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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【RIVERS OF NIHIL : WHERE OWLS KNOW MY NAME】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ADAM BIGGS FROM RIVERS OF NIHIL !!

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Pennsylvania Based Progressive Death Metal Quinted, Rivers Of Nihil Contribute To Re-branding Death Metal Into A Eclectic, Expressive Art-form With Incredible New Record “Where Owls Know My Name” !!

DISC REVIEW “WHERE OWLS KNOW MY NAME”

遂に食物連鎖の頂点へと躍り出たペンシルベニアの梟神 RIVERS OF NIHIL が、深遠かつエクレクティックなプログレッシブデスメタルへとドラスティックな変貌を果たす傑作 “Where Owls Know My Name” をリリースしました!!生と死、そして知性を司る伝承の神明は、猛禽の鋭さと神々しきアトモスフィアでシーンの潮流を支配します。
テクニカル、メロディック、デスコア、ブルータル。雨後の筍のごとく現れるデスメタルアクトの大半は、エモーションのスペクトルを怒りに起因する狭い領域へとフォーカスし、ある意味では檻の中で固定観念と共に囚われているようにも思えます。
「この作品では、僕たちが期待されているようなサウンドを放棄した。」と Adam が語るように、RIVERS OF NIHIL が “Where Owls Know My Name” で達成した偉業は、真にユニークな感性で鋼鉄の慣習から羽ばたいたその勇気にあると言えるでしょう。
多様で創造性に満ち、複雑でしかし凄艶な星の一生を目撃するサイエンスフィクションは、数年前に FALLUJAH がアトモスフィアと共に導入したジャンルのパラダイムシフトをも超越し、さらに時空を行き来するタイムマシンなのかも知れませんね。
アルバムオープナー “Cancer / Moonspeak” は来たるべき運命、旅路のムードを決定づけます。まるで CYNIC のような浮遊するアンビエントは、アコースティックの響き、レトロなシンセ、ムードに満ちたクリーンボイスを伴ってリスナーを深遠なるストーリーへと誘います。
刹那、雷鳴のように鋭利なギターリフが轟くと雰囲気は一変。革命的な “The Silent Life” がスタートします。揺るぎのない無慈悲なアグレッションとインテンスは、徐々に理知的なギターと官能のサクスフォンが支配するスロウなジャズブレイクへと転換していきます。その変化は驚くほどにナチュラルでオーガニック。そうして静と動、混沌と平穏のコントラストは終盤に向けて奇跡の融解を遂げるのです。まるで人生本来の姿を描くかのように。
CANNIBAL CORPSE と KING CRIMSON が果たした未知との遭遇。例えることは容易いですが、実際、獰猛な猟奇性と神々しき英知を寸分も失うことなく一つのサウンドクラフトに収めることがどれほど困難かは想像に難くありません。何より彼らのデザインはあまりに自然で、神々の創造物のように生き生きとした姿を晒しているのですから。
厳かなクリーンボーカルを導入し、モダンなメロディックデスメタルにサイケデリックな夢幻のアトモスフィアを付与した “A Home”、激烈なアサルトに一片の叙情を込めて老衰の無常を伝える “Old Nothing” を経て辿り着く “Subtle Change (Including the Forest of Transition and Dissatisfaction Dance)” はアルバムのハイライトだと言えるでしょう。
“Epitaph” を思わせる悲壮なアコースティックをイントロダクションに据えた8分30秒のエピックは 「KING CRIMSON は僕のオールタイムフェイバリットバンドなんだよ。」と Adam が語る通りクラッシックなプログロックの息吹を全身に宿した濃密な叙情のスロウダンス。ソフトでエレガントな繊麗と、野蛮で蒼然としたアグレッションは、ギターやサクスフォン、オルガンのトラディショナルで大胆ななソロワーク、プログロックのダイナミックな変拍子やシーケンスを抱きしめながら、詩情と偉観そして奇妙なカタルシスを伴って文明の移り変わりを描く壮大なマグナムオパスを形成するのです。
一方でこの大曲には、djenty なリフワークやシンフォブラックの狂騒などコンテンポラリーな一面も散りばめられており、幽玄なクリーンボイスが創出する崇高美とも相俟って、もしかすると NE OBLIVISCARIS が纏う神秘ともシンクロしているのかも知れませんね。
続くインストゥルメンタル “Terrestria III: Wither” では、情景を切り取るポストロックのデザインを導入し、コンテンポラリーなエレクトロニカやアンビエント、インダストリアルノイズのキャンパスに冷徹かつ耽美な絵巻物を描いてみせるのですから、バンドのエクレクティックな感性、タイムラインの混沌には驚かされるばかりです。
アルバムは、バンドの審美を全て詰め込んだタイトルトラックで再度サクスフォン、ヴィンテージシンセ、クリーンボイスの温もりを呼び起こし作品のコアを認識させた後、ダークなギターがメロトロンの海を切り裂く “Capricorn / Agoratopia” で荘厳にリリカルに、一握りの寂寞を胸に秘め星の死を見届けながらその幕を閉じました。
今回弊誌では、ベース/クリーンボーカルを担当する Adam Biggs にインタビューを行うことが出来ました。まさにメタルとプログのタイムラインに交差する異形のランドマーク。モダン=多様性とするならばこの作品ほど “モダン” なスピリットを抱いた奇跡は存在しないでしょう。ex-THE FACELESS の Justin McKinney、BLACK CROWN INITIATE の Andy Thomas もゲストとして素晴らしい仕事を果たしています。どうぞ!!

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RIVERS OF NIHIL “WHERE OWLS KNOW MY NAME” : 10/10

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EXCLUSIVE INTERVIEW 【CONCEPTION : ROY KHAN】2018 REUNION SPECIAL !!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ROY KHAN OF CONCEPTION !!

