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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【VOICE OF BACEPROT : RETAS】


COVER STORY : VOICE OF BACEPROT “RETAS”

“When I Pray To My God, It Gives Me The Strength To Believe That I Can Achieve My Dreams.”

CARRYING OUT OUR DREAMS WITHOUT FORGETTING OUR ROOTS

ヒジャブのメタル戦士 VOICE OF BACEPROT の3人組、Sitti, Widi, Marsya は歩くときは腕を組み、三つ子と間違えられるほど似た姿で笑顔を振りまきます。3人は決して笑いを止めません。その笑いはさながらヘヴィ・メタルのごとく周りに伝染し、3人が母国語のスンダ語で話しているにもかかわらず、誰もが笑顔を纏うようになるのです。VOICE OF BACEPROT は、お互いの皿から食べ物を食べ、疲れたときにはお互いを支え合い、昼寝をするときにはそれぞれが腕や足、頭を他の誰かの上に置いて眠る。まるで、互いに手を離すとどこかへ飛んで行くのではないかと心配しているかのように。
スンダ語でうるさい声の意味を持つ VOICE OF BACEPROT は、インドネシアの西ジャワにある小さな村、シンガジャヤの出身です。シンガジャヤには 無線LAN もレコーディング・スタジオもなく、5人家族が月30ポンドで暮らしています。VoB の3人は学校の進路指導カウンセラーのPCを覗いているときに、SYSTEM OF A DOWN のアルバム “Toxicity” を偶然発見し、2014年バンドを始めることを決意します。
当時14歳だった Sitti は、学校にあった申し訳程度のドラムセットで1ヶ月の大半を譜面を覚えることに費やしました。Marsya はギターを、Widi はベースで同じことをやって、1ヵ月後には最初のカバーを完成させます。そうして、バンド結成のきっかけとなったコンピュータの教師、アーバ・エルザは3人の情熱と才能に驚き、彼がうっかり蒔いた種を育てることに専念しようと決意するのです。

今ではインスタのフォロワー数20万を誇る VOICE OF BACEPROT ですが、3人はスンダ語と英語を織り交ぜながら、いかに自分たちに友達がいないのかを説明します。
「私の村では、誰かが私を見ると、こうやって背中を向けるのよ!」と、21歳のリード・ボーカル兼ギタリスト、Firdda Marsya Kurnia は言います。彼女はヒジャブの黒いひだだけが見えるように振り返り、明るくはにかみます「本当よ!」
ドラムの Euis Siti Aisyah も21歳。ベーシストの Widi Rahmawati は22歳でバンドの年長者ですが、同様に不服そうに首を横に振ります。残念ながら地元に友だちはいませんが、それでも VOB のフォロワーは爆増中なのです。
インドネシアはイスラム教徒が大多数を占める国で、西ジャワは特に保守的。そのコミュニティにおいて、音楽はハラーム(イスラム法で禁じられている)だと信じられているため、3人がメタルの世界に飛び込んだときも彼らはあまり良い反応を示さなかったのです。Marsya は、『悪魔の音楽を作るな』と書かれたメモに包まれた石で頭を殴られ、さらにはオートバイにわざとぶつけられたり、母親の店の窓ガラスを割られたりと散々な目にあいました。VOB がステージに上がる直前に宗教指導者が電源を抜いたこともあり、マネージャーはバンド解散を迫る脅迫電話を受けたこともあります。言うまでもなく、VOB はふざけているわけでも、何かをバカにしているわけでもありません。彼女たちはただ、夢を実現するためにすべてを犠牲にしてきたのです。

デビューから9年、世界各地をツアーする忙しい日々を送っていながら3人は、観客から脅迫を受けたり、石を投げつけられたりしたことは、今でも昨日のことのように覚えているといいます。ただし、大人としての知恵と成熟を得たメンバーは、今ではそれを笑い飛ばすこともできるようになりました。「あの投石は、彼らがわたしたちを気にかけている証拠だったのよ」と Widi は笑っていいます。
暴力は時間とともにおさまりましたが、ソーシャルメディア上の憎悪に満ちた下品な発言はいまだに後を断ちません。Sitti は、ドラムを叩いているときに半袖のシャツを着ていただけで、イスラムの教義に反すると糾弾されたことを思い出しました。
「彼らは、わたしが長い緩い袖でドラムを叩いて嫌な思いをしたことを知らないのよ。叩いていると引っかかるの!わたしににとっては危険なことなの。あの嫌われ者たちは、わたしにとって何がベストかを考えず、ただ自分の好きなことを言いたいだけなんだ」
「人々は私たちを天使だと思っているの。わたしたちは決してミスを犯してはいけない、誰かの理想でなければならないと思われているの…」と Marsya も嘆きます。

では、VOICE OF BACEPROT はイスラム教を憎んでいるのでしょうか?初のヨーロッパ・ツアーで、3人はヒジャブについて多くの質問を受けました。なぜなら、欧州においてベールを被った女性は抑圧の象徴だったから。
「ベールじゃないわ。これはヒジャブよ」
Marsya は、宗教がいかに自分に喜びと強さをもたらしてくれるかを説明し、ヒジャブは自分の意思でかぶるものであり、平和と美の象徴であると語りました。
バンドはこうした質問に驚いてはいませんが、少し疲労しています。ヨーロッパのイスラム教に対する認識は3人にとって想像を超えていて、押し寄せるステレオタイプの波に呑まれそうになっていたのです。「もしわたしが爆弾を持っていると言って広場の真ん中に走り出し、バッグの中を濡れて臭くなった靴下でいっぱいにしたらどうなるかな?」と皮肉を言う Sitti の気持ちもわからなくはありません。
結局、彼女たちにとってヒジャブを着用することは、朝デオドラントをつけたり、家を出る前にズボンを履いたりするのと同じくらいありふれたことなのです。
「わたしたちが聞かれたいことのリストがあるとしたら、ヒジャブはそのリストの100番目くらい後ろになるでしょうね。そこに注目されることを望んでいないの。それよりも、自分たちの技術について話したいのよ。わたしたちは昼も夜も訓練してテクニックを磨き、素晴らしい曲を作ってきた。その話をしようよ!わたしたちが有名なのは、着ている服のおかげだと思っている人たちがいるの。うんざりだわ!」と Marsya は訴えます。

そうした騒音と嘲笑は、3人に “God, Allow Me (Please) To Play Music” “神様、お願いだからわたしたちに音楽を演奏させて!” という楽曲を書かせました。”わたしは憎しみの深い穴に落ちていくような気がする/わたしは犯罪者じゃない/わたしは敵じゃない/ただ魂を見せるために歌を歌いたいんだ”。しかし、そうした周囲のノイズはトリオに寛容と敬意についての貴重な教訓をも与えました。大切なのは、ルーツを忘れずに夢を追うこと。
「女性だけのメタルバンドがヒジャブを着ているのは、それほど一般的ではないのは事実よ。でも、わたしたちの国はそれほど厳格ではないのも事実。わたしたちは村では、(イスラム教徒として)多数派である自分たちの特権に安住しすぎていたの。でもメタル・シーンに入ると、ヒジャブをかぶった女性はメタル・シーンの一部とは見なされず、わたしたちは少数派になってしまった。だからこそ、許し合うこと、平和と寛容のメッセージがとても重要だとわかるのよ」
自分たちの身体や服の選択についてのコメントにうんざりしていた若きロックスターたちは、 “Not Public Property” という曲を思いつきました。3人は家庭内暴力やジェンダーに基づく暴力の被害者を支援するためにこの曲を捧げました。また、ウーマン・オブ・ザ・ワールド(WOW)財団と協力して、被害者を支援するために資金を集めています。
「この曲は家庭内暴力の被害者へのラブレター。そのほとんどは子供と女性なの。彼女たちは一生トラウマを抱えて生きていかなければならないの。彼女たちは常に責められている。そして人々は、女性が人前でどのように振る舞うべきかを取り締まり始める。まるで女性の体が公共物であるかのような気分にさせられるわ。誰もそんな扱いを受けたくはない!わたしたちは、この問題の支持者が増えていることを実感しているの。ステレオタイプではない環境に生きていることを嬉しく思うわ。異なる視点が必要よ」と Marsya は付け加えました。

3人の成長は、”Retas” 収録の新曲のひとつで、バンド初のインストゥルメンタル・ナンバーである “Kawani” を聴けば明らかです。スリリングなスンダ語で “勇気” の意をも持つ楽曲は、グルーヴィでヘヴィなセクションとスンダ風味のベース・ソロが4分足らずの長さで展開されていきます。この曲は、VOICE OF BACEPROT がスンダ音楽を探求するきっかけになるかもしれない。「将来的には、スンダの伝統楽器を演奏できる人とコラボレーションできるかもしれない」と Marsya はつぶやきます。
インドネシアではメタルが盛んです。61歳のジョコ・ウィドド大統領まで、自らをメタル・ヘッドだと語っています。シーンは密度が高く、Hellprint, Hammersonic, Rock In Solo といった巨大なフェスティバルが毎年何十万人もの観衆を魅了しています。バンドのマネージャー Nadia は何十年もの間、男性中心のシーンでマネージメントしてきましたが、2017年にアーバ・エルザから VOB のマネージメントを手伝ってほしいという電話を受けたとき、ひどく興味をそそられました。彼女はジャカルタから11時間かけて3人のの村まで会いに行き、2時間かけて音楽業界の落とし穴、上下関係、政治、そして名声についての説明を行いました。そして、何か質問はないかと尋ねました。
Marsya が手を挙げます。「食べ物が飛んでいる飛行機の中で、どうやって食事をとるの?」 Widi が重々しく付け加えます。 「あと、オシッコも」
その時、Nadia は3人の旅にどうしても参加しなければならないと思いました。

