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COVER STORY 【MARIUSZ LEWANDOWSKI: GUIDE TO MODERN METAL ARTWORK】


COVER STORY: MARIUSZ LEWANDOWSKI

“Capturing Emotions In a Painting Is Similar To Showing Depth And Light. If It Is Not There, If It Is Missing, The Art Is Simply Flat And It Does Not Look Good”

「絵画で感情を捉えることは、奥行きと光を示すことに似ているね。それらが存在しない場合、欠落している場合、芸術は単純に平面的で見栄えが悪くなってしまう。」
BLACK SABBATH, LED ZEPPELIN, DEEP PURPLE といったクラッシックロックの伝説は、Klaus Schulze, Jean-Michel Jarre, VANGELIS など電子音楽の先駆者たちと同様に若き Mariusz Lewandowski にとって音の灯台となりました。
現在59歳、ポーランド生まれのペインターはそうして初期 GENESIS, PINK FLOYD, TRANSATLANTIC、さらには YES, DREAM THEATER, TANGERIN DREAM までプログレッシブロックの音の葉まで創造という航海の波しるべとしたのです。音楽は常に Mariusz の情熱の炎であり、筆を導くインスピレーションの源でもありました。
「私はワイドで独創的、境界のない音楽を愛している。息を呑むような音楽さ。そして私の探している芸術世界へ誘ってくれるようなね。」
Mariusz の言葉はそのまま自身のボーダレスかつイマジネーティブなアートの樹を具現化しています。
「メタルへ導いてくれたのは BELL WITCH だった。2017年にリリースされた彼らの最新作 “Mirror Reaper” でグラフィックを描いてくれないかとオファーをくれてね。興奮したよ!それまでミュージシャンのために絵を描いたことがなかったからね。私にとって転機であり、大きな挑戦となったね。音楽的に素晴らしいアルバムだよ。しばしば聴き返すんだけど、今でも鳥肌が立つね。音楽とそのアートワークの間に生じるケミストリーを心底感じるね。
後に音楽業界も “Mirror Reaper” を非常に高く評価することになった。私もこういったメタルのスタイルについて再度学び始めたんだ。そうして PSYCROPTIC, EREMIT, FALASE といった他のチームからもオファーが届くこととなったんだ。」
メタル世界に住む多くの住人にとっても、BELL WITCH の作品が Mariusz とのファーストコンタクトだったはずです。そうして瞬時に、彼の放つ創造的な悪夢はバンドのみならず多くのファンを魅了していったのです。2018年 Mariusz にとって文字通りビッグイヤーとなりました。

ドゥームスラッジャー SHRINE OF THE SERPENT, スラッシュタイタン SEPULCHER, デスメタルの新鋭 ROGGA JOHANSSON に CARDIAC RAPTURE。Marusz の情熱は様々なサブジャンルから津波のようなオファーへと繋がりました。
「バンドは直接メールで、Facebook で、ウェブサイトで連絡を取ることが可能だよ。特定のバンドのためにアートを製作する場合、言葉よりも芸術家同士のテレパシーでコミュニケーションを取るんだ。もちろん、バンドが主役だよ。素晴らしい音楽を作っているのは彼らだからね。私はそれを色でドレスアップするだけだよ。それでも、賛辞を受ければ嬉しいけどね。彼らの知的で刺激的なテーマにはとてもインスパイアされるよ。
SHRINE OF THE SERPENTS, ROGGA JOHANSSON の場合は私の膨大なギャラリーから彼らがアートを選んでくれたんだ。このシチュエーションならばすぐにプロジェクトを完成させることが出来るから、便利なソリューションではあるよね。
基本的にはデジタルでライセンスを販売している。オリジナルの絵は僕の手元にとどまるけど、バンドは自由にCD, ヴァイナル、ポスターへと使用することが出来るんだ。だけど、 PSYCROPTIC のようにオリジナルまで購入してくれる人たちもいる。たしかによりコストはかかるけど、フィジカルに特別な価値を見出してくれているんだろうね。」
ただし、絵画の制作中流れる音楽はメタルだけとは限りません。
「メタルは出来る限りラウドに聴かれるべきだ。だから絵画の制作中に聴くには少し疲れすぎるんだ。ペイントの最中は心の平穏が必要だからね。だからエレクトロニカを聴くんだ。このスタイルの音楽なら大音量で聴く必要はないよ。そうして脳の想像を司る領域を活発にしてくれる。要は最高の作品を完成させられれば良いわけだからね。」
制作は静寂な夜に行われます。バンドの要望に没頭する時間と空間をもたらしてくれるから。
「私は夜しか絵を描かないんだ。誰にも邪魔されない確信と平穏が必要だからね。そしてバンドが託してくれた音楽で心を満たすだけではなく、哲学にも没頭しなければならないから。その2つを分けて考えることはできないから。」
Mariusz のほぼ全ての作品は超現実的で、幻想的で、シュールなホラーも入り混じります。その特徴は彼の代名詞とも言えるでしょう。ダークなキャラクター、遍在する死、退廃に大火。しかしそういった仄暗い絶望は Mariusz の人間性と世界観を反映しているわけではありません。
「実を言うと私は人生が大好きなんだ!決して私は黙示録の天使がラッパを鳴らすのを待っている苦難の生を歩んできたわけじゃないしね。ただ、死は人生にとって不可分だというメッセージには言及している。何千年もの間、教え込まれてきたネガティブな考え、自由を制限するバラストを投げ捨てることはとても難しいけどね。どのように生きるか、何を信じるかを伝えたくはないんだ。ただ鑑賞する人の自らの思考をあきらめないようにしたいだけなんだ。
例えば私は絵画に宗教のイメージを使用している。だけどそれは宗教的なメッセージを込めている訳じゃないんだよ。宗教がいかに私たちを追い詰め、人生を困難にしているのか示しているだけなんだ。」

