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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【KING’S X : THREE SIDES OF ONE】


COVER STORY : KING’S X “THREE SIDES OF ONE”

“I wrote lyrics with my age in mind, so it has become sort of my mantra for what I’m doing for the rest of my life”

THREE SIDES OF ONE

これまで、KING’S X ほど見過ごされてきたバンドはいないかもしれません。ただし、dUg Pinnick, Ty Tabor, Jerry Gaskill の3人は、チャートのトップに立つことはなかったかもしれませんが、熱心なファンの心には深く刻まれ続けています。
80年代半ば、このトリオはテキサス州ヒューストンに渡り、メガフォース・レコードと契約。”Out of the Silent Planet”(1988)、”Gretchen Goes to Nebraska”(1989)、”Faith Hope Love”(1990)と、口紅とロングヘアのゴージャスな時代において、あらゆるジャンルの規範を無視した伝説のアルバムを3枚録音しました。
だからこそ、90年代初頭には、多くの仲間のロックバンドを虐殺したグランジの猛攻撃から免れることができたのかもしれません。音楽界の寵児として、また “次の大物” として、KING’S X はアトランティック・レコードに移籍し、セルフタイトルのアルバム(1992)を録音しましたが、残念ながらビルボードに並ぶほどの成功は得られませんでした。それでも彼らは、90年代から2000年代にかけて、感情を揺さぶる、音楽的に豊かなアルバムを次々と発表し続けました。
そうしてロックミュージックで最も露出の少ないバンドは、2008年に突然沈黙するまで、自らの道を歩み続けたのです。
休止中も、dUg は KXM や GRINDER BLUES で音楽を作り続け、自身の名義でレコードをリリースするなど、ゲリラ戦士として戦いを続けていました。クリエイティビティに溢れるベーシストは KING’S X の終焉を考えることはありませんでしたが、一方で、次のアルバムも必ずしも期待しているわけではありませんでした。こうして14年という長い間、KING’S X はただ沈黙を守り続けました。世界は変遷し、新しい現状が形成され、KING’S X はもはや時代の一員ではなくなったかに思われました。
しかし、14年という長い年月を経て、その門戸は開かれます。ついに彼らは再び一緒に作曲し、レコーディングすることを決断したのです。その経緯を dUg が語ります。
「72歳になるんだけど、歳を重ねた実感があるんだ。自分の年齢を意識して歌詞を書いたから、アルバムは残りの人生をどうするかという詩的なマントラのようなものになった。基本的に、私は人生が終わるまでなんとか乗り切るつもりだ。世の中が見えてきてね。友達のこと、Chris Cornell, Chester Benington, Layne Staley…死んだり自殺したりした人たちのことを考えると、ただただ痛くて、”自分は絶対にそんなことはしない” といつも思っている。人生を乗り切るためには、麻酔をかけられなければならないだろう。けど、あの世で何が起こっているのかわからないし、この世で惨めで痛い思いをしてまで、何も知らないあの世に移りたいなんて馬鹿げてる…それが私の論理なんだ。だから、アルバムはそういうところから生まれたものなんだ」

たしかに、”Three Sides of One” は、一見すると瞑想的な作品に見えます。
「まあ、メンバーはレコードを作りたくなかったんだ。なぜなら、作るなら今まで作ったどの作品よりも良いものでなければならなかったから。これまでは、自分たちがやったアルバムのレパートリーに加えるべきものがあるとは感じていなかったんだ。だから、14年かかってようやく “よし、これはいけるぞ” と思えたんだ。私自身は、初日から準備万端だった。14年の間に、いくつかのサイド・プロジェクトを立ち上げたり、いろいろなことをやっていたからね。私が持ち込んだ曲は27曲で、全部新曲だし、Jerry と Tyも何曲か持ち込んでいて、それも全部新曲だ。それで、リストに載っているものを全部、十分な量になるまで実際に覚えていったんだ」
アルバムのタイトル、”Three Sides of One” は3人が共有する生来のケミストリーを表現しています。
「いつもは、アルバムの名前は決まっているんだけど、今回は誰も思いつかなかったんだよね。それで、マネージャーが “Three Sides of Truth” と言ったんだけど、私は、なら “Three Sides of One” はどうだろうと思って、みんなが、ああ、それならいいと言って。そして、そこから出発したんだよ。しばらくすると、子供を持つのと同じで、名前はそれほど重要ではなくなるものだ (笑)」
アルバムには、歳を重ねた3人の自然な姿がさながら年輪のごとく刻まれています。
「Jerry は、基本的に臨死体験から多くの曲を書いている。そして Ty は、今の生活を観察して曲を書いた。私も同じで、72歳になるんだけど、世界が今までの人生とは違って見えてきたんだ。だって、今まで生きてきた距離に比べたら、もうそんなに長くは生きられないんだとやっとわかったからね。そして、そのことについて話したり歌ったりしたかったんだよね。70歳を迎えて、私にとって一番大きなことは、今の世界をどう見ているかを詩的に歌詞にすること、そして同時に自分の周りで起こっていることを書くことだった。政治や人々が憎しみ合う様子など、でたらめなことが起きていることは分かっていたんだ。それを歌うんだけど、ただ説教しているように聞こえたり、すでに聞いたことのあるようなことを言ったりしないように、工夫しているつもりなんだ。
今は、言葉に気をつけないと、アメリカでは自動的に批判される。私は問題を解決するのが好きなんだ。私の問題は、直せないものを直そうとすること。私はいつも、なぜ世界がうまくいかないのかを論理的に解明しようとしてきた。ある意味、人は全員とは分かり合えないというのが結論なのかもしれない。だから、年齢は私たち全員に影響を与えたと思うんだ。また、Jerry はバンドに曲を提出することはあまりない。でも実際は、彼の曲が全員の中で一番いい曲だと思うこともあるんだ。だから曲を持ってきてと言ったんだ。自分たちのアルバムにするために、本当に頭を使ったんだよ」

dUg は今回、”慣れ親しんだバンドでありながら、新しいバンドにいるような気がする” という言葉を残しています。
「新しいバンドに入ったという感じではなく、自分たちを再発見したという感じだと思う。なんというか、”自分は実はいいやつなんだ” と気づくような感覚なんだ。わかるかな?結局、スタジオからずっと離れていて、演奏し始めると、疑心暗鬼になるんだよね。つまり、私たちはいつも自分たちのやることなすこと全部が嫌で、本当のアーティストらしく、自分の芸術に対して否定的なんだ。でも今回は、最初に作った曲のとき、スタジオに行ってベーシックなトラックを聴いたら、生まれて初めて “おお、すごいな!” 思ったのを覚えているよ。やっとわかったよ…と。私たちの演奏には、欠点ばかりに気を取られていて気づかなかった何かがあるんだよな。だから、とてもエキサイティングで、もっともっと探求したくなったんだ」
その新たなマインドは、アルバムの歌詞の内容にも表れています。
「絶望的に見える世界の状況も、人類に何らかの救済や和解があることを願いつつ、それが歌詞に深く刻み込まれている。まあ、自分の周りで起こっていることを考えただけなんだけど。”Give It Up” は、私の気持ちを代弁してくれているような気がするね。私はライトが消えるまで、絶対に諦めない。Layne, Chris, Chester…友達が自殺していくのを見てきたんだ。クリスが死んだ頃にこの歌詞を書いていて、思ったんだよ。”ライトが消えるまで、絶対にあきらめないぞ” と。だって、死後の世界に何があるのかわからないし、そこを好きになれないかもしれないから。だから死ぬことは考えないよ。今できることを精一杯やりたい。最後に麻酔をかけられるまで、ずっとここにいたい。これが私の知っているすべてで、終わるまで乗り切るつもり。それが私にとっての知恵だから。それ以外のことは、他の人が決めることだけどね」

“Swipe Up” は時代を反映した楽曲。
「この曲は Jerry がジョン・ボーナムのスイッチを入れているね。インターネットや iPhone を利用しているときの体験がテーマになっているんだ。私たちはただスワイプし続けるだけで、アルゴリズムが自分だけの小さな世界の中で欲しいものを与えてくれる。だから、この曲は全部それについて歌っているんだ。iPhoneの小さな世界で生きていることについて」
テクノロジーの進歩は、音楽全般に対して悪影響を及ぼしているのでしょうか?
「進歩が起これば芸術も変わる。そういう観点では考えていないよ。例えば、最初のドラムマシンが登場した時、多くのドラマーが職を失った。しかし、突然、ドラムマシンのような安定性とタイミングを持った機械が登場したことで、私たちは皆変わり、クリックトラックで演奏するようになり、ドラマーはより良くなったんだ。オールドスクールはまだ存在して、まだレコードを買い、CDを買っている人もいるけど、新しい世界では音楽の見方や聴き方が違うよね? 彼らは iPhone で音楽を聴くし、彼らが好きな音楽も全然違う。それが “彼ら” の音楽なんだよ。
私が若い頃、THE ALLMAN BROTHERS を聴いていたら、親が “そんなのブルースじゃない” と言うようなものさ。よく、”BB KING を聴きなさい” と言われたものだよ。つまり、進歩とは、そこから何を学ぶか、そして自分の芸術をどのように変化させるかということなんだ。私は、すべてのことをポジティブにとらえるようにしている。難しいけどね。ナップスターが登場したとき、みんなが我々の音楽を配り始めて、それは最悪だった。それで、私たちはひどい目に遭ったよ。でもね、それでどうなったか?私たちは、人々が買ってくれるような素晴らしい商品を作る方法を学ばなければならなかったし、人々が私たちのライブを見に来るような良いコンサートをやらなければならなくなった。自分に起こることはすべて、自分なりの方法で適応していくしかないんだ。あの出来事で泣く人がいるなんて、そんなの戯言だ。泣いてばかりじゃダメだ。立ち上がって、やり遂げるんだ」

ネットがもたらしたものとその弊害にも言及します。
「人との関係において私が常に念頭に置いているのは、相手の行動を理解し、自分の気持ちを明確にして、争いのない方法でお互いに共存できるようにすることなんだ。私はいつも、平和を作るための新しい方法を探している。昔、このことを歌にしたことがあってね。私の人生は、どうやって人と良い友達になるかの積み重ねだった。彼らを知り、彼らを理解し、彼らを愛するようになることのね。
私は、人と一緒にいて、同意したり、反対したりして、みんながうまくやっていけることに心地よさを感じていたし、そのことに満足していた。だけど突然、アルゴリズムが入ってきて、みんながYouTube やスマホなどを見ていると、ビッグブラザーが私たちの行動をすべて見ていて、私たちの好みをフィード、与えてくるようになった。それが始まって10年ほど経ったよね。遂に私たちは、スマホの向こうに同じ現実を持っている人は一人もいないというところまで導かれてしまった。一人もね。一つの信念に溺れるまでとことん与えられる。そして、突然、誰も信用できなくなり、それぞれが快適で同じ意見を持つ人だけが集まる洞穴の”部族”に戻ってしまうんだ。
インターネットがもたらしたもの、それは私たちが原始人だった頃のような “部族”を生み出したということなんだ。
私には出口がわからない。今のところ、出口は見えないよ。たとえコンピュータを全部止められても、私たちにはすでに強固な”部族”がある。そのどれもが外部からの影響を受けないようになっているんだよ。変えることができる唯一のものは、洪水や宇宙人の侵路で、全員が警戒心を捨てて人類のために戦い、何か統一的な危機が訪れることしかないよね」
アルバムのクローサー “Everything Everywhere” はまさに完璧なエンディングです。
「ビートルズのようなサウンドの曲を書きたかったんだ (笑)。観客たちが叫びながら歌っているような感じで、私のアンセムという感じ。大勢の人が手を挙げて歌っているのを見れたらいいなと思うんだ。そうしたら気持ちいいからね。この曲には真実の要素が含まれていると思う。なぜなら、私たちは皆、愛を探しているから。愛には、たわごとをかき分け、すべてを癒し、すべてを乗り越える力がある。この曲は私の家路であり、私の癒しだから」

他の作品よりも優れていなければ、必ずしもアルバムを作る必要はないということは、14年経った今、この作品はこれまでやってきたことをすべて上回るということなのでしょうか?
「ああ、そうだね、このアルバムは今までのどの作品よりも優れているね。というのも、私たちは43年間バンドとして活動してきたわけだから、何をするにしても、すでにやったことよりも良くなければならない。あらゆる意味でそう思っているよ。例えば、子供にマーカーを持たせて、 “毎日、壁に直線を引きなさい” と言うと、50歳か60歳になる頃には、その直線があまりにもまっすぐで、びっくりするくらいになるはずだ。だから、私が考えるに、自分のやっていることを続けていれば、必ず良くなる。それは当たり前のことなんだよ。
ZZ TOP や MESHUGGAH など、私たちと同じくらい長く活動しているバンドを観に行って、20年、30年前に書かれたものを今聴くと、”ああ、同じ曲なのに、どうしてこんなに素晴らしく良く聞こえるんだろう” と思うことがある。だから、私たちも同様に良くなっていると思う。曲作りに関しては、とにかく曲を作り続けて、みんながそれを気に入ってくれることを祈るしかないけどね。でも、シンプルな曲の書き方や、複雑な曲の書き方を学び、それを成功させるために、あらゆる方法で限界に挑戦し続けているんだ。それでも、誰かがつまらないと文句を言うかもしれない。だから、結局は、自分の頭の中に何があるのか、そして、世界中が納得するような曲を書きたいと思ったときに何をやり遂げることができるのか、ということなんだ。たとえそれが、おそらく実現することのない盲目的なファンタジーであっても、それは私の目標であり、実行するだけでもやりがいがあるんだ。つまり、人に伝わろうが伝わらなかろうが、音楽をやり続けること、それが僕にとって最も意味のあることなんだ」
心の中で、KING’S Xはもう二度とレコードを作らないかもしれないと思ったことはあるのでしょうか?
「本当に考えなかったよ。唯一、もう二度とレコードを作らないかもと考えたのは、Jerry が初めて心臓発作を起こしたとき。彼の奥さんからメールが来て、”Jerry が心臓発作を起こした。生きられる確率は50/50″ と。それを見て、私はベッドから飛び起き、”ああ、大変だ…私たちはもう終わってしまうのか” と思ったよ。”全世界で最高の親友の一人がいなくなるのか?バンドができなくなるのか?私が持っているもの、私たちが持っているもの、すべてを失ってしまうのか?” とね。その時に書いたのが “Ain’t That The Truth” で、これはソロアルバムの “Naked” に収録された。1週間後くらいに書いたんだけど、1行目に50/50の可能性みたいなのがあって、すごく影響を受けたんだよね。それ以外は、KING’S X の終わりを意識することはないね。だから、考えたこともないんだと思う。すごい。そう考えると、ちょっとクレイジーだよね!」

