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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【HENGE : ALPHA TEST 4】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ZPOR OF HENGE !!

“Since Landing On Earth, We Aim To Create Benevolent Sonic Weaponry To Combat Sadness And Bring Joy To Humanity.”

DISC REVIEW “ALPHA TEST 4”

「なぜ地球に降り立ったのか?それは、この星からの遭難信号を受信したから。深刻なレベルで危険なピークに達し、地球の住民の間に悲しみの伝染病が蔓延していることは明らかだった。イギリスのマンチェスターは、僕たちのミッションを開始するには良い場所のように思えた… 僕たちは、この都市を震源地とする “レイヴ” と呼ばれる最近の社会的/音楽的ムーブメントを知っていた。レイヴ・ミュージックは、異なる社会的背景を持つ人々を団結させることで知られているからね。だから、この場所から始めようと思ったんだ」
張本人には見えないことが、世界には多々あります。例えば、夏休みの宿題に手をつけていない、危険な男にひっかかる、タバコや酒をやめられない。周りから見ればヤバよりのヤバなのに、当の本人には危機感がまったくなくあっけらかんとしている。今の地球はもしかしたら、そんな状況なのかもしれませんね。
だからこそ、宇宙の音楽と地球の “プログレッシブ・レイヴ” で悲しみを癒しにやってきた地球外生命体 HENGE には、この星の危機的状況がよく見えています。
「音は強力な力になる。実際、僕たちの宇宙船マッシュルーム・ワンは音で動いているんだ。だからノム、グー、そして僕は、深宇宙を航行する毎日の日課として、いつも音楽を演奏してきたんだ。常に音楽を流してきた。地球に着陸して以来、僕たちにはエイリアンの周波数を人間の耳に適合させるのを手伝ってくれる人間がいる。そうして共に悲しみと闘い、人類に喜びをもたらす善意の音波兵器を作ることを目指しているんだ」
音楽は力になる。惑星アグリキュラーで生まれた異星人 Zpor は、アグリキュラー音階の海で育ち、音楽を栄養として摂取してきました。だからこそ、アグリキュラーの音楽 “コズミック・ドロス” にシリウス星系や金星の音楽を取り入れ、さらに地球のプログレッシブ・ロック、レイヴ、ゲーム・ミュージックとシンクロさせることで、唯一無二のポジティブな音波兵器 “Alpha Test” を完成させることができたのです。
“Alpha Test 4″ のA面には、刺激的でエネルギッシュな地球外サウンドが収録されていて、それぞれがリスナーの想像をはるかに超えた冒険的へと誘い、ポジティブなエナジーと希望を増幅します。”Get A Wriggle On” という地球に迫りつつある気候危機への早急な対策を呼びかける陽気なエレクトロ・プログを筆頭として、サイドAには銀河系と精神世界の両者における美徳に対するグリッチ賛歌や、最も回復力のある生き物のひとつであるクマムシに対するトリッピーなトリビュートまで収められています。
一方、心を解き放つサイドBで彼らは、宇宙的で蕩けるようなメロディーの叙事詩を集めています。”Ra” のコズミックなアルペジオから “Asteroid “のスペース・ロックまで、リスナーはサイケデリックな宇宙旅行へと誘われ、”First Encounter”、地球へのラブレターにたどり着きます。
「人類がその歴史において重大な局面にあることは明らかだ。分断と憎しみの力に屈しないように、愛と喜びの音を増幅させることが、今、これまで以上に不可欠なんだよ。手遅れになる前に、人類は団結して種を救わねばならない。まだ希望はある…希望はあるが、その実現のために君たちはこの使命に取り組まなければならない。君たちの未来は君たちの手の中にあるんだから」
そう、私たちは HENGE の音楽で愛と喜び、そして優しさを増幅させて、今そこにある危機に立ち向かわなければなりません。宇宙人だけに任せておくわけにはいかないのです。アグリキュラー星から来たアグリキュラン、Zpor です。どうぞ!!

HENGE “ALPHA TEST 4” : 10/10

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COVER STORY + INTERVIEW 【THE ALMIGHTY : BLOOD, FIRE & LOVE】35TH ANNIVERSARY REUNION!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH FLOYD LONDON OF THE ALMIGHTY !!

“Rock Show Is All About Screaming Your Head Off, Fists In The Air, With a Bunch Of Like-minded Individuals Making a Real Connection With Band Stood Right In Front Of You. The Crowd Feed Off The Band, The Band Feed Off The Crowd, Becoming One”

DISC REVIEW “BLOOD, FIRE & LOVE”

「ストリーミングのライブと本物のライブは比較にならないと思う。ある種の落ち着いたジャンルでは、ストリーミングの方がうまくいくかもしれないけど、ロックのライヴは、目の前にいるバンドと本当のつながりを作りながら、志を同じくする大勢の人たちと一緒に、拳を振り上げて、頭を振り上げて叫ぶことがすべてだから。観客はバンドを糧とし、バンドは観客を糧とし、一体となるんだよ!」
ライブやその音源の方が、雑だけどスタジオ盤よりもかっこいいし強烈で興奮する。それが当たり前だった風景は今や昔。THE ALMIGHTY が2023年に復活する理由があるとすれば、間違いなくこれに尽きます。彼らがロックやメタルの世界から消えている間に、音楽産業のあり方は大きく変わりました。
彼らが生きた時間をかけて “足を運ぶ” 時代は遠ざかり、清廉潔白で”正しい” 音源もライブ配信も情報も、すべてがワンクリックで手に入る現代。そんなインスタントでバーチャルな無菌室の音世界に、THE ALMIGHTY は “体験” や “経験” の汚染を取り戻そうとしています。
「人々が私たちを見たいと望むかぎり、このバンドが私の居場所だと感じるようになったんだ。
最近、長いドライブ旅行をしたんだけど、最初の5枚のアルバムをプレイリストに入れて、フルボリュームで聴いたんだ。最近ではそれが音楽を聴く唯一の方法なんだよな、実際。で、自分たちの曲なのに腕の毛が全部逆立つような感じだったよ。今でも興奮した。曲は時の試練に耐えているんだ。今のバンド内の雰囲気はとてもいいんだ。私たちの人生の魔法のような時期に戻ったようで、特別な感じがするよ。だからこそ、本当にうれしいんだ!」
Ricky Warwick, Stump Monroe, Floyd London。80年代、スコットランドで学生時代からの幼馴染が結成した THE ALMIGHTY は、いつしかその存在感を世界中で大きくしていきました。特に、ここ日本では、THE WILDHEARTS, THUNDER , SKIN, THERAPY? らと共に、”生粋のメタルではないがとにかくメロディと勢いとルックスが強烈な英国勢” として人気が爆発。今では車の中でしか存在意義がないような CD も飛ぶように売れ、来日公演も大盛況だったのです。
「個人的に一番好きなのは “Crank” だ。パンクの攻撃性をロックの音楽性と明瞭な歌詞で表現したこのアルバムが、私たちのピークだったと思う。ただ、”Blood Fire & Love” には、他のアルバムとは異なるエネルギーと意図があって、今でもライブで演奏する曲が多いからな。時の試練に耐えていることは確かだよ」
CD のジャケットが色褪せたとしても、THE ALMIGHTY の音楽が時の試練に耐えたのは、一重にそれが “全能の” ロックだったからでしょう。グラムやゴス、MOTORHEAD の暴走機関車から始まり、”Powertrippin” のヘヴィ・グルーヴ、”Crank” の UK らしい口ずさめるパンクに “Just Add Life” の Pop’n Roll まで、彼らはその圧倒的なライブ・パフォーマンスにモノを言わせてやりたいことをやりたいように突き進んできました。
だからこそ、どのアルバムを聴いても新しいし、どのアルバムを聴いてもエネルギーに満ちている。それがきっと、真の音楽 “体験” なのでしょう。
「再結成してメンバー間の齟齬を脇に置くということは、すべての齟齬を脇に置くということだ。物語の始まりを祝う35周年というのは、そのための十分な口実に思えたんだ」
そんな彼らが、再集結の会場に選んだのは、始まりの場所グラスゴーであり、始まりの音 ”Blood, Fire & Love”。ギタリストも、オリジナル・メンバーである Tantrum が選ばれました。もちろん、Alice Cooper の下で学んだトリッキーな Pete Friesen を愛するファンも多いでしょうが、Tantrum の直情型ギタリズムもまた至高。
35年という時の試練や周りの雑音、メンバー間のわだかまりに耐えた THE ALMIGHTY、全能のスコティッシュが、来年以降も予定されているライブやアルバムでどんな “体験” をもたらしてくれるのでしょうか。私たちがかつて、ロックやメタルを聞いて感じていたあの全能感を、全能神が取り戻してくれることはたしかでしょう。
「記憶が正しければ、ハイライトは大阪の野外円形劇場だったな。5,000人の観客が座席に座り、静かに辛抱強く私たちを待っていた。私たちがステージに上がると、観客は熱狂し、ショーが終わると、5分も経たないうちにみんなが整然と去っていった。素晴らしかったね」来日もあわせて期待しましょう!Floyd London です。どうぞ!!

