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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ZAO : THE CRIMSON CORRIDOR】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JEFF GRETZ OF ZAO !!

“It’s About Using This Often Abrasive, Sometimes Pretty Music, To Paint a Picture Of Internal Turmoil And Use The Band As a Healthy Release Of That, And Maybe Help Someone In The Process Who May Be Going Through The Same Things.”

DISC REVIEW “THE CRIMSON CORRIDOR”

「たしかにメタリック・ハードコアのシーンは長い間、画一的で飽和状態に “あった” と思うよ。俺たちもおそらく一度や二度はそのような状況に陥って、罪悪感を抱いたことがあるんだから」
ウェストバージニア州の英雄 ZAO は、今年結成28年目を迎えました。彼らは90年代半ばのメタリック・ハードコアの死や、自らが生み出したテクニカル・メタルコアの盛衰を乗り越え、何度も解散、再結成、メンバーチェンジを繰り返しながら、ホラー映画の悪役のように繰り返し蘇り、今もこの場所にいます。
「多数のメンバーチェンジが行われる前から、クリスチャンだったメンバーたちは信念を変えたか、もしくは変えなかった人たちも “俺たちはクリスチャン・バンドだ” というメッセージを押し通すことは、俺たちが伝えたいことを伝えるのに適していないと判断したんだよね」
ZAO は1993年、キリスト教に焦点を当てたハードコアを作ることを目的に結成されました。ハードコアというジャンルは、テーマに関わらず極論を唱える傾向がありますが、ZAO は彼らの宗教観を前面に押し出していました。祭壇に呼ばれたり、ステージ上で説教が行われたりするのが初期のライブの特徴。
2代目ヴォーカル、Shawn Jonas は、1996年初頭のライブ映像で、「我々はイエス・キリストを崇拝し、彼の前に出るためにここに来た」と熱心に宣言しているほど。そうして若いキッズにとって想像が現実を超越し、神話のような存在となった ZAO は、数多の内部抗争を克服し、リアリティーを伴った “蔵王” の復活を成し遂げたのです。
「ZAO は、自分たちの本能に従って正しいと思うことをするときにこそ、いつも最高の仕事をやってのけるんだ。最近の “メタリック・ハードコア” には、メタルやハードコアとは関係のない外部の要素がたくさん入り込んできているけど、それはとても良いことだよ。俺たちは様々なタイプの音楽が好きだし、ZAO のように聴こえるなら何をやってもいいという自由は、俺たちにとって大きな意味を持っているんだよ」
自らのレーベルを立ち上げ、売り上げや権力を気にかけない自由を得た ZAO は、例えば自らより若い YASHIRA や THOU のような多様性を遺憾なく発揮することになりました。大御所として神話の中の存在でありながら、あくまで自らの本能に従い正直に音楽と対峙し挑戦し続ける ZAO の姿勢こそハードコアであり、CODE ORANGE など現在のシーンを牽引する若手からリスペクトを浴びる理由なのでしょう。
もちろん、”Sprinter Shards” や “Blood and Fire” といった名曲は今でも健在ですが、2016年に発表されたアルバム “The Well-Intentioned Virus” でネクスト・レベルへと到達したコンポジションは、5年の月日を経た “The Crimson Corridor” で一つの究極へと達しました。
「俺たちにとっての ZAO は、攻撃性を解放するためのものだ。バンドとして、俺たちは “重い” 音楽を作りたいと思っている。ヘヴィーといっても、いろいろな意味があるんだ。俺たちにとっては、ハードコア、メタル、デスメタル、さらにはラウドではないけれど “エモーショナル・ヘヴィー” “感情的にヘヴィー” なものまで、すべてが語彙の一部なんだよ」
長い年月で培った豊富な語彙によって、映画のようなメタルコアの世界が現実のものとなりました。一つのリフごとにすべての破壊を目指すのではなく、よりムードを重視したアプローチを交え真綿で首を絞めるように、”感情的にヘヴィー” な情景をそのフィルムへと収めていきます。”Into The Jaws of Dread” のポスト・メタルやサイケデリカな色彩、”Croatoan” の瞑想的で冷ややかな質感、タイトルトラック “The Crimson Corridor” の陰鬱でドゥーミーな音の葉、”R,I.P.W.” のひりつくようなエスニック・プログレッシブ、”Nothing’s Form” の慟哭は、バンドが今でも進化を続けている美しき証明でしょう。しかし同時に、どの楽曲にもメタルコアの矜持を盛り込むことで、対比の美学は凛然とその輝きを増していきます。
「今、音楽に何ができるのかはわからない。世界に会話がないから、もう音楽を通しても会話をすることができないように思えるんだ。自分の言っていることに同意してくれる人たちに向けて歌を歌うか、自分に同意しない人たちを排除するかのどちらかだから」
文字通り、真紅の廻廊のように幻滅からニヒリズムのスパイラルを辿るアルバムは、メロディアスなベースライン、メランコリックなバイオリン、そしてスローモーションのようなドラミングに駆動する圧倒的なリフワークなど、あらゆる要素が盛り込まれた “The Web” でその幕を閉じます。熟成を極めたエレガントなレコードを集約した “The Web” はまるで上質なワインのごとき輝きを秘めています。それでも野蛮で野心的なアルコールの攻撃がリスナーをジワジワと悩殺していくのですが。
今回弊誌では、ドラマー Jeff Gretz にインタビューを行うことができました。「このバンドの全体的なメッセージは、感情的な正直さだよ。それは、この時に耳障りな、時に美しい音楽を使って、内面的な混乱の絵を描き、それを健全に解放するためにバンドで演奏し、その過程で同じようなことを経験しているかもしれない誰かを助けることなんだ」 どうぞ!!

ZAO “THE CRIMSON CORRIDOR” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【VOKONIS : ODYSSEY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SIMON OHLSSON OF VOKONIS !!

“Opeth Is a Great Inspiration To Me, One Of My Favourite Heavy Bands Of All time. It’s Probably The First Time I Got Really Introduced To Prog Rock And Started My Journey There.”

DISC REVIEW “ODYSSEY”

「OPETH と並んで MASTODON も僕が高く評価しているバンドなんだ。THIN LIZZY のようなロック黎明期のバンドを参考にしているところが好きなんだよね。僕は THIN LIZZY の大ファンでもあるから。僕たちが目指していたのは、本当に君の言うようなものだったのかもしれないよね。メタリックな意味でのヘヴィー・ロックの再解釈という場所だよね」
例えば THIN LIZZY、例えば、DEEP PURPLE、例えば URIAH HEEP。先ごろ YOB が DEEP PURPLE のトリビュートへ参加を果たしたように、MASTODON の Troy が THIN LIZZY のライブに参加したように、クラッシック・ロックのメタリックな、もしくはヘヴィーな再解釈はドゥーム/ストーナー界隈にとって重要な通過儀礼の様相を呈しています。そんな割礼の真っ只中で一際存在感を放つヘヴィーアートの創造主こそ VOKONIS です。
「ELDER とは一緒にライブをしたこともあるし、いつも聴いている。ストーナー/ドゥーム・シーンの中で、彼らのような型にはまらないバンドをはじめて目の当たりにして、自分のバンドのクリエイティビティに対する考え方が大きく変わったんだ」
ELDER や KHEMMIS, PALLBEARER といった新世代のドゥーミストがプログレッシブな息遣いで地を這う重音にカラフルな知性を与える中、遅れてきた英雄 VOKONIS はトリオという牙城に RUSH の魂を込めてみせました。ただし、米国の新世代とは決定的に異なる点も存在します。それは、OPETH, SPIRITUAL BEGGARS, GRAND MAGUS といったプログやクラッシック・ロック再解釈の達人が遺した遺産、北欧スウェーデンの血脈です。
「特に長い曲では、彼がアルバムにまとまりをもたらしてくれたと思う。OPETH は僕に大きなインスピレーションを与えてくれるバンドで、今までで最も好きな “ヘヴィーバンド” のひとつだろうな。僕がプログレッシブ・ロックに出会ったのは、おそらく OPETH が最初で、そこから僕の旅が始まったんだよ」
アルバムには、OPETHプログ化の鍵となった鍵盤奏者 Per Wiberg が4曲にゲスト参加しています。同時に SPIRITUAL BEGGARS の顔でもあった渦を巻くハモンドの雄叫びは、長尺化複雑化多様化を志向する拡大する哲学に欠かせない要素となっています。メロトロンとハモンドは作品に荘厳な70年代プログの雰囲気を与え、バンドは瞑想的でゆるやかな時間とリフを中心としたハードなドライビング・パッセージを織り交ぜることが可能となったのですから。
幕切れの “Hollow Waters”と “Through the Depths” では、その効果が顕著に表れています。21分近いヘヴィーなプログ・ドゥームは、それでいて想像以上ににキャッチーかつ耳に残る偉業。古と未来の邂逅は時にメランコリックの極みを醸し出し、アレンジやアイデアの魔法はアートワークの火の鳥のごとく幻想的に楽曲を彩っていきました。ギルモアとジョン・ロードが流動するサイケデリックな探究心こそ至高。
一方で、ベースの Jonte Johansson が使い分けるクリーンとハーシュのボーカルスタイルはその両輪でカリスマ性を放ち、ギタリスト Simon Ohlsson のシャウトを加えたトリプルボーカルの嗎は、タイトルトラック “Odyssey” のキラーなギターリフとえも言われぬ核融合を果たしつつ、古の詩人ホメロスが想像だにしなかったディストピアの放浪記を描いていくのです。
今回弊誌では、Simon Ohlsson にインタビューを行うことができました。「僕は、人間が地球を適切に管理していないために、地球に害を与えていると考えているんだ。だけど、別の意味で、つまり人類が滅亡しても地球はこれからも生き続けると信じているんだよ。人間がいてもいなくてもね」 もしも乾燥した MASTODON の荒野に OPETH が実ったら?どうぞ!!

VOKONIS “ODYSSEY” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CARA NEIR : PHASE OUT】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH GARRY BRENTS OF CARA NEIR / GONEMAGE !!

“Here On Phase Out Is The Demonstration Of Him Warping Us Into a Video Game Dimension That He’s Created With The Use Of a Forbidden Device Known As The RPGBOY.”

DISC REVIEW “PHASE OUT”

「今回の作品は、これまでのスタイルとは全く異なるものになったよね。これまでの殺風景なイメージを一新して、自分たちの作ったコンセプトをしっかりと表現できるようにしたんだよね。ゲームソフトの表紙のようなイメージを切り取ったんだ」
“8-bit punk black metal chiptune chiptuneish indie rock lo-fi noise rock pixelcore post-hardcore skramz”。”Phase Out” の Bandcamp にはこれだけ大量の “タグ” が敷き詰められています。テキサスの異端児 CARA NEIR は、これまでブラックメタル、グラインドコア、ポストハードコア、スクリーモといったパレットの色彩からあらゆる不幸の痕跡を抽出し、万華鏡のように世界へと投影してきました。その多様性は時に一貫性のない “骨抜きのブラックメタル” と揶揄されながらも、ついに最も冒険的な “Phase Out” で魅惑と実験のアマルガムを最高の場所まで引き上げたのです。
「”Phase Out” では、ザ・ワンが “RPGBOY” と呼ばれる禁断のデバイスを使って、僕たちをビデオ・ゲームの次元にワープさせてしまったんだ。ゲームボーイのような形をしているけど、操作する人の知恵次第で時空を操ることができる力を持っているんだよ。ザ・ワンはその力を悪用して、RPGバージョンの僕たちを、彼のガントレットのような次元の中に作り出したんだよ。そして僕たちは、彼の病的な娯楽のために、このガントレットの中で競うように服従させられている」
例えば、忍者竜剣伝やドラゴンクエストの一場面を切り取ったようなドット絵のアートワークこそ “Phase Out” への招待状。宿敵の宇宙人 “ザ・ワン” によって RPG の世界に閉じ込められてしまった Garry Brents(ほぼすべての楽器、サンプル、プロダクション)と Chris Francis(ほぼすべての歌詞とボーカル)、つまり CARA NEIR の2人はアルバムを通してビデオゲーム “Phase Out” のクリアーを音楽で試みます。
「いとこと一緒に “マクロス/ロボテック” の卓上RPGをずっとプレイしていたんだ。ペンや鉛筆、紙を使って、マクロスの世界をダンジョンズ&ドラゴンズのスタイルで遊んだことが、子供の頃の自分の想像力の出発点となっているんだよね」
実際、マクロスやスター・オーシャン、クロノ・トリガーといった日本のアニメやゲーム、それに植松伸夫やロックマンのサウンドトラックを聖書として育った彼らの作品には、その息吹が存分に息づいています。レベルアップを告げるブレイクダウン、セーブポイントでのリラックスしたローファイなインストゥルメンタル、命をかけた圧倒的なバトル、スターオーシャンをサンプリングしたスポークンワード、そのすべては8-bitの歪みとファミコンのリヴァーブによって描き出され、子供のころ胸を弾ませたあの冒険へとリスナーを誘います。
ただし、CARA NEIR が連れ出す冒険とは狂った音楽の旅路。ブラックメタルを魔改造したアバンギャルドなサウンドから、チップチューン、サンプル、ジャジーなスウィング、トラップ、スクリーモ、グラインド、アコースティック、ハードコアまで、リスナーがたどり着く街やダンジョンはすべてが多様でユニークに絡まり合い、その魅力を存分にアピールしているのです。そこに一握りのニヒリズムとユーモア、そして現実からの逃避を散りばめながら。
「GONEMAGE はブラックメタルと8-bitサウンドをミックスしたものだけど、よりメランコリックでドリーミーな感じで、特にいくつかの曲ではシューゲイザーを取り入れているよ」
Garry の創作意欲は衰えることを知りません。CARA NEIR のリリースからわずか数ヶ月で完成を見た別プロジェクト、GONEMAGE もシーンの注目を浴びています。同様に8-bitをメタルとクロスさせつつ、よりブラックメタルに特化し感傷的なシューゲイズの響きも取り入れた “ピクセルコア” のサウンドは、実に奇抜でしかし心を激しく揺さぶられます。
今回弊誌では、Garry Brents にインタビューを行うことができました。「音楽的に大きな影響を受けているのは、常に ULVER だよ。今までで一番好きなバンド。彼らは常に変化し続けるバンドで、無意識のうちに自分の音楽や CARA NEIR のためにそのことを心に留めていたんだと思うよ」 どうぞ!!