2017年、VOB はインドネシア全土で公演を行い、全国放送のテレビに出演し、あの Guardian 紙にも取り上げられました。翌年、デビュー・シングル “School Revolution” をリリースし、この複雑かつ奔放なスラッシュ・メタルは、3人の卓越した技術力と巧みなソングライティング・スキルを存分に見せつけました。このシングルは、ニューヨーク・タイムズ紙や BBC、アメリカの公共ラジオ・ネットワーク NPR、ドイツの国営放送 DW などのメディアに掲載され、バンドを国際的な存在へと押し上げました。しかしその後、パンデミックが発生し、すべてが停止しまったのです。
しかし Nadia は、この中断をバンドのスキルを磨く絶好の機会と捉え、3人の若い女性が首都ジャカルタに引っ越すべき理由を家族に説明するために彼女たちの村まで長距離ドライブを敢行しました。現在 VOB はジャカルタでアパートをシェアしていますが、バンドの練習の合間には Nadia の家でプールの水しぶきを浴びて過ごすことも。トリオは過去1年間、インドネシアのロックバンド Musikimia と Deadsquad のメンバー、そしてジャズベース奏者のバリー・リクマフワの指導を受けてきました。しかし、すべてが順風満帆だったわけではありません。村のコミュニティ内での苦闘と同様、インドネシアのメタル・シーンに受け入れられるためにも3人は戦わなければならなかったのです。
「進歩はしているけど、インドネシアのメタル・シーンにいる女性の数はごくわずかで、未だにわたしたちにとって安全な空間ではない。性的暴行はいまでもコンサートで起きているし、ソーシャルメディアは明らかに有害。”どうして VOB が選ばれるの?もっとメタルなバンドがいるじゃない” とか、わたしたちの身体や肉体的なことに関する発言は、いまだによくあることなの。ヨーロッパ・ツアーを2度行い、現在アメリカ・ツアーを行っていることは問題ではない。地元に帰ると、”いつ結婚して子供を産むの?”と聞かれるのが現実よ!」

地元のバンドの中には、3人の若い女性がやってきてショーを “盗む” ことを良しとしない人たちも少なくありませんでした。彼女たちは陰口をたたかれ、VOB がフェスティバルに出演するために金を払っているとデマを振りまかれました。Nadia はそれにもめげず、大人の男たち全員に文句を言ってまわりました。そして今、5年間の努力の末、VOB はインドネシアのメタルシーンの全面的な支持を得ました。2021年のシングル “God Allow Me (Please) to Make Music” は、インドネシアのすべての主要放送局でオンエアされ、シーンすべてのメタル・ヘッドからリポストされるようになったのです。
VOICE OF BACEPROT は、当初から自分たちの音楽を用いて重要な社会問題に関心を寄せてきました。初期の曲のひとつである “The Enemy of Earth is You” は、環境汚染と気候変動を嘆く楽曲で、VOB の出身地である西ジャワ州ガルトの鉄砲水など、インドネシアで記録的な自然災害が発生した2016年にリリースされています。さらに高校生だった3人は、硬直した教育システムを批判する “School Revolution” を書いた。そしてアルバム “Retas” は2017年に書いた反戦賛歌 “What’s the Holy (Nobel) Today?” で幕を開けます。
VOICE OF BACEPROT の楽曲は、宗教的寛容、気候変動、女性差別、戦争といった “問題” を取り上げていて、Nadia は彼らの肩にかかる重すぎる責任に罪悪感を感じることがあると認めています。「インドネシアにおけるイスラム教の意味を世界に示すのは、3人次第なのよ」

ゆえに Nadia は、3人の若いバンド・メンバーの精神的な健康を心配しています。Marsya はパニック障害に苦しみ、Sitti は母親を脳卒中で亡くして以来、時々手が震えてしまいます。しかし、宗教がバンドを支えているのです。
「神はわたしの話や悲しみを聞いてくれる。人にそれを話すと、予想外の反応が返ってくるかもしれないからね」そう語る Sitti に Marsya も同意します。
「何か心配なことや怖いことがあると、神に相談するの。他の人のようにわたしを責めることはないし、わたしが言うことは何でも聞いてくれるから。神に祈ると、夢を実現できる、そう信じる力が湧いてくるの」
コンサート・ホールが満席になると、VOBの軽やかな笑い声は緊張した沈黙へと消えていきました。バンドは西ジャワの伝統的な素材を使った黒い衣装を着ています。Sitti はアンプの上に座り目を閉じてエア・ドラムを叩き、Marsya は黙々と歌詞を朗読し、Widi はエア・ベースを弾いて待ちます。
「ステージにいるとき、私たちはひとりぼっちのように感じるの。だからステージにいないときは、いつも近くにいようと約束してるんだ」

照明が落ちる。時間だ。最後の音が鳴り終わると、Marsya がマイクに向かいます。彼女の緊張は消え去り、ベテランのカリスマ性に変わっていました。
「このライヴの前にインタビューがあって、みんなわたしたちのヒジャブについて聞いてきたの。まるでファッション・ショーのためにここに来たような気分よ。わたしたちは夢を叶えるために、そしてヒジャブが平和と愛と美の象徴であることを示すためにここに来たのに!」
観客は賛同の声を上げます。
「もし誰かがわたしたちのヒジャブについて尋ねたら、どうするか知っている? もし誰かがわたしたちに憎しみを込めた言葉を使ったら、どうするか知ってる?ヒジャブはわたしたちの選択なのかと聞かれら、どうするかわかる?こうするんだ!」
間髪を入れず、Marsya がマイクに向かって叫び、Sitti がドラムを叩き、Widi がベースをかき鳴らす。VOICE OF BACEPROT には世界を変える力があるのです。
3人のヒジャブの戦士は、現在 “テレビゲームのラスボス” と彼女たちが例えるアメリカをツアー中。US ツアーのニュースはバンドの地元にも届き、Marsya の家族にシュールで愉快な出会いをもたらしました。
「今朝、ママから電話がかかってきて、誰かが土地を売りに来たって。”あなたの娘がテレビに出たんだから、きっと大金持ちに違いない!”ってね!」
2021年、ヨーロッパ・ツアーの直前、トリオは永遠のヒーローのひとり、Tom Morello と話す機会を得ました。「俺は君たちのの大ファンだ。君たちのバンドとしての存在そのものが、世界中の人々にインスピレーションを与えているんだ」と Tom は3人に言ったのです。
つまり、もう誰も VOICE OF BACEPROT 止めることはできません。村の名前であるシンガジャヤ、つまり “栄光のライオン” である彼女たちの雄叫びが止むことはありません。


参考文献: REDBULL:LIVING ON A PRAYER WITH INDONESIAN ROCK BAND VOICE OF BACEPROT

The ASEAN:Voice of Baceprot: Breaking Barriers with Heavy Metal

NME:Hard as rocks: Indonesian metal trio Voice of Baceprot keep breaking boundaries

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ANIMA TEMPO : CHAOS PARADOX】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ANIMA TEMPO !!

“I Started To Write Some Rockman Songs In Metal Versions As a Tribute Of The Videogames I Used To Love.”

DISC REVIEW “CHAOS PARADOX”

「今では日本のようにバンド同士でお互いに会い、自己紹介をし、皆の素材を評価し、消費し、尊敬とミュージシャン・チームを促進することを大切にしているんだ。日本でのツアーは、ANIMA TEMPO のビフォー・アフターだと考えているよ」
ヘヴィ・メタルに国境はなく、その瑞々しき生命力は世界中に根を張って弛まぬ包容力と知と血の音の葉を感染させ続けています。そうして起こったモダン・メタルのパンデミックは、文化と文化のマリアージュも推し進めているのです。メキシコから DREAM THEATER や PERIPHERY の “プログ・メタル” を深化させる ANIMA TEMPO は、日本の文化やメタル・シーンに薫陶を受けて “生き生きと” 自らの才能を奏でています。
「子供の頃から、プレイするビデオゲームのバックグラウンドに流れる音楽に注目してきたし、一番好きなビデオゲームのサウンドトラックは “ロックマンX” だったんだ。16-bit のシンセサイザーの複雑さと、いくつかのゲームに登場する “シュレッダー” のような音楽に影響されて、その曲をギターで弾いてみたくなった。それで、それから何年も経ってから、大好きだったビデオゲームへのオマージュとして、メタル・バージョンのロックマンの曲を書き始めたんだ」
リスペクトと調和の日本らしさを血肉としたメキシコの新鋭は、同時に日本が生んだビデオ・ゲームという新時代のアートからも影響を受けていました。オープナーの “Dijital Heart” を聴けば伝わるように、レトロ・フューチャーなネオンを点滅させる彼らの音楽は、プログ・メタルとビデオゲームの親和性を誰よりも巧みに証明していきます。ただし、両者のマリアージュは何も音楽だけには限りません。
「この新しいアルバム “Chaos Papadox” では、そうしたビデオゲームのシンセサイザーを取り入れたかった。それは、多くのティーンエイジャー、それに大人でさえも、自分のパーソナリティや日々の問題をビデオゲームの中の架空の現実の中に隠してしまうような、そんな現代と未来の生活について語る楽曲のサウンドトラックを作るのに、今が完璧なタイミングだと考えたからなんだ」
メタルとビデオゲーム。ANIMA TEMPO はその両者の共通項を “暗闇からの逃避場所” と定めていました。メタルやゲームの架空世界、ファンタジーに没頭している間は、憂き世の定めを忘れて黒雲から目を逸らすことができる。彼らが “混沌の矛盾” でその境地へとたどり着いたのは、真摯で真面目な彼らでさえも、”暗闇” から逃れることはできないから。ANIMA TEMPO を覆う黒い雲とは、生まれついた場所メキシコの麻薬やマフィアといったステレオタイプなマイナス・イメージ。彼らはそうしてレッテルを貼り、主語を大きくして、すべてのメキシコ人を犯罪と結びつける差別主義者とも戦うことを余儀なくされてきました。
「音楽やあらゆる種類の芸術は、反抗的であるための手段であり、時にはストレートな言葉では難しいことを伝えるための手段でもある。”Chaos Paradox” は、目を覚まし、自分自身と世界全体を見つめなおそう、僕たちはみんなつながっていて、どんな国、宗教、肌の色であろうと、僕たちは一緒なんだということをみんなに呼びかける作品なんだ」
シタールから中東、日本音階、マヤの楽器、ビデオゲームにアンビエントなシンセ・ミュージック、キャッチーを極めたボーカル・メロディ、そして、Sithu Aye や David Maxim Micic も舌を巻くギタリズムを抱きしめたグローバルな ANIMA TEMPO のメタル・シアターは、これからも謂れのない分断や非道の差別に調和とリスペクトで対抗していきます。野心的な音楽や実験性は時に、何よりも雄弁な平和への道標となるのですから。
今回弊誌では、ANIMA TEMPO にインタビューを行うことができました。「麻薬、マフィア、貧困、暴力の問題は、どの国にも例外なくある。幸いなことに、僕たちはメキシコからそのような見方を変えようと、一生懸命働き、正直で謙虚で、プロフェッショナルで非の打ちどころのない音楽で世界中を回ってきた。そうやって、僕たちは成功し、大陸や文化を超えた強い絆と友情を築いてきた」 どうぞ!!

