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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【IMMORTAL GUARDIAN : PSYCHOSOMATIC】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH IMMORTAL GUARDIAN !!

“Now It’s The Only Way I Play Music. I Feel Naked When I Only Have Just One Of The Guitar Or The Keyboard On Me. It’s How I Think And How I Express Myself The Best Musically.”

DISC REVIEW “PSYCHOSOMATIC”

「ギターとキーボード、どちらか片方だけを持っていると半裸になったような気分になるんだ。それが僕の考え方で、音楽的に最高の自分を表現する方法なんだよね。」
ダブルネックの16弦ギター、モンゴルのホーミーと伝統楽器、アステカの笛に骨のマイク。弊誌ではこれまで、奇想天外なアイデアとメタルの融合をいくつも報じてきました。
どんな突飛な発想とも真摯に向き合うメタルの包容力は、そこから驚くほどドラマティックで獰猛なキメラを多数輩出してきたのです。馬鹿らしさを馬鹿らしさだけで終わらせないメタルの神秘。それでも、ギターとキーボードを同時に演奏という曲芸じみた異能に挑戦する戦士は Gabriel Guardian がはじめてでしょう。
「この2つの楽器を組み合わせることで多くのことが実現できる。音楽的に多くの表現ができるし、そこに無限の可能性を秘めていることも気に入っているよ。」
実際、Gabriel は例えば Alexi Laiho と Janne Wirman の役割を一人で同時にこなすことを究極の目標としている節があります。そのためには、もちろん、基本的にはギターをピッキングなし左手のタップだけでプレイする必要がありますし、鍵盤は右手だけ。ただし、その欠点を補ってあまりある視覚的なインパクト、そしてユニゾンやコード、リズミックなアイデアの広がりがあることは明らかでしょう。他人と意思疎通することなく、自由自在に掛け合いができるのですから。
「僕は昔からメタルにおけるクラシック音楽が好きだったんだ。若い頃はクラシックを聴いていたけど、それからは正直あまり聴いていなかった。だからクラシックの影響というよりも、自分の曲にクラシックの影響を取り入れているメタルバンドから多くの影響を受けたんだ。」
“Read Between The Line” を聴けば、Gabriel の “ギターボード” という発想がメタルとクラッシックのさらなる融合に一役買っていることに気づくはずです。彼はクラシカルなメロディーをその異能で立体的に配置し、構成する技能に優れていますがクラッシックの教育は受けていません。しかしだからこそ、難解複雑な理論よりも、メタル者が欲する “クラシカル” の海へと音楽を没入させることが可能なのでしょう。
「僕たちの曲はパワーメタルで、クラシカルなシュレッドギター/キーを使っているけど、ドラマーとベーシストのリズムセクションはモダンでテクニカルなメタルに傾倒している。この融合が素晴らしくて、このジャンルの名前を思いついた人をまだ見たことがない。」
シンガロングの麻薬 “Phobia” は象徴的ですが、リズムセクションが牽引する djenty なリフワークとパワーメタルの婚姻も想像以上に鮮烈な化学反応をもたらします。フラスコには、メキシコ、ブラジル、カナダ、テキサスの多様な背景、文化がしたたり、メタル革命を指標する “スーパーメタル” が誕生しました。間違いなく、OUTWORLD や HEAVEN’S GUARDIAN で知られる Carlos Zema の強靭な歌声は革命のハイパーウェポンでしょう。
「今回のパンデミックで世界中の人々が受けた心身への影響を目の当たりにして、このアルバムのテーマが思い浮かんだ。その結果、ソリッドでヘヴィで革新的なアルバムになった。今、世界で起きていることと密接に関連している。」
“Psychosomatic”、心身症と名付けられたアルバムは、その名の通りパンデミックが引き起こしたロックダウンや自己隔離といったストレスにより、心や身体に異常をきたす非日常の2020年代をビッグテーマとしています。一時は “Candlelight” 蝋燭の灯で悲しみに沈んだアルバムは、それでも “New Day Rising” の希望に満ちたプログレッシブなパワーメタルで新たな日々の到来を焦がれるのです。
今回弊誌では、Gabriel Guardian, Carlos Zema にインタビューを行うことが出来ました。「欠点は、2つの楽器を常に練習しなければならないこと。2つの楽器を使いこなすために、他のミュージシャンの2倍の練習をしなければならないんだ。2つの楽器をセットアップして、ケアをしなければならないのもめんどうだよね。」 不死の守護者によるメタル革命のはじまり。どうぞ!!

IMMORTAL GUARDIAN “PSYCHOSOMATIC” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【I BUILT THE SKY : THE ZENITH RISE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ROHAN “RO HAN” STEVENSON OF I BUILT THE SKY !!

PHOTO BY Huang Jiale

“To Me It Expresses The Nature Of The Project, Being Free To Create Your Reality I Built The Sky = I Create My World/My Art.”

DISC REVIEW “THE ZENITH RISE”