2022年はバンドが1992年にリリースしたセルフタイトルのレコードから30周年にあたりました。
「まあ、Sam Taylor との最後のレコードだったわけで、それはそれで意味があった。それまでは、KING’S Xのサウンドを最大限に追求していたと思うんだ。最初の3枚は、インスピレーションを受けたものを何でも書いて、自分自身を見つけようとしていたし、自分自身のサウンドを見つけようとしていたから、いろんな意味で実験的だったと思うんだ。でも、4枚目のアルバムになると、ある程度定まってきたよね。曲作りに関して言えば、”The World Around Me” のような曲は、私が “バックス・バニーのリフ” と呼んでいるもので、ああいうカートゥーンのサウンドが好きなんだ。あのレコードが完成したとき、私たちは気に入っていたし、サウンド的にも良かったと思うんだけど、バンドにとってはひとつの終わりであり、ある種のサウンドの終わりでもあったんだ。Sam Taylor が抜けた後、次のアルバムは “Dogman” で、Brendan O’braien は “このアルバムに何を求めているんだ” と言ったんだ…”ライブで鳴っているような音を出したいんだ。ロックバンドのようなサウンドにしたいんだ” と答えたね。だから “Dogman” では、Brendan はすべてのレイヤーを取り払って、ただひたすらレコードを作らせてくれたんだ」
KING’S X はメジャーレーベルであるアトランティック・レコードから初めて作品をリリースしたバンドでもあります。
「我々はレコード会社からプレッシャーを感じたことはない。なぜなら、我々はレコード会社に “勝手にしろ” と言えるくらい反抗的だから (笑)。私たちはいつもそうだったんだ。アトランティックの子会社だったメガフォースに所属していたんだけど、”Over My Head” が出たときに、彼らが我々に電話してきて言ったんだ。”ラジオで流れてヒットしそうな曲を書くと、いつもその真ん中に何かを入れて、すべてを台無しにするのはなぜだ?”って。こう答えたよ。 “それが私たちの音楽の書き方だからな。ピクニックの真ん中に列車の事故を置いたり、その逆が好きなんだ” ってね。だから、私たちのことを説明したり、カテゴリーに入れたりするのは苦労したよ。ある時期、私たちは音楽業界の寵児で、誰もが私たちが大成することを応援していた。でも、要するに、世の中は茶色いコーラを飲み続けるということなんだ。透明なコーラの味がまったく同じであっても、未知の味に乗り換えることはないでしょう。茶色のコーラを飲み続けるんだ。私に言わせれば、何百万も売り上げているバンドのほとんどは、自分のやりたいことをやっていない。そのようなバンドは、もう一度、本当のことをやりたいと願っているんだ」

反抗的といえば、dUg はかつてキリスト教という “権威” にも牙を剥いています。”Let It Rain” の歌詞はまさにそんな dUg の心情を反映した楽曲。”世界の終わりか新しい始まりか?救世主は?神々は? 今こそ私たちを救ってはくれないのか? 誰もが権利を主張し誰もが戦いたがっている 誰もが自分を正当化して だから雨を降らせよう 恐れを洗い流すために”
「ゲイであることを公表したとき、ハードロック・コミュニティからの反発はなかったんだ。私は声明を出したり、プレス発表をしたことはなくてね。ただ、メジャーなクリスチャン雑誌のインタビューを受けたんだ。彼らが延々と話すから、私はただ思ったんだ。”クリスチャンの偽善にはうんざりだ。私はゲイだと言って、それで終わりにしよう” とね。
今日、それは問題ではない。誰からも反発されたこともないしね。ただし、あの記事が出たときは別だった。KING’S Xのレコードがキリスト教系の店で販売禁止になったんだ。その時、私たちは “素晴らしい!これでキリスト教の汚名から逃れられる”と思った。なぜか、KING’S Xはクリスチャン・バンドと思われていたからね。当時の私たちの信仰がそうだったからかもしれないけど、今はもう誰もそうではない。イエス・キリストは救世主ではないからね。70歳になったとき、世界を見渡してみたんだ。人々にはもっと思いやりと愛が必要だと思った。”雨を降らせて恐怖を洗い流せ” というのは、いい例えだよ。つまり、私たちが問題を抱えているのは、私たちが恐怖を恐れているから。立ち上がり、”怖がるのをやめよう!” と歌う、それが私の仕事なんだ」
しかし、dUg が3歳の時、連れ去られた宇宙人はキリストのようだったとも。
「3歳だって記憶しているのは、母がまだ一緒に住んでいたから。母は私が3歳のとき去ったからね。私が寝ていると、その人が部屋に入ってきたんだ。長いブロンドの髪の毛でローブを着て、それに銀色のベルトを巻いていた。すごく背が高かったのを覚えてる。足に巻き付けるサンダルを履いていたよ。裏口から外に出て、舞い上がったのを覚えてる。私は目が覚めたばかりだったが、外はとても明るかった。その時点で何かおかしいって思って、その人物から離れようとあばれたんだ。ようやく、彼は私の手を放した。次に覚えているのは、母の膝の上にいたこと。それって、ずっと、クレイジーで馬鹿げたことだと考えていた。でも40を過ぎたとき、”Ancient Aliens” を見ていて、わかったんだ。彼らは、人間がコミュニケーションを取ったり、拉致されたという4つのエイリアンのタイプについて話していた。その一つ、Nordic と呼ばれているエイリアンが、まさに彼だった。それまでは、夢を見てたんだって思ってた。でも、40年が経ち、理解したよ。私は拉致されたんだ」

宗教は dUg にとっていつしか虐待へと変わっていました。
「ゲイは忌み嫌われる存在で、神はそれを聖霊への冒涜以外の何ものでもないと嫌ってる。聖書によれば、男は他の男と寝てはならない。私はずっとそう言われてきたけど、でも同性愛者だ。
だから、誰にも言えなかったんだよ。ある時、”じゃあ、イエスがしたようにやってみよう” と決心したね。3日間断食して、自分を”ストレート”に変えてくれるよう神様にお願いしようと思ったんだ。田舎のトレーラーに座って、2日間断食して、食べずに水だけ飲んでたよ。祈って、祈って、泣いて、神が私を変えてくれるように懇願したけど、私は何も変化を感じなかった。そして、私は立ち止まって、”あきらめます” と言ったんだ。心の奥底にあったのは、人々が言う『神をあきらめるな』『神はまだ終わっていない』『神を待たねばならない』『神のタイミングで物事を得ることはできない』という聖句のことだった。だからその時は、何をやってもうまくいかないのは、すべて自分のせいだと思った。
ほら、私にとって宗教は抑圧的なものでしかなかったから。宗教は私に何もさせてくれなかった。4、5歳の頃、教会で曾祖母と一緒に最前列に座って、牧師が “踊ったり、酒を飲んだり、夕バコを吸ったりしたら、地獄に落ちるぞ。悪魔がお前を捕まえるぞ” と叫んでいるのを聞いたのを憶えている。悪魔がやってきて私を苦しめるんじゃないかと、子どもの私は毎晩死ぬほど怖くてベッドに入った。悪夢にうなされ、叫びながら目を覚ましたものだよ。
つまり私にとっては、宗教は虐待だった。他の人はそうではないし、私はそれでいいと思う。でも、私にとっては、そうなんだ。誰かが、”ああ、神はあなたを愛し、あなたの罪のために死んだ” と言ってきたら、心の中で “くたばれ” と言いたくなる。でもその代わりに、他のみんなにそうであってほしいと思うように、その人が誰で、何を信じているかを受け入れて、その人を愛するだけだよ。
私は、多くの、多くの、多くの、多くの、真の信者がいると信じているし、彼らを賞賛し、拍手を送るよ。だけどね、宗教でお金を要求する人たちはみんな、デタラメで、うそつきさ。彼らは、人からお金を搾り取る方法を見つけた、ナルシストの集団だ。私は彼らに嫌悪感を抱いている。そして、それを信じていた人たち、今も信じている人たちに対して、悲しみを覚えるんだ。嫌悪感ではなく、悲しみなんだよね。さらに悲しいことに、私は彼らが受け入れないようなタイプの人間だから、離れていなければならないんだよね。それが悲しいんだ。でも、それが人生なんだよね」

自身では、KING’S X のサウンドをどのように “カテゴライズ” しているのでしょうか?
「私たちはスリーピースのロック・バンド。ただそれだけだよ。パンクの曲も、ロックの曲も、ファンクの曲も、同じように演奏できるんだ。ドラム、ギター、ベースさえあれば、どんな曲でも演奏できる。私たちは本当に良いリズムセクションが根底にあって、それが KING’S Xのマジックだと思う。お互いのニュアンスの中で演奏する。音楽だけではなくてね。実際、KING’S Xは、私がこれまで演奏してきたバンドの中で唯一、みんながお互いの話をよく聞いているバンドなんだ。今まで一緒に演奏した他のバンドでは、周りを見渡すとみんな話を聞いていない。お互いの言うことを聞かないし、私の言うことも聞かない。でも私たちは皆、自分たちのやっていることに耳を傾けていて、その結果、違いを見分けることができるんだ」
最近では、”ロックは死んだ” というミームも使い古されてきたようです。
「ロックは死んでいない。ただ、怠け者が外に出て音楽を探さなくなっただけだ。GRETA VAN FLEETの曲は最低だけど、でも、ああした音楽を再現している子供たちがいる。20代の若者たちがサバスや BON JOVI を同時に吸収して、本物の何かを作り出しているんだ。問題は、それをやるための場所がないことだ。彼らを拾ってくれるレコード会社もない。MTVもない。新しいロックを聴かせるFMラジオもない。誰も彼らにチャンスを与えようとしないから、みんなツアーに出ている。そういうバンドを見に行くと、会場は満員になるんだけど、誰もそのことを知らない。”ロックは死んだ” 論者たちに言いたいのは、”おい、泣くなよ。彼らはそこにいるんだ。決して変わっていない。YouTube や Tik-Tok で見るような天才たちが素晴らしい音楽をやっているんだから、そこにいるんだよ” とね。私たちが子供だったころは、MTV はあったけど、Tik-Tok や YouTube がない時代だった。だから、まったく新しい世界、新しい世代の子供たちがいて、世界に対して違う見方をしていて、私が経験することのない違う経験をしている。才能はこれからも変わらず現れるだろう。ロックは決して止まらない」

dUg は世界的に名の知れたロックスターですが、決して裕福な暮らしを送っているわけではありません。
「金がなければサイドプロジェクトをやるだけだ。レコード契約を結んで、2、3ヶ月の間、支払いをするんだ。私たちは誰も9時から5時までの仕事には就いていない。でも、私たちにできることは何なのか。私たちは市場において価値があるから、クリニックとかそういうことができる。手書きの歌詞を作ることもできる。黒い紙に銀色のインクで書き出し、サインと日付を入れるんだ。何百枚も書いたよ…それでうまくいく。それに、この歳になると、ソーシャル・セキュリティーを受けることができる。3年ほど前に社会保障を受け始めたんだ。社会保険で家賃が払えるから、心配することはなくなった。それ以外のことは、自分でできる。街角でギターを弾けば、5ドルが手に入る。友だちに電話して、”お金がないんだ。今日、ご飯を食べさせてくれないか?” と言えば、OK! となる。それに、私にはシグネチャー・ペダルと、シグネチャー・ベースがあって、みんな買ってくれるんだ。だから、時々、6ヶ月分の小切手をもらって、助かっているよ」
ロックの精神は健在でも、同時代の多くのアーティストが降参したり撤退する中で、KING’S Xが長生きできたのはなぜでしょう?
「バカだからだよ (笑)。どんな困難にも負けず、自分たちのやるべきことをやり続けたし、今もそうだ。そして、ステージに上がると、世界に対して私たちが立ち向かうことになる。このバンドは誰も解散するつもりがない。私はこのバンドを辞めないし、Ty も Jerry も辞めない。誰も辞めないよ、だってバンドを解散させる責任を取るつもりはないんだから。私たちはそんなことするつもりはない。そんな愚かなことをするには私たちは優秀すぎるんだ。だから、誰かが死ぬしかないんだ、それでおしまい。この3人のいない KING’S Xは存在しない。それはあり得ないよ。もちろん、KING’S Xのトリビュート作品は常に存在しうるし、もし私が生きていれば、それに出演することもあるかもしれない。でも、私と Ty と Jerry のいない KING’S Xは存在しないだろうし、それは私の心の中で感じていることなんだ。他の人は違う意見を持っているかもしれないけど、これが私の気持ちなんだ」

参考文献: VW MUSIC:An Interview with dUg Pinnick of King’s X

DEFENDER OF THE FAITH:dUg Pinnick (King’s X) Interview

BLABBERMOUTH:DOUG PINNICK Says KING’S X Has ‘Never Been Profitable’: ‘We All Have To Do Outside Things To Make Ends Meet’

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【A.C.T : FALLING】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH HERMAN SAMING OF A.C.T !!

