EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH KATIE DAVIES OF PUPIL SLICER !!
“I Don’t Think Anyone Should Be Discriminated Against For How They Were Born, Who They Love And How They Look. Hopefully One Day The World Will Be a Better Place Where Things Aren’t As Bad As They Are Today.”
COVER STORY : BLACK COUNTRY, NEW ROAD “FOR THE FIRST TIME”
“Black Country, New Road Is Like Our Very Own ‘Keep Calm and Carry On’ Or Tea-mug Proclaiming That You Don’t Have To Be Crazy To Work Here But It Helps. It Basically Describes a Good Way Out Of a Bad Place. Excited People Sometimes Claim To Have Lived Near The Road And I Keep Having To Explain To Them That It Doesn’t Exist”
BLACK COUNTRY, NEW ROAD
英国最高のニューバンド、世界最高のニューバンド。デビュー作ですでに最高の評価を得て、将来が約束されたかのように思える BLACK COUNTRY, NEW ROAD。しかしこの独創的な、全員がまだ20代初頭の若者たちは地に足をつけて進んでいきます。
「せいぜい、10点中7点くらいの評価だと思ってたよ。誰もが好きになるわけはないからね。大抵、Twitter で音楽を発表しても、2割が熱狂し、5割が知らん顔、残りの3割が嫌うって感じでしょ?」
サックス奏者の Evans がそう呟けば、ベースHyde も同意します。
「私たちはただの7人のベストメイトで音楽を作っているだけなの。注目されることは名誉なことだけど、私はそれとはあまり関係がないのよ」
このケンブリッジシャー出身の7人組モダン・ロックバンドは、プレスの注目を浴びようとはしていません。彼らは結成してまだ2年半ほどしか経っていませんが、今のところプレス、マスコミの必要性を感じていないのです。なぜなら、ライブが、強烈な口コミの熱量を生み出しているからです。
今、南ロンドンのロック・ミュージック周辺で何かが勃発しています。ポストパンクやポストハードコアの枠組みを使って、アシッドフォークからクラウトロック、クレズマー、ジャズ、ファンク、アートポップ、ノイズ、ノーウェーブまで、様々な影響を受けた多様なバンドが、奇妙な新しい方法でそれらを組み合わせて、奇妙な新しい音楽を生み出しているのです。
こういった素晴らしい手腕を持つ若いバンドは、現役または元音楽学生の場合が多く、結果としてお金をかけずに実験や成長ができる練習場へのアクセスが若い才能にとっていかに重要かを示しています。実際、BC,NR のうち3人はクラッシックの教育を受けています。
BLACK COUNTRY, NEW ROAD に参加しているミュージシャンのほとんどは、何人かがそのまだ学生であった2014年にイースト・カンブリッジシャーで結成された NERVOUS CONDITIONS というバンドに所属していました。そのライブパフォーマンスはエキサイティングという言葉でさえ控えめに思え、ダブルドラマーのラインアップは、1982年の THE FALL や1993年の NoMeansNo のような雰囲気を醸し出して、BEFHEARTIAN の喧騒と BAD SEEDS の勢いまで感じさせていました。さらにグラインドコアの激しさと、憎まれ口や軽蔑の念が、瞬時に静謐な美しさに変わるような、煌びやかな輝きを携えていました。
ただし2018年1月にシンガーの Conner Browne がSNSの投稿を通じて2人の別々の人物から性的暴行を受けたと告発され、数日後にバンドは解散を余儀なくされたのです。声明の中で、Conner は告発をした2人の女性に謝罪しただけでなく、バンド仲間にも謝罪しました。
数ヶ月も経たないうちに、ほとんど何の前触れもなく、同じようなラインナップの新しいグループがロンドンと南東部を中心に激しいギグを行っていました。Conner がいなくなり、元ギタリストの Izaac Wood がフロントマンとなり、ドラマーの一人 Johnny Pyke は去りましたが、Chalie Wayne はまだキットの後ろにいます。ベースの Tyler Hyde, サックスの Lewis Evans, シンセサイザーの May Kershaw, ヴァイオリンの Georgia Ellery とお馴染みの顔が新たなバンドを彩ります。セカンドギタリストには Luke Mark が加わりました。
ただし、ラインナップが似ているとはいえ、バンドとしては(全くではないにしても)かなり違ったサウンドになっていました。BC,NR の方が優れていると、数回のライヴで明らかになります。新たにフロントマンとなった Izaac Wood の超越的で文学的なインスピレーションがバンドをさらに進化させたとも言えるでしょうか。
すでにトレードマークとなったシュプレヒコール・ヴォーカルだけではなく、個人的な経験を歌っているというよりも、歌詞の一部または全部がフィクションになっているような、物語性のある曲作り。Wood は散文、詩、韻を踏んだ連歌などを1曲の中で簡単に切り替えています。彼は、視点の変化を伴う複数の物語や、他の曲へのメタ・テキスト的な参照など、ポストモダン的な手法を用いています。
Speedy Wunderground からリリースされたデビュー・シングル “Athen’s France” のセッションで Wood は、1億再生を記録した Ariana Grade の “Thank U, Next” と、彼自身が同年に THE GUEST としてソロでリリースした “The Theme From Failure Part 1” というあまり知られていないシングルをチェックしたと語っています。これらの曲をはじめ、詩的に音楽的に確かな足取りのを並置することは、BLACK COUNTRY, NEW ROAD がどこから来ているのかにかんして、多くの手がかりを提供してくれるはずです。
では Isaac Wood がソングライターになる前は、日記を書いたり、10代の詩人であったり、熱烈なエッセイスト、PCで戦うキーボードの戦士など、文章に馴染み深い人間だったのでしょうか?
