NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MUTOID MAN : WAR MOANS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH STEPHEN BRODSKY OF MUTOID MAN !!

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Converge / Cave In Super Group, Mind-Blowing Behemoth, Mutoid Man Literary Melt Your Mind With Their Newest Record “War Moans” !!

DISC REVIEW “WAR MOANS”

CONVERGE, CAVE IN, ALL PIGS MUST DIE のメンバーが集結した突然変異のスーパーグループ MUTOID MAN が奔放かつ不遜、バッダースな新作 “War Moans” をリリースしました!!キャッチーなロックン・ロールのイメージを獰猛なメタルのアグレッションに投影した、チャーミングかつタイトなレコードはシーンの大いなる期待に応えて余りある一撃となりました。
シリアスで暗色調なアティテュードが枢軸となるコンテンポラリーなメタルシーン。狂気やユーモア、風刺を宿す MUTOID MAN のシアトリカルで本来のメタルらしいコンセプトは、実際異端で新鮮なカウンターとして際立っています。
インタビューにもあるように、”War Moans” は “セクシャリティ”、性行為や性的欲求にフォーカスした作品です。アートワークやタイトルが示すように、性的指向、欲求が日増しに暴走する現代社会を、戦争という極限状態へと投影しある意味戯画化することで、現代の異様さ “倒錯性” “変態性” を浮き彫りにしているのかも知れませんね。実際、バンドは “War Moans” を “Perverted” 変態的なレコードだと断言しています。そしてその柔軟なユーモアはポップセンスに、辛辣な毒気はアグレッションに姿を変えて作品の音楽性に反映されているのです。
文字通りリスナーの心を溶かすアルバムオープナー、”Melt Your Mind” はそういった彼らの意図を十二分に汲み取った楽曲です。キャッチーでスピーディー、ハイパーアクティブなバンドの新たなアンセムは、Brodsky のフックに満ちたギタープレイ、ファジーでラウドな Nick のベース捌き、そして Ben Koller の数学的かつダイナミックなドラミングに牽引されて、空襲にも似た爆発的なエナジーを発します。
加えて、あの VAN HALEN をも想起させるボーカルハーモニー “hoo-ooo” の火力も絶大で、物憂げなメロディーとの相乗効果は無上の中毒性をリスナーへと植え付けて行くのです。
続く”Bone Chain” ではさらにアンニュイなメロディーが中毒性を増し、MOTORHEAD meets QUEENS OF THE STONE AGE とでも形容可能、ドラッグのように危険でオルタナティブなキャッチーネスを創造していますね。
インタビューにもあるように、パンクやハードコアは勿論ですが、特に初期のメタルスピリット、80年代という時代を意識しリスペクトして制作されたアルバムで “Irons in the Fire” からタイトルトラック “War Moans” への流れはまさに作品を象徴しています。
MEGADETH の “Countdown to Extinction” をイメージさせる大仰なイントロ、スラッシュの衝動、テクニカルなシュレッド、インテレクチュアルなリズムワーク、シンガロングを誘うキャッチーなコーラス。”Irons in the Fire” は、かつてメタルが備えていた祝祭的な高揚感を胸いっぱいに浴びつつ、マスマティカルでスペーシーに味付けしたモダンな感覚と共に現代へと叩きつけているのです。
さらに SLAYER の “War Ensemble” に対する極上のオマージュにも思える “War Moans” では、あの時代を象徴するシュレッダー Marty Friedman が、トレードマークのコード感抜群で変拍子を切り裂くリードプレイでバンドの主張を代弁しています。
こういった凶悪な楽曲においても、Brodsky はスクリームや吐き捨てを駆使してあくまでメロディーを追い、勿論あの素晴らしき CAVE IN で確立したスタイルから遠く遊離する訳もありませんが、グロウルは使用していませんね。彼のそのトレードマーク自体も、グロウルが飽和気味な界隈に対する強いアンチテーゼ、風刺となっているように感じました。
とは言え、アルバムは決してオプティミスティックな押しの一辺倒ではありません。ブルージーでスロウ、スラッジーにバンドのシリアスな一面を見せつける “Kiss of Death” はアルバムの裏ハイライトとして作品に妙なる濃淡をもたらし、何よりこのマスターピースを締めくくる衝撃のパワーバラード、ダークな歌姫 Chelsea Wolfe を起用した “Bandages” では、慈愛と憂鬱の相反するエモーションを深々とサウンドに込め、バンドのジャンルスパニングでフレキシブルな才能を絶佳なるコントラストとして見事レコードに落とし込んでいるのです。
作品のプロデューサーでもある CONVERGE の Kurt Ballou が、カオティックに暴走する “Micro Aggression” ではなく、意外にもこの2曲にゲスト参加を果たしていることを付け加えておきましょう。
今回弊誌では、ex-CONVERGE で CAVE IN のマスターマインド Stephen Brodsky にインタビューを行うことが出来ました。マーティーさんによれば、「新しいアルバムはエグい! クッソかっこいい! メタルかロックかパンクか分からないけど、とにかく生々しいヘヴィ・ミュージック! コイツらはホンモノだ、保証付き!!」 だそうですよ。どうぞ!!

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MUTOID MAN “WAR MOANS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ELDER : REFLECTIONS OF A FLOATING WORLD】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH NICK DISALVO OF ELDER !!

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Massachusetts Based Artistic Heavy Rock Act, Elder Take You An Adventure That Won’t Be Soon Forgotten With Their Progressive & Eclectic New Record “Reflections Of A Floating World” !!