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The Voice Of Prog-metal, Former Kamelot Singer Roy Khan Is Back With Reunited Norwegian Legend Conception !!

CONCEPTION IS BACK !!

時代に咲いた鮮やかな徒花、ノルウェーが産んだプログメタルレジェンド CONCEPTION が遂に帰ってきます!!長すぎた沈黙を破る伝説の帰還は、不世出のシンガー Roy Khan の復活を伴いシーンに歓喜の渦を巻き起こしています。
KAMELOT の金看板として、その艶やかで煽情的な歌唱を披露していたスーパースター Roy Khan がバンドからの脱退を表明したのは 2011年春の事でした。音楽大学でオペラと声楽を学んだ Roy の歌唱技術、歌に込めるエモーション、ファルセットの魔法は別格。「もし僕があの時 KAMELOT を辞めていなかったとしたら、今日僕はここにいないだろう。」とインタビューで語った通り、不可避な “燃え尽き症候群” の治療が要因とはいえ、作曲にも大いに貢献を果たしていたマエストロ突然の離脱はあまりにショッキングな出来事でした。
「僕は本当に音楽に関係する全ての人に対して、全てのコミュニケーションをシャットダウンしたんだからね。」音楽から離れていた7年間、Roy は教会の職員や教師として働いていたようです。その生活も悪くはなかったと話すシンガーは、しかし遂に自身の才能を再び世界に解放する準備が整ったと溢れる自信を漲らせます。
「実際に僕たちが解散したことはないんだよ。何と言うか、棚上げしていたって感じだったね。」 という言葉が裏付けるように、友人として連絡を取り続けていた CONCEPTION が Roy 復帰の舞台となったのは自然で最良の選択に思えます。実際に、バンドは2005年にライブ限定で一時的なリユニオンを果たしていますし、”ここ何年かは何度も、いつかある時点で何かやりたいねと話して” いた訳ですから。
神秘的で崇高、ある種哲学的とも言える CONCEPTION の “プログレッシブ” は、登壇が少し早すぎたのかもしれませんね。スパニッシュギターが夕日に映えるデビュー作 “The Last Sunset”、キャッチーでドラマティック、稀代のバラード “Silent Crying” を擁する “Parallel Minds”、複雑かつ荘厳な楽器の宗儀 “In Your Multitude”、そして冷徹でダークな歌の涅槃 “Flow”。
「僕たちはいつも、自分たちをリニューアルしようと心掛けて来たんだよ。それまでに作った楽曲のようなサウンドを持つ新曲を作らないというのが、バンドのポリシーだったんだ。」と語る通り、これまで CONCEPTION が残した4枚の作品は確かに全て合わせた焦点が異なります。
しかしそれでもその勇敢なる多様性、DREAM THEATER の “Awake” を推し進めたかのような独特の内省的なアトモスフィア、近年の FATES WARNING にも通じるインテリジェンスの糸を巡らすダークなインテンシティー、そして SEVENTH WONDER にも受け継がれた洗練のデザインは全ての作品に浸透しており、まだまだ与し易いスピード&パワーが全盛だった当時よりも、エクレクティックなモダンメタルのスピリットが透徹した現在こそ正当な評価が得られるはずです。
すでに先を見据えるバンドの復活EPは秋にリリースが予定されています。「僕たちの全ての歴史、要素がミックスされるわけさ。」と語る Roy ですが、その歴史にはもちろん自身が経験した KAMELOT での荘厳な旅路や、フラメンコの情熱をその身に宿すギターマイスター Tore Østby が ARK で育んだプログレッシブな冒険も含まれているはずです。期待に背くことはないでしょう。そして願わくば、失った20年を取り戻すコンスタントな活動を望みたいところですね。
今回弊誌では、ボイス・オブ・プログメタル Roy Khan にインタビューを行うことが出来ました!Welcome Back Roy, and CONCEPTION! Here We Go!!

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【AUGURY : ILLUSIVE GOLDEN AGE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MATHIEU MARCOTTE OF AUGURY !!

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Augury Give Proof Why Montreal, Quebec Is The Prog/Tech Capital Of The Western Scene With Long-awaited New Record “Illusive Golden Age” !!

DISC REVIEW “ILLUSIVE GOLDEN AGE”

