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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【NOSPUN : OPUS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH NOSPUN !!

“The Truth Is That We Write Prog Music Because It’s What We Love. Basically We Are Writing Songs That We Want To Hear.”

DISC REVIEW “OPUS”

「10代の頃に DREAM THEATER を聴きはじめたんだけど、彼らの音楽はプログレッシブ・ミュージックを作り始めるという僕たちの決断に間違いなく影響を与えたんだ。だからこそ、自分たちの楽器を使いこなすために本当に時間をかけなければ、彼らのような音楽は作れないと思っていた。何時間も、何時間も練習して、今に至るんだよ!」
SNSやストリーミングの伸長でインスタントになった音楽世界。さらにAIまでもが音楽を生み出し始め、すべてが “ワン・クリック、ワン・セカンド” を要求される現代の音楽世界において、プログレッシブ・ミュージックは、主流とは真逆の異端です。長時間の練習、長い産みの苦しみを経ることでしか誕生し得ない、複雑で知的な音楽は今や風前の灯なのかもしれません。
「僕たちがプログを書くのは、自分たちが好きだからという部分が大きいね。だから基本的には、自分たちが聴きたい音楽を書いているんだ。そして、このスタイルが好きな人が他にもいることを期待して、想定して、その曲を世に送り出す。例え誰にも聴いてもらえなくても、僕たちはプログをやるだろう。だからこそ、それを楽しんでくれる人がいるというのは、本当にうれしいことなんだ!」
しかし、だからこそ、現代でプログレッシブ・ミュージックを綴る音楽家には本物の情熱、本物の才能が存在します。苦労のわりにまったくあわない報酬や名声。その差額を埋めるのは “好き” という気持ちしかありません。アメリカに登場した NOSPUN は、自分の愛する音楽を徹底的に突き詰めながら、プログの延命措置に十分すぎる電気ショックをお見舞いしました。
「予想外のことをやってみようというバンドとしての意欲。メタル・バンドが曲の途中にポルカ・セクションを入れるのは普通じゃないけど、僕らにとってしっくりくるなら、やってみたいんだよね。”Earwyrm” のスキャット・セクションは、実はスタジオでふざけていて、そのまま使おうと決めただけなんだ」
明らかに、NOSPUN の音楽は DREAM THEATER と SYMPHONY X、つまりプログ・メタル二大巨頭の遺伝子を平等に受け継いでいます。例えば、”Change of Seasons” で唸りを上げる Russell Allen のような “夢の共闘”。それを体験できる機会は、実はこれまでほとんどなかったと言えます。なぜなら、多くの後続たちは巨頭のどちらかに寄っていたから。その点、NOSPUN の旋律と重さ、テクニックとカタルシス、伝統とモダンのバランスは実に優れていて、HAKEN のやり方とつながる部分も見え隠れします。
一方で、NOSPUN はシリアスなムードが支配するプログ世界に笑顔をもたらし、その意外性をトレードマークとしていきます。突然のポルカ、突然のディスコ、突然のスキャット。彼らの目指す “予想外” は、クリシェと化したプログ・メタルの定型に風穴を開け、リスナーに新鮮な驚きを届けます。そう、彼らはそもそも、スプーンをないものだと思いたいのです。
用意された物語も、この “Opus” に相応しいもの。”若い作曲家が両親や他の入居者たちと下宿している。傑作を作曲するという破滅的な強迫観念が、彼と世界や周囲の人々とのつながりを断ち切ってしまう。ある日下宿人が殺されているのが発見される。徐々に他の入居者も姿を消し始め、ついには彼はこの家にひとり閉じ込められる。彼を取り巻く宇宙は崩壊し、残されたのは彼と彼の傑作、そして家だけとなる。そのすべてがひとつの球体の中に閉じ込められ、孤立した空っぽの宇宙となる。そして彼の前に見覚えのある目が現れ、犠牲を払わなければならなくなる” 彼らの “傑作” は世界に評価されるのでしょうか?それとも、小さな球体に閉じ込められたままなのでしょうか?
今回弊誌では、NOSPUN にインタビューを行うことができました。「映画 “マトリックス” の中で僕らが好きなシーンのひとつに、ネオが予言者のもとを訪れるシーンがある。そこには小さな修道僧の子供がいて、心でスプーンを曲げているんだ。ネオがスプーンを曲げようとすると、その子供が “スプーンを曲げようとするのではなく、スプーンなど存在しないという真実を悟るんだ” という意味のことを言うんだよ。そこで僕たちは、その “No Spoon” の部分をユニークな綴りにして、ネット上で簡単に見つけられるようにしたんだ」 どうぞ!!

NOSPUN “OPUS” : 10/10

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COVER STORY 【NECROPHAGIST : ONSET OF PUTREFACTION / EPITAPH 25TH, 20TH ANNIVERSARY】


COVER STORY : “ONSET OF PUTREFACTION” / “EPITAPH” 25TH, 20TH ANNIVERSARY

“I Don’t Think Every Death Metal Maniac Should Buy My Album, But Anyone Who Is Tired Of All These Average Shit, Where One Band Sounds Like The Other.”

NECROPHAGIST

「”ネクロ “を名前に持つバンドは多すぎる。でも、1988年当時、”ネクロ” を含む名前を選んだバンドはほとんどなかった。今となっては、そんなことをするバンドはクソつまらないし、バカげてる。
僕らの名前が “Necrophagist” だからといって、世間からつまらないと思われるのは良くない。”Necropha-gist” は、音楽にのみ優先順位を設定し、それを改善し、独自の新しいスタイルのデスメタルを開発するためのバンド。だから僕のせいにしないで、ネクロを使っているデスメタル・バンドの “新時代” のせいにしたいね。君たち、想像力は一体どこにあるんだ?」
今からちょうど四半世紀前。Muhammed Suiçmez は、ギターとマイクとコンピューターを持ってスタジオに閉じこもり、史上最もユニークで影響力のあるメタル作品のひとつを録音しました。今にして思えば、 “Onset of Putrefaction” が1999年という前世紀に発表されたことが信じられません。音楽的なスタイルもプロダクションも、明らかに未来。案の定、この作品は、来るべき現代のテクデス・ワールドほとんどすべての規範となったのです。

「リハーサル・ルームで録音したんだけど、プロフェッショナルなサウンドに仕上がったよ。レコーディングに使った機材もプロ仕様。ミックスも最終的に、その道のプロと一緒にやったんだ。だから、リハーサル室で作ったとは思えない仕上がりになっている。そう、とても大変だったんだ。時間も神経も使ったけど、それだけの価値はあったよ」
2000年代に入る前、SUFFOCATION のようなデスメタル・バンドは、ハイゲインの氾濫とカオティックなエネルギー、そしてブルータルな重量が本質的ににじみ出る音楽を生み出していました。ただし、彼らのデスメタルはテクニカルな複雑さとは裏腹に、オーガニックな人間味が多く残されていたのです。NECROPHAGIST は、テクデスを次のステップに進め、より臨床的で冷たく、マシナリーで極めて正確なスタイルを打ち立てました。
「多くの人はデスメタルにおけるドラム・マシーンを好まないが、ドラム・ラインをプログラムするのに3週間、毎日12時間かかった。その結果、このCDはほとんど自然なサウンドになったんだよ」

