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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【ORBIT CULTURE : DESCENT】 LOUD PARK 25′


COVER STORY : ORBIT CULTURE “DESCENT”

“I Believe That Orbit Culture Will Lead The Metal World In The Future. Super Heavy And Super Melodic. Above All, They Have All The “Ingredients” That Metal Should Have! -Matt Heafy-“

DESCENT

「これからのメタル世界を牽引するのは、ORBIT CULTURE だと信じている。スーパー・ヘヴィでスーパー・メロディック。何より、メタルにあるべきすべての “素材” を備えているんだ!」
TRIVIUM の Matt Heafy はそう言って、スウェーデンのエクショーという小さな街から現れた “メタルの未来” を称賛しました。
実際、ORBIT CULTURE のメロディック・デスメタルとメタルコア、グルーヴ・メタルに80年代の古き良きスラッシュ・メタルのブレンドは、メタル界で最も期待されるバンドとして、Matt 以外の人物からも高く評価されているのです。
MACHINE “Fuckin”’ HEAD の Robb Flynn もそのひとり。彼らはUSツアーのサポートに躊躇なく ORBIT CULTURE を抜擢しました。
「言葉がないよ!よく、大好きなヒーローには会うべきじゃないなんて言われるけど、それは間違いだ。ヒーローには会うべきだよ。彼らはみんな、謙虚で素晴らしい人たちだ!」
フロントマン、Niklas Karlsson はそう言って、自らのヒーローたちからの称賛を噛み締めました。そのヒーローたちと同様、Niklals が謙虚なのはここに来るまでの道のりで苦労を重ねてきたからかもしれません。実際、エクショーがどこにあるかと尋ねても、おそらくほとんどの人はあまりピンとはこないでしょう。 しかし、スウェーデンの真ん中、あのイエテボリとストックホルムの間に位置するのどかなこの街こそ、Niklas が自分のバンドを作ろうと動き出し、今でも彼が故郷と呼ぶ場所なのです。
「子供の時からずっとバンドがやりたかった。15歳のときに近くの村からここに引っ越してきたんだ。 バンドをやっている人たちの輪に入ろうとしていてね。結局、昔のギタリスト Max Zinsmeister と友達になり、バンドをやることにしたんだ」

そうして2013年、17歳の Niklas はスウェーデンの若者らしくメタル・バンド ORBIT CULTURE (バンド名ジェネレーターで決めた) を立ち上げ、何千マイルも離れた場所で暮らす人たちの前で演奏しながら、世界中を回る旅を始めたのです。
「今日に至るまで10年かかったけれど、それは必要なことだった。成熟するためのプロセスと時間が必要だったと思う。 でも、時には大変なこともあったけど、僕はバンドを止めなかった。だって、メタルとバンドのおかげで僕は正気を保っていられるのだから」
“Nija”, “Shaman” で Niklas の不屈のボーカル・レンジも相まって勢いに乗った Orbit Cultureは、同じスウェーデンの大物で、メロデス・シーンのレジェンド IN FLAMES との US ツアーにこぎつけましたが、それは実際に訪れるまで現実味がまったくないほどの驚きでした。
「オファーを受けたときは “ああ、クールな感じだ” と思った。それから、”何が起こっているんだ?” とパニックになったんだ!
でも、IN FLAMES と一緒に演奏した初日以降は、基本的に1日おきにバーベキューをしたりで馴染んでいったよ。彼らはメロディック・デスメタルの最大手のひとつだ!でも今となっては、彼らは僕らのおじさんか、兄のような感じだ。”IN FLAMES の Anders とこんなところで話しているなんて…” って、ちょっと腕をつねってみたりね。僕たちの誰もが、このツアーを実際に起こったこととまだ受け止められていないと思う」

MACHINE HEAD や IN FLAMES とのツアーの経験が、彼らの音楽を進化させました。
「巨大なバンドがライヴをやっている間、僕たちはステージの脇に立って、彼らの話し方や、彼らが楽器を通して観客にどう語りかけるかに注目してきた。そして、 ライヴに足を運んでくれる人たちに楽しんでほしいという思いが強くなった。 それがバンドとして僕らに欠けていたものなんだ。 だから、そこに集中するようにしているんだ」
実際、ORBIT CULTURE はアルバムごとに進化を遂げてきました。
「”Nija” はとても機械的な野獣だった。サウンドスケープで巨大なものを目指していた。一方 “Shaman” は、よりライブに適したものだった。最も自然なのは、”Descent” でそれらを融合させようとすることで、そこにダークな要素や新しいものを作るのも自然なことだった。2016年のアルバム “Rasen” からの要素もある。ある部分について面白かったものを取り出して、それらをまとめようとしたんだ」

Niklas は、イエテボリやストックホルムのようなメタルの “故郷” ではなく、エクショーという小さな街で育ったことが ORBIT CULTURE のオリジナルなサウンドを生み出したと考えています。
「もし僕たちがイエテボリやストックホルムで育っていたとしたら、こうはならなかっただろうな。僕らは、シーンの一部でも何でもなかった。IMMINENCE の Christian とも話したんだけど、僕らは生まれるのが15年遅かったんだ。当時は誰もがバンドをやっていたからね。だから、自分たちの音楽を自分たちだけで作り続けていたんだ。シーンの中心から遠かったからこそ、スウェーデンのバンドだけじゃなく、USのスラッシュや METALLICA からもより多くのインスピレーションを受けることができた。もちろん、MESHUGGAH や IN FLAMES は敬愛しているけど、同時に僕たちはいつもアメリカの80年代や90年代の音楽に興味があったんだ。
もちろん、メロディック・デスメタルもまだ聴くことができるけど、僕らはそこに様々な影響を融合させたんだ。自分たちがクールだと思うものを演奏し、レコーディングしているよ」

彼らの音楽と人生を変えたバンドは、昨年オリンピックのオープニング・セレモニーで叫び、そしてグラミーを受賞しました。
「メタル仲間が “The Way of All Flesh” についてよく話していたんだ…でも、当時は METALLICA に夢中だったから、友達みんなでパーティーをすることになるまで、GOJIRA に触れる機会はなかった。 その夜、僕が知っていたメタルと音楽全般についてのすべてが変わったんだ。
パーティーのみんなは朝早くには眠ってしまっていて、僕だけがまだ起きていてゲームをしたり、新しい音楽を探し回ったりしていた。 そうして、”Where Dragons Dwell” に出会い、そのイントロが流れた瞬間、ある種の高揚感を感じた。 僕は “The Way of All Flesh” まで聴き続け、”The Art of Dying” という曲が流れてきた。 その曲を初めて体験した後、僕はヘッドホンをゆっくりと外し、緊張した目が潤んできた。 これはもう音楽ですらなく、18歳の僕の魂にまっすぐ語りかけてくる何か別のものだった。 その体験の後、僕は眠りにつき、目を覚ますと、荷物をまとめてまっすぐ家に帰り、さっき聞いたことを燃料にしてリフと曲を書いた。 あの日のことは決して忘れないだろう。
GOJIRA は METALLICA と同様、僕が何年も何年も聴き続けている数少ないバンドのひとつだ。 彼らはレコードを出すたびに、僕が最初に彼らを好きになった理由であるスピリチュアルな面を含みながら、完全に新鮮なものを作っている。 世界で最もヘヴィなメタル・バンドのひとつでありながら、悲しみ、希望、愛、怒りなど、リスナーのあらゆる感情とつながることで、完全なスピリチュアルな感覚をリスナーに与えている。つまり、僕らの屋台骨は GOJIRA と METALLICA なんだ」

AVICII の大ファンであることも公言しています。
「つまり、彼の音楽は素晴らしいけど、僕が一番興味を惹かれるのは、フックを書く能力だと思う。 ポップでハッピーな曲でも、心の琴線に触れることができるんだ。そしてそれが僕の興味をそそる。
最もダークなメタルであれ、最もポップなダンスミュージックであれ、音楽は何かを感じさせてくれることが大切なんだ」
映画 “Dune” も “Descent” の大きなインスピレーションのひとつです。
「そう、もう2回も観ている。まったく飽きることがなかったよ。ハンス・ジマーによるサウンドデザインは素晴らしかった。サウンド・デザインと言ったのは、メロディーというより、壮大なサウンドが印象的だからだ。 その広大さが映像にとても合っているんだ。 ストーリーも音楽も、どちらも重厚な映画だ。だから、次のアルバムでも “Dune” はもっと出てくると思うよ」
まさに “映画” は ORBIT CULTURE の音楽にとってなくてはならない音楽の景色となりつつあります。”The Tales of War”。彼らの最新曲は、緊張感がありながらも洗練されたシンフォニー・ストリングスのイントロで始まり、すぐに廃墟のようなギターの沼地へと沈んでいきます。Niklas は、暗闇の中を這いずり回り “恐怖の海に溺れる” と唸り、威嚇的な姿を見せながらも、アンセム的なコーラスで憧れとメロディックな救いを与えていきます。
「これまでほとんどすべてのライヴで、ムードを盛り上げるために映画のような長いイントロを使ってきた。でも今回は、曲そのものにその感覚をそのまま焼き付けるのはどうだろうと考えたんだ。映画のような要素、盛り上がり、詩、そしてコーラス。最初から、これが僕らの新時代を紹介する最初の曲でなければならないとわかっていた」