CARA NEIR “PHASE OUT” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【WRECHE : ALL MY DREAMS COME TRUE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JOHN STEVEN MORGAN OF WRECHE !!

“I Think Within Black Metal, The Piano Opens Up Patterns Of Notes That Appear Like Tremolo Riffs, But Sustain a Greater Wealth Of Musicality – Also, Being That The Piano Notes Immediately Die Off After Being Played Unlike a Guitar That Has Sustain, The Athleticism Is Appealing.”

DISC REVIEW “ALL MY DREAMS COME TRUE”

「ブラックメタルでは、ピアノはトレモロ・リフのような音のパターンを開拓しながら、より豊かな音楽性を維持することができると思うんだ。サスティーンのあるギターと違って、ピアノは弾いたらすぐに音が消えてしまう。そのために必要となる運動性の高さも魅力だよね。膨大なエネルギーの雲を作るためには、動き続けなければならない。これは、ギターにはできないピアノの特徴だよ」
“もしもブラックメタルで、トレモロ・リフを弾くギターの代わりにピアノを使ったら?” WRECHE の “All My Dreams Come True” は、そんな荒唐無稽でしかし好奇をそそる If の音夢を文字通り実現する物怪の幸いです。それだけではありません。アルバムにはピアノだけでなく、現実的な絶望苦悩に満ちたボーカル、シンセサイザーの神秘的で壮大なレイヤーが敷きつめられて、ブラックメタルでありながらブラックメタルの常識をすべて覆す、ジャンルにとって青天の霹靂ともいえる領域にまで到達しているのです。とはいえ、あくまでも手段は手段。儚さ、苦しみ、怒り、そして神秘的な体験という感情の肝は、たしかにこの場所に同居しています。
「僕はブラックメタルのファンタジーや逃避的な側面にはあまり興味がないんだよね。貧困と絶望が蔓延し、宗教指導者とそれを支持する政治家に騙され、いたるところにテント村があり、残酷な行為が行われているという、僕の身の回りにある世界をこのアルバムで表現したかったんだ」
WRECHE の中心人物である John Steven Morgan は、Bandcamp ページにおいて、シュールレアリストであり、神秘主義者としても知られるヘンリー・ミラーの言葉を引用しています。”歌うためには、まず口を開かなければならない。肺があって、音楽の知識が少しあればいい。アコーディオンやギターを持っている必要はない。肝心なのは、歌いたいと思うこと。これが歌だ。私は歌っている”。今しかない、今はじめろ、今を生きろ。John がアルバムに込めたポジティブなメッセージは、音楽同様ブラックメタルの典型とは明らかに距離を置いていました。
「すべてが揃っていても、”歌いたい” という気持ちがなければ何の意味もないわけだから。そしてそこから僕はミラーの言葉を、何かを始めるとき、あるいは芸術作品として表現するとき、あるいは人生において何かを行うときの方法として捉えているんだ。ただシンプルに、始めることが実現への第一歩だから」
隠喩としてだけではなく、音楽自体も “All My Dreams Come True” はヴォーカルに重きが置かれています。荒々しき “Schrezo” では、不協和なピアノラインに、苦悩に満ちた叫び声が重なります。ピアノの和音は絶えず背後で鳴り響き、ドラムのダーティーなシンバルは緊急事態を表現。この混沌とした状況の中で、トラックの大半をリードするのがスクリームであり、フィードバックとの相互作用が実に面白く、圧迫感のあるものとなっているのです。”肝心なのは歌いたいという気持ち”という言葉が、John の情熱と献身が、ハードコアの獰猛まで抱きしめたこのトラックを通して実によく伝わってきます。
一方で、アルバムの神秘性は、苦しみの裏返しとして、より “美しく” 儚い曲で伝えられていきます。”Mysterium” と名付けられた楽曲は、半音階的でハープにも似たドリーミーなピアノの音で幕を開け、万華鏡のピアノとシンセが楽曲の階段を駆け上がり、ブラックメタルが探求できる経験の底辺から、ブラックメタルが実現できる表現の高みまでを幻想的に描き切ります。
「僕の演奏スタイルは、ジャズやクラシックよりもメタルのジャンルに適しているんだよね。僕は鍵盤を叩くのが大好きで、かなり暴力的なプレイヤーだからね」
John はそう嘯きますが、醜さ狂気、暴力と同時に彼の鍵盤は神々しき美麗や荘厳、そして現実に残された一握りの希望までを的確に表現しています。暴力の天頂、宇宙の壮大、サイケデリックな夢、孤独、痛み、苦悩、悲しみ。対比というよりも、クラッシック、マスロック、ジャズ、ハードコアを通過したがゆえの多様な感情のスープでしょうか。そうして WRECHE は、ブラックメタルというジャンルの音楽的背景を、目を見張るような方法で変貌させ、拡張し、揺さぶり、前へと進めました。彼の言葉を借りれば、メタルに宿る無限の可能性を引き出したのです。
今回弊誌では、ほぼすべてを一人でこなす John Steven Morgan にインタビューを行うことができました。「クラシック音楽、特にベートーヴェンを独学で研究し始めたんだ。スコアを聴いたり読んだりして、どうやって特定の効果やムードを生み出したのか、またどうやって転調させて音楽を前進させたのかをね」 どうぞ!!

WRECHE “ALL MY DREAMS COME TRUE” : 10/10

INTERVIEW WITH JOHN STEVEN MORGAN

Q1: This is the first interview with you. So, at first could you tell us about yourself? What kind of music were you listening to, when you were growing up?

【JOHN】: Yeah! Thanks for having me here. I grew up in a small rural desert town in CA, USA. I really loved Beethoven as a child (well the more popular pieces like Moonlight Sonata), but the bread and butter for me was listening to bands like The Doors, Queen, Boston, ELO, The Beatles, and Led Zeppelin. My dad and I would listen to classic rock on the radio on the way to school or when we were working outside on the property. My first obsession in music was Pink Floyd in high school – especially their psychedelic albums (Piper thru Ummagumma/ Meddle/ Atom Heart Mother).

Q1: 本誌初登場です!まずはあなたの音楽的なバックグラウンドからお話ししていただけますか?

【JOHN】: インタビューをありがとう。僕は、アメリカのカリフォルニア州にある小さな砂漠の田舎町で育ったんだ。子供の頃はベートーヴェンが大好きで(”月光” のような人気の高い曲も) 。僕にとっての糧は DOORS, QUEEN, BOSTON, ELO, BEATLES, LED ZEPPELIN みたいなバンドを聴くことだったね。
僕と父は、学校に行く途中や、外で敷地内の作業をしているときに、ラジオでクラシック・ロックを聴いていたんだよ。最初に音楽に夢中になったのは、高校時代に聴いた PINK FLOYD だったね。特にサイケデリックなアルバム(Ummagumma/ Meddle/ Atom Heart Mother)が好きだったよ。

Q2: You seem to be able to play a variety of instruments, how did you learn how to play them?

【JOHN】: I started piano at 15 and drums around the same time (playing on pots and pans), over time I just really loved to play and it was a great way to find respite from school or sports – then it became a full on passion by the time I turned 18 and started playing / improvising with Barret Baumgart. I just taught myself how to play the instruments and as time went on, I started self-study of Classical music, especially Beethoven. I both listened and read the scores to learn how they achieved certain effects and moods, and how they propelled the music forward through modulation.

Q2: あなたは様々な楽器を演奏できるようですね?

【JOHN】: 15歳でピアノを始め、同じ頃にドラムも始めたんだ。ドラムは鍋やフライパンで演奏していたんだけど。そのうちに演奏することが本当に好きになって、学校やスポーツの合間の息抜きになっていたね。18歳になって Barret Baumgart と一緒に演奏、即興演奏をするようになってからは、完全に音楽に対して情熱的になったんだよね。
楽器の演奏方法は独学で学んだんだけど、時間が経つにつれ、クラシック音楽、特にベートーヴェンを独学で研究し始めたんだ。スコアを聴いたり読んだりして、どうやって特定の効果やムードを生み出したのか、またどうやって転調させて音楽を前進させたのかをね。

Q3: What inspired you to start Wreche? What’s the meaning behind your band name Wreche?

【JOHN】: Well, Barret Baumgart and I started Wreche with our 2017 self-titled album – it was an extension of our 2008 band Architeuthis (which was also piano & drums, just instrumental). He went off to grad school and I was working on other things, but around 2015 we decided we wanted to do another project more in the metal vein. I also wanted to work in a genre that served my ambitions as a pianist and composer – and metal seemed pretty limitless, and still is in my opinion. The meaning behind the band name is “misery” – Wreche is the middle english spelling of wreak – as in to wreak havoc, or befell with great sadness/misery (from the Oxford English Dictionary). I was sad at the time I came up with it haha.

Q3: WRECHE を始めたきっかけを教えていただけますか?

【JOHN】: Barret Baumgart と僕は2017年のセルフタイトル・アルバムで WRECHE を始めたんだけど、これは2008年に活動していたバンド ARCHITEUTHIS(ピアノ&ドラムのインストゥルメンタル)の延長線上にあったんだ。
彼は大学院に行き、僕は他の仕事をしていたんだけど、2015年頃に、もっとメタルの流れを汲む別のプロジェクトをやりたいと思ってね。僕は、ピアニストや作曲家として自分の野心を満たすようなジャンルで仕事をしたいと思っていたんだけど、メタルはそういう意味でかなり無限の可能性を秘めていると思ってね。
バンド名に込められた意味は “不幸” だよ。 中世で Wreak は Wreche と綴られていて、「大混乱を引き起こす」「大きな悲しみや不幸に見舞われる」という意味を持っていたんだ。オックスフォード英語辞典からの引用だけど。この名前を思いついたとき、僕は悲しかったんだよ。

Q4: One of the unique aspects of Wreche is that you use the piano as your main instrument instead of the guitar, even though it’s black metal. Why did you go for such an idea?

【JOHN】: I really love metal, but I don’t play guitar! However, as Barret and I discovered over the years, my playing style really lends itself more to the metal genre than say jazz or classical. I love banging on the thing and I’m a pretty violent player.

Q4: WRECHE は、なんと言ってもブラックメタルにもかかわらず、ギターの代わりにピアノをメインの楽器として使用しているところが非常にユニークですよね?

【JOHN】: 僕はメタルが大好きなんだけど、ギターが弾けないからね!だけも、Barret と僕が長年にわたって発見してきたように、僕の演奏スタイルは、ジャズやクラシックよりもメタルのジャンルに適しているんだよね。僕は鍵盤を叩くのが大好きで、かなり暴力的なプレイヤーだからね。

Q5: In fact, guitar tremolo riffs are an iconic part of black metal, are you using the piano as an alternative or something completely new? Within the framework of black metal, is there something that can be expressed only with the piano?

【JOHN】: There’s a few sections in “Les Fleurs mov.2” where I purposefully emulate tremolo guitar riffs (as a sort of homage or quote to black metal). Otherwise, yeah it was difficult in some ways to adapt my playing further into the black metal style – especially in terms of subbing for tremolo riffs. I needed a way to create constant motion on the piano. I did this by implementing arpeggios and various triplet or quadruplet double hand patterns to create a moving base for the music to stand on, and to keep up with blast beats. I hope this hits people as completely new – I have never seen the piano used this way in metal before…usually it’s just for pretty little interludes or ballads. I think within black metal, the piano opens up patterns of notes that appear like tremolo riffs, but sustain a greater wealth of musicality – also, being that the piano notes immediately die off after being played unlike a guitar that has sustain, the athleticism is appealing. You have to keep moving to create vast clouds of energy. This is something the piano does that guitars cannot – each note is like a small shard of glass in a mosaic because of the nature of the instrument’s sustain.

Q5: 実際のところ、ギターのトレモロ・リフはブラックメタルの象徴とも言えますが、あなたはピアノをその代用としているのでしょうか?それともピアノならではの表現を模索しているのでしょうか?

【JOHN】: “Les Fleurs mov.2” では、ブラックメタルへのオマージュや引用として、意図的にトレモロ・ギターのリフを模倣した部分がいくつかあるね。ただ、それ以外の部分では、自分の演奏をさらにブラックメタルのスタイルに合わせるのは難しい面があったのは確かだよね。トレモロ・リフという意味ではね。
だから、ピアノに一定の動きを持たせる方法が必要だったんだ。そこで、アルペジオや3連、4連の両手のパターンを導入して、音楽の土台となる動きを作ったり、ブラストビートに合わせたりしたんだよね。今までメタルでこのようにピアノが使われたことはなかったよね。インタルードやバラード以外では。みんなが完全に新しいと感じてくれればいいな。
ブラックメタルでは、ピアノはトレモロ・リフのような音のパターンを開拓しながら、より豊かな音楽性を維持することができると思うんだ。サスティーンのあるギターと違って、ピアノは弾いたらすぐに音が消えてしまう。そのために必要となる運動性の高さも魅力だよね。膨大なエネルギーの雲を作るためには、動き続けなければならない。これは、ギターにはできないピアノの特徴だよ。サスティーンがないからこそ、一音一音がモザイクの中の小さなガラスの破片のようになるわけさ。

Q6: The title “All My Dreams Come True” and the artwork of flowers are far from typical Black metal images, and also very impressive. Can you tell us about the concept of the album and the theme of the lyrics?