“Hopefully More Will Understand Our Music In The Future. They Will Get It In Time.”

DISC REVIEW “FALLING”

「最近の人たちは音楽の聴き方が変わってきているからね。いつか、長いエピック・アルバムが戻ってくるかもしれないけど、今はファンがバンドにもっと頻繁に音楽をリリースすることを望んでいるんだよ。将来的にはフルレングスのアルバムをリリースするかもしれないけど、今のところ、今やっているEPのコンセプトに満足しているよ」
SNS で30秒の演奏動画がもてはやされ、音楽視聴もストリーミング全盛の時代。時短、合理性、簡潔が価値とされるインスタントな文化において、プログレッシブ・ミュージックは逆風の中にいます。だからこそ、複雑かつ長編のプログ絵巻で世界に抗するアーティストもいますが、スウェーデン、マルメからプログ・ポップを牽引した A.C.T は時代と調和する道を選びました。
「僕たちは、リスナーに “一巡する聴き方” をしてもらいたいと思っているんだよ。1stEP “Rebirth”(春)から聴き始め、”Heatwave”(夏)、 “Falling”(秋)、そして最後のEP(冬)を聴き終えたら、また最初から聴き始める。リスナーには、1年の季節を何度も感じてもらいたいんだ」
近年のパンデミックや戦争、気候変動を見ていると、人はもしかすると歴史から学ぶことなく、何度も何度も滅亡と再生を繰り返しているのではないか?そんな疑念も生じますが、A.C.T が時代と調和する際に選んだのがまさに人類の栄枯盛衰のディストピア。彼らは滅亡の原因を “ヒートウェーブ” と定めました。ただし、熱波は我々のエゴから生まれるのではなく、小惑星の衝突で起こってしまいます。そう、この4部作は6600万年前の再現であり、恐竜と人類の違いが試されているのです。
「僕たちだってより多くの人に A.C.T.を聴いてもらいたいという気持ちはあるんだけど、同時に自分たちのファンベースをとても誇りに思っているんだ。僕たちは世界で最高のファンを持っている!将来、もっと多くの人が僕たちの音楽を理解してくれることを願っているよ。うん、そのうち理解されるだろう」
恐竜と同じように、ごく近い将来、人類は絶滅に直面し、小惑星が最大速度で地球に向かって突進する。この筋書きは、逆境に直面した際、いかに対応し、いかに再生し、いかに人間らしさを保てるかというこれまで人類が養ってきた寛容さや回復力の踏み絵ともなっています。ただし、そうした陰鬱なストーリーにもかかわらず、バンドの活気あるサウンドとアップビートなテンポ、そして澄み渡った旋律の魔法が、EP群をうまく連動して人の光をつないでいます。複雑なプログレッシブ・ロックとエルトン・ジョンやビリー・ジョエルのメジャー感を混ぜ合わせた感染力の強いプログ・ポップはそうしてこの連続リリースにおいて、感情を高めるエフェクトやサウンドクリップを用いることで映画のような一大スペクタクルに昇華されました。A.C.T は決して確立した地位に甘んじるような “役者” ではないのですから。そうして地球は暗闇に飲み込まれます。フォール・アウト。審判の日はすぐそこです。
今回弊誌では、類稀なるフロントマン Herman Saming にインタビューを行うことができました。「新しいバンドが良いメロディーを優先しているのを見るのは素晴らしいことだよ。実はこの秋、MOON SAFARI と一緒にライブをする予定なんだ。彼らは素晴らしいミュージシャンを擁する、とても有能なバンドだ。彼らに会うのが本当に楽しみだよ」 二度目の登場。どうぞ!!

A.C.T “FALLING” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【COVET (YVETTE YOUNG) : CATHARSIS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH YVETTE YOUNG OF COVET !!

“I Would Not Be Alive Today If Not For Guitar!”

DISC REVIEW “CATHARSIS”

「私にとって音楽とは、喜びや悲しみ、怒りなどの感情を吐き出すこと。カタルシスなの」
2010年代にマスロックイーンとして華々しくシーンに登場したイヴェット・ヤングは、CHON, POLYPHIA, PERIPHERY といったバンドとともに時代の寵児として新しいギターの波を起こしました。音楽的な多様性と機材的な野心の革命。そんな中で、まだまだ女性の少ないギター・ワールドにおいて、彼女のずば抜けたテクニックとマルチな才能、そしてキュートな容姿は多くのファンやアーティストを魅了し、さながら”ギタサーの姫”としてシーンを席巻したのです。しかし、どんなお姫様も永遠に夢見る少女じゃいられません。
嵐が巻き起こったのは、2020年のことでした。PERIPHERYのマーク・ホルコムと恋愛関係となったイヴェットは、後に彼が既婚であることを知り正直に事の顛末を話したものの、マークの酷い行いのみならず彼のファンベースからも誹謗中傷を受け、セラピーに通わざるを得ないほどに傷つきます。同時にパンデミックが世界を襲い、ツアーの機会も奪われました。一方で、あのウィル・スミスの娘Willowとコラボレートを果たし、彼女から世界最高のギタリストの一人と称されるといううれしい出来事もありました。しかし様々な”傷”と”歪み”は最終的に、彼女の”ホーム”であるバンドCOVETの瓦解へと繋がってしまいます。
「正直、このアルバムの制作過程はとても困難なものだった。シンプルに言えば、私はCOVETをやめたいと思うようになった。本当に、新たなスタートを切るか、このプロジェクトを完全に破棄するかどちらかだとね。だから、ベースのブランドン・ドーヴ、ドラムのジェシカ・ブルデーとともに”再生”を行うことができるのは、私の人生でとてもポジティブなこと。もう、過去のCOVETのネガティブなことには触れたくないの」
バンドの中で何かがあったのは明らかです。しかし、私たちがそれを知る必要はありません。イヴェットがCOVETに再び前向きになり、灰の中から”Catharsis”という美しい復活の火の鳥を届けてくれた。その事実だけで充分でしょう。そう、これは輝かしいアイドルが成熟したアーティストへと生まれ変わるレコード。そのために必要だったのが、喜びも悲しみも含めた”テクニカラー”な経験で、彼女はそれを今回”カタルシス”として吐き出していったのです。
「このアルバムがあなたを旅に連れ出すことを願うわ。アルバムのテーマはファンタジーへの逃避。音楽は私にとって常にエスケープであり、セラピーの源でもある。この音楽がみんなをどこかに連れて行き、想像力をかき立て、少なくとも何かを感じさせてくれることを私は願っているの」
成熟したアーティストとして、イヴェットが最初にリスナーへと提供したのは、暗い現実、癒えない傷からの逃避場所でした。それは、イヴェット自身、痛みや傷から逃れる手段として、音楽やギターに頼っていた経験があったから。
「ギターがなかったら、今生きていないわ!(笑) 。4歳の時にクラシックピアノ、7歳の時にヴァイオリンを始めたんだけど、プレッシャーが大きくて、体調をひどく崩してしまったの。入院中にギターを独学することにしたんだけど、そのおかげで自尊心が芽生え、自分にはないと思っていた “声” があるように感じさせてくれたの。今でもギターは私にとって神聖なもの。だから、楽器や芸術を通じて、自分の声やアイデンティティ、自己表現を探求することを奨励したいと思っているのよ。私の音楽を聴いたりしてね。そうなれば、多くの命を救うことができるし、人々が世界で孤独や迷いを感じることが少なくなると思うから」
実際、このアルバムを聴いて現在、そして未来においても救われる人は多いでしょう。アートは異世界への扉を開く鍵であり、未来へと続く道。COVET は、独創的なギター、絶妙なアレンジ、予測不可能なリズム、ダイナミックな”音声”によって、臨場感あふれる生き生きとした音世界を作り出していきます。その音色、メロディー、グルーヴは、映画のヒーローやヒロインのように生き生きとしたファンタジックな楽曲のキャラクターを呼び覚ますのです。
「音楽やビデオゲームは逃避のための器にも思えるわ。この世界には多くの問題があるけど、社会問題の解決や地球の修復に力を注ぐ代わりに、テクノロジーを使って代替現実や”より良い世界”を築こうとする傾向があるようね。この曲は、そんなメタファーで、人々がに逃避するための代替現実のようなもの。虚空に飛び込み、幻想的なサウンドスケープの世界へと浸れるようなね」
近年、盟友ともいえるPOLYPHIAのティム・ヘンソンが、その真意は測れないにしろ、ロックやメタル、ギター・ミュージックを時代遅れだと考え、流行とヴァイラルを追う姿勢を少なからず打ち出しています。イヴェットはロックとギターの未来についてどう考えているのでしょうか?
「人気者になることやヴァイラルを得ることは、私の芸術を蝕むと思う。私は自分のために音楽を書き、ギターを弾いているから。それが私の神聖な場所。私の人生を救ってくれた場所。だからもし、人の評価を気にし始めたら、私の書く音楽は本物ではなくなってしまうでしょう。どんなジャンルにも、収まるべき時と場所がある。どんな音楽でも時代遅れだとは思わないし、メタルやロックに見切りをつけるのはフェアではないと思うわ。私はただ、私の音楽で希望が湧いたとか、ギターを手にしたと言ってくれる人がいるととてもうれしいの。不安や痛み、時には抑圧的な現実から逃れるために音楽や芸術に頼ってほしい。そうして、音楽やアートを使って、こんな世界があったらいいなと思うような理想の世界へと旅立つの。音楽はとてもパワフルで、例え歌がなくてもみんなを高揚させ、共感させることができるのだから」

YVETTE YOUNG 弊誌インタビュー 2020

COVET “CATHARSIS” ライナーノーツ4000字完全版は4/21に  P-VINE からリリースされる日本盤をぜひ!!

COVET “CATHARSIS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ICE AGE : WAVES OF LOSS AND POWER】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ICE AGE !!

“I Vividly Remember Kevin Moore Playing Some Of The Songs And Parts That Would End Up On “Images And Words” For Me On The Piano In His Living Room.”

DISC REVIEW “WAVES OF LOSS AND POWER”

「僕たちの音楽が、若い人たちが流行に逆らい、長い曲、挑戦的な歌詞など、こうした体験に没頭するきっかけになればと願っているんだよ。だって、プログレッシブの “巨人” の中には、避けられない時間の経過のために消えてしまった人もいるかもしれないけど、まだ健在なバンドもたくさんあって、プログレッシブ・ミュージックは今こそ、主流で定型的なポップスに代わる選択肢を提供していると思うからね」
インスタントでファストな文化が支配する現代において、プログレッシブ・ミュージックの手間暇や長さ、複雑さは明らかに異端であり逆風です。しかし、だからこそプログレッシブ・ミュージックは今必要なのだと、ロングアイランドのカルト・ヒーローは力説します。Z世代だって全員が全員、時代の潮流やトレンドに馴染めるわけじゃない。僕たちが “選択肢” を提供するのだと。
「DREAM THEATER とは個人的につながりがあってね。Kevin が彼のリビングルームのピアノで、”Images and Words” に入る曲やパートのいくつかを弾いてくれたのを鮮明に覚えているよ。 僕たちを含む多くのプログレッシブ・バンドが “When Dream and Day Unite” に強い影響を受けたことは周知の事実だ。実は、僕はあのアルバムのリリース・パーティに参加したんだけど、PAから聞こえてきた曲を聞いて、文字通りその夜から僕の音楽の趣味や志向が変わったと言えるくらいでね。あれは天啓だったよ」
ICE AGE は1999年に “The Great Divide” で鮮烈なデビューを飾ります。攻撃的なプログ・メタルの複雑性だけでなく、Josh Pincus のゴージャスなボーカルとカラフルな鍵盤による極上のメロディを兼ね備えた彼らは、DREAM THEATER の後継者に最も近い存在だったのかもしれません。
DREAM THEATER については、Kevin Moore 以前と以後がよく語られるトピックですが、ICE AGE は明らかに Kevin Moore 以前の音楽性を受け継いでいました。実際、Kevin と旧知の仲である Josh は、Kevin のようにメロディはもちろん、奇数拍子のダンスに、テクニカルやメカニカルまでもすべて楽曲の “イメージと言葉” へと奉じて、プログレッシブ・メタルの新たな礎を築き上げました。
「僕らはいつも、プログレッシブなフォーマットの中でキャッチーなメロディとパートを持つ曲を書く能力こそが、僕らを差別化するものだと思っていた。 一般的に、このジャンルではボーカルのメロディが迷子になることがよくあるんだ。音楽が先に書かれ、その上にボーカルが “叩きつけられ”、後回しになることがよくあるからね。”Waves of Loss and Power” ではこの罠を避けるように意識したんだ。ボーカル・メロディと歌詞は常に最優先だったよ」
うれしいことに、22年という月日が流れたとは思えないような不変の哲学で彼らは帰ってきました。DREAM THEATER, RUSH, GENESIS, QUEENSRYCHE, KANSAS, STYX といったバンドが煮込まれたプログ・メタルのシチューは、シェフの巧みな味付けによって紛れもなく ICE AGE 以外の何ものでもない美味なる味わいを響かせています。
そして実際、このアルバムにはバンドが残した2枚のアルバム、その続編の意味も込められています。”Perpetual Child”, “To Say Goodbye” はプログ・メタルのファンにとって忘れられないエピックで、その続きを2023年に聴くことができることにまず驚きと感謝を捧げずにはいられません。そしてその “伝承” こそがアルバムのクライマックス。
プログ・メタルの同業者とは異なり、ここに派手さのためのシュレッドはなく、常に楽曲のイメージとアトモスフィアのためにテクニカル・パズルのピースは存在しています。異様なまでに一体化した楽器隊はその証明。彼らは、ムード、テンポ、楽器編成を変化させながら、本物の叙事詩を構築する方法を知っているのです。刻々と変化を続け、好奇心を誘う旋律と戦慄の饗宴は、長尺でありながら一切の切り取りを許さないがゆえに現代への完璧なアンチテーゼであり、もっと言えば、マグナ・カルタに “潰された” SHADOW GALLERY や MAGELLAN, DALI’S DILEMMA の墓標まで背負った魂のルフランなのでしょう。
今回弊誌では、ボーカル/キーボードのJosh、ベースの Doug Odell, ドラムの Hal Aponte にインタビューを行うことができました。「このアルバムは、戦争の非人道性、特に20世紀半ばの中国によるチベットへの侵略と文化破壊について扱っている。これは、領土の征服だけでなく、基本的な人権や良識の抑圧という点でも、心を痛める例なんだよ。 君の言う通り、こうした戦争は各地で現在も続いている。ある派閥が自分たちの世界観や宗教を他の派閥に押し付けようとするのは、常に危険で、しばしば暴力的となる。それは人類が持つ最悪の衝動なのだよ」どうぞ!!