とはいえ、実験のしすぎにも気をつけています。
「実験や進化はとても大事なことだけど、あまり手を広げすぎるのもよくない。 というのも、僕はまず自分のために曲を書くし、今の僕らのサウンドが好きだから…(笑)。でも明らかに、僕はどこでもプラグインやサウンドパックを “ああ、これカッコいいな” と思って買ってしまうような人間でもある。でも結局のところ、10個の要素のうち1個を使うだけなんだ。 イントロ、ヴァース、コーラスというような、ポップでシンプルな公式が基本。僕はそれが好きだし、それが僕にとってのメタル。1秒間に100万音符を弾くような演奏はしないよ(笑)」
歌いながらギターを弾くことも簡単ではありません。
「”Nija” の3曲目に収録されている “Day of the Cloud” は、演奏するのも歌うのも大変だった。 でも、”Shaman” に収録されている “Mast of the World” という曲にはいまだに苦労している。 歌いながら同時に演奏することはなんとかできるようになったけど、ただそこにつっ立っていなければならないんだ。 完全に時間通りにやらないとスタミナが続かない。 他のメンバーとの連携が取れていないと、平坦なものになってしまう」
“Descent” を作るにあたって、Niklas が考えていたのは静寂を使ったダイナミズムでした。
「ほとんどの曲は、ジェットコースターのように上下する。それが僕らの好きなところなんだ。アルバムの流れについてもっと考えている。”Descent” の最後を飾る “Through Time” は、星間的な雰囲気の曲で、いい感じだった。45秒間大音量で鳴り響き、その後に静かな音楽が鳴り響く。僕はそれが好きだ。そうありたいんだ。NIRVANA のようなね。ライヴ向きのアルバムにしたかったんだけど、最終的にはこの巨大でダークなモンスターになった。最高の山から最低の奈落の底まで。ただ、僕はギターがそんなに上手くないから、曲を作るときは、自分ができることにとどめているんだよ」

苦労と実験の長い道のり。それでも、1400年代にまで遡る歴史的で、しかし小さな町から生まれたヒーローは常に前を見据えています。
「最初の頃は大きな問題を抱えていた。 僕は一体何を間違えているんだ? って。それから他人のせいにしたり、そんなくだらないことを始めた。 ORBIT CULTURE で何をしたいのか、目的を見失いかけていた。 ただ曲を書いて、カッコいいアルバムやカッコいいアルバム・カバーを作りたかったんだけなんだけどね。 でも同時に、外に出て演奏しなければならないことも分かっていたし、そのためにふさわしい仲間を見つけなければならないことも分かっていた。 幸運なことに、それがうまくいった。 特にスウェーデンのこんな人口10000人の小さな町から来たのは超レアだ。 ここで音楽をやっている人はもうそんなに多くないし、僕が知っている限りではね。 それが僕らを家族のように感じさせてくれた。ファンのコメントで、何か暗い経験をしていると書いてあるのを見ると、自分もそういうことを考えることがあるんだ。 僕らの音楽に共感してくれるなんて、本当に素晴らしいことだよ。 僕らの音楽が人々の助けになるなら、僕らにとってはそれで十分なんだ。僕たちは兄弟みたいなもので、みんなと ORBIT CULTURE を共有できることに興奮しているよ」

 参考文献: KERRANG! MUSIC CULTURE REVIEWS COVER STORY THE K! PIT STORE MAGAZINE BUY NOW SPRING 2025 FEATURES “This keeps me sane, I have to do this”: Meet Orbit Culture, the band Matt Heafy is calling the future of metal

REVOLVER :”HIGHEST MOUNTAIN, LOWEST ABYSS”: INSIDE ORBIT CULTURE’S MOST EXTREME ALBUM YET

NEW NOISE MAG:INTERVIEW: SWEDEN’S ORBIT CULTURE ARE SHOOTING FOR THE STARS

KNOTFEST:Niklas Karlsson Of Orbit Culture Talks Their Rise, Touring With In Flames and More!

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SIGN OF THE WOLF : SIGN OF THE WOLF】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TONY CAREY OF SIGN OF THE WOLF !!

“In The Original Era, 60s, 70s, and 80s, The Music Was New And The Style Was Being Invented. It’s Now 50 Years Later For Me – I Joined Rainbow In 1975 – And The Bands I Hear Today Aren’t Inventing Anything. That’s The Difference.”

DISC REVIEW “SIGN OF THE WOLF”

「Ronnie の声?まさに最高の一人だよ。人として?彼は僕より14歳年上で、叔父さんのような存在だった。Ronnie も Wendy Dio も素晴らしい人たちだったし、彼は僕と同じアメリカ人だったからね。僕はイギリス人ミュージシャンと仕事をしたことがなかったから、バンドにもう一人アメリカ人がいたことは大きな助けになったんだよ」
70年代/80年代を象徴するハードロックについて語るとき、RAINBOW の “Rising”、BLACK SABBATH の “Heaven And Hell”、DIO の “Holy Diver” が挙がることは間違いないでしょう。共通項はもちろん、伝説のボーカリスト Ronnie James Dio の存在。彼の歌声、彼の魔法、彼のファンタジーが失われて久しい2025年の暗闇に虹をかけるような傑作が、Ronnie を愛する人々の手によって生まれました。SIGN OF THE WOLF。彼の掲げるメロイック・サインに集いし者たち。
「オリジナルの時代…60年代、70年代、80年代は、音楽が新しく、スタイルが発明がどんどん発明されていった。僕は1975年に RAINBOW に加入したんだ。それから50年が経って…今僕が耳にする新しいバンドは何も発明していない。それが違いだと思うよ」
この美しいプロジェクトは、Firework Mag の Bruce Mee の発案で始まりました。”Tarot Woman” のイントロ、Tony Carey の幽玄神秘なキーボードが彼をハードロックに引き込み、Ronnie の圧倒的な歌声に忠誠を誓いました。そうして長年音楽業界に身を置く中で、今回のインタビューイ Tony Carey と同く、現代のハードロックにどこか物足りなさを感じるようになったのです。かつての、個性的で、音楽の発明が各所に散りばめられた壮大なるメロディの園を甦らせたい。そうして彼は Tony Carey をはじめ、温故知新で才能豊かなアーティストを集めることに決めたのです。
「このプロジェクトにはたくさんの才能があるし、僕はとにかく、Doug Aldrich と Vinnie Appice と一緒にやってみたかったんだ」
ドラム・キットの後ろには、”Mob Rules” や “Holy Diver” など数多のマイルストーンでエンジンとなった Vinnie Appice が鎮座し、Chuck Wright や Mark Boals といった名手とタッグを組みます。リード・ギターは Doug Aldrich。ご承知の通り、WHITESNAKE に再び魂を込め、DIO を復活に導いたカリスマにして、真のギターヒーロー。
もちろん、Ronnie James Dio の歌声は誰にも代えられませんが、ここでは全曲に Andrew Freeman が参加。Vivian Campbell が DIO を受け継ぐ LAST IN LINE (“Ⅱ” の素晴らしさは筆舌に尽くしがたい) でボーカルを務める Andrew の実力は本物。良い意味で “ジェネリック・ディオ” ともいえる彼のキャッチーな力強さは、SIGN OF THE WOLF の音楽に真のフックと重厚さを与えています。そこに、Doug や Vinnie と演奏をしてみたかったと語る RAINBOW のレジェンド Tony Carey が合流。絶対的なハードロックの金字塔がここに誕生しました。
「”Rising” がこんなに長く愛されていることに驚いているよ。たいていのレコードは2~3年で忘れ去られてしまうものだからね。”Rising” はほとんど50年も人々の記憶に残っているんだから」
実際、Tony の参加した “The Last Unicorn” や “Rage of Angels” では、まさに “Tarot Woman” や “Stargazer” が放っていた神秘的で荘厳なロックの魔法が降臨しています。まだ鍵盤がロックの中心にいた虹色の時代。ただし、アルバムは RAINBOW のみならず、”Arbeit Machat Frei” では THIN LIZZY を (まるで Doug の BAD MOON RISING の3rd のようでもある)、”Silent Killer” では DIO を、そして壮大なタイトル・トラックではあの名曲 “Heaven and Hell” をも探訪して、ロックやメタル、その革命の炎を今でもあかあかと燃やせることを証明するのです。Steve Mann や Steve Morris, Mark Mangold の美学が炸裂するメロディックな楽曲もまた素晴らしい。
今回弊誌では、Tony Carey にインタビューを行うことができました。「実は、RAINBOW のライブは、スタジオでの RAINBOW とはまったく違っていたんだ。コンサートではハモンドをたくさん弾いたけど、レコードではほとんど弾かなかった。”Rising” と “Long Live Rock and Roll” のレコードは、ハモンドの代わりにギターのオーバーダブがほとんどだったんだ。だから僕たちのライブ・サウンドはスタジオとはとても違っていて、そのライブ・サウンドこそが僕にとっての RAINBOW だったんだ」本物にしか作りえない本物のハードロック・アルバム…Dio といえば “Dehumanizer” の再評価も進んで欲しいと祈りながら…どうぞ!!

