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COVER STORY + FUJI ROCK FESTIVAL 19′ 【KING GIZZARD & THE LIZARD WIZARD】


COVER STORY : KING GIZZARD & THE LIZARD WIZARD

“What Is Psych? Is It Psyche? Is It Psychedelic? If It’s An Exploratory Approach To Music Then Perhaps We Are. If It’s About Creating Huge Walls Of Glistening, Phased-Out Guitars Then We Are Not. I’ve Always Felt More Like a Garage Band Than Anything. We Don’t Write Songs About Space, Either.”

WHAT IS PSYCH? WHAT IS KING GIZZ?

「ロックは死んだ。」もう何十年も議論され続けるクリシェです。インターネットやストリーミングサービスの普及によって、今日ではより容易く多様なジャンルへとアクセス可能で、例えば iTunes を開けばロック/メタルのみならず、クラッシック、ジャズ、ポップ、ワールドミュージック、エレクトロニカ、オルタナティブ、R&B、ヒップホップなど様々な世界への入り口が並んでいます。
もちろん、そのストリーミングサービスにおいてエレクトロニカやヒップホップがロック/メタルを大きく凌駕している事実も今や常識と言えるでしょう。
とはいえ、70年代、80年代には及ばないものの、ロック/メタルはライブの分野では善戦していますし “死んだ” と判断するには早計にも思えます。ただ、ジャンルを定義した巨人たちに代わる新たなビッグアクトが望まれているのもまた事実でしょう。
しかし、新世代にとってロック/メタルという形式を取りながら、新たな領域を開拓し世界に衝撃を与える仕事は決して簡単ではありません。なぜならこのフィールドでは、何十年もかけて数えきれないほど多くのバンドが様々な実験を試みてきたからです。さらにネットの登場で過飽和となったシーンには両方の意味で、新星に残されたスペースはほぼないも同然だと言えるでしょう。
ただし、それでもその難題を解決する救世主、キング、もしくはウィザードがオーストラリアに君臨しています。KING GIZZARD & THE LIZARD WIZARD です。

あの TAME IMPALA との繋がりも深く、風変わりな名 (多大な影響を受けた Jim Morrison の呼称 “The Lizard King” が関係している) を持つメルボルンのバンドは真なるジャムセッションへの愛から誕生しました。ほぼ10年のキャリアですでに14枚のフルアルバムと2枚の EP を制作。ギター、キーボード、サックス、フルート、クラリネット、シタールなどその他様々な楽器を操るフロントマン Stu Mackenzie を中心に、ギター、キーボード、ハーモニカ、ボーカル担当の Ambrose Kenny-Smith、さらにCook Craig & Joey Walker 2人のギタリストを加え、ベーシスト Lucas Skinner、そして Michael Cavanagh と Eric Moore のダブルドラマーという異様な編成も、ジャムセッションへの執心、ライブバンドとしての矜持を考慮すれば実に自然な流れだと言えます。
バンドの音楽性を定義するなら、サイケデリックロック、プログレッシブロックが最も近いラベルなのかも知れません。ただし、むしろそれは建前とでも言うべきで、実際はカラフルな虹色の多様性をキャンパスに描くエクレクティックな音画家です。そしてそのアティテュードは、モダン=多様性の進化した音楽シーンに完璧にフィットしそこからさながら流動体のごとくさらに限界を超えていきます。実際、Stu Mackenzie は根本的な疑問を口にします。「ところで、サイケって何なんだい?もしそれが音楽への探索的なアプローチを意味するならば確かに俺たちはサイケだよ。だけど、歪んだギターの壁を作ったり、宇宙についての歌詞を意味するなら俺たちはサイケとは言えないね。」
事実、サイケ-ソウル-サーフ-ファズ-ガレージ-ジャズ-スペースロックなどと称される彼らの音とスタイルは年月とアルバムによって変化を続けています。2011年にリリースした4曲入りの EP “Anglesea” はかつてのニューウェーブ/ポストパンクのようにも聴こえましたし、典型的なリバイバルのようにも思えましたが、振り返ってみればそれは始まりに過ぎませんでした。

劇的な化学反応は2015年の “Quarters!” で発生しました。タイトル通りアートワークも4区分、楽曲も10分10秒ピッタリの4つで40分40秒のランニングタイムとクオーターに拘った作品はジャズロックの実験室を解放した初のアルバムでした。
Stu は当時、”Quarters!” について、「俺らは叫んじゃいけないレコードを作りたかった。長くてミニマル、反復を多用した構造の中でね。だから普段のようなブルータルなギターペダルも封印したんた。」と語り PINK FLOYD への敬意も覗かせています。
進化は止まりません。”Paper Mâché Dream Balloon” でフォークロックへ接近した後、アルバム最後の音と最初の音が見事に繋がりエンドレスにループする2016年の “Nonagon Infinity” から基盤となるサイケデリックロックに様々な刺激を注入し “King Gizz のサイケ” を創造し始めます。マイクロトーナル (微分音) もその刺激の一つ。


2017年にはそうしてアルバム全編をマイクロトーナルで統一した “Flying Microtonal Banana” を製作します。アルバムタイトルは Stu ご自慢のマイクロトーナルギターの名前。作品に収録された “Sleep Drifter” は今でも最大の人気曲の一つとなっています。
2017年は KING GIZZ にとって実に重要な一年でした。リリックに環境問題を取り上げ始めたのもこの年から。さらに、2月から12月にかけてバンドは5枚のフルアルバムをリリースします。ほぼ2ヶ月に1枚のデスマーチによって、しかし彼らは多くのファンを獲得し自らの価値を証明しました。

前述の異端 “Flying Microtonal Banana”、ナレーションを配した本格コンセプト作 “Murder of the Universe”, 奇妙でしかしキャッチーな “Skunsches of Brunswick East”、サイケデリックでポリリズミック TOOL の遺伝子を配合する “Polygondwanaland”、そして環境問題とプログロックのシリアスな融合 “Gumboot Soup”。
特に “Polygondwanaland” は KING GIZZ の最重要作と言えるのかもしれませんね。オープナー “Crumbling Castle” はまさしくバンド進化の歴史を11分に詰め込んだ濃密な楽曲ですし、何より彼らは作品を自らのウェブサイトで無料公開し、驚くべきことにその著作権さえ主張しなかったのですから。
バンドのメッセージは明瞭でした。「レコードレーベルを始めたいと思ったことはあるかい?さあやってみよう!友人を雇ってフィジカルを制作して出荷するんだ。僕たちはこのレコードの権利を主張しない。楽しんでシェアしてくれよ!」
そうして KING GIZZ は、ファンやインディーレーベルにオーディオファイルやアートワークもフリーで公開してそれぞれにフィジカルのディストリビュートを促したのです。それは衰退したレコード、CD文化を保護し復権を願うバンドが取った驚天動地の奇策でした。彼らほどのビッグネームの、しかも最高傑作のフィジカルをマージンなしで配給出来るチャンスなどなかなか飛び込んでくるはずもありません。作品は世界中88のレーベル、188のフォーマットで販売されることとなりました。

