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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【WOBBLER : FROM SILENCE TO SOMEWHERE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH LARS FREDRIK FRØISILIE OF WOBBLER !!

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Norwegian Progressive Master, Wobbler Gives You An Ear Candy Of Classic Prog Vintage Sounds, And Challenging Spirits With Masterpiece “From Silence To Somewhere” !!

DISC REVIEW “FROM SILENCE TO SOMEWHERE”

70年代初頭のプログレッシブワールドを現代に再構築する、ノルウェーのレトロマイスター WOBBLER が素晴らしき追憶のメモリーレーン “From Silence to Somewhere” をリリースしました!!プログレッシブの新聖域から創生する全4曲47分、あの時代の天真爛漫な空気を再現した濃密なエピックは、改めてクリエイティブの意味を伝えます。
90年代後半から活動を続けるプログクインテット WOBBLER は、前作 “Rites at Dawn” で本格化を果たしたと言えるでしょう。新たに加わったボーカル/ギター Andreas Wettergreen Strømman Prestmo が醸し出す Jon Anderson にも似た多幸感は、より緻密で繊細なコンポジション、瑞々しい北欧シンフォニックの息吹、飛躍的にグレードアップしたプロダクションとも相俟って、バンドを一躍シーンのトップコンテンダーへと位置づけることになりました。
インタビューにもあるように、オリジナルメンバーでリードギタリスト Morten Andreas Eriksen の脱退、そして期限、制約を設けないコンポジションにより、6年という長い月日を経てリリースされた最新作 “From Silence to Somewhere” はそして実際、タイムレスなプログロック史に残る傑作に仕上がったのです。
ファンタジーとインテリジェンスの魅力的な交差点は、21分の劇的なタイトルトラックで幕を開けます。メタモルフォシスやアルケミー。バンドが以前から追求する超自然のテーマは、彼らの奥深きヴィンテージサウンドへとより深く融合し、同時にダークでミステリアスな翳りは光と影のコントラストを際立たせる結果となりました。
タイムチェンジを孕んだ愛しくも耳馴染みの良い6拍子のイントロは、いつしか YES の崇高へとシフトし、カンタベリーの精神、イタリアンプログのシンフォニーや多様性をも携えながら激しさを増していきます。
ルネサンスの優美でクラシカルな響きは狂熱のトリガー。パーカッシブな宴の合図を皮切りに、フルートが狂い咲く淫美でエスニックなダンスは遂にその幕を開けます。ANGLAGARD や ANEKDOTEN のダークなインテンスと JETHRO TULL のフォルクローレが同居するエキサイティングなプログレッシブ舞踏会は、新鋭の気概とクリエイティビティの確かな証。そしてたどり着く大円団、KING CRIMSON と YES が鬩ぎ合い迎えるフィナーレはまさに圧巻の一言。
実際、このプログロックの完璧なるジグソーパズルは、カラフルなムーグとハモンド、オーガニックなギターリック、リッケンバッカーの骨太なベースライン、ダイナミズム溢れるドラムスといったヴィンテージのピースを集約し、メロトロンの温かな額縁でつつみこむように構成されているのです。
故に、”Tarkus” と “Sound Chaser”, “Heart of the Sunrise” の暗重でエニグマティックなダークキメラ “Fermented Hours” でさえ、全くオマージュのイメージ、メタリックな領域へは近づかず、WOBBLER の卓越した個性として昇華しているのですから、バンドのコンポジションが如何に精巧で時間をかけた美しきタペストリーであるか伝わるはずです。
アルバムは、ハープシコードが牽引する幻想的な狐火 “Foxlight” で幕を閉じます。幽玄なイントロダクションと相反するエッジーなメインパートは、ハープシコードをリード楽器に据えたダイナミックなロックファンタジー。事実、ヴィンテージキーボードのコレクターでもある鍵聖 Lars Fredrik Frøislie ほどヘヴィーにハープシコードを操るプレイヤーは、ルネサンスの時代から数えても存在しないに違いありません。
天賦の才能は悪魔の楽器を伴って、自らの最高到達点を軽々とと突破して見せたのです。同時にバンドは、この楽曲、そしてレコードでプログレッシブロックに灯る可能性の炎を高々と掲げて見せました。
“Prog is not Dead” と世界に宣言するマスターピース。今回弊誌では、Lars Fredrik Frøislie にインタビューを行うことが出来ました。In Lingua Mortua, Tusmørke, White Willow でも活躍するスペシャリスト。「LEPROUS のボーカル/キーボード Einar は、僕たちが Andreas を得る前にボーカルのオーディションを受けに来たんだ。LEPROUS のみんなは長年僕たちのファンだそうだね。」 どうぞ!!

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WOBBLER “FROM SILENCE TO SOMEWHERE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DAVE KERZNER : STATIC】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DAVE KERZNER !!

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One Of The Most Creative Artists In The Progressive Rock World Now, Dave Kerzner Becomes A Bridge From Retro to Modern, With His Most Ambitious Work, “Static” !!

DISC REVIEW “STATIC”

レトロとモダン、そして米国と英国の架け橋を演ずる、マイアミのプログレッシブコンダクター Dave Kerzner が濃密なるロックオペラ “Static” をリリースしました!!”アクセシブル” を座右の銘とする天分豊かなコンポーザー/マルチプレイヤーは、現代社会の混沌と真なる幸福の追求をそのキャッチーなサウンドデザインで雄弁に語り尽くします。
近年のプログシーンで、Dave ほど八面六臂な活躍を見せるタレントはいないでしょう。Steven Wilson のマスターピース “Grace For Drowning” にサウンドデザインで貢献し、Steve Hackett の “Genesis Revisited II” にも参加。その GENESIS、Phil Collins の息子 Simon Collins と結成した SOUND OF CONTACT でベストニューカマーを受賞する一方、MOSTLY AUTUMN の才媛 Heather Findlay と結成した MANTRA VEGA でも高い評価を勝ち取ります。
何より、亡き Keith Emerson もゲスト参加した 2014 年のソロデビュー作品 “New World” で提示した壮大なコンセプトと世界観、美麗なメロディーと緻密なデザインは、多くのプログロックファンを魅了したのです。
二年の月日を経て届けられた新作ソロアルバム “Static” も同様に近未来の重厚なコンセプトを内包しています。ただし、”New World” が砂漠化した世界での冒険譚、躍動する物語であったのに対して “Static” はより人間の内面へと深くフォーカスしているのです。
Dave は短絡的かつ享楽的な SNS や TV、ドラッグやアルコールに捌け口を求める現代社会を嘆き、 「最近は誰もが自分が正しいと思う傾向があって、とにかく自分の意見を主張するね。僕たちすべてが偽善者であることも、不快な真実の一つだよ。僕だって時には偽善者だし。それはほとんど不可避なことに思えるよ。」 とその混沌を自らの罪も交えて語ります。しかし同時に、その事実を認識し、日常生活のバランスを考慮することから幸福の価値を変えていこうとも提案しているのです。
妖しくも印象的なプレリュードで幕を開けるアルバムは、”Hypocrites” で人間のエゴイスティックな内面を露わにします。オルタナティブなエッジとダークなムードはまさにアルバムの皮肉なコンセプトを体現し、同時に甘美で気怠いメロディーがリスナーをディストピア “遊園地の街” へと誘います。
Dave Gilmour が憑依したかのような Kerzner のボーカルに、幾重にもコーラスをレイヤーする巧みな手法は Alan Parsons にも似て、まるで砂糖のコーティングの如くスイートでスーパーキャッチーな瞬間をもたらしていますね。
Dave のピアニストとしての実力が遺憾無く発揮された “Static”, “Trust” では、彼のソフィスティケートされた作曲術、スキルが自身の理想と呼応し見事に開花しています。あくまでプログロックの枠組みの中で “アクセシブル” 受け入れ易い音楽性や歌詞に拘るコンポーザー Dave Kerzner は同時に、アルバムを映画に見立てて全体のムードにプライオリティーを置くある意味ディレクター的なポジションをも兼ねています。
「実際、より明るく高揚した楽曲を何曲か、ただフィットしないからという理由で外さなければならなかったくらいさ。」 と語る通り、音楽監督が望んでメランコリックな一面を強調した美麗なる調べのバラードは、アルバムを一つのアートと捉えた GENESIS や PINK FLOYD の創造性と Steven Wilson や ANATHEMA のアトモスフィア、そしてコンテンポラリーなメインストリームの魅力を同時に従えシーンの過去と現在の架け橋となっているのです。勿論、チェロを効果的に使用したドリーミーな “Trust” では特に John Lennon へのリスペクトが深い愛情と共に表層化していることも記しておくべきですね。
同様に、BIG BIG TRAIN の Nick D’Virgilio と GENESIS の Steve Hackett がゲスト参加した “Dirty Soap Box” は顕著ですが、アルバムを通してエレクトロニカサウンドやノイズを縦横無尽に張り巡らせ、効果的にディストピアを演出するそのアイデアからも彼の豊かなイマジネーションを感じ取ることが出来るのです。
75分の壮大なるプログレッシブオペラは、17分に及ぶラストエピック “The Carnival of Modern Life” でその幕を閉じます。よりカオティックに “Hypocrites” のテーマへと回帰する実にプログロックらしいこのクローザーを聴けば、メロディー、ハーモニー、オーケストレーション、ダイナミズム、そしてエモーションをどれ一つ欠くことなく細部にまで情熱と知性を注ぐ Dave の類稀なる才能が伝わるはずです。「僕は現実を砂糖でコーティングするような真似はあまりしたくないんだ。」と語る Dave の音楽はどこまでも真摯で正直にその進化を続けていくのです。
今回弊誌では Dave Kerzner にインタビューを行うことが出来ました。様々な音楽プロジェクトを抱えながら、二つの会社で CEO を務める多能な才気。どうぞ!!

