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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【AD NAUSEAM : IMPERATIVE IMPERCEPTIBLE IMPULSE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH AD NAUSEAM !!

“We Would Like To Contribute Bringing Metal Music Sound Approach To a Different Level In The Future. There Are Many Listeners That, Like Us, Are Deeply Tired By The Fake Plastic Sounding Records That Are Trending Since The Last 20 Years.”

DISC REVIEW “IMPERATIVE IMPERCEPTIBLE IMPULSE”

「将来的には、メタルのサウンド・アプローチを別のレベルに引き上げることに貢献したいと考えているよ。僕たちと同じように、過去20年間のトレンドである偽のプラスチック・サウンドのレコードに深く疲れている多くのリスナーがいるからね」
機械化されたダンス・ミュージックも、そのバカげた単調さも、そんな音楽を使うクラブも、すべてが100% 大嫌いなんだ。アナログの録音を極めたエンジニア、かの Steve Albini はかつてそう言い放ちました。デジタルに支配された我々は、たしかに繊細で温もりのある生のレコード、その音響を忘れつつあるのかもしれません。それは、耳に鮮やかな添加物にまみれた、メタル世界も同様でしょう。
「ここ数年、メタルの中で音質の平均値が大きく下がっているから、僕たちのようなアルバムは目立ちやすいんだろうな。例えば、ダイナミクスを重要視している作品はほとんどないよね」
近年、その実験精神とこだわり抜いたコンセプトで注目を集めるイタリアのメタルシーン。中でも、”吐き気がするまで追求する” をバンド名に掲げる AD NAUSEAM の献身はもはや狂気の域でしょう。現状に不満があるなら、自ら創造する。ここには、大げさで滑稽な偽物のプロダクションは存在しません。アーティスト本人がエンジニアリングを学び、専用のスタジオ・マシン、キャビネット、アンプ、ドラムキット、さらにはマイクの設計にまで趣向を凝らしたスタジオを建設。すべてはただ、自らが心地良いと感じるサウンドを構築するためだけに、AD NAUSEAM は途方もない労力を注ぎ込んだのです。チューニングも既存のものとはかけ離れています。
「いくつかのオーケストラ・パート( “Sub Specie Aeternitatis” の最後と “Inexorably Ousted Sente” の最初)は、60以上のヴァイオリンを重ねて、彼自身が1つずつ録音したものなんだよ」
6年の歳月をかけて制作された最新作 “Imperative Imperceptible Impulse”。Bandcamp で販売されている “フル・ダイナミック・レンジ” のアルバムを聴けば、この作品が現代のメタル・サウンドとは全く趣を異にする音の葉を響かせることに気づくはずです。
全体の音量は隅々まで見渡せるようにコントロールされ、さながら精巧なタペストリーのごとくすべての楽器が入念に折り重ねられています。ドラムの幽霊音、ギターの息遣い、そしてベースの呪詛まで、生々しく肉感的な三次元の重苦しいオーケストラは、そうしてリスナーの部屋までライブの興奮を運んで来るのです。実際、その録音手法はクラッシックの原理。
「メタルに様々なジャンルのダークな不純物を加えて溶かしたいという本質的な衝動は、最初は不十分な試みだったけど、たしかにそこにあったんだ。新しいものを作るには、自分の限界から一歩踏み出さなければならないことを理解するべきさ」
アルバムは、例えば LITURGY, 例えば KRALLICE, 例えば IMPERIAL TRUMPHANT といった今メタルシーンを牽引する複雑怪奇な NYC の魑魅魍魎とシンクロし、奇しくも同じ方向を向いています。デスメタルやブラックメタルと、ジャズや現代音楽の不協和な錬金術。ただし、NYC の新鋭たちが意図的にラフでアンダーグラウンドなイメージをそのサウンドに残しているのに対し、AD NAUSEAM の合成法は実に緻密で繊細。
テクニックの粋を尽くしながらギターソロさえ存在しないダークな音の不純物は、奇抜に躍動しながらもすべてが正確無比な譜面の中へパズルのように収まります。それは、NEUROSIS とGORGUTS の踊る地獄のの祭典でしょうか。ストラヴィンスキーはひとつのキーワードでしょう。マスコアやテクデスの洗礼も浴びながら、ヌルヌルと蠢く百鬼夜行が奏でる呪詛は、そうしてリスナーを吐き気がするまで何度もリピートへと誘うのです。
彼らにいわせれば、単なるリフの連続ではなく、音が過去を参照したり、未来を予測したりする秩序。不調和によって和声が得られ、不協和音によって旋律が得られるような音楽。真のアヴァンギャルド。
今回弊誌では、AD NAUSEAM にインタビューを行うことができました。「このアルバムは、18年間の研究と実験の結果なんだ。Steve Albini のサウンド哲学は、僕たちの哲学ととても近いものがある。自分よりも優れた人から学ぼうとするのは自然なことだよ。そして、彼はおそらくこの業界で最高の人だ」 どうぞ!!

AD NAUSEAM “IMPERATIVE IMPERCEPTIBLE IMPULSE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DARK QUARTERER : POMPEI】THE ROMAN EMPIRE METAL


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DARK QUARTERER !!

