カテゴリー別アーカイブ: PICK UP ARTIST

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ARCHSPIRE : BLEED THE FUTURE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DEAN LAMB OF ARCHSPIRE !!

“As a Band We Always Try To Write Music That Is About 10% Above Our Abilities, So That Means Everyone Is Constantly Pushing Themselves To Improve.”

DISC REVIEW “BLEED THE FUTURE”

「”Stay Tech” という言葉は、僕たちのバンドが目指すものをすべて体現している。だから、”Stay Tech industries” という想像上の会社名からこの言葉を残して、クールなロゴを作ってもらったんだよ。今ではバンド全員がこの言葉をタトゥーにしているし、同じタトゥーを入れている人にもあちこちで会うんだよ!」
STAY TECH!テクニカルでいようぜ!をモットーとするカナダのテクデス機械神 ARCHSPIRE。世界で最も速く、世界で最もテクニカルで、世界で最も正確無比なこの “メタル” の怪物をシーンのリーダーに変えたのは2017年の “Relentless Mutation” でした。アルバムのリリースを終え、OBSCURA の日本ツアーに帯同した ARCHSPIRE。口をあんぐり開けて立ち尽くし、彼らを見つめていた多くの観客を筆者は目撃しています。それはまさに、新時代の到来を告げる啓示といった類のライブ・パフォーマンスでした。
「バンドとして、僕たちは常に自分たちの能力の10%くらい上のレベルの音楽を書こうとしているんだ。つまり、このバンドでは誰もが常に自分を高めようとしているんだよ」
そうして、名優ジェイソン・モモアを含む何万もの新たなファンを獲得し、地球上をツアーしてきた ARCHSPIRE は、あの画期的なアルバムをさらに先鋭に研ぎ澄まし、別の次元へと到達させました。”Bleed The Future”。文字通り、血反吐を吐くようにして紡ぎ出した彼らの未来は、目のくらむようなテクニックと、複雑怪奇をキャッチーに聴かせるバンドの能力が光の速さで新たなレベルへと達しています。
「僕にとって8弦ギターはほとんど6弦と同じにしか見えないから、コード・シェイプやスケールはすべて10代の頃に学んだものを流用している。相棒の Tobi も8弦を弾くようになったから、僕たちは完全に “音域の広い” バンドになったんだ」
“Bleed The Future” という無慈悲な殺戮マシンの心臓部は、Tom Morelli と Dean Lamb の8弦ギター。雪崩のように押し寄せるブラスト・ビートと、ワープ・スピードで飛び交うテクニカル・エクスタシーを背に、5足と5足の超速スパイダーはアクロバティックにメロディックに指板の宇宙を踊り狂います。二人にとって、きっと6弦の指板は窮屈すぎるのでしょう。一方で、趣向を凝らしたクリーンなパッセージも秀逸。ともかく、他のバンドが2つの音を出す間に、彼らは少なくとも5つの音を繰り出します。
「デスメタルは非常に過激な音楽だから、リスナーが疲れずに “多くのもの” を聴くことは難しいと考えているんだ。だから僕たちの意見では、32分くらいがちょうどいいんだよね」
32分という短さに、想像を絶するスピードで、長い歌詞を含めて様々なものが詰め込まれた “Bleed The Future”。Tech-metal の世界では非人間的なテンポで演奏するバンドも少なくありませんが、さすがにこれは別物です。クラシックの美麗美技と獰猛超速のメタロイドを行き来する “Drone Corpse Aviator” がアルバムの招待状。BPM360 のタイトルトラック “Bleed The Future” で、ボーカリスト Oli Peters がさながら Busta Rhymes のように重たい言葉の弾丸を正確に連射すれば、モダン・メタルメタル界最速ドラマーの一人として知られる Spencer Prewett は、”A.U.M” で BPM を400まで到達させるだけでなく、千手観音の威光を纏いながら Gene Hoglan や Tomas Haake と同等の才能を証明します。
“A.U.M”, “Reverie on the Onyx” といった楽曲の、サンプリングやクラシカルなマテリアルをメインストリームやヒップホップのやり方で吸収し、デスメタルに昇華させる ARCHSPIRE の哲学は実に新鮮で傑出していますね。”Abandon The Linear’ で炸裂する Jared Smith のクラシカルかつグルーヴィーなベースソロも極上。そうやって彼らはフックやキャッチーな音の葉を多種多様に盛り込んでいくのです。
カナダはこれまでにも優れたテクデスの綺羅星を産み落としてきました。CRYPTOPSY, GORGUTS, BEANEATH THE MASSACRE, BEYOND CREATION…その中でも APCHSPIRE は最高傑作にして、テクデス・ルネサンスの最先端に位置しているように思えます。現時点で、彼ら以上のリーダーは存在しないでしょう。威風堂々、この威厳。この異次元。
今回弊誌では、ギター・マスター Dean Lamb にインタビューを行うことができました。「僕たちのスタイルにラップを加えることは、最初からの計画だったんだ。僕たちは皆、Tech N9ne をはじめとするスピード系ラッパーが大好きだから、2009年に Oli をバンドに誘ったときにラップに影響を受けたデスメタルというスタイルにしたいという話をしたんだよね」 Dave Otero のプロダクションも完璧な一枚。”メロディックなボーカルなんて絶対にやらない”。どうぞ!!

ARCHSPIRE “BLEED THE FUTURE” : 9.9/10

続きを読む NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ARCHSPIRE : BLEED THE FUTURE】

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【6:33 : FEARY TALES FOR STRANGE LULLABIES – DOME】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH FLORENT CHARLET OF 6:33 !!

“We Were Stunned (As We Tried To Pay Tribute On The Album’s Artwork) By “Cyberpunk” Animes Such as Akira, Ghost in the shell ou Gunnm, And Some Of Their OST. Nicko Is a Huge Fan of Yoko Kanno.”

DISC REVIEW “FEARY TALES FOR STRANGE LULLABIES”

「バンドが誕生したのが長いクレイジーな夜のパーティーの後、午前6時33分だったから 6:33 なんだ。バンドの名前を決めるのは往々にしてとても複雑で、何か意味があるのか、何かを参照しているのかといろいろ探したり、メンバー全員が別々の自分の考えを持っていたりする……だから僕たちは、単純に、効率的に、深い意味はなく、ただ楽しい名前を選んだんだ」
6:33 を “楽しいプログ・バンド” と位置づけている。そんな Florent の言葉通り、フランスのイカれた変態集団 6:33 は、複雑難解で何事にも意味や哲学を求める傾向のプログ世界を “楽しい” に変える破天荒の確信犯。
「音楽スタイルの多様性についてだけど、僕は、うまくいって、楽しくなるならば何でもすぐにそれを実行するんだよ。僕たちのこういった音楽スタイルの変化は、ユーモアのようなもので、悲しみから喜びへと瞬く間にジャンプするんだよね」
ファンク、スウィング・ジャズ、ヒップホップ、R&B、ポップス、サウンドトラック、ワルツ、サーカス、スカ、ゴスペル、チャーチオルガン、チューブラー・ベル、80年代のシンセ・ウェイブ、ブラス・バンド、オーケストラ….世界で最も多様なメタル・バンドとしてあの DIABLO SWING ORCHESTRA と双璧をなす 6:33 のパレットには、ありとあらゆる音の色彩が用意されています。
例えば、やたらとメニューの多い中華屋に入って肝心の味に閉口する。6:33 の料理にそんな杞憂は必要ありません。まさになんでもあって心から楽しめる一流の料理店。これをプログと呼んでいいのでしょうか?それともプログメタル・アルバム?いえ、”Feary Tales For Strange Lullabies – The Dome” はそのすべてであり、それ以上のものなのかもしれません。
「僕たちは、若いアーティストがスターになるために巨大な都市(ドーム)に引っ越してくるという、ある種のオルタナティブ・ワールドを作りあげたんだ。そこで彼は色とりどりの人々と出会い、自分の中の声(頭の中の奇妙な虫のようなものの声)に心を動かされるんだ。そして、彼は自分の目標に突き進んでいく」
“Feary Tales For Strange Lullabies – The Dome” は、全11曲、53分10秒の “オペラ・コミック”。日本の “サイバーパンク・アニメ” に影響を受けた近未来のダークな物語を、アートの粋を集めながら、直接的に楽しく語ります。率直で境界線のない変態集団は、ウルトラ・キャッチーなメロディー、それにエネルギーに満ちたシンガロングを作り出すコツを心得ていて、最高にプログレッシブでありながら、ヘッドバンキングしたり、足を踏みならしたり、指でどこかを叩いたりすることが宿命づけられた “踊れるプログミュージック” を完成へと導いたのです。
オープナー “Wacky Worms” は、アルバムの縮図となるような一曲。あえて言えばこのアルバムの中で最も “メタル” な楽曲ですが、6:33 らしくあらゆるものが含まれていながら、それぞれが自然にシームレスに接続されているため、一層豊かな音楽の乗り心地に身を委ねることができるのです。それはまさに彼らが6年をかけて目指したもの。さらに 男女ツインボーカル、ダブル・キーボードという新たな編成を得てはじめて、音楽に真の鼓動が脈打ち始めました。プログラミングされたドラムスも、ついに新メンバーが加わり、以後ライブでは ”生” で再現されていきます。
1枚のアルバムの中で、これほどまでに多様なスタイルが次から次へと飛び交い、しかもそれが自然な流れの中で巧みに織り込まれている作品がどれだけあるでしょう?QUEEN, THE BEATLES, GENESIS, FAITH NO MORE, ブロードウェイ、シンセウェイブ、ディスコ、トランス、そしてもちろんメタル、まさに Devin Townsend の音の壁がグランドピアノの音に宿り壮大に幕を閉じる “Prime Focus”。これでほんの一曲。常軌を逸しています。
“Party Inc.” では、子供たちの合唱団まで登場します。これ以上ないほどシアトリカルですが、同時に遊び心があり、生き生きとしていて、都会の地下に巣食う粗野で殺伐とした未来のリアルにリスナーは贖うことができません。そうして到達する “Hangover”。Flow が師匠と呼ぶ Mike Patton が乗り移ったかのような千変万化なパフォーマンスに我々は声を失います。降り注ぐ拍手とスタンディング・オベーション。しかしきっとこれで終わりではありません。名演にはアンコールがつきものです。
今回弊誌では、ボーカリスト Florent Charlet にインタビューを行うことができました。「思春期の僕たちは、Akira、攻殻機動隊、銃夢といった “サイバーパンク” アニメや、それらのOST(バンドのギタリスト兼コンポーザーである Nicko は、菅野よう子の大ファン)に衝撃を受けたんだよね。アルバムのアートワークも日本のサイバーパンクに敬意を表しているんだよ」どうぞ!!

6:33 “FEARY TALES FOR STRANGE LULLABIES” : 9.9/10

続きを読む NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【6:33 : FEARY TALES FOR STRANGE LULLABIES – DOME】

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【MASTODON : HUSHED & GRIM】


COVER STORY : MASTODON “HUSHED & GRIM”

“It Feels Like Someone Has To Die For Us To Make An Album. I Hate This Feeling. But, When Loved Ones Close To Us Pass, We Feel Obligated To Pay This Tribute To Them Musically For Some Reason.”

HUSHED & GRIM

2018年9月にバンドマネージャーで親友の Nick John が亡くなったことは、MASTODON にとって深い傷となりました。アトランタの巨匠はその痛みを、驚愕の2枚組 “Hushed & Grim” の中へ、生と死、悲しみと偉大な来世についての壮大なタペストリーとして織り込みました。
「”Gigantium” という曲の “mountain we made in the distance, those will stay with us” の一説は、亡くなった元マネージャーの Nick Johnに、俺たちが一緒にやってきたこと、それが彼がいなくなっても残っているということを伝えている。”Gigantium” の最後の部分は、エンディングにふさわしいサウンドだと思う。俺たちはいつも、どのアルバムでも壮大なエンディングを探しているんだよな。”Leviathan” の “Hearts Alive” のように、大きな、長い、別れの曲をいつも探しているんだ。”Gigantium” のエンディングのリフを見つけたときには、”これが何になろうとも、とにかくエンディングを手に入れた” と思ったよ」
2018年の夏の終わりに MASTODON が大親友の Nick John に電話をかけたとき、彼らはその後の訪問が最後になることを知っていました。バンドの “5人目のメンバー” とも呼ばれた長年のマネージャーが、膵臓がんとの勇敢な闘病生活の終わりに近づいている事実は深く心に刻まれ、4人は苦しい別れを覚悟してロサンゼルス行きの飛行機に乗り込んだのです。
しかしその覚悟も虚しく、ドアを開けてニックの家に入るとそこには在宅ホスピスケアの器具が散乱した空間が広がっていて、魂が揺さぶられるような無力感、ささやきかけるような諦め、はらわたが煮えくり返るような恐怖の雰囲気が、バンドの集合的な記憶に刻み込まれることになります。ギタリストの Bill Kelliher がその時の心情を振り返ります。
「心の準備ができていないような感覚だった。もちろん、電話や Facebook で亡くなった人の話を聞くと悲しい気持ちになる。だけど、実際に部屋で人の最期の瞬間に立ち会うと、死が具体的なものになるんだよ。人生の短さ、不公平さ、厳しさを実感する。気まずい思いをすることもある。誰も何を言ったらいいのか、何をしたらいいのかわからない。悲しみ、無力感、落ち込み、不安、怒り、人生そのものにたいする思考など、さまざまな感情が湧いてくるんだ」