それまでもテクデスは、もちろんある種の几帳面さを好む傾向がありましたが、”Onset of Putrefaction” は、強迫的な細菌恐怖症と例えられるほどに、無菌状態の完璧主義が貫かれています。プログラムされたドラムは、ロボットのような正確さと非人間的な冷たさを加え、偽物のように聞こえる以上にデスメタルのエッジとAIの無慈悲を獲得するのに役立っています。一方で、テクデスの命ともいえるリフは、当時の常識以上に可動性が高く、慌ただしく、細部まで作り込まれていました。さらにそれらはすべて、ディミニッシュ・アルペジオ、ホールトーン・スケール、クロマティック・ムードといった異端を最大限に活用して、流動的かつリズミカルな魅惑的な”音楽” に加工する魔法に覆われています。
そんな高度に機械化された無菌室は、デスメタル本来の穢れを祓い、過度に衛生化されるという懸念を、次から次へと収録される楽曲の超越したクオリティで薙ぎ払っていきます。一方で、ステレオタイプな低いうなり声のボーカルは、単に楽曲の意味を伝えるものとなり、リズム楽器の一つとして有効に機能しています。
「歌詞のほとんどは昔の CARCASS のようにゴアなテーマを扱っているけど、もっとセンスのあるものもある。これらはより新しいものだ。新しい歌詞はもっと哲学的なものになると思う」

NECROPHAGIST(ギリシャ語で「死者を喰らう者」の意)は、トルコ系ドイツ人のギタリスト/ボーカリスト Muhammed Suiçmez が結成し、フロントを務め、彼がすべてを決定するワンマン・バンドでした。
彼らのデビュー・アルバム “Onset of Putrefaction” は、Hannes Grossmann が制作したドラム・サンプルを使った新版が作られています。
「僕はドイツで生まれたので、1975年からここに住んでいる。ドイツの社会は奇妙で退屈だ。大学を卒業したら、この国を離れると思う。母国にはあまり行ったことがないし、トルコとの関係が希薄なんだ。
偏見を感じることはある。人々は異なる文化を恐れ、偏見を持ち、奇妙な振る舞いをする。とはいえ、僕はここで何人かのドイツ人と友好関係を築いた。彼らとの間には常に距離があるけれどね。私の親友は非ドイツ人であることを明言しなければならないよ。ドイツ人は、僕を自分自身や友人とは異なるものとして理解しているのだ」

そうしたある種の “孤高” と “孤独” の中でも、Muhammed は2010年の解散までに Christian Münzner, Hannes Grossmann, Marco Minnemann, Sami Raatikainen といったドイツの才能を次々と発掘し、彼らが OBSCURA のような次世代の旗手となっていったのはご承知の通り。そうした人を活かすアルバムとして発表された2004年の “Epitaph” は、その完璧な仕上がりとは裏腹に、文字通りバンドの墓標となってしまっています。アルバムでは、Muhammed自身も、7弦と27フレットを備えた新しいカスタムショップのIbanez Xiphosギターで攻めていました。唯一無二であることにこだわるが故の、消滅。
「昔から他のバンドをコピーするバンドはいたし、オリジナルなバンドもいた。その点では何も変わっていないが、レーベルが生き残るために利益を上げる必要がある限り、彼らは手に入るものは何でもリリースするだろう。少なくとも一部のレーベルはそうだ。特にアンダーグラウンドの小さなレーベルは、今でも利益を最も必要としている。それがビジネスであり、ある程度は理解できるが、これでは音楽の発展はない。
NECROPHAGIST は主に自分自身のためにやっているが、もちろん、人々が我々の音楽に影響を受けていると聞くのは光栄なことだ。
音楽的には、確かに僕らのルーツはデスメタルの最初の時代にある。それを除けば、僕たちはどんな音楽にもオープンだし、みんなかなり多様な音楽を聴いている。自分のことしか言えないけど、マルムスティーンのソロ・スタイルはかなり影響を受けていると思う。あとは、パワーメタルは影響を受けているが、それはある程度までだ。SONATA ARCTICA 以外によく聴くパワー・メタル・バンドは思いつかない。とにかくさまざまな角度から影響を受けてもいるよ。重要なのは、自分たちの音楽がどう聞こえるかだ」

“Onset of Putrefaction” から25年。”Epitaph” から20年。年月を経た2枚のアルバムは、今やテクデスの聖典として、様々な後続に崇め奉られています。
「まあ、すべてのデスメタル・マニアが僕のアルバムを買うべきだとは思わないけど、他のバンドと同じように聴こえるような、平均的なクソにうんざりしている人なら誰でも買うべきだよ。申し訳ないけど、バンドはギターやドラムスティックを持てるようになったら、すぐにCDをレコーディングするべきではないと思うんだ。だから、NECROPHAGIST が10年前から存在し、音楽が年々向上していることを知っておいてほしい。新しい、あるいは違ったスタイルの音楽を聴いてもらいたいんだ。”Onset” が他のバンドに似ていると言っている人は、みんなよく聴いていない。だから、この音楽は間違いなくデスメタル・マニアのために作られたものだけど、ブラストビートやダウンチューニングのギターだけがここにあるわけじゃないんだ」

デスメタル・アルバムにおいて、ラジオ・ソングのように、すべての曲が他の曲とまったく違うと自信を持って断言できることがどれほどあるでしょう?NECROPHAGIST は魔法の公式を見つけたと思い込んで、それを繰り返し、同じようなサウンドの濫用になるようなバンドではありませんでした。すべての異なるトラックを全く異なる雰囲気で収録し、そのどれもが地獄のようにキャッチーであるという最も野心的な目標を達成してきました。つまり、彼らが残した2枚の聖典はジャンルを超越し、デスメタルの専門家でない人にとっても潜在的な興味対象であるという特殊性を持つ、史上数少ない真に偉大なアルバムとなったのです。
「ハードドライブのどこかに新しいアルバムは録音してある。でも今はもうバンドをやる気はないんだよな」
これが2019年、Muhammedからの最後の便り。今はエンジニアの資格をとって BMW でエンジニアとして働いているとも噂されていますが、このアニバーサリーの年に何か動きはあるでしょうか…


参考文献: MASTERFUL MAGAZINE : NECROPHAGIST

NIHILISTIC HOLOCAUST: NECROPHAGIST

ZWAREMETALEN Interview

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【BERRIED ALIVE : BERRIED TREASURE】


COVER STORY : BERRIED ALIVE “BERRIED TRASURE”

“Balenciaga Or Moschino Are Great Examples In Fashion For Being Incredibly Technical Clothing That Doesn’t Take Itself Too Seriously. That’s Really What We Want The Most In Music, To Connect With People.”

BERRIED TREASURE

「Charles Caswell というギタリストがいる。彼は奥さんと BERRIED ALIVE というデュオをやっている。彼は、私が今まで聴いた中で最もクレイジーなギターを弾いている。彼のプレイスタイルは、私がこれまで聴いた中で最も速いプレイヤーなんだ」
ギターレジェンド Joe Satriani がこれほど興奮して紹介するギタリスト。その人物が凡庸なはずはありません。そして当然、世界中が注目します。そのギタリストとは、BERRIED ALIVE というデュオでの活動で知られる Charles Caswell です。
BERRIED ALIVE は、Charles と妻の Kaylie Caswell によるデュオ。彼らのジャンルを説明するのは少し難しいかもしれません。一応、彼らのウェブサイトには、”トラップ、ハードロック、メタル、ヒップホップ、アバンギャルドの要素を取り入れたEDMポップ” のようなものだと書かれています。
Satriani は興味深い比較をしながら、こう付け加えました。
「BERRIED ALIVE の音楽は、Tosin Abasi とかと同じくらい複雑だ。しかし、彼が何を選択し、どのように作曲するのか…それは他の誰とも違っている。人生は挑戦だ。そうして若いギタリストたちは、今この現代を生きることがどういうことなのか、私たちに教えてくれているんだ。美しいことだよ。インスタグラムを見に行って、スマホの前で誰かが僕が弾けないものを弾いているのを見るたびに、”やったー!” って思うんだ。誰かがギターを前に進めているんだからね!」
Satriani の賛辞に、Charles も応えます。
「Joe Satriani は偉大なレジェンドだ。僕が初めてギターを手にして “Surfing With The Alien” を弾いて以来、多大なインスピレーションを受けてきた人物からこんな優しい言葉をかけてもらえるなんて、信じられないほどうれしくて勇気づけられるよ!」