“It Was Thus Natural For Us To Try To Describe a Unique Event In Our History That Has Returned, After Almost Two Thousand Years, The Photograph Of a City That Has Remained Crystallized Over Time, To Reach Us Telling Us Stories Of Our Distant Ancestors”

DISC REVIEW “POMPEI”

「イタリアに住むということは、歴史との共存を意味するんだ。私たちが住んでいる街の起源は非常に古く、私たちが歩いている道は古代ローマ人によって作られ、私たちの周りには数千年前に建てられた建物の痕跡が残っていることがよくあるからね。」
歴史とヘヴィーメタルのマリアージュはいつだって極上の音景色を運びます。ヴァイキングに中世ヨーロッパ、侍から世界大戦まで、メタルは場所や時間を超えて古のロマンを伝え続けています。そんな歴史とメタルの蜜月の中で、ローマ帝国の絵巻物を紡ぐべきは、70年代中盤から続くイタリアの語り部 DARK QUARTERER こそが相応しいと言えるでしょう。
「イタリアのジャーナリスト Claudio Cubito が1987年に私たちを、”プログレッシブエピック” の創始者と呼んだんだ。私はその言葉がこのバンドを定義する一つの鍵だと思う。」
今では巨大で確立されたジャンルとなったエピックメタル。MANILLA ROAD, CIRITH UNGOL と並んで、DARK QUARTERER はその領域の先駆者です。ただし、彼らの異端はそこに多様な音の葉、プログレッシブなスピリットを落とし込んでいる点にあります。
「融合を達成するための最も親和性の高い方法は、すべての音楽的な道を通ることだよ。様々なスタイルの知識があったからこそ、私たちはエピックとプログレッシブを統合することができたんだよね。」
一つの要因は、イタリアというプログレッシブな風土でしょう。クラッシックやオペラの盛んな雅で歴史的街並みには、すでに PFM, BANCO, ARTI, NEW TROLLS, I POOH といったロマンを組曲へと封じる繊細知的な先人が多数存在したのですから。
加えて、メンバー間の歳の差もバンドの異質な存在感に拍車をかけました。ベース/ボーカルの Gianni & ドラムスの Paolo と、ギター、キーボードを操る2人の Francesco の間には20歳もの年齢差が存在します。DEEP PURPLE や GENTLE GIANT を起点に、CANDLEMASS のドゥーム、DIO SABBATH のダーク、FATES WARNING の深層、KING DIAMOND の猟奇, Yngwie の技巧が共存する音故知新な世界地図。世代と世代を掛け合わせることで、DARK QUARTERER はさながらローマ帝国のごとく音楽的な版図を拡大していったのです。
「所謂 “エピック” なサウンドを選択したのは意識的ではなく、むしろエトルリア、そしてローマの領土の起源に関連した自然なインスピレーションによるものだったんだ。」
全ての音はローマに通ず。そうしてあまりにも膨大な音の領土を獲得した皇帝が世界進出に選んだテーマは、ポンペイでした。イタリア南部で繁栄し、ヴェスヴィオ火山噴火の火砕流により一夜にして埋もれ消え去った悲劇の街。
ヴェスヴィオの噴火、そして死の到来を告げるメタルオペラの幕開けから、Gianni の絶唱は埋まり遺跡となった都市の結晶を溶かしていきます。
メタリックなイアン・ギラン、強靭なキング・ダイアモンドとでも形容可能な狂人の喉は、マーティー・フリードマンを想わせる Francesco Sozzi の流麗情緒なソロワーク、Francesco Longhi の古き良きハモンドの魔法と遭遇してプログレッシブエピックの本懐を遂げます。たしかに彼は語り部で、バンドは劇場に巣食っています。
運命の日に抗う個人の物語も出色。ローマの司令官、科学者、作家であった “Plinius the Elder”は、噴火の最中に愛する人を救おうと奮闘し、命を落とします。その8分弱のドラマは、爆発的なプログメタルから、温もりのある繊細なチェンバーピアノのパッセージへと繋がり、愛の強さと自然の無慈悲を殊更に強調するのです。
牧歌的な人生と平和を夢見ていた “Gladiator” もまた、生き残りたいという本質的な衝動に駆られます。噴火で闘いからの甘い解放を享受した闘士は、瞬時に自らの命を守る原始的な戦いへと移行します。その衝動の並置はメタルの叙事詩として完璧なまでのダイナミズムを生み出しました。
終幕は “Forever”。ドラマティシズムが乱れ咲くプログレッシブエピックのコロッセオで、結晶の街は永遠にもにた静かな眠りに落ちるのです。
今回弊誌では、DARK QUARTERER にインタビューを行うことが出来ました。「私たちの歴史のユニークな出来事を作品として表現するのは自然なことだったんだよ。約二千年の時を経て、結晶化したままの都市の姿が、遠い祖先の物語を伝えてくれるようになったんだからね。」 クラッシックメタル再構築の波にも共鳴した傑作。どうぞ!!

DARK QUARTERER “POMPEI” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【O.R.k. : RAMAGEHEAD】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH LEF OF O.R.k. !!

“Bill Laswell Passed a Copy Of The Record On To Tankian Who Was So Impressed, He Then Checked Out All My Stuff, Website And Other Material. This Led Directly To Serj.”

DISC REVIEW “RAMAGEHEAD”