CYNIC の後には、そして BEYOND CREATION の前には彼らが居た。OBSCURA と共にテクニカルデスメタルのプログレッシブサイドを探求し先導し続けるカナダの SF メタル集団 AUGURY が実に9年振りとなる新作”Illusive Golden Age” をリリースしました!!
“黄金時代” が “幻” ではないことを確かに証明する一枚は、テクデスの燎火を明々と灯す躍動感に満ちています。
カナダが誇るモントリオールとケベックの二大都市は、テクニカルデスメタルのメッカだと言えます。GORGUTS, CRYPTOPSY に端を発するその潮流は、MARTYR, BEYOND CREATION などに引き継がれ、近年の “Stay-Tech” メタルマシーン ARCHSPIRE まで脈々と連なります。
中でも、AUGURY の宿すエモーションと有機的なサウンド、クリエイティビティーはジャンルの無慈悲でメカニカルな特性を超越し、明らかに異彩を放っているのです。
9年の沈黙を破るアルバムオープナー “Illusive Golden Age” は風雲児たるバンドの型破りな一面が存分に示された戦慄。このジャンルの定番であるシンフォニックなイントロダクションや、ファストな音の洪水には脇目も振らず、独特のエスニックなスケールとクリーンギターのアクセント、そしてフレットレスベースの浮遊感が奏でるユニークな三重奏こそ彼らの狼煙。
神秘と孤高のメロディーセンス、空間を残したミッドテンポのリフワークは襲い来るヒステリックで噛みつく牙のボーカルとブラストの狂気を際立たせ、ダーティーに歌うSFの奇妙なワルツへと収束して行きます。失われた文明と知識を探るリスナーの旅は、得体の知れない未知なるエキサイトメントでその幕を開けるのです。
ステレオタイプのテクニカルデスメタルからさらに距離を置いた “Carrion Tide” はバンドの緻密なタクティクスを象徴する楽曲かも知れませんね。メタルリスナーにまるで施しを与えるかの如く付与されたブラッケンドのアグレッションは、AUGURY の持つ個の力によって様々なエモーションへとその形を変えて行きます。
ディープなガテラルからヒステリックなスクリーム、ミドルレンジの雄々しきクリーンまでメタルボーカルのショウケースにも思える Patrick Loisel のワイドな才能は移り行く喜怒哀楽を完璧なまでに表現し、起伏に富んだ楽曲のメインパーソナリティーとして君臨します。
ギタリスト Mathieu Marcotte の DEATH や CYNIC に VOIVOD、さらには OPETH や EMPEROR の遺伝子を受け継ぐ複雑でスリリングなリフの猛攻は、カタストロフィーが眼前に迫るかのような錯覚を引き起こし、ex- BEYOND CREATION の怪物 Dominic “Forest” Lapointe はフレットレスベースの酩酊でサイケデリックな静謐の焼け野原を描くのです。
MESHUGGAH と CYNIC が凌ぎを削る “Mater Dolorosa”、ゲーム音楽の影響を感じさせるサイバーなインストゥルメンタル “Message Sonore” を経て辿り着く、最長8分の “Anchorite” でアルバムはその幕を閉じます。
“Anchorite” とは、抗し難い理由で社会や故郷を離れ一人で暮らす宿命の意。もしかするとそれは、大災害で滅びし失われた文明最後の生き残りだったのかも知れません。焦燥と惜別、そして寂寥感を込めた過去からのメッセージは、メランコリーとアンビエンス、そしてアグレッションが渾然一体となったオデッセイ。
最高のミュージシャンシップで「異なる感覚を持って独自のサウンドを築き上げた」AUGURY の神話は、そうしてさざめく波の音と共に自然の元へと帰って行きました。
今回弊誌ではバンドの中心人物 Mathieu Marcotte にインタビューを行うことが出来ました。「個人的には確かにテクデスを聴いてはいるんだけど、そのスタイルからそんなに多くの影響を受けている訳ではないからね。逆に言えば、そうでなければ同じ様なサウンドになってしまうからね。 」リリースは DARK MATTER SECRET, EQUIPOISE, INFERI 等を抱える超注目株 The Artisan Era から。どうぞ!!

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AUGURY “ILLUSIVE GOLDEN AGE” 9.8/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PORTICO QUARTET : ART IN THE AGE OF AUTOMATION, UNTITLED (AITAOA #2)】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JACK WYLLIE OF PORTICO QUARTET !!

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With The Dreamy, Hypnotic Sound Of The Hang, Portico Quartet Creates Incredible Art In The Age Of UK New Jazz !!

DISC REVIEW “ART IN THE AGE OF AUTOMATION” “UNTITLED (AITAOA #2)”