「僕にとってこの名前は、プロジェクトの本質を表現しているんだ。現実から自由になって、”空を構築する”。つまり、それって自分の世界/芸術を創造するって意味なんだ。
このプロジェクトは、以前僕の考え方だった “努力して作る” よりも、純粋に創造するため始めたものなんだけど、皮肉なことに、今ではフルタイムで取り組んでいるよ。」
“空には限界がないでしょ?” 南半球オーストラリアの天つ空は Rohan “Ro Han” Stevenson の牙城です。そうして大気圏から成層圏、東西南北を所狭しと吹き抜けるギターの風は、流動の旋律を後方へと置き去りにしていきます。
「僕は、空がどれだけ芸術的であるかにもとても惹かれているんだ。様々な色合い、要素、バリエーションがあって、全く同じような空模様になることは2度とない。だからこそ、その一期一会な偶発性を心から楽しんでいるのさ。」
Tosin Abasi, Plini, David Maxim Micic, Misha Mansoor。ある者は衝撃のテクニックを、ある者はリズムの迷宮を、ある者は斬新なトーンを携えて登場したモダンギターの精鋭たちは、弦の誉を別次元へと誘っています。
そんなニッチなインストゥルメンタルワールドにおいて、Ro Han は空という蒼のキャンバスにカラフルな虹音を誰よりも美しく描いていきます。テクニックや複雑性よりもリスナーを惹きつける魔法とは、きっとストーリーを語り景色を投影する能力。彼にはそんな音の詩才や画力が備わっているのです。
「僕は Tosin や Misha と対照的に多くの部分でロックやパンクのヴァイブを保っていると思うんだ。間違いなく、彼らほどギターは上手くないんだけど、それはきっとユニークなセールスポイントだろう。」
BLINK 182, GREENDAY といったポップパンクの遺伝子を色濃く宿したハイテクニックの申し子。”Journey to Aurora” は象徴的ですが、確かに Ro Han の空にはいつだって明快なメロディーが映し出されています。そして、djent のリズミックアクセントを、さながら流れる雲のごとく疾走感へ巧みに結びつけていくのです。
100万回の視聴を記録した “Up Into The Ether” は Ro Han の決意をアップリフティングな旋律に込めた希望の轍。2019年の夏に仕事を辞して I BUILT THE SKY で生きていくと誓った Ro Han。成功しようと失敗しようと後悔を残して生きるよりはましだと訴えます。
一方で、KARNIVOOL, DEAD LETTER CIRCUS を手がけた名プロデューサー、Forrester Savell との共闘、オーストラリアンセンセーションはアルバムによりアトモスフェリックで感傷的な空模様ももたらしました。
ダークで激しい雷鳴のようなタイトルトラック “The Zenith Rise” が晴れ渡ると、レコードはクリーンギターとアコースティックのデリケートでメロウ、時に優しくチャーミングな鮮やかな3つの音風景を残してその幕を閉じます。実際、この偶発性、予想不可能性から生まれるダイナミズムこそ Ro Han の音楽がクラウドコア、天気予報のインストミュージックと例えられる由縁なのでしょう。
今回弊誌では、Rohan “Ro Han” Stevenson にインタビューを行うことができました。「僕は自分でやらなきゃ気が済まないタイプで(コントロールフリークと言う人もいるかもしれないけど)、これが他の人との共同作業から遠ざかっていた原因の一部なんだ。
それはたぶん、僕が強い芸術的なビジョンを持っているからだと思う。自分が何を達成したいのか分かっているような気がするし、外から他の要素を加えても結局最終的な目標から遠ざかるだけだろうから、主に一人で音楽を作っているんだ。」8/5には P-Vine から日本盤もリリース決定!どうぞ!

I BUILT THE SKY “THE ZENITH RISE” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【NOVENA : ELEVENTH HOUR】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH HARRISON WHITE OF NOVENA !!

“We Felt That Ross & Gareth, The Two Tones They Created Were Distinct, Rich And Balanced Each Other Out Nicely. It Really Gave Us a Wide Palette Of Colours To Paint With On This Album. We Love Playing With That Duality Of Light/Dark, Fragile/Destructive etc.”

DISC REVIEW “ELEVENTH HOUR”

「僕たちはあらゆる種類の音楽が大好きだからね。どのジャンルが何であるかは僕たちにとってそれほど重要ではないんだよ。すべての音楽に価値があると信じているからね。」
HAKEN, SLICE THE CAKE, THE HAARP MACHINE, RAVENFACE, SLUGDGE, そして BLEEDING OATH。21世紀のプログレッシブ世界において最重要と言える綺羅星の住人が集結した NOVENA は文字通りのスーパーグループです。そうして彼らが創り上げたデビューフル “Eleventh Hour” は、その多様性と劇場感、旋律の煌めきで10年代最高峰のモダンプログ作品となった HAKEN の “The Mountain” と同等のエピックワールドを宿していたのです。
「死は僕たち全員をつなぐものだけど、それについて話すことはしばしば非常に難しいようにも感じられる。ただし、この作品が不健全で悲観的なレコードになることは望んでいなかったんだ。僕たちの本当の目的は、人生で最後の章に入った人々のストーリーを取り上げ、彼らの経験がどのようなものかを探ることだったからね。」
“Eleventh Hour”, 23時とは、人生を24時間に例えたライフクロックにおける残り1時間、まさに終焉の刻。その僅かな時間の光度や色彩、流速はきっと千差万別でしょう。NOVENA はそんな終幕の舞台を73分、10の顔で演じきり、単色に思われた悲壮な死のイメージをカラフルに塗り替えて見せたのです。
「Ross と Gareth、ボーカルの2人が NOVENA で創造した2つのトーンは明確で、豊かで、 互いにバランスが取れていたんだ。このアルバムにペイントする色彩豊かなパレットを提供してくれたんだよ。つまり僕たちは、明/暗、脆弱/破壊といった二重性をプレイするのが大好きなんだ。」
モダンプログ世界において、LEPROUS の Einar Solberg と共にエセリアルを一手に引き受ける Ross Jennings の存在により、たしかに NOVENA と HAKEN の比較は避けがたいものとなっています。しかし、声の片翼に SLICE THE CAKE の鬼才 Gareth Manson を配置することで、NOVENA の可能性はエピックの空高く舞い上がることとなりました。
その NOVENA の独自性を証明するのが、ジャズの深淵を探求した “Sail Away” からシアトリカル極まる “Lucidity” への流れでしょうか。時の流れをしめやかに紡ぐ Ross の美麗の一方で、激烈なグロウルからクリーントーンのコーラス、そして感情を湛えるスポークンワードまで多様に演ずる Gareth の才気は完璧なコントラストを運び、まさに死を眼前に見据える複雑な明と暗、穏と激を見事に描写します。
そうして芽生えたダイナミズムの炎は、”Corazon” でエスニックに燃え上がります。「単なる断片的な音楽じゃなく、物語を語り ‘楽曲’ を書くことは、作曲の過程が常に重要であり、僕はそのストーリーの伝達に最も役立つと思われるあらゆるツールを試して使用したいと思っているんだ。だからキューバの2人のキャラクターを追った “Corazon” のような楽曲の場合、そのストーリーを伝えるにはその国の音を含める必要があると感じたんだよ。」
フラメンコからボレロにルンバ、女声にハンドクラップまで、Harrison の言葉通りあらゆるツールを使用してドラマティックに構成した8分のカリブ劇場は、あまりにエモーショナルで胸を打ちます。
もちろん、”Indestructible” で見せるポップとデスコア、言わば STYX と WHITECHAPEL の共存は実に新鮮ですし、DREAM THEATER と Djent をメズマライズに並列に並べた15分を超えるクローサーの “Prison Walls” も見事の一言。
今回弊誌では、Harrison White にインタビューを行うことが出来ました。「Djent の定義? アートフォームの先駆者が客観的な意味で独自のスタイルを定義することはほとんどないんだから。そういった議論は後に人々が振り返り、その周りで起こった流れの文脈の中でアートを見て、物事を分類し始めるときに起こるんだよ。」 すでにシーンの同胞から絶賛を浴びている本作。プログメタル世界随一の変態ベーシスト Moat にも要注目。どうぞ!!