【JOHN】: Yes! They are distant from standard black metal imagery. I’m not that into the fantasy/escapist side of black metal, even if I did put flowers on the cover. I really wanted to express what was around me in the city (and even the US) on this album – the widespread poverty and despair, people being tricked by their religious leaders and the politicians backing them, all while there’s tent cities everywhere, abject cruelty. It is so sad. The flowers were a gift to me and I took the photo years before the album was finished. However, the more I thought about life, the more I saw it in relation to the flowers. They live and die, they are put on your grave as a final statement, they grow from last year’s dead detritus every spring as a sign of new life. It was a perfect metaphor for the past/present/future – the cycle of life. The title reflects this – rather than waiting for the afterlife, or some invisible future, it is an urge to see what is in front of you, to be present in your surroundings. It is easy these days with social media to feel so isolated, un recognized – as if your dreams and goals are constantly further away from you because of the comparisons you may make to other people’s successes – all right in your face 24hrs/day. It is a call to throw out fantasy/future planning for some distant plain of transcendence, merely existing for the next day, and realize that this earth, this time we have here, is both heaven and hell. There is no afterlife. Only now. All my dreams came true because I am here..

Q6: アルバムのタイトルである “All My Dreams Come True”、それにこのアートワークはブラックメタルの典型的なイメージとは程遠いですよね?

【JOHN】: そうなんだよ!標準的なブラックメタルのイメージとはかけ離れているよね。ジャケットに花をあしらったとしても、僕はブラックメタルのファンタジーや逃避的な側面にはあまり興味がないんだよね。貧困と絶望が蔓延し、宗教指導者とそれを支持する政治家に騙され、いたるところにテント村があり、残酷な行為が行われているという、僕の身の回りにある世界をこのアルバムで表現したかったんだ。とても悲しいことだよ。
この花は僕がもらったもので、アルバムが完成する何年も前に撮影したんだ。その間に、人生について考えれば考えるほど、この花との関連性が見えてきたんだよね。花は生きて死に、最後の意思表示として墓に供えられ、毎年春になると去年の枯れた残骸から新しい生命の証として成長していく。それは、過去・現在・未来、つまり生命のサイクルを表す完璧なメタファーだったんだ。死後の世界や目に見えない未来を待つのではなく、自分の目の前にあるものを見て、世界の中に存在したいという衝動が、このタイトルには込められているんだよ。
SNS が発達した昨今では、自分が孤立しているように感じたり、認識されていないように感じたりすることがよくあるよね。他人の成功と比較することで、自分の夢や目標が常に遠くにあるように感じてしまうんだ。
これは、空想や将来の計画をどこか遠くの超越した場所に投げ捨て、ただ次の日のために存在するだけで、この地球、この時間が天国でもあり地獄でもあることを理解するように呼びかけるアルバムだ。死後の世界なんてないよ。今しかない。僕がここにいるからこそ、すべての夢が叶うんだ。

Q7: At Bandcamp, you quoted Henry Miller’s words. It seems to imply the importance of vocal and lyrics in your mind, would you agree?

【JOHN】: In a lot of ways yes, but I meant it more in terms of making art. The lyrics are very important to me because they voice best what I want to say about the world and my place in it – my personal experiences and observations. The quote for me (which isn’t the objective meaning of course), puts importance on the will to do something less the requisite materials. You could have everything, but if the “want to sing” isn’t there, it means nothing. Also, I see that quote in terms of how something is to be started, or manifested as a work of art, or anything in life for that matter – you simply begin and then it becomes.

Q7: Bandcamp のページであなたはヘンリー・ミラーの言葉を引用していますよね?あなたの中の、歌や歌詞の重要性を隠喩しているように感じました。

【JOHN】: いろいろな意味でまあそう取れるよね。だけど、僕はアートを作るという意味でより多くのことを考えたんだ。歌詞は僕にとって非常に重要なもので、世界とその中での自分の居場所について言いたいこと、つまり個人的な経験と観察を最もよく表しているからね。
僕にとってミラーのこの言葉はもちろん客観的な意味ではないけれど、必要な材料がなくても何かをしようとする意志を重要視しているんだよ。すべてが揃っていても、「歌いたい」という気持ちがなければ何の意味もないわけだから。
そしてそこから僕はこの言葉を、何かを始めるとき、あるいは芸術作品として表現するとき、あるいは人生において何かを行うときの方法として捉えているんだ。ただシンプルに、始めることが実現への第一歩だから。

Q8: With the emergence of Alcest and Deafheaven, black metal has continued to spread and diversify. You are one of such a new generation, what does the first generation of Inner Circle and evil legends mean to you? Have you ever seen the movie “Lord of Chaos” ?

【JOHN】: Definitely haha! The movie was pretty good. The documentary “until the light takes us” is pretty good too. To me, some of the music still holds up and is really good, but ultimately , they were for the most part (with exceptions like that guy Gaahl) a bunch of suburbia kids running around causing mayhem spreading neo polytheistic, and for some – racist, and homophobic ideas; burning down churches to reclaim their heritage from the crusading Jesus pushers back in 1200AD. Not sure if those bloodlines still run, but I do understand how horrific the christian crusades were – erasing entire cultures in order to replace their history with the Bible’s history, and they did it all over the world. Still, the music was great, the atmosphere was great, though I think kids like that are/would have been diametrically opposed to people like me. One thing I do agree with is the anti-capitalist sentiment.

Q8: 映画 “Lord of Chaos” はご覧になりましたか?
ALCEST や DEAFHEAVEN の登場でブラックメタルは多様化と拡散を続け、あなたもそういったアーティストの1人ですが、第1世代のインナーサークルや狂気にかんしてはどう感じていますか?

【JOHN】: もちろん見たよ!ハハハ! 映画はかなり良かった。ドキュメンタリー映画の “Until the Light Take Us” もいいよね。
僕にとっては、いくつかの当時の音楽は今でも残っていてとても良いと思うんだ。だけど結局のところ、Gaahl のような例外はあるにしても彼らは、新多神教を広めて騒乱を起こしながら走り回る郊外のキッズ集団であり、一部の人にとっては人種差別的で同性愛嫌悪的な考えであり、西暦1200年に十字軍に参加したイエスの押し売りから自分たちの伝統を取り戻すために教会を焼き払っていたわけだよね。
もちろん、その血筋が今も続いているかどうかはわからないけど、キリスト教の十字軍がどれほど恐ろしいものだったかは理解しているよ。彼らの歴史を聖書の歴史に置き換えるために、文化全体を消し去り、それを世界中で行ったんだからね。
音楽は素晴らしかったし、雰囲気も良かった。でも、あのようなキッズたちは、僕のような人間とは正反対だったと思うよ。一つだけ同意できるのは、反資本主義的な感情かな。

FIVE ALBUMS THAT CHANGED JOHN’S LIFE

HELLA “HOLD YOUR HORSE IS”

THE BAD PLUS “SUSPICIOUS ACTIVITY?” “PROG”

PINK FLOYD “MEDDLE”

ULCERATE “VERMIS”

BEETHOVEN “SONATAS”

MESSAGE FOR JAPAN

Thank you so much for reading this! It has been my desire to reach people in Japan ever since 2007 – I was very much into Hella and they toured Japan and made a DVD called Homeboy/Concentration Face. I could not believe the enthusiasm for such a strange band! In America, Hella shows were not packed, but in Japan they were. It made me respect the culture and the open minded approach to life and art. I thought that maybe one day, I can get my music out there because I think people will give it a chance. So, I hope you all enjoy the new record and I hope to get out there to play live one day.

読んでくれて、本当にありがとう。2007年に HELLA に夢中になり、彼らが日本をツアーして “Homeboy/Concentration Face” という DVD を作ったときから、日本の皆さんに僕の音楽を届けたいと思っていたんだ。
ああいった奇妙なバンドが熱狂的な支持を受けるなんて信じられなかった。アメリカでは、HELLA のショーは満員ではなかったけど、日本では満員だった。それを見て、僕は日本の文化や、人生や芸術に対するオープンマインドなアプローチを尊敬したんだよ。いつか自分の音楽を世に出せるかもしれない、そうすれば日本の人々はチャンスを与えてくれるだろうと思ったんだ。
だから、みんなが新譜を楽しんでくれることを願っているし、私もいつか日本でライブをしたいと思っているよ。

JOHN STEVEN MORGAN

WRECHE Official
WRECHE Bandcamp
DIES IRAE WRECHE “ALL MY DREAMS COME TRUE”

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW【GOJIRA : FORTITUDE】


COVER STORY : GOJIRA “FORTITUDE”

“The Point Of Fortitude Is To Inspire People To Be The Best Version Of Themselves And To Be Strong No Matter What. It’s Easy To Despair And To Lose Faith. But At Some Point You’ve Got To Figure Out Where You Stand. You’ve Got To Ask What Your Attitude Will Be If This Is The End Of The World As We Know It.”

NATURE IS HURTING

フランスからメタル世界の巨人となった GOJIRA は、そのキャリアにおいて、常に無関心や無知と戦ってきました。そして、待望の7枚目のアルバム “Fortitude” が文字通りゴジラのように地平線の彼方に現れる刻、フロントマンの Joe Duplantier は、人類が自滅へのスパイラルに向かい合う必要性をこれまで以上に強調したのです。
Joe は、子供のころからある記憶が頭から離れません。家族で見ていたテレビ。点滅する画面の前に座ると、静寂の中から理性の声が現れ多くの人が気にも留なかった状況の緊急性を訴えかけていました。フランス系カナダ人の宇宙物理学者であるヒューバート・リーブスは核合成の研究でよく知られていますが、あの運命の夜、彼は人類の自滅は原子の炎の中などではなく、冷たく静かな自己満足の中で起こる可能性が高いと説きました。
GOJIRA のフロントマンは、あのとき驚くほど明快にこう思いました。
「彼はただちにやり方を変える必要があると言っていた。僕たちはゴミやCO2の排出量を減らす必要があるとね。排出量を減らさなければならない、リサイクルをしなければならない。注意を払わないと、50年後には大変なことになってしまう。テレビに出ている人が言っているのだから、状況はすぐに変わるだろうと思ったことを覚えているよ」
しかし残念ながら、30年以上経った今でも状況はほとんど変わっていません。

Joe と弟の Mario は、メタル界で最も率直な暴れん坊の2人にしては意外にも、穏やかで牧歌的な環境で育ちました。スケッチ・アーティストの父とヨガ教師の母の間に生まれた兄弟は、フランスの西海岸にある人里離れたコミューン、オンドルで育ちました。彼らの家はあまりにも田舎だったので、あるジャーナリストが訪れたとき、「庵」と表現したほど。しかし、フォークからマイク・オールドフィールドまで、常に音楽が流れていました。詩人や画家が泊まりに来て、大人たちが国際的な哲学を語り合っているときだけ、音楽は止み子供たちは話に耳を傾けたのです。
兄弟二人はよく浜辺で時間を過ごしました。Joe は木や石を集めていて、家に帰ると手が原油で真っ黒になっていました。一方、Mario はサーフィンをしているときにビニール袋が顔に張り付きました。おとぎ話のような平穏な暮らしにも、現代社会のヒビが入っていたのです。
「自然を傷つけてばかりなんだから、自然に傷つけられるのは当たり前だ」
創造性に囲まれた青春時代を過ごしたにもかかわらず、Joe と Mario はメタル世界の英才教育を受けたわけではありません。彼らの両親がラジオで流さなかったのは、唯一ハードロックだけだったのですから。兄弟のいとこが、当時12歳の Joe に強引に METALLICA を聴かせたことがきっかけで、彼らは METALLICA に夢中になります。
「振動、音色、ドラムの叩き方が神秘的だったんだ。メタルは敏感な人を惹きつけるんだと思うよ。僕は生まれつき敏感で、学校ではいじめられっ子だった。人間が嫌いだったんだ。METALLICA のテーマは非常に感情的で、トラウマになっているような面があり、そこに惹かれたんだよね」
学校での怒りは、2人にヒーローを模倣するエネルギーを与え、Joe はギターを手にしてシンガーになりました。
「僕にとって、音楽は説教やメッセージありきではないんだよね。腹の底から出てきたものを、マイクに向かって叫ぶだけなんだ。叫ぶことで大事な言葉が出てきたんだよ。最後に食べたピザについて叫ぶつもりは毛頭ないけどね」
情熱的で外向的な性格のマリオは、ドラムの虜になりました。
「学校の友達はみんなラグビーをやっていたけど、僕は好きじゃなかった。ドラムが僕のラグビーだったんだ」
兄弟は、そうしてエクストリーム・メタルのカルテット GOJIRA で、その傷を訴えていきました。荒々しく複雑な音楽性だけでなく、環境保護を訴えることも彼らのアイデンティティーとなったのです。