SIGN OF THE WOLF “S.T.” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【KING GARCIA : HAMELIN】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH KORNILIOS KIRIAKIDIS OF KING GARCIA !!

“The Clarinet, In Particular, Has a Fascinating Quality: It Offers Freedom Between Tempered And Non-Tempered Systems, Opening Up Countless Musical Pathways. It Can Transform From a Sweet, Intimate Instrument To a Scream Of Despair, Making It Incredibly Expressive.”

DISC REVIEW “HAMELIN”

「ハーメルンの伝説は、社会的にも政治的にも、多くの文脈に適用できる。芸術家は常に、はみ出し者、フリンジ (奇抜な狂信者、過激派) として扱われてきた。しかし、芸術には世界を動かす力があると同時に、世界を止めてしまう力もあるんだ。救うことも破壊することも、団結させることも分断させることもできる。重要なメッセージは、権力の行使、あるいは行使の誤りこそが、救世主と暴君を分けるということだ」
欲望に魅入られた権力者の心ない、愚かな行為や圧政、暴力に差別はいつの世にも存在します。そしていつの世も、そんな理不尽や抑圧を引き受けるのは弱い者、はみ出し者、社会の常識に収まらなかった者。
ドイツの寓話、”ハーメルンの笛吹き男” では、ネズミ退治を請け負った 笛吹き男が報酬を支払ってもらえず、怒って町の子どもたちを笛の音で誘い森へと連れ去りました。一方で現代メタルの “笛吹き男”、ギリシャの KING GARCIA は暗い世にはびこるあらゆる種類の腐ったネズミたち-政治家、侵略者、宗教家-をその笛の音で何処かへ連れ去ろうとしています。こうした寓話から読み取れることは何でしょう?”生産性” がないと切り捨てられた人に、実際は世界を動かす力がある?芸術に秘められた諸刃の剣?とはいえ、その寓話と言葉のないアルバム “Hamelin” の受け止め方はリスナーの耳に委ねられています。
「僕たちはクラリネットやトランペットのような管楽器を “伝統的な楽器” として使っているわけではないということだよね。僕たちにとって最も重要なのは、木管楽器や金管楽器のサウンドと、それがもたらすユニークな特徴なんだ。特にクラリネットは魅力的な性質を持っている。調律された音と調律されてない音の間で自由を提供してくれて、数え切れないほど音楽の道を開いてくれる。甘く親密な楽器から絶望の叫びまで変幻自在で、信じられないほどの表現力を発揮するんだ」
実際、モダン・メタルの笛吹き男、その異名は伊達ではありません。クラリネットを主軸にトランペット、バグパイプ、ガイダ、カヴァルといった多彩な管楽器を駆使するのは、バンドの “声” の幅を広げるため。もちろん、ひとつの楽器、ボーカルやギターを “声” に据えてもその才能によって幅を広げることは可能ですが、KING GARCIA は楽器自体を入れ替えるという手法で “声” の多様さを追い求めようとしています。さらに、主軸となるクラリネット、そのギターで言えばフレットレスのような調律のフレキシビリティーがさらに “声” の可能性を押し広げていきます。
「伝統的なギリシャ音楽の影響が僕たちのスタイルにシームレスに織り込まれ、KING GARCIA のサウンドの豊かさと独自性を際立たせている。僕たちの音楽的伝統への敬意は、創造性を制限するものではなく、むしろそれを高め、僕たちの作品に聴衆と直接共鳴する深みを与えているんだよ」
そうした “声” の幅広い可能性は、KING GARCIA の肉体、その音楽的基盤の多様さによってさらに増幅されていきます。ただし、彼らが血肉としてきた影響の数々は、決して意図的ではなく有機的にその体内を巡ります。PAIN OF SALVATION, MESHUGGAH, QUEENS OF THE STONE AGE といったプログレッシブ/オルタナティブの極北、その雫は KING GARCIA の原衝動である ギリシャの伝統音楽とシームレスに混ざり合い、ガイダやカヴァルといった彼の地の伝統楽器を心臓にその体内を駆け巡ります。もしエンニオ・モリコーネやジョン・ウィリアムズがメタルを作ったら…そんな “If” の世界を実現できるのは、きっと彼らだけではないでしょうか?
今回弊誌では、ベーシストの Kornilios Kiriakidis にインタビューを行うことができました。「オンライン中毒による注意力の分断が事実上すべての人に影響を及ぼしている時代において、5秒以上続くものは今やリスクとみなされている。しかし、日常生活の中には、このような注意散漫が侵入できないわずかな時間がまだ残されているんだ。複雑で要求の多い音楽が輝きを放つのは、こうした瞬間なんだよ」 MOTHER OF MILLIONS のメンバーが参加、NEED のプロデューサーが手がけたギリシャ・メタルの最高到達点。どうぞ!!

KING GARCIA “HAMELIN” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CHANGELING : CHANGELING】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TOM “FOUNTAINHEAD” GELDSCHLÄGER OF CHANGELING !!

“Hans Zimmer Famously Said That His Music Is Not Original, But It Is The Sum-total Of All The Music That He’s Consumed In His Life – And That Is Also True For Me.”

DISC REVIEW “CHANGELING”

「Hans Zimmer の有名な言葉に、”自分の音楽はオリジナルなものではなく、人生で消費してきた音楽の総体である” というものがある。そしてその言葉は、僕にとっても真実なんだ。僕は若い頃からオーケストラ音楽に興味があり、10代で初めてレコーディングしたときから、さまざまな種類の楽器を重ねたりオーケストレーションしたりすることで、ロックバンドのサウンドを超えることを試みていた。まだ10代の頃に書いた曲を収録した僕の最初のソロ・アルバムでさえ、オーケストラ・パートや世界中のパーカッション・サウンドがあり、さまざまなジャンルや音楽の伝統から影響を受けている。それが僕の頭の中の音楽の聴こえ方なんだと思う」
“モダン・メタルの歴史上最高傑作のひとつ”。AMOGH SYMPHONY で共闘した Vishal J Singh は、戦友 Tom “Fountainhead” Geldschläger の新たな旅路をこう称賛しました。その言葉は決して大げさなものではありません。長年、艱難辛苦に耐え抜いたフレットレス・モンスターは、これまでの人生と音楽体験をすべて注ぎ込み、モダン=多様を完璧なまでに体現しためくるめくメタル・アートを遂に完成させたのです。
「メディアだけでなくギター業界も、僕のプロとしての全生涯を通じて僕の作品をほとんど無視してきたからね。そしてもちろん、世界各国のアルバム・チャートにランクインした “Akroasis” を通して、ようやく世界中の聴衆に僕の作品を聴いてもらえたというのに、OBSCURA のバンド・リーダーによって、”Tom のパートを再録音した”、”アルバムにはフレットレス・ギターがない”、”Tom はスタジオでギターのチューニングもできない” と嘘の中傷キャンペーンを展開されたときがその最たるものだったね。それだけでなく、僕のビデオはほとんど削除され、僕のソーシャルメディア・ページは何度もハッキングされ、いじめられたり、せっかく僕の活動に興味を持ってくれていたオーディエンスから切り離されたりするケースもたくさんあった。だから、そうした僕の旅路が “Changeling” でやっとメディアの注目を得ただけでね。このアルバムを聴いて、斬新だと思われるのはよくわかるけど、実は僕はもう20年くらいフレットレスでメタルやそれに関連するスタイルを演奏してきたんだ」
Fountainhead が正当な評価を得るのにここまで時間がかかったのは、あまりに遅すぎたとしか言いようがありません。そして皮肉なことに、その評価の妨げとなっていたのは他でもない、彼を世に送り出した OBSCURA の “Akroasis” だったのです。
実際、Fountainhead は OBSCURA の最も野心的な作品となった “Akroasis” の源泉でした。15分の “Weltseele” では東洋の影響と弦楽五重奏を加え、魅惑の実験的スタイルでアルバムを締めくくるなど Fountainhead の貢献、その大きさは誰の目にも明らかであったにもかかわらず、近年よりその人間性が疑問視される OBSCURA の首領 Steffen Kummerer によって彼の存在は抹殺されてしまったのです。しかし豊かな才能は決していつまでも草庵で燻るべきではありません。遂に臥薪嘗胆が報われる日が訪れたのです。まさにメタルの回復力。
「フレットレス・ギターの長所と短所だけど、普通のギターではできないことを実現してくれる。微分音、グリッサンド、ハーモニクスをスライドさせたり、指板を縦よりも横に動けたり…本当にとても楽しいんだ。ただし、コードとなるとできることには限界があって、高音域でのサスティーン、演奏性にも限界がある。また、僕がよく使うメタル・フィンガーボードとブラス・ピックを使っても、ハイエンドを出すには限界があるんだ。だから、”フレットのない普通のギター” ではなく、”ユニークな目的&シチュエーションのためのユニークな楽器” としてアプローチするのが一番効果的なんだよね」
まずこの作品を特別なものにしているのが、Fountainhead のトレードマークであるフレットレス・ギターでしょう。フレットのない耳が頼りの弦楽器は、当然その習熟により大きな労力と鍛錬を必要としますが、あの Bumblefoot に薫陶を受けた Fountainhead にとってこの楽器はむしろ水を得た魚。輝くメタル・フィンガーボードで、この音楽にとって異質な夢幻の世界をフレットレス・ベースと共に紡ぎ上げていきます。
「アルバムのオーケストラ・パートの99%は本物の楽器なんだ。そう、それはとても大変で長いプロセスだった。既存のオーケストラと協力して、大きな部屋ですべてを生録音する手段がなかったからだ。 その代わり、数年かけていろいろな楽器やラインをいろいろな場所で録音した。そのために、さまざまなプレイヤーを起用する必要があったんだ。このアルバムのコンセプトのひとつは、曲ごとにまったく異なる形のオーケストレーションにすることだったから」
とはいえ、フレットレスの異端でさえこの作品にとっては飾りのひとつに過ぎません。ALKALOID, FEAR FACTORY, VIPASSI, DEATH, CYNIC といった強力なメンバーを礎に、混成合唱から、チェロ、フルート、ホーン、ピアノ、チューバ、ヴァイオリン、ヴィオラなど、あらゆる楽器でデザインされたテクニカル・デスメタルの宮殿は、ジャズ・フュージョン、プログレッシブ・ロック、ワールドミュージックを融合してまだ見ぬメタル景色を映し出していきます。アルバムを通して何度も登場し、クライマックスで花開くモチーフの成長も見事。そして、野心という実験音楽における諸刃の剣をしっかりと制御し、地に足のついたメタル・アルバムとして完成させたバランス感覚もまた見事。
今回弊誌では、Tom “Fountainhead” Geldschläger にインタビューを行うことができました。「”Changeling” には日本文化から直接影響を受けた曲が1曲あってね。”Abdication” なんだけどこの曲は、僕が最も影響を受けた音楽家の一人である久石譲の和声言語とオーケストレーション・スタイルを取り入れたものなんだ」これまで何度も弊誌に登場してくれている Morean の声も素晴らしいですね。どうぞ!!