エレクトロニカとバンドサウンドをシームレスに連結する UK ジャズ新世代 PORTICO QUARTET が、オートメーションの時代に贈る流麗なる記念碑 “Art in the Age of Automation” “Untitled (AITAOA #2)” をリリースしました!!2018年、人と機械の創造性が織り成す距離感は想像以上に接近しています。
エレクトロニカをベースとしつつ、全てにおいて細部までオーガニックであることに拘った GOGO PENGUIN の最新作 “A Humdrum Star” はリスナーの記憶に新しいところでしょう。
”Outer” をデジタルな世界、“Inner” をエモーショナルなヒューマンの領域に位置づけた作品は、例えるならば PC で精密にデザインされた建築物を、匠の手作業で一つ一つ忠実に再現して行くようなプロセスでした。
そして興味深いことに、同じ UK ジャズの新たな潮流から台頭した PORTICO QUARTET の最新作も相似的アイデアを提示して、人と機械が潮解した最先端のサウンドを立証しているのです。
「このアルバムはある種の解決策を提示しているんだよ。オートメーションと人間らしさという2つの異なる物事についてのね。」Jack がインタビューで語った通り、”Art in the Age of Automation” そして “AITAOA #2” がモダンミュージックが宿す苦悩にある種の解決策をもたらすことは明らかです。
“エモーション= 人間” “精密 = デジタル” という刷り込み。言い換えればその苦悩は固定観念という人の持つカルマ。そしてそのカルマに真っ向から挑んだ作品こそ “Art in the Age of Automation” だと言えるでしょう。
Jack は PORTICO QUARTET の音楽性をこう表現しています。「僕たちのサウンドには様々な音楽の側面が落とし込まれているよ。ジャズ、エレクトロニカ、アンビエント。時にはミニマリズムだって垣間見える。」Ninja Tune へ移籍しジャズとの距離を取り PORTICO の名の下でリリースしたポップな異色作 “Living Fields” を経ることで、ある種 “回帰” にも思える “Art in the Age of Automation” はデビュー以来最も深みを増しています。
アルバムオープナー “Endless” はその回帰と深みの象徴かも知れませんね。残響を帯びた電子音、嫋やかなブレイクビート、エセリアルなエレクトロニカの流れは、バンドのトレードマークであるハングドラムの風雅な響きを呼び込みます。”Portico” (前廊)を経由して辿り着くは神聖なるサクスフォンの嘶き。
ヒューマンとデジタルの境目が不可解な、カルマを凌駕した UK らしいダークな情緒はポストロックの雄大さを伴ってリスナーにエンドレスなサウンドスケープを届けるのです。
一方で、タイトルトラック “Art in the Age of Automation” を聴けば、独特の倍音を備えた音階をもつ打楽器ハングドラムが、ジャズとミニマリズムの蜜月を育み幻想的な電子の世界を映し出していることに気づくはずです。20世紀最後にして最大のアコースティック楽器発明、スティールパンのアップデートバージョンは、コンテンポラリーなデジタルの海にも良く映えます。
実際、アルバムを聴き進めるにしたがって、オーガニックな演奏とデジタルなマニュピレーションの境界は、英国の霧で覆われたかのように混迷を深めていきます。”A Luminas Beam” や “KGB” で見せる、生々しい楽器の音色と電子音の融合が育む浮遊感やダイナミズムは、変則拍子を身に纏いジャズとロックの境界さえ霞ませるその深き “霧” のたまものだといえるでしょう。
“Current History” でクラシカルとミニマルテクノの真髄を披露した後、辿り着く “Lines Glow” はまさに音のユーフォリア。神々しきハングの音色はトライバルな感覚をも伴って、カラフルなシンセサイザーの海へと溶け込みます。そうして育まれたサウンドスケープの種は “Undercurrent” で静謐と叙情の波を全身に浴びて終幕に相応しくヒプノティックに開花するのです。
壮麗なストリングスを含むアコースティックな楽器、オーガニックな演奏がモダンなプロダクション、テクニック、テクノロジーと融和した時、そこには鮮やかな PORTICO QUARTET の色彩が生まれます。PORTICO QUARTET の固定観念を解放するチャレンジは、”デジタルなエモーション”、”精密な演奏技術” を幾重にもレイヤーして最新作 “Untitled (AITAOA #2)” へと引き継がれているのです。
今回弊誌では、サクスフォン /キーボードプレイヤーの Jack Wyllie にインタビューを行うことが出来ました。PORTICO QUARTET、GOGO PENGUIN 両者共に、UK ジャズの特異性、革新性についても非常に近い切り口で回答していますね。注目です。どうぞ!!

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PORTICO QUARTET “ART IN THE AGE OF AUTOMATION” “UNTITLED (AITAOA #2) : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SLUGDGE : ESOTERIC MALACOLOGY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MATT MOSS OF SLUGDGE !!

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Mollusk-themed Tech Death King, Slugdge Has Just Released Their Most Adventurous, Complex And Progressive Album Yet, “Esoteric Malacology”!!

DISC REVIEW “ESOTERIC MALACOLOGY”

イングランドとスコットランドの稜線より這い出し軟体動物王 SLUGDGE が、カウンターカルチャーとしてのメタルを存分に追求した “深遠なる軟体動物学” “Esoteric Malacology” をリリースしました!!
メタルの狂騒と尊厳を等しく抱きしめ、ドラマ性と知性を高次元で融合させた独創的なレコードは “メタルの進化” を雄弁に物語ります。
「ヘヴィーメタルはアウトサイダーのための音楽さ。君たちが愛していようが嫌悪していようが、カウンターカルチャーとして永遠に存在し続けるんだ。」と Matt が語るように、SLUGDGE のはヘヴィーメタルのジョークにも思える過度なファンタジーや想像力を敢えて前面に押し出しながら、シリアスかつハイクオリティーなサウンドをデザインすることでアウトサイダーとしての矜持を保つ以上の存在感を発揮していると言えるでしょう。
“Esoteric Malacology” も、当然その彼らの流儀に乗っ取って制作されたレコードです。楽曲はバンドのビッグテーマである “カタツムリ” “ナメクジ” その他軟体動物に捧げられ、歌唱やリフの持つ莫大なエネルギーで軟体動物の神々を祝福しています。
そして、ギミックにも思えるその大袈裟で奇想天外な劇画的手法は、例えば CANNIBAL CORPSE がそうであるように、キラーでシリアスな楽曲を伴うことで異端の享楽を宿す巨大なカタルシスを誘うこととなるのです。
GOJIRA の楽曲 “Esoteric Surgery” へのオマージュにも思えるアルバムタイトルは、確かにフランスが生んだ不世出のプログレッシブメタラーへの接近を示唆しています。そして、”The Spectral Burrows” が “The Way Of All Flesh” の息吹を胸いっぱいに吸い込んだ傑出したプログメタルチューンであることは明らかでしょう。
EDGE OF SANITY の “The Spectral Sorrows” を文字ったに違いないドラマティックなエピックは、複雑かつ重厚なテクスチャーがテクニックの荒波に跋扈する濃密な5分50秒。荘厳でしかし闇深きそのアトモスフィアは、聴く者の脳波を直接揺さぶり音の酩酊へと誘います。
比率の増した神秘のクリーンボーカルは絶妙のアクセント。ENSLAVED に備わった全てを洗い流すかのような神々しさとは異なり、混沌も崇高も全てを包括したダークロード “Mollusa” への捧物、破滅的にキャッチーなその調べは、異世界への扉を厳かに開く確かな “鍵” として機能しているようにも思えます。
軟体動物の柔軟性を活かした “Putrid Fairlytale” は SLUGDGE を象徴するプログレッシブデスメタル。NAPALM DEATH の “Lucid Fairytale” をオマージュしたタイトルからは想像もつかない劇的なドラマが繰り広げられています。
ここまで記して来た通り、”Esoteric Malacology” の楽曲タイトルは偉大な先人たちの足跡に対するオマージュとなっています。 “War Squids” は BLACK SABBATH の “War Pigs”、”Slave Goo World” は SEPULTURA の “Slave New World”、”Transilvanian Fungus” は DARKTHRONE の “Transylvanian Hunger” 等。そして “Putrid Fairlytale” にはそういった彼らが愛する様々なジャンルのメタルが触手で繋がり凝縮されているのです。
プログの色合いを帯びた鋭利なリフワークと相対するブラストビート。一方で、粘度の高いミッドテンポのグルーヴと荘厳なるボーカルメロディー。繊細かつ印象的な電光石火のギターシュレッドを極上の味付けに展開する魅惑のテクデスオデッセイは、Matt が語る “ヘヴィネスの秘密” を見事に体現しながらまさにバンドが理想とするメタルを描き出していますね。
スロウでドゥーミー、ロマンチックとさえ言える “Salt Thrower” で塩に溶けゆくナメクジの悲哀を全身で表現した後、アルバムは “Limo Vincit Omnia” でその幕を閉じます。ラテン語で “スライムは全てを征服する” の意を持つエネルギッシュなナンバーは、「メタルが進化し続けるためには影響の外側から新たなアイデアを取得する必要があるように感じるね。」と語る通りエレクトリックなサウンドまで包括し、意義深き実験と学問の成果を誇らしく報告しています。
今回弊誌では、バンドのギター/ボーカル Matt Moss にインタビューを行うことが出来ました。ギタリスト Kev Pearson とのデュオでしたが、インタビュー後に THE BLACK DAHLIA MURDER のドラマー Alan Cassidy と NOVENA の ベースマン Moat Lowe が加わり完璧すぎるラインナップを完成させています。どうぞ!!