ICE AGE “WAVES OF LOSS AND POWER” : 10/10

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COVER STORY 【MR. BIG : THE BIG FINISH】INTERVIEW WITH NICK D’VIRGILIO !!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH NICK D’VIRGILIO OF MR. BIG !!

“I Could Never Replace Pat. He Had a Unique Sound And Feel And The Band Really Gelled Together In a Great Way. He Was a Huge Part Of The Mr Big Sound. All I Can Try To Do Is Play To The Best Of My Ability And Pay Tribute To Pat.”

THE BIG FINISH

パット・トーピーが私たちの前からいなくなって、どれくらいの月日が過ぎたでしょう。アイスクリームとハンバーガーを愛し、アメリカの学園モノに出て来そうな爽やかな笑顔でブロンドをなびかせ、年齢をちょっぴり詐称した歌って叩ける MR.BIG のドラマーはあのころ、文字通りみんなのアイドルでした。
ただし、ポール・ギルバート、ビリー・シーンという当代きっての弦楽隊のおかげで霞んでしまってはいましたが、パット・トーピーは顔が良いだけでなく、相当の実力者でバンドの要。”Take Cover” や “Temperamental”, “Undertow” のユニークなリズム・パターンに巧みなゴーストノート、ボンゾを思わせる骨太でタメ気味のドラミングはやっぱりスペシャルで、”Yesterday” を歌いながらソロをとるパットの姿がみんな大好きだったのです。
そして、どこか飄々として浮世離れしたポール、やんちゃなエリック、職人肌で真面目なビリーをつないでいたのもやはりパットだったのでしょう。特に、ビリーとエリックが一時、相当険悪な仲であったことはもう誰もが知る事実ですから。
結局、私たちはパットを失って再度、MR.BIG は “あの4人” でなければならないと痛感させられました。1度目はポールがバンドを去った時。FREE の名曲をその名に冠するバンドです。リッチー・コッツェンでも、むしろポールよりリッチーの方が上手くいってもおかしくはなかったのです。しかし、実際はポールの不思議なメロディ・センスやメカニカルなギターを失ったバンドは一度瓦解しました。
今、THE WINERY DOGS が生き生きとしているのは、THE WHO や FREE の21世紀バージョンを全力で追求しているから。MR.BIG の建前はたしかにほぼ同じでしたが、実のところ彼らはもっと甘いメロディやスター性、派手なテクニックを売りにしていました。その “アンバランス” が実は MR.BIG のキモで魅力だったのです。リッチーと作った ”Get Over It” は玄人好みの素晴らしいアルバムでしたが、MR.BIG はそもそも玄人好みのバンドであるべきではなかったのです。
だってそうでしょう?90年代、私を含めてどれだけ多くのキッズが彼らに憧れて楽器を始めたことでしょう?バンドを始めたことでしょう?アイバニーズのFホールやヤマハのライトグリーンがそこかしこに溢れていたのですから。今、あれだけ長いソロタイムを設けられるバンドがどれだけいるでしょう? “Raw Like Sushi” シリーズのソロタイムをみんなが食い入るように分析していたのですから。MR.BIG はあのころ日本で、楽器をより純粋で真剣な何かへと変えていきました。それは彼らがとことんキャッチーで、ある種のアイドルで、全員がスーパーなテクニカル・スターだったからできたこと。
そんな日本におけるハードロックの父、MR.BIG にも遂に終焉の時が訪れます。エリックは最近、こんな話をしていました。
「BON JOVI がこの年まで続けるとわかってたら “Livin’ On A Prayer” をあんな高くは歌わなかったと言ってた。僕もそう。南米のバンドとやるときに “Lucky This Time” をやりたいと言われたけど無理だった。”Green-Tinted” の高音でさえキツイんだ」
あのベビーフェイスで鳴らしたエリックももう62歳。ポールは56歳。ビリーにいたっては69歳。もちろん情熱は年齢を凌駕しますが、それでも人間に永遠はありません。
それでも、パットが亡くなってから数年後、エリックはこう話していました。
「MR.BIG をまたやりたいよ。あの音楽が大好きだし、バンドを愛してるから。ビリー、ポール、そしてパットの魂とまたステージに上がりたいね」
パットの座右の銘は、”Never Give Up” でした。病に倒れたあとも、パットは常にバンドと帯同し、諦めず、不屈の精神で MR.BIG の音楽と絆を守り続けてきました。だからこそ、やはり幕を下すべき時なのです。お恥ずかしい話ですが、少なくとも私はあのころ、4人の絆と友情を純粋に信じていました。でも、それもあながち間違いではなかったのかもしれませんね。エリック、ポール、ビリー、そしてパットの魂は今回の “The Big Finish” ワールドツアーを最後にやはり、バンドを終わらせるつもりのようです。とても、とても残念で寂しいですが、それはきっと正しい決断なのでしょう。
最後のツアーは、MR.BIG のアンバランスが最高のバランスを発揮した “Lean Into It” が中心となります。マキタのドリルも、”Alive and Kickin” の楽しいハーモニクスも、”Green-Tinted” のメロディックなタッピングも、”Road to Ruin” のビッグ・スイープも、もしかしたらこれが聴き納めとなるかもしれません。しかし何より、多くのファンに別れを告げるため、物語をしっかりと終わらせるため、そしてパットに対する美しきトリビュートとしても、非常に重要なツアーとなるはずです。
ドラム・ストゥールには、ニック・ディヴァージリオが座ります。現在の英国を代表するプログレッシブ・ロック・バンド BIG BIG TRAIN のメンバーで、SPOCK’S BEARD, GENESIS, FROST, FATES WARNING など様々な大御所バンドで腕を振るって来たプログレッシブの巨人。ドラムの腕はもはや疑うまでもありませんが、ニックはとにかく歌が上手い。MR.BIG がボーカル・ハーモニーを何より大事にしてきたこと、ボーカル・ハーモニーで成功を収めたことはご承知のとおり。インタビューにもあるように、実は VAN HALEN や MR.BIG を愛し、その “歌” で選ばれたニックなら、きっと素晴らしい花道を作ってくれるはずです。
「僕は決してパットの代わりにはなれないよ。彼はユニークなサウンドとフィーリングを持っていて、バンドは本当に素晴らしい形で融合していたんだから。彼は MR.BIG サウンドの大きな部分を担っていたんだ。僕ができることは、自分の能力を最大限に発揮して、パットに敬意を表することだ。でも、僕はプロフェッショナルであることを誇りに思っているし、MR.BIG の曲を本物のロック・サウンドにするために必要なことは何でもするつもりだよ」NDV ことニック・ディヴァージリオの弊誌独占インタビュー。どうぞ!!

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【TRITOP : RISE OF KASSANDRA】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TRITOP !!

“This Is The Dream Of My Life And Sincerely I Don’t Care About Money Or Fame. I Am Aware Of Today’s Prog Situation But My Passion For Music And Prog Helps Me a Lot To Overcome The Difficulties.”

DISC REVIEW “RISE OF KASSANDRA”

「眠る時には、FLOWER KINGS と一緒に演奏する夢をよく見たものだよ。これは僕の人生の夢なんだ。お金や名声はどうでもいいと思っている。もちろん、今のプログ世界が置かれた状況はわかっているけど、音楽とプログへの情熱が、この困難を乗り越えるために大いに役立っているんだ」
今や音楽は、ボタン一つでAIでも作れる時代。インスタントなコンテンツや文化に支配された世界は、長時間の鍛錬や思索を必要とするプログレッシブ・ワールドにとって明らかな逆風です。そんな逆境をくつがえすのは、いつだって情熱です。イタリアというプログレッシブの聖地で育まれた TRITOP にとって、音楽はただ追求し、夢を叶えるための場所。
「僕らにはプログの “黄金時代” が残した文化遺産を守りたいという思いもあってね。プログの歴史を作ってきたバンドの足跡をたどりながら、現代化に向けて創意工夫と先見性を加え、さらに自然に生まれ、発展してきた自分のアイデアを共有しようと思っているんだよ」
音楽でヴィンテージとモダンのバランスを取ることは決して容易い仕事ではありません。しかし TRITOP はデビュー・アルバムからその難題をいとも容易く解決してみせました。HAKEN があの21世紀を代表するプログの傑作 “Mountain” で踏破したメタルとプログの稜線。その景観をしっかりと辿りながら、TRITOP は自らの個性である場面転換の妙と豊かな構成力、そして圧倒的な歌唱とメロディの”ハーモニー”を初手から刻んでみせたのです。ハモンドやメロトロン、シンセの力を借りながら。
「プログレッシブ・アイドルの真似をしたいという燃えるような思いは、成長期に発見した新しいプログレッシブ・バンドによって強められたんだ。DREAM THEATER, THE FLOWER KINGS, KAIPA, ANGLAGARD, HAKEN のようなバンドたちだ」
重要なのは、彼らがただ GENESIS や KING CRIMSON、そしてイタリアの英傑たちの車輪の再発明を志してはいないこと。23分の巨大なフィナーレ “The Sacred Law Of Retribution” を聴けば、古の美学はそのままに、ANGLAGARD のダークマターや、DREAM THEATER の名人芸、THE FLOWER KINGS のシンフォニーに HAKEN の現代性、SYMPHONY X のメタル・イズムまで、TRITOP の音楽には限界も境界もないことが伝わります。ただし、見事に完成へと導いたプログレッシブなジクソーパズルで、最も際立つのはそのメロディ。
「僕たちの目標は、複雑なハーモニーやリズムをベースにしながら、素敵でキャッチーなメロディを作ることだった。君が言う通り、STYX はもちろん、GENESIS や DREAM THEATER といったバンドは、曲を聴きやすくするために常に素晴らしいメロディーを作り出しているんだ。そうしたキャッチーと複雑さのコントラストがこの種の音楽を面白くするのだと思う」
逆に言えば今は、例えば DREAM THEATER がグラミーを獲得したように、メロディに輝きさえあればどんなジャンルにもチャンスがある時代だとも言えます。プログにしても、本当にひょんな事から TikTok でヴァイラルを得ることも夢ではありません。少なくとも、TRITOP はその可能性を秘めたバンドでしょう。さらに言えば、MORON POLICE, MOON SAFARI, BAROCK PROJECT のように、メロディの母国日本で認められることは必然のようにも思えます。それほどまでに、ラブリエやトミー・ショウの血脈を受け継ぐ Mattia の紡ぎ出すメロディは雄弁にして至高。燃える朝焼けのような情熱が押し寄せます。
今回弊誌では、TRITOP にインタビューを行うことができました。「日本は70年代以降、あらゆるジャンルの偉大な “音楽の目的地”だ。日本のファンがプログレッシブ・ロックに対して示してきた、そして今も示している大きな尊敬の念は筆舌に尽くしがたいもので、僕たちはその伝統に敬意を表することを本当に望んでいるんだ」どうぞ!!

TRITOP “RISE OF KASSANDRA” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【GALAHAD : THE LAST GREAT ADVENTURE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH STU NICHOLSON OF GALAHAD !!

“I Think We Moved On From What You Would Call ‘Neo-Prog’ In Terms Of The ‘Sound’ Many Years Ago. I Think That These Days We Have Found Our Own ‘Sound’ Which Is Far More Diverse And Varied Than In The Early Days.”