CHANGELING “CHANGELING” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ANCIENT DEATH : EGO DISSOLUTION】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JERRY WITUNSKY OF ANCIENT DEATH !!

“Pink Floyd’s My Biggest Influence. I Picked Up a Guitar When I Was 4 Years Old Because Of David Gilmour From Watching Pink Floyd Live at Pompeii. So My Natural Style Is Just Things I Picked Up From Listening And Watching Him.”

DISC REVIEW “EGO DISSOLUTION”

「ATHEIST, CYNIC, DEATH…ANCIENT DEATH はこれらのバンドなしでは存在しなかっただろう。僕がそうした “グループ” を知ったのは、10歳か11歳の頃だった。当時クールだった “トレンド” の枠を超えて、より傷つきやすく内省的なところから曲を書くことで、個人として、ミュージシャンとして、自分らしくいられることを教えてくれたんだ。その体験は文字通り、僕の世界を変えた。僕は今年28歳になるけど、彼らは今でも当時と同じくらい僕にとって重要な存在だよ」
真の芸術は時の試練をものともせず、時代を超え、そして受け継がれる。メタルコアや Djent 直撃世代の Jerry Witunsky は、そのトレンド以上に探求すべきプログレッシブなデスメタルの審美と人間味に魅了され、情熱を注ぎ、ついには日本で愛するバンド ATHEIST の一員としてライブを行うという夢を叶えようとしています。その夢の実現のために大きな助けとなったのが、彼の世界観を体現した ANCIENT DEATH だったのです。
「”Ancient Death” という名前は僕らにとって実に意味があるんだ。それは、僕らの曲 “Voice Spores” の歌詞にある。ここで基本的に語っているのは、今は否定が否定を生み、それが僕たちを互いに分断しているということ。僕たちの見解では、否定性こそが人と人とのつながりにおける古き良き “古代の死” なんだよね」
憂鬱、悲しみ、心の平和、自己成長といったテーマを探求することで、ANCIENT DEATH は、人々がやがて自分自身にも他人にももっと優しく、寛容となり、共感できることを願っています。SNS では他者を否定し、断罪し、攻撃して溜飲をさげる行為が当たり前となった現代。彼らはそんな時代を古き良き “古代の死” と命名しました。デスメタル世界の “つながり” によって夢を叶えた Jerry は、心と魂のつながりの強さを信じています。つい最近、地球上で最も影響力のある人物が共感は “西洋文明の根本的な弱点” だと言及したばかりですが、だからこそ彼らのデスメタルはそうした合理主義に反旗を翻していきます。
「PINK FLOYD に一番影響を受けたっていうだけなんだ。彼らの “Live at Pompei” を見て、David Gilmour の影響で4歳のときにギターを手にしたんだからね。だから僕の自然なスタイルは、彼の演奏を聴いたり見たりして得たものなんだ。また、サウンドトラックの大ファンで、特に宮崎駿監督の映画は大好きで、1作を除いてすべて久石譲が手掛けているよね。僕にとって音楽とは、解放の場なんだ。誰かに何かを “感じさせて”、違う場所に連れて行く…それこそが美しいことだよ」
ANCIENT DEATH の音楽は、メタルを別次元に誘った80年代後半から90年代前半の、プログレッシブで実験的なデスメタルの鼓動を宿しています。しかし、オールドスクールなデスメタルに正直で真っ直ぐでありながらも、決して過去の焼き直しだけには終わりません。音楽を先に進めることこそ、彼らが先人から受け継ぐ美学。彼らがほんの数秒前まであった場所とは全く違う方向へと聴く者を連れて行くような、豊かなサウンドの雰囲気を作り出した時の驚きは、決してあの BLOOD INCANTATION に負けるとも劣らず。
90年代、DEATH や CYNIC が開拓したデスメタルの実験は、オフキルターなリズム、脈打つベースライン、幻覚的なギターの響きで、さながら THE DOORS や PINK FLOYD が見せる精神的な深みへと移行していきます。時折歌われるクリーンな祈りは、濃い瘴気の中で聴く者に手を差し伸べる静寂の声。
常に移り変わるムード、複雑なドラム・パターン、不可解な拍子記号がジグソーパズルのように組み合わさったアルバムは、それでも “Ego Dissolution” エゴを捨て去りすべてをアートとデスメタルのためにのみ捧げられています。だからこそ彼らは、ゴア描写や反宗教的な歌詞にこだわるのではなく、デスメタルらしい安っぽさや陳腐さを感じさせることもなく、私たちの感情の内面や魂の本質を探る、より深いトピックに踏み込んでいくことができたのです。
今回弊誌では、Jerry Witunsky にインタビューを行うことができました。「Rand Burkey は、僕にとってメタル界で最も影響を受けたギタリストだろう。彼のソロとメロディーは他のギタリストにはないものだった!14歳の頃、寝室で彼のパートをかき鳴らし、まるで自分が書いた曲のように人前で演奏することを夢見ていた僕が、実際にステージに立って彼らとまさに同じ曲を演奏しているなんて!デスメタル世界の心とつながりは、とてもパワフルなものだよね」 どうぞ!!

ANCIENT DEATH “EGO DISSOLUTION” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DROWN IN SULPHUR : VEANGENCE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DROWN IN SULPHUR!!

“We Would Like To Make Concerns What Happened After Lorna Shore’s Explosion. They Have Created a Trend That Is Followed In a Schematic Way By Many Deathcore Bands And We Find It Quite Monotonous.”

DISC REVIEW “VENGEANCE”

「LORNA SHORE の初期の作品は、少しクラシックなデスコアで、もちろんそれからのシンフォニックな進化も両方高く評価しているんだよ。ただ、彼らの爆発的な人気の後に起こったことに対して唯一コメントしておきたいのは、彼らは、多くのデスコア・バンドが図式的に、システマティックに追随するトレンドを作り出してしまったよね。僕たちはそれが非常に単調だと感じている。それが気がかりなんだ」
シーンに巨大なバンドが出現すると、それに追従する数多のフォロワーが出現する。それは黎明期から続く “ロックの法則” であり、飽和と定型化、そして衰退がひとつのライフ・サイクルとしていくつものジャンルを隆盛させ、また没落させてきました。そして現在、デスコアの巨人といえば LORNA SHORE でしょう。
「僕たちは常にオリジナリティのあるものをファンに提供し、僕らに気づいてくれた人たち、そしてデスコア/メタルコア・シーン全体に対して DROWN IN SULPHUR を認識させ、差別化したいと考えているんだ。そのために、作曲や作曲方法において、より多くのジャンルから影響を受けることを恐れないんだよ」
イタリアの DROWN IN SULPHUR は素直に LORNA SHORE をリスペクトしつつも、決して彼らの足跡を追おうとはしていません。なぜなら、そうした “セルアウトの方程式” がいつしかシーンを衰退に導く諸刃の剣だと知っているから。だからこそ、彼らはオリジナリティあふれる自らのデスコア道を歩んでいきます。
「僕たちは皆、ブラックメタルからクラシック・デスコア、ハードコア、ニュースクール・メタルコア、オールドスクール・デスメタル、そしてプログレまで、全く異なる嗜好を持っているんだ!もちろん、ロックやメタルの偉大な古典を愛する共通項もあるしね」
DROWN IN SULPHUR のデスコアはむしろ WHITECHAPEL の哲学に近い。そんな感想を抱くほど彼らの音楽は多様で、実験的で、それでいて非常に “聴きやすい” キャッチーさを多分に備えています。LORNA SHORE のように荘厳なる痛みをアルバム全体で醸し出すよりも、リッチで目まぐるしい展開を選んだともいえます。
クラシックなデスコアやデスメタルの重量感とテンポ・チェンジ、PANTERA のグルーヴやソロイズム、ハードコアのエナジーや衝動、ブラックメタルの暗がりやスピード、そして時に補充されるシンフォニーや民族音楽の響き、プログレッシブな構成美。特筆すべきは、”Scalet Rain” で見せるような悲痛なクリーン・ボーカルでさえ、”Vengeance” というアルバムにはわずかな違和感さえなく完璧にハマっている点でしょう。
まさにアートとしてのデスコア。憤怒と毒を含んだミケランジェロ。ヘヴィネス、スピード、ブレイクダウン、アトモスフィア、そしてメロディが黄金比で織り込まれたデスコアのダビデ像は、”Vengeance” でジャンルと音楽業界の不条理に中指を立てながら、一方では深い知性と実験性を備えたその美しき構成と展開の妙でジャンルの未来を切り開いていくのです。
今回弊誌では、DROWN IN SULPHUR にインタビューを行うことができました。「シンプルに僕たちは、パワー・メタルのようなジャンルに特に興味を持ったことはないんだ。メタルの真髄は、検閲や圧力なしに多くの創造性を発揮する余地を残したエクストリームなサブジャンルにあると信じているからね」 常軌を逸した演奏の巧さ、ギターソロののドラマ性、そして複雑な構築美。DREAM THEATER を影響元に挙げているのも頷けますね。どうぞ!!