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SLUGDGE “ESOTERIC MALACOLOGY” : 9.8/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ichika : she waits patiently, he never fades】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ichika !!

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Japan’s Up And Coming Guitar Artist ichika Has Been Making Waves With His Trilogy EPs “forn”, “she waits patiently” and “he never fades”. Definitely, We Should Keep An Eye On This Young Virtuoso!!

DISC REVIEW “she waits patiently”, “he never fades”

光耀を増した夢幻のクリスタル。琴線の造形師 ichika がギターとベースで奏でるダブルファンタジー “she waits patiently” “he never fades” は、音聖のプロローグを透徹した美意識で彩ります。
マエストロの周辺はデビュー EP “forn” のリリース以降俄に騒がしくなりました。コンテンポラリーでメロディアスなテクニックのイヤーキャンディー AMONG THE SLEEP で gen との麗しき邂逅を果たした後、ichika がスポットライトを浴びたのは東京コレクションのランウェイでした。モデルとしても需要はありそうですがもちろんモデルとしてではなく、スーパーグループ ichikoro のメンバーとしてサプライズで演奏を行ったのです。
Think (川谷絵音), Holy (休日課長), M (ちゃんMari), Vista (奏), Sugar (佐藤栄太郎) から成る異能の音楽集団を率いるリーダーは ichika。そして ichikoro のサウンドはその奔放なラインナップとシンクロするかのように自由を謳歌しています。
「正直音楽の作られていくスピードが異常です。」実際、ゲスの極み乙女や indigo La End の頭領、百戦錬磨の川谷絵音を筆頭とするトリプルギター軍団のクリエイティビティーは斬新かつ鮮烈です。ファンクにポルカ、サンバ、ジャズ、そしてオルタナティブなロックの衝動まで内包する “Wager” はまさにグループの象徴。倍速で演じる紙芝居の如く、コロコロと表情を移す猫の目のイマジネーションはリスナーの大脳皮質を休むことなく刺激し続けます。
課長の派手なスラップを出囃子に、各メンバーの個性も際立つエキサイティングなインストゥルメンタルチューンにおいても、ichika の清澄なるクリーントーンは際立ちます。一聴してそれとわかる眩耀のトーンと水晶のフレットワークは、キラキラと瞬きながら若きヴァーチュオーゾの確かな才気を主張していますね。
無論、ichika のそのトレードマークを最も堪能出来るのがソロ作品であることは言うまでもないでしょう。「”forn” を作るときに話の全体の大きな流れを作り、それを “forn” と “she waits patiently”、”he never fades” の3つに分けました。」と語るように、冒険の序章はトリロジーとして制作されています。”forn” と “she waits patiently” は女性視点で、”he never fades” は男性視点で描かれたストーリー。そして ichika はギターを女声に、ベースを男声に見立てその物語を紡いでいるのです。
「僕は普段曲を作る前にまず物語を作り、それを音楽で書き換えようとしています。聴き手に音楽をストーリーとして追体験させることで、より複雑な感情に誘導することが出来るのではないかなと思っているからです。」という ichika の言葉は彼の作品やセンスを理解する上で重要なヒントとなっています。
彼の楽曲に同じパートが繰り返して現れることはほとんどありません。もちろん、テーマを拡げる手法は時折みられるものの、単純に同じパッセージを再現する場面は皆無です。つまり、映画や小説が基本的には同じ場面を描かず展開を積み重ねてイマジネーションを掻き立てるのと同様に、ichika の楽曲も次々と新たな展開を繰り広げるストーリーテリングの要素を多分に備えているのです。小説のページを捲るのにも似て、リスナーは当然その目眩く世界へと惹き込まれて行くはずです。
加えて、”forn” から ichika がさらに一歩踏み出した場所こそが “感情” であったのは明らかです。「この音を聴けばこういう感情が生まれる」エモーションの引出しを増やすに連れて、彼が直面したのは “ソロギター” という手法そのものだったのかも知れませんね。
ソロギター作品と言えばそのほとんどがアコースティックで奏でられていますが、ichika はエレクトリックギター/ベースを使用しプラグインエフェクトで極限まで拘り抜いた天上のトーンを創出しています。ピアノやアコースティックギターで表現するインストゥルメンタルの楽曲は、確かに美しい反面、平面的な情景描写に終わってしまうことも少なくないでしょう。
しかし、儚さや美しさと同等の激しさや苦しさを宿す “he never fades” や “illusory sense” は明らかにその殻を破った楽曲です。プレイリストを見れば分かるように、そこには、ジャズやアンビエント、ミニマルや電子音楽の領域と並行してデスコアや djent、フュージョンといったロックの衝動を通過した ichika の独創性、強みが存在するのです。
エレクトリックギター/ベースを選択することで、彼は唯一無二の自身のトーンと共に、ハイノートの自由を手に入れています。時に煌き躍動する、アコースティックギターでは再現不可能なハイフレットでのフレキシブルでファストなプレイ、右手を使用したタッピングの絵巻物はモダンなイメージを伴ってロックのエモーションをガラス細工のように繊細な音流へと吹き込みます。
そしてより “ギター” “ベース” という弦楽器の特徴を活かしたスライドやヴィブラート、トレモロ、ガットストローク、さらには休符、弦の擦れる音やミュートノイズまでをも突き詰めて、ichika は感情という総花を物語へと落とし込んでいるのです。揺らぐ感情の波間に注がれる荘厳なる崇高美。
“彼女” は辛抱強く待ちました。”彼” も辛抱強く待ちました。きっと世界には、絶望の後には救いが、別れの後にはユーフォリアが等しく用意されているのです。ichika の素晴らしき序章、未曾有のトリロジーは静かにその幕を閉じました。ISSUES の Tyler Carter と作曲を行っているという情報もあります。次の冒険もきっと目が離せないものになるでしょう。Have a nice dream, ichika です。どうぞ!!