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DAVE KERZNER “STATIC” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ICEFISH : HUMAN HARDWARE】【PFM : EMOTIONAL TATTOOS】MARCO SFOGLI SPECIAL !!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MARCO SFOGLI FROM ICEFISH & PFM !!

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Italian Guitar Virtuoso, One Of The Most Influential Prog-metal Maestro, Marco Sfogli Has Just Released Two Masterpieces With ICEFISH & PFM !!

DISC REVIEW “HUMAN HARDWARE” & “EMOTIONAL TATTOOS”

James LaBrie が見出せしイタリアのマエストロ、ギターファンタジスタ Marco Sfogli が趣の異なる、しかし傑出した二枚のアルバムをリリースしました!!”ミュージシャンズミュージシャン” の色濃い Marco のイメージは、よりマスリスナーへとアピールする明快な二枚のマイルストーンを経て鮮やかな変貌を遂げるはずです。
遂に光を浴びた Marco の秘めたる野心は、ネオフューチャーとノスタルジア、二つの一見相反する創造物として具現化されました。AI の過度な進化を近未来として描写し、希薄になる人間同士の絆を危惧する “Human Hardware” は Marco がプログシーンのスーパーバンド ICEFISH の一員としてリリースしたコンテンポラリーなプログメタル作品です。
ICEFISH の物語は、PLANET X, UK 等で辣腕を振るうシーン屈指のドラマー Virgil Donati のリーダー作 “In This Life” から始まりました。Brett Garsed, Alex Machacek 等錚々たるメンバーの中、ギタープレイの中核を担った Marco は Virgil と意気投合。Marco のソロ作品と “In This Life” 双方でブレインを務めたキーボーディスト Alex Argento、DGM とも繋がりのあるベース/ボーカル Andrea Casali をスカウトし、新たなスーパーグループを結成したのです。
ラインナップから想像出来るように、確かに “Human Hardware” はハイテクニカルでアグレッシブなレコードです。しかし、驚くことにそれ以上にこの繊細かつ大胆な現代建築は Andrea の巧妙でキャッチーなボーカルを中心に据えて深くデザインされているのです。
アルバムオープナー “Paralyzed” を聴けば、ICEFISH が TOTO の精神性を引き継いでいることに気づくでしょう。Djenty とさえ言えるダークで複雑な Marco のギターリフ、音数の多いサイバーな Alex の鍵盤捌き、そして緻密なハイハットワークでその両方を難無く追いかける Virgil のテクニック。それだけでエキサイティングなフュージョンメタルが成立し得る彼らのミュージックフィールドは、しかし Andrea の爽快でポップなボーカリゼーションを得て初めてバンドの本質を顕にします。
「ICEFISH のプランは、プログの要素を保ちつつ、より大勢のリスナーに受け入れられる音楽を作ることだった。」 Marco はそう語ります。知的にうねるリフワークに煌めくシンセサウンドが映える “It Begins” はまさに始まりの証、バンドの象徴。ジャジーなコーラスにリアルなグルーヴを纏った DIRTY LOOPS をさえ想起させるキャッチーなキラーチューンは、同時に Marco のトリッキーで奇想天外なリードを携えバンドのスピリットと目的地を雄弁に物語っているのです。
アルバムを締めくくる、ウルトラポップでしかしシーケンシャルなユニゾンが恐ろしいほどに波寄せる “The Pieces” はまさに彼らの “Human Hardware” が結実した成果でしょう。
“It Begins” は Marco のノスタルジーサイドへの入口でもあります。楽曲のコンポジションに力を貸した Alberto Bravin はイタリアの伝説 Premiata Forneria Marconi (PFM) の新メンバー。そして Marco もまた、彼と同時に PFM の正式メンバーに抜擢されているのです。
「最初はビックリしたね。バンドの熱心なファンという訳ではなかったし、実際彼らの曲は何曲かしか知らなかったんだから。」 バンドのマスターマインド Franz Di Cioccio からの誘いを受けた時の気持ちを Marco はそう率直に語ります。
しかし故に、オリジナルメンバーで創作の中心に居た Franco Mussida の後任という難しいポジションを現在彼は楽しんで務めることが出来ているのかも知れませんね。実際、PFM が4年振りにリリースした新作 “Emotional Tattoos” で Marco は新鮮な風を運ぶと同時に、すでに不可欠なメンバーとして風格と輝きを放っています。
“Morning Freedom” や “The Lesson” で啓示する至高のメロディーは、バンドが最もヴィヴィッドに輝いた70年代の栄光を21世紀へと伝える虹の架け橋かもしれません。同時にそれは彼らのポップセンスを受け継いだ BIG BIG TRAIN, IT BITES などの理想ともシンクロし、ASIA のセオリーとも共鳴し、文字通り至高のエモーションを刻みながらプログスターの存在感を際立たせます。
映画のサウンドトラックをイメージした 2006年の “States Of Imagination”, 2010年の 新解釈 Fabrizio De Andre “A.D.2010 – La buona novella”、クラッシックに捧げた2013年の “PFM in Classic – Da Mozart a Celebration”等、近年 PFM はテイストの異なる作品を続けてリリースしていましたが、遂にフォーキーでイマジナリーな自らのオーケストラへと帰還を果たした “Emotional Tattoos” にはやはりオリジネーターの凄みと巧みが濃密なまでに織り込まれているのです。
アルバムを牽引するベーシスト Patrick の印象的なキメフレーズ、Lucio の美麗なヴァイオリン、Franz のメランコリーが溶け合う “There’s A Fire In Me” はその象徴かも知れませんね。
同時に Marco Sfogli のコンポジション、アレンジメント、リードプレイは、21世紀を生きるバンドの確固としたステートメントに思えます。インタビューにもある通り、”A Day We Share” のテーマとなったスリリングで鮮烈なユニゾンパートやファンクの意外性は Marco の手によるものですし、トライバルでフォーキーな DIXIE DREGS さえ想起させる希望のインストゥルメンタル “Freedom Square” は実際 Marco の楽曲と呼んで差し支えがないほどにアンビシャスです。
勿論、Kee Marcello のピッキングの粒立ちと加速の妙、Van Halen のトリック、Lukather のテンションなどを広く吸収し、しかし自身のメロディーセンスとスリルを強烈にアピールするリードプレイのクオリティーは群を抜いていますね。何より PFM がニューカマーに全面的な創作の “自由” を与えている事実がバンドの野心と Marco の才能を物語っていますね。
Greg Lake が PFM を発見し、”Photos of Ghosts” で世界に紹介してからおよそ45年。Greg は旅立ちましたが、PFM は確実に彼の世界観、スピリットを受け継いでいます。そして、今度はその PFM が Marco Sfogli を世界に披露するのです。
ノスタルジアとコンテンポラリーを両立し、奇しくも英語詞とイタリア語詞二つのフォーマットが用意されたアルバムを締めくくる感傷的な名曲 “It’s My Road” は、Marco の秘めたる決意なのかも知れませんね。
今回弊誌では、Marco Sfogli にインタビューを行うことが出来ました。Matt Guillory, Peter Wildoer との新たなプロジェクトも期待出来そうです。「一つのジャンルだけに囚われずオープンマインドでいようね。」 どうぞ!!