DROWN IN SULPHUR “VEANGENCE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SNOOZE : I KNOW HOW YOU WILL DIE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH LOGAN VOSS OF SNOOZE !!

“The More People Are Inundated With Instant Gratification, The More It Becomes Impactful When Something Comes Around That Was Worked On Really Hard. I Think The Pendulum Is Beginning To Swing The Other Direction.”

DISC REVIEW “I KNOW HOW YOU WILL DIE”

「アートが消費され、”コンテンツとなった芸術” の時代である今、より多くの人々が、よく練られ、愛のこもった作品で、時代に左右されずに存在する音楽、芸術、アイデアを求めているのだと思う。人々が即座に満足できるインスタントなものが溢れれば溢れるほど、情熱をかけて心から一生懸命取り組んだものが世に出たときの衝撃は大きくなる。より多くの人々が、自分の意思をあまり持たずスマホに釘付けになることに不満を感じ、振り子が反対方向に振れ始めているんだと思うよ」
アートが消費される “コンテンツ” となった現代。人々はさながら SNS を一瞬賑わせ、そしてすぐに忘れ去られていく日々のニュースのようにアートを消費し、放流していきます。しかし本来、芸術には “永続性” が備わっているはず。本来のアートは時代を超えて愛されるべきでしょう。そうした意味で、シカゴの “ハッピー・ヘヴィ・マスロック” SNOOZE の音楽はさながらスマホのアラーム、あの “スヌーズ” 機能のように、時が過ぎても何度も何度もリスナーの心を目覚めさせていくはずです。
「ヘヴィな歌詞の内容とヘヴィ・メタルに影響を受けた音楽的要素が、とても楽観的なコード進行の選択と組み合わさって、楽しい認知的不協和を生み出しているように感じるよ」
複雑怪奇な変拍子を操る SNOOZE の最新作 “I Know How You Will Die” が4/4日にリリースされた事実がすでに、彼らのニヒリズムと知性が生み出す二律背反を見事に表現しています。たしかに SNOOZE はハッピーなマスロック・バンドですが、同時にヘヴィなプログレッシブ・メタルでもあります。その怒りと幸福、ヘヴィとキャッチー、実験と正統をまたにかけるダイナミズムの妙こそ、彼らが情熱を注いだアート。
「若いメタルヘッズだった僕たちは、テクニカルさと名人芸に取り憑かれていたような気がする。それからマスロックに出会ったとき、それと同じ波動を感じたような気がしたんだ。だから、それを掘り下げていくと、より多くの非常識なバンドを見つけることができた。 でも最近の僕たちは、可能な限りテクニカルなこと(考えすぎること)を探すのをやめて、意味のある、感情的な音楽に傾倒していると思う。だからよりメロディックな音楽の中に濃密なリズムのアイディアを取り入れる人がいると、いつも嬉しくなるよ」
またにかけるのは光と闇だけではありません。エモ/ポップ・パンクのヴォーカル・センスをヒントに、マスロック、プログレッシヴ・メタル、ポスト・ハードコアをブレンドした、大胆かつ折衷的な旋風こそ彼らの真骨頂。 最も際立っているのは、それぞれのジャンルをシームレスに行き来しながら、独自の色と説得力をもって主張する彼らのアイデンティティでしょう。BETWEEN THE BURIED AND ME が見せるようなボーカル・ハーモニー、その実験的な使い方も、SNOOZE の複雑な楽曲に驚くほどの色彩と感情をもたらしています。彼らの創意工夫を前にして、スマホに齧り付くことはできません。振り子の針は逆側に触れ始めました。
今回弊誌では、ボーカル/ギターの Logan Voss にインタビューを行うことができました。「当時は VEIL OF MAYA をよく聴いていて、ギターを初めて弾いた曲のひとつでなんと “It’s not Safe to Swim Today” を覚えようとしたんだ。YouTube の黎明期には、バイラルになる動画は限られていたので、初期の ANIMALS AS LEADERS のミュージックビデオを見たとき、みんなが度肝を抜かれたのは間違いないよね!」 どうぞ!!

SNOOZE “I KNOW HOW YOU WILL DIE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SLEEP PARALYSIS : SLEEP PARALYSIS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH STEPHEN KNAPP OF SLEEP PARALYSIS !!

“I Really Like Using The Pianos Percussiveness, It Can Add a Lot To The Rhythm Section In Different Ways While Also Providing Harmony And Accents, Plus Slamming Loud Dissonant Chords Sounds Sick As Fuck Over Blast Beats.”

DISC REVIEW “SLEEP PARALYSIS”

「ピアノのパーカッシブさを使うのがとても好きなんだ。ハーモニーやアクセントを提供しながら、リズム・セクションにさまざまな形で多くのものを加えることができるし、ブラスト・ビートの上で大音量の不協和音を叩きつけると、最高に気持ち悪いサウンドになる。 ピアノは曲の緊張感を高めるのにとても効果的だし、クラスターコードはサウンドに違う色を加えるのに遊んでいていつも楽しい」
メタルにおいてピアノの響きは過去のものになりかけています。キーボードにしても場所をとりますし、ギターの可能性が広がるのと比例して、ピアノの出番はどんどん少なくなっていきました。しかし、本当にメタルからピアノは消え去るのでしょうか?ピアノの打楽器的な力強さ、一方で両の手で組み立てる繊細さと旋律の妙はやはり唯一無二のものでしょう。SLEEP PARALYSIS をひとりでとりしきる Stephen Knapp はそんなピアノの可能性をブラックメタルで再度呼び起こします。
「MIDIですべてを書き込んで、どんな音がするかすぐに調整できる汎用性が気に入っている。それに、自分の思い通りのサウンドにするために、必要に応じてダイナミクスを調整できるのも魅力だ。メタル・コミュニティでは、楽器をプログラミングすること(特にドラム)は簡単な方法だという汚名があるように思う。とはいえ、実際にドラムやピアノを演奏してレコーディングするのと同じくらい難しいとは言わない。最終的には、自分のビジョンを完全に実現し、目指すヴァイブを達成するためのツールでしかないからね」
面白いことに、Stephen はピアノが弾けるにもかかわらず弾いていません。すべてをプログラミングで入力しています。なぜなら、彼には思い描いた音楽の確固たるビジョンが存在するから。NEURAL GLITCH もそうですが、若い世代のアーティストにとってはプログラミングもまた楽器のひとつ。自らの理想を実現するためには、むしろ “入力” という正確な手段の方が彼らにとっては必要だったのです。
「大学時代、睡眠時間がめちゃくちゃで、慢性的な睡眠不足に陥っていたとき、よく金縛りになったんだ。 このアルバムのために最初に書いた “Sleep Paralysis” という曲は、僕が初めて金縛りになったときのことを音楽的に解釈したもので、どこにでもいるような金縛りの影鬼が僕の上に乗っていた」
そんな Stephen がブラック・ピアノ・メタルの実験場に選んだテーマが “金縛り” でした。実際、この悪夢のようなオデッセイの上演にこの主題は完璧でしょう。陰湿に渦巻く不協和音。恐ろしいほどスリリングな混沌。聖歌隊に狂気のラグタイム、ホラー映画、任天堂の怪奇ゲームに重なるドゥビッシーやラベル、ショパンのファンタズマゴリア。不吉で威圧的で猛烈に突き進むこの悪夢の錯乱状態に、ピアノのアタックやサスティナーはあまりにも完璧にフィットしています。
そう、このアルバムはリスナーを恐怖と不安で冷や汗の渦に引き入れ、PTSD ストックホルム症候群の湧き上がる疑念が押し寄せる中、それでももう一度アルバムの再生ボタンを押させる日本の怪談のような不気味な中毒性を宿すのです。
今回弊誌では Stephen Knapp にインタビューを行うことができました。「ピアノは、メロディー、ハーモニー、リズム、テクスチャーなど、通常のメタルでは見られないようなものを加えることができるので、超万能なんだ。WRECHE のファンになってしばらく経つし、DEATHSPELL OMEGA の曲のピアノ・カバーをいくつか見ていたから、ピアノ中心のブラックメタルがうまくいくことはわかっていた」 どうぞ!!