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Artwork by Karamushi

ichika “she waits patiently”, “he never fades” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【W.E.T. : EARTHRAGE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ROBERT SÄLL OF W.E.T. !!

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Melodic Hard Super-Stars, W.E.T. Has Just Released Definitely One Of The Best Record In The Genre “Earthrage” !! Are You Ready For “Burn” And “Watch Their Fire” ?

DISC REVIEW “EARTHRAGE”

WORK OF ART, ECLIPSE, TALISMAN。メロディックハードの幾星霜に足跡を刻んだ三雄を頭文字に戴くスーパーグループ W.E.T. が、捲土重来を期すジャンルの王政復古 “Earthrage” をリリースしました!!瑞々しいアリーナロックの雄々しき鼓動は、地平の年輪に印されしかつての栄光を確かに呼び覚まします。
WORK OF ART と ECLIPSE。2000年代以降、メロディックハード希望の星は明らかにこの両雄でした。片や洗練の極みを尽くす AOR、片や情熱と澄明のハードロック。
しかしインタビューで語ったように、スウェーデンの同じ学校から輩出された2つの綺羅星 “W” の象徴 Robert Säll と “E” の象徴 Erik Mårtensson は、至上のメロディーを宿すシンクロニティー、宿命の双子星だったのです。実際、2人の邂逅は、AOR とハードロックの清新なる渾融を導き、ジャンルのレジェンド Jeff Scott Soto の熱情を伴って唯一無二の W.E.T. カラーを抽出することとなりました。
故に Robert の 「最初の2枚では、僕と Erik がかなりコラボレートして楽曲を書いていたんだ。だけど、今回の作品のソングライティングに僕は全く関わらなかったんだよ。」という発言はある意味大きな驚きでした。
それは何より、”Earthrage” が疑いようもなくバンドの最高傑作となり得たのは、前作 “Rise Up” で顕著であった硬質なサウンド、メタルへの接近をリセットし、Robert の得意とする80年代初頭のオーガニックなメロディックロックを指標したからに他ならないと感じていたからです。
つまり、「”Earthrage” を制作する際に Erik と話し合ってあのオーガニックなスタイルを取り戻すべきだと感じた訳さ。」と語るように、もちろん Robert から方向性についてのサジェスチョンはあったにせよ、”Earthrage” における奇跡にも思える有機的な旋律の蒸留、ハーモニーの醸造、ダイナミズムの精錬には改めて責任を一手に負った Erik Mårtensson というコンポーザーの開花と成熟を感じざるを得ませんね。
予兆は充分にありました。ECLIPSE のみならず、NORDIC UNION, AMMUNITION 等、歴戦の猛者達との凌ぎ合いは、明らかに Erik の持つ作曲術の幅を押し広げ、効果的で印象に残るコーラスパートの建築法を実戦の中で磨き上げて行ったのですから。
アルバムオープナー、”Watch The Fire” はまさに Erik とバンドが到達した新たな高みの炎。冒頭に炸裂する生の質感を帯びた強固なリズムと、期待感に満ちたギターリフはまさしく ECLIPSE 人脈から Magnus Henriksson & Robban Bäck 参加の功名。凛として行軍するヴァースでは Jeff と Erik がボーカルを分け合い、さながら DEEP PUPLE の如き伝統のインテンスを見せつけます。
コーラスパートは巨大なフックを宿す獣。トップフォームの Jeff は、久方振りに発揮する本領で徹頭徹尾リスナーのシンガロングを誘うのです。そしてパズルのラストピースは、Desmond Child 譲りのアンセミックなチャントでした。
BOSTON の奥深き音響に Robert のキーボードが映える “Kings on Thunder Road”、MR. BIG の “Nothing But Love” を彷彿とさせるストリングスの魔法 “Elegantly Wasted” を経て辿り着く “Urgent” はアルバムを象徴する楽曲かも知れませんね。
同タイトルのヒットソングを持つ FOREIGNER の哀愁とメジャー感を、コンテンポラリーなサウンドと切れ味で現代へと昇華した楽曲は、あまりに扇情的。
畳み掛けるように SURVIVOR の理想と美学を胸いっぱいに吸い込んだ “Dangerous” で、リスナーの感情は須らく解放され絶対的なカタルシスへと到達するはずです。
そうして一部の隙も無駄もないメロディックハードの殿堂は、”決して終わらない、引き返せない” 夢の続き “The Never-Ending Retraceable Dream” でその幕を閉じました。楽曲のムードが Jeff にとって “引き返せない” 夢である JOURNEY を想起させるのは偶然でしょうか、意図的でしょうか?
今回弊誌では、WORK OF ART でも活躍する稀代のコンポーザー Robert Säll にインタビューを行うことが出来ました。想像以上に明け透けな発言は、しかしだからこそ興味深い取材となっているはずです。「メロディックハードロックがまたチャートの頂点に戻れるとは思えないね。そして僕はそれで構わないと思っているんだよ。」どうぞ!!

