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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SLUGDGE : ESOTERIC MALACOLOGY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MATT MOSS OF SLUGDGE !!

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Mollusk-themed Tech Death King, Slugdge Has Just Released Their Most Adventurous, Complex And Progressive Album Yet, “Esoteric Malacology”!!

DISC REVIEW “ESOTERIC MALACOLOGY”

イングランドとスコットランドの稜線より這い出し軟体動物王 SLUGDGE が、カウンターカルチャーとしてのメタルを存分に追求した “深遠なる軟体動物学” “Esoteric Malacology” をリリースしました!!
メタルの狂騒と尊厳を等しく抱きしめ、ドラマ性と知性を高次元で融合させた独創的なレコードは “メタルの進化” を雄弁に物語ります。
「ヘヴィーメタルはアウトサイダーのための音楽さ。君たちが愛していようが嫌悪していようが、カウンターカルチャーとして永遠に存在し続けるんだ。」と Matt が語るように、SLUGDGE のはヘヴィーメタルのジョークにも思える過度なファンタジーや想像力を敢えて前面に押し出しながら、シリアスかつハイクオリティーなサウンドをデザインすることでアウトサイダーとしての矜持を保つ以上の存在感を発揮していると言えるでしょう。
“Esoteric Malacology” も、当然その彼らの流儀に乗っ取って制作されたレコードです。楽曲はバンドのビッグテーマである “カタツムリ” “ナメクジ” その他軟体動物に捧げられ、歌唱やリフの持つ莫大なエネルギーで軟体動物の神々を祝福しています。
そして、ギミックにも思えるその大袈裟で奇想天外な劇画的手法は、例えば CANNIBAL CORPSE がそうであるように、キラーでシリアスな楽曲を伴うことで異端の享楽を宿す巨大なカタルシスを誘うこととなるのです。
GOJIRA の楽曲 “Esoteric Surgery” へのオマージュにも思えるアルバムタイトルは、確かにフランスが生んだ不世出のプログレッシブメタラーへの接近を示唆しています。そして、”The Spectral Burrows” が “The Way Of All Flesh” の息吹を胸いっぱいに吸い込んだ傑出したプログメタルチューンであることは明らかでしょう。
EDGE OF SANITY の “The Spectral Sorrows” を文字ったに違いないドラマティックなエピックは、複雑かつ重厚なテクスチャーがテクニックの荒波に跋扈する濃密な5分50秒。荘厳でしかし闇深きそのアトモスフィアは、聴く者の脳波を直接揺さぶり音の酩酊へと誘います。
比率の増した神秘のクリーンボーカルは絶妙のアクセント。ENSLAVED に備わった全てを洗い流すかのような神々しさとは異なり、混沌も崇高も全てを包括したダークロード “Mollusa” への捧物、破滅的にキャッチーなその調べは、異世界への扉を厳かに開く確かな “鍵” として機能しているようにも思えます。
軟体動物の柔軟性を活かした “Putrid Fairlytale” は SLUGDGE を象徴するプログレッシブデスメタル。NAPALM DEATH の “Lucid Fairytale” をオマージュしたタイトルからは想像もつかない劇的なドラマが繰り広げられています。
ここまで記して来た通り、”Esoteric Malacology” の楽曲タイトルは偉大な先人たちの足跡に対するオマージュとなっています。 “War Squids” は BLACK SABBATH の “War Pigs”、”Slave Goo World” は SEPULTURA の “Slave New World”、”Transilvanian Fungus” は DARKTHRONE の “Transylvanian Hunger” 等。そして “Putrid Fairlytale” にはそういった彼らが愛する様々なジャンルのメタルが触手で繋がり凝縮されているのです。
プログの色合いを帯びた鋭利なリフワークと相対するブラストビート。一方で、粘度の高いミッドテンポのグルーヴと荘厳なるボーカルメロディー。繊細かつ印象的な電光石火のギターシュレッドを極上の味付けに展開する魅惑のテクデスオデッセイは、Matt が語る “ヘヴィネスの秘密” を見事に体現しながらまさにバンドが理想とするメタルを描き出していますね。
スロウでドゥーミー、ロマンチックとさえ言える “Salt Thrower” で塩に溶けゆくナメクジの悲哀を全身で表現した後、アルバムは “Limo Vincit Omnia” でその幕を閉じます。ラテン語で “スライムは全てを征服する” の意を持つエネルギッシュなナンバーは、「メタルが進化し続けるためには影響の外側から新たなアイデアを取得する必要があるように感じるね。」と語る通りエレクトリックなサウンドまで包括し、意義深き実験と学問の成果を誇らしく報告しています。
今回弊誌では、バンドのギター/ボーカル Matt Moss にインタビューを行うことが出来ました。ギタリスト Kev Pearson とのデュオでしたが、インタビュー後に THE BLACK DAHLIA MURDER のドラマー Alan Cassidy と NOVENA の ベースマン Moat Lowe が加わり完璧すぎるラインナップを完成させています。どうぞ!!

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SLUGDGE “ESOTERIC MALACOLOGY” : 9.8/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ichika : she waits patiently, he never fades】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ichika !!

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Japan’s Up And Coming Guitar Artist ichika Has Been Making Waves With His Trilogy EPs “forn”, “she waits patiently” and “he never fades”. Definitely, We Should Keep An Eye On This Young Virtuoso!!

