THE 100 BEST MODERN GUITAR ALBUMS OF THE DECADE: 2010 – 2019
1: ANIMALS AS LEADERS “THE JOY OF MOTION” (2014)
「優れたブルースギタリストになるための基礎はもちろん美しいよ。だけど別の僕がギターにはもっとユニークなことが出来ると語りかけるんだ…」
10年前に ANIMALS AS LEADERS のリーダーとしてデビューして以来、8弦のDjen衛建築家 Tosin Abasi はタッピング、スイープ、スラップ、フィンガーピッキングなど百花繚乱なテクニックを駆使してクラシカル、エレクトロニカ、ファンク、フュージョン、プログメタルを魔法のように調合し続けています。その鮮やかな多様性とテクニックの再創造まさに10年代モダンギターのベンチマークとなりました。
「シンセやエレクトロニックベースがあるから必要ない。」と言い放ち、もう1人の天才 Javier Reyes を従えた2ギター1ドラムの編成も革新的。
Generation Axe ツアーで Steve Vai や Yngwie Malmsteen でさえ文字通り引き裂いた Tosin の実力は、しかし決して才能だけに依るところではなく日々の鍛錬から生まれているのです。
1日に15時間練習しているのか?との質問に Tosin はこう答えました。
「出来ないことにひたすら取り組み出来るようになる。それは中毒のようなものでね。再びその現象が起こることを望み、再度成功すると徐々に自分の可能性を追い求めるようになる。そうして最終的には自分の理想に極めて近づくんだ。部屋に閉じ込められ義務感で練習している訳じゃない。自分の中に溢れる可能性を解き明かしているだけなんだよ。」
2: ERIC GALES “MIDDLE OF THE ROAD” (2017)
Jimi Hendrix に憧れ、右利き用のギターを逆さまに使用した左利きの Eric Gales は、90年代初頭、Guitar World 誌のベストニュータレントを名刺がわりに華々しく登場しました。しかし以降およそ20年の間、Eric の名前が表舞台で取り上げられることはほとんどありませんでした。
2010年代に入り、転機はあの Shrapnel との契約でした。長年の艱難辛苦は、孤高のギタリストに愛と泪、汗と真実を染み込ませたのです。それは Jimi Hendrix と Miles Daves のレガシーを等しく受け継いだ王の帰還でした。
Dave Navarro, Joe Bonamassa, Mark Tremonti Carlos Santana といったエモーションの達人たちでさえ、Eric を “ブルースロック最高のギタリスト” “地球で最高のギタリスト” “ただただ驚異的” と Eric の才能を絶賛します。
中でもあの Gary Clark Jr.、Lauryn Hill がゲスト参加を果たした “Middle Of The Road” は、Eric に宿るロック、ファンク、ソウル、R&B、ヒップホップの灯火が、信じがたいほどオーガニックに溶け合った傑作となったのです。それは2010年代に開かれらたブルースやジャズのニューチャプターを探る旅とも密接にリンクしていました。
「俺がプレイしているのは全て、自身が経験した広大な感情だ。これまで克服し、貫いてきた下らないことのね。」
3: ICHIKA “FORN” (2017)
ゲスの極み乙女や indigo La End の頭領、百戦錬磨の川谷絵音との邂逅、遠き日本に住まいながら世界の名だたる音楽家から放たれる熱き視線、東京コレクションからNAMMを股にかけるしなやかさ、そして SNS を基盤とする莫大な拡散力。光耀を増した夢幻のクリスタル、琴線の造形師 ichika の有り様は2010年代を象徴し、現代に生きるアーティストの理想像といえるのかも知れませんね。
ただし、ichika は他の “インスタギタリスト” と異なりしっかりと作品というストーリーを残しています。
「僕は普段曲を作る前にまず物語を作り、それを音楽で書き換えようとしています。聴き手に音楽をストーリーとして追体験させることで、より複雑な感情に誘導することが出来るのではないかなと思っているからです。」という ichika の言葉は彼の作品やセンスを理解する上で重要なヒント。
