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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SVALBARD : IT’S HARD TO HAVE HOPE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SERENA CHERRY OF SVALBARD !!

Definitely, It’s Hard To Have Hope Now, But Svalbard’s Protest Music Represents a Turning Point In This Dark World !!

DISC REVIEW “IT’S HARD TO HAVE HOPE”

越流するエモーションをプロテストミュージックへと昇華し、英国ブリストルから咆哮を貫く至宝 SVALBARD。熾烈なメタル/ハードコアにポストロックの叙情と風光、ポストメタルの思索と旅路を織り込みさらなる多様化の波動を導いた新作 “It’s Hard to Have Hope” はシーンの革新であり、同時に閉塞した世界が渇望する変化への希望です。
2015年にリリースしたデビューフル “One Day All This Will End” でアグレッション極まるメタル/ハードコアに仄かなアトモスフィアを帯同したバンドは、新作までの道程で困難な時を経験します。Serena がインタビューで語ってくれた通り、メンバー間の恋愛が終焉を迎え、それに伴う心身の病、さらにはベーシストの離脱と、一時は同じ部屋で過ごすことですら苦痛を伴うほどにバンドの状況は崩壊していたのです。
しかし、メンバーのバンドに対する強い愛情は見事に SVALBARD を死の淵から救いました。見方を変えればバンドには、希望を持つことすら困難な世界に対して果たすべき重要な仕事が残っていたとも言えるでしょう。
確かに “It’s Hard to Have Hope” は怒れるアルバムで、中絶、性的暴力、リベンジポルノ、インターンシップの無賃雇用など不条理でダークな社会問題をテーマとして扱っています。
さらには、「このアルバムは、ステージに女の子が立つことにネガティブなコメントを寄せる人たちに対する私からの返答よ。”女性をメタルから追い出せ!” と言うような人たち、コンサートで女性にハラスメント行為を行う人たち。これは彼らに対する私からの恐れなき怒りの返答なの。」と語るように、女性フロントマンとして Serena が長年メタルシーンで苦しんできたハラスメント行為の数々も、作品の持つ怒りの温度を “フェミニストのメタルアルバム” の名の下に上昇させていることは明らかです。
とはいえ、この類稀なる感情と表情の結晶が、唯一怒りにのみ根ざすわけではないこともまた事実でしょう。実際、Serena はこの作品の目的が “人々にこういった社会的不公平を伝えるだけではなく、なぜそういった問題が起き続けるのか疑問を投げかけることだった” と語っています。「誰が正しいのか互いに主張し合うのを止めてこう尋ねるの。一緒に前進するために何ができるだろう?より良き変化のためお互い助け合えないだろうか?とね。」とも。
そうして世界のターニングポイントとなるべくして示現した “It’s Hard to Have Hope” に、一筋の光明にも思える尊きアトモスフィア、荘厳なる音の風景がより深く織り込まれていることはむしろ当然の進化だと言えるでしょう。
勇敢にリベンジポルノの卑劣に怒り、勇敢にハードコア、ブラックメタル、そしてポストロックをブレンドした “Revenge Porn” はまさにその光と陰を見事に体現した楽曲です。バンドが近年注目されるネオクラストの領域を通過していることは明らかです。
静謐なイントロダクションから一転、バンドは正々堂々とハードコアの強さで怒りの鉄槌を下していきます。突如降臨する Serena の慈愛に満ちた歌声はさながら蜘蛛の糸でしょうか。CULT OF LUNA や MY BLOODY VALENTINE のイメージこそ深化の証。そうしてポストブラックの激しさと光明を背負った彼女は悲痛な叫びを投げかけます。「いったい誰が女性を守ってくれるの?」
一方で、もちろんよりストレートな激情も彼らの魅力。何より、無給で酷使されるインターンの憤怒を代弁するオープナー “Unpaid Intern” では、Serena と Liam のボーカルデュエルが牙の鋭さで迫り、沸騰する千変万化なギターリフ、ブラッケンドのリズムセクションを従えてポストハードコアとブラックゲイズの境界を恍惚と共に熔化させていくのですから。
とはいえ、やはりアルバムの肝は Serena が創出する神々しきアトモスフィアと激情の稀有なるコントラストです。アルバムを締めくくるエピック “Try Not To Die Until You’re Dead” でバンドは再びその陰影を鮮明に浮き上がらせた後、美しきインストゥルメンタルのブックエンド “Lorek” で負の感情のみを綺麗に洗い流し、リスナーに思考の為の優しき残余を与えました。
今回弊誌では、ボーカル/ギターのフロントウーマン Serena Cherry にインタビューを行うことが出来ました。メッセージとエモーション、そして音楽がこれほどまでに融解しシンクロする作品はまさしく珠玉。そしてぜひ真摯な彼女の言葉に耳を傾けてください。「感情こそが私たちにとって最も重要なものだから。」リリースは MØL と同じく Holy Roar Records から。どうぞ!!

SVALBARD “IT’S HARD TO HAVE HOPE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MAGNUM : LOST ON THE ROAD TO ETERNITY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BOB CATLEY OF MAGNUM !!

With “Lost On The Road To Eternity”, Magnum Have Reached The Landmark Of 20 Albums And 40 Years Career, But They Are Still Just Moving On !!