「言葉を書くことに関しては、特に長い歴史はないし、豊かな歴史もない。初期の試みはいくつかあったけど、本気で書くことにコミットした最初の記憶は、2018年の “Theme From Failure Pt.1” だった。」
この曲は、歌詞が陽気でメタモダンなシンセポップな作品でした。
「今まで寝たことのある全ての女の子に自分のパフォーマンスを評価してもらったけど、その結果は恐ろしいものだった。 あの曲は、全く同じことを言う方法が50通りもあることを証明しているんだ。」
歌詞の影響力といえば、Wood はブリクストンのザ・ウィンドミル・パブと Speedy Wunderground のレーベルを中心とした狭いシーンの中で同業者、尊敬する人たちを挙げています。南ロンドンの音楽シーンは控えめに言っても今、沸騰しているのです。彼は特に Jerskin Fendrix を称賛しています。
「自分の音楽をやっている時にはほとんど把握していなかった音楽的なコンセプトが、初めて彼を見た時にはすでに Jerskin のセットの中で完全に形成されていたんだ。彼がやったことは面白くて感動的だったけど、決してくだらないものではなかった。僕たちの関係を最も正確に表現するならば、僕は彼の甥っ子ということになるだろうね。」
それに Kiran Leonard の “Don’t Make Friends With Good People” も。
実際、BLACK MIDI, SQUID と共に、BC, NR は単なるポストパンクの修正主義者と定義することはできないにせよ、純粋に優れたポストパンクの復活を祝っているようにも思えます。もちろん、重要なのは彼らがフリージャズやクラウトロックを漂いながら1970年代後半の最高で最も突出したバンドが持っていた精神、ダイナミズム、実験性を備え、新たに開発されたジャンルまで横断している点ですが。コルトレーンの精神から SWANS の異能、TOOL の哲学まで、受け止め方も千差万別でしょう。
「彼らは僕らをもっと良くしようと背中を押してくれるんだ。彼らより優れているというよりも、より良いミュージシャンになって、より良い曲を書けるようにね。もっと練習しなきゃと思うよ」
文学的な影響については、「もちろん、僕はいくつかの本を読んだことがある。明らかに僕は何冊かの本を読んでいて、それらの本が言葉にも不確かだけど影響を与えているんだ。」 と語っていますが、具体的には 数年前に読んでいた Thomas Pynchon (アメリカの覆面作家。作品は長大で難解とされるものが多く、SFや科学、TVや音楽などポップカルチャーから歴史まで極めて幅広い要素が含まれた総合的ポストモダン文学) と Kurt Vonnegut (人類に対する絶望と皮肉と愛情を、シニカルかつユーモラスな筆致で描き人気を博した。現代アメリカ文学を代表する作家。ヒューマニスト) の名前を挙げます。
「芸術の高低の境界線を尊重していない人がいることは問題だけど、少し成功している作家はその境界線を尊重し、それを理解し、それを覆したり、操作したりしているんだよ。彼らは文化についてのつまらない一般化したポイントを作るためにやっているのではなく、実際に人々が共感できるような、感情的に共鳴する何かを言うためにやっているのだから。僕たちは皆、文化的な価値の高低という点では、高いものも低いものも経験しているけど、それらが交差したとき、あるいは境界線が存在するように感じられないとき、その境界線が取り払われたとき、それはその瞬間の感動や感情的な共鳴の一部となるんだ。それが正確に表現できれば、信じられないほどインパクトのあるものになる。だから僕はヴォネガットのような作家に興味を持っているんだ。物語に興味を持ってもらうための安っぽいトリックかもしれないけどね。でも、リスナーが風景を想像するのに美しい言葉や文学的なセンスを使う必要はないんだよ。コカコーラのように、彼らがすでに知っているものを与えて、あとは好きなものを好きなだけ詰めればいい」
意外かもしれませんが、Wood は Father John Misty の大ファンであることも公言して憚りません。
「正直、彼のことをちょっとセクシーな愚か者だと思っていたんだけど、気がつけば彼の後を追いかけていた。彼は世界最高の作詞家ではないけれど、彼の考えていることは完全に、完全に正直だからね」
Wood 自身の初期の文学的な実験としては、”Kendall Jenner” が挙げられるでしょう。ホテルのスイートルームに宿泊するTVスターを、彼らの意志に反して強引にその場を訪れるリアリティーショーの一場面。もちろんフィクションですが、Kendall (カーダシアン家のお騒がせセレブライフで知られるモデル、タレント) は自殺の前に、(私はNetflixと5HTP の申し子/私の青春時代すべてがテレビで放送されている/何も感じることができない/ジュエリーを脱ぐと私は空気よりも軽いのよ)と嘆きます。
「僕はちょうど面白いと思った物語の装置を試してみたかった。音楽の終わりは前のセクションとはかなり対照的で、物語にはある種のクライマックスが必要だと思ったので、多くのものと同じように、死で終わったんだ。この作品は、彼女の立場や場所について、あるいは彼女のファンや視聴者についてのより広い解説を意図したものではないんだ。別に視聴者の共犯性をあげつらってもいない。いつも彼女や彼女の家族の出来事を楽しんでいたからね。ストレートな物語性のある作品を作るのは初めての試みで、今振り返ってみるとちょっと刺激的すぎたかもしれない。もちろん、女性を差別する意図なんてないよ?そんなことは考えたこともなかった。」
“For The First Time” は昨年3月にイギリスがロックダウンに入る前にレコーディングされた最後のアルバムの一つであり、混乱の中で録音されたアルバムとして完全にふさわしいものだと感じられます。屹立したポストロックの冒険と皮肉なポップカルチャーへの言及に満ちたレコードは、反商業的で、リスナーが純粋なポップミュージックを期待していたのであれば間違った作品を手に取ったと言えるでしょう。
では、この作品で Wood はソングライティングの際に実際の自分に近いペルソナを採用したことはあるのでしょうか?