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DISC REVIEW “REFLECTIONS OF A FLOATING WORLD”

マサチューセッツからストーナー/ドゥームの翼を広げるアートロックバンド ELDER が、革命的な新作 “Reflections Of A Floating World” をリリースしました!! 音のキャンバスに描かれる芸術的で想像性豊かな色彩は、リスナーを遥かなるサウンドスケープの旅路へと誘うことでしょう。
ファジーでスロウ。シンプルなストーナーアクトとしてスタートした ELDER は、プログ/ヘヴィーサイケの方角へと舵を切り、今や最もクリエイティブでアーティスティックなヘヴィーロックバンドと称されています。リスナーに豊潤なアドベンチャーやストーリーを喚起するあまりにシネマティックな作品と、ジャンルを縦横無尽に横断する精神性はその確かな証拠となっていますね。
中でも前作 “Lore” は、リフ、メロディー、コンポジションに最上級のデザインと創造性が施され、プログレッシブドゥームの傑作として各所で高い評価を得た作品でした。しかし、バンドは “Reflections Of A Floating World” で自身の最高到達点を易々と更新して見せたのです。
アルバムオープナー、”Sanctuary” の威風堂堂としたリフクラフトはまさに ELDER の真骨頂。揺るぎなきそのファジーな響きはバンドのルーツを主張し、リスナーを “浮世” という聖域へ導く道標と化していますね。
楽曲の中間部では、バンドのフロントマン、ボーカル/ギター Nick DiSalvo が演奏家としての実力を存分に見せつけます。エモーションとテクニック、そしてエピカルな旋律を意のままに操り融和させたロングリードは、仙境なるアルペジオや起伏の激しい山々の如きリズムアプローチをアクセントとして極上のアドベンチャーを紡いで行きます。
実際、これほどまでギターサウンドが的確に、存分に、華麗に設計、レイヤーされたレコードは簡単には見当たりません。それはすなわち、4人目のメンバーとなったセカンドギタリスト Michael Risberg、ペダルスティールのスペシャリスト Michael Samos を不可欠な存在としてアルバムに招聘する理由となったのです。
“The Falling Veil” では、”Lore” から一層上のステージへと移行した Nick のボーカリストとしての魅力も開花します。表現力とレンジが広がり、自信に満ちた彼のサイケデリックな歌唱は Ozzy Osbourne のような中毒性をも携え、決してメジャーとは言えないジャンルのバンドがリーチを拡大するための大きな武器となっていますね。
さらに、”The Falling Veil” はバンドの新たな地平も提示します。PINK FLOYD のムードを存分に浴びてスタートする楽曲は、クラッシックプログ、クラウトロック、インディーなどの影響がシームレスに芽生える、カラフルで多彩な浮世草子と言えるかも知れません。レトロとモダン、ヘヴィネスとアトモスフィア、シンプルとマスマティカルを行き来する楽曲のコントラスト、ダイナミズムはまさに唯一無二。インタビューで語ってくれた通り、「より複雑でプログレッシブ」となったアルバムを象徴する起伏に富んだ楽曲は、「音楽を聴いている時、頭の中にストーリーを描けるようなサウンド」として完成を見たのです。
バンドが誇るコンテンポラリーな多様性はジャンルのみに留まらず、百花斉放なその使用楽器にも及びます。人生を変えたアルバムのトップに ANEKTODEN をリストしていることからも、バンドのプログレッシブロックに対する造詣の深さが伝わりますが、”The Falling Veil” を引き合いに出すまでもなく、メロトロンを彼らほど巧みにヘヴィーロック/メタルへと取り入れた集団は OPETH を除いては存在しないでしょう。
アルバムを聴き進めれば、フェンダーローズが素晴らしき色を添える “Staving Off Truth”、ペダルスティールが主役を務め Miles Daves の遺伝子を宿した “Sonntag”、メロトロンとピアノがヘヴィーなリフストラクチャーと見事な対比を生み出す “Blind” など、Nick が語ってくれたように 「ヘヴィーロックではあまり聴くことの出来ない楽器」でヘヴィーロックを新たな領域に導いていることに気づくはずです。
ジャンルのマスターマインドである MASTODON がキャッチーであることにフォーカスした今、ELDER の切り開く新たなフロンティアはシーンにとって掛け替えのない財産となっているのかも知れませんね。
今回弊誌では Nick DiSalvo にインタビューを行うことが出来ました。日本の “浮世” ともリンクし、マテリアルワールドとスピリチュアルワールドを往来する64分の壮大な叙事詩。6曲全てが10分前後ながら、リッチで瑞々しく、全く冗長さを感じさせない圧倒的な構成力にぜひ酔いしれてみてくださいね。どうぞ!!

ELDER “REFLECTIONS OF A FLOATING WORLD”: 10/10

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MASTERPIECE REVIEW + INTERVIEW 【PENDRAGON : THE MASQUERADE OVERTURE】JAPAN TOUR SPECIAL !!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH NICK BARRETT OF PENDRAGON !!

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Unseen Prog Giant, The Mastermind Of “Second Wave Of Prog”, Pendragon Will Come To Japan For The First Time Ever In Their Long 40-Year Career !! Don’t Miss “The Masquerade” Night !