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W.E.T. “EARTRAGE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【GLEB KOLYADIN (IAMTHEMORNING) : GLEB KOLYADIN】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH GLEB KOLYADIN OF IAMTHEMORNING !!

Gleb

Not Only A Gifted Pianist And Keyboardist, But A Brilliant Songwriter And Arranger, Iamthemorning’s Keyboard Wizard Gleb Kolyadin Shows His Incredible Talent With His Kaleidoscope-ish Solo Debut “Gleb Kolyadin” !!

DISC REVIEW “GLEB KOLYADIN”

崇高で森厳なる夢幻世界を具現化し、知性とロマンの宝石箱でプログシーンに衝撃をもたらした iamthemorning。幽玄の歌姫 Marjana を存分に駆使するコンダクター、Gleb Kolyadin が自身の “音楽日記” を更新するソロデビュー作 “Gleb Kolyadin” をリリースしました!!
万華鏡の世界観で待望の “キーボードヒーロー” が紡ぐ豊潤で鮮やかなサウンドスケープは、弦数を増やし複雑さと重厚さで近代インストゥルメンタルミュージックの花形となったギターへと突きつけた挑戦状なのかも知れませんね。
「この作品のアイデアは何年も前から積み重ねられて来たものだということなんだ。僕は長年、”Polonuimcubes” という音楽日記のようなものを書き続けているんだよ。」セルフタイトルで自身のポートレートをアートワークに冠した作品は、Gleb の書き連ねた音楽日記と自身のパーソナリティーを投影したまさに自叙伝のようなアルバムです。
“From Stravinsky to Keith Jarrett to ELP”。クラッシック、現代音楽、ジャズ、アンビエント、そしてプログレッシブに敬意を表したマイスターの自叙伝、ワイドで限定されない豊かなイマジネーションは、まさに多様なモダンミュージックの雛形だと言えますね。グランドピアノの凛とした響きは、時に Chick Corea の流麗なエレクトリックキーボードや Brian Eno の空間の美学へと移行し、全てを抱きしめたロシアンマイスターの傑出した才能を伝えています。
つまり、Gavin Harrison, Nick Beggs, Theo Travis といったプログシーンの重鎮がドラムス、ベース、フルート&サックスで牽引し、スーパースター Steve Hogarth, Jordan Rudess がゲスト参加を果たしたこのレコードでは、しかし Gleb こそが凛然と輝く星斗。
アルバムオープナー、”Insight” は Gleb の新たな音旅への “洞察” を高めるリスナーへのインビテーション。Gleb のピアノと Gavin のドラムスは、まさに一枚岩の如く強固に同調しアルバムの骨格を形成し、サックスと弦楽器を巧みに操るシンセサイザーの躍動は印象的なメロディーの潮流と共に作品の自由と鮮度を伝えます。
万華鏡の世界観を象徴する “Kaleidoscope” はモダンとレトロの交差点。プログレッシブの遺産を濃密に宿したピアノが奏でる爽快なテーマは ELP の “Hoedown” にも通じ、Gleb の繊細かつ大胆な鍵盤捌きは言葉を失うほどにスリリングです。
Tatiana Dubovaya のエセリアルなコーラスが切れ込むと雰囲気は一変し、突如として世界は荘厳なる現代的なアトモスフィアに包まれます。そうして楽曲は、フルートの音色を皮切りにエレクトリックカーニバルの大円団へと向かうのです。もちろんここに広がる多彩な”Kscope” はレーベルの美学、ポストプログレッシブの理念とも一致していますね。
そうして “Eidolon”, “Constellation/ The Bell” といった浪漫溢れるピアノの小曲と同様に、ボーカル曲も “Gleb Kolyadin” が誇る “Kscope” の一つとなりました。
“Storyteller” で Jordan Rudess とのヒリヒリするようなインテンスを終えた後辿り着く”The Best of Days” は終幕に相応しき叙情のドラマ。MARILLION の Steve Hogarth と Gleb のコンビネーションは極上のアトモスフィアとセンチメントを創造し、ノスタルジアを深く湛えた楽曲はリスナーの過去へと旅立ち “古き良き日” を克明にイメージさせるのです。
「現在ピアノは、僕にとって自分の思考や感情を表現するためのベストなオプションなんだ。」と語る Gleb。どこまでも謙虚なピアノマンはしかし、間違いなくプログシーンのセンターに立っています。長く待ち望まれた新たな鍵盤の魔術師はロシアからの登場。Gleb Kolyadin です。どうぞ!!