「最初の曲(”Athen’s France” や “Sunglasses”)では、大きな不安の中で自分を守ろうとしたときに現れる、哀れでシニカルな思考に焦点を当ててきた。だから、そうなんだと思うよ…男の内面をキャラクターで書いてきたからね。それは厄介で、時々うまく翻訳できないこともあると思うんだけど…。例えば、初期の曲では女性の描写がやや一次元的だったと思われていたのは間違いなく後悔しているよ」
カニエ、NutriBullets、デンマークの犯罪ドラマへの言及でポップカルチャーへのアイロニーを匂わせながら、不快なほどに生々しく別れの領域を掘り下げる “Sunglasses”。その機能と意味はまるでボックスを踏み続けるダンスのように、9分という時間の中でずっと続いています。傷ついた自我、嫉妬、不安、その他全てを語るこのトラックの強烈さを考えると、当然のことながら、Wood は具体的な解説を避けようとします。
「多くの人の心の中にある特定の視点から書かれている。それは信じられないほど悲観的で傲慢に感じることがある声なんだ。多くの人が初めて’Sunglasses’を聴いた時に、耳障りで擦り切れたような感じがすると思うんだ。でも実際には、音だけじゃなくかなり苛立たしげな声を出していて、かなり馬鹿げた抑揚をつけていて、それはとても泣き言で、演技的で、かなり大げさなんだよね。聞いているとかなりイライラしてしまう。他の多くの人もそうだろうね」
そもそも、ポストパンクやそれに隣接するシンガーで実際誰もが認める実力者など、Ian McCulloch, David Bowie, Scott Walker くらいではないでしょうか。Mark E Smith, Sioux, Ian Curtis, Iggy Pop への評価が突然負から正へと反転したリスナーは少なくないでしょう。
「願わくば、僕のヴォーカルをたくさん聴いて、声に対する経験がある時点で反転してしまえばいいんだけど。そうすれば、リスナーは僕の歌に夢中になり、それを楽しむようになるからね」
“Sunglasses” の異質なアレンジメントについては「この曲は、物語の中で何が起こるのかという点を、音楽的にかなり露骨に設定していると思う。説明するまでもないだろうけど。何かが起こって、最初の道とは別の道で終わる。音楽はそれを追っているだけなんだ。天才的なポップ・コーラスが書けない時には、この書き方が効果的だと思うよ」
最近まで Wood は10代でした。彼にはまだ時間がたっぷりと残されています。そして刻々と変化を続けるはずです。もちろん、だからこそ現在の曲作りには、若者特有の不安感も。
「不安が意識的に影響しているとは全く考えていないけど、とても重要な時にはよく感じるし、自然とそのことについて書いたり歌ったりするね。そして、なにかを放出する時には、単純に自分自身かなり圧倒されていることに気づくことがあるよ」
BLACK COUNTRY, NEW ROAD という奇妙な名前を Wood はプロパガンダだと説明します。
「僕たちなりの『Keep Calm and Carry On』のようなもので、ここで仕事をするのに必ずしも狂っている必要はないけど、助けになることはあると宣言しているんだ。基本的には、悪い場所から抜け出すための良い方法だと説明しているんだよ。興奮した人たちが時々、この道を知ってるなんて言うんだけど、僕はそれが存在しないことを彼らに説明し続けなければならないんだよ」
このバンドの飄々としたウィットは “For The First Time” 全編に現れていますが、特にオープニングの “Instrumental” でのおかしなキーボードリフはその証拠でしょう。通常、待望のバンドのデビュー・アルバムを紹介するような方法ではありません。Evans が紐解きます。
「奇妙だからといって、それが必ずしも悪いとは限らない。シンセのラインが目立つのはおかしいし、曲の中心になるのもおかしい。だけどそれは素晴らしいことだと思うよ。僕たちは4つのリード楽器を持っている。実際には5つかもしれない。2本のギター、ボーカル、サックス、バイオリン、そして鍵盤を使って、みんなで細部にまで気を配る必要があるんだ。細部にまで気を配っていないと、たぶん聴いていて気持ちの良いものにはならないだろうね。僕たちは我慢しなければならない。だからこそうまくいくんだ」
実験的レーベル Ninja Tuneと契約したのは、収穫でした。コンタクトはラブレターという21世紀において脇に追いやられ、枯れ果てたスタイル。型にはまらない契約だったからこそ、完璧にフィットしていたのでしょう。未知の世界への感覚も魅力の一つだったと Hyde は説明します。
「彼らが私たちメンバーの中の誰かを知っているとは思えなかった。とてもエモーショナルになったわ。私たちに契約を申し入れていた他の誰も、このような方法で感情を表現していなかったからね。彼らはわざわざそんなことをする必要はなかったけど、そうしてくれたの」
このグループがすでに若いファンの想像力を掻き立てていることに注目すべきでしょう。”Opus” を制作した最初のセッションでは、新グループと旧グループとの差別化を図るための議論があったのではないでしょうか?
「具体的にいつ、どのようにしてそうなったのかは覚えていないけど、BC,NRで何をしたいのかという理解はあったのだと思う。NERVOUS CONDITIONSを2~3年やっていたんだけど、その間に開発したものをいくつか取り入れたいと思っていたのは確かだよ。でももちろん、それまでとは違う種類の音楽を作りたいという願望もあるし、現在の作品は、僕ら全員にとってよりくつろげるものになっていると思う」
Hyde も同意します。
「感情的にも音楽的にもつながっているんだから、私たちは何かを作り続けるしかなかったの。感情的には脆くなって、もがいていたけどね」
最新シングルとなった “Science Fair” は、前衛的なギターとブラスのモンスター。Evans のお気に入りです。
「この曲はかなりストレートなものだよ。キューバ風のビート・フリップなんだ。科学的に完璧なドラム・ビートだよ」
一方、Georgia は、起源が東欧とドイツ、伝統的なユダヤ人の民族音楽クレズマーがバンドにもたらした影響を説明します。ヴァイオリンとサックスは伝統的なロックの楽器ではありませんが、クレズマーのバックグラウンドは新たな扉を開きました。
「祝賀会の音楽みたいなものよ。パーティーミュージックなの。ユダヤ文化の中で人々が集まる時に演奏されるのよ。悲しい音楽でも、かなりハッピーな音楽。でも、マイナーキーだから悲しそうに聞こえるのよね」
アルバムのタイトルでさえも、奇妙な場所から抜かれています。それは Isaac が偶然見つけた “We’re All Together Again for the First Time” と題されたデイヴ・ブルーベックのジャズ・アルバムからの抜粋でした。
曲作りのプロセスは決まっているのでしょうか?
「具体的なプロセスはないんだけど、最初のアイデアはたいてい Lewis と僕がスケッチをして、それからハーモニーを奏でることのできるメンバーがトップラインなどでそのスケッチを補強していくんだ。その後、グループ全体で肉付けをして分解し、全員が満足できるものに仕上げていくんだよ。その時にテーマを考えて、歌のための言葉をまとめるんだ。曲作りの過程で言い争うことはほとんどないね」
それはバンドのサウンドの断片の組み合わせ方にもはっきりと表れています。”For The First Time” は例えば「エキゾチックな」着色剤を使っただけのロックではありません。クレズマーとポスト・ハードコアという、表向きは全く異なる要素が反復合成されていることを考えると、このバンドにはいくつかの「異なる陣営」が存在しているのではないかと疑いたくもなります。
「確かに相対的な専門知識のポケットはいくつかある。Georgiaと Lewis はクレズマー音楽の経験が豊富で、Georgia は現在 Happy Bagel Klezmer Orkester と共演しているし、Lewis は若い頃に経験豊富なクレズマー音楽家と共演して彼らから即興演奏の仕方を教わり、それが彼の作曲に大きな影響を与えているんだよ。May はクラシックの分野に最も多くの時間を割いているし、僕はARCADE FIRE のアルバムを最も多く所有している。でも、これらの影響を受けたもの同士がお互いに争っているわけではないんだ」
Evans も同意します。
「僕たちはとても仲が良いから、誰かにアイデアがクソだと言われても気が引けることはないよ。ソングライターの中には、音楽は自分の赤ちゃんのようなものだと言う人もいるけど、それは僕たちのエートスではないんだよ。僕らは常に曲を変えているし、7人組のバンドでは手放す能力が本当に重要なんだ。独裁者にはなりたくないんだよね。他にも6人の素晴らしい才能を持った人がいるんだから、彼らを無視して何の意味があるんだろう?それは音楽を悪くするだけだ。もしそれが1人の手によるものなら、僕らの音楽はクソになっていただろうね」
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JAMES PRATT OF COUNTLESS SKIES !!