オルタナティブとプログレッシブの稜線に位置するスーパーバンド O.R.k. は、さらに音楽と映画の境界すら霧の中へ誘いユニークな “O.R.k.estration” サウンドで魅了します。
イタリア生まれの声楽家で、映画音楽のコンポーザーとして受賞歴も有する LEF こと Lorenzo Esposito Fornasari。彼が過去に OBAKE でバンドメイトだった ex-PORCUPINE TREE のベースマン Colin Edwin、BERSERK! で共演した KING CRIMSON のスティックマン Pat Mastelotto、さらにイタリアンフォークのビッグネーム MARTA SUI TUBI から Carmelo Pipitone を召喚し結成したプログコレクティブこそ O.R.k. でした。
「ビジュアルアートと音楽がお互いに補い合うやり方がとても好きなんだ。だからね、O.R.k のディスコグラフィーはまだ撮影されていない映画音楽と解釈することも可能だと思うんだよ。」
2015年の結成以来、O.R.k. はプログとオルタナティブを主役として起用しながら、同時にエレクトロ、ジャズ、アンビエントにオペラといった名脇役を見事に配置し、その絶妙な脚本、演出、カメラワークで造形豊かなシネマティックワールドを音楽の中へと投影して来ました。
「アルバムは、様々な側面からもたらされる情報の波に呑まれる潜在的な感情について描いているんだ。僕たち人間の関係性、感じ方、考え方、それに生活全てが、今日では実に深くインターネットとテクノロジーに影響されているのは明らかだよ。」
新世代プログレッシブの旗手 Kscope と手を結びリリースした勝負の最新作 “Ramagehead” で、O.R.k. がフィルムの舞台に選んだのはインターネット/テクノロジーに支配される現代とその社会でした。
深刻なテーマとシンクロするように、彼らの新たなサウンドトラックはダークな畝りが跋扈する重々しい世界。作品を象徴するオープナー “Kneel to Nothing” には、明らかに ALICE IN CHAINS や SOUNDGARDEN が90年代にもたらした悲憤の刻印が印され、一方で極上のリズムチームが創生するパーカッシブな数学の躍動感には TOOL の遺伝子が宿っているのです。
実際、スポンティニュアスで魂宿る Lef の歌唱には Chris Cornell が降臨し、アートワークのデジタルが支配する深淵は TOOL の Adam Jones がデザインを行っています。
暗澹と叡智のフレームはそうして様々なカオスを切り取っていきます。RADIOHEAD を想起させる幽玄とメタルの狂気が同居する “Signals Erased”、クリムゾンの叙情と不穏が類稀なるコントラストを生み出す “Time Corroded”、豊潤なオーケストレーションで完璧なシネマを具現化する組曲 “Some Other Rainbow”。
場面転換の妙は、ネオレアリズモの生々しくも痛烈な説得力を纏ってリスナーをビジュアルとサウンドの水平線へと誘うのです。
「Serj は僕の全ての作品をチェックしてくれたそうだよ。ウェブサイトや他のマテリアルまでね。」
Bill Laswell が聴かせた音源を出発点に、そうして O.R.k. の透徹した美意識は遂に SYSTEM OF A DOWN のマエストロ Serj Tankian のキャスティングへと繋がりました。”Black Blooms” に描かれた地続きの善と悪、国もジャンルも超越して咲き誇る黒の才華は完璧なまでにプログの新たな地平、情景を示唆しているのでしょう。
今回弊誌では、Lef にインタビューを行うことが出来ました。彼の鍵盤捌き、Carmelo のシーケンシャルなフレージングも聴きどころの一つ。「映画のためにスコアを書くことで、僕の音楽に対するアプローチは大きく変化したんだ。」どうぞ!!

O.R.k. “RAMAGEHEAD” : 9.8/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【NOSOUND : ALLOW YOURSELF】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH GIANCARLO ERRA OF NOSOUND !!

“I’ve Never Been a Fan Of Being Very Good Or Even Virtuoso Or Any Instrument, I Hate Any Virtuoso Or Technical Playing, I Like Instead Emotions, That Are Always Simple And Direct.”

DISC REVIEW “ALLOW YOURSELF”

「シンプルとは究極の洗練である。」 イタリアから真なるプログレッシブを追求する現代のダヴィンチ Giancarlo Erra は、万能の天才に相応しき多様な才能を NOSOUND へと捧げます。
70年代のサイケデリカとプログの香りをコンテンポラリーなオルタナティブ、アンビエント、エレクトロニカ、ポストロックの小瓶へと封じる NOSOUND の芳醇でエクレクティックな音楽性は、ヨーロッパにおいて今最も刺激的なアートロックフォームの一つとして遂にその認知を頗る高めています。
21世紀初頭に帆を上げた NOSOUND の航海にとって、ポストプログレッシブの本営 Kscope との契約、そしてポストロックのサウンドスケープへと接近した “A Sense of Loss” のリリースは最初の転機となりました。
「僕が Kscope を気に入っているのは、プログの世界と定義を見直そうと決め、僕の新作を歓迎してくれるのはもちろん、プログ世界の外側のアーティストとも多く契約をしている点なんだ。」と Giancarlo は語ります。
事実、ANATHEMA はもとより、THE PINEAPPLE THIEF, NO-MAN といった NOSOUND と深くシンクロする Kscope ロースターは音色、響きの焦点を全て感情表現という一点へ集中させています。詩歌、奏楽、ノイズ、オーケストレーション、リズムは、音楽というレンズを通して最もエモーションを際立たせる場所へと配置されるコンポーネントの一つ。
つまり、「僕はどの楽器においても、卓越したミュージシャンやヴァーチュオーゾの大ファンだったことはないんだよ。むしろ、ヴァーチュオーゾやテクニカルなプレイを嫌っているとさえ言えるね。それよりもエモーションを愛しているんだ。」との言葉通り、NOSOUND の志向する “プログレッシブ” は、卓越した技巧を感情追求の一端とする典型的なプログレッシブロックとは全く異なる領域にあると言えるのです。
賞賛されるべきは変化を恐れない勇気だと Giancarlo は語ってくれました。そして彼らの最新作 “Allow Yourself” は自らのコンフォートゾーンからさらに針路を進め、最も創造性煌めく海原へと到達する “許し” が付与された第二の転機です。
事実、かつての音楽性は “Nosound” となったと嘯く通りその変化はドラスティック。典型的なロックの構造から離れて “ミニマル” なデザインを追求し、エレクトロニカとアコースティックの完璧なバランスを見出したアートは、カテゴライズやアナライズさえ愚かな行為に思えるほど浮世離れの絵巻物。
ただし、このエレガントでドリーミー、メランコリックで静謐で、しかし時に深々と積もる怒りの灯火やパワフルなエナジー、情熱や情念を噴出させるモナリザの万華鏡には、これまで以上に様々な感情が、より鮮やかに交錯し織り込まれていることは確かです。
もしかしたら、世界には “許し” が足りないのかもしれません。自らを愛すること、心を開くこと、変化を遂げること、理解を深めあうこと。全てに勇気を持って “許し” を与え、新たな扉を開くためのサウンドトラックとして、この作品はあまりに完璧です。
今回弊誌では、Giancarlo Erra にインタビューを行うことが出来ました。「プログというジャンルは、そもそもジャンル分けをものともしない音楽のために生まれたはずなのに、70年代を過ぎると最も閉鎖的な分野の音楽になってしまったね…”進化” するべきはずのものから、形骸化された “プログレッシブ” の形式で作られた音楽だけを受け入れるものになってしまったのさ。」ぜひドアを開けてください。どうぞ!!