DISC REVIEW “THE LAST GREAT ADVENTURE”

「最近は以前にも増して新しいプログ・バンドが増えているように思える。確かに、1980年代半ばに結成した当初は、それほど多くのプログ・バンドがいるようには感じなかったし、そうは思えなかった。でも、その頃はインターネットも Facebook もなかったから、コミュニケーションや意識という点では世界はもっと “大きく” て、もっと断片的な場所だったんだよ」
70年代を駆け抜けた偉大なる巨人が去りつつあるプログ世界。この場所はきっと、新たなヒーローを必要としています。しかし、SNS, キリトリ動画、倍速視聴…そんなインスタントな文化が支配する現代において、長時間の鍛錬や複雑な思考を必要とするプログレッシブ絵巻を描き出すニューカマーは存在するのでしょうか?同時に、プログはすでに “プログレッシブ” ではない、ステレオタイプだという指摘さえあります。
巨人の薫陶を受け、”ネオ・プログ” の風を感じ、38年この道を歩んできた英国の至宝 GALAHAD は、自らの経験を通してプログの息災と拡大を主張し、自らの音楽を通してプログ世界の進化を証明しているのです。
「僕たちは “ネオ・プログ” と呼ばれるような “音” からは、何年も前に離れてしまったと思う。最近は、初期の頃よりもはるかに多様で変化に富んだ自分たちの “音” を見つけ出していると思うんだ」
MARILLION, IQ, PENDRAGON。華麗と模倣の裏側にシアトリカルな糸を織り込んだネオ・プログの勃興から少し遅れて登場した GALAHAD は、長年にわたり様々なスタイルを経由しながらその存在感を高めてきました。 現在の彼らの形態は、エレクトロニカとメタリックを咀嚼したモダン・プログにまで到達。
ただし重要なのは、Stu Nicholson が語るように、彼らの現在地ではなく、常に挑戦を続けるクリエイティブな精神とメロディの質、そして感情の満ち引き。同郷同世代の FROST が、彼らと非常に似たアプローチでプログの救世主となったことは偶然でしょうか?きっと、旋律煌くノスタルジアと近未来、そして多様性がモダン・プログの浸透には欠かせないものなのでしょう。
「父はアウトドアやクライミングも好きで、ロンドン登山クラブに入会し、20世紀半ばに活躍したイギリスの著名な登山家エリック・シプトンと知り合いだったそうだよ。だから、アルバムに収録されているジャケットの写真は父のものにしたんだ。僕とはちがうけど、人はそれぞれが様々な方法でクリエイティブになれるんだ」
“登山家のプログ・ロック”。コンセプトや物語も重要となるプログ世界において、GALAHAD はこれまで以上に斬新なテーマを選択しました。高齢となった Stu の父親、その軌跡を讃えるアルバムにおいてバンドは、人はそれぞれがそれぞれの方法で創造的になれると訴えかけたのです。それもまた、”偉大なアドベンチャー” の一つ。
10分のタイトル曲は、グロベアグロックナーやヴィルトシュピッツェの伝説的な登山家たちを讃えるような、激しさと優雅さ、ノスタルジックで挑戦的な雰囲気がまさに “登山家のプログ”。ただ技術と難解をひけらかすのではなく、非常に人間的で感情的な挑戦を俯瞰的に見下ろします。
“Blood, Skin, and Bone” と “Enclosure 1764” の組曲は、プログ世界が必要とするキラー・チューンでしょう。GALAHAD が得意とするエッジと哀愁が効いていて、輝かしいコーラスはアルプスのように何層も重なり高くそびえ立ちます。女性ボーカルのハーモニーはオリエンタルで斬新。何か少し硬質で不気味な感じ、特に後半のスポークン・ワードが独特の世界観を纏います。そこから童謡的で映画的で思慮深い “Enclosure 1764″ の、不吉で社会批判に満ちたイメージへの広がりが群を抜いています。さて、プログは本当に死んだのでしょうか?否。むしろプログに侵食されている。あの CRADLE OF FILTH でさえも。
かつて Stu が門を叩いた MARILLION の現在地と比較するのもまた一興。今回弊誌では、円卓の歌い手 Stu Nicholson にインタビューを行うことができました。「”プログ世界をリードする” というのは、”プログ” というジャンルが非常に多様なために、かなり負荷のかかる文言だよね。もちろん、そうであれば最高なんだけど、正直なところ、我々は自分たちがやることをやり、自分たちの音を掘り下げ、その旅の途中で数人のファンを得て一緒に進んでくれることを願っているだけなんだ」 どうぞ!!

GALAHAD “THE LAST GREAT ADVENTURE” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【SUMERLANDS : DREAMKILLER】


COVER STORY : SUMERLANDS “DREAMKILLER”

“Don’t Take The Easy Dollar. Find What You Want To Do — What Makes You Happy — And Go With It. Live Virtuously, And You’ll Be Rewarded Tenfold. I’m Not Rich, But I’m Happy Where I’m At”

DREAMKILLER

Arthur Rizk はモダン・メタルの秘密兵器でしょう。もし彼の名前を知らなくても、メタルヘッズなら彼の仕事は必ず知っているはずです。2006年以来、プロデューサー、ソングライター、エンジニア、マルチ奏者として300を超える実績を誇る Arthur のキャリアは、ダラス生まれのニューカマー POWER TRIP のデビューフル “Manifest Decimation” を2013年に手がけたことで飛躍的な成長を遂げました。SOULFLY, KREATOR, CAVALERA CONSPIRACY, CRO-MAGS, SACRED REICH, CODE ORANGE, PRIMITIVE MAN, TURNSTILE, SHOW ME THE BODY といったバンドは、Arthur 独特の専門知識から恩恵を受けていますが、これは表面上の話に過ぎません。最近では、ジャンルを超えたラッパー、ソングライター Ghostemane のメジャー・デビュー作を手がけ、90年代のヒップホップへの愛を全開にしたのですから。
「ETERNAL CHAMPION と SUMMERLANDS では、ほとんどメタル以外のものからしか影響を受けていない。僕が本当に好きなのはメロディックなものばかりなんだ。THE EAGLES, Lionel Richie, TANGERINE DREAM といったムードのね。もっとメロディックなものが僕の曲作りのスイッチになるし、そこから何かアイデアを得て、それをメタルとして書くだけなんだ、基本的にね。僕の作品はすべて、メタル以外のものから影響を受けている」

スタジオにいないとき、あるいは海外でライブ・サウンドを担当していないとき、Arthur は自身の2つのバンド、ETERNAL CHAMPION と SUMERLANDS のどちらかで作曲とレコーディングを行っています。剣と魔法に彩られた ETERNAL CHAMPION の “Ravening Iron” でメタル世界に衝撃を与えた後、Arthur は SUMERLANDS でさらに創造の翼を羽ばたかせました。Brad Raub(ベース)、Justin DeTore(ドラム)、John Powers(ギター)、Brendan Radigan(ボーカル)と共に、Arthur はバンドの2作目 “Dreamkiller” に熱中していました。アンセミックなリード、シンセサイザーの音風景、疾走感のあるリフ、そして衝撃のボーカルによる容赦ない音のオデッセイこそ、SUMERLANDS の特徴。しかし、その地層の奥深くには、多様な顧客、独創的なエンジニアリング、バンドであることの本質的な懸念など、彼の目まぐるしいキャリアに由来する複雑な影響力が隠されているのです。すべての経験、技術、教訓は、次のの音楽活動へと注ぎ込まれていきます。Arthur にとって、多様なキャリア、出世の性質、そして自分自身に忠実であろうとする揺るぎない献身は、夢のパワー・メタルを作り上げることにつながったのです。
6年というリリース間隔は非常に長く、故に彼の個人的な、そしてプロフェッショナルな成長によって生み出された勢いは驚異的です。正真正銘のスタジオ研究家である Arthur は、2つの異なる、しかし重なり合う音楽の状態をやり繰りすることを要求されます。”直接”(自身のバンドやプロジェクト)と “間接” (他のアーティストとの仕事)を。時にこの両者は、Arthur の創造的なインプットを、同時に、異なるバージョンで要求します。
「毎日スタジオに入るたびに、新しいことを学んでいるんだ。共に仕事をするすべての人が100万ものことを頭の中で考えている。吸収できることはたくさんあるんだ」

Cavalera 兄弟との出会いこそ僥倖でした。
「Max の前に Igor と友達だったんだ。Igor は Mixhell というテクノ系のプロジェクトに関わっていて、彼と彼の奥さんは Soulwax というドラムが3人、シンセが2人というクレイジーなバンドで演奏している。彼はメタルとは別のアンダーグラウンドの一員なんだ。Igor は僕の Vatican Shadow での仕事を知っていた。Max とはその後、CAVALERA CONSPIRACY のライブで1週間ほど Igor のためにドラムテクをしたときに知り合うことになったんだ。
Max と僕は最初、NWOBHM バンドの SATAN を聴くことでつながったんだけど、彼は “君がSatanを知っているとは!” って感じだった。これは僕の大好きなレコードのひとつなんだ。それから、僕が手がけた CODE ORANGE のアルバムや POWER TRIP の新作などを Max に聴かせたんだ。で、彼らは僕がプロデューサーとして参加することを話し合ったんだと思う。
プロデュースを学んでいた頃は、”Chaos A.D.” や “Beneath the Remains” を勉強した。”Arise” もね。イントロから始まるリバース・ヴォーカル、シンセの音。それを全部自分のものにしたんだ。レコーディング中に Max に言ったんだ。”長年にわたって君から得たアイデアの代価を払うべきだ” ってね。彼は、こういったことを再び探求することに、とても興奮していたよ。僕たちは座って、昔の SEPULTURA や JUDAS PRIEST、80年代の作品やデスメタルを大量に聴いたよ。自分たちが何が好きなのかを話し合うことで、一緒に仕事をする幅が広がったんだ。
それに、彼らはアンダーグラウンドで起こっていることをすべて知っているんだ。ほとんどの場合、彼らは自分たちが好きな若いバンドを一緒にツアーに参加させようとする。Max は文字通り、常に新しいものを探してジャムっているんだ」

そうした相互影響と情報の共生が続く中で、Arthur は作曲とプロデュースという両輪を拡大させることになりました。より多くのミュージシャンが Arthur のソングライティング能力を信頼するようになり、その過程で技術やレコーディング能力を磨いた彼にとって、”直接” と “間接” の関わりを断ち切ることはますます困難になっているのです。
SUMERLANDS の “Dreamkiller” は、BLACK SABBATH の “Mob Rules” のように、”ビッグなドラムとクリーンでありながらギザギザのギター” という80年代のメタルの遺産を受け継いでいます。重要なのは、ストラトキャスター(シェフ曰く、代用不可)のクリーンでクリスタルのようなサウンド。次に、URIAH HEEP, YES, CAMEL といったプログの巨人にレザージャケットを着せ、FLEETWOOD MAC などの “ママロック”、ライオネル・リッチーなどの “ヨットロック”、さらに FOREIGNER, JOURNEY, SURVIVOR のような AOR といったたっぷりで幅広いレトロ・サウンド。最後に、THE CURE の快作 “Faith” のような奇妙な隠し味。
メタリックであることにこれほど無関心なメタルのレコードは他になく、それゆえに “Dreamkiller” は素晴らしいのです。このアルバムは、音楽の持つ力に対する外連味のない喜びの表現であり、また、ディストーションに頼るのではなく、ギタリストの指からギター・ミュージックが生まれることについての頌歌でもあります。対照的に、2016年のデビュー作は “超カルト” で、”クレイジー過ぎるギター、ドラム、ヴォーカルのサウンド “と Arthur は語っていました。
「ファースト・アルバムは、地下室の住人が気に入るようなシックなレコードを作りたかっただけなんだ。失うものは何もなかったからな。ただ、シンセサイザーが全面に押し出された最初のレコードでは、それがギミック的でシンセメタル的なものになるのを恐れていたんだ。パワー・メタルにはしたくなかったんだ。僕は MERCYFUL FATE のようなタイプの、ちょっとした装飾がとても好きだから。このアルバムでは、WARLORD からの影響を少し聴くことができる。彼らはユーロ調のシンセサイザーが多く、地中海やギリシャのような雰囲気があるんだ。僕はレバノンにルーツがあるからね。
レバノン人である僕の琴線に触れるものが好きだね。ギリシャのメタルやキプロスのメタル、地中海のシーンが好きなんだ。イタリアのメタル・シーンでさえ、その土地の歴史に影響された異なるサウンドを聴かせてくれる。WARLORD はギリシャ系のバンドで、ギリシャ出身ではないけど、ギリシャ的なコードやスケールを大量にサウンドに追加していて、それがすごく気持ちいいんだ。あと、キプロスの MIRROR もよく聴いているよ」

この6年間の Arthur の進化が、”Dreamkiller” に、誠実さ、謙虚さ、内省の正確なブレンドによってのみ可能となる重厚さを与えているのです。別の言い方をすれば、このアルバムには失うものがあるのでしょう。
Arthur は自分の部屋にレバノンの国旗を誇らしげに、そして当然のように掲げています。彼のクリエイティブな性格には、実際、そのレバノンの遺産が大きく影響しています。レバノンからの移民である彼の両親は危険を冒してペンシルバニアで新しい生活を始め、イートンでレバノン風デリカテッセンを開業したことは彼の誇りでした。ヘヴィ・メタルの洗礼を受ける前、彼が影響を受けた音楽は東洋と西洋のハイブリッドでした。一方では、レバノンの伝説的な音楽家であるフェアーズ、ファリド、アスマハン・アルアトラッシュのような人たち。もう一方は、”カトリックの賛美歌と中世とドリアンモード”。彼のメタルのルーツは後者にあり、前者はむしろ音楽の極めて個人的な性質、彼の考え方に影響を与えたのです。
「僕はレバノン系のカトリック教徒として育った。結局、音楽だけが心に残っているんだよな。面白いことに、ヨーロッパとこちら側では、好きなメタルが全く違うんだ。ヨーロッパの人たちは、エキセントリックとまでは言わないけど、結構バンドの後期の作品に興味を持つ傾向にある。80年代の大御所バンドなら、そのバンドの後期のレコードも好きなんだよ。例えば80年代のスラッシュ・バンドがあったとして、ヨーロッパの人たちは90年代や2000年代に彼らが作ったゴシック・ロックのようなものも好きだ。例えば PARADISE LOST や SENTENCED のような、ある方向から始まって別の方向に向かったバンドのレコードをずっと追いかけている可能性がある。その理由はよくわからないけどね。アメリカの人たちは、音楽の流行の移り変わりが早い気がするね。
とにかく、レバノンの従兄弟たちが、僕をメタルに引き込んでくれたんだ。IRON MAIDEN の “Virtual XI” とか、そんな感じの適当なカセットテープをくれたんだ。従兄弟たちは僕のヒーローだったから、”彼らがハマっているものは何でもハマらなきゃ!” って感じだったからね。ユーロ・メタルからの影響は、前作よりもこのアルバムの方がより強く出ているんだ」