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MOON SAFARI : HIMLABACKEN VOL.2】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MOON SAFARI !!

“We Actually Never Aimed For The Prog-genre. We Just Want To Create Art, And That Every Note We Write Has a Purpose.”

DISC REVIEW “HIMLABACKEN VOL.2”

「プログレというジャンルを目指したことはないよ。私たちはただ芸術を創り出したいだけで、私たちが書く一音一音には目的がある。どの曲もそれ自体がアートなんだ。だからこそ、ある曲は3分の短くエネルギッシュなものでなければならないし、ある曲は壮大で長いものでなければならないんだ。変拍子の方が合うと思う曲もあるけれど、決して複雑さのためだけに使っているわけではないんだよ。変拍子の方がグルーヴ感が出るのであれば、例えば9/8でもいいんだけどね」
かのメタルの帝王 Ozzy Osbnurne が最近、”私はメタルをやっているつもりはない。昔はすべてがロックと呼ばれていたし、私もその中にいると思う” と発言して物議を醸しましたが、スカンジナビアの良心 MOON SAFARI もきっと同じ哲学の下にいます。
複雑怪奇な “プログレ” と呼ぶには甘すぎて、ビーチ・ボーイズ由来のポップスと呼ぶには知的すぎる。そんな定まらぬジャンルは彼らにとって足枷であり、魅力でもありました。そして今回、10年ぶりにリリースした “Himlabacken Vol.2” で、彼らは周りの目には気もくれず、ただ自らの創造性とアートにしたがってさらにその世界を広げました。
「歌詞の多くは、現在の世界と、それが歩んできた間違った道についてだから。私たちの子供たちもその間違った歩みの世界にいるわけだよ。だからこそ、私たちは人間の愚かさについて歌い、世の中には悪いこともたくさんあることも描く。だけど、一番大切なのは、未来の世界にとって何が良い面なのかを知ってもらうことだと歌っているんだ。今の子供たちがこの世界の良さを信じ続ければ、いつか世界を良い方向に変えることができるかもしれないからね」
戦争、分断、パンデミック。前作をリリースした10年前とは変わり果てた世界で、それでも MOON SAFARI は優しさと寛容さの中に生きています。だからこそ、現代における人類の愚行を子どもたちに伝えたい、より良い世界を目指してほしいという願いはその音楽に宿りました。
もちろん、FLOWER KINGS を彷彿とさせるシンフォニー、表現力豊かなムーグとクワイアのオペラ、青く美しきコーラス・ワークスに洒落た変拍子は今でもここにありますが、自らの子供時代を通して現代の子どもたちを映し出した “Himlabacken Vol.2” には明らかに、暗くてメタリックな瞬間が存在します。
「私たちはみんな80年代生まれだし、このアルバムはノスタルジアの感覚で書かれているから、この曲は偉大な Eddie Van Halen へのオマージュなんだよ。彼は私の大好きなギタリストの一人でもあるしね」
MESHUGGAH 由来のヘヴィ・ポリリズム、Yngwie も舌を巻くクラシカルな光速リード、DREAM THEATER のメタル・イズム。MOON SAFARI は間違いなく、これまでとは異なる一面を垣間見せながら、スター・ウォーズやスタンド・バイ・ミーが “ジョーカー” へと変異した現代の闇をあらわにしていきます。そう、今みんなが心待ちにしているのは、きっと溢れんばかりの笑顔で夢を紡ぐ新たなエディ・ヴァン・ヘイレンの登場なのです。
「私たちは皆、同じ小さな教会で同じ経験をしてきたんだ。学校の最終日に教会で座っているときの、あの魔法のような感覚。”Epilog” から得られる感覚は、何年も前、小学生の時に私たちが感じたものだけど、今でもとても最近のことのように感じられるよ」
アルバムは、スウェーデン語で歌われる天上の讃美歌で幕を閉じます。昔は良かったなどと口にしようものなら即座に老害認定される世界で、MOON SAFARI はロマンチックなノスタルジーを隠そうとはしません。いえ、むしろ前面に押し出していきます。
それはきっと、自転車を手に入れた、ギターを手にした、ゲーム機をクリスマスに買ってもらった、CD をお小遣いで買いに行った…あの時の胸の鼓動と全能感を今の子供たちに分けてあげたいから。重要なのは、どこまでも行けるという無限の可能性を信じること。ネットで即座に手に入るものだけが、便利で評価の高いものだけが宝物ではないことを、彼らはきっと世界に思い出させたいのでしょう。
今回弊誌では、MOON SAFARI にインタビューを行うことができました。「スーパーマリオ、TMNタートルズ、ロックマン、ソニック、トランスフォーマー、スタージンガー、ポケモン、ゲーム&ウォッチ、任天堂、セガ、ソニープレイステーションの世界。子供の頃はずっとトヨタのカムリに乗っていたよ! 」  二度目の登場。どうぞ!!

MOON SAFARI “HIMLABACKEN VOL.2” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【TEMIC : TERROR MANAGEMENT THEORY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DIEGO TEJEIDA OF TEMIC !!

“I Think There Is a New Generation Of Bands That Are Focusing On The Emotional Content Rather Than The Technical. I Think That This Is Real Prog.”

DISC REVIEW “TERROR MANAGEMENT THEORY”