そういった大胆な行動は、彼らが全ての作品を自身のインディペンデントレーベルからリリースしていることにより可能となっています。レーベルはドラマー Eric Moore によってスタートし、彼が全てのマネージメントスタッフを仕切っているのです。もはやレーベルとのビッグディールを目指す時代は終焉を迎えました。若く意欲的なバンドにとって KING GIZZ のやり方は理想的なモデルケースでしょう。なぜなら、彼らはクリエイテビィティー、レコードの権利、リリースの計画、バンドの未来まで全てを完全に掌握しているのですから。

さすがに1年に5枚リリースの反動が訪れたのか、新作 “Fishing for Fishies” のリリースには2019年まで時間がかかりました。アルバムについて Stu は、「俺たちはブルースのレコードを作りたかったんだ。ブルースやブギー、シャッフルとかそんな感じのね。だけど楽曲はそのテーマと戦って、自らのパーソナリティーを獲得している。」と語っています。
実際、荒々しきブルーグラスのタイトルトラックを筆頭に、類稀なるグルーヴと RUSH の影響を宿す “The Cruel Millennial”、さらにエレクトロニカに満たされながらミツバチの重要性を語り継ぐ”Acarine” などアルバムは千変万化で充実を極めています。

驚くべきことに、そうして KING GIZZ は8月にリリースされる新作 “Infest the Rat’s Nest” で次の標的をメタルへと定めました。
公開された “Planet B” は誰も想像だにしなかったスラッシュメタルチューン。さらに “Self-Immolate” は初期の METALLICA, SLAYER と MUSE や ROYAL BLOOD を変拍子の海でミックスした奇々怪界。彼らが新たな領域で披露するエクレクティックな獰猛性が待ちきれませんね。

KING GIZZ の持つ多様性、プログ/メタルの新聖地オーストラリアというグローバルな出自はモダンなロック世界の原則を見事に内包しています。Stu はそのバンドの多様性について、「音楽は探検なんだ。僕がまだ探索していない音楽の作り方、レコードの作り方が何百万も残っている。言うまでもなく、学んでいない楽器、聴いていない音楽、探求していない文化もね。」と語っていますが、それでも父に Neil Young を歌い聞かされ、60年代のガレージコンピレーションから、敬愛する FLOWER TRAVELLIN’ BAND 含む70年代に勃興した東洋のサイケロックまで、Stu の知識と好奇心に際限はありません。驚くべきことに、彼は毎年一つ新たな楽器の習得を自らに課しています。

もちろん、彼らの特異なサウンドや”健全な” 4/4の錯覚を誘うポリリズムの魔法、そしてカメレオンの美学は、古くからのリスナーが慣れ親しんだプログロックやメタルの法則には乗っ取っていないかもしれません。一方で、故に革新的で創造性溢れ、前時代へのカウンターとして新たなビッグアクトの資格を得ているとも言えるはずです。バンドは自由自在に自己表現を繰り出すアートの極意を恐れてはいませんし、それでもなお、ロック/プログ/メタルの領域を住処としているのですから。遂に FUJI ROCK FESTIVAL 19′ で初来日を飾る KING GIZZ のモットーは、”No Slowing Down”。サイケ、プログ、ジャズ、エレクトロ、フォークにスラッシュとその境界を破壊し自由に泳ぐ魔法の王様は、きっとこれから何十年もロックミュージックの進化を担っていくはずです。

参考文献: The Guardian:King Gizzard & The Lizard Wizard: can the psych band release five albums in one year?
The Quietus:No Slowing Down: King Gizzard & The Lizard Wizard Interviewed
Ultimate Guitar :Why King Gizzard & the Lizard Wizard Are the Future of Rock Music We’ve Been Waiting for

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FUJI ROCK FESTIVAL 19′

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE ARISTOCRATS : YOU KNOW WHAT…?】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MARCO MINNEMANN OF THE ARISTOCRATS !!

“All I Can Say In Retrospect Is That We Had a Great Chemistry And I Guess It Shows And After All I’m Still In Touch With DT And Collaborate With Jordan On Many Projects And Also Was Planning To Do Something With John Petrucci For a While. I Was Just Personally The Right Fit. I Listened To Completely Different Kind Of Music And Never Heard DT Songs Or Owned Their Albums. That Was The Biggest Deal For Them.”

DISC REVIEW “YOU KNOW WHAT…?”

「”You Know What…?” で僕らはソングライター、ミュージシャンとして互いにインスパイアし、バンドとして未踏の領域を目指したよ。バンドはその親密さを増し、互いを深く知ることが作品の限界を広げる結果に繋がったね。それでもこれは完全に THE ARISTOCRATS のアルバムだよ。だからこそ、これまでの作品で最高にクールなんだ。」
プレスリリースにも示された通り、”You Know What…?” は THE ARISTOCRATS が追求する “ミュージシャンシップの民主主義” が結実したインストライアングルの金字塔です。
Guthrie Govan, Bryan Beller, Marco Minnemann。ギター、ベース、ドラムスの “特権階級” “最高級品” が集結した THE ARISTOCRATS は、その圧倒的な三頭ヒドラの無軌道な外観に反してデモクラシーをバンドの旨としています。実際、これまでのレコードでも彼らは、それぞれが各自の特色を内包した3曲づつを持ち寄り、全9曲の和平的 “カルチャークラッシュ” を巻き起こしてきたのですから。
「僕たちは全員が異なるスタイルを持っているね。だけどその互いの相性が THE ARISTOCRATS を形成しているんだ。」Marco の言葉はその事実を裏付けますが、ただし “You Know What…?” を聴けば、バンドのコンビネーションやシンクロニシティー、共有するビジョンが互いの個性を損なうことなく未知なる宇宙へ到達していることに気づくはずです。
オープナー “D-Grade F**k Movie Jam” は彼らが基盤とするジャズロック/フュージョンの本質であるスポンティニュアスな奇跡、瞬間の創造性を体現した THE ARISTOCRATS ワールドへの招待状。
眼前に広がるは真のジャムセッション。徐々に熱量を増していく新鮮な Guthrie のワウアタック、極上のグルーヴとメロディーを融合させる Bryan のフレットレスベース、そしてソリッドかつアグレッシブな手数の王 Marco。時に絡み合い、時に距離を置き、ブレイクで自在に沸騰する三者の温度は Beck, Bogert & Appice をも想起させ、ただゲームのように正確に譜面をなぞる昨今のミュージシャンシップに疑問を呈します。
トリッキーな6/8の魔法と両手タッピングからマカロニウエスタンの世界へと進出する “Spanish Eddie”、サーフロックとホーダウンをキャッチー&テクニカルにミックスした “When We All Come Together” はまさに THE ARISTOCRATS の真骨頂。ただし、70年代のヴァイブに根ざした刹那のイマジネーション、インプロの美学は以前よりも明らかに楽曲の表層へと浮き出てきているのです。
KING CRIMSON のモンスターを宿す “Terrible Lizard”、オリエンタルな風景を描写する “Spiritus Cactus” と機知とバラエティーに富んだアルバムはそうして美しの “Last Orders” でその幕を閉じます。Steve Vai の “Tender Surrender” はギミックに頼らず、トーンの陰影、楽曲全体のアトモスフィアでインストの世界に新たな風を吹き込んだマイルストーンでしたが、”Last Orders” で彼らが成し得たのは同様の革命でした。
それはインタープレイとサウンドスケープ、そしてエモーションのトライアングル、未知なる邂逅。さて、音楽というアートはそれでも正しいポジション、正しいリズムを追求するゲームの延長線上にあるのでしょうか?
今回弊誌では、Marco Minnemann にインタビューを行うことが出来ました。DREAM THEATER のドラムオーディションには惜しくも落選したものの、マルチプレイヤーとしてソロ作品もコンスタントにリリースし、近年では Jordan Rudess, Steven Wilson, RUSH の Alex Lifeson とのコラボレートも注目されています。
「個人的には完璧に DREAM THEATER にフィットしていたと思うよ。ただ僕は彼らとは完全に違う感じの音楽を好んでいるし、DREAM THEATER の楽曲を聴いたこともなければアルバムも持っていなかったからね。それがオーディションの中で彼らにとって大きな意味を持ったんじゃないかな。」日本のサブカルチャーを反映したTシャツコレクションも必見。二度目の登場です。どうぞ!!

