ” の遺産と血脈を受け継ぐ綺羅星の中でも、2019年特に印象的なレコードを残した寵児がノルウェーを拠点とすることは偶然ではないのかも知れませんね。
電子の海で主流とプログを交差させた LEPROUS、エピックの中で多様とハーモニーを追求する MAGIC PIE、そしてプログレッシブポップの革命を牽引する MORON POLICE。共通するのは、プログレッシブ世界の外へと目を向ける野心でしょう。
「様々なジャンルを股にかけることも大好きだね。メタルの要素が減退したから、これまでより多様になれた部分はあるだろうね。ポップミュージックは完膚なきまで崇高になり得るし、ポップミュージックがテクニックと重ね合った時、僕にとって最高に魅力的なものとなるんだ!」
ノルウェーの異形 MAJOR PARKINSON にも籍を置くユーティリティープレイヤー Sondre Skollevoll は、これまで充分に探索が行われて来なかったポップと崇高、ポップとテクニックの融合領域へと MORON POLICE で海図なき船出を果たしました。ノアの箱船で GENESIS の息吹、プログレッシブの遺伝子を守りながら。
「アートワークは、僕たちは “この地球の一員” ってメンタリティーと、音楽のメランコリックな側面を反映しているんだ。」
メタリックな一面を切り離すことで音楽的自由を謳歌する “A Boat on the Sea” で、Sondre は以前に増して表現の自由をも享受し世界を覆う暗雲を薙ぎ払っていきます。
米国の小説家 Kurt Vonnegut がポストベトナム世界を風刺した、”Hocus Pocus” からタイトルを頂くメランコリックなピアノ語りを序曲とするアルバムは、”The Phantom Below” で無機質なデジタルワールドへの皮肉と憧憬を同時に織り込みます。
「大半のスーパーファミコンの音楽はとてもプログレッシブだよね!”聖剣伝説2 Secret of Mana” のサウンドトラックを初めて聴いた時はぶっ飛んだよ!美しいメロディーが、興味深いテクニカルなパート、奇妙な変拍子、アトモスフェリックなサウンドスケープとミックスされていたんだからね。」
最終的にSondre の目指す場所とは、幼き日に熱中したスーパーファミコンの、アナログとデジタルが交差する、目眩く色彩豊かな音楽世界なのかもしれませんね。
ノルウェーという小さな国のプログシーンが注目を集めるきっかけとなったストリーミングサービスの恩恵を認識しながらも、8bit のオールドスクールな情味と温もり、知性の頂きはバンドの原点であり精髄でしょう。狂気のスキルとイヤーキャンディー、それに北欧のメランコリーをミニマルなゲームサウンドと同期させる “Isn’t It Easy” はその象徴に違いありません。
“Beaware the Blue Skies” のレゲエサウンドで、平和大使の仮面の裏で米国の戦術ドローンを大量生産する母国ノルウェーの偽善を暴き、”The Dog Song” のカリビアンや “Captain Awkward” の奇妙なスキャットで自らの多様性を証明する MORON POLICE。それでも、一貫して燃え盛る灯台の炎となったのは煌びやかで心揺さぶるメロディーの光波でした。
「僕はね、強力なメロディーは、きっといつだって純粋なポップ世界の外側に居場所を得ると思っているんだ。そしてそんな音楽がより注目を集めつつあることが実に嬉しいんだよ。」
THE DEAR HUNTER を手がける Mike Watts の航海術も旅の助けになりました。そうして MORON POLICE はプログ世界の外洋へと船を漕ぎだします。
今回弊誌では、Sondre Skollevoll にインタビューを行うことが出来ました。「僕はゲーム音楽の大ファンなんだよ。特に任天堂のね。近藤浩治、植松伸夫、菊田裕樹、David Wise のような音楽家を聴いて育ったんだよ。僕はそういったゲーム音楽にとても影響を受けていると思うし、そのやり方を音楽に取り込んでいるんだ。」MARQUEE/AVALON から日本盤の発売も決定。どうぞ!!

MORON POLICE “A BOAT ON THE SEA” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MAYHEM : DAEMON】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH GHUL OF MAYHEM !!