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ICEFISH “HUMAN HARDWARE” : 9.8/10

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PFM “EMOTIONAL TATTOOS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THRESHOLD : LEGENDS OF THE SHIRES】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH RICHARD WEST OF THRESHOLD !!

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Sprawling 83 Minute Double Album, Perfect Epic “Legends of the Shires” Is An Excellent Introduction To Threshold’s World !!

DISC REVIEW “LEGENDS OF THE SHIRES”

結成は1988年。1993年にデビュー作をリリースした不朽のプログメタルアクト THRESHOLD が、”モンスターレコード”の名に相応しきダブルアルバム “Legends of the Shires” をリリースしました!! デビュー当初、”英国からの DREAM THEATER への回答” と謳われし希少なる生残の先駆者は、四半世紀の時を超え遂に至純なる “アンサー” を提示しています。
海外のプログメタルシーンでは、信頼出来るビッグネームとして揺るぎない地位を築いて来た THRESHOLD。一方で、残念ながら日本ではおそらく、 “スレショルド” “スレッショウルド” “スレッシュホウルド” 等、今一定まらない名前の読みづらさと、サーカスライクの派手なプレイに頼らない楽曲重視の音楽性に起因する無風、凪の状況が長く続いてきました。しかし、”Legends of the Shires” は間違いなく日本のファンにとって THRESHOLD への素晴らしき “Threshold” “入口” となるはずです。
楽器陣は2003年から不変である THRESHOLD の歴史は、天賦の才に恵まれた3人のシンガーが織り成す鮮やかな音楽絵巻だと言えます。今回リードシンガーを務める Glynn Morgan は、バンドのセカンドアルバム “Psychedelicatessen” 以来の復帰。三度目の脱退となった前任者 Damian Wilson の魅力でもある若干クセの強い歌声に比べると、2011年に残念ながら亡くなってしまった Andrew “Mac” McDermott の透明でハーモニーの映える声質に近いように感じますね。IRON MAIDEN の Bruce 後任オーディションで最終選考まで残った実力は本物です。
実際、Richard はインタビューで、”Legends of the Shires” が、”Mac” 時代の名作 “Subsurface” “Dead Reckoning” と似た雰囲気を持つことを認めています。そして、おそらくこの並外れたコロッサルなエピックは、精彩なるメロディーの崇高美、エレガントで壮観な審美的デザインの観点から前述の二枚をも凌駕しているのです。
バンドはリスナーのイマジネーションに配慮し、あまり作品の背景、詳細を明かそうとはしませんが、アルバムが同郷のトールキンの小説にインスパイアされていることは確かでしょう。”The Shire” とはトールキン作品の舞台である “中つ国” に存在するホビットの美しき居住地。そして Richard 語るところの 「変化からより強くなって戻ってくる」 というメッセージには、どうやら現在の英国の状況を隠喩し重ねている部分もあるようです。
アルバムは鐘の音、鳥の囀り、そしてアコースティックサウンドで悠久の大地を眼前に描く “The Shire (Part 1)” で緩やかに幕を開けます。続くダークで小気味よいリフワークが印象的な “Small Dark Lines” でアルバムのストーリーは躍動を始め、THRESHOLD の真骨頂とも言える鮮やかなメロディーでリスナーの心を溶かすのです。
事実、Glynn は、ハイトーンに重きを置く他のプログメタルアクトとは一線を画する、ミッドレンジ中心の爽やかでエモーションにフォーカスした歌唱を披露。頭に残るボーカルとコンパクトなリフワーク、ツインギターのハーモニーは、バンドがキャッチーでコマーシャルな楽曲を恐れない冒頭の強固な意思表示となっていますね。
とは言え、勿論プログレッシブな一面はバンドの象徴です。”The Man Who Saw Through Time”, “Lost In Translation” の10分を超える二つの叙事詩は、THRESHOLD がプログレッシブなスピリットと、豊潤なるサウンドスケープを内包する稀有な集団であることを雄弁に語っていますね。複雑でしかしナチュラルにレイヤーされた広大な音楽のパノラマは、Karl の見事なトーンコントロール、Richard のムーディーで流れるようなキーボード捌き、ドライブするシーン屈指のソリッドなリズム隊を携え、様々な場面を映す奇跡のオデッセイとしてリスナーに “The Shire” の景観や物語を運ぶのです。
アルバムのハイライトは、”Stars and Satellites” で訪れます。DREAM THEATER がハイテクニカルで、圧倒的なある種数学的視点によりプログメタルを捉えたのに対して、FROST*, VANDEN PLAS, そして THRESHOLD 等はプログレッシブロックの精神性やコンセプトによりフォーカスしているのかも知れませんね。
Richard が影響を受けたアルバムに、KING CRIMSON や YES ではなく PINK FLOYD, GENESIS を挙げているのは象徴的かも知れません。このスーパーキャッチーで、聴く度に心が踊るポップな宇宙は、逆に DREAM THEATER が決して到達し得ないプログレッシブポップ領域のはずです。
アルバムは英国からの回答をより鮮明に感じさせる、美しきピアノバラード “Swallowed” で静かに幕を閉じました。
今回弊誌では、1992年からバンドのキーボードプレイヤーを務める Richard West にインタビューを行うことが出来ました。間違いなく日本でこそ評価されるべきバンドです。どうぞ!!