SLEEP PARALYSIS “S.T.” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CKRAFT : UNCOMMON GROUNDS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CHARLES KIENY OF CKRAFT !!

“I Might Be Wrong, But I Don’t Think There’s Another Metal Band Fronted By This Accordion And Saxophone Section.”

DISC REVIEW “UNCOMMON GROUNDS”

「バンド名の CKRAFT は、”Craft” と “Kraft” という2つの単語を意図的に組み合わせたもので、僕たちの音楽哲学の核心を表している。英語の “Craft” は、僕たちが深く大切にしている “クラフトマン・シップ”、つまり作曲、レコーディング、演奏、そしてサウンドをゼロから構築していく実践的な作業を意味している。サンプルもプログラミングもなく、すべては楽器の演奏から生まれることをね。一方、ドイツ語で “Kraft” は “強さ” や “力” と訳され、ヘヴィでクラッシングなサウンドを意味するんだ!」
テクノロジーの進歩は、メタル世界にも様々な恩恵をもたらしています。アナログ時代には想像も出来なかったサウンド、正確性、利便性。その一方で、アナログ時代に確かに存在した “クラフトマン・シップ”、職人芸や鍛錬を重ねることでたどり着く創造性が失われたと感じるリスナーも少なくないでしょう。芸術の都パリを拠点とする CKRAFT は、伝統と革新の融合で失われつつある音楽の “クラフトマン・シップ” を再度提示します。
「僕の最大の情熱のひとつは、音楽(そして芸術全般)がいかに永続的で普遍的なものであるかを探求することで、このような古代のサウンドがいかに現代の文脈の中でも共鳴しうるかということが、それをよく表していると思う。それは、一見異質な世界の間に “共通点” を見出すことなのだ」
CKRAFT がすべて人の手から生まれる “クラフトマン・シップ” にこだわるのは、音楽の、芸術の永続性を探求するため。最新のテクノロジーどころか、電気もなかった時代。そんな時代の音楽でも、今の世に響く素晴らしさ。そこに CKRAFT は感動を覚えました。そうして、CKRAFT は、現代で感動を覚える MESHUGGAH や GOJIRA のヘヴィ・グルーヴと古代の音楽が共鳴することを発見します。彼らが特に感化されたのが、グレゴリオ聖歌。その壮大で神聖なクオリティは、まさに CKRAFT が愛するジャズとメタル、そして古代と現代のギャップを埋める重要な “糸” だったのです。
「アコーディオンやサックスはおそらく、僕たちを知ったときに最初に目にするもののひとつで、CKRAFT を際立たせている。間違っているかもしれないけど、このアコーディオンとサックス・セクションを前面に出したメタル・バンドは他にないと思う。僕にとっては、破砕的なリフに対する深い愛と、僕が大切にしているアコースティック楽器を融合させ、それを力強く機能させる方法を見出したかったということに尽きる」
CKRAFT のそんな野望、野心に応える楽器がアコーディオンでした。17世紀に誕生した美しき蛇腹の楽器は現在まで、時の試練に耐えその麗しき音色を奏で続けています。まさに時代をつなぐアーティファクト。だからこそ、聖歌、クラシック、ジャズ、メタルの架け橋として、彼らにとっては完璧な楽器でした。もちろん、そのままの音量ではメタルの喧騒に埋もれてしまいます。アコーディオン奏者で今回のインタビューイ Charles Kieny はそこに現代のテクノロジーを注ぎ込みました。シンセ・アコーディオン。ラウドに生まれ変わった古来の楽器は、そうしてモダン・メタルと多様な融合を果たすことになりました。
そうして “クラフトマン・シップ” の申し子たちは、メタルのヘヴィネス、ジャズの自由、グレゴリオの不滅の旋律を借りた、精巧でパワフルなサウンドの職人として完成しました。テナー・サックスとアコーディオンの熱狂的なブラストは決して声にも劣りません。真に才能のあるインストゥルメンタル・アーティストは、言葉を一切使わずに最も壮大なイメージを呼び起こすことができるのです。
今回弊誌では、Charles Kieny にインタビューを行うことができました。「MESHUGGAH はメタルにおける複雑さと精密さの頂点を表していると思う。彼らには独自のグルーヴがあり、そのリフはこの地球上の誰も生み出したことのないものだ」 どうぞ!!

CKRAFT “UNCOMMON GROUND” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【DEAFHEAVEN : LONELY PEOPLE WITH POWER】


COVER STORY : DEAFHEAVEN “LONELY PEOPLE WITH POWER”

“If Power Is Influence, We Have a Responsibility To Be As Understanding, Empathetic And Knowledgeable As Possible”

LONELY PEOPLE WITH POWER

第二次世界大戦の冷酷と殺戮の後、アメリカの心理学者グスタフ・ギルバートは悪の本質について何年も考え続けました。そして1947年に出版された “ニュルンベルク日記” の中で、生き残ったナチスの指導者たちとのインタビューについて書いた彼は、悪の本質を見つけたと信じていました。 悪、すなわち戦犯たちを結びつける一つの特徴は、弱者や少数派の苦境に関わることができない、あるいは関わろうとしないことであると。悪とはつまり、共感の欠如であったのです。
「国民が戦争したがるように仕向けるのは簡単。国の危機を宣伝し、平和主義者を非難すればいいだけ。これはどんな体制でも同じ」
80年後、グスタフの教訓は忘れ去られようとしています。世界中のポピュリスト政治家たちが、再び人間の自己中心性を食い物にしているから。 弱者蔑視と外国人憎悪を武器に足場を固め、富裕で影響力のあるオリガルヒに屈服し、自分たちの今でも計り知れない富がさらに膨れ上がるのであれば、喜んで工作に協力する。
「西洋文明の根本的な弱点は共感であり、共感搾取である」と、世界一の大富豪イーロン・マスクは最近CNNで説き、非正規移民に基本的な医療を提供することが、公的資金配分の誤りだと主張しました。 マスクは弱者や少数派への共感を西洋文明の “バグ” だとして、そこから犠牲を強いられる “集団” を救うとさながら英雄のように強弁したのです。非常に怖い話です。
George Clarke は、DEAFHEAVEN の素晴らしき6枚目のアルバム “Lonely People With Power” で、西洋社会の右傾化について特に語っているわけではありません。 実際、常に冷静で知的なこのフロントマンは、アルバムに込められたアイデアを解き明かす際、政治的な対立をむしろ避けようとしています。しかし、マクロ的なレベルでは、個人的な出世や富のために共同体を捨てるというコンセプトは、まさにこの暗い現代に対するアンチテーゼといえるでしょう。
「私は万能で慈悲深い世界の創造主など信じていない。このレコードに関連して “力” について語るとき、私は本当に影響力について話しているんだ。 視点を形作る力、世界観を形作る力、それに伴う責任についてだ。 彼らのような富と影響力を手に入れるためには、周囲のものを手放すことが必要なんだよ。彼らは孤独な目的を追い求めている。それは、隣の人の幸福など気にも留めないほど圧倒的なシニシズムと虚無感がなければ達成できないものだから。”孤独” は時に無知やナルシシズムや精神の空虚さの代用品となる。そうやって、共感を捨てて得た冨や影響力は、逆に精神的な空虚さを表している」

ウィリアム・ランドルフ・ハーストは1951年8月14日に亡くなりました。DEAFHEAVEN の本拠地サンフランシスコで生まれたこの新聞王は、米国のセンセーショナルなタブロイド紙の先頭に立ち、1900年代を通じてニューヨーク州知事選、ニューヨーク市長選、合衆国大統領選に出馬して落選しました。当初は進歩的な政治を支持していたハーストでしたが、20世紀に入ると保守的で孤立主義的な政策を採用。1930年代には、ナチス・ドイツを声高に支持した人物です。
多くの点で、ウィリアム・ランドルフ・ハーストは George の語る典型的な孤独な権力者だといえました。
「ハーストのメディアの巨人としての時代は、今日私たちが目にしている多くのことの先駆けのように感じられる。ああした人たちは常に熾烈で、嘘をつくことも誇張することも厭わず、道徳的な境界線というものをまったく理解していない。ハーストの人間関係は、刹那的で執着的な傾向があったにもかかわらず、決して人間的ではなかった。ハーストは、人間や、世界が動くより大きなメカニズムにまったく関心がなく、非常に利己的だった。それは奇妙な二律背反だった。支配欲を満たすためには、寛大さもヒューマニズムもなく、他人を蹴落とし周囲の世界から皮肉なまでに切り離される必要があるんだよ。
コミュニティーの欠如、自己孤立、自己保存、利己的な動機はすべて、人が支配力を集め、権力を獲得するために必要なもので、単にその権力が他よりも価値があると見なすために必要なものだ。 政治や産業界ではよく見られることだ」
サイコパスと呼ばれようが、ソシオパスと呼ばれようが支配欲が満たされれば関係ないのでしょう。
「最も多くの富を蓄え、最も多くの人々を支配するためには、反コミュニティである必要がある。普通の人なら困惑するだろう。10億ドルを与えられて、それで何をしたいかと聞かれても、僕にはわからない。率直に言って、そのような目標を追い求めるなら、仲間とつながる時間はなくなってしまう。だから莫大な物質的なものを追い求めることに、共感する余地はないんだ」