NOVENA “ELEVENTH HOUR” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【JINJER : MACRO】


COVER STORY : JINJER “MACRO”

“I Was Too Young To Remember Life In Soviet Union, But The Spirit Of Soviet Union Is Still Here. I’m Living In An Apartment Built Maybe 40 Years Ago, And My Parents Live In Such An Apartment, As Well. All Our Shops And Supermarkets Are Situated In Buildings Built Then. So It Is Still Sike Soviet Union. And There Are a Lot Of People Who Still Have Soviet Union In Their Heads And Their Minds.”

HOW JINJER SINGER TATIANA CROSSES MUSICAL, LYRICAL, AND UKRANIAN BORDER 

「時に穏やかで平穏。だけど時に人々は何かが起こるのをただ待っている。今現在、少なくとも爆撃はされていないわ。それは良い事ね。」
JINJER のボーカリスト Tatiana Shmailyuk はウクライナのドネツクにある故郷ゴルロフカについてそう話します。彼女とバンドメイト、ベーシストの Eugene Abdiukhanov、ギタリスト Roman Ibramkhalilov、そしてドラマー Vladislav Ulasevich が最初にドネツクから逃れたのは2014年のことでした。それから程なくして、ウクライナの内戦を装った現在も続くウクライナとロシアの衝突、クリミア危機が勃発したのです。
「良い時期に脱出したと思うわ。だって数ヶ月後には国境地域を跨ぐことさえ本当に不可能となっていたんだから。」
戦場から逃れる中で、JINJER は東部から西部へと800マイルを移動してポーランドとの国境に近いリヴィウに立ち寄りました。
「だけどすぐに退屈してしまったわ。旅行者のための街だったから。家も借りたんだけど、水道、電気、暖房設備に問題があって住むことは難しかった。だからもっと文明化された場所へ移ることにしたの。」そうして Tatiana 達はウクライナの首都キエフへと移り住んだのです。

では、ウクライナの風土や国民性は JINJER にどういった特徴をもたらしているのでしょうか?
「JINJER は優しさと弱さが等しい土地から生まれたの。ウクライナは経済的には厳しい国よ。特に90年代前半、私たちの親の世代は大変だった。父と母は最低の賃金を得るためでさえ一生懸命働かなければならなかったの。兄と私を養うために。学校や家の近くにもいつも犯罪があったしね。そこから私たちは人生の教訓を多く学んだわ。
だからウクライナ人は精神的にタフなのよ。例えば少々痛くても、医者には行かないわよ。最後まで我慢する。 だからショウもキャンセルなんてしないわ。ジュネーブの灼熱で喉が腫れ上がっても、私はセットを完遂したわ。根性ね。」
ただし、素顔の Tatiana はシャイな一人の女性です。「みんな私を鉄の女か何かだと思っているようだけど、私だって人生全てを恐れているわ。だから演じているようなものよ。みんなと同じようにセンシティブで傷つきやすいの。いつもスクリームしている訳じゃないしね。まあ毎晩叫んでいるけど、朝は叫ばないわ (笑)。」

Tatiana は JINJER を始めるずっと以前から歌い、そしてその咆哮を響かせていました。
「母に言わせれば、とても幼い頃からスクリームしていたそうよ。叫びすぎておなかにヘルニアができたくらいにね。」
稀に叫んでいない時には、ラジオで聴いたロシアやウクライナのポップソングを歌っていました。1989年のヒットソング “Lambada” も彼女のお気に入りです。「ポルトガル語は分からないけど、シンガロングしていれば楽しいわよね。」
シリアスにボーカルへ取り組み始めたのは8歳の時。レッスンを受け、コンサートホールで合唱隊としてコンサートを行いましたが、ダンスの振り付けに悩まされてしまいます。
「二度とやらないわ!ダンスを誰かとシンクロさせるなんて苦行。一人でなら全てをコントロール出来るんだけどね。」
しかしすぐに兄によってロシアンメタルの世界へと誘われ人生が変わりました。中でも、ロシアの IRON MAIDEN と称される ARIA の存在は別格。
「ドネツク、特に私の故郷ゴルロフカの人間は音楽的なのよ。メタルが大好きだしね。偉大なバンドも沢山あったわ。兄もミュージシャンでダークなドゥームバンドでギターを弾いていたの。」

1991年、ソヴィエト連邦が崩壊すると変化は猛烈な勢いで押し寄せました。MTVはウクライナにも NIRVANA や OFFSPRING のウイルスを運びます。
「NIRVANA を聴いてすぐにロシアのロックを忘れたわ (笑)。MTV は最高だった。すぐに OFFSPRING にハマったわ。私たちの街で私は一番の OFFSPRING ファンに違いなかったの。父がテレビの音をカセットに録音する方法を教えてくれてね。友人やクラスメイトとテープの交換を始めたのよ。そうしてリスナーとして音楽体験を共有していたのね。」
OTEP の Otep Shamaya は Tatiana の感性に衝撃を与えました。「この男の人は最高にクールね!って言ったら友人が女の子よって。OMGって感じよ!こんな女の子は初めてだったわ。そうやって私も彼女みたいに衝撃を与えたいって思うようになったの。
私も9歳からずっと男物の服を着ているわ。それって結局、性別で世の男性を虜にしたくないからなんでしょうね。それよりも中身や心で惹きつけたいのよ。去年ツアーで会えたんだけど、酔っ払っていてずっと彼女を賞賛していたことしか覚えていないの。」
2009年、キエフに訪れた SOULFLY が初めてのメタルコンサート。「めったにない機会だったのに、彼氏が誰かと喧嘩をはじめて途中でセキュリティーに追い出されたのよ。その夜はずっと彼を責め続けたわ。」