DISC REVIEW “she waits patiently”, “he never fades”

光耀を増した夢幻のクリスタル。琴線の造形師 ichika がギターとベースで奏でるダブルファンタジー “she waits patiently” “he never fades” は、音聖のプロローグを透徹した美意識で彩ります。
マエストロの周辺はデビュー EP “forn” のリリース以降俄に騒がしくなりました。コンテンポラリーでメロディアスなテクニックのイヤーキャンディー AMONG THE SLEEP で gen との麗しき邂逅を果たした後、ichika がスポットライトを浴びたのは東京コレクションのランウェイでした。モデルとしても需要はありそうですがもちろんモデルとしてではなく、スーパーグループ ichikoro のメンバーとしてサプライズで演奏を行ったのです。
Think (川谷絵音), Holy (休日課長), M (ちゃんMari), Vista (奏), Sugar (佐藤栄太郎) から成る異能の音楽集団を率いるリーダーは ichika。そして ichikoro のサウンドはその奔放なラインナップとシンクロするかのように自由を謳歌しています。
「正直音楽の作られていくスピードが異常です。」実際、ゲスの極み乙女や indigo La End の頭領、百戦錬磨の川谷絵音を筆頭とするトリプルギター軍団のクリエイティビティーは斬新かつ鮮烈です。ファンクにポルカ、サンバ、ジャズ、そしてオルタナティブなロックの衝動まで内包する “Wager” はまさにグループの象徴。倍速で演じる紙芝居の如く、コロコロと表情を移す猫の目のイマジネーションはリスナーの大脳皮質を休むことなく刺激し続けます。
課長の派手なスラップを出囃子に、各メンバーの個性も際立つエキサイティングなインストゥルメンタルチューンにおいても、ichika の清澄なるクリーントーンは際立ちます。一聴してそれとわかる眩耀のトーンと水晶のフレットワークは、キラキラと瞬きながら若きヴァーチュオーゾの確かな才気を主張していますね。
無論、ichika のそのトレードマークを最も堪能出来るのがソロ作品であることは言うまでもないでしょう。「”forn” を作るときに話の全体の大きな流れを作り、それを “forn” と “she waits patiently”、”he never fades” の3つに分けました。」と語るように、冒険の序章はトリロジーとして制作されています。”forn” と “she waits patiently” は女性視点で、”he never fades” は男性視点で描かれたストーリー。そして ichika はギターを女声に、ベースを男声に見立てその物語を紡いでいるのです。
「僕は普段曲を作る前にまず物語を作り、それを音楽で書き換えようとしています。聴き手に音楽をストーリーとして追体験させることで、より複雑な感情に誘導することが出来るのではないかなと思っているからです。」という ichika の言葉は彼の作品やセンスを理解する上で重要なヒントとなっています。
彼の楽曲に同じパートが繰り返して現れることはほとんどありません。もちろん、テーマを拡げる手法は時折みられるものの、単純に同じパッセージを再現する場面は皆無です。つまり、映画や小説が基本的には同じ場面を描かず展開を積み重ねてイマジネーションを掻き立てるのと同様に、ichika の楽曲も次々と新たな展開を繰り広げるストーリーテリングの要素を多分に備えているのです。小説のページを捲るのにも似て、リスナーは当然その目眩く世界へと惹き込まれて行くはずです。
加えて、”forn” から ichika がさらに一歩踏み出した場所こそが “感情” であったのは明らかです。「この音を聴けばこういう感情が生まれる」エモーションの引出しを増やすに連れて、彼が直面したのは “ソロギター” という手法そのものだったのかも知れませんね。
ソロギター作品と言えばそのほとんどがアコースティックで奏でられていますが、ichika はエレクトリックギター/ベースを使用しプラグインエフェクトで極限まで拘り抜いた天上のトーンを創出しています。ピアノやアコースティックギターで表現するインストゥルメンタルの楽曲は、確かに美しい反面、平面的な情景描写に終わってしまうことも少なくないでしょう。
しかし、儚さや美しさと同等の激しさや苦しさを宿す “he never fades” や “illusory sense” は明らかにその殻を破った楽曲です。プレイリストを見れば分かるように、そこには、ジャズやアンビエント、ミニマルや電子音楽の領域と並行してデスコアや djent、フュージョンといったロックの衝動を通過した ichika の独創性、強みが存在するのです。
エレクトリックギター/ベースを選択することで、彼は唯一無二の自身のトーンと共に、ハイノートの自由を手に入れています。時に煌き躍動する、アコースティックギターでは再現不可能なハイフレットでのフレキシブルでファストなプレイ、右手を使用したタッピングの絵巻物はモダンなイメージを伴ってロックのエモーションをガラス細工のように繊細な音流へと吹き込みます。
そしてより “ギター” “ベース” という弦楽器の特徴を活かしたスライドやヴィブラート、トレモロ、ガットストローク、さらには休符、弦の擦れる音やミュートノイズまでをも突き詰めて、ichika は感情という総花を物語へと落とし込んでいるのです。揺らぐ感情の波間に注がれる荘厳なる崇高美。
“彼女” は辛抱強く待ちました。”彼” も辛抱強く待ちました。きっと世界には、絶望の後には救いが、別れの後にはユーフォリアが等しく用意されているのです。ichika の素晴らしき序章、未曾有のトリロジーは静かにその幕を閉じました。ISSUES の Tyler Carter と作曲を行っているという情報もあります。次の冒険もきっと目が離せないものになるでしょう。Have a nice dream, ichika です。どうぞ!!

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Artwork by Karamushi

ichika “she waits patiently”, “he never fades” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【W.E.T. : EARTHRAGE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ROBERT SÄLL OF W.E.T. !!

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Melodic Hard Super-Stars, W.E.T. Has Just Released Definitely One Of The Best Record In The Genre “Earthrage” !! Are You Ready For “Burn” And “Watch Their Fire” ?

