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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【ALCEST : LES CHANTS DE L’AURORE】


COVER STORY : ALCEST “LES CHANTS DE L’AURORE”

“God Is Called Kami In Japanese, And They Basically Have a Kami For Everything. And You Can Clearly See That In Princess Mononoke.”

夜明けの歌

「今、メタルというジャンルはとてもオープンで、いろんなスタイルやアプローチがある」
ブラック・ゲイズ。このサブジャンルは、ブラック・メタルの狂暴で擦過的な暗闇と、シューゲイザーの幽玄でメランコリックな審美を等しく抱きしめた奇跡。メタルとインディー。つまり、このあまりに対照的な2つのジャンルの融合は、フランスの ALCEST が牽引したといっても過言ではないでしょう。
ALCEST にはサウンド面だけでなく、主にフランス語で作曲しながら、世界中に多くのカルト的なファンを獲得してきたという功績もあります。ヨーロッパや非英語圏のメタル・バンドは、より広くアピールするために英語で作曲するのが普通でしたが、ALCEST は音楽に普遍的な魅力があれば言語は関係ないことを証明し続けています。
7枚目のスタジオ・アルバム “Les Chants De L’Aurore” でALCEST は、極限まで輝かしく、メロディアスでみずみずしいアルバムを作るという野心的な探求に乗り出しました。”Spiritual Instinct” や “Kodama” で焦点となっていた “硬さ” や “ヘヴィネス” は減退。一部のファンは不意を突かれたかもしれませんが、”Les Chants De L’Aurore” はこれまで以上に、いやはるかにニュアンスがあり、高揚感があり、複雑なアルバムに仕上がりました。
タイトルの “Les Chants De L’Aurore” は直訳すると “夜明けの歌”。
「新しいアルバムを作るときは、音楽、ビジュアル、歌詞の間にとてもまとまりのあるものを作ろうとするんだ。アルバム・タイトルは、リスナーの心に強いイメージを喚起するものでなければならないと思う。”歌” にかんしては、このアルバムではいつもよりヴォーカルが多くて、合唱団もいるし、僕も歌っているからね。”夜明け” は、ジャケットのアートワークとリンクしていて、とても暖かくて、新しい一日のようでもあり、一日の終わりのようでもあり、その中間のようでもある。だから、このアルバムの持つ温かい雰囲気にぴったりだと思ったんだ」

ALCEST が前作 “Spiritual Instinct” をリリースしたのは5年前のことでした。その頃の世界は自由に動き回れる場所。ところが突然、世界的なパンデミックが起こり、私たちは孤立の繭に包まれました。
このさなぎから抜け出した多くの人たちは、本当に大切なものに対する感謝の気持ちを新たにしたでしょう。それはまるで夢想家に生まれ変わったかのようであり、世界の素晴らしさを再発見した子供たちのようでもありました。
「パンデミックの期間中、何もアイデアが浮かばず、ギターのリフを書こうとしても何も出てこなかった。今までで一番長い期間、何も書けなかった。1年間、リフが1つも出てこなかったと思う。僕はいつも何かを得ようとしていた。もうダメだって感じだった。そしてある日、すべてのブロックが外れた。
インスピレーションがどのように働くのか、本当に知りたい。とても複雑なテーマだ。1年間も何も見つからなかったのに、ある日突然、すべてが解き放たれたなんて。とても奇妙だよね。
10年間ノンストップでツアーを続けてきた僕らにとっては、何か違うことをするいい機会だった。大好きな人たちや、この10年間まともに会っていなかった家族と初めて一緒に過ごすことができた。これまでは年に1、2回地元に帰るだけだった。でもパンデミックのあとは、ほとんど毎日両親に電話するようになり、今では2~3カ月に1回は南仏に会いに行っている。人の温もりやあたたかい気持ちを再発見できた。だから結果的にはよかったんだよ」

つまり、Neige にとって夜明けの歌とは終焉であり、新たな始まりでもあります。
「僕にとってこのアルバムは、ALCEST のオリジナル・サウンドへのカムバックであり、初期のアルバムにあったような、とても異世界的でドリーミーなサウンドへの帰還だ。その後、ほとんどコンセプト・アルバムのようなものに踏み込んでいったから、ちょっとした再生のようなものだった。シューゲイザー・アルバム “Shelter” を作り、映画 “もののけ姫” をテーマにしたコンセプト・アルバム” Kodama” を作り、そして前作 “Spiritual Instinct” はとてもダークなアルバムだった。特に “Kodama” や “Spiritual Instinct” は様々な意味でより硬質だった。
でも、このニュー・アルバムこそが本当の ALCEST であり、僕がこのプロジェクトで表現したいことだと思う。子供の頃にスピリチュアルな体験をして、その体験を音楽で表現できないかと ALCEST を作ったんだからね」
そのスピリチュアルな体験とは何だったのでしょうか?
「子供の頃、何かとつながっているような感覚があった。子供には特別な感覚があると思うんだ。キリスト教的な宗教を連想させるから天国とは呼びたくないけど、人間的な経験をする前のような、僕たちみんなが来た場所、現世と前世、2つの人生の間にあるある種の安らぎの場所のような、魂が休まる場所とのつながりのね。
そのことをあまり話したくないから、代わりに音楽を作ることにしたんだ。だから、ALCEST のアルバムは毎回、物事の違う側面を探求しているというか、僕の日常生活や、いわば地道な生活の中で経験したことにより近いものがあるんだ」

同郷の GOJIRA とは異なり、ALCEST はほとんどの場合フランス語にこだわっています。そしてこのアンニュイな言語こそが、バンドの幽玄で優しい音楽をさらに引き立てているようにも思えます。
「とても不思議な話なんだけど、アジアや日本には巨大なファン・コミュニティがあるし、アメリカやヨーロッパの他の国にも僕らのファンがたくさんいる。でも、フランスは僕たちの存在に気づくのが本当に遅かった。フランスで本当に人気が出始めたのは “Kodama” からだと思う。なぜ英語に切り替えないかというと、フランス語で歌詞を書くことに安心感があるからなんだ。フランス語は僕の母国語だから、もちろん正確に書くし、母国語で書く方がずっと簡単なんだ。英語で歌おうとして、フランス語のアクセントが聞こえてしまうのが本当に嫌なんだよね。英語で歌うとフランス語のアクセントが確実に聞こえてしまう。
ただ、ボーカルがミックスの中ですごく大きいわけでもないから、フランス語が強すぎることはない。フランス語で歌うフランスのバンドだと思われたくないんだ。できることなら、僕らの音楽は少し普遍的であってほしいからね。あまりはっきり歌わないのはワザとだよ。フランス人だって歌詞を理解できないくらいにね。ボーカルは、メロディーのひとつの要素であってほしいんだ」
ブラックゲイズといった特定のレッテルを貼られることについては、どう感じているのでしょう?
「僕たちは最初の “ブラックゲイザー” バンドとしてクレジットされているし、プレスは ALCEST がブラックゲイズを発明したと言っている。どう考えたらいいんだろう……もちろん、僕らにとってはとても名誉なことだし、意図的にそうしたわけではないんだけど、僕らがジャンルを創り出したバンドだと思われているのならそれは素晴らしいことだと思う。ただ、ブラック・メタルのギターとドラム、ドリーミーなボーカル、そして天使のような、別世界のような、幽玄なタイプのメタルを演奏したかっただけなんだ。
そしたら、レビューの人たちがシューゲイザーという言葉を使い始めて、私は “ああ、シューゲイザーか、音楽スタイルとしてはとても面白い名前だけど、まあいいか” という感じだった。それからシューゲイザー・バンドを聴き始めて、”ああ、そうか、なぜ僕らがシューゲイザー・スタイルを連想されるのか、よくわかったよ” って感じになって、SLOWDIVE とかが大好きになったんだ。とても素敵なのは、ブラックゲイザー・バンドたちがみんな、ALCEST を聴いてバンドを結成したと言ってくれたこと。”あなたの音楽が大好きで、私も同じようなものを作りたかったからバンドを結成した”、これ以上の褒め言葉はないと思う」

SLOWDIVE と Neige には特別なつながりがあります。”Shelter” 収録の “Away” では Neil Halstead と共演も行いました。
「初めて Neil Halstead に会ったとき、僕はまだ20代半ばだった。ファンボーイだったんだ。だから彼に会ったときは怖かったし、ファンであることを隠すのはとても難しかった。だから震えていたし、今思うとちょっと恥ずかしい。でも、彼は本当に親切にしてくれたし、僕が若いミュージシャンで、彼ほど経験を積んでいないことを見抜いていてくれた。
SLOWDIVE を知ったのは、かなり昔のことで、そのころ彼らは音楽の地図から消えていた。誰も彼らのことを知らなかったよ。90年代の幽霊バンドのような存在だった。でも、だんだんもっと語られるようになったような、何か話題になっているような気がしていたんだ。それで彼に言ったんだ。”バンドを再結成したら、みんな熱狂するよ” ってね。そしたら彼は、”いや、どうかな” って。でも面白いもので、彼らが再結成した1年後、僕は彼らを見るためだけにロンドンに行ったんだ。今、彼らは巨大なバンドになっている。Spotify か TikTok か何かで、キッズたちがみんな彼らを発見したんだ。ここ数ヶ月の間に2回彼らを見たけど、観客の中には10代の子もいた。とても奇妙で、とてもクールだよ!
SLOWDIVE で一番好きなのは、”Souvlaki” からのアウトテイクで、”I Saw the Sun” っていう曲。加えて、”Silver Screen”, “Joy”, “Bleeds” といった曲があり、アルバムではリリースされなかった曲だけど YouTube で見ることができるし、おそらくブートレグもリリースされていたと思う。これらはバンドの曲の中で私が一番好きな曲だ。Rachel に再レコーディングや再リリースなどの予定はあるのかと聞いたことがあるんだけど、彼らはこうした曲が好きではないと思う。本当に素晴らしい曲なのに、残念だよね。ぜひ聴いてみてほしい。”Souvlaki: Demos & Outtakes” というタイトルだよ」
THE CURE にもみそめられています。
「Robet Smith は僕たちのアルバム “Kodama” のファンで、アルバムの全曲を演奏してほしいといって彼がキュレーションする Meltdown に招待してくれたんだ。僕は “冗談だろう?” って思ったね。
多くの人がポスト・パンクやニューウェーブに夢中になっているように、THE CURE はとても重要なバンドなんだ。だから、彼のような人がいて、彼が僕らを知っているという単純な事実だけでも、すでにすごいことなんだけど、彼がファンで、彼のフェスティバルで僕らに演奏してほしいと言ってくれたんだ。とても光栄だよ!」
“Les Chants De L’Aurore” は、SLOWDIVE の “Just for a Day” や RIDE の “Nowhere” といったシューゲイザーの名盤と肩を並べるような作品なのかもしれません。
「たぶん RIDE は、”Nowhere” ではドラムがシューゲイザーのレコードにしてはかなりラウドにミックスされていることから来ていると思う。SLOWDIVE や MY BLOODY VALENTINE では、ドラムはそこにあるけれど、もっと背景のような感じ。僕たちの新しいアルバムでは、ドラムが本当に聴こえるよね。ドラムを大音量でミックスしたのは、このアルバムが初めてなんだ。というのも、プロセス・ミュージックはメロディーやムード、雰囲気に重点を置いているからね。でも、ドラムの Winterhalter は、ドラム・パートにとても力を入れているんだ。だから、今回はドラムの音をもう少し大きくしてもいいんじゃないかと思ったんだ」