近年、ツアーで家を開けることも多い Tatiana ですが、それでも継続中の紛争は彼女をウクライナから完全に切り離すことはありませんでした。ただしソヴィエトのアティテュードに魅力を感じることはありません。ソ連が崩壊した時 Tatiana はわずか4歳でしたが、それでも強硬な共産主義の残影は彼女を未だに訶みます。
「ソビエト連邦での生活を思い出すには幼すぎたけど、それでもソ連の精神はまだここにあるの。私はおそらく40年前に建てられたアパートに住んでいて、両親も同様にそんな感じのアパートに住んでいるわ。お店だってスーパーマーケットだって当時建てられたもの。だからここは今でもまるでソ連よ。それにまだ多くの人々が頭や心にソ連を宿しているの。
古い人間をマトリョーシカって呼んでるわ。私の容姿はバスの中でもジロジロ見られるし。ウクライナでは男性でもタトゥーは受け入れられていないの。まだ U.S.S.R の考え方でいるから、異なる人間が気にくわないのよ。そういった年配の人たちはテレビばかり見ているけど、そこに現実は映っていないわ。タトゥー?あなた60歳になったらどうするの?って感じよ。」

青春期を東欧の貧困家庭で過ごした Tatiana の人間に対するダークな見方は、彼女の故郷に限りません。「私は人類が好きじゃないの (笑)。進化で何かがおかしくなったのよ。今では神様や自然を蔑ろにしている。それが私の内なる怒りを呼び起こすのよ。」
母なる自然への愛情は Tatiana をヴィーガンに変えようとしています。「私はまだビーガンになろうとしているところなの。子供の頃あまり裕福じゃない家庭で育ったから、肉を食べる余裕があまりなくてね。だから最近肉をやめて、肉が大好きだって気づいたの。肉の匂いがすると、気が狂いそうよ。でも動物の苦しみや環境を思うとね…。」
幸いなことに、Tatiana はヴィーガンへの願望と肉食への渇望を両立させる解決策を持っています。「人間の肉を食べることが許されるならそうするわ (笑)。そんなに食に貪欲なら、お互いを食べてみない?」

DISC REVIEW “MACRO”

Facebook に次いで世界で2番目に人気のあるソーシャルメディアプラットフォーム YouTube。JINJER が公開した “Pisces” のライブビデオはすでに2800万回の視聴数を誇ります。
当然そこには、ウクライナという出自、さらにジキルとハイドを行き来する女性ボーカル Tatiana の希少性、話題性が要因の一つとして存在するはずです。
ただし、JINJER の音楽がオンラインによくある、短命のインスタントなエンターテインメントでないこともまた事実でしょう。ベーシスト Eugene にとっては音楽が全てです。
「ウクライナ出身だから政治性を求められるのも分かるんだけど、僕らの音楽にかんしては何物にも左右されないんだ。仮にロシア出身だろうと、イタリア出身だろうと同じだよ。音楽と僕たち。全てはそれだけさ。」
つまり、JINJER は同時代の若者に表層から衝撃を与えつつ、実のところその裏側では幾度ものリスニング体験に耐えうる好奇心と思考の奥深きトンネルを掘り進めているのです。
実際、Tatiana は JINJER がスポットライトを燦々とその身に浴びるような集団ではないと語ります。
「有名になりたいって訳じゃないの。今でも私は車ももっていないし築40年のアパートに住んでいるわ。だから第2の “Pisces” を作ろうなんて思わない。JINJER は大人気になるようなバンドじゃないわ。」

とは言え、PROTEST THE HERO の精子と KILLSWITCH ENGAGE の卵子が受精し生まれたようにも思える2012年の “Inhale, Don’t Breath” から JINJER は異次元の進化を遂げています。比較するべきはもはやメタル世界最大の恐竜 GOJIRA でしょうか。それとも MESHUGGAH?
テクニカルなグルーヴメタルに Nu-metal と djent の DNA を配合し、R&B からジャズ、レゲエ、ウクライナの伝統音楽まで多様な音の葉を吸収した JINJER のユニークな個性は全てを変えた “King of Everything” から本格化へ転じたと言えるでしょう。
2019年に届けられた EP “Micro” とフルアルバム “Macro” は双子のような存在で、創造性のオーバーフローの結果でした。
「もともとフルアルバムの予定はなかったんだ。”Micro” は次の作品までの繋ぎって感じだったんだけど、完成が近づくともっともっと楽曲を書きたくなってね。クリエイティブなエナジーが溢れていたんだ。」

無慈悲なデスメタルから東欧のメランコリー、そしてレゲエの躍動までを描く“Judgement (& Punishment)” はJINJER の持つプログのダイナミズムを代弁する楽曲でしょう。
「僕たちの音楽に境界は存在しない。いいかい?ここにあるのは、多様性、多様性、そして多様性だ。」そう Eugene が語れば Tatiana は 「JINJER に加わる前、私はレゲエ、スカ、ファンクをプレイするバンドにいたの。だからレゲエの大ファンなのよ。頭はドレッドにしていたし、ラスタファリに全て捧げていたわ。葉っぱはやらないけど。苦手なの。JINJER は以前 “Who Is Gonna Be the One” でもレゲエを取り入れたのよ。レゲエをメタルにもっともっと挿入したいわ。クールだから。」と幅広い音楽の嗜好を明かします。
判決を下し罰するというタイトルは SNS に闊歩する魑魅魍魎を揶揄しています。「気に入らなければ放って置けばいい。私ならそうするわ。なぜ一々批判的なコメントを残すのかしら?それって例えばスーパーに行って質の悪いバナナを見る度、おいクソバナナ!お前が大嫌いだ!さっさと木に戻りやがれ!って叫び始めるようなものでしょ?(笑) 私は他にやるべきことが沢山あるの。そんなことに割くエナジーはないわ。」