Mariusz が命を吹き込んだ油絵を観察すれば、黙示録と宇宙の恐怖、不毛の世界、大変動、死神および単なる人間の理解を完全に超えた存在に焦点を当てていることに気づきます。さらに深く掘り下げればほぼすべての作品で、絵の下半分に孤独な人物が見つかります。何か恐ろしい存在、そびえ立つ一枚岩、または壊滅的な出来事を目撃する、寂しい人間の目撃者。
「私は未知の世界に魅了されている。まるで悪夢のように迫り来る遠い世界の厳しい風景さ。ただし死を切望する訳じゃなく、飼いならしているんだ。怖がってはいないよ。私の絵は、暗闇だけど、多くの楽観主義と希望があると言われたこともあるからね。」
絵画は Mariusz の生涯にわたる情熱であるだけでなく、彼の職業で生計のための手段でもあります。彼を駆り立て、満たしているもの。
「絵画は私の情熱を注ぐものであり、愛する妻と一緒に仕事としているものだけど、それはオフィスワークとはまったく異なる性質を持っている。まったく異なる2つの世界だよ。
私の次の情熱は、村の土地に夢の家を建てること。私が大好きな自然に囲まれた場所。最終的にワークショップと無数の樹木、鳥、野生動物、魚、そして美しく歌うカエルが溢れることになる。」
それぞれの作品には苦労と膨大な時間が注がれていますが、筆を握るまさにその人には報われるべき個人的な満足と楽しみが存在します。それが得られない場合は?
「自由に創作できなければ絵を描くべきじゃないよ。」
バンドと折り合わず契約を解消したこともありました。
ただし Mariusz は非常に謙虚なクリエイターです。彼の言葉を借りれば有名人の魂を持つ人ではありません。言葉ではなく絵で物語を語るのです。また、彼は自分のアートを他人に押し付けることも好みません。
「Zdzislaw Beksinski がかつて言ったように、隅に座っていても、実力があれば世界はあなたを見つけることになる、だよ。傲慢に自分のアートを押し付けてはいけないよ。」
作品を押し付けないという精神。つまり Mariusz からアーティストにアプローチすることはありません。彼は彼の芸術を使いたいバンドと人々からのオファーを受けるだけです。
「敬愛する DREAM THEATER や RIVERSIDE にだって手紙を書いたことはないよ。でもいつか、成長して彼らと話し、自分のアートを見てもらう日が来るかもね。」
Hipgnosis, Roger Dean, H.R.Giger。その音楽の時代を象徴するアートワークの創造主はいつの時代も存在していました。そして、2010年代後半に芽吹いた Mariusz とメタルの融合は間違いなく2020年代を牽引していくはずです。

BELL WITCH “MIRROR REAPER”