GOJIRA が結成されたのは1996年で、2人が DEATH に影響を受けたミュージシャンを募集する広告を出したのがきっかけでした。そこに2人目のギタリスト、Christian Andreu が加わり、後にベーシストの Jean-Michel Labadie が加わりました。当初、4人は自分たちのことを “GODZILLA” と呼んでいました。火を噴く怪獣ほどメタルなものはないでしょう。
2001年にデビュー作 “Terra Incognita” を自主制作。このタイトルは、兄弟が子供のころに聞いていた会話から生まれたもので、ヒンドゥー教の神話を暗示しています。具体的には、ブラフマーが、その力を乱用した人類から神を隠した未知の場所を意味しているのです。2003年に発表された次作 “The Link” は、同様に形而上学的な内容で、復活、瞑想、苦しみによる悟りについて考察しています。
「最初はもっとスピリチュアルな音楽だった」と Mario は回想します。「2005年に “From Mars to Sirius” をリリースしたときは、詩的な表現を続けていたんだけど、”Global Warming” のような曲は、僕たちの環境に対するメッセージにとって本当に重要なものだったね」
人類が地球を枯渇させ、新たな故郷を探すというSF的なストーリーを持つ “From Mars to Sirius” は、ゴジラにとって初めての気候危機をテーマにした作品で、世界的なブレイクへの第一歩となりました。デスメタルをより大胆に取り入れたこの作品は、ブレイクダウンを多用した “Backbone”(現在でも最もヘヴィーな楽曲のひとつ)のような大作と、穏やかなボーカルで構成されたゆらぎの叙事詩で見事にバランスが取れていました。
「僕たちは世界を征服する準備ができていたんだ!」と、Joe は叫びます。「エネルギーがあり、怖さも疲れも退屈も存在しなかった。10年間の努力と苦労を経て、僕たちは燃えていたし、新しいオーディエンスと出会う期待と飢えがあったんだ」
この野心は、サウンドに磨きをかけた “The Way of All Flesh” と “L’Enfant Sauvage” に反映されていきました。バンドは頻繁にアメリカとヨーロッパをツアーしていましたが、毎晩自分たちのビデオを見返して、細心の注意を払ってライブショーを完成させています。「それってすべてのミュージシャンがやるべきことだろ?」と Mario は嘯きます。

「実は数年前から、人類の未来に悲観的になっていたんだ。真実に目覚めて、多くの人が自分を高めようとしているにもかかわらず、世界は逆行しているような気がするんだよね。テレビで(元)アメリカ大統領が『地球温暖化が本当かどうかわからない』と言っているのを見たり、高校で教えている友人から生徒の中にはヒトラーが映画の中の人物なのか、実在した人物なのかよくわからない子がいるいう話を聞いたりすると、ものすごくがっかりしてしまう。僕は少し疲れてしまったんだ。だからパンデミックが起こったとき、僕は『いいだろう。燃えてしまえばいい。地球に寄生している僕たち人類にとって、これは実際、終わりなのかもしれない』と思っていたんだよね」
自分の無能さを隠そうと必死になっている政治家や権威が、何ヶ月にもわたってくだらない話をしてきた後で、厳しい真実を語る聡明な頭脳に出くわすのは新鮮なことでしょう。
テレビの前で目を輝かせていた少年時代から、Joe は、年間7,500億トンの氷が海に溶け、毎週2,300平方キロメートルの熱帯雨林が伐採され、毎日150種もの生物が絶滅しているという、数字が物語るはず脅威と、その対局にある人々の無知さに慣れていました。だからこそ、コロナで234万人が亡くなり、数え切れないほどの人々が貧困やうつ病に陥っているという現在のデータに贖いトンネルの先には光があると主張する先導者を信じません。COVID-19の危機が1年を超えた今、人類は大きな灰色の未知の世界に直面しているのというのがまがいの無い現実です。
しかしだからこそ、GOJIRA 7枚目のアルバム “Fortitude” が登場するのに、これ以上のタイミングはないでしょう。世界はかつてリーブス博士が呼びかけていたのと同じように、困難に正面から立ち向かう勇気ある心の強さ、”不屈の精神” を求めているのですから。
「不屈の精神こそ、僕たちが示すべきものだ。抱きしめるべきものだよ。近い将来のことでさえもすべてが不確かな世界の中で、僕たちがどうあるべきかということだよね。僕たちはバンド結成当初から、競争と対峙する思いやり、そして憎しみと対峙する愛情をテーマに活動を続けてきた。”Fortitude” のポイントは、最高の自分であること、そして何があっても強くあることを人々に促すことなんだ。朝起きて、また生活に追われるのはつらいことだけど、僕たちの態度や捉え方、自分や人類の未来をどう描くかによって、変化をもたらすことができる瞬間がたしかにあるんだよ。絶望したり、信念を失ったりするのは簡単だ。だけど、ある時点で自分の立ち位置を把握しなければならないんだよ。これが僕たちの知る世界の終わりであるならば、君はどんな行動を起こすんだい?」

私たちはもはやポイント・オブ・ノー・リターン、帰れないところまですでに到達してしまったのでしょうか?もしかしたら私たちは終末に向かって勇敢に行進しなければならないのでしょうか?
「人類がこの地球上に存在する価値があるのかないのか、という具体的な文脈で考えている。僕は友人とよく哲学的な話をするけど、僕は楽観的なんだ。人間だから、もちろん人類の成功を見たいと思っているよ。だけど同時に、僕はたちはこの惑星や他の種族にとって問題であると考えざるを得ないよね。他の種族が、本を書いたり、美術館に行ったり、コーヒーを飲んだりしないからといって、この地球上で生きていく権利がないわけではないんだよ。僕たちが他の動物を扱う方法には、憤慨し、ショックを受けているよ。人間は『動物だから、動物を食べるのは当たり前だ』と言う。でも、他の動物が工場を持っているかい?考えるべきことだと思うよ。僕の友人たちの中には、『私たちはどうせ消えていくものだ。楽しもうよ。すべてを台無しにしてしまおう。どうせ死ぬんだから、そんなの関係ないよ。40億年後には太陽が地球を破壊するんだから』って人もいる。楽観的な人間になるのが正しいのか、それとも悲観的な人間になって皮肉を言うべきなのか。その中間の存在になることはできないね。それは君が眠っているということだ。人間について何か意見や感じたことはあるかい? 僕は楽観的な人間になり、人々を揺さぶり、自分自身を揺さぶって、もっと思いやりを持ち、もっと与え、大統領や政府に頼るのではなく、この地球の問題にもっと問いかけることを選んだ。そして、たとえ僕たちが滅ぶことを運命づけられていたとしても、たとえ僕たちの文明が消滅することになっていたとしても、少なくとも、消滅する前に意識と美の最後の輝きを放ち、魂を高めることができるんだ」
Joe は捕鯨に反対の立場をとっていますが、というよりも動物全体の痛みを当たり前に受け止めているだけでしょう。
「君は諦める?『世の中が汚染されているから、もっと汚染してやる。みんなが盗みをするから、俺はもっと盗むんだ』。僕たち一人一人が世界を作り、僕たちの環境を作っているんだよ。政府や支配者層の話をするときに、『彼ら』と言う人がいる。しかし、『彼ら』は『僕たち』なんだ。あなたも人々の一員なのだから、もう少し努力すれば、変化をもたらすことができるんだ。僕たちは何の制限もなく環境を強姦し、汚染し、破壊する。そのことに腹を立てない人はいなはずさ。なぜ人は、それが簡単に無視できることだと思うんだい?」
昨年8月5日にリリースされたシングル “Another World” は、ファンにとって初めての “Fortitude” の実質的な予告となりました。”もうひとつの世界、もうひとつの場所” を求めるこの曲は、すでにコロナ禍のはじまりから数ヶ月が経過した地球と見事に共鳴。ただし、マキシム・ティベルギアンとシルヴァン・ファーヴルが制作した素晴らしいアニメーション・ビデオに出てくる「The virus is spreading(ウイルスが蔓延している)」というセリフは、実は COVID が制作者の頭の中をよぎるずっと前に完成していたのです。
「コロナのアルバムになるまでは、コロナのアルバムではなかったんだよ。フランスに戻る前には、レコードのミキシングを終えていたから。クレイジーで、まるで世界的な電波に影響されたような感じだよね。”Another World” は僕たちの癇癪が爆発したものだ。別の世界が欲しい、この世界をファックしたい…ああ、でももちろんこれは僕たちの世界だ、これは手にしている唯一のものだ・・・。 これしかないんだ。動物への接し方は何か間違っている。多くの種が絶滅したことは、僕たちの負の遺産の一つになるだろう。これらの種を作るのに何十億年もかかったのに、40年後には何千、何万という種が僕たちのせいで絶滅してしまうんだから」

アルバムの本格的な制作は、2018年初頭に始まりました。2016年の6枚目のレコード “Magma” は、プログレッシブ・デスメタルの可能性にアクセシブルな高い光沢を飾り付け、GOJIRA の評判を一気に引き上げたレコードでした。これまでの不屈のライフスタイルが、”Magma” を形作ったと言えるのかもしれません。
「ミュージシャンになると、ツアーが人生の90%を占めるんだ 」と Mario は言います。「何週間も、毎晩叫んで、体が元に戻ろうと必死なんだ。世界で最高の仕事であると同時に、最も苦しい仕事でもあるんだよね。それは作曲方法にも大きな影響を与える。狂ったような、暴力的な、やたらと速い演奏は永遠にはできないだろうから」
“Magma” の楽曲は非常にシンプルで、それぞれが1つか2つのリフを中心に構成されていました。Joe の声の繊細な可能性がさらに強調され、より瞑想的なムードが作り出されながら。 制作中には、兄弟の母が亡くなります。
「 “Magma” のすべてが母の死から生まれたわけではないけれど、もちろん深い影響があったよね」と Joe は振り返ります。「僕たちの心の中で、精神的にとても大きな出来事だった。ちょうど曲を書いているときに亡くなったから、影響を投影しないのは不可能だよ。アルバム全体に言えることだけどね。僕たちの母はいつもこう言っていた。死は人生の一部。それを受け入れなければならない』とね。生まれてきて死ぬ、それが人生の輪。だから、誰かが死ぬとみんなが泣いて黒い服を着るのが、子供心にもよくわからなかったんだよね」
その結果、”Magma” は完全な哀歌ではなく、死の先にあるものを同時に探求する作品となりました。冒頭の “The Shooting Star” では、母パトリシアが星座を通して死後の世界への道を示しています。”Between the bear and the scorpion, you’re getting close.”
タイトル曲では、輪廻転生とについて言及し、”Low Lands” は、墓の向こうにあるものについての知識をパトリシアに求めています。
2017年のグラミー賞では、ベスト・ロックアルバムとベスト・メタル・パフォーマンスにノミネートされ、同年末にはメタリカの “WorldWired” ツアーでオープニングを務める栄誉を手にします。自分たちの譲れないものを守りながら、次のステップに進むための基盤が整ったのです。そうして、堅苦しい青写真ではなく、彼らの中のゆるやかな優先順位が形成されていきました。Mario が語ります。
「”Fortitude” の最終的な目標は、自分たちのダークな部分を取り除くことだったと思うけど、それはとても難しいプロセスだった。”Magma” で僕たちは母を亡くして、それがけっこう大きな痛手となっていたんだ。”Fortitude” を書いているときは、星の配置が完璧だった。バンドの成功は最高潮に達していて、ツアーもうまくいっていたから、僕たちはただ曲を書くだけだったんだよ。”Magma” の時のように、感情的に苦しい立場に置かれていたわけではなかったんだ」

Duplantier 兄弟の母、パトリシア・ローザの死を受けて完成した “Magma” は、悲しみと憂いの深い灰色に彩られたレコードで、もちろん悲しみ一辺倒ではないにせよ、ある種居心地の悪さを感じさせた作品でもありました。ゆえに7枚目のアルバムは、より明るく、よりポジティブなものにする必要があったのです。”Magma” が親密で内なるものだったのに対し、”Fortitude” はより外に向かって、パンチの効いた、政治的なアルバムへと意図的に反転させられました。そうして、粗野でブルージーな “Yellow Stone”, 荒涼とした雰囲気の “Liberation” のように、新たな音楽的モチーフを取り入れながらも、彼らの鋭いシグネチャー・サウンドの探求と拡大には、さらに大きな「自由」が必要だったのです。
「ルールはない!」
Joe は、イギリスの過激なオルタナティブ・ロックバンドである PORTISHEAD や RADIOHEAD を引き合いに出し、予想外のサウンドを自由に展開するためのインスピレーションを得たと宣言します。さらに、伝統的なロック、ブルース、アメリカーナの再評価をも提案。これは、MASTODON のギタリスト、Brent Hinds との深い対話によって、子供の頃に受けた影響が再認識されたものでした。
「僕にとっては、いつも不協和で奇妙で攻撃的であることが重要だったんだ。でも、ロック、ブルース、プログレッシブなど、長い間見下していた音楽のエネルギーは、他のメンバーや自分が年を重ねるごとに、その良さがわかってきたんだよね。だからこのアルバムでは、もっと積極的に、もっと派手に、もっと楽しく、何か違うものを表現したいと思うようになった」
“Magma” の “エネルギー” から、バンドのサウンドを前進させたいと語る Joe。アメリカで過ごした10年間で、二重国籍の英雄はその発音も少し変化しました。そして彼の Silver Cord スタジオに流れる作品は、ロングアイランドのマスコア・マニアック CAR BOMB, パリジャン・メタルコアの新星 RISE OF THE NORTH STAR, マサチューセッツのヒップホップ・ロック HIGHLY SUSPECT など、さまざまなバンドへと幅が広がり彩られています。Joe は、2019年にリリースされた HIGHLY SUSPECT のクールなトラック “SOS” にゲスト参加したことが、変化の契機だったと証言しています。
「繊細であったり、”泣き虫 “であったりしてもいいんだということを教えてくれたからね。最初は恥ずかしいと思っていたけど、妻に聴かせたら『あら、セクシーね』と言ってくれたんだよね」

