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THE 100 BEST MODERN GUITAR ALBUMS OF THE DECADE: 2010 – 2019


THE 100 BEST MODERN GUITAR ALBUMS OF THE DECADE: 2010 – 2019

1: ANIMALS AS LEADERS “THE JOY OF MOTION” (2014)

「優れたブルースギタリストになるための基礎はもちろん美しいよ。だけど別の僕がギターにはもっとユニークなことが出来ると語りかけるんだ…」
10年前に ANIMALS AS LEADERS のリーダーとしてデビューして以来、8弦のDjen衛建築家 Tosin Abasi はタッピング、スイープ、スラップ、フィンガーピッキングなど百花繚乱なテクニックを駆使してクラシカル、エレクトロニカ、ファンク、フュージョン、プログメタルを魔法のように調合し続けています。その鮮やかな多様性とテクニックの再創造まさに10年代モダンギターのベンチマークとなりました。
「シンセやエレクトロニックベースがあるから必要ない。」と言い放ち、もう1人の天才 Javier Reyes を従えた2ギター1ドラムの編成も革新的。
Generation Axe ツアーで Steve Vai や Yngwie Malmsteen でさえ文字通り引き裂いた Tosin の実力は、しかし決して才能だけに依るところではなく日々の鍛錬から生まれているのです。
1日に15時間練習しているのか?との質問に Tosin はこう答えました。
「出来ないことにひたすら取り組み出来るようになる。それは中毒のようなものでね。再びその現象が起こることを望み、再度成功すると徐々に自分の可能性を追い求めるようになる。そうして最終的には自分の理想に極めて近づくんだ。部屋に閉じ込められ義務感で練習している訳じゃない。自分の中に溢れる可能性を解き明かしているだけなんだよ。」

2: ERIC GALES “MIDDLE OF THE ROAD” (2017)

Jimi Hendrix に憧れ、右利き用のギターを逆さまに使用した左利きの Eric Gales は、90年代初頭、Guitar World 誌のベストニュータレントを名刺がわりに華々しく登場しました。しかし以降およそ20年の間、Eric の名前が表舞台で取り上げられることはほとんどありませんでした。
2010年代に入り、転機はあの Shrapnel との契約でした。長年の艱難辛苦は、孤高のギタリストに愛と泪、汗と真実を染み込ませたのです。それは Jimi Hendrix と Miles Daves のレガシーを等しく受け継いだ王の帰還でした。
Dave Navarro, Joe Bonamassa, Mark Tremonti Carlos Santana といったエモーションの達人たちでさえ、Eric を “ブルースロック最高のギタリスト” “地球で最高のギタリスト” “ただただ驚異的” と Eric の才能を絶賛します。
中でもあの Gary Clark Jr.、Lauryn Hill がゲスト参加を果たした “Middle Of The Road” は、Eric に宿るロック、ファンク、ソウル、R&B、ヒップホップの灯火が、信じがたいほどオーガニックに溶け合った傑作となったのです。それは2010年代に開かれらたブルースやジャズのニューチャプターを探る旅とも密接にリンクしていました。
「俺がプレイしているのは全て、自身が経験した広大な感情だ。これまで克服し、貫いてきた下らないことのね。」

3: ICHIKA “FORN” (2017)

ゲスの極み乙女や indigo La End の頭領、百戦錬磨の川谷絵音との邂逅、遠き日本に住まいながら世界の名だたる音楽家から放たれる熱き視線、東京コレクションからNAMMを股にかけるしなやかさ、そして SNS を基盤とする莫大な拡散力。光耀を増した夢幻のクリスタル、琴線の造形師 ichika の有り様は2010年代を象徴し、現代に生きるアーティストの理想像といえるのかも知れませんね。
ただし、ichika は他の “インスタギタリスト” と異なりしっかりと作品というストーリーを残しています。
「僕は普段曲を作る前にまず物語を作り、それを音楽で書き換えようとしています。聴き手に音楽をストーリーとして追体験させることで、より複雑な感情に誘導することが出来るのではないかなと思っているからです。」という ichika の言葉は彼の作品やセンスを理解する上で重要なヒント。
つまり、映画や小説が基本的には同じ場面を描かず展開を積み重ねてイマジネーションを掻き立てるのと同様に、ichika の楽曲も次々と新たな展開を繰り広げるストーリーテリングの要素を多分に備えているのです。小説のページを捲るのにも似て、リスナーは当然その目眩く世界へと惹き込まれて行くはずです。それはきっと、30秒の魔法しか奏でられないSNSの音楽家にとって、左手と同様進化した右手の奇跡よりも羨ましい光景に違いありません。

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4: DAVID MAXIM MICIC “BILO 3.0” (2013)

「セルビアは言うならば西洋と東洋の文化がぶつかる場所なんだ。僕はそこで育ったから両方の世界から多大な影響を受けているね。だから確実に僕の音楽からその要素が聴こえるはずだよ。」
セルビアというギターにとって未知の場所、第三世界から颯爽と登場した DMM の躍進は、2010年代に撤去された境界の証でした。もちろん、テクノロジーの進化によって、DIY の音楽家が陽の目を見るようになったことも併せて時代は進んでいます。
「僕はまずコンポーザーなんだよね。だから違うサウンドを探索したりや違う楽器で実験するのが好きなんだ。」
Per Nilsson, Jakub Zytecki, Jeff Loomis といったマエストロが参加した “Bilo 3.0” において彼らは自分よりもギターにのめり込んでいると断言した David。もちろん、Jeff Beck と Steve Lukather を敬愛する David のソロワークは充分にフラッシーで魅力的ですが、しかしテクニック以上に彼の創造するギターミュージックは、繊細で想像力を喚起するカラフルな絵巻物です。何よりそこには純粋な音楽との対峙が存在します。
「”Bilo”では音楽が音楽を書いているんだ。一切のエゴに邪魔される事なく純粋に音楽自体を楽しむ機会を得ているんだよね。決して誰かを感動させようなんて思わないし、何でもいいけどこれは世界に発信しなきゃって感じたことを発信する僕流の方法なんだ。世界は聴いてくれている。幸せだよ。」

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5: ALTER BRIDGE “FORTRESS” (2013)

Mark Tremonti のソングライターとしての売り上げは、現代ヘヴィーミュージックにおいて比類のないものです。キャプテン “Riff” と称される偉大なギタリストは、ALTER BRIDGE と CREED の足し算で実に5,000万枚以上のレコードを売り上げているのですから。
ただし、Paul Read Smith SE シグネチャーモデルと MT 15アンプでアンセムを生み出し続けるロックスターのシュレッダーとしての一面は過小評価されているのかも知れませんね。
実際、Mark の奏でる起承転結、過去の巨人たちを赤き血肉としたソロワークの鮮烈は、Slash や Zakk Wylde にも引けを取らないスペクタクルを提供してくれます。メロディーの煌めきとシュレッドの焔がエピックの中で溶け合う “Cry of Achilles” は、アコースティックからボトルネックまで駆使した10年代最高のギターマジックでしょう。
大盛況のギタークリニックを開催する身でありながら、何より Mark は今でも学ぶことを恐れていません。弊誌のインタビューにおいても、チキンピッキングの習得に関し、「僕はただ、ギターソロ1つ1つを異なるものにしたいだけなんだ。独自のストーリーを語らせたいね。もし、前作から最新作までの間に新しいトリック(技)を習得したとしたら、僕はいつもそれらを出来るだけ多く新しいアルバムに投影しようとしているんだよ。」と語ってくれていました。
「僕はいつもギターを弾く前に作詞や作曲をしている。だけどギターを弾くことが大好きなんだ。新たな技術やスタイルに取り組む喜びは決して色褪せないよ。だってそれを自分のものにした時は、まるで魔法のような気分になるんだから。」
誰よりもギターを愛するロックスターは、世界からギターヒーローが失われる悲劇を防ごうとしています。何よりギターに出会って、サッカーに熱中していた Mark 少年自身人生が変わったのですから。
「大学に入って本当にギターにのめり込んだんだ。料理をしていたって、洗濯をしていたって、ロクな1日じゃなくても、いつもリビングでギターが弾きたいって考えていたんだから。」

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6: PLINI “HANDMADE CITIES” (2016)