DISC REVIEW “EARTHRAGE”

WORK OF ART, ECLIPSE, TALISMAN。メロディックハードの幾星霜に足跡を刻んだ三雄を頭文字に戴くスーパーグループ W.E.T. が、捲土重来を期すジャンルの王政復古 “Earthrage” をリリースしました!!瑞々しいアリーナロックの雄々しき鼓動は、地平の年輪に印されしかつての栄光を確かに呼び覚まします。
WORK OF ART と ECLIPSE。2000年代以降、メロディックハード希望の星は明らかにこの両雄でした。片や洗練の極みを尽くす AOR、片や情熱と澄明のハードロック。
しかしインタビューで語ったように、スウェーデンの同じ学校から輩出された2つの綺羅星 “W” の象徴 Robert Säll と “E” の象徴 Erik Mårtensson は、至上のメロディーを宿すシンクロニティー、宿命の双子星だったのです。実際、2人の邂逅は、AOR とハードロックの清新なる渾融を導き、ジャンルのレジェンド Jeff Scott Soto の熱情を伴って唯一無二の W.E.T. カラーを抽出することとなりました。
故に Robert の 「最初の2枚では、僕と Erik がかなりコラボレートして楽曲を書いていたんだ。だけど、今回の作品のソングライティングに僕は全く関わらなかったんだよ。」という発言はある意味大きな驚きでした。
それは何より、”Earthrage” が疑いようもなくバンドの最高傑作となり得たのは、前作 “Rise Up” で顕著であった硬質なサウンド、メタルへの接近をリセットし、Robert の得意とする80年代初頭のオーガニックなメロディックロックを指標したからに他ならないと感じていたからです。
つまり、「”Earthrage” を制作する際に Erik と話し合ってあのオーガニックなスタイルを取り戻すべきだと感じた訳さ。」と語るように、もちろん Robert から方向性についてのサジェスチョンはあったにせよ、”Earthrage” における奇跡にも思える有機的な旋律の蒸留、ハーモニーの醸造、ダイナミズムの精錬には改めて責任を一手に負った Erik Mårtensson というコンポーザーの開花と成熟を感じざるを得ませんね。
予兆は充分にありました。ECLIPSE のみならず、NORDIC UNION, AMMUNITION 等、歴戦の猛者達との凌ぎ合いは、明らかに Erik の持つ作曲術の幅を押し広げ、効果的で印象に残るコーラスパートの建築法を実戦の中で磨き上げて行ったのですから。
アルバムオープナー、”Watch The Fire” はまさに Erik とバンドが到達した新たな高みの炎。冒頭に炸裂する生の質感を帯びた強固なリズムと、期待感に満ちたギターリフはまさしく ECLIPSE 人脈から Magnus Henriksson & Robban Bäck 参加の功名。凛として行軍するヴァースでは Jeff と Erik がボーカルを分け合い、さながら DEEP PUPLE の如き伝統のインテンスを見せつけます。
コーラスパートは巨大なフックを宿す獣。トップフォームの Jeff は、久方振りに発揮する本領で徹頭徹尾リスナーのシンガロングを誘うのです。そしてパズルのラストピースは、Desmond Child 譲りのアンセミックなチャントでした。
BOSTON の奥深き音響に Robert のキーボードが映える “Kings on Thunder Road”、MR. BIG の “Nothing But Love” を彷彿とさせるストリングスの魔法 “Elegantly Wasted” を経て辿り着く “Urgent” はアルバムを象徴する楽曲かも知れませんね。
同タイトルのヒットソングを持つ FOREIGNER の哀愁とメジャー感を、コンテンポラリーなサウンドと切れ味で現代へと昇華した楽曲は、あまりに扇情的。
畳み掛けるように SURVIVOR の理想と美学を胸いっぱいに吸い込んだ “Dangerous” で、リスナーの感情は須らく解放され絶対的なカタルシスへと到達するはずです。
そうして一部の隙も無駄もないメロディックハードの殿堂は、”決して終わらない、引き返せない” 夢の続き “The Never-Ending Retraceable Dream” でその幕を閉じました。楽曲のムードが Jeff にとって “引き返せない” 夢である JOURNEY を想起させるのは偶然でしょうか、意図的でしょうか?
今回弊誌では、WORK OF ART でも活躍する稀代のコンポーザー Robert Säll にインタビューを行うことが出来ました。想像以上に明け透けな発言は、しかしだからこそ興味深い取材となっているはずです。「メロディックハードロックがまたチャートの頂点に戻れるとは思えないね。そして僕はそれで構わないと思っているんだよ。」どうぞ!!

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W.E.T. “EARTRAGE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【GLEB KOLYADIN (IAMTHEMORNING) : GLEB KOLYADIN】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH GLEB KOLYADIN OF IAMTHEMORNING !!

Gleb

Not Only A Gifted Pianist And Keyboardist, But A Brilliant Songwriter And Arranger, Iamthemorning’s Keyboard Wizard Gleb Kolyadin Shows His Incredible Talent With His Kaleidoscope-ish Solo Debut “Gleb Kolyadin” !!

DISC REVIEW “GLEB KOLYADIN”