“On The Top” は2020年代の幕開けを告げる新たなプログアンセム。SOULFLY を想わせるトライバルパーカッシブと djent の小気味よいスタッカートシンコペートは Tatiana のフレキシブルな歌呪術へと怪しく絡みつき融けあいます。
「ラットレースのラットを演じてるって感じることはある?世界はどんどんそのスピードを増し、誰もが成功と呼ばれるあやふやなものに夢中よね。”On The Top” で訴えたのは、名声や成功に伴う孤独と満たされない心。”トップ” に到達するため犠牲にするものは多いわ。その梯子は本当に登る価値があるの?犠牲を払うのは自分自信なんだから。」
ウクライナの陰影を抱きしめたコケティッシュな “Retrospective”、ポルトガルのライター José Saramago の著作にインスピレーションを受け、死を地球を闊歩するクリーチャーになぞらえた “Pausing Death”、大胆にも聖書を再創造したと語る “Noah” など、Tatiana の扱う題材は多岐に富み、世界をマクロ、そしてミクロ、両方の視点から観察して切り取るのです。
「ウクライナでは決してメタルは歓迎されていないの。にもかかわらず素晴らしいバンドは沢山存在するわ。ただ、チャンスを把み国境を超えることは本当に難しいの。」
アイコニックな女性をフロントに抱き、多様性を音楽のアイデンティティーとして奉納し、ウクライナという第三世界から登場した JINJER は、実はその存在自体が越境、拡散するモダンメタルの理念を体現しています。音楽、リリックのボーダーはもちろん、メタファーではなく実際に険しい国境を超えた勇者 JINJER の冒険はまだ始まったばかりです。

参考文献: FROM WARZONES TO MOSH PITS: THE EVOLUTION OF JINJER’S TATIANA SHMAILYUK: REVOLVERMAG

Jinjer Singer Didn’t Want ‘Pisces’ to Become So Popular [Exclusive Interview] Read More: Jinjer Singer Didn’t Want ‘Pisces’ to Become So Popular | LOUDWIRE

Ukrainian Metal Band Jinjer Delivers on Its Promise With New Album ‘Macro’

METAL INJECTION “JINJER”

JINJER Facebook Page
JINJER Official
NAPALM RECORDS

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE CONTORTIONIST : OUR BONES, CLAIRVOYANT】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ERIC GUENTHER OF THE CONTORTIONIST !!

“After Being Established As a Band Securely In a Genre, It Takes a Lot Of Courage To Move Past That And Try To Evolve At The Risk Of Losing Fans, And That Was Always a Goal Of The Contortionist.”

DISC REVIEW “OUR BONES” “CLAIRVOYANT”

「Djent というジャンルの中でしっかりとバンドとして確立された後、それを乗り越えて、ファンを失うリスクを負ってまで進化しようとするには多くの勇気が必要なんだけど、だけどその進化こそ THE CONTORTIONIST の目標だったんだからね。」
プログレッシブデスメタル/Djent の傘の下で生を受けたインディアナのセクステットは、生来のブルータルな刃を徐々にムーディーでスペーシーな蜃気楼へと転化させ、”曲芸師” のイリュージョンでその名を完璧に体現しています。
「本質的に、僕たちはアトモスフィアやテクスチャーを引き出して、当時自分たちの周りで起こっていた Djent のような他の音楽と対比できることを知っていたんだよ。そうして、バンドの特徴、アイデンティティをさらに強化するため、これまでの自分自身と距離を置く必要性を感じたんだ。 」
奇しくも THE CONTORTIONIST の見つめる先は、彼らが深いリスペクトを捧げ記念すべき “Colors” 10周年のツアーにも帯同することとなった BETWEEN THE BURIED AND ME と共振の路にあるように思えます。重激から衷心へ。他者との対比を野心とした2017年のフルアルバム “Clairvoyant” は、かつての自分自身を千里の彼方に仰ぎ見る “ノースクリーム” な “Post-Whatever” の傑物でした。
“Clairvoyant” とそのプロトタイプである “Language” は、連続する壮大なアシッドトリップのオデッセイとして産み落とされています。”Language” は成長と生を、”Clairvoyant” は死を司るレコード。アトモスフィアを宿したポストロックの血縁と、ヘヴィーシンセのエニグマでボーカル Lessard が友人の薬物中毒を綴る光と陰のエピック。荘厳なクリーンボーカルは完全なる主役となり、テクニックはテクニックのためではなくストーリーのために存在することとなりました。
深遠なるテクスチャー、畝り寄せるインテンス、シンセの絶景、美麗極まるアレンジメントの宇宙。もはや比較対象は KARNIVOOL や Kscope の詩人たちなのかもしれませんね。インタビューに答えてくれたシックスマン、Eric Guenther のシネマティックなセンスは確かにバンドのイデア変えました。
ただし、最初期の “Exoplanet” や “Intrinsic” が UNEVEN STRUCTURE, TesseracT と並んで “Post-Djent” の一翼と目されていたことを鑑みれば、”Clairvoyant” の音の葉にはバンドのスピリットであったメタリックな複雑性と知的な展開美をより艶めかしく赤裸々に再創造した曲芸師の美学をも同時に感じ取れるはずです。
「僕たちのコンセプトは、新たな音楽と共に日々進化しているからね。」そうしてリリースを迎えた新 EP “Our Bones” はバンドの歴史全てを骨子とした進化のステイトメントです。
「”1979″ は楽曲として強力なムードを湛えていて良い選択に思えたね。それにプログメタルバンドは、音楽にあれほど多くのフィーリングを付与することはなかなかしないからね。」
SMASHING PUMPKINS のエモーショナルなカバーは、自らを、そしてリスナーを別次元の宇宙へと誘います。
TOOL の残影を自らの美意識と深く重ねた “Follow”、メインストリームを多彩なサウンドで抱きしめる “Early Grave”。プログメタルの典型から確かに距離を置いたしかしプログレッシブな楽曲群は、ポスト/モダンプログの旗手に相応しきチャレンジの凱歌でしょう。そうしてその音の波は、きっと LEPROUS や HAKEN,
現在の TesseracT ともシンクロし共鳴していくのです。
今回弊誌では、Eric Guenther にインタビューを行うことが出来ました。「SikTh こそがおそらく Djent というジャンルにとって最も重要な真の創造主なんだよ。SikTh は MESHUGGAH が始めたことを、よりポップでメロディックなフォーマットへと拡張していったんだ。特別名前を挙げるまでもなく、Djent バンドの全てが MESHUGGAH よりも SikTh のサウンドに寄っていたと思う。」 どうぞ!!