BERRIED ALIVE の芸術的な活動は、2012年に “音楽ベンチャー” という冒険的な形態で始まりました。それ以来、2人はレコードやシングルを精力的にリリースしています。現在までに、BERRIED ALIVE のカタログは、7枚のスタジオ・アルバムと30枚以上のシングルにまで及んでいるのです。その音楽はたしかに、トラップ、ハードロック、メタル、ヒップホップ、アヴァンギャルドの要素を取り入れたEDMポップという表現がぴったりなのかもしれません。バンドの大胆不敵で感染力のある楽曲、まばゆいばかりの音楽性、そしてシアトリカルなセンスは、YouTubeの総再生回数950万回、Spotifyのリスナー数12万人以上という数字に直結し、多くのリスナーを魅了しています。そして、Satriani のみならず、RAGE AGAINST THE MACHINE の Tom Morello, AVENGED SEVENFOLD の Synyster Gates, MOTLEY CRUE の Tommy Lee といったアイコンたちからの喝采までも集めているのです。
「僕たちは普段、いつもギターを弾いているわけでもなく、ただ好きな音を見つけているだけなんだ。ギターで音を模倣する方法を学んだから、音を見つけたら、それがどんな音なのか、たとえクレイジーな音のドラムか何かであっても、それを自分なりに再現することができる。
自分自身や自分たちに対して批判的になるのは好きではないんだ。厳しいやり方は健康的じゃない。僕はギターに3時間、ボーカルに3時間、作曲に2、3時間、マーチャンダイズやソーシャルメディアに2、3時間といった具合に。グッズの注文もすべてこなさなければならない。ギターを弾いているだけじゃなく、何かを作り、リハーサルをし、人々とつながる。運動などで心身の健康に気を配りながらね。1日の中で少しずつでもすべてのことをやっていれば、終わる頃にはかなり満足感があるし、自分を過小評価しなかったように感じる」

重要なのは、彼らがただ驚異的で “リディキュラス” なバンドであるだけでなく、”音楽ベンチャー” という形態をとっている点でしょう。BERRIED ALIVE は、冒険的な音楽と多感覚的なグッズの厳選された世界を構築していて、最近ではビール会社との提携までも行っています。
「空港のレンタカーで、カウンターのお姉さんにおすすめのお店を聞いたんだ。彼女は Heathen Brewing を勧めてくれた。料理も雰囲気もビールも気に入った。数年後、彼らから連絡があり、ビールのコラボをしないかと誘われた。僕たちは彼らの醸造所で会い、数ヶ月かけてすべてのロジスティクスを考え、ビールを造った。かなりクレイジーだったよ!
乳糖を混ぜて、ろ過した後の穀物をすくい取って…僕たちがワインやシャンパンが好きだと知っていたので、自家ぶどう園のぶどうを収穫してくれて、自家栽培のぶどうを使うことができた!醸造所の文化にも本当に感化されたね。みんな協力し合い、助け合うことを厭わないから、僕が音楽の世界で経験してきたことと比べると新鮮だ。Heathen とも将来的にもっとコラボできる可能性がある。そこから生まれたビールの名前が、アルバム “The Mixgrape” にちなんでいるんだ」
マーケティング用語で言えば、BERRIED ALIVE 社は気まぐれでカラフルなライフスタイル・ブランドであり、彼らが提供する商品メニューは拡大し続けているのです。ただし、創業者である Caswell 夫妻は、それほど計算高くはありません。ジャンルにとらわれない音楽、遊び心がありながらも高級感のある服、巧みなマーケティングのアイデアの裏には、自由奔放な芸術的対話がつねにあります。
「僕たちは聴かれて、着られて、berry だけに味あわれるものなんだ (笑) 。すべての感覚にクリエイティブなものを提供したいんだよ!最近、友人が DEFTONES のコンサートに行ったとき、少なくとも10人以上の人が BERRIED ALIVE のグッズを身に着けていて、とても目立つから気づいたと言われてね。たしかに目立つ!僕たちはあまり外に出ないから、反響を知るのはとても楽しいよ」

BERRIED ALIVE の服は明るくポップで遊び心があり、常に人気のあるイチゴと十字架のデザインがトレードマークです。Supreme を彷彿とさせる高級ストリートウェア・ラインとして作られていますが、それは夫妻の甘く歪んだ心と密接に結びついているのです。
2人は、曲作り、服のデザイン、商品ラインにそれぞれ意見を出しながら、流れるようにいつも一緒に創作しています。Charles は、BERRIED ALIVE の楽曲のプロデュース、ミックス、マスタリングを担当し、ブランドとバンドの予算を洋服や没入型ビデオ、将来の作品に充て、Kaylie が歌詞、服のデザイン、ベースラインを担当し、一緒にマーケティング・コンセプトを考えています。実は、そうした阿吽の呼吸には確固たる理由がありました。
BERRIED ALIVE の幻想的な世界のはじまりは、おとぎ話のような出会いにまでさかのぼります。2人が出会ったのは中学1年生のときでしたが、付き合い始めたのは高校に入ってからでした。付き合い始めて早々、Charles は Kaylie がファッションの溢れんばかりの才能と適性を持っていることに気づいたのです。
当時、Charles はバンドやツアーで演奏するテック・メタル・ギターの魔術師 (あの REFLECTIONS にも在籍していた) でしたが、バンドでのドラマや苦労から離れ、孤独なアーティストへと進化していきました。そんな中で、BERRIED ALIVE という音楽団体は当初、Kaylie が提案したサイドプロジェクトのようなものだったのです。
「名前は当時のメタル界にあったダークな名前をもじったダジャレのようなものだったわ。私は芸術としての服がずっと好きだったの。私たちは本当に小さな町の出身で、そこではみんな同じような服を着ていた。そこで私が着ている服について人々が話しているのを耳にすることがあって、それは必ずしも良いことばかりではなかったのよね。でも、服装は自己表現で、人と話す前にその人について知ることができる大事なアイデンティティ。同時に、いつでも脱ぐことができる、表面的なものでもある」

2人の美学はやがて融合し、既存のバンドTシャツを超えたユニークな商品ラインを開発しようと試みます。これが BERRIED ALIVE のアパレル・ラインとなっていきました。彼らがこだわるのは、”深刻になりすぎないこと”。
「僕たちがやっていることはとても深い要素を持っているけど、決して深刻に考えすぎることはない。深刻になりすぎると、どんなメッセージや音楽からも命が吸い取られてしまうと思うからね。それをうまくやっている芸術は他にもあるよ。ドラマを見ても笑える瞬間があるし、漫画を見ても絵が美しいと思う一方で笑ってしまう。
バレンシアガやモスキーノは、ファッションの世界では信じられないほどテクニカルな服でありながら、深刻になりすぎず、時には派手であることに感動するという素晴らしい例だね。派手でありたいときもあれば、ソフトでありたいときもある。それが僕たちが一番望んでいることで、結局は人々とつながりたいんだよ」
そうして今日に至るまで、BERRIED ALIVE は、ビジョンを持ち、それを追求するために努力した2人のマーケティング能力によって、自立したビジネスとなっています。彼らの成功はすべて、直感と芸術的ビジョンに基づくもの。
「レコード・レーベルを持ち、ツアーをするという伝統的な道を歩むことなく、自分たちの夢を叶えることができたのは、大きな成果だと思っているよ。僕たちが一緒にこの仕事をできるのはとても意義深いことだし、フルタイムの仕事になったのはとても特別なこと。とても感謝しているんだ」