“Maybe, Some Of The People Who Miss The Death Metal Elements Will Enjoy Glow. I Think If Nothing Else, It Has The Diversity That Was Found In Early Opeth.”
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JASON EVANS OF INGESTED !!
“The Problem Before Is That a Lot Of The Bands That Were Around When Ingested Started Just Didn’t Stick It Out Through The Bad Times, The Years When Metal Wasn’t Quite As Popular. It’s Nice To See The Scene Flourishing Again, When The UK Metal Scene Is In Full Swing, It’s One Of The Best In The World.”
DISC REVIEW “WHERE ONLY GODS MAY TREAD”
「今の UK シーンには本当に才能があって努力しているバンドがたくさんいるからね。英国において問題だったのは、INGESTED が始まった頃にいたバンドの多くが、メタルがそれほど人気がなかった悪い時代を乗り越えようと頑張らなかったことなんだ。」
LOATHE, VENOM PRISON, EMPLOYED TO SERVE, SVALBARD。2020年。デスメタルの強烈なカムバックを支え、デスコアの鋭き毒牙を研ぎ澄ますのは、疑問の余地もなく英国の若武者たちです。そうして様々な手法で音楽のリミットを解除し、境界線を排除する重音革命を最前線で牽引するのが INGESTED だと言えるでしょう。
「”デスコア” でも “スラム” でも何でもいいんだけど、僕たちはもう自分たちを狭いジャンルに押し込めたいとは思わないんだ。ただ、僕たちのアルバムがデスメタルのジャンルの多さを物語っているのは間違いないと思う。このアルバムにあるのはどんなエクストリームメタルのファンでも何かしら愛せる部分を見つけられる影響ばかりなんだから。」
たしかに、かつて “UK のスラムキング” と謳われた4銃士がここ数年で遂げたメタモルフォーゼの華麗さには、眼を見張るものがありました。特に、アトモスフィア、ブラッケンド、そしてメロディーのロマンチシズムを吸収したEP “Call of the Void” には次なる傑作の予感が存分に封じられていたのです。
「子供時代は完全に SLIPKNOT キッズだったんだ。”Iowa” は僕の時代で、僕の子供時代全てなんだ。FEAR FACTORY や LAMB OF GOD, PANTERA, CHIMAIRA なんかが大好きだったけど、中でも SLIPKNOT は僕の人生を変えてくれたバンドで、”Iowa” を聴いてからずっとメタルバンドになりたいと思っていたのさ。」
完成した最新作 “Where Only Gods May Tread” は予感通り、メタル世界の誰もが認めざるを得ない凄みを放っています。結局、INGESTED がメタルに再び人気を取り戻し進化へ導くための努力、多様性の実現、言いかえれば彼らの底なしの野心は、自らの心臓が送り出す凶暴な血潮をより赤々と彩るドーピングの素材にしかすぎませんでした。まさに摂取。まさに消費。真実は、根幹である暴力と狂気に対する圧倒的心酔、ルーツへの忠誠こそ、バンドの信頼性を極限まで高めているのです。
実際、オープナー “Follow the Deciever” からその無慈悲な残虐性はなんの躊躇いもなくリスナーへと襲い掛かります。ただし、INGESTED の拷問方法、地獄の責め苦は非常に多岐に渡り周到。知性際立つグルーヴの氾濫、唸り吸い叫ぶ声色の脅威、アコースティックやオリエンタルで演出するダイナミズムの落とし穴。つまりリスナーは、全身に猛攻を浴びながらも、常に新たな被虐の快楽に身を委ねることができるのです。
それでも、CROWBER/DOWN の Kirk Windstein が歌心の結晶を届ける “Another Breath” に対流するメロディーのきらめきは INGESTED にとって新たな出発点の一つでしょうし、なによりプログレッシヴで紆余曲折に満ち、ビートダウンの猛攻が蠢く過去とより思慮深くメロディックにアトモスフェリックに翼を広げる未来とのギャップを見事に埋める9分のエピック “Leap of the Faithless” はモダンメタルの可能性を完璧なまでに証明する一曲となりました。
今回弊誌では、七色のボーカル Jason Evans にインタビューを行うことが出来ました。「僕たちは、音楽であれ、メディアであれ、映画であれ、人生経験であれ、周りのあらゆるものに影響を受けているよね。これらのものは、人としての自分、バンドとしての僕ら、そして自分たちが作る音楽そのものを形作っているんだ。だけど、これらのものはまず消費されなければならなくて、”摂取” されなければならないんだよ。」 どうぞ!!
COVER STORY : BIFFY CLYRO “A CELEBRATION OF ENDINGS”
“I Want To Remind People What Rock Music Is All About,I Think This Is a Vibrant Guitar Record And I Don’t Feel That I’ve Heard a Lot Of Them Over The Last Few Years.”
FIND A HOPE IN CHAOS
「ロックミュージックとは何かを思いださせたいんだ。これはギターが躍動するレコードだよ。ここ数年、あまり聴いたことがないようなね。」
BIFFY CLYRO はチャートを席巻する英国で最も人気のあるバンドに成長しています。それも当然でしょう。Simon Neil の言葉は決してただのクリシェやポーズではありません。細部に至るまで、ロックサイエンスの粋を尽くして制作された8枚目のレコード “A Celebration of Endings” は、ロック、ポップ、メタル、オルタナティブ、さらにクラッシック、ヒップホップまでもがシームレスに配合された、ダークな2020年にもたらされる極上の特効薬なのですから。
「このアルバムは喜びの瞬間を共有する作品だよ。人生において喜びを持つことには、罪悪感がつきまとう。それでも俺たちは喜びの時間を過ごさなければならないと思う。それがこの暗闇の中で生存するための、唯一の方法だから。人々は、音楽を生活の中に取り戻そうとしていると思う。」
Ben Johnston は “A Celebration of Endings” が暗闇にさす光、混沌に見いだす希望だと信じています。しかし、リリースまでの道のりは決して平坦ではありませんでした。
「ロックダウンが始まったとき、俺たちはバンドをやっているように思えなかった。何しろ俺たちはデフォルトが自尊心の欠如で、自信を持つためには何かをしていなければならないから。だから、4ヶ月間何もしなかったことと、アルバムの発売が延期になったことで、本当に不安になったんだ。言葉にするのは難しい。3人で音楽を作っている時の方が安心感があるんだよね。」
“A Celebration of Endings” は叫びの結集です。鬱病とともに生き、自信を取り戻すため戦ってきた Simon Neil は、2016年の自由奔放な “Ellipsis” ではじめて自分自身の外に目をやり外界からインスピレーションを取り入れました。
「若い頃は、政治と個人的な事柄をわけて考えていたけど、今の世界ではそうはいかない。世界は正しい方法で変わる必要がある。」
それまでは、自らの政治思想さえ芸術へこぼれ落ちることはありませんでした。時を同じくして、世界の闇を具現化したようなコロナウィルスによる “混乱と不安” が襲い掛かります。
「現実は当分の間、俺たちの手から引き剥がされているんだ。僕らはいつもこのバンドをスピリチュアルで家族的なものだと考えてきたんだ。だから、それを壊すようなことが起こると、悲嘆にくれる時期がある。それに加えて、Brexit、不安の増大、分裂など、当時の世界で起きていたことが加わって、足元から完全にカーペットか引き剥がされたように感じたんだ。俺の歌詞のほとんどは、かなり暗いところから始まっていると思う。まあ創作をしているときのモチベーションには本当に悲しかったり、怒ったりすることが必要なんだろうな。それは必ずしも健康的なことではないけど….とにかく、俺たちの基盤が変化し、社会がひねくれていると感じたんだ。」