DISC REVIEW “LOST ON THE ROAD TO ETERNITY”

40年のキャリアが純化した彫琢。英国の伝統と幽玄を織り込んだ匠のシグニチャーサウンドは、記念すべき20枚目のアルバム “Lost on the Road to Eternity” でさらなる高みからリスナーの迷霧を晴らす尊き光明となるはずです。
よりワイドな音色を有する鍵盤の名手 Mark Stanway が加入し、初めて Rodney Matthews がアートワークを手がけた叙事詩 “Chase the Dragon” こそが全ての源流でした。生まれながらに感傷と情緒をその喉へと宿す唯一無二の歌聖 Bob Catley。そして Bob の歌唱を完璧なまでに駆使するギタリスト/コンポーザー Tony Clarkin。翼を得た MAGNUM のコア2人は、80年代を自在に羽ばたきました。
プログの知性とハードロックの鼓動を見事に融合し、フォークとファンタジーのエッセンスを織り込んだ浪漫の頂 “On A Storytellers Night”。Polydor へと移籍を果たしメインストリーム AOR への洗練された扉を開いた “Wings of Heaven”。「新しくエキサイティングな音楽を見つけていくことが、僕たちの存在を異なるものにしていたんだろうな。」と Bob が語る通り、難局の90年代に投下したブルージーな実験 “Rock Art” まで、バンドのクリエイティブな冒険は旋律の魔法を誘いながら濃密な景色を残していったのです。
Bob が「当時はメンバーの何人かが難しい時間を過ごしていたんだ。だから正しいムードを得るために常に戦っていなければならなかったんだよ。」と回顧するように、バンドは時代の潮流にも翻弄されながら95年に解散し、Bob, Tony, Al の HARD RAIN、さらに TEN のメンバーを起用した荘厳なる Bob のソロプロジェクトで雌伏の時を過ごします。
そうして2001年に Tony が THUNDER の Harry James をリクルートし MAGNUM をリフォームすると、彼らはその音の歴史を誇り高く掲げながらも、よりセールスやプレッシャーから開放されて、ただ偉大な作品を製作することのみへと没頭することになるのです。
バンド史上最長、62分のランニングタイムを誇る最新作 “Lost On The Road To Eternity” は各時代のアイコニックなマグナムサウンドを巧みに分配しながら、枯れない泉のごときメロディーの清流を至高のデザインへと注入し何度目かの最高到達点へと導かれています。
アルバムオープナー “Peaches and Cream” は、初期のオーガニックなクラッシックロックをハイクオリティーなプロダクションとアップリフティングなコーラスワークで現代に蘇らせたベテランシェフのスペシャリテ。ヒロイックな8分のエピック “Welcome To Cosmic Cabaret” にも言えますが、さらに深みを増したボーカルの陰影とトーンコントロールの妙は彼らが残り少ない名匠の一群であることを確かに証明していますね。
AVANTASIA で Bob と共演している Tobias Sammet がゲスト参加を果たしたタイトルトラック “Lost On The Road To Eternity” は、オーケストレーションやストリングスを大胆に使用して “On A Storytellers Night” からのロドニーマシューズサーガの続編を生き生きと描きます。
一方で、ファンタジーの世界から一転するポップな “Without Love” ももちろん彼らの得がたき魅力の一つでしょう。今年、JUDAS PRIEST が “Firepower” で、SAXON が “Thunderbolt” で初期のハードロックテイストをキャッチーにリヴァイブさせ英国の矜持を雄々しく取り戻していますが、”Without Love” を聴けば彼らもまたロックにフックを回帰させるガーディアンであることが伝わるはずです。続く “Tell Me What You’ve Got To Say” にも言えますが、バンドがかつて天空へと広げた翼はよりしなやかに、よりポップにリスナーの心を包みこむのです。
アルバムは “Chase the Dragon” のプログレッシブな世界観と知性を反映した “King of the World” でその幕を閉じました。Mark, Harry を失おうとも、依然として MAGNUM のロマンティックなファンタジーが悠久であることを示唆するエナジーに満ち溢れながら。
今回、弊誌では巨匠 Bob Catley にインタビューを行うことが出来ました。「バンドがリスナーの興味を惹く楽曲を作り続けられる限り、リスナーが聴きたいと想い続けてくれる限り僕たちは続けて行くんだよ。」どうぞ!!

MAGNUM “LOST ON THE ROAD TO ETERNITY” : 9.8/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE SEA WITHIN : THE SEA WITHIN】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JONAS REINGOLD OF THE SEA WITHIN !!

New Art Rock Collective, The Sea Within Goes To Fantastic Maiden Voyage, With Flexible And Diverse Debut Record “The Sea Within” !!

DISC REVIEW “THE SEA WITHIN”