全てはこの傑作から始まりました。アートワークはある意味このレコードの全てです。BELL WITCH は2015年に、Adrien Guerra を36歳の若さで悲劇的に失いました。
「Adrian は何年間も僕の親友だったんだけど、お互いに意見を違えて喧嘩をしてしまっていたんだ。同様に、新メンバーの Jesse と Adrian も仲の良い友達だったんだ。だから、Jesse と僕は彼の死の後、気持ちを整理する時間が必要だったのさ。
何ヶ月か経って、僕たちはレコードを完成させるため、新たな決意と共にライティングプロセスへ戻ったね。僕は二人共、Adrian と僕たち自身にとってこのレコードを本当に特別なものにしたいと思っていたと信じているよ。一生に一度のアルバムさ。」
フードを被った死の前兆は、滅びのように行進している人々の上へと不気味に迫っています。地獄の風景を映し出す鏡の中から覗き込みながら。鏡は背景の崖よりも高く聳え、蜘蛛の巣のような不気味な糸に支えられています。鏡を覗くと何が見えますか?自分?それとも地獄?
そうして Mariusz の絵画と BELL WITCH の音楽は、悲しみを完璧に封じ込めました。怒りという地獄の炎、恐怖という大死神、自己反射の鏡。悲しみの煙、孤独な炎、無気力な群衆。
一方では裏面に、愛する人が穏やか(月明かりの海)で、平和(白い旗)で自由(高翔する鳥)であれという希望を配しています。
それは愛する人の喪失に対処する魔法の芸術作品。ベース/ドラムスのドゥームデュオが投じた1曲83分の暗重なる叙事詩 “Mirror Reaper” は生と死を投影する難解なるあわせ鏡。Adrien Guerra へ捧げるトリビュートとしてその崇高なるメランコリー、哀しみの影を増しています。

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FALSE “PORTENT”

手前には、切り立った崖に集まる人々。その下には、溶岩、地獄の炎、硫黄煙の悪魔的な風景が広がります。まるでロードオブザリングのモルドール。しかし、この破滅の場面はモノリシックな死神によって支配されています。炉を覗きながら新たな力を引き出しているのか、新鮮な犠牲者を預けているのか。左手は鋭き鎌を握り、その刃の端は犠牲者の血で赤く染まっています。
死神の背後には巨大な暗闇の崖。霧に包まれながら巨大な白い旗を振る人間は、呪われた運命を受け入れると身を委ねます。目はくぼんでいて暗く、苦悶の表情を浮かべています。
アートワークは “Portent” に宿るヘヴィネスの象徴。レコードの包括的なテーマと感情を視覚的に表現します。暗闇を強調するだけでなく、焼け付くような赤や従順な白は軽薄さよりも、絶望、運命の必然性、破壊の感覚をもたらします。
そんな悲劇に直面して、創造性は痛みを和らげるでしょうか。悲しみに似た慰めは様々な形状を取るでしょう。そしてミネソタのブラックメタル FALSE の場合、その慰めはメロディックな構成の妙となりました。凶暴なリフとシンセ重視のアレンジはリリックの巧妙と相まって深みのあるブラックメタル世界を創造しました。

PSYCROPTIC “AS THE KINGDOM DROWNS”

ドゥームを思い起こさせる惨めな風景。巨大な割れ目が大地を分かち、炎の中に孤独な人影が残されました。燃えるような赤とオレンジ、息苦しいほど厚いグレーと黒の4色は作品に命を吹き込みます。
最も目を引くのは壮大な人型の苦痛です。腕は広く引き伸ばされ、肩からひどく引き裂かれ、骨から筋線維が引き裂かれています。その間、荒れ狂う業火は生き生きと燃え続け、人の顔が目の前で溶け出し、加えて融解した金がバンドのロゴから頭蓋骨に注がれ、骨を貫通しているようにも見えます。
“As the Kingdom Drowns”、王国が沈む時。アルバムタイトルはそのアートワーク、音楽性、そして “Deadlands”, “Beyond the Black” といった楽曲タイトルに裏付けられています。そのエピカルな風景は、無機質でストレートなテクニカルデスメタルから、GOJIRA のグルーヴやプログレッシブなサウンドスケープを組み込み始めたタスマニアデビルの変化の証なのかも知れませんね。

ATLANTEAN KODEX “THE COURSE OF EMPIRE”

ドイツのエピックドゥーム ATLANTEAN KODEX に提供したアートワークは、他の絵画とは少々異なりゴージャスです。実際、トラディショナルなメタルにしっかりと根付いた彼らの “壮大な” 瞬間は、これまでの悲嘆や苦痛の絵画にはフィットしなかったかもしれませんね。たしかに暗闇は存在し、仄暗い戦争の霧はアートを覆いますが、鮮烈なギターのハーモニーと同様に、最も注目を集める色はブライトに輝く金色です。
武器を抱え、誇らしげに掲げた旗で、Mariusz はかつての偉大な帝国を象徴しています。ストーリーが語るようにその栄光は輝かしいように見えますが、真実のイメージを覆い隠しています。帝国の本質。それは暴力、奴隷制、死。描かれた戦士たちには名前も顔もありませんし彼らが遭遇する恐怖、死傷者の姿もありません。つまり本来戦いの炎は決して美しくはありませんが、このアートは間違いなく美しいと言えます。