DISC REVIEW “THE MASQUERADE OVERTURE”

まだ見ぬプログレッシブジャイアント、ネオプログの体現者 PENDRAGON が遂に初来日を果たします!!名作 “The Masquerade Overture” にフォーカスするシンフォニックの祭典は、待ちわびた日本のファンを魅了する劇的な仮面舞踏会となるでしょう。
PENDRAGON はプログレッシブ第2の波として、80年代から90年代にかけて MARILLION, IQ, PALLAS などと共にネオプログレッシブムーブメントを牽引したバンドです。
プログレッシブロックのオリジネーター、GENESIS や YES といった第一世代のバンドが自身のコンフォートゾーンから離れ、時代性や可能性を模索することとなった70年代後半~80年代前半。ネオプログの俊英たちは、先人が残した伝統や遺産を守護するかの如く颯爽とシーンに登場します。そして彼らが受け継いだシンフォニックでドラマティシズムに満ちた音楽性と、ファンタジーをテーマとしたコンセプトから、ネオプログレッシブムーブメントは後にポンプロック(華麗なロック)と称されるようになっていったのです。しかし突然背負わされたその呼称こそが彼らにとっては残酷で酷く重い十字架となったのかも知れません。
Pomp とは “華麗”、”荘厳” という意味がある一方で、”虚構” というネガティブな意味をも内包した言葉。つまり英国のメディアは、一見ネオプログを賛美しているように思わせながら、その実は第一世代の “まがいもの” “代替者” としてどこか冷めた目で見ていたのでしょう。実際、第二世代が志したファンタジックなプログレッシブロックのリバイバルは、パンクを筆頭とするあまりに現実主義的な当時の音楽シーンの流れとは相反するもので、ムーブメントも長くは続きませんでした。
ただ、インタビューにもあるように、ネオプログの才人たちは、時代やムードに翻弄され続けながらも戦いを止めませんでした。メタルの波にも乗り切れず、グランジに席巻され、気がつけば PORCUPINE TREE を首領とするプログレッシブ “第三世代” が登場し注目を集めているという状況は、ともすれば心が折れてしまいそうなほどに残酷ですが、それでも MARILLION, IQ, そして PENDRAGON といったバンドは良質な作品をリリースし続けたのです。2010年代以降、海外でのネオプログ再評価の流れは、遂に彼らの高い音楽性とセンス、そして音楽に対する愛情が報われた瞬間だと言えるかも知れませんね。
第二世代の中でも勿論、MARILLION は別格の人気を誇って来ました。それはニューウェーブやメタルなど、ある程度時代の変遷を意識して作風を変化させて来たからとも言えそうです。実際、94年にリリースした名作 “Brave” ではファンタジーの世界に別れを告げ、当時のトレンドであるグランジやインディーにも目を配ったダークなリアリズムで勝負をかけ成功を収めた訳ですから。
しかし今回、Nick の言葉で驚きだったのは、ファンタジーとシンフォニーを追求し続けた PENDRAGON にとっても90年代は素晴らしい時代だったと断言している部分です。確かに PENDRAGON の90年代三部作とも言える “The World”, “The Window Of Life”, “The Masquerade Overture” は、メロディーの充実度、類まれなるコンポジション、そして演奏共に群を抜いています。しかし、セールスも好調であったという事実は、少なくとも弊誌の持つあの時代のイメージとはかけ離れていました。そこには PENDRAGON がすでに80年代から、現在の DIY の先駆けとも言える自身のレーベル “Toff Records” を設立していたという強みが存在したのです。
インターネットの発展もあり、現在でこそ浸透している DIY のレコード戦略ですが、当時彼らがそれを実現させるためにどれ程の努力、時間が必要だったか、想像するだけで頭が下がります。インタビューにもあるように、ファンレターを全て手書きで返信し、ファンクラブも運営。勿論、プロモーションや販売なども全てを自らの手で行わなくてはならないのですからそのタスクは膨大です。しかし、その努力は強固なファンベースを作り上げることへと繋がり、結果として時代に左右されず今日までバンドが力強く存在する理由ともなったのですね。PENDRAGON が選択したこの方法論は、現代を生きるバンドにとっても大きな参考になるはずです。
あまり音楽自体に触れずに来ましたが、今回 PENDRAGON が日本へと持ち込む “The Masquerade Overture” は、ヨーロッパのプログレッシブシーンにおいて “Essential Masterpiece” “不可欠な傑作” として位置づけられ賛美されています。Tony Banks の後継者、Clive Nolan が創出するカラフルなシンフォニーは作品に極上のアトモスフィアを加え、”Guardian of My Soul” の卓越したシンセソロではリスナーに自身の個もアピールします。Peter Gee, Fudge Smith のリズム隊は強固で、複雑なリズムにも抜群の安定感で対応。そして何よりコンポーザーでギター/ボーカル Nick Barrett の例えば、Andy Latimer, Dave Gilmour を想起させる、時にエモーション、時にメランコリー、そして時にパッションを深く湛えたメロディーの数々は、英国訛りとディストーションの温かみを伴って、まさに珠玉と呼ぶに相応しい輝きを放っているのです。
モーツァルトのレクイエムにインスピレーションを受けた、オーケストラとクワイアが彩る壮大なタイトルトラック “The Masquerade Overture” で幕を開けるアルバムは、善と悪の対立をコンセプトとしています。その対立を反映するかのごとく巧みに配置された、無上のポップネスと有痛のメランコリー。そのコントラスト、カタルシスは唯一無二で、まさしくバンドが “Pomp” な存在ではないことの確かな証ではないでしょうか。
今回弊誌では、Nick Barrett にインタビューを行うことが出来ました。奇しくも盟友 MARILLION の来日も決定しています。日本では長らく無風だった “第2の波” が遂にスポットライトを浴びる時が来たのかも知れませんね。どうぞ!!

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PENDRAGON “THE MASQUERADE OVERTURE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【IGORRR : SAVAGE SINUSOID】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH GAUTIER SERRE A.K.A. Igorrr !!