MASTODON の広大な8枚目のアルバム “Hushed And Grim” は、死の瞬間の記念碑であり、その後数年間に渡る喪失感の抽象的なクロニクルでもあります。まずこのタイトルは、1939年の映画大作 “風と共に去りぬ” の間奏部分から引用されています。この作品は、アメリカ南北戦争における彼らの故郷アトランタを舞台にした永遠の名作であり、映画のテーマである失恋と社会的・政治的分断が、アルバム全体にサブリミナル的に封入されています。ドラマーの Brann Dailor は、”かなりひどい個人的なこと” を経験したと語ります。
「コロナによって失われた何百万人もの命の亡霊が、アルバムに宿る無数の暗い隅につきまとっている。ただ、最終的には個人的な思い出と死についての熟考というアルバムのメッセージを確立できたんじゃないかな。”Hushed And Grim” はムードなんだ。悲しみや罪悪感を表現している。友達があんなに苦しんでいるのを見ながら、自分には何もできないってのは本当に酷いことだ。分かる人には分かると思うけど..」
MASTODON が愛する人の死をテーマとしたアルバムを制作するのは、今回が初めてではありません。2002年のデビューLP “Remission” と2009年の “Crack The Skye” の大半には、Brann の14歳で亡くなった妹、その記憶と格闘している様子が描かれています。2011年の “The Hunter” は、狩猟旅行中に亡くなったギタリスト Brent Hinds の弟 Brad へのトリビュート作品です。”Once More ‘Round The Sun” は、Brann の母親が昏睡状態に陥ったことを受けて書かれたもので、さらに2017年の “Emperor Of Sand” は、ベーシスト Troy Sanders の妻が患った癌と、レコーディング中に他界した Bill の母親について認めています。
「アルバムを作るためには、誰かが死ななければならないような気がするよ…」
Brent の言葉です。芸術作品を作ることは、失われた愛する人への完璧なトリビュートとなるのでしょうか。MASTODON のジャム・セッションでは、愛と喪失、生と死についての率直な議論が30分に渡って行われますが、それでも彼らにはより大きな声でより深い真実を語る必要性がありました。Bill が説明します。
「俺たちは男だから感情的なところを見せにくい部分はある。言いたいことほど言わないというかね。だから、言わずに伝える方法は音楽を通してだけなんだ。年をとると、人がいなくなり始める。俺たちは喪失のプロになってきたんだと思う。”誰かを失ったから同情してくれ” という感じじゃなくてね。生から死への道を正面から向き合うことが出来るようになった」
一方で他のバンドメンバーとは異なり、Troy にとってNick の死は彼にとって初めての悲しみの体験だったと言います。
「このアルバムの作曲とレコーディングは、俺にとっては悲嘆や喪失のカウンセリングのようなもだった。最初は恐ろしい気持ちになったけど、最終的には素晴らしい気持ちに落ち着いたよ。もっと幸せなアルバムを作りたいと思っていても、それは不可能だった。俺たちのバンドはそんな風に嘘はつけない。闇をすべてかき分けて、すべてが素晴らしかったと言うことはできないんだから」
Brent が続けます。
「アルバムを作るためには、誰かが死ななければならないような気がするよ…俺はこの感覚が嫌いなんだ。でも、身近な人が亡くなると、なぜか音楽でその人に敬意を払わなければならないような気がするんだよな…俺たちはこれまでに多くのレコードを出しているけど、その大半は亡くなった友人へのオマージュなんだ。多くの人と同じように、俺たちもつらい経験をしてきた。そうして俺たちは、世界の中で永遠の場所と感じられるもの、そんな大切な場所を作るために時間をかけることを選んだんだ。亡くなった人のことを音楽にすると、その人がまだ生きているように感じられるから…」

最終的に、悲しみから抜け出す唯一の方法は通過することかもしれません。前に向いて進むことが唯一の方法。Troy は2020年の後半に GONE IS GONE と KILLER BE KILLED で優れたアルバムをリリースしたように、ここ数年間の多作によって若返り、音楽的な視野を広げ、”本命” である MASTODON で “さらに上を目指す” 準備を行ってきました。
友人から “ロック界一の働き者” と呼ばれる Bill は、カスタムメイドのシルバーバーストESP Sparrowhawk を片手にリフ・マスターとしての地位を再確認していますが、同時に彼の “不動産” の手腕もアルバムには不可欠でした。
2017年にオープンした Ember City Studios は、MASTODON だけでなく、何十人もの地元ミュージシャンに貴重なリハーサルスペースを提供してきました。Bill は、長年エンジニアとして活躍してきた Tom Tapley と協力して、Ember City の地下室を設備の整ったレコーディングスタジオ West End Sound に改装し、バンドに創作の自由をもたらしました。「自分たちのスタジオだから、時計の針が動いているようには感じられないし、金銭面でも助かるよ」と彼は微笑みます。
MASTODON のライティング・プロセスは、常に興味深いイメージやアイデアを収集し “リフバンク” に預金を繰り返すというやり方でしたが、アルバムナンバー8をまとめるプロセスはスタジオが2019年後半にオープンするのとほぼ同時に始まりました。ロックダウンが始まる前から、創造性のために真っ白なキャンバスを用意していたのです。
2020年のコンピレーション “Medium Rarities” に収録された “Fallen Torches” は、この場所で初めてレコーディングされた楽曲です。ロックダウンが始まったとき、このスペースは彼らの思考を集約するための避難所となりました。さらにピーター・ガブリエル、KING CRIMSON, TOOL, MUSE といったプログレッシブ・アイコンを手がけ、その TOOL のスティックマンである Danny Carey が強く推薦したカナダの伝説的プロデューサー、 David Bottrill を起用することで最終的なビジョンが見えてきたのです。
「彼の血統は俺たちの好みにピッタリだった」と Brann は語ります。
「俺たちが同意したのは、”明瞭さ” という言葉だった。俺たちは、1つのトラックにすべてのものを詰め込んで、作曲を混乱させる傾向がある。サイケデリックで音の壁があるようなヘヴィー・ロックを今でも目指しているけど、それだけでなくすべての小さな音をも聞き取れるようにしたいと考えていたからね」

ディテールと同様に重要だったのがスコープです。15曲、88分にも及ぶ “Hushed And Grim” の最終的な設計図はそれまで MASTODON が試みてきたものをはるかに超える、複数のパートからなる巨大なサーガでした。ストリーミング時代において “ダブル・アルバム” というタグは、かつてのような本質的な威信を持ち合わせていないかもしれませんが、この作品における膨大な広がりと複雑さは、子供時代の Brann が影響を受けた叙事詩たちを呼び起こします。GENESIS の “The Lamb Lies Down on Broadway”、LED ZEPPELIN の “Physical Graffiti”、PINK FLOYD の “The Wall” …アルバムは、ロック、サイケデリア、パンク、メタル、オルタナティブ、プログなどの音の風景を、4人の熟練したミュージシャンの天性の表現力でつなぎ合わせた15曲。これまでで最も意欲的な作品で、同時に、3人のカタルシスに満ちたボーカルからは、非常にリアルな喪失感、孤独感、そして救済の雰囲気が漂っています。
「家で聴いていたら、この15曲がうまく調和しているように思えたんだ。クレイジーだとは思うけど、2枚組のアルバムを出して、1時間半の長さにするというアイデアを考えてみたらどうかなと思ったことを覚えている。誰かが俺を非難するだろうとも思ったけどね。俺は、このアルバムに与えられたスペースを気に入っているよ。静かな瞬間も、アトモスフェリックなものもね」
ただし、彼らの最新作を二枚組の超大作と予想していた人はほとんどいなかったでしょう。MASTODON はリリースのたびに未知の領域に針路を定めており、ファンの間ではアルバム8では “Emperor of Sand” のカウンターとしてより荒々しいサウンドスケープと奇妙な潮流を横断することになるだろうという暗黙の了解がありました。それでも、”Hushed And Grim” には気が遠くなるような、時には圧倒されるような聴きごたえがあります。
奇妙に絡まるオープニング “Pain With An Anchor” のスパイラルで悲嘆のプロセスへと誘い、7分近いフィナーレの “Gigantium” で浄化する。その激しいムードと結びついたモチーフを真に理解し始めるには、何度も聴く必要があるはずです。
「死後の世界の神話。その新しいバージョンのようなものかな」と Brann はこのアルバムの “ゆるやかな” 全体的なコンセプトを語り、印象的なアートワークに結びつけていきます。
「死んだら魂は生きている木の中心に宿る。そして木が1年を通してそうしているように、じっとして、四季を経験しなければならないんだ。それが自然界に別れを告げる方法なんだよ。その中で、自分が生きてきた人生の柱を振り返るわけさ。自分がしてきたことを償わなければならないんだよ」
喪に服す人から喪に服される人へ、死のトラウマから死の必然性へと巧みに焦点を移し、同時に生きている人には手遅れになる前に自分のことをよく考えようと誘う、魅力的なテーマです。
崇高で不気味な “Sickle And Peace” では、Tom Tapley の娘が怪しげな声で登場し(’Death comes and brings with him sickle and peace’)苦しんでいる人々に死がもたらす慈悲をあえて認めています。一方、フックの効いたハイライト曲 “Teardrinker”(’Leaving you behind / is the hardest thing I’ve done’)や巨大な “More Than I Could Chew”(’Say when / And I’ll be running back’)のような楽曲には、取り戻せない後悔の心の痛みが漂っています。

プロデューサーの David は、語法と発音を重視することですべての感情を強調し、それまでディストーションを防御手段として使っていたボーカリストたちに隠れる場所を与えませんでした。
「彼は、俺たちが書いた歌詞は俺たち、それに周りの人たちにとって重要なものだからちゃんと聞かせよう言ってくれたんだ。これまでの俺たちは、歌を隠す傾向があったと思う。詩を批評されることを恐れて、表に出すことができなかったんだ」
Troy も同意します。
「長いアルバムだしたくさんの曲があるけど、くだらないものを排除して要点をつかむのがうまくいったと思う。曲を作っているときは多くの場合、脂肪を削ることについて話していた。俺たちはアルバム全体でそれを行えたんだ」
Bill は、最初は “新しいこと” に挑戦する気はなかったが、David の貢献により、このレコードは本当に特別で、他とは違う、次元が違う作品となったと認めます。
「サウンドの多くの方向性を決めるのに、David は大いに貢献してくれた。良いプロデューサーかどうかの90%は、心理学の学位を持っているかどうかだと思うんだ。俺たちはバンドマンであり、ミュージシャンであり、音楽的なリフに心と魂を注ぎ込んでいるから、それは俺たちにとって大きな意味を持つんだ。もし誰かに、あのリフは好きじゃない。そのリフは最悪だ。曲には入れないよ!なんて言われたら、胸が痛むよね。そんな人とはやれないよ。
でも彼は、MASTODON の大ファンで、最高のレコードを作りたいと言ってくれた。彼は誰かの創造性を侮辱することなく、実に巧みに言葉を操ることができたんだ。俺たちは基本的にすべてのことを試してみた。彼は、何かを試すことに問題はない。やりたいことがあれば、熱意を持って取り組み、とにかくやってみることだ。誰かが、ここで歌ってみたい、ここでソロを弾いてみたいと思ったら、やってみようよ。もしかしたら合わないかもしれないけど、やってみないとわからないからって感じでね。だから、全員がオープンマインドで臨んだ結果、素晴らしいものになったんだ。これまでの作品の中で、最も充実した、ビッグなサウンドのレコードになったんだよ」
インストゥルメンタルの部分でも、この死の領域を超えた旅を表現するためには新たな発明が必要でした。YES, GENESRS, RUSH, THIN LIZZY, MELVINS, Björk といった古の影響。その車輪の再発明を促しつつ、NEUROSIS, ISIS のスロウ・バーン、そしてミニマルな要素を有効的に活用しています。

Brann が “ファミリー” と呼ぶ、友人や親戚、尊敬する仲間たちとのコラボレーションは、冷たくて暗いイメージの中に温かみと切なさをもたらしています。THE CLAYPOOL LENNON DELIRIUM のキーボーディストJoão Nogueira が魅せる “Skeleton Of Splendour” の驚異的なシンセサイザーのクレッシェンドは衝撃的。新進気鋭のブルース・ギタリスト、Markus King は、変幻自在な “The Beast” で B-Bender の影響を受けたブルーグラスのイントロを担当。さらに MUNICIPAL WASTE の Dave Witte(Brann が15歳の頃からの友人)は、”Dagger” でトライバルなドラムを披露し、MASTODON がこれまでに作り出したことのないエキゾチックなサウンド・スケープの構築に貢献しました。
「MELT BANANA, BLACK ARMY JACKET, DISCORDANCE AXIS。さまざまなバンドに参加してきた Dave とは、長年にわたって常に連絡を取り合ってきた。彼は現存する最高のグラインドコア・ドラマーの一人だよ。彼が TODAY IS THE DAY のギグに連れて行ってくれた。もし Dave が俺にそのギグに行くように勧めてくれなかったら、今の自分はなかったかもしれない。彼のことは大好きだ。”Dagger” でトライバルなドラムワークのために彼を迎え入れる場所を見つけられた。2枚組のアルバムを作ると、少しずつ活動の幅を広げることができる。親友であり、尊敬してやまない彼を、たとえクールなドラムパートのためだけだとしても、呼ぶことができたのは、素晴らしいことだよ」
“Had It All” は、Troy が GONE IS GONE でセッションしたときの曲のようにも聞こえますが、このバンドにとってのバラードであり、その非常に感動的なコーラス(You had it all / Tomorrow’s never fine / The peace we lost in ourselves are nevev)は、 SOUNDGARDEN の大御所 Kim Thayil のスコールのようなソロや、トロイの母親  Jody のフレンチホルンを伴って感情を最高潮まで高めます。
つまり、”Hushed And Grim” は何よりも、リスナーが慰めと共感を求めて掘り下げられるレコードなのです。「ファンが MASTODON にたどり着くということは、薬にたどり着くということだ」と Bill は説明します。彼はファンからの手紙をすべて読み、自分の歌には治療効果があると自負しています。それでもこのレコードの最終的な譜面と歌詞を見たとき、彼は驚きを隠せませんでした。
「なんてこった、これは俺たちにとって真のステップアップだ!と思ったね。まあでもそうだよな。俺たちは年齢を重ね、より多くの経験を積み、常に自分たちの仕事をより良くしている。そして俺たちには、ファンとパーソナルなつながりを築く義務があり、それがこのアルバムのすべてなんだよ。それは、悲しみや苦しみだけではなく、ファンと一緒に乗り越えようとすることなんだ」