ANIMA TEMPO “CHAOS PARADOX” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PIZZA DEATH : REIGN OF THE ANTICRUST】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH KANE OF PIZZA DEATH !!

“The Best Music Comes From Artists Who Are Giving a True Genuine Reflection Of Themselves Through Their Music.”

DISC REVIEW “REIGN OF THE ANTICRUST”

「スラッシュというジャンルは、僕たち全員がプレイしていて本当に楽しいと感じる音楽なんだ。でも、タフなメタル・ヘッドのように振る舞っている自分たちを、客観的な自分は真剣に受け止めることができない。だからピザのような馬鹿げたテーマを持つことで、音楽を通して、タフガイじゃない自分たち、その個性をより素直に反映させることができるんだ」
メタルやハードコアのようなエクストリーム・ミュージックの世界において、”マッチョ” で “タフ” で “シリアス” であることは長年、リスペクトを得るための至上命題だったのかもしれません。弱さも優しさもユーモアも、激しい音楽にとっては足枷でしかない。しかし、そんな時代は過ぎ去ろうとしています。METALLICA が自分たちが無敵ではないことを告白して、ファンと痛みを分かち合おうとしているように、激音の伝道者たちは本来の自分を曝け出しつつあります。当然でしょう。いつでも完璧で鋼鉄な人間など、存在しないのですから。
「シーンには、自分の怒りや不満、意見や見解を表現する手段として音楽を使いたがる人たちがたくさんいる。それは素晴らしいことで、僕も彼らは大好きだよ。でもね、僕らがそれをやると “フェイク” なんだよな。だって僕らは、最高の音楽は、音楽を通して自分自身をありのままに表現しているアーティストから生まれるものだと思っているから」
メルボルンで焼かれた PIZZA DEATH も、メタルのステレオタイプと本来の自分の間で悩み、葛藤し、ピザの悪魔の力を借りたユーモアの影で遂にありのままの個性を解き放つことに成功したバンドです。”Pasta of Muppets”, “Naplam Cheese” といった思わず笑顔になるようなジョークの裏側で、彼らは当時の英雄たちに引けも劣らぬ猛攻を仕掛けていきます。スラッシュ、ハードコア、グルーヴ・メタルにグラインド・コア。ピザのトッピングは、MUNICIPAL WASTE や TOXIC HOLOCAUST のクロス・オーバーに輪をかけて色とりどり。そうして、その原動力はやはり、メタルのステレオタイプとは異なる、ハイオク満タンの POWER “Violence” TRIP。特筆すべきは、27分20曲が瞬く間に通り過ぎるそのキャッチーな “ピザの耳”。
もちろん、チーズィーな “ピザ・スラッシュ “とは、METALLICA, EXODUS, KREATOR といった80年代のアイドルに傾倒しすぎた新しいスピード・メタル・バンドに向けられた蔑称ですが、PIZZA DEATH は明らかにこの言葉を意識しながら、反発して、より自分たちの個性を曝け出すことに成功しています。結局、”ピザの耳” はアンチが多いものの、食べてみればなかなかの歯ごたえと美味を備えているのですから。
今回弊誌では、ベーシストの Kane がインタビューに答えてくれました。「かのお方こそ、最強のアンチクラスト (反ピザの外側の硬い生地) 様だ!なぜ、どうやってそうなってしまったのかはわからないが、アンチクライストがピザ生地にはまり込んでしまい、それがシン・スリジー・ピッツェリアのオーブンに入れられると、サタン自身がピザ生地に焼き付けられ、アンチクラスト様に大変身してしまったのだ!」 ピザの耳は許すがパイナップルの侵入は許さない。絶滅させよ!どうぞ!!

PIZZA DEATH “REIGN OF THE ANTICRUST” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【I PREVAIL : TRUE POWER】NEX-FEST


COVER STORY : I PREVAIL “TRUE POWER”

“I Want To Write Something That Stands The Test Of Time.”

TRUE POWER

失恋は個人の成長を促すとも言われています。I PREVAIL のボーカル Brian Burkheise は、2013年5月1日の夜の体験が、その言葉を裏付けていると証言します。
当時20歳の Brian は、その約束をデートだと思って出かけました。1925年にステート・シアターとしてオープンした伝説的な会場フィルモアに、PIERCE THE VEIL, MAYDAY PARADE, YOU ME AT SIX が出演するライブに若い女性を連れて行った時のこと。
PIERCE THE VEIL のセットの途中で Brian は、自分の夢を彼女と分かち合うことに決めます。「俺はいつかこれをやりたいんだ…」Brian は2,900人収容のハウスを満員にすることと、ライブの観客を魅了することを彼女に誓ったのです。
Brian は自身の言葉を固く信じていましたが、しかし彼の愛情の対象は彼の言葉をあまり信じてはいませんでした。
「彼女はにやりと笑い、絶対にありえないと思っているような目で俺を見ていた。ライブが終わると、彼女は別の男に会いに行ったんだ。自尊心を傷つけられたね」
落胆しながらも Brian は一人で家に帰る途中、自分の将来を考え始めます。
「起こったことはモチベーションの源となる。なぜ自分はこれほどハードにプッシュしなければならないのか、その理由にね。自分ならできる、夢は実現可能だということを人々に示すための力になると自分に言い聞かせたのを覚えているよ」

あの運命的な夜から10年。Brian と彼のバンド I PREVAIL に起こったことを考えれば、その言葉が真実であることを証明できるでしょう。2度のグラミー賞ノミネート、3枚のフル・アルバム、そしてモダン・メタルで最も鋭いキャリアの軌跡。それだけではありません。バンドのサード・アルバム “True Power” を引っ提げた北米ツアーのクライマックス、PIERCE THE VEIL の後に出演した彼らはフィルモアでヘッドラインを飾ったのです。それはまさに、ヘヴィ・メタルのレジリエンス、回復力、反発力を証明する出来事でした。
「自分が尊敬していた人たちとステージを共有できた。これからも、常に自分自身をプッシュしなければならないと感じさせるね」
Brian は現在、3年連れ添った妻 Caylin と暮らしています。彼女とは、苦渋を舐めたあの夜の数カ月後に知り合いました。では、彼を裏切った女性はどうなったのでしょう?
「あれから、彼女はレコードを出すたびにメールをくれるのがおもしろくてね。結婚してからは、メッセージは来なくなったよ」

Brian には、自信なさと生意気さが混在しています。ミシガン州南東部のランドマーク・アカデミーという “超小規模 “高校を40人クラスで卒業した彼は、ESCAPE THE FATE の曲を車の中で歌って仲間に声の強さを指摘されるまで、自分に才能があることに気づいてはいませんでした。両親は彼の願望を応援してくれましたが、一方で友人や家族からは、よく言えば非現実的、悪く言えばクレイジーだと思われ、それが彼自身へのプレッシャーを強めることにもなっていました。
しかし Brian はそのプレッシャーまでも反発力でモチベーションに変換しました。成功を収めるために彼は、歌や照明、アートワークや舞台裏の仕組みに至るまで、自分が関わりたいと思う世界を科学的に研究に研究を重ねたのです。Brian は、ミュージシャンであると同時にマーケッターの頭脳を持っていたおかげで、バンドという乗り物を “超分析” し、悪名や宣伝材料の不足など、将来の成功を阻むかもしれない要因を特定していったのです。
I PREVAIL が今日のように、自分たちの活動の細部にまで気を配り、それが全体的なゲームプランの中で果たす役割に気を配るようになったのは、まさに Brian の現実的な哲学が浸透していったから。あくまでも彼らは長期的な視野で活動していて、単に自分たちの事業の将来性を確保したいだけなのです。
「音楽が僕らの根源であるのと同じくらい、僕らはみんなビジネスマンなんだ。バンドは発展し、成長しなければならない。人脈を作り、可能な限り多くのことを学ばなければならない。30年後、僕らが60歳になっても、この仕事を続けていたいからね」

Brian とボーカルを分け合う Eric Vanlerberghe のインスタグラム・アカウントは彼のレコード・コレクションに捧げられています。
「自分が手掛けた作品が誰かの手元に届くというのは、特別なことなんだ。誰かがそのレコードをコレクションしていて、その友人や子供たちが、何年か後にそのコレクションを手にとって、僕たちが作ったものを発見するんだからね」
Eric は昔ながらのロマンチックな音楽鑑賞を愛していますが、ストリーミングがもたらす影響にもしっかりと気を配っています。I PREVAIL は2022年に182カ国で2億4690万回のストリーミングを得ています。
「誰かが自分の音楽に人生の多くを捧げているのを目の当たりにするのは…正気の沙汰じゃない。A DAY TO REMEMBER の “Homesick” や MY CHEMICAL ROMANCE の “Black Parade” を聴きながら、自分の人生のどれだけの時間を過ごしたか、過去に戻って確かめたいものだよ」
Eric の足には “Black Parade” のタトゥーがあり、CDを聴きすぎて “燃え尽きて” しまったのだといいます。ゆえに、MY CHEMICAL ROMANCE がヘッドライナーを務めた “When We Were Young” フェスティバルに出演することは Eric にとって光栄以外の何物でもありませんでした。彼が初めて行ったライブは FALL OUT BOY で、すぐにカリフォルニアのデスコア・アウトフィット、CARNIFEX が続きました。エモもデスコアも同時に包容するのが彼らのやり方。
「この前のツアーでは、SLAYER の “Raining Blood “をカバーしたんだ。毎晩、みんなを驚かせるためにね。特に、みんなが演奏するとは思っていないような曲を演奏したいよね。I PREVAIL が SLAYER を演奏すると思うかい?」

I PREVAIL がデビューEP、2014年の “Heart vs. Mind” を準備していた頃、最初の注文は1,000枚にすべきだという提案に反対したのも Eric でした。「そして今、僕たちはここにいる」それ以来、彼らは目標を常に “高い” ものに再設定し、常にハングリーで追い求める姿勢を崩していません。
彼らの成功の雛形は LINKIN PARK の影響によるものです。重いリフをポップなフックと融合させ、寛容にさまざまな形に変化させながら、音楽ファンがヘヴィ・ミュージックへの愛を発見する “門” として重要な役割を果たした Nu-metal 界のレジェンド。ただし、”入門バンド” には入門バンドの苦悩もあります。I PREVAIL もテイラー・スウィフトの曲をカヴァーしたことで、早い時期にジャンルの “門番” たちから大きな非難を浴びています。
「気にしてないよ。誰かが僕らを “入門バンド” だと言っているコメントを読むと、侮辱のつもりで言っているんだろうけど笑ってしまう。でも、僕たちは人々をメタルに引き込んでいるんだ。いいかい? 人々は自分を引き込んでくれたバンドを、この先何年もの間、いつも近くに置いておくものだ。METALLICA は、僕にメタルとは何かを教えてくれた最初のバンドだった。そこから SLIPKNOT、Underøath、SYSTEM OF A DOWN と続き、2年も経たないうちにデスメタルやグラインドコア、その他諸々を聴くようになった。メタルに対する飽くなき渇望があったんだ。だけど、そうやって世界が広がった今でも、最初に僕をメタルに引き込んでくれたバンドやアルバムは大好きなんだ」