なぜ、”Spiritual Instinct” のダークでヘヴィな世界から離れたのでしょう?
「そこから離れる必要があったから。いつもツアーをしていると、一人でいることがなくて、いつも人と一緒にいる。だから、自分自身との接点を失うのはとても簡単なことなんだ。最初のインスピレーションは何?この音楽プロジェクトを作ろうと思ったきっかけは?
“Spiritual Instinct” で聴くことができるように、僕は少し混乱していて、フラストレーションを感じていたんだと思う。そして、自分のスピリチュアリティと再びつながることがどうしても必要だった。あのタイトルは、僕が少し混乱していた時期でさえ、たとえ迷いを感じていたとしても、自分の中にある内なる世界やスピリチュアリティを感じることができたという意味なんだ。それは消えることはなかった。パンデミックで僕たちは一区切りをつけ、このバンドに対する主なインスピレーションは何だったのか、このバンドで表現したいことは何だったのか、本当に集中し直した。そして、最初のアルバムにあったコンセプトに戻りたいと気づいたんだ。最初の2枚のアルバムは、この別世界について歌っているからね。光と調和というもうひとつの世界に戻ってきたんだ」
回帰といえば、今回のアートワークはファースト・アルバム “Souvenirs d’un autre monde” を暗示しているように思えます。
「フルートの少女だね。ファースト・アルバムはフランス語で “別世界の思い出” という意味。そのファースト・アルバムの少女が成長し、今、僕がこのプロジェクトで成長したように、彼女も大人になったという意味で、ファースト・アルバムへの言及を入れたかった。ALCEST を始めたのは14歳か15歳のとき。基本的には子供だった。そして、このキャラクターも僕も、この世界、ALCEST の世界の中で成長した。そして、ニューアルバムのジャケットでは、大人になった彼女を再び見ることができるわけだよ」

そして、オープニング・トラックの日本語 “木漏れ日” でこのジャケットを暗示しています。
「恍惚とした曲だよね。幸せな気分になる。光に満ちている。日本語には、英語にもフランス語にも訳せないような言葉がいくつかあるけれど、それがひとつの概念になっているところが好きなんだ。”Komorebi” は、春の木漏れ日を意味する。そしてそれは、まるで宝石のように葉をエメラルド色に変える。とても美しいと思ったよ」
ALCEST のレコードには、宝石の名前を冠した曲が収録されています。
「そう、実は小さな伝統のようなものなんだ。”Komorebi” は、ファーストアルバムの1曲目 “Printemps Emeraude” “エメラルドの春” の現代版のようなもの。”Shelter” には “Opale”、 “Kodama” には “Onyx”、”Spiritual Instinct” には “Sapphire”、そして新作には “Amethyst” が収録されている。だから全部かな!でも、アメジストには特別な意味があるんだ。紫は神秘主義と精神性の色だからね。だから、それを指しているんだ。この石を曲のタイトルに使うのは、僕らのキャリアの中で完璧な瞬間だと思ったんだ。とても強い意味があるんだよ」
ただし、Neige のスピリチュアリティは、神秘主義のような秘教的なものとは異なります。
「確立された考え方に従わないという意味で、秘教的なものはあまり好きではない。というのも、スピリチュアリティについてあまり詳しく読みたくないから。誰もが自分の考えが正しいと思っているけれど、地球上には人の数だけ真実があると思う。そして誰も知らない。誰もすべての意味を知っているふりはできない。神はいるのか、それとも?
でも、自分の感情や直感に耳を傾けるなら、僕はとても直感的な人間だから、スピリチュアルなものやこの種のものと、ただ本で何かを読むよりもずっと深いつながりを持つことができると思う。高次のものとのつながりを感じるために教会に行く必要がある人もいる。でも僕の場合は、自然の中に身を置く必要があるので、故郷に近い南フランスで多くの時間を過ごしている。そこにはとても美しい自然があり、バンド結成当初から私にインスピレーションを与えてくれた。
森の中や海の近くなど、特別な場所にいると、現実ともっと壮大なものとの橋渡しをしてくれるような気がするんだ。この背後に何かがあることを実感できるんだ。少なくとも、僕はそう感じている。すべてに意味がある。そして、僕たちがここにいるのには、それなりの理由がある。それが、このプロジェクトで私が話していることなんだ」

“もののけ姫” にインスパイアされたように、Neige は日本の神道、自然界に存在するものすべてに魂が宿るという側面に惹かれています。
「神道では、すべてのものに魂が宿ると信じられている。例えば、村の小さな川にも魂が宿っている。だから彼らは自然をとても大切にするんだろうね。山には山の魂があり、空には空の魂がある。ちょっと比喩的な表現になるけれど。日本人は、すべてのものに魂が宿っていると本気で言っているわけではないと思うけど、それがすべてのものを尊重することにつながっている。自分たちの周りにあるすべてのものに敬意を払う。それは、僕が日本文化でとても好きなところだよ。日本語では “God” のことを神と呼ぶけど、彼らは基本的にすべてのものに神を持っている。”もののけ姫” を見れば、それがよくわかるよね。彼らは森の精霊、巨大な樫のような生き物を描いている。本当に美しい」
アルバムは、前半は陽気で多幸感にあふれ、それから後半は悲しい中にも喜びがあるような流れです。
「そう、アルバムは最後の曲で少し暗くなる。最後の曲は、ギョーム・アポリネールというフランスの作家の詩で、”L’adieu”。これは英語で “farewell” と訳される。僕が取った詩のタイトルなんだ。とても悲しい歌だよ。
僕がアルバムでやりたいのは、最後にもう少し深みを持たせることなんだ。そうすると、ある種のミステリアスなゾーンに行き着くんだ。自分の感情をどうしたらいいのかわからなくなる。そして、本当に少し緊張してくる。それに、僕は100%ハッピーエンドが好きではないのかもしれない。たぶん、最後のほうで物事を少し複雑にするのが好きなんだと思う」
ピアノ曲の “Reminiscence” は今までの ALCEST の曲とは一風異なります。
「アルバムで本物のピアノを使い、完全なアコースティックの曲を作ったのは初めてだからね。チェロのように聞こえる楽器があるけど、これはチェロではなくヴィオラ・ダ・ガンバという楽器。とても古い楽器なんだ。すべてアコースティック。とてもシンプルな曲だ。間奏曲のようなものだけど、僕にとってはとても深い意味がある。なぜなら、この曲は僕が生まれて初めて触った楽器、祖母のピアノで録音されたから。祖母はピアノの先生で、家族みんなに音楽の手ほどきをした。レコードで聴けるのは、僕の家族全員が使っているこの楽器の音なんだ。そして僕たちは皆、この楽器から音楽の弾き方を学んだ。だから、祖母がもたらしてくれたものへの素敵なオマージュなんだ。祖母がいなかったら、もしかしたら僕はこの音楽を作っていなかったかもしれないからね」
そうして、ALCEST は暗い時代に光を投じる灯台のようなアルバムを完成させました。
「今僕らが生きている時代の暗さにインスパイアされたアルバムを2枚作った後、特にこの暗い時代に、調和と美しさとポジティブさをたくさん持ったアルバムを作れば、本当に際立つことができると思った。このアルバムは、まるで癒しのような感じがするから、みんなに楽しんでもらえると思ったんだ」


参考文献: FORBES:Alcest Flourish In The Unbridled Warmth Of Their Latest LP, ‘Les Chants De L’Aurore’

POST-PUNK .COM: BANDS FEATURED ARTICLES INTERVIEWS Emerald Leaves Shimmering in the Light of Dawn — An Interview with Alcest

KERRANG!:Alcest: “In dark times, to make an album of beauty and positivity could really stick out”

MARUNOUCHI MUZIK MAG ALCEST INTERVIEW

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【虚极 (BLISS-ILLUSION) : 森羅万象】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DRYAD OF 虚极 (BLISS-ILLUSION) !!

“I Personally Believe That Black Metal Is a Very Special Form Of Music, With Themes Given To It By People. I Don’t Care About These Things, I Love Black Metal Very Much, But I Won’t Be Limited To My Love For It.”

DISC REVIEW “森羅万象”

「僕たちの音楽テーマは “雰囲気” という多くの概念を統合したもので、言葉で表現するのは難しいんだ。個人的には、ロマンティックで神秘的な色彩にとても敏感だよ。僕たちの音楽作品に対する理解が固定化されないことを、ただ願っているだけだよ」
中国名の虚极とは古代の書物 “道德经”(TaoTeChing)に出てくる言葉で、この言葉は非現実と現実の間に似た状態を表しています。中国・北京出身の虚极(Bliss-Illusion)は、文字通り、現実と非現実の間にあるメタルを奏でているようです。彼らの現実であるアトモスフェリックなポスト・ブラックのサウンドは、エモーショナルで瞑想的、そして純粋に美しいアートです。しかし、それ以上に際立っているのは、彼らの非現実、スピリチュアルなテーマでしょう。仏教的な歌詞の内容、中華的なイメージ、そしてそれらを具現化した音のパレットは暗黒の烙印を押されがちなこのジャンルにおいて、独特の新鮮な風を吹き込んでいます。
「僕は個人的に、ブラックメタルは人によって異なる与えられたテーマを持つ、とても特別な音楽形態だと信じている。つまり、悪魔崇拝とかそんなことはどうでもよくて、僕はブラックメタルをとても愛しているんだよ。でも、その愛に縛られるつもりはないんだ」
原始的なブラックメタルがそのイメージやリリシズムに至るまで、悪魔崇拝を根底に置いていることは否定できない事実でしょう。そして、その背景は Bliss-Illusion のスピリチュアルなアイデンティティとは対極にあるようにも思えます。しかし、彼らはブラックメタルを近年の流れと同調しながら、より自由に、より多様にその神秘性を追求する器として使用しています。
ただし、ブラックメタルと仏教には共通項も存在します。両者には天国と地獄があり、神秘的な生け贄の儀式も存在します。さらに仏教にはサタンに似た “悪魔” 波旬(ボー・シュン)が存在しますがこれは、六道の魔王、六波羅蜜の主、天魔の主、あるいは自己変容の主として様々な苦悩をもたらすもの。こうした共通の概念は、Bliss-Illusion の仏教ブラックメタルにに無限の可能性を与えているのです。つまり、白と黒の表現が違うだけで、核心は不変。
「僕自身は、仏教は宗教ではなく、普遍的な法則であり、非常に賢明な哲学だと信じているんだ。音楽は人が創り出すもので、それは無限なんだ。宇宙よりも広いのは、僕たちの想像力、それだけだからね」
Bliss-Illusion の宇宙には、仏教だけでなく、道教や儒教の哲学も含まれています。ゆえに、ここに伝統的な意味でのブラックメタルは存在しません。しかし、伝統的な中国人の意識に沿った宗教哲学をブラックメタルで表現したいという彼らの熱意、挑戦心こそ、本来ブラックメタルに備わっていた反骨でしょう。そしてその長江の流れのように瞑想的で、悠久で、オリエンタルな彼らの音楽は、まずは欧州から世界へと羽ばたこうとしています。
今回弊誌では、仏教に改宗したボーカリスト Dryad にインタビューを行うことができました。「僕はゲーム機を集める筋金入りのハードコア・プレイヤーなんだ。ブックオフ、ゲオ、スーパーポテトによく行くよ。4歳からゲームをしていて、たくさんのゲーム機を集めているんだ!アタリ、ゲームウォッチ、GB、FC、SFC、N64、NGC、MD、ドリームキャスト、SS、NDS、3DS、PSP、PSV、ワンダースワン、ゲームギア、WiiU、PSなどなどだね!」 どうぞ!!

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DER WEG EINER FREIHEIT : NOKTVRN】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH NIKITA KAMPRAD OF DER WEG EINER FREIHEIT !!

“I Somehow Always Wanted To Create an Album About The Night, About Dreams And The World Between Being Awake And Asleep.”