「君たちの大半は Plini を知っていると思うけど、彼の新作 “Handmade Cities” は最高の、先進的な、メロディー、リズム、ハーモニーを深く進化させたインストゥルメンタルレコードなんだ。僕はこんな作品を待っていたし、驚異的な音楽体験を君たちにもぜひオススメするよ。」
ギターゴッド Steve Vai からギターミュージックの未来とまで言わしめた Plini は、プログレッシブの新たな桃源郷オーストラリアから世界に飛び出した逸材です。
ヘッドレスのストランドバーグを代名詞に複雑と爽快、ポリリズムとハーモニーを股にかける新進気鋭のテクニコアラは、意外なことにシンプルなソングライティングを心がけていると語ります。
「作曲は、まず可能な限りシンプルなやり方から始めるんだ。複雑さを取り払い、メロディーの基礎に立ち返ってね。だから最初は、子守唄みたいな感じなんだよ。」
その場所からシンコペーションやハーモニゼーションの塩胡椒で立体感を醸し出すのが Plini 流。
「モダンプログレッシブミュージックにおいて僕が最も不可欠だと思っているのは、リズムの中で起こっていることなんだ。」
モダンプログレッシブの世界は決して難解すぎるコードワークやリズムから成り立っているわけではないと Plini は証言します。ほんの一握りのテンションノートとシンコペーションが驚くほどに世界をコンテンポラリーに変化させのだと。
「ギタリストの多くは複雑な音楽をプレイするには、新しい魔法のコード進行が必要だと考える。基本の外にあるものを学ばなきゃってね。だけど、僕にモダンプログレッシブな音楽を興味深く感じさせるのは、感情的な豊かさなんだ。それはつまり、そのミュージシャンのバックグラウンドを音を通して読み解けるってことなんだと思う。」
カンポジアまでボランティアに赴き、恵まれない子供達のために楽曲を書き、売上を全て寄付する心優しいギターヒーローでもあります。

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7: VULFPECK “MR. FINISH LINE” (2017)

ブラックミュージックのリノベーションが進行した2010年代において、マルチプレイヤー Jack Strutton とベーシスト Joe Dart を中心とした VULFPECK の冒険はあまりにスリリングでした。
Spotify の薄利を逆手にとって、無音のアルバム “Sleepify” をファンにエンドレスで再生してもらい、ツアーの資金200万円を捻出してしまった破天荒なバンドは、世界にミニマルファンクの言の葉を浸透させた張本人。グルーヴを追求したインストから、PRINCE, Stevie Wonder の捻くれたポップファンクに純粋な R&B とその黒はグラデーションを拡げています。
中でも、Flea や TOWER OF POWER の Rocco、EARTH WIND & FIRE の Verdine をフェイバリットに挙げる Joe は今世界で最も注目を集めるファンカデリックベースヒーローです。Joe が語るように、そろそろ音楽はジャムセッションの時代に回帰するべきなのかも知れません。
「僕らは集まって5分か10分アイデアを交わすと、すぐレコーディングボタンを押すんだ。意図的にギリギリの状態で、瞬間を切り取るようにしている。デモを送りあったり、作曲に何ヶ月もかけたりはしないんだ。インプロビゼーションこそ VULFPECK の全てなんだから。」

8: GREG HOWE “WHEELHOUSE” (2017)

ファンクロックとジャズフュージョンを前人未到のテクニックで調合し、インテンスに満ちたギターインストの雛形を作り上げた巨人は、Richie Kotzen との共演が再度実現した “Wheelhouse” でダイナミックなルーツへと回帰します。
Richie との双頭レコード “Tilt” で世界中のギターマニアの心と左手をボロボロに折り、Vitalij Kuprij とのクラシカルな旅路 “High Definition”、Victor Wooten, Dennis Chambers との奇跡 “Extraction” で異世界を堪能したレガートの王様は、長い道のりを経て “正直さ” を求めるようになったと語ります。
「”Introspection” のトーンを高めたようなサウンドだね。だけどあの当時は、シングルコイルの “Start” みたいなトーンにハマっていたから表現法は異なるね。より正直な方向でやりたかったんだ。とても自然で正直なレコードだよ。ワンテイクのものだって沢山ある。”Tilt” みたいなレコードは消化すべきギターがありすぎたんだ。だって変だろ?僕はギタープレイヤーである前にアーティストだ。ミュージシャンであることが先なんだよ。ギターよりも音楽が僕のモチベーションなんだ。」
今回のコラボレーションで Richie は歌で Greg とより深く重なりました。今 Greg Howe が奏でるフューチャーファンクはリアルです。

9: CHON “HOMEY” (2017)

メタル、フュージョン、マスロック、チルウェーブと全方位から熱い視線を注がれる CHON の多様な創造性はまさに越境拡散する10年代のイメージと重なります。実際、バンドの “ホーミー” である南カリフォルニアの太陽、空気、夏の匂いを一身に浴び、望外なまでにチルアウトした “Homey” は、ジャンルに海風という新風を吹き込んでいます。
ソフトでカラフルなコードワーク、デリケートでピクチャレスクなリードプレイ、ダイナミックに研ぎ澄まされたバンドサウンド。高度な知性と屈託のない無邪気さが同居する、オーガニックかつテクニカルなその世界観はまさしく唯一無二。その鋭敏な感性が掴まえたエレクトロニカ、アンビエント、ハウスなど所謂チル系のトレンドを大胆に咀嚼し、トロピカルで新鮮なムードとテクニカルなマスロックを共存させることに成功していますね。
「ジャズピアニストからとても影響されている。CHON には2人のギタリストが存在するけど、1人は左手、1人は右手としてピアノを再現するイメージもあるんだよ。」
勿論、Thundercat や、FLYING LOTUS がフェイバリットに挙がっている事実を知るまでもなく、ここで彼らが、Jazz の領域を拡大する Robert Glasper と “Jazz The New Chapter” のフロンティア精神を意識したことは明らかです。
「自分たちが気に入るサウンドの楽曲を書き続けて、叶うならファンも僕たちの音楽を好きになり続けてくれることだね。その過程で、さらに新たなファンも開拓出来たら良いな。」

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10: YVETTE YOUNG “ACOUSTIC EP” (2014)

新たにギターを始める人の半分が女性。そんな変化の時代に、多くの女性アーティストに勇気を与えたマスロッククイーンこそ Yvette Young。精神面と技術面、両方において彼女がモダンギター世界に与えた影響の大きさは計り知れないものがあります。
「私には一つのスタイルに拘らず、フレキシブルでいることが重要なんだもの。そうすることで、沢山のことや解釈を他人から学べるし、スキルや多様性、そして自信を構築する大きなチャレンジだと見なしているのよ!」
4歳からピアノを始め、7歳でヴァイオリンを学んだという彼女の深遠なる七色のギフトは、決してただ一所に留まってはいません。マスロックに端を発し、ポストロックやプログレッシブまで豊かに吸収した彼女の音の葉は、流麗なテクニックと相乗効果で大空へと舞い上がります。
「私はギターのレイアウト、フレットや弦をピアノの鍵盤に見立てているのよ。低音弦はピアノの”左手”。高音弦は “右手”。その二つをブレンドすることで、ポリフォニー(複数の独立した旋律から成る音楽)を完璧なサウンドで奏でることが出来るのよ。この考え方はとても楽しいと思うわ。
それにピアノは間違いなく指の強さも鍛えてくれたわね。だから”ストロングタッパー”になれたのよ。」

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FEN : THE DEAD LIGHT】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH THE WATCHER OF FEN !!

“I Am Huge Advocate Of a Lot Of The 60s/70s Prog Scene – Yes, Genesis, King Crimson, Rush, Pink Floyd, These Sorts Of Acts And Many More Are a Big Influence On My Approach To Song/Riff-Writing.”

DISC REVIEW “THE DEAD LIGHT”