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THRESHOLD “LEGENDS OF THE SHIRES” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【GIZMODROME : GIZMODROME】JAPAN TOUR SPECIAL !!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ADRIAN BELEW OF GIZMODROME !!

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The Police, PFM, Level 42, And King Crimson Got Together, Making An Strange But Absolutely Fantastic Record As Gizmodrome !!

DISC REVIEW “GIZMODROME”

ロック四半世紀の時を刻む、四人の傑出したミュージシャンが集結したスーパーグループ GIZMODROME が唯一無二の色彩を放つデビュー作 “Gizmodrome” をリリースしました!!マエストロが紡ぐ多彩かつユニークな “パンクプログ” “プログレッシブポップ” の造形は、ある種定型化したシーンに贖いがたい魅力的な誘惑を放ちます。
THE POLICE の大黒柱 Stewart Copeland を中心として、鍵盤の魔術師 PFM の Vittorio Cosma、LEVEL 42 のスラップキング Mark King、そして KING CRIMSON のギターイノベーター Adrian Belew が参集。GIZMODROME はパンク、ポップ、ニューウェーブが花開いた80年代初頭の風をプログレッシブのテクニックに乗せて運ぶ素晴らしき “Gizmo” “仕掛け” の体現者だと言えるでしょう。
「レコーディングの鍵は素早さだったね。長々と時間をかけることなく、ただ楽しんで行ったんだ。」 と Adrian が語る通り、アルバムは音楽本来のワクワク感、楽しさ、多幸感に満ちています。
アルバムオープナー、”Zombies In The Mall” は GIZMODROME の “生態” を目の当たりに出来る楽曲かも知れませんね。THE POLICE が遺したポップパンクの遺産と、LEVEL 42 のジャズファンクが、プログレッシブなポルカの上でダンスを踊る奇跡。Stewart 自らがプレイしたというトロンボーン、Adrian の巧みなアコースティックギターも重要なアクセントになっていますね。
実際、バンドはポップパンク、ロック、ジャズファンク、プログレッシブという異なるジャンルから一名づつ選抜されたハイブリッドな “多音籍軍”の 顔を持ちます。そしてその4人の選ばれしヴァーチュオーソは究極に楽しみながら、ユーモラスなまでにエクレクティックな音楽のショーケースを披露しているのです。
“イタリア” というロケーションが、この自由で楽観的なムードに更なる追い風となった可能性もありますね。Stewart もレコーディングにおいて、話題の大半が音楽ではなく、パスタやピザについてだったと認めています。
勿論、GIZMODROME のフレキシビリティーが Frank Zappa に通じると感じるリスナーも多いでしょう。事実、レコードの大部分でリードボーカルを務めた Stewart のモノトーンな声質やイントネーションは、Zappa のそれと近いようにも思えます。
インタビューで Adrian が語る通り、Adrian & King のメロディックなコーラスが Stewart のボーカルを際立たせ、VAN HALEN におけるダイヤモンドデイヴの如く極上のストーリーテラーに仕立てあげている部分も、マルチに歌えるバンドならではの実に興味深いチャレンジですね。”Summer is Coming” の BEACH BOYS もしくは TOTO を想起させるコーラスワークは、まさに GIZMODROME の豊潤な可能性の一つだと言えるでしょう。
もしかしたら GIZMODROME は最も成功した音楽の “Back to the Future” なのかも知れません。「僕は二つの要素をミックスするのが好きだね。テクノロジーとオーガニックをね。」 と Adrian が語るように、確かに “Gizmodrome” には古き良き時代の大らかな空気と、現代的なサウンド、コンテンポラリーで多様な創造性のエッセンスが奇想天外に共存しています。
“American People” を文字ったユーモラスな “Amaka Pipa” はまさにその象徴でしょう。Stewart のトライバルなリズムは、Adrian の異質でしかし温もりのある “Foxtone” と溶け合いラップ調のボーカルを誘います。ジャズのビートやブルースの精神まで内包したユニークかつ多彩な一曲は、ルーズで発想豊かなジャムセッションのムードとモダンなデザインを共有するバンドのランドマークなのかも知れませんね。
それにしても Rolling Stone 誌 “100 Greatest Drummers of All Time” で10位にランクした Stewart のドラミングはやはり伊達ではありませんね。左利きにも関わらず右利きのセットでプレイする彼の稀有なスタイルは、スネア、リムショット、ハイハットのダイナミズムに特別な魔法をかけ、THE POLICE 時代から培ったレゲエを初めとする世界中のリズムを見事にロックと融合させています。”Gizmodrome” の楽曲の大半がワールドミュージックを隠し味としているのは、Stewart がメインコンポーザーであることと密接にリンクしているのです。
今回弊誌では Adrian Belew にインタビューを行うことが出来ました。”Stay Ready” は象徴的ですが、彼の風変わりでイタズラ心満載のリックがなければ作品の魅力は半減していたことでしょう。さらには KING CRIMSON, Robert Fripp に対する愛憎入りまじる複雑な感情を、これほど顕にしたインタビューは世界でも初めてかも知れません。来年4月には来日公演も決定しています。どうぞ!!

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GIZMODROME “GIZMODROME” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SONS OF APOLLO : PSYCHOTIC SYMPHONY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DEREK SHERINIAN FROM SONS OF APOLLO !!

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Prog-Metal Super Group, Sons Of Apollo Brings A Lethal Combination Between True Rock N’ Roll Swagger And The Virtuosity With Amazing Debut Record “Psychotic Symphony” !!

DISC REVIEW “PSYCHOTIC SYMPHONY”