実際、Charles がかつてのようにツアーとレコーディングで疲弊するメインストリームの音楽業界にまだいたとしたら、彼らの夢は叶わなかったでしょう。
「あのころ僕はツアー生活をしていて、いつも大事なものから離れていて、自分のベッドで寝たことがなかった。”Melon-choly” は、”スマホを見ながら、君に電話できたらいいなと思う” という一節から始まったんだけど、この曲を書いたとき、その生活の大変な部分をたくさん思い出していたんだ。
今はインターネットがあるから、内向的な人や、何らかの理由で家族と家にいなければならない人でも、アートを作ったり音楽を作ったりできる方法がある。ある意味 DIY でパンクだよね。Kaylie はヴィヴィアン・ウエストウッドが大好きなんだ (笑)。
僕もパンク・ロックがきっかけでギターを弾くようになった。そうやって楽器を愛するようになったし、ルールなんてクソくらえで、みんながやれと言うことの反対をやればいいんだと学んだ。それが BERRIED ALIVE の本質なんだ!僕たちがツアーやライブをやらないことは、ギター界の門番たちを怒らせた。でも僕たちは気にしていないし、それは何の問題にもなっていない」
結局、彼らが求めるのは好きな人たちとつながること。
「ギター世界を敵に回してもかまわないさ。僕らがレコーディングしたものをスピードアップしてるなんていう陰謀論者のいる世界なんだから (笑) 。ボブ・ディランじゃないけど “Go Where They’re Not”。年々、それが身に染みていると思う。僕はただ、歌がうまくなること、より強力な曲を書くこと、そして人々とつながることに集中するようにしている。目標のひとつは、音楽が上手になることとは関係ないレベルで、もっと多くの人とつながろうとすることだ。以前はCNCの機械工で、調剤薬局でも働いていたんだけど音楽とはまったく関係のない、信じられないほどクールな人たちによく会ったよ。音楽の趣味よりも、性格が一致する方が話したいと思うんだよな」

とはいえ、Charles はギターに対する情熱をなくしたわけではありません。
「スタイルは本当に様々。とてもアバンギャルドなんだ。頭の中にアイデアが浮かんだら、それを演奏できるようにするためにまったく新しいテクニックを編み出さなければならないこともある。ある日は超クレイジーなテクニックを駆使した曲を書き、次の日はアコースティックで伝統的な構成のシンガーソングライターの曲を演奏する。完全に自由な表現なんだよ。
ギターや音楽に何か新しいものをもたらすことは、僕にとって本当に重要なことなので、作曲や練習をするときは、今まであまり見たり聴いたりしたことのないようなものになるよう最善を尽くす。そうすることで、より多くの人に聴いてもらえるから。僕は自分の音楽にできる限りの価値を込めたいと思っている。そのためには、楽器をいじったり、練習したり、プロデュース・スキルを磨いたりすることが必要なんだ」
そして、音楽世界を改革し続けることにも熱心です。
「僕たちはエルトン・ジョンが大好きで、マーチャンダイジングをしながらよく聴いているよ。それから SPARKS!僕が彼らにインスパイアされたのは、80年代、もしかしたら70年代後半かもしれないけれど、彼らが自分でレコーディングする方法を学んだからなんだ。当時は前代未聞だった。今では誰でもできる。でも、そんな前例がなかった時代に努力を重ねたことは先進的だし、今もそれを続けているのは超クールだよ!
彼らは自分たちを改革し続けている。何年もかけて、いろんなフェーズやスタイルを作り上げてきた。Jimi Hendrix もそう。彼がギターで話すことに興味を持たせてくれた。それかOzzy Osbourne, PANTERA, BLACK SABBATH でメタルにのめり込んだ。今はあまり音楽を聴いていなくて、オーディオブックや瞑想的なものを聴いている。友人の曲がリリースされたときなどはチェックするけど、ほとんどは頭の中でクレイジーなものを作っているだけだよ!(笑)」

彼らの理想の音楽世界には、エゴも嫉妬も憂鬱もありません。
「僕たちは自分たちが世界最高のギタリストであることを証明したいわけじゃない。もし普通の仕事に戻らなくてはならなくなったとしても、僕らが作る音楽に十二分に満足しているし、お金を稼ぐためにそれを変えようとは思わないから、全然平気だよ。お金儲けのために自分たちの音楽を変えようとは思わない。
自分たちがやっていることにとてもポジティブなメッセージを持つようにしている。そしてみんなにも、自分たちがやっていることが何であれ、自分たちの芸術性や創造性だけで十分だと感じてほしいんだ。メタル世界では、ポジティブであることは一般的ではないけれど、それが僕たちの気持ちなんだよ」
では、BERRIED ALIVE にとっての “成功” とは?
「”ヒーローが友達になったとき、お前は到達したんだ “って父が言っていた。それは究極の成功だ。そもそも自分がやっていることをやりたいと思わせてくれた誰かに認められることがね。
そうしたサポートは、誰かにひどいことを言われたとしても、それを帳消しにしてくれる。最小限のストレスの中で、アートを通して自分たちを維持できることだけが望んでいたことなんだ。誰が見ているかわからないし、誰とつながるかもわからない。数年前には、こんな人生になるとは想像もしていなかったからね!」

BERRIED ALIVE Bandcamp

参考文献: CURIOSITY SHOT:Berried Alive | Feature Interview

OUTBURN:BERRIED ALIVE: In Praise

COVER STORY + INTERVIEW 【ARCH ENEMY : JOEY CONCEPCION】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JOEY CONCEPCION OF ARCH ENEMY !!

“Guitar Kids have to do it for the love of the music and find music that inspires them. In doing that, they will find their own sound. They should practice guitar every single day, and do it with passion or not at all.”

SHRED WITH PASSION

「音楽への愛情を原動力とすること。そしてインスピレーションを与えてくれる音楽を見つけることだね。そうすることで、自分の音を見つけることができる。毎日毎日ギターを練習し情熱を持ってやるべきで、それ以外は全くやらないのと同じだと思うよ」
“Shred With Passion”。情熱を秘めたシュレッド。それが新たに ARCH ENEMY に加わった新進気鋭、33歳のギタリスト Joey Concepcion の座右の銘です。コネチカット州出身のアメリカ人ギタリストは、メロデスへの愛とシュレッドへの情熱でついにビッグ・バンドへの挑戦権を勝ち取りました。しかし、栄光までの道のりは決して平坦なものではなかったのです。
「この10年間、たくさんのバンドとツアーをすることができて、信じられないような旅だった。ARMAGEDDON, THE ABSENCE, JASTA、そして SANCTUARY は、ツアー・ミュージシャンとしての僕を形成し、現在の僕へと導いてくれたんだ」
2008年、敬愛する LOUDNESS にも参加していた Mike Vescera からの依頼で、Joey のキャリアは幕を開けます。当時まだ17歳だった Joey は、アルバム “Sign of Things To Come” でギター・ソロを披露し、その若さとルックス、そしてハイパー・テクニカル&クラシカルなシュレッドで、あの偉大なる Jason Becker の後継者と目されるようになります。そう、彼のギターには、Jason 同様、天使と悪魔が宿っています。
「2012年に Christopher Amott から Skype でギターのレッスンを受け始めて、すぐに彼と親友になったんだ。その時に ARMAGEDDON に加入して、何年も一緒にプレイする中で、ARCH ENEMY と一緒にライヴをしたこともあったんだ。2015年のラウド・パークでの来日公演や、2016年のメキシコ・シティでの公演もあった。その時に、みんなでつるんで素晴らしい時間を過ごし、ARCH ENEMY のメンバーと仲良くなったんだ」
ただし、物事は、人生は決して一足飛びには進みません。THE ABSENCE, Jamie Jasta の JASTA, SANCTUARY と流浪し渡り歩く中で、徐々にその確かな才能と輝きが認められた Joey は、ギターの師匠で親友、ARMAGEDDON のバンド・メイトでもあった Christopher Amott の橋渡しによって ARCH ENEMY とのつながりを築きました。
2018年には Jeff Loomis の代役として ARCH ENEMY と欧州ツアーを敢行。そこで信頼を得た Joey が、Jeff の脱退に際してリストのトップにあがるのは当然でした。もちろん、あの NEVERMORE でテクニカル・メタルの真髄を極めた Jeff の後任というポジションは生半可なものではありません。それでも、Joey のシュレッドに対する情熱の炎は、きっと ARCH ENEMY をさらに前進させることでしょう。
同時に Joey は、自身のソロ・アルバムも2枚発表しています。デビュー作 “Alignment” のリリースに際して、Joey はこんな言葉を添えていました。
「このアルバムを、強迫性障害、不安障害、うつ病の患者たちに捧げたい。自分を信じ、ポジティブに、忍耐強く、常に最終的な結果を考えながら前に進めば、夢は必ず叶う。運命や宿命が生まれた時から決まっているかどうかはわからないよ」
そう、彼も多くのメタル戦士たちと同様に、不安と共に傷ついた心を抱える孤独なたちの味方です。それはきっと、自らも不遇な時代を過ごしてきたから。そう、どんなに世界から見放され、1人だと感じたとしても、愛するものを信じてやり続ければ、Joey のようにきっと夢はかなうのです。
今回弊誌では Joey Concepcion にインタビューを行うことができました。「LOUDNESS, CRYSTAL LAKE, EZO といったバンドも大好きだよ。ARCH ENEMY が日本ツアーで制作したライブ・アルバムは僕のお気に入りのひとつだし、武道館での Yngwie Malmsteen のライブ・アルバムや、Paul Gilbert と Mr.BIG のライブ・アルバムも大好きだ。僕の最も大切な瞬間のひとつは、ラウド・パーク15で ARCH ENEMY の演奏を観ることができた時なんだ」 どうぞ!!