すべての人にすべてのものを提供しようとすることは不可能で、実りのない追求です。結局、誰も満足しないまま終わってしまうはずですから。とはいえ、”Hushed and Grim”は、ある意味、すべての MASTODON ファンのための MASTODON による MASTODON のレコードであると言えるでしょう。 “Teardrinker” と “More Than I Can Chew” は、ドラマーの Brann が3人目のリード・ボーカルとなりプログ・メタル、そしてスラッジ・メタルの頂点に立った彼らの重大な転機 “Crack the Skye” を思い起こさせます。初期からのファンにとっては、”Pushing the Tides” と “Savage Lands” が、”Remission” がまだ新鮮で、MASTODON の存在自体もまだ新鮮だった頃を思い出させてくれるでしょう。つまり逆説的にいえば、この作品は MASTODON が最も自分自身に影響を受けたレコードなのでしょうか?Brann が答えます。
「どうだろう。ただ、出てきたものだよ。通常、俺たちは筮竹(占いの竹ひご)のようなバンドで、良い音がするものには何でも従って、出てきたものを演奏するだけなんだ。俺たちはバンドになってからずっと、自分自身を掘り下げてきた。リフが出てきたら、シンプルに “これが好き、これがいい、これをやろう” って感じでね。
俺たちは何も恐れていない。新しいサウンドや異なるサウンドが現れたときは少し興奮するよ。”The Beast” という曲では、ブルース・シャッフルのようなものがあるし、この曲の最初にはちょっとしたカントリー・リックもある。”Sickle and Peace” の冒頭のセッションは、これまでよりも70年代風のプログレッシブなサウンドになっているね。俺たちはただ時間をかけて仕事をし、そこに座って何時間も何ヶ月もかけてリフを作っていたんだよ」
“The Beast” のカントリー・リックは “Leviathan” の “Megalodon” を想起させます。
「あれはすべて Brent のスタイルなんだ。彼はいろいろな面からギターを弾くのが好きなんだけど、俺はいつも彼の演奏の側面、つまりカントリー・ハイブリッド・ピッキングを取り入れたいと思っているんだ。彼が何かクールなことを思いついたら、それを使ってみたいし、取り入れてみたい。俺は10代の頃、スラッシュ・メタルにしか興味がなく、カントリーはまったく好きじゃなかった。南部出身の Brent と Troy と一緒にバンドを組んで、”The Fart Box “というバンに乗っていたときは、運転してるヤツがステレオをコントロールできた。当時のステレオからは、Wille Nelson がよく流れていた。最初の頃は、お互いの音楽コレクションを知ることが目的だったよ。逆に俺が車を運転しているときに、”Lamb Lies Down on Broadway” をかけると、彼らは “Woah!”と言うんだ。それがきっかけで、カントリーに対する意識が変わったよな。あの “Megalodon” のリック、最初は突拍子もなくて躊躇したんだけどね。それが “Master of Puppets” のようなサウンドの部分にぶつかったとき、とてもうまくいったんだよ」
実際、Brann の歌を手に入れて、バンドはさらに成熟を遂げました。そして今回、さらに Brann の “歌手” としての仕事は増えています。
「俺は、バンドで歌いたいと思ったことは全くなかったんだよな。バンの中でスティービー・ワンダーをかけたり、ジューダスやオジーをかけたりして、運転中に大声で歌っていたから、メンバーからプレッシャーをかけられていたんだよ。彼らは、”お前、歌えるのか!?” と言ってきてね。俺は歌いながらドラムを叩くなんて、絶対に嫌だと思ったよ。本当に難しいことだし、俺の仕事はドラムだけでも十分大変なんだから。俺は自分を窮地に追い込みたくなんてなかった。でも今は大丈夫なんだ。
以前は、歌詞を書いて、貢献しようとしていた。特に初期の段階では、叫び声のような歌詞やボーカルは、もうひとつのパーカッシブな楽器のような役割を果たしているからね。それで俺はいつも、自分が書いた歌詞の上に重ねるカデンツや何かのアイデアを持っていてね。それを Brent と Troy が再現していた。”Crack the Skye” でも二人が再現してくれることを期待して、自分のアイデアを歌ったんだけどね。Brent は、俺の声にとても好きな音色や響きがあると強く主張していてね。プロデューサーの Brendan とも相談して、俺のボーカルを残すべきだという意見で一致したんだよ。それがきっかけで、俺が歌うことになった。俺たちのファンの中には否定的な人たちもいて、それにはある程度うんざりしているけど、まあべつにいいよ」

バンドとして21回目の “誕生日” を迎えた MASTODON は、嬉々として皮肉を込めたヴィネットを SNS に公開しました。4人のメンバーはバーに入り、パーティーハットをかぶり、不機嫌な笑みを浮かべ、特大の運転免許証を持って、”ビール1本” を注文します。そして、酔っぱらった状態で楽しい時間を過ごします。節目を迎えた彼らは心の奥底で、21世紀メタル世界の旗手、そんな自分たちの時間、遺産、地位についてどう考えているのでしょうか?
「時々、頭の中で計算することがあるんだ」と Brann は茶目っ気たっぷりに話します。
「例えば、2004年に SLAYER のツアーに参加したとき、彼らはバンド結成から21年が経過していた。彼らは21年目のバンドだった。彼らのことは大好きだったけど、”ああ、昔のバンドだな……” という感じだったんだよ。そして今、俺たちはその時点での彼らと同じくらいの年齢になっているんだ。だからたぶん、今の子供たちは、MASTODON が本当に古い、クラシックなバンドだと思っているんじゃないかな。だけど仕事に打ち込んでいて、自分がやっていることを正直に愛していれば、レガシーの問題は自ずと解決するんだけどね」
Brent は、最先端のメタルの過激さには単純に勝てないと主張しています。同時に彼は、MASTODON や BARONESS のようなバンドが、クラシック・ロックのカテゴリーに入る時代が来ると考えているのです。
「それでいいんだよ。俺たちは皆、50歳に近づいている。だから怒りはないけど、リフがあって、かっこいいドラマーがいて、それだけで十分なんだよな」
たしかに、彼らの淡々とした内向きの集中力が、現在の MASTODON を特徴づけ、熱心なファンを多く獲得しているのは間違いありません。ロックン・ロールの世界で重要なのは、独自のニッチを切り開くこと。それが永続的な使命。

ロックダウンの不確かな静寂がアルバムにもたらしたものも存在すると Brann は語ります。
「失って初めて、自分が何を持っているのかがわかる。MASTODON は数ヶ月間活動を停止して、いつ戻って来られるのかわからなかった。それが俺たちをひとつにしてくれたし、当たり前がいかに貴重なものであるかを再確認させてくれたんだ」
Bill も同意します。
「もう二度とバンドの存在を軽視するようなことはしない。俺たちには素晴らしいバンドがあり、100万人の素晴らしいファンがいる。彼らは俺たちの演奏を見たくてたまらないし、俺たちも彼らのために演奏したくてたまらない。できる限り多くのショーをやろうと思っているよ」
もちろん、他の多くのグループが分裂したり、消えていく中で、MASTODON を四半世紀近くにわたって結びつけてきたのは、お互いの目的以上のものでしょう。プライド、経済的な必要性、そして互いの創造性と美徳への称賛などがその役割を果たしているはずです。ただし、最も重要なのは自由であることだと彼らは言います。最もワイルドな音楽的アイデアを表現し、必要なときにはバンドの生活から離れることができる。兄弟のように、カルテットは風に乗って散らばることができ、同時に運命が彼らを呼び戻すのに時間はかからないという安心感があるのです。
「俺たちはまだお互いを笑わせることができる」とBrent は言います。
「まだまだお互いを怒らせることができる。俺たちはまるで兄弟のようなんだ。だけど、兄弟はしばらくすると話をしなくなるものだが、俺たちにはこの音楽を人々の生活に届けるという非常に重要な使命がある。そしてこれは子供や若者の頃から望んでいたことなんだ。手に入れたからにはそれを維持したい。最近では、長くやっていることもあって、まるでギャングのようにつながっているよ」
「MASTODON は、今も昔も自分の家だ」と Troy はうなずきます。
「”Hushed And Grim” は俺たちにとって最も協力的な作品になった。ソングライターやリリシストは一人もいない。全員が貢献し、全員が執筆し、全員がリスクを取ることに専念したわけさ。それはまさに “バンド” という言葉を象徴している。17年前、俺たちは “白鯨” についてのアルバムを書くというリスクを冒した。今は2枚組のアルバムでやはりリスクを冒している。正しいと思えば、それをやるだけだ」
Brann が纏めます。
「ありきたりな言葉だけど、俺らは一緒にたくさんのクソを経験してきたし、そのクソのすべてがアルバムの曲に込められている。俺たちが解散するには、よほどのことが必要だと思うぜ。これまで、たくさんの衝突や喧嘩、傷ついた感情や怒りの瞬間を経験してきたけど、話し合いで解決できないことはないんだよ。Troy や Brent、Bill を見ていると、俺たちは最初から最後まですべてを共に経験しているように思えるね。他の人とはそんな長い共通の歴史を持っていないよね。だからこそ、この関係を維持しなければならない。お互いに維持していかなければならないんだ」

参考文献: KERRANG!:How collective grief shaped Mastodon’s most grandiose, gut-wrenching album ever

SPIN:Mastodon Are Inspired By Themselves On Hushed And Grim

BLABBERMOUTH: MASTODON Guitarist Talks ‘Amazing’ New Album: ‘It’s The Fullest-‘ And ‘Biggest-Sounding Record We’ve Done So Far’

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【VOICE OF BACEPROT : THE OTHER SIDE OF METALISM】


COVER STORY : VOICE OF BACEPROT “THE OTHER SIDE OF METALISM”

“To Slander Is Easier Than To Create, Which Is Why It Is Not Surprising To See Many Choosing To Sneer And Mock Instead”

METALISM FIGHTS TO THE STEREOTYPE

2014年、インドネシアの田舎の教室で、3人の女子学生がメタルと恋に落ちました。当時14歳だった彼女たちは、西ジャワ州ガルートにある学校の課外芸術プログラムの中で、学校のガイダンス・カウンセラー Ahba Erza にメタルを “習い” ます。
すぐに3人は、SYSTEM OF A DOWN のユニークで美しいリリシズムや、RAGE AGAINST THE MACHINE, LAMB OF GOD の “反骨精神” に惹かれていきました。やがて、3人は VOICE OF BACEPROT を結成し(”Baceprot” はスンダ語で “うるさい” という意味)、独自の扇情的な騒動を巻き起こしています。
「うるさい声ってバンド名が象徴するように、私たちは独立した人間であることの重要性を叫び続けるわ」
7月下旬、VOICE OF BACEPROT の3人は、2004年にリリースされた SLIPKNOT の名曲 “Before I Forget” をライブでカバーしました。このバンドの熱のこもった、気負いのない演奏を見ていると、かつてこの若い女性たちが定期的に殺害の脅迫を受けていたことを想像するのは難しいかもしれません。

VOICE OF BACEPROT は、シンガー・ギタリストのFirdda Marsya Kurnia、ベーシストの Widi Rahmawati、ドラマーの Euis Siti Aisyah の3人で構成されていて、荒波の中を台風のように台頭し勢力を増しています。イスラム教の信仰に基づいてヒジャブを着用して演奏する彼女たちは、2017年に RAGE AGAINST THE MACHINE, SLIPKNOT, PEAPL JAM のカバーをネット上で公開して話題になりました。しかし、ニューヨーク・タイムズ紙の記事では、音楽の話よりもまず、彼女たちのヒジャブと柔和な表情が最初に紹介されています。そのため、彼女たちは頻繁に暴力的な嫌がらせの対象となっていました。ある夜には、スタジオから車で帰る途中、悪口を書いた石を投げつけられたり、殺害の脅迫を受けたり、バンドの解散を迫る電話を受けたり。しかし、Kurnia、Rahmawati、Aisyah の3人は、自分たちのその知名度に臆するのではなく利用して、勇気を持って活動しています。
「中傷は結局、SNS 上のコメントにしか過ぎないのよ。最初は少し怖かったけれど、自分たちの音楽に集中したわ。最も困難だったのは、私たちのような女性(特にヒジャブをかぶった女性)は音楽をするべきではないという偏見との戦いだった。彼らは私たちのことを、学校で勉強して高い点数を取ることに集中すべき子供だと思っているの。呪いの言葉や、演奏をやめるべきだという言葉をたくさん受け取った。彼らは私たちに音楽をやめさせようとしているの。ほとんどの場合、私たちが女性だからそういうことを言われるのだと思うけど、私たちは自分の心の中にあるものを言うことを恐れない。多くの人はそれも好まないのよね。もし私たちが男性だったら、こんなに苦労しなかったかもしれないわね。でも音楽は私たちに大きな喜びを与えてくれるから、演奏し続けたいと思っているわ。音楽に集中しているから、他のことはどうでもいいの!」