メガ・レーベル Roadrunner Records が、GOJIRA の “独立性と経験” を信頼してくれたことで、Silver Cord は2年間のクリエイティブな「繭」となれました。エンジニアのヨハン・マイヤー(彼らのライブ・サウンドも担当)がすべての段階でバックアップし、同じ空間でデモとレコーディングができるという快適さもあって、これまでにないほど多くのアレンジが試みられ、楽曲が書かれたのです。
「ソロも弾いているんだよ。だけど、アルバムから追い出された2曲にはキラー・ソロが入っていて、”ふざけやがって!”と思ったね」
さらに、SLAYER の “Reign In Blood”, NIRVANA の “Nevermind”, LIMP BIZKIT の “Chocolate Starfish…” などを手がけた伝説のプロデューサー、Andy Wallace がミックスを完成させました。
アルバムの制作は Joe にとって楽しめるものなのでしょうか?
「95%の確率で、惨めな気持ちになる。史上最高の曲を書こうとしているのに、それが実現しない。僕たちは自分の悪魔に直面している。自分のエゴに直面しているんだよ。失望や自己嫌悪にね。人生の中で、アルバムを作ることを選択したその時期には、自分のベストを尽くさなければならないんだ。多くの場合、それは苦痛だけど、正しいリフの組み合わせや良い歌詞を見つけたときには、とても報われることもある」
当初、サプライズ・リリースの時期は、2020年6月とされていました。しかし、ロックダウンが続いたため、9月に延期。ステージへの復帰が差し迫っていないことが明らかになると、さらにそのスケジュールは延期されました。リリースの前提としてツアーを行うという従来の考え方から脱却するには時間がかかりましたが、最終的には、エネルギーと衝動を抑えることができなくなったのです。
「今、僕たちは違った見方ができるようになった。ツアーをしてもしなくても、何があっても作品をリリースするんだ」
“Fortitude” は、まさに自由になることを求めるレコードです。Joe が目標とした解放感が脈々と流れ、完成した作品はポジティブなパワーと肯定的な暖かさに輝いています。GOJIRA のトレードマークであるテクニカルとヘヴィネスの光沢、狂った拍子記号と決定的なシンコペーションはもちろんすべての源流として存在しますが、個々の楽曲はよりオープンに進化を遂げ、時折、推進力のあるエネルギーをポスト・メタルやスタジアム・ロックの領域に向けて走らせることさえあるのですから。
重要なのは、”Flying Whales” の底知れぬグルーヴや、”Born In Winter” の氷のような壮大の中で、”Fortitude” の広範なコンセプトが生と死、自然とスピリチュアリティというテーマに沿って解き明かされ、音楽とテーマとの刺激的な交わりがあるということです。

モダン・メタルの多様性は、何もその音楽のみに範囲を限定するわけではありません。その思索や哲学も実に多様で包容力に満ちています。「消えてしまうことへの原始的な恐怖/虚空で幽霊になること…」実存主義者の亡霊が死の本質を探るオープニング曲 “Born For One Thing” は、完璧な入り口のように感じられます。2008年にリリースされた “The Way Of All Flesh” で徹底的に追求されたテーマは、ブリュッセルにある壮大な中央アフリカ王立博物館で撮影された変幻自在のミュージック・ビデオに匹敵するほどの躍動感をもって進行し、高められていきます。
「僕たちは皆、死ぬんだから、生の手放し方を人生で学ぶ必要がある。死は大きな意味を持ち、誕生と同じように人生の一部だけど、タブーだよね。でも夜が昼になるのと同じように、僕たちは死や衰えの概念とわかり合う必要があるんだよ。自分の体がある日突然機能しなくなるという考えに平安を感じることができれば、より寛大で思いやりのある人間になることができ、”必要のないものを持ち続けない” ことができるだろう。仏教では、7つ以上の物を所有すると苦しみ始めると言われている。これには何か意味があるんだろうな」
印象的なのは、”The Grind” “砕く” というテーマが複数のトラックに浸透していることです。最初の「I’ve been grinding and grinding…」「どんどん砕かれていく」という嘆きは、巨大なクローザーである “Grind” の「surrender to the grind」「俺は砕かれない」という宣言によって反転し、解消されます。この一見逆説的な歌詞の対比は、もちろん冒頭の 「世界にものすごくがっかりしてしまう。僕は少し疲れてしまったんだ」という発言に通じ、物事を先延ばしにしたり、頭を砂の中に埋めたりしないようにとの戒めともなっています。
「人間としての自分に身を任せる必要があるんだ。規律の中にこそ、自由がある。毎晩、寝る前に皿洗いをしておけば、朝になっても汚れた皿は残っていなだろう?人生には終わりがあるという考えに平安を感じることができれば、より幸せに生きることができるだろうね」
死と折り合いをつけることの重要性。それ以外にも、”Fortitude” には世界を旅するような冒険心が存在しています。”Amazonia” は、SEPULTURA の “Roots” のようなトライヴァルな雰囲気を醸し出していますが、これは Joe が2000年代後半にCAVALERA CONSPIRACY のベーシストとして活動していたことにも関係しています。ただし、森林伐採に対する環境保護のメッセージ(「This fire in the sky… The greatest miracle is burnings to the ground」「空を火が覆う。最高の奇跡が焼け落ちてしまう」)は、まさに GOJIRA そのもの。不屈の精神とは、先住民のコミュニティーにたいする敬意の表れでもあるのです。
“Sphinx” は、エジプトの巨像に敬意を表し、切り出された石灰岩のように重く、デスメタルの伝説である NILE も誇りに思うような野蛮さを誇っています。イギリスからの影響も顕著で、”Hold On” では、後期 IRON MAIDEN のような壮大なプログレッシブ絵巻が意図的に展開されています。一方で、”The Trails” は、ピーク時の DEFTONES のように、不気味で囁くような神秘的な雰囲気を醸し出しています。

しかし、音楽的にもコンセプト的にも、明らかに中心となるのは “The Chant” でしょう。インストゥルメンタルのタイトルトラックと並んで、ブルース、ゴスペル、アメリカーナを組み合わせたこの曲は、リスナーに「自分を取り戻し、上に立つ…強くなるんだ!」とリスナーを励ますシンプルな歌詞の組み合わせがこれまでの GOJIRA とは全く異なるものです。Joe が強調するように、この曲は “Fortitude” のコンセプトを究極に凝縮したものであり、ショーが再開されたときに忘れられない夜になることをファンに約束する誓いの手紙でもあるのです。
「通常、僕たちは観客を破壊するために曲を作る (笑) だけどこれは、彼らを一つにするための試みだったんだ」
アルバムのインスピレーションを得るために、Mario は兄にいくつかの絵画や芸術作品を見せました。その中には、オーストリアの画家グスタフ・クリムトが1898年に描いた “パラス・アテナ” も含まれていました。
「美しい絵だよね。彼はさらに戦士や騎士の例をいくつか見せてくれて、最終的には円卓の騎士と先住民族の文化をミックスしたアートワークになったんだ。アルバムの精神を表しているよ。言葉とビジュアルの相性がとても良いんだ」
ある意味で、”Fortitude” は芸術家の息子としての幼少期への頌歌でもあり、気候危機のトラウマだけでなく、それ以上のものを探求しています。”Born for One Thing” は、両親が愛したタイやチベットの哲学を参照しており、”The Trails” は子供のころ流れていたメランコリックとさえ言えるプログポップにも通じ、故郷のラジオから聞こえてきてもおかしくはないでしょう。
「両親が THE BEATLES や PINK FLOYD を聴いていたとき、僕たち兄弟はとても楽しい時間を過ごしていた。だから、その要素を少し加えたいと思ったんだよね」
“Born for One Thing” で提示されている “集団的昏睡” というアイデアは、現代社会の象徴である消費主義というテーマと結びついています。
「消費する方法を変えることは、物事を変える力につながる。例えば、僕は8年ほど前にヴィーガンになったんだけど、その理由は動物を虐待していることに気づいたから。これを人に言うと、「何を言っているんだ?牛乳の箱には “牛は外で育てられている” と書いてあるだろ?工場で飼われている動物じゃないんだから」と言われたりする。でもね、ミルクを作ってくれるおばあちゃんがいて、名前のある牛を飼っていて、その牛を愛情を込めてペットにしているなら、それはそれでいいと思うよ。でも、市販のミルクはそうじゃない。人は事実から逃れるために物語を語り、責任を感じなくて済むようにしたいものだ。僕たちは、自分の手で責任を取る必要があると思うよ。何かを買うときには、少なくとも自分が世界に与える影響を意識したいものだよね。
物事を変えるためには、正しい人に投票すればいいというのは幻想だよ。まずは、自分から始まる集団的な努力が必要なんだ。個人の目覚めこそが、唯一成功する革命なんだよ。このアルバムには市民的不服従の考えが根底にあるけど、行間を読まなければならないよ。市民的不服従とは、ルールに盲目的に従わないこと。クールになるために法律を破る必要はもちろんない。だけど、僕が言いたいのは “自分で考えろ ” ということなんだ。周りを見渡して、自分が世界に与える影響を考える。これこそが僕たちの持つ大きな武器なんだ。ただ、シンプルな選択と日々の習慣が世界を変えていく」

例えば、OPETH の “Heritage” のような大きな変革をもたらした作品と言えるのかもしれません。
「そう思う。アルバムのセッションを始める前に、僕は2ヶ月間、自分たちの曲の書き方やアレンジの仕方を深く分析したんだよね。”Fortitude” 以前の僕たちは、曲作りの公式を考えたことがなかったんだ。つまり、実際には何の構造もなく、ただ何となく組み合わせていただけなんだよね。例えば、良い曲には最低でも3つのコーラスが必要だし、過去の僕たちの音楽の扱い方は非常に実験的なアプローチだった。まあつねに、明白なパターンを避け、ルールの外にある音楽を作り出そうと努力していたからなんだけど。”Toxic Garbage Island” を例にとると、この曲には構造がないんだよね。コーラスもない…何もない! だから、”Fortitude” では、すべてをもう少しバランスよくしたいという気持ちがあって、Joe にこのアルバムでは、コーラスとヴァースを確立したいと言ったんだよね。これが作品全体に大きな力を与えていると僕は考えているよ」
“The Trails” で Joe の歌声は、グロウル、クリーンを経てさらにもう一つの大きなジャンプ、メロディアスへの移行が感じられます。弟はその変化について敏感に感じ取っていました。
「”Magma” の “Shooting Star” や “Lowlands” から始まった試みだと思うけど、この10年間 Joe は自らのボーカルを向上させることに真剣に取り組んできたんだ。僕たちは、さまざまなタイプの音楽を聴いて育ったからね。メタルから THE BEATLES, MASSIVE ATTACK, PORTISHEAD など…真の音楽好きなんだ。ジャムるときは、ファンク・ロックのようなものを演奏してしまうことだっめあるんだよ。 最近の多くのバンドのように、他にサイドプロジェクトを持っているメンバーもいない。つまり僕たち4人にとって、GOJIRA は唯一の音楽活動の場だから、自分たちの個性の すべての側面を表現する必要があるんだよ。僕たちは皆、”メタル・ヘッズ” ではあるんだけど、音楽を愛する者でもあるんだよ。だから、Joe にとっては、自分が自然にやりたいと思ったこと、必要としたことに向かって進化していくしかなかったんだよね。今、彼はシンガーとしてこれまで以上に自信を持っているよ」

GOJIRA の未来に目を向けるためには、過去の栄光を振り返るべきでしょう。2018年、Bloodstock Open Air のヘッドライン・ショーは、雨に打たれた2万人の観客がダービーシャーの泥の中に叩き込まれただけでなく、2006年の英国でのデビューからフェスティバルでの初のヘッドラインに至るまで長い道のりを歩んできたバンドにとっても画期的な出来事でした。
自分が聴いて育ったバンド CANNIBAL CORPSE がオープニングを務めるというスリル、経験は、これから起こるであろうもっと素晴らしい夜に向けての “食欲” を存分にそそるものでした。
“Fortitude” の完成から、その欲求は高まる一方です。しかし、今後の展望について、Joe は希望に満ちている一方で、大げさな表現には躊躇しています。
「ミュージシャンの人生は必ずしも楽ではない。僕たちは今、副業をしなくてもやっていける状況にある。これは素晴らしいことだけど、それでも金持ちには程遠い。大きな家や莫大な銀行口座を持つロックスターではないんだよ。今は家さえ持っていない」
大きな舞台や多額のギャラへの憧れが、芸術的な目的に影響を与えることはあるのでしょうか?
「答えは、イエスでもありノーでもある。人生では、自分がなぜそうするのか、100%はわからないものだよ。頭の中や心の中で起こっていることを、僕がとやかく言うことはできないんだ。曲を作るとき、もちろん売れることを願っているよ。だけど、それだけじゃなく、僕たちはアーティストであり、人間であり、哲学者であり、多くのことを考えている。僕は、自分が書いた言葉1つでも妥協する必要はないと思いたいし、すべての音楽的なアイデアは心の中からまっすぐに出てくるものだと信じている。それが僕たちのコンパスなんだ。音楽には生きている実感が必要だ。共鳴する必要があるんだよ。たとえ誰かが100万枚売れると言ったとしても、僕たちにとって魅力的な要素がなければ、それはゴミ同然のものなんだ」

サイクルとレガシーというテーマを掘り下げてみましょう。GOJIRA は24年後、そしてブレイクした3rdアルバム “From Mars To Sirius” から約16年後に、より広いメタル・ファミリーの一部として自分たちをどのように見ているのだろうか。新世代のバンドが彼らのアイデアを拾い上げて使用しています。
「人生は短いし、あっという間に過ぎてしまうから、今あるものに集中したほうがいい。僕は、自分たちより速いバンドやクールなバンドのことはあまり気にしない。流行に敏感でありたいと思っているけど、自分たちの芸術的センスは非の打ち所がないと自信を持っているからね。音楽的にもビジュアル的にも、僕たちは自分たちの世界を持っているんだ。長い間、この領域、つまり自分たちが開発しているこの芸術と実体の完全性に取り組んできたんだ。この作品には価値があると確信しているよ。まるで鉱山を見つけて、それをまだ掘り続けているようなものさ。あと数枚のレコードを作るための燃料は確実に残っている。僕たちのビジョンはまだ完全には達成されてはいないからね」
つまり今のところ、 Joe は未来に向かって努力することと、1つ1つの勝利を大切にすることだけを考えています。これまではバンドのために犠牲になっていた家族との “素晴らしい瞬間” を大切にしながら。このアルバムを、長い間待っていてくれた多くのファンに届けることは、重要なこと。そして、GOJIRA が再び脚光を浴びることで、Joe の中にある正義の焔が再び燃え始めるのは必然に違いありません。
「僕は自分を活動家だと思っている。文章やアイデアで誰かを感動させるたびに、誰かが同意するたびに、価値のあるプロジェクトが日の目を見るたびに、僕は活性化されるんだ。僕の中には、決してあきらめない、屈しない、絶望しないというセーフティネットがある。それは、音楽や思考、一体感やコミュニティを通して、人間性の美しさを感じているから。僕たちの中には、とてつもなく大きな力があるよ。僕はそれを信じているし、そのために戦うことを決してやめないんだ。歌を通して、会話を通して、インタビューを通して、芸術を通して」
GOJIRA は最後まで信じられるバンドです。興奮と皮肉を込めて自分たちの未来を見つめています。
「長く愛されるバンドでありたいと思っているけど、同時にそうは思っていない。人類は大きな問題を抱えている。解決しなければならない問題をね」

参考文献: KERRANG!: Inside Gojira’s new metal masterpiece… and their fight for our future 

THE GUARDIAN:‘Nature is hurting’: Gojira, the metal band confronting the climate crisis

SPIN:Gojira on New LP Fortitude, Escaping Our ‘Collective Coma’

OVERDRIVE:FEATURE INTERVIEW – GOJIRA “THE ULTIMATE GOAL WAS TO GET RID OF OUR DARKER SIDE!” MARIO DUPLANTIER

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE BEAST OF NOD : MULTIVERSAL】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH THE BEAST OF NOD !!