キャプテン Roine Stolt のプログレッシブな航海はスーパーグループ THE SEA WITHIN と共に新たなアドベンチャーを創成します。荒波や暴風にも屈しない最上級の乗組員を揃えたフラッグシップは、フレキシブルな風を受け未踏の音景へと舵を切るのです。
実際、伝説のプログ船長 Roine のもとへと集結したのはマスタークラスの名だたる船乗りばかり。THE FLOWER KINGS で補佐官を務めるシーンきってのベースヒーロー Jonas Reingold。その TFK にもかつて在籍したプログメタルの至宝、PAIN OF SALVATION のマスターマインド Daniel Gildenlöw。RENAISSANCE, YES の寵児、キーボーディスト Tom Brislin。さらに Steven Wilson, THE ARISTOCRATS などで知られるトップドラマー Marco Minnemann を招聘したキャプテンは、盤石の布陣にもかかわらずゲストのスカウトにも余念がありませんでした。
Jonas のインタビューにもある通り、 レコーディングのみの参加となる Daniel の影武者には FLYING COLORS の Casey McPherson を配置。加えて YES の Jon Anderson、DREAM THEATER の Jordan Rudess、Steve Hackett Band の Rob Townsend までをも乗船させた まさに “All-Aboard” なラインナップは、出航と同時に世界中のプログファンからヨーソローな期待と注目を集めたのです。
ボーナストラックまで含めると77分にも及ぶ長駆の処女航海 “The Sea Within” はそしてその遥かなる熱量に充分応えた雄飛なる冒険となりました。一つキーワードとして挙げるべきは “フレキシブル” というアイデアなのかも知れませんね。
事実、この豪華な母船の船員に選ばれたのは全てがユーティリティーなプレイヤーだったのですから。「このバンドのメンバーは全員が歌えるし、複数の楽器をこなすことが出来るんだ。」インタビューで語ってくれた通り、ボーカル、ギター、キーボードをこなす船長 Roine を筆頭にフレキシブルな才能を誇るバンドの航路は、全員がコンポーザーという奇跡まで備えながら鮮やかな多様性に満ちています。中でもドラマー Marco Minnemann のパーカッションはもちろん、ギター、ボーカルまでこなすマルチな才能はこの偉大な航海の大きな推進力となっていますね。
THE FLOWER KINGS とは異なる進路を目指すというキャプテン Stolt の野望は、オープナー “Ashes of Dawn” を聴けば伝わるでしょう。アルバムで最もダーク&ヘヴィー、Roine と Daniel の歌声導く苦悩とアグレッションが印象的な楽曲は、世界経済のカオスをテーマに据えています。
故に、Roine と Jonas が TFK のファンタジックな殻を破り、深海のアビスをリアルに映し出すかのようなサウンドを選択したことも驚きではないでしょう。KING CRIMSON の “Red” にもシンクロするこのインテリジェントな音の幽暗は、Tom のサクスフォンを得てより深部までその混沌を浸透させるのです。
その Tom がイニシアチブを取った物憂げでコーラスも鮮やかなクラッシックアート “They Know My Name”、KARMAKANIC を想起させる Jonas の幻想的でシネマティックな作曲術が Daniel の PAIN OF SALVATION とは一味違うオーガニックな声色を引き出した “The Void”。そして辿り着く “An Eye for an Eye for an Eye” はアルバムのハイライトと言えるかも知れませんね。
ラインナップの中で最もロッカーの佇まいを備えた Marco が作曲を手がけたことにも頷ける、ファストでアグレッシブな楽曲は THIN LIZZY とプログがモダンな風を受けてハイブリッドを果たしたようなユニークでしかしフックに満ちたキラーチューン。潮目の変化はフォービートとジャズロックの海風を運び華麗なソロワークが美しく華を添える中、楽曲は再びメロディックなブリッジへと回帰しロックのエナジーを胸いっぱいに吸い込みながら大円団を迎えるのです。
そうしてその多様性の濁流は、5人の主要メンバーが共作した “Goodbye” へと流れ込んでいきます。そこはポップとエモーションが乱れ咲く桃源郷。アルバムには確かにキャッチーという名の子午線が貫かれていますが、7/8拍子のファンキーなリズムを起点に光の放射を放つ素晴らしくリリカルな楽曲は飛び抜けてプログポップの期待感に満ち溢れているのです。
Jon Anderson も参加してオールスターキャストで贈る14分のプログ劇場 “Broken Cord”。キャプテン Stolt は “Sgt. Pepper” から YES までプログロックのイデアを体現したエピックを THE FLOWER KINGS のファンへとしっかり捧げてその旅路を終えるのです。
今回弊誌では、ベースヒーロー Jonas Reingold にインタビューを行うことが出来ました。プログ、ポップ、ジャズ、アートロック、クラッシックロック、そしてシネマティックな離島を繋ぐフレキシブルで魅惑的な航海。エースを揃えた SONS OF APOLLO が正統的なスーパーグループなら、ユーティリティーの極み THE SEA WITHIN もまた異なるスーパーグループのあり方でしょう。どうぞ!!

THE SEA WITHIN “THE SEA WITHIN” : 9.8/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【GHOST : PREQUELLE】


COVER STORY : GHOST BEHIND “PREQUELLE”

Tobias Forge Returns, Not As New Papa, But As Symbol Of Pop & Proggy Evolved-Occult Metal, Cardinal Copia!

Story Behind Ghost : From Tobias Forge To Papa Emeritus & Cardinal Copia

GHOST のボーカリスト、ソングライター Tobias Forge は Papa Emeritus I, II, III としてこれまで3枚のアルバムを製作しメタル闇教皇としての地位を確固たるものとしています。ステージではスカルのメイクアップを施し、ルシファーにゾンビの女王、処女の血を浴びたハンガリーの伯爵夫人まで奇々怪界な登場人物と共に異能のオカルトメタルを提示する怪人は、今眩くも華々しいスポットライトをその身に浴びているのです。
しかしその功績に反して、Tobias の実態は深い霧の中にありました。GHOST の発足以来、Tobias は Papa の匿名性を保つためインタビューを拒否し、スポットライトを避け、典型的なロックスターの姿とは確実に距離を置いて来たからです。
Tobias の匿名性が脅かされたのは、解雇した元バンドメンバー Nameless Ghoul 達の反乱がきっかけでした。金銭面、クレジット関連の闘争で司法の場に引きずり出された Papa の実名 “Tobias Forge” は、白日の下に晒されスポットライトを浴びることを余儀なくされたのです。
「一度スポットライトに晒されると、ライトが自分を追わないことを願うか、何かを語るしかない。」と嘯く Tobias。Nameless Ghoul の讒言によりファンの一部がその作曲能力を疑う中、新たなキャストと共に Cardinal Copia、”Copia 枢機卿” として GHOST を “リモデル” した Tobias は、こともなげに新経典、傑作 “Prequelle” を突きつけます。「変わったのは Papa Emeritus から Cardinal Copia への名前だけさ。」と皮肉を込めながら。

GHOST は後にデビュー作 “Opus Eponymous” に収録される “Stand by Him” で2006年に産声を上げました。友人 Gustaf Lindström とレコーディングを行った楽曲は、すでに MERCYFUL FATE のメタリックなエッジと BLUE OYSTER CULT のノスタルジックなメロディーを包含したオカルトメタルの雛形だったと言えます。
しかし、そのサタニックなテーマとヴィンテージ映画のムードに対して、Tobias の少年のようなルックスはミスマッチでした。一般的なロックバンドとは異なる、匿名のシアターバンド “GHOST” というアイデアはそこが出発点だったのかも知れませんね。
驚くべきことに、Tobias は元々シンガーを志向していたわけではありません。Keith Richards と Slash に憧れていたコンポーザーは当初、クールに煙草を燻らすギタリストの地位に収まることを想定していたのです。しかし、Messiah Marcolin, Mats Levén, JB 等ことごとく理想のシンガーに断られた Tobias は自らシンガーを務めることを余儀なくされました。もちろん、後にその選択こそが大成功を引き寄せる訳で、数奇なる運命を感じざるを得ませんね。