まだ嫌われ者たちとの付き合いは終わっていませんが、彼らはむしろその戦いを反発力で自分自身を奮い立たせる追い風に使っています。I PREVAIL が2019年のセカンド・アルバム “Trauma” を完成させたとき、メンタルヘルスと喪失というテーマを赤裸々に扱ったこの作品に彼らはすべてを注ぎました。だからこそ、その知識は、荒らしが押し寄せてきたとき、バンドにある程度の防御策を与えてくれたのです。ありがたいことに、現段階では Eric は否定的な意見に免疫があります。
「人々は自分たちがうまくいかなかったことに嫉妬している。夢を持っていたのに、チャンスを得られなかったとか、努力が報われなかったとか。笑っちゃうよ。それで、髪の長さとか、曲の単語の発音とか、くだらないことで僕を嫌うんだ。だから僕は、そうした批判も追い風にするよ」
“Trauma” を書いた理由は、バンド自身が本当に暗闇の時期を経験したから。だからこそ、Eric は自分たちのメンタリティをできる限り良い方向に保とうと努力しています。
「難しいけどね! “Trauma” では学ぶことが多かった。Brian が喉を怪我して、ツアー中に親友の一人を自殺で亡くしたんだ。だから “Trauma” は、自分たちが経験した暗闇、そしてどん底についてオープンにしたものだ。巨大な高揚感に包まれながら、予想もしていなかったような本当の低空飛行に対処しようとしている。”Trauma” を書き、レコーディングし、その過程を経て、パンデミックで家に閉じこもり、たくさんのことを学び、考え抜いた。でも、僕の場合は、ガールフレンドや家族、グループチャットをする故郷の友人たちなど、特定のグループがいて助けになった。
僕は大のオタクなんだ。ツアー中は、トレーディングカード店や本屋、レコード店を探すようにしている。演奏や I PREVAIL での活動以外でも自分の個性を発揮して、自分の一日や自分の時間を持ちたいんだ。それは大きなものだと思うよ。”True Power” はそういうところから生まれたんだ。困難や小康状態、低空飛行をどのように処理するか、そしてどのように光を見出すかを学んでいるんだ。より強く立ち直り、そこから学び、成長し、それを維持し、そこから花を咲かせ、その中で自分自身の強さを見つけ、成長する方法もあるんだから」

I PREVAIL の先見性は作品のテーマにまで及びます。Eric がクリストファー・ノーラン監督を愛し、同監督の作品の中で “インターステラー” がお気に入りの作品であることは有名な話。マシュー・マコノヒー主演の “インターステラー” は、地球が住めなくなる中、人類の新しい故郷を探そうとする宇宙飛行士を描いた、先見の明のあるSF映画の傑作です。Eric 風に言えば、 “インターステラー” のテーマの濃密さ、感情の生々しさ、五感の饗宴は、”Trauma” に相当します。そう考えると、Eric のもうひとつのお気に入りであるタイムトラベル・スリラー “テネット”、”True Power” に似ているのかも知れませんね。期待通りのスケールとスペクタクルが実現されていながら、そこに必ずしも簡単な答えが用意されているわけではないのですから。
「”Trauma” は、自分たちが壊れていくことを探求したアルバムだったから、完全にオープンで正直に、自分たちが感じていることを書いていたんだけど、”True Power” の曲の具体的な内容については、もっとベールに包まれているんだ。”True Power” は、僕らにとって新しい章の始まり。過去には、外部からの影響によって、成功とはどのようなものなのか、成功に到達するためにはどのようなルールに従わなければならないのかを教えられようとしてきた。僕たちはそれに抵抗してきたけど、今は完全に自信を持ち、人々は僕たちの決断に疑問を抱くよりも、支持してくれている」

Brian がステージから I PREVAIL の観衆を見渡すと、彼らを見に来た多くのファンの傾向を確認できます。彼らはたいてい6~8人のグループでやってくる、かつて LINKIN PARK や A7X のようなバンドを見に行った年月を懐かしむ30~35歳の兄弟たち。とはいえ、それだけではありません。
「僕らは誰でも聴くことのできるバンドになりたいんだ」 ラッパーのジョイナー・ルーカスとコラボしたトラック “DOA” や、EDM界の大御所 Illenium とコラボしたシングル “Feel Something” など、I PREVAIL は外部からの影響を幅広く取り入れ続けていることを誇りに思っています。
「僕たちが常に目指しているのは、どんな年齢、どんな人種、どんなジャンルの人でも聴いてインスピレーションを得られるバンドであることだからね。”True Power” はロックでありメタルであり、これまでで最もヘヴィなアルバムだと感じているけど、それでも非常に多様なサウンドが収録されている。そのおかげで、じっくりと腰を据えてこのアルバム全体を見渡すことができたと思う。”これまでにやったことのないことで、やってみたいことや、既成概念にとらわれないアイデアは何だろう?” ってね。振り返ってみて、とてもクリエイティブで、いろいろな側面を持つことができて、とても楽しかったんだ」

Eric はこの作品が時の試練に耐えうる “True Power” を有していると胸を張ります。
「時の試練に耐えるものを書きたかった。子供たちが10年後にこのレコードを聴いても、友達みんなに見せてくれるようなバンドになりたい。でも僕は、聴いてくれる子供たちにどんな概念も押し付けたくはない。彼らが音楽の旅の中で経験したことを、いつか自分の音楽に置き換えることができるような、音楽との深いつながりを与えたいんだよ。オープンエンドな性質、アトモスフェリック、容赦ないヘヴィネス、そして新鮮なアイデア…」
多くの熱心なミュージシャンがそうであるように、Eric は “良いものなら何でも聴く” 音楽愛好家。具体的には、FIT FOR AN AUTOPSY, SLIPKNOT の “Iowa”、PANTERA の “Vulgar Display Of Power” を最近でもよく聴いています。
「”時代を超越した音楽” というのは、まさにそういうことなんだ。20年後に聴いても、その音楽のエネルギーや怒りを感じることができる」
I PREVAIL は明らかに、自身の継続的な成功のためではなく、ヘヴィ・ミュージック全体が音楽の他の大物と同じテーブルに座ることを願い、シーンのためになりたいと思っています。2020年に I PREVAIL がグラミー賞に出席した際、ロック部門は生放送されませんでした。
「BRING ME THE HORIZON と僕たちは、お互いに顔を見合わせたんだ。そうして、10年後にまたグラミーに戻ってくることができるように、そしてロックが再び大きく受け入れられて、かつてのようにテレビの生放送で放送されるようにやっていこうと誓ったのさ」

彼らの創造性、情熱、そして意志の強さを宿した音楽は、様々なリスナーの人生を変えています。最近、あるファンが Brian に、大事故で骨折して入院していたことを話しました。彼は、”True Power” を聴くことで、最低の瞬間や耐え難い痛みを乗り越える力が湧いてきたと Brian に伝えました。「それが僕たちにとっての成功なんだ」
共同ボーカル Brian と Eric のダイナミックな関係もまた、I PREVAIL の中心軸となっています。
Brian が語ります。
「僕たちは偶然出会ったんだ。ロックの神様かメタルの神様か、どう呼ぼうと勝手だけど、僕らをペアにすることに決めてくれてラッキーだったよ。僕ら2人がいなかったら、このバンドは成り立たなかったと思うし、彼もそう言うと思う。安っぽいかもしれないけど、僕たちは兄弟のようなものなんだ。兄弟のような関係というのは、お互いのことを一番に考えているということ。特に初期の頃は、2人のボーカルがいることで、外部の影響によって、関係が難しくなりそうになったこともあったからね」
Eric は、ツアー中の混沌とした生活の中で、チームのメンバーのように4人の仲間と、じっくりと一杯の酒を味わうことほど好きなことはありません。
「もしお互いを信頼し、自分たちのやり方でやっていなかったら、今の自分たちはなかっただろう。僕たちは確かに個人だが、それでも、I PREVAIL が人々の記憶に残る名前になることを全員が望んでいるんだ」
今のところ、彼らはかなりいい仕事をしています。

http://NEX-FEST JAPAN

参考文献: I Prevail’s Eric Vanlerberghe: ‘I Want To Write Music That Stands The Test Of Time’

KERRANG!I Prevail: “Thirty years from now when we’re all 60, we want to still be doing this for a living”

BILLBOARD:I Prevail Reflect on the Pandemic, ‘Trauma’ and New LP ‘True Power’

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【Kostnatění : Úpal】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH D.L. OF Kostnatění !!

“I Think The Bands That Are Currently Pushing Black Metal Forward Are The Ones Who Don’t Make It About Satanism Because They Think It Is Mandatory.”