この Arthur の形成期における幅広い芸術性は、彼の作品に不可欠であり、異例の解決策を発見する欲求を刺激し続けています。ジャンルを超えたラッパー Ghostemane のアルバム “N/O/I/S/E” と “ANTI-ICON” を手がけることは、彼の創造力の試金石となりました。”90年代のラップの大ファン” と称する Arthur は、Bun B や Three 6 Mafia、ヒューストンやメンフィスのアンダーグラウンド・テープなどを参考にしながら作品に臨みました。Ghostemane の挑戦は、”6つのジャンルの音楽をどう融合させ、親しみやすいものにするか”。その挑戦は、確かに大変なものでしたが、Arthur にとって非常に貴重な学習体験となりました。
「Ghostemane は90年代のメンフィス・ラップとインダストリアルとメタルを融合させている。同じような領域だと思うんだけど、僕はエレクトロニックなものが好きで、そういうものをたくさん手がけてきたよ。COCTEAW TWINS や DEAD CAN DANCE の大ファンだからね。そういうものに影響を受けている人たちと一緒に仕事をすることが多いよ」
Arthur は、このレコードを “6、7日で作った” と明かしています。眠れない夜と、信じられないほど楽しい時間を過ごしたと言いながら、彼は、青写真として初期のビート以外は何も持たずに、トラッキング、ボーカル、ミキシング、その他に取り組んだと断言しました。彼の DNA と切っても切れない関係にある、このマルチジャンルなラッパーとの経験で、Arthur の献身と決意が輝きを増したのは明らかでした。
「Ghostemane を失望させたくなかったんだ。このプロジェクトは、彼がメタルやハードコアの世界に飛び込む最初のレコードであり、彼の大事な瞬間だった。そんな瞬間に彼は僕を選んだんだ。を連れてきた。彼は巨大化する瀬戸際にいる。失望させるわけにはいかないんだよ」

Ghostemane との仕事を、”ノスタルジア” という旗印の下に平板化するのは間違いです。むしろ、ノスタルジーとモダンの間の興味深い一線を探っているのです。Ghostemane のメタルとヒップホップの衝撃的なブレンドは、かつての Nu-metal と共通点もありながら、明らかに一線を画すと Arthur は考えています。
では、SUMERLANDS はどうでしょう?”Dreamkiller” に目を通すと、たしかにノスタルジアは誇らしげに袖に纏っています。メタルが無限に進化すると仮定しても、”影響” と “模倣” を区別することは、Arthur がバンドのアイデンティティを構築する際の重要な柱となります。QUEENSRYCHE, JUDAS PRIEST, Jake E. Lee 時代の Ozzy Osbourne のレコードは、”Dreamkiller” に重大かつ明白な影響を与えています。ただし、SUMERLANDS には、プラトニックな理想に対する Arthur の懸念が深く刻み込まれています。彼は、JUDAS PRIEST のようなバンドを表層的に直接パロってロックンロールのグッドタイムを求めるバンドが影響力の不完全な理解であると主張しているのです。
「僕はプリーストの本質は壮大な曲にあると思う。”Sad Wings of Destiny” を聴くと、まるで QUEEN のレコードのように聴こえる。それに、Rob Halford は様々な女性フォーク・ロックに影響を受けていたんだ」

Arthur と SUMERLANDS の80’sメタルへの傾倒は、AOR, Lionel Richie、Earth, Wind & Fire、Bee Gees、そして Arthur のお気に入りである ABBA のような、ノンメタルな影響を隠し味にしています。
「このアルバムでは、誰がどう思おうが構わないと思っている(笑)。新しいシンガーが加わり、バンドが生まれ変わったような感じだ。僕は FOREIGNER の作品の大ファンなんだよ。彼らのおかげで、プロデュースにのめり込んでいったと言えるかもしれない。FOREIGNER の作品では、シンセサイザーの使い方がとても気に入っているんだ。シンセサイザーが前面に出ているわけではなく、質感を高めているような感じ。彼らのように、どの曲もどこかダークで地中海的な雰囲気にしたかったんだ」
Arthur が “ソーセージグラインダー” と呼ぶ、多種多様なアーティストの品揃えの中でも、ABBA は彼の音楽的アプローチの2つの本質を表しています。ひとつは、他のバンドの美学を一面的に捉えて音楽をトレースすることは、失敗する運命にある。2つ目の論考は、影響、認識、そして杓子定規な思い込みの投影がどのように “真正性 “というプリズムに集約されるかに関わるもの。定型の破壊。
「どのタイプの音楽にどのタイプの歌詞が合うか、というようなことは決してあってはならない。だからつまらない音楽が多いんだ。ABBA に “The Visitors” というアルバムがある。彼らが解散して、最後のレコードを作ったときのもの。どの曲も文字通り肌寒くなるような、本当に悲しい気分にさせてくれるものばかりだ。ABBA らしくないが最高なんだよ。ダンス・ギターやシンセサイザーを駆使して、キャッチーなヴォーカルも入れつつ、もっと歌謡曲っぽい曲を作りたかったんだ。誰がこのレコードを気に入ってくれるかなんて、どうでもいいんだ。僕たちはこの作品が大好きで、この作品に夢中になっているんだから」

メタル・アルバムに期待される歌詞の題材として、Arthur が “Sex、ビール、サタン崇拝” と皮肉るのとは対照的に、SUMERLANDS は、無益、黄昏、夜と昼の間の仄かな時間に見られるはかない希望といった、捉えどころのない、暗い願望のようなアイデアを選択しています。これを成功させたのは、バンドの新ボーカリスト、Brendan のおかげだと彼は言います。彼の加入は Paul Di’Anno に対する Bruce Dickinson だと Arthur は語っています。そうなると、 “Dreamkiller” はバンドの “The Number of the Beast” となり、SUMERLANDS はそれに応じて野心を高めてきたことになるのです。彼の声は前任の Swanson よりもしなやかで、上昇気流に乗りながらタイトなコーナーでもしっかりとメロディーを追いかけることができます。ただし、脈打つようなシンセサイザーと焼け付くようなソロイズム、BOSTON のようなポジティブな輝きとは対照的に、”Dreamkiller” は重苦しいユーモアと虚無的な正直さで構成されています。その好対照こそ、SUMERLANDS の真骨頂。
「楽曲の多くは絶望を歌っている。2歩進んだと思ったら、2歩下がっていたことに気づくんだ (笑)。憂鬱な曲ばかりだけど、僕らにはそれが面白いんだよ。それが人生だ!ダークユーモアだよ。まるで僕たちが罰当たりでマゾヒストであるかのようにね、わかる?
それに曲はメタリックだけど、完全なヘヴィ・メタルではない。ヘヴィ・メタルでありながら、ある意味オルタナティブ・ロックのように親しみやすいものにしたかったんだ。メタルはそういうものだよ。その瞬間や雰囲気は、ただひたすらメタル的に “オーバーキル” するよりもずっと重要だと思うんだ。僕が音楽に目覚めた頃、コールドウェーブをたくさん聴いたし、ASYLAM PARTY とか、フランスのバンドもたくさん聴いた。でも、THE CURE はミニマル・ゴスのレコードを作った最初のバンドなんだ。”Faith”。あれは僕にとっては、ちょっと手を加えれば史上最高のメタル・レコードになり得るもので、そこにも大きな影響を受けているんだ」

当然、Arthur はメタル界屈指のスタジオの魔術師であり、”Dreamkiller” でもその神聖な芸術を爆発させています。例えば、タイトル曲の疾走感あふれるメインリフ、それをなぞる羽のように軽いシンセサイザーや、”Death to Mercy” で80年代らしい深いフェードアウトの靄の中に消えていくデュエル・ソロのように、彼は小さなディテールに喜びを感じているのです。もしタイミングとレコード契約に恵まれていれば、JOURNEY や TOTO がアルバムチャートを席巻していた頃、SUMERLANDS は彼らと同等のレコーディング費用を得ていたかもしれません。しかし、Arthur の才能より、彼らはそのような大掛かりなサウンドを、相応の費用をかけずに実現したのです。
もうひとつ、Arthur がこだわったのは、プロジェクトとバンドの区別と、前者の限界です。バンドは、Arthur が言うように、”興奮するためのもの” であり、個別のアイデンティティを持っています。80年代の US メタルは、”1枚のレコードを作るだけで、それが素晴らしいものであったとしてもやがて消えていく” バンドであったと、彼は言います。彼らは成功には無関心でしたが、自分にとって重要なのは ‘彼らがいつもバンドを組んでいたこと” だと Arthur 言い切ります。
「SUMMERLANDS をできるだけ “プロジェクト” から遠ざけようと思ったんだ。2、3人の男が何かをやっているとわかると、人々はそれを小さなプロジェクトか何かのカテゴリーに入れてしまうからね。プロデューサーの産物ではなく、バンドのように思わせたかった」

ギターの話になると、噂の “ストラト・オンリー” ポリシーが登場します。このジョークの由来は、”史上最高のヘビーメタルバンドの1つ” に対する素直な憧れからだと、Arthur は嬉しそうに語ります。「イングランド出身のサタンだ」。彼らのギタリストがストラトしか弾かないという事実が、彼にとってはとてもクールだったのです。IRON MAIDEN のデイヴ・マーレイのストラトに対する長年の執着は本当に面白いと Arthur は言います。彼は、”Twilight Points the Way” のストラト・サウンドが “Dreamkiller” の音色美を最もよく表しているトラックだと主張します。しかし、この曲は単なるストラトの曲ではなく、バンドの結束にとって欠かせない楽曲でもあります。「この曲は僕にとって厳粛な誓いなんだ」
宗教、イデオロギー、スタジオ、ステージ、そして数十年にわたるジャンルを超えた音楽的影響の網の目の中で、Arthur は自分自身に忠実であり続けるという揺るぎない信念を持ち、様々な経験を積みながらその意味を内省的に再確認してきました。彼は、音楽と文化のはかなさを痛感しています。「それが絆だと思うたびに、目を離すと消えているんだ」
特に音楽においては、一般的に2つのうちの1つが起こると Arthur は主張します。一方は、自分の興味に忠実でないまま、若者の好みを追いかけることに終始してしまう。逆に、自分自身に忠実すぎる人は、若い人たちとのつながりを持てないかもしれない。アーサーは、”安全な “ルートを避けながら、自分の興味のある音楽を追求することで、”少なくとも誰かが聴きたくなるようなものを作ることができる” と言います。つまり、彼の芸術的なアイデンティティにとって不可欠なのは、自分の意思に従って音楽の旅をするという決意であり、それは最も大きなリスクであると同時に、最も大きな見返りをもたらすものなのです。
「大物のプロジェクトを引き受けたり、自分の経歴を利用して大きな仕事を得たり、常に自分を売り込むのとは対照的に、そうすることで僕はずっと幸せになれたんだ。安易にお金を取らないこと。自分がやりたいこと、自分を幸せにすることを見つけ、それを貫くこと。高潔に生きれば、10倍の報酬が得られる。僕はお金持ちではないけれど、今いる場所で幸せなんだ。今夜午前2時にコンピュータに向かい、3時間の睡眠をとって朝の8時まで仕事をしても、幸せな気分でいられるよ。自分が取り組んでいることに満足しているからね。これこそが、人が考えるべき人生の大きなポイントだと思う。それが君が取るべきリスクなのさ」

参考文献: Arthur Rizk: Visionary Producer Behind Ghostemane, Sumerlands, and Power Trip

NEW NOISE MAG:INTERVIEW: SUMERLANDS ON MAKING A NON-METAL METAL ALBUM

INVISIBLE ORANGE:Sumerlands Nourish a Love for Heavy Metal on “Dreamkiller” (Arthur Rizk Interview)

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MARBIN : DIRTY HORSE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DANI RABIN OF MARBIN !!

“I Feel Like The Number One Problem With Fusion Music Today Is That People With The Groove Or The Chords First And Their Melodies End Up Being Something That Fits. A Melody Is The Center. Everything Else Should Be Bent To Fit It.”