実際、シングル “God Allow Me (Please) to Play Music” は、彼女たちを罪深い異端者とする批評家たちへの直接的な反撃です。”神様、私に音楽を演奏させてください” というタイトルのこの曲は、いまだに女性を男性と同等に見ようとしない人々と直接対決する強い意志。その意志を込めて書き歌う必要が彼女たちにはありました。タイトルの “祈り” が文字通りの意味であるかどうか、バンドがロックを演奏するために神に許可を求める必要があるかどうかについては、3人は言及していません。しかしメンバーは皆、敬虔でありながら進歩的な考えを持っており、信仰のために誤った判断をされたり、嘲笑されたりすることは許されないと明言しています。そしてこの曲は “女性の抑圧” と “私たちが共通して物や二流の人間として扱われていること” に対するプロテスト・ソングだと Kurnia は語ります。
「もし、私たちが女性でなかったら、自由に音楽を演奏することを神に許可してもらう曲を書く必要性を感じなかったかもしれないわ。もし私たちが女性でなかったら、ここでは悪魔崇拝の音楽祭とみなされる巨大なメタル・フェスティバルに出演することになったからといって、私たちが自分たちの宗教にとって恥ずかしい存在だと言われることはないでしょう。 私たちは、芸術作品が性別によって分類される可能性があることを知って、少し悲しくなったのよ。だからメッセージはシンプルよ。私たちは犯罪者じゃない。ただ自由に音楽を作りたいだけだし、神様もきっと私たちをお許しになるわ。というよりも、メタルがむしろ私たちを神様に近づけてくれているの。」
ただし、彼女たちは3人のイスラム教徒の女性がヒジャブをかぶり、メタルを演奏することで、自分たちが強い話題を提供できることを知っています。それでも、彼女たちは自らの音楽と社会意識の高い歌詞で自分たちを証明しようとしています。そうして VOICE OF BACEPROT は、女性イスラム教徒でメタル教徒というアイデンティティーを取り戻し、その過程で、NIRVANA, RAGE AGAINST THE MACHINE, RED HOT CHILI PEPPERS の新旧メンバーを含む世界中のファンを獲得し、刺激を与えています。
そういった彼女たちのメンターは、技術的なスキルやステージ上での存在感をトリオに教えるだけでなく、特に SNS で自分たちを宣伝する方法も教えています。もちろん、バンドが最初に有名になったのもソーシャル・メディアでした。初期の頃、彼らのライブ・パフォーマンスのビデオは、Twitter, Facebook, Instagram などで広く拡散され、国外に広まっていきました。昨年、Tom Mollero は、彼女たちが RATM の “Guerrilla Radio” を演奏している動画を “ROCKING” とリツイートし、熱狂的な支持者である Flea は、”VOICE OF BACEPROT に賛同する” とツイートしています。
「私たちの音楽が地元の人々だけでなく、海外の人々にも聴いてもらえる大きなチャンスを与えられたわ。いつか彼らとのコラボレーションも実現したいと思っているの」

新しいEP “The Other Side of Metalism (Live Session)” で VOICE OF BACEPROT は、カバーとオリジナル曲を織り交ぜながら、自分たちに影響を与えたグループに対する敬意を表しています。RATMの “Testify”、SYSTEM OF A DOWN の “I-E-A-I-A-I-O”、ONE MINUTE SILENCE の “I Wear My Skin”、そして前述の “Before I Forget” という5曲のカバーを選んだのは、「過去7年間の音楽の旅を通して、大きなインパクトを与えてくれた曲だから」そう Kurnia は語ります。Rahmawati は、「メタルは、私たちが自分たちを表現するのに最適のジャンルなの。とてもパワフルで、私たちに自由を与えてくれるの。最近は AUDIOSLAVE, GOJIRA, JINJER をよく聴いているわ」と続けます。
VOICE OF BACEPROT の初期のオリジナル曲に影響を与えた激情的な Nu-metal、SLIPKNOT に対する彼女たちの愛は、アイオワ出身の覆面バンドが持つ願望にも通じていました。彼女たちは、”Before I Forget” のカバーを発表した際、「私たちは、 SLIPKNOT がこんなに人気があるのに、どうして顔を隠して音楽を作り続けているのか不思議に思っていたの」と述べています。ヒジャブを纏う VOICE OF BACEPROT にとって、個人的な外見を超えることは明らかに重要なテーマなのです。
「私たちは何よりも音楽性を重視して前進し続けたいの。外見にこだわらず、自分たちのアイデンティティーを捨てずにね」
さらに、VOICE OF BACEPROT は RATM や SOAD といったヒーローたちのように、臆することなく政治的なアジェンダを持ち、次の世代の危機のために戦っています。オリジナルの “The Enemy of Earth Is You” は、若いバンドにとって特に関心の高いテーマである気候変動に対する激しいリアクションでした。地下水の違法な枯渇、雨季の短縮、海面の上昇など、彼女たちの故郷であるインドネシアでこの問題は特に深刻です。Kurnia が地元である西ジャワ州ガルートを例に挙げて説明します。
「私たちは、環境意識の欠如がもたらす影響を、すでに感じ始めているわ。村ではきれいな水を手に入れるのがとても難しいの。環境への配慮は、今だけではなく、将来のためにも必要なことだと思う」

女性イスラム教徒という抑圧の出自に対するバンドの挫折感は、オリジナル曲 “School Revolution” にも表れています。2018年にシングルとして発表されたこの曲は、彼らが10代の頃に感じた保守的なマドラス(地元のイスラム教の学校)での判断を痛烈に批判したもので、校長でさえ彼らの音楽を “ハラム”(宗教上の法律で禁止されていること)と呼んだことがありました。英語と彼らの母国語であるスンダ語を織り交ぜて歌われた “School Revolution” の絶望と反抗のメッセージは、強烈に心に響きます。学校での制限された勉強に囚われて、自分の情熱を表現できないことを歌った情熱の楽曲。学校を “牢獄” と比喩し、英語の詩では Kurnia がこう叫びます。「私の魂は空っぽで、私の夢は死にかかっていて、私の魂はダークサイドに落ちて、私は自分の人生を失う」。
ドラマチックなリリックですが、「より身近なテーマを前面に押し出してみたの」と Kurnia は言います。「厳格な校則を守るために、生徒たちが自分の希望や夢から遠ざかり、自分を見失っているとしたら、私たちはそれが単なる従属の一形態であると思うわ。これは、私たち自身が感じたこと、Abah と話したこと、そして多くの本で読んだことに基づいているの。当時、私たちの生活の中で、学校は大きな役割を果たしていた。多くのティーンエイジャーが思春期を過ごす場所でもあるしね。学校は、生徒の希望や夢を受け入れることができる、公正で公平な空間であるべきだと思うのよ」
この曲は、Flea や Krist Novoselic の推薦を得て、グループの画期的なヒット曲となりました。
さらに VOICE OF BACEPROT は、現地のインドネシア音楽シーンのメンバーからも支持を集めます。”School Revolution” を制作したのは、メタル・バンド MUSIKIMIA で活動するギタリスト、Stephen Santoso。後にガルートからジャカルタに移った3人は、テクニカル・デスメタルのヒーロー、DEATHSQUAD のギタリスト、Stevie Item や、全米で有名なジャズ・ベース奏者でプロデューサーでもある Barry Likumahuwa と知り合うことになります。タイミングも良かったのでしょう。3人が一緒に暮らすことで、パンデミックが発生しても練習を続けることができるようになりました。
そういった様々な支援者の指導のもとで、VOICE OF BACEPROT はその才能を磨いてきました。3人とも音楽の専門教育を受けていない状態でのスタートでしたが、驚異的な器用さと完璧なリズム感が先天的に備わっていました。Kurnia が語ります。
「私たちはまず独学で学んだの。それから、基本的な技術や理論は師匠たちからたくさん学んだわ。彼らは私たちの基本的なスキルを完璧にして、音楽理論を教えてくれたの」

皮肉なことに VOICE OF BACEPROT が直面したハードルとは対照的に、インドネシアにはアジアで最も活気のあるメタル・シーンがあり、同国の大統領 Joko Widodo でさえメタル・ヘッドを公言しています。ただ、彼女たちはインドネシアで唯一の女性メタル・グループではありますが、地元のメタル・シーンに参加する女性の数が増えていることに励まされているようです。自分たちの性別が成功の障害になっていないかと聞かれると、Kurnia はこう答えました。
「いいえ、そうじゃないの。なぜ不利なの? 私たちには、否定的な意見から力を得るという不思議な力があるのよ。否定的な意見は私たちの精神を高め、私たちをより強くしているの」
批判者からパワーを得て、熱狂的なファンからもパワーを得て、VOICE OF BACEPROT のスター性は間違いなく高まっています。最近、Tom Morello が3人の RATM のカバーを賞賛し、オリジナル曲も増え、海外ツアーにも目を向けています。「私たちはコーチェラに出演したいの」とAisyah は熱弁を振るいます。
31年前に始まったドイツの大規模な音楽祭、Wacken Open Air のステージに立ったインドネシアのバンドは、これまでにたった5組。しかし、来年9月には、VOICE OF BACEPROT がそこに加わり、その数はさらに増えることになります。
多くのインドネシアのメタル・ヘッズにとって、これは間違いなく誇らしいことであり、自国ではまだ有名になっていないに3人とっては夢のような出来事でしょう。しかし、この発表は、2014年の結成以来、ヒジャブを被ったイスラム教徒の女性がロックを演奏するのはふさわしくないとバンドに否定的な意見を投げかけてきた評論家たちの勢いを加速させました。彼女たちの技術やステージでの経験が不足しているために、世界的な WACKEN のステージに立つ資格がないと指摘する人もいれば、バンドが裏で取引をして、お金を払ってフェスティバルに出演しているとほのめかす人もいます。
探偵ではなくても、このような嘲笑や憶測には、昔ながらの性差別や保守主義、ロックは男の子(しかも悪魔崇拝者)だけの遊び場だという古臭い考えが染み付いていると推察することができるでしょう。
VOICE OF BACEPROT がフェスティバルで演奏するためにお金を払ったという噂については、Wacken Open Air が声明の中でしっかりと否定しています。
「ブッキング・チームのメンバーがテレビで彼女たちを見てヨーロッパのエージェントと知り合いになり、私たちのフェスティバルにおけるスロットを提供することにした。もちろん、W:O:A 2022での彼女たちのショーをとても楽しみにしているよ!」

VOICE OF BACEPROT が Wacken のステージに立つまでには、まだ1年以上の時間があります。それまでの間、トリオは技術を磨き、性差別主義者や保守的な嫌われ者に対する怒りを音楽にぶつけていきます。
「この問題には性差別がしっかりと根付いているわ。なぜなら、このような中傷者のほとんどは無知であるか、自分の発言がいかに性差別的であるかを知らないからね。でも、私たちはリラックスして、彼らを気にせず、音楽を作り続けることにしたのよ」
インドネシアには女性のロッカーは少なからず存在しますが、現在メインストリームで活躍している人はほとんどいません。当然、宗教的なスカーフをかぶってヘッドバンキングをするような人も。VOICE OF BACEPROT は、このような状況の中で “避雷針” となり、あらゆることの矢面に立ってきました。
Kurnia は、「中傷することは創造することよりも簡単で、だからこそ、多くの人が創造の代わりに嘲笑することを選ぶの。驚くことじゃないわ」と語ります。
ただし、幸いなことに彼女たちの本気度を目の当たりにした両親たちは、西ジャワ各地の音楽フェスティバルにブッキングされた後、やっと3人をサポートするようになりました。
「最初の演奏は学校のイベントで、お別れコンサートだったんだけど、両親が私たちの演奏を初めて見たの。私たちが通っていた学校は、かなり宗教色の強いイスラム教の学校で、みんなかなりショックを受けていたわね。それまで両親は、私たちがメタルをやることを明確に支持したり、禁止したりしなかったの。心の中では、私たちのことを誇りに思ってくれていると思っていたわ。少し心配だったかもしれないけど。でも、最初のライブの後、両親は私たちがメタルを演奏することを禁止したの。でも私たちは続けたし、あまり深く考えなかったわね。一年秘密に練習していたわ。辞めようとか、一歩退こうとか、そんなことは考えなかった。時が経つにつれ、両親やコミュニティからのサポートがないことが、むしろ私たちの精神的な強さや、悪影響を与えないことを証明するための決意を固めるのに、大きな役割を果たしていることに気づいたのよ」
彼女たちの限りない情熱は、歌詞やインタビューで語られる人生哲学の自然な延長線上にあるのかもしれません。Kurnia は、意欲的な女性メタル・ミュージシャンへのアドバイスを求められると、「勇気を持って、強くなること」と淡々と答えます。Aisyah は、田舎の小学生から世界的なメタル・アーティストになるまでの7年間の道のりを表す言葉として、「大きな夢を持つことを恐れないで」と目を輝かせました。
「私たちの音楽のメッセージは、自由について。女性としての自立、人間としての自立、そして人間の価値観や人間性についても多く書いているわ。私たちがやろうとしているのは、伝統を継承し、自分の意見を述べ、自分たちの音楽を他の人々と共有することなの」

参考文献: NME: Voice of Baceprot: Indonesian metal trio forge ahead to Wacken Open Air in defiance of sexist mudslinging

LOUDERSOUND: VoP Are The Metal Band That World Need Right Now

REVOLVER: How Indonesian Muslim Trio Found

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ALTESIA : EMBRYO】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ALTESIA !!

“Dream Theater Is Not Really an Influence For Me When I Compose, And Indeed, I Feel Closer To Bands Like Haken, Between The Buried And Me, Wilderun, Opeth, Caligula’s Horse.”