DISC REVIEW “Úpal”

「現在ブラックメタルを前進させているバンドは、サタニズムをテーマにしていないバンドだと思う。それを強制させられた時点で、創造的とはいえないからね。ブラックメタルは、歪んだギターで演奏されるエネルギッシュな音楽であれば、どんなものにも適応できるし、同様に幅広いテーマやムードを取り入れることができる」
モダン・メタルはその生命力、感染力、包容力で世界中に根を張り、多様な文化を吸収して、今も拡大を続けています。その最先端に位置するのがブラックメタルであることは、もはや公然の秘密でしょう。そして、その多くがもはや原初のサタニズムを強制されてはいません。強制とは創造の反対語。米国ミネアポリスを拠点とする Kostnatění も、全身全霊で創造の限りを尽くします。
「僕は単純にトルコの音楽に長い間興味を持っていて、それをメタルに取り入れた結果を楽しんできたんだ。”Úpal” にはトルコ音楽の影響だけでなく、マリのティショマレンや中東・北アフリカの民族音楽、ポップス、クラシック音楽からの影響もある」
灼熱の太陽、砂漠の熱砂、地獄の乾燥。蜃気楼の踊る異国のアルバム “Úpal” は、チェコ語で “熱射病 “を意味し、極限に咲く美しさと激しさの二律背反を表現しています。Kostnatění が目指すのは、”砂漠の太陽、その灼熱の光と正気の融解”。威厳と殺戮を伴って移り変わる砂の上の文明に焦点を当て、酷暑に屈っせず進化する人々の強さに敬意を表します。
ゆえに、そのブラックメタルには音楽の進化の証であるポップスやクラシック、現代音楽とともに、中東やトルコ、北アフリカの音楽が共存しているのです。
「僕はいつも、今ある既存のものとはまったく違うサウンドを作ることを目標に音楽に取り組んできた。いろいろな音楽を聴いて、それを組み合わせることで、簡単に他とは異なる目立つ音楽を作ることができる。それに加えて、僕はポップ・ミュージックの感性を曲作りに生かすようにしている。どんなに激しく邪悪な音楽であっても、記憶に残るものでなければならないと思うからね」
Kostnatění(チェコ語で “骨化” の意)は、アメリカ人 D.L. を中心としたバンドです。アメリカ人でありながら、チェコ語とチェコ文化を中心に据え、中東やアフリカの音楽を奏でるその異端は D.L. に言わせれば実に自然な営みでした。
結局のところ、D.L. はアーティストとして、自分が興味の向くものを、好奇心のままにアートとして創出しているだけ。そこには、モダン・メタルに宿る強制されない創造性が多分に反映されていて、最終的に D.L. 本人を軸として、不思議にまとまりのある百鬼夜行として収束していくのです。
Kostnatění は伝統的なサウンドをより深く、理論に基づいて解釈することで、ブラックメタルを新たな次元へと昇華させていきます。リズムはメタル・ルールブックの理解を超え西洋音楽とは異質の次元で時を刻み、フレットのないマイクロトーナル・ギターは死の谷の暑さの中でゆっくりと干からびていく蛇のように、ジワリジワリとリフの命を捻じ曲げます。
そうして、エキゾチックと無慈悲の綱渡り、幻覚的で予測不可能な “Úpal” は、アフリカン・フォークと砂漠のブルース、中東のダンス、トルコ民謡の微分音、邪なノイズ・ロックの影響を受けながら、不安と強迫観念の蜃気楼を不協和音の楼閣に描いていきます。その不協和は、しかし魅惑の異世界旋律で、さながらサハラの太陽のごとくリスナーの心を溶かし、揺さぶり、いつしか焼きつくしてミイラ取りをミイラにしていくのです。とはいえ、Kostnatění の音楽を完全に解析するには、難解な学位が必要でしょう。
今回弊誌では、D.L. にインタビューを行うことができました。「メタル文化の中で、入門バンドから成長しなければならないという考えに賛同したことはないよ。だって、結局、入門編となるメジャーなバンドは曲作りが良いから人気なわけでね。アンダーグラウンドの音楽はメインストリームから学ぶべきことが多いと思う。その逆もまた然りだけど」 どうぞ!!

Kostnatění “Úpal” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE ANCHORET : IT ALL BEGAN WITH LONELINESS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH THE ANCHORET !!

“You Do Have To Be “A Deadman” To Have a “Great Gig in the Sky”, no? Haha! But Yes, You Caught Me Red-Handed, I’m a Huge Pink Floyd Fan And There’s Definitely Pink Floyd DNA Sprinkled Throughout The Whole Of The Album.”

DISC REVIEW “IT ALL BEGAN WITH LONELINESS”

「音楽は、人種、肌の色、信条など、あらゆる境界を超越する。コンサートに行けば、僕たちが皆、互いに共生しているとわかる。そして想像力を育み、精神を高めてくれる!音楽は僕の人生を救ってくれた!音楽のあるところでは、僕らは決して一人じゃない! 」
結局、人とは孤独な生き物です。一人で生まれ、一人で死んでいく。すべては孤独から始まります。ただし、その孤独と孤独の狭間、ほんの閑日月に私たちは寂寞以外の何かに縋り、救われます。音楽、特にヘヴィ・メタルのファンタジーや包容力は、今や大きな社会問題とまでなった孤独、そして憂鬱の素晴らしき逃避場所。カナダを拠点とする THE ANCHORET は、世捨て人の名を冠した神々しき神父のプログ・メタルで、許しの灯火をかかげていきます。
「CYNIC と OPETH の両方と少しでも比較されるのは光栄なことだからね!この二つのバンドは、Paul Masvidal の “Aeon Spoke” とともに、僕の活動すべてに大きな影響を与えている。OPETH が音楽の探求を教えてくれたとしたら、 CYNIC は音楽の流れをよりよく理解する方法を教えてくれた」
孤独からの逃避、自己愛と希望の重要性を説く隠遁の神父たちにとって、プログ・メタルは格好の経典でした。プログとはプログレッシブ、即ち進化すること。もちろん、人は打ち込めるものがあれば、自分の才能と向き合えれば、将来の光を目視できれば、孤独を感じることはないでしょう。そのための鍵となる “好奇心” を、プログの世界は存分に与えてくれるのです。
加えて、メタルは当然、包容力と生命力を湛えた無限の水源地。両者を融合させた CYNIC と OPETH、そしてあの美しき AEON SPOKE は THE ANCHORET にとってまさに神の顕現だったのです。
「”天空でのグレート・ギグ” をやるには “死人” である必要があるよね。ハハハ!僕は PINK FLOYD の大ファンで、アルバム全体を通してそのDNAが散りばめられているよ。例えば “Buried” では、キーボードが “Ummagumma” 時代の PINK FLOYD から直接インスピレーションを受けていて、”Echoes” も少し混ざっているかな」
ただし、プログ・メタルのプログがもはや予定調和で画一的。そんな指摘もなされてきた21世紀において THE ANCHORET の挑戦は、レーベル・メイトの AN ABSTRACT ILLUSION, LIMINAL SHROUD, PYRRHON, SLUGDGE, COUNTLESS SKIES, PARIUS と同様に “真のプログレッシブ” を目指すもの。
これまで、KING CRIMSON や YES, RUSH が崇拝の対象だったプログ・メタルの教会に、PINK FLOYD のサイケデリアやアトモスフィアを持ち込んで、それでもメタルのカタルシスを失わない新宗派の輝きは、サクスフォンやヴォコーダー、フルートにクラリネット、ゴスペル・ボーカルという “ノン・メタル” な神器の存在があってこそ。
このバンドに亡き FAIR TO MIDLAND の面影を垣間見れる行幸。何より、アルバムを通して貫かれる、怪しいメランコリーや幽玄なイメージ、そして崇高なアトモスフィアには、まさに彼らが教義とする孤独と光が鮮明に投影されています。さて、プログ・メタルの鐘の音は、20年代も半ばとなった今、誰が為に鳴るのでしょう?
今回弊誌では、THE ANCHORET にインタビューを行うことができました。「”マクロス” から “はだしのゲン”、”ナウシカ”、”新世紀エヴァンゲリオン” まで、ありとあらゆるアニメを見て育ったからね。黒澤明や三池崇史の映画も定期的に見ているし、ビデオゲームもずーっとやっているよ。マリオ、ソニック、サイレントヒル、ファイナルファンタジー…。僕たちは日本の人々、文化、そして比類なき創造性に多くを負っているのさ!」 90年代にテイチクから出ていたHEAVEN’S CRY の “Food For Thought Substitute”、絶品で聴き漁っていたのですが、まさかここでそのメンバーと再会できるとは…どうぞ!!

Vocals by Sylvain Auclair
Drums by James Christopher Knoerl
Keyboards and Synthesizers by Andy Tillison
Guitar and Lead Guitar by Leo Estalles
Bass by Eduard Levitsky

THE ANCHORET “IT ALL BEGAN WITH LONELINESS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SCAR SYMMETRY : THE SINGULARITY (PHASE II – XENOTAPH) JAPAN TOUR 23’】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PER NILSSON OF SCAR SYMMETRY !!

“Meshuggah Let Me – Even Insisting On – Play My Own Solos In The Songs, Not Copying Fredrik’s Solos, And I Had a Lot Of Fun With That. I Improvised Every Solo So That Every Night, I Could Try Something New.”

DISC REVIEW “THE SINGULARITY (PHASE Ⅱ)”

「MESHUGGAH のツアーで数年間は忙しかったし、NOCTURNAL RITES のアルバム制作とツアー、KAIPA との数枚のアルバムのレコーディング、他のバンドのプロデュースやミックスの仕事、セッションの仕事、2019年には父親になったし、世界的なパンデミックも起きた。だから、私生活でも仕事でも世界全体でもいろいろなことがあったんだよ!でも、アルバムがついにリリースされ、ファンが本当に気に入ってくれているようで、今は本当に素晴らしいと感じているよ!」
スウェーデンの近未来知的創造体 SCAR SYMMETRY がバンド結成20年のメモリアルに華々しい復活を遂げようとしています。主役はもちろん、あの MESHUGGAH で鬼才 Fredrik Thordendal の代役を長く務めたギターマスター Per Nilsson。紆余曲折のあったバンドですが、中心メンバーであった Christian Älvestam と Jonas Kjellgren が去って Per の創造性を心臓に据えた北欧の特異点は、メロデスのカタルシスとプログレッシブな冒険心を絶妙な “対称性” で律する最高の SF エピックを紡ぎ出しています。
「3部作の各章は、3部作の音楽世界の一部とつながり、感じられる必要がある一方で、僕は各フェーズが独自のものであることも望んでいたからね。だから、”Phase II” では、メロディや先進性を犠牲にしてでも、”Phase I” よりもかなりヘヴィでアグレッシヴなものにする必要があったんだ」
2014年に始まった SCAR SYMMETRY の “The Singularity” 三部作。キャリア・ハイとなった “Phase I” は、トランス・ヒューマニズム (科学技術で人間の身体や認知を進化させる思想) を軸としたSF コンセプト・アルバムで、精巧であると同時にバンドの歴史上最もキャッチーな作品でした。一般の人間と、金に物を言わせて自身を強化したエリート集団 “ネオ・ヒューマン” との階級闘争、そして戦争に発展する未来社会の物語。Per Nilsson 率いるスウェーデンの5人組は、9年後の “Phase Ⅱ” においても変わらず自信に満ち、強力で、自分たちの “シンギュラリティ” を完全にコントロールしているように見えます。
「近い将来、僕たちは AI に、僕たちが望み、体験したい芸術を創作するよう促すことができるようになるだろう。例えば、モーツァルトとポール・マッカートニーが作曲し、ボブ・ロックがプロデュースとレコーディングを担当し、ベースはクリフ・バートンに、ボーカルはエルトン・ジョンに……といったような曲を AI に作らせることができるようになる。もし、その結果に満足できなければ、AI に指示をして微調整してもらえばいいだけだろう」
とはいえ、2004年、境界のない新しいタイプのデスメタルを作ろうと結成されたバンドには、もはや AI の助力や指図は必要ないでしょう。巨大なシンセサイザーと、本物のデスメタルの嗎、官能的なクリーン・ボーカルはシームレスに組み合わされて、対称と非対称の狭間にある天秤のバランスを巧みに釣り合わせていきます。
FEAR FACTORY や SOILWORK も真っ青なメタル・ディストピアの残酷さに唖然とさせられた刹那、そこにメロディーが生まれ、エピックが兆し、プログパワーのような雄々しさとメロハーのようなエモーションが乱立していきます。深慮遠謀のリフワークに、天高く舞い上がる緻密な音のホールズワース階段こそ Per Nilsson の真骨頂。Jacob Collier や Tim Miller, Tigran Hamasyan まで咀嚼したメタル世界のエイリアン、最高のサブジャンルとギター・ナードの組み合わせは、すべてがユニークで予測不可能なサウンドを生み出すためにブレンドされているのです。
叫び声を上げるもよし、激しく頭を振るもよし、エアギターを達者に気取ってみるもよし、空を見上げながらメロディを口ずさむもよし。あらゆる形態のメタル・ファンにとってあらゆる条件を満たすアルバムがここに完成をみました。もしかすると、Per Nilsson はすでに、人工知能を宿したトランス・ヒューマンであり、このアルバムこそが “シンギュラリティ” を超えた未来なのかもしれません。
今回弊誌では、Per Nilsson にインタビューを行うことができました。「”Future Breed Machine”、”Rational Gaze”、”Bleed” といった僕のお気に入りの曲を演奏できた。そして観客が熱狂するのを見ることができた。彼らは、Fredrik のソロをコピーするのではなく、自分自身のソロを曲の中で演奏させてくれたんだ。僕は毎晩、何か新しいことに挑戦できるように、すべてのソロを即興で演奏したよ」 どうぞ!!