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【BLOOD COMMAND : WORLD DOMINATION】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH YNGVE ANDERSEN OF BLOOD COMMAND !!

“Metal Is a Cult, Metal Is Definitely a Religion For Many Ans a Safe Haven For So Many Freaks And Outcasts. Its Really Beautiful.”

DISC REVIEW “WORLD DOMINATION”

「メタルやハードコア・パンクはまさにはみ出し者にとっては完璧な避難所だ。パンク・ロックに出会うまで、僕はずっとアウトサイダーだった。パンク・ロックは僕の人生を救ってくれたんだ。今では本当の友達がたくさんいて、僕の人生はまるでおとぎ話のようだ。こんなことができるようになったことを、毎日神に感謝しているんだよ。Nikki は間違いなく BLOOD COMMAND で自分の居場所を見つけた。Nikki はステージに立つために生まれてきたし、BLOOD COMMAND のフロントになるために生まれてきた。僕たちは死ぬまでこの仕事を続けるつもりだし、それができることをとても幸運に感じているよ。ライヴでフリークたちを見ると…涙が出るんだ」
人生で最も重要かつ困難なこと。もしかしたらそれは、自分の居場所を見つけることかもしれません。ノルウェーを拠点とする “デス・ポップ” バンド BLOOD COMMAND は、自らも彷徨い、傷つき続けた過去を振り払い、幸せな居場所を見つけることの大切さを音楽に込めています。
オーストラリアで PAGAN というバンドに人生をかけていたボーカリスト Nikki Brumen は、バンドの解散、親の死、そして恋人との別れによって心に大きな傷を負っていました。そんな時、遠く離れた地球の反対側、ノルウェーから一通のメールが届きます。
「フェイスブックだったと思うけど、ようやく彼女と連絡が取れた。”君に提案がある” と言うと、彼女は即座に “イエス” と答えたんだ。人生で最も幸せな瞬間だったね。彼女は今ではノルウェーに住んでいて、僕たちは一緒にプレイしたり、出かけたりしている。とても幸せだよ」
メールの送り主は Yngve Andersen。BLOOD COMMAND の中心人物。Yngve は Yngve で、2度目のボーカルの脱退に心が折れかけていました。音楽性はもちろん、互いに人生を取り戻す、回復しようとするもの同士、即座に意気投合。Nikki はすぐにスーツケースに荷物を詰め込んで、名前の発音もできない新たな友人の故郷、ノルウェーへと渡りました。自分の居場所は自分で見つける。彼らの場合、その媒介者が、メタルやハードコア・パンクだったのです。
「僕はノルウェーの極端なキリスト教福音派の分派出身のカルトの子供で、その全てが好きだったんだ。そのカルトの教育は僕に音楽を教え、幼い頃から楽器に触れさせ、他の人たちと一緒に演奏することを考えさせてくれた。彼らの教育にとても感謝している。あと、僕が普通でないことに慣れていて、のけ者にされることに慣れているという事実にも。それ以来、僕はカルトに魅了されている。少人数で、自分たちだけが真実であり、他の人たちは、論理的ではないにせよ、みんな間違っていると確信している、強く美しい集団だ」
居場所という意味では、Yngve は自らが育ったカルト集団と BLOOD COMMAND、そしてメタルやハードコア・パンクを重ねて見ています。社会からはぐれたのけ者たちにも、いえ、のけ者だからこそ安心できる居場所は必要。一風変わった “デス・ポップ” というアウトローの音楽で、お揃いのアディダスに身を包み、同じ夢を見られるメンバーで強く美しく生きていく。”World Domination” という新たな作品で居場所を見つけた彼らを遮るものは、もうありません。
「シーンの門番たちを怒らせるためにこのバンドを始めたかったんだよ。ハードコアにポップなものを混ぜて、邪悪なミックスを作ろうとね。当時はそれが新しいことだったけど、今はそういうバンドがたくさんいる。僕自身はハードコア・キッズであり、ポップミュージックが大好きだ。好きなアーティストの一人は Belinda Carlisle だしね」
野蛮なメタリック・リフとシャーベットのような甘いポップ・メロディーが溶け合ったサウンド・スープ。実際、彼らの “居場所” であるそのサウンドや形式は愛すべきエキセントリックを貫いています。
グラインド・コアの尺に凝縮されたエクストリーム・メタルのクランチと幼きメロディーは、テクノ、エレクトリック・ポップ、そしてジギーなギャングスタ・ラップと共に溢れんばかりのメルティング・ポットで撹拌され、散漫にも思える設計図はいつしか酩酊のような聴き心地を醸し出していきます。そう、カルトにはカルトの “世界を支配する” 譲れない美学が存在するのです。
今回弊誌では、Yngve Andersen にインタビューを行うことができました。「メタルはカルトだよ。そして、カルトがメタルのように大きくなれば、それを宗教と呼ぶこともできる。だからね、メタルは宗教なんだよ。多くのはみ出し者やマニアといった信者たちにとって、安全な天国のようなもの。本当に美しいよ」 どうぞ!!

BLOOD COMMAND “WORLD DOMINATION” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CHAOS OVER COSMOS : A DREAM IF EVER THERE WAS ONE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH RAFAL BOWMAN OF CHAOS OVER COSMOS !!

“As a Musician, I Am Definitely In The “More is More” Camp – For Me, It’s a More Exciting Approach, And It Appeals To Me More In Terms Of The Energy It Gives, The Emotions It Evokes.”