DISC REVIEW “DIRTY HORSE”

「僕たちは常にメロディから始めるんだ。コードやハーモニーはフレームだけど、結局メロディーを生み出さないとキャンバスの形がわからないからね。今のフュージョン音楽で一番問題なのは、グルーヴやコードが先にあって、メロディがその場しのぎで終わってしまうことだと思う。でもそうじゃないだろ?メロディーは中心だよ。それ以外のものは、メロディーに合わせていかなければならないんだ」
MAHAVISHNU ORCHESTRA や WEATHER REPORT, そしてもちろん Miles Davis など、かつて “エレクトリック・フュージョン” が革命的で、刺激的で、しかしキャッチーな音楽の花形だった時代は確実に存在しました。日本でも、Casiopea や T-Square がマニア以外にも愛され、運動会で当たり前に流されるという “幸せな” 時代がたしかにあった訳です。
なぜ、エレクトリック・フュージョンは廃れたのか。あの Gilad Hekselman や Avishai Cohen を輩出したジャズの黄金郷、イスラエルに現れた MARBIN のギタリスト Dani Rabin は、率直にその理由を分析します。変わってしまったのは、”メロディーだ” と。
「ファラフェル・ジャズ (ファラフェルとは中東発祥の揚げ物) と呼ばれるものは、イスラエルの音楽を戯画化し、わざわざ最大の “決まり文句” を取り上げて音楽の中に挿入し、人工的に一種のエキゾチックな雰囲気を作り出すもので、僕はいつも軽蔑しているんだ。イスラエルは人種のるつぼで、様々なバックグラウンドを持った人々が集まっている。僕は作曲家として、自分の中にある音楽をそのまま出していけば、民族的なスタンプが有機的に、そしてちょうど良い形で自分の音楽に現れてくると感じているからね」
最近のフュージョンの音楽家が思いついたメロディにコミットできないのは、それが自分を十分に表現できていないメロディだから。そう Dani は語ります。たしかに、近年ごく僅かとなったジャズ・ロックの新鋭たち、もしくはフュージョンの流れを汲んだ djent の綺羅星が、予想可能で機械的なお決まりの “クリシェ” やリズムの常套句を多用しているのはまぎれもない事実でしょう。テクニックは一級品かもしれない。でも、それは本当に心から出てきたものなのだろうか? MARBIN は “Dirty Horse” で疑問を投げかけます。
オープニングの “The Freeman Massacre” で、MARBIN の実力のほど、そして彼らが意図するメロディーの洗練化は十二分に伝わります。Dani とサックス奏者 Danny Markovitch はともに楽器の達人で、バンドはグルーヴし、シュレッドし、卓越した即興ソロを奏でていきます。フュージョンの世界ではよくワンパターンとかヌードリングという言葉を聞くものですが、彼らの色とりどりのパレットは退屈とは程遠いもの。
何より、この複雑怪奇でしかし耳を惹くメインテーマは、”ビバップは複雑なメロディとソロのシンプルなグルーヴで成り立っている。それが正しい順序” という Dani の言葉を地でいっています。”Donna Lee” ほどエキサイティングで難解なテーマであれば、ジャコパスも安心して浮かばれるというものでしょう。
一方で、二部構成のタイトルトラック “Dirty Horse” では、バンドのロマンティックな一面が浮き彫りになります。Dani と Danny のユニゾン演奏は実に美しく、目覚ましく、そして楽しい。両者が時に同調し、時に離別し、この哀愁漂う異国の旋律で付かず離れず華麗に舞う姿は、エレクトリック・フュージョンの原点を強烈に思い出させます。
さらに二部構成の楽曲は続き、”Sid Yiddish” のパート1でバンドは少しスローダウンしながら、Danny の長いスポットライトで彼らの妖艶な一面を、チベットの喉歌で幕を開けるパート2で多彩な一面を印象づけます。能天気なカントリー調から急激に悲哀を帯びる “World Of Computers” の変遷も劇的。正反対が好対照となるのが MARBIN のユニークスキル。
驚くことに、このアルバムは2021年8月にスウィートウォーター・スタジオにおいて、たった3日でレコーディングされています。これほど複雑怪奇で豊かな音楽を3日で仕上げた事実こそ、MARBIN がフュージョンの救世主であることを物語っているのかも知れませんね。MAHAVISHNU のようなレジェンドのファンも、THANK YOU SCIENTIST のような新鋭のファンも、時を超えて手を取り合い、共に愛せるような名品。もちろん、メタル・ファンは “Headless Chicken” でその溜飲を下げることでしょう。
今回弊誌では、日本通の Dani Rabin にインタビューを行うことができました。「僕がイスラエルのサウンドで本当に好きだったのは、東欧の影響とショパンのような和声進行がミックスされている音楽なんだ。というか、僕の好きな世界中の音楽には、そうした共通点が多くあるんだよね。 Piazzolla や Django Reinhardt と、僕が好きなイスラエルの音楽は、ある意味、思っている以上に近いんだよね」 どうぞ!!

MARBIN “DIRTY HORSE” : 10/10

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NEXT BREAK-THROUGH 【CROWN LANDS: THE LEGACY OF RUSH TO BE PASSED ON】


NEXT BREAK-THROUGH : CROWN LANDS “THE LEGACY OF RUSH TO BE PASSED ON”

“One Of Our Favorite Bands Is Rush,And They Always Joke About Being The World’s Smallest Symphony. And We Kind Of Wanted To One-up, Or One-down Them, And See How Lush, Orchestral And Symphonic We Could Get With Our Rock Sound.”

WHITE BUFFALO

目を閉じると、誰もがそこに4人のミュージシャンがいると思うに違いない。
CROWN LANDS の音楽は、力強く、幻想的で、広大です。では、この若い二人のロッカーは、どのようにしてステージ上でこうしたワイドなサウンドを実現しているのでしょうか?
ひとつは当然、その音楽的な卓越性です。CROWN LANDS のシンガー兼ドラマー、Cody Bowles は、甲高い歌声と熱いビートを操る。一方、Kevin Comeau はギターの嵐、シルキーなシンセサイザー、輪郭の濃いベースを、しばしば同じ曲の中で同時に繰り出していきます。
「RUSH は僕らの好きなバンドのひとつなんだけど、僕たちは彼らはいつも世界一小さなシンフォニーだって冗談を言っているんだ。そして、彼らを超えるか、あるいは下回るかわからないけど、自分たちのロックサウンドでどれだけ豪華でオーケストラ的でシンフォニックになれるか試してみたかったんだ」そう Comeau は語ります。

RUSH の傑作 “A Farewell to Kings” は今年で45周年です。
「RUSH を知ったのは、僕が10代の頃、実は両親が RUSH を公然と嫌っていたからなんだ。僕は当時パンク・ロックに夢中で、音楽的な才能というよりも、彼らの反骨精神に惹かれていたんだよ。でも、両親が実は THE CLASH が好きで、MISFITS を面白いと思っていることに気づいたとき、パンク熱が冷めたんだよね。それで、”両親は何を嫌っているんだろう?”と思ったんだ。RUSH が嫌い?完璧だってね。それで、”彼らのアルバムを全部ダウンロードしよう” と思ったんだ。それで、叔父さんから彼らのディスコグラフィーを入手して、iPod にダウンロードしたんだよ。
この作品の冒頭の2曲、”A Farewell to Kings” と “Xanadu” は、ロックフィールド・スタジオの中庭でアコースティック・ギターやパーカッションなど、鳥のさえずりが聞こえるような牧歌的なサウンドをたくさん録音していて、僕の心を打ちのめした。そんな雰囲気のレコードは初めてで、想像を掻き立てられたんだ。その頃、僕は14歳でベースを弾いていたので、ベースが目立つ音楽ということもあって、RUSH の世界に入ることができた。GREEN DAY の Mike Dirnt、THE CLASH の Paul Simonon には大きな影響を受けたけど、Geddy Lee のような人はそれまで聴いたことがなかったんだ。THE WHO の John Entwistle くらいかな。
“A Farewell to Kings” は、変拍子やプログレッシブ・ロックの曲構成に対して僕の心を開き、ヴァース・コーラス・ブリッジに縛られなくなったんだ。まるで魔法のようだろ? “Xanadu” の冒頭でタウラスのペダル・パッドを聴いたとき、初めてシンセサイザーが何であるかを認識したんだよ。
人の心に響く音というのはあるものだね。僕の場合、自分たちの音楽の中でムーグの質感や音色に惹かれるのは、”A Farewell to Kings” があったから。Geddy がミニムーグとタウラスペダルを持ち出した最初のレコードだったんだ。そして Peart はドラマーからパーカッショニストになった……。
サウンド・デザインや美しい情景描写と、伝統的なハードロックの音楽性のバランスは、RUSH が “A Farewell to Kings” からずっと大切にしてきたことだね。だから特に今回、僕たちの新譜では、言葉だけでなく音楽で物語を語り、ある時間や場所を捉えようとした。そうやって、その感覚に近づきたかったんだ。”Xanadu” はプログラム・ミュージックの最初の例のひとつで、物語や絵を語るインストゥルメンタル音楽。この曲の最初の3分間は、文字通り、頭の中に信じられないような絵が描かれるんだ。
高校生の時、好きな女の子がいて、彼女のお父さんがこのアルバムをレコードで持っていたのを覚えているよ。そのレコードのアートワークに、RUSH は本当に大きなのお金をかけていた。開けてみると、クレジットや美しい歌詞がきれいなフォントで書かれているんだ」

Bowles の特にお気に入りの RUSH 作品は3枚。
「常にに変化しているけど。”2112″ と “Caress of Steel” が最高を争っていて、”A Farewell to Kings” は3番目に近い位置づけかな。”2112″ を初めて聴いたときは、鳥肌が立ち、涙が出たよ(笑)。とても美しかった。正直なところ、ずっと Geddy の声は女性だと思っていたくらいでね。その後、”こんなふうに歌える人がいるんだ。信じられない。今までで一番素晴らしい歌声だ” と思ったんだ。そして今日まで、僕の人生の中で最高の歌声を聴かせてくれている。
でも正直なところ、別のアルバムが1番という日もあって、不思議な感じ。RUSH の場合、どのアルバムも、ある特定の日にその順位が変動するような気がするんだ。RUSH は物心ついたときからずっと好きなバンドで、家庭の必需品。正直、高校時代まで専ら聴いていた3つのバンドのうちのひとつさ。つい昨日も “2112” を聴いていたんだよ。Comeau が言っていた不思議な感覚は、僕も “Xanadu” を初めて聴いたときに同じ体験をした。実は、父が僕を RUSHに引き込んでくれたんだ。彼はドラマーで、長い間演奏しているんだけど、子供の頃からずっと RUSH に夢中だった。僕がまだ1歳にもなっていない頃、自宅の地下室で彼が “2112” のドラムセクションをすべて完璧に演奏するのを見たからね。彼の演奏には、ただただ畏敬の念を覚えたよ。僕は、リビングルームにあるカセット・プレイヤーでテープを聴き、ラジオに合わせて彼がドラムを演奏することで、その年齢から RUSH にのめり込んでいったんだ。”Xanadu” が流れてくるたびに “魔法の曲” だと思い、音量を上げていたのを思い出すよ。自分のレコードを手に入れるまで、それがどのアルバムのものなのか知らなかったけど。
“A Farewell to Kings” の雰囲気は、本当に大好だ。とても美しく、中世的でね。僕が本当に好きなバンドは皆、この中世的なエッジの効いたアルバムを1枚か2枚出すという奇妙な時期があるんだけど、QUEEN も “Queen II” で同じことをやっているよね。Comeau が言ったように、アコースティック・ギターのトラックで聴ける野鳥の声は、初めて聴いたときには忘れられないもの。そして、Geddy のメロディーの選び方や、音楽との連動性には本当に影響を受けた。それは、長年にわたって聴き続けることで、意識的に、あるいは浸透的に、確実に身についたものだ。”これこそ音楽がなし得るものだ。これが音楽が到達できる高さなんだ” と。僕がずっと憧れていたものだよ。美しくて、決して頭から離れない」

ライブにおいても、RUSH は彼らに大きな影響を与えています。
「RUSH のライブはとてもエキサイティングで、スタジオ録音を一音一音、カットごとに再現するような、当時ではありえないようなライブをやっていたよね。GRATEFUL DEAD のように、毎晩まったく違うライブをするバンドもいるけど、RUSH は “スタジオ録音を3人で完璧に再現する” という、まったく別の道を歩んだわけさ。彼らがテクノロジーを取り入れたこと、つまり正しい極性のフットスイッチを自作しなければならないほど早くからシーケンサーに取り組んでいたことは、当時はライブパフォーマンスの標準ではなかったんだ。彼らはキャリアの最後までクリック・トラックやバッキング・トラックを使用していなかったけど、彼らはテクノロジーを押し進め、その時点で彼らのライブサウンドは他の多くのバンドよりずっと先を行っていた。そのサウンドは、ブートレグの音源で聴くことができるね」
Terry Brown, Nick Raskulinecz, David Bottrill…RUSH を手がけた3人のプロデューサーと仕事を行う機会にも恵まれました。
「Terry から始まって、最初から “なんてこった、僕たちが?!”って感じだったんだ。その後、ツアーで曲が発展して、Nick にも参加してもらったんだけど、”これは完全にイカれてる” って感じだったよ。この2人のプロデューサーと仕事をしたなんて、信じられなかった。RUSH の最初の10枚を手がけた人と、最後の2枚を手がけた人、この2人と仕事をしたことが、僕らにとっては大きな意味を持つんだ。そして、Dave と一緒にボーカルを担当したことは、ストーンヘンジのような瞬間だった」
CROWN LANDS の今の時点における代表曲 “Context: Fearless Pt. I” は、その “2112″ 風のタイトルからもわかるように、確かに RUSH を彷彿とさせます。2021年のスタジオ・ライブ・アルバム “Odyssey Vol.1″ に収録されたバージョンには、特に素晴らしい演奏が残されています。
代数的な迫力に加えて、RUSH と CROWN LANDS はカナダという同じ故郷でつながっています。後者はオンタリオ州オシャワの出身で、前者は60年代後半のトロントで結成されました。
さらに、”ヒーローに会うべからず” という格言もありますが、CROWN LANDS の二人は、2020年にドラマー兼作詞家の Neal Peart が脳腫瘍で亡くなった後、遺されたメンバー、ベーシスト兼シンガーの Geddy Lee、ギタリストの Alex Lifeson と友人にまでなっているのです。
Bowles は Lifeson と Lee について、「人としてどうあるべきか、人にどう接するべきかは、音楽で何を作るかと同じくらい重要で、彼らはとても謙虚に人生を歩んでいる。40年も一緒に活動してきたのに、いまだに親友なんだ。君たちがツアーで長い時間を過ごしたことがあるかどうかは知らないが、これは驚くべき偉業なんだよ」と尊敬を新たにしています。