THE CONTORTIONIST “OUR BONES” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【HUMANITY’S LAST BREATH : ABYSSAL】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BUSTER ODEHOLM OF HUMANITY’S LAST BREATH !!

“Djent Was a Continuation Of What Meshuggah Started. Everyone Added Their Own Flavour To The Sound For Better Or For Worse. Thall Is Just a Word That Sounds Funny In Swedish.”

DISC REVIEW “ABYSSAL”

「MESHUGGAH はあの本当にユニークなサウンドの先駆者なんだ。演奏の面でも、作曲の面でもね。僕たちも含めて多くのバンドが彼らの直接的な子孫だと言えるだろうな。」
そのジャンル名は “EVIL”。MESHUGGAH の血を引くスウェーデンの猛威 HUMANITY’S LAST BREATH は、シーンに内在する愚かな “ヘヴィネス” の競争を横目に、純粋で無慈悲なまでに冷徹な恐怖と狂気を世界へと叩きつけます。
Calle Thomer と Buster Odeholm。”Thall” 生みの親にして Djent の神、VILDHJARTA のメンバー2人を擁する HUMANITY’S LAST BREATH に大きな注目が集まるのはある意味必然だったと言えるでしょう。何より、VILDHJARTA 本体は長らく隠遁状態にあったのですから。
ただし、HLB は決して VILDHJARTA のインスタントな代役というわけではありません。「Djent のムーブメントは MESHUGGAH が始めたことの継続だったんだ。良しにつけ悪しきにつけ、みんながその下地に独自のフレイバーを加えていったよね。」Buster の言葉が裏付けるように、HLB が追求し個性としたのは Djent を通過した “重” と “激” の究極形でした。
2012年のデビューフル “Humanity’s Last Breath” から7年。実際、唯一のオリジナルメンバー Buster がバンドを一度解体し、再構築して作り上げた最新作 “Abyssal” は彼の愛する MORBID ANGEL のように重量以上の畏怖や威厳を伝える音の “深淵” だと言えるでしょう。
「ヘヴィーな音楽において、コントラストは非常に軽視されていると思うんだ。だけど僕はソングライティングのアプローチにおいて、最も重要な要素の1つだと考えているよ。」モダンメタルコアの新星 POLARIS はヘヴィネスの定義についてそう語ってくれましたが、HLB の威容にも奇しくも同様の哲学を垣間見ることが可能です。
オープナー “Bursting Bowel Of Tellus” は HLB が描く “激重” の理想なのかも知れませんね。威風堂々、デスメタルの重戦車で幕を開け、ピッチシフターの雄叫びと高速シンコペーションで djenty なカオスを創出。ブラストの悪魔を召喚しつつ呪術的なクリーンボイスでさらなる中毒性を醸し出すバンドの方程式は、まさしくヘヴィネスの坩堝と対比の美学に彩られています。
事実、新ボーカル Filip Danielsson の豊かな表現力は HLB にとって進化のトリガーだったのかも知れません。獰猛な咆哮はもちろん、時にエセリアルに、時に邪悪に、時に囁き、時に静寂まで呼び寄せる Filip のワイドな魔声により、仄かな北欧の風を伴ってバンドは多様に真の “激重” の探求へとその身を委ねることになりました。
さらに “Born Dust”, “Fradga”, “Abyssal Mouth” と聴き進めるうち、そこには STRAPPING YOUNG LAD, FEAR FACTORY と交差する、近未来感を軸としたシンクロニシティーがまざまざと浮かんで来るはずです。それはブラッケンドで djenty な最高級のテクニックを、惜しげも無く純粋にヘヴィネスへと注ぎ込み昇華した桃源郷のディストピア。
もちろん、アルバムの第二幕、全楽曲のインストバージョンは建築士としての自信と DIY の矜持であることを付け加えておきましょう。彼らのデスコアマッドネスに知性は不可欠です。
今回弊誌では、ドラムスとギターを自在に操る鬼才 Buster Odeholm にインタビューを行うことが出来ました。「”Thall” とはスウェーデン語で面白く聴こえるようなただの言葉なんだ。」今、世界で最も重力を集めるブラックホール。どうぞ!!

HUMANITY’S LAST BREATH “ABYSSAL” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ANUP SASTRY : ILLUMINATE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ANUP SASTRY !!

“I Don’t Really Think “Djent” Movement Has Gone Away Or Anything. The Entire “Djent” Idea Really Just Falls Under The Larger Category Of Progressive Metal, In My Opinion. Bands Have Been Incorporating Small Pieces Of That “Djent” Style For Years.”