つまり、映画や小説が基本的には同じ場面を描かず展開を積み重ねてイマジネーションを掻き立てるのと同様に、ichika の楽曲も次々と新たな展開を繰り広げるストーリーテリングの要素を多分に備えているのです。小説のページを捲るのにも似て、リスナーは当然その目眩く世界へと惹き込まれて行くはずです。それはきっと、30秒の魔法しか奏でられないSNSの音楽家にとって、左手と同様進化した右手の奇跡よりも羨ましい光景に違いありません。
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4: DAVID MAXIM MICIC “BILO 3.0” (2013)
「セルビアは言うならば西洋と東洋の文化がぶつかる場所なんだ。僕はそこで育ったから両方の世界から多大な影響を受けているね。だから確実に僕の音楽からその要素が聴こえるはずだよ。」
セルビアというギターにとって未知の場所、第三世界から颯爽と登場した DMM の躍進は、2010年代に撤去された境界の証でした。もちろん、テクノロジーの進化によって、DIY の音楽家が陽の目を見るようになったことも併せて時代は進んでいます。
「僕はまずコンポーザーなんだよね。だから違うサウンドを探索したりや違う楽器で実験するのが好きなんだ。」
Per Nilsson, Jakub Zytecki, Jeff Loomis といったマエストロが参加した “Bilo 3.0” において彼らは自分よりもギターにのめり込んでいると断言した David。もちろん、Jeff Beck と Steve Lukather を敬愛する David のソロワークは充分にフラッシーで魅力的ですが、しかしテクニック以上に彼の創造するギターミュージックは、繊細で想像力を喚起するカラフルな絵巻物です。何よりそこには純粋な音楽との対峙が存在します。
「”Bilo”では音楽が音楽を書いているんだ。一切のエゴに邪魔される事なく純粋に音楽自体を楽しむ機会を得ているんだよね。決して誰かを感動させようなんて思わないし、何でもいいけどこれは世界に発信しなきゃって感じたことを発信する僕流の方法なんだ。世界は聴いてくれている。幸せだよ。」
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5: ALTER BRIDGE “FORTRESS” (2013)
Mark Tremonti のソングライターとしての売り上げは、現代ヘヴィーミュージックにおいて比類のないものです。キャプテン “Riff” と称される偉大なギタリストは、ALTER BRIDGE と CREED の足し算で実に5,000万枚以上のレコードを売り上げているのですから。
ただし、Paul Read Smith SE シグネチャーモデルと MT 15アンプでアンセムを生み出し続けるロックスターのシュレッダーとしての一面は過小評価されているのかも知れませんね。
実際、Mark の奏でる起承転結、過去の巨人たちを赤き血肉としたソロワークの鮮烈は、Slash や Zakk Wylde にも引けを取らないスペクタクルを提供してくれます。メロディーの煌めきとシュレッドの焔がエピックの中で溶け合う “Cry of Achilles” は、アコースティックからボトルネックまで駆使した10年代最高のギターマジックでしょう。
大盛況のギタークリニックを開催する身でありながら、何より Mark は今でも学ぶことを恐れていません。弊誌のインタビューにおいても、チキンピッキングの習得に関し、「僕はただ、ギターソロ1つ1つを異なるものにしたいだけなんだ。独自のストーリーを語らせたいね。もし、前作から最新作までの間に新しいトリック(技)を習得したとしたら、僕はいつもそれらを出来るだけ多く新しいアルバムに投影しようとしているんだよ。」と語ってくれていました。
「僕はいつもギターを弾く前に作詞や作曲をしている。だけどギターを弾くことが大好きなんだ。新たな技術やスタイルに取り組む喜びは決して色褪せないよ。だってそれを自分のものにした時は、まるで魔法のような気分になるんだから。」
誰よりもギターを愛するロックスターは、世界からギターヒーローが失われる悲劇を防ごうとしています。何よりギターに出会って、サッカーに熱中していた Mark 少年自身人生が変わったのですから。