「僕が育ったかつては湿地帯だった荒野。この風景とそれが体現する感覚の両方を伝えようとすることが、僕の音楽に真のフィーリングと信憑性をもたらす唯一の方法だったんだ。FEN の音楽は大部分がこの特別な雰囲気をリスナーに届けるためのメカニズムで、彼らを荒涼として風にさらされた冷たい旅に誘うんだ。」
古い修道院、朽ちた電信柱、鄙びた風力タービンが唯一人の存在を感じさせる不毛の湿地帯フェンズ。イングランド東部の仄暗い荒野を名前の由来とする FEN は、キャリアを通してその白と黒の景色、自然の有り様と人の営みを伝え続けて来ました。そして奇妙な静けさと吹き付ける冷厳な風、くぐもった大地の荒涼を音に込めた彼らのダークな旅路は、”The Dead Light” に集約しています。
「当時は本当に小さなシーンだったな。僕たち、Neige のプロジェクト、ALTAR OF PLAGUES, それからおそらく LES DISCRETES。数年間は小さなままだったけど、ALCEST がより有名になるとすぐに爆発したね。 彼らのセカンドアルバム “Ecailles De Lune” は、ジャンルの認識を本当にターボチャージさせたと思うね。」
今では飽和さえ感じさせるポストブラック/ブラックゲイズの世界で、FEN は最初期からジャンルを牽引したバンドの一つです。ALCEST に親近感を覚え敬意を抱く一方で、DEAFHEAVEN には少々辛辣な言葉を投げかける The Watcher の言葉はある種象徴的でしょう。
なぜなら、FEN の心臓である “シューゲイズ、ポストロック、ブラックメタルの意識的な融合” は、決して奇をてらった “クレバーなマーケティング” ではなく、フェンズを表現するための必然だったのですから。
「僕は60年代/​​70年代のプログレシーンの強力な支持者なんだ。YES, GENESIS, KING CRIMSON, RUSH, PINK FLOYD といったバンドは、僕のソング/リフライティングに対するアプローチに大きな影響を与えているよ。ほとんど僕の作曲 DNA の本質的な部分と言っても過言ではないね。」
FEN がその ALCEST や他のポストブラックバンドと一線を画すのは、自らの音の葉にプログレッシブロマンを深く織り込んでいる部分でしょう。
実際、”The Dead Light” は PINK FLOYD のスロウダンスを想わせるドゥームの質量 “Witness” でその幕を開けます。ポストロックのメランコリーとプログレッシブなサイケデリアは、2部構成のタイトルトラック “The Dead Light” へと引き継がれ、メタリックな星の光を浴びながら ENSLAVED や VOIVOD にも迫るアグレッシブな酩酊のダンスを誘います。
「光が人間の目に届くまでに消滅した天体だってあるよ。つまり地球から遠い過去への窓を見ているようなもので、光子の量子が空虚を通して力を与え、最終的にアルバムタイトルのまさに “死の光” “長い死” のイメージを届けるんだ。」
もしかすると今、瞳に映る輝きはもはや存在しない死んだ星雲の残像なのかも知れない。そんな空想を巡らせるに十分なロマンチシズムと荘厳さを併せ持つ “Nebula” の魔法でポストブラックに酔いしれたリスナーは、”Labyrinthine Echoes” でプログレッシブとブラックメタルが交差する文字通り宇宙の迷宮へと迷い込み、そうして “Breath of Void” で遥かな天空から荒野の虚無を体感するのです。
もちろん、蒼く冷たい失血のロンド “Exanguination” はきっと彼の地に住まう人々の苦難、喪失、孤立、そして誇りを体現しているはずです。
今回弊誌ではフロントマン The Watcher にインタビューを行うことが出来ました。「ブラックメタルシーンは生き生きとしていて、魅力的な作品を作成する熱意を持ったアーティストで溢れているんだ。全くエキサイティングな時代だよ!」 冷厳でしかしロマンチックなブラックメタルファンタジー。どうぞ!!

FEN “THE DEAD LIGHT” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SCHAMMASCH : HEARTS OF NO LIGHT】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH C.S.R OF SCHAMMASCH !!

“To Me, The Question For The Source Of Inspiration Is The Same Question As “Where Does Life Come From?”. My Answer For Both Questions Would Be “The Cosmic Energy That Creates All And Destroys All”

DISC REVIEW “HEARTS OF NO LIGHT”

「スイスがいかに本当に小さな国であるかを考慮すれば、僕たちの国には初期のエクストリームメタルシーンとその進化にインパクトを与えたバンドがかなり存在したんだよ。」
バーゼルに居を構えるスイスメタルの灯火 SCHAMMASCH は、内省的でスピリチュアル、多義性に富んだトランセンドブラックメタルで CELTIC FROST, SAMAEL, CORONER といった同郷の巨人たちの偉大な影を追います。
「”Triangle” は、恐怖心から解放された心の状態へと導く道を切り開く試みだったね。それを悟りの状態と呼ぶイデオロギーもあるだろう。」
SCHAMMASCH がメタルワールドの瞠目を浴びたのは、2016年にリリースした “Triangle” でした。3枚組、16曲、140分の壮大極まるコンセプトアルバムは、様々な恐怖、不安から解脱し悟りと真の自由を得るためマスターマインド C.S.R にとって避けては通れない通過儀礼だったと言えるでしょう。
もちろん、彼らが得た自由は音楽にも反映されました。ポストロック、プログレッシブ、オーケストラル、さらにはダウンテンポのエレクトロニックなアイデアまで貪欲に咀嚼し、広義のブラックメタルへと吐き出した怪物は、BATUSHKA, LITURGY, BLUT AUS NORD, SECRETS OF THE MOON などと並んで “アウトサイドメタル” へと果敢に挑戦する黒の主導者の地位を手に入れたのです。
「ULVER はもしかしたら、長い間どんなメタルの要素も受け継がずに、それでもメタルというジャンルから現れたバンドだろうな。だから、彼らの現在の姿はとても印象的だよ。」
実際、初期に存在した “具体的” なデスメタリック要素を排除し、ある意味 “抽象的” なメタル世界を探求する SCHAMMASCH が、概念のみをメタルに住まわせる ULVER に親近感を抱くのは当然かも知れませんね。そして最新作 “Hearts of No Light” は、”Triangle” の多義性を受け継ぎながらアヴァンギャルドな音の葉と作品の完成度を両立させた二律背反の極みでしょう。
ブラッケンドの容姿へと贖うように、ピアニスト Lillan Lu の鍵盤が導くファンファーレ “Winds That Pierce The Silence” が芸術的で実験的で、しかし美しく劇的なアルバムの扉を開くと、狂気を伴うブラックメタリックな “Ego Smu Omega” がリスナーへと襲いかかります。
プリミティブなドラミングと相反するリズムの不条理は暗闇の中を駆け抜けて、レイヤードシンセと不穏でしかし美麗なギターメロディーの行進を導きます。悪魔のように囁き、時に脅迫するボーカルと同様に楽曲は荘厳と凶猛を股にかけ、リスナーに社会の裏と表を投影するのです。
故に、一気に内省と憂鬱のアンビエント、ピアノと電子の “A Bridge Ablaze” へ沈殿するその落差はダイナミズムの域さえ超越しています。”Ego Smu Omega” や “Qadmon’s Heir” の壮大劇的なプログレッシブブラックを縦糸とするならば、”A Bridge Ablaze” や “Innermost, Lowermost Abyss” の繊細でミニマルなエレクトロピースはすなわち “光なき心” の横糸でしょう。
そうして静と動で織り上げた極上のタペストリーは、さらにゴスとポストロックの異様なキメラ “A Paradigm of Beauty” のような実験と芸術のパッチワークが施され SCHAMMASCH をブラックメタルを超えた宇宙へと誘うのです。その制限なきアヴァンギャルドな精神は、32年の時を経て再来する “Into the Pandemonium” と言えるのかも知れませんね。
今回弊誌では、ボーカル/ギター C.S.R にインタビューを行うことが出来ました。「僕にとってインスピレーションの源に関する質問は、「人生はどこから来たのか?」と同じ質問なんだよ。そしてその両方の質問に対する答えは、「すべてを創造し、すべてを破壊する宇宙エネルギー」からなんだ。」 どうぞ!!

SCHAMMASCH “HEARTS OF NO LIGHT” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【GATECREEPER : DESERTED】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CHASE MASON OF GATECREEPER !!

PHOTO BY PABLO VIGUERAS

“Gatecreeper Started When I Met Our Drummer, Matt, And Discussed Our Shared Love For Old School Death Metal. We Both Talked About Dismember And Decided To Start a Band. Our Formula Has Always Been The Same Since The Beginning.”

DISC REVIEW “DESERTED”

「GATECREEPER は僕がドラマーの Matt と出会って始まったんだ。僕たちのオールドスクールデスメタルに対する愛をシェアしようぜってね。あの時僕たちは DISMEMBER について熱く語って、それでバンドを始めようって決めたんだよ。」
アリゾナに生を受けたメタリックハードコアの牽引者 GATECREEPER は、その溢れるデスメタル愛でエクストリームミュージックを遂に巨大なスタジアムへと導きます。
「僕たちは “スタジアムデスメタル” という言葉を世界へもたらし、それが取り上げられるようになった。要は、しっかりとエクストリームでありながらキャッチーなデスメタルを作ることが出来るということなんだ。狂気のサウンドでありながら、記憶に残るデスメタルは存在し得るんだ。DEICIDE の “Once Upon A Cross” のようにね。」
今回インタビューに答えてくれた ボーカリスト Chase Mason は Revolver のインタビューでそう怪気炎を上げ、スタジアムでプレイする自らの姿を夢想します。
実際、Chase の前人未到なその野心は決して夢物語ではないのかも知れませんね。
「フロリダデスメタルとスウェディッシュデスメタル。間違いなくその2つは僕たちのサウンドにおいて欠かせない重要な要素だよね。ただ、僕たちはそういったバンドたちの大好きな要素を抽出して、ユニークな僕等のサウンドとなるよう形成していくだけなんだ。」
HORRENDOUS, TOMB MOLD, BLOOD INCANTATION 等と共に OSDM 復興の波を牽引する GATECREEPER。中でも彼らは米国の凶凶と欧州の叙情を繋ぐ大胆な架け橋となり、初期の DEATH や OBITUARY と ENTOMBED, DISMEMBER が完璧なバランスで交わる “スイートスポット” の発見を誰よりも得意としています。
もちろんそこには、BOLT THROWER を頂点とする UK デスメタルの鼓動、さらには Kurt Ballou のサウンドメイクが象徴するように VEIN や CODE ORANGE のメタリックなハードコアとも共鳴する先鋭性も存分に垣間見ることが出来るでしょう。
ただし、”ポストヒューマン” な人類滅亡の世界を描いたアリゾナの “Deserted” で最も目を惹くエイリアンは、ポップである種単純化とまで言えそうなストラクチャーに宿された究極のキャッチーさでしょう。サバスの時代に巻き戻ったかのような凶悪でしかしシンプルなリフワークは、複雑化を極めた現代メタルに対するアンチテーゼの如く鮮烈に脳裏へと刻まれます。
その真の意味での “オールドスクール” の利点は、GATECREEPER ではベースを担当する Nate Garrett がマイクに持ち替え、Chase がベースをプレイ、さらに Eric Wagner もギターを兼任する SPIRIT ADRIFT にもシェアされています。GATECREEPER と SPIRIT ADRIFT、メンバー3名が重複し古を敬う2つのバンドの作品が、海外主要紙2019年のベストに多く選されている事実は複雑化の終焉と単純化への兆しを意味しているのかも知れませんね。
ただし、残念ながら GATECREEPER & SPIRIT ADRIFT の古式ゆかしくしかし斬新な共闘は終わりを迎えるようです。
「僕はもう SPIRIT ADRIFT ではプレイしないし、Nate も GATECREEPER でプレイすることはもうないよ。そうすることで、(同じマネージメントの) 2つのバンドが円滑に、互いに争わずやっていくことができるんだよ。」
Post Malone がアリゾナのショウで GATECREEPER のTシャツを着用したシーンは、今のところ彼らが最もメインストリームへと接近した瞬間だったのかも知れません。ただし、あのメタルを愛するポップアイコンに見初められた音の葉は、いつかスタジアムへと到達するに違いありません。
今回弊誌では、Chase Mason にインタビューを行うことが出来ました。「僕は COFFINS が大好きだし、他にも FRAMTID, DISCLOSE, GAUZE, BASTARD といった日本のハードコアやパンクバンドも気に入っているんだ。」日本盤は DAYMARE RECORDINGS から。どうぞ!!