SCAR SYMMETRY “THE SINGULARITY (PHASE II – XENOTAPH)” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【AROGYA : SUPERNATURAL】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH AROGYA !!

“Visual Kei Bands Have This Incredible Ability To Seamlessly Blend Various Genres And Styles Within Their Music.”

DISC REVIEW “SUPERNATURAL”

「BLOODYWOOD は典型的なインドの要素をうまく音楽に取り入れているけれど、すべてのインドのバンドが同じ道をたどる必要はないということを認識することが重要だ。それぞれのバンドには独自の芸術的ビジョンと音楽スタイルがあり、誰かの成功を真似たり複製したりするのではなく、自分たちのビジョンに忠実であることが不可欠なんだ」
ヘヴィ・メタルは今や文字通り “みんなのもの”。その生命力、感染力、包容力で、様々な民族、文化、人種、宗教の壁を乗り越え世界各地に根を張っています。中でも、世界で2番目に多い13億の人口を誇るインドのエネルギッシュな多様性は、現代のメタル・スピリットと圧倒的にマッチしているようです。
「AROGYA の全体的なコンセプトは、当初ヴィジュアル系バンド(インド初、そしておそらく唯一のバンド)としてスタートしたんだよ。ヴィジュアル系が体現する自由な表現に影響され、様々なジャンルを探求し、様々なサウンドを試し、伝統的な制約にとらわれない音楽体験を創り出すことが目的だったんだ」
かつてインドの音楽業界は、ボリウッドや古典音楽が象徴でありすべてでした。しかし、この10年でインターネット、SNS やストリーミング・サービスが普及し、多様なジャンルの音楽が人気を集めるようになっています。今では、インド全土で年間約20の音楽フェスティバルが開催され、その3分の1では海外国内問わず様々なロックやメタルのバンドが喝采を浴びているのです。
特に、インド北東部はカラフルなメタルのメッカ。もちろん、BLOODYWOOD の極めてインド的なコンセプト、”メタル・ボリウッド” は見事なもので、海外における躍進の原動力となり、後続に門戸を開きました。ただし、文化や人種、宗教のるつぼであるインドにルールやステレオタイプは存在しません。そして、ネパールにルーツを持つ AROGYA が目指し焦がれたのは、日本のヴィジュアル系に宿る “自由” でした。
「the GazettE のようなヴィジュアル系バンドには予測不可能な音楽的多様性がある。様々なジャンルやスタイルをシームレスに融合させる素晴らしい能力を持っている。クレイジーなデスメタルのリフから始まり、エレクトロニックやインダストリアルな要素に移行し、美しくハートフルなラヴバラードへと発展する曲も珍しくない。この多才さと、異なるサウンドやジャンルを試す意欲は、ヴィジュアル系バンドを真に際立たせ、アーティストとして僕たちを魅了するものだ。さらにヴィジュアル系は、バンドやアーティストが自由に探求し、多様な方法で表現することを可能にする、ユニークな芸術的自由を提供している」
AROGYA が言うように、日本で生まれたヴィジュアル系はおそらく、特定のサウンドよりも世界観を重視したジャンルで、ゆえにロック、パンク、メタル、ポップ、グラム、ゴシック、ニューウェィヴ、クラシック、インダストリアルにプログと何でもござれな音世界を構築してきた自由な場所なのかもしれませんね。
それを “まがいもの” と受け取るか、”実験” と受け取るかで、リスナーのV系に対する評価は180°変わるのでしょうが、少なくとも日本よりは遥かに剣呑なネパールとインドの交差点でいくつもの “壁” と悪しき伝統を壊そうと尽力する AROGYA にとって、V系の音楽的な奔放さや 華々しい “メディア・ミックス” の可能性はあまりにも魅力的な挑戦でした。
「文化的アイデンティティという点では、僕たちはネパールとインドの両方を、自分自身を構成する重要な部分として捉えている。僕たちは、両国の文化遺産と、共有する人間性を認め祝福したいんだ。僕たちの文化的背景の多様性と豊かさが、AROGYA の音楽を形成し、その独特の風味と共鳴に寄与している」
つまり AROGYA は、民族音楽やボリウッドよりも、多様で豊かな自らの背景を音楽的、詩的なアイデンティティとすることに決めたのです。だからこそ、the GazettE から LINKIN PARK, RAMMSTEIN, IN FLAMES に GHOST, 果ては EUROPE まで、世界中の “アリーナ・ロック” を融合した強烈無比なメロディック・メタルを生み出すことができました。
彼らの究極的な目標は、音楽で世界を一つにつなげること。互いを許し合い、認め合うこと。そのために、シンセでダークなアリーナ・ロックほど格好のツールは存在しませんでした。そうして “癒やし手” の名を冠する5人の音楽家は、日々、痛み、失恋、孤独、憂鬱、精神的な問題、はかなさ、内なる悪魔と戦う人たちに、一筋の光をもたらすのです。
今回弊誌では、AROGYA にインタビューを行うことができました。「MIYAVI、Crystal Lake、BABYMETAL、Hyde、Ryujin(旧Gyze)といったアーティストたちは、その独特な音楽スタイル、パワフルなパフォーマンス、芸術的なビジョンで僕たちの注目を集めてきたんだ。これらのバンドはそれぞれが独特のユニークなものをもたらし、日本の音楽シーンで可能なことの限界を押し広げ続けている」 どうぞ!!

AROGYA “SUPERNATURAL” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DRAGONCORPSE : THE DRAKKETH SAGA】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MARDY LEITH OF DRAGONCORPSE !!

“We Expressed That Clean Vocals Being Underutilised And Even Ridiculed In Heavier Music In General Was Missing Out On a Whole World Of Possibilities.”

DISC REVIEW “THE DRAKKETH SAGA”

「僕たちは、自分たちが影響を受けたものをしっかりとその名に刻んでいるんだよ。DRAGONFORCE をはじめとしたパワーメタルからの多大な影響。そして WHITECHAPEL や CANNIBAL CORPSE をはじめとするデスメタルやデスコアからの影響。だから、両方の名前を統合するべきだと思ったんだ」
DRAGONFORCE の名を挙げるまでもなく、天翔るドラゴンはファンタジックなパワー・メタルの代名詞であり象徴です。一方で、”Corpse” “死体” は、CANNIBAL CORPSE を引き合いに出すまでもなく、デスメタルの根幹であり原点。その2つの単語を安直なまでに大胆に繋ぎ合わせたオーストラリアの新鋭 DRAGONCORPSE の登場は、A7X が語るようにヘヴィ・メタルが “大胆な” 進化を厭わなくなる予兆なのかもしれません。
「パワー・メタルとデスコア。この一見相容れない2つのジャンルを融合させたきっかけは、僕と BEYOND DEVIATION の Kris Chayer との単純なやり取りから生まれたんだ。そこで僕らは、ヘヴィな音楽全般においてクリーン・ボーカルが十分に活用されていない、そして馬鹿にされていることは、あらゆる可能性を失っていることになると話したんだよ」
そもそも、ヘヴィ・メタルの世界はクリーン・ボーカルが花形で主流でした。しかし、スラッシュ、デスメタル、メタルコアと時を重ねるうちに、重さこそ正義、グロウルやスクリームであらずんばメタルにあらずといった空気が醸し出されてきたような気もします。そんな中で、DRAGONCORPSE はメタルにおけるクリーン・ボーカルの重要性に再度焦点を当て、デスコアの現代的な重力の中にパワー・メタルのファンタジーを組み込む事でメタルの新たな可能性を見出して見せました。
「どのようなスタイルの音楽にも、おそらく永遠に “純粋な人” たち、ピュアリストはいるものだろう。僕たちが取り込みたいのは、ヘヴィな音楽もファンタジックな音楽も両方楽しめる、オープンマインドな人たちだよ。僕たちのようなバンドが現れて、実際に活動するのを長い間待っていたと言ってくれる人がたくさんいることは、正しい道を歩んでいることを意味しているんだ」
と言うよりも、そもそもパワー・メタルとデスコアは、それほど遠い場所にいたのでしょうか? 例えば、BLIND GUARDIAN の “I’m Alive” や “Mirror Mirror”、もしくは HELLOWEEN の ”Escaltion 666″ や ”Push” を聴けば、その実、パワー・メタルにも重さを許容する素養が十分にあったことに気づくはずです。DRAGONCORPSE はただし、その陳腐になりがちなジャンルの手術を、スタイルの良いところを合成し、それぞれの脂肪をカットすることで、両者の総和を超越するカタルシスを作り出すことに成功したのです。
そして、彼らのサウンドの中心、パワーとデスコアが重なる部分は、SOILWORK や SCAR SYMMETRY を想起させるスウェーデンの基盤が実は支えています。このコアから音楽の要求に応じて、壮大なパワーメタルのコーラスや、デスコアのブレイクダウンへと、より柔軟に、大胆に、シームレスに楽曲はその枝葉を巡らせていきます。
もちろん、デスコアとパワー・メタルという、おそらくサウンド的にも審美的にも最も異なると思われてきた2つのサブジャンルを組み合わせることで、DRAGONCORPSE はデスコアのファンがパワー・メタルの世界を探求するための、パワー・メタルのファンがデスコアの世界を探求するための橋渡しを行い、この壮大な “The Drakketh Saga” の最大の功績としたことは記しておくべきでしょう。
今回弊誌では、多才なボーカリスト Mardy Leith にインタビューを行うことができました。「J-ロックやJ-メタルにとても影響を受けているし、日本の影響も浸透している。X-Japan, D’espairsRay, The GazettE, Maximum the Hormone のようなバンドからの影響だね。高校時代は D’espairsRay の大ファンだったよ!僕の記憶が正しければ、彼らは実際に Soundwave フェスティバルの1つでオーストラリアに来たことがあるんだ!それからもちろん、DEVILOOF のようなヘヴィなものも大好きさ!」オーストラリア、アメリカ、カナダの混成バンド。どうぞ!!