“Some Of Paul’s Favorites Are Yu Yu Hakusho, Hunter x Hunter, And One Piece. He Is Also a Very Big Fan Of Zelda, Final Fantasy, And Castlevania Games, Often Wearing a Zelda Shirt On Stage.”

DISC REVIEW “MULTIVERSAL”

「僕たちの音楽はすべて、同じ多元宇宙と、その中のキャラクターや出来事をテーマにしているんだ。宇宙の運命がかかった銀河間の紛争に備える必要から始まり、その紛争に参加し、悪の存在であるカオスが解き放たれて宇宙を終わらせる。その後、新しい多元宇宙の誕生に移り、多元宇宙の守護者が設立され、次の潜在的な脅威が紹介されていくよ」
ベイエリアの銀河系間デスメタル・バンド THE BEAST OF NOD は、その”多次元宇宙” という壮大なアルバム・タイトルからして無限の可能性を秘めています。戦争とサバイバルをテーマとした銀河系 SF の大作として、いくつもの宇宙にまたがる未曾有のドラマがメタルサウンドで描かれるカタルシス。間違いなく、このインターギャラクシーな獣の野心は、メタル世界を多次元の “目覚め” へと誘うはずです。
「幽遊白書、ハンター×ハンター、ワンピースなどは大のお気に入りだね。また、ゼルダ、ファイナルファンタジー、悪魔城ドラキュラといったゲームの大ファンでもあり、ライブ・ステージではよくゼルダのTシャツを着ているよ」
原子物理学者で MIT の博士号を持つギタリスト Dr. Gore と、バイオテック業界で働いていて、生物学と化学のバックグラウンドを持っている Paul Buckley を中心人物とする THE BEAST OF NOD は、その学問的知識の泉とゲームやアニメへの愛情を自らのメタル作品へと惜しみなく注ぎ込んでいます。
Land of Nod の伝承の敵ヴァンパイアに焦点を当てた、アクション満載の SFメタルデビュー作 “Vampira” には、悪魔城ドラキュラやロックマンに影響を受けたと思われるコミックブックが付属していました。そうしてリスナーは、宇宙の運命がかかった銀河間の紛争、悪の存在であるカオスと宇宙の終焉、新たな多元宇宙の誕生へより深く没頭して理解することが可能となったのです。ある意味、あの素晴らしき DETHKLOK は彼らの雛形でしょう。
「Joe Satriani は、Dr. Gore が本格的にギターを弾き始めた頃に最も影響を受けたミュージシャンの一人なんだ。サッチ以外で影響を受けたのは、Reb Beach、Tosin Abasi、そして Yngwie Malmsteen だろうね。また、バッハをはじめとするバロック音楽の作曲家にも大きな影響を受けているよ」
SFやコミックだけでなく、”Multiversal” はギタリストの天国としても充分に野心的です。Joe Satriani, Michael Angelo Batio, ABIOTIC の John Matos, WORMHOLE の Sanjay Kumar, EQUIPOISE の Nick Padovani, BLEAK FLESH の Matias Quiroz、さらに Michael Angelo Batio, Joe Satriani といった大御所までがゲストとしてシュレッドを繰り広げる作品には、さながらアステロイドベルトのように印象的なシュレッドが所狭しと敷きつめられています。まさにシュレッドの小宇宙。
「”Tech-death” の領域に入ることで、より速く、より複雑な音楽を演奏するというチャレンジを楽しむことができたし、プログの影響を受けることで、よりユニークなサウンドを開発することができたと思う」
何より、宇宙から降りそそぐ聴覚の電磁波は絶対的です。指さばきが音速を超える複雑怪奇なギターリフ、異次元で巨大なグルーヴのスペクトル、地球外のエイリアン・ボーカル、近未来的な空間を演出するシンセサイザー。BETWEEN THE BURIED AND ME のプログレッシブな審美眼、BORN OF OSIRIS のアトモスフェリックな美宇宙、THE HUMAN ABSTRACT のクラシカルな素粒子、ANIMALS AS LEADERS のユニークな星間風、そのすべてはダークマターのようにアグレッシブに結合して、THE BEAST OF NOD という巨大な宇宙船までリスナーをトラクター・ビームで誘導していくのです。
今回弊誌では、THE BEAST OF NOD にインタビューを行うことができました。「僕たちは自分たちをインターギャラクティック・デスメタル・バンドと呼んでいるんだけど、作家や映画だけでなく、アニメやコミックにも大きな影響を受けているんだ」どうぞ!!

THE BEAST OF NOD “MULTIVERSAL” : 9.9/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【THE ARMED : ULTRAPOP】


COVER STORY: THE ARMED “ULTRAPOP”

“I’d Rather Be The Band That Doesn’t Get All The Way There But Pushes The Next Person To Be Super Great With Something You Were Able To Put Forward. I Think That’s Missing a Lot From Heavy Music In General.”

WE’RE GOING TO SAVE ROCK MUSIC BY KILLING IT!

2015年にアルバム “Untitled” をリリースしたとき、THE ARMED は自らを “デトロイト発のパンクロック・バンド “と謙虚に表現していました。しかし、わずか数年でそんな単純な説明では、この匿名バンドを取り巻くシュールな演出やミスディレクションをとても十分に表現できないことが明らかとなります。
THE ARMED は、ハードコア、マスロック、パンク、さらにはポップの境界を絶妙に溶かし得る “武器” だと言えます。まばゆいばかりのショーマンシップ、興味をそそる不可解の嵐、洗練された作品への称賛を通して、私たちはかならず、”彼らは一体何者なのか?” という、その絶対的な武器の素材に対する疑問を抱くことになるのです。
THE ARMED の真の姿を解明せよ。すぐに、インターネットのコメントスレッドでの議論がはじまり、特捜班が編成されます。
そうして2018年のアルバム “Only Love” のリリースまでには、彼らに関する奇抜な “陰謀論” が出回り始めたのです。プレス写真に写っている人たちは実際にはバンドのメンバーではないとか、CONVERGE のギタリストで、凄腕プロデューサーでもある Kurt Ballou がこのプロジェクトの首謀者であるとか、もっと言えば、すべてが手の込んだデマやパフォーマンスのアート・プロジェクトであるといった考察が飛び交います。
事実、彼らのライナーノーツにはメンバーが記載されていませんでした。アーティスト写真に、メンバーではないかもしれない、楽器を演奏したことがないかもしれない別人が写っているなど前代未聞の由々しき事態です。
当時まだ、インスタグラムのフォロワー数3000足らずのバンドが、The Atlantic、NPRといったメインストリームの雑誌や、Vice の一面を飾ったのも振り返れば不思議な話です。
さらに、ヨーロッパの巨大なフェスティバルで注目を集め、フォードのテレビコマーシャルに本格的に登場し、昨年には、高い評価を得ている “サイバーパンク2077” のサウンドトラックにバンドの曲が収録までされました。

Kurt Ballou が2018年に語った言葉は、それらの謎を紐解く一つの鍵でしょう。
「ソーシャルメディアの時代になって、バンドとそのオーディエンスの間の区分けがどのように変化したかについてよく考えていた。直接アクセスすれば、コミュニティの中で親密な関係を築くことができるけど、一方で不均衡な権利意識を生み出すこともあるだろう。
だから俺は、このプロジェクトを立ち上げることで人々にクリエイターではなくコンテンツだけに注目してもらい、そうした文化を破壊したかったんだ。それによって、製作者よりも作品が重要な、クリエイティブな文化の時代が到来することを願っているんだよ」
実際 Kurt は、THE ARMED アルバムのエンジニアリングを担当し、小規模バンドにとっては夢の高品質なレコーディングと音響のオペレーションを行い、メディアやマスコミにもツテがあります。同時に曲を書く才能があり、パフォーマンスを補う友人のパンクやハードコアミュージシャンの巨大な名簿も所持しているのですから。
噂によると、THE ARMED は CONVERGE の型にはまらない素材のための、奇妙な実験として始まったと言われています。とはいえ、最新のインタビューではその件について全否定しているのですが。
「元の記事を調べてみたんだけど、翻訳ミスだよ。ジャーナリストは常にコンテンツを編集する必要があるからね。 実際に俺が言いたかったのは、THE ARMED を作った時ではなく、プロデュースを始めた時、だったんだからね。とにかく、彼らは素晴らしいと思うよ。一緒に仕事をしていると、困難なこと、混乱すること、そして本当にフラストレーションがたまることもたくさんあるけどね。
まず、彼らは俺が彼らにドラマーを提供しないと予約を取り消すと脅してきた。だから俺のドラマー仲間の多くが彼らのレコードに参加することになったんだよな。最新作では、さらに事態が悪化したよ。 俺がドラムのエンジニアリングをして、彼らがオーバーダブをして、ミックスの時には俺に隠れて God City で働いているエンジニアのザックを雇ったんだ。 彼は、俺が他のレコードの作業を終えた後、夜にスタジオに入り、俺の機材と設定をすべて使ったんだから。 欺瞞と破壊が THE ARMED の活動の核心だから、驚くべきことではないけどね」

事実、初期の EP には元 THE DILLINGER ESCAPE PLAN の Chris Pennie が、”Untitled” には SUMAC などで鳴らす Nick Yacyshyn が、”Only Love” には CONVERGE の Ben Koller がドラマーとしてフィーチャーされています。まさに凄腕が揃うドラム・パラダイスの様相ですが、Ben などは METALLICA の Robert Trujillo がプレイすると騙されて連れてこられた上、楽曲は CONVERGE のデモだと告げられていたのですから、酷い話ではあります。
陰謀論といえば、あのパーティーメタル・ゴッド Andrew WK の関与も長く囁かれています。Adult Swim への参加は無名のハードコア・バンドとしては異例のことのように思えましたが、ASコラボレーションの歴史が長い Andrew WK と結びつくことで、その意味はより明確になります。さらに、THE ARMED が CM に起用される前に Andrew がフォード・フィエスタをレビューしていたことや、フォードの製品発表会で THE ARMED のコントリビューターとして知られる人物と会っていた事実は、この説に一定の重みを与えているのです。

34歳の Cara Drolshagen は THE ARMED のメンバーの中で唯一、何年も前から写真やビデオ、インタビューではっきりと身元が確認されている人物で、彼女の凶暴な叫び声は “ULTRAPOP” の至る所で聞くことができます。彼女は、2012年からバンドに貢献していると言いますが、一方で彼女の個人的な経歴についての発言は、熟練したハードコア・ミュージシャンとしての彼女の地位と矛盾しているようにも思えます。
「不思議なことに、誰がバンドに所属しているかをはっきり言えば言うほど、嘘をついていると思われてしまうのよ。私がこのバンドに参加したとき、みんな冗談だと思って笑っていたのを覚えているけど、私は実際に自分が “主張 “している通りの人間なのよね。私は、自分が音楽シーンにいるとも、ハードコア・ミュージックに夢中になっているとも思っていないわ。写真を撮るのがすきなのよ。無生物の写真を撮って、そこに顔や何かが写っていないか試してみるの。いろんなことに手を出しているよ」
“ULTRAPOP” は、多くのリスナーに驚きと喜び、そして混乱を等しく与えるレコードです。ポップ・ミュージックとエクストリーム・ミュージックの融合により、太陽とノイズの突然変異を生み出すことに成功しました。常識をいくつも破りながら。しかし、それが重要なのです。
「アグレッシブでハードコアでエクストリームな音楽という、破壊的なジャンルであるべきはずのものが、完全に戯画化されてしまっている。私たちはそれに立ち向かいたかったのよ。異なるパターンを探求し、壊したいの。期待されているものを排除しようとしているのよ。アートフォームで考えれば、特に音楽は予測可能性に満ちているわ。従うべき基準にね。私たちは、人々を立ち止まらせ、再考させたいの。パターンに気づけば、それを壊すことができるわ。それが私たちの目標よ」
そのために、本作では著名なプロデューサー Ben Chisholm(Chelsea Wolfe)を起用しました。これまでの作品では、Kurt Ballou がメインプロデューサーを務めていましたが、今回は少し趣向を変えて、Kurt はアルバム制作自体に関わっていると言います。
「Kurt は今でもこのアルバムのエグゼクティブ・プロデューサーよ。その点は変わっていないわ。Ben については、音楽の背後にある数学を理解し、その数字を新しい方法で再構成し、異なる解決策を見出すことができる天才だと言えるわね」
Cara はさまざまな形で新作に貢献しています。実際、ほとんどの曲に彼女の指紋、あるいは声がプリントされていると言ってもいいでしょう。
「すべての曲で歌詞を書き、何らかの形で歌っているわ」
またこのアルバムには、元 SCREAMING TREES の Mark Lanegan, QUEENS OF THE STONE AGE のギタリストでマルチ・インストゥルメンタリスト Troy Van Leeuwen, ROLO TOMASSI の Eva Spence, など、さまざまなゲストが参加しています。しかし、バンドのメンバーは流動的であるため、Cara はそういったプレイヤーを必ずしも “ゲスト” とは見なしていません。今や彼らもこの集団の一員なのです。
「私たちは皆、The Armed ⋈⋈」