DISC REVIEW “EMBRYO”

「実際のところ、DREAM THEATER は僕が作曲するときに影響を受けているバンドではないね。HAKEN, BETWEEN THE BURIED AND ME, WILDERUN, OPETH, CALIGULA’S HORSE みたいなバンドに近いと思っているよ」
2019年、”Paragon Circus” でプログ・メタルの世界に登場した ALTESIA は、HAKEN の壮大、LEPROUS の荘厳、OPETH の邪悪を DREAM THEATER の技巧でつなぐ奇跡のニュー・カマーとして驚きと賞賛を集め、フランス・メタル・アワードで五位という衝撃のデビューを果たしました。重要なのは、彼らが DREAM THEATER の “息子” ではなく “孫” だという点でしょう。
「僕たちは、長いシュレッドのソロや、テクニックのためのテクニックなど、プログ・メタルの “決まり文句” を避けようとしているんだ」
予測不可能でジャンルを超えた音建築、印象的なインタルードの数々、テクニカルでエキサイティングな楽器の魔法、20分を超える巨大なプログの要塞、荘厳なコーラスを伴うメロディックな歌声、魅惑の変拍子。おそらく、プログ・メタルのリスナーが求めるものをほぼすべて備えながら、ALTESIA の音楽からこのジャンルの巨星 DREAM THEATER が創造した “クリシェ” を感じることはそう多くはありません。それよりも、DREAM THEATER を聴いて育った “息子” 世代のモダン建築を手本として、さらなるプログの更新を目指しているのです。
マイナー・キーの楽曲を基盤としながら、よりアップビートで煌びやか、明快な荘厳は LEPROUS や HAKEN, CALIGULA’S HORSE が開拓した新たなプログの道筋。シンセサイザーは夜空に瞬く星座のように降り注ぎ、バックのシンフォニーは天の川のようにシルキーで滑らか。Clément のヴォーカル・メロディーは、さながらクワイアのようなコーラスの濁流に身を委ねながら、リスナーの琴線に触れ激しく胸を締め付けます。
「このアルバムは、57分間に様々な感情が渦巻く、とても繊細な作品だと思っているよ。でも、それは僕たちが目指していることでもあるんだよね。観客を驚かせるために、そして自分自身に挑戦するために、非常に多様でダイナミックなレコードをリリースすることでね」
彼らの実験が興味深いのは、大きな楽曲の枠組みの中に小さな楽曲を複数用意しているところかもしれませんね。言ってみれば、劇中劇のようにビッグテーマの内側で、Djenty なブレイクダウン、ブラストビート、ヴァイオリンやアコーディオン、サックスのダンス、古典的なファンクやジャズ、欧州のフォーク・ミュージック、さらに1800年代のパーラー・ミュージックのような世界観までカラフルな小曲が時代を超えて渦巻きます。このアルバムにおける千変万化なダイナミクスはプログ世界においても前人未到の領域かもしれませんね。
「このアルバムは、基本的に僕たちがより良い人間になるにはどうしたらよいかをテーマにしているんだ。もし僕たちが正しい質問を自分自身に投げかけ、集団的な方法で良心を高めようとするならば、世界は大きく変わるだろうと僕は思っていてね。許すこと、直観に従うこと、自分に忠実であること、自分のための人生を生きることなどテーマは様々さ」
政治的腐敗、富の不平等、地球汚染などサーカスのような運命を背負ってしまった人類破滅の物語 “Paragon Circus” の重苦しさから一転、”Embryo” はその暗い宿命をいかにして変えていくか、そんな命題を宿しています。だからこそ、その音楽もよりブライトで希望を湛えた濃密へと移り変わっていきました。
バンド名 ALTESIA は架空の木の名前。雄大な大木も一粒の種から始まっています。社会のあり方を変えようとするならば、まずは一人一人が内省し、自分を見つめなおし、愛を抱き、ALTESIA の音楽のように心を澄ませること。それこそが世界を変える第一歩なのかもしれませんね。
それにしても終幕の叙事詩、21分の祝祭 “Exit Initia” は言葉に表せないほどの絶景です。プログ世界の大曲には、しばしば退屈だったり、ただ何かを詰め込んだだけだったり、不器用に混線していたりする悪手が見られますが、”Exit Initia” には21分という長尺の意味がしっかり存在しています。そして、楽曲全体で大きな感情を創出する手法は、実は彼らの “祖父” DREAM THEATER が “Octavarium” で見せつけたプライドとよく似ていました。やはり、血は争えませんね。
今回弊誌では、ボーカル/ギターの Clement Darrieu とキーボードの Henri Bordillonにインタビューを行うことができました。「ビデオ・ゲームの音楽は、80年代のジャパニーズ・フュージョンに大きく影響を受けていて、その中には僕が大好きな Casiopea のようなバンドがいたんだよね。あとこれは秘密の話なんだけど、”Exit Initia” の一部はアレンジの段階で “Attack on titans” “進撃の巨人” のオープニングに似すぎているという理由で変更しているんだよね」 どうぞ!!

ALTESIA “EMBRYO” : 10/10

続きを読む NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ALTESIA : EMBRYO】

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PARADOX : HERESY Ⅱ: END OF A LEGEND】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CHARLY STEINHAUER OF PARADOX !!

“Unfortunately, There Is Far Too Much Suffering In Our Beautiful World. Everyone Thinks That Humans Are Intelligent, But With All This Self Destruction Crimes Against Humanity, I Have My Doubts About It.”

DISC REVIEW “HERESY Ⅱ: END OF A LEGEND”

「PARADOX の音楽には数え切れないほど多くのメロディラインが含まれているけど、それは大衆に受けるものでは必ずしもない。だけど、何千回もコピーされて成功したクリシェのようなメロディーを、それがより成功した音楽だからといって俺は奏でたり聞くことはもうできないんだよ。だからこそ、PARADOX で自分のスタイルを発明できたことに満足しているんだ」
時は20世紀後半のドイツ。80年代中盤から後半にかけて、例えば HELLOWEEN、例えば RAGE、例えば BLIND GUARDIAN は、スピード・メタルを独自のファンタジーとシンガロングの旋律美で染め上げ、ジャーマン・メタルの美学を確立していきました。一方で、KREATOR, DESTRUCTION, TANKARD といったよりアンダー・グラウンドなバンドは、米国から流れ着いたスラッシュ・メタルの鼓動をより深く、より速く、より激烈に追求することとなりました。
1981年に OVERKILL の名で結成された PARADOX は、まさにその両者の中間、ベイエリアのスラッシュ・メタルとヨーロッパのパワー・メタルをつなぐ架け橋のような存在だと言えるでしょう。中でも、洗練されたメタリックなリフワークとドラマティックなメロディーの背理な婚姻が TESTAMENT, HEATHEN, METAL CHURCH や TOXIK への欧州からの回答にも思えた90年の “Heresy” は、メタル史に今日にまで語り継がれる傑作の一つ。
「これまで俺は “Heresy” の第二幕を作るつもりはまったくなかったんだ。なぜなら、物語やアルバムの第二部は、第一部より良いものにはならないと信じているからね。これは映画でも同じことが言えるんだけど」
以来、PARADOX とバンドの心臓 Charly Steinhauer には様々な人生の荒波が襲いかかります。
ラインナップの流動化、二度のバンドの活動停止、愛する妻の他界、自身の体調不良。それでも Charly は、”Electrify” で2008年にバンドを再建してからは体の許す限りその才能を唯一無二なるスラッシュ・パワーメタルへと捧げてきたのです。そして “Heresy” から30年。PARADOX は傑作の続編という難題を完璧にこなしながら、自身の存在意義を高らかに宣言します。
「人間は何も学んでいない。それが真実さ。世界のさまざまな場所で、いまだに戦争や抑圧、飢餓が続いている。本当はすべてが平和で美しい地球になるはずなのに、残念ながら戦争や抑圧は常に存在しているんだ。そして何より、信念が違うという理由だけで迫害され、殺された犠牲者は数知れない。誰にでも、自分の人生を最大限に楽しむための力、それをを信じる権利があるというのにだよ」
“異端”、”邪教” という意味を認めた “Heresy” シリーズは、中世ヨーロッパで腐敗した教会、聖職者の堕落、汚職に対して本来の信仰や禁欲を取り戻そうとしたカタリ派という民衆運動と、それを異端とし鎮めるために遣わされたアルビジョア十字軍、そして異端審問のストーリーを描いています。もちろんこれは歴史の話ですが、オリジナルの作詞家 Peter Vogt が持ち寄った新たな異端のストーリーが、現代社会の暗い部分とリンクし、ゆえにこのタイミングで PARADOX が “Heresy” を蘇らせたのは間違いありませんね。
「何年も同じメンバーでバンドをやってみたかったよ。Axel Blaha と俺は1981年にこのバンドを設立した。でも、ラインナップが変わっても、俺がシンガーでありメインソングライターであることは変わらなかったんだ。だからこそ、PARADOX は今日でも PARADOX のサウンドを保っていられるんだ」
Peter はもちろん、オリジナル・メンバーで共に “Heresy” を制作したドラマー Axel Blaha の帰還。さらに Gus Drax に代わり再加入を果たしたギター・マエストロ Christian Muenzner。そして長年の戦友 Olly Keller。Charly のソロ・プロジェクトにも思えたメンバー・チェンジの巣窟 PARADOX ですが、考え得る最高の、そして安心感のある馴染みのメンバーを揃えた今回のアルバムで彼らは真のバンドへと到達したのかもしれませんね。実際、あらゆる場面で熟練し、すべてが自然で有機的なこの作品は、スラッシュ・メタルとパワー・メタル、そしてプログの知性があまりにもシームレスに混じり合っています。
「俺たちは、自分たちのルーツをおろそかにすることなく、あらゆるスタイルを統合し、あらゆるテイストのメタルを提供することに成功したんだ。そうして、俺たちの古い時代のサウンドを完璧に今のサウンドに伝えることができたんだよ」
70分のエピック・スラッシュは、”Escape From The Burning” で幕を開けます。高速でテクニカルなリフ、轟音のドラムとベース、そして壮大でキャッチーな歌声。実際、Charly の歌唱と旋律は BLIND GUARDIAN 初期の Hansi Kürsch を彷彿とさせ、Christian の鮮烈にして美麗を極めたシュレッドの現代建築と絶妙なコントラストを描き出します。言いかえれば、いかに彼らがスラッシュ・スタイルの容赦ない攻撃性と、劇場的なメロディやエピカルな感覚とのバランスを巧みに操作しているかの証明でもあるでしょう。
事実、”Burying A Treasure” のように、燃え盛るリフとマシンガン・ドラミングを全面に押し出してもアンセム的な輝きは増すばかりで、”A Meeting Of Minds” のように、ゆっくりとしたニュアンスのある曲に振り子が変わったとしても、ヘヴィネスの要素はしっかりと維持されているのですから。心に残るメロディーとスラッシュの暴動がせめぎ合うクローザー “The Great Denial” はそんな PARADOX の美しきパラドックスを完璧に投影した楽曲だと言えるでしょう。
つまり、”Heresy Ⅱ: End of a Legend” は、スラッシュ・メタル栄光の時代と、それと並行して進行し、最終的には1990年代に同様の重要なムーブメントに発展することになるヨーロッパのパワー&スピード・メタル・ムーブメントの間のミッシング・リンクのような輝きに違いありません。
今回弊誌では、ボーカル/ギターの Charly Steinhauer にインタビューを行うことができました。「残念ながら、この美しい世界にはあまりにも多くの苦しみが存在する。誰もが人間は知的だと思っているけど、こういった同じ人類に対する自滅的な犯罪を見ると、俺はそんな考え方に疑問を感じるよ」 どうぞ!!

PARADOX “HERESY Ⅱ: END OF A LEGEND” : 10/10

続きを読む NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PARADOX : HERESY Ⅱ: END OF A LEGEND】

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【YES : THE QUEST】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BILLY SHERWOOD OF YES !!

“There’s No Replacing Such a Giant. That Said, I Know Chris Trusted Me To Keep The Flame Burning, So To Speak, Along With The Other Guys In The Band. I Do My Best To Honor His Wishes And Push Forward With YES.”