「制度化され、ほとんど強制的な変拍子、速いソロ、意図的に作られた支離滅裂な構成など、一部の “プログレ” はとんでもないところまで行ってしまっていると思う。このジャンルは感情やインパクトのある実際の曲よりも、テクニックや名人芸の誇示を求めるミュージシャン、それにアカデミックに酔った音楽になってしまうことが多い。音楽とは何かという根本的な原則、つまり人間の魂の直感的な表現をないがしろにしてしまうんだよね。そうした “プログレ” は結局、予測可能なものとなってしまった」
従来の “ロック” に、アカデミックな知性、予想不能な展開、多様なジャンルの婚姻を加えて “進化” を試みたプログレッシブ・ロック。70年代には革命的で、新しかったジャンルは、しかし今や形骸化しています。
「ある時点で、僕たちは間違った方向に進み、プログレの “プロセス” を誤って解釈してしまったのだと思う。例えば、1970年代の PINK FLOYD のようなバンドを思い浮かべてほしい。彼らの曲は3分のときもあれば、10分のときもあった。それは、その曲は10分である必要があり、他の曲は3分である必要があったからだ。彼らは従来のルールを破って、ただ音楽のために、音楽にまかせて、曲の長さや複雑さを決めていたんだ。 でも幸いなことに、技術的なことよりもエモーショナルな内容に重点を置く新しい世代のバンドが出てきたと思う。これこそが真の “プログレ” だと思う。なぜなら、彼らはこのジャンルのために設定され制度化された期待や慣習を破ろうとしているからね」
難解な変拍子、テクニックのためのテクニック、そしてお約束の長尺のランニング・タイム。きっと、そうした “規範” ができた時点で、プログレはプログレの役目を終えたのでしょう。それでも、ジャンルの初期にあった好奇心や知性、挑戦の炎を受け継いでいきたいと望むアーティストは存在します。そうして、英国の希望 HAKEN で長く鍵盤とサウンド・メイキングを手がけた奇才 Diego Tejeida は、むしろ若い世代にこそ真の “プログ魂” が宿っていると力説します。
「2020年に Eric と最初に電話をしたとき、僕たちは TEMIC の音楽的ビジョンについて合意したんだ。力強いボーカルのメロディ・ライン、誠実でインパクトのある歌詞、色彩豊かなハーモニー、そしてハートビートのような絶え間ない鼓動。僕たちは、自分たちの技術的な能力を誇示するために大げさな音楽を書くことには興味がないということで意見が一致したんだよ。それどころか、音楽そのもののエモーショナルな内容に奉仕するための曲を書きたかった」
そして Diego の出自であるメキシコ、アステカ文明の言葉で “夢” を意味する TEMIC をバンド名に抱いたこのバンドもまた、真のプログの追求者でしょう。実際、このバンドはプログのドリーム・チームでしょう。Diego にしても、Neal Morse のもとでマルチな才能と天才的なギタリズムを披露した Eric Gillette にしても、そのテクニックや音楽的素養は世代でも飛び抜けたものがあります。他のメンバーも、SHINING, INTERVALS, 22 とそうそうたるバンドの出身。しかし、彼らは決してそのテクニックを誇示することはありません。すべては楽曲のために。すべてはエモーションのために。
「このアルバム “Terror Management Theory” でも、メタルギア・ソリッドのサウンド・トラックの影響を実際に聴くことができる。あのゲームのサウンド・トラックとセリフの組み合わせは、幼い頃から僕に大きな影響を与えたよ。僕の人生の目標のひとつは、ビデオゲームのために音楽を書くことなんだ。そのためには日本に引っ越す必要があるかもしれないね!」
実際、メメントモリ、この人生の有限を知る旅において、Diego の音楽と言葉のシンクロニシティは最高潮を極めます。そして、ゲームから受け継いだ旋律の妙とエレクトロニクスの波は、Eric の滑らかなギターワークと融合して絶妙なタペストリーを織り上げていきます。
2人の仲人となった賢人 Mike Portnoy の教え。テクニックよりも野心とアドレナリン、直感に細部までの拘り。TEMIC の音楽は、そうして確実に、プログレッシブの次章を切り開いていくのです。
今回弊誌では、Diego Tejeida にインタビューを行うことができました。「メキシコ・シティで行われた DREAM THEATER のライブ。僕は最前列で、歌い、叫び、飛び跳ね、ヘッドバンギングをしていた。 言うまでもなく、DREAM THEATER は僕のミュージシャンとしての初期において非常に重要な役割を果たしたんだ。例えば、”Awake” は、中学校に通う途中、毎日聴いていたアルバムだからね」 どうぞ!!

TEMIC “TERROR MANAGEMRNT THEORY” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【PLINI : MIRAGE】


COVER STORY : PLINI “MIRAGE”

“I Guess I’m Trying To Change The Weather In My Songs.”

MIRAGE

オーストラリアのギター・マジシャン Plini は、これまでもドリーミーでエセリアルなその音楽と、際立ったトーンに華麗なハイテクニックでその名を轟かせてきました。そして最新EP “Mirage” では、蜃気楼の名の通り、これまで以上に常識と典型を破壊しています。Plini は決して一つの場所に留まるようなギタリストではなく、新しい領域を探求する生来の欲求が、この作品ではこれまで以上に直感的に表現されているのです。
「あるひとつの方向に進むのであれば、可能な限りその方向に進みたい」と、Plini はその情熱をのぞかせます。「EPに収録されている奇妙な曲については、純粋に奇妙であることを理解していた。HUNAN ABSTRACT のギタリストだったA.J. Minette と一緒に仕事をしたんだけど、彼は物事が奇妙で間違っていることにすごく抵抗がないんだ。だから、ギターや弦楽器のチューニングは微妙にずれているし、演奏される音は必ずしも直接的なキーではないし、ギターの音色は擦れている。でもそれが興味をそそるんだ」
彼のトレードマークである明るいサウンド・テクスチャーと美学を歪めたいという願望は、オープニング・トラックの “The Red Fox” で明らかとなります。スキップするようなリズムとしなやかなフュージョン・リードを土台に、陰影とリバーブのかかったリード・トーンと繊細だが不穏なストリングスの色合いを経て、曲はよりダークな展開を見せます。
「ÓlafurArnaldsというアイスランドの作曲家がいるんだけど、彼は弦楽器が普通のオーケストラではやらないようなアレンジをたくさんしているんだ。ミュージシャン全員が同じ音をランダムなタイミングで演奏することで、群がるようなサウンドを生み出しているんだよ。ストリングスは、ハリウッド映画のような超甘美なアレンジにする必要はないんだ」
“Mirage” は、10月のサプライズ・シングル “11 Nights” を除けば、2020年のアルバム “Impulse Voices” 以来の新作となります。このアルバムで、彼はフォーマットの自由を受け入れました。EPはインスト向きのフォーマットだと Plini は気づきました。
「20分以上のインストゥルメンタル・ミュージックを書くのは難しいんだ。歪んだギターが歌詞になるんだから、まったく違うことを言うのは当然難しくなる。
でも、EPというフォーマットはインストを探求するのにとても楽しい方法だと思う。アルバムよりも敷居が低いように思える。いろいろなことを試してみて、何が有意義で楽しいと感じるかを知るチャンスなんだ。音楽ファンとして、バンドが同じことを繰り返し始めると、僕は興味を失う。一方で、バンドが思い切った新しいことをするのを見ると、必ずしもその新しい方向性のすべてが好きでなくても、興奮するんだ」

インストゥルメンタル・ミュージックがリスナーの注意を引きつけるには限界があることを自覚しているPlini は、だからこそ、リスナーの期待を裏切るようなひねりや驚きを常に探していることを認めています。
「それが僕の作曲の大きな原動力なんだ。”Red Fox” では、アレンジの色は変わらない。ドラム、ベース、リズム、クリーン・ギター、リード・ギターも同じで、ギターのトーンも変わらない。でも、あの曲は甘いハーモニーから、より半音階的でダークなサウンドになる。視覚的な例で言えば、座って広大な景色を眺めていて、とても明るかったとしたら、突然雲が流れてきて雨が降り始める。同じ景色を見ているのに、天気が変わってしまったような音楽。僕は自分の曲で天気を変えようとしているんだと思う」
曲がりくねった7/4の唸り “Still Life” から、狂ったチューニングの迫り来る雷が鳴り響く “Five Days of Rain” の曇天まで、EPの5曲は悪意という名の意外性と奇抜な創造性で彩られています。しかし、彼が愛するリディアン・スケールの夢想的な響きは健在で、それが喧噪の中に光を散りばめているのです。リディアン・スケールは、彼が “クレイジーなエレクトリック・ギター・ミュージック” と呼ぶ音楽にのめり込み始めた頃、Steve Vai や Joe Satriani を夢中になって聴いているうちに好きになった魔法で、そのシュールな美学こそがリディアン・スケールの魔法だと Plini は疑いません。
「なぜだかわからないけど、(スケールで) 4番目の音を半音上げるとファンタジーのように聞こえるんだ。普通の4番目の音が僕たちの住む世界だとしたら、半音上げた4番目の音は、すべてがもう少しカラフルになった世界。それが僕が時間の大半をかけて喚起したいムードなんだよ。
アートワークもそう。現実的ではないけど、認識できるものが含まれているジャケットはたくさんある。でも、”Mirage” はもっと抽象的で、それは音楽でもやろうとしていることだと思う。ピカソの絵を見て、それが音楽としてどう聞こえるかを考えるようなものだ。どうすれば抽象的になれるのか?ってね」
典型の破壊といえば、前述の “Still Life” では、Plini が中東の弦楽器ウードを演奏しています。
「ロックダウン中に覚えたら楽しいと思ったんだけど、クッソ難しかった」