NOSOUND “ALLOW YOURSELF” : 10/10

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DISC REVIEW + INTERVIEW 【DERDIAN : DNA】JAPAN TOUR 2018 SPECIAL !!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ENRICO PISTOLESE OF DERDIAN !!

“At The Beginning, Rhapsody Were One Of Our Favorite Band And There Is No Doubt We Have Drawn Inspiration From Them. But We Were Very Young. Now Things Are Very Different. We Feel To Play Completely a Different Music.”

DISC REVIEW “DNA”

風光明媚な地中海を臨むイタリアの “DNA” は、ことロックの世界においてここ日本の情緒と一脈の共感覚を披露し続けています。
古くは NEW TROLLS, P.F.M. といったプログレッシブの芸域から、近年では RHAPSODY, DARK LUNACY, FLESHGOD APOCALYPSE など雄々しきメタルの血脈まで、ファンタジックでロマンと幾ばくかのセンチメントを宿したその感覚世界は殊更に日本のリスナーを魅了して来たのです。
“Derdian” の王 Golstar を巡る英雄譚 “New Era” サーガ、至高のトリロジーでシーンに登壇した DERDIAN もまた、彼らと同様に目眩く幻想と哀愁のユートピアで日本のファンと深くそのイマジネーションを共有しています。
アルバム “Limbo” で日本盤ボーナストラックに、アニメ “聖闘士星矢” のテーマ曲 “Pegasus Fantasy” を華麗にカバーした事実もバンドと日本の密接な脈絡を物語るものでしょう。
「2年以上の月日を経て、DERDIAN と Ivan の間にはケミストリーが存在したことに気がついたんだよ。」マスターマインド Enrico がそう語るように、”Limbo” 以降よりコンテンポラリーなサウンドへとシフトした彼らに不可欠な “声”、Ivan Giannini が復帰を果たし製作された最新作 “DNA” は情緒のシンクロ二ティーはそのままに、集大成にして新たな冒険へと駆り立てるバンド史上最も多様な SF エピックです。
「改竄されていた聖書の内容。現生人類は、来襲したエイリアンが科学で生み出したエイリアンと地球人の子孫であった。」常にストーリー性を前面に押し出す DERDIAN が送る新たなファンタジーは、壮麗なるイントロダクション “Abduction” でシネマティックにその幕を開けます。
アルバムオープナー “DNA” はまさに劇団 “DERDIAN” の面目躍如。高らかに鳴り響くシンフォニー、舞い上がるは雄弁なる大合唱、押し寄せるは津波のようなメタルパワー。
華々しい歌劇の幕開けは ROYAL HUNT にも通ずるメランコリーと構成美、クラシカルの園を見せつけながら、リスナーをカタルシスの渦へと誘います。リレコーディング作品に D.C. Cooper が参加していた事実も偶然ではないはずです。
初期 SYMPHONY X をイメージさせるミステリアス&プログレッシブな “False Flag Operation” を経て遭遇する “Never Born” はアルバムのハイライトでしょう。”DNA” 以上にシンフォニックメタルの理想形を提示した楽曲は、エナジーとフック、キャッチーなスピリットを抱えてダイナミックにその翼を広げます。
大胆なストップモーションに繊細な間奏のオーケストレーションなど、近年のパワーメタルアクトの中でも飛び抜けて “フック” の意味を熟知した作曲術こそが明らかに彼らの強みの1つでしょう。
一方で、強国 “Derdian” は侵攻を続け、その領地を多様に拡大し続けます。耽美なるタンゴの響きを纏ったエスニックな “Red and White”、ジプシージャズのイメージを大胆に投影する “Elohim”、プログメタルの領域へと侵入する複雑怪奇な “Ya Nada Cambiara”。DERDIAN ワールドは無限にカラフルに、そしてエクレクティックにそのパノラマを四望するのです。
そうしてアルバムは日本語で歌われるボーナストラック “Never Born” をアンコールにその幕を閉じます。盛大なカーテンコールを受けながら。
今回弊誌では創立メンバーでギタリスト Enrico Pistolese にインタビューを行うことが出来ました。2年連続となる Evoken Fest への出演も決定しています。「DIYとなった現在は全く異なり、僕たちのことは全て僕たちで決定を下すことが出来る。だいたい、バンド全員が日常の仕事で上司がいるのに、なんでまた厄介な上司を増やす必要があるの?!1人で充分だよ(笑)!!」どうぞ!!

DERDIAN “DNA” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ICEFISH : HUMAN HARDWARE】【PFM : EMOTIONAL TATTOOS】MARCO SFOGLI SPECIAL !!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MARCO SFOGLI FROM ICEFISH & PFM !!

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Italian Guitar Virtuoso, One Of The Most Influential Prog-metal Maestro, Marco Sfogli Has Just Released Two Masterpieces With ICEFISH & PFM !!

DISC REVIEW “HUMAN HARDWARE” & “EMOTIONAL TATTOOS”