DRAGONCORPSE “THE DRAKKETH SAGA” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【AVENGED SEVENFOLD : LIFE IS BUT A DREAM…】


COVER STORY : AVENGED SEVENFOLD “LIFE IS BUT A DREAM…”

“We Kind Of Know The Rules Of Music, And This Record, We Were Able To Just Go Break All The Rules”

LIFE IS BUT A DREAM…

AVENGED SEVENFOLD は、常に自分たち独自の方法で物事を進めることで、モダン・メタル最大のバンドのひとつとなりました。それでも、フロントマン M. Shadows にとって最新作 “Life Is But A Dream…” の変化は我ながら衝撃でした。
「ショックだった!プログレッシブなザッパのようなものから、突然ファンク、DAFT PUNK、そしてフランク・シナトラやオズの魔法使いのようなものへと変化していく。こんなの初めてだよ。よし、これはすごいぞ!という感じだった。最近では、100 gecs とかと同じ衝撃。彼らの曲を聴いたら、”脳みそが花火になったみたいだ” って思ったんだ。でも、とてもうまくできている。音楽を作る人間として、”これは表面上のものではない” と思ったんだ」
しかし、彼は常にそう確信していたわけではありません。ギタリストの Synyster Gates と一緒に車に乗っていたとき、Shadows はバンドメンバーに向かってこう尋ねたのです。
「このアルバムはそんなに突拍子もないのか?」 と。Shadows はあまりに長い間、このアルバムとともに生きてきたため、衝撃はいくらか薄れて “普通” に感じられていたのです。
しかし、Synyster は友人の心配とは違う解釈をしていました。
「このアルバムは、アレンジやプロダクションの観点から、奇妙でクレイジーでファックな作品だよ。そして多分、Shadows が言いたかったのは、ソングライティングの構造。今までは考えもしなかったんだけど、このアルバムは僕らの中で最も子守唄的で親しみやすいアルバムかもしれないということなんだ。ソングライティングは、私たちのベストだと思う。40歳が18歳の道具を使っているような音にならないように、どれだけめちゃくちゃにできるか試してみたかったんだ!」
Shadows と Synyster は、以前 “論争的” なレコーディング過程を経験しているため、今ではほとんどすべてにおいて意見が一致するようになりました。むしろ、お互いのことを “いい人” とさえ思っていると、Synyster は笑います。つまり、AVENGED SEVENFOLD は、”Life Is But A Dream…” で極限まで自分たちを追い込みましたが、全員が同じ方向を向いているのです。
最近の彼らは、可能な限り “小さなことは気にしない” というアプローチをとっており、新曲は絶対的な真剣さで扱われたものの、人生とキャリアに対しては常にポジティブな意思が貫かれています。

人工知能やビッグバンといったテーマに思慮深く取り組んだ2016年のプログ大作 “The Stage” のあと、パンデミックで深い実存的危機を経験したフロントマンは、”人間の完全な経験” について思いを巡らせはじめました。
「AIのオーバーロードの可能性について語るよりも、ずっとエモーショナルなレコードだよ。いつか必ず起こるであろう “自分が存在しない世界” について考え始めると、その衝撃が心に響いて、フリーズするんだよね」
今作はより心に響く内省的な作品だと、Synyster も同意します。
「実存主義。この言葉を知っている人も知らない人も、みんなそれを経験している。ある時点になると、”人はみんな死ぬんだな…待てよ…みんな死ぬのか!” って思うでしょ。そして、子供ができて、”子供もいつか死ぬんだ…” と思う。そして、それはあまりにショッキングな事実だ。人生で感じる “平凡” は、実は人生の報酬なんだよな。子供たちと映画鑑賞を楽しんだり、練習に連れて行ったり、感謝祭に両親を訪ねたり。めんどくさくてつまらないことが実は、人生をより楽しいものにするための鍵になる。だって、長生きすれば、愛する人を全員失うか、自分が死ぬか、どちらかになるからね。その覚悟が必要だし、その意味を知る必要がある」

Shadows は、このアルバムの実存的な歌詞のテーマを十分に生かすために、5-MeO-DMT(ガマの毒として知られる)というサイケデリックドラッグに手を出しました。その高揚感は、信じられないほど洞察力に富ませ、目を見開かせるものでしたが、自我を破壊するような体験は、彼を精神的な危機に陥れることにもなりました。
「あの体験は、俺が必要としていた “転機” だった。だけどおかげで、6~8ヶ月間、実存的な危機に陥ったんだ。家から出られず、スポーツもできず、ジムにも行けず、何もできない、今までで一番深い鬱状態になったよ」
フロントマンはそこから、重要な意味を持つ啓示を受けました。
「俺たちは短い間しか生きられないんだ。だから、大胆に音楽を作らなきゃ!俺たちは、人生においても、芸術においても、映画においても、本当に大胆な瞬間を探し求めていたんだよ。究極的には、人生に目的なんてない。そのことに気づけば、あとは好きなことをすればいい。すべての扉を開けたようなものだよ。道徳は崇高な存在から与えられるものじゃない。人は本来、善良な存在で、何が正しくて何が間違っているのか、誰かに教えてもらう必要はないんだよ」
Synyster は、良い曲ばかりを集めたアルバムは地球上に存在しないと考えています。彼のお気に入りのレコードでさえ、”完璧なものではない” と。その理由はインストゥルメンタル・トラックが含まれているから。
「インストは、気に入りのアルバムをAプラスからBにする。俺はいつも完璧なレコードを書きたいと思っていたんだ。4,000万枚売れるようなレコードではなく、2、3年後に振り返って、”無駄な脂肪がある” と言われないようなレコードをね。インストは脂肪だよ。だから、”The Stage” の15分のほとんどインストな “Exist” にもボーカルパートがあるんだ!」

ただ皮肉にも、A7Xのニューアルバムにはインストゥルメンタル・トラックが収録されています。4分半の見事なエンディング・タイトル・トラックで、Synyster は武器のギター・アックスではなく、ピアノでその音楽的才能を披露しています。彼はクラシック音楽の教育を受けていないため、1日2時間以上練習し、数年かけてこれを完成させました。それだけでも大変なことですが、そこにはさらに複雑な問題がありました。Synyster は自分のピアノでしか演奏ができなかったので、プロデューサーのジョー・バレッシが彼の家に来て、そのピアノを録音するためのスタジオを作らなければならなかったのです。Shadows は、なぜ A7X が7年間もアルバムの間隔を空けなければならなかったのか伝わるだろ?と笑います。
「あれは、Synyster が長男の出産の影響で MIDI(プログラム)で書いていた時だから、10年前、ほぼ11年前だ。そして、彼は俺と妻にそのデモを送ってくれたんだ。毎晩、ヘッドフォンで MIDI バージョンを聴いていたよ。このレコードはとても重く、感情的で、最後の方は、ジャック・ニコルソンの “シャイニング” を想像していたね。最後のシーンを思い浮かべながら、このシンプルなピアノ、つまり生のむき出しのピアノを聴いたんだ。そして、この曲をレコードの最後に入れる必要があると Synyster を説得したんだ」
Synyster は Shadows の気持ちを受け止めました。
「とても光栄に思うと同時に、とても心配になったよ!最近はあまり恥ずかしさを感じないだけど(笑)、これはさすがに “俺を見て” という感じだから、ちょっと恥ずかしかったな。自分が書いて弾いたクソみたいな蛇行したピアノ曲を AVENGED SEVENFOLD のレコードに入れるというサポートがあったことに、とても感謝しているんだ。つまり、これ以上の友人、これ以上のバンドメイトを求めることができるだろうか?そういうサポートがあることにどれだけ感謝しているか、言葉にできないよ。だから、このアルバムは完璧じゃない。でも、俺はそれを冷静に受け止めているし、心から誇りに思っている」

バンドが “Life Is But A Dream…” が “完璧” でないことを指摘する理由は他にもあります。例えば、Shadows がアルバムの中で最も感動的なリサイタルを披露する壮大な “Cosmic”。
「あれは俺の最高のボーカル・パフォーマンスではない。でも、リアルに感じられるだろ?こういう作品を作る上で、それは重要な側面だと思うんだ。完璧でなければならないとか、パワフルでなければならないとか、そういう昔の、昔の、昔の作品とは全く違う哲学があるんだ。完璧ではない真のパフォーマンスをすることの方が、長期的には愛着が湧くし、クールだと思うんだ。俺は今、完璧さがまったく気にならない場所にいて、それがとても気に入っている。技術的に優れているかもしれない完璧なテイクよりも、今あるものを映し出せたらなって」
Synyster にバンドメイトの “リアル” なボーカルについて尋ねると、彼は文字通り鳥肌が立つような表情を見せます。
「彼の歌唱は、とても信じられるものだ。そして、彼の歌詞はとてもフリーキーだ。このレコードで彼が言っていること全てに感動したんだ。彼が触れている様々な事柄は、すべて心と魂から伝わってくるものだ。ある意味、昔の彼のような音にはならないように意識的に努力した部分もある。あの時代に入り込んでしまい、自分たちがどこから来たのかを思い知らされるような気がするからね。俺たちは、この作品を自分たちのものにして、一から作り直したいと思っていたんだ」
しかし、このバンドのルーツが無視されているわけではありません。実際、”Life Is But A Dream…” は、パンク、メタル、フラメンコ、スラッシュ、ハードコアの融合である “Game Over” で幕を開けるのですから。しかし Shadows は、次の50分間も同じことが続くとは限らないと嘯きます。
「紆余曲折の末に完成した作品だ。俺らが影響を受けたのは、アビーロードみたいなもので、途中まではビートルズっぽいんだけど、そこからまたカオスに追い込まれる。そこが俺らのマインドセットだった。騙したわけじゃないよ (笑)!いかに人生が短く速いものなのかを示したかった。ある日、瞬きをしたら、80歳の死に際で、”どうしてこうなった?自分が望んでいたことができたのだろうか?” ってね。