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Mastermind Of Modern Metal Revolution, Igorrr Sets A New Standard Across Styles Of Music, With His New Masterpiece “Savage Sinusoid” !!

DISC REVIEW “SAVAGE SINUSOID”

多様性をランドマークとするモダンメタルシーンの最前線に立ち続ける、フランスの鬼才 Igorrr が待望の最新作 “Savage Sinusoid” をリリースします!!メガレーベル Metal Blade Records と契約を果たし、自身の最高峰を更新する傑作を完成させた Igorrr の世界制覇は目前です。
Igorrr とは誇り高きフランスのコンポーザー/マルチプレイヤー Gautier Serre のソロプロジェクト。ブレイクコア、グリッチホップ、トリップホップ、バロック、クラシカル、ワールドミュージック、サイバーグラインド、デスメタル、ブラックメタルなど百花斉放、極彩色のインスピレーションを濃縮し、時代もジャンルも超越したそのサウンドスケープは即ち規格外のモンスターだと言えるかもしれませんね。そして、インタビューにもあるように Gautier は、その至高の怪物を各ジャンルのスペシャリストを招集することで制御し、自らの意のままに操っているのです。”Savage Sinusoid” のアートワークに描かれた結合のスフィアは、まさにそのシンボルだった訳ですね。
アルバムオープナー、”Viande” は Igorrr の野蛮な “Savage” サイドを象徴する楽曲です。エクストリームメタルの新たなエイリアン、奇妙な咆哮を宿した2分弱のエレクトロブラッケンドデスメタルは、息を呑むほどに野蛮で斬新。邪悪で過重な質量を纏うギターリフと、鋭利なグリッチサウンドが交差し、リズムの主導権を奪い合う様はまさしく圧巻の一言で、同時に呪詛のごときシアトリカルなスクリームは地球上で最も多様な Igorrr 劇場の開幕を告げています。
Igorrr の多様性、 “Sinusoid” サイドを体現する “ieuD”, “Houmous” の流れがシーンに与えるインパクトは絶大でしょう。ハープシコードとエレクトロビート、バロック音楽とエレクトロニカ。400年の時を超えて邂逅した、17世紀と21世紀を象徴するサウンドとジャンルは、4世紀のギャップなど存在しないかのように “ieuD” で魅惑の融合を果たしています。
中盤、荘厳なる美の結晶、狂気すら入り交じる Laure Le Prunenec のオペラティックな歌唱をコアとして、ブラストビートとブレイクビーツが入り乱れる魔展開は確かにカオティックですが、テクニカルで深層まで注意深くデザインされたそのコントラスト、タペストリーサウンドは、奔放、野性味というよりはコントロールされたカオスといった印象を与えていますね。つまり、彼のエクレクティックなチャレンジは、決して客寄せのサーカスではなく、自身の創造性、シネマティックな絵画を完成させるための絵の具や技法であるとも言えるでしょう。
“Houmous” で Igorrr のサウンドはさらにその世界を広げて行きます。”ieuD” で時空を超えた彼の音楽は軽々と地平をも飛び越えて進化を続けます。バルカン半島へとたどり着いた彼のイマジネーションは、バルカン音楽とエレクトロニカ、そしてブラストビートを結びつけ異形のエモーションを創出します。
音楽も多様なら舞台に上がる楽器の種類も実に多様。アコーディオンにサックス、フルート、そして楽曲の後半にはニンテンドーの実機を使用したチップチューン8bitサウンドまで登場するのですから、インタビューで “No Limits, No Boundaries” と断言するのも頷けますね。何より、今回の作品では全ての楽器が、サンプルではなく実際にプレイされており、その繊細かつオーガニックなサウンドはアルバムのリアリティーを飛躍的に高めていると同時に、作品のディレクションさえ以前よりソリッドにフォーカス成し得ていると感じました。アコースティック楽器とエレクトロニカサウンドのシュールなコントラストはアルバムの特筆すべき場面の一つでしょうね。
ムーブメントとしての djent が終焉を迎えシーンに定着した中で、Igorrr の”Savage” と “Sinusoid” を融合させる時代も空間も超越したユーフォリアは EDM や hip-hop が席巻する現在の音楽シーンだからこそ、新たなトレンドとしてモダンメタルをさらに前進させる可能性を多分に孕んでいます。インタビューでも語ってくれた通り、少なくともこのジャンルは未だに進化を続けているのですから。最後に、CATTLE DECAPITATION の Travis Ryan が3曲で無慈悲なグロウルを披露し、作品の “Savage” をより際立たせていることを付け加えておきましょう。
今回弊誌では、Gautier Serre にインタビューを行うことが出来ました。ほとんど多様性とコントラストについてしか言及しない Marunouchi Muzik Magazine ですから当然この作品こそ2017年上半期の最重要アルバムだと断言いたします。どうぞ!!

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Igorrr “SAVAGE SINUSOID” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【tricot : 3】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH tricot !!

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The Best Girls Trio On Earth, tricot Makes Math-Rock Great Again With Their New Milestone “3” !!