DISC REVIEW “THE QUEST”

「Chris のような巨人に代わるものはいないよ。とはいえ僕は、Chris が僕が YES の炎を燃やし続けることを信じていたことを知っている。バンドの他のメンバーと同様にね。だから僕は、彼の遺志を尊重し、YES を前進させるために最善を尽くすだけなんだ」
Trevor Horn との一時的な再邂逅 “Fly From Here” から10年。Jon Davison をボーカルに迎えた Chris Squire 最後のスタジオ・アルバム “Heaven & Earth” から7年。結成から半世紀以上を経て、遂にオリジナル・メンバーは誰もいなくなりましたが、それでも YES の炎は赤々と燃え続けています。プログの巨人にとって22作目となる2020年代最初のアルバムは、ファンからの期待、自らのコンフォート・ゾーン、そして未来を見据えた野心そのすべてのバランスが完璧に釣り合った “探求” の結晶。
「複雑な感情だよ。本当に。もちろん、この新譜でYES が前進していることに感激しているよ。だけど、Chris が亡くなったことで、ほろ苦い気持ちもあるんだよね」
WORLD TRADE のアルバムに Chris Squire がゲスト参加を果たして以来、ボーカル、ギター、ベースに鍵盤までこなすマルチ・プレイヤー Billy Sherwood にとってベースの伝説は尊敬する兄のような存在でした。ゆえに、正式メンバーとしては数年の在籍でしたが、1989年からバンドの内外で関わり続けた YES に亡き Chris の後任として、ベーシストとして再び加入することには複雑な想いもありました。
しかし、Chris の遺志と、そして Billy の言葉を借りれば運命、宿命、何かしらの巡り合わせが彼をこのバンドへと再び誘い、その特別な場所で彼は巨人の仕事を継ぎながら、同時に YES を未来へと羽ばたかせる重要な2つの役割を果たすことになったのです。
「すべてのバンドにはリーダーがいると思うんだけど、Steve はその地位を獲得したと思うよ。 彼は長年にわたってバンドに貢献してきたからね。僕は Steve がプロデュースや、いわば “交通整理” をする機会を得たことを嬉しく思っているんだ」
バンドの内外から YES と共に歩み続けた Billy にとっても、現在の Steve Howe を核とした YES が最も “バランス” の取れたしっくりくる布陣なのかもしれませんね。パンデミックにおいて、ファイル共有やオンラインでの共同作業など非常に現代的な方法で制作された “The Quest” は、Steve Howe によってプロデュースまでなされています。1人のメンバーにこれほどその “パワー” と責任が与えられたのは、1994年に Trevor Rabin が “Talk” をプロデュースして以来のことでしょう。
それが一つの理由でしょうか。Roy Thomas Baker の繊細で抑制された “Heaven & Earth” に比べ、”The Quest” は生き生きとした躍動感に満ち溢れています。過去のマスターピースを凌ぐほどの作品かと問われれば答えは否かもしれませんが、それでも遡ることなど決して不可能な時の流れを逆流させるほどの気迫は十分です。その原動力は、やはり決して瑞々しさを失わない Steve Howe の独特なギタリズム。
久々の開幕にプレッシャーのかかるオープナー “The Ice Bridge” ですが、氷の橋は決して割れない強い意志を纏っていました。”Fanfare For The Common Man” を想起させるイントロから安定感を与えるのは Billy Sherwood。Steve Howe 独特のタイム感とギミックは火花のように飛び散り、優雅なボーカルが絶妙に加わります。明らかに、ここには YES の哲学が貫かれています。
環境問題を歌い紡ぐ Jon Davison はやはり Jon Anderson のように聴こえるというよりも、おそらくそうせざるを得ないのでしょうが、間違いなくこれまで以上に自信に満ちていて雄弁。ラストを飾る Steve と Geoff の掛け合いも含めて “Going For The One” のクライマックスのような爽快感を敷き詰めたといっても決して大げさではないはずです。
“Dare To Know” ではオーケストラが一段上の次元へ導き、ミドルテンポの “Minus The Man” では Jon と Steve の音色の甘さを存分に見せつけ、”Leave Well Alone” では Steve が大活躍する ASIA といった風情の80年代的レトロフューチャーがノスタルジアを誘います。そうしてこれまでの YES とは一味違う、70年代の映画のような懐かしさと温かみがアルバムを通して貫かれていくのです。楽曲至上主義を掲げつつ、新たなアイデア、バンドの真価、ファンの期待、そのすべてに必ずしも100%とは言わないまでも大きく応える現行 YES の魂がここにはあります。
「ファンの中に何がベストかを知っていると思っている “腕利きの将軍” はいつの時代にもいるものだけど、結局のところ、運命を決めるのはバンド自身なんだ。 僕は今の YES の一員であることを誇りに思っているし、仲間たちも同じように思っているはずだよ。ただ、現在のラインナップが、YES の歴史の中で最も長く続いているという事実は、僕にとって驚きだったよ。今後もこの方向を変える予定はないし、前に進んでいくだけさ」
Howe, Davison, White, Downs, Sherwood。例えば Jon Anderson, 例えば Rick Wakeman を期待して、もしくは最上級のテクニックを未だに忘れられず、並行世界の YES を夢見るファンが少なくないことはたしかでしょう。
しかし、2015年からバトンを受け継いだこの5人が、最高にクリエイティブで、YES の過去、現在、そして未来を奏でていることもまた事実です。瑞々しくも、Jon Anderson の小宇宙を感じさせる “The Western Edge” には、きっと彼らが今ここにいるすべての理由が詰まっているのかも知れませんね。Roger Dean による美麗なアートワークはもはや勲章。
今回弊誌では、Billy Sherwood にインタビューを行うことができました。「僕にとってプログレッシブ・ロックとは、音楽に宿る自由、表現、想像力の象徴なんだ。 ミュージシャンとしてもライターとしても、そういったものを大切にしているからね」 どうぞ!!

YES “THE QUEST” : 10/10

続きを読む NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【YES : THE QUEST】

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【RAGE : RESURRECTION DAY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PEAVY WAGNER OF RAGE !!

“I Was Very Productive With Rage Over The Last Nearly 40 Years. Its 28 Albums Incl Refuge & LMO. Why? Because I Can!”

DISC REVIEW “RESURRECTION DAY”

「そう、俺はこのほぼ40年の間、RAGE で非常に生産的だった。REFUGE と LMO を含めれば、残したアルバムは28枚。なぜそんなに作れるのかって?それはな、俺様ならやれるからだよ!はっはっはっ!(笑) 」
Peavy Wagner は “骨のある” 男です。ジャーマン・メタルの世界では、1980年代の全盛期から多くの才能が生まれては消えていきましたが、RAGE は独特のイヤー・キャンディーと捻くれたセンスの二律背反を共存させながら、粉骨砕身ただ実直にメタルを紡ぎつづけてきた気骨者に違いありません。
刻々と変化を遂げるトレンドの急流、ミュージック・インダストリーの大波にも屈しないストイックなメタルの骨巨人。Peavy が語るように、”Trapped”, “Missing Link”, “Black in Mind”, そして “XIII” と、1990年代メタルの荒野においてさえ彼らの作品はむしろその輝きを増し、さながら骨上げの喉仏のように貴重な存在となったのです。
「いやいや、ありえねーよ!Manni は忙しくて時間もねーし、プロフェッショナルなバンドでやる気ももうないだろうしな。Victor はいろいろあって俺が6年前にクビにしたんだぜ?ありえねーよ!」
Peavy は RAGE は決してメンバー・チェンジの多いバンドではないと強調しますが、それが決して少ないわけでもありません。ほぼ40年に渡る長い歴史の中には、何度もドラスティックな変化の刻が訪れました。そうやって、新陳代謝を繰り返しながら、RAGE は生き続ける意味を見出してきたと言えるのかもしれません。
逆にいえば、あくまで Peavy という屋台骨の支えられる範囲でですが、RAGE は加わるメンバーによってその音楽性をさながら脱皮のように変遷させていったのかもしれませんね。そして、ギター・プレイヤーはその脱皮を終えた肉体の色を司る、重要なファクターとなったのです。
Manni Schmidt は今でも “Ragers” に最も人気の高いギタリストかもしれませんね。フレーズやリフの源流が推測できないような突拍子もないギターの百鬼夜行、奇妙なグルーヴのうねりは、”Missing Link” の異常な耳障りの良さと結合し、ある意味初期 RAGE の終着駅となりました。
一方で、Victor Smolski の超絶技巧も近年の RAGE にとって絶対的な看板でした。特に凄腕 Mike Terrana を伴って完成を遂げた “Soundchaser” のプログレッシブで、クラシカルで、シンフォニックで、キャッチーで、途方もないスケール感を創出したテクニカルなメタルの叙事詩は、ラヴクラフトに負けず劣らずの濃密な奇々怪界をその身に宿していたのです。
では、それ以外の時期は RAGE にとって “狭間” の報われない時だったのでしょうか?ずっと RAGE を追い続けたファンならその問いに突きつけるのは間違いなく否。何より RAGE の歴史に燦然と輝く “Black in Mind” にその両者は絡んでいないのですから。
「実を言うと俺たちは、数年前から RAGE の歴史の中でこの4ピースの段階を目指していたんだよな。だから、ツインギターというソリューションに戻るのは自然なことだったんだよ」
人生を変えたアルバムに POLICE や RUSH を挙げていることからも、Peavy がスリー・ピースにこだわりを持ち、この形態でしか生み出せない何かを常に念頭に置いていたのはたしかでしょう。ただし、一つの場所にとどまらないのもまた RAGE のサウンド・チェイス。
現代的で多様な世界観を切り開くため、メタルをアップデートし選択肢を広げるためにツインギターを導入した 大作 “Black in Mind”。(ちなみにその次の “End of All Days” は逆に肩の力を抜いて聴けるこちらも名作) AXXIS から Stefan Weber を、ANGELINC から Jean Bormann を、”家が近い” という理由でリクルートした “Resurrection Day” には、たしかにあの傑作と同じ血、同じ哲学が流れています。
明らかに Peavy は Smolski を解雇して “The Devil Strikes Again” に取り組んで以来、ある意味定型的なネオクラシカル・ギター、シアトリカル過ぎる表現、そして10年以上使ってきたアトモスフェリックでオーケストレーションなタッチそのすべてを剥ぎ取り、より “簡潔” で “あるべき姿” の RAGE を取り戻そうとしているようにも思えます。さて、その試みは吉と出たのでしょうか?それとも…
「新石器時代になると、人間は自然と共に生きる遊牧民から、定住して農業を営み、自然に干渉して自然を操作するようになった。このことが、気候変動、戦争、人口過剰など、世界が抱える大きな問題につながっているんだよ。俺たちは今、この危機を良い形で乗り越えるか、悪い形で乗り越えるかを決めなければならない時期に来ているんだ。つまり瀬戸際なんだよ。そしてその決断の日こそ、俺たちの “復活の日” なんだ…」
常に人類の歴史、古の秘法、異世界などをテーマとしてその場所から現代に鋭くメスを入れてきた Peavy。人と自然の付き合い方、そして脱皮を続けるバンドの哲学、その両者をリザレクトさせるダブル・ミーニングのタイトルはまさに彼の真骨頂。実際、”Resurrection Day” で RAGE は “Black in Mind” と同様に、彼らのメタルをアップデートしここに来てさらなる新境地を開いています。
その象徴こそ、”Traveling Through Time” でしょう。近年の IRON MAIDEN に通じるようなメタルの時間旅行には、ツインギターでしかなし得ない古のハーモニーが響き渡ります。その趣向を凝らした勇壮は GRAVE DIGGER にも似て、しかしオーケストラの荘厳や Peavy のダミ・キャッチーな歌声で完全に RAGE の独壇場としてリスナーに歓喜を届けるのです。
一方で、Peavy がグロウルをお見舞いする “Arrogance and Ignorance” を筆頭に、メロディック・デスメタル的な作曲術も今作では際立ちます。さながら ARCH ENEMY のように疾走し蹂躙し慟哭を誘う劇的なリフワークとハーモニーの数々は、これもまたツインギターでしかなし得ないバンドの新境地に違いありません。
もちろん、かつてのスピード・スラッシャーを彷彿とさせる “Extinction Overkill”、アコースティックを巧みに施した “Man In Chains”、80年代を現代風に塗り替えた “Mind Control” などこれまでのファンを満足させる要素も満載されていて、何より “Resurrection Day” の旋律はそのすべてが RAGE でありながら一段魅力的な珠玉となっているのです。その証明こそ、タイトル・トラックから、”Virginity”, “A New Land” と畳み掛ける、血湧き肉躍るフック満載のメタル・ドラマの三連撃。よりキャッチーに、よりドラマティックに、よりエピカルに。RAGE が遂げた完全復活。
今回弊誌では、Peavy Wagner にインタビューを行うことができました。「骨のコレクションは膨大な量になっているぜ。今では本物の骨の博物館を所有しているくらいでね!」 どうぞ!!

RAGE “RESURRECTION DAY” : 10/10

続きを読む NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【RAGE : RESURRECTION DAY】

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【OCEANHOARSE : DEAD RECKONING】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BEN VARON OF OCEANHOARSE !!

“We Just Want The Live Shows To Be LIVE, With No Backing Tracks. I’m So Tired Of Going To See a Band In Concert, And Having 50% Of The Music Come From Laptops Instead Of The Musicians. Fuck That!”

DISC REVIEW “DEAD RECKONING”