DISC REVIEW “NOKTVRN”

「私はずっとクラシック音楽が好きで、フレデリック・ショパンは私に多くのインスピレーションを与えてくれた作曲家の一人なんだ。特に彼のピアノのためのいわゆる “夜の小品” であるノクターンがお気に入りなんだよね」
ヘヴィ・メタルは昼の音楽でしょうか、それとも夜の音楽でしょうか? もちろん、カリフォルニアの真夏の太陽の下、ビーチで美女と組んず解れつ大音量で聴くべきメタルも存在しますが、根本的には暗く、重く、憂鬱な夜行性の音楽であることは誰もが認めるところでしょう。夜行性とはすなわち夜と一体になることです。
夜想曲、ノクターンを書くためには、夜からインスピレーションを受けなければなりません。ポーランドのピアニストで作曲家、フレデリック・ショパンは夜を愛し、1827年から1846年の間に21曲の夜想曲を書き連ね、遂にはその超絶技巧の中で人間の心の複雑さにまで到達して表現しました。つまり、彼の “夜の小品” は、ロマン派の理想を華麗に実現し、技巧的研究の中に類稀なる夜のハーモニーとメロディーの融合を提示していたのです。
「レコードを作る場合重要なのは、バンドの文脈における楽器と音の組み合わせだということなんだ。例えば、シンフォニック・オーケストラでヴァイオリンだけを聴くのと同じように、メタルでギターだけを聴いても、全体は理解できない。”Noktvrn” では、ショパンのノクターンなどクラシックな曲との直接的なつながりはないにしても、こうしたクラシック流のアプローチが最近の私の曲作りに大きな影響を与えているんだよ」
5枚目のアルバムとなる “Noktvrn” で、DER WEG EINER FREIHEIT は独自の革命的な道を歩み始めました。ボーカル/ギターの Nikita Kamprad は、クラシックの整合性やシンフォニーが描き出す全体像の美学に影響を受けながら、さらに敬愛するショパンがのめり込んだ “夜” に心酔し、メタル・ノクターンの具現化に向けて全精力を傾けました。
「私はなんとなく、夜について、夢について、起きているときと眠っているときの間の世界についてのアルバムを作りたいとずっと思っていたんだよ」
きっかけは、深夜から早朝に白昼夢として降りてきた “Immortal” という楽曲でした。もし夢の中で作曲ができたとしたら、もし半分眠っている状態で創造的になれたとしたら。朝日がほんの少しだけ顔を出した紫色の部屋の中で Nikita はそんな夢物語を偶然にも実現し、さらに夜のリズムに惹かれていきました。作曲を夜間に限定して行うようになったのも、飽くなき夜音探求のため。そうして、プログレッシブ・ブラックメタルを指標するドイツの賢者は、そのバンド名と同様に自由を渇望し、実験と挑戦のノクターンを完成させました。
「つい数日前、ある人が DEAFHEAVEN も新しいアルバムで私たちの “Noktvrn” と似たようなテーマを扱っていると言ってきたんだ。例えば、早朝に感じる気持ちや、半分眠っているような気分といったものをね」
偶然とは重なるもので、DER WEG EINER FREIHEIT と同様にブラックメタルの世界を押し拡げる DEAFHEAVEN も奇跡的に”青の時間” をテーマとした作品を昨年リリースしています。ただし、音楽的には双方リスクを犯しながらも DER WEG の “夜” の方がより多彩で実験的なのかもしれませんね。
オープニングを飾る “Finisterre II” のアトモスフェリックな音響はアルバムを侵食し、”Monument” のオーケストラアレンジとホーンセクションが妖しくも美しい夜の音を召喚。別世界を醸し出す “Immortal” のフォーク、”Haven” の夢のようなシューゲイズ、”Gegen Das Lichtの徹頭徹尾アバンギャルドなアートロックと、彼らの夜会は迷宮のように深く入り組みながら、混迷の中に人の複雑を描き出します。
「私たちの社会では、メンタルヘルスや心の病気はいまだに過小評価され、話したくないタブーのような問題とされているように感じているんだ。だから私たちがそれについて話さなければ、精神的な病に苦しむ人々の助けにはならないだろうと思ってね」
“Noktvrn” は一般的なブラックメタルとは異なり、人間の心のあり方を投影した作品です。睡眠時や夢を見ている時の脳の働き、パニック障害、幽体離脱体験にフォーカスしたリリックはショパンのように夜で心を哲学して、パズルのピースのようにアルバムの音楽へと寄り添いました。
暗く、孤独で、憂鬱な夜は、だからこそ時には優しい時間にも変化します。遂にマイルドな英語を解禁すると共にクリーンな歌声を解き放ち、実験的なブラックメタルを多層的なハーモニーの輝きで装飾した彼らの新たな挑戦は、まさに弱さや儚さをも抱きしめる夜の包容力をも認めた結果ではないでしょうか。
今回弊誌では、Nikita Kamprad にインタビューを行うことができました。「音楽を書いたり、ライブで演奏したりすると、ほんの一瞬だけど、自由な気持ちになる。言論、プライバシー、宗教などの自由が制限され、しばしば紛争、腐敗、戦争を引き起こしているのを見ると、今の世界にはあまり自由を感じないからね。だから、音楽とこのバンドは、私にとっての “自由への道” であり、好きなことができる安全な空間に逃避する方法なんだよ」 どうぞ!!

DER WEG EINER FREIHEIT “NOKTVRN” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SO HIDEOUS : NONE BUT A PURE HEART CAN SING】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BRANDON CRUZ OF SO HIDEOUS !!

“Why Waste Opportunity Trying To Do Laurestine or Last Poem Part 2 The Sequel To Please a Small But Loud Subset Of Closed Minded Internet Message Board Music “purists” Clinging To The Past? That’s a Terrible Way To Live.”

DISC REVIEW “NONE BUT A PURE HEART CAN SING”

「アルバムをリリースするのは、自己表現という意味では一生に数回しかないチャンスだ。なぜ “Laurestine” や “Last Poem” の Part 2 みたいな “続編” を作って、インターネット掲示板で少数だけど喧しい “音楽純粋主義” 集団を喜ばせなきゃならないのか?それはひどい生き方だよ」
例えば政治であれ、例えば社会であれ、例えば音楽であれ、純粋さが失われた現代において、真っ直ぐに愛する音楽を奏で、正直に言葉を紡ぐ SO HIDEOUS がいなければ、世界はさらに “とても醜い” ものになってしまうでしょう。
「このバンドは基本的に “エクストリーム・ミュージック・コミュニティ” に向けて売り出されていて、彼らは実際に “極端な” 音楽と呼ばれる音楽を掲げているにもかかわらず、最も保守的なリスナーであることが多いんだよね。どのジャンルやレーベルの下で活動すべきかということに非常に固執し、それを武器にバンドに牙をむいたりね。そんなのクソくらえだよ」
SO HIDEOUS が長い休止期間を経て戻ってきたのは、ポストブラックやブラックゲイズといったジャンルの掟を踏襲するためでも、プライドだけが肥大化したファンという名の何かを満たすためでもなく、ただ自由に望んだ音楽を追求するため。前回のインタビューで Brandon 自らが “コンサート・ホールでシンフォニーが奏でるような完全で妨げる余地のないリスニング体験” と呼んだ、きらびやかで感情的、そしてオーケストレーションを極めた傑作 “Laurestine” さえ過去にする最新作 “None But A Pure Heart Can Sing” には、メタル世界で最も想像力に富んだバンドの野心と矜持と反骨が詰まっているのです。
「叙情的なオーケストレーションではなく、リズムに根差した曲を演奏するのがとても自由なことに思えたんだ。Mike、DJ、Kevin が活動してきたバンドやプロデュースしたバンドに人々はこだわると思うんだけど、実際のところ、彼らはマス/ポストカオティック・ハードコアとか、そういうジャーナリストによって入れられた箱よりもずっと多様なミュージシャンなんだよ」
ポスト・ハードコアの混沌をリードする THE NUMBER TWELVE LOOKS LIKE YOU のリズム・セクション Mike Kadnar と DJ Scully の参加、そして THE DILLINGER ESCASE PLAN の Kevin Antreassian のサウンドメイクは、結果として SO HIDEOUS の宇宙を果てしなく拡げる重要な鍵となりました。獰猛と静寂の邂逅。整合と混沌の融合。
「このバンドのメンバーは、LITURGY と Hunter Hendrix の作品をとても楽しんでいて、絶大な敬意を払っているんだ」
オーケストラやシンフォニックな要素を取り入れている点で SO HIDEOUS は同じニューヨーク出身の LITURGY にも似ています。さらに今回、彼らはより多くのリズムを求めて、フェラ・クティやトニー・アレンのアフロビート、ジェームス・ブラウンのホーン・セクション、オーティス・レディングやサム・クックのバラードなど色彩を多様に吸収して、雅楽までをも抱きしめる LITURGY の哲学に一層近づきました。ただし大きな違いもあります。LITURGY が “超越したブラックメタル” を追求するのに対して、SO HIDEOUS はもはやブラックメタルのようにはほとんど聞こえません。
「以前は、”Screaming VS Orchestra” というシンプルなバンドの “アイデア” にこだわっていたように思うんだよね」
アルバムは、CONVERGE, CAVE IN, ENVY あるいは THE DILLINGER ESCAPE PLANE のようなポスト・ハードコア、メタルコア、マスコアのスタイルにはるかに近く、ブラックゲイズの慣れ親しんだ荘厳とは明らかにかけ離れています。重要なのは、彼らがネオクラシカルなサウンドとこの新しいポスト・ハードコア/メタルコアのスタイル、そして中近東からアフリカに西部劇まで駆け巡るワールド・ミュージックとの間に絶妙な交差点を見つけ出した点で、ストリングスとホーンの組み合わせがヘヴィーなリフと無尽蔵のリズムを際立たせ、苦悩から熱狂を創造する “The Emerald Pearl” の緊張感と即興性はアルバムを象徴する一曲だと言えるでしょう。
今回弊誌では、Brandon Cruz にインタビューを行うことができました。「僕がギターを弾いているのは、Envy の 河合信賢と MONO の Taka Goto のおかげなんだよ。僕は彼らを恩師だと思っていて、彼らの音楽には人生で永遠に感謝し続けるだろうね」  ニ度目の登場。どうぞ!!

SO HIDEOUS “NONE BUT A PURE HEART CAN SING” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【DEAFHEAVEN : INFINITE GRANITE】


COVER STORY: DEAFHEAVEN “INFINITE GRANITE”

“If Sunbather Was Summery High Noon, Then Infinite Granite Is The Early Morning.”

ROADS TO INFINITE

2020年の大半を、George Clarke は夜明けの淡い光を見つめながら過ごしました。本来ならばステージや大自然の中で過ごすはずのエネルギーを蓄えていた DEAFHEAVEN のフロントマンは、ロックダウンでロサンゼルスのアパートの壁に囲まれたまま、不眠症になってしまったのです。しかし、ただ静けさの中で煮詰まるのではなく、その厳しい美しさに魅了され、午前3時から6時の間に執筆活動を行い、夜の深い闇が昼の露に溶けていくのを繰り返し眺めていたのです。
DEAFHEAVEN 5枚目のLP “Infinite Granite” は、そうした深夜のセッションの結果として、地平線上の光の反射のように生まれました。2018年の “Ordinary Corrupt Human Love” ではまだ残していたメタリックな重さの多くを捨てて、シューゲイザーとアヴァンギャルドなポストロック・サウンドへと大胆にコミット。繊細なメロディとアトモスフィアの9トラックを収録しています。では、George にとって “Infinite Granite” とはどういった存在なのでしょう?
「”Sunbather” が夏の正午だったとしたら、”Infinite Granite” は早朝だよ」と彼は、DEAFHEAVEN が2013年に発表した衝撃的なホットピンクの作品と比較します。単純化には注意を払うべきでしょうが、やはり表向きは “黒ずくめ” を何度も塗り替えることには、皮肉や目的が存在しています。今回のTOUCHE AMORE, Nick Steinhardt による抽象的なアートワーク(レコードの最初の60秒をハイテクなグラフィックで視覚化したもの)は、クールなブルーの色調でデザインされています。しかし、そのTシャツのような美的感覚よりもはるかに重要なのは、そこに対応する経験、思考プロセス、深い考察です。
「不眠症だったから、私の宿題の多くは、午前2時から6時の間に行われた。つまり、青い時間帯に多くの曲を書いていたと思う。それもアートワークに影響を与えているよ。全体的に、この落ち着かない時期の影響を受けているようだね」

例えば、タイトルにもなっている “Infinite Granite” “無限の堅牢” は、保留中の人生の静けさや停滞によって “化石化” した気分を表すメタファーです。George が当時を思い返します。
「固い空間に閉じ込められているような感覚があったね。繰り返しや日常の重みを感じていたんだ。”Infinite Granite” という曲は、抽象的な過去が現在の自分にどう影響を与えるかについて歌っている。自分が、部分的には家族の歴史の産物であることを知る。家族の問題はしばしば自分の問題でもあるんだよ。家族の苦難は、必然的に自分の人生でナビゲートしなければならないことにもつながる。それは過去を振り返ることであり、その過去が自分にどのような影響を与えるかを見ることなんだ」
印象主義的な歌詞の表面をなぞると、そこには幸運や運命、家族についての力強い問いかけがありました。
「この作品は、過去を振り返り、その過去が自分にどのような影響を与えるかを理解することが大部分だと感じているよ」
昨年12月に発売されたライヴ・アルバム “10 Years Gone” で節目を迎えた DEAFHEAVEN 10年目の旅。そこで彼らは空虚な時間の中、創造力としての彼らの過去、現在、未来を見つめ直し、それが “Infinite Granite” の印象的なスタイルの変化へとつながっていきました。”Daedalus” や “Language Games” のような初期のカットから、”Ordinary Corrupt Human Love” に収録された11分の “Glint” のようなより実験的な最近の曲まで、8つの傑出した曲を収録。ブラックメタルをベースに、シューゲイザーやポストロック、アンビエント・ミュージック、さらにはオルタナティブ・ロックまでをも取り込んで、DEAFHEAVEN が常にサウンドを前進させてきた10年の終わりに、このアルバムは驚くほど自然な響きを誇っていました。いいかえれば、DEAFHEAVENの物語を自らの言語で語った作品であり、それは彼らが時間をかけて洗練させ、故意に変化させたものなのです。George が振り返ります。
「最も注目したのは、10年間で私たちがどのように変化したかだった。より速く、よりアグレッシブに、よりスマートなダイナミクス、よりスマートなトーンになっていたよ。そして、これらの曲をレコーディングした後、すべての曲に歯ごたえと緊迫感が増していることに気がついたんだ。私たちがどのように成長したのかを見るのはとても興味深いことだったな。ある意味では、新しい DEAFHEAVEN が古い DEAFHEAVEN をカバーしていたというか。若い曲に今の自分たちの姿を重ね合わせていたんだ。例えば、 “Glint” のライブ・バージョンはレコードに収録されているものよりもかなり強化されているよね」
DEAFHEAVEN はブラックメタル純粋主義者の間では常に物議を醸していましたが、2013年の画期的な作品 “Sunbather” 以降、彼らはアンチの数を補うだけの賛同者が広い世界にいることを証明してきました。次に彼らが進む道は?