DISC REVIEW “3”

日本のマスロック/ポストロックのランドマークとなった歴史文化都市、京都から世界へと進出し快進撃を続けるガールズトリオ tricot が時代を切り拓く一撃 “3” をリリースしました!!ポップ、パンク、そしてプログまで取り込んだ前人未到の方程式は世界を驚かせるに充分なインパクトを纏っています。
日英米同時リリースとなった最新作 “3” は、インタビューにもあるようにバンドが最も自由を謳歌した「何でもアリ」な作品に仕上がりました。ドラムス komaki♂ 脱退後リリースされた “A N D”, “KABUKU EP” は共に数名のサポートドラマーたちと共に制作されましたが、今作ではライブのサポートも務める吉田雄介氏がほぼ全ての楽曲でプレイ。フレキシブルにトリオの意思に反響するセンシブルなドラムスを得て、バンドはその野性味と知性を最高の形で開花させたと言えるかも知れませんね。
勿論、変幻自在なリズム、マスマティカル(数学的)な変拍子の洪水がシンボルとなり、特に海外では “マスロック” “Math-rock” と称される tricot の音楽ですが、多彩を極めるのはリズムだけではありません。”3″ で確かに実現したカラフルで鮮やかな楽曲群、世界観はしなやかにバンドの成熟、進化を伝えています。
また、tricot のその自由な実験精神は CD のパッケージングにも表層化しています。ブックレットもアートワークもなく、透明のケースにただ “3” と書かれただけのミニマルパッケージ盤(1500円)と同時に、クリエイター・チョーヒカルとのコラボレーションによるアートボックス、999枚限定デラックス盤(4500円)を用意。「今通常盤として世に出されている形が果たして今もみんなにとって通常であるのか」。拡散するリスナーの要望と改革の進まぬ音楽産業の落差に疑念を抱き、一石を投じるバンドのチャレンジは実に潔く、大いに賞賛されるべきでしょう。
アルバムオープナー、園子温監督のオリジナルドラマに使用された “TOKYO VAMPIRE HOTEL” を聴けば、tricot がロックの持つ原衝動とインテリジェンス、そしてポピュラリティーをナチュラルに凝縮させていることに気づくはずです。楽曲の持つインテンシティー、パンキッシュな衝動、コンテンポラリーな展開は AT THE DRIVE-IN をも想起させ、その凄みはポストハードコアの領域へと達していますね。
進化の証である、ファストでアグレッシブな2分30秒が過ぎ去ると、バンドは別の顔を見せ始めます。メロディックでキュートな “WABI-SABI” はバンドの真骨頂であり、”TOKYO VAMPIRE HOTEL” の素晴らしきカウンターとして存在しています。tricot らしいポップなヴァースに色を添える楽器隊のコーラス、ハーモニーは楽曲に極上のアトモスフィアをもたらし、同時に生々しいサウンドプロダクションとリズムアプローチの妙は “マスポップ” のパイオニアであることを高らかに宣言しているのです。
実際、椎名林檎のリリカルなムードを内包する “節約家” にも言えますが、2人のギタープレイヤーが創造するインテンスは峻烈で、その意外性に満ちた休符の配置、スタッカートの切れ味、テンションノートの煌めきは作品のコアとして揺るがぬ存在感を放っています。
ダンサブルな “よそいき”、ジャズの息吹を吸い込んだ “DeDeDe”、ボーカルエフェクトや中国語まで活用した “ポークジンジャー” と実にバラエティーに富み色とりどりの作品において、トリッキーなバンドの魅力は “18, 19″ で最高潮に達します。
インタビューで語ってくれた通り、「やりたいこと詰め込んで全部やってやろう」という意気込みで制作されたチャレンジングな楽曲は、実に複雑怪奇。異なるイントロとコーラスのリズムに加え、突然のストップ&ゴーが多発する変則リズムの氾濫は、tricot のクリエイティビティとテクニックを完膚無きまでに見せつけています。特にアクティブでダイナミックなベースラインは群を抜いていますね。
さらにイントロのリズムを注意深く数えれば、”9・9・10・9″ と進行していることに気づくはずです。つまり、”18, 19” とは楽曲の拍子を表しており、タイトルや歌詞、そしてその淡いメロディーから不安定な青春時代の恋愛を想像するリスナーを見事煙にまいているのです。平然と宿された衝撃の”ダブルミーニング”。tricot の虜となる音楽ファンが後を絶たないのも納得ですね。
アルバムは、シンプルにスタートし徐々にコーラスやセブンスコードが重ねられて行く不思議で魅力的なポップチューン “メロンソーダ” でその幕を閉じます。人生を変えたアルバムを見れば分かる通り、貫かれるポップセンスは3人にとって不可欠で、そしてあまりに当然のものとして常に存在しているのでしょう。
今回弊誌では tricot の3人にインタビューを行うことが出来ました。4月には日本が誇るポストロック/ハードコアの祝祭 “After Hours” でプレイし、さらに8月には UK ポストロック/ハードコアの祭典 ArcTanGent への出演も決定しています。
余談ですが、「世に出回ってる tricot の楽譜はだいたい間違っている」そうなので、こちらも画期的な試み “目コピ動画” を公式ショップから購入してみるのも一興です。どうぞ!!

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tricot “3” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【BIG BIG TRAIN : GRIMSPOUND】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH GREG SPAWTON OF BIG BIG TRAIN !!

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Guardian Of Prog, Pride of England, Big Big Train Keeps Getting Bigger And Bigger. The Octet Has Just Released Their Newest Record “Grimspound”! Huge Ensemble Creates The Most Beautiful Tapestries Of The Year.