GATECREEPER “DESERTED” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【OBSEQUIAE : THE PALMS OF SORROWED KINGS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TANNER ANDERSON OF OBSEQUIAE !!

“For Example, Satyricon’s “Dark Medieval Times” Does Not Have Medieval Riffs. And That’s The Point. Metal Often Alludes To These Themes Without Actually Using Them. I Want To Use Them. And That’s The Difference.”

DISC REVIEW “THE PALMS OF SORROWED KINGS”

「SATYRICON の “Dark Medieval Time” には中世のリフなんて含まれていないよ。そこが重要なんだ。メタルはしばしば、中世の音楽を使用することなく、そのテーマを仄めかして来た訳さ。僕は実際に中世の音楽を使用したい。そこが違いさ。」
黒死病の蔓延、階級社会、厳格なキリスト教倫理、貧困、多産多死。”Near-Death Times”、死の香りや足音があまりに身近であった暗美な中世ヨーロッパを現代へと映し出す “古城メタル” OBSEQUIAE は、メタルお得意のメディーバルな世界観、ドラゴンのファンタジーをよりリアルに先へと進めます。
「多くのメタルバンドが中世のイメージやテーマを扱っている。だけど、ほとんどの人はリアルな中世の音楽がどんなサウンドなのか知らないよね。例えばそれはケルティック音楽でも、多くの映画で流れるファンファーレでもないんだよ。音量がとても小さくなる危険を孕んでいるけど、もっと複雑でやり甲斐のある音楽なんだ。」
“歌う宗教” とも例えられるキリスト教を基盤とし、1000年の悠久をへて単旋律から複旋律へと進化を遂げた中世西欧音楽は、現代の音楽家にとって未だ探索の余地に満ちた白黒写真だと OBSEQUIAE のマスター Tanner Anderson は語ります。故にアーティストは自らのイマジネーションやインスピレーションを色彩に描きあげることが可能だとも。
「あの時代の音楽にはまだまだ発見すべき余地が沢山残されているからね。今日僕たちが音楽を記すように記されていた訳じゃないし、拍子だってなかったんだからとても “自由” だよね。」
リュートやハープ、ダルシマーを画筆として中世の音景に命を吹き込む “The Palms of Sorrowed Kings” で OBSEQUIAE はリスナーの “不思議” をより鮮明に掻き立てました。
「実のところ、僕は OBSEQUIAE をブラックメタルだなんて全く考えたこともないんだよ。僕の影響元は、SOLSTICE (UK), WARLORD (US), FALL OF THE LEAFE, EUCHARIST, OPHTHALAMIA みたいなバンドだからね。」
メロディックブラックメタル、メディーバルブラックメタルと称される OBSEQUIAE の音楽ですが、城主の思惑は異なります。
「トラディショナルなメタルに自らのインスピレーションを加えるようなアーティストは尊敬するよ。」
DARK TRANQUILLITY や IN FLAMES といった “最初期の” メロディックデスメタルに薫陶を受けた Tanner は、トレモロやアトモスフィアといったブラックメタルのイメージを抱きながらも、むしろ兄弟と呼ぶ CRYPT SERMON, VISIGOTH と共にトラディショナルメタルのリノベーション、”メタルレコンキスタ” の中心にいます。
「僕はギターのレイヤーとテクスチャーに重量感をもたらしたいんだ。そして、多くの場合、メロディーのフレージングは “声” として聴こえてくるんだよ。」
“In The Garden of Hyasinths” を聴けば、輝きに満ちたギターのタペストリーが十字軍の領土回復にキリストの奇跡をもたらしていることを感じるはずです。その福音は “伴奏、即興、編曲、演奏のテクニック、モードの変曲、リズムなどに関しても多くの考え方が存在する” 中世音楽の独自性を基に構築され、そうして咲き乱れる在りし日のヒヤシンスの庭を蘇らせるのです。
前作 “Aria of Vernal Tombs” に収録されていた4曲のメディーバルインタルードの中でも、”Ay Que Por Muy Gran Fermousa” のミステリアスな美麗は群を抜いていましたが、5曲と増えた今作のインタルードでもメディーバルハーピスト Vicente La Camera Mariño の描き出す耽美絵巻は浮世の定めを拭い去り、リスナーを中世の風車たなびく丘陵へと連れ去るのです。
クリーンボーカルの詠唱がクライマックスを運ぶタイトルトラックや “Morrigan”で、新たに加わったドラムス Matthew Della Cagna の Neil Part を想わせるプログレッシブなスティック捌きが楽曲にさらなるダイナミズムをもたらしていることも付け加えておきましょう。
今回弊誌では、Tanner Anderson にインタビューを行うことが出来ました。「情報も音楽も全てが利用可能なんだから、当時の “アンダーグラウンド” な感覚は感じることが出来ないよ。僕の成長期には、こういった音楽を作っている人について知ることは全く出来なかったからね。時には名前や写真さえないほどに。」 どうぞ!!

OBSEQUIAE “THE PALMS OF SORROWED KINGS” : 10/10

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THE 40 MOST IMPRESSIVE ALBUMS OF 2019: MARUNOUCHI MUZIK MAGAZINE


THE 40 MOST IMPRESSIVE ALBUMS OF 2019: MARUNOUCHI MUZIK MAGAZINE

1: VENOM PRISON “SAMSARA”

「私は “フィーメールフロンテット” って言葉が好きじゃないの。だってこの言葉はただフロントを務める人物のジェンダーのみによって、サブジャンルのようなものを形成してしまうから。その女性ボーカルを擁するバンドたちが生み出す音楽関係なしにね。」
これまで虐げられてきたシーンに対するリベンジにも思える女性の進出は、2010年代のモダンメタルにとって最大のトピックの一つでしょう。
VENOM PRISON の牙は上顎にデスメタルを、下顎にハードコアの “毒” を宿した音楽の鋭き牙。そうしてセクシズムやミソジニーのみならず、彼らは負の輪廻を構築する現代社会全域に鋭い牙を向けるのです。
“クロスオーバー” の観点から見れば、CODE ORANGE や VEIN がハードコアとメタルの禍々しき婚姻をハードコア側のプロポーズで成立させたのに対し、VENOM PRISON はデスメタルの血統で見事にクロスオーバーの美学を体現してみせました。当然、両者の凶悪なマリアージュ、さらに英国の復権も2010年代を象徴する混沌でした。
「セクシズムと言えば私たちはすぐにメタルを批難するけれど、性差別や女性嫌いは音楽業界だけでなく、私たちの生活のあらゆる面で直面する世界的な問題なの。だからセクシズムとの闘いについて話すとき、私はメタルという自分のミクロな宇宙の中だけでなく、あらゆるレベルで戦いたいと思うのよ。」
ファンタジーにかこつけたミソジニーを負の遺産と捉え始めたシーンの潮流において、VENOM PRISON のフロントウーマン Larissa Stupar は潮目を違える天変地異なのかも知れません。”Samsara” がそんな10年の閉幕にスポットライトを浴びたのはある種象徴的な出来事でした。