ソーシャルメディアは、ハーストの新聞全盛期以来、金と影響力の最も明白な混同を生み出しました。DEAFHEAVEN でさえ、その引力から逃れることはできません。彼らは1月27日のアルバム発表から3月28日のリリースまでの間に、ミュート・ウィドウズが監督した各曲の一連のショート・クリップを公開。それは最終的に包括的な物語に結びついていて、アルバムの前後の素晴らしさをより明確に描き出しています。
芸術的な深みを加えながらリスナーに届くという点でその手法は優れていて、フェイスブックやインスタグラム、XやTikTokの否定的な側面とは対極にあるようにも思えます。George は、SNS の隆盛で名声と富を求めるキッズたちのゴールポストが変わったと見ています。
「セレブ文化は常に存在し、華やかさはその性質上魅力的だ。しかし、以前は成功しないかもしれないと思いながら多くの犠牲を払わなければならなかったもの、今はコメントや “いいね!”、そしてマネタイズによって “成功” の度合いが小さくなっている。かつては一部の人にとっての大きな夢であったことが、ビジネスになってしまったんだ」
しかし、陰湿なアルゴリズム、ねじ曲がったデジタル・リアリティ、死んだような目をしたSNSのオーナーたちは、結局はかつての新聞王以上にその支配力を際限なく拡大させています。
「前例のない瞬間を生きていると思うか?と聞かれることがある。私はそうは思わない。メディアが存在する限り、人々はそれを形作ることに憧れてきた。しかし、テクノロジーがそれを変えたのは確かだ。ソーシャルメディアには即効性があり、中毒性がある。即効性があり、すべてを飲み込むように感じられ、負の感情を強調しようとする勢力がある。常に恐怖を煽り、悪いニュースの嵐だ。人々はリラックスすることを許されない」
そうして、テクノロジー業界の億万長者たちが、アメリカ大統領就任式で選挙で選ばれた人たちが座るはずの最前列の席を占拠しているのです。
「私は歴史家ではない。でも、ちょっと馬鹿にされているような気がしないでもない。これって、製薬会社のCEOが薬物中毒のジャンキーたちの部屋に入り込むようなものだと思っている。この時点で、彼らは笑っているだけだ。まあ終わったことは終わったことだ。彼らの影響力はあまりに強く、人々はその中で迷い込んでしまう」

デビューから15年、DEAFHEAVEN は “Sunbather” のように再び自分たちを定義できるようなアルバムを作る必要性を感じていました。そうして伝説的なメタル・レーベル、ロードランナーとのレコード契約を受け、新たなスタートを切ったのです。KNOCKED LOOSE や INTERPOL など様々なアーティストと共演し、自分たちを証明してくれる潜在的な新しいファンの川は深く流れていました。
「”Infinite Granite” が楽しくて必要なアルバムであり、私たちがあのアルバムを誇りに思っているのと同じくらい、私たちのヘヴィ・ミュージックへの愛に再び火をつけたのは、あの作品の曲をツアーする過程だった。 長い間、あのメロウな音楽を演奏していたから、もっとヘヴィな曲を演奏したかったんだ。 それに、”Sunbather” のアニバーサリー・ライヴをやる機会もあったし、KNOCKED LOOSE とのツアーも楽しかった。 速くてハードな演奏をするという精神が復活したんだ。 特に Kerry にとっては、これが自分の好きな音楽なんだという個人的な気づきにつながった。 彼は、このレコードがまだ DEAFHEAVEN らしいものであるという条件付きで、スピードと重厚さを取り戻すという真のビジョンを持っていた。 一つの方向には向かっていないんだ」
“Lonley People With Power” の野心的なアプローチについて、George はこう説明しています。
「DEAFHEAVEN はバンドとして十分な年月が経っているので、自分たちが以前に何をしてきたかを参考にすることができる。今までのアルバムや一緒に経験したことを通して、このバンドが一体何なのかを消化し始めることができる。それを抽出しようと試みることさえできる… このバンドのDNAには、ちょっとした貧乏根性が埋め込まれていると思う。 私たちは2人とも、一生懸命やっても誰も気に留めないようなバンドに何年も在籍していた。 だからこのバンドのDNAに深く刻み込まれているのは、オーバーワークなんだ。すべてが完璧だと感じられない限り、十分な働きはできない。私たちは泡銭、家のお金で遊んでいるようなもので、本当はここにいるべきでないようなもの。だから、それを最大限に活用しないのは、宇宙に対して失礼なことだと思う」

かつてポーザーと呼ばれていたのが馬鹿らしいほど、彼らはもはやメタルを代表する存在となりました。
「何年もの間、みんなが DEAFHEAVEN を “ポーザー “と呼びたがっていたのに、今ではその話題もなくなってしまった。我々のバンドを支持する人も嫌いな人も、それが退屈な会話だということに同意して握手していると思う。 DEAFHEAVEN のことを嫌っている人たちでさえ、”ああ、クールだ、新譜が出たんだ” と思えるくらい、私たちは長く活動してきた。
メタルがここ数年、大きな盛り上がりを見せていることが救いだ。 多くの素晴らしいバンドが誰でも簡単にアクセスでき、ツアーを行い、常に素晴らしいショーを行っている。 私たちは皆、その方がいいと思う」
NINE INCH NAILS, St. Vincent, THE MARS VOLTAといったアーティストを手がけるベテラン・プロデューサー、ジャスティン・メルダル=ジョンセンは、”Infinite Granite” に参加して、そのアルバムのソフトなエッジに驚かされました。そして今回、彼は期待をさらに上回る驚きを “Lonely People With Power” に感じました。
「初めて彼に “Revelator” を聴かせたときのことを覚えているよ。彼は、”ワオ、これは私が期待していたヘヴィネスを満たしているだけでなく、それをはるかに超えている… “という感じだった。
それは、私たちが以前やっていたやり方を引き継いだものだ。 そう、”Magnolia” は音楽的にかなり攻撃的だ。そして、このアルバム全体を通して、似たようなサウンドの部分がある。 確かに “Lonely People With Power” には獰猛さがあるが、DEAFHEAVEN は常にエモーショナルな核を維持し、物事を特異なレンズを通して見ないことを目指してきた。 その意味で、このアルバムの多くは、赦すこと、あるいは自分自身を含む権力の力学を認識することをテーマにしている。 そう、怒りがある。 しかし、決意、許し、認識もある。 そして、それらは均整のとれた音のパレットで表現されている」

激烈な “Magnolia” の後、セカンド・シングル “Heathen” は、彼らのアヴァンギャルドでポスト・メタル的な傾向を再び紹介するための意識的な努力のように感じられます。
同時に、事実上のオープニング曲 “Doberman”, 前述の “Revelator”、そして変幻自在の叙事詩 “Winona” で、George が2013年の名作 “Sunbather” の流れを汲む痛快なブラストビート・ブラックメタルに回帰していることも否定できないでしょう。
実際、”Sunbather” のジャケットであえてピンク色を使い、メタル全体に衝撃を与えたことから、前作 “Infinite Granite” ではメタルをほぼ完全に排除したことまで、あらゆる決断がバンドをこの瞬間へと導いたように感じらます。 ブラックメタルはその本質的な暗さにもかかわらず、多くの新しいリスナーを輝かせるチャンスがあることを証明する大作に仕上がりました。
「今は獰猛さにインスパイアされるんだ。もっと獰猛になりたくなる。自分たちのサウンドを抽出したいという欲求があったのと同じように、歌詞のテーマも抽出したいという衝動に駆られた。家族、アルコールと中毒の個人的な経験、自殺願望、友人との関係、女性との関係は、バンドにとって常に試金石だった。自分たちらしさを最大限に発揮しようとすることが、自分にとって何を意味するのかを考えた。それは、そうした考えやテーマに対してより直接的であることを意味する。これまではかなり抽象的だった。でもこのアルバムでは、私は自分の足で歩いている」
実際、George はこのレコードを作るにあたって、ヘヴィな世界を再発見していました。
「WOE の大きな世界を再発見した瞬間があった。僕らの新曲を聴いて SPEATRAL WOUND のことを言う人もいて、それは間違ってはいないんだけど、彼らが好きなバンドは我々も好きなんだ。DARKTHRONE, EMPEROR の鍵盤とベル、IMMORTAL も少し。
それに影響を受けたバンドが宇宙みたいにたくさんいる。 ウォー・メタルもあった。”Revelator” を聴いてみると、リフの背後にあるのは、DEAD CONGREGATION をもっと PORTISHEAD のコードに置き換えたらどうなるだろう、というような試みだった」