では、双子の父親で一般的な社会生活を営む29歳の青年が BLUE OYSTER CULT, PENTAGRAM, SAINT VITIUS, CANDLEMASS, DEMON, ANGEL WITCH といったサタニックドゥーム、メロディーを散りばめた仄暗いロックの世界に身を投じるきっかけは何だったのでしょう。
Linköping にある16世紀に建てられた教会がサタンに身を委ねる一つの契機であったと Tobias は振り返っています。奇妙なペイントとステンドグラス、魔法のように美しく恐ろしい場所。
同時に厳格で意地の悪い義母や教師も彼を悪魔の世界へと向かわせました。KISS の “Love Gun” や RAINBOW を教えてくれた兄 Sebastian だけが唯一の救いでしたが、彼が家を離れると少年 Tobias は益々ファンタジーの世界へとのめり込んでいきました。
とはいえ、SF小説や映画、ストーンズのアルバム、Nikki Sixx と “Shout at the Devil” など、81年生まれの Tobias を悪魔の世界へ後押ししたピースの数々は、依然として年齢の離れた兄の影響下にあったのです。故に、GHOST のデモをネット上にポストしたその日に Sebastian が亡くなってしまったことは、人生観の決め手となったに違いありません。エネルギーのトレードオフ。悪魔は何かを得るために必ず何かを犠牲にするのです。

MY SPACE からグラミーまで、GHOST は決して順風満帆に辿り着いたわけではありません。特にメディアや評論家による “誇大広告” に晒されたアーティストは予定より長い道のりを歩まされ、時にドロップアウトしてしまうことさえ少なくないのですから。Rise Above Records からリリースしたデビュー作、70年代とサタニックなテーマが牽引するポップメタル “Opus Eponymous” は確かに大きな話題を呼びましたが、北米ツアーは順調とは言い難く、よりアーティスティックなセカンドアルバム “Infestissumam” は商業的に奮いませんでした。
“Opus Eponymous” の独創性を押し広げた “Meliora” は潮目を完全に変えた作品だと言えるでしょう。重厚で斬新な “Circle”、冒涜的なバラード “He Is” はスペシャルで、そこからウルトラキャッチーなシングル、YouTube 総再生回数2400万超えのモンスター “Square Hammer” を得たバンドは加速してチャートの壁を突破していったのです。

参考文献:REVOLVER MAGAZINE (2018) “GHOST: THE TRUE STORY OF DEATH, RELIGION AND ROCK & ROLL BEHIND METAL’S STRANGEST BAND”

ビルボード Top200初登場3位という爆発的な成果と共に、シーンへ大きなうねりをもたらした最新作 “Prequelle”。暴かれた匿名性を逆手にとってスポットライトの中央へ躍り出る決意を果たした Tobias は、明らかに以前よりもしたたかです。
もちろん、彼は自らが敬愛する KISS がメイクと共にその魔法を落としてしまったことを知っています。故に、シーンの潮流を GHOST の個性へと鮮やかに昇華するその手法は言葉を失うほどに見事でした。
キーワードは、多様性とポップ。作品の “匿名性” を紐解いていきましょう。

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MØL : JORD】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH FREDERIK LIPPERT OF MØL !!

Denmark Based Five Piece Blackgaze Outfit, MØL Re-Mixes Agression And Beauty With Their Widscreen Debut Record “Jord” !!

DISC REVIEW “JORD”

興隆するデンマーク黄金世代の鋭鋒。常闇で光芒に焦がれしブラックゲイズの申し蛾 MØL がリリースした透徹のデビュー作 “Jord” は、ジャンルの虫籠を稀有なる羽音で切り裂きます。
前身となる ANTENNAS TO NOWHERE で、SLOWDIVE や MY BLOODY VALENTINE からインスピレーションを得たシューゲイズ/ドリームポップサウンドを追求していた Nicolai Hansen と Ken Klejs が MØL を立ち上げたのは2012年のことでした。
以来、セレスティアルな空気をエクストリームの白刃で裁断し巻き起こすバンドの “嵐” は、DEAFHEAVEN, GHOST BATH, OATHBREAKER, heaven in her arms 等と共にブラックゲイズの地図に新風を吹き込んでいます。
MØL がこの新興サブジャンルでまず傑出している点はコンパクトなバランス感覚から際立つコントラストかもしれませんね。エセリアルなシューゲイズサウンドとブラッケンドのアグレッションが双璧を成すジャンルにおいて、MØL ほどその両翼を巧みに美しく羽ばたかせるバンドはいないでしょう。
どちらか一方にに重心を振り、ともすれば片翼をほとんど犠牲にするバンドも多い中、8曲42分というコンパクトなデザインの中で光と闇を鮮明に浮き上がらせる彼らの手法は際立っています。
ツインピークスと Angelo Badalamenti のメランコリー、サスペンスを受け継ぐイントロダクションが印象的なアルバムオープナー “Storm” はまさにその MØL のシグニチャーウイングを大きく広げた春の嵐。リバーブの霧が晴れるやいなや、ハイピッチのスクリームとブラックメタルのフェロシティーがリスナーの眼前に広がります。
とはいえ、バンドがメロディーを放棄することはありません。鳴り響く雷鳴と騒乱のドラムワークを上昇気流に駆け上る、トレモロのハーモニーはあまりに気高く流麗。そうして対比に根ざしたインテンシティーは、ポストロックのアンビエンスを宿すアウトロへと収束していくのです。
「アルバムのテーマは、青く回転するこの星でいかに限られた時間を過ごすかについてなんだ。死と時間に関する疑問への思考や黙想なんだよ。」とインタビューで語るように、スカンジナビアの厳しくも壮大な自然を通して生と死、時間に焦点を当てたレコードは実際テーマと音楽が見事にシンクロしているように思えます。
“Penumbra” で緩やかに刻まれるミュートを施したギターの音色は、確かに時計の針を示しつつ終着駅へのカウントダウンを隠喩しているのでしょう。
“Vakuum” と “Lambda” に纏わるコントラストはアルバムのハイライトと言えるかもしれませんね。愛する人を失うことについて書かれた “Vakuum” は、ボーカル Kim がパーソナルな領域を追求したが故にデンマーク語で歌われる楽曲。怒りの感情が支配する作品で最もアグレッシブかつファストな真空の牙は、スラッシュやブラックメタルを前面に押し出しながら、ナチュラルに荘厳なる木漏れ日を浸透させていきます。
一方で、”Lambda” は80〜90年代のメロウなシューゲイズサウンドを意図的に狙ったインストゥルメンタルソング。Kevin Shields の理想を嫋やかに楽曲へと落とし込み、儚くも幻想的、エアリーな桃源郷を具現化しているのです。バンドのルーツ、闇と光はこの場所で交差し、極上のダイナミズムを創出し、再び羽搏き飛び立ちます。
「そこからブラックメタルとシューゲイズよりも多くのジャンルを引き出したい。」と Frederik が語るように、”Virga” には GOJIRA のプログレッシブな精神が宿っていますし、アルバムを締めくくるタイトルトラック “Jord” は LAMB OF GOD の息吹を吸い込むモダンメタルとシューゲイズの壮大なる交差点です。多様性まで手に入れたスカンジナビアの夜蛾は、そうしてシーンに煌めく鱗粉を散りばめていくはずです。
今回弊誌では、ギタリスト Frederik Lippert にインタビューを行うことが出来ました。LANTLOS の “.Neon” や DEAFHEAVEN の “Sunbather” との比較は避け難いでしょうが、よりワイドスクリーンなアプローチが魅力的な快作。
ROLO TOMASSI や CONJURER も揃えるレーベル Holy Roar Records にも注目です。「現在デンマークシーンは才能と共に爆発的な進化を遂げているよ。まさにメタルの黄金世代が勃興しているのさ。」どうぞ!!