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2: DEVIN TOWNSEND “EMPATH”

「現在の Devin Townsend が持つ音楽的な興味全てが、一つの場所へ収まったとしたらどうなるだろうか?」
フォーク、シンフォニック、ポップ、プログ、ファンク、ブラックメタル、ジャズ、ニューウェーブ、アメリカーナ、ワールドミュージック、そして EDM。Devin の中に巣食うマルチディメンショナルな音楽世界を一切の制限なく投影したレコードこそ “Empath” です。そして “エンパス” “感情を読み取る者” のタイトルが意味する通り、Devin がアルバムに封じた万華鏡のエモーションを紐解くべきはリスナーでしょう。
「アルバムは、喜びと人々の助けになりたいという思いに根ざしている。楽曲に多様性を持たせたのは、”Empath” “共感”が弱さと捉えられてきた歴史の中で、人生を様々な観点から見る必要性を表現したかったから。僕にとっても長い間狭い場所に閉じ込められていた創造性を解き放ち、恐怖から脱却するためのやり方だったね。多様性が増す時代において、他人の気持ちになって物事を見ることは他者を理解する上で欠かせないプロセスさ。」

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3: WILDERUN “VEIL OF IMAGINATION”

「”エピック” はおそらく最も僕たちの音楽を要約した言葉だけど、ただ僕たちの音楽にあるいくつかのより進歩的で実験的な側面をそれでもまだ除外しているように感じるね。」
虚空に七色の音華を咲かせるフォーク-デス-ブラック-アトモスフェリック-シンフォニック-プログレッシブ-エピックメタル WILDERUN は、ジャンルという色彩のリミットを完全に排除してリスナーに名作映画、もしくは高貴なオペラにも似て胸踊るスペクタクルとドラマティシズムをもたらします。
「OPETH の音楽には特に昔の音源でダークな傾向があるんだけど、WILDERUN には常に見過ごされがちな明るく豊かな側面があったと思うんだ。」
時にアートワークから傑作を確信させるレコードが存在しますが、WILDERUNの最新作 “Veil of Imagination” はまさにその類でしょう。アートワークに咲き誇る百花繚乱はそのまま万華鏡のレコードを象徴し、”陽の”OPETHとも表現されるブライトでシンフォニックに舞い上がる華のモダンメタルは、シーンにおける “壮大” の概念さえ変えてしまうほど鮮烈なオーパスに仕上がりました。

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4: JINJER “MACRO”

「時に穏やかで平穏。だけど時に人々は何かが起こるのをただ待っている。今現在、少なくとも爆撃はされていないわ。それは良い事ね。」
アイコニックな女性をフロントに抱き、多様性を音楽のアイデンティティーとして奉納し、ウクライナという第三世界から登場した JINJER は、実はその存在自体が越境、拡散するモダンメタルの理念を体現しています。テクニカルなグルーヴメタルに Nu-metal と djent の DNA を配合し、R&B からジャズ、レゲエ、ウクライナの伝統音楽まで多様な音の葉を吸収した JINJER のユニークな個性は双子の “Micro” と “Macro” で完璧に開花します。
無慈悲なデスメタルから東欧のメランコリー、そしてレゲエの躍動までを描く“Judgement (& Punishment)” はJINJER の持つプログのダイナミズムを代弁する楽曲でしょう。
「僕たちの音楽に境界は存在しない。いいかい?ここにあるのは、多様性、多様性、そして多様性だ。」そう Eugene が語れば Tatiana は 「JINJER に加わる前、私はレゲエ、スカ、ファンクをプレイするバンドにいたの。だからレゲエの大ファンなのよ。頭はドレッドにしていたし、ラスタファリに全て捧げていたわ。葉っぱはやらないけど。苦手なの。JINJER は以前 “Who Is Gonna Be the One” でもレゲエを取り入れたのよ。レゲエをメタルにもっともっと挿入したいわ。クールだから。」と幅広い音楽の嗜好を明かします。
比較するべきはもはやメタル世界最大の恐竜 GOJIRA でしょうか。それとも MESHUGGAH? 音楽、リリックのボーダーはもちろん、メタファーではなく実際に険しい国境を超えた勇者 JINJER の冒険はまだ始まったばかりです。

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5: LINGUA IGNOTA “CALIGULA”

「世界に正義を見出すこと、私を傷つけた人間に責任を見出すことにずっと苦労してきたの。だから音楽は奴らに責任を負わせ、正義を見つける私のやり方なの。私なりの復讐なのよ。」
家庭内暴力、虐待の生還者 Kristin Hayter のパワフルな言葉です。そして彼女の受けた恐ろしき痛みと攻撃性は、オペラからノイズ、インダストリアル、フォークに教会音楽、スピリチュアル、そしてメタルまで全てを渾淆した婀娜めきのプロジェクト LINGUA IGNOTA に注がれています。
マイノリティーの逆襲、虐待というタブーに挑む女性アーティストは今後増えて行くはずだと Kristin は語ります。事実、SVALBARD はリベンジポルノを糾弾し、VENOM PRISON は代理出産やレイプについて叫びをあげているのですから。
「どれだけの人が女性を嫌っているか、どれだけ世界が女性を嫌っているか知れば知るほど、”サバイバー” として他の女性への責任を感じるの。これからどこに行くのでしょうね?だけど最も重要なことは、リアルであり続けること。だから音楽を作ったり、暴力について語る必要がなくなればそうするわ。永遠に虐待の被害者になりたくはないからね。」

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6: LITURGY “H.A.Q.Q.”

「哲学は思慮深い政治的スタンスを持つための非常に重要なツールだと、僕は心から思うんだ。だって今の世の中、特定の強い意見を持つ人にしたって、大抵そこに本当の根拠はないんだからね。」
もしかすると、Hunter Hunt-Hendrix の原動力は全てこの言葉に集約するのかもしれませんね。つまり彼は音楽、芸術、哲学の三原則を新たな三位一体とした、資本主義を超越する新世界の到来を啓蒙も厭わないほどに心から願っているのです。
「音楽コミュニティは一般的に反知的だから、アルバムの表紙に哲学システムを載せることで少なくともリスナーにそれを見てもらい、それが何を意味するのか気にして欲しかったんだ。」
世界を少しでもより良い場所へと導きたい。その想いは、アートワークのダイアグラムから始まり徹頭徹尾、”超越的な神” であり現実世界の活動原理である “H.A.Q.Q.” と、それを理想として生まれ来る未来都市 “Haelegen” の実現へと注がれています。
「ほとんどの人は、意志、想像力、理解の間に根本的な違いがあることには同意するけれど、誰もその理由を知らないんだ。実はこれら3つは音楽、芸術、哲学にそのままマッピングすることができて、この分野を発展させれば歴史的な運命の道筋を作ることが出来るんじゃないかな。」
“H.A.Q.Q.”、いや LITURGY でさえ、Hunter Hunt-Hendrix が標榜するより良い世界 “Haelegen” への道筋でしかありません。

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7: TOOL “FEAR INOCULUM”

待てば海路の日和あり。長すぎる13年の潮待ちはしかし TOOL アーミーにエルドラドの至福をもたらしました。三度グラミーを獲得し、Billbord 200のトップ10を独占した今でも、TOOL はアートメタル、オルタナティブ、サイケデリア、マスメタル、プログレッシブが交わる不可視境界線に住んでいて、ただ己の好奇心とスキルのみを磨き上げています。
“Thinking Persons Metal”。知性と本能、静謐と激情、懇篤と獰猛、明快と難解、旋律とノイズ、美麗と醜悪、整然と不規則といった矛盾を調和させる TOOL の異能は思考人のメタルと評され、多様性とコントラストを司るモダンメタルの指標として崇められてきました。そして4750日ぶりに届けられたバンドの新たなマイルストーン “Fear Inoculum” は、日数分の成熟を加味した “Think” と “Feel” の完璧なる婚姻だと言えるでしょう。
「完成させたものは良いものとは言えない。良いものこそが完成品なんだ。」 Adam Jones のマントラを基盤とした作品には確かに想像を遥かに超えた時間と労力が注がれました。ただし、その遅延が故にファンから死の脅迫を受けた Maynard に対して Danny が発した 「みんなが楽しんでいる TOOL の音楽は TOOL のやり方でしか作れないのに。簡単じゃないよ。」の言葉通り難産の末降臨した “Fear Inoculum” には徹頭徹尾 TOOL の哲学が貫かれているのです。
年齢を重ねるごとに、ポロポロと感受性や好奇心の雫がこぼれ落ちるアーティスト、もっと言えば人間を横目に、瑞々しさを一欠片も失わないレジェンドがテーマに選んだのは “成熟” でした。
TOOL, TOOLER, TOOLEST。反抗、進化、融和、魂の同化。そして遂に最上級へと達した TOOL の成熟。TOOL のタイムラインはきっと人間の “人生” と密接に関連しているはずです。次の啓示がいつになるのかはわかりませんが、自身の経験やドラマとバンドのメッセージを重ね合わせることが出来るならそれはきっと素晴らしい相関関係だと言えるでしょう。