DISC REVIEW “A DREAM IF EVER THERE WAS ONE”

「ミュージシャンとしての僕は、間違いなく “More is More”派だよね。 僕にとってはそれが、よりエキサイティングなアプローチだし、エネルギーや感情を呼び起こすという点で、より魅力的なんだ。時々、テクニカルな演奏には感情が欠けているという意見を耳にすることがあるけど、僕はそうした意見には強く反対だよ。もっと広い視野で、ベートーヴェンやショパンの曲の音符の多さを聴いてみてほしいね!”More is More” タイプの音楽は、時に難易度が高くなるけど、それはそれでいいことだと僕は思う。だからこそ、時間をかけて聴く価値があるし、注意深く何度も聴けば新たな発見がある」
“Ridiculous”。近年、海外のメタル批評においてよく使用される言葉です。直訳すると、馬鹿げたとか馬鹿らしいでしょうか。しかし、ほとんどの場合、彼らの “リディキュラス” とは褒め言葉で、むしろ絶賛です。つまりそこには、常識を超えた、今までになかった、未曾有のという付加価値が込められているのです。
ポーランドのテクニカル・メタル CHAOS OVER COSMOS も、そうした “リディキュラス” なバンドの一つ。音符と音符の間の空白をすべて埋め尽くす、宇宙空間の無酸素状態にも似たテクニックの混沌。曲の中にどれだけの音符を詰め込むことができるのか?そんなギターの宇宙実験室からリフは無限に湧き出します。ペトルーシ、ロメオ、アバシ、ホールズワース…そう、インタビューに答えてくれた Rafał Bowman のギタリズムは、確実にそうした “More is More” 派においても新世代の嗎を感じさせてくれます。
ギターから噴出する、宇宙船が天体を飛び交うイメージや、ホバークラフトがブレードランナーのような超巨大都市を疾走するイメージが、シンセサイザーの大海に溺れることでSFメタルの最新形態をアップデート。ここにあるのは、例えば ARCHSPIRE や LORNA SHORE のような、”リディキュラス” なモダン・メタル。
「インスタントな文化やSNSは僕には絶対に合わない。君が言うような30秒のクリップは知っているし、時には面白いものでさえある。だけどね、僕の知る限り、切り抜き動画は複雑な形の全編の作品、特にプログレッシブなもの、多くの異なるパートで構成され、思慮深く、技術的に高度なものには決してかなわないし、近づくことさえできないよ。なぜなら、まだ世界には、複雑な形式を求めるリスナーや、曲だけでなくアルバム全般を注意深く聴きたいリスナーが常に存在することを知っているからね」
実は、Rafał のギター・テクニックが圧倒的すぎることで、海外の掲示板などではかつてのイングヴェイよろしく、 “フェイクでは?” “スピードを下げて録音しているのでは?” という疑念まで生じています。それは、このご時世に Rafał が演奏動画をアップしないことにも起因しています。
ただし、Rafał が SNS や切り取り動画と距離を置いているのは、そうした “インスタント” な世界が肌に合わないから。動画を撮り、SNSにアップし、いいねをもらい、その場限りの無意味なやりとりを交わす。そんな時間こそが、Rafał にとっては悪い意味での “リディキュラス” そのもの。それよりも彼は、テクニックと創造性に満ちた、昔ながらの壮大な “プログ・メタル”、その複雑でしかし好奇心に溢れた宇宙を探索したいと願うのです。
今回弊誌では、Rafał Bowman にインタビューを行うことができました。「僕は音楽以外のインスピレーションも重要視しているんだ。だから、村上春樹は僕にとって重要な作家なんだよ。彼はゲームやアニメ、SFとは全く関係ないけれど、彼の美学や作品から喚起される感情は僕の心に強く響くんだ」どうぞ!!

CHAOS OVER COSMOS “A DREAM IF EVER THERE WAS ONE” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PRESS TO ENTER : FROM MIRROR TO ROAD】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PRESS TO ENTER !!

“When We Came Up With The Band Name, We Did Have a Video Game Main Menu Screen Running In The Background. So Yeah, The Name Really Came From That Whole Idea Of Pressing a Button To Enter a Virtual World.

DISC REVIEW “FROM MIRROR TO ROAD”

「実はバンド名を考えていたとき、後ろでビデオゲームのメインメニュー画面が開いていたんだ。だから、ボタンを押せば、ワクワクするようなバーチャルな世界に入れるという発想がバンド名の由来になった。僕らの場合、その世界は音楽のサウンドスケープなんだけどね」
ビデオ・ゲームで育った世代なら、”Press Enter” の文字を見るだけで血湧き肉躍るに違いありません。カートリッジを装着して、未知なる冒険へと繰り出すその入り口こそ、”Press Enter” なのですから。ゲームの中で私たちは、いつも無敵で全能でした。
同様に、未知なるバンドの始まりのリフやメロディが天高く、もしくは地響きのようにアルバムの幕開けを告げる瞬間はいつもワクワクするものです。どんな音がするのだろう?想像を絶するスリルやサスペンス、もしくは狂気はあるのだろうか?歌われるのは希望?それとも絶望?内なる五感を熱くさせるのだろうか?…おもちゃ箱をひっくり返したようなデンマークのプログレッシブ・トリオ PRESS TO ENTER は、そのワクワク感、ロックやメタルの全能感を何よりも大事にしています。
「HAKEN の “1985” という曲と、彼らが現代のプログレッシブ・ミュージックに80年代のサウンドを使っていることにすごくインスパイアされたんだ。それに、Dua Lipa はそういったオールドスクールなサウンドをとてもうまく料理して、新しい新鮮な方法で使っている。面白いことに、僕たちは80年代に直接インスパイアされるというよりも、80年代にインスパイアされたサウンドを使う現代のアーティストに影響を受けているんだと思う」
PRESS TO ENTER の音楽には、ゴージャスで全能感が宿っていた80年代の世界から飛び出してきたような高揚感と華やかなポップネスが蔓延しています。ただし、彼らのアルバム “From Mirror to Road” はただ過去の焼き直しではなく、モダンな Djent のセオリーや洗練されたプロダクション、ネオ・ファンクやネオ・フュージョンのグルーヴ、それに21世紀の多様性を胸いっぱいに吸い込んだごった煮の調理法で、独自の個性と哲学をデビュー作から披露していきます。あの ARCH ECHO 肝入りの才能に納得。
「私は不安症と身体的苦痛障害と呼ばれるものを抱えていて、4年前に顎の手術を受けることになったの。その後、長い間落ち込んでいて、しばらく歌うこともやめていたの。Lucas と Simon が “Evolvage” のボーカルに誘ってくれたとき、私は新たな希望を得たわ。あの曲をレコーディングしたとき、私は本当に音楽とつながることができた。自分にとって自然な感じだったし、新しい方法で自分を表現する機会を与えてくれたのよ。私のボーカルは、このバンドの音楽に新しい色を加え、特別な味わいを与えていると思う」
PRESS TO ENTER がこの暗澹たる2020年代にロックの全能感と期待、そして希望を蘇らせたのは、自らも一度は傷つき不安と共にあったから。他人と自分を比べることで鬱状態に陥り、極度の不安を抱えていたボーカルの Julie は、自らの歌声がこの奇抜で好奇心に溢れたプログレッシブ・メタルに命を吹き込むことを知り、前へと進み始めました。実際、マドンナから始まり、アギレラ、ペリー、レディ・ガガの系譜につながる彼女のポップで力強い歌声は、プログの世界にはないもので、だからこそ輝きを放ちました。
「僕らの曲 “Cry Trigger” のアンビエント・セクションは、”バイオハザード・ゼロ” のテーマ ”Save Room” に非常にインスパイアされているんだ。それに僕は、日本のアニメの大ファンでもある。”ワンパンマン” や “進撃の巨人” は大好きな作品だよ。僕らの曲 “Frozen Red Light” の一部は、間違いなくアニメ音楽の影響を受けている。あと日本の音楽では、CASIOPEA と彼らの昔のベーシスト、櫻井哲夫が大好きなんだ。彼は僕のベースプレイに大きなインスピレーションを与えてくれた。それに、RADWIMPS も大好きだよ」
最後のピースとして、PRESS TO ENTER は日本の文化を隠し味に加えました。それは、日本のアニメやゲーム、音楽の中に、失われつつあるワクワク感が存分に残っているから。そうして PRESS TO ENTER の軽快で複雑でポップな世界は、視覚的にも広がりを得て3次元の立体感を得たのです。もちろんそれは、彼らが敬愛する地元の英雄 DIZZY MIZZ LIZZY と同じトリオだからこそ、得られた自由。
今回弊誌では、PRESS TO ENTER にインタビューを行うことができました。「DIZZY MIZZ LIZZY の Tim Christensen、Tosin Abasi, Plini が僕のスーパー・ヒーローだね。彼らをたくさん聴いたことで、自分のサウンドや音楽におけるクリエイティブな考え方が形成された気がする」 Tosin というより、かの Manuel Gardner Fernandes 直伝のスラッピング、それに曲中の魔法のようなテンポ変化が実にカッコいいですね。どうぞ!!