Adam Vallelyの経歴はさらに意味をなしません。このギタリスト兼ボーカリストは、赤いノースリーブのシャツとヘッドバンドを身につけていて、腕の筋肉は猛烈に膨らんでいます。Cara と同時期に THE ARMED に加入したと言ってはいますが、そのような名前の人がバンドに登場した記録はありません。”Adam Vallely” をグーグルで検索すると、最初に出てくるのは小柄なイギリス人男性で、彼のSNSにはULTRAPOP のプロモーションが流れています。
一方で、実際に目撃した人物は、Adam Vallely が現在はエクスペリメンタル・メタルバンド、GENGHIS TRON に参加している Tony Wolski によく似ていると証言しています。
「もちろん、誰が何をしているのか、時には意図的に不明瞭にしている。それは秘密でもなんでもない。皮肉なことに、俺たちが真実を語れば語るほど、人々は俺たちが嘘をついていると思うようになるんだから」
謎に包まれ THE ARMED の中心には常に真の意欲があり、それが “ULTRAPOP” ではかつてないほどよく実現されていると、Adam は情熱的に語ります。このレコードは、ハードコア・ミュージックを、これまでシーンが踏み込めなかった領域に引きずり込もうと、全身全霊で取り組んだ結果だと。全く新しいジャンルとして構想され、実験的なポップやヒップホップの最も大胆で生き生きとした側面を自分たちのサウンドに取り入れることで、全く新しい強度を実現したと。レコードには数十人のメンバーが参加していますが、ライブではその人数が実用性を考慮して8人ほどに絞られています。彼らは、個人のアイデンティティを隠すことで、バンドのより広大な目的についてのメッセージを維持したいと考えているのです。
「次に挑戦する人たちを後押しするバンドでありたいと思っている。一般的なヘヴィー・ミュージックにはそれが欠けていると思うんだ。構造や特定の方法に従わなければならないからね。ニッチなサブジャンルへのこだわりや、プロセスへのフェティシズムは、芸術を完全に停滞させてしまう。だから音楽界の片隅では、誰かが針を動かすことが必要とされているわけさ。だから、俺らは一線を越えようとしている人よりも、そうしようとして失敗したバンドになりたいと思っているんだよ」

実際、エクストリーム・ミュージックは停滞しているのでしょうか?
「そう思う。Soundcloud のラッパー全員が美しいビジョンを持ったアーティストだとは言わないけどね、そこそこ面白くてリスクのあることをやっている人はいるよ。目新しさは、質の高いアートの重要な要素だと思う。何らかの新しい思想を打ち出す必要があり、俺たちはそこに焦点を当てているんだ。ギターを使った音楽は、特にヘヴィーになればなるほど、サブジャンルやサブカルチャーへのフェティシズムを感じさせる。グラインドコアは80年代後半に始まったが、なぜ30年経った今でも50万のバンドが同じことを繰り返しているんだい?」
音と美の概念を覆すことは、結成当初から THE ARMED の計画に組み込まれていました。”ULTRAPOP” は、この反乱的な姿勢をさらに一歩進めました。音楽的に破壊的であろうとするだけでなく、テーマ的にも、現代における破壊の無力さを批判したいと願います。彼らの創造的な世界観においては、純粋な好奇心の欠如こそが、音楽的に破壊的であることを不可能にするのです。
「ハードコア・ショーに行くと、最前列でマイクを握ったり、観客をぶっ殺したり、モッシュをするのは誰でも知っている。俺たちがやろうとしたのは、その儀式を壊すことだよ。なぜなら、誰もが何かの初心者になれば、そこに魔法のような体験が生まれるから。あらゆるものがポップなんだ。Cara が一緒に仕事をしていたクリエイティブ・ディレクターで6桁の給料をもらっている人たちは、首にタトゥーを入れていた。ターゲット社のTシャツにはドクロが描かれている。”ULTRAPOP” のアイデアは、”すべてがすべてである” という意味て、これがアルバムであり、これがジャンルなんだ。俺たちのジャンルは今やウルトラポップなんだよ」
それでもハードコアを捨てないのは、ジャンルへの愛情なのでしょうか?
「首謀者の Dan Greene はみんなと “ロックを殺すことで、ロックを救う” という言葉を共有している。激しさを捨てたいわけではないんだよ。常に存在するものだから。目標は常に、信じられないほど強烈な、最大級の体験を生み出すこと。それが、俺たちがこの世界に入った理由のすべてだから。俺らがやっているのは、ビールを飲みながら革ジャンを着て、TERRORIZER のどのアルバムが一番いいかを語るようなタフガイの集まりじゃないんだ。ウルトラポップという新しいジャンルを作り、最終的にはハードコアよりもハードコアらしいものを作るという、笑えないほど大げさな目標を自分たちに課しているだけさ。カニエ・ウエストレベルの妄想に聞こえるだろうが、壮大なことをやろうとするときに必要な妄想だと思うよ。俺たちは、必ずしもそのようなコミュニティの人々に対して言っているのではなく、これらのジャンルやアートフォームが自分自身の風刺画になってしまうような、停滞した状況に対して言っているんだ」

あなたの筋肉もそうですが、キーボードのメンバーはまるでシュワルツェネッガーです。
「あれは Clark だよ。彼は本物のボディビルダーなんだよ。それってウルトラポップの美学の一部で、ツアーのために全員が信じられないほど良い状態になること。そのために Dan が4ヶ月間ほど栄養士をつけてくれたんだ。今では12ヶ月、16ヶ月の計画になっている。俺たちは、可能な限り超人的な状態でツアーに臨みたいと考えているから、文字通り絶え間なくダイエットとワークアウトを続けているのさ。個人的には、大人になってからずっと大腸炎に悩まされてきたんだが、ボディビルの食事プランのおかげでもうその悩みは消えたんだよ」
“インターネット・バンド” という揶揄にはどう対処しますか?
「”インターネット・バンド” という言葉を軽蔑的な意味で使う人がいるけど、俺たちはその意味を受け入れている。フリークが少ないなら、それを効果的にするために世界中のフリークをキュレーションする必要があるんだ。今の社会では、カルトは必ずしもインチキ薬のセールスマンを中心に形成される必要はなく、Apple や Crossfit のような製品に夢中になっている人たちであってもいいんだからね。俺たちは時に美学と向き合うことで努力してきたし、これからもそうしていきたいと思っている。でも、自分が企画したわけでもないのに、タイムズスクエアのビルボードを誰かが買ってくれたりするのは驚きだよね。嘘ではなく、人々が PayPal でお金を集めてビルボードを買ったんだから」
匿名性にこだわるのはなぜでしょう?
「大げさで妄想的に聞こえるかもしれないが、やはり大きな目標を達成しようとするならば、時にはそのようにならざるを得ないんだ。このバンドが最初から目指していたのは、ある種のムーブメントというか、個々の人間よりも自然の力を感じさせるような強烈なもの。問題は、SLIPKNOT のような “仮面とナンバー” 制度をやりたくないということ。GORILLAZ のように “人間ではない” とか “俺たちはアニメだ ” といった、馬鹿げたものにもしたくなかった。女性ボーカルで、ベースやシンセサイザーも担当している Cara は、写真に登場すると、みんなに冗談だと思われていた。Dan は物語の流れを整えることに長けていすぎて、人々がそのことをもっと気にしていて、ミステリーになっていくんだよ。それはそれでいいんだけど、ムーブメントについての重要性が薄れてしまうのはちょっとね。まあとにかく、何か大きなことをしたいと信じてやっていくよ。お金を稼がなければならないからアルバムを作る、なんてことは誰も望んでいないから。今まで誰も見たことがないような、最高で、強烈で、おそらく文字通り目を見張るようなショーを作るために、一生懸命努力するだけさ」

不可解なマーケティングや、独特のマキシマムパンクサウンドなど、混乱はバンドの美学の主な要素です。”ULTRAPOP” では、ハードコアの激しさと目まぐるしいポップの即興性が同居した、ジェットエンジンで動くニューウェーブのようなサウンドで五感を揺さぶります。核は、ストロボのようなシンセ、歪んだエフェクト、狂気のリズムの上に構築され、同時にヘヴィーミュージックの中でも最も勇敢なフックを備えています。
このタイトルも決して皮肉ではありません。”ULTRAPOP” は、ハードコアの強度とフィジカルを全面的に採用している一方で、最終的にはポップソングのコレクションなのですから。アルバムは、”All Futures” の Yeah, yeah, yeah, yeah!というコーラス、”Masunaga Vapors” の勝利のリフ、”Where Man Knows Want” のインダストリアル・ディスコなど、隅々までドーパミン反応が最大になるように設計されています。これは、期待を裏切り、最終的にはヘヴィー・ミュージックの現状を打破するという、バンドの使命の一部なのでしょう。
謎に包まれた首謀者 Dan Greene が残した最も深いコメントは、”ULTRAPOP” 最後の曲、”THE MUSIC BECOMES A SKULL “についてでした。
グランジ・アイコンである Mark Lanegan が歌っていると言われている重苦しいインダストリアル・トラック。その歌詞には、拍手喝采を浴びてステージを降りた愛すべきパフォーマーが、突然捨てられる様子が描かれています。”What a brilliant show/Now get off/You have been dethroned ” と悲劇的なクライマックスを迎えるのです。それは、ポップがすべてである世界では誰にでもあり得ること。
「この曲がポップスターの死について歌っているとはいわないけど、そうかもしれないね。名声やパフォーマンス、成功のはかなさ、そしてあらゆる可能な結果において避けられない破滅について歌っているんだ。ポジティブさを表現しているアルバムの冒頭部分を反映しているんだ。よりシニカルに見えるかもしれないけど、実際にはそうじゃない。アルバムの最後にある付箋のようなものだと思って欲しいね。まあどうでもいいことにはあまりこだわらないでくれよ」
どうでもいいことにこだわるな。それは、このバンドの正体や Dan Greene の正体を暴こうとした人たちへのメッセージかもしれません。結局、無数のロシア製マトリョーシカをすべて取り外してみても、中身は空っぽなのかもしれないのですから。日本盤は DAYMARE RECORDINGS から発売されています。

参考文献:REVOLVER:SEARCHING FOR THE ARMED: HARDCORE PRANKSTERS FLIPPING HEAVY MUSIC ON ITS HEAD

THE QUIETUS:Maximum Intensity: An Interview With The Armed

NEW NOISE MAG:Interview: The Armed’s Cara Drolshagen Talks New Album ‘ULTRAPOP’

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【KIBERSPASSK : SEE BEAR】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH KIBERSPASSK OF BABA YAGA !!

“See Bear” Is a Song About My Homeland, My Native Land. A Song About The Pristine Beauty And Greatness Of Siberia. I Am Very Inspired By The Pure Siberian Nature, Endless Expanses And a Huge Blue Sky.”

DISC REVIEW “SEE BEAR”

「”See Bear” (シベリアとかけている) は、私の祖国、生まれ育った土地についての歌よ。シベリアの原始的な美しさと偉大さを歌った曲。私は、純粋なシベリアの自然、果てしなく広がる大地、大きな青い空にとても刺激を受けているの。愛するシベリアをありのまま見せたかったの」
生い茂る針葉樹林、見渡す限りの永久凍土、そして果てのない空。シベリアのタイガに訪れる長い夜を、KIBERSPASSK はハードなダーク・エレクトロで語り、音とし、世界へと発信します。凍てつく寒さと闇の帳には、ひりつくようなインダストリアルとロシアの厳粛なフォークロアを組み合わせたユニークな音化粧がよく似合います。
「私は NYTT LAND という、世界的にもかなり有名なバンドをもう一つやっていて、そこではシャーマニックなダークフォークを作り、古代楽器を演奏し、シベリアのタイガにおけるシャーマンの歌を歌っているのよ。だから、KIBERSPASSK は、私の別人格なの」
冬にはマイナス30℃を超える極寒の地。カザフスタンから100キロ、アルタイ山脈の麓にひろがる西シベリアの草原がバンドの故郷です。そんな場所で Baba Yaga こと Natalya Pahalenko と夫の Anthony はカンテレやタルハルパという古の楽器を操り、北欧神話やシベリア先住民のシャーマンから薫陶を受けた “シャーマニック・ダークフォーク” を奏で世界的な成功を納めます。KIBERSPASSK とはそんな彼らのシベリアという厳しくも美しい環境に特化した別人格。今にも “死にかけた” 村の名前を抱きながら。
「私はずっと自分のやり方でボーカル・テクニックに取り組んできたわ。主な方向性は、伝統的なロシアのフォーク・ボーカル、北欧のヨイク (サーミ人の伝統歌唱) 、トゥバ共和国の喉歌よ」
KIBERSPASSK の特別な音楽の核となるのは、間違いなく Baba Yaga の歌唱です。Baba Yagaはその名の通り異能の力を持つ魔女でシャーマンかもしれません。ヨイクで天使のメロディーに荒々しい異教の呪いの声をかけたり、ホーミーで草原や森林に邪教の声を響き渡らせるのですから。そしてその歌声は、MINISTRY を想起させる攻撃的で無機質なインダストリアルの背景に独特の夜と自然、呪術的アトモスフィアをもたらすのです。
「シベリアの先住民族のフォークロアも同様だけど、ロシアの伝統音楽は私たちの祖先の精神的・文化的遺産のルーツを保存する非常に深い階層なの。本物の感情と個性を持った、とても美しく壮大な音楽よ。とてもインスパイアされるわ。私はもともと歴史家で、自分の土地の歴史や神話を研究し、古代の人物を自分の歌の中で蘇らせることが好きなのだから」
インスピレーションの源は、シベリアの環境や景色はもちろん、スラブ神話の暗黒面にまで及びます。キキーモラ (働き者の願いを叶え怠け者を喰らう幻獣)、ドモヴォーイ (家族を守るため悪い精霊や侵入者の殺害も厭わない家の妖精)、バーバ・ヤーガ (森に住む妖婆。骨と皮だけにまで痩せこけて、脚に至ってはむき出しの骨だけの老婆の姿をしている。人間を襲う魔女のごとき存在)、リホ (小さくて毛深い生き物) など、ロシアの子供たちが生まれたときから知っているキャラクターたち。
古い集落が消えつつあるこの土地では、シベリアの精神と真の神秘性が保たれていて、今でも神話と現実の境が曖昧です。この地で生まれ、生活し、音楽を創造する KIBERSPASSK。だからこそ、その音楽に太古の息吹と孤高、霊妙、荘厳、超自然、そして奇々怪界を持ち込むことが可能だったのでしょう。革新がもはや珍しくなってしまったジャンルに、新鮮で厳しい寒風を吹き込みながら。
今回弊誌では、Baba Yaga にインタビューを行うことができました。MV に登場する印象的なダンサーは Pahalenko 夫妻のの娘さんとの情報も。謎が深まりますね。「Babymetal は実に興味深いバンドよ!彼女たちのショーとエナジーが大好きなの。そういった要素のいくつかは、おそらく KIBERSPASSK に影響を与えているわ」 どうぞ!!