古今無双の勇士達が肝胆相照らすメタル/ロックシーンのドリームチーム SONS OF APOLLO が、威風堂々たるデビュー作 “Psychotic Symphony” をリリースしました!!夢劇場のロックサイドを司り、そして幽寂に退場した二人のソウルメイトを軸として紡がれる類まれなるシンフォニーは、芸術の神アポロンの遺伝子を稠密なまでに引き継いでいるのです。
“God of The Drums”, Mike Portnoy がプログメタルの天照帝 DREAM THEATER を半ば追われるような形で後にしたのは2010年のことでした。残念ながら自身の核とする大切な場所を離れざるを得なくなった Mike でしたが、しかし以降も前向きに幅広くその唯一無二なるクリエイティビティを発揮して行きます。
SONS OF APOLLO の種が撒かれたのは2012年。Instru-metal を追求するため結成した Portnoy, Sheehan, MacAlpine, Sherinian (PSMS) で、Mike は98年に同じく DREAM THEATER を離れていた Derek “ディストーション・キーボード” Sherinian と再び相見えることとなったのです。
元々、DREAM THEATER においてロックなアティテュードを最も体現していた “The Del Fuvio Brothers”。再度、意気投合した二人は Billy と Mike の THE WINERY DOGS が休止に向かうと新天地創造へと動き出したのです。
「君たちは今夜、歴史を目撃している。」 Yngwie Malmsteen や TALISMAN の活躍で知られる “Voice of Hard Rock”、Jeff Scott Soto は、バンドのファーストギグとなった David Z のトリビュートライブでまずそう高らかに宣言しました。そして確かに “Psychotic Symphony” は、彼らの “過去”を目撃し愛してきたファンにとって、意義深い新たな歴史の1ページに仕上がりました。
アルバムはオリエンタルなイントロが印象的なオープナー “God of The Sun” で早くも一つのクライマックスを迎えます。Jeff の雄々しき歌唱と Mike のシグニチャーフィルが映える11分のエピックにして三部構成の組曲。まさにファンがバンドに待ち望む全てを叶えた濃密なるプログメタル絵巻は、静と動、美麗と衝動、プログレッシブとメタルをすべからく飲み込み卓越した技術と表現力でリスナーの心を酔わせます。
とは言え、アルバムを聴き進めれば、SONS OF APOLLO の本質がプログメタルよりもルーツであるクラッシックなハードロックやプログロックに一層焦点を当てていることに気づくでしょう。
“Coming Home” は彼らのホームグラウンドへと回帰し、同時にフレッシュな息吹を吹き込んだバンドの象徴的楽曲です。RUSH を想起させるシーケンシャルかつメロディックなテーマと、VAN HALEN のエナジーがナチュラルに同居するコンパクトなアンセムは、”プログレッシブハードロック” とでも呼ぶに相応しい煌めきと胎動を誇示します。
「確かにオリジナルコンセプトはプログメタルだったんだ。だけど作曲を始めると、完全に異なる方向へと進んでいったね。僕たちのクラッシックロックやハードロックからの影響が前面に出て来て、それに従うことにしたんだよ。新たなサウンドを創造したと思う。」
そう Derek が語るように、SONS OF APOLLO は “Psychotic Symphony” でプログメタルを切り札、エッセンスの一つとして、よりマスリスナーへとアピールする普遍的でオーガニックな “ロック” を追い求めたと言えるでしょう。硬質と有機性の共存。それは、DREAM THEATER が “Falling Into Infinity” で一度進みかけた”If”の道だったのかも知れませんね。
ただ、”Signs of The Time” はこの5人でなければ生まれなかった奇跡にも思えます。マエストロ Billy Sheehan の踊るように躍動するベースラインを骨子として幕を開けるエネルギッシュでハードな調べは、しかし中盤でガラリとその表情を変化させるのです。
アトモスフェリックな7拍子へと場面が転換し Ron “Bumblefoot” Thal のリードプレイが切れ込むと、多くのリスナーは UK の “In the Dead of Night” を思い浮かべることでしょう。ここには確かにダイナミックな展開美とジャンルの融合が誘う震駭、そして彼らの理想が深々と織り込まれているのです。
実際、元 GN’R は伊達ではありません。Allan Holdsworth さえ凌ぐのではと思わせる圧倒的な7拍子のシュレッドは彼のベストワークと言えるほどに強烈な存在感と個性を放っています。
加えてBumblefoot の千変万化なギターワークは各楽曲のルーツを指し示す大きなヒントともなっており、例えば “Divine Addiction” で Derek と共にまるで DEEP PURPLE の一員が如く振る舞う瞬間などは、実に興味深くエキサイティングだと言えますね。
勿論、アルバムには Derek と Mike が DREAM THEATER で共に残した “A Change of Seasons”, “Falling Into Infinity” の二作が蘇る瞬間も存在します。”Labyrinth” のヴァースや連続音を執拗に鳴らす Derek のリフワーク、”Opus Maximus” でスケールの上下動をフルピッキングで繰り返す場面などではニヤリとほくそ笑むファンも多いでしょう。
Billy の存在意義を改めて確認出来る11分の “Opus Maximus” で、あたかも自らの理想、新たなチャレンジを再びプログレッシブな啓示で包み込むかの如く幕を閉じる “Psychotic Symphony”。今回弊誌では、Derek Sherinian にインタビューを行うことが出来ました。「僕たちは、個々にこれまでやって来たバンドやプロジェクトよりビッグになることを目標にしているんだ。」 つわものどもが”夢”の先。どうぞ!!

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SONS OF APOLLO “PSYCHOTIC SYMPHONY” : 9.6/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【GENTLE GIANT : THREE PIECE SUITE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DEREK SHULMAN OF GENTLE GIANT !!

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With A Little Help Of Steven Wilson, Sleeping Prog Giant From UK, Gentle Giant Show Their Brilliance And Originality With Newly Remixed Album “Three Piece Suite” !!

DISC REVIEW “THREE PIECE SUITE”

英国にて睡臥する穏やかなる巨人、プログレッシブレジェンド GENTLE GIANT が久々の音信となる作品 “Three Piece Suite” をリリースしました!!バンドの初期三作から楽曲を集積し、名匠 Steven Wilson がリミックスを施したアルバムは、70年代の稀世なる栄光を鮮明に現代へと蘇らせています。
GENTLE GIANT は1970年に Shulman 三兄弟が中心となり結成したプログレッシブクインテット。技巧と叙情、エクレクティックとポップを巧緻に集約し、81年に解散するまで独自の価値観でプログロックの可能性を顕示し続けた偉大なバンドです。
彼らの音楽を語る時、適切な言葉を探すのは容易ではありません。どこか飄々としていて掴み所がなく、時にニヒルに、時にユーモラスに、時にアヴァンギャルドに刻々と表情を移すその音流は、莫大な情報量と独特のタイム感も相俟って、霧闇を掻き分けるが如き浮遊感と心細さをリスナーに与えて来たのです。
勿論、アーカイブには YES や KING CRIMSON 等と共に必ず明記されるバンドですが、彼らほどの人気、知名度を得ていない理由は多分にその五里霧中、即効性の欠如が理由だと言えるでしょう。
しかし、逆に言えば GENTLE GIANT の魅力はその遅効性、抽象性にあるのかも知れませんね。アルバムを聴く度に必ず新たな発見、感動を得ることが出来るアーティストはロックの歴史を眺めても決して多くはないでしょう。R&B をベースにポップス、ジャズ、クラッシック、サウンドトラック、そして現代音楽まで咀嚼しロックのフィールドへと昇華した多彩な楽曲の数々は、あまりに大胆かつ緻密です。
さらに、「間違いなく僕たちは、ムーブメントや思想を追ったり、スターダムを意識したりはしていなかったね。」 と語る通り、バンドの唯我独尊で超俗としたムードも彼らのクリエイティビティーを後押ししました。そして事実、そのとめどない知識の井戸、アイデアの泉から無限に湧き出るユニークなアプローチの数々は、時を経た現代でも様々な後継に影響を与え続けているのです。
「いつも GENTLE GIANT のサウンドとオリジナルのフィーリングを保ちながら、サウンドをより “良く” させてくれないかと頼んで来たんだ。」 と Derek が語るように、稀代のプログレマニア Steven Wilson もその一人。そして Steven はその野望を見事にやり遂げました。
“Three Piece Suite” はバンドの記念すべきデビューアルバム “Gentle Giant” からの3曲で幕を開けます。ジャズのビートやフュージョン的テーマなど様々な仕掛けを配しつつ、R&B をベースとしたドライブする “Giant” は、バンドの楽曲で最も典型的な “プログ” らしい楽曲かもしれませんね。サイケデリックなエナジーと中盤で見せつける叙情性のコントラストは、確かにここが出発点であることを主張します。
同時に、難解とポップを融合させた伏魔殿 “Giant” を聴けば、Derek の人生を変えたアルバムを見るまでもなく、初期の彼らが Frank Zappa から強い影響を受けていたことが伝わりますね。一方で Zappa 自身も GENTLE GIANT を非常に高く評価しており、共鳴し合う素晴らしき孤高の脈流が確かに存在したことを伝えています。
続く “Nothing At All” はバンドの素性をより鮮明にする9分のエピック。LED ZEPPELIN の名曲 “Stairway To Heaven” に影響を与えたと確信させるほどに美しい、(余談ながら Derek が影響を受けたアーティストに挙げてる SPIRIT は “天国への階段” の元ネタと噂される “Taurus” の作者なのですから興味深い)フォーキーでアコースティックな調べはニヒルでサバシーなギターリフを導き、自然にしかし唐突に3分半のアヴァンギャルドなドラムソロへと展開して行くのです。ここにはすでに様式美は存在せず、この頃からバンドはポップとロックのみならず、前衛的で現代音楽的な感覚を等しく身に纏っていたことが分かりますね。
71年にリリースされた “Acquiring The Taste” からは2曲が収録されています。”Pantagruel’s Nativity” はバンドの拡大する野心を反映した、アルバムの実験的作風を象徴する楽曲かもしれませんね。ムーグシンセやメロトロンのレトロな味わい、映画のようなオーケストレーション、トランペットを組み込んだバッキングの妙。楽器の増加により全てが新鮮に噛み合った楽曲は、日本の童謡 “通りゃんせ” を思わせる懐かしき旋律とハーモニーを携えてリスナーに濃厚なるサウンドスケープを届けます。
さらに “The House, The Street, The Room” では、ヴィブラフォンやチェロまでこなすマルチ奏者 Kerry Minnear を中心に32もの楽器を使用しメズマライズな狂気を演出しているのですから恐れ入ります。
72年の “Three Friends” からは4曲。ドラマーを Malcolm Mortimore にスイッチし、T. REX 等の仕事で知られる Tony Visconti のプロダクションからバンドのプロデュースに移行した作品です。
“Schooldays” のセピア色なノスタルジアが証明するように、よりセンチメンタルでストーリーテリングにフォーカスした作品は、三人の同級生を軸として物語を紡ぐ初のコンセプトアルバム。濃密にレイヤーされたオーケストレーションと感傷的なコーラスワークが実に印象的で、P.F.M を頂点とするイタリアのシンフォニックな後続たちに多大な影響を与えた事実も頷けますね。
幻想と技巧、静寂と騒然、耽美と悪夢を等しくコントラストさせた “Peel the Paint” のイデアルは、サックスの魔術と相俟って、KING CRIMSON の理想ともシンクロしながら穏やかな人間の狂気を体現し、名作と名高い “Octopus” へと繋がって行くのです。
Steven Wilson の手によりさらに輝きを増した珠玉の名曲たち。”Peel The Paint” を聴けば、フロントに Kerry のヘヴィーハモンド、リアに Gary の突き刺すようなブルースリックが配されて、5.1chサラウンド特有の分離と広がりが実に効果的に活用されていることが伝わります。それにしても今回初披露となった “Gentle Giant” のアウトテイク “Freedom’s Child” の美しさには言葉を失いますね。
今回弊誌では、リードボーカルにして Kerry と同様マルチ奏者 Derek Shulman にインタビューを行うことが出来ました!実はバンド解散後には A&R としてポリグラムで BON JOVI や CINDERELLA を発掘。さらに Atco, Roadrunner では社長として PANTERA や DREAM THEATER と契約し、2PLUS Music & Entertainment では我らが LOUDNESS とも手を組んだ重要すぎる人物です。とは言え、正統な評価が遅れリユニオンが強く望まれるバンドでもあります。「僕たちは今でも音楽を作っているよ。たとえそれが僕たちの耳にしか届かないとしてもね。」 どうぞ!!