THE ARISTOCRATS “YOU KNOW WHAT…?” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【JORDAN RUDESS : WIRED FOR MADNESS】【DREAM THEATER : DISTANCE OVER TIME】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JORDAN RUDESS OF DREAM THEATER !!

“I Believe The Keyboard World Can Move To Higher Level Much Like The World Of The Electric Guitar In The Last 50 Years. The Keyboard And The Keyboardist Have Incredible Potential For Music Making. “

DISC REVIEW “WIRED FOR MADNESS”

「僕は “Jordan Rudess” が経験してきたこと全てをこの作品に注ぎたかったんだ。完全に自由になって、ロックのフォーマットで僕の音楽精神全てを表現することが重要だったんだよ。」
現代キーボードヒーローの代名詞。そして巨人 DREAM THEATER にとって心臓にして中枢となった鍵盤の魔術師は、それでもなお音の自己証明をソロアルバムに求めます。
アーティストにとってソロ作品の利点は、所属する集団から隔離された天性のスペース、実験のラボラトリー、”完全なる自由”。
「”The Astonishing” は素晴らしい音楽的なチャレンジで、僕は本当に楽しめたんだ。一方で、新しい DREAM THEATER のアルバムは、ファンの愛する要素を全て取り入れた作品だと感じているよ。まさにプログとメタルのクールなミックスさ!!」
Jordan は “Distance Over Time” の即効性、穿った言い方をすれば素晴らしき “ファンへの贈物” を完全にポジティブに捉えています。しかし一方で “人生を変えたアルバム” を見れば伝わるように、彼のエクレクティックな影響の海原において原点、精髄があくまでもプログレッシブロック、”The Astonishing” に集約された挑戦の美学にあることは明らかでしょう。
コンテンポリーなクラシカルミュージック、ソロピアノ作品、奇想天外なカバーアルバムとその多様なバックボーンをソロアルバムとして昇華してきたマエストロ。そうして到達した個性の極み “Wired For Madness” は、”自分を完全に表現” した “本当にプログレッシブな作品” となったのです。
35分の組曲で、2つの楽章がさらに10のパートに分かれる一大エピック “Wired For Madness” は、Jordan にとっての “Tarkus” であり “Karn Evil 9” ではないでしょうか。それは、人生をより良くするため自己の一部をコンピューター化する男の物語。
もちろん、彼の Keith Emerson に対する心酔はよく知られるところですが、音楽のみならず楽曲の題材、テーマまでSF狂 EMERSON LAKE & PALMER へのリスペクトに溢れたエピック “Wired For Madness” のプログレッシブスピリットは圧倒的です。
加速するテクノロジーへの依存、現実世界との分断。コンピューターボイスとデジタルワールドをプロローグに、オッドタイムと鍵盤のパラダイムで近未来の特異点を描く Jordan は現代の吟遊詩人なのかも知れませんね。
興味深いことに、Jordan 自らが歌い紡ぐテクノロジーの詩は時に親交のあった David Bowie をも想起させます。ジギー・スターダストの方法論で警鐘を鳴らす鬼才の声と慧眼は、ロックの庭内でジャズやオーケストラ、エスノ、エレクトロをクロスオーバーさせながら “楽曲によりスペーシーでメロウな感覚を持たせる” ことに成功しています。
故に、例えば THE BEATLES と LIQUID TENSION EXPERIMENT, GENTLE GIANT と APHEX TWIN が入り乱れるこのレトロフューチャーな実験を奏功へと導いたのも、演者を自由に選択可能なソロ作品のアドバンテージであったと言えるのかも知れません。そして事実、彼のSFオペラには、自らのマルチプレイを含め適材適所なキャスティングがなされています。
DREAM THEATER の同僚 John Petrucci, James LaBrie、さらに Marco Minnemann, Guthrie Govan, Vinnie Moore, Joe Bonamassa, Rod Morgenstein, Elijah Wood, Jonas Reingold, Alek Darson, Marjana Semkina。ベテランから新鋭まで、ロックワールドの要人をこれほど巧みに配した作品は決して多くはないでしょう。
組曲を離れても、DIRTY LOOPS にインスパイアされた “Perpetual Shine”、意外性のヘヴィーブルーズ “Just Can’t Win”、さらに絶佳の叙情を湛えた珠玉のバラード “Just For Today” と聴きどころは満載。そうして壮大なプログ劇場は、5/8 と 6/8 を往来するコズミックなプログチューン “When I Dream” でその幕を閉じるのです。
今回弊誌では、Jordan Rudess にインタビューを行うことが出来ました。「僕はキーボードの世界は、エレキギターがこの50年で作り上げた世界に匹敵する高いレベルへ移行することが可能だと信じているんだよ。キーボード、そしてキーボーディストは、音楽制作において驚異的なポテンシャルを秘めているんだ。」 どうぞ!!