「バンドのコンサートを見に行って、音楽の50%がミュージシャンではなくラップトップから流れてくるのにはうんざりしているんだ。そんなことはどうでもいい。バンドがどのように曲をアレンジしているのか、アルバムバージョンとは多少違っていても、ステージ上でうまくいくようにしているのかを見てみたいんだから」
Pro Tool, アンプ・シュミレーター、ラップトップ。テクノロジーの進化によって、”コンピューターのメタル” は今や当たり前の存在となっています。そうして、Djent ムーブメントが象徴するように、シンセサイザーと機械的なギターワークを組み合わせた近未来の音景色はつい最近まで最先端であり、ステージでもコンピューターの恩恵を受けた未来色のサウンドが定着するようになったのです。
「シンセは別のバンドにとっては素晴らしいものだろうけど、僕たちの音楽には合わないと思っていてね。僕たちは、ドラム、ベース、ギター1本とボーカルだけで、できるだけ多くのパワーと音楽性を伝えようとしているんだ。Djent は僕たちの好みじゃないんだよ」
ただし、時代は巡ります。アレンジの妙、インプロビゼーション、テクニックのイノベーションもなく、コンピューター制御でアルバムと全く同じサウンドを再現するステージにフィンランドのスーパー・グループは真っ向から疑問を呈します。
惜しくも解散した AMORAL のギター・ヒーロー Ben Varon を中心に、WARMEN の Jyli Helko, 元 NAILD COIL の Joonas Kosonen と実際に “演れる” メンバーを揃えた OCEANHOARSE は文字通り海馬のごとく完全に “生” のメタル・サウンドでテクノロジーの海を切り裂いていくのです。
「GOJIRA からの影響は、PANTERA, TOOL, ALICE IN CHAINS, MASTODON, METALLICA, IRON MAIDEN, MEGADETH, DEFTONES, AVENGED SEVENFOLD なんかと混ざりながらあちこちに現れていると思うよ」
エネルギッシュかつパワフルでありながら、モダンなテクノロジーやアトモスフィアとは一線を画す音景色。彼らの中で一つ、GOJIRA のやり方がヒントとなったのは確かでしょう。GOJIRA はたしかにその創造性をマグマのように噴き出しますが、実に様々な音楽の炎がコンパクトにキャッチーにまとめられて地上へと降り注ぎます。
AMORAL でギタリストとしての複雑怪奇な才能を存分に見せつけた Ben Varon ですが、あの “インモラル” なテクニックの殿堂においてさえ彼は Ari Koivunen という “歌い手” を欲してその音楽性までをも変遷させていきました。つまり、フィンランドの鬼才が “生の” メタルに潜む狂喜として次に目をつけたのが、”プログレッシブ・グルーヴ・メタル” に内包されるコンパクトなイヤー・キャンディーだったのです。
「AMORAL のテクニカルでプログレッシブな音楽に比べて、もう少し直接的な音楽にしたいと強く思っていたんだよね。僕たちは、大きなフックのある、よりキャッチーで短い曲を作りたかったんだ。ライブで盛り上がり、観客とバンドの間にエネルギーを生み出すような曲を作りたかったんだ」
本人は知らないと語っていますが、OCEANHOARSE を北欧が育んだメタルに特化した PROTEST THE HERO と定義すれば辻褄があうようにも思えます。断続的に騒々しいギターリフとドラム、メロディック・アグレッシブなボーカル、アップ・ビートでエネルギッシュな原動力の類いまれなる調和はカナダの至宝とその哲学を等しくしますが、AVENGED SEVENFOLD や CHILDREN OF BODOM のメタリックなイメージを胸いっぱいに抱きしめた OCEANHOARSE の前向きなカオスは、ある意味カオティック・ハードコアの並行世界とでも呼べるほどに斬新で刺激的だと言えるでしょう。というよりも、PTH がハードコア方面からパワーメタルを見据えたとしたら、OCEANHOARSE は Nu-metal 方面からその勇壮を引き入れたと言うべきでしょうか。
それにしても、PTH のピロピロの代替として光り輝く Ben のシュレッド、そして 海坊主 Joonas のヒロイックな歌唱は確実に “Dead Reckoning” を別次元へと押し上げていますね。
今回弊誌では、Ben Varon にインタビューを行うことができました。「”Fields of Severed Dreams” という曲で、Alexi の古いJackson Rhoads で2つのソロを弾いていて、個人的に彼に敬意を表しているんだ。友人の Daniel Fryeberg がそのギターを所有していて(数年前に Alexi から買ったもの)、この曲のために貸してくれたんだよ」 どうぞ!!

OCEANHOARSE “DEAD RECKONING” 9.9/10

続きを読む NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【OCEANHOARSE : DEAD RECKONING】

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【CARCASS : TORN ARTERIES】


COVER STORY : CARCASS “TORN ARTERIES”

“We’ve Always Been Self-referential. There Are Links Like That Between Every Album. It’s Just This Lovecraft-ian Mythos That Carcass Has Built, This Multiverse. There Are Bookends On Either End Of What Carcass Does, And We Have To Fit Within Those Parameters”

VEGE-HEARTS

CARCASS の “Torn Arteries” は、2021年にリリースされるエクストリーム・メタル作品の中でも最も期待されている作品の一つでしょう。しかし、Jeff Walker は、ファンの一部がこの作品を気に入らないことを想定しています。
「実は、このアルバムに対する反発を期待しているんだ」
Jeff のその予想は、コロナ・ウイルスに関連した数え切れないほどの混乱、それが一つの要因となっています。”Torn Arteries” は、リバプールの残虐王にとって再結成後2作目、通算7作目、8年ぶりのフルアルバムで、当初は2020年に発売される予定でした。しかし、グルーヴと暴力的に満ちたリードシングル “Under the Scalpel Blade” がリリースされた直後、パンデミックによってその計画は吹き飛ばされ、アルバムは1年以上も棚上げされてしまいました。
その長い “待ち時間” は、ただでさえモダン・メタル時代に降臨した野蛮で濃密な最高のカムバック・レコード “Surgical Steel” からの8年間で上がりきっていたハードルの高さをさらに押し上げてしまいました。ゆえにJeff は、ネット上の荒らしがこの作品について何かしら文句をつけること、そんな反発はすでに織り込み済みなのです。
「”Surgical Steel” は非常に評判が良かったから、今回反発があることはわかっているんだよ。だからある意味、”Torn Arteries” は “2番目に難しいアルバム” なんだよね。個人的には、多少のネガティブな意見も覚悟しているよ…」
Bill Steer も楽観的でありながら慎重です。
「このアルバムは “Surgical Steel” よりも優れていると感じているけど、同様に、今回はより多くの非難を浴びることを覚悟しているんだ。以前のように、人々を驚かせることはできないからね。
2013年に長い間休んでいたのに、レコードを出すと聞いた人たちは、当然のことながら、”ああ、これはくだらないものになるだろうな” というような想像をしてたわけで。だから、”Surgical Steel” が比較的良いものであることがわかったとき、多くの人はある種のショックを受けたんだ。でも、あんなことはもう二度とないんだよ」
実際、あの魔法のような “Surgical Steel” の制作にあたって、Jeff はファンが期待している “Necroticism” や “Heartwork” のような作品にしようと意識したのでしょうか、それとも自然にそうなったのでしょうか?
「自然に出てきたものだよ。あまり意図的に考えたわけではないんだ。正直に言うと、50曲を録音たけど、それらは非常にバラエティに富んでいて、その中で意図的に CARCASS のある時代やスタイルを選んだわけではないんだよ。意図的にそれをやるとすぐに CARCASS のように聞こえてしまうんだよね。
腰を据えて古いアルバムを聴いたわけではなく、自然と自分たちの音楽を演奏するようになっているんだ。だから、”Heartwork” や “Necroticism”, “Swansong” あるいは “Symphonies” や “Reek” に似ているところがあったとしても、それは純粋に偶然の産物なんだよな。ある意味で、あのアルバムは俺たちの過去を固めたものだ。俺たちがやってきたことを再現しようと意図的に試みたものではなくね。そうなったのは偶然の産物だよ。ある意味では、自分たちのバックカタログを集約して、1枚のアルバムに圧縮したようなものかな」

パンデミックは、断裂した動脈から血が溢れ出るのを大幅に遅らせました。1年半の間、どんな想いで Jeff はリバプールに籠っていたのでしょうか?
「最初は家のリフォームをしていたんだけど、すぐに飽きてしまったよ。ちょっと情熱が冷めてしまったね。最終的にはそこにたどり着くだろうが。80歳になっているかもしれないけどね。俺は解体は得意だが、建設や装飾にはそれほど熱心ではないということに気づいたよ。自転車にも少し乗っているし、歩くことも増えた。
不思議なもので、年齢を重ねると1日の時間が足りなくなるものなんだけど、俺は今、何もしないことの専門家のようさ。この暑さの中では、肉体労働をする気にもなれないしね。CARCASS の強制的な休止も、最初は悪くなかったんだけど、長引いていて、正直なところ終わりが見えないんだよね」
Bill Steer は、常に自分のギタープレイを新たな分野に押し進めてきました。グラインドコアのパイオニアであるNAPALM DEATH での冒険や、印象的な CARCASS の作品群、FIREBIRD, GENTLEMANS PISTOLS, ANGEL WITCH におけるストーナー、リフ・ロック、クラシック・メタルの表現まで、彼のギタースキルは80年代半ばに登場して以来、変化を遂げながら注目を集めてきたのです。ゆえに、このパンデミックの過ごし方も彼らしいものでした。
「エレクトリック・ギターよりもアコースティック・ギターを弾くことが多かったね。それは、エレキの場合観客に届くということを、ある程度想定していたからだと思うんだ。エレクトリック・ギターはそのために発明されたのだからね。だから、小さなアコースティック・ギターを手にすることは、より意味のあることだったんだよ。
ここには私と2つの小さな部屋があるだけだ。深い監禁状態が続いている間、私はこの楽器を選んでいたと言っても過言ではないだろうな。最近になって、またエレキ・ギターを手にするようになったんだ。非常に新鮮な気分だよ。アコースティックではできないことがたくさんあるからね」

誰にとっても予測のできない、日常とはかけ離れた事態。Jeff は自身の抱える病気との戦いも気にかける必要がありました。
「レーベルからは2020年にリリースするというオプションも与えられていたんだけど、俺が延期するという経営判断を下したんだ。振り返ってみればそうすべきだったのだけど、つまり、去年リリースすることもできたわけだよ。
ただ、明らかに俺はこのパンデミックがこれほど長引くとは思っていなかった。豚インフルエンザも鳥インフルエンザも、俺たちの生活にはほとんど影響を与えなかっただろ?半年くらいで終わるだろうと思っていたんだけど、明らかに間違っていたね。俺には動脈瘤の治療も必要だったし。でも正直なところ、これが8年後に発売されても問題はなかったと思うよ。今のままのサウンドさ。古くなることはない。ただ、CARCASS のサウンドなんだよ。
もちろん、実際に聴いてみると、もっとこうすればよかったと思うこともいくつかあるけど、リスナーにとっては劇的に何かが変わるわけではなく、ちょっとした微調整に過ぎないんだ。だから、俺たちはアルバムをベッドに置いて、それで終わりにしたんだよ。FEAR FACTORY のように、何かを作り直すようなことはしていないさ。すでに十分な時間を費やしているのからな」
それにしても、8年は長い長い “待ち時間” でした。
「Bill と Dan は、2015年頃からジャムを始めたんだよ。その頃には、”SURGICAL STEEL” のプロモーションも一段落して、ちゃんとした曲を作ってスタジオに入りたいと思っていたんだよ。でも、SLAYER のツアーのオファーがあったんだ。それからもずっとオファーを受け続けていてね。とても魅力的で、オファーが来たら断るのは難しいんだが、俺たちはレコーディングをしたくてたまらなかった。1回のセッションですべてを行うことは無理だから、ギグの前後にもレコーディングをを行っていたよ。
基本的にバンドはずっと仕事を続けていたから、パンデミックで強制的な休止期間があったのは良かったと思うよ。でも、1年以上も一緒に演奏していないから、今はちょっとヤバいね。俺たちは錆びついているかもな」

ただし、Jeff のそんな皮肉の数々とは対照的に、”Torn Arteries” はバンドのハードコア・ファンのために作られた作品に思え、CARCASS の “腐りきった” 遺産の痕跡がそこかしこに散りばめられています。
ブラストの慟哭 “Under the Scalpel Blade” は、1993年のランドマーク “Heartwork” のグロテスク&プログレッシブな飢餓感を彷彿とさせますし、タイトル曲 “Torn Arteries” では、当然のように手術台での惨事を口にする Jeff がいます。”自然発生的な冠動脈梗塞/椎骨の一過性虚血発作”。しかし、同時に彼は “In God We Trust” で気候変動の恐ろしさを発するする際にも同様に厳しい表情を浮かべており、処刑の物語である “Dance of Ixtab (Psychopomp & Circumstance March No.1) ” では Death & Roll のグルーヴの上で絞首刑の再現を試みています。
CARCASS は長い間、デスメタルや自身に対するメタ的なアプローチを続けながら、自らのレガシーを維持しているのかも知れませんね。1989年のアルバム “Symphony of Sickness” が2年後の “Necroticism: Descanting the Insalubrious” に収録された “Symposium of Sickness” へ受け継がれたことを覚えているファンも多いでしょう。”Torn Arteries” は、その自己言及的な慣習をしっかりと踏まえています。アルバム・タイトル “Torn Arteries” は、オリジナル・ドラマーの Ken Owen が作った古いデモにちなんでいますし、”Wake Up and Smell the Carcass” は、90年代にバンドが制作した同名のビデオ・コンピレーションにヒントを得ています。
「バンドとは何かという本質的なテーゼから、どこまでも逸脱することはできないよ。それを怠慢だとは思わないし、盗作だとも思わない。相互に関連づけておくのがクールなのさ」
もちろん、”Eleanor Rigor Mortis” は、THE BEATLES の “Eleanor Rigby” にちなんだタイトルですが、CARCASS が BEATLES に言及したのはこれが初めてではありません。”Heartwork” の “Buried Dreams” には、”All you need is hate” という一節が登場していました。
「”Eleanor Rigor Mortis” は多分、行き過ぎたジョークだと思うよ。これは初期の頃に考えていたタイトルで、当時はちょっと安っぽすぎると思っていたんだよな。でも、気に入っていたからこそ、また引っ張り出してきたんだよ。考えたのが Ken だったのか Bill だったのかかはわからない。1986年の時点ではやり過ぎだったかもしれないけどね。
ただ、今の多くの人は、これが BEATLES の引用であることを理解できないと思うよ。理解できると思うなら、それは若い世代の平均的な文化的知性を過大評価しているんだ。BEATLES を聴いたことがない世代もいる。BEATLES を知っていることで、俺たちは自分の年齢を明かしているのさ。
俺たちは、若者と同じ芸術的感情を共有しているとは思ってないからな。自分のために音楽を作っているし、もう50歳を超えた。ティーンエイジャーや20代半ばの人々など、幅広い層にアピールしようとは思っていないから」
音楽的に、THE BEATLES と CARCASS の “Eleanor” はこれ以上ないほどに離れています。しかし、どちらもそれぞれの方法で、死について考えています。
「”Eleanor Rigby” は、とても陰鬱な曲だ。俺たちの曲は、陰鬱ではないと思うけどそれでも十分に病的だ。でもとてもコミカルで皮肉な曲だとも思うよ。変態的で、奇妙で、ひねくれたラブソングなんだよ。死体愛好家のことではないだろう。いや、もしかしたらそうかもしれない。死体への性的虐待の歌かもな」