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GENTLE GIANT “THREE PIECE SUITE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【KAIPA : CHILDREN OF THE SOUNDS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH HANS LUNDIN OF KAIPA !!

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Legendary Swedish Progressive Rockers, Kaipa Will Bring Ethereal Melody, Great Interplay, And Beautiful Inspiration With Their New Record “Children Of The Sounds” !!

DISC REVIEW “CHILDREN OF THE SOUNDS”

スウェーデンプログレッシブシーンの開祖にしてイニシエーター、70年代から活躍を続ける芳醇なるメロディーの宝庫 KAIPA が最新作 “Children of the Sounds” を9/22にリリースします!!煌びやかでシンフォニック、その絶佳なる美しきサウンドスケープは、レトロとコンテンポラリーの華麗なる融合を誘ってベテランの底知れぬ創造性を誇示していますね。
トラッドとクラシカルを軸に、情感豊かでキャッチーなプログレッシブロックを聴かせた70年代~80年代前半。Hans Lundin と Roine Stolt、巨匠2人のマジカルなインタープレイとバンドの巧みなアンサンブルは世界中を魅了し、故に82年の活動休止は実に惜しまれた出来事でした。
バンドに新たな生命が灯ったのは休止から20年の月日を経た2002年。Hans と Roine を首謀者として、 Morgan Ågren (MATS/MORGAN BAND), Jonas Reingold (THE FLOWER KINGS), Aleena Gibson, Patrik Lundström (RITUAL)という超一流の実力者を揃えたラインナップで復活を遂げた KAIPA は、2005年の Roine 脱退以降も新たにマエストロ Per Nilsson (SCAR SYMMETRY) を加えてコンスタントに良作を発表し続けているのです。
「僕たちは “サウンドの子供たち” であるという想像に至ったんだ。人生で経験して来た音楽を集めて新たな創造をもたらし、フレッシュな音楽を描くというね。」 と語るように、”Children of the Sounds” は、KAIPA のマスターマインド Hans Lundin の潜在意識へと集積された “音楽の種子” が芽吹き、全5曲58分の壮大なるエピックへと成長を遂げた登熟の一枚だと言えるでしょう。
アルバムオープナー、12分のタイトルトラック “Children of the Sounds” はまさにその Hans の哲学を完璧に反映した楽曲です。「僕はいつも、潜在意識のどこかに隠れている偉大で忘れ難いメロディーを出発点として見つけようとするんだよ。僕はそれを良くボーカルメロディーやメインテーマにしたりするんだ。」 という証言は非常に音楽的でインテリジェンスな彼のやり方を裏付けます。
クラッシックやジャズ、ミュージカルで良く使用されるこの “テーマを膨らませる” 手法は、例えばプログメタルに有りがちな様々な異なるパートを複雑に繋いで行く煩雑な手法よりも、楽曲の主題をリスナーに印象づけるという点において非常に有効です。そして 「僕はメインテーマに様々なバリエーションを持たせる技法を良く使用するよ。時には拍子を変えて、時には同じコードで新たに楽器でメロディーを書いたり、時には主題の断片を含ませたり、時にはコードのベースノートだけを変えて少し変わったフィーリングを出すこともあるね。」 と Hans が語る通り、”Children of the Sounds” におけるテーマの膨らませ方は本当に見事の一言ですね。
“ドーシーラーソラー” というシンプルにして心に染み入るメロディーは、Aleena のエモーショナルな女声を発端に、テンポ、拍子、コード、キー、メジャー/マイナーなどを入れ替えながら、万華鏡のようにその姿を変え躍動し、楽曲に無上の彩と強烈な印象を加えていくのです。
再結成以降、ライブは一切行わず、レコーディングも Hans の制作したデモから全てをファイルシェアで行っている KAIPA。とはいえ、「他のメンバーとはもう長年一緒にやって来ているから、デモを作っている間にも彼らの存在を感じることが出来るし、彼らが実際にプレイした最終形も想像することが出来るんだ。」 と語ってくれた通り、Per のメロディックでしかしコンテンポラリーなスマートかつソニカルなギタープレイ、Aleena と Patrick のジャニスとフレディー・マーキュリーを思わせるエモーショナルでコントラストを育むデュエット、Jonas と Morgan の繊細かつダイナミックなリズムワーク、そして Hans のノスタルジックで温かみのあるシンセサウンドは全てが適材適所。美麗なるヴァイオリンや笛の音色まで全てが Hans のデザインを巧みにグレードアップさせ、アートワークにも反映されたファンタジックで、自然に対するスピリチュアルなインスピレーションを見事具現化しているのです。
17分に及ぶ一大エピック、時にソフトに時にエッジーに、70年代のスピリットとモダンなプロダクションで木々や鳥たち、自然にフォーカスした “On The Edge of New Horizon” は Hans だけでなく、まさにバンド KAIPA としてのゴールが達成された瞬間なのかも知れませんね。
今回弊誌では Hans Lundin にインタビューを行うことが出来ました。音楽は音学でもあります。学問は一時の思いつきでは決してなく、太古から積み重ねられてきた知識の集積です。そういった意味で Hans の言う “音楽のライブラリー” からの創造、そしてトラディショナルで正攻法な作曲の手法は実に理に叶っており、これからコンポーザーを志す人たちにとって最高の指南書になるのではないでしょうか。どうぞ!!