MØL “JORD” : 9.8/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SUBSIGNAL : LA MUERTA】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MARKUS STEFFEN OF SUBSIGNAL !!

German Progressive Innovator, Subsignal Walk Toward More Melodic Path And Open To New Influences With Their New Record “La Muerta” !!

DISC REVIEW “LA MUERTA”

ジャーマンプログメタルの唱道者、SIEGES EVEN の血を受け継ぐ嫋やかなる残映。SUBSIGNAL がリリースした最新作 “La Muerta” は、サンタ・ムエルテの名の下にプログシーンの信仰を集め新たな拠り所、守護者となるはずです。
「当時起こったことはとても単純で、個人的な相違だったんだ。最終的にバンドは、Arno と僕、Oliver と Alex の二つに割れてしまったんだよ。」と Markus がインタビューで語った通り、80年代から活動を続ける巨星 SIEGES EVEN が長年の内なる闘争の末2008年に解散の道を選んだニュースは、プログメタルシーンに衝撃をもたらしました。
名手 Wolfgang Zenk がフュージョンに特化した支流 7for4 へと移行し、オリジナルメンバーの Markus が復帰。Andre Matos や Jens Johansson との実験場 Looking-Glass-Self の果てに邂逅したバンド史上最高のボーカリスト Arno Menses を得た 00年代のSIEGES EVEN。
そうして2005年にリリースした8つの楽章から成る “The Art of Navigating by the Stars” が、SIEGES EVEN 独特の世界観に研ぎ澄まされたメロディーが初めて重なり、FATES WARNING の “A Pleasant Shade of Gray” にも比肩し得る壮大なマイルストーンとなった事を鑑みれば、尚更バンドの消滅がシーンにとってどれ程の損失であったか推し量れるはずです。
しかし、Arno と Markus のメロディーとプログレッシブが奏でるケミストリーの二重奏はしっかりと SUBSIGNAL の音に刻まれています。
アルバムが相応に異なる風合いを醸し出していたように、SIEGES EVEN のスピリットはまさに実験と挑戦の中にありました。故に、二人が描く新たな冒険 SUBSIGNAL のサウンドが、プログレッシブワールドのトラディショナルな壁を突き破ることは自明の理だったのかも知れませんね。
キーワードはアクセシブルとエクレクティックでしょう。実際、「Arno と僕は他の異なるジャンルにも興味を持っていてね。」「僕にとって最も重要なのはメロディーなんだ。」と Markus が語るように、遂に本格化した SUBSIGNAL の最新作 “La Muerta” には近年のモダンプログレッシブが放つ波動とシンクロする瑞々しき血潮が注ぎ込まれているのです。
バンドのデビュー作 “Beautiful & Monstrous” 収録の “The Sea” が指針となったように、SUBSIGNAL は知性の額縁とプログレッシブなキャンパスはそのままに、よりソフィスティケートされた筆を携えドラマとエモーション、時にメランコリーをカラフルな多様性と共に一つの絵画、アートとして纏め上げて来ました。
ダンサブルなイントロダクション “271 Days” に導かれ示現するアルバムオープナー “La Muerta” は、バンドのトレードマークを保ちつつ、よりアクセシブルなメインストリームの領域へと舵を切る野心のステートメントです。
Steven Wilson の “To The Bone” を核として、HAKEN, FROST*, TesseracT, iamthemorning といったコンテンポラリーなプログレッシブロースターは恐れる事なくポップを知性や複雑性、多様性と結びつけモダンプログレッシブの潮流を決定的なものとしています。タイトルトラック “La Muerta” で示されたビジョンはまさにそのうねりの中にありますね。
Markus のシグニチャーサウンドであるコード感を伴うシーケンスフレーズは RUSH や THE POLICE のレガシー。現代的な電子音とマスマティカルなリフワークの中で舞い踊る Arno のメロディーは、眠れる John Wetton の魂を呼び覚ましたかのようにポップで優美。コーラスに華開く幾重にも重なるメランコリーは、暗闇から聖人へと向けられた全ての切実な祈り、請われた赦しなのかも知れませんね。
トライバルでシンフォニックな “Every Able Hand”、Markus の主専攻クラッシックギターから広がる雄大な音景 “The Approaches”、一転ブルースやカントリーの郷愁を帯びた “When All The Trains Are Sleeping” など Markus が語る通り実にエクレクティックなレコードで、全ては “Even Though the Stars Don’t Shine” へと収束していきます。
奇しくも Wilson の最新作とリンクするニューウェーブ、シンセポップの胎動、TEARS FOR FEARS や DEPECHE MODE の息吹を胸いっぱいに吸い込んだ楽曲は、同時にリズムのトリックやシーケンシャルなフレーズが際立つプログポップの極み。アルバムに貫かれるは旋律の躍動。
そうして “La Muerta” は iamthemorning の Marjana を起用し、荘厳なる Arno とのデュエット “Some Kind of Drowning” で平等に赦しを与えその幕を閉じました。
一片の無駄もなく、ただ日によってお気に入りの楽曲が変化する、そんな作品だと思います。ピアノからシンセ、エレクトロニカまで自由自在な Markus Maichel の鍵盤捌き、Dirk Brand の繊細極まるドラムワーク、そして RPWL の手によるクリアーなサウウンドプロダクションが作品をさらに一段上のステージへと引き上げていることも記しておきましょう。
今回弊誌では、ジャーマンプログメタルの開祖 Markus Steffen にインタビューを行うことが出来ました。「80年代に SIEGES EVEN を立ち上げたんだ。おそらくドイツではじめてのプログメタルアクトだったと思うよ。」どうぞ!!