「大学に入って本当にギターにのめり込んだんだ。料理をしていたって、洗濯をしていたって、ロクな1日じゃなくても、いつもリビングでギターが弾きたいって考えていたんだから。」
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6: PLINI “HANDMADE CITIES” (2016)
「君たちの大半は Plini を知っていると思うけど、彼の新作 “Handmade Cities” は最高の、先進的な、メロディー、リズム、ハーモニーを深く進化させたインストゥルメンタルレコードなんだ。僕はこんな作品を待っていたし、驚異的な音楽体験を君たちにもぜひオススメするよ。」
ギターゴッド Steve Vai からギターミュージックの未来とまで言わしめた Plini は、プログレッシブの新たな桃源郷オーストラリアから世界に飛び出した逸材です。
ヘッドレスのストランドバーグを代名詞に複雑と爽快、ポリリズムとハーモニーを股にかける新進気鋭のテクニコアラは、意外なことにシンプルなソングライティングを心がけていると語ります。
「作曲は、まず可能な限りシンプルなやり方から始めるんだ。複雑さを取り払い、メロディーの基礎に立ち返ってね。だから最初は、子守唄みたいな感じなんだよ。」
その場所からシンコペーションやハーモニゼーションの塩胡椒で立体感を醸し出すのが Plini 流。
「モダンプログレッシブミュージックにおいて僕が最も不可欠だと思っているのは、リズムの中で起こっていることなんだ。」
モダンプログレッシブの世界は決して難解すぎるコードワークやリズムから成り立っているわけではないと Plini は証言します。ほんの一握りのテンションノートとシンコペーションが驚くほどに世界をコンテンポラリーに変化させのだと。
「ギタリストの多くは複雑な音楽をプレイするには、新しい魔法のコード進行が必要だと考える。基本の外にあるものを学ばなきゃってね。だけど、僕にモダンプログレッシブな音楽を興味深く感じさせるのは、感情的な豊かさなんだ。それはつまり、そのミュージシャンのバックグラウンドを音を通して読み解けるってことなんだと思う。」
カンポジアまでボランティアに赴き、恵まれない子供達のために楽曲を書き、売上を全て寄付する心優しいギターヒーローでもあります。
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7: VULFPECK “MR. FINISH LINE” (2017)
ブラックミュージックのリノベーションが進行した2010年代において、マルチプレイヤー Jack Strutton とベーシスト Joe Dart を中心とした VULFPECK の冒険はあまりにスリリングでした。
Spotify の薄利を逆手にとって、無音のアルバム “Sleepify” をファンにエンドレスで再生してもらい、ツアーの資金200万円を捻出してしまった破天荒なバンドは、世界にミニマルファンクの言の葉を浸透させた張本人。グルーヴを追求したインストから、PRINCE, Stevie Wonder の捻くれたポップファンクに純粋な R&B とその黒はグラデーションを拡げています。
中でも、Flea や TOWER OF POWER の Rocco、EARTH WIND & FIRE の Verdine をフェイバリットに挙げる Joe は今世界で最も注目を集めるファンカデリックベースヒーローです。Joe が語るように、そろそろ音楽はジャムセッションの時代に回帰するべきなのかも知れません。
「僕らは集まって5分か10分アイデアを交わすと、すぐレコーディングボタンを押すんだ。意図的にギリギリの状態で、瞬間を切り取るようにしている。デモを送りあったり、作曲に何ヶ月もかけたりはしないんだ。インプロビゼーションこそ VULFPECK の全てなんだから。」
8: GREG HOWE “WHEELHOUSE” (2017)
ファンクロックとジャズフュージョンを前人未到のテクニックで調合し、インテンスに満ちたギターインストの雛形を作り上げた巨人は、Richie Kotzen との共演が再度実現した “Wheelhouse” でダイナミックなルーツへと回帰します。