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KAIPA “CHILDREN OF THE SOUNDS” : 9.8/10

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COVER STORY 【STEVEN WILSON : TO THE BONE】INTERVIEW WITH NICK BEGGS & TRACK BY TRACK REVIEW


EXCLUSIVE INTERVIEW WITH NICK BEGGS & TRACK BY TRACK OF STEVEN WILSON’S “TO THE BONE” !!

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Steven Wilson’s New Adventure “To The Bone” Is Inspired By The Hugely Ambitious Progressive Pop Records That He Loved In His Youth !!

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TRACK BY TRACK “TO THE BONE”

「最も大きなチャレンジは、楽曲重視のレコードを作ることだよ。メロディーにフォーカスしたね。」 モダンプログレッシブの唱導者 Steven Wilson はそう語ります。モダン=多様性の申し子である世界最高の音楽マニアが、至大なる野心を秘めて放つ5作目のソロワーク “To The Bone” は、自身が若き日に愛した偉大なるポップロックレコードの瑞々しいメロディー、その恩恵を胸いっぱいに浴びた新たなる傑作に仕上がりました。
Steven は “To The Bone” のインスピレーションを具体的に挙げています。Peter Gabriel “So”, Kate Bush “Hounds of Love”, TALK TALK “Colour of Spring”, TEARS FOR FEARS “Seeds of Love”, そして DEPECHE MODE “Violator”。勿論、全てが TOP40を記録したメインストリーム、知的で洗練されたポップロックの極み。
同時に彼は自身のプログレッシブなルーツも5枚提示しています。TANGERINE DREAM “Zeit”, Kate Bush “Hounds of Love”, THROBBING GRISTLE “The Second Annual Report”, PINK FLOYD “Ummagumma”, ABBA “Complete Studio Albums” (全てのスタジオアルバム)。
非常に多様で様々なジャンルのアーティスト、レコードが彼の血肉となっていることは明らかです。ポップサイドでも、フックに溢れた音楽的な作品を、プログレッシブサイドでも、難解なだけではなくサウンドスケープやメロディーに秀でた作品を撰するセンス。両方に含まれる Kate Bush の “Hounds of Love” はある意味象徴的ですが、すなわち、レコード毎にその作風を変化させるマエストロが今回探求するのは ナチュラルにその二者を融合させた “プログレッシブポップ” の領域だったのです。
実際、2011年からレコーディング、ツアーに参加し続けているロングタイムパートナー、チャップマンスティックの使い手 Nick Beggs はこの稀有なるレコードを “クロスオーバー” でそれこそが SW の探求する領域だと認めています。そしてその “違い” こそが様々な批判、賛美を生んでいることも。
「プログレッシブロックのオーディエンスって、実は最もプログレッシブじゃないように思えるんだ。プログレッシブミュージックは、プログレッシブな考え方であるべきなんだよ。」 盟友の心情を代弁するかのように Nick はシーンのあるべき姿をそう語ります。いとも容易くミッドウイークの UK チャートNo.1を獲得したアルバムは、決して “プログレッシブロックの逆襲” “プログの帰還” などというシンプルな具象ではなく、イノベーターの強い意志、情念なのかもしれませんね。

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TRACK 1 “To The Bone”
タイトルトラックにしてオープナー、”To The Bone” はこの芳醇なるレコードの絶妙にして正確なるステートメント。XTC の Andy Partridge が歌詞を手がけた楽曲は、”骨の髄まで” 現在の状況を突き詰め、核となる真実を探し出すことについて歌っています。
言うまでもなく、これはドナルド・トランプ時代の産物です。先のアメリカ大統領戦で私たちが経験したように、真実は時に異なる物の見方を生み出し、事実をねじ曲げてしまう可能性があるのですから。
コンセプトアルバムの形は取らなかった “To The Bone” ですが、どの楽曲にも共通するテーマは存在します。それは現在の世界を決して素晴らしいものとは思わないという視点。Steven はその要因の一つが基本的なマナーの欠如だと述べています。世界には敬意や思いやりに欠く人間があまりに多すぎると嘆いているのです。
そういった背景を鑑みれば、ダイナミックでパワフルなアルバムオープナーがトラディショナルである意味オーソドックスなブルースロックを基調としたことにも頷けますね。勿論、寛容さに欠く時代の真理を独白するアメリカの教員 Jasmin Walkes のスポークンワードで全ての幕が開けることにも。
確かにパワーコードやハーモニカ、自身のラフなリードギター、Jeremy Stacey のファンクなドラミングと Pete Eckford のハンドパーカッションは Steven のイメージとそぐわないかも知れません。ただし、アウトロのアトモスフェリックでエセリアルな表情はまさに彼の真骨頂。つまり Steven の核となる真実、音楽の探求と融合を実証した楽曲。”プログレ” じゃない? Nick Beggs はこう一言 “So What?”

TRACK 2 “Nowhere Now”
ライティングプロセスで Steven が心掛けたのは、複雑性を捨て去り、よりミュージックオリエンテッドな楽曲を生み出すこと。”Nowhere Now” の気に入っていたパートをマエストロはいとも容易く捨て去りました。楽曲のデモバージョンは現在の彼にとって、複雑で長すぎると感じられたのです。
「僕は楽曲の、感情の、メロディーの “ハート” にフォーカスする必要があるんだ。ただし今でも興味深い楽曲を制作したいという願望はあるよ。」 そう語る Steven の “プログレッシブ” は、幾重にもレイヤーされた美麗なるプロダクションやアレンジメントに主張されています。勿論、以前に比べてエレクトロニカサウンドが増している点もそこに繋がるはずですね。
複雑性やテクニカルを極力廃すというアルバムの方針は、お抱えのギターマイスター Dave Kilminster の出番も無くしました。Steven はより自身の感情を反映するため、自らのプレイをギターの軸に据えたのです。とはいえ、面白いことに Dave のボーカルハーモニーは必要とされ4曲にコーラスを挿入しているのですが。
“地下6フィート(墓穴の深さ)、僕たちは今、後方へと進んでいる” というファーストラインは、人類が退化の真っただ中にあることを諮詢しています。しかし、浮遊感を伴う極限にキャッチーなコーラスでは美しき地球を宇宙から俯瞰で見下ろし、ポジティブで広い視野を得るのです。