崇高で森厳なる夢幻世界を具現化し、知性とロマンの宝石箱でプログシーンに衝撃をもたらした iamthemorning。幽玄の歌姫 Marjana を存分に駆使するコンダクター、Gleb Kolyadin が自身の “音楽日記” を更新するソロデビュー作 “Gleb Kolyadin” をリリースしました!!
万華鏡の世界観で待望の “キーボードヒーロー” が紡ぐ豊潤で鮮やかなサウンドスケープは、弦数を増やし複雑さと重厚さで近代インストゥルメンタルミュージックの花形となったギターへと突きつけた挑戦状なのかも知れませんね。
「この作品のアイデアは何年も前から積み重ねられて来たものだということなんだ。僕は長年、”Polonuimcubes” という音楽日記のようなものを書き続けているんだよ。」セルフタイトルで自身のポートレートをアートワークに冠した作品は、Gleb の書き連ねた音楽日記と自身のパーソナリティーを投影したまさに自叙伝のようなアルバムです。
“From Stravinsky to Keith Jarrett to ELP”。クラッシック、現代音楽、ジャズ、アンビエント、そしてプログレッシブに敬意を表したマイスターの自叙伝、ワイドで限定されない豊かなイマジネーションは、まさに多様なモダンミュージックの雛形だと言えますね。グランドピアノの凛とした響きは、時に Chick Corea の流麗なエレクトリックキーボードや Brian Eno の空間の美学へと移行し、全てを抱きしめたロシアンマイスターの傑出した才能を伝えています。
つまり、Gavin Harrison, Nick Beggs, Theo Travis といったプログシーンの重鎮がドラムス、ベース、フルート&サックスで牽引し、スーパースター Steve Hogarth, Jordan Rudess がゲスト参加を果たしたこのレコードでは、しかし Gleb こそが凛然と輝く星斗。
アルバムオープナー、”Insight” は Gleb の新たな音旅への “洞察” を高めるリスナーへのインビテーション。Gleb のピアノと Gavin のドラムスは、まさに一枚岩の如く強固に同調しアルバムの骨格を形成し、サックスと弦楽器を巧みに操るシンセサイザーの躍動は印象的なメロディーの潮流と共に作品の自由と鮮度を伝えます。
万華鏡の世界観を象徴する “Kaleidoscope” はモダンとレトロの交差点。プログレッシブの遺産を濃密に宿したピアノが奏でる爽快なテーマは ELP の “Hoedown” にも通じ、Gleb の繊細かつ大胆な鍵盤捌きは言葉を失うほどにスリリングです。
Tatiana Dubovaya のエセリアルなコーラスが切れ込むと雰囲気は一変し、突如として世界は荘厳なる現代的なアトモスフィアに包まれます。そうして楽曲は、フルートの音色を皮切りにエレクトリックカーニバルの大円団へと向かうのです。もちろんここに広がる多彩な”Kscope” はレーベルの美学、ポストプログレッシブの理念とも一致していますね。
そうして “Eidolon”, “Constellation/ The Bell” といった浪漫溢れるピアノの小曲と同様に、ボーカル曲も “Gleb Kolyadin” が誇る “Kscope” の一つとなりました。
“Storyteller” で Jordan Rudess とのヒリヒリするようなインテンスを終えた後辿り着く”The Best of Days” は終幕に相応しき叙情のドラマ。MARILLION の Steve Hogarth と Gleb のコンビネーションは極上のアトモスフィアとセンチメントを創造し、ノスタルジアを深く湛えた楽曲はリスナーの過去へと旅立ち “古き良き日” を克明にイメージさせるのです。
「現在ピアノは、僕にとって自分の思考や感情を表現するためのベストなオプションなんだ。」と語る Gleb。どこまでも謙虚なピアノマンはしかし、間違いなくプログシーンのセンターに立っています。長く待ち望まれた新たな鍵盤の魔術師はロシアからの登場。Gleb Kolyadin です。どうぞ!!

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GLEB KOLYADIN “GLEB KOLYADIN” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE MESSTHETICS : THE MESSTHETICS】JAPAN TOUR 2018 SPECIAL !!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JOE LALLY OF THE MESSTHETICS !!

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PHOTO BY ANTONIA TRICARICO

Lally And Canty, Splendid Rhythm Section Of Fugazi Reunite As The Messthetics With New Guitar Virtuoso Anthony Pirog! D.C. Creates New Wave Of Artistic Instrumental Music!

DISC REVIEW “THE MESSTHETICS”

音楽と思想、攻撃性と実験性。FUGAZI は緊張感を原動力に、瞬刻も停滞することなく前進を続けたアンダーグラウンドアイコンでした。
80年代、”ハードコアの首都” でもあったワシントン D.C.で、カリスマ MINOR THREAT 解散の後、暴力や政治に辟易した “レボリューションサマー” を通過し結成された FUGAZI。モッシュやダイブなど危険行為を嫌悪し自由に根差したライブパフォーマンスを敢行、同時に “産業” としての音楽ビジネスから距離を置き DIY に拘るその姿勢は、既成の価値観へと強烈に”F××K”を叩きつける完璧なまでにパンクなアティテュードでした。
もちろん、その音楽もユニークで独創的。かつて 「ハードコアは好きだけど進化したい。」 と Ian MacKaye が語ったように、FUGAZI は典型的なハードコアのモチーフやスピードを避け、よりダイナミックで複雑に探求を重ねたグルーヴィーなアートを創造したのです。レゲエ、ファンク、ジャズ、ダブまで抱きしめたバンドの混沌と多様性は、まさにポストハードコアのパラゴンとして現在まで君臨し、およそ15年間の活動を通してその理想をアップデートし続けました。
もちろん、FUGAZI のスターは Ian MacKaye と Guy Picciotto でしたが、彼らのシグニチャーサウンドとしてまずあの独特のグルーヴを想起するファンは多いでしょう。つまり、Joe と Brendon が創造する豊潤かつ知的なリズムこそがバンドの肝であったことは明らかです。
2002年にバンドが無期限の活動休止を告げた後、今回の主役 Joe Lally は FUGAZI の延長にも思えるインプロヴィゼーションの世界を掘り下げ続けています。ソロワーク、John Frusciante との ATAXIA を通してインディー/オルタナ界隈とも溶け合った Joe が、かつての同僚 Brendon と再度巡り会い辿り着いた場所こそ THE MESSTHETICS だったのです。
新たに結成されたインストゥルメンタルスリーピースは当然 FUGAZI とは異なります。何より、FUGAZI が唯一避けてきたギターシュレッドを前面に押し出している訳ですから。しかし、それ故に愉絶な存在足り得る因果は、2人が船を降りてから独自の歩みを続けた成果にも他なりませんね。
THE MESSTHETICS のスターはギタリスト Anthony Pirog。子供の頃 FUGAZI を聴いていたというワシントンエリアの新鋭は、ジャズ、インディー、アヴァンギャルドまでポケットへと詰め込み D.Cの潮流をさらに先のステージと進めます。
残響やノイズへのアプローチ、マジカルなエフェクトボードにクロスオーバーな世界観は、確かに Bill Frisell の遺伝子を宿しているようにも思えます。Nels Cline に近いのかも知れません。ただ、同時に Eric Johnson や Jeff Beck の煌めくフレーズ、瞬間の美学をも素晴らしく引き継ぐ傑出した才能は、瑞々しい音の絵の具をベテランが築いた味のあるパレットへと注ぎ込んで行くのです。
アルバムオープナー、”Mythomania” はまさしく三傑が魅せる化学反応の証です。オリエンタルな響きやジャズのアウトフレーズをノイズの海へと撒き散らす Anthony の柔軟でエキサイティングなギターワークは、Hendrix の神話を現代へと伝える奇跡。テクニックに特化したジャズスタイルのリズム隊には想像もつかないであろう淡々とした8ビートにより、ミステリアスな楽曲はさらに緊張感を増し、トライバルなギミックと抑揚が徐々に知性の勝利を謳います。
3者のバランスとアンバランスは、アートワークが示すようにヒリヒリとした綱渡りのインテンスで成り立ち、スピードよりもグルーヴに主眼を置いた方法論は確かに FUGAZI の遺伝子を受け継いでいるのです。
もちろん、長年のファンは、”Serpent Tongue” や “Quantum Path” で RUSH やマスロックにも接近した複雑なリズムの波を自在に泳ぎつつ、シンクロし推進力となる Joe と Brendon のアグレッションを懐かしく思うはずです。
一方で、ジャズの幽玄かつ美麗なスピリットもバンドの魅力へと投影されます。ロマンティックな “Inner Ocean” のミニマリズムとアトモスフィア、際立つ強弱のコントラストはポストロックにも通じ、ストリングスにブラシ、ダブルベースで紡がれるクローサー “The Weaver” の荘厳なる美しさは Pat Metheny の理想にも通じます。構成すらもあまりに出来過ぎ、至高の一作。
全てがライブレコーディングで収録された “The Messthetics”。幸運なことに、日本のファンはUS外では世界で初めて彼らのそのライブを目撃するチャンスに恵まれます。「僕たちの仕事は、創造する作品で自分自身に挑戦することなんだよ。」 5月に始まる来日ツアーは、公開された FUGAZI の映画と共に必見です。Joe Lally です。どうぞ!!