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8: CHELSEA WOLFE “BIRTH OF VIOLENCE”

フォーク、ゴス、ポストパンク、インダストリアル、メタル…2010年、デビューアルバム “The Grime and the Glow” を世に放って以来、Chelsea Wolfe はジャンヌダルクの風姿で立ち止まることなく自らの音の葉を拡張し続けてきました。10年続いた旅の後、千里眼を湛えたスピリチュアルな音求者は、本能に従って彼女が “家” と呼ぶアコースティックフォークの領域へと帰り着いたのです。
「批判を受けやすく挑戦的な作品だけど、私は成長して開花する時が来たと感じたのよ。」
ダークロックのゴシッククイーンとして確固たる地位を築き上げた Chelsea にとって、アコースティックフォークに深く見初められたアルバムへの回帰は確かに大胆な冒険に違いありません。ただし、批判それ以上に森閑寂然の世界の中に自らの哲学である二面性を刻み込むことこそ、彼女にとって真なる挑戦だったのでした。
「私はいつも自分の中に息づく二面性を保持しているのよ。重厚な一面と衷心な一面ね。それで、みんながヘヴィーだとみなしているレコードにおいてでさえ、私は両者を表現しているの。」
”目覚め始めるレコード” において鍵となるのは女性の力です。
「そろそろ白か黒か以外の考え方を受け入れるべき時よ。”ジェンダー” の概念は流動的なの。そして全ての種類の声を音楽にもたらすことで沢山の美しさが生まれるのよ。今まさにその波が押し寄せているの!素晴らしいわ!」
長い間会員制の “ボーイズクラブ” だったロックの舞台が女性をはじめとした様々な層へと解放され始めている。その事実は、ある種孤高の存在として10年シーンを牽引し続けた女王の魂を喚起しインスピレーションの湖をもたらすこととなりました。

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9: ALCEST “SPIRITUAL INSTINCT”

“Spiritual Instinct” の製作は Neige にとってある意味ヒーリングプロセスとも言えるものでした。
「生きづらいと感じる原因の一つが自己評価の低さなんだ。自分が全然好きじゃなくてね。それってクールじゃないんだけどね。自分を貶めながら生きている訳だから。普通の生き方じゃないよ。だからこのアルバムは疑問と疑いに満ちている。だけど今はあの頃より良い場所にいる。だからこの作品は治療の意味合いもあったんだ。」
Neige が厳格に成文化されたブラックメタルの基準を回避して来たのは、その音楽の大部分が怒りに根差していないからとも言えます。自然からインスピレーションを受けるノルウェーのミュージシャンに共感する一方で、常に希望を伝える Neige の有り様はコープスペイントで木々に五芒星を書き殴るよりも、森の中のアニミストのようにも思えます。
実際、Neige は5歳のころから約4年間自らの精神が肉体を離れる幽体離脱、臨死体験のような超感覚的ビジョンを経験しています。
「何度も何度も、完全にランダムに起こる現象だった。この世界には存在しないような場所のイメージや感情、時にはサウンドまで心の中に浮かんで来るんだ。まさにスピリチュアルな体験で、人生を永遠に完全に変えたんだ。」
そうして物質宇宙を超えて別の領域が存在するという確信を得た Neige は、スピリチュアルに呼吸する” 音楽 “Spiritual Instinct” を完成へと導きました。
「あの臨死体験を経て、僕は死後の世界、魂とは何か、そして人生の意味を問うようになったんだ。ビッグクエッションだよね。」
つまり、Neige がフランス語で紡ぐ憂鬱と悲しみのイントネーションには、彼が憧れの中に垣間見た魔法の場所へと回帰するロマンチックな目的まで含まれているのです。ALCEST の動力源は審美の探求。例えその場所が死によってのみでしか到達できないとしても。

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10: BLOOD INCANTATION “HIDDEN HISTORY OF THE HUMAN RACE”

「僕たちの音楽、アートワーク、歌詞の主な目標は、人々に先入観を疑わせることなんだ。音楽的にだけじゃなく、概念的にも限界を押し広げることが重要なんだよ。そのため、エイリアンや次元を股にかける存在だけじゃなく、何かにインスパイアされて自分自身の内なる世界を拡大することもまた重要なテーマなんだ。」
宇宙、異次元、エイリアンをビッグテーマに “アストラルデスメタル” の称号を得る BLOOD INCANTATION は、しかし自らの存在や哲学を “サイエンスフィクション” の世界に留め置くことはありません。SF を隠喩や象徴として扱う “デス・スター” 真の目的は、現実世界のリスナーに森羅万象あらゆる “常識” に対して疑問を抱かせることでした。
もちろん、その非日常、非現実は音の葉にも反映されています。HORRENDOUS, TOMB MOLD, GATECREEPER を従え津波となった OSDM リバイバルの中でも、BLOOD INCANTATION の映し出す混沌と荘厳のコントラスト、プログの知性やドゥームの神秘まで内包する多様性はまさに異能のエイリアンだと言えるでしょう。

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THE 100 BEST MODERN METAL ALBUMS OF THE DECADE: 2010 – 2019


THE 100 BEST MODERN METAL ALBUMS OF THE DECADE: 2010 – 2019 

1: GOJIRA “MAGMA” (2016)

音源の試聴はもちろん、音源を流せる動画でのレビューや分析、インタビューがどんどんその勢力を拡大している音楽世界で、活字に残された場所はもはやストーリーや背景を伝えるという使命のみにも思えます。
ストーリーは音楽を聴くだけでは伝わりません。弊誌がモダンメタル=多様性と主張し続けるのも、メタルの今に音楽的な多様性だけではなく人種、性別、地域、宗教を超えたエクレクティックな文化、世界が勃興しつつあるからです。マイノリティーの逆襲と言い換えても良いかもしれませんね。そこに環境問題や政治的な主張を織り込むアーティストも多いでしょう。
故に、メタル先進国とは言えないフランスから現れ、その是非はともあれ環境問題に立ち向かい、プログ、デス、スラッジ、マス、トライバルの稜線を闊歩する GOJIRA は、弊誌がそのストーリーを最も伝えたいアーティストだと言えました。
コンパクトな43分という作品でフォーカスされたのは、エモーションとアトモスフィアを前面に押し出した、キャッチーさとアート性の共存。MASTODON やBARONESS もチャレンジしていますが、芸術性とコマーシャリズムの融合という点でこの作品を超えるモダンメタルのレコードはないと断言出来るように思います。

2: DEAFHEAVEN “SUNBATHER” (2013)

新世界との “クロスオーバー” は、2010年代のメタルバンドにとって重要な成功のための条件でした。 メタルに似つかわしくないピンクのアートワークを纏った “Sunbather” は、完璧なタイミングでブラックメタルとシューゲイズの深き海溝に橋を掛けた “クロスオーバー” の先鋭です。
DEAFHEAVEN の雄弁に交差する激情と音景の二律背反は、ブラックゲイズ、ポストブラックと称されるムーブメントの核心となり、インディーロックのリスナーまでも惹きつけましたが、一方でブラックメタルの信者からはそのルックスも相俟って無慈悲な反発も少なからず招きました。
ただし7年の時を経て顧みれば、そこには拡大する宇宙となったブラックメタルにとって美しきビッグバンにも思える桃色の陽火が崇高に、超然と此方を眺めているだけでしょう。

3: VENOM PRISON “SAMSARA” (2019)

「私は “フィーメールフロンテット” って言葉が好きじゃないの。だってこの言葉はただフロントを務める人物のジェンダーのみによって、サブジャンルのようなものを形成してしまうから。その女性ボーカルを擁するバンドたちが生み出す音楽関係なしにね。」
これまで虐げられてきたシーンに対するリベンジにも思える女性の進出は、2010年代のモダンメタルにとって最大のトピックの一つでしょう。
VENOM PRISON の牙は上顎にデスメタルを、下顎にハードコアの “毒” を宿した音楽の鋭き牙。そうしてセクシズムやミソジニーのみならず、彼らは負の輪廻を構築する現代社会全域に鋭い牙を向けるのです。
“クロスオーバー” の観点から見れば、CODE ORANGE や VEIN がハードコアとメタルの禍々しき婚姻をハードコア側のプロポーズで成立させたのに対し、VENOM PRISON はデスメタルの血統で見事にクロスオーバーの美学を体現してみせました。当然、両者の凶悪なマリアージュ、さらに英国の復権も2010年代を象徴する混沌でした。

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4: GHOST “PREQUELLE” (2018)

