EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MATT WEED OF ROSETTA !!
Philadelphia Based Post-Metal Quartet, Rosetta Draw The Hope And Dissapointment Of Life In The Amazing Concept Record “Utopioid” !!
DISC REVIEW “UTOPIOID”
フィラデルフィアから宇宙を俯瞰する一望無垠のポストメタルカルテット ROSETTA が、バンドの最高到達点 “Utopioid” をリリースしました!!CITY OF SHIPS のメインマン Eric Jernigan を正式メンバーに迎え、前作から5人編成となったバンドは、Tokyo Jupiter Records の招聘で盛況を収めた昨年の日本ツアーを経てさらにその連携と熟成の濃度を深め、自らの美意識と野心を完膚なきまでに封じ込めた壮麗なるコンセプト作品を完成させたのです。
ポストメタルが興隆を極め、その概念が最も時代と調和していた2005年。前年にリリースされた ISIS “Panopticon”, CULT OF LUNA “Salvation”, NEUROSIS “The Eye of Every Storm” といったクラッシックの追い風を受けて ROSETTA は “Galilean Satellites” でデビューを果たします。
実際、Aaron Turner がアートワークにムーブメントの急先鋒である証を刻んだ二枚組は、轟音と叙情、静と動、メタルとアンビエンスを野心的な実験精神の上で対比させた意欲作で、宇宙旅行や天文学をテーマとした独自性とも相まって大きな注目を集めました。
しかし、ポストメタルの頂点はアイコン ISIS が去った2000年代後半までだったのかも知れません。シーンの飽和と定型化、ミニマリズムへの傾倒は新鮮な空気やスペース、そして “ポスト” たるべきアイデンティティーまでをも奪っていったと言えるでしょう。
ただし、10年を経た現在でも挑戦を続け “Thinking Man’s Metal” を先へ進めるバンドは少なからず存在します。エレクトロニカにフォーカスし、最新作 “Mariner” では女性ボーカル Julie Christmas を巧みに起用し一際キャッチーな一面まで開花させた CULT OF LUNA, プログレッシブとポストメタルの境界で揺蕩う THE OCEAN はその筆頭格だと言えるかも知れませんね。そして新たに Eric Jernigan を得てポストハードコアやエモサウンドを実装した ROSETTA も。
“Upopia” と “Opioid”。二つの相反するタームを繋げてタイトルとした “Utopioid” は、”Amnion” “羊膜” というインストゥルメンタルで幕を開けます。静謐かつ牧歌的、EXPLOSION IN THE SKY にも通じる究極にイノセントなオープナーは、まさに胎児の無垢なる祈りを表現しているのです。
「僕たちはメインキャラクターの心情を中心にフィクションのストーリーを書いたんだ。 ストーリーはその主人公が生まれてから死ぬまでの人生を描いているよ。」 と Matt が語ってくれた通り “Utopioid” はバンド史上最も深淵かつ現実的なコンセプトアルバムです。”Red”, “Yellow”, “Black”, White”。4つのチャプターを色彩で彩るレコードは、そのまま人間の誕生から希望、葛藤、斜陽までをビビッドに描き出しています。
“Intrapartum”, “分娩” と名付けられた “Red” の第二楽章は、まさに神秘なる生誕の祝祭です。「メンバーそれぞれの “テリトリー” 役目を持たないようにしたんだ。5人全員がボーカルをとっているし、全員で歌詞も書いたよ。」 と語るように “Intrapartum” で聴くことの出来る穏やかに揺らめき、深く繊細にレイヤーされたサウンドは本来の意味での豊かな五重奏を実現しています。プログレッシブという観点に立てば、あの Mike Oldfield を想起するファンも多いでしょう。
ミキシングでリードボーカルが紡ぐ主旋律を意図的に引っ込め、アトモスフェリックなコーラスとダイナミックな演奏の海へと放流し、オプティミスティックで多幸感溢れる音像を具現化する手法も実に効果的ですね。
しかしながら、勿論、ほとんどの人生は望んだ通りにはなりません。「彼らは望んでも実現しない “ユートピア” を求めてドラッグにのめり込んでいると思うんだ。これってドラッグじゃなくても、誰にでも起こることだよね。例え不健康だったり自己破壊に繋がったとしても、心を快適に保つために。」 アルバムの主題、本質はここにあります。
人生や社会に対する失望、絶望、悲しみ。加齢と反比例して狭まる可能性。孤独。人はそれがポジティブであれネガティブであれ、必ず自らの “ユートピア” を持たなければ何かに押し潰されてしまうのかも知れませんね。
実際バンドは、メタルのエナジーとポストハードコアの衝動、シューゲイズの躍動感で瑞々しき青年期 “Yellow” を描いた後、シュールなリアリズムとメロウな音流で “ユートピア” をドラッグに求めた悲しき人物の晩年を残酷に映し出して行きます。
ミニマルで青春の線香花火にも思える美しきインストゥルメンタル “54543” を導火線に、主人公の激情と慟哭は “Detente” で爆発します。クラシカルな翳りとダークなアトモスフィア、そして “私の時間が失われた” と嘆く Mike Armine の圧倒的な咆哮は決してアルバム前半には存在しなかった人間の闇、まさに “Black” だと言えるのでしょう。
寂寞も罪悪も背徳も、全てを優しく包み込む “Hypnagogic”、至上のメランコリーで生命の灯火を吹き消す葬送曲 “Qohelet” を経て、アルバムは “Intrapartum” のメロディーがリフレインする 輪廻の予感 “Intramortem” で “白く” 静かに幕を閉じました。
今回弊誌では Matt Weed に再び話を聞くことが出来ました。ドラマティックでメロウ、耽美かつリアリズムに満ちた ROSETTA 流のオペラは、”宇宙飛行士のメタル” からの旅立ちなのかも知れませんね。どうぞ!!