DISC REVIEW “GRIMSPOUND”

英国プログレッシブのプライド、伝統と熟練の8人編成 BIG BIG TRAIN が壮大なるマスターピース “Grimspound” をリリースしました!!時にフォーキ、時にミステリアス、そして時に無上のメランコリーを放つドラマティックな作品は、プログロックの牙城として実に意義深く聳えたっています。
近年、”プログ” は再びその価値を取り戻し、舞台には様々な若き才能が登場しています。”モダンプログレッシブ” と称されるこのムーブメントにおいて、ある者はメタル、ある者はエレクトロニカ、ある者はポストロック、ある者はアヴァンギャルドへと接近し、そのエッセンスが融解、対流することで多様性を軸とした百花繚乱のプログレッシブサウンドを響かせていることはご存知の通りでしょう。 BIG BIG TRAIN も90年結成とは言え “プログ第三世代” に分類される現代を生きるバンドですが、しかしその “モダンプログレッシブ” の流れとは一線を画しているのです。
YES, ELP, GENESIS, JETHRO TULL。プログロックを創出した偉大な先人たちの遺伝子を色濃く受け継ぎ、伝統をその身へと宿す BIG BIG TRAIN のサウンド、足跡は、レジェンドが失われつつある今、確実にその重要度をさらに増しています。ただ、高いミュージシャンシップと展開の妙、キャッチーでフォーキーなメロディー、幾重にもレイヤーされたシンフォニックなアンサンブル、そして卓越したストーリーテリングの能力を有するバンドは、”ここ10年で最も重要なプログバンド”の一つとして語られる通り、決して第一世代の “Pomp” 代用品ではなく、本物の英傑としてリスナーの信頼を勝ち得ているのです。
2009年の出世作 “The Underfall Yard” でフルート、バンジョー、マンドリン、オルガンなどをこなすマルチプレイヤー/ボーカル David Longdon が加入して以来、BIG BIG TRAIN は人気と共に、その編成もまた “Big” となって行きます。元 XTC の名ギタリスト Dave Gregory を正式に加え6人編成でリリースしたダブルコンセプトアルバム “English Electric” は、多彩な音色を個性と定めたバンドの金字塔だと言えますね。
インタビューにもある通り、当時バンドはライブを行っていなかったためスタジオのみにフォーカスすることとなり、作品にはストリングス、ホーンなど総勢20人弱のゲストプレイヤーが参加。綿密にデザインされたレイヤーサウンドが運ぶ極上の叙情性、情景描写はまさにストーリーテラーの面目躍如。英国の風景を正しく投影し、ステージを想定しない絶佳のアンサンブルを備えた”完璧なる”スタジオアルバムが完成したと言えるのではないでしょうか。
2014年からライブを再開したバンドは、アルバムを再現するために新たなメンバーを物色し、さらに BEARDFISH の鬼才 Rikard Sjöblom とストリングスなら何でもこなす Rachel Hall を手中に収めます。5名がギターと鍵盤両方を演奏可能、ヴァイオリンやフルートもメンバー内で賄える衝撃の8人編成へと進化しリリースした前作 “Folklore” は、タイトル通りトラッド要素を強調しバンドの新たな可能性を提示した意欲作に仕上がり、海外の様々なプログ専門誌で年間ベストアルバムに撰されるシーンの最重要作品となったのです。
最新作 “Grimspound” はジャケットのカラスが示すようにその “Folklore” と対になる作品です。とは言え、ケルトサウンドを前面に配したタイトルトラックで幕を開けた “Folklore” とは対照的に、アルバムはダイレクトにプログロックのダイナミズムを伝える “Brave Captain” でスタートします。静謐でアンビエントなイントロダクションを切り裂きバンド全体が躍動すると、リスナーは1910年代へと時代を遡って行くのです。
David Longdon が紡ぐWW1の英国エースパイロット Captain Albert Ball のストーリーは勇壮にして孤独。その表情豊かで凛々しき歌声は空の”ローンウルフ”が眼前に降臨したかのような錯覚をもたらします。ヴァイオリンと鍵盤が織り成す流麗なダンスは空の主役を際立たせ、シンプルでキャッチーなメロディーのリフレインは勇敢なブレイブキャプテンを讃えます。
実際、ユーティリティーに使用され、時に主役を食うほどの存在感を発するストリングスと鍵盤の活躍は “Grimspound” の特徴だと言えるでしょう。イングランドの忘れられたヒーローたちのストーリーに焦点を当てたアルバムで、Rachel はヴァイオリン、ヴィオラ、チェロを使い分けサウンドに濃淡を刻み、鍵盤隊はシンセ、ピアノ、オルガンを巧みにレイヤーしアルバムのアンサンブルをアートの域まで高めているのですから。
ジャズのインテンスを内包する “On The Racing Line”、フルートの芳醇な響きが郷愁を誘う “Experimental Gentleman” を経てたどり着く “Meadowland” はバンドの今を象徴する楽曲です。確かに “レトロ” がキーワードにも思えた BIG BIG TRAIN はしかし、フォークやエスニックの影響を一層加えることで真に偉大なバンドへとその姿を変えつつありますね。彼らの音楽は一貫してその母国イングランドからインスピレーションを得ていて、かの地の伝承や景色、人物を描き続けています。そして “Meadowland” の素朴で心洗われるトラッドサウンドは、鮮明に緑一面の牧草地帯を、吹き抜ける風を、湿気を孕んだ空気の匂いまでもリスナーにイメージさせるはずです。そうした BIG BIG TRAIN の創出する、イマジネーティブで群を抜いたサウンドスケープは、トラッドの女神 Judy Dyble との詩情豊かなデュエット “The Ivy Gate” に結実しているように感じました。
インタビューにもある通り、コンポーザーが増え続けるバンドは、2009年からEPを含めるとほぼ毎年のように作品をリリースしています。しかし、驚異的な多作にもかかわらず音楽の質は向上の一途を辿っており、”Folklore” から一年経たずに織り上げられた美しきタペストリー “Grimspound” はまさにその素晴らしき証明書と言えるのではないでしょうか。
今回弊誌では、バンドの創立メンバーでメインコンポーザー、流麗なベースラインを聴かせる Greg Spawton にインタビューを行うことが出来ました。日本でも海外と同等の評価を得られるように祈ります。どうぞ!!