5枚目のアルバム “Infinite Granite” は、その問いかけに力強く答えます。今回の最も大きな変化は、リードシンガー George Clarke の声でしょう。過去のアルバムでリバーブの中に滲み出た扇情的で血も凍るようなエイリアンの叫び声はほとんどなくなり、代わりに TEARS FOR FEARS にも似たクリーンでメランコリックなボーカルが登場します。あるリスナーにはアリーナ・ロックが聞こえ、あるリスナーにはインディー・ロックが、あるリスナーにはアート・ロックが聞こえるでしょう。 しかし、このような急激な変化にもかかわらず、”Infinite Granite” は紛れもなく DEAFHEAVEN のアルバムです。つまり、広がりがあり、妥協がなく、極端。ギタリストの Kerry McCoy は彼らの過去と現在を対比させます。
「2011年のデビュー作 “Rods To Judah” を書いていた時の子供の俺を思い出すよ。Deathwish のようなレーベルと契約し、本物のブッキングエージェントを持ち、ドアが開くのを見たんだ。それは宝くじに当たったようなものだった。俺は文字通り、マイニングで得た金で暮らしていると思っていたし、今でもそう思っているくらいでね。だけど、俺はあの子供にとても共感しているんだ。あの子に、『大丈夫だよ、全部うまくいくよ。自分でコントロールできないことは心配するな』と言ってあげたいね」
Kerry は、”Ordinary Corrupt Human Love” を制作したあのころのバンドにも共感を示しています。たしかに3年前から変化は起きていましたが、薬物やアルコールへの依存を克服したこと、自分たちのバンドを囲い込むことに夢中になっていた同業者や有識者への “恨み” を晴らしたことは、より広い創造的解放への第一歩に過ぎませんでした。
「あのレコードは、禁酒する前に半分書いて、禁酒した後に半分書いたんだ。あの時期は、俺の脳内化学反応、感情、個人的な人間関係が非常に混乱していてね。個人的にも集団的にも、自分たちのことを理解し、成長し、いくつかの悪魔を正していくうちに、クリエイティブな人間につきものの恐怖心がなくなってきたんだよな。これが今の俺たちの状況で、言い訳をしたり、誰かに何かを証明したりする必要はないと思っている」
昔はもっと波乱万丈だったと George は言います。「私たちはエゴやネガティブな気持ち、自分が一番になりたいという気持ちに駆られていたからね。今では、そんな恐れを知らないことが私たちの原動力になっているんだよ」

“Infinite Granite” の作曲とレコーディングに向けて、バンドの5人のメンバーとコラボレーション・チームは、グループ・チャットの名前をそのまま “Infinite Granite” に変更しました。
Kerry が言うように “完全にロックなレコード” になるという明確なコンセンサスはありませんでしたが、状況はそのように傾いているように見えました。最終的にアルバム中盤のハイライトとなった “Lament For Wasps” の波打つシューゲイザーはテンプレートとなっているでしょうか。”Villain” で実験した “空気のようなファルセット” は、さらに彼らの方向性を強調します。
「いろいろな歌手の歌を聴いていた。力強く歌える方法を探していたんだ。シューゲイザーのライブで問題になるのは、轟音のギターに対抗して、ソフトな声を出すこと。私が好きバンドでも多くは、ライブでそのダイナミックさが必ずしもうまく伝わっていない。ミックスでそのバランスを取るのはとても難しいんだよね。
そこで最初に考えたのは、ギターに対抗できるような強い声が必要だということ。そこで、クラシックの名曲に立ち返り、ニーナ・シモンやチェット・ベイカーなど、個性的で力強い声の持ち主の声を聴くことにしたんだ。それに、TEARS FOR FEARS, DEPECHE MODE といったより力強いシンガーも。最終的にライブで演奏することになったとき、大音量のライブ音楽の中で繊細なボーカルに磨きをかけなければならないような、大きなハードルにはしたくないと思っていたからね。それがモチベーションになったんだ。
ある意味では、”Ordinary Corrupt Human Love ” の “Near” や “Night People” のように、自分ですでにやっていたことでもある。それでも、私のアイデンティティではないような、体外離脱の感覚はあるんだよね。全く新しい筋肉を使い、全く違う脳の部分を使っているような感覚だった。
あまりにも新しいことだから、途中で不安になることもあったよ。ボーカルだけでなく音楽的な面でも、作曲の過程で、ダブル・キックなどを簡単に入れることができたはずなのにとかね。それでも、いつも私の意見は、昔の習慣にとらわれず、進むべき道を進むだった。そして、それは何よりも私のためになったんだ。悲鳴を上げないで、自分のやりたいことをやるんだ。そして、やっているからには、続けること。続けること、そしてその正直さを発揮することがとても重要だった」
この楽曲は、George が禁酒について直接言及している唯一の曲でもあります。 “New Bermuda” の重苦しいトーンが、彼らがロサンゼルスに移った後、バンドを取り巻く幻滅とドラッグの雲を象徴していたことは明らかでした。”Infinite Granite” の角質除去されたサウンドには、感情の浄化が暗示されていますが、それは “Villain” で明確になりました。”Inform my mother’s people / 30 months is war / Dealing with the blood of 30 years well wear “とクラークは歌っています。 行間を読むのは簡単です。George は、30歳になって2年半の禁酒期間を経て、この曲を書いたことを認めています。”Infinite Granite” は、あからさまな断酒の記録ではありませんが、人間関係へのアプローチ、野心の概念、30歳を過ぎてからの個人的な進化についてのバンドの大きなテーマ、その中に断酒も確実に含まれていました。
「私の家系では、アルコール依存症と薬物依存症が何世代にもわたって大きな問題となっていた。ここ数年はそのことをよく調べていたんだよね」

事態が進むにつれ、George は自分のヴォーカルを “音楽的な弱点” と称して、より計算されたものにしたい、より行き当たりばったりではないものにしたいという願望を表明しました。
「私はアグレッシブなボーカルが好きだよ。何年もあのやり方を、楽しみながら進化させてきた。だけど、挑戦したいという気持ちが強かったんだ。これまでの DEAFHEAVEN のような伝統的なボーカル・アプローチでは、今回の曲を向上させることはできないだろうと思った。この方向性を考えると、全体を覆うような激しいボーカルでは限界があるのではないかと言ったんだ。より冒険的なボーカルと音楽をマッチさせる方が野心的だと感じたんだよね」
2018年末にプロデューサー Justin Meldal-Johnsenとの “セレンディピティ” な出会いがあったことで、この方向性はさらに加速しました。Kerry は Justin のカリフォルニア州グレンデールのスタジオで、匿名の他のアーティストにギター・パートを提供するように頼まれていました。そして George は、その年の12月にロサンゼルス・パラディアムで行われた NINE INCH NAILS のライブで Justin とばったり出会いました。DEAFHEAVEN はこれまで Jack Shirley(”Infinite Granite” のエンジニア)としか仕事をしたことがありませんでしたが、Justin のバンドに対する新鮮な熱意を受け、彼らの視野を広げる機会を見逃すことはできなかったのです。Kerry が説明します。
「Jackは、非常に自由な人なんだ。俺たちは彼の意見を聞きたければ聞くけど、俺たちの邪魔をするようなことはしない。彼は、その日のそのバンドの、その曲のタイムカプセルを作ることに重きを置いているからね。Justin は、俺をプロデュースすることに専念していたよ。俺はこれまで、そんなにインプットを受けたことがなかったからね。それがとても役に立ったんだ。とてもクールで満足のいく経験だったな」
実際、DEAFHEAVEN の煌びやかでエモーショナルなテイストは、その領域を誰よりも知っている男によって完全に引き出されています。Justin Meldal-Johnsen は、現在 St.Vincent のベーシスト兼音楽監督を務めており、Beck のツアーバンドにも数十年にわたって参加していました。さらに彼は M83の巨大なエレクトロポップ作品 “Hurry Up, We’re Dreaming” のようなサウンドを求める際に雇われる人物で、そのリストにはエモポップの代表格である TEGAN AND SARA, PARAMORE, JIMMY EAT WORLD までもが含まれているのです。
Justin は当初、DEAFHEAVEN が2019年の7分半の激しいシングル “Black Brick” の延長にあると考えていましたが、実際目の当たりにしたより広い方向性に目を見張りました。
「彼は最初、”Black Brick” みたいにやろう!という感じだったけど結局その後、全く別の感じに仕上がってしまったよね (笑) 。だから彼は必ずしもこの方向性に対して準備ができていなかったにもかかわらず、自分ができる最善の方法でこの音楽を促進してくれたんだ。このレコードを聴いた人たちが、新しいプロデューサーとして入ってきた彼を見て、『ああ、彼が DEAFHEAVEN をこの方向に押しやったんだな』と思うのは間違いないけどね。でも、変な言い方をすれば、それはほとんど逆だったんだよ」