近年、MASTODON, VOLBEAT, Steven Wilson, PALLBEARER, Thundercat、さらに2018年は GODSMACK, ALICE IN CHAINS, DISTURBED, SHINEDOWN など様々なジャンルの旗手とも呼べるアーティストが “ポップ” に魅せられ、レガシーの再構築を試みる動きが音楽シーン全体の大きなうねりとして存在するように思えます。当然、邪悪とポップを融合させた稀有なるバンド GHOST もまさしくその潮流の中にいます。
「JUDAS PRIEST はポップミュージックを書いていると思う。彼らはとてもポップな感覚を音楽に与えるのが得意だよね。PINK FLOYD も同様にキャッチー。ちょっと楽曲が長すぎるにしてもね。」
Tobias のポップに対する解釈は非常に寛容かつ挑戦的。さらにモダン=多様性とするならば、70年代と80年代にフォーカスした “Prequelle” において、その創造性は皮肉なことに実にモダンだと言えるのかもしれません。実際、アルバムにはメタル、ポップを軸として、ダンスからプログ、ニューウェーブまでオカルトのフィルターを通し醸造されたエクレクティックな音景が広がっているのですから。

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5: YOB “OUR RAW HEART” (2018)

2010年代の記憶から、ドゥーム/スラッジの “スロウバーン” な台頭を切り離すことは不可能です。オレゴンの悠久からコズミックなヘヴィネスと瞑想を標榜し、ドゥームメタルを革新へと導くイノベーター YOB。
バンドのマスターマインド Mike Scheidt は2017年、自らの終焉 “死” と三度対峙し、克服し、人生観や死生観を根底から覆した勝利の凱歌 “Our Raw Heart” と共に誇り高き帰還を遂げました。
「死に近づいたことで僕の人生はとても深みを帯びたと感じるよ。」と Mike は語ります。実際、”楽しむこと”、創作の喜びを改めて悟り享受する Mike と YOB が遂に辿り着いた真言 “Our Raw Heart” で描写したのは、決して仄暗い苦痛の病床ではなく、生残の希望と喜びを携えた無心の賛歌だったのですから。
ゆえに、蘇った YOB の作品を横断するスロウバーン、全てを薙ぎ倒す重戦車の嗎は決して怒りに根ざしたものではありません。むしろそれぞれの人生や感情を肯定へと導くある種の踏み絵、あるいは病室で眺望と光陽を遮っていたカーテンなのかも知れませんね。結果として YOB はドゥームに再度新風を吹き込むこととなりました。

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6: PERIPHERY “PERIPHERY” (2010)

10年代の前後、Djent はエクストリームミュージックの世界に突如、爆発的に勃興したマスマティカルテクニカルなムーブメントです。MESHUGGAH, SikTh, 新進の “スメリアンコア” などが育んだシンコペーティブで技術的に洗練されたプログレッシブサウンドに、よりアクセシブルにフィルタリングをかける実にエキサイティングな “再発明”。そのリノベーションを担った第1世代こそ CLOUDKICKER, ANIMALS AS LEADERS の Tosin, そして PEPIPHRY の Bulb こと Misha Mansoor でした。
“Nerd” と呼ばれる所謂 “オタク” 文化と密接に繋がりを持ったことも革新的で、レコーディング技術の進歩により自宅でプロフェッショナルな音源を製作する “ベッドルームミュージック” DIY の台頭にも大きな役割を果たしました。
2010年代初頭、シーンを席巻したテクニカルな波。しかし、多くのトレンド、サブジャンルと同様に、Djent はしばらく後、飽和状態を迎え減退期を迎えます。
ただし、歴戦の猛者 Anup Sastry が 「Djent とは、どちらかと言えば、プログメタルというもっと大きな傘の中で探求を続ける、また違った推進力になったと思えるね。」 と語るように、オリジネーター PERIPHERY が “Periphery IV: Hail Stan” で証明したように、Djent はその根を地下へと這わせながら、モダンメタルの核を担っているのです。

7: ZEAL & ARDOR “STRANGER FRUIT” (2018)

過酷な奴隷制、差別の中から産声を上げた嘆きと抵抗、そして救いを包含するゴスペル、ブルース、ソウル。スピリチュアルで魂宿る黒人音楽をエクストリームメタルへと織り込み、刻下の不条理を射影する ZEAL & ARDOR はヘヴィーミュージック未踏の扉を開く真なる救世主なのかもしれません。
「 “ブラック” メタルと “黒人” 音楽をミックスしてみろよ。」その人種差別主義者からの言葉は、アフロ-アメリカンの血を引くアーティスト Manuel を掻き立てるに十分の悪意を纏っていました。
そうして Manuel は、”もし黒人奴隷がイエスではなくサタンを信仰していたら?” をコンセプトにブラックメタルとスピリチュアルを融合し、ZEAL & ARDOR を完成へと導きました。つまり、エクストリームミュージックにとって肝要な未踏の領域への鍵は、皮肉にも人種差別主義者に対する究極の “Fxxk You” だったと言えるのです。そして当然、そのスピリットはマイノリティーの逆襲、モダンメタルのスピリットともシンクロしています。

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8: ROLO TOMASSI “TIME WILL DIE AND LOVE WILL BURY IT” (2018)

「MOL や CONJURER といったバンドはモダンメタルの最前線にいるよ。」エクレクティックを御旗に掲げる Holy Roar Records の躍進は、英国メタルの復権と合わせて2010年代後半のビッグトピックでした。そして、発言の主 James Spence は妹と Eva とレーベルの理念を最も体現する ROLO TOMASSI を牽引しています。
デビュー作 “Hysterics” から10年。バンドは常に再創造、再発明によるコアサウンドの “羽化” を続けながら、気高き深化を遂げて来ました。シンセ-レイドゥンのデジタルなマスコアサウンドから旅立つ分岐点、ターニングポイントは “Grievances”。アグレッションやマスマティカルな理念はそのままに、より有機的でアトモスフェリックな方法論、パッセージを導入したアルバムは、仄暗い暗澹たる深海に息継ぎや空間の美学を投影したユニークかつ思慮深き名品に仕上がったのです。
一方で、”Time Will Die and Love Will Bury It” は闇に際立つ光彩。時に悪魔にも豹変する Eva Spence のスイートサイド、エセリアルに漂う歌声は実際、奔放かつ痛烈なマスコアにシューゲイズやエモ、インディーロックを渾融する彼らの新たなレジスタンスを想像以上に後押ししているのです。

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9: PALLBEARER “FOUNDATIONS OF BURDEN” (2014)

アーカンソーのドゥームカルテット PALLBEARER は、セカンドアルバム “Foundations of Burden” で鬼才 Billy Anderson と出会った瞬間、有望な若手の一団から突如としてフォワードシンキングなシーンのペースセッターへと進化を果たしました。バンドのトラディショナルでカルトなコンポジションはより洗練され、現代的なアトモスフィアをプログレッシブなセンスに添えて具現化する先進的なドゥームバンドへと変化を遂げたのです。
ドゥーム世界の DEAFHEAVEN にも思えるその異形は、後に “Heartless” でキャッチーなメロディーの洪水に重なるプログレッシブドゥームな誘惑を具現化し、MASTODON とも共鳴するメインストリームへの挑戦を企てました。

10: HAKEN “THE MOUNTAIN” (2013)

英国の誇り、プログレッシブ最後の希望 HAKEN がレトロフューチャーな音のタイムマシンを追求し始めたアルバムこそ “The Mountain” でした。
「僕に関して言えば、”YES-90125″、”RUSH-Signals”、”GENESIS-Duke”、”KING CRIMSON-Discipline” といった作品とは多くの共通点があると思うね。」
80年代のポップカルチャーを胸いっぱいに吸い込んだ “Affinity” で Ross Jennings はそう語ってくれましたが、よりエピックを志向したドラマティックな “Mountain” では古のプログレッシブな息吹を一層その身に宿していたのです。
「Djent はメタルシーン、そしてギター界にとっても重要なムーブメントだよね。MESHUGGAH や KILLSWITCH ENGAGE のようなバンドは全てのジャンルにその影響をタペストリーのように織り込んでいるんだよ。その影響は、今日、ミュージシャンとしてやっている僕たちを形成してくれているんだ。」
そこに交差するは近代的なグルーヴと設計図。時代の架け橋となった HAKEN は、特有のメロウな旋律を伴ってプログの遺伝子を受け継いでいくのです。

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MORON POLICE : A BOAT ON THE SEA】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SONDRE SKOLLEVOLL OF MORON POLICE !!

“A Lot Of The Music From The Super Famicom Was Also Very Proggy! The Soundtrack Of Secret of Mana (Seiken Densetsu 2) Was Mindblowing When I First Heard It! Beautiful Melodies Mixed With Interesting Technical Parts, Weird Time-Signatures And Atmospheric Landscapes.”