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BIG BIG TRAIN “GRIMSPOUND” : 9.8/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【AYREON : THE SOURCE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ARJEN ANTHONY LUCASSEN OF AYREON !!

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The Most Gorgeous Metal Opera In The World, Ayreon Are Back To “Forever” Saga With The Newest Record “The Source” !! Beautiful And Wonderful 70’s Vibes Are Here!

DISC REVIEW “THE SOURCE”

オランダを代表するコンポーザー、マルチプレイヤー、シンガー、そしてプロデューサー、Arjen Anthony Lucassen のメタルオペラプロジェクト AYREON が2枚組90分の一大スペクタクル “The Source” をリリースしました!!AYREON の宇宙を再び拡大し、過去最高とも思えるクオリティーを備えたよりギターオリエンテッドなレコードは、絶佳なる現代のスペースオペラとしてシーンに君臨するでしょう。
“Forever” サーガと称される AYREON のストーリーは、時代も時空も超越した壮大なるSFファンタジー 。まるで “Star Wars” と “The Lord of the Rings” が共鳴し溶け合ったかのような知的かつファンタジックな物語は、実際ロック史に残るエピックとして海外では絶大な人気を誇るのです。
“Forever” サーガのストーリーラインは、アルバムのリリース順に語られる訳ではありません。

「”Forever” とは技術の進歩により長寿の秘密を発見した “Planet Y” に住む水生知的生命体。感情を失い全てを”マシン”に頼るという生き方に進化してしまった彼らは、種族を再度活性化させるため彗星に自らのDNAを託し地球へと送ります。彗星の衝突は地球を支配していた恐竜を滅亡させ、破壊の灰の中から人類が登場したのです。
当初、”Forever” の実験は成功したように思えました。 “Forever”の遺伝子を有する人類は、”Forever” が “マシン”に頼るようになる以前の感情を有していたのですから。しかし、進化をスピードアップさせた “Forever” は、皮肉にも人類が彼らと同様の問題に直面したことを知ります。それはテクノロジーへの依存と感情の危機でした。人類のモラルは発展の速度に追いついてはいなかったのです。”Forever” は人類を自己破壊から救えるのでしょうか?」

これが前々作 “01011001” のプロットであり “Forever” サーガの”エピソード0″に位置する話です。
そこからストーリーはファーストアルバム “The Final Experiment”、つまりエピソード1” へと繋がります。2084年に最後の世界大戦が起こり、火星へと移住し滅亡する運命の人類。2084年の科学者たちはタイムテレパシーで過去へと警告を発し、さらに人類は “Forever” に導かれ様々な時代、人種が滅亡を回避するための行動を続けて行くのです。
“The Source” は “エピソード-1″ に位置するストーリー。さらに時を遡り”Forever” が “Planet Y” へと辿り着く以前の物語が描かれています。

「人類の大きな祖先とも言える “The Alphans” は、環境問題や政治的混乱により危機を迎えていました。彼らの星を守るため “The Alphans” はグローバルコンピューター “The Frame” に全てを託しますが、コンピューターが星を守るために下した結論は、”The Alphans” の根絶だったのです。星から脱出可能な宇宙船は1台だけ。搭乗が許されたのは技術や能力を備えた一部の “The Alphans” のみでした。そうして彼らがたどり着いた惑星こそ “Planet Y” だったのです。
“The Frame” から解放された “The Alphans” は “Forever” と称するようになりました。それはテクノロジーを進化させ開発した、”マシン” により永遠の命を保証されたからに他なりません。しかし同時に “Forever” はテクノロジーに依存しすぎたがためその感情を失い、より高く構築した建物は太陽の光を全て遮り “Age of Shadows” という暗黒の時代を迎えてしまったのです。そうして彼らは地球に DNA を送ることとなったのです。」

ここまで長きに渡り、しかもスムーズにストーリーが繋がると戦慄すら感じますが、作品を通じてテーマとし警鐘を鳴らし続けるのが、”テクノロジーへの依存” がもたらす危険であることは明らかですね。
音楽的には、インタビューにもあるように、Keith Emerson, Rick Wakeman, Jodan Rudess など鍵盤のレジェンドを起用してプログレッシブかつキーボードオリエンテッドに仕上げた前作 “The Theory of Everything”、そして Anneke van Giersberge とタッグを組んだ “女性的な” GENTLE STORM のリアクション、反動として、”The Source” は非常にキャッチーでヘヴィーなアルバムに昇華されています。
重厚かつ絢爛なアルバムオープナー “The Day That The World Breaking Down” から登場しアルバムの要所で現れる、ハモンドと絡むヘヴィーなメインギターリフが DREAM THEATER の “Erotomania”, “Voices” に極めて酷似している点にはギョッとしますが、James LaBrie が参加しているのでおそらく問題はありません。
実際、オマージュこそが “The Source” のキーワードだと言えるでしょう。 インタビューにもあるように、Arjen は彼のロック/メタル、特に70年代に対する憧憬を隠そうとはしていませんね。例えば “Everybody Dies” “Journey to Forever” が QUEEN への愛情が込められたラブレターだとすれば、”Run! Apocalypse! Run!” “Into The Ocean” は RAINBOW の新作に対する督促状かも知れません。何よりも、Freddie Mercury や Dio の役割を問題なく果たすことの出来る Mike Milles や Russell Allen といった極上のシンガーたちを発見し、適材適所にオペラの “俳優” として重用する Arjen の才覚には脱帽するばかりです。
あなたがもしクラッシックロックのファンならば、アルバムを聴き進めるうちに JETHRO TULL, STYX, PINK FLOYD, Kate Bush, さらには同郷の FOCUS などを想起させる場面に出くわしニヤリとすることでしょう。しかし同時に Arjen の巧みで見事過ぎるコンポジションにも気づくはずです。
多弦ギターやエレクトロニカなどモダンな要素も吸収し、インタビューにもあるようにフォーク、メタル、アトモスフィア全てを調和させメロディーとフック、そしてダイナミズムに捧げたアルバムはまさにエピカルなメタルオペラの金字塔として後世に語り継がれていくはずです。
今回弊誌では、Arjen Anthony Lucassen にインタビューを行うことが出来ました。残念ながらツアーは引退したそうですが、これだけの内容をメンバー集めから全てほぼ1人でを制作し続けているのですから当然という気もします。どうぞ!!