PRESS TO ENTER “FROM MIRROR TO ROAD” : 10/10

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THE 30 MOST IMPRESSIVE ALBUMS OF 2023: MARUNOUCHI MUZIK MAGAZINE


THE 30 MOST IMPRESSIVE ALBUMS OF 2023: MARUNOUCHI MUZIK MAGAZINE

1. EXTREME “SIX”

「EXTREME には、常に情熱がある。他のバンドと競争しているわけではなくて、いつも自分たちを超えるために努力しているんだ。そのための情熱さ。このアルバムにはそんな瞬間がある」
現代のメタルは多様でしょうか?YES。寛容でしょうか?YES。感染力、生命力、そして包容力に満ちたメタルの音の葉は、人種や宗教、文化、言語、ジェンダーといった世界中の壁を壊しながら伝播し、根付き、そして抱きしめます。そう、このファンタジーの世界は、暗くて厳しい2020年代の現実にとって完全無欠の逃避場所であり、抑圧や憂鬱から回復し立ち上がるためのレジリエンスを供給する力の根源でもあるのです。
では、なぜメタルにはそれほどの力、エネルギーが備わっているのでしょうか?その答えは、EXTREME とヌーノ・ベッテンコートが15年ぶりとなる新作で代弁してくれました。
「”Six” では、エネルギーと意思を持って物事を投げかけることが重要だった。炎や情熱という言葉は俺の日常だ。ギタリストとしてどのアルバムでも、俺は常に偉大なプレイヤーからインスピレーションを受けてきた。でも、いつかは彼らを倒したいと思わなければならない。俺はまだ倒せると信じている。 “ヒーロー” と肩を並べられると信じていないのに、なぜ誰かと何かを共有したいと思えるんだ?そうやって俺は人々とつながり、ギターの楽しい面を見せたいんだよ。ギターを世界に取り戻したいんだ」
そう、メタルには受け継がれる情熱の炎があります。当たり前が当たり前ではなくなった時代に、当たり前に続けていて情熱と共に前へと進んでくれる存在…そのなんと頼もしいことか。実際、2023年はそうした歴戦の勇者たちが復活し、あるいは再び怪気炎をあげた一年となりました。そして幸運なことに、弊誌でも情熱あふれる “レジリエンス・ヒーロー” たちにインタビューを多く行うことができました。
MR.BIG、ELEGY、SAVATAGE、WINGER、VICIOUS RUMORS、Robby Valentine、Steven Anderson、そして THE ALMIGHTY。そう、彼らの中には誰一人として、常に順風満帆だった人はいません。いや、むしろ度重なる逆風の中で、時に傷つき、時に立ち止まり、時には一度諦めて、それでもメタルの魅力には抗えず、情熱の炎に薪をくべ続けてきた人たちです。だからこそ、リスナーに寄り添える。だからこそ、リスナーは信じられる。
昔は良かったなどと口にしようものなら即座に老害認定される世界で、たしかにこれは時代錯誤でロマンチックすぎる、甘酸っぱいノスタルジーなのかもしれません。それでも、ロックやメタルはあの時代に彼らが与えてくれた “全能感”、”この音楽さえ聞いていれば何でもできる” という無限の可能性と胸の鼓動を今も確実に受け継いでいます。
スター・ウォーズやスタンド・バイ・ミーが “ジョーカー” へと変異した現代において、今みんなが心待ちにしているのは、きっと本物の “体験” と、溢れんばかりの笑顔で夢を紡ぐ新たなエディ・ヴァン・ヘイレンの登場なのでしょう。
「ここ8~10年、本当に素晴らしいギタリストの大半は、俺もフォローしている驚異的なプレイヤーは、みんな部屋に座っているってこと。俺は舞台の上にいる。エネルギーが違うんだ。彼らは一人でスタジオに座って、ギターを弾きながら、SNS が何かで俺たちを驚かせる。彼らと俺の違いは、バンドが登場すること。だからこそ、感情的で、フィジカルなものになる。バンドの誰かが曲の途中でハーモニーやボーカルをとるし、歌詞もあるし、アレンジも、ブリッジも、とにかくオールインで、情熱的に演奏している。それこそが、人々を再び興奮させるレシピなんだよ」

http://sin23ou.heavy.jp/?p=19585

2.VOICE OF BACEPROT “RETAS”

「もし誰かがわたしたちのヒジャブについて尋ねたら、どうするか知っている? もし誰かがわたしたちに憎しみを込めた言葉を使ったら、どうするか知ってる?ヒジャブはわたしたちの選択なのかと聞かれら、どうするかわかる?こうするんだ!」
間髪を入れず、Marsya がマイクに向かって叫び、Sitti がドラムを叩き、Widi がベースをかき鳴らす。VOICE OF BACEPROT には世界を変える力があるのです。
ヒジャブのメタル戦士 VOICE OF BACEPROT の3人組、Sitti, Widi, Marsya は歩くときは腕を組み、三つ子と間違えられるほど似た姿で笑顔を振りまきます。3人は決して笑いを止めません。その笑いはさながらヘヴィ・メタルのごとく周りに伝染し、3人が母国語のスンダ語で話しているにもかかわらず、誰もが笑顔を纏うようになるのです。
インドネシアはイスラム教徒が大多数を占める国で、西ジャワは特に保守的。そのコミュニティにおいて、音楽はハラーム(イスラム法で禁じられている)だと信じられているため、3人がメタルの世界に飛び込んだときも彼らはあまり良い反応を示さなかったのです。Marsya は、『悪魔の音楽を作るな』と書かれたメモに包まれた石で頭を殴られ、さらにはオートバイにわざとぶつけられたり、母親の店の窓ガラスを割られたりと散々な目にあいました。VOB がステージに上がる直前に宗教指導者が電源を抜いたこともあり、マネージャーはバンド解散を迫る脅迫電話を受けたこともあります。言うまでもなく、VOB はふざけているわけでも、何かをバカにしているわけでもありません。彼女たちはただ、夢を実現するためにすべてを犠牲にしてきたのです。
しかし、そうした周囲のノイズはトリオに寛容と敬意についての貴重な教訓をも与えました。大切なのは、ルーツを忘れずに夢を追うこと。
「女性だけのメタルバンドがヒジャブを着ているのは、それほど一般的ではないのは事実よ。でも、わたしたちの国はそれほど厳格ではないのも事実。わたしたちは村では、(イスラム教徒として)多数派である自分たちの特権に安住しすぎていたの。でもメタル・シーンに入ると、ヒジャブをかぶった女性はメタル・シーンの一部とは見なされず、わたしたちは少数派になってしまった。だからこそ、許し合うこと、平和と寛容のメッセージがとても重要だとわかるのよ」

http://sin23ou.heavy.jp/?p=19789

3. TABAHI “THRASH FOR JUSTICE”

「カラチが挑戦的な都市であるという評判は、ある程度は僕たちの音楽に影響を与えているかもしれないけど、僕たちを真に突き動かしているのは、スラッシュ・メタルが社会に語りかける能力なんだ。僕たちは、スラッシュ・メタルを強力な媒体として、自分たちの考え、経験、感情を世界と共有し、そうすることで、自分たちの身近な問題に取り組みながら、世界のメタル・コミュニティに貢献することを目指しているよ」
カラチはパキスタンで、いやもしかすると世界で最も危険で暴力的な都市だと言われています。この国で唯一のスラッシュ・メタル・バンド TABAHI がカラチを故郷とするのは、なるほどいかにもふさわしいように思えます。加えて、TABAHI というバンド名がウルドゥー語で “Destruction”(破壊)であることも、彼らのオールドスクールなスラッシュが猛威を振るう様を象徴しています。
「”Thrash For Justice” は、スラッシュ・メタルを様々な形で正義に取り組み、提唱する手段として使うという僕たちのコミットメントなんだ。僕たちは音楽と歌詞を通して、正義を求める差し迫った社会的、政治的、文化的問題に光を当てることを目指している。故郷カラチの闘争であれ、より広い世界的な関心事であれ、僕たちは自分たちの音楽を使って正義と前向きな変化を求める声を増幅させることを信じている」
ただし、彼らが破壊したいのは、”正義” に反することだけです。パキスタンのカラチは、実に多くの困難に直面しています。暴力が蔓延り、犯罪率が高く、政治と社会不安のある都市で、社会的な不公平が当たり前のように横行しています。だからこそ、彼らは “正義” に焦がれ、”正義” を望みます。そして TABAHI が正義を貫くに最も適した音楽こそ、スラッシュ・メタル、そのエネルギーと反発力だったのです。
「パキスタンでは、メタルというジャンルは依然としてニッチで、その生のエネルギーと激しさゆえに限られた聴衆にしか評価されていない。TABAHI という名前は、僕たちが耐えている苦難、僕たちが体現しているレジリエンス “回復力”、そして僕たちに不利な状況が積み重なっているにもかかわらず、それでも世界に永続的なインパクトを与えるという揺るぎない決意を痛烈に思い出させるものとなっているんだ」