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THE MESSTHETICS “THE MESSTHETICS ” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【BAND-MAID : WORLD DOMINATION】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH KANAMI OF BAND-MAID !!

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Welcome Home, Master & Princess. Band-Maid Are Back With Their Second Full Length Record “World Domination”. Literally, They Are Ready For World Domination!

DISC REVIEW “WORLD DOMINATION”

「お帰りなさいませ、ご主人様お嬢さま!」国内、海外で数多の “お給仕” を行い格段の進化を遂げた日本が誇る戦うメイド集団 BAND-MAID が、世界征服を目論む挑戦状 “WORLD DOMINATION” をリリースしました!!ヴァレンタインに届いた57分の峻烈なる宣告は、ワールドクラスの自信と決意に満ちています。
まさに有言実行。前回のインタビューで 「次の作品も、その次の作品も自分たちの作詞作曲を増やしていきたいと思っています!」 と語ったように、最新作 “WORLD DOMINATION” は3つの共作曲を含め全てがオリジナルの楽曲で占められています。そしてその事実はまさしく本物の証。5人を包むメイド服は貫禄さえ纏い、徹頭徹尾 BAND-MAID 色に染め上げられた純粋なハードロックチューンの数々は、瑞々しさと共に偉大な先人たちのスピリットや美学を濃密に継承しているのです。
アルバムオープナー “I can’t live without you.” の圧倒的な躍動感はもはや事件です。KANAMI の創造する不穏で重厚なリフワークはまさに世界征服の狼煙。斬れ味鋭いリズム隊が牽引するファスト&ソリッドな楽曲は、扇情力を増しながら SAIKI の激情を込めたコーラスで制御不能のカタルシスを浴びせます。
「終わらぬ夢を見たいんだ 終わらぬ夢を見たいんだ 音もなく 堕ちていく それでも まだ… I can’t live without you. 」 同時に MIKU の投げかける熱情の詩は、男女間の恋愛以上にバンドとファンの間に存在する熱い想いを代弁し、渦巻くロックのロマンの中で互いに不可欠な関係であることを宣言しているのでしょう。これ以上ないほどに素晴らしき闘いの幕開けです。
“DOMINATION” や “CLANG” を聴けば、バンドの一体感やテクニックの飛躍的な向上が伝わるはずです。楽曲の複雑なデザインを掻い潜り、小節ごとにパターンを変えながら豊かなバリエーションを生み出す AKANE と MISA のアレンジメントは卓越していて、勿論、ファストなフレーズからアウトラインのスケールまで自由自在の KANAMI を加えバンドの創造性はかつて無いほどに沸騰しています。
“One and only” や “Carry on living” は象徴的ですが、散りばめられたブレイクダウン、四つ打ち、エレクトロニカといった現代的なフックの数々もバンドの広がる可能性を示唆していますね。
何より、根幹にブルーズが存在する BAND-MAID のハードロック道は、WHITESNAKE や MR. BIG の持っていたマジックを濃厚に共有しています。同時に、和の精神、J-POP の豊かなメロディーをも引き継いだ5人の戦士は、先述のコンテンポラリーなメタルやラウドの方法論まで総括しながら唯一無二の “メイド・イン・ジャパン” を築き上げているのです。
アルバム後半、連続して収録されたバラードタイプの心揺さぶる2曲、”Daydreaming”, “anemone” はその証明なのではないでしょうか。相川七瀬、B’z、JUDY AND MARY から延々と連なるジャパニーズロックの血脈はフックに満ちたバラードなしでは語れません。モダンなアレンジとセンス、過去と未来のバランス感覚、そして空間の魔法を駆使した多幸感まで誘って聴かせる “BAND-MAID のハードロック” はここに極まっているのかも知れませんね。
今回弊誌では、KANAMI さんにインタビューを行うことが出来ました。”BAND-MAID が世界征服に向け、先に進む1枚”、ハードロックの Up to Date。どうぞ!!

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BAND-MAID “WORLD DOMINATION” : 9.8/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【JYOCHO : 互いの宇宙 (A PARALLEL UNIVERSE)】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DAIJIRO OF JYOCHO !!

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Japanese Math/Post-Rock Icon, Daijiro Of Jyocho Has Just Released The Most Imaginative, Delicate, and Emotional Record To Date “A Parallel Universe” !!