SUBSIGNAL “LA MUERTA” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ALKALOID : LIQUID ANATOMY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ALKALOID !!

German Extreme Metal Super Group Alkaloid Shows Amazing Musicianship And Creativity With Their Newest Record “Liquid Anatomy” !! Can You Imagine Yes & Rush Mixed With Modern Metal Aggression?

DISC REVIEW “LIQUID ANATOMY”

テクニカルデスメタルの牙城、ドイツに惹起する維新の兆し。千軍万馬の猛者が締盟したプログレッシブの絆 ALKALOID は、最新作 “Liquid Anatomy” で天壌の宇宙から中毒性のマイクロウエーブを発します。
ALKALOID ほどスーパーバンドの表現が相応しい音楽集団はそう多くはないでしょう。これまでメンバー5人がかかわってきたバンドは、DARK FORTRESS, NONEUCLID, SPAWN OF POSSESSION, OBSCURA, NECROPHAGIST, ABORTED, GOD DETHRONED, BLOTTED SCIENCE と文武両道の精鋭ばかり。
中でも、「僕たちが NECROPHAGIST と OBSCURA で始めたことを今では無数のバンドがやっているんだ。」と語る通り、局所性ジストニアによる中指の不遇をも覆す不屈のギターマエストロ Christian Muenzner、新たに HATE ETERNAL にも加入したギターとピアノを操るドラムユーティリティ Hannes Grossmann のかつての音楽的なアイデアが、現在の包括的な Tech-metal への崇高なるインスピレーションとなっていることは明らかですね。
とはいえ、「僕たちは新たなバンド、プロジェクト、アルバムの度に自分たちを”再発明”するようにしているんだよ。特定のスタイルに執着してしまわないようにね。」と Christian が語るように、 ALKALOID は定型化したテクデスの様式、さらには傑出したデビュー作さえ過去の時空へと置き去りにしながら、RIVERS OF NIHIL, IHSAHN, HAKEN, GHOST ともシンクロするクラッシックなプログのスピリットを昇華した新たなメタルの潮流に身を委ねているのです。
アルバムオープナー “Kernel Panic” こそ進化の象徴。ヴィンテージのシンセサウンドに導かれ、滔々と湧出するシーケンシャルなギターフレーズはまさに YES や RUSH の遺伝子を色濃く宿す鮮やかな落胤。DARK FORTRESS 等で残虐な威厳を浴びせる Morean は、驚くことにその歌唱を Jon Anderson のチャンネルへと接続し、神秘的でキャッチーなロックの崇高美を具現化していくのです。
イーヴィルなディストーションサウンドは変調の証。ナチュラルに獰猛なモダンメタルの領域へとシフトする、一体化したバンドの猛攻は衝撃的ですらありますね。一転、再びプログの多幸感が再臨し、時に相反する二つの次元が融解。TOOL と CYNIC、一方で YES と VAN HALEN が楽曲の中で流動し躍動する “In Turmoil’s Swirling Reaches” にも言えますが、ALKALOID の振るう奇想天外なタクト、コントラストの魔法は実際群を抜いています。
そして先述したバンドと同様に、クラッシックとコンテンポラリー、荘厳と嗜虐、ポップと知性の狭間を自由自在に行き来するこのシームレスなアイデアは、確かに多様なモダンプログレッシブの根幹を成しているはずです。ただし、ALKALOID のプログレッシブには特に “90125” や “Signals” など80年代の風を受けた独特の色香も存在しますが。
MORBID ANGEL と MESHUGGAH が同乗する重戦車 “As Decreed by Laws Unwritten”、トライバルで複雑なリズムに呪術と叙情のボーカルが映え GOJIRA の理念ともシンクロする “Azagthoth” でブラックホールの物理現象を追求した後、バンドはタイトルトラック “Liquid Anatomy” でさらに新たな表情を披露します。
実際、これほど感動的で心を揺さぶるバラードと、エクストリームメタルのレコードで出会えるとは僥倖以外何者でもないでしょう。GENESIS や PORCUPINE TREE の叙情、クラッシックや教会音楽のスピリットをダークに消化した荘厳の極みは、感情の波間を悲哀で染め抜きます。
アルバムを通して言えますが、特にこの楽曲で聴くことの出来る Christian のエモーションとテクニック全てを楽曲のためだけに捧げた神々しきソロワークは、最後の “ギターヒーロー” を誇示して余りある激情とスリルに満ちていますね。
アルバムを締めくくるは20分のラブクラフトモンスター、6つの楽章から成るエピック “Rise of the Cephalopods” は ALKALOID 版 “2112” もしくは “Cygnus X-1 Book II: Hemispheres” なのかも知れませんね。プログロックの構成美、モダンメタルの複雑なグルーヴ、モダンプログの多様性にアトモスフィア。全てがここには存在します。現存の南極大陸を葬り、頭足類が進化を遂げる “If” の SF ストーリーは、実はシーンと自らの立ち位置を密かに反映しているのかも知れませんね。
今回弊誌では、Morean, Hannes, Christian の3名にインタビューを行うことが出来ました。 NECROPHAGIST や OBSCURA についても重要な証言が飛び出したと思います。「Hannes がアルバムのいくつかの瞬間で “90125” の時代を超越したサウンドに近づいたという事実は、彼がそれを意図しているのかいないのかに関わらず、エンジニア、プロデューサーとしてのスキルに対する大きな賛辞だよ。 1983年に彼らが成し遂げたサウンドを超えるものは、今日でもほとんどないからね。」どうぞ!!