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AYREON “THE SOURCE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FULL OF HELL : TRUMPETING ECSTASY】JAPAN TOUR SPECIAL !!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SPENCER & DYLAN OF FULL OF HELL !!

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Maryland / Pennsylvania Quartet, Full OF Hell Has Just Released The Newest Album “Trumpeting Ecstasy”!! Diverse, But More Into Extreme Metal Realms!

DISC REVIEW “TRUMPETING ECSTASY”

メリーランド、ペンシルベニアのカルテット、破壊者 FULL OF HELL がフルアルバムとしては2013年の “Rudiments of Mutilation” 以来となる新作 “Trumpeting Ecstasy” をリリースしました!!日本が誇るノイズゴッド MERZBOW, アヴァンギャルドノイズデュオ THE BODY とのコラボレート、さらには NAILS, PSYWARFARE とのスプリットを血肉としてリリースした作品は、要となる自身のルーツを軸としつつ、同時にエクストリームミュージックの領域を一際押し広げる重要なレコードとなりました。
CODE ORANGE, 日本の ENDON と並んで FULL OF HELL はハードコアとノイズ要素を融合させるアプローチの先端に立つアーティスト。もはやハードコアの大家となった感のある CONVERGE の Kurt Ballou が斬新なその三者全ての新作を手がけることとなったのも偶然ではないでしょう。
実験的な作風にシフトするかとも思われた “Trumpeting Ecstasy” は、意外にもストレートな楽曲が軸となり押し寄せる暗く激しい11曲23分となりました。インタビューにもあるように、サウンド、リフワークなど、確かにバンドはよりメタルの領域に接近したようにも思えますし、楽曲が”密着”していると語るのも頷けます。
しかし、勿論彼らの野心が一所に留まるはずもなく、レコードは同時にパワーバイオレンス、ノイズ、スラッジ、インダストリアルといった多様なアイデアを見事に昇華しコンテンポラリーなブルータリティーを散りばめたハイブリッドなエクストリームミュージックとして仕上がったのです。
“木々も鳥たちも悲しみに満ちている。彼らは歌っているんじゃない。ただ悲鳴をあげているんだ。” ニュージャーマンシネマの巨匠 Werner Herzog の言葉で幕を開けるアルバムオープナー “Deluminate” は文字通り世界の悲惨さ、絶望感の象徴です。不協和音をスクラッチする悪夢のデスメタルライクなリフワークと、疾走する巧みで手数の多い狂気のドラミングは無慈悲にもリスナーに地獄絵図を投下して行きます。”人間は地球の顔に出来た膿だ” と喉が張り裂けるほどシャウトする Dylan の苦痛を伴う憤怒は即ちハードコアのリアルで、聴く者に畏敬の念さえ感じさせますね。
禍々しい何かを引き摺るようにスローダウンする、スラッジーな “Gnawed Flesh” はまさに FULL OF HELL の真骨頂。脱退したベーシスト Brandon Brown のデモニックなガテラルは、Dylan の鋭いスクリームと凶悪なインタープレイを繰り広げバンドの顔となっていましたが、新たに加わった Sam DiGristine もしっかりとその伝統を引き継ぎ、自身のハラワタに宿した魑魅魍魎を地の底でスラッジパートに全てぶつけています。
さらに “Crawling Back to God” には ex-ISIS の Aaron Turner が、”At the Cauldron’s Bottom” には CONVERGE の Nate Newton がそれぞれボーカルでゲスト参加し、様々な声を得た作品は実に多様な色を加えているのです。
GRIMES のレーベルに所属するカナダのアーティスト Nicole Dollanganger の声を得たタイトルトラック “Trumpeting Ecstasy” はバンドが経てきたコラボレートの旅が結実した成果だと言えるでしょう。THE BODY の Lee Buford が生み出すビートと Nicole の天上の歌声は、不穏なノイズを宿した惨忍なバンドの暴虐と溶け合うこともなく、奇妙な二分法のまま冷やかなまでに無機質に進行して行きます。
インタビューで Dylan は、”Trumpeting Ecstacy” というタイトルが「他人の不幸は蜜の味」といった意味を持つと語ってくれましたが、この純美と非業、”喜び”と”悲しみ”の奇妙な共存はそのまま彼の語る人間の心の最も醜く陰湿な場所を映し出しているように感じました。
今回弊誌では、フロントマン Dylan とギタリスト Spencer にインタビューを行うことが出来ました!8月には THE BODY, FRIENDSHIP と回る日本ツアーも決定しています。どうぞ!!

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FULL OF HELL “TRUMPETING ECSTASY” : 9.8/10

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