さらに重要なのは、この曲には ANIMALS AS LEADERS の Tosin Abasi がコラボレートしていること。彼もまた、このEPの捻くれた性格に拍車をかけています。
「彼は、僕とは全く違う、とても独特なひねくれた、エッジのある声を持っている。ソロを分け合う時、それは重要なことなんだ。
Tosin と一緒に仕事をするのは、必然的なことだった。彼は僕らの世代のギタリストの最前線にいる。なぜなら、彼は可能な限りクレイジーなことをやってきたし、前の世代と比べて新しいことをたくさんやってきたからだ。もちろん、僕は最高のギタリストとコラボレーションしたいからね」
Steve Vai が Plini を “卓越したギター・プレイの未来” と称賛したのは記憶に新しいところ。しかし、そのような “十字架” が、のんびりとしたオージーにプレッシャーを与えることはないのでしょうか?
「それはとても非現実的な出来事だった。でもね、僕にとって彼の言葉は、心配するよりも、今やっていることを続けろというサインだった。
ヴァーチュオーゾ的に演奏しなければならないというプレッシャーを感じることもあるかもしれない。でもね、結局人々がそれを期待するというよりも、僕が無意識のうちにギターの狂ったような演奏を聴くのが好きだから、そうなるんだ」
Vai と同様、Joe Satriani も Plini にとっては “師匠” の1人。2人とも、ギターをまるでボーカルのように扱います。
「サッチの演奏の好きなところはそこなんだ。彼は最もシンプルなメロディーを弾くし、フレージングも完璧だ。ビートに対する音の置き方が、いつも完璧で、ビブラートもいつも素晴らしい。
彼は本当に音を選んでいるのではなく、レモンのようにギターをジュースにして音を絞り出しているような気がする。彼は私に大きなインスピレーションを与えてくれた。だから、比較されるのはとてもうれしいよ」

もっといえば、Plini にとってギターとは声そのもの。
「僕はリード・ギターはボーカルだと思っているんだ。もちろん、テクニカルな音楽も好きだけど、シンプルな音楽も好きだ。ギタリストが何か派手でクールなことをするまでに数分かかる方が、ノンストップでクレイジーなことをするよりもエキサイティングだと思うんだ。だから、シンプルな部分と複雑な部分をミックスさせるのが好きなんだ」
メタルが背景にあることも、Plini の強みです。
「普通の人はライブに行ってまずはシンガーの歌を聴くだろう。だから、そのシンガーが突然叫んだらかなり耳障りだろう。でも、僕のような人間にはそれがまったく普通で、ただそこに立って微笑んで楽しむだけだ。僕は音楽全般に対して同じような態度を持っていると思う。不協和音的なソロやコードも、本当にシンプルなものや高揚感のあるポップなメロディに劣らず心地よいと思えるほど、いろいろな種類のものを聴いているんだ」
インスピレーションの源は、音楽だけではありません。Plini は音楽家になる前は、建築家になるために勉強を続けていました。
「あらゆる種類の芸術を見て、それが音楽であるかのように分析してみるのはいつも興味深い。素晴らしい教会なら、小さなドアから巨大な部屋に入り、静かなイントロから100の楽器のコーラスが広がるような、そんな感じかもしれない。多くの素晴らしい建築物には、2つか3つの素材が使われているかもしれないけれど、曲の中では2つか3つの楽器がその能力をフルに発揮しているかもしれない。
そうしたアートの類似性を作るのは非常に漠然としている。でも、偉大な画家が偉大な絵を描くように、あるいは偉大なシェフが偉大な料理を作るように、自分が曲を作っているかどうかを確認する方法として、少なくとも相互参照するのは面白いと思う」

以前、”Ko Ki” という楽曲では、NGO と提携して寄付を募りました。
「僕は大学で建築を学んだんだけど、その授業のひとつにロー・インパクトとの提携があった。その授業では、カンボジアの貧しい村のためのコミュニティ・シェルターをデザインしたんだけど、その授業の最後に優勝したデザインには、そのクラスの誰もがカンボジアに行って建設を手伝えるというオプションがあったんだ。僕はどんなチャンスにも “イエス” と言うのが好きな人間になったんだと思う。だからそうして、素晴らしい時間を過ごした。人生を変えるような経験だった。
このプロジェクトは、政府によって買い取られようとしている土地を買い戻すというものだった。なぜか覚えていないんだけど、たぶんNAMMに行ってオタクになってギターを弾くのに忙しかったんだと思う。それで、資金集めのために曲を書こうと思ったんだ。音楽で面白いことをする、それが音楽でできる最も価値のあることだと思う。ボートに乗って、なんとなく知っている人たちと一緒にビールを飲むのは、寝室でギターを弾いていた僕にとって、本当に楽しいことなんだ。僕が寄付したお金で建てられた家に、世界中の家族が住んでいるのを見ることができるのは、真剣にビブラートに取り組んだことの素晴らしい成果なんだよ!」
そうやって、Plini はプログ世界の価値観や活動のサイクルさえも壊していきます。
「現代のプログレッシブ・メタル・バンドというのは、バンドをやっていて、自分の楽器がすごく上手で、気持ちの悪い曲を書いて、それがアルバムになってレコード会社からリリースされ、母国をツアーして、それから世界中をツアーして、また母国をツアーして、2ヶ月後とかにミュージックビデオをリリースして、疲れ果てて家に帰って、しばらく待ってからまたやる、というようなことになりがちだと思う。現代のプログ・メタル・バンドというのは、そういうものだと思う。それに対して僕は、それとは正反対の状況に自分を追い込もうとしているんだと思う。ボートの上で演奏したり、慈善活動をしたりね。
プログという言葉自体、価値観や主義主張というよりも、特定のサウンドを表現するための言葉になってしまっている。”djent” という言葉と同じでね。僕にとっては、サウンドやバンドなどの説明を伝えるための手っ取り早い方法ってだけ。でも、僕は自分の楽しみのために音楽を書いているし、ただ楽しくて奇妙な人生を自分のために作ろうとしているから、アルバムとツアーのサイクルだけにならないように、できることは何でもしているんだと思う。新しい車を買うための、ベストな方法じゃないけどね (笑)」

現代のインストゥルメンタル・ギター界は想像力と独創性に溢れています。Tim Henson, Tosin Abasi, Ichika, Manuel Gardner Fernandes, Jakub Zytecki, David Maxim Micic, Aaron Marshall, Yvette Young のようなミュージシャンは、アクロバティックな演奏だけではなく、技術性と音楽性が共存できることを証明しています。Plini がその一員であることを誇りに思うシーン。
「多くの進化と才能に囲まれているのは素晴らしいことだ。ANIMALS AS LEADERS にしても、UNPROCESSED の曲にしても、テクニカルでありながら、シンプルなメロディのようにエモーショナルでキャッチーなんだ」
このシーンは、DIYが主流であり、ビジネスやレーベルを重視していないことも Plini は気に入っています。
「ビジネスにかんして、僕はできるだけ人を避けるようにしているんだ。僕にはレコード会社もマネージャーもいない。そうすることで、僕と同じ目標を持っていないような人たちと話す時間を無駄にしなくてすむからね。ツアーに出るときも、一緒にいるのはみんな友達だから、何か問題があってもすぐに話せる。一緒に仕事をする人たちはみんな、自分の仕事を愛し、本当にいい仕事をしたいという同じ姿勢を持っている。
僕は幸運なことに、典型的な音楽業界のしきたりやならわしの多くを避けてきた。でも、特にこのシーンやジャンルでは、観客がそれでもアーティストのハードワークを評価してくれるから良いよね。生半可なプログ・バンドが有名になっても、ギター・オタクの人たちはみんなわかっていて、”そんなに良くないよ。聴く気にならない” ってなるからね。だから、このシーンで活動するのはとても正直なことなんだ」