“Eleanor Rigor Mortis” は初期に作られた楽曲のタイトルで、”Wake Up And Smell The Larcass” も90年代のビデオ・コンピレーションで使われていました。音楽的にも初期とのつながりは存在するのでしょうか。
「俺たちはいつも自己言及的だよ。どのアルバムにもそういったリンクがある。CARCASS が構築したラヴクラフト的な神話、つまり多元宇宙のようなものさ。でも俺たちがやっていることの両端にはブックエンドがあって、そのパラメーターの中に収まらなければならないんだ。
“Wake Up and Smell the Carcass” は基本的には “Caveat Emptor” という曲が始まる前の音楽の部分のタイトルなんだ。俺とってその部分は、”Symphony of Sickness” の “Ruptured in Purulence” のイントロのようなものを、キックアップしてグルーヴィーに、そしてモダンにしたものだ。このタイトルを付けないこともできたんだが、2つの独立した作品であるというアイデアが気に入ったからね。”Wake Up and Smell the Carcass” は、明らかに完全な曲ではなく、3つのリフで構成されている、”Caveat Emptor” のきっかけとなったものだ」
CARCASS の “パラメーター” で欠かせないのが医学的なリリックの数々。これはどこまで医学的に “正確” なのでしょうか?
「CARCASS を聴いて、医者や病理学者、獣医になった人や、肉を食べるのをやめた人に会ったことがある。彼らの中の誰かなら、これが正確かどうか確かめることができるかもしれないな」
“Dance of ixtab” の “you’re so jugular vane” のように、アルバムの中にはグロテスクなダジャレがいくつも登場します。
「誰かが言ったことややったことを繰り返したり、決まりきったことを避けているんだ。そうすれば、結果的に賢く聞こえるようになる。見た目ほど賢くはないが、俺たちは他の人からの盗用を意図的に避けているんだ。真似したくないんだよな。
俺は、そうやって歌詞を書いている。リフを書くのと同じで、メモを取って貯めているんだ。そして、それらを文学的な散弾銃のカートリッジに装填して、紙に向かって撃ち、何が刺さるかを見るんだよ。”Torn Arteries” の歌詞を書き出すときは、ほとんど1回のセッションで完成したね。ベルギーのサウンドマンのところに行って、デモを持って彼と1週間過ごして、ひたすら歌詞を書き続けた。これまでにやったことのないことさ。今までは、いつも素材の大部分を書き、時間をかけて微調整していたんだ。でも今回は、その異なるアプローチが気に入ったんだよな」
アートワークの “ベジタブル・ハート” はまさにその意表を突いた “異なるアプローチ” を象徴しています。
「これまでにやったことのない、白を基調としたとてもクリーンなデザインだよ。邪悪さやデスメタルらしさはないけど、コーヒーテーブル・ブックのような清潔感が気に入っている」
異なるアプローチといえば、”Flesh Ripping Sonic Torment Limited” のような構造は、これまでと異なるアプローチの典型でしょう。10分を超えるバンド史上最も長い曲で、中間部にはドゥーミーなクリーンセクションやブルージーなチャグも備えています。
「ある意味 “放り投げた” というか。意図的に長い曲を作り、できるだけ多くのリフを詰め込もうとしたんだよ。まあ、笑いのためとは言わないが、そこまで不遜ではないし、投げやりでもない。もちろん、良い曲にしたいと思っているからな。MERCYFUL FATE の影響を受けているかも知れないね。
ただ、過去に “Necroticism” のいくつかの曲でそうしようとはしたんだ。10分を超えたことはなかったと思うけど。”Surgical Steel” では、”Mount of Execution” はどのくらいだったかな、9分? 特に “Mount” が面白いのは、演奏していてもそれほど長く感じないことなんだよな。”Flesh Ripping” がそうなのか、そうでないのかはまだわからないけどね。リフの数を数えてみたら、18個か19個あった。多いような気がするんだが、必ずしもそうではないんだよな」

Bill Steer は “Torn Arteries” に影響を与えた10枚のアルバムを挙げているのですが、その筆頭は奇遇にも MERCYFUL FATE の “Melissa” です。
「あのアルバムには “Satan’s Fall” が入っているからね。あんなにエッジの効いた曲を他に知らないよ。JUDAS PRIEST, URIAH HEEP, SCORPIONS の影響はたしかに感じるんだけど、それを遥か彼方に進めている。だから彼らが好きなんだ。
他にこの作品に影響を与えたのは、SAXON の “Wheels of Steel”, JUDAS PRIEST の “Killing Machine”, RAVEN の “Rock Untill You Drop”, SCORPIONS の “Lovedrive”, NAZARETH, WARGASM, ZOETROPE, それに BLUE MURDER のファースト・アルバムだね。あのアルバムは音楽的にヤバいね。クラッシック・ロックを基調にしたパワートリオだけど、John Sykes は彼が WHITESNAKE で打ち立てたアイデンティティーを、別のステージに運んだんだよ」
不遜といえばレコードの中で最も不遜な瞬間は、”In God We Trust” でのハンドクラップのセクションでしょう。 Jeff が説明します。
「メロトロンやピアノ、タンバリンなどのパーカッションを加えることで、過去にはバンドメンバー間で激しい議論があったと思う。誰かが抗議のために部屋から出て行ったかもしれない。でも、誰かがアイデアを持っているなら、それを試してみようと思うよ。いいと思ったら、やってみようってね。
ハンド・クラップについては、スタジオでのちょっとした楽しみかな。”Dance of Ixtab” のイントロでの足踏みとハンド・クラップもそうだけど、これはそれほど大きな音でミックスされていないかもしれないね。俺たちはただ、笑いとちょっとした楽しみのために試してみたのさ。そうじゃなきゃ、スタジオで干からびちまう。もちろん、CATHEDRAL がハンド・クラップを発明したわけではないけど、ヘヴィー・ミュージックにおいては、彼らを参考にしているよ」
“Necroticism” といえば、1991年にリリースされたあのアルバムの30周年から2週間後に、”Torn Arteries” がリリースされました。ノスタルジックな趣向にも思えます。
「俺は知らなかったし、気にもしていなかったよ。俺は、バンドが何かの20周年を祝うとか、あまりにも無意味なことだと思うぜ。”なんてこった……よくやった! もう20年もやってるのか!” …それがどうしたんだ?
まあでも、皮肉なことに、俺らが “Torn Arteries” でやっていることのいくつかには、ちょっとしたノスタルジアがあるんだ。正直なところ、それもさっきの自己言及の話なんだけど、自分たちの系譜というかね。ファースト・アルバム “Reek of Putrefaction” に戻って、Dビートを使っているんだ。そうやって、影響を受けたのは自分たちの過去のものかもしれない。だから、俺たちがそこまで先進的だとは言わないよ。ただ、必ずしも自分たちの過去を完全に焼き直しているわけではないんだよね。このアルバムはノスタルジックなものではないと思うけど、俺らは過去をとても意識しているし、そうしなければならない。それがこのアルバムに強さを与えていると思う」

ノスタルジアといえば、脳血栓症でプレイが難しくなったオリジナル・ドラマー Ken Owen について、”Surgical Steel” で彼らはこう語っていました。
「信頼性を高めるためにも、バンドの歴史を維持するためにも、Ken に全体の一部であると感じてもらうことは重要だと思う。CARCASS は俺や Bill と同じように彼のバンドでもあったから、彼を歴史から消し去ることはできないんだよ。アルバムで彼がドラムを叩けないからといって、彼を無視するわけにはいかないんだ。彼がドラムを叩いていなくても、ドラムや歌詞、アイデアの中に彼の存在を感じることができるのは、彼が CARCASS のコンセプトの一部だからだ。CARCASS で当たり前のように使っているアイデアの多くは、彼から生まれたものなんだ。
彼は15年前に昏睡状態に陥り、2度の脳手術を受けた。もう二度とドラムは叩けないよ。なぜ、人々は彼が奇跡的な回復を遂げることができると考えるのだろうか?彼は回復して、可能な限り健康な状態に戻った。だけど完全に回復することはないんだ…」
Jeff にとって唯一残された相棒ともいえる Bill Steer はどういった存在なのでしょうか。
「CARCASS を機能させるために、お互いに何かを引き出しているんだ。Hetfield と Ulrich のような関係だよな。あの二人の関係を見れば、本当は愛し合っていないのに共依存していることがわかるだろ?Hetfield は Ulrich にできないことをテーブルにもたらし、その逆もある。それは俺と Bill も同じなんだ。Bill のリズムは Hetfield。ビジネス志向で意欲的な俺は Ulrichだよ」
あの METALLICA に例えても違和感がないほど、今の CARCASS はメタル世界である種の “権威となっています。
「トム・ハンクスがビバリー・ヒルズでパーティーを開いていて、友人たちに “Reek Of Putrefaction” を聞かせていたという記事を何年も前に雑誌で読んだことを覚えているよ。もしかしたら、どこかの軟弱者が勘違いして、(デスメタル・ファンとして知られる)ジム・キャリーのことを言ったのかもしれないがね。あるいは、私の記憶がそうさせたのかもしれない。とにかく、俺の中のナルシストは、それが自分の運命だと思い込んでいる。でも、俺たちが他とは違うことをしたからこそ、人々や他のバンドに影響を与えたんだと思うよ。別に褒められたことではないけど、まあ、それはそれで大きなことだよね」
Jeff の言葉を借りれば Nu-metal も CARCASS の副産物、もしくは副作用でしかありません。
「別に手柄にするわけじゃないが、俺たちがBにダウンチューニングして、それをメタルの世界に広めたようなものだ。Bにチューニングした人は他にもいただろうけど、誰も思い浮かばないからな。それは、Nu-metal のような悲惨な副作用をもたらしたけど。
だから、ある面では、俺たちにも責任があるような気がしてるんだ。みんな Ross Robinson と一緒に仕事をしていて、彼は CARCASS のファンだったんだから。彼らの多くはBにチューニングしていたけど、なぜそうしているのか半分もわかっていないんじゃないか」

つまり、Jeff が2008年に EMPEROR を見たのは、もっと言えば CARCASS から “逃げて” いるように見えた Bill を動かせたのは本当に僥倖でした。
「LAで EMPEROR が演奏しているのを見て、Bill にメールで “失礼かもしれないけど、本当に CARCASS の再結成を考えるべきだ” と言ったんだ。俺はその時 BRUJERIA と演奏していたんどけど、プロモーターから CARCASS について聞かれてね。自分のバンドに需要があるのに、なぜ俺は雇われているのかという気持ちが湧いてきたんだ。ちょうど Michael Amott も俺に声をかけてきていたしね。それで、俺と Michael は Bill に相談し始めたんだ。人生で一度も見たことのないような金額のオファーを受けていた。結局俺たちは、CARCASS が人々にとってどれほど重要な存在であるかを知らなかったんだ」
自身が貴重な存在だと知りながらも、Jeff は “Kelly’s meat emporium” を “Under The Scalpel Blade” と同様自虐的に “ストック・カーカス” “過去の亡霊” と称しているようです。バンドの自己言及的な手法の自然な延長線上にあるようにも思えますが。
「”ストック・カーカス” というのは、Bill がリフをリハーサル・ルームに持ち込んだときに言ったことに過ぎない。非常にストレートな、高速スラッシュの CARCASS の曲なんだ。
俺らがこの曲を “ストック・カーカス” と呼ぶのは、皮肉なことだ。でもそう、この曲は “Reek of Putrefaction” 以来、ギターのリードがない曲の一つなんだ。俺が言わなければ気づかなかっただろう? 1996年の “Swansong” が気に入らない理由が、アルバムに速いパートが全くないことだと皆に気づかれなかったのと同じだ。アルバムの中で最も速いビートは、”Child’s Play” で “Children of the Grave” のペースになるときだ。それがいつも不思議なんだ。誰も “このアルバムはブラストビートがないから最悪だ” とは言わない・・・というか、誰も聴こうとしないんだよな、アレを」
実は、Jeff にとって “Swansong” は思い入れの深いアルバムでした。
「”Reek Of Putrefaction” や “Heartwork” と同じくらい、”Swansong” には思い入れがある。このアルバムに悪意を持ったことはない。このアルバムはかなり評判が悪いと思われているんだけど、現実にセールスはそうじゃないことを示しているし、ファンは概してこのアルバムを気に入っているという事実もある。というか、”Reek Of Putrefaction” よりも悪いアルバムだと言われることは、想像の範囲を超えているからね」
つまり、どの時代にいくつ否定的な意見が寄せられようとも、CARCASS は CARCASS であり続けます。
「21世紀になってからのことだと思うんだけど、人々がフォーラムや何かにコメントできるようになった。そうすると、それが事実上のムードになるようなんだよな。人々はインターネット上でポジティブな言葉を入力しないからな。
面白いことに、80年代には、誰もわざわざ紙にペンを走らせ、切手を払って、最も嫌いなバンドに手紙を送り、なぜそのバンドが嫌いなのかという高説を説こうとはしなかったんだ。だけど今では、ただタップしているだけで、自分の意見が空虚な世界で重要であると信じてしまう。クレイジーなことさ。でもそれが現実なんだよ」

参考文献:REVOLVER:CARCASS’ JEFF WALKER ON BAND’S GRISLY “MULTIVERSE,” SAVAGE NEW ‘TORN ARTERIES’ LP

REVOLVER:CARCASS’ BILL STEER: 5 CRIMINALLY UNDERRATED GUITAR HEROES YOU NEED TO KNOW

LOUDERSOUND:Jeff Walker: “Tom Hanks used to play Carcass to his friends”

RADIOMETAL: Jeff Walker Interview

BLOOKLYNVEGAN:Carcass’ Bill Steer talks 10 albums that influenced their new LP ‘Torn Arteries’

日本盤のご購入はこちら。TROOPER ENTERTAINMENT