DISC REVIEW “互いの宇宙”

「JYOCHO は自由な存在です。聞きたい時、あなたが必要な時に聞いてください。」 もはや宇宙コンビニの看板は不要でしょう。日本随一のギターシェフ、だいじろー氏が京都から世界へ和の “情緒” を伝える集合体 JYOCHO。アニメ “伊藤潤二『コレクション』” のエンディングテーマを含む “互いの宇宙 e.p” には、”鮮度” を何よりも愛おしむ料音人の拘りと力量が思うままに詰め込まれています。
デビュー作 “祈りでは届かない距離” から程なくして届けられた前作 “碧い家で僕ら暮らす” には、確かな変化と進化の証が封じ込められていました。童話やお伽噺、夢のある空想の物語から、よりリアルで自然体な世界観へとシフトした作品は、”碧い家” すなわち地球に暮らす私たちの刹那性とそれでも守るべきものについて、住人たちへナチュラルに寄り添い対話をはかります。
rionos から猫田ねたこに引き継がれたボーカルは変化の象徴かも知れませんね。「少年ぽい質感の声が好み」 とだいじろー氏が語るように2人の声質は共に中性的なイメージを特徴とします。ただし、rionos のドリーミーで凛とした歌唱に対して、猫田ねたこの紡ぐ歌は時に繊細で危うい印象を与えます。”悪いベクトルで良すぎない” 彼女の持つ不安定な人間らしさは JYOCHO の定めた新たな方向性とリンクしながら心地よい感情の揺らぎをリスナーへと届けるのです。
現実の大地へと降り立った JYOCHO にはその楽曲にも変化が訪れました。”情緒”、日本的な侘び寂びと歌心により焦点を定めたのは、大海へと漕ぎ出す彼らにとっては必然だったのでしょう。もちろん、トレードマークの数学的なリズムやテクニカルなフレーズは変わらず存在していますが、より自然でオーガニックに楽曲の一部として溶け込んだ目眩くプログレッシブな要素は、バンドの一体感と共に楽曲第一主義の立場を鮮明に知らしめているのです。
“互いの宇宙 e.p.” にはさらに鮮度を増した JYOCHO の今が込められています。
だいじろー氏と伊藤潤二氏、2人の宇宙を昇華する試みは、謀らずしも “互い” の意味を深く掘り下げることへと繋がりました。全てが “互い” で成り立つ宇宙。マクロの視点で世界を俯瞰した結果、だいじろー氏が感じたものはミクロの自分自身と孤独、寂寞でした。
その感情が見事に反映されたタイトルトラック “互いの宇宙”。繊細なドラムワークと美麗なアトモスフィアは斯くも見事に複雑なリズムを隠し通し、ピアノのアンビエンスとだいじろー氏の豊かなオブリガートは、桜の花びらの如く徐々に楽曲を淡く色付け、咲き誇り、そして儚く散るのです。猫田ねたこが強弱やシンコペーションで生み出すメロディーのバリエーションも全てはキャッチーなサウンドスケープのために広がる宇宙の一部分。
特にだいじろー氏の有機的なギターは狭義のマスロックから飛び出して、お気に入りにも挙げている Vahagni のフラメンコやジャズ、現代音楽まで包括したさらなる高みへと達しているように感じます。
もしかしたら、ここに収録された4つの楽曲はそのまま春夏秋冬を、”情緒” を表現しているのかもしれませんね。受け取り方は自由です。確かに言えるのは、”互いの宇宙 e.p.” は円環であるという事実でしょう。「一つのテーマから派生させて、また一つに帰還させるという方法をとりました。」 とだいじろー氏が語るように、作品には共通して流れる歌詞やメロディーが存在します。
寂寞と微かな希望を内包した “互いの宇宙” を起点に、フルートの躍動感を陽の光に重ねた壮大な JYOCHO 流ポストロック “pure circle”, 郷愁のマスエモ絵巻 “ユークリッド”、そしてアコースティックの響きが胸に迫る “互いの定義” まで、印象的な一つのテーマが千々に形を変え純粋な円環を流動する様はまさしく圧巻です。見方を変えれば、この EP 自体が18分の巨大なエピックと言えるのかも知れませんね。
相変わらずだいじろー氏は感覚でした。ただし、その瞬間の積み重ねは、悠久にも思える音楽との対話、思考の末に生まれた唯一無二の感覚なのです。彼がこの作品に落とし込んだ孤独や寂寞は、もしかしたら “互い” を感じる対象が究極的には音楽だけだからなのかも知れません。
今回弊誌では、だいじろー氏にインタビューを行うことが出来ました。「JYOCHOは、触れた人によって形を変える仕組みを持たせています。」 SNSにアップされる演奏動画も、楽曲へ繋がることがあり見逃せませんね。どうぞ!!

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JYOCHO “互いの宇宙” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DUKES OF THE ORIENT : DUKES OF THE ORIENT】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ERIK NORLANDER FROM DUKES OF THE ORIENT !!

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John Payne & Erik Norlander, A Journey That Started With The Supergroup Asia Gives You The Next Chapter Of Legacy, With Dukes Of The Orient !!

DISC REVIEW “DUKES OF THE ORIENT”