つまり、Plini にとっては音楽業界の “しきたり” も破壊すべき壁の一つ。
「僕は知識や人脈はおろか、特定の目標や計画を持って音楽業界に入ったとは言えない。だけど今振り返ってみると、それがレコード会社やマネージメントに頼らずに自分のオーディエンスを開拓する上で最も役に立ったことがわかる。
約10年前、僕は制作中の曲のクリップやデモをアップロードし、音楽フォーラム(DREAMTHEATER のファン・フォーラムなど)で共有するようになった。Misha が自分のバンド PERIPHERY を立ち上げたのを見たことがきっかけだったし、DREAM THEATER は間違いなく僕が初期の頃最も影響を受けたバンドの一つだ。
DREAM THEATER の大ファンになったのは、Mike Portnoy が彼のフォーラムを通じてファンと連絡を取り合っていたこと、アルバムとツアーの合間に”公式”のブートレグをリリースしたり、アルバムのアートワークやビデオに謎を隠したり、バンドの舞台裏の映像を大量に共有したりと、ほぼカルト的なレベルの関心を維持していたことが理由なんだ。
それは PERIPHERY も同様で、常に制作中の作品を共有し、SNSでファンと交流していたからね。SNSでのプレゼンスを維持し、ファンベースと連絡を取り合うことは、2020年のミュージシャンにとってはかなり一般的な活動だけど、2010年頃の僕にとって、フォーラムに何かを投稿したりメッセージを送ったりして、自分の音楽的アイドルに直接メッセージを送ることができ、彼らが実際に反応してくれる可能性がかなり高いというのは、かなりの衝撃だったんだ。
ここで学ぶべき教訓は、オーディエンスを見つけるために、独自のマーケティング部門を持つレーベルは必要としないということだと思う。ただ自分の好きなアーティストに注意を払い、分析するだけで良いんだ。なぜ彼らが人気なのかをね。それが、YouTubeにもっと舞台裏の映像を投稿したり、Instagram でQ&Aをしたり、毎週メーリングリストを作ったりするきっかけになるかもしれないからね。
僕が駆け出しの頃は、音楽フォーラムでアクティブな状態を維持し、一貫してFacebookのメッセージやコメントに返することが、今日の僕のオーディエンスを構築するのにとても役立っていたね。プラットフォームからプラットフォームへとオーディエンスの注目を集め、維持し、フォローしていくことは、駆け出しのアーティストにとって多かれ少なかれ必須であると思うよ。
2015年までに3枚のEPをリリースして、オンラインで十分なオーディエンスを築き上たことでやっと、バンドを組んでライブをするのもクールだと思った。過去数十年の間、ライブをすることはバンドが”ブレイグするための重要な方法の一つだったけど、最近では音楽をリリースしてオンラインで話題になるまではライブをしない方が理にかなっていると思う。
初めてのショーで観客を沸かせたことが初のオーストラリアツアーにつながり、全国各地のショーで安定した観客動員を得たことで、より大きなブッキング・エージェンシーと仕事をするようになり、より大きな会場やより良いサポート枠への道をゆっくりと歩むことができるようになった」

では、彼は今現在、ギターシーンのどのような位置にいるのでしょうか?
「僕たちは皆、自分自身のベストを尽くそうとしていると思う。僕は特に練習に打ち込んだことはないから、テクニックを押し付けることが自分の居場所だとは思っていない。でも同時に、僕の周りにはあらゆるテクニックに長けた人たちがいるから、もっとうまくなりたいと思うし、彼らとは違う新しいことに挑戦したくなる。僕は、クレイジーなアイデアをすべて自分の音楽に取り入れて、意味のある面白いものを作りたいんだよ」
Plini は常に謙虚な向上心を持っていますが、それでもモダン・ギター・シーンにおける彼の地位は議論の余地がありません。Abasi の革新性や Jakub Zytecki の “超ワイド・ヴィブラート” はたしかに魅力的ですが、色彩と感情に満ちたメロディーに対する Plini の耳は他の追随を許しません。”Mirage” で彼は、音楽情景が奇抜で荒々しく波乱に満ちたものになったとしても、彼の音楽は相変わらずカラフルで美しいままであることを証明したのです。
「作曲に “正解” などはなく、頭の中のスナップショットとして存在するだけだと信じている。完璧なんてとんでもないことだと受け入れることが、何をするにも楽しいことだと思うんだ」


参考文献: GUITAR.COM:Plini on new EP ‘Mirage’ and writing his most out-there music yet

GUITAR. COM:“My fanbase was amazingly angry”: Plini on his new album, signature guitars and ‘that’ Doja Cat controversy

NUSKULL:„Perfection is kind of ridiculous” – an interview with Plini

MUSIC RADER:Plini: “Satch has been hugely inspirational to me so it’s very cool when I’m told people can hear that in there”

PLINI 来日公演の詳細はこちら!SMASH

COVER STORY + INTERVIEW 【STEVEN ANDERSON : GIPSY POWER 30TH ANNIVERSARY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH STEVEN ANDERSON !!

“I Founded My Inspiration In The Sounds Of The Swedish Mysterious And Enchanting Forest And The Nordic Light And Through My Journeys In Eastern Europe.”

DISC REVIEW “GIPSY POWER”