実際、Justin の助けは必要でした。COVID がバンドとプロデューサーのカレンダーを空白にし、数ヶ月に及ぶアルバム制作に入ると、”従来型” の曲作りの難しさが痛感されたのです。Kerry が回顧します。
「俺たちは、これまでのキャリアにおいて、動きのある曲を書いてきたんだ。バース、プレコーラス、コーラスを試すというアイデアは、後ろ向きに見えて奇妙にも俺たちにとってはとても進歩的なものだった。また、ダブルキック、ブラストビート、そして大きなクレッシェンドというような手法に戻ることなく、普段やっていることの重厚さと強さを維持しながら、自分たちらしいサウンドにするという課題もあった。これまでのやり方の代わりに、DINOSAUR Jr. や SONIC YOUTH が楽曲にどうアプローチするかを考えてみたんだよね。今は鍛えるべき筋肉が違うんだ。同じトリックに戻ることなく、普段やっていることの強度を維持するという挑戦だよ」
George にもこだわりがありました。
「今回の作品は、以前の作品に比べて、よりディテールにこだわった、よりテクニカルなものになっているんだよ。いろんな意味で非常に赤裸々なんだ。これまでは、より強力な要素が混ざり合って、ある種の洗礼となっていた。だけどここでは、すべてが表現されているんだ。以前のサウンドに頼らずに、曲の流れやダイナミックさ、ドラマチックさを出すために、どれだけ細かく配慮しなければならなかったか。非常に難しかったよ」
リード・シングル “Great Mass Of Colour” は、そういったディテールの追求を象徴していると George は証言します。重なり合うボーカル・パターンと鏡のようなハーモニーはさながら渦を巻く万華鏡。「I feel them all / Great mass of color / Flooding in my bed / Dissolving into red…」高揚感を増した詩が、明快なコーラスへと展開しそして、堤防が決壊。ブラックメタルのまばらな水しぶきがようやくこぼれ落ちていきます。
「ただ単にメロディックなものを作るだけではないんだよ。大事なのは、記憶に残るものを作ることなんだ」
結果として “Infinite Granite” の楽曲コレクションは、ある部分では研磨され、ある部分では高光沢に溢れ、DEAFHEAVEN の新たな歩みへの第一歩となりました。
アルバムのオープニングを飾る “Shellstar” の鳴り響く馴染みのないアンビエンスは、熱気と怒りに飛び込むのではなく、雲の中を滑るように進んでいきます。George が語る「夏の火の中を崇高に彷徨う/炭、灰、咳、轟音…」というストーリーには、奇妙なメランコリーが漂っています。シングル “In Blur” は、RIDE 1990年の名曲 “Vapour Trail” を下敷きとしたもので、古典的なシューゲイザーの夢見がちな幸福感に翻弄され、「この混沌とした寒さの中で、昼の光はどのように見えるのだろうか」と問いかける、力強く痛烈なレイヤーボーカルをフィーチャーしています。
シンセを駆使したインストゥルメンタル “Neptune Raining Diamonds” は、ブレードランナーのスコアからそのまま切り取ったような186秒。アルバムの中で最も短い曲ですが、レトロフューチャーな眩しさがキラキラと渦巻いています。さらに大作 “Mombasa” (Shiv の母国であるケニア最古の都市にちなんで命名)の8分間は、平穏な美しさから猛烈なカタルシスへと宇宙を駆け抜けるような非日常を投影します。一方で、パンデミックという非日常が及ぼした影響も捨てきれません。George が証言します。
「頭の中にある恐怖や起こっている混乱が、曲作りにもよく影響していたよ。いくつかの曲で聞くことができると思う。特に “The Gnashing” には、ちょっとした奇妙な緊張感があるよね。あの曲のを作っているときに、LAで夜間外出禁止令が出たんだ。フリーウェイがすべてストップしていたのを覚えているよ。LAPD が至る所にいた。ヘリコプターのようなものも。そしてもちろん、BLM と、当時州内で起こっていた火事との間で、LAは日々赤茶色に染まっていて、現在進行中の COVID の状況もあった。これらのことがすべて、この曲に反映されているんだ。仮のタイトルは “End of the World” で、本当に終末論的な感じがしたよね。この曲には、終末論を感じさせる大きなエンディングがあり、全体的にダークでドライな雰囲気がある。あの雰囲気の中で作っていなかったら、必ずしも同じようにはならなかったと思うな」

では、これらの率直に言って、これまでと全く異なるサウンドは、メタルの世界、そしてその場所の牽引者としての立場から身を引く覚悟の意志表示なのでしょうか?George は決して反動ではないと断言しました。
「このアルバムは、非常にドライで、繊細で、エモーショナルな作品で、強さと開放性に焦点を当てている。実にテーマ性の高い作品で、解き明かすべきことがたくさんあるんだよ。私たちのすべてのレコードと同様に、この作品は今の私たちを映し出す鏡であり、人間としての私たちを自然に映し出している。もし何かへの反応だとするならば、それは自分たちの前作への反応だと思うんだ」
たしかに、このアルバムには古の影響が新しいスタイルのフィルターを通して吹き込んでいます。もちろん、ブラックメタルやブラックゲイズの影響はそれほど顕著ではありませんが、ノルウェーの伝説 ULVER の “Kveldssanger” 時代の冷ややかな閃光や、フランスの鬼才 ALCEST が2014年に放った “Shelter” の眩い光も差し込んでいるはずです。それに繊細で豊かなテクスチャーは、MY BLOODY VALENTINE, SWERVEDRIVER, SLOWDIVE といった英国のシューゲイザー・ムーブメントの要素がふんだんに盛り込まれているでしょう。
Kerry は、これらの参照点をさらに拡大して、PINK FLOYD, APHEX TWIN, Brian Eno, THE SMITHS, そして尊敬するスウェーデンのプログレッシブ・バンド、DUNGEN の名を挙げます。一方、 George は RADIOHEAD の重要性を強調し、高い評価を得た2016年のLP “A Moon Shaped Pool” とその3枚目のシングル “Identikit” が特にインスピレーションを与えてくれたと語っています。
実際、DEAFHEAVEN は、”Infinite Granite” を RADIOHEAD が2000年に発表した “Kid A” の自分たちのバージョンだと一貫して発言しています。大胆な音の再出発でありながら、作者のアイデンティティを維持し、拡大しているという共通項をあげながら。George は、「自分たちのやりたいことを堂々と、そして自由にやるという姿勢が大切だ。ヘヴィー・コミュニティでは、BORIS や OPETH のように、自分たちが制限されることはないという理解に基づいて活動しなければならない」と胸を張ります。
では、メタルのエッジを放棄した新たな領域で、DEAFHEAVEN らしさを保つための要素とは何でしょうか?Kerry は熟孝します。
「同じバンドの異なるフレーバーに過ぎないんだ。俺たちの音楽がいつも喚起する核心的な感情のすべてが、新しいフィルターを通して表現されているだけなんだよ。2015年の3枚目のLP “New Bermuda” で、自分たちの音楽にスラッシュやデスメタルの要素を入れることができると気づいたように、今回はこれもできると言っているんだ。それはそれでいいんだよね。これは、俺たちがクリエイティブな筋肉を伸ばせるように壊した、もうひとつの壁なんだよね。人は好きなことを言うものだよ。それは俺たちの仕事ではないんだ。俺たちの仕事は、欲しいものを作ることだけだから…」

George にとって、”Infinite Granite” は、かつてのトレードマークであった爆音のブラックメタルと落ち着いたアンビエンスの摩擦がなくても、気が遠くなるようなエッジを保つことができるという点が重要でした。
「このアルバムは、究極的には私たちを裏返したもの。まだまだ緊張感があるよね。メロディックであっても、かなりの不快感がある。私たちは、その緊張感のある微細な部分に焦点を当てるように努めたんだ。少し地味になったかもしれないけど、面白さが減ったとは思わないよ…」
パンデミックの影響を受けて、George はアメリカを離れ、ニュージーランドで数カ月間の旅行を楽しみました。地球上で最も息を呑むような景色に囲まれ、この島国のCOVID対応のおかげですべてが正常に機能していましたが、それでも彼はツアーに戻ることを夢見ていました。
「Kerry と私は、ライブがなくなったことで、ツアーや世界旅行、人々との出会いなど、このライフスタイルへの愛が深まったと話していたんだ。それは、私たちが失ってしまった、非常にユニークで素晴らしいものなんだ。だから、このアルバムのことを考えるときには、ツアーのことを考えているよ。つまり、可能な限り外に出て演奏し、最も愛している人たちと一緒に、最も愛していることをしながら世界を見て回りたいんだ」
“Infinite Granite” のクリエイティブな “賭け” が功を奏するのか、ファンの中でより凝り固まったメタルヘッズが離れていくならば、DEAFHEAVEN はそれを受け入れることができるでしょうか?George は答えます。
「ファンを失うこと、つまり、得することと失うことの二律背反は、実に面白いものだ。このバンドを愛してやまない私たちのファンが、このアルバムに共感できないのなら、私は理解するよ。彼らに恨みはないし、願わくば我々にも恨みをもたないでもらえれば。私たちには、他にもたくさんの作品がある。ある時期にお互いを見つけることができたのは、幸運で今でも本当に信じられないことなんだよ。そしてすべては進化していく。DEAFHEAVEN では、どの場所からでも乗ったり降りたりすることがでるんだ。この変化は必要だった。もし私たちが、ブラストビート、メジャーキーのコード進行、ディレイのかかったギターでいっぱいのレコードをもう1枚出していたら、人々は私たちに “壊れていないなら、直さないで!”というようなおきまりのレガシーバンドになるよう求めただろうから」
Kerryは誰かのための創作がいかに無意味かを知っています。
「誰かを喜ばせようと考え始めた瞬間に、自分の足を撃つことになる。まあでも、レコードが完成してから6ヶ月間じっくりと考えてみると、どうしてもそういった疑問が出てくるよね。俺たちが出すすべてのレコードは、どこかで怖い思いというかリスクを冒している。だけど、俺たちが音楽制作をしているときは、自分自身にも他の誰にも、「人々がこれをどう思うだろうか」というような疑問を持つことを許さないというルールがあるんだ。”New Bermuda” では、よりヘヴィーな要素を加えていったし、”Ordinary” では、ピアノから始まる曲でアルバムを始めた。毎回、同じルールで制作しているだけなんだ。まあ今回は “掛け金” が多少高かっただけでね。あとはツアーに出て、俺たちを好きな世界中の人たちと話すだけさ。彼らのTシャツを見て、このバンドが好きなキッズたちは、これから飛躍していくだろうと思うんだ」
George はレビューを読むことをやめました。
「”Sunbather” が爆発したとき、あるいはその前に “Roads to Judah” をリリースしたときには、私たちの存在を世界全体が認識していることを初めて垣間見ることができた。それはエキサイティングなことで、特に私たちが22歳、23歳のときには、私たちが作ったものをみんなが気に入ってくれている、クールだな。読んでみようかな?ワオ!ってね。そして、レビュー夢中になったよ。だけど、”Sunbather” が定着した頃には、レビューなんてどちらでも構わないということに気がついたんだよね。というのも、批評家の愛に感謝しているけど、それがずっと続くとは限らないから。あるいは、人間は人間であるとか、彼らは物事に対して様々な意見を持っていて、それが彼らの仕事であるとか、そういったことにね。
特に昔、”‘Sunbather” の時代には、私たちは音楽全体への神からの贈り物だという意見と、何でもありの真新しいものだという意見、その2つの陣営があるように思えた。私たちについて、卑劣で邪悪なことを言っている人もいたよ。私はこの2つの陣営が間違っていることに気づいたんだ。私たちは、音楽界に起こった最悪の出来事ではないけれど、もちろんビートルズでもなんでもない。私たちはただ音楽を作っている人間の集まりで、人々はそれに共感しているんだよね」

岐路において、安全性よりも自己満足を選択することは、いずれにせよ大きな賭けです。DEAFHEAVEN は、黄昏時のシューゲイザーがチャートを独占するはずもないことを十分に理解しており、より激しいメタル・サウンドにしがみついていた方がはるかに安全であることも知っています。ゆえに彼らは、自分たちに忠実でいるために常にリスクを取る価値があると繰り返しています。
いいかえれば彼らは、SLIPKNOT のような “当たり前” の存在となることを危惧していたのです。DEAFHEAVEN 自身は、2019年に BARONESS と共演した際にその危険性を認識していました。サイケ・スラッジの強豪で、確立されたフォーマットに忠実でありながら、常に興味深い方法で進化することに成功している BARONESS。彼らの最新LP “Gold & Grey” は、色分けされたアルバムタイトルを尊重しつつ、新しいギタリストと、TAME IMPALA のミキシングやMGMTのプロデュースを担当した人物を抱え込んでいます。DEAFHEAVEN は、自分たちも同様に長期的に活動する方法を考え始めていたようです。George は、ツアーを通して「やりきった感があった。ツアー中にもう限界だという感覚があったんだ。私は壁にぶつかってしまったようで、この先に私ができることはこのやり方にはもうあまりない」と認めていました。そうして彼らは未開の荒野に再度その身を解き放っていったのです。
「もし俺たちが “エクストリーム・メタル” のバンドであり続けたいと思っていたら、それは難しいことじゃなかった。今後10年間、”Deafheaveny” のレコードを出し続けることで、保証はどんどん増え、フェスのオファーも大きくなっていくだろうから。そうすれば、素敵で小さな “何か” にはなれただろう」
「私たちは、クリエイティブな面に少し興味を持ちすぎているんだ。つまり、他の何よりも自分たちが充実していないと、このプロジェクトは長続きしないんだよね。だから、私たちはまた未開の荒野に身を投じてしまうのさ」
DEAFHEAVEN にはまだまだ可能性が秘められています。
「アルバムには収録されていないけど、ある時期、初期のDJ Shadow や Unkle の最初のレコード、BOARDS OF CANADA のような雰囲気のものを入れようと考えていたことがある。これは、俺がよく聴いていたものでね。バンドの中に PORTISHEAD や MASSIVE ATTACK の影響があるのは確かだと思うけど、俺が興味を持っているもの、Shiv が興味を持っているもの、George が興味を持っているものなど、たくさんあるんだよね。例えば、このアルバムにも初期のWarp レコードや、”OK Computer” の “Airbag”、DJ Shadow のようなものを入れようとしていたんだ。だけど、それは全くフィットしなかったね。結果的にはそれがベストだったと思うけど。とにかく、俺たちにはまだいくつかのレーンが残されていると思うし、そうあってほしいと思う。それこそがクリエイティブな人間の醍醐味だと思うからね」
そう Kerry が目を輝かせれば、George も同意します。
「そうだね、確かにレイドバックしたトリップホップの影響は、私たちもかなり試したけど、今回のアルバムには必ずしも反映されなかった。オーケストラ的な要素を取り入れたり、補助的な楽器を追加したりすることも、まだやったことがないよね。ストリングスにしても、特に理由はないけど入れたことがない。Kerry が言ったように、私たちは常に何かを取り入れたり、試したりすることができる。そして願わくば、私たちが実験を続け、成長し続ければと思うよ」
日本盤は DAYMARE RECORDINGS から発売中!