James LaBrie が見出せしイタリアのマエストロ、ギターファンタジスタ Marco Sfogli が趣の異なる、しかし傑出した二枚のアルバムをリリースしました!!”ミュージシャンズミュージシャン” の色濃い Marco のイメージは、よりマスリスナーへとアピールする明快な二枚のマイルストーンを経て鮮やかな変貌を遂げるはずです。
遂に光を浴びた Marco の秘めたる野心は、ネオフューチャーとノスタルジア、二つの一見相反する創造物として具現化されました。AI の過度な進化を近未来として描写し、希薄になる人間同士の絆を危惧する “Human Hardware” は Marco がプログシーンのスーパーバンド ICEFISH の一員としてリリースしたコンテンポラリーなプログメタル作品です。
ICEFISH の物語は、PLANET X, UK 等で辣腕を振るうシーン屈指のドラマー Virgil Donati のリーダー作 “In This Life” から始まりました。Brett Garsed, Alex Machacek 等錚々たるメンバーの中、ギタープレイの中核を担った Marco は Virgil と意気投合。Marco のソロ作品と “In This Life” 双方でブレインを務めたキーボーディスト Alex Argento、DGM とも繋がりのあるベース/ボーカル Andrea Casali をスカウトし、新たなスーパーグループを結成したのです。
ラインナップから想像出来るように、確かに “Human Hardware” はハイテクニカルでアグレッシブなレコードです。しかし、驚くことにそれ以上にこの繊細かつ大胆な現代建築は Andrea の巧妙でキャッチーなボーカルを中心に据えて深くデザインされているのです。
アルバムオープナー “Paralyzed” を聴けば、ICEFISH が TOTO の精神性を引き継いでいることに気づくでしょう。Djenty とさえ言えるダークで複雑な Marco のギターリフ、音数の多いサイバーな Alex の鍵盤捌き、そして緻密なハイハットワークでその両方を難無く追いかける Virgil のテクニック。それだけでエキサイティングなフュージョンメタルが成立し得る彼らのミュージックフィールドは、しかし Andrea の爽快でポップなボーカリゼーションを得て初めてバンドの本質を顕にします。
「ICEFISH のプランは、プログの要素を保ちつつ、より大勢のリスナーに受け入れられる音楽を作ることだった。」 Marco はそう語ります。知的にうねるリフワークに煌めくシンセサウンドが映える “It Begins” はまさに始まりの証、バンドの象徴。ジャジーなコーラスにリアルなグルーヴを纏った DIRTY LOOPS をさえ想起させるキャッチーなキラーチューンは、同時に Marco のトリッキーで奇想天外なリードを携えバンドのスピリットと目的地を雄弁に物語っているのです。
アルバムを締めくくる、ウルトラポップでしかしシーケンシャルなユニゾンが恐ろしいほどに波寄せる “The Pieces” はまさに彼らの “Human Hardware” が結実した成果でしょう。
“It Begins” は Marco のノスタルジーサイドへの入口でもあります。楽曲のコンポジションに力を貸した Alberto Bravin はイタリアの伝説 Premiata Forneria Marconi (PFM) の新メンバー。そして Marco もまた、彼と同時に PFM の正式メンバーに抜擢されているのです。
「最初はビックリしたね。バンドの熱心なファンという訳ではなかったし、実際彼らの曲は何曲かしか知らなかったんだから。」 バンドのマスターマインド Franz Di Cioccio からの誘いを受けた時の気持ちを Marco はそう率直に語ります。
しかし故に、オリジナルメンバーで創作の中心に居た Franco Mussida の後任という難しいポジションを現在彼は楽しんで務めることが出来ているのかも知れませんね。実際、PFM が4年振りにリリースした新作 “Emotional Tattoos” で Marco は新鮮な風を運ぶと同時に、すでに不可欠なメンバーとして風格と輝きを放っています。
“Morning Freedom” や “The Lesson” で啓示する至高のメロディーは、バンドが最もヴィヴィッドに輝いた70年代の栄光を21世紀へと伝える虹の架け橋かもしれません。同時にそれは彼らのポップセンスを受け継いだ BIG BIG TRAIN, IT BITES などの理想ともシンクロし、ASIA のセオリーとも共鳴し、文字通り至高のエモーションを刻みながらプログスターの存在感を際立たせます。
映画のサウンドトラックをイメージした 2006年の “States Of Imagination”, 2010年の 新解釈 Fabrizio De Andre “A.D.2010 – La buona novella”、クラッシックに捧げた2013年の “PFM in Classic – Da Mozart a Celebration”等、近年 PFM はテイストの異なる作品を続けてリリースしていましたが、遂にフォーキーでイマジナリーな自らのオーケストラへと帰還を果たした “Emotional Tattoos” にはやはりオリジネーターの凄みと巧みが濃密なまでに織り込まれているのです。
アルバムを牽引するベーシスト Patrick の印象的なキメフレーズ、Lucio の美麗なヴァイオリン、Franz のメランコリーが溶け合う “There’s A Fire In Me” はその象徴かも知れませんね。
同時に Marco Sfogli のコンポジション、アレンジメント、リードプレイは、21世紀を生きるバンドの確固としたステートメントに思えます。インタビューにもある通り、”A Day We Share” のテーマとなったスリリングで鮮烈なユニゾンパートやファンクの意外性は Marco の手によるものですし、トライバルでフォーキーな DIXIE DREGS さえ想起させる希望のインストゥルメンタル “Freedom Square” は実際 Marco の楽曲と呼んで差し支えがないほどにアンビシャスです。
勿論、Kee Marcello のピッキングの粒立ちと加速の妙、Van Halen のトリック、Lukather のテンションなどを広く吸収し、しかし自身のメロディーセンスとスリルを強烈にアピールするリードプレイのクオリティーは群を抜いていますね。何より PFM がニューカマーに全面的な創作の “自由” を与えている事実がバンドの野心と Marco の才能を物語っていますね。
Greg Lake が PFM を発見し、”Photos of Ghosts” で世界に紹介してからおよそ45年。Greg は旅立ちましたが、PFM は確実に彼の世界観、スピリットを受け継いでいます。そして、今度はその PFM が Marco Sfogli を世界に披露するのです。
ノスタルジアとコンテンポラリーを両立し、奇しくも英語詞とイタリア語詞二つのフォーマットが用意されたアルバムを締めくくる感傷的な名曲 “It’s My Road” は、Marco の秘めたる決意なのかも知れませんね。
今回弊誌では、Marco Sfogli にインタビューを行うことが出来ました。Matt Guillory, Peter Wildoer との新たなプロジェクトも期待出来そうです。「一つのジャンルだけに囚われずオープンマインドでいようね。」 どうぞ!!

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ICEFISH “HUMAN HARDWARE” : 9.8/10

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PFM “EMOTIONAL TATTOOS” : 10/10

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RHAPSODY REUNION JAPAN TOUR SPECIAL !! INTERVIEW WITH ALEX HOLZWARTH !