“A Celebration of Endings” は “強制された変化” をさまざまな角度から探るレコードだと言えるのかもしれません。”North Of No South” で世界の指導者たちを “嘘つき、クソ独裁者” と非難し、”Opaque” では Simon の創作意欲を削ぐ音楽のビジネスのフラストレーションを拾い上げました。
「これまでは暗いレコードだよね。俺に光が差し込むのは、たいていしばらくしてからなんだ。このアルバムのポジティブさは、自分の代わりに何かをしてくれる人はいないということに気付いて生まれたんだ。7枚目のアルバム”Ellipsis” は、非常に傷つきやすいアルバムだったと思う。その後誰かが俺らの土地に来て、全部持っていかれた気がしたんだ。壊れたものを拾い上げなければならなかった。自分が本当に大切にしたいものに気づくのはそんな時だ。変化は誰にとっても怖いものだけど、変化は良いことであり、状況を良くするチャンスでもある。俺たちがコントロールできるのは自分自身なんだから。君はどこにいて何をやってる? まずはそこから始めよう。」
“A Celebration Of Endings” は、緊張感と波乱に満ちた作品に仕上がっています。若い頃の混沌としたオルタナティブロックと、この10年で彼らが得意としてきたアリーナを埋め尽くすような爆音が複雑に調和し、さらには彼らの大ヒット曲の基盤となっているポップな感性が活かされているのです。
「波乱に満ちたレコードだよ。それが僕らのバンドの特徴だと気付いたんだ。俺は自分が聴いているバンドが変化を遂げないことに我慢がならないんだ。16歳の時 RAGE AGAINST THE MACHINE の “Evil Empire” を聴いて激怒したのを覚えているよ。彼らのデビューアルバムとリフがそっくりだったから。1997年の WILL HAVEN のアルバム “El Diablo” を聴いたばかりだったんだけど、なぜ RATM がああいう風にならなかったのか理解できなかった。不条理だけどね。(笑) つまり、時々、俺は ROXETTE のような曲を書きたいと思うことがあるんだけど、次の瞬間には、Sunn O))))のような曲を書きたいと思っているんだ。どうやって聴きやすいアルバムを作るかじゃなく、どうやって聴きにくいアルバムにするのか。自分自身を明らかにし始めるレコードにしたかったんだ。」
Simon にとってリスナーが予想可能なものを制作することに意味はありません。
「すべては前作に対するリアクションなんだ。”Ellipsis” では様々なサウンドが常に楽曲を彩っていたけど、今作にはリフだけの瞬間も、ボーカルだけの瞬間も存在する。リスナーの意識を洗い流すよりも、意識の中にスナップさせたかったんだよ。”Worst Kind Of Best Possible” はまさにそんな曲さ。大混乱が続いているんだけど、まだ人がその真ん中にいるんだよね。世界の終わりのように聞こえるけど、その真ん中に人間がいて、何かを得ようとしているんだ。」
もちろん、ロックミュージックは BIFFY CLYRO にとってすべての本質です。
「俺たちの本質は、3人が部屋の中で演奏していることだ。全ての曲はその中で機能する必要があるんだ。リードシングル “Instant History” でさえ、多くの人がEDMスタイルの曲だと奇妙に表現していたけど、俺らのバンドの鼓動とハートビートを持っていることを知っておく必要があるんだ。」
素直に考えれば、”A Celebration of Endings” は驚きと喜びを同時にもたらすエンターテイメントと言えるのかも知れませんね。激しいパワーポップと MUSE のキメラ “North of No South”, 甘やかなディズニーの子守唄 “Space”, メタルとヒップホップ、そしてモーツァルトの壮大な婚姻 “Cop Syrup” までエクレクティックなアトラクションが列をなして待っています。
一方で、自らの内側、社会の闇を吐き出すようなデザートロック “Weird Leisuie” のような楽曲が BIFFY CLYRO の成長と社会的な再評価を浮き彫りにします。
「古くからの友人についての楽曲だ。コカイン中毒で壊れてしまった。彼は間違った道を選び、自分の世界が閉ざされるような厄介な状況に陥ってしまった。助けようとしても振り出しに戻ってしまう。幸い今は良い場所にいて抜け出そうとしているけどね。人は何にでも適応できる。変化を恐れるべきじゃないよ。窓の外をみてみなよ。全てを手にすることができる。人生を手にすることがね。ただ、過ぎ去っていかないようにしないとね。」
ゆえに、タイトルの “A Celebration of Endings” にも深みが増します。
「マヤ文明は2012年に世界が終わると予言していた。俺の理論だと、その通り世界は終わったんだ。予想外の方法でね。人間が意思を放棄して無知になったんだよ。だからこのアルバムは、自らの価値観をリセットするために、自分の最低点を認識することをテーマにしているんだ。そんな中でコロナ危機が起こった。まさに僕が話していることが現実になっているよね。例えばボリス・ジョンソン首相の怠慢だよ。ヤツは凶悪な脂肪の塊さ。NHS (国民健康保険) は今アンタッチャブルな存在であるべきだし、必要なのは食料と健康と家だ。キーワーカーは絶対に低技能労働者じゃないし、彼らが必要だ。政府よりも NHS が必要なんだ。俺が40になったことも関係しているだろうが、自分勝手で自己中心的な人間には我慢ができないよ。」
これはドナルド・トランプの “人間の命よりも経済”、そして売上のため不安を煽るマスメディアへの辛辣な批判です。そしてこの怒りは権力を振りかざす傲慢で無能な一部の特権階級が火種でした。ジェームズ・ボンドを題材とした “The Champ” にもその怒りの炎は注がれています。
「今、社会において自分の立ち位置を知らない人間はおそらくサイコパスだよ。ボンドは世界最高のスパイで、部屋の中にいても気づかれない。つまりこれは、自分の意見を発しなければいけないときに、それを口にしない人たちをスパイに例えているんだ。」
世界的なパンデミック発生から1年。混乱というテーマはさらに顕著になっています。
「今の俺には、曲に込められたメッセージの方が重要だ。足元の砂が変化してしまったんだから。誰にでも起こっていることだよ。大切にしてきたもの、人生で頼りにしてきたものがまったく変わってしまったんだから。そしてみんながすべてに疑問を持ち始めている。だけどその変化をポジティブに捉えるべきさ。価値観をリセットすることができたんだから。変化を起こそうと気づく時なのさ。俺はいつも、曲を作ってレコーディングするだけでいいと思っていた。だけど、このパンデミックを経験してツアーは俺らのアイデンティティーの重要な部分で、DNAの中に存在すると気づいたね。この時期があったからこそ、このバンドを永遠に続けていきたいという気持ちが強くなったんだ。」
“息ができないような場所にいたことがあるか?” COVID や BLM を予見させる “North of No South” のリリック。
「起こったすべてのことで、俺とこのアルバムの関係は変わってしまった。政治とかそういうことじゃなく、正しいか間違っているか。共感するかどうか。コミュニティーについての話さ。」
Simon は7歳の時、近くのキルマーノックで Johnston の双子の兄弟に出会いました。トリオは最近、それぞれ40歳の誕生日を迎えましたが、その間、彼らは切っても切れない関係を築いてきたのです。いつもお互いのジョークに、常に心を込めて笑っているのですから。2013年のダブルアルバム “Opposites” 制作時の Ben のアルコールとの戦い、あるいは “A Celebration Of Endings” をめぐる試練の時期を考慮しても、ここ数年で絆はさらに強まっています。
「バンドとしての俺たちの原則、やり方は変わっていない 。中心となるのは3人で、肩にはちょっとしたDIYのチップを乗せている。人として、そして集団として経験してきた変化は、すべて自然に起こったことだ。だからバンドから学んだことを自分たちの人生に、そして人生から学んだことをバンドに取り入れることができたんだ。」
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JOE STUMP OF ALCATRAZZ !!