TRACK3 “Pariah”
ドリーミーなシンセサイザーのシーケンスに幕を開け、エセリアルなシューゲイザーで幕を閉じるコンテンポラリーなドリームポップチューンは Steven とイスラエルのフィーメイルシンガー Ninet Tayeb の優艶なるデュエット。”Hand. Cannot. Erase.” から続く2人のコラボレーションは円熟の域に達し、あざといほど典型的に、諦めないことを、ポジティブなメッセージを届けるのです。

TRACK4 “The Same Asylum As Before”
Steven は “To The Bone” でテレキャスターと恋に落ちたと語ります。”The Same Asylum As Before” のトレブリーで細く硬質なギターサウンドは、まさにテレキャスターソングの典型だと言えるでしょう。
ドライブやディストーションをあまり加えることなくロック出来るテレキャスター。その真の魅力に気づいたと Steve は語ります。勿論、これが Pete Townshend のサウンドであるとも。
ボーカルの延長としてよりレイドバックし、メロディーやキャッチーさを強調する彼のギターワークは鮮彩に躍動していますね。詩情豊かなファルセットは楽曲に陰影をもたらし、”Kashmir” を想起させるコーラスパートも出色です。

TRACK5 “Refuge”
フランス北部の港町カレー。ヨーロッパ最大規模の難民キャンプは治安も衛生状態も悪化していました。経済的に豊かな英国へ渡ろうと、トラックや列車に飛び移り命を落とす難民も現れたのです。Steven は政治的な楽曲を書くつもりはないと語ります。あくまで人間のストーリーを描きたいとも。Refuge では愛する家族や母国から切り離されることの痛みについて歌っているのです。
ポリフォニックシンセサイザー Prophet-6 のアルペジエーターが、この実験的でアンビエントなエレクトロニカチューンのベースとなっていることは明らかです。ポストプログレッシブなイメージが強調された楽曲には Robert Wyatt が “Rock Bottom” で使用したキーボード、Paul Stacey のギターソロも収録され、独特な世界観の構築に貢献しています。

TRACK6 “Permanating”
「どのレコードでも僕は多様性を創造しようとしているんだ。僕にとってはそれこそが本当に満足出来るアルバムを作る秘訣さ。」 “Diversity”, “Eclectic” というワードがモダンミュージックのベースとなっていることは言うまでもありませんが、Steven Wilson が “Permanating” で提示した眩い音楽はそれにしても驚きだと感じます。
ビッグシングルにしてメインストリームなポップフィールで満たされた楽曲には、彼の70年代ディスコミュージック、ABBA への強い愛情が込められているのです。PINK FLOYD と Donna Summer を等しく愛する Steven は「セルアウトと言われるかも知れないけど、ポップスを愛しているんだから仕方がない。」 と語っています。
人生の大半は喜びでも悲しみでもなく、ただ存在するだけだと話す Steven。故にクリスタルのような輝かしい瞬間を保持して生きるべきだと。”Permanating” はまさにその究極に幸せで楽しい時間を切り取った楽曲なのです。

TRACK7 “Blank Tapes”
“Permanating” での華やかな雰囲気から一変、”Blank Tapes” は悲しみと嘆きのバラードです。男女の別れを描いた楽曲は、Steven が男性の視点で、Ninet が女性の視点でストーリーを紡いでいきます。
Ninet の Rod Stewart を思わせる情感豊かな歌唱は、ギター、ピアノ、メロトロンというシンプルな演奏に良く映えていますね。

TRACK8 “People Who Eat Darkness”
パンキッシュで衝動的な “People Who Eat Darkness” はパリの Bataclan シアターでのテロの後に書かれた楽曲です。テロとその後のメディア報道に Steven は、穏やかな隣人が突然テロリストとなる狂気に戦慄を覚えます。彼はいつも、宗教、政治といったマクロなテーマそれ自体よりも、その中で翻弄される人間に着目するのです。
「階段でよくすれ違っていたんだけど、彼はいつもニコニコと笑顔で挨拶してくれたの。買い物を持ってくれたりしてね。普通の素敵な若い男性だったわ。」 インタビューを受けた隣人の言葉には 、”普通” に見える人間が、怒り、憎しみ、狂気を抱え闇に飲まれている可能性を諮詢しています。分断された現代社会で、果たして誰がそれに気づくことが出来るのでしょうか?

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TRACK9 “Song of I”
スイス人女性シンガー Sophie Hunger とのデュエットは、アルバムで最もエレクトロニカサウンドをセンターに据えた楽曲に仕上がりました。「最近のラップはロックより革新的だよ。」 と嘯いた Steven。”Song of I” には Rihanna をフィーチャーした Kendric Lamar の “Loyality.” を想起させる瞬間が確かに存在します。
ある種淡々とした音像の中で、淡々と伝えられるのは以外にもロマンティックなメッセージ。「タバコも、アルコールも、ギャンブルも、オールだって何だって諦めるけど、あなただけは諦められないよ。」 こういった強迫観念に男女の差異は存在せず、故にデュエットという形がフィットするのかもしれませんね。

TRACK10 “Detonation”
エレクトロビートと Jeremy Stacey のダイナミックなドラムスが目まぐるしく交差するイレギュラーな楽曲は、時にポピュラー音楽史上最も成功した作曲家 Paul McCartney and WINGS の “Live and Let Die” をイメージさせます。”Detonation” には二つの意志が存在するのかも知れません。
楽曲はフロリダの同性愛者クラブで起きたテロリズムに触発されて書かれました。犯人は確かに「アッラーフ・アクバル」 と叫び神に忠誠を誓ったように犯行を行いましたが、実際は自分自身の偏見や憎しみを正当化するためにイスラム教の皮を被っていたようにも思えます。
“Detonation” の最初の一行、「神よ、私はあなたを信じませんが、あなたが望むことはやり遂げます。」 とはすなわち、信じないものの力を借りた自身の正当化です。Steven はこの歪んだ現代社会において、自己に潜む嫌悪感や憎しみを隠すため、宗教へと目を向ける人が存在すると信じているのです。
ともあれ、”Detonation” は Steven の作品でも秀逸なロングピースで、スロバキアのギタリスト David Kollar のマクラフリン風ギターが炸裂するアウトロは実にエキサイティングだと言えますね。

TRACK11 “Song of Unborn”
“Unborn” とはまだ生誕していない命、胎児。Steven はこの感動的なアルバムクローサーで、生まれくる命に子宮の外の危うさを伝えます。ただし、これが彼の典型的なバラード “Routine” や “The Raven that Refused to Sing” と決定的に異なるのは、究極的には希望を宿している点です。”Don’t be afraid to live” 生きることを恐れないでと Steven は歌います。確かに残念な世の中だけど、それでも全ての命はユニークで、時には本当にスペシャルなものへと変わることもあるんだよと。
自分の人生を抱きしめれば、命は深遠に達するという美しいメッセージは、オプティミズムの象徴とも思える美麗なるクワイア、コーラス隊を誘って世界へと降り注ぐのです。

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Steven は、”To The Bone” には以前のレコードにはないエモーション、人々の心を動かす感動が存在すると語ります。ビートルズ、ストーンズ、ゼップ、フロイド、ディラン…彼が崇拝するレコードの大半は、アーティストが20代で制作したもの。しかし、自分は30代から花開き、どんどん良くなっていると Steven は語ります。”To The Bone” が最高傑作だと信じて疑わないことも。「僕は歳を重ねるほど、音楽のコア、真実のエモーションが掴みやすくなるからね。」

参考文献「Steven Wilson :To The Bone: A track-by-track guide 」2017年8月17日

STEVEN WILSON “TO THE BONE” : 10/10

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