参考文献: KERRANG!: When The Sun Hits: How Deafheaven stepped out of the shadows to embrace a brave new dawn

THE RINGER:The Sunbathers Turn to the Light: Deafheaven Is Back, and Clearer Than Ever

FADER:Deafheaven on evolution, reinvention, and Infinite Granite

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CICADA THE BURROWER : CORPSEFLOWER】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CAMERON DAVIS OF CICADA THE BURROWER !!

“I Wanted The Name And Aesthetic Of The Record To Reflect The Duality Of My Personal Experience Being a Transgender Woman. It Seemed Like The Best Way To Do That Was To Combine Something Lifeless, a Corpse, With Something That Represents Life And Femininity, Flowers.”

DISC REVIEW “CORPSEFLOWER”

「私はトランスジェンダーの女性であるという個人的な経験、その二面性をレコードの名前と美学に反映させたいと思ったの。それには、生気のないもの、つまり死体と、生気や女性らしさを表すもの、つまり花を組み合わせるのが一番良い方法だと思ったのよ」
ブラックメタルは痛みを解放し人生を肯定してくれる魔法なのでしょうか。LITURGY の Hunter-Hunt Hendrix がトランスジェンダーの女性であることを公表したと時を同じくして、CICADA THE BURROWER の Cameron Davis も真の自分を世界に解き放ちました。
「このまま世の中には黙って性同一性障害を抱えて生きていくのがいいのか、それともトランスジェンダーであることを明らかにして社会的な影響を受けるのがいいのか。この葛藤を “Corpseflower” がうまく伝えてくれることを心から願っているわ」
美しい花には骨があります。自らのプロジェクトを “穴の中の蝉” と名付け、自らを羽化する前の蝉の幼虫に例えた Cameron にとって、”Corpseflower” は自身の痛み、苦悩、そして一握りの希望の両面を迷いの中から描き出す羽化の葛藤。二面性というスティグマは彼女の生にずっと宿っていて、死体と花は彼女の化身である音楽にも当然のように憑依していきます。
「ALCEST や DEAFHEAVEN のようなバンドは、私が “peak and valley” “山と谷” と呼んでいる優れた曲構成を実践している。彼らは、曲の激しい部分(山)を強調するために、繊細な部分(谷)を使用するの。私が “Corpseflower” で行ったことは、同じような考え方に基づいているんだけど、その方法論へのアプローチの仕方は、より抽象的で矛盾した感情を表現している可能性が高いと思うわ」
ラウンジ・ジャズやアダルト・コンテンポラリーがブラックメタルとまぐわう日をいったい誰が想像したでしょうか。Cameron はブラックゲイズの先駆者 ALCEST や DEAFHEAVEN の培った”山と谷” の方法論を、より高低差の大きい相反する二極での実験へと進化させました。自分が何者かを学び、未来の自分に折り合いをつけるため、彼女は映画のサウンドトラックのような眩くもキャッチーなジャズの煌めきと、暗闇に蠢くブラックメタルの牙をためらいなく混ぜ合わせ、美と暴力の混沌の中で自分自身を遂に見つけたのです。
そのシンプルで複雑な、ヒプノティックで没入感に満ち、即興的で筋書きのある光と闇のドラマは、そうしていつしかリスナーの人生まで抱きしめて、すべてを肯定していくのです。
「今日のブラックメタル・アーティストが生み出すサウンドにとって非常に重要な存在だよ。彼らが歩いたから、私たちは走ることができた。当時、音楽に許されていた限界を超えようとした彼らの意欲に、私は心から感謝しているのよ。彼らは、それまで探求されていなかったエクストリーム・ミュージックの隠れた可能性を明らかにしてくれたんだからね」
皮肉なことに、かつて最もプログレッシブから遠い世界と思われたブラックメタルは激しく変化し、今では最も進歩的なメタルサウンドを響かせています。DEAFHEAVEN や ALCEST のシューゲイザー、ZEAL & ARDOR のゴスペルとソウル、IMPERIAL TRIUMPHANT や KRALLICE, LITURGY のジャズ/現代音楽。そんな混乱するほど魅力的で複雑なブラックメタルの枝葉において、CICADA THE BURROWER はむしろダークウェーブやブラックゲイズを取り入れたジャズともいえる前衛的世界観で稀有な果実を実らせました。
リスクを冒す価値はありました。ここには、存在の本質的な寂しさ、選択の自由という野蛮な牢獄、そして心の季節の移り変わりが崇高なまでに如実に描かれているのですから。そうして蝉の幼虫は、暗い穴からゆっくりと、ゆっくりと木の幹を登っていきます。
今回弊誌では、Cameron Davis にインタビューを行うことができました。「セミは、一生の大半を地中に潜って過ごし、死ぬ数週間前に地上に出てきて、空を飛ぶ大きな生き物に変身する魅力的な虫。私はいつもこの生き物に共感していて、自分自身もまだ地下に潜っている人間だと思っているの。だから、私はこのプロジェクトを “Cicada the Burrower” “穴の中の蝉” と呼ぶことにしたんだよね」どうぞ!!

CICADA THE BURROWER “CORPSEFLOWER” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PUPIL SLICER : MIRRORS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH KATIE DAVIES OF PUPIL SLICER !!

“I Don’t Think Anyone Should Be Discriminated Against For How They Were Born, Who They Love And How They Look. Hopefully One Day The World Will Be a Better Place Where Things Aren’t As Bad As They Are Today.”

DISC REVIEW “MIRRORS”

「今は24歳なんだけど、18歳くらいまでヘヴィーな音楽にのめり込んだことはなかったのよ。だけどハマってからはすぐにギターをはじめたわ。まあだから、聴いて育ったのはゲームの音楽とか映画の音楽の枠を出たものじゃなかったわね」
PUPIL SLICER の Katie Davies は、18歳で初めてヘヴィーな音楽を耳にします。決して早くはない邂逅。
しかし、一度エクストリーム・ミュージックの世界に足を踏み入れると、その深化速度は異次元でした。現在24歳のヴォーカル・ギタリスト Katie は、時間軸を狂わせるようなマスメタルとグラインドコア、それに様々なメタルの異分子が融合した楽曲を、むしろコーラスとヴァースで成り立つポップ・ソングやパンク・ロックと同じくらい自然で親しみやすいものだと感じています。
「わたしたちの音楽の核となるのは感情の強さ、インテンシティーで、それは性別によって制限されるものではないと思うわ。あと、わたしたちはメタル・バンドというよりも、パンク・バンドだと思っているのよね」
デビューアルバム “Mirrors” は、不協和な音の超暴力と幻惑への傾倒が、THE DILLINGER ESCAPE PLAN の “Ire Works” や CONVERGE の “Jane Doe” といった名作を想起させます。混乱させ、時間をかき乱し、「何を聴いたんだろう?どうやって作ったんだろう?」と思わせる、人の心や痛みと同様に不可解な音楽です。
「わたしは自分の経験をたくさん書いているけど、より多くの人が音楽に共感できるようストーリー性を持たせるようにしているのよ。わたしが好きなのは、抽象的な歌詞の曲で、その内容についてリスナーそれぞれが自分なりの考えを持つことができ、本当の意味でのつながりを感じることができる曲だと思っているわ」
その名の通り、”Mirrors” は Katie 自身を映し出すレコードで、彼女の核となる考えや痛み、内面的な物語を映し出す鏡であると同時に、不平等や差別が法律や習慣、経済に組み込まれている、システム的にファシストな社会をそのまま映し出す作品でもあります。Katie が経験した個人的、政治的な痛みは、”Mirrors” の暴力によってのみ表現され、追放することが可能なのでしょう。
「わたしは、誰もがその出自、愛する人、外見などで差別されるべきではないと思っているの。いつの日か、今のような悪い状況ではない、より良い世界になることを願っているわ」
イギリス南部の海辺の町ボーンマスで育った Katie は、幼い頃から残酷な目に遭ってきました。4年間過ごした学校では、生徒からも教師からも容赦ないいじめを受け、中退してホームスクールに入学。彼女の耳を満たす音楽は、テレビゲームや映画のサウンドトラック、そして7歳の頃から練習していたバイオリンだけでした。
友人は、地元のユースオーケストラの指揮者を除いて存在せず、最終的に彼女は14歳で第一ヴァイオリンのリーダーとなりますが、3年後、彼女は公立学校に戻ることを余儀なくされました。そこで同級生や教師からさらに冷酷な扱いを受けることになります。
執拗ないじめを受けても、なぜいじめられるのか理解できない。自閉症を患いながら大学を卒業するころには、完全な引きこもり状態となっていました。人は残酷。その思いが世界とのつながりを完全に断たせてしまったのです。
救いの光はロックやメタルでした。ボーンマスからロンドンに移り数学の学位を取得した直後から、Katie は DEAFHEAVEN を聴きながら街を歩くようになります。そこから、RADIOHEAD や GODSPEED YOU! BLACK EMPEROR を経て、ブラックメタルの世界に足を踏み入れます。ポストロックやシューゲイザーは、彼女の魂の音に最も近い音楽への入り口となりました。
やがて、彼女はギターを手に取り、DEAFHEAVEN の曲をかき鳴らし始めます。
ギターを弾けるようになった後、Katie はミュージシャン向けのオンラインフォーラムに投稿しました。”DEAFHEAVEN のようなブラックメタル・バンドに参加したい」と。投稿後すぐに、地下鉄で数駅のカムデンで練習中のバンドからメッセージが届きます。そこで、ドラマーJosh Andrews と出会ったのです。やがてベースの Luke Fabian が仲間に加わり、TDEP, CODE ORANGE, BOTCH といったバンドを通してマスコアやパワーバイオレンスの傾向を高めていきました。
“Mirrors” の楽曲は、そのどれもが異なるアプローチの産物です。例えば、タイトルトラック “Mirrors” のメインリフでは、彼女はオンラインのジェネレーターにランダムな数字の羅列を入力し、バンドの他のメンバーにソフトウェアの出力に合わせての演奏を依頼します。リズム理論に精通している Katie は、信じがたいことに考えていたメロディーを鼻歌で歌い、目の前のスクリーンに表示されるリズムの波形を把握しながら、頭の中で音を整理していきます。メンバーもリスナーも混乱させた Katie にとって、次の目標は自分自身を混乱させること。
曲作りという最も楽しい時間を終えれば、その後、人に聴かせるという彼女にとって気が遠くなるような現実がやってきます。歌詞を読まれるのが嫌でお蔵入りも考えたという “Mirrors” には、同性愛者やトランスジェンダーに対する米国の法制度を批判する “Panic Defence” のような直接的な曲もある一方で、Katie の内面的な苦しみに焦点を当てた曲には、比喩的なガーゼで保護膜を張っています。例えば “Stabbing Spiders” は、もちろんクモのことを歌っているわけではなく、自傷行為についての楽曲。
「あなたが挙げたバンドは皆、様々なタイプの音楽で非常に広い視野を持っているわよね。わたしたちも同じように、自分たちが好きな音楽すべての部品を組み合わせたいと思ってやっているの」
PUPIL SLICER の目まぐるしい音楽はすでにマスコアを超越しています。 “Mirrors” がこれほど魅力的なのは、バンドがその混沌の中でリスナーに “数学” 以上の多くのなにかを与えているからでしょう。ダイナミクスの恩恵を受けた3人の挑戦者は、研ぎ澄まされたエッジを失うことなく、電子なサウンドスケープの静かな海へと潜り込みアルバムの流れを的確に支配します。
例えば、7分の “Mirrors Are More Fun Than Television” は存分なグルーヴ、存分な混沌、そして DEAFHEAVEN や ALCEST をも連想させる壮大なアトモスフィアのアウトロを備えます。
クローサー “Collective Unconscious” ではさらに顕著。TDEP のような残虐性はポストブラックのブラストとトレモロを誘い、感情を揺さぶるクレッシェンドを導きます。静かの海で Katie は独り絶望を叫びすべてを締めくくるのです。紆余曲折のレコードに咲く深く心に残るフィナーレの華。そうして Katie は痛みを映し、浄化し、超越してみせたのです。
今回弊誌では、Katie Davies にインタビューを行うことができました。「わたしたちのやり方は、自分たちが演奏したい音楽、自分たちが聴きたい音楽を作ることだと思っているの。つまり、自分たちのサウンドに境界線を設けないようにしているのよ」 どうぞ!!