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ALEX HOLZWARTH OF RHAPSODY REUNION !!

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Italian Symphonic Power Metal Legend, Rhapsody Reunite To Celebrate Their 20th Anniversary And Coming To Japan For Farewell !

“EMERALD SWORD SAGA”

シンフォニックパワーメタルの先駆者にして、イタリアが生んだ伝説の戦士 RHAPSODY が、初期のメンバーでリユニオンを果たし、ここ遥かなる地日本でも翠玉の太刀を携えフェアウェルツアーを行います!!名作 “Symphony of Enchanted Lands” の完全再現を伴う結成20周年のアニバーサリーライブは、偉大な勇者たちのレガシーに幕を下ろす別れの儀式ともなるはずです。
RHAPSODY が1997年にリリースした “Legendary Tales” はまさにゲームチェンジングなレコードでした。勿論、それ以前にもクラッシック音楽とメタルを融合させたバンドは多数存在しましたが、”フィルム・スコア・メタル” と称される彼らの音楽は、文字通り雄大なファンタジームービー、もしくは勇壮なロールプレイングゲームを強くイメージさせる一大エピックだったのです。
鳴り響くクワイア、壮麗かつシンフォニックなオーケストレーション、大仰なコンポジション、そしてヨーロッパの空気を存分に伝えるクラシカルでフォルクローレなメロディー。何よりバンドには、そのイロモノ感を説得力へと導く英傑が存在しました。
カンツォーネの歌唱をメタルに取り込むがごとく熱く太いハイノートを操る Fabio Lione, ファストで素晴らしくデザインされたリードプレイを披露する Luca Turilli, バロックから後期ロマン派まで幅広い知識でアグレッシブなオーケストラを創造する Alex Staropoli 。Sascha Paeth という黒子の存在もあって、三俊の奏でるシンフォニーはメロディックメタル史に語り継がれるマスターピースを産み落としたのでした。 当時、BLIND GUARDIAN と ANGRA の理想的な婚姻といったイメージを抱いたファンも多かったのではないでしょうか。
さらに RHAPSODY がエポックメイキングだったのは、アルバム5枚で完結する長編ファンタジー、エメラルドソードサーガをコンセプトの中央に据えた点でしょう。2、3作の連続コンセプトアルバムならばしばしば存在するかもしれませんが、RHAPSODY は5作品に渡る長く壮大過ぎるストーリー。しかもエメラルドソードサーガが終結した後、ダークシークレットサーガというこちらもアルバム5枚に渡る長編に乗り出したのですから、あまりに型破りだと言わざるを得ないでしょう。
Luca Turilli のイマジネーションが生んだ世界はこうです。
「ストーリーの主人公はユニコーンに運命を告げられた “氷の戦士”。彼は魔法の国アルガロードに忍び寄る暗黒王アクロンの軍団を打ち倒すため、エメラルドソードを求め地獄に聳える暗黒の塔に向かいます。塔を守護する象牙の門を開くため三つの鍵を探し出し、遂に伝説の剣を手に入れた氷の戦士。アンセロット王国の救出に向かった彼は戦友アルワルドと共に要塞を解放します。しかし暗黒王アクロンの奸計により2人は捕えられ、アルワルドの恋人アイリンは目の前で犯され殺されてしまうのです。アルワルドの命を賭した機転により何とか逃げ出すことに成功した氷の戦士。しかしエメラルドソードを手にした暗黒王は、暗黒の女王を蘇らせ魔法の国々を滅ぼしていきます。氷の戦士は暗黒王の魔の手から”エンチャンテッドランド”を守れるのでしょうか?」
さて、今回完全再現を行う第2幕 “Symphony of Enchanted Lands” はサーガで最も大仰でプログレッシブな作品。そして今回インタビューを行った Alex Holzwarth が加入した第3幕 “Dawn of Victory” は逆にコンパクトでパワーメタル然とした作品。何より、サーガの幕を閉じる第5幕 “Power of the Dragonflame” はサーガ全ての長所を盛り込んだまさに集大成とも言える完成度、劇的なクライマックスを宿した新たな傑作だと言えますね。
エメラルドソードサーガの後、バンドは RHAPSODY OF FIRE への改名、契約を巡るトラブル、Luca の脱退からバンドの分裂、Alex Holdsworth & Fabio Lione の脱退と決して順風満帆で来た訳ではありません。実際、ただ1人 RHAPSODY OF FIRE に残る形となったキーボーディスト Alex Staropoli は残念ながら今回のリユニオンには参加していません。
しかし、インタビューにもあるように、彼以外の参加メンバーはとにかく楽しんで今回のツアーを行っている様子。最後に、散り散りとなってしまった全盛期のメンバーが揃う RHAPSODY を見るチャンスが訪れたことは日本のファンにとって素晴らしいプレゼントでしょう。
今回弊誌では、ドラマー Alex Holzwarth にインタビューを行うことが出来ました!16年在籍したバンドのダイナモが気さくに現状を語ってくれました。行間を読めば見えてくることもあるでしょう。どうぞ!!

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【BAROCK PROJECT : DETACHMENT】JAPAN TOUR 2017 SPECIAL !!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH LUCA ZABBINI OF BAROCK PROJECT !!

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Italian Prog Rock Bandiera, Barock Project Becomes More Modern, More Diverse, And Sometimes heavier With Their Newest Album “Detachment” !!