Richie との双頭レコード “Tilt” で世界中のギターマニアの心と左手をボロボロに折り、Vitalij Kuprij とのクラシカルな旅路 “High Definition”、Victor Wooten, Dennis Chambers との奇跡 “Extraction” で異世界を堪能したレガートの王様は、長い道のりを経て “正直さ” を求めるようになったと語ります。
「”Introspection” のトーンを高めたようなサウンドだね。だけどあの当時は、シングルコイルの “Start” みたいなトーンにハマっていたから表現法は異なるね。より正直な方向でやりたかったんだ。とても自然で正直なレコードだよ。ワンテイクのものだって沢山ある。”Tilt” みたいなレコードは消化すべきギターがありすぎたんだ。だって変だろ?僕はギタープレイヤーである前にアーティストだ。ミュージシャンであることが先なんだよ。ギターよりも音楽が僕のモチベーションなんだ。」
今回のコラボレーションで Richie は歌で Greg とより深く重なりました。今 Greg Howe が奏でるフューチャーファンクはリアルです。
9: CHON “HOMEY” (2017)
メタル、フュージョン、マスロック、チルウェーブと全方位から熱い視線を注がれる CHON の多様な創造性はまさに越境拡散する10年代のイメージと重なります。実際、バンドの “ホーミー” である南カリフォルニアの太陽、空気、夏の匂いを一身に浴び、望外なまでにチルアウトした “Homey” は、ジャンルに海風という新風を吹き込んでいます。
ソフトでカラフルなコードワーク、デリケートでピクチャレスクなリードプレイ、ダイナミックに研ぎ澄まされたバンドサウンド。高度な知性と屈託のない無邪気さが同居する、オーガニックかつテクニカルなその世界観はまさしく唯一無二。その鋭敏な感性が掴まえたエレクトロニカ、アンビエント、ハウスなど所謂チル系のトレンドを大胆に咀嚼し、トロピカルで新鮮なムードとテクニカルなマスロックを共存させることに成功していますね。
「ジャズピアニストからとても影響されている。CHON には2人のギタリストが存在するけど、1人は左手、1人は右手としてピアノを再現するイメージもあるんだよ。」
勿論、Thundercat や、FLYING LOTUS がフェイバリットに挙がっている事実を知るまでもなく、ここで彼らが、Jazz の領域を拡大する Robert Glasper と “Jazz The New Chapter” のフロンティア精神を意識したことは明らかです。
「自分たちが気に入るサウンドの楽曲を書き続けて、叶うならファンも僕たちの音楽を好きになり続けてくれることだね。その過程で、さらに新たなファンも開拓出来たら良いな。」
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10: YVETTE YOUNG “ACOUSTIC EP” (2014)
新たにギターを始める人の半分が女性。そんな変化の時代に、多くの女性アーティストに勇気を与えたマスロッククイーンこそ Yvette Young。精神面と技術面、両方において彼女がモダンギター世界に与えた影響の大きさは計り知れないものがあります。
「私には一つのスタイルに拘らず、フレキシブルでいることが重要なんだもの。そうすることで、沢山のことや解釈を他人から学べるし、スキルや多様性、そして自信を構築する大きなチャレンジだと見なしているのよ!」
4歳からピアノを始め、7歳でヴァイオリンを学んだという彼女の深遠なる七色のギフトは、決してただ一所に留まってはいません。マスロックに端を発し、ポストロックやプログレッシブまで豊かに吸収した彼女の音の葉は、流麗なテクニックと相乗効果で大空へと舞い上がります。
「私はギターのレイアウト、フレットや弦をピアノの鍵盤に見立てているのよ。低音弦はピアノの”左手”。高音弦は “右手”。その二つをブレンドすることで、ポリフォニー(複数の独立した旋律から成る音楽)を完璧なサウンドで奏でることが出来るのよ。この考え方はとても楽しいと思うわ。
それにピアノは間違いなく指の強さも鍛えてくれたわね。だから”ストロングタッパー”になれたのよ。」
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