“We Definitely Had In Mind That We Wanted Daemon To Be Some Sort Of Return To a Certain Mood From a Certain Era. Of Course Playing De Mysteriis So Many Times Over The Past Years Means It Bled Into The Creative Process For Sure.”

DISC REVIEW “DAEMON”

「俺もじきに Euronymous を殺ってやろうと思っていた。だからあの朝新聞であのニュースを読んで、家に帰って武器やドラッグを隠さねーとと思ったんだ。おそらく俺が第一容疑者だったはずだから。」
Necrobutcher が今年発したこの言葉は、ブラックメタルを司るノルウェーの闇司祭 MAYHEM に刻まれた、逃れられぬ呪われし過去の暗影を再び浮かび上がらせることとなりました。
MAYHEM 初期の歴史には死と犯罪の禍々しき臭気が立ち込めています。教会への放火は連鎖の序幕。オリジナルボーカル Dead は自らでその命を断ち、バンドの中心人物 Euronymous は Dead の死体写真を撮影し、彼の “死” をある種利用して MAYHEM の神秘性を高めました。ただしその宿悪は、1993年、MAYHEM でベースをプレイしていた BURZUM の Varg による Euronymous 殺害という狂気の終着駅を導く結果となったのです。
しかし一方で、その凄惨と背教、サタニズムに根差す闇の神秘が、異端に焦がれる数多の使徒を惹きつけ、今日の巨大で邪悪なメイヘム像を建築する下地となったのも確かでしょう。
「間違いなく、俺らの中には “Daemon” である特定の時代の、特定のムードへといくらか回帰したいという気持ちが存在したんだ。もちろん、ここ何年にも渡って “De Mysteriis Dom Sathanas” を何度もプレイしたことは、今回のクリエイティブプロセスに影響を与えたよ。それは確かだね。」
BEHEMOTH の Nergal をして “エクストリームメタルのマグナムオーパス” と言わしめる “De Mysteriis Dom Sathanas”。完全再現ツアーを続ける中で、MAYHEM は自身のマイルストーンを再発見し、拡散する音楽の進路を原点へと向かわせる決断を下したと Ghul は語ってくれました。
ただし5年ぶりとなる最新作 “Daemon” は、単純に “De Mysteriis Dom Sathanas” PT.2 を目論んだレコードではありません。何より、古典のインテグラルパートであった Euronymous と 歌詞を残した Dead は世界から失われて久しいのですから。
“De Mysteriis” は例えるならば悲愴と熾烈を意図的に掛け合わせたキメラ獣でした。ハンガリーのアクセントでさながら病んだ司祭のように歌い紡ぐ Attlia のシアトリカルでオペラ的なパフォーマンス、Euronymous のアイデアを基にしたエコーとリヴァーブ、マルチトラックの音の壁、Hellhammer の恐怖と抑制のドラミング。
圧倒的に悪意が貫かれたアルバムはブラックメタルのスタンダードでありながら、決してジャンルへの入り口となるようなアクセシブルな作品ではなく、むしろ部外者を拒絶し謝罪も譲歩も受けつけない唯一無二の無慈悲な威厳を纏っていました。
もちろん、旅路の果てに “Daemon” で取り払った装飾と実験性、そして時代を超えたプリミティブな獰猛と邪悪はオールドスクールな MAYHEM の姿を投影しています。しかし究極的には、”Daemon” で受け継いだと言われる “De Mysteriis” の遺産とは、原始的なピースとしての楽曲が、集合体として底知れない深み、知性を得る “De Mysteriis” のスピリット、構造そのものだと言えるのかもしれませんね。
そうして可能となった、内なる “悪魔” とのチャネリング。 Necrobutcher は “Daemon” こそがここ15年で MAYHEM の最高傑作だと断言します。
「2004年に “Chimera” をリリースしてから最も誇れる作品だ。ここ15年で最高のものだよ。おそらくそれは… “ライブフレンドリー” な仕上がりになったからだ。”Esoteric Warfare” や “Ordo Ad Chao” にはそこが決定的に欠けていたからね。
その2作も良いアルバムだったけど、ライブで再創造するのが難しかった。”Daemon” はそうじゃない。半数の楽曲はこれからライブでプレイする予定だよ。だから前2作とは全く関連がないとも言えるね。現行のメンバーで9, 10年は続けている。そうして成熟した成果なんだ。」
「俺らはこのレコードで全てを取り払い、”本質” へと戻したのさ。」”Daemon” に求めたものはブラックメタルの “本質”。ライブの原衝動は確かに本質の一部でしょう。では細分化、複雑化を極める現代のブラックメタル世界で Ghul の語る本質とは何を意味するのでしょう。初期の禍々しき “メイヘム” な記憶?
「俺にとってブラックメタルとは、いつだって精神を別の世界、領域へと誘う音楽なんだ。だから様々な表現方法があって然るべきだと思う。」
そう、彼らにとってサタニックテロリストの過激な姿はそれでも過ぎ去りし過去。それは Necrobutcher がかの “Lord Of Chaos” ムービーに放った 「全部でたらめだ。映画を見たけどただ悲しくなったね。良い映画じゃないよ。」 の言葉に投影されているようにも思えます。ブラックメタルの “本質” とは思想、信条にかかわらずリスナーを非日常の別世界、精神領域へと誘うパスポートだと言えるのかもしれませんね。
今回弊誌では、ギタープレイヤー Ghul にインタビューを行うことが出来ました。「彼らにとって大きな意味を持つ作品なんだと痛感したよ。だから、”De Mysteriis Dom Sathanas” を可能な限り忠実に、俺たちがライブで再創造することが重要だったんだ。」 どうぞ!!