誇り高きプログレッシブの遺産と、陰りを帯びた伝統のメロディーを受け継ぐ稀代のミッシングリンク John Payne & Erik Norlander。両雄の鼓動と哲学が交差する DUKES OF THE ORIENT は、凛とした王の血脈を真率に後の世へと伝えます。
巨星 John Wetton の逝去こそが DUKES OF THE ORIENT 生誕のきっかけでした。長らく Wetton の後任として ASIA を牽引し孤軍奮闘を重ねた勇夫 John Payne は、厳しく比較され続けたマエストロの死を機縁に ASIA の金看板を降ろす決断を下します。それは遂に訪れた、彼に巣食う潜在的重圧からの解放だったのかも知れません。
ご存知の通り、ASIA は Payne がフロントを務めた “Paysia” の不遇もあり2006年にオリジナルメンバーでのリユニオンを果たしています。マザーシップから突如として下船を余儀なくされた Payne は、Geoff Downes を除く後期 “Paysia” のメンバー Guthrie Govan, Jay Schellen を伴い、日本が誇る鍵盤の大家、奥本亮氏をリクルートし新たなプロジェクト GPS を立ち上げ唯一のアルバム “Window to the Soul” をリリースしたのです。
“Paysia” の作品となるはずだった “Architect of Time” から楽曲を流用した “Window to the Soul” はメンバーの卓越した技量を反映した充実作でしたが、結局は Payne が ASIA の呪縛から解き放たれることはなく、GPS はオリジナル ASIA の了承を経て ASIA の楽曲をプレイする ASIA Featuring John Payne へと形を変えて存続することになったのです。
ASIA Featuring John Payne で John と運命の邂逅を果たしたのがキーボードウィザード Erik Norlander でした。妻 Lana Lane の作品をはじめ、自身のバンド ROCKET SCIENTISTS, DIO の落胤 LAST IN LINE 等でスマートかつロマンティックな鍵盤捌きを披露するツボを十二分に心得た名コンポーザーとの出会いは、10年という遥かなる時を超え ASIA の名と別れを告げた素晴らしき DUKES OF THE ORIENT の音楽へと繋がることとなりました。(但し、ASIA Featuring John Payne もライブアクトとしては存続するそう。)
異論は多々あるでしょうが、Payne をフロントに据えた ASIA は、少なくとも音楽的には充実したスティントでした。Downes/Payne のコラボレーションは、90年代から00年代初頭というメロディック/プログロック不毛の時代に、確かに命を繫ぐ質実なる実りをもたらしました。ただ、ASIA らしいロマンチシズムから意図的に距離を置き、Payne の野性味溢れる声質をハード&キャッチーに活かす選択は、忠実なファンやレーベルからのサポートをも遠ざける結果になりました。プログレッシブポップが花開く近年を鑑みれば或いは時期尚早だったのかも知れませんね。
ASIA の名を返還した DUKES OF THE ORIENT で John Payne は自由でした。John Wetton との差異を殊更強調する必要もなく、自らの内なる ASIA 全てを表現することが出来たのかも知れませんね。
実際、”血の絆” を響かせるオープナー “Brother In Arms” はオリジナル ASIA と “Paysia” がナチュラルに融合したバンドのマイルストーンだと言えるでしょう。ハードでダイナミックなアレンジや Payne のトレードマークとも言える重厚なコーラスワークは “Aria” の頃の “Paysia” を、溢れ出る哀愁に叙情、ロマンチシズムはオリジナル ASIA をそれぞれ喚起させ双方の美点を5分間のドラマへと昇華します。
同様に “True Colors” の劇的なメロディーを宿す “Strange Days” では、繊細なアレンジメント、アンセミックなキーボード、Guthrie Govan の傑出したギターワークで “Aura” で示した “Paysia” の可能性をも明確に示唆します。
勿論、オリジナル ASIA のコードセクエンスや “ダウンズサウンド” を惜しみなく披露する “Time Waits For No One” “Fourth of July” 等はやり過ぎの感もありますが、同時に荘厳にして華麗、好き者には堪らない胸踊る完成度であることも事実。
加えて、Erik が 「僕は ELP, YES, KING CRIMSON, JETHRO TULL, PROCOL HARUM といった偉大なバンドたち、70年代のブリティッシュプログと共に育ったんだ。それこそが僕の音楽的なルーツだよ。同じようなルーツを ASIA も持っているんだ。」 と語るように、”Fourth of July” のドラマティックな後半部分では、ASIA よりも “プログレッシブ” な先人達の遺産を巧みに消化し、8分間のエピックに相応しき構成と展開を築き上げているのですから感服の一言です。
“A Sorrow’s Crown”, “Give Another Reason” で魅せるチャーチオルガンやスパニッシュギターの躍動感も DUKES OF THE ORIENT の存在感を一際掻き立て、Jay Schellen のコンテンポラリーかつ安定感のあるドラミング、Rodney Matthews の美しきアートワークと共に UK プログレッシブの伝統と血の繋がりを強く主張しています。
少なくとも、90年代からシーンを見守って来たファンであれば、Payne & Norlander 2人の才能や存在自体があまりにも過小評価されていることは憂慮しているはずです。”Dukes of the Orient” にはその評価を覆すだけの稀有なる魔法が存在するのでしょうか?”Only Time Will Tell”。時が来ればその答えは出るはずです。きっと良い方向に。
今回弊誌では、Erik Norlander にインタビューを行うことが出来ました。奥様からもメッセージをいただけましたので、Lana Lane ファンも必読です。どうぞ!!

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DUKES OF THE ORIENT “DUKES OF THE ORIENT : 9.8/10

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WORLD PREMIERE “WHILE THIS WAY” 【ÁRSTÍÐIR : NIVALIS】


WORLD PREMIERE: ÁRSTÍÐIR “WHILE THIS WAY” FROM “NIVALIS”

ÁRSTÍÐIR redefine their sound and take an evolutionary quantum leap that will catapult the eclectic Icelandic band from a highly praised phenomenon at the fringe straight to the centre of international attention. ÁRSTÍÐIR were never an ugly duckling, but now their musical swan has emerged in its full glorious beauty on ‘Nivalis’.

エクレクティックな音のダンス。アイスランドの美しき白鳥 ÁRSTÍÐIR が飛躍的進化を果たす新作 “NIVALIS” を6/22にりりーすします!インディー、プログ、フォーク、チェンバー、クラシカル、ポストロック。ÁRSTÍÐIR を定義する要素は多々ありますが、彼らはそのどの場所にも止まってはいません。アイスランド語で四季を意味するバンド名。アコースティックの美しき響きはミニマルなエレクトロニカのカウンターパーツとして、儚い壊れ物の感情とメランコリーを喚起します。

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Those inevitable comparisons with fellow countrymen SIGUR RÓS will most likely not go away with ‘Nivalis’, although ÁRSTÍÐIR have clearly developed a style very much their own. Yet other parallels drawn about past references such as SIMON & GARFUNKEL or PENTANGLE are bound to make way to fresher and more recent names pointing way past the also previously mentioned RADIOHEAD.