DISC REVIEW “A BOAT ON THE SEA”

「ノルウェーにおけるプログの “魔法” って何なんだろうね。60年代後半からプログバンドはずっとここにあって、長い間人気を博して来たから、若い世代に刷り込まれているんじゃないかな。だから僕たちがここにいるんだよ!」
“プログレッシブ” の遺産と血脈を受け継ぐ綺羅星の中でも、2019年特に印象的なレコードを残した寵児がノルウェーを拠点とすることは偶然ではないのかも知れませんね。
電子の海で主流とプログを交差させた LEPROUS、エピックの中で多様とハーモニーを追求する MAGIC PIE、そしてプログレッシブポップの革命を牽引する MORON POLICE。共通するのは、プログレッシブ世界の外へと目を向ける野心でしょう。
「様々なジャンルを股にかけることも大好きだね。メタルの要素が減退したから、これまでより多様になれた部分はあるだろうね。ポップミュージックは完膚なきまで崇高になり得るし、ポップミュージックがテクニックと重ね合った時、僕にとって最高に魅力的なものとなるんだ!」
ノルウェーの異形 MAJOR PARKINSON にも籍を置くユーティリティープレイヤー Sondre Skollevoll は、これまで充分に探索が行われて来なかったポップと崇高、ポップとテクニックの融合領域へと MORON POLICE で海図なき船出を果たしました。ノアの箱船で GENESIS の息吹、プログレッシブの遺伝子を守りながら。
「アートワークは、僕たちは “この地球の一員” ってメンタリティーと、音楽のメランコリックな側面を反映しているんだ。」
メタリックな一面を切り離すことで音楽的自由を謳歌する “A Boat on the Sea” で、Sondre は以前に増して表現の自由をも享受し世界を覆う暗雲を薙ぎ払っていきます。
米国の小説家 Kurt Vonnegut がポストベトナム世界を風刺した、”Hocus Pocus” からタイトルを頂くメランコリックなピアノ語りを序曲とするアルバムは、”The Phantom Below” で無機質なデジタルワールドへの皮肉と憧憬を同時に織り込みます。
「大半のスーパーファミコンの音楽はとてもプログレッシブだよね!”聖剣伝説2 Secret of Mana” のサウンドトラックを初めて聴いた時はぶっ飛んだよ!美しいメロディーが、興味深いテクニカルなパート、奇妙な変拍子、アトモスフェリックなサウンドスケープとミックスされていたんだからね。」
最終的にSondre の目指す場所とは、幼き日に熱中したスーパーファミコンの、アナログとデジタルが交差する、目眩く色彩豊かな音楽世界なのかもしれませんね。
ノルウェーという小さな国のプログシーンが注目を集めるきっかけとなったストリーミングサービスの恩恵を認識しながらも、8bit のオールドスクールな情味と温もり、知性の頂きはバンドの原点であり精髄でしょう。狂気のスキルとイヤーキャンディー、それに北欧のメランコリーをミニマルなゲームサウンドと同期させる “Isn’t It Easy” はその象徴に違いありません。
“Beaware the Blue Skies” のレゲエサウンドで、平和大使の仮面の裏で米国の戦術ドローンを大量生産する母国ノルウェーの偽善を暴き、”The Dog Song” のカリビアンや “Captain Awkward” の奇妙なスキャットで自らの多様性を証明する MORON POLICE。それでも、一貫して燃え盛る灯台の炎となったのは煌びやかで心揺さぶるメロディーの光波でした。
「僕はね、強力なメロディーは、きっといつだって純粋なポップ世界の外側に居場所を得ると思っているんだ。そしてそんな音楽がより注目を集めつつあることが実に嬉しいんだよ。」
THE DEAR HUNTER を手がける Mike Watts の航海術も旅の助けになりました。そうして MORON POLICE はプログ世界の外洋へと船を漕ぎだします。
今回弊誌では、Sondre Skollevoll にインタビューを行うことが出来ました。「僕はゲーム音楽の大ファンなんだよ。特に任天堂のね。近藤浩治、植松伸夫、菊田裕樹、David Wise のような音楽家を聴いて育ったんだよ。僕はそういったゲーム音楽にとても影響を受けていると思うし、そのやり方を音楽に取り込んでいるんだ。」MARQUEE/AVALON から日本盤の発売も決定。どうぞ!!

MORON POLICE “A BOAT ON THE SEA” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【BLOOD INCANTATION : HIDDEN HISTORY OF THE HUMAN RACE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ISAAC FAULK OF BLOOD INCANTATION !!

“I Believe That Questioning Mainstream Archaeology, Even If The End Goal Isn’t Proving The Existence Of Aliens, Is a Great First Step To Questioning Everything We Have Been Taught About Our Own Society.”

DISC REVIEW “HIDDEN HISTORY OF THE HUMAN RACE”

「僕たちの音楽、アートワーク、歌詞の主な目標は、人々に先入観を疑わせることなんだ。音楽的にだけじゃなく、概念的にも限界を押し広げることが重要なんだよ。そのため、エイリアンや次元を股にかける存在だけじゃなく、何かにインスパイアされて自分自身の内なる世界を拡大することもまた重要なテーマなんだ。」
宇宙、異次元、エイリアンをビッグテーマに “アストラルデスメタル” の称号を得る BLOOD INCANTATION は、しかし自らの存在や哲学を “サイエンスフィクション” の世界に留め置くことはありません。SF を隠喩や象徴として扱う “デス・スター” 真の目的は、現実世界のリスナーに森羅万象あらゆる “常識” に対して疑問を抱かせることでした。
「主流の考古学に疑問を呈することは、例え最終的にエイリアンの存在を証明出来なかったとしても、僕たち自身の社会について教えられてきた全てに疑問を投げかける素晴らしい第一歩だと思うんだよ。」
BLOOD INCANTATION の叡智を司るドラマー Isaac にとって、ギョペグリ・テペやギザのピラミッド、ナスカの地上絵が宇宙人の創造物であろうがなかろうが、究極的にはどちらでも構わないのかも知れませんね。なぜなら、彼の最終目標は宇宙よりも未知である人の心、暗く危険な内部空間の探索にあるからです。
Isaac は現在の人間社会、政治システムを完全なる実験の失敗だと捉えています。故に、この文明社会こそ人類の最高到達点で良好な進歩を遂げているという固有概念に疑問符をもたらすため、寓話的に SF を使用しているにすぎないのです。
「僕たちの新しいレコードは、人類という種が記憶を失っていて、その過去はまだ明らかにされていないという概念に焦点を当てているんだ。」
“Hidden History of the Human Race” で描くのは忘却の彼方に追いやられた人類の隠された歴史。大胆不敵な宇宙旅行者が作成する、失われた古代の歩みを取り戻すアストラルレコードの使命は、そうしてデスメタルとプログレッシブのロマンを取り戻す旅ともリンクしていきます。
「僕はね、”プログレッシブデスメタル” ってタグはあまり気に入っていないんだよ。だってそこに分類されるバンドの大半が、僕がプログレッシブロックがもともと志していたと考える音楽をプレイしていないんだからね。」
プログレッシブの名を冠しながら、モダンなテクニックの博覧会を志向する昨今のバンドとは一線を画す BLOOD INCANTATION のロマンチシズム。それは YES, PINK FLOYD, RUSH, KING CRIMSON といった神代の巨人への憧憬を根源としています。
“Echoes”, “Close to the Edge”, “The Gates of Delirium” といったプログエピックを指標した18分の異次元探索 “Awakening from the Dream of Existence to the Multidimensional Nature of our Reality (Mirror of the Soul)” を聴けば、そこに古の技術やイデアを元にした音のペイガニズムが存在することに気がつくはずです。
同時に、テクニカルデスメタル、ブルータルデスメタル、デスコア等の台頭により次元の狭間に埋もれた “OSDM” オールドスクールデスメタルの “レコンキスタ” を司る十字軍の役割も忘れるわけにはいきません。
HORRENDOUS, TOMB MOLD, GATECREEPER を従え津波となった OSDM リバイバルの中でも、BLOOD INCANTATION の映し出す混沌と荘厳のコントラスト、プログの知性やドゥームの神秘まで内包する多様性は傑出しています。その理由は、GORGUTS を筆頭に、DEATH, CYNIC, DEMILICH といったデスメタルに異世界を持ち込んだ異形の “血の呪文” を受け継いでいるからに相違ありません。
逆説的に言えば、ブラックメタルやドゥームメタルほど神秘や謎、アトモスフィアを宿していないデスメタルの領域でその世界の “DEAFHEAVEN” を演じる事は簡単ではないはずです。しかし、”Inner Paths (to Outer Space)” に内包された爆発的なエネルギー、リフノイズの海に鳴り響く美麗邪悪なアコースティックギター、複雑怪奇なフレットレスベースの胎動、アナログアンビエントな音の葉を浴びれば、彼らの野心が文字通りコズミックに拡大を続ける宇宙であることに気づくでしょう。
今回弊誌では、Isaac Faulk にインタビューを行うことが出来ました。「プログレッシブロックとは、様々なジャンルを過去のスタイルから生まれ出るテクニックと融合させ、異なる方向へと導くような音楽だよ。」 音楽にしても、時に “メインストリーム” に疑念を抱くことはきっと必要でしょう。どうぞ!!

BLOOD INCANTATION “HIDDEN HISTORY OF THE HUMAN RACE” : 10/10

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