MAYHEM “DAEMON” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【AZUSA : HEAVY YOKE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CHRISTER ESPEVOLL & DAVID HUSVIK OF AZUSA !!

“I Think The Whole Metal Genre Needs An Alteration, And The Domination Of Male Energies Comes With Certain Limitations And Lacks Dynamics. In General, We Need More Females Involved.”

DISC REVIEW “HEAVY YOKE”

Kate Bush がフロントウーマンの SLAYER。Chelsea Wolfe 擁する THE DILLINGER ESCAPE PLAN。もしくは Joni Mitchell と CYNIC の邂逅。
ネイティブアメリカンの透明な少女、ヒーラーの名を冠する AZUSA は、様々な “If” を浄化と知恵、調和と変化のダイナミズムで実現しながら、飛躍するフィーメールフロンテッドの潮流を一層確かなものとします。
多国籍のスーパーバンド AZUSA の始まりは、THE DILLINGER ESCAPE PLAN の Liam Wilson が EXTOL に送った一通のメールでした。昨年終焉を迎えたカオティックハードコアの首謀者を牽引したベースマンは、明らかにノルウェープログメタルの至宝に激しく惹かれていました。
一方はヴィーガンでヨガを嗜む探求者。一方はキリスト教の中でも特に精霊の加護を掲げる一派で育った、クリスチャンメタルの求道者。もしかすると、両者の間には “スピリチュアル” という共通項が存在したのかも知れませんね。
そして David が「男性のエナジーがシーンを支配することで、リミットやダイナミクスの欠如が生まれていると思う。だから一般的に、僕たちはもっと女性を取り込んで行く必要があるんだよ。」と語る通り、AZUSA の更なる独自性は女性ボーカル Eleni Zafiriadou の加入で決定的なものとなりました。
ハードコアを経由し、現在はインディーポップデュオ SEA + AIR で魅惑の歌声を響かせる Eleni の、ブルータルからドリーミー、そしてポップを行き来する万華鏡のアプローチは、それでも未だ男性が大半を占めるエクストリームの声に鮮やかな新風を吹き込んでいます。
もう一つの重要なトピックは、EXTOL から袂を別ったギタリスト Christer Espevoll がドラマー David Husvik と再度邂逅を果たしたことでしょう。
CYNIC や DEATH の知性と神秘のアグレッションを、北欧からキリスト世界のイメージと共に発信していた EXTOL の異能。ボーカル Peter の兄弟で、そのデザインを支えていた Christer が従兄弟である一族の David と再び創作を始めたことは、バンドやシーンにとって実に歓迎すべき出来事であるはずです。
実際、アルバムオープナー “Interstellar Islands” で2人のケミストリーは、瞬く間にかつての輝きを取り戻します。メロディックにリズミカルに、思慮深く構築される Christer の幾何学的ギターワークは、15年の時を超え David の放つ正確無比なグルーヴと見事に交差し調和していきます。もちろん、複雑に連なるオッドタイムの基幹となるは Liam のベースノート。
「特に Liam と Eleni が AZUSA に加わってから僕たちは全く異なる場所にいると言えるだろうね。実際、”Heavy Yoke” の作曲とレコーディングのプロセスは、思いもしなかった場所に僕たちを誘ったんだ。僕たち2人が始めた時は想像もつかなかったような場所にね。」 と Christer が語る言葉は真実です。
スラッシュの凶暴からサイケデリックワルツ、そして甘やかなポップをシームレスに接続し、刻々とタイムワープを繰り返すスリリングな楽曲で、Eleni の魔法は冴え渡ります。
そうしてそのエクレクティックな才能は、入り組んだ迷宮のような “Heavy Yoke”、一方でよりストレートなハードコア賛歌 “Heart of Stone”、そして初期 CYNIC のアトモスフィアを纏った “Spellbinder” までリアルタイムで適応し、バンドの目的地である美しき不協和、メタルホライゾンの向こう側を煌々と照らすのです。
相互に織り成す人間関係のより暗い側面、現実に蔓延る感情的な重さへと焦点を当てたアルバムで、Eleni は 「私の夢を一瞬で踏みにじる準備は出来た?」 と唄います。シーンは彼女の叫びにどう反応するのでしょうか?
今回弊誌では、元 EXTOL の Christer と現 EXTOL の David にインタビューを行うことが出来ました。「僕たち2人がハードロックやメタルを聴き始めたのは12, 13歳のころだったね。僕等の両親はその行為にとても懐柔的だったんだけど、ただしクリスチャンロック、クリスチャンメタルのバンドはキリスト教の教えを歌詞に盛り込んでいるから許されていたんだよ。」 どうぞ!!