もちろん、同郷の SIGUR RÓS との比較は避けがたい事象でしたが、それさえも振り払うほどの革新が “Nivalis” には存在します。同様に過去多く比較を繰り返された SIMON & GARFUNKEL, PENTANGLE, そして RADIOHEAD の幻影からも歩みを進めているのです。

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“We are so pleased to finally be able to present to you the first single from our upcoming album ‘Nivalis’, entitled ‘While this Way’. This song was in the works for over a year before it came to be what you’re hearing now. If you managed to catch us on the Sólstafir tour at the end of 2017, it might sound familiar. We kind of ‘tested’ this song out on you, the audience, every night and fine-tuned it to exactly the point where we wanted it to be. We hope that you love it as much as we do!”

遂に新作 “Nivalis”からファーストトラック “While This Way” を公開することが出来て嬉しいよ。この楽曲には今の形になるまでに一年以上の月日を注いだんだ。SOLSTAFIR との昨年のツアーで、毎晩この楽曲をテストしていたくらいでね。おかげで目指す形へと辿り着いたよ。僕らと同じくらい気に入ってくれたらいいな!

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【KINO : RADIO VOLTAIRE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JOHN MITCHELL OF KINO !!

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A Sleeping Prog Supergroup, Kino Emerges For The First Time In 13 Years With Incredible Prog Pop Drama “Radio Voltaire” !!

DISC REVIEW “RADIO VOLTAIRE”

至高の幻影 “Picture” を残し忽然と姿を消したプログワールドの蜃気楼、KINO が甦生の返り花 “Radio Voltaire” を海外で3/23に、日本では4/25にリリースします!!奇蹟にも思える陽炎13年振りの再臨は、残像に支配された長年の空寂をいとも簡単に切り裂きます。
MARILLION の Pete Trewavas、IT BITES の John Beck、ARENA の John Mitchell、PORCUPINE TREE の Chris Maitland が集結しリリースした KINO のデビューアルバム “Picture” は、プログレッシブ第二世代以降の才腕を凝縮し遺憾無く発揮したスマートかつメロディアスな洗練の極みだったと言えるでしょう。しかしスーパーバンドは一夜限りの砂上の楼閣。音もなく崩壊し、各自己のキャリアへと踵を返した経緯はごく自然にも思えました。
ただ、プログロックのファンは決して名作を忘れません。燻り続けた新作を望む声はレーベルを、やがては 「KINO を復活させることは考えてもいなかった。」 と語るメンバー本人たちをも動かしました。
復活作のキャストは期待通り、ほぼオリジナルメンバーが揃いました。ただ、ドラマー Chris は不参加で後任を FROST*/Steven Wilson の Craig Blundell が務め、John Beck は Fish との仕事の為にゲスト参加扱いですが。
気鋭のアーティスト Paul Tippet の手による色鮮やかでしかしどこかシニカルなアートワークは、”明白な真実” のみを語るレディオショウへとリスナーを存分に誘い、1920年代ドイツのラジオアナウンスメントで幕開けの準備は整いました。
リスナーの胸の高鳴りに応えるように、冒頭から鳴り響く John Beck の暖かくどこか懐かしいキーボードの音色は John Mitchell のエモーションに満ちたギターメロディーと溶け合い、タイトルトラック “Radio Voltaire” のエセリアルな浮遊感と共にバンドの帰還を鮮烈に告げます。Mitchell の親しみやすいボーカルは成熟と深みを増し、リズムマスター Pete & Craig のドライブに導かれ流動するハーモニーの海を開拓していくのです。
「確かにこのアルバムはポップソングを集めたものだと言えるかもしれないね。ただ、僕たちが充分に手を加えたポップソングだよ。」 と Mitchell が語るように、Steven Wilson が提唱するプログポップの領域へと接近したかにも思える “Radio Voltaire”。
確かにキャッチーなタイトルトラックですが、勿論この知性はラジオで流れる定型的なポップソングとは異なります。つまり、オープンマインドと表現の自由を主張したフランスの哲学者ヴォルテールの名を冠することで、彼らは音楽産業への皮肉と共に自らの率直なクリエイティビティを宣言しているのです。
感傷と希望を等しく宿す “Idlewild” は、2人の John のメロディーセンスが知的で絶妙のアレンジメントと完璧に融合した、アルバムを象徴する楽曲かも知れませんね。実際、John Wetton の魂が降臨し3人の John が奏でたようにも思える旋律と感情の美麗なる邂逅は、英国の “荒野” に雲間から差し込む光の如く神秘なる審美です。
THE WHO の “Won’t Get Fooled Again” をメランコリックに再構築する “I Won’t Break So Easily Any More” でバンドのエナジーを見せつける一方、”Temple Tudor” ではバロックで牧歌的なイメージを提示するなど楽曲のバラエティー、緩急のインパクトも巧妙。
そうして辿り着く、アルバムを締めくくる叙情のロマンティック三連撃は圧倒的です。美しく翳りを宿した切ないメロディーの洪水は、優しくしかし深々とリスナーの胸を抉り感傷の痕跡を残していきます。
実際、”Grey Shapes On Concrete Fields” で見せる Craig の実力を活かしたパーカッシブなアレンジメントやポリリズムなどは非常に複雑かつプログレッシブ。同時に究極にドラマティックで、しかし短編映画を思わせるコンパクトなデザインを実現した濃密なフィナーレはまさにプログポップの理想を体現していると言えるのではないでしょうか。
今回弊誌では John Mitchell にインタビューを行うことが出来ました。ギタープレイヤーとしても音の選択が非常にクレバーだと感じます。「また13年したら新しいアルバムを作るよ!」 本誌2度目の登場です。どうぞ!!

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KINO “RADIO VOLTAIRE” : 9.8/10

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