ALKALOID “LIQUID ANATOMY” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【RIOT V : ARMOR OF LIGHT】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH NICK LEE OF RIOT V !!

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The Pride of NYC, Legend of Metal History, Riot V is Still Alive And Kickin’!! “Armor Of Light” Unites Their Early Hard Rock Sounds With The Magic Of Power Metal ! Shine on!

DISC REVIEW “ARMOR OF LIGHT”

不撓不屈の不沈獣、終天のメタルウォーリアー RIOT V が、ハードロックの血潮とパワーメタルの魔法を等しく装填した光の英雄譚 “Armor of Light” をリリースしました!!メタルの教科書 “Thundersteel” 30周年に刻む新たな闘志の刻印は、40年のキャリアで通過した嵐、凪、そして帰天まで全ての逆境を力に変える躍動と眩耀に満ちています。
ブラックビューティ、黒のレスポールを抱えて独特の艶美な憂いと異国の薫りを奏でた Mark Reale はまさにバンドの心臓でした。2012年、Mark の逝去を受けて RIOT の存続を信じたファンは決して多くはなかったはずです。しかし絶佳なる遺言 “Immortal Soul” “不滅の魂” に Mark が刻んだ通り、バンドが立ち止まることは決してありませんでした。
70年代に生を受け、英国ハードロックにアメリカンな風を吹き込んだ RIOT のターニングポイントは徹頭徹尾パワーメタルへと変貌を遂げた “Thundersteel” だったと言えます。そして類稀なる鋼鉄の “道標” リリース時のベーシスト Don Van Stavern と、89年に加入して以降、Mark と共に流麗なツインリードでクラシカルオリエンタルのカタルシスを提供し続けたトリッキーなギターの名手 Mike Frintz は英雄抜きでバンドの存続を決断します。
MOON TOOTH でモダンなヘヴィープログレッシブを追求する Nick Lee、Tony Moore をフレキシブルに進化させた Todd Michael Hall、VIRGIN STEEL のダイナモ Frank Gilchriest を加えて2014年に日本以外では RIOT V の名でリリースされた復活作 “Unleash the Fire” には確かに Mark の魂が深く宿った鎮魂の焔でした。そして完全に RIOT V 名義でリリースされた “Armor of Light” は亡きギタリストと共に歩む新たなる歴史の幕開けです。
IRON MAIDEN の “Trooper” をイメージさせるエナジーに満ちた勝利のギャロップ “Victory”、ボーカル/ギターハーモニーが正しい場所に正しく配置されたウルトラキャッチャーで由緒正しき哀愁の”リアリズム” “End of the World”、”Thundersteel” のスピードデーモンに真っ向から立ち向かう “Messiah”。オープニングの三連撃はまさにアザラシ無双。KORN の最新作等でエンジニアを務めた Chris “The Wizard” Collier を得て SABATON にも匹敵する現代的なメタルプロダクションを纏った RIOT V は、目まぐるしくもダイナミックなパワーメタルの大斧で作品の冒頭を切り裂きます。
一方で、「Mike と Donnie は Mark の遺産を称えながら素晴らしい仕事を果たしていると思うな。楽曲やリフ、メロディーの中に初期 RIOT のハードロックサウンドと、後期のパワーメタルサウンドをミックスしながらね。」と Nick が語るように、新生 RIOT V の肝は初期と後期の融合。右手にパワーメタルの斧を握りしめ、左手にハードロックのシールドを携えたジョニーの勇姿はさながら無敵の獣神。
奇しくも今年は JUDAS PRIEST の “Firepower”、SAXON の “Thunderbolt”、そして RIOT V の “Armor of Light” と長年メタルを支え続けたベテランが、初期のキャッチーなハードロックテイストをナチュラルに復刻し復活の狼煙を上げています。
実際、後期 RAINBOW を彷彿とさせるロマンティックな “Burn the Daylight”、THIN LIZZY の美学を受け継ぐ神秘的な “Set the World Alight”、初期の RIOT らしいブルーズな響きとホーンセクションが溶け合った “Caught in the Witches Eye” など作品にはオーガニックでユーティリティーな色彩が調和し魅惑のコントラストが渦巻いているのですから。
それにしても、威風堂々の新たなアンセム “Angel’s Thunder, Devil’s Reign” や “Heart of Lion” を聴けば、ツインリードとボーカルハーモニーに加えて、リズムを捻ったクールなキメフレーズの数々がバンドのトレードマークであることを改めて再確認できますね。
後期 RIOT のアイデンティティーともなった、フォークトラッド、クラシカル、ケルトの響きを堪能できるドラマティックな “San Antonio” や “Ready to Shine” も出色の出来。そうしてアルバムは瑞々しい “Thundersteel” の再創生で大円団を迎えます。
まさに珠玉の逸品。今回弊誌では、バンドのレガシーを受け継ぐギタリスト Nick Lee にインタビューを行うことが出来ました。意外にも Sargent House の作品が並ぶプレイリストにも注目です。「アザラシのパワーを感じるんだ!」弊誌2度目の登場。どうぞ!!