JORDAN RUDESS “WIRED FOR MADNESS” : 9.9/10

DISC REVIEW “DISTANCE OVER TIME”

DREAM THEATER がいなければ今日のプログメタルは存在しなかったでしょう。
メタルの転換期にして、モダンメタルにとって架け替えのない重要なピリオドとなった80年代後半から90年代前半の “ポストファーストメタルタイム”。ある者は複雑なリズムアプローチを、ある者はプログレッシブロックを、ある者はデスメタルを、ある者はエクストリームな残虐性を、ある者はフォルクローレを “ベーシック” なメタルに加えることで、彼らはモダンメタルの礎となる多様性を築き上げていきました。
様々なバンドがより幅広いスペクトルの音楽を聴くことで、メタルに “意外性” を加えていった変革の時代に、DREAM THEATER は別世界のテクニック、精密繊細なコンポジション、洗練されたデザイン、静謐と激重のダイナミズムでプログメタルの雛形を作り上げたのです。
特筆すべきは、QUEENSRYCHE を除いて、商業的なアピールに乏しかったそれまでのプログメタルワールドに、コマーシャルな新風を吹き込んだ点でしょう。複雑で思慮深くありながら、幅広いオーディエンスにアピールするフック、メロディー、テンションの黄金比は確実にプログメタルのあり方を変えました。
30年を経て、現在も DREAM THEATER はプログメタルの顔であり続けています。ただし、30年前のように崇高なる革命家であるかどうかについては議論が分かれるのかも知れませんね。
もちろん、DREAM THEATER に駄作は存在しません。Mike Portnoy の離脱、Mike Mangini の加入は、テクニック的には寧ろ向上にも思えますし、マスターマインド John Petrucci が聴く価値のない楽曲を制作するはずもないでしょう。ただし一方で、Mangini の加入以降、バンドの行先が “ロボティック” でアートよりもサイエンスに向いているという指摘が存在したのも確かです。
だからこそ、誤解を恐れずに言えば、前作 “The Astonishing” は傑作になり損ねたレコードでした。メロディーやエモーション、インストゥルメンタルなアプローチに関しては、群を抜いていたとさえ言えるでしょう。壮大なロックオペラというコンセプトも実にチャレンジングでしたが、故に引き算の美学を行使できず、結果として冗長な2時間超のアルバムに着地してしまったようにも思えます。
言いかえれば、プロデューサー John Petrucci 一頭体制の限界だったのかも知れませんね。少なくとも、Mike Portnoy は取捨選択のエキスパートでした。
対照的に、バンド全員でライティング&レコーディングを行った一体化と有機性の最新作 “Distance Over Time” は、Jordan の言葉を借りれば、「ファンの愛する要素を全て取り入れた作品だと感じているよ。まさにプログとメタルのクールなミックス」のレコード。
“Images & Words” のようにコンパクトでキャッチー、そして “Train of Thought” のようにダークでヘヴィーなアルバムは、RUSH と METALLICA の婚姻という原点をコンテンポラリーに再構築した快作です。
エセリアルな天使が鍵盤と弦上を華麗に踊る “Untethered Angel”、TOOL ライクなグルーヴの海に LaBrie の技巧が映える “Paralyzed”、”Black Album” meets カントリーな “Fall into the Light”、”Barstool Warrior” に開花する Petrucci の溢れるエモーション、”S2N” で炸裂する John Myung のアタッキーな妙技、そして “At Wit’s End” の LIQUID TENSION EXPERIMENT を彷彿とさせるトリッキーなシーケンシャルロマン。聴きどころに不足することは間違いなくないでしょう。
そうして、アルバムは DREAM THEATER らしいリリックの巧妙でその幕を閉じます。”Pale Blue Dot”。カール・セーガンへのオマージュで彼らは、殺戮や憎悪まで生命の営み全てが詰め込まれた碧き “点” への再考とリスペクトを促すのです。
“Distance Over Time” には、プログメタル革命の新たな旗が描かれているわけではないかも知れません。ただし、バンドの秘めたる野心の牙はきっとその鋭さを増しています。革命家の DREAM THEATER を求めるのか、政治家の DREAM THEATER を求めるのか。リスナーの需要や願望によってその評価が分かれる作品なのかも知れませんが、クオリティーは最高峰です。

DREAM THEATER “DISTANCE OVER TIME” : 9.8/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SNARKY PUPPY : IMMIGRANCE】JAPAN TOUR 2019 SPECIAL !!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MICHAEL LEAGUE OF SNARKY PUPPY !!

“Traveling So Much Really Reminds You How We Are All Immigrants In a Certain Kind Of Way, Whether It’s About Our History, Our Ancestry, Or The Customs And Cultural Elements We’ve Borrowed From Other Parts Of The World.”

DISC REVIEW “IMMIGRANCE”