DISC REVIEW “ILLUMINATE”

「両親共にインド出身なんだ。ただ、僕はワシントンDCで生まれ、そのエリアの郊外で育ったんだよ。」
ハイテクニカルドラマー、コンポーザー、レコーディングエンジニア、プロデューサーとしてキャリアを重ねる Anup Sastry は、ワシントンエリアのプログメタルを牽引する雄心であり、世界と興起するインドメタルの地平を繋ぐ架け橋です。
プログのネットワークが彼の存在に気づいたのは2011年のことでした。Anup が YouTube にアップした PERIPHERY のカバー “New Groove” は圧倒的な異彩を放っていたからです。流麗かつ繊細なコンビネーション、革新的なタム&シンバルサウンド、体格を活かしたハードヒット、そして決定的なグルーヴ。独特のテクニックで PERIPHERY を料理したコックの手腕には理由がありました。
古くからの友人で、THE FACELESS, GOOD TIGER など数多の “Tech-metal” アクトで辣腕を振るう Alex Rudinger との切磋琢磨、さらに他ならぬ PERIPHERY の Matt Halpern, Travis Orbin への師事。置かれた環境と抜きん出た才能は、そうして Anup を “Djent” ムーブメントの最前線へと誘うことになりました。
「僕たちは “Djent” をプレイすることにはあまり焦点を当てていなくて、ただ創造的でヘヴィーな音楽を書こうとしていたんだよ。」
インドのライジングスター SKYHARBOR のポリリズミックグルーヴに寄与し、トロントのインストゥルメタルマスター INTERVALS のカラフルな創造性を後押しした Anup のドラミングは、”Djenty” と呼ばれるモダンなリズムアプローチの象徴にもなりました。
ただし、ムーブメントの震源地で迸るマグマとなっていたマイスター本人は、 “Djent” にフォーカスしているつもりはなかったようですね。実際、Anup はこの時期、よりメインストリームのギターヒーロー Marty Friedman や Jeff Loomis にも認められレコードやツアーに起用されています。
とはいえ、一方で Anup は “Djent” が残した功績、レガシーを高く評価もしています。「”Djent” というジャンルについてだけど、僕は本当にムーブメントが過ぎ去ってしまったようには思えないんだ。”Djent” の包括的アイデアは、より大きいプログメタルというカテゴリーにしっかりと根付いている。僕の考えではね。つまり、ここ何年か多くのバンドは “Djent” のスタイルのピースを取り入れている訳さ。」
過ぎ去った言われるムーブメントとしての “Djent”。しかし Anup はプログメタルという “大きな傘” の中でその理念やグルーヴが息づき進化を続けていると主張しているのです。
実際、彼がリリースした最新作 “Illuminate” は、”Djent” のレガシーとモダンメタルの多様性が溶け合った挑戦的かつプログレッシブなルミナリエ。そして、これまでインストゥルメタル道を突き進んでいた Anup が、欠けていた最後のピースとして3人のボーカルを全編に起用したマスリスナーへの招待状です。
“The World” で “Djent” の遺伝子に咆哮を響かせる Chaney Crabb、KORN をイメージさせるタイトルトラック “Illuminate” では Mike Semesky が一際陰鬱な表情を加え 、デスコアの猟奇 “Beneath the Mask” と PERIPHERY のダイナミズム “Story of Usで歌唱をスイッチする Andy Cizek の汎用性も見事。ただし最も見事なのは、ワイドで魅力的な楽曲群を書き上げ、ほぼ全ての楽器を自らでレコーディングした Anup Sastry その人でしょう。
「僕はそのやり方を “プログラミングギター” と呼んでいたんだ。とはいえ、サウンドは本物のギターなんだよ。基本的に僕はリフを一音づつ、もしくはすごく小さいパートをプレイしレコーディングするんだ。つまり、結局編集に大きく頼って細切れを繋げているんだよ。」
チートにも思える彼のレコーディング方法は、しかし弦楽器の達人ではないミュージシャンにとって1つの可能性なのかもしれませんね。
今回弊誌では、怪人 Anup Sastry にインタビューを行うことが出来ました。実は今年、古巣 SKYHARBOR にヘルプで参加しライブを行っています。「プログメタルは、メタルの中でも常に新たなクリエイティブなサウンドを求める性質を持っているジャンルだ。だから僕にとって “Djent” とは、どちらかと言えば、プログメタルというもっと大きな傘の中で探求を続ける、また違った推進力になったと思えるね。」  先日インタビューをアップした ARCH ECHO の Adam Bentley もゲスト参加。どうぞ!!

ANUP SASTRY “ILLUMINATE” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SHOKRAN : ETHEREAL】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ANDREW IVASHCHENKO OF SHOKRAN !!

“Oriental Elements Decreased In This Album. But The Compositions Matured, We’ve Gone More Progressive, Less Djent!”

DISC REVIEW “ETHEREAL”

プログレッシブメタルコアのモーゼ、SHOKRAN はジャンルを約束の土地へと導く預言者なのかも知れません。ロシアから世界を窺う指導者は、文字通り天上の美を体現する最新作 “Ethereal” で海を割ります。
ギタリスト Dmitry Demyanenko のソロプロジェクトとして始まった SHOKRAN は、デビューフル “Supreme Truth” で BORN OF OSIRIS の革新にオリエンタルで壮大なサウンドスケープをもたらし、遅れて来た “Djent スター” として一躍脚光を浴びました。
リリース後にはボーカル、リズムギター、ベーシストの脱退という非常事態に見舞われますが、グレードアップしたメンバー、さらにキーボーディストを加え盤石の体制でセカンドアルバム “Exodus” をドロップします。
そうしてバンドは旧約聖書に記された “出エジプト記” をテーマとしたコンセプト作品で、シンセサイザーの煌びやかな響きと、一際エクレクティックなビジョンを携え自らのオリエンタルドラマティックなサウンドを確立することとなったのです。
最新作 “Ethereal” は、メロディーと多様でプログレッシブな方向性をさらに追求し、バンドのドラマ性を飛躍的に高めたマイルストーンです。
「確かにこのアルバムでオリエンタルな要素は減ったと思うよ。だけどコンポジションはより成熟を遂げているね。つまり、僕たちはよりプログレッシブに、Djent の要素を減らして進化を果たしたんだ!」レジェンド THE HAARP MACHINE にも請われて参加することとなったシーンきってのシンガー Andrew Ivashchenko が語るように、典型的な Djent サウンドやあからさまなオリエンタルフレーズを減退させ、”エセリアル” なムードを研ぎ澄ますことで、アルバムは結果として唯一無二のダイナミズム、エピック世界を得ることとなりました。
実際、冷ややかで透明なリードギターとシンセサイザーの景色、ミステリアスなオリエンタルフレーズ、複雑でメカニカルなグルーヴ、スポークンワード、クリーン、グロウルを自在に行き来する声の表現力、全てで荘厳を体現したオープナー “Unbodied” がバンドの DNA をしっかりと受け継ぐ一方で、”Ascension” のサウンドスケープは完璧なコントラストを創出します。
「”Ascension” はアルバムで最も多様な楽曲さ。まさにドラマさ。緩やかに実にメロディックに始まり、メロディーが躍動し始め、アグレッションが加わり、ハッピーなコーラスが流れ出し、突如ヘヴィネスで期待を激しく裏切るんだ。まさに楽曲で最もドラマティックな瞬間だね。そうしてドラマを繰り返し、感情をもたらす訳さ!」Andrew の言葉通り、多幸感や神秘性を抱きしめた夢見心地の崇高美は、メジャー感を伴って SHOKRAN 劇場の素晴らしきアクセントとなっていますね。
そうして SHOKRAN が描く多次元の自己探求は、DREAM THEATER からハチャトリアンまで Tech-metal の粋を尽くした “Superior”、PERIPHERY や MONUMENTS の最新作にも通じるキャッチーさとヘヴィーグルーヴの対比を封じた “Golden Pendant” と、まさにマルチディメンショナルな世界観を提示していくのです。
幕引きは “Destiny Crucified”。ロシアの血が育んだ絶対零度のメランコリーは、ストリングスやアコースティックの蜃気楼を写しながら夢幻泡影のワルツを踊るのです。
今回弊誌では、Andrew Ivashchenko にインタビューを行うことが出来ました。THE HAARP MACHINE の新作についても語る Tech-metal ファン必読の内容だと思います。「今では大きな感情の変化を音楽で表現出来るんだ。僕たちは成熟を遂げ、集団として働けるようになったのさ。」 どうぞ!!