CROWN LANDS は、2021年のチャリティ・ギグで Lifeson のバックバンドを務めました。その際、Lifeson は Comeau に彼の象徴的な白いギブソンのダブルネックを貸し出し、持ち帰らせたのです。「あのギターで僕は毎晩、名曲 “Xanadu” を演奏したよ」と Comeau は振り返ります。「彼はとても寛大な人間なんだ」。Lifeson はまた、チャリティ・ショーのステージで、RUSH の名作写真に数多く写っている別のギブソンも Comeau に貸し与えました。
さらに、Comeau は FOO FIGHTERS のドラマー、Taylor Hawkins のオールスター・トリビュート・コンサートに向けて、RUSH のリハーサルに Dave Grohl と一緒に参加しました。彼は、ショーのために Lee のシンセサイザーをプログラムすることまで経験したのです。
ライブ配信も行われた9曲入りのLP “Odyssey Vol.1” は、CROWN LANDS の提示する新しくて懐かしいプログレッシブ・ハードロックへの理想的な入口となる作品でしょう。1971年の “At Fillmore East” がサザン・ロックの巨匠 THE ALLMAN BROTHERS の代表作となったのと同様に、”Odyssey” は CROWN LANDS 最初の3枚のスタジオ・アルバムからの曲をライブ演奏の熱気とともに、鮮明に捉えてより印象を強めています。
Comeau はバンドのバイブルとして、2021年のEP “White Buffalo” に収録され、”Odyssey” のフィナーレを飾る大作 “The Oracle” を挙げています。CROWN LANDS にとって、この曲はステージで演奏するのが最も難しい曲の一つ。
「大音量のヘヴィーな曲をライブで演奏するのは本当に簡単なんだ。スライドを駆使した “Mountain” のような初期の楽曲みたいにね。だけど、ダイナミクスを追求すると、バンドの人数が少なければ少ないほど、各メンバーの音量が大きくなる。だから、5人組や6人組のバンドは、それほどプレッシャーがかからないんだよね。”The Oracle” はダイナミックに動く音楽で、15分間に渡って拍子記号やとんでもないキーチェンジが繰り返されるから、常に気を抜けないんだよ」

“White Buffalo” のタイトル曲は、BLACK KEYS や WHITE STRIPES といった有名なインディー・ロック・デュオのファンにもアピールしそうな簡潔なロック・ナンバーです。しかし、ギターを弾くフロントマンがいる前述の2つのバンドとは異なり、Bowles は歌うドラマーで、それが CROWN LANDS に異なるグルーヴを与えています。
Bowles は、「歌いながらドラムを叩くことで、すべてのリズム、アクセント、ヒットを熟知することになる。だから、無意識にそのビートに合わせてボーカルのリフやフックを作り始めて、それがメロディの作り方に影響しているような気がするんだ」と語っています。Bowles は、”White Buffalo” のプロデューサーである David Bottrill が、以前 TOOL や Peter Gabriel と仕事をしていたことで、彼のボーカルのフレージングを広げる手助けとなった、そう信じています。
“White Buffalo” のブギーの中には、CROWN LANDS の心に寄り添う歌詞のメッセージが込められています。「多くの先住民の文化では、白い水牛は強さと繁栄を象徴している」と、ノバスコシア州の先住民族ミクマクのハーフである Bowles は説明します。
「この曲には、本当に素晴らしいドライブ・ビートがあった。止められない鼓動のような感じがしたんだよね。バンドにとって、このビートは野生の動物を連想させるものだった。そのことを考えると、先住民の先祖を持つ僕は、先住民のために望むべき新しい時代の到来について話したいと思ったんだ。それは、団結して、過去数百年間に僕たちの皿に押し付けられてきたすべての抑圧を克服するということだ」
音楽や生き様にもミクマクの遺産は息づいています。
「ミクマクは、僕の音楽の追求と芸術的表現に宿っている。僕はミクマクのハーフであることを誇りに思って育ち、学校でみんなに話すのを楽しみにしていたんだけど、それはすぐにからかいやいじめ、アメリカの過去に僕の民族に起こったことについての人種的な “ガスライティング” “心理的虐待” に変わったんだ。僕は子供の頃、長い髪をポニーテールや三つ編みにしていたから、よくからかわれたものだよ。残念ながら、これは日常茶飯事で、何年もネガティブな影響を受けてきた。先生にさえからかわれたから、家にいてドラムを叩くのが好きになったんだ。
週末になると、アルダービル先住民族の近くにあるコテージに行くんだよ。そこで子どもの頃、多くの時間を過ごした。僕たちは、その保護区の家族や長老と友達だからね。彼らから、先住民であることの意味について、かけがえのない教えを受けたんだ。
そして僕は、自分が女性的な側面と男性的な側面を併せ持つ “2つのスピリット” であることを深く理解することができたんだよね。西洋的な性別違和の二項対立に自分が当てはまるとは思えなくて、最近まで自分のその部分を探求することが難しかったんだけど、先住民の教えは深い解放と美しい啓示であり、今でも毎日多くのことを発見しているよ。
僕は自分の文化的ルーツに誇りを持ち、それを心の中に大切にしまっている。生い立ち、アイデンティティ、文化のこうした側面は、バンドの創作と並行して生きているんだよ」

Bowles は男性的な面と女性的な面のバランスはどう取っているのでしょうか?
「ツー・スピリットであることは、両方を持っているようなもの。ただ、僕がツー・スピリットであることを人に話し始めたとき、皆が “もう知っているよ。君にはそのエネルギーがある” と言ってくれる。その圧倒的な受容は嬉しいよね。でも、あまり意識はしていないんだ。ある時は男性的で、ある時は女性的。まるで自分が美しい星で、その周りには美しい惑星がたくさんあって、ある星の方に引っ張られたり、別の星に好かれたり、でも決して一つの場所にいるわけではない…そんな感じかな。フレディ・マーキュリーは、僕にとってファッションの象徴。昔は、古着屋で何日もかけて自分に合うもの、合わないものを見つけるのが好きだったね。レディースのコーナーには、いい服がたくさんあるから、もっぱらそこで買い物をしているよ。特に何が欲しいというのはないんだ。ただ、気に入ったものを見つけて、それを着るだけだけど。外に出るとみんなに変な目で見られるけど、僕はそれが好きだ。自分を表現するのは素晴らしいことだからね」
皮肉なことに、多くのバンドがブレイクした曲を恨むようになると言われています。しかし、CROWN LANDS と “White Buffalo” の関係はそうならないと Comeau は考えています。
「この曲はラジオやストリーミングで最も人気のある曲のようだけど、この意味は僕たちにとってとても身近で大切なもの。とても幸運なことだと考えているんだ。この曲を本当に誇りに思っているんだよ」
先住民の苦境は、CROWN LANDS で繰り返し扱われるテーマです。2020年にリリースされたセルフ・タイトルのデビューLPでは、行方不明になり殺害された先住民の女性に捧げた “End of the Road” というトラックがクライマックスとなりました。さらに CROWN LANDS というバンド名自体、カナダで先住民が奪われた王家の土地を指すものでした。バンド名には、彼らの音楽的野心も込められています。”クラウンランド” とは君主の領土のことで、Bowles はこう言っています。「クラウンランドは盗まれた土地で、僕らはそれを取り戻している」
悲劇が起こったカナダ先住民のレジデンシャル・スクールについて、バンドは次のような声明を発表しました。
「僕たちはこの場を借りて、カナダのすべての居住区学校が徹底的に調査されるべきだということ言いたい。亡くなった人たちの家族は皆、悲しみに暮れている。この国では、人々は忌まわしい状況の中で生きている。僕たちは、こうした話を始めるために戦い続け、真の変化を起こせることを願っている」

CROWN LANDS は、卓越した演奏技術に加え、Comeau が言うように “たくさんのおもちゃ” を使って、桁外れの音楽を作り上げています。Bowles はコンサート・タム、ウィンド・チャイム、テンプル・ブロック、チューブラー・ベルなど数多のギミックを装備した巨大なドラムキットという要塞の中にいます。Comeau はギターと同時にベースラインを演奏する ムーグ・タウラスペダルなど、多数のシンセサイザーを足で操作しています。ただし、ライブでバッキング・トラックを使用することはありません。Bowles は「僕たちは見たままの姿を音にしたいんだ。それが僕たちのモットーなんだよ。個人的には、トラックを使用するバンドはそれでいいと思う。でも、僕らの場合は、ライブでトラックを使うことは絶対にないと言い続けてきた。僕らには向かないんだよ」
CROWN LANDS の二人は、ロサンゼルスでの活動を終えてヒッチハイクでカナダに戻ったばかりの Comeau が、Bowles がドラムを担当していたバンドのオーディションを受けたときに初めて出会いました。当時、Comeau はベーシストとして活躍していましたが、Bowles のバンドの新しいギタリストとしてオーディションを受けたのです。結果は不合格でした。
しかし、Bowles は彼のギター・プレイを気に入り、連絡を取り続けるようになります。二人は友人となり、やがて納屋で一緒にジャムるようになりました。この納屋でのジャムがきっかけで、Bowles は本格的に歌い始めたのです。「一緒に音楽をつくろうということになったんだ。CROWN LANDS はそうやって、なんとなく始まったんだよ」
彼らが一緒に書いた最初の曲は、”One Good Reason” でした。彼らは最初のEP、2016年の “Mantra” を、わずか2日でレコーディングし終えたのです。
RUSH の話題は、彼らの友情の中でも最も早い時期から浮上し、二人はそれぞれ相手がスーパーファンであることを知り、興奮を覚えたといいます。Comeau は RUSH の “スターマン” ロゴのタトゥーを腹部に彫っていることを明かし、これで二人の契約は成立したのです。
CROWN LANDS の他の重要な音楽的インスピレーションは、THE ALLMAN BROTHERS(Comeau は Duane Allman のスライドギターを崇拝)、Jeff Buckley(Bowles の伸縮性と感情的な歌声)、STARCASTLE(イリノイ州の70年代のプログ・バンド)など。

Bowles と Comeau は、最終的に CROWN LANDS のメンバーを増やすかどうかに関して、葛藤があるようです。Bowles は物事をシンプルにすることに傾いています。しかし、Comeau は、もしミュージシャンが増えたら、ステージ上で一つの楽器に集中できるようになるし、Bowles がドラムキットの後ろから、GENESIS で Phil Collins がやったように、前面に出て歌うようにもなると喜んでいます。
「Bowles は Neal Peart のようなことを歌いながらやろうとしているし、僕はキーボードとベースを担当し、ギターも弾く。RUSH の3人を2人に凝縮しようとしているんだ。彼らは “世界最小の交響楽団になりたい” と言ったことで有名だけど、僕らは、たった2人で同じようなことを成し遂げようとしている。生意気な冗談だったけど、多くのインスピレーションを受けているよ」
ただし明らかに、Bowles と Comeau は2人だけでも、まるで超能力を操るように音楽を奏でられます。宇宙的ヒッピーの衣装を身にまとった長髪の CROWN LANDSは、クラシック・ロックの魔法そのものです。最近大きな影響を受けたのは “Moving Pictures”。

「”Moving Pictures” で Alex がスタジオで使っていたのとほぼ同じ組み合わせのアンプを使ったんだ。だから特に “White Buffalo” のオープナーは、”Moving Pictures” のギターにかなり近づけたと思うけど。エンジニアリングの観点からは、”Moving Pictures” は今でも史上最高のサウンドを持つアルバムのひとつだと思う。今聴いても、とても新鮮だよね。このアルバムに収録されている楽器の忠実さはいつも目を引くけど、この新譜でもそれに近いものができたと思っているよ」
音的にも視覚的にも、CROWN LANDS は巨大な足跡を残しているあるバンドを彷彿とさせます。ミシガン州のロックバンド、GRETA VAN FLEETです。神々しくも ZEP の鉄槌を振りかざす若き異端児。
類似性は、音楽や見た目だけにとどまりません。GRETA VAN FLEET がグラミー賞を受賞したように、CROWN LANDS はカナダのグラミー、Juno賞を受賞していて、両バンド共に、ローリング・ストーン誌の最高の音楽ジャーナリスト、ブライアン・ハイアットによって記事にもされているのです。
現在、CROWN LANDS は、GRETA の2021年のトップ10アルバム “The Battle at Garden’s Gate” をサポートする米国アリーナ・ツアーのオープニング・アクトとしてツアーに出ています。
CROWN LANDS のミュージシャンたちは、自分たちのバンドに何が起きているのかを理解しています。「本当に感謝している」と Bowles は言います。「GRETA が好きな人はたいてい、僕らも好きだからね。アメリカで大勢の人の前で大きなステージで演奏できるのは大きいよ」
カナダでは、CROWN LANDS はバンドとしてシアター・レベルのステータスに近づいています。しかし、あまりツアーを行っていないアメリカでは、彼らはまだこれからのバンドなのです。

参考文献: AL.Com:America’s next must-see rock band is from Canada

EXCLAIM!:’A Farewell to Kings’ at 45: Crown Lands Talk the Influence of Rush’s Sonic Scale-Up

BEATROUT: FOR THE RECORD For The Record: Crown Lands’ Cody Bowles On Finding Empowerment In Their Indigenous Heritage

FUGUES:Marching to their own beat: Crown Lands drummer Cody Bowles