「一つのジャンルに向けてのみ演奏をしたくないんだ。全てのジャンルのオーディエンスに訴求したいよ。だから本当に様々な音楽ジャンルのファンが僕たちの音楽を楽しんでくれているという事実は、進化を続け異なる方向を打ち出す僕たちを強く勇気づけてくれるんだ。」
耽溺のジャジストはもちろん、THE MAHAVISHNU ORCHESTRA, RETURN TO FOREVER を崇拝するフュージョンマニアックス、SLAYER, Biggie, さらにはフォークミュージックの粋人まで、多種多様な音の眷属が集結する SNARKY PUPPY のライブはさながら “Immigrance” のサウンドキャラバンです。
「世界中で僕たちのオーディエンスの中に多様性を見つけることは実に美しいね。こうやって僕らのように旅を重ねていると、自分たち全員がある種の “移民” であることを思い起こすんだよ。」
グラミー賞を3度獲得したグルーヴオーケストラ SNARKY PUPPY。その多様でボーダレスな “移民” の創造性は、ベーシストでマスターマインド Michael League の数奇なる旅路に起因しています。
ハイスクール時代、ギタープレイヤーとして LED ZEPPELIN, CREAM, PEARL JAM, SOUNDGARDEN のカバーに勤しみグルーヴの鼓動を刻んだ Michael は、STEELY DAN の “Alive in America” によってロックとファンク、そしてジャズの悪魔合体に開眼することとなりました。
ノーステキサス大学でベースに持ち替えジャズを学びつつ SNARKY PUPPY を結成した Michael は、Erykah Badu に見出されヒップホップ、R&B、さらにはゴスペルをも咀嚼し、遂にはその興味の矛先を世界の伝統音楽にまで向けながら、その全てを自らのグルーヴコレクティブへと注ぎ込んでいるのです。
グラミーを獲得した前作 “Culcha Vulcha” で頂点に達したポリリズムとエスニックの複雑な探求。”Immigrance” では Michael が鼓動のベースとするロックとファンクにも再び焦点を当てて、流動する “移民” の羈旅をよりエクレクティックに噛み砕いて体現することとなりました。
例えばオープナー “Chonks” ではシンプルなヘヴィーグルーヴをベースに圧倒的なアンサンブルでファンカデリックな空間を演出し、よりメカニカルな “Bad Kids to the Back” では TRIBAL TECH にも似た骨太なジャズロックのインテンスを見せつけます。
そうして、全面参加を果たした2人のギターマエストロ Bob Lanzetti, Chris McQueen が一層輝きを増しながら、ジャズ領域の外側へと大胆な移住を促進したのは David Crosby との出会いも大きく作用したはずです。事実、Michael は自身が歌ってギターも奏でるソロ作品のリリースを予定しているのですから。
「確かに “Immigrance” ではいくつかの異なる伝統音楽から影響を受けているね。そうして時を経るごとに、その影響はレコード毎に大きくなっていっているよ。」
一方で、モロッコのグナワを基盤としたエスノビートとポリリズムが鮮やかに溶け合う “Xavi’ では SNARKY PUPPY の先鋭性を遺憾無く味わうことが出来るでしょう。西アフリカのトライバルミュージックとブルースを融合させた BOKANTE の立ち上げが示すように Michael の特に中東~アフリカ地域に対する音の探究心は並々ならぬものがありますね。
3人のドラマーと3人のパーカッション奏者を抱える SNARKY PUPPY にとって根幹はやはりグルーヴです。そして、”Even Us” にも言えますが、日本人パーカッショニスト 小川慶太氏の美技を伴ったトライバルビートは、SNARKY PUPPY が有する移民の多様性と華麗に調和しながら瑞々しいジャンルのポリフォニーを実現していきます。
“Immigrance” に伴うワールドツアーはここ日本から始まります。作品の多くがライブレコーディングである SNARKY PUPPY にとって当然ライブこそが本領発揮の場です。ただし、”Immigrance” はスタジオで録音されたレコード。故に、バンド本来の躍動感に、思索や計画性が伴って実に奥深い多次元のリスニング体験をもたらすこととなりました。
今回弊誌では、Michael League に2度目のインタビューを行うことが出来ました。「歴史がどうであれ、祖先がどうであれ、習慣や文化がどうであれ、僕たちは世界のほかの場所から何かしらを “借りて” 生きているんだからね。」鍵盤奏者 Bill Laurance が奏でる虹の音色にも注目。どうぞ!!

SNARKY PUPPY “IMMIGRANCE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【O.R.k. : RAMAGEHEAD】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH LEF OF O.R.k. !!

“Bill Laswell Passed a Copy Of The Record On To Tankian Who Was So Impressed, He Then Checked Out All My Stuff, Website And Other Material. This Led Directly To Serj.”

DISC REVIEW “RAMAGEHEAD”

オルタナティブとプログレッシブの稜線に位置するスーパーバンド O.R.k. は、さらに音楽と映画の境界すら霧の中へ誘いユニークな “O.R.k.estration” サウンドで魅了します。
イタリア生まれの声楽家で、映画音楽のコンポーザーとして受賞歴も有する LEF こと Lorenzo Esposito Fornasari。彼が過去に OBAKE でバンドメイトだった ex-PORCUPINE TREE のベースマン Colin Edwin、BERSERK! で共演した KING CRIMSON のスティックマン Pat Mastelotto、さらにイタリアンフォークのビッグネーム MARTA SUI TUBI から Carmelo Pipitone を召喚し結成したプログコレクティブこそ O.R.k. でした。
「ビジュアルアートと音楽がお互いに補い合うやり方がとても好きなんだ。だからね、O.R.k のディスコグラフィーはまだ撮影されていない映画音楽と解釈することも可能だと思うんだよ。」
2015年の結成以来、O.R.k. はプログとオルタナティブを主役として起用しながら、同時にエレクトロ、ジャズ、アンビエントにオペラといった名脇役を見事に配置し、その絶妙な脚本、演出、カメラワークで造形豊かなシネマティックワールドを音楽の中へと投影して来ました。
「アルバムは、様々な側面からもたらされる情報の波に呑まれる潜在的な感情について描いているんだ。僕たち人間の関係性、感じ方、考え方、それに生活全てが、今日では実に深くインターネットとテクノロジーに影響されているのは明らかだよ。」
新世代プログレッシブの旗手 Kscope と手を結びリリースした勝負の最新作 “Ramagehead” で、O.R.k. がフィルムの舞台に選んだのはインターネット/テクノロジーに支配される現代とその社会でした。
深刻なテーマとシンクロするように、彼らの新たなサウンドトラックはダークな畝りが跋扈する重々しい世界。作品を象徴するオープナー “Kneel to Nothing” には、明らかに ALICE IN CHAINS や SOUNDGARDEN が90年代にもたらした悲憤の刻印が印され、一方で極上のリズムチームが創生するパーカッシブな数学の躍動感には TOOL の遺伝子が宿っているのです。
実際、スポンティニュアスで魂宿る Lef の歌唱には Chris Cornell が降臨し、アートワークのデジタルが支配する深淵は TOOL の Adam Jones がデザインを行っています。
暗澹と叡智のフレームはそうして様々なカオスを切り取っていきます。RADIOHEAD を想起させる幽玄とメタルの狂気が同居する “Signals Erased”、クリムゾンの叙情と不穏が類稀なるコントラストを生み出す “Time Corroded”、豊潤なオーケストレーションで完璧なシネマを具現化する組曲 “Some Other Rainbow”。
場面転換の妙は、ネオレアリズモの生々しくも痛烈な説得力を纏ってリスナーをビジュアルとサウンドの水平線へと誘うのです。
「Serj は僕の全ての作品をチェックしてくれたそうだよ。ウェブサイトや他のマテリアルまでね。」
Bill Laswell が聴かせた音源を出発点に、そうして O.R.k. の透徹した美意識は遂に SYSTEM OF A DOWN のマエストロ Serj Tankian のキャスティングへと繋がりました。”Black Blooms” に描かれた地続きの善と悪、国もジャンルも超越して咲き誇る黒の才華は完璧なまでにプログの新たな地平、情景を示唆しているのでしょう。
今回弊誌では、Lef にインタビューを行うことが出来ました。彼の鍵盤捌き、Carmelo のシーケンシャルなフレージングも聴きどころの一つ。「映画のためにスコアを書くことで、僕の音楽に対するアプローチは大きく変化したんだ。」どうぞ!!

O.R.k. “RAMAGEHEAD” : 9.8/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【STEVE HACKETT : AT THE EDGE OF LIGHT】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH STEVE HACKETT !!