「私は伝統的なギター・ヒーローの典型的なタイプではなく、自分の音楽を前進させ、新しい音楽表現の方法を探求することに重点を置いていたんだと思う。スウェーデンの神秘的で魅惑的な森の音や北欧の光、そして東欧の旅を通してインスピレーションを得ていたんだ。東欧の音楽には、速いテクニカルな部分への挑戦がある一方で、挑戦的でプログレッシブな部分も非常に多いからね」
トルコとフランスを結ぶ豪華寝台列車、オリエント急行。アガサ・クリスティのミステリーの舞台にもなったこの列車の風景は、エジプトから中東、インド、そしてヨーロッパをまたにかけたジプシーの足跡をたどる旅路にも似ています。
ジプシーの文化はその渡り鳥的な生き方を反映して、実に自由かつ多様でした。言語はもちろん、風習、食事、そして音楽。ジプシーであるロマ族に生まれ、放浪生活の中でスウィング・ジャズとジプシー民謡を天才的に融合させた巨匠、ジャンゴ・ラインハルトのオリエンタルな音楽はその象徴でしょう。
1990年代前半、そんなジプシーのエスニックでオリエンタルな音楽をメタルで復活させた若者が存在しました。スティーヴン・アンダーソン。美しく長いブロンドをなびかせたスウェーデンの若きギタリストは、デビュー作 “Gipsy Power” で当時の日本を震撼させました。紺碧の背景に、真紅の薔薇と無垢なる天使を描いたアートワークの審美性。それはまさに彼の音楽、彼のギタリズムを投影していました。
重要なのは、スティーヴンのギター哲学が、あの頃ギター世界の主役であったシュラプネルのやり方とは一線を画していた点でしょう。決して技巧が劣るわけではなく、むしろ達人の域にありながら (イングヴェイがギターを始めたきっかけ) 、ひけらかすためのド派手なシュレッド、テクニックのためのテクニックは “Gipsy Power” には存在しません。いや、もはやこの作品にそんな飛び道具は相応しくないとさえいえます。楽曲と感情がすべて。スティーヴンのそのギタリズムは、当時のギター世界において非常に稀有なものでした。
では、スティーヴンが発揮した “ジプシー・パワー” とはいったい何だったのでしょうか?その答えはきっと、ギターで乗車する “オリエント・エクスプレス”。
スティーヴンのギターは、ジミ・ヘンドリックスの精神を受け継いだハイ・エナジーなサイケデリック・ギターと、当時の最先端のギター・テクニックが衝突したビッグバン。ただし、そのビッグバンは、ブルース、ロック、フォーク、プログレッシブ、クラシックの影響に北欧から中東まで駆け抜けるオリエンタルな旅路を散りばめた万華鏡のような小宇宙。
“The Child Within” の迸る感情に何度涙を流したでしょう。”Gipsy Fly” の澄み切った高揚感に何度助けられたでしょう。”Orient Express” の挑戦と冒険心に何度心躍ったことでしょう。”‘The Scarlet Slapstick” の限りない想像力に何度想いを馳せたでしょう。
その雄弁なギター・トーンは明らかに歌声。”Gipsy Power” は少なくとも、日本に住むメタル・ファンのインスト音楽に対する考え方を変えてくれました。私たちは、まだ見ぬ北欧の空に向かって毎晩拝礼し、スティーヴンを日本に迎え入れてくれた今はなきゼロ・コーポレーションを2礼2拍手1礼で崇め奉ったものでした。
しかし、より瞑想的で神秘的でプログレッシブなセカンド・アルバム “Missa Magica” を出したあと、スティーヴンは音楽シーンから忽然と姿を消してしまいました。”Gipsy Power” の虜となった私たちは、それ以来スティーヴンをいつでも探していました。向かいのホーム、路地裏の窓、明け方の桜木町…こんなとこにいるはずもないのに。言えなかった好きという言葉も…
私たちが血眼でスティーヴンを探している間、不運なことに、彼は事故で腕を損傷していました。その後炎症を起こし、何度も結石除去術、コルチゾン注射、さまざまな鍼治療法を受けましたが状況は改善せず、スティーヴンのギターは悲しみと共に棚にしまわれていたのです。
しかし、それから10年近く経って、彼は再びギターを弾いてみようと決心し、愛機レスポールを手に取りました。それはまさに、メタルのレジリエンス、反発力で回復力。スティーヴンの新しいバンドElectric Religions は、初めての中国、珠海国際ビーチ音楽祭で3万人以上の観客の前で演奏し、中国の映画チームによってドキュメンタリーまで制作され、その作品 “The Golden Awakening Tour in China” がマカオ国際映画祭で金賞を受賞しました。
マカオでの授賞式の模様は中国とアジアで放送され、推定視聴者数は18億人(!)に上りました。スティーヴンは現地に赴き、”文化的表現によって民主主義の感覚を高める” というマニフェストに基づいて心を込めて演奏しました。そして数年の成功と3度のツアーの後、彼は GIPSY POWER をバンドとして復活させるために、Electric Religions を脱退することを選んだのです。
長年の友人であり、音楽仲間でもあるミカエル・ノルドマルクとともに、スティーヴンは GIPSY POWER をバンドとして再結成。アルバム ”Electric Threads” は、2021年11月19日、ヨーロッパの独立系音楽・エンターテインメント企業 Tempo Digital の新しいデジタル・プラットフォームにより、全世界でリリースされました。新たな相棒となったミカエル・ノルドマルクは、MIT で学んだことはもとより、あのマルセル・ヤコブにレッスンを受けた天才の一番弟子。期待が高まります。ついに、大事にしまっていた宝石箱を開ける日が訪れました。奇しくも来年は、”Gipsy Power” の30周年。私たちは、ジプシーの夢の続きを、きっと目にすることができるでしょう。「日本は私のプロとしてのキャリアの始まりでもあった。日本にはたくさんの恩があるし、今でも日本という美しく歓迎に満ちた国に行って、クラブ・ツアーをしたいと思っているんだよ」 Steven Anderson です。どうぞ!!

STEVEN ANDERSON “GIPSY POWER” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SADUS : THE SHADOW INSIDE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JON ALLEN OF SADUS !!

“We Didn’t Want To Get Board Playing The Same Songs So We Challenged Ourselves To Learn Stuff That Was Hard To Play To Keep Us Interested.”

DISC REVIEW “THE SHADOW INSIDE”

「当時はマスタード (テクニック) をデリ (メタル) に持ち込むバンドはあまりいなかったよね!(笑) 僕たちは、当時流行していた平凡なメタルのスタイルから自分たちのスタイルを切り離したかったんだ。それで、いわば限界に挑んだわけさ」
今でこそ、メタルといえばテクニカル、ストイックな技術の修練と自己研鑽が生み出す音楽というイメージが定着していますが、かつては必ずしもそうではありませんでした。もちろん、華やかなギターソロや、リズミックな瞬間はありましたが、楽曲を通して知性と異端を貫いたバンドはそう多くはありませんでした。
「”Swallowed in Black” は、練習に練習を重ねた全盛期に作ったからね。週7日、1日4~6時間練習していたよ。だけど、同じ曲ばかり演奏するのは嫌だったから、自分たちを飽きさせないために難しい曲に挑戦していたんだ」
ではなぜ、メタルはテクニカルで、知的で、異端な道に進んで行ったのでしょうか?あの百花繚乱なベイエリアでも、抜群のテクニックと推進力を誇った SADUS のドラマー Jon Allen はその答えを知っていました。
まず第一に、90年代に入って既存のメタルが時代遅れとなり、売れなくなったこと。売れなければもちろん、知名度を上げるために典型を脱出しなければなりませんし、平凡なままではジリ貧です。SADUS は当時、より限界を極め、テクニカルで複雑怪奇になることで、終焉を迎えつつあったメタル・パーティーからの差別化と進化を目指したのです。
同時に、同じリフや同じリズム・パターンを繰り返すことが多かった既存のメタルは、何度も演奏していると飽きてしまうと Jon は語っています。これは実に興味深い証言で、90年代初頭に枝分かれし、複雑化し多様化したメタル・ツリーの原動力が、ただリスナーへ向けてだけではなく、アーティスト自らの表現や挑戦のためだったことを示しています。
「プログ・スラッシュやテクデスを意図的にやろうとしていたわけじゃないんだ。僕たちはただ、70年代と80年代のアイドルから影響を受けたものを、自分たちの音楽で輝かせるためにそうしたヘヴィな枠組みを使っていただけなんだよ。有名どころだと、メイデン、ラッシュ、サバス、ジェスロ・タル、プリーストみたいなバンドの影響をね」
DEATH, CYNIC, ATHEIST といったバンドと並んで、テクニカル・メタルの開拓者となった SADUS にとって、奔放で自由な枠組みであったスラッシュやデスメタルは、特別都合の良い乗り物でした。悲鳴を上げるボーカルの狂気、プログレッシブな暴走、フレットレスのうねり、限界を突破したドラム、拍子記号の乱発。
規格外のメンバーが集まった SADUS は当時、前述のバンドたちほど人気を得ることはありませんでしたが、前述のバンドたちよりも奇々怪々でした。だからこそ、その壁を壊す “黒い衝動” が徐々に認められて、今では伝説の名に相応しい存在となりました。
「Steve Di Giorgio は他のプロジェクトで超多忙だったんだけど、僕たちはボールを転がし続け、サダス・マシーンを起動させなければならなかった。それでも、Steve を作曲とレコーディングのために招いたんだけど、今回はうまくいかなかったんだよね。それで、Darren と僕は前進し続けることにしたんだ」
2006 年以来となる新作 “The Shadow Inside” には、バンドの顔であったベーシスト、フレットレス・モンスター Steve Di Giorgio は参加していません。それでも、彼らは今でもスラッシュのやり方、メタルの壁の壊し方をしっかりと覚えています。
SADUS がかつてのような高みに到達する力があるのかという疑問符は、オープナーの怒涛なる一撃 “First Blood” から一掃されます。猫の目のリズム・チェンジこそ減りましたが、それを補ってあまりある洗練と強度。”The Shadow Inside” は年齢が単なる数字に過ぎず、好きと挑戦を続けることの強みを再度、力強く証明しました。
この作品には、Darren と Jon がなぜ “Tech-metal” の先陣を切ったのかを再確認させる大量のエネルギーと興奮が詰まっています。リフの饗宴、リズムの混沌、冷徹な知性に激しさの渦。スラッシュとデスメタル、2つの祭壇を崇拝する者にとって、SADUS は今も揺るぎない司教に違いありません。
今回弊誌では、Jon Allen にインタビューを行うことができました。「大事なのは、人生の決断の一点において、ソーシャルメディアを気にしないことだ。君の中にある影は、人生において何が真実なのかを見抜き、指摘することができるのだから」 どうぞ!!