http://sin23ou.heavy.jp/?p=20115

4. SLEEP TOKEN “TAKE ME BACK TO EDEN”

SLEEP TOKEN について、人々は何をもって特別だと言っているのでしょうか?ヘヴィー、ソフト、メロディック、アトモスフェリック、エクスペリメンタルなど、様々なスタイルの曲を巧みに作り上げる彼らの能力に興味を持った人が多いようです。複数のジャンルや従来とは異なるやり方を取り入れることを恐れない。まさにモダン・メタルの雛形だと言えます。
「SLEEP TOKEN は2020年代のメタルのあり方を体現している」と、ブラック・メタルの伝説 EMPEROR の共同創設者であり、アヴァンギャルドなメタル・アーティストのパイオニアである Ihsahnは語り、このバンドと同じレーベルに所属しています。「初めて聴いたときから、完全に興味をそそられたんだ。モダン・メタルの要素と非常にダークなムードを混ぜ合わせながら、非常にクリアでモダンなR&Bスタイルのプロダクション・バリューもあるんだからね」
SLEEP TOKEN は決してメタル界初の匿名集団、マスク・ド・メタルではありませんが、彼らのシンボルをあしらったマスク、ダークなボディ・ペイント、北欧のルーン文字からヒンドゥー教のシンボルまでを使用したアートワークは、メタルファンやミュージシャン仲間の好奇心を十二分に刺激しています。
「我々がどうやってここに来たかは、我々が誰であるかということと同じくらい無関係だ。重要なのは音楽とメッセージだ。我々はスリープに仕え、彼のメッセージを映し出すためにここにいる。バンドの未来?何もない。永遠に続くものはない」

http://sin23ou.heavy.jp/?p=18891

5. LITURGY “93696”

「男性から女性に移行してからの生活は信じられないほど良くなっているわ。 残念ながら、アメリカではジェンダーに対する政治的な圧力はますます恐ろしいものになってきているけど、それでも、オープンに生きている方が私はずっといいんだよ」
ブラック・メタルを哲学する革新者、LITURGYのハンター・ハント・ヘンドリクスは現在、ラヴェンナ・ハント・ヘンドリクスへとその名を変えています。
「私は女性よ。ずっとそうだった。様々な拒絶を恐れて明かせなかったの。私は女性として音楽家、神学者、詩人で、生まれるものは全て女性の心から。同時に男性として生まれたことを否定したくもないのよね」
長い間、女性の心を持つ男性として生きてきたラヴェンナにとって、トランスジェンダーの告白は非常に勇気のいるものでした。周りの目や差別、弾圧といった現実のプレッシャーをはねのけて、それでも彼女がカミング・アウトした理由は、自分の人生を、そして世界をより良くしたいから。彼女の理想とする天国であり想像の未来都市”Haelegen”実現のため、ラヴェンナの音楽は、魂は、いつしか抑圧を受ける少数派の祈りとなったブラック・メタルと共に、もう立ち止まることも、変化を恐れることもありません。
「ブラック・メタルはロックという枠組みとその楽器を使ってクラシックを作るものだと考えていたんだ。 みんながそう思っているわけではないけど、私にとってはそこが大きな魅力だから」

http://sin23ou.heavy.jp/?p=19181

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MANAPART : ROOMBAYA】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MANAPART !!

“Maybe Melancholy Is In Our DNA That’s Been Also Formed By Quite a Tough Historical Path Our Country Is Taking”

DISC REVIEW “ROOMBAYA”

「アルメニアの若い世代の嗜好には、SYSTEM OF A DOWN が大きな影響を与えているということだね。正直に言おう、アルメニア人は他のアルメニア人が有名になるのが好きなんだよ。だから僕たちは、単純に彼らのことを無視できなかったんだ」
2023年が終わろうとしている現在に至っても、アルメニアの英雄 SYSTEM OF A DOWN が新しいアルバムを出す気配はありません。もちろん、ライブでのケミストリーは十分という彼らの言葉通りしばしばツアーは行なっています。アルツェフとアルメニアで起きた紛争や虐殺に際しては、実に15年ぶりとなる新曲で世界に訴えかけもしました。とはいえ、非常に残念ですが、おそらく2005年以来となるアルバムは、来年も、再来年も、届くことはないでしょう。しかし、案ずることはありません。私たちには同じアルメニアの血を引く MANAPART がいます。
「たとえ音楽が世界を変えることができなくても、ある特定のグループの人々がこの世界について感じていることを反映することはできる。だから、より良い未来への希望があると感じたら、僕たちはそれを歌で伝えるんだ。音楽は命を救うことはできないけど、少なくとも気分を良くさせることができる。そうすれば、この世界に小さくても良い変化を与えることになるんだよ」
SYSTEM OF A DOWN と違って、MANAPART はアメリカに拠点を置いてはいませんし、伝説的プロデューサーのリック・ルービンも共にはいません。しかし、彼らには誠実さと野心、創造性が無尽蔵に備わっています。常に紛争と隣り合わせの場所で生まれ育ったからこそ、身に染みて感じる命と平和、希望の大切さ、そして悲しみ。
「僕たちの音楽にある哀愁は、僕たちの国が歩んできた厳しい歴史的な道によって形成され、僕たちのDNAの中にあるものだと思う。正直に言うと、人々を幸せな場所に届けるような本当に良い曲を書くのはとても難しいんだよ」
MANAPART は2020年の結成以来、世紀末の Nu-metal と東洋音楽、アルメニアのフォーク・ミュージックのユニークな婚姻を成功させ、SYSTEM OF A DOWN のフロントマン Serji Tankian その人からも賞賛されるまでに頭角を現してきました。MANAPART が母国の英雄と比較されるのは、彼らが SOAD のカバー・バンドから始まったことはもちろん、それ以上に同じアルメニアの悲哀を抱きしめているからでしょう。
大国をバックとした係争地、ナゴルノ=カラバフを巡るアゼルバイジャンとの血で血を洗う紛争は、彼の地に生きる人々の心を、体を疲弊させていきました。だからこそ MANAPART は、表現力豊かな音楽で社会的不公正、抑圧や心の憂鬱など感情をとらえた力強いメロディーを通して、人生の不条理と複雑さを探求していきました。そうして彼らは、リスナーをメランコリーに満ちたアジアと欧州、そして中東の交差点へと誘いますが、その一方で、作品全体の根底にあるテーマはより良い未来と開放のための希望と光が溢れているのです。
今回弊誌では、MANAPART にインタビューを行うことができました。「Roombaya とはアルメニアの儀式の踊り。僕たちの魂が解放される儀式のようなもので、神聖な火の周りで踊るブードゥー教のダンスのようなものだ。この炎は僕たちの魂を時空を超えて高揚させ、本当の自由を感じさせてくれるんだ」 どうぞ!!

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