2018 © Tina Korhonen/ www.tina-k.com

“Chris Wanted Yes To Continue Without Him. We All Want To Continue Our Legacies. The Music Which Is Classic And Special Keeps Going, And We’re Proud To Hold The Torch For It.”

DISC REVIEW “AT THE EDGE OF LIGHT”

夕暮れを迎え創作活動のペースを落とす巨星の中で、一際輝きを増すプログレッシブロックの明星が一つ。
ソロアルバム、ライブアルバム、GENESIS の再訪、Chris Squire や Djabe とのコラボレート。とりわけ、2010年にロックの殿堂入りを果たして以来、Steve Hackett の創作意欲は圧倒的です。
「僕は世界中の文化や音楽のスタイル、そして楽器についてどんどん探求していくのが好きなんだよ。この世界はいつも発見の連続だよ。」溢れる創造性の源について Steve は、2011年に結ばれた妻 Jo の存在と共に、地球上様々な場所に根付いた文化、音楽、楽器への好奇心を挙げています。
そうして、ロックとクラッシック、ジャズ、ブルース、フォークを融合させるプログレッシブロックの伝統にエスニックな深みを重ねる Steve の立体的な音楽、多様性はアートとしての瑞々しさを纏い続けているのです。
実際、26枚目のソロアルバムとなった最新作 “At the Edge of Light” で Steve は、ロック世界の “ワールドミュージックアンバサダー” として1つの完成形を提示して見せました。変幻自在なギタートーンが白眉のオープナー “Fallen Walls and Pedestals” は、すぐさま中東のオリエンタルな情景へとリスナーを連れ去ります。
Steve にとってアルバムとは、多種多様な地域、風景を旅歩き受けたインスピレーションを描くキャンバスです。もしくは映画なのかも知れません。Roger King, Jonas Reingold, Rob Townsend, Nick D’Virgilio, Simon Phillips といった名手たち。さらに、シタール、ヴァイオリン、フルート、サックス、タール、ドゥドゥク、ディジュリドゥなどカラフルな楽器群。自身のビジョン、そして人生観を投影するため、Steve は無垢なる画布に様々な楽器やキャストを配置していきます。
同時に、近年 Steve は自身のボーカルを以前よりフィーチャーしています。その趣向も同様に彼の内なるテーマと情熱をより濃密に伝えるため。1938年チェンバレンのスピーチ “Peace in our time” を文字った “Beasts In Our Time” で彼は、自らの声で当時アメリカが打ち出した孤立主義と現在の状況とを比較し、世界の光と闇に焦点を当てます。
そうしてオーケストレーションと KING CRIMSON の滑らかな融合で示唆された”世界は光と闇の境界線にある”。それはアルバムの重要なテーマとなったのです。
「Chris は彼抜きでも YES を続けて欲しいと願っていたよ。僕たちプログレッシブロックの住人は、全員が自分たちの遺産、レガシーを引き継いでいって欲しいと願っているんだよ。」
亡き Chris Squire に捧げられたようにも思える YES のスピリット、レイヤードセオリーを宿した “Under the Eye of the Sun”、McBroom 姉妹の参加とゴスペルの風情が PINK FLOYD を想起させる “Underground Railroad”。”新たなサウンド” を生み出すレコードは一方で、プログロックのレガシーを継承し祝祭します。
何より11分のエピック “Those Golden Wings” では繊細かつ清廉、そして “ポジティブ” な音像で、自らの出自である GENESIS の偉業を讃えプログレッシブの灯火を高々と掲げているのですから。それは革新の海に漂う矜持の燐光。
“ポジティブ” であることが世界の安寧への枢要なファクターだと語るギタリスト、ソングライター、そしてプロデューサーは静穏を望む旅の締めくくりに美しきトリロジーで自らの存慮を仄めかしています。
“Descent” でカオスの階段を下降し、”Conflict” で混迷と闇に縺れる現代社会。しかしその先にエセリアルで心洗われる “Peace” を用意することで、Steve は人の良心、徳性を信じてみせるのです。
今回弊誌では、Steve Hackett にインタビューを行うことが出来ました。「クラッシックで特別な音楽は引き継がれていくよ。そして僕たちは、その特別な音楽の火を絶やさず掲げ続けることを誇りに思っているんだ。」2度目の登場に感謝。もちろん、Chris Squire の偉業にも。どうぞ!!

STEVE HACKETT “AT THE EDGE OF LIGHT” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DILEMMA : RANDOM ACTS OF LIBERATION】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH COLLIN LEIJENAAR OF DILEMMA !!

“I Believe That Prog Music Should Not Only Be Clever And Virtuoso, But Also Moves Your Emotions And Your Heart. And It Should Surprise You, Taking You On a Musical Journey.”

DISC REVIEW “RANDOM ACTS OF LIBERATION”

「オランダ人はいつも交易と開拓を掲げてきたよ。この精神は、音楽にも反映されているんだ。なにせオランダのプログシーンは小さいから、成功を収めたいなら手を広げなければならないんだ。だからこそ、オランダのプログロックバンドはよく世界的な注目を集めるんだろうね。」
オランダに根づく交易と開拓の精神は、文化、芸術の歩みをも伴うこととなりました。そしてそのスピリットは、”交易” と “開拓” を音で体現するプログレッシブロックの海原と無謬にシンクロしているのです。
FOCUS, EARTH & FIRE, TRACE, KAYAK, AYREON, TEXTURES, VUUR。潮風の交差点で脈々と重なるダッチプログの渦潮は、DILEMMA を呑み込み、23年の長い間仄暗き水の底へと沈めました。しかし、90年代に素晴らしき “Imbroccata” でプログシーンに深々と爪痕を残した船乗りたちは甦り、遅れて来た大航海時代 “Random Acts Of Liberation” で文字通り自由を謳歌するのです。
ただし、乗組員は船長の鍵盤奏者 Robin Z を除いて大きく変化を遂げています。特筆すべきは、Neal Morse, KAYAK との仕事でも知られる百戦錬磨のドラマー Collin Leijenaar と、ex-FROST*, DARWIN’S RADIO の Dec Bruke を加えたことでしょう。オランダでプログ雑誌のライターも務める Collin の理想と、FROST* の血脈に繋がる Dec の個性は、バンドを一際カラフルでアクセシブルなプログレッシブポップの海域へと誘うこととなりました。
「プログロックはただクレバーでバーチュオーソ的だけであるべきではないと信じているんだ。同時に感情や心を動かすべきだってね。そうしてそこには驚きや音楽的な旅への誘いがあるべきだってね。人は心の底から音楽と繋がる必要があるんだよ。」
実際、Collin のこの言葉は、”Random Acts Of Liberation” が強固に裏付けています。
DREAM THEATER の “Pull Me Under” を彷彿とさせる緊張感とキャッチーなメロディーラインのコントラストが鮮やかなオープナー “The Space Between The Waves” が、より”自由”なプログロックの風波としてアルバムの趨勢を占えば、14曲72分の DILEMMA シアターの幕開けです。
“Amsterdam (This City)” を聴けば、一番の理解者 Mike Portnoy が 「SPOCK’S BEARED, FROST*, FLYING COLORS, HAKEN, Steven Wilson と並ぶとても味わい深いモダンプログ」 と DILEMMA を評した理由が伝わるはずです。デジタルサウンドとストリングスを効果的に抱擁する多様で甘やかなホームタウンのサウンドスケープは、Steven Wilson や FROST* が提示するプログレッシブポップのイメージと確かにシンクロしているのです。
“Aether” では PINK FLOYD と、”All That Matters” では ELO とのチャネリングでさらにプログポップの海域を探求したバンドは、しかし12分のエピック “The Inner Darkness” でスリリング&メタリックなルーツを再び提示し対比の魔術で魅了します。
“Spiral Ⅱ” からのシアトリカルに、コンセプチュアルに畳み掛ける大円団は、まさに Neal Morse と Mike Portnoy の申し子を証明する津波。中でも、”Intervals”, “Play With Sand” の激しく胸を打つ叙情、音景、エモーションはあまりに尊く、リスナーの心を “音楽” へと繋げるはずです。
今回弊誌では、Collin Leijenaar にインタビューを行うことが出来ました。時にトライバル、時にジャズ、時に Portnoy の影響を組み込んだドラミングの妙は、アルバムのデザインを華麗に彩ります。「このアルバムでは、プログロックをよりオープンで直接的な表現とすることに成功したと思うよ。プログをプログたらしめている興味深い要素を失うことなく、ポップな感覚を加えているね。」 どうぞ!!