SADUS “THE SHADOW INSIDE” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MOHINI DEY : MOHINI DEY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MOHINI DEY !!

“People Can Steal Everything But Not Your Art”

DISC REVIEW “MOHINI DEY”

「私はインド人で、カルナティック・ミュージックで多くのコナッコルを学んだわ。それをスラップ・ベースに取り入れ始めたら、みんなとても楽しんでくれたし、それがみんなにとってとても新鮮で新しかったのだと思うわ。私は様々に異なるスタイルやヴァイブをベースで表現するのが好きだから」
ムンバイ出身のかわいいとおいしいを愛する26歳のベーシスト、Mohini Dey は、Forbes Indiaによって “30歳未満で最も成功したミュージシャン” と評されています。9歳で世界への扉をこじ開けた Mohini は、それから18年間、類稀なる才能と努力で Steve Vai, Simon Phillips, Stanley Clarke, Jordan Rudess、Quincy Jones, Mike Stern, Marco Minneman, Gary Willis, Dave Weckl, Tony Macalpine, Stu Hamm, Plini, Guthrie Govan, Chad Wackerman, Chad Smith, Gergo Borlai, Victor Wooten など、本当にそうそうたるアーティストと共演を果たしてきました。日本のファンには、B’z との共演が記憶に新しいところでしょう。
インドは今や、ロックやメタル、プログレッシブにフュージョンの新たな聖地となりつつありますが、確実にその波を牽引したのは Mohini でした。そして音楽の第三世界がまだ眠りについていた当時、彼女がムンバイから世界への特急券を手に入れられたのには確固たる理由があったのです。
「並外れた存在になりたければ、並外れた時間を費やし、才能を磨く必要がある。才能は報酬ではない。報酬とは、才能を磨くために懸命に努力した結果、実りを得ることだから。人は何でも盗めるけど、あなたの芸術までは盗めないの」
アルバムには “Introverted Soul” “内向的な魂” という、Mohini が10年間にわたって温め続けた楽曲が収録されています。友達と遊ぶことも許されず、父の夢を背負いひたすらベースだけに打ち込んだ学生時代。そもそもがとても恥ずかしがり屋で、内向的だった彼女はしかし、音楽で抜きん出ることによってその世界を広げ、今では率直で社交的で経験が大好きな人として成長を遂げました。
才能は誰にでも与えられているが、磨かなければ意味がない。そんな父の教えと、彼女自身の弛まぬ努力が、いつしか彼女の世界を広げるだけでなく、インドの音楽シーン全体をも拡大する大きなうねりとなっていったのです。
「私のライブが終わると、たくさんの子供たちや若い女性ミュージシャンが私のところにやってきて、”Mohini は私のアイドルよ。あなたは私のインスピレーションの源で、私がベースを弾けるようになったのもあなたのおかげ” って伝えてくれるのよ。世界は変わりつつある。今の私の目標は、インドからもっと多くの女性奏者を輩出することなの」
同時に、性別や宗教、人種の壁に対する “反抗心” も Mohini の原動力となりました。インドを含む世界の多くの地域では、白い肌は依然として最も望ましいまたは美しいものとして祝われています。特にインドでは、女性は今でも肌の色について多くの差別を受けているのです。だからこそ、音楽を通して世界を旅した彼女は、あらゆる人種、宗教、文化の人々に会い、すべての文化の美しさを目にし、さまざなま壁を取り払いたいと願うようになりました。”Coloured Goddess” はそうした差別に苦しむ美の女神たちすべてに捧げた楽曲。
一方で、”Emotion” は Mohini 自身が受けてきた、女性であることに対する過小評価への反発です。”女性である私がどんな男性よりも上手にベースを弾くことが可能であることを世界に示したかった” と語る彼女は、幼い頃から、女性はベースを極めるのに力が足りない、強さがないという批判を浴び続けていたのです。
世界で羽ばたいた彼女は今や、そうした姿の見えない “批判者” たちに感謝の “感情“ さえ持っています。そうした批判がなければ、これほど練習することはなかっただろうと。怒りと感謝の入り混じった感情の噴火はすさまじく、ベースを弾き狂う中で彼女は後進たちに、語るよりも行動で示せとメッセージを放ちました。
「18年半の仕事を通じて、私は信じられないほど才能のある伝説的なミュージシャンに会ってきた。彼らと仕事をするとき、実は私は彼らに自分のアルバムに参加してもらうことを念頭に置いていたのよ。それぞれが自分の経験、声、旅を私の曲にもたらしてくれたの。だから、そうね!私は自分の多様な選択を非常に意識していて、各曲ごとに慎重に各ミュージシャンを選んでいったの」
そうした背景を湛え、彼女自身の名を冠したデビュー・フル “Mohini Dey”。この作品で Mohini は、まるで人種や性別、文化や宗教の壁を壊すかのごとく、世界のあらゆる場所に散らばるトップ・アーティストを集めて、前代未聞のカラフルな音の融合を生み出しました。Simon Phillips、Guthrie Govan、Marco Minneman、Steve Vai, Jordan Rudess, Gergo Borlai、Bumblefoot、Scott Kinsey、Narada Michael Walden、Gino Banks、Mark Hartsuch、Mike Gotthard…すべての名手たちは団結し、Mohini の音楽を通して愛と物語を表現していきました。
ここには、かつて WEATHER REPORT や MAHAVISHNU, Chick Corea が培った名人芸とエモーションの超一流二刀流がたしかに存在しています。ただし、彼女の夢は一番になることではなく、自分自身であり続けること。新たな世代を育てること。寛容と反発、そしてムンバイの匂いをあまりに濃くまとった “Mohini Dey” は彼女の決意を体現する完璧な意思表明でしょう。
今回弊誌では、Mohini Dey にインタビューを行うことができました。「B’z と活動した後、私は日本で多くの名声を得て、日本のファンから私の音楽性、ミュージシャン・シップをたくさん愛してもらえるようになった。それに、B’z のおかげでヘヴィなロック・ミュージックも大好きになったのよ」肉への愛を綴った “Meat Eater” や、カリフォルニアのダブルチーズバーガーと恋に落ちる “In-N-Out” など彼女の真摯な食欲もパワーの源だそう。どうぞ!!

MOHINI DEY “MOHINI DEY” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FIXATION : MORE SUBTLE THAN DEATH】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JONAS W HANSEN !!

“We Wanted Something To Reflect The Title «More Subtle Than Death» Which Was Derived From The Quote «Society Knows Perfectly Well How To Kill a Person And Has Methods More Subtle Than Death»”

DISC REVIEW “MORE SUBTLE THAN DEATH”