KIBERSPASSK “SEE BEAR” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【WHEEL : RESIDENT HUMAN】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SANTEI SAKSALA OF WHEEL !!

“Tool Is One Of The Greatest Bands Of All Times And Being Compared To Them Doesn’t Feel Bad At All. Being Their Successor Or Not, That Is For The People To Decide, We Will Just Keep Making Music!”

DISC REVIEW “RESIDENT HUMAN”

「WHEEL (車輪) という言葉が僕たちのアート制作のイデオロギー全体を表しているように感じたんだよね。それは、継続的でありながら、常に過去だけでなく未来にも目を向けているという意味でね。音楽においても、人生全般においても、新しい領域やアイデアを探求するムーブメントの象徴だからね。頻繁に出発点に戻ってくるけど、それでも僕たちは常に前に進んでいる」
技術の進歩により、音楽はお手軽に作られ、お手軽に聴かれる時代になりました。制作にもリスニングにも異様な労力を消費するプログレッシブ・ミュージックは、いまや風前の灯火です。
かつて世界を作ったプログ・ロックの巨人たちは次々に鬼籍へと入り、労力以上の見返りなど得られるはずもない現状に新規参入者、新たなリリースは目に見えて減っています。そんな中、フィンランドの4人組 WHEEL には、”車輪の再発明” を通してエンジンを生み出すほどに前向きなエナジーと才能が備わっているようです。
「北欧のプログ・メタルと僕たちに共通しているのは、新しい領域を開拓し、自らの道を見つけようとする意欲があるところだと思う。だから当然だけど、WHEEL にとってインスピレーションの源となっているよ。例え、直接的な影響を受けたわけではないとしてもね。OPETH は独自の道を歩み、期待に屈しないことで音楽的な強さを見出した素晴らしいお手本だよ」
メロデスやヴァイキング・メタルが深く根差した北欧にも、OPETH, PAIN OF SALVATION, SOEN といったプログメタルの孤高は存在します。他とは違う道を歩む確固たる意志を胸に秘めつつ、やはりその背後には北欧の暗く美麗な空気を纏いながら。
TOOL の正当後継者と謳われる WHEEL にも、当然その血脈は受け継がれています。そうして彼らは、自らの “カレリアン・シチュー” に KARNIVOOL の知的なアトモスフィア、さらに青年期に影響を受けた SOUNDGARDEN や ALICE IN CHAINS の闇をふりかけ、コトコトと煮込んで熟成させたのです。
「僕たちは、作曲家として、ミュージシャンとして、そしてバンドとして、自分たちを成長させ続けたいと思っていたし、これまでにやったことのないことを今回もやりたかったんだ。”Moving Backwards” には満足しているけど、同じアルバムを繰り返し作ることはしたくなかったんだよ」
ただし、彼らは成功を収めたデビュー作 “Moving Backwards” の場所に留まり続けてはいません。WHEEL 2度目の旅路 “Resident Human” を聴けば、そのオーガニックで生々しいプロダクションに驚くはずです。そしてその変化は、そのまま Aki & Santeri が構築するリズムのパーカッシブな飛躍へと繋がりました。もちろん、その手法を取ることで彼らは、TOOL, RIVERSIDE, KATATONIA, DEAD SOUL TRIBE といった現代プログ変異種の影響を、より存分に咀嚼し、養分とすることが可能だったはずです。
さらに紐解けば、骨太でダイナミズムを重視したその音像は、RUSSIAN CIRCLES のようなポスト・メタルの鼓動ともシンクロし、奇しくも “プログ” “オルタナ” という同じ根を持つ DIZZY MIZZ LIZZY の最新作 “Alter Echo” の目指す先へと歩みを進めていきます。
「基本的には、何も声を上げないないのが最悪だと思っている。1枚のアルバムや1人のアーティストが、今の世界の仕組みを変えることはできないと思うけど、意見を発信するたびに少しは変化が生まれ、物事を良い方向に変えることができるはずだよ」
陰鬱な雰囲気が漂い、パーカッシブなエッジが際立ち、非常にシリアスなアルバムは、過去12カ月間に起こった出来事に大きな影響を受けています。パンデミック、BLM、気候変動。もう私たちは無関心な幸せのままではいられません。
“Resident Human” に収録されている7曲は、現代社会とそこに巣食う闇、分断に纏わる人の感情を的確に表現しています。”Dissipating” の怒りやフラストレーションも、”Hyperion” の親しみやすさも、”Old Earth” のメランコリーと後悔も。
今回弊誌では、ドラマーで中心人物 Santei Saksala にインタビューを行うことができました。「TOOL の後継者であるかどうか、それは人々が決めることで、僕たちはただ音楽を作り続けるだけだよ」 どうぞ!!

WHEEL “RESIDENT HUMAN” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PUPIL SLICER : MIRRORS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH KATIE DAVIES OF PUPIL SLICER !!

“I Don’t Think Anyone Should Be Discriminated Against For How They Were Born, Who They Love And How They Look. Hopefully One Day The World Will Be a Better Place Where Things Aren’t As Bad As They Are Today.”

DISC REVIEW “MIRRORS”

「今は24歳なんだけど、18歳くらいまでヘヴィーな音楽にのめり込んだことはなかったのよ。だけどハマってからはすぐにギターをはじめたわ。まあだから、聴いて育ったのはゲームの音楽とか映画の音楽の枠を出たものじゃなかったわね」
PUPIL SLICER の Katie Davies は、18歳で初めてヘヴィーな音楽を耳にします。決して早くはない邂逅。
しかし、一度エクストリーム・ミュージックの世界に足を踏み入れると、その深化速度は異次元でした。現在24歳のヴォーカル・ギタリスト Katie は、時間軸を狂わせるようなマスメタルとグラインドコア、それに様々なメタルの異分子が融合した楽曲を、むしろコーラスとヴァースで成り立つポップ・ソングやパンク・ロックと同じくらい自然で親しみやすいものだと感じています。
「わたしたちの音楽の核となるのは感情の強さ、インテンシティーで、それは性別によって制限されるものではないと思うわ。あと、わたしたちはメタル・バンドというよりも、パンク・バンドだと思っているのよね」
デビューアルバム “Mirrors” は、不協和な音の超暴力と幻惑への傾倒が、THE DILLINGER ESCAPE PLAN の “Ire Works” や CONVERGE の “Jane Doe” といった名作を想起させます。混乱させ、時間をかき乱し、「何を聴いたんだろう?どうやって作ったんだろう?」と思わせる、人の心や痛みと同様に不可解な音楽です。
「わたしは自分の経験をたくさん書いているけど、より多くの人が音楽に共感できるようストーリー性を持たせるようにしているのよ。わたしが好きなのは、抽象的な歌詞の曲で、その内容についてリスナーそれぞれが自分なりの考えを持つことができ、本当の意味でのつながりを感じることができる曲だと思っているわ」
その名の通り、”Mirrors” は Katie 自身を映し出すレコードで、彼女の核となる考えや痛み、内面的な物語を映し出す鏡であると同時に、不平等や差別が法律や習慣、経済に組み込まれている、システム的にファシストな社会をそのまま映し出す作品でもあります。Katie が経験した個人的、政治的な痛みは、”Mirrors” の暴力によってのみ表現され、追放することが可能なのでしょう。
「わたしは、誰もがその出自、愛する人、外見などで差別されるべきではないと思っているの。いつの日か、今のような悪い状況ではない、より良い世界になることを願っているわ」
イギリス南部の海辺の町ボーンマスで育った Katie は、幼い頃から残酷な目に遭ってきました。4年間過ごした学校では、生徒からも教師からも容赦ないいじめを受け、中退してホームスクールに入学。彼女の耳を満たす音楽は、テレビゲームや映画のサウンドトラック、そして7歳の頃から練習していたバイオリンだけでした。
友人は、地元のユースオーケストラの指揮者を除いて存在せず、最終的に彼女は14歳で第一ヴァイオリンのリーダーとなりますが、3年後、彼女は公立学校に戻ることを余儀なくされました。そこで同級生や教師からさらに冷酷な扱いを受けることになります。
執拗ないじめを受けても、なぜいじめられるのか理解できない。自閉症を患いながら大学を卒業するころには、完全な引きこもり状態となっていました。人は残酷。その思いが世界とのつながりを完全に断たせてしまったのです。
救いの光はロックやメタルでした。ボーンマスからロンドンに移り数学の学位を取得した直後から、Katie は DEAFHEAVEN を聴きながら街を歩くようになります。そこから、RADIOHEAD や GODSPEED YOU! BLACK EMPEROR を経て、ブラックメタルの世界に足を踏み入れます。ポストロックやシューゲイザーは、彼女の魂の音に最も近い音楽への入り口となりました。
やがて、彼女はギターを手に取り、DEAFHEAVEN の曲をかき鳴らし始めます。
ギターを弾けるようになった後、Katie はミュージシャン向けのオンラインフォーラムに投稿しました。”DEAFHEAVEN のようなブラックメタル・バンドに参加したい」と。投稿後すぐに、地下鉄で数駅のカムデンで練習中のバンドからメッセージが届きます。そこで、ドラマーJosh Andrews と出会ったのです。やがてベースの Luke Fabian が仲間に加わり、TDEP, CODE ORANGE, BOTCH といったバンドを通してマスコアやパワーバイオレンスの傾向を高めていきました。
“Mirrors” の楽曲は、そのどれもが異なるアプローチの産物です。例えば、タイトルトラック “Mirrors” のメインリフでは、彼女はオンラインのジェネレーターにランダムな数字の羅列を入力し、バンドの他のメンバーにソフトウェアの出力に合わせての演奏を依頼します。リズム理論に精通している Katie は、信じがたいことに考えていたメロディーを鼻歌で歌い、目の前のスクリーンに表示されるリズムの波形を把握しながら、頭の中で音を整理していきます。メンバーもリスナーも混乱させた Katie にとって、次の目標は自分自身を混乱させること。
曲作りという最も楽しい時間を終えれば、その後、人に聴かせるという彼女にとって気が遠くなるような現実がやってきます。歌詞を読まれるのが嫌でお蔵入りも考えたという “Mirrors” には、同性愛者やトランスジェンダーに対する米国の法制度を批判する “Panic Defence” のような直接的な曲もある一方で、Katie の内面的な苦しみに焦点を当てた曲には、比喩的なガーゼで保護膜を張っています。例えば “Stabbing Spiders” は、もちろんクモのことを歌っているわけではなく、自傷行為についての楽曲。
「あなたが挙げたバンドは皆、様々なタイプの音楽で非常に広い視野を持っているわよね。わたしたちも同じように、自分たちが好きな音楽すべての部品を組み合わせたいと思ってやっているの」
PUPIL SLICER の目まぐるしい音楽はすでにマスコアを超越しています。 “Mirrors” がこれほど魅力的なのは、バンドがその混沌の中でリスナーに “数学” 以上の多くのなにかを与えているからでしょう。ダイナミクスの恩恵を受けた3人の挑戦者は、研ぎ澄まされたエッジを失うことなく、電子なサウンドスケープの静かな海へと潜り込みアルバムの流れを的確に支配します。
例えば、7分の “Mirrors Are More Fun Than Television” は存分なグルーヴ、存分な混沌、そして DEAFHEAVEN や ALCEST をも連想させる壮大なアトモスフィアのアウトロを備えます。
クローサー “Collective Unconscious” ではさらに顕著。TDEP のような残虐性はポストブラックのブラストとトレモロを誘い、感情を揺さぶるクレッシェンドを導きます。静かの海で Katie は独り絶望を叫びすべてを締めくくるのです。紆余曲折のレコードに咲く深く心に残るフィナーレの華。そうして Katie は痛みを映し、浄化し、超越してみせたのです。
今回弊誌では、Katie Davies にインタビューを行うことができました。「わたしたちのやり方は、自分たちが演奏したい音楽、自分たちが聴きたい音楽を作ることだと思っているの。つまり、自分たちのサウンドに境界線を設けないようにしているのよ」 どうぞ!!

PUPIL SLICER “MIRRORS” : 10/10

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