DILEMMA “RANDOM ACTS OF LIBERATION” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【BLACK PEAKS : ALL THAT DIVIDES】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH WILL GARDNER OF BLACK PEAKS !!

“We All Started Collectively Listening To Lots Of Mastodon and Tool . Bands Like That . I Think Thats Where The Shift Started To Happen , Into The More Black Peaks Style Heavy Sound.”

DISC REVIEW “ALL THAT DIVIDES”

英国が今、沸騰しています。ARCHITECTS, TesseracT、そして SVALBARD や ROLO TOMASSI といった Holy Roar のロースター。真の意味での “プログレッシブ” を追求するエクレクティックでスリリングな冒険的アーティストが、かつて様々なムーブメントを創造した獅子とユニコーンの紋章の下へと集結しているのです。
ブライトンから顕現した BLACK PEAKS も、その大波を牽引する風雲の一つ。「様々な音楽ジャンルをミックスしているんだけど、主にロック、ハードコア、そしてプログが中心だね。」 と Will が語るように、荘厳と野蛮、洗練と無骨を併せ持つそのコントラストの烈風は、英国ニューウェーブの中でも一際カラフルなインパクトを与えているのです。
注目すべきは BLACK PEAKS が、一歩間違えれば “無節操” とも捉えられかねない “美味しいとこどり” の方法論を、臆せず真摯に追求している点でしょう。SHRINE 時代は自らが認めるように “マーズヴォルティー” すなはち THE MARS VOLTA のポストハードコアを追い求め、さらに改名後は 「僕たちは集まって、MASTODON や TOOL といったバンドを何度も聴いて研究し始めたのさ。そこから音楽性の変化が始まったと思うね。」 と語る通り、モダンプログレッシブの数学的アプローチや重量感を深く “研究” し、理想的な BLACK PEAKS のスタイルへと邁進し構築する。その研究者としての姿勢が、これまでありそうでなかったモダンでコンパクトな凛々しきプログの坩堝を精製することへと繋がりました。
例えばファーストシングル “Can’t Sleep” は、MASTODON のスラッジアタックと SYSTEM OF A DOWN の異国感がシームレスに融合したキメラでしょうし、”Electric Fires” には TOOL のマスマティカルな野心と BIFFY CLYRO のポップな精神が宿っているはずです。加えて湧き出でる OPETH や ELDER のエピカルな世界観。
ただし、その魅力的なフラスコに Will のボーカルが注がれると、BLACK PEAKS は触媒を得て劇的な化学反応を起こします。実際、スクリームからクリーンボイス、囁きからファルセットまで、英国らしい叙情、憂鬱、愁苦、そして悲憤を宿す Will の歌唱とメロディーは、異次元のエモーションを楽曲へと織り込んでいくのです。
フルスロットルの咆哮を縦糸に、ガラスのファルセットを横糸に織り上げたその退廃感は、母国の選択、ブレグジットに起因するものでした。「ここ数年イギリス人としてヨーロッパを旅する事で、実際に興味深い体験をして来たからなんだけどね。つまり、そうやって僕たちに降りかかる出来事に対して情動、怒り、フラストレーションなんかを感じたわけさ。」 そのダイナミズムの源は、例えば SVALBARD にも通じるやはり政治的なものでした。
そうしてアルバムは、THE DILLINGER ESCAPE PLAN のカオスや OCEANSIZE の耽美まで吸収した強欲な運命 “Fate Ⅰ&Ⅱ” でその幕を閉じます。ハードコアのアグレッションとプログレッシブのエレガンスが、自然と同じキャンパスに描かれるダイナミズムの DNA はきっと選ばれたものにしか与えられていないはずです。
今回弊誌では、新たなボーカルスター Will Gardner にインタビューを行うことが出来ました。「僕たちはアルバムをレコーディングしている最中に ELDER “Reflections of a floating world” を頻繁に聴いていたんだ。」 どうぞ!!

BLACK PEAKS “ALL THAT DIVIDES” : 9.8/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【BOSS KELOID : MELTED ON THE INCH】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PAUL SWARBRICK OF BOSS KELOID !!

“Marijuana Shouldn’t Be Prohibited Anywhere And Should Be Completely Legalised For Cultivation, Medical And Recreational Use. It Should Be a Normal Thing Like Eating a Potato And Part Of The Recommended 5 a Day.”