“I Hated All That Grunge Shit , There Was No Bad Ass Guitar In It, Just a Bunch Of Dudes In Flannel Shirts And Wool Hats Playing Shit a 10 Year Old Could Play. One Of The Reasons My Early Records Got a Decent Amount Of rpecognition During That Period Was That I Was One Of The Only Guys Making These Kind Of Over The Top Shred Guitar Records During That Time.”
DISC REVIEW “BORN INNOCENT”
「Graham は俺のオールタイムフェイバリットのうち3枚のレコード、”Assault Attack”, “Down To Earth”, “No Parole” で歌っているからね。この3枚のレコードは、それこそ若いころ、盤に穴が空くほどに聴いていたんだけど、今でも大好きなんだから彼と一緒に演奏できるなんて最高だよ。」
サングラスにスーツ、ジャパニーズヤクザの出で立ちでカンペを凝視しデシベルの限界を超える Graham Bonnet は、Yasushi Yokoyama のスピリットでギターの超新星を発掘する天才でもありました。
ALCATRAZZ で若き Yngwie Malmsteen, Steve Vai を掘り起こし、Chris Impellitteri のデビューフル “Stand in Line” でもその野声を響かせた怪人が、そうして34年ぶりの監獄島再浮上に目をつけたギタリストこそ Joe Stump でした。
「Yngwie との比較は嬉しいことだよ。だって俺が Yngwie を愛していることは秘密でもなんでもないからね。彼は俺のヒーローの一人で、最大の影響元だよ。だから誇らしく感じているんだ。」
90年代、鳴り物入りで Shrapnel からデビューを果たした “シュレッド卿” (自分発信) は、そのフルピックを多用するクラシカルな様式美が Yngwie のクローンとしてある種のバッシングを浴びた人物でもあります。
しかし、「俺がイライラするのは、(このスタイルの音楽に関しては無知で無学な人に多いんだけど) 俺の演奏すべてが彼のようなサウンドだけだと言われることだよ。俺は様々な影響を受けていて、それは俺の音楽にはっきりと表れているんだから。」 と自らが言及するように、音聖への愛情を注ぎながら、パワーメタルやスラッシュ、エクストリームメタルとよりダークな音像を湛えた邪悪なギター捌きは、”音速を超えたシュレッドマシーン” “スピードメタルメサイア” といった凡人には到底思いつかない仰々しいアルバムタイトルと共に、その自信と独自性を高めていったのです。
「だって俺はあのクソグランジすべてが大嫌いだからな。あの音楽に超クールなギターなんて全然なかっただろ? ただネルシャツとウールハットを身につけた野郎どもが、10歳でも弾けるようなクソをプレイしてただけさ。俺の初期のレコードがあの時期にそれなりの評価を得た理由の一つは、俺がこの手の限界を超えたシュレッドギターレコードを作っていた唯一の男だったからだ。」
限界を超えていたかどうかは議論が別れるところでしょうが、少なくとも Joe Stump は自らの信念を捨て去ることは決してありませんでした。そんな彼の様式美愛が今回遂に ALCATRAZZ 加入という結果に繋がったとも言えるはずです。
そうして再びネオクラシカルな翼を手に入れた ALCATRAZZ にとって、Jimmy Waldo, Gary Shea の名は実に重要な復活の呪文でした。例えば、2016年に Graham がリリースしたソロアルバム “The Book” はたしかに強力なメンバーを揃えた力作でしたが、それでも ALCATRAZZ と呼ぶに相応しいレコードではありませんでした。それはきっと、あの NEW ENGLAND にも所属した Gary のメロディーセンス、そして何より Jimmy の荘厳なハモンドの響きが欠けていたからに他ならないでしょう。
かつてもビッグフットやクリーナクリーといった UMA を題材としてきた Graham が、遂に北極熊へと焦点を当てた “Polar Bear” は、最も名作 “No Parol” の厳かな躍動を運ぶ楽曲かもしれませんね。”Too Young To Die, Too Drunk To Live” の刹那と熱情が瑞々しく蘇ります。
「ALCATRAZZ としても初期の “No Parole” なヴァイブを取り戻したがっていたからね。ただし、より邪悪でメタルな感覚を宿しながらだけど。」
もちろん、”Born Innocent” は単なる焼き直しのアルバムではありません。Chris Impellitteri がゲスト参加を果たしたタイトルトラックにしても、より硬質でダークなサウンドデザインが施行され34年のギャップは巧みに埋められていきます。
おそらく、Yngwie は “No Parol” の時点ではまだ入念にギターソロを構築しており一音一音に神々しささえ感じさせましたが、90年代中盤以降の Yngwie が乗り移ったような荒々しい Joe のギターの濁流も、よりイーヴルな”無垢の誕生” には適しているのかも知れませんね。
“We Still Remember” や “I am the King” を聴けば、Graham のメジャーコードの魔術師たる由縁が伝わるはずです。ポップ畑を通過した彼だからこそ映える、プログレッシブなアレンジメントも嬉しい限り。
さらに、Steve Vai が作曲を行った “Dirty Like the City” では、あの奇天烈ハードロック “Disturbing The Peace” の片鱗を感じることができますし、日本のライジングサン Nozomu Wakai が大暴れの “Finn McCool” は MSG や RAINBOW のハイスピードバージョンと受け取ることも可能でしょう。何より、”Reallity” はハリウッドの孤独に通じる佳曲です。”Hiroshima Mon Amour” の遺産を受け継ぐ歴史ソングは、ロンドンの大火を紡ぐ “London 1699″。
今回弊誌では、Joe Stump にインタビューを行うことができました。「俺はいつも演奏し、練習し、作曲し、レコーディングを行なっている。そうしたくても、そうしたくなくても、1日に6時間以上は必ずギターを手にしているよ。幸運なことに、俺は今でも若いころと全く同じようにギタープレイを愛しているから。」 発言すべてが一周回ってカッコいいです。どうぞ!!
