THE 40 MOST IMPRESSIVE ALBUMS OF 2017 : MARUNOUCHI MUZIK MAGAZINE
1. STEVEN WILSON “TO THE BORN”
「最も大きなチャレンジは、楽曲重視のレコードを作ることだよ。メロディーにフォーカスしたね。」 モダン/ポストプログレッシブの唱導者 Steven Wilson はそう語ります。モダン=多様性の申し子である世界最高の音楽マニアが、至大なる野心を秘めて放った5作目のソロワーク “To The Bone” は、自身が若き日に愛した偉大なるポップロックレコードの瑞々しいメロディー、その恩恵を胸いっぱいに浴びた新たなる傑作に仕上がりました。
Steven は “To The Bone” のインスピレーションを具体的に挙げています。Peter Gabriel “So”, Kate Bush “Hounds of Love”, TALK TALK “Colour of Spring”, TEARS FOR FEARS “Seeds of Love”, そして DEPECHE MODE “Violator”。勿論、全てが TOP40を記録したメインストリーム、知的で洗練されたポップロックの極み。
同時に彼は自身のプログレッシブなルーツも5枚提示しています。TANGERINE DREAM “Zeit”, Kate Bush “Hounds of Love”, THROBBING GRISTLE “The Second Annual Report”, PINK FLOYD “Ummagumma”, ABBA “Complete Studio Albums” (全てのスタジオアルバム)。
非常に多様で様々なジャンルのアーティスト、レコードが彼の血肉となっていることは明らかです。ポップサイドでも、フックに溢れた音楽的な作品を、プログレッシブサイドでも、難解なだけではなくサウンドスケープやメロディーに秀でた作品を撰するセンス。両者に含まれる Kate Bush の “Hounds of Love” はある意味象徴的ですが、レコード毎にその作風を変化させるマエストロが今回探求するのは ナチュラルにその二者を融合させた “プログレッシブポップ” の領域だったのです。
実際、ポップと多様性は2010年以降のプログレッシブワールド、延いては音楽シーン全体においてエッセンシャルな要素のようにも思えます。奇しくも2011年からレコーディング、ツアーに参加し続けているロングタイムパートナー、チャップマンスティックの使い手 Nick Beggs はこの稀有なるレコードを “クロスオーバー” でそれこそが SW の探求する領域だと認めています。そしてその “違い” こそが様々な批判、賛美を生んでいることも。
「プログレッシブロックのオーディエンスって、実は最もプログレッシブじゃないように思えるんだ。プログレッシブミュージックは、プログレッシブな考え方であるべきなんだよ。」 盟友の心情を代弁するかのように Nick はシーンのあるべき姿をそう語ります。
いとも容易くミッドウイークの UK チャートNo.1を獲得したアルバムは、決して “プログレッシブロックの逆襲” “プログの帰還” などというシンプルな具象ではなく、イノベーターの強い意志が生んだシーンの新たな道標なのかもしれませんね。
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2. MASTODON “EMPEROR OF SAND”
アトランタのメタルジャイアント MASTODON が “The Hunter”, “Once More Round the Sun” で舵を切ったメインストリームへの接近、ラジオフレンドリーなアプローチは、確かに新たなリスナーを獲得する一方で、それ以上に長年バンドへ忠誠を捧げてきたダイハードなファンを失う結果となりました。
一握りの称賛と山ほどの批判を背に受けてリリースしたコンセプトアルバム “Emperor of Sand” は、結果としてメインストリームとルーツ、ポップとプログレッシブの狭間で揺蕩う完璧なバランスを実現することとなりました。多様性の海に溶け込むイヤーキャンディー。それは奇しくも Wilson が取ったアプローチと同じ方角を向いています。
アルバムは、砂漠のスルタンに死刑を宣告され逃走する男の物語。実際、ライティングプロセス中にギタリスト Bill が母を亡くしたことにより、作品はダークなトーンとコンセプトを兼ね備えることとなったのです。
バンド史上最もバラエティーに富んだレコードで、特に前半部分はアンセミックな楽曲が並びます。”Show Yourself”, “Steambreather” で見せる究極のポップネス、アクセシブルなアプローチは、ドラマー Brann Dailor のボーカリストとしての成長と共にバンドの新たな可能性、MASTODON のロックエボリューションを提示しています。
一方で、アルバム後半では “Blood Mountain” で実現した躍動感と複雑性の融合に心ゆくまで再び浸ることが可能です。”Word to the Wise”, “Andromeda”, そして “Scorpion Breath” を聴けば Brent と Bill のモダングレーテストが放つダイナミックな反復の魔術、さらに Troy Sanders の獰猛なグロウルとベースラインは今でも MASTODON の心臓だと強く確信出来るでしょう。傑作 “Crack the Skye” を手掛けたプロデューサー Brendan O’Brien の復帰も間違いなく功を奏しました。
バンドは変化を遂げ成長を続けて行くものです。MASTODON は確かな進化の証を刻みつつ、バンドが失ったかに思われたロマンを取り戻すことに成功しました。それ以上に重要なことがあるでしょうか?ロックの根幹はロマンなのですから。
3. LEPROUS “MALINA”
“皇帝” の庇護から脱却し、独自のプログレッシブワールドを追及するノルウェーの先覚者 LEPROUS がリリースした最新作 “Malina” は、ジャンルという鳥籠から遂にブレイクスルーを果たしたマイルストーン。
プログメタル、アヴァンギャルド、オルタナティブにポストハードコアと作品ごとにフォーカスするサウンドテーマを変転させつつ、巧みに Djent やポスト系、ブラックメタルの要素も取り入れ多様なモダンプログレッシブの世界観を構築して来たバンドは、しかし同時に Einar の絶対的な歌唱を軸とした仄暗く美麗なムードをトレードマークとして近年掲げています。
2010年代最高のプログメタルオペラとなった “Coal” の後、彼らはより “硬質” でデジタルな作品 “The Congregation” をリリース。そしてメタリックな音像、正確性と複雑性を極めたバンドが次に見据えた先は、よりオーガニックでナチュラルなサウンドとジャンルの破壊でした。
「アルバムの “全てのインフォメーション” を直ちに伝える」 と Baard が語るように、アルバムオープナー “Bonneville” はまさに変化の象徴です。ジャズのリズムと繊細なギタートーンに導かれ、Einar は朗々と官能のメロディーを歌い紡いで行きます。比較するならば彼が敬愛する RADIOHEAD やMUSE でしょうか。
インテリジェンスとエモーションが有機的に溶け合った切なくも美しいそのサウンドスケープは、メタルやプログレッシブという狭い枷からバンドを緩やかに解き放ち、アーティスティックで “ロック” な新生 LEPROUS を主張します。
「僕たちは典型的な所謂 “ビッグメタルサウンド” を求めていなかったんだ。」 様々な要素、テクニックが “オーガニック” というキーワード、そして哀切のストーリーに注がれた純然たる “ロック” の傑作は、同時にキャッチーなメロディーと複雑でスタイリッシュなコンポジションを両立させた時代の象徴でもあります。
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