DISC REVIEW “MELTED ON THE INCH”

香ばしき霞とファズサウンドは心地良き酩酊を。マスマティカルで複雑怪奇なデザインは遥かな叡智を。英国ウィガンに実る罪なるハーブ BOSS KELOID は、その類稀なる両極性と多様性でオーディエンスの中毒症状を掻き立てます。
前作 “Herb Your Enthusiasm” でスラッジとストーナーの風変わりなキメラとして一躍脚光を浴びた破調の怪異は、ROLO TOMMASI, MOL, SVALBARD といった他の Holy Roar ロースターとシンクロするかのように更なるエクレクティックな進化を遂げています。
特筆すべきは、キーボーディスト Matthew Milne の加入でしょう。「キーボードは完璧にバンドへとフィットしたし、今では僕らのサウンドの本質にさえなっているんだよ。だけど、方向性をシフトした訳じゃないよ。言ってみればそれは自然な進化なんだ。」 とギタリスト Paul Swarbrick が語るように、バンドは新機軸と言うよりも、むしろパズルのラストピースとして迎えたレトロな鍵盤の響きを得て、エニグマティックなプログロックの領域をより大胆に探求することとなったのです。
幻想的でアンセミックな旋律、奇想天外なアイデアの波動、そして複雑繊細な感情の妙。プログ由来の素材と調味料をふんだんに使用し、出自であるスラッジ、ドゥーム、ストーナーの香ばしきバンズで挟み込んだ滑らかに溶け合う両極性のサウンドウィッチ “Melted on the Inch” は、そうして実際リスナーに刺激的な幻覚や研ぎ澄まされた感性をもたらす合法的なドラッグなのかも知れませんね。
事実、BOSS KELOID のダイアゴナルな魔法は、オープナー “Chronosiam” ですぐさまリスナーの時空間を歪ませます。
威風堂々のストーナーファンファーレをエントランスに、ハモンドとスタッカートの静謐な小部屋から、フォーキーにスウィングするダンスホール、シンガロングを誘うキャッチーな大劇場まで、多様な時代と背景をシームレスに行き交う進化を遂げたバンドの姿は、まさにダイナミズムの異世界迷宮。そしてそのエクレクティックな地脈回廊は、アルバム全体へと行き渡り胎動していくのです。
レゲエとラスタの多幸感をスラッジストーナーの重量感へ封じた “Peykruve” の実験も、ハーブマスターならではの奇妙でしかし鮮やかなコントラストでしょう。そして何より、PALLBEARER が PINK FLOYD や ASIA への憧憬を隠そうとしないように、BOSS KELOID も “Lokannok” で CAMEL をドゥームの領域へと誘って、伸張するモダンメタルの新たな潮流に一役買って見せました。
「もっとプログ寄りのファンからは、CAMEL, GENESIS, KING CRIMSON を想起させるなんて言われているしね。」 もしかすると、古の巨人が宿したプログレッシブな魂は、ジャンルの後進よりも BOSS KELOID のようなバンドこそが正しく継いでいるのかも知れませんね。
今回弊誌では、Paul Swarbrick にインタビューを行うことが出来ました。「マリファナの使用は、例えばポテトを食べるのと同じくらい普通のことだし、1日に5回摂取するのを推奨するのが我々の務めだ。」弊誌は別に推奨はしません。どうぞ!!

BOSS KELOID “MELTED ON THE INCH” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【JYOCHO : 美しい終末サイクル (THE BEAUTIFUL CYCLE OF TERMINAL)】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DAIJIRO NAKAGAWA OF JYOCHO !!

“We Are Influenced By Cycle Or Rule What We Can Not Perceive In Our Daily Life. Off Course, Individuals, As Well As Society, The Country, And The Earth, The Universe Are Both Influenced By One Law And Cycle.”

DISC REVIEW “美しい終末サイクル”

「サイクルという、法則という、我々では感知できない様なものに普段生きていると左右されています。個人は勿論、社会や国もそうだし、この地球も、この宇宙も、一つの法則やサイクルによって左右されています。この時代になり、それをわたしたちで哲学し検証する必要性が更に増して来たと感じました。 “美しい終末サイクル” は、わたしの哲学となり得るものです。」
生と死、光と陰、始まりと終わり、複雑とポップ、オーガニックとメカニカル。情緒という “いのち” を紡ぎ続けるギタリスト、だいじろーと JYOCHO の導く螺旋のサイクルは、森羅万象の両極を紐解く美しのメッセージです。
“祈りでは届かない距離”、”碧い家で僕ら暮らす”、そして “互いの宇宙”。これまで2枚のミニアルバムと1枚の EP をリリースして来た現代社会の語り部 JYOCHO。
渾淆するプログレッシブ、マスロック、ポストロック、ポップの仮初めの営みを、まるで心理学と幾何学の両極から検証し哲学するような絶佳のサウンドスケープには深い説得力とエモーションの煌めきが備わっています。
そして、様々なコントラストが彩った彼らのファーストサークルは、初のフルアルバム “美しい終末サイクル” で完結と共に新たな螺旋を描き始めるのです。
音楽的にも、確かにこの作品は終着と出発のレコードです。始まりのミニアルバム “祈りでは届かない距離” 収録の “family”, “太陽と暮してきた” を、成熟と団結深めた現行メンバーで試みた再録はその象徴かも知れませんね。
「五人の温度感や揺らぎが確実に音源として落とし込まれた瞬間だと確信しています。」インタビューでだいじろーも語るように、揺らぎ、テンションといった耳よりも心に聴こえる響きとグルーヴは、”バンド” への移行と共に明らかにその鮮やかさを増しています。
もちろん、”安い命”、”碧い家” と密に繋がる “つづくいのち” もこれまでの集大成と言えるのかも知れませんね。降り注ぐ多幸感と幽かな寂寞。フルートやアコースティックギターの膨よかなチェンバーオーケストラは、テクニックもエモーションもすっかり飲み込みロックのグルーヴとダイナミズムを濃密に体現するのです。
一方で、エモと激情がスパークする “Aporia”、自らのギターホライズンを心ゆくまで再び掘り下げる “sugoi kawaii JYOCHO”、内省的でダークな実験部屋 “my room”, “my rule” といったエクレクティックな新機軸、出発の息吹は、さながらリスナーが螺旋階段を下るうち次々遭遇する魅惑の扉。開くたびに知の好奇心と感情をくすぐる未知との遭遇は、どこまでも続くようにも思えます。
しかしこの終末サイクルにも終わりは訪れます。哲学するアルバムを締めくくる、”こわかった” の抱える恐怖は現代社会が抱える闇の部分とも重なります。
張り巡らされたインターネット、SNS の糸は感情までも追体験可能な世界を構築しつつあります。感動、興奮、喜び、悲しみまで、全てのハードルが下がってしまった現代で、JYOCHO が見せる景色、紡ぐ音楽は異質でしかしきっとセラピーのように安らかに世界へと浸透していくはずです。
今回弊誌では、だいじろーさんにインタビューを行うことが出来ました。「是非たくさんの人に、JYOCHOという素晴らしい “いのち” が届き、心に浸透してくれることを祈っております。」12/7には Ichika 率いる Ichikoro とのツーマン、そして来年はワンマンツアーも控えています。3度目の登場。どうぞ!!

JYOCHO “美しい終末サイクル” : 10/10

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