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH RYAN SHEPERSON OF CRYPTIC SHIFT !!
“We Love Voivod, Especially The Records “Killing Technology” And “Dimension Hatross”. Those Records, Along Side Nocturnus “Thresholds” Really Showed Us How It Was Possible To Write a Massive Sci-Fi Tale Within a Metal Record.”
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH AARON AEDY OF PARADISE LOST !!
“You Have To Follow Your Heart And Soul Or Else You Can Sound a Little Dishonest With Your Craft. I Think If We Had The Mentality Of “Draconian Times Did Well, Let’s Make Another One!”, We Would Have Probably Split Up With The Following Years As It Would Have Felt Empty And Void Of Soul.”
DISC REVIEW “OBSIDIAN”
「僕たちは自分自身のサウンドを完璧なまでに見つけていて、過去32年間でバラエティーに富んだスタイルを実現してきたんだ。つまり、悲惨のタペストリーを幅広く描いてきたわけだよ。」
抑圧と絶望渦巻くコロナ禍の2020年に求められるのは、希望と解放を宿した慈光の音楽でしょうか?少なくともメタル世界では、負を帯電したダークな響きに慰めとカタルシスを求める殉教者が決して少なくないようにも思えます。ただネガティブな感情を瓶に詰め覆い隠すだけでは、きっと自己破壊的な暴発が待っているだけでしょう。
「PARADISE LOST の精神はいつだって何よりも、まず自分たち自身の喜びのために音楽を作ることだからね。心と魂に従う必要があるんだよ。そうしなければ自らの創作物が少し不正直に見られ聞かれるかもしれないからね。 「”Draconian Times” は上手くいったから、もう1つ似たようなものを作ろう!」ってメンタリティーを持っていたとしたら、空虚な気持ちになって魂の欠如を感じ、おそらく次の年には解散していただろうな。」
つまり、PARADISE LOST が描くゴシックドゥームの “悲惨なタペストリー” こそが、暗澹たる黒雲を払い、導きの光となる可能性を秘めていると言っても過言ではないはずです。何しろ、30年以上のキャリアで16枚の歴史を刻む失楽園のメタルには、Aaron の言葉通り他のどの音楽より内なる絶望と憂鬱の真なる創造性が潜んでいるのですから。
色彩豊かな不朽の傑作 “Draconian Times” から25年。新たなマスターピース “Obsidian” でヨークシャーの仄暗き伝説は、デスドゥームの凶暴な起源を再創造しながら、貪欲にゴシックメタルの領域をも拡大していきます。
寂寞暗然を認める唯一無二のシンガー Nick Holmes はここ数年、1992年の “Shades of God” 以来四半世紀ぶりにデスボイスを解禁し、ライオンを再び檻から解き放っています。”The Plague Within” でエクストリームメタルのインテンスを、”Medusa” でドゥームの重苦しいメランコリーを現代に蘇らせた PARADISE LOST は、そうして “Obsidian” で獰猛と陰鬱を完璧なまでに黒の多様でマリアージュさせてみせたのです。
特筆すべきは、悲惨のパレットにキャッチーな音の葉を注いだ “Ghosts” や “Fosaken” の耽美な耳馴染みの良さでしょうか。それは “Host” のシンセポップでも、”Believe in Nothing” のオルタナティブでもなく、SIOUXSIE SIOUX や SISTER OF MERCY と同種のゴシックなダークポップに思えます。
もちろん、Nick の豊かな表現力と Gregor Mackintosh の鍵盤まで含めた扇情力がドラマを紡ぐ “The Devil Embraced” や “Serenity” には “Draconian Times” のゴシックな遺産で満たされていますし、”Fall From Grace” の絡みつくドゥーミーな重量感と慟哭の旋律は改めてバンドの出自を示し、一方で “Ravenghast” では “Gothic” に通じる物哀しきエレジーを紡いでいきます。
ヨークシャーローズに幸運のタリスマンやシンボルを集めたアートワーク、死へ向かう運命、人生の旅路を綴るテーマも完璧。
今回弊誌では、誇り高きリズムマン Aaron Aedy にインタビューを行うことができました。「単純に、僕たちのゴスとメタル両方への愛情が理由だよ。当時、僕らの地元であるイングランド北部には巨大なゴシックシーンが存在してね。そしてもちろん、僕たちはメタルファンとしても育った訳だよ。だから理にかなっているよね。
両方のダークな面は美しく合わさったし、僕らの仲間たちと少し違うことをするという意味でも良いやり方だったね。」 どうぞ!!
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JON COURTNEY OF PURE REASON REVOLUTION !!
“First Time Labelled “Prog Rock” I Think We Were a Little Surprised. For Us It Was Mix Of Grunge, Fleetwood Mac Vox, Floyd, Massive Attack & DJ Shadow. So To Get Labelled With What Was Just a Small Section Of The Influences Felt a Little Odd. Now We’re Proud To Be Progressive.”