MIZMOR “CAIRN”

ポートランドに彷徨う独りブラック/ドゥームメタル MIZMOR の “Cairn” は2019年の秘宝でした。燃えさかるマントを纒い割れ目の前に鎮座する死神。対照的に崖の間際に立つ人の姿は絶望的に小さく見えます。対比の描写は強力なニヒリズムの感覚を引き出しますが、死神の手の中にある構造物はその感覚をより複雑に導きます。
電気のピラミッドは、知識、芸術、創造性を象徴するルーブル美術館のアートにも似ています。それは瓶の中の稲妻。努力する、保護する、そしておそらく苦しむ価値さえあるでしょう。
事実 “Cairn” は MIZMOR にとってニヒルな道標であるだけでなく、BELL WITCH の “Mirror Reaper” の合わせ鏡としてフューネラルドゥームというジャンルにおいて最高の芸術性と審美を湛えます。4曲57分の分離は不可能。神のいない孤独で荒れ果てた現実において無神論者の精神的目覚めから、喜びではなく人生の責任や重荷を受け入れることまで、リスナーは “Cairn” を自分自身の真の延長として完全に所有し受け入れなければならないのです。

ABIGAIL WILLIAMS “WALK BEYOND THE DARK”

ABIGAIL WILLIAMS の “Walk Beyond the Dark” はアートワーク、音楽の両方で2019年ベストブラックメタルの一つだと言えました。白きフードの死神は他のアートワークとは一線を画しています。炎もたしかに存在しますが、もっと暖かな輝きが溢れています。きっと人が佇む死神の洞窟は暖かさと休息の場所、勇気が安全で報われる場所。今回の “孤独な人” はこれまでほど弱々しくは見えません。ライオンの巣穴に入り、死神の中を慎重かつ勇敢に移動します。それはまるでABIGAIL WILLIAMS がリスナーに、彼らの素晴らしく壮大なレコードへと参加することを望んでいるように。
Sorceron は THE FACELESS を去りこの作品に没頭しました。彼の献身と努力も同時にアートワークのイメージに重なります。 アンビエンスとブラックメタルを組み合わせ、プログサイドも完璧に機能。そのオーラは神々しいまでに美しく花開きました。

ASTRAL ALTAR “A:.A:.”

苦悩の感覚は明白です。地獄のキノコ雲とその下に広がる火の雨は、憤怒、苦痛を強調しています。 荒廃は大きく、それでも全てのカオスと破壊の中、空飛ぶ残り火と荒れ果てた燃える大地の中には、落ち着き悠然としたシルエットの人物が見えます。 仕事に取り掛かる死神でしょうか? 静かに死者をふるいにかけているのでしょうか?何故だか不安感じさせる存在です。

ROGGA JOHANSSON “ENTRANCE TO THE OTHERWHERE”

この作品のアートワークは ATLANTEAN KODEX の状況に似ています。孤独な船、厳かな水流、そして帝国の建築物。まるで世界の末端を見ているかのようですが、船は徐々にそこから遠ざかっていきます。 どこから来て、どこにたどり着いたのでしょう?
アーチは強さの象徴で、グレコローマンの柱とそびえ立つ崖によってさらにモチーフは強力になりました。アーチの頂上には、角を吹くのを待つ大天使ガブリエルを連想させる大きな像がありますね。 旅と探検。 未知なるもの。 失われ忘れられた文明。思考を刺激する作品であり、方法は異なりますが、スタイルやコンセプトは他の Mariusz アートと共通しています。

XENOBIOTIC “MORDRAKE”

ABIGAIL WILLIAMS とは対照的に、苦痛の中に囚われた人影は暁に肩を落とします。本来太陽がある場所には、苦悶の表情が世界を照らし、剣を手にした苦痛の化身は顔を糸で覆われて全てを封じられ、まるで化身の血の涙が背景から流れ出しているようにも思えます。
2020年、まず名乗りを上げ節目の年のイメージを設定したのは彼ら。オーストラリアのデスディーラー XENOBIOTIC は、デスメタルとデスコアの方法論を組み合わせ、メロディー的に豊かでテクニカルでありながら、最上級に苦悶のサウンドを生み出すことに成功しました。エピックの灯火は非常にクリアなプロダクションを誘いメタルの未来を照らし出しているのです。

参考文献: KILLYOURSTEREO:Mariusz Lewandowski: the man behind the art

BANDCAMPHow Mariusz Lewandowski’s Epic, Emotive Paintings Made Him Metal’s Most In-Demand Artist

HEAVY BLOG IS HEAVY:A Gift To Artwork – Mariusz Lewandowski

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