DISC REVIEW “DETACHMENT”

プログレッシブの血潮が脈々と流れ続ける、ルネサンス発祥の地イタリアに降臨したバンディエラ BAROCK PROJECT が、レトロとモダンを”超越”したタイムレスクラッシック “Detachment” をリリースしました!!名作 “Skyline” からよりオーガニックでマルチディメンショナルな境地へと辿り着いた75分の壮大なコンセプトアルバムは、アートワークの変化が示すように実にシリアスでパーソナル。ファンタジーの世界に別れを告げ、プログレッシブの新たな潮流ともシンクロする野心的で思慮深い作品に仕上がりました。
BAROCK PROJECT は J.S. Bach と Keith Emerson を敬愛するキーボーディストでコンポーザー、レコーディングも手がける若干33歳のマスターマインド Luca Zabbini が牽引するプログレッシブ集団。各所で高い評価を得た前作 “Skyline” からのインターバルで、バンドは不在だったベーシストとして Francesco Caliendo を得ましたが、2002年から在籍するバンドの声 Luca Pancaldi を失ってしまいます。
インタビューでも語ってくれたように、デモでは歌っていたものの自分をシンガーとして考えたことはなかったという Luca ですが、周囲の後押しもあり遂にリードボーカルも務めることを決断し傑作 “Detachment” は誕生したのです。
「”Prog” がエリートのもので、ほとんどがごく少数のコレクターにしか聴かれない状況を受け入れることに疲れ果ててしまったんだよ。」 それはまさに衝撃的な告白でした。プログロックという狭い檻に囚われているように感じていた Luca は、慣れ親しんだ領域を “Detachment” = “離脱”し、よりアクセシブルで多様性に満ちたモダン=多様な作品を制作することを決意します。
始まりの予感に満ちたピアノの小曲に導かれ、アルバムは “Promises” でその幕を開けます。イントロのエレクトロニカサウンドが好奇心を誘い、ボコーダーを使用した Luca のボーカルが複雑なドラムパターンとともに鮮やかに切れ込むとリスナーはそこに確かな変革の風を感じるでしょう。
中間部で見せるギターとハモンドのデュエルは実にアグレッシブでプロギーですが、同時にしっかりとデザインされた上で現代的にアップデートされレトロとモダンを行き交います。さらに芳醇なメロディーラインは引き継ぎつつも、ダークで内省的な Luca の声が生み出すリアリズムはポストプログの世界観にも通じていますね。
より幅広いリスナーへ届けるため多様性とキャッチーさにフォーカスしたという Luca のチャレンジは “Happy to See You” に結実しています。フォーク、ストリングス、そしてエレクトロニカを巧みに融合し独特のアトモスフィアを創出、極上のメロディーでリスナーの胸を激しく締め付ける手法は、まさに彼が人生を変えたアルバムで挙げている THE POLICE の Sting、例えば “Mad About You” を想起させますね。
TIGER MOTH TALE や CAMEL で活躍する Peter Jones がゲストボーカルで参加した2曲は中でも傑出しています。狂おしいまでに美しきバラード “Alone” はジャズのフレーバーとメランコリーを静かに湛え、”Broken” ではクラシカルやフォークを華麗にダイナミックに昇華。対照的な曲調ながら、アコースティック楽器のオーガニックな響きや張り詰めた空気感は共通しており、さらにそれこそがアルバムに貫かれた写実的なリリシズムの象徴だと感じます。
そして、Peter の John Wetton が憑依したかのような絶唱が司るメロディーの洪水はどちらの楽曲においても平等にリスナーの心を満たし遥かなる高みへと導くのです。
ソロワークやファンタジーに主眼を置く”プログレ” の世界から”離脱”し、アレンジメント、リアリズム、ダイナミズム、そして多様なコンポジションを武器に新たな旅へと繰り出した BAROCK PROJECT。アルバムに漂うある種の緊張感は、Luca のフラストレーションが表層化したものだったのかも知れませんね。
今回弊誌では Luca Zabbini に2度目のインタビューを行うことが出来ました。6月には MOON SAFARI とのカップリングで初の来日公演も決定しています。どうぞ!!

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BAROCK PROJECT “DETACHMENT” : 9.8/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DESTRAGE : A MEANS TO NO END】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PAOLO COLAVOLPE OF DESTRAGE !!

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Bandiera Di Tech-Metal From Italy, Destrage Has Just Released Genre-Breaking, Sensible, Matured New Record “A Means to No End” !!

DISC REVIEW “A MEANS TO NO END”