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RIOT V “ARMOR OF LIGHT” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【RIVERS OF NIHIL : WHERE OWLS KNOW MY NAME】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ADAM BIGGS FROM RIVERS OF NIHIL !!

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Pennsylvania Based Progressive Death Metal Quinted, Rivers Of Nihil Contribute To Re-branding Death Metal Into A Eclectic, Expressive Art-form With Incredible New Record “Where Owls Know My Name” !!

DISC REVIEW “WHERE OWLS KNOW MY NAME”

遂に食物連鎖の頂点へと躍り出たペンシルベニアの梟神 RIVERS OF NIHIL が、深遠かつエクレクティックなプログレッシブデスメタルへとドラスティックな変貌を果たす傑作 “Where Owls Know My Name” をリリースしました!!生と死、そして知性を司る伝承の神明は、猛禽の鋭さと神々しきアトモスフィアでシーンの潮流を支配します。
テクニカル、メロディック、デスコア、ブルータル。雨後の筍のごとく現れるデスメタルアクトの大半は、エモーションのスペクトルを怒りに起因する狭い領域へとフォーカスし、ある意味では檻の中で固定観念と共に囚われているようにも思えます。
「この作品では、僕たちが期待されているようなサウンドを放棄した。」と Adam が語るように、RIVERS OF NIHIL が “Where Owls Know My Name” で達成した偉業は、真にユニークな感性で鋼鉄の慣習から羽ばたいたその勇気にあると言えるでしょう。
多様で創造性に満ち、複雑でしかし凄艶な星の一生を目撃するサイエンスフィクションは、数年前に FALLUJAH がアトモスフィアと共に導入したジャンルのパラダイムシフトをも超越し、さらに時空を行き来するタイムマシンなのかも知れませんね。
アルバムオープナー “Cancer / Moonspeak” は来たるべき運命、旅路のムードを決定づけます。まるで CYNIC のような浮遊するアンビエントは、アコースティックの響き、レトロなシンセ、ムードに満ちたクリーンボイスを伴ってリスナーを深遠なるストーリーへと誘います。
刹那、雷鳴のように鋭利なギターリフが轟くと雰囲気は一変。革命的な “The Silent Life” がスタートします。揺るぎのない無慈悲なアグレッションとインテンスは、徐々に理知的なギターと官能のサクスフォンが支配するスロウなジャズブレイクへと転換していきます。その変化は驚くほどにナチュラルでオーガニック。そうして静と動、混沌と平穏のコントラストは終盤に向けて奇跡の融解を遂げるのです。まるで人生本来の姿を描くかのように。
CANNIBAL CORPSE と KING CRIMSON が果たした未知との遭遇。例えることは容易いですが、実際、獰猛な猟奇性と神々しき英知を寸分も失うことなく一つのサウンドクラフトに収めることがどれほど困難かは想像に難くありません。何より彼らのデザインはあまりに自然で、神々の創造物のように生き生きとした姿を晒しているのですから。
厳かなクリーンボーカルを導入し、モダンなメロディックデスメタルにサイケデリックな夢幻のアトモスフィアを付与した “A Home”、激烈なアサルトに一片の叙情を込めて老衰の無常を伝える “Old Nothing” を経て辿り着く “Subtle Change (Including the Forest of Transition and Dissatisfaction Dance)” はアルバムのハイライトだと言えるでしょう。
“Epitaph” を思わせる悲壮なアコースティックをイントロダクションに据えた8分30秒のエピックは 「KING CRIMSON は僕のオールタイムフェイバリットバンドなんだよ。」と Adam が語る通りクラッシックなプログロックの息吹を全身に宿した濃密な叙情のスロウダンス。ソフトでエレガントな繊麗と、野蛮で蒼然としたアグレッションは、ギターやサクスフォン、オルガンのトラディショナルで大胆ななソロワーク、プログロックのダイナミックな変拍子やシーケンスを抱きしめながら、詩情と偉観そして奇妙なカタルシスを伴って文明の移り変わりを描く壮大なマグナムオパスを形成するのです。
一方でこの大曲には、djenty なリフワークやシンフォブラックの狂騒などコンテンポラリーな一面も散りばめられており、幽玄なクリーンボイスが創出する崇高美とも相俟って、もしかすると NE OBLIVISCARIS が纏う神秘ともシンクロしているのかも知れませんね。
続くインストゥルメンタル “Terrestria III: Wither” では、情景を切り取るポストロックのデザインを導入し、コンテンポラリーなエレクトロニカやアンビエント、インダストリアルノイズのキャンパスに冷徹かつ耽美な絵巻物を描いてみせるのですから、バンドのエクレクティックな感性、タイムラインの混沌には驚かされるばかりです。
アルバムは、バンドの審美を全て詰め込んだタイトルトラックで再度サクスフォン、ヴィンテージシンセ、クリーンボイスの温もりを呼び起こし作品のコアを認識させた後、ダークなギターがメロトロンの海を切り裂く “Capricorn / Agoratopia” で荘厳にリリカルに、一握りの寂寞を胸に秘め星の死を見届けながらその幕を閉じました。
今回弊誌では、ベース/クリーンボーカルを担当する Adam Biggs にインタビューを行うことが出来ました。まさにメタルとプログのタイムラインに交差する異形のランドマーク。モダン=多様性とするならばこの作品ほど “モダン” なスピリットを抱いた奇跡は存在しないでしょう。ex-THE FACELESS の Justin McKinney、BLACK CROWN INITIATE の Andy Thomas もゲストとして素晴らしい仕事を果たしています。どうぞ!!

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RIVERS OF NIHIL “WHERE OWLS KNOW MY NAME” : 10/10

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