AZUSA “HEAVY YOKE” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SATYRICON : DEEP CALLETH UPON DEEP】JAPAN TOUR 2018 SPECIAL !!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH FROST OF SATYRICON !!

“Black Metal Is All About Attitude, Spirit And Feeling, Pretty Much Like Punk And Blues. It Doesn’t Have To Be Connected To One Very Particular Philosophical Direction. Claiming That Is Has To Be Satanic Is Simply Childish.”

DISC REVIEW “DEEP CALLETH UPON DEEP”

ブラックメタル第二の波として、EMPEROR, DARKTHRONE, ENSLAVED, IMMORTAL, MAYHEM 等と共闘しシーンを確固たるものとしたノルウェーの重鎮 SATYRICON。9年振りに決定した来日公演で、常に進化を続けるバンドのスピリットは鮮明になるはずです。
獰猛でファストな典型的ブラックメタルからは久しく距離を置く SATYRICON。確かに “Now, Diabolical” はゲームチェンジングなブラックメタルレコードでしたが、”Deep Calleth Upon Deep” で辿り着いた境地はまさしく前人未到です。
「僕はね、ブラックメタルにおけるスピードの重要性は過大評価され、大きく誤解されていると思うんだ。スピードは音楽にインテンスと極端さを持ち込む多くの方法の一つに過ぎないんだよ。」と Frost が語るように、SATYRICON の “今” を表現するブラックメタルは究極にダークで不吉なアトモスフィアをただ徹頭徹尾追求する、複合的なアート。
不穏なヴィンテージロック、ゴス、ドゥーム、アバンギャルドをブラックメタルの深淵に落とし込むダイナミックで豊かな表現性のパレットは、ある意味オリジネーター CELTIC FROST の方法論、スピリットにもシンクロしながらリスナーの酩酊を誘い、エクストリームメタルに内包された贖い難い中毒性を再確認させてくれますね。
それは乱歩の世界や百鬼夜行にも通じる複雑怪奇な狂気の乱舞、スロウバーン。
今回弊誌では FROST にインタビューを行うことが出来ました。「ブラックメタルは、パンクやブルースと同様にアティテュード、スピリット、そしてフィーリングが全てなんだよ。だから、必ずしもある特定の哲学と繋がっていなければならない訳ではないんだ。サタニズムに拘る姿勢は、単純に子どもじみているよ。」どうぞ!!

SATYRICON “DEEP CALLETH UPON DEEP” : 9.9/10

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