「タイトルの “More Subtle Than Death” “死よりも巧妙な死” は、”社会は人を殺す方法を熟知しており、死よりも巧妙な方法がある” という名言に由来している。
僕にとってこの言葉は、社会が人間らしさを奪い去り、殻に閉じこもらせてしまうということを指しているんだ。それは僕たちがアートワークに込めた思いでもある。この花は人間のメタファーでもあるんだ」
正邪混沌の時代。事実と虚構の境界線は日ごとに曖昧となり、貪欲、腐敗、抑圧が横行した世界で、ノルウェーの FIXATION はデビュー・アルバムからそうした社会の経年劣化をメタル・コアの叫びで再生したいと願います。
アルバム “More Subtle Than Death” “死よりも巧妙な死” において彼らは、社会の無慈悲な盲目さを大胆に取り上げました。肉体的な死よりも残酷なのは精神的な死。誰からも認められない孤独な尊厳の死こそ最も恐ろしいことを、社会が時に途方もなく欲望に忠実で残酷なことを FIXATION は知っています。それは、自分たちもここまで来るのに、認められるのに多くの時間と孤独を費やしたから。だからこそ彼らは世界中に絶望と恐怖をもたらす対立や分断の溝を埋めながら、希望を持ち続け、自分に忠実であり続け、名声よりも自分自身の中に強さを見出そうとメッセージを放っているのです。その言葉はアルバムを通して真実味を帯びています。
「あれでもない、これでもないと言われたこともあるよ。でも正直に言うと、僕たちはただ自分たちが好きな音楽を作っているだけで、人々がそれを何と呼ぼうと勝手なんだ。門番なんて本当にバカバカしいよ。みんなが好きな音楽を楽しめばいいんだ」
自分に忠実であり続けるというメッセージは、その音楽にも貫かれています。通常、メタル・コアといえば、ヘヴィネス、クリーンとグロウルのダイナミズム、モンスターのようなブレイクダウンが重視されるものですが、FIXATION のメタル・コアではそれ以上に質感、ニュアンス、アンビエンスがサウンドの骨格を担います。だからこそ、ヘヴィなギター・リフ、エレクトロニックな装飾、幻想的なイメージ、フックのあるコーラスがシームレスに流動し、感情が生まれ、聴く者を魅了し、活力を与えるのです。加えてここには、ポップな曲もあれば、アグレッシブな曲もあり、さらにオペラも顔負けの壮大なスケールの曲まで降臨して、実にバラエティにも富んでいます。”メタルコア、ポスト・ハードコア、スタジアム・ロックを取り入れたハイテンションでしかしよく練られたモダン・ロック” とはよく言ったもので、BRING ME THE HORIZON からメールを受け取ったという逸話にも納得がいきます。
「世界が暗い方向に向かっていても、トンネルの先に光があることをもちろん願っているよ。もしその希望の光がなかったら、僕たちは何のために戦っているのだろう?」
欲望や名声を追い求めることに警告を発したアルバムにおいて、エンディング・トラックの “Dystopia” は特別オペラティックに明快なメッセージを贈ります。天使のような純粋さで歌い上げる歌詞には、支配と抑圧の色合いが兆し、しばらくの沈黙の後、沸き起こるコーラスにおいて、次世代の未来に対する警告のメッセージが叫ばれます。最後のメッセージ “俺たちは寄生虫” という言葉は、示唆に富み、激しく心を揺さぶります。そう、このアルバムには何か美しく心を揺さぶるものがあるのです。おそらくそれは、欲にまみれた人間の手による世界の終焉を我々みなが予感しているからかもしれませんね。
今回弊誌では、シーンきっての美声の持ち主 Jonas Wesetrud Hansen にインタビューを行うことができました。「日本のゲームとともに育ったことは、僕たちの子供時代を決定づけたし、大人になった今でも僕たちを決定づけ続けている。全員が任天堂、ポケモン、マリオ、ゼルダとともに育ったんだから。もちろんキングダム・ハーツもね!」 どうぞ!!

FIXATION “MORE SUBTLE THAN DEATH” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FIFTH NOTE : HERE WE ARE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH FIFTH NOTE !!

“We Don’t Know If We Can, But We Try To At Least Make Rock Scene Enjoyable Without The Use Of Alcohol Or Drugs, Or Even Sex.”

DISC REVIEW “HERE WE ARE”

「僕たちは、州内だけでなく、世界的に知られるバンドになりたいんだ。僕たちは西洋のスタイルにとても影響を受けているけれど、自分たち独自のプレイも創り出そうとしている。アルバム・タイトルの “Here We Are” “僕らはここにいる” は、そうした僕たちのモチベーションを端的に表しているんだよ。僕たちは、魂に平和や癒しをもたらすような良い音楽を作りたいと思っているんだ。そして、僕たちの音楽で世界にインパクトを与えたいと願っているんだよ」
インターネットや SNS の登場、進化によって、音楽は世界中のものとなりました。これまで、決してスポットライトが当たらなかったような僻地からも発信が可能となり、人種、文化、宗教の壁を超えて多くの人の耳に届けることが叶う世の中になったのです。特に、メタルの生命力、感染力、包容力は桁外れで、思わぬ場所から思わぬ傑作が登場するようになりました。
「FIFTH NOTE と ABOUT US は、お互い西洋音楽の影響を多く受けているのは同じだね。その上で、僕たちナガ族は美しいメロディーを作るのが好きなんだ。また、トニック・ソルファ (相対音感) のような独自の音楽アレンジもあるからね。そうした美しいメロディやアレンジは、きっと深く僕らのルーツに刻まれているんだろうな」
近年、そうしたメタルの “第三世界” で特に注目を浴びているのがインドです。いや、もはや国力的にも、人口的にも、文化的にも第三世界と呼ぶのも憚られる国ですが、ここ最近、メタルの伸張は並々ならぬものがあります。ボリウッドを抱きしめた BLOODYWOOD の大成功は記憶に新しいところですが、それ以外にも様々なジャンル、様々な地域でまさに百花繚乱の輝きを放っているのです。中でも注目したいのが、インド北東部のナガランド。かつては首狩りの慣習もあったというナガ族が住むこの地域は、文化的にも民族的にも音楽的にも、インドのメジャーな地域とは異なっていて、だからこそ、この場所のメタルは独自の進化を遂げることができたのかもしれませんね。
昨年紹介した ABOUT US にも言えますが、ナガ族のメタルはメロディが飛び抜けて強力。さらに、かつて天空の村に住む天空族と謳われたその二つ名を字でいくように、彼らは舞い降りたメロディをその際限なきハイトーンの翼で天へと送り返していきます。
「一般的にロックというと、ハードコアでワイルドで暴力的な人たちや、道に迷っているような人たちが、エクストリームな音を通して怒りを表現し、怒りで痛みを解消しようとするものだ。そのような中で、僕たちは、道に迷ったり、君が挙げたような問題を抱えた人々に、自分たちは孤独ではないということを伝えたいんだよ。僕たちの前向きな音楽が彼らの痛みや問題を和らげてくれることを願っているんだ」
そこには、ナガ族の90%が敬虔なクリスチャンであるという事実も関係しているのかもしれませんね。インドの多くの新鋭がエクストリームなサウンドで人気を博す中で、FIFTH NOTE はプログレッシブ・ハードという半ば死に絶えたジャンルで世界に挑んでいます。ただし、このジャンルでは、暴力も、ドラッグも、セックスも、決して幅を利かせてはいません。必要なのは、ポジティブな光と知性、そして複数のジャンルを抱きしめる寛容さ。つまり、洗礼を浴びた FIFTH NOTE にとっては追求すべくして追求したジャンルでした。
「僕らがクリスチャンであるという事実、クリスチャンとしての倫理観は、僕らにもっと良いことをしようというモチベーションを与えてくれるんだ。できるかどうかはわからないけど、少なくともロックシーンをアルコールやドラッグ、あるいはセックスを使わずに楽しめるものにしようと努力しているよ」
理想は追求しなければ実現しない。インドに、そして世界に不公平や抑圧、犯罪に暴力が蔓延っていることは、当然彼らも知っています。しかし、暴力は暴力では解決せず、怒りに怒りをぶつけることがいかに愚かであるかも彼らは知っています。だからこそ、FIFTH NOTE はセックス、ドラッグ、ロックンロールという乱暴なステレオ・タイプを破壊して、メタルは “ストレート・エッジ” でも存分に楽しいことを伝えようとしています。それが世界を前向きに変える第一歩だと信じながら。
そしてその野心は、TNT, CIRCUS MAXIMUS, STRYPER, TOTO といった一癖も二癖もあるような英雄を、旋律や知性、そして耳を惹くキャッチーなサウンドで今にも凌駕しそうな彼らの音楽なら、 実現可能なのかもしれませんね。
今回弊誌では、FIFTH NOTE にインタビューを行うことができました。「ナガランドは丘陵地帯が多く、部族が多く住んでいる。そのため、音楽はほとんどが民族音楽なんだ。しかし、西洋の侵略が進むにつれて、そうした音楽はかなりポピュラーになっていった。だから伝統音楽と同様に、ロックやメタルも僕たちに大きな影響を与えることになったんだ」 どうぞ!!

FIFTH NOTE “HERE WE ARE” : 10/10

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