SHOKRAN “ETHEREAL” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DISTORTED HARMONY : A WAY OUT】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH YOAV EFRON OF DISTORTED HARMONY !!

“We Started As Classic Prog Metal, Evolved And Matured Into a Much More Modern Prog Act And I See No Need Or Desire To Add Oriental Elements Into Our Music.”

DISC REVIEW “A WAY OUT”

イスラエルに響く”歪のハーモニー” は世界へと波動する。プログメタルの過去と未来に干渉するクロノトリガー DISTORTED HARMONY は、その最新作 “A Way Out” で無謬のミッシングリンクを提示します。
まさにクラッシックプログメタルの “ユートピア”、”Utopia” でデビューを果たして以来、新世紀の象徴 Jens Bogren をサウンドエンジニアに据えたバンドはより多様でリッチなモダンプログの領域を探求し、温故知新のエキサイティングな融和をシーンにもたらしています。
確かに彼らの方法論は “歪” なのかも知れませんね。なぜなら、同じ “プログメタル” という看板を掲げていながら、クラッシックなレジェンドとモダンな新世代の音楽性、概念には時に多くの共通項を見出せない場合さえ存在しているからです。
しかし、クラッシックなプログメタルを出発点とする DISTORTED HARMONY は自らの豊潤なるルーツと向き合いながら、刺激的な現在、未来の空気をその音楽に反映しています。
「正直僕にはもう耐えられなかったんだ。プログメタルの “一般的な構成” のみと対峙するのは退屈になってしまったんだ。」実際、前作 “Chain Reaction” リリース時のインタビューでバンドのマスターマインド Yoav Efron はそう語っています。そうして彼らが辿り着いた “トリガー” は、Djent, エレクトロニカ、アトモスフェリックといったフレッシュなモダンプログレッシブの領域だったのです。
Amit と Yoel、2人の新たなギタープレイヤーを加え6人編成となった DISTORTED HARMONY が放つ “A Way Out” は、そうしてバンド史上最も鋭くヘヴィー、ダークでパーソナルな感情を宿すマイルストーンに仕上がりました。
EDMの煌びやかなシンセサウンドに導かれるオープナー “Downfall” はアルバムへのシンプルな招待状。小気味よい Djenty なリフエージ、ポリリズムの海に浮かび流れる甘く伸びやかなボーカルメロディーはまさしくバンドが到達した至高のクロノクロス。
よりエピカルな “Awaken” は、一際顕著に交差する時流のコントラストを浮かび上がらせます。ピアノとクリーンギターを使用したジャジーでシアトリカルな世界観は Devin Townsend の遺伝子を脈々と受け継ぎ、同時に繊細なデジタルビートとアトモスフェリックなシンセサウンドがリスナーのイメージを現代へと連れ戻すのです。
後半のアップデートされた Djenty なリフワークと DREAM THEATER ライクなシーケンスフレーズのせめぎ合いも、エスカレートするテクニックの時間旅行を象徴していますね。
そしてこの濃密なタイムトラベルにおいて、特筆すべきは深遠なるディープボイスから甘美で伸びやかなハイノートまで司る Michael Rose のエモーショナルな歌唱と表現力でしょう。
DREAM THEATER の “Awake” を KARNIVOOL や PORCUPINE TREE のセオリー、アトモスフィアでモダンにアップデートしたかのようなメランコリックな秀曲 “Puppets on Strings”, “For Easter” を経て辿り着く “A Way Out Of Here” は、Michael の才能を最大限まで活用しプログレッシブポップの領域を探求した感情の放出、叫びに違いありませんね。固定観念、支配から目覚め芽吹く自我。それはもしかするとバンドの進化した音楽性にもリンクしているのでしょうか。
そうしてアルバムは、高揚感に満ちた “We Are Free”, 荘厳なる “Someday” でその幕を閉じました。希望、喜び、解放、自由。そこに一筋の不安と寂寞を残しながら。
今回弊誌では、キーボードマエストロ Yoav Efron にインタビューを行うことが出来ました。「僕はあんなに小さな小さなシーンにもかかわらず、非常に豊かで多様なイスラエルのシーンにはいつも驚かされているんだよ。」どうぞ!!

DISTORTED HARMONY “A WAY OUT” : 9.8/10

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