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GLEB KOLYADIN “GLEB KOLYADIN” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE MESSTHETICS : THE MESSTHETICS】JAPAN TOUR 2018 SPECIAL !!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JOE LALLY OF THE MESSTHETICS !!

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PHOTO BY ANTONIA TRICARICO

Lally And Canty, Splendid Rhythm Section Of Fugazi Reunite As The Messthetics With New Guitar Virtuoso Anthony Pirog! D.C. Creates New Wave Of Artistic Instrumental Music!

DISC REVIEW “THE MESSTHETICS”

音楽と思想、攻撃性と実験性。FUGAZI は緊張感を原動力に、瞬刻も停滞することなく前進を続けたアンダーグラウンドアイコンでした。
80年代、”ハードコアの首都” でもあったワシントン D.C.で、カリスマ MINOR THREAT 解散の後、暴力や政治に辟易した “レボリューションサマー” を通過し結成された FUGAZI。モッシュやダイブなど危険行為を嫌悪し自由に根差したライブパフォーマンスを敢行、同時に “産業” としての音楽ビジネスから距離を置き DIY に拘るその姿勢は、既成の価値観へと強烈に”F××K”を叩きつける完璧なまでにパンクなアティテュードでした。
もちろん、その音楽もユニークで独創的。かつて 「ハードコアは好きだけど進化したい。」 と Ian MacKaye が語ったように、FUGAZI は典型的なハードコアのモチーフやスピードを避け、よりダイナミックで複雑に探求を重ねたグルーヴィーなアートを創造したのです。レゲエ、ファンク、ジャズ、ダブまで抱きしめたバンドの混沌と多様性は、まさにポストハードコアのパラゴンとして現在まで君臨し、およそ15年間の活動を通してその理想をアップデートし続けました。
もちろん、FUGAZI のスターは Ian MacKaye と Guy Picciotto でしたが、彼らのシグニチャーサウンドとしてまずあの独特のグルーヴを想起するファンは多いでしょう。つまり、Joe と Brendon が創造する豊潤かつ知的なリズムこそがバンドの肝であったことは明らかです。
2002年にバンドが無期限の活動休止を告げた後、今回の主役 Joe Lally は FUGAZI の延長にも思えるインプロヴィゼーションの世界を掘り下げ続けています。ソロワーク、John Frusciante との ATAXIA を通してインディー/オルタナ界隈とも溶け合った Joe が、かつての同僚 Brendon と再度巡り会い辿り着いた場所こそ THE MESSTHETICS だったのです。
新たに結成されたインストゥルメンタルスリーピースは当然 FUGAZI とは異なります。何より、FUGAZI が唯一避けてきたギターシュレッドを前面に押し出している訳ですから。しかし、それ故に愉絶な存在足り得る因果は、2人が船を降りてから独自の歩みを続けた成果にも他なりませんね。
THE MESSTHETICS のスターはギタリスト Anthony Pirog。子供の頃 FUGAZI を聴いていたというワシントンエリアの新鋭は、ジャズ、インディー、アヴァンギャルドまでポケットへと詰め込み D.Cの潮流をさらに先のステージと進めます。
残響やノイズへのアプローチ、マジカルなエフェクトボードにクロスオーバーな世界観は、確かに Bill Frisell の遺伝子を宿しているようにも思えます。Nels Cline に近いのかも知れません。ただ、同時に Eric Johnson や Jeff Beck の煌めくフレーズ、瞬間の美学をも素晴らしく引き継ぐ傑出した才能は、瑞々しい音の絵の具をベテランが築いた味のあるパレットへと注ぎ込んで行くのです。
アルバムオープナー、”Mythomania” はまさしく三傑が魅せる化学反応の証です。オリエンタルな響きやジャズのアウトフレーズをノイズの海へと撒き散らす Anthony の柔軟でエキサイティングなギターワークは、Hendrix の神話を現代へと伝える奇跡。テクニックに特化したジャズスタイルのリズム隊には想像もつかないであろう淡々とした8ビートにより、ミステリアスな楽曲はさらに緊張感を増し、トライバルなギミックと抑揚が徐々に知性の勝利を謳います。
3者のバランスとアンバランスは、アートワークが示すようにヒリヒリとした綱渡りのインテンスで成り立ち、スピードよりもグルーヴに主眼を置いた方法論は確かに FUGAZI の遺伝子を受け継いでいるのです。
もちろん、長年のファンは、”Serpent Tongue” や “Quantum Path” で RUSH やマスロックにも接近した複雑なリズムの波を自在に泳ぎつつ、シンクロし推進力となる Joe と Brendon のアグレッションを懐かしく思うはずです。
一方で、ジャズの幽玄かつ美麗なスピリットもバンドの魅力へと投影されます。ロマンティックな “Inner Ocean” のミニマリズムとアトモスフィア、際立つ強弱のコントラストはポストロックにも通じ、ストリングスにブラシ、ダブルベースで紡がれるクローサー “The Weaver” の荘厳なる美しさは Pat Metheny の理想にも通じます。構成すらもあまりに出来過ぎ、至高の一作。
全てがライブレコーディングで収録された “The Messthetics”。幸運なことに、日本のファンはUS外では世界で初めて彼らのそのライブを目撃するチャンスに恵まれます。「僕たちの仕事は、創造する作品で自分自身に挑戦することなんだよ。」 5月に始まる来日ツアーは、公開された FUGAZI の映画と共に必見です。Joe Lally です。どうぞ!!

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THE MESSTHETICS “THE MESSTHETICS ” : 10/10

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