そうやって焦点を絞ることで、”Lonely People With Power” のよりパーソナルな側面が明らかになります。George は常に、両親や教師のような影響力を持つ人々からの影響について考えてきました。 アルバム “Sunbather” は、”私は父の息子/私は誰でもない/愛することはできない/それは私の血の中にある…” という嘆きで幕を閉じました。”Magnolia” にも同じような慰めの感覚が内包されています。タイトルは、 George の父の実家があるミシシッピ州の州花にちなんだもので、そこは叔父の葬儀に参列した場所でもあります。歌詞は、George の父と共通の特徴である、叔父のアルコール中毒とうつ病を問い、共有された遺伝と、新たな発見と温かさと受容とともに受け継がれた教訓を受け止めています。”私の愛は果てしない/あなたのすべてが私/一歩一歩が墓場へ向かう/私たちが与えられたのは肉と血だけだったのだろうか?”
“孤独” は “無知” の代名詞でもあると George は考えています。
「両親のような人々について話すとき、彼らのほとんどは自分が何をすべきかわかっていないように感じる。 このアルバムには、両親や教師が自分の人生において欠点やハンディキャップを抱えているにもかかわらず、それでも最善を尽くしていることが多いということを認識するんだよ。寛容の要素が含まれているんだ」
アートワークは、車の助手席の子供を挟んで話す両親と見ることもできますが、あまり健全でないことで道行く女性に寄っていく父親と見ることもできます。
「それは人々が自分で決めることだ。 運転する大人、窓際の女性、助手席の子供。 それをどう思うかは人それぞれだ。 しかし、人々は常に答えを得るよりも多くの疑問を見出すものだ。 私たちにとって、それは重要なことだよ」
切迫して脈打つような “Body Behaviour” では、年上の男性が、若い男の子にポルノグラフィーを見せて絆を深めるという “伝統” を描いています。そこに悪意はないと George は考えています。不気味でもない。ただ、知識を共有するための奇妙な試みなのだと。ある世代から次の世代へと受け継がれる、歪んだ通過儀礼のひとつなのかもしれません。そう歪んだ…
「正直なところ、私が知っている男たちは皆、父親や叔父、年上のいとこ、あるいは誰であろうと、そのような話を何バージョンか持っている。これは現代社会の “症状” であり、現在の男同士の関係の基準なんだ…」

このような話題は気まずく不快なものですが、それに立ち向かう姿勢は DEAFHEAVEN に信念を貫く勇気があることの証でしょう。ポピュリズムとインフルエンサー・カルチャーが有害な行動を強化し、有意義な人間関係を腐食させている世界において、男らしさ、”男はこうあるべき” という古い固定観念についての力強い議論とオープンな自己検証は、言うべき意味があります。
「どんな理由であれ、メタル・ミュージックでは “男らしさ” をアップデートするようなトピックは今でもタブーとされることが多い。それはとても奇妙なことだと思う。異なる視点を提供し、状況を打破し、”若い頃、こんなことがあったんだ。それは奇妙なことだった。そして、それがその後の人生にどう影響したかを知ることができる…” それが、感情的に健康な人間になるために必要なことなんだ。同時に、私は、周囲の世界からの逃避の方法として、空想的な主題に満ちた音楽を演奏するバンドを批判したくないと思っている。私も含め、多くのリスナーはそのような手の込んだストーリーテリングに惹かれるものだから」
ソーシャル・メディアの一角に身を置くと、多くの若者にとって不穏なロールモデルを見つけることができるでしょう。パトリック・ベイトマン。ブレット・イーストン・エリスが1980年代のヤッピー・アメリカのナルシシズムを風刺するために生み出したキャラクター、このアメリカン・サイコそのものが、一匹狼の “シグマ・メール” (アルファ・メール(勝ち組男性) と同程度の成功を収めているイケメン男性だけど、群れない人。頭もよく、見た目もよく、お金もあるけど、一匹狼) の憧れの的として再利用されています。裕福。怒りっぽい。周囲の人々から完全に切り離されている…2000年に映画化されたメアリー・ハロンの名作からのクリップをシェアしている人たちの中には、このジョークに乗っかっている人もいるでしょう。しかし、パトリック・ベイトマン自身が執着する対象であるドナルド・トランプがホワイトハウスに座っている現実では、出世のために喜んで絆を断ち切ろうとする人が現実に多く出現しているのです。
George は、ステージ上でベイトマンになりきっていたかもしれない初期のツアーを思い起こしながら、あの冷淡な離人感にはいつも魅了されてきたと過去の自分を振り返ります。
「あのキャラクターが好きなのは、自分自身の中にそれを見たからでもある。それは、パフォーマンスを魅力的なものにする大きな要素だ。少し深く掘り下げ、自分の中にあるものを見つけ、それを見世物のために裏返すのだ。
友人に聞けば、僕らの関係はより “リアル “になったと言うだろうね。若いうちは、受け入れられようとするあまり、見栄を張ってしまう。AからBに行くために、きれいごとやパフォーマンス的な習慣を身につける。仮面をはがすこと、本当のつながりに必要な弱さを見せることは、かつての私にとって難しいことだった。年を重ねるにつれて、正直でいることができるようになった。でも、それは目的地ではなく、むしろ旅路なんだ」

同様に、DEAFHEAVEN 自体も、彼の血管の中にある氷の単なるはけ口から、それを処理するための重要なツールへと変貌を遂げました。
「初期のころは、これが他の方法ではできない自己表現の方法だと感じていた。今は、セラピーのようなものだ。ツアーから離れることで、外に出ることがどれだけ自分の幸せにとって重要かがわかる。旅行や演奏だけでなく、新しい人々に会い、新しい文化を体験し、自分のバンドをよりよく知り、自分を違った形で知ることができるんだ!」
DEAFHEAVEN のオーラの中で、ブラック・メタルらしい危険や脅威はいまだに大きな役割を果たしています。それを今も維持し続けるのは難しいことなのでしょうか?
「ステージにいると、大きなパワーを感じる。エゴの塊だよ。ある程度の誇大妄想もある。私は今でもその極悪非道なキャラクターに傾倒するのが好きなんだ。大観衆の前での瞬間が、日常生活といかに違うかを目の当たりにし、私は自分の分身を掘り続けることを選ぶ。今の自分をどう見ているかの違いは、自己認識が深まったことと、そのキャラクターがとても優しく、共同的で人間的な瞬間のために、今の自分を壊すことを許されるようになったことだ。観客の中に入って誰かを抱きしめたり、バリアの上で泣いているファンに寄り添ったり。私の音楽は、私が最も傷つきやすいときのもの。パフォーマンスは、私が最もパワフルな時のものだ。キャラクターが壊れるとき、私は最も自分らしくなる。もし人々が本当に DEAFHEAVEN のシンガーと瞬間を共有し、歌詞を歌い、あるいは歌詞にしがみついているとしたら、それは Georgeと瞬間を共有していることになる…」

創作、パフォーマンス、個人的な経験の相互関係を分析することで、どのアーティストも、少なくともある程度は、力を持つ孤独な人間であるという気づきを George は得ました。
「パワーが影響力であるならば、私たちは皆、ある程度のパワーを持っている。インタビューはその典型的な例だ。誰かが私の発言を読み、それが彼らの意見を形成するかもしれない。だから私たちには、できるだけ理解し、共感し、知識を持つ責任がある。どうすれば誰かの教師になれるのか、と自問自答する。でも、それは常に進化する謎なんだ」
“Lonely People With Power” の最も難しい教訓は、まさにその最後に訪れる。ジャン・ウジェーヌ・ロベール=ウーダンの悪名高い19世紀の複雑な錯視にちなんで名づけられた “The Marvelous Orange Tree” “驚異のオレンジの木” は、自殺について歌った厳しくも美しい曲。”この病気と一緒に生きて/震える肌を見せながら/あなたと一緒に、私の終わりのない病気で/私の終わりのない病気で/暗闇の中を歩いていく” という表向きは絶望的なセリフで締めくくられています。しかしこれは、奈落の底へ転落するのではなく、常に足元に気をつけるようにという戒めなのです。
「物事には終わりがある。自分の中の悪魔を見極めているとき、”もう心配ない!” とか “もう終わったことだ!” と言うのは難しい。ドアは常に開いていると認識することが重要だ。それは、負けるとか屈するという意味ではない。ただ、本は決して閉じられていないということを知ることだ。
人は何かを打ち負かしたと思ったり、無視することを選んだりすると、思いもよらない形で再び忍び寄ることがある。この曲は、そのような負の感情がいつもまだ存在し、これからも存在し続けるということを認めている曲なんだ。死にたくなったことを話したくなったら、話すべきだし、そうしている。それを放棄することで起こりうる驚きに直面したくない。結局のところ、このアルバムは共感と許しが中心となっている。他人の欠点に対しても、自分自身の欠点に対しても。それはすべて、認識と理解に関係している。”Amethyst” の歌詞で歌ったように、ここには非難するようなものは何もない….」


参考文献: KERRAMG! :Deafheaven: “If power is influence, we have a responsibility to be as understanding, empathetic and knowledgeable as possible”

KERRANG! :https://www.kerrang.com/deafheaven-new-album-lonely-people-with-power-george-clarke-interview

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