PUPIL SLICER “MIRRORS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FEN : THE DEAD LIGHT】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH THE WATCHER OF FEN !!

“I Am Huge Advocate Of a Lot Of The 60s/70s Prog Scene – Yes, Genesis, King Crimson, Rush, Pink Floyd, These Sorts Of Acts And Many More Are a Big Influence On My Approach To Song/Riff-Writing.”

DISC REVIEW “THE DEAD LIGHT”

「僕が育ったかつては湿地帯だった荒野。この風景とそれが体現する感覚の両方を伝えようとすることが、僕の音楽に真のフィーリングと信憑性をもたらす唯一の方法だったんだ。FEN の音楽は大部分がこの特別な雰囲気をリスナーに届けるためのメカニズムで、彼らを荒涼として風にさらされた冷たい旅に誘うんだ。」
古い修道院、朽ちた電信柱、鄙びた風力タービンが唯一人の存在を感じさせる不毛の湿地帯フェンズ。イングランド東部の仄暗い荒野を名前の由来とする FEN は、キャリアを通してその白と黒の景色、自然の有り様と人の営みを伝え続けて来ました。そして奇妙な静けさと吹き付ける冷厳な風、くぐもった大地の荒涼を音に込めた彼らのダークな旅路は、”The Dead Light” に集約しています。
「当時は本当に小さなシーンだったな。僕たち、Neige のプロジェクト、ALTAR OF PLAGUES, それからおそらく LES DISCRETES。数年間は小さなままだったけど、ALCEST がより有名になるとすぐに爆発したね。 彼らのセカンドアルバム “Ecailles De Lune” は、ジャンルの認識を本当にターボチャージさせたと思うね。」
今では飽和さえ感じさせるポストブラック/ブラックゲイズの世界で、FEN は最初期からジャンルを牽引したバンドの一つです。ALCEST に親近感を覚え敬意を抱く一方で、DEAFHEAVEN には少々辛辣な言葉を投げかける The Watcher の言葉はある種象徴的でしょう。
なぜなら、FEN の心臓である “シューゲイズ、ポストロック、ブラックメタルの意識的な融合” は、決して奇をてらった “クレバーなマーケティング” ではなく、フェンズを表現するための必然だったのですから。
「僕は60年代/​​70年代のプログレシーンの強力な支持者なんだ。YES, GENESIS, KING CRIMSON, RUSH, PINK FLOYD といったバンドは、僕のソング/リフライティングに対するアプローチに大きな影響を与えているよ。ほとんど僕の作曲 DNA の本質的な部分と言っても過言ではないね。」
FEN がその ALCEST や他のポストブラックバンドと一線を画すのは、自らの音の葉にプログレッシブロマンを深く織り込んでいる部分でしょう。
実際、”The Dead Light” は PINK FLOYD のスロウダンスを想わせるドゥームの質量 “Witness” でその幕を開けます。ポストロックのメランコリーとプログレッシブなサイケデリアは、2部構成のタイトルトラック “The Dead Light” へと引き継がれ、メタリックな星の光を浴びながら ENSLAVED や VOIVOD にも迫るアグレッシブな酩酊のダンスを誘います。
「光が人間の目に届くまでに消滅した天体だってあるよ。つまり地球から遠い過去への窓を見ているようなもので、光子の量子が空虚を通して力を与え、最終的にアルバムタイトルのまさに “死の光” “長い死” のイメージを届けるんだ。」
もしかすると今、瞳に映る輝きはもはや存在しない死んだ星雲の残像なのかも知れない。そんな空想を巡らせるに十分なロマンチシズムと荘厳さを併せ持つ “Nebula” の魔法でポストブラックに酔いしれたリスナーは、”Labyrinthine Echoes” でプログレッシブとブラックメタルが交差する文字通り宇宙の迷宮へと迷い込み、そうして “Breath of Void” で遥かな天空から荒野の虚無を体感するのです。
もちろん、蒼く冷たい失血のロンド “Exanguination” はきっと彼の地に住まう人々の苦難、喪失、孤立、そして誇りを体現しているはずです。
今回弊誌ではフロントマン The Watcher にインタビューを行うことが出来ました。「ブラックメタルシーンは生き生きとしていて、魅力的な作品を作成する熱意を持ったアーティストで溢れているんだ。全くエキサイティングな時代だよ!」 冷厳でしかしロマンチックなブラックメタルファンタジー。どうぞ!!

FEN “THE DEAD LIGHT” : 9.9/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【ALCEST : SPIRITUAL INSTINCT】


COVER STORY : ALCEST “SPIRITUAL INSTINCT”

For Me, One Of The Most Difficult Things I Have To Live With Is That I Have Very Low Self-esteem. I Don’t Like Myself Very Much, And It’s Really Not Cool Because You Are Always Putting Yourself Down And This Is Not a Normal Way To Live. This Album Is Full Of Doubts, Full Of Questions. But I’m In a Better Place Now, I Think. The Album Was Part Of The Healing Process.

JOURNY TO “SPIRITUAL INSTINCT”: INTROSPECTION & SPIRITUALITY

フランス南部、プロバンス地方にある人口2万人足らずの街バニョール=シュル=セーズで生まれ育った Stephane Paut は、後に自身をフランス語で雪を意味する “Neige” と称し ALCEST のフロントマンとして世界に衝撃を与えることとなりました。
「クレイジーだよ。プロバンスはとても美しく、まるでポストカードみたいにゴージャスなんだ。だけど都市部は、本当に本当に面白くない。周りにあるもの全てが素晴らしいのに、街は最悪なんだ。南フランスにおけるアスホールみたいなものさ。決して何にも起こりはしない。だから僕にとって正しい場所にいるようには思えなかったね。」
しかし、バニョール=シュル=セーズの退屈で特徴のない毎日だけが Neige に自分の居場所ではないと思わせた理由ではありません。
「僕は少し夢見がちな人間で、絵を描くのが大好きだった。だけど南フランスのメンタリティーはとても荒くて厳しいんだ。とてもマッチョなんだよ。男ならこんな風に生きなきゃいけない、サッカーを好きにならなきゃいけないって感じなんだよ。」

実際、伝説の “寺CEST” を経験した後、”Kodama” リリース時の弊誌インタビューで Neige は日本のアニメ、ゲーム文化への深い愛情を示すと同時にスピリチュアルな世界へも敬意を抱く日本人に共感と憧憬にも近い感情を示しています。
「日本文化がここまでフランスを魅力しているのは”対比”が理由だと思う。実際、日本にはとてもモダンで高度なテクノロジーを備えた社会が存在するのに、伝統や自然、スピリチュアルなものに大きな敬意を抱いているよね。僕にはもののけ姫のサンと共感出来る部分がたくさんあってね。自分の中に存在する2面性、なにか自分の居場所ではないという感覚、まるで都市と自然、物質世界と精神世界の2つに生きているような気がしているんだよ。」
音楽に大きな価値を見出すような人間は Neige の周りには存在すらしませんでした。しかし Neige は絵を描くことと共に EMPEROR のようなブラックメタルのリアルなアグレッションに惹かれていきました。ただし重要なのは、アンダーグラウンドのリアルだけではなく、オルタナティブロックのブライトでメジャーなサウンドも同様に彼を惹きつけた事実でしょう。
事実、SMASHING PUMPKINS のクラッシック “Siamese Dream” は今でも Neige のオールタイムフェイバリットです。後にその特異なバランス感覚は、ブラックメタルにシューゲイズのテクスチャーを織り込んだポストブラック第一世代の中でも多次元で光と影を司り比類なきコントラストを描く ALCEST の雛形となったのです。

DEAFHEAVEN の “Sunbather” を含むアトモスフェリックブラックメタルに多大なる影響を与え、アンダーグラウンドの至高となった ALCEST も遂に羽化の時を迎えたようです。2005年に “Le Secret” をリリースしブラックメタル世界から憎しみさえ買ったバンドは、大きな成功を眼前に捉えているのです。
「ALCEST はゲイなんてよく言われたものさ。DEAFHEAVEN なんかのおかげで今はあまり言われなくなったけど、最初の頃はその意見が大勢を占めていたんだよ。」
最初の4枚のレコードで光と影の幻想的かつ気まぐれなダンスを披露した ALCEST。穏やかでソフトな切れ味のポストロックとシューゲイズの美学が支配する神秘のメタルは “Shelter” で完成を見たと言えるのかも知れません。”Kodama” で一握りのアグレッションを掬い上げた彼らは、”Spiritual Instinct” においてさらに野生的で生々しいブラックメタルの原衝動にアクセスしたようにも思えます。ただし、それは単純な原点回帰ではなく、痛みと快楽、ハイとローの麻薬的な相互作用。
「6枚のアルバム全てが異なっていると思う。全然違うって訳じゃないけどね。ただ “Shelter” だけは全然違う作風になったね。あのアルバムで僕たちはメタルの要素を全て取り払ったから。ただ、毎回異なるアングルで作品に挑んでいるのは確かさ。」

ALCEST にとって6枚目のフルアルバムとなった “Spiritual Instinct”。そのアルバムタイトルは前作 “Kodama” に伴う長期のツアーが要因となったようです。
「僕はいつも内性と霊性の中に存在していた。だけど長期のツアーで家を空けて日常から離れるうちに自分を失っていたんだ。僕は基本1人が好きだしね。体は死に絶え心は失われた。だからそれを取り戻す必要があったんだよ。だってスピリチュアルでいることは選んだ訳じゃなく、息をするのと同じように人生において必要としていることなんだから。つまり本能のようなものなんだ。だからタイトルにしたんだよ。このアルバムはこれまでの僕の旅路の集大成なんだ。」
影から闇へ。霊性の一時的な喪失は、Neige に自らと真摯に向き合い “Spiritual Instinct” に以前よりも内なる闇を持ち込む結果をもたらしました。故に多様と対比が最も際立つも自明の理。
「調子が良くなくて、だから正直になって自分の闇をもっと音楽に取り入れることにしたんだ。これまでは勇気がなくて向かい合うことが出来なかった部分をね。あるがままの自分を見つめるのは簡単じゃないよ。だけど人として成長を遂げるのに必要なことなんだ。」

故に “Spiritual Instinct” の製作は Neige にとってある意味ヒーリングプロセスとも言えるものでした。
「生きづらいと感じる原因の一つが自己評価の低さなんだ。自分が全然好きじゃなくてね。それってクールじゃないんだけどね。自分を貶めながら生きている訳だから。普通の生き方じゃないよ。だからこのアルバムは疑問と疑いに満ちている。だけど今はあの頃より良い場所にいる。だからこの作品は治療の意味合いもあったんだ。」
高貴な顔と羽の裏に獣の爪を隠し持つ対比の怪物、アートワークに使用したスフィンクスにも当然深淵と疑いが込められています。
「このモンスターはほとんど人間の顔をしているよね。僕はこのクリーチャーを見ると自分を当てはめてしまうんだ。生まれ育った南フランスでもアウトサイダー、メタルマガジンにも距離を置かれていた。自分の居場所を見つけられなかったからこそ、この怪物に共感を覚えるんだ。僕はとても落ち込んで疑念を抱く時もあれば、スピリチュアルでハイになることもある。このスフィンクスは両方を結んでいるんだ。エニグマと疑問のシンボル。大きなクエスチョンマーク。それこそがスピリチュアリティーだよ。死を迎える時何が起こる?魂はどうなる?つまりスフィンクスは疑問を宿したスピリチュアルな旅に誘う最高の象徴なんだ。」