アルベール・カミュの1942年の小説 “異邦人” やアウトサイダー・アーティストのウェス・ラングの作品にもインスパイアされています。
「”Mattel” のコンセプトは、マッシュルームを少しやって、犬を散歩させていたときに思いついたんだ。”他の国ではそれが普通なのかどうかわからないが、南カリフォルニアでは水を節約するためにみんなフェイクグラスを使う。家は完璧に見えるけど、外にいる人たちはまるでトゥルーマン・ショーみたいだ」
インダストリアルなリフから、オーケストラやオペラのような要素、そして曲の後半にあるプログレッシブなソロのブレイクまで、”Nobody” は生まれ変わった A7X を象徴するような楽曲。
「俺にとって、”Nobody” はアルバムのちょうど中心に位置していると思う。歌詞の中にとても深みがある。この曲は、俺たちがどんなコンセプトで、どんな精神状態から作ったかを完全に表現しているね。
俺たちはこの惑星に生まれ、成功とはお金であり、成功とは素敵なもの、金の鎖などであると教えられてきたということがよく描かれている。そして現実は、”もっと勉強を、もっと仕事を、もっと金を!” みたいな苦行の中に置かれる。家族や教師は、”あなたは素晴らしい!” と言い続ける。そしてある日、目が覚めると56歳で、”俺は人生をかけて働いてきた…それで?” と思うんだ。
つまり、人生は旅なんだ。目的地なんてないんだよ。”We Love You” は、俺たちが生きているこの世界の窮屈さ、何を成功と受け止め、何を勝者と受け止めるかを、とても皮肉に表現しているね。”Nobody” はリフがとてもキラーで、まるで虫のよう頭に穴を開けると思うんだ。プログレを意識することなく、とても面白いアレンジになっているし、シリアスな雰囲気が漂っている。意味のある、重みのあるものを提供しようとしているんだ。とても重みがあるんだよ」

アルバムのフィナーレを飾る “GOD” の3曲は、Shadows にとっても “攻め” た組曲です。
「”Life Is but a Dream…” は、”G”, “(O)rdinary”, “(D)eath” の3曲からなるめくるめく組曲で締めくくられる。これは A7X の全作品の中で最も野心的だと言えるかもしれない。このアルバムのジャンルを超えた折衷主義を象徴するというかね。この3曲は1つの曲として作ったんだけど、横になって続けてボリュームを下げて聴いていたら、突然心臓発作を起こしそうになったんだ。OK、これはあまりに変だと思った。STEELY DAN と Zappa から、Stevie Wonderと DAFT PUNK, そしてシナトラへあっという間に変わってしまう。自分の音楽で自分をビビらせたことは今までなかったんだ」
完璧ではないと言いながらも、”Life Is But A Dream…” のすべては100%意図的に作られています。信じられないほどの緻密さは、今も昔もA7X のやり方であり、特に Synyster はそれを気に入っています。
「俺は世界一偉大なソングライターではないけれど、自分には容赦がないんだ。心の底から好きで、アレンジして、作るのが待ちきれないようなものに出くわすまでは止めないよ。そしてそれは、膨大な時間と、エネルギーと、執念と、少しでもアレルギーのあるものに対するクソみたいな態度が必要なんだ!今日ここに座って、純粋に “自分たちが作ったアートが大好きだ” と言えるくらいにはね。ロックは少し型にはまった音楽になってしまったと思う。このアルバムが、その限界を超えるためのインスピレーションになればいいなと思っているんだ」
LINKIN PARK の Mike Shinoda もこの壮大でガッツ溢れる作品を気に入っていると Shadows は興奮します。
「”4歳児がキャンバスに絵の具を投げつけているのとは違うんだ。君らは何をやっているのか理解しているんだから。君らは今まで美しい絵を描いてきたけど、今、キャンバスに絵を描くと、それは芸術になっている” と言ってくれた。つまり、音楽のルールを知りながらすべてのルールを破ったから、より意味があるんだとね」

Mike の言葉はまったくもって的確です。8枚のアルバムをリリースした AVENGED SEVENFOLD。Synyster は同じメタル作品を何度も何度も焼き直すよりも、芸術を追求することを望み、この場所にたどり着いたことに喜びを感じています。
「俺たちはこんなにも奇抜でイカれたアイディアを持っているのに、”なぁ、Johnny、これを演奏してくれないか?” と言えるんだから、このバンドは本当にすごいよ。Zacky Vengeance のような男のところに行って “クレイジーなコードなら何がある?” あるいは Brooks のところに行って “モダンなグルーヴのザッパが必要なんだが、どうだ? DAFT PUNK が欲しいんだ。初期の METALLICA が欲しい” とかね。パートをこなすだけでなく、革新的で新鮮な空気を吹き込むことができる男たちがいるんだ」
しかし、ファンのすべてが Mike Shinoda の波長に合わせられるというわけではありません。実際、Twitter で定期的にファンと交流している Shadows は、SNS の陰鬱な面を見るのに慣れていて、時々投げかけられるくだらない言葉を受け流すことができます。
「コメント欄で、”こいつら、もう曲の作り方を知らないんだな” とかね。”Bat Country みたいな曲をもっと作ってほしい” とかもある。あるいは、”彼らは(故ドラマーの)The Rev と一緒に死んでしまった” と言う人さえいる。そして、俺が書いた曲の数々まで、The Rev が作ったことになる。それは誰かが死んだときに起こることで、 “彼がこれとこれとこれを書いたから…” と言われて、”いや、本当は俺が書いたんだけど、まあいいか” みたいなことになる。でも、Rev はこのアルバムに興奮すると思うよ。ヤツはいつも新しいことに挑戦する先導者だったから。”Mattel” には Rev が昔書いたパートも使われていれる。だから、この先、新しいことをやっていく中で、ネガティブなものばかりが目につくようになることはないだろう」

つまり、Synyster に言わせれば、A7X は自分たちや自分たちのヒーローを “再利用” することをもうやめたのです。
「新しい領域、新しいアプローチ、新しいテクニックを探求する時期だったんだ。バンドの誰もアンプに繋いで、音を大きくして、俺たちのリフ、PANTERA のリフ、METALLICA のリフの焼き直しを書きたくなかったんだ。でも、だからといって、ギター中心であってはいけないというわけではないよ。今回、オーケストラ以外のもの、シンセパートまで全部ギターなんだ」
Shadows はまた、バンドの特定の時代のファンが新曲にどう反応するか、様々なアルバムへの愛着が今のA7X の活動を受け入れるか拒むかをよく考えています。例えば、2003年の “Waking The Fallen” や2005年の “City Of Evil” にしか興味がない場合、それは場合によっては “妨げ” になるのではないかと彼は考えています。
「俺らのやることはすべてメイクアップとデュエル・ギターとスピード・ドラムだと思っている人たちがいるけれど、俺たちは12年間それをやめているよね? だけど、人々はまだ俺たちをその箱に入れたがる!
もちろん、純粋なメタルシーンは常に存在すると思う。常に脈を打っている。ただ、革新性はないと思うし、ファンが革新的なものに対してオープンマインドでいられる能力もないと思う。素晴らしいソングライティングも少し失われてしまったように思うね。同じようなアルバムを出すだけというのは、ファンに対して失礼だと思う。再利用というか。レコードを聴き、AIを装着して “こんなレコードが欲しい” と言えば、それはおそらく作ることができる。
だから、バンドが同じものを何度も提供しようとするのは罪だよ。彼らは創造的でないだけでなく、リスナーを馬鹿にしているのだから。レコードを作らなければならないからアルバムを作っているだけかもしれないね。俺はバンドが “言いたいことがあるとき” にアルバムをリリースすることを望んでいる。メタル以外にも世の中には素晴らしいアートがたくさんあって、素晴らしいポップス、素晴らしいヒップホップ、素晴らしいR&B、そして本当にエキセントリックなことをやっているアーティストもいるんだよ」

ただし、このアルバムの背景、人生の壮大な計画の中で、そんなことはどうでもいいということを、Shadows は理解しています。コメント欄、ソーシャルメディア、速いペースで進む世界…しかし M.Shadows はそれよりももっと大きなことを抱えています。
「今の世の中、俺は不安でいっぱいで、注目を浴びることができず、何らかの牽引力を得ることができないかもしれない。でも俺はそれを美しいと思うし、選択肢がたくさんあることを面白いと思う。だから、自分のメッセージを言って、アートを出すだけでいい。アーティストが自分のやりたいことをやり続け、より深く掘り下げることができるのは、自由なことだよ。なぜなら、今は80年代でも90年代でも2000年初頭でもないのだから、自分が思っていたようなフィードバックやトラクションを得ることはできないよ。大丈夫」
しかし、最終的には、”Life Is But A Dream…” は、意図した場所に届くはずです。
「”メイクアップとデュエルギター” の枠に入れられたら、その枠が好きでない人たちがこのアルバムを気に入るチャンスがなくなってしまう。昔の作品を求めている人も大勢いる。で、どうするんだ?(笑) また昔のような曲を書くのか?それとも、他の人たちに聴いてくれるように頼むのか?結局、何もすることはできないんだ。だけど、ただ存在していれば、きっとみんな見つけてくれる」

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参考文献: KERRANG! Avenged Sevenfold: “Just say your message and put the art out there. Artists should do what they want and explore deeper rabbit-holes”

REVOLVER: 5 THINGS WE LEARNED FROM OUR AVENGED SEVENFOLD INTERVIEW

Avenged Sevenfold’s Synyster Gates Explains One Thing That’s Wrong With Rock Music Today

M. SHADOWS: AVENGED SEVENFOLD Was Able To ‘Break All The Rules’ Of Music On ‘Life Is But A Dream…’ Album