イタリアが誇る Bandiera di Tech-Metal、DESTRAGE が新作 “A Means to No End” をリリースしました!!非常にクリエイティブで、ジャンルの境界を押し広げるようなゲームチェンジングなレコードは、”Math-Core” などという狭義のタームをやすやすと飛び越え、シーンに大きな衝撃を与えることでしょう。
前作 “Are You Kidding Me? No.” は、バンドの全てを注ぎ込み、無慈悲なまでのエナジーと、独特のセンスが見事に調和した、まさに新世代 Tech-Metal の旗手としての地位を確立したレコードでした。もし、”Are You Kidding Me? No” が DESTRAGE を体現したアルバムだとするならば、新作 “A Means to No End” はバンド史上最も野心的な作品と言えるでしょう。
インタビューで Paolo は「今回は曲を書きたかったんだよ。花火のようなものじゃなくてね。サーカスの日々は終わりさ。」 と述べています。勿論、これまでも楽曲は多く残してきた訳ですが、彼が意味するところは、思慮深く、成熟した、ギミックなしの、オーガニックでナチュラルな”曲”にフォーカスしたかったということでしょう。
具体的には、DESTRAGE の代名詞とも言える、カオティックなパートや、スラッシーなボーカル、アンセミックなコーラスは後退。ボーカル Paolo はそのダイナミックなレンジを生かして、よりシリアスで内省的な怒りと優しさを歌に込めています。溢れ出る、反逆的な情念と慈愛に満ちた情愛が実にリアルで、表現力の高まりを感じますね。インストゥルメンタルパートでもその変化は明らかで、よりシンプルかつオーガニック。空間、音の隙間を増やし、洗練されたサウンドへと進化を遂げています。リフがしっかりと整理されたことで、さらに印象的かつスリリングになった気がしますね。
勿論、楽曲にはヘヴィーなパートも用意されていますが、そのダークなエナジー、1音の重みは以前とは異質で、ほぼ必ず”対”となるようなプログレッシブ、アトモスフェリックなパートが存在するため、その対比がアルバムに新たな深みを加えています。
アルバムオープナー、タイトルトラックの “A Means to No End” はバンドの変化を伝える”手段”なのかも知れません。アコースティック楽器と、哀愁すら感じさせる深みのあるボーカルで構築されたワルツは、フォーク/トラッドの影響すら感じさせる穏やかで美しい楽曲。
続く “Don’t Stare at the Edge” がアルバムでも最も DESTRAGE らしいアグレッシブで直情的なヘヴィーアンセムであるため、より鮮明に彼らのチャレンジが際立ちます。「崖を眺めるな。崖の下を見渡せ」。冒険のない人生なんてつまらないというメッセージは、冒険を行った彼らだからこそ伝わるメッセージかもしれませんね。
“Symphony of the Ego” はバンドの新たな代表曲となるはずです。テクニカルかつキャッチーなタッピングで幕を開け、得意のタイムチェンジとポリリズミックなリフでしっかりと自らの出自を示しながら、スーパーキャッチーで噛み付くようなシンガロングパートでキッズのハートを掴みます。前半部分では、PROTEST THE HERO を想起するファンも多いでしょう。一転、楽曲の後半は、Post-Rock さえイメージさせるような穏やかで優美な時間が訪れます。何という作曲術、対比の妙でしょう!!”Ending to a Means” に至っては PINK FLOYD にも通じるようなセンスを見せつけているのですから恐れ入ります。
アルバムを締めくくる “A Promise, a Debt” から7分のエピック “Abondon to Randam” への流れもバンドの成熟を伝えます。またしてもフォーキッシュで美しいワルツから、バンド史上最もプログレッシブな楽曲への流れは圧巻で、内省的な狂気と安寧を孕んで作品を締めくくります。今作では、アルバムを通して、PANTERA, KORN を思わせる90年代を彩った印象的なリフワークが効果的に使用されていることも付け加えておきましょう。
今回弊誌では、2度目の登場となる Paolo Colavolpe にインタビューを行うことが出来ました!!12/3、12/4には Realising Media の招聘で、3度目の来日、DispersE との共演が決定しています。弊誌に Paolo が “Destrage VS Marunouchi Muzik Magazine” と宣言してきただけのことはある非常に観念的な回答の数々。どうぞ!!

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DESTRAGE “A MEANS TO NO END” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DGM : THE PASSAGE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ANDREA ARCANGELI OF DGM !!

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Italian Prog-Power Maestro, DGM Has Just Released Their New Masterpiece, “The Passage”!! Don’t Miss Upcoming DGM Japan Tour on November !!

DISC REVIEW “THE PASSAGE”

イタリアが誇る、ダイナミックでソリッドな Prog-Power マエストロ, DGM が3年振りとなる新作 “The Passage” をリリースしました!!
メンバーチェンジの多いバンドで、DGM (Diego, Gianfranco, and Maurizio) というバンド名の元となった創立メンバーたちすら、今のバンドには存在しません。しかし、唯一無二のボーカル、Mark Basile 加入後は安定し、現在のラインナップになって3作目、そして Frontiers Music に移籍後初のアルバムとなります。
Melodic Hard / Metal を主戦場とする Frontiers に移籍したことが影響したのか、アルバムは、元々バンドのアイデンティティーであった、メロディックな要素をさらに磨き上げた素晴らしくキャッチーで、同時にインタビューで Andrea が語ってくれたように、これまでの DGM を集約したかのようなバラエティー豊かで多彩な作品に仕上がりました。
作品を象徴するのが、アルバムオープナー “The Secret” 組曲から “Animal” への流れでしょう。イタリアンギターマエストロ、Simone のベンドを多用した小気味よくもモダンなギターリフがアルバムの幕開けを告げると、Mark のエモーショナルでメロディックな歌唱が強烈に爽快に現在の DGM を主張します。”Part 1″中盤に配置された圧倒的なギター&キーボードのデュエルは、彼らの出自が RAINBOW や Yngwie Malmsteen というクラッシックであることを物語りますが、続くダークでグルーヴィーなパートが SYMPHONY X ライクなモダンプログレッシブなため、奇しくも両者の対比が彼らの幅広い音楽性を印象づける形となっていますね。
この組曲で特筆すべきは Emanuele の千変万化な鍵盤捌きで、しっとりとしたピアノから、激しいリードプレイ、そして組曲終盤の “Stargazer” 的オリエントパートで見せる Tony Carey のような深遠な音色まで、カラフルでイマジネイティブなプレイの数々が白眉。
また、”Part 2″ の冒頭、Andrea のグルーヴ満点なベースが導くリフワークは続く3曲目 “Animal” の冒頭にも使用されています。インタビューで語ってくれた通り、今回の作品には音楽的なコンセプトが存在し、いくつかのフレーズがシームレスにアルバムを通して現れるのです。この手法により、リスナーはより “The Passage” と旅することが容易になっていますね。
多様性という面から見れば、先に挙げた “Animal” はアリーナロック的なメジャー感が存在するキャッチーさにフォーカスした楽曲なのに対して、Michael Romeo がゲスト参加した “Dogma” は SYMPHONY X すぎるダークでヘヴィープログレッシブなアグレッションを前面に押し出しています。
さらに、EVERGREY の Tom Englund が参加した “Ghost of Insanity” や “The Fallen” は DGM の新たなメタルアンセムですし、ピアノとボーカルのみで紡がれる “Disguise” やアルバムを締めくくるドリーミーな “In Sorrow” の美しさには言葉を失うほど。実に引き出しが多く、Prog と Power のバランスが極上の、何度もリピートを誘う名作であると言えるでしょう。
今回弊誌では、先頃プライベートで日本旅行を楽しんでいたという日本通のベーシスト、Andrea Arcangeli にインタビューを行うことが出来ました。11月には Evoken de Valhalla PR の招聘により、東京、大阪、名古屋で彼ら2度目の来日公演も決定しています!どうぞ!!

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DGM “THE PASSAGE” : 9.6/10

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