DISC REVIEW “EUPNEA”
「間違いなく、男女混成ボーカルは僕たちにとって鍵となる要素だし、このハーモニーが他のバンドと僕たちを区別化しているとさえ思うよ。おそらく、このスタイルを取るバンドは増えていくと思うよ。」
純粋な理性を革命に導くプログレッシブな哲音家 PURE REASON REVOLUTION は、めくるめく陰極陽極のハーモニーで沈んだ世界を緩やかに溶かします。
「最初にプログロックのラベルを貼られた時、僕たちは少し驚いたんだ。僕たちにとって当時の自らの音楽は、グランジ、FLEETWOOD MAC のボーカル、PINK FLOYD, MASSIVE ATTACK, DJ SHADOW をミックスしたものだったから。だからそんな影響の中からとても小さな部分だけを切り取って、プログロックとレッテルを貼られることは少し奇妙な感じがしたんだよ。まあ、今はプログレッシブのラベルを誇りに思っているけどね。」
PORCUPINE TREE や COHEED AND CAMBRIA を導火線にプログレッシブの新たなビッグバンが勃発した00年代。PURE REASON REVOLUTION が放ったデビュー作 “The Dark Third” の鮮烈さは明らかに群を抜いていました。
グランジオルタナティブの遺伝子を纏いながら、電子のレンズを通して映すPINK FLOYD のサイケデリック。さらにそこには、極上のフックとハーモニーが添えられていたのです。仮にモダンプログレッシブが、勃興したモダンなジャンルの音の葉を取り込む多様性の万華鏡だとしたら、まさに PURE REASON REVOLUTION こそがアプレゲールの象徴だと言えました。
「間違いなくデビュー作 “The Dark Third” と近い場所にあるけれど、同時に他の2作からも切り取ったような部分があるよね。だから、願わくば “Eupnea” が僕たちのデビュー作を少し思い返させながら、進化したようにも思えるサウンドであれば良いね。」
2010年の “Hammer and Anvil” 以来実に10年ぶりの復活作となった “Eupnea” はバンドの集大成にして出発点なのかもしれませんね。アルバムは “New Obsession” の緩やかな電子パルスでその幕を開けます。徐々に顕となる音建築、バンドの過去と未来を繋ぐ架け橋。
スペーシーでダークなエレクトロの波動を発端に、流動するギターのクランチサウンドとポップなハーモニー。そうして PRR は全ての出発点へと回帰しながら、シネマティックな “Hammer and Anvil”、ダークなシンセウェーブ “Amor Vincit Omnia” の情景を重ね、さらにサウンドの幅を広げていくのです。
ポストロックにも通じるアトモスフィアを主戦場としていた PRR ですが、プログのラベルに誇りを感じているの言葉通り、”Ghosts & Typhoons” では難解でアグレッシブなギタードライブ、BRING ME THE HORIZON のスピリットまで披露。一方で、SMASHING PUMPKINS の哲学を宿す “Maelstorm” や 7/4の魔法 “Beyond Our Bodies” ではさらにメロディーの流麗に磨きをかけてレコードの対比を鮮明にしていきます。
そうしてアルバムは、真の感情的ジェットコースター、13分のタイトルトラック “Eupnea” で PORCUPINE TREE や ANATHEMA に寄り添いながら、時代の激動と愛娘の吐息を遠近法で描写して幕を閉じるのです。
今回弊誌では、ボーカル/マルチ奏者 Jon Courtney にインタビューを行うことができました。「男女混成のハーモニーは、FLEETWOOD MAC, CSNY, THE BEACH BOYS からの影響だね。僕たちのメロディーは常に THE BEACH BOYS から本当に強力な影響を受け続けている。Brian Wilson こそがメロディーの王様さ。」どうぞ!!
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MILTON KEANES (ADAM WAKEMAN) OF JAZZ SABBATH !!
“They Basically Made It Simpler, So Anyone With a Guitar And Half a Brain Could Play It. Yes It Appealed To The Masses, But Generally I Like To Think My Original Version Was More Intellectual.”
DISC REVIEW “JAZZ SABBATH”
1968年、バーミンガムの4人の青年、Tony Iommi, Bill Ward, Geezer Butler, Ozzy Osbourne が結成した BLACK SABBATH はヘヴィーメタル始まりの地として絶対的な信頼を得てきました。ただし、世界はその認識を覆すべきなのかも知れません。なぜなら、彼らの楽曲は完全なる “盗品” だったのですから。
60年代から70年代初頭にかけて、英国ジャズの新たな波を牽引していた JAZZ SABBATH。リーダーの凄腕ピアニスト Milton Keanes は将来を嘱望されていましたが、心臓の病で倒れ入院を余儀なくされてしまいます。
おかげで1970年にリリースを予定していたデビュー作の発売は延期となり、退院した Milton はまさかの事態に愕然とします。なんと BLACK SABBATH という見ず知らずのバンドが、彼の楽曲をヘヴィーメタルの雛形にアレンジして世に出してしまっていたのです。
「ちょうど入院していて、退院したら何が起こったのか全てを理解したよ。もちろん激怒したね。だけど真実を語る僕の言葉には誰も耳を傾けなかったし、信じてもくれなかった。」
Milton の怒りはもっともでしょう。その事件によって彼は以後50年間も辛酸を舐め続けることとなったのですから。
ただし、遂に真実を伝えるチャンスが巡ってきました。紛失していた JAZZ SABBATH のマスターテープが現在になって奇跡的に発見されたのです!!
「信頼できるアーティストたちを集め、このバンドを再開し、真実を伝えるのにこれほど長くかかってしまった。」
それでも魅力的な JAZZ SABBATH の音楽が、時の狭間へと埋もれずに済んだ事実は僥倖でした。世界中で何百万もの人々が崇拝しているヘヴィーメタルの教祖が、実際には音楽的なシャルラタンにすぎず、入院した寝たきりの天才から音楽を盗んだことの確かな証としても。
「彼らは基本的に僕の楽曲をよりシンプルにしていたね。だからギタープレイヤーなら誰でも、脳みその半分でプレイすることができたね。まあ、だからこそ大衆にアピールしたんだろうな。だけど、僕は自分のオリジナルバージョンの方がより知的だったと考えているよ。」
実際、JAZZ SABBATH のイービルなジャズは決して脳みそ半分で演奏可能なほどシンプルではありません。ウォーキングベースにピアノのインプロヴァイズ、4ビートのドラム。60年代のビバップスタイルが JAZZ SABBATH の基本です。
“Children of the Grave”, “Evil Woman” のようにドゥーミーな原曲に近いものもあれば、もとい BLACK SABBATH がわりと忠実にコピーを果たしたような楽曲もあれば、”Iron Man” のように突拍子も無いエアリーなアレンジで後のメタルへの移行が信じがたいような楽曲も存在します。
何より、名曲 “Changes” の神々しきピアノの調べ、コードの魔法は、いつ何時誰が演奏をしたとしても圧倒的な陶酔感と得も言われぬノスタルジアを運んでくれるのです。
今回弊誌では、このクソ下らない架空の物語を生み出した Milton Keanes こと Adam Wakeman にインタビューを行うことができました。
「僕が幼い時…いやゴメン、Adam が幼い時…というかきっと彼は父の影を少なからず追っていたと思うんだよね。だけど自分の足で立ち、自らの道を歩み出すときっと父に対して誇りと賞賛の気持ちしかなくなるはずなんだ。」BLACK SABBATH, Ozzy Osbourne との共演、さらに父はあの YES の心臓 Rick Wakeman です。どうぞ!!