“Protection” の MV に現れる危険なダンスは内なる苦しみの象徴。
「最初の2,3曲を書いたくらいでアルバムの方向性が露わになる。今回は、”Protection” を書いた時点で異なる作品になると分かったね。ヘヴィーでダイレクトなレコードさ。内なる悪魔から自らを守ることについて。自然をある種の盾として使っているんだ。これは内なる戦いなんだよ。」
最も深い闇は友人の自殺でした。
「彼は画家で大きな成功を手に入れ始めていた。パリでも数少ない、絵で裕福な暮らしを送れる人物だったんだ。才能があってとても重要な人物になるはずだった。何年も前から友人だったからとても動揺したね。彼が亡くなった次の日にタイトルトラック “Spiritual Instinct” を書いた。これは偶然じゃないよ。」
では “Spiritual Instinct” はリスナーにそれぞれの疑問に対する何かの答えをもたらすのでしょうか?
「僕自身答えを持っていないんだから、何かを答えることはできないね。僕がキリスト教か何かの権威なら知っているふりをするだろう。だけどそんなことはしないよ。神の本質や人生の意味を知っているふりをするなんて傲慢にも程がある。全てを超えたものなのにね。」

無慈悲な不協和音と荘厳なオーケストレーションがシームレスに融解し続けるブラックメタルの新たな次元 “Spiritual Instinct”。そこには FAILURE や CAVE IN の独創的な空間活用術でさえ活かされています。とは言え、Neige はテクノロジーへの過度な依存には否定的。
「テクノロジーはあまり好きじゃないね。コンピューターにも疎いんだ。このアルバムはどの瞬間もとてもシンプルに生み出されている。創造とは永遠のエニグマだよ。何処からかアイデアが浮かび音楽の形を形成していく。自分でもどうやったのかさえ分からないからマジカルな瞬間なんだ。」
さらに TOOL や SYSTEM OF A DOWN にも通じる “Sapphire” のリフドライブは神秘のアトモスフィアと霧の中で溶け合い、”Le Miroir” はブラックゲイズの森の奥でゴスのレースを織り上げます。何よりタイトルトラック “Spiritual Instinct” が抱きしめた究極にアクセシブルでポップな本能的メロディーと JESU や SUNNO))) のスピリチュアルな実験は、ALCEST が向かい合う地中海の多島美を象徴しているのかもしれませんね。

ALCEST をブラックメタルと呼ぶ事に長い間葛藤を抱いていた Neige。もちろん、”Les Jardins de Minuit” のブラストビートはジャンルの基盤ですが、それでも繊細で愛情さえこもったディティールとムードへの拘りは30年前ブラックメタルが生まれた時代には想像も及ばなかった創造的成果であり、ジャンルに対するある種のクーデターでしょう。そもそも Neige はメタルファンがダークなサウンド、イメージに惹かれる理由さえ当初は理解さえしていませんでした。
「全然理解できなかったんだよ。なぜいつもダークである必要があるんだい?だからこそ ALCEST のファーストアルバムが出た際に大きな論争を呼んだんだ。なんでメタルなのにブライトで繊細なんだ?ってね。ただ僕は憎しみに触れたくなかっただけなんだけどね。そこに興味が持てないから。それでも今でもオールドスクールなブラックメタルはよく聴くんだ。ただ最近のブラックメタルバンドはちょっと怠惰だと思うよ。ブラックメタルの慣習に従い、紋切り型の演奏を披露しているだけだからね。残念だよ。」
一足先にブレイクを果たした盟友 DEAFHEAVEN についてはどう思っているのでしょう?
「彼らの成功はピンクのカバーのお陰じゃない。全てが首尾一貫していて理に適っているからなんだ。ルックス、リリック、背景など、とてもサイコロジカルなメタルだよ。悪魔や炎、森、城について歌っている訳じゃないから、僕にとってブラックメタルではないよ。そもそも彼らはブラックメタルのふりなんてしたこともないんじゃないかな。そこはまさに ALCEST と同じだよ。僕たちはブラックメタルをプレイしてはいないんだ。トレモロとブラストを使用すればブラックメタルって訳じゃないから。ブラックメタルとは”ブラック”、つまり非人間的でダークな精神性を宿しているからね。僕たちはいつもそうじゃない。」

Neige が厳格に成文化されたブラックメタルの基準を回避して来たのは、その音楽の大部分が怒りに根差していないからとも言えます。自然からインスピレーションを受けるノルウェーのミュージシャンに共感する一方で、常に希望を伝える Neige の有り様はコープスペイントで木々に五芒星を書き殴るよりも、森の中のアニミストのようにも思えます。
実際、Neige は5歳のころから約4年間自らの精神が肉体を離れる幽体離脱、臨死体験のような超感覚的ビジョンを経験しています。
「何度も何度も、完全にランダムに起こる現象だった。この世界には存在しないような場所のイメージや感情、時にはサウンドまで心の中に浮かんで来るんだ。まさにスピリチュアルな体験で、人生を永遠に完全に変えたんだ。」

そうして物質宇宙を超えて別の領域が存在するという確信を得た Neige は、スピリチュアルに呼吸する” 音楽 “Spiritual Instinct” を完成へと導きました。
「あの臨死体験を経て、僕は死後の世界、魂とは何か、そして人生の意味を問うようになったんだ。ビッグクエッションだよね。」
多くのメタルアーティストが描く悪夢の死後世界と異なり、Neige は自らの目で見た “あの世” を恐ろしいとは感じていません。むしろ子供の頃に感じていたバニョール=シュル=セーズの厳しい現実、マッチョイズム、自分に対して冷酷な街の雰囲気を心から追いやるに充分の桃源郷。
「想像を遥かに超えた美しく、言葉には表せない世界だったね。直接アクセス出来なくなった今でも心の中奥底ではあの世界を感じているんだ。奇妙に聞こえるかもしれないけど、この物理的な世界に完全に属しているとは感じられていないんだ。皆んな本当はそうなのかもしれないよね。ここ以外に真の家があるのかも。だからある意味、僕たちはこのバンドでその場所を探求しているんだよ。」

つまり、Neige がフランス語で紡ぐ憂鬱と悲しみのイントネーションには、彼が憧れの中に垣間見た魔法の場所へと回帰するロマンチックな目的まで含まれているのです。ALCEST の動力源は審美の探求。例えその場所が死によってのみでしか到達できないとしても。
「ALCEST を始めたのは、臨死体験が僕を孤独にしたからなんだ。音楽を世に放つのは、海にボトルを投げて返事を待つようなものだよ。だから反響があるととても感動するよ。愛する誰かを失って、だけど僕たちの音楽が助けになったと話してくれる人もいるんだ。それって最高に美しいフィードバックだよ。」
そうして ALCEST は “Spiritual Instinct” でもその光と闇の探求を続けます。
「若い頃は死を迎える時、自分を待つ家があると感じられることが希望だった。だけど同時に世界から切り離されているようにも感じていたんだ。別の場所から来たように思えてね。だからいつも2つの世界に住んでいるようだった。だからこそ、ALCEST はその2つの世界、光と闇を1つに繋いでいるんだよ。」

参考文献: REVOLVER:”BLACKGAZE” LEADERS ALCEST ON “LIVING BETWEEN TWO WORLDS,” EMBRACING DARK SIDE

BILLBOARD:French Band Alcest Fuses Black-Metal Dissonance with Alt-Rock Guitar Orchestration for ‘Spiritual Instinct’

CoC:Alcest’s Neige on Spiritual Instinct, Initial Black Metal Backlash, Deafheaven’s Rise, and More

INVISIBLE ORANGES:http://www.invisibleoranges.com/alcest-neige-interview-spiritual-instinct/

MARUNOUCI MUZIK MAG “KODAMA”

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MASTERPIECE REVIEW + INTERVIEW 【BOTANIST : Ⅵ: FLORA】JAPAN TOUR 2019 SPECIAL !!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH OTREBOR OF BOTANIST !!

“I Wanted To Push The Genre Further While Also Honoring Its Tradition. Making Botanist a Concept Project About Plants Felt Like The Way To Do That: 100s Of Bands Were Talking About Forests, But None Mere Taking It To a Specific, Scientific Level. “

DISC REVIEW “Ⅵ: FLORA”

邪悪や猟奇、そしてファンタジーがテーマとして掲げられるメタルワールドにとって、BLACK SABBATH, EMPEROR, DRAGONFORCE といったバンドの名こそ至当で理想的にも思えます。そんな倒錯した世界において、”植物学者” を名乗る BOTANIST はその原郷からすでに異端です。
「僕はブラックメタルというジャンルをその伝統に敬意を払いつつ、さらに先へと進めたいんだ。植物をコンセプトとした BOTANIST を立ち上げたのもまさにその想いから。これまで幾つものバンドが森については語ってきたけど、誰ももっと専門的なレベルで個別の植物については語ってこなかったよね。」2011年にサンフランシスコで Otrebor が創世したワンマンプロジェクトは、植物を科学し環境問題を追求する唯一無二の “グリーンメタル” へと開花して行きました。
これまでにも、WOLVES IN THE THRONE ROOM, AGALLOCH, ALCEST など自然崇拝をテーマとして、仄暗き森や鬱蒼と生い茂る木々を礼賛するブラックメタルの一派は確かに存在していました。しかし彼らはそのアトモスフィアに惹かれ、自然のよりスピリチュアルな領域へとフォーカスしていたはずです。
一方で、BOTANIST はよりミクロで科学的に植物への愛を貫きます。「多くのデスメタルバンドが死について書いていたけど、CARCASS は臨床的見地から死について最初に歌い、デスメタルをネクストレベルへ進めたんだ。」 CARCASS の死に対するある種ドライな向き合い方は、Otrebor が BOTANIST でより学術的に植物の姿を描き出す核心的なインスピレーションとなりました。ハナスイ、シーソラス、ヤエヤマヒルギといった耳馴染みのない植物を楽曲名に列挙する方法論はまさに CARCASS 譲り。
さらに BOTANIST はその “グリーンメタル” のコンセプトだけでなく、ハンマードダルシマーという特殊な楽器をメインに使用することでブラックメタルを未踏の領域へと導きます。
ドラマーを本職とする Otrebor にとって、スティックで弦を叩いて音を出すダルシマーは完璧なメロディー楽器でした。かつて住んでいたこの日本で運命的な出会いを果たした古のピアノは、風と共にロマンチックでエレガントな響きを運び、ギターレスのブラックメタルという倒錯と神秘的のアートを創造して行くのです。
貪欲な研究者 Otrebor は、緑の音楽を絶え間なく精製し続けます。リスナーの思考を絶え間なく促しながら、夢見心地に浮遊する陶酔と恍惚の極致 “Ⅵ: Flora” は、ソロプロジェクトとしての BOTANIST にとって一つの完成形だったのかも知れません。
一筋の新緑だったグリーンメタルの種子はそうして徐々に森を形成していきます。ローマ数字のナンバリングから “Collective” 表記へと移行し、初めてバンド形態で制作された “The Shape Of He To Come” のダイナミズム、グルーヴ、躍動感はまさしく “集団” としての生命力に満ちています。メンバーという養分を得て緑を増した聖森のざわめきは、より荘厳に、より実験的にリスナーの五感へと訴えかけるのです。
深刻な環境破壊により未曾有の危機に直面する人類と地球において、Otrebor は BOTANIST の発芽は必然だと語ります。「BOTANIST のようなプロジェクトは、地球の自己防衛メカニズムの結果であると心底信じているんだ。自然の重要性とその保存について情熱的な方法で人々に発言することを要求するようなね。」もしかすると彼らはは自然が意思を持って遣わした有機的なメッセンジャーなのかも知れませんね。
今回弊誌では、Otrebor にインタビューを行うことが出来ました。奇跡の来日が決定!「僕たちは、日本のファンがお気に入りの植物を携えて現れ、ライブで掲げてくれるのを熱望するよ!」どうぞ!!

BOTANIST “Ⅵ: FLORA” : 9.9/10

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