COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【SLEEP THEORY : STUCK IN MY HEAD】


COVER STORY : SLEEP THEORY “STUCK IN MY HEAD”

“If Sleep Theory Was To Take All The Guitars Away, We Can Make a Pop Song. That’s What We Always Want To Do.”

SLEEP THEORY

SLEEP THEORY はまさにメタル世界のライジング・スター。たった1年で旋風を巻き起こしました。フロントマンの Cullen Moore はしかし、そのブレイクのために生涯をかけてトレーニングしてきたのです。R&Bミュージシャンの息子として育ち、父の後を継いで陸軍に入隊した Moore は、何年もかけて音楽キャリアの成功に必要な意欲、協調性、創造的なビジョンを培ってきました。
そして実際、このメンフィスのバンドは、2023年にデビュー・シングル “Another Way” をドロップした直後にブレイク。このムード満点のエモーショナルなアンセムは TikTok でバズり、わずか36時間で50万ビューを記録したのです。この即効性、即時性はまさに今という時代を誰よりも反映した存在でしょう。
「自分たちの音楽を広める機会に恵まれたのは幸運だった。インターネットとソーシャルメディアの力のおかげで、僕たちは人々とつながることができた。
TikTokで爆発的にバズったとき、僕たちはSNSでできる限りファンに対応しようとした。とにかく、今の時代はファンとつながることが重要だし、それが勢いを持続させる大きな鍵だったと思う」

Epitaph からリリースされたデビューEP “Paper Hearts” がその直後に発表され、David Draiman や Jelly Roll を含む多くのフォロワーや有名ファンを獲得。メタルコア、ポップ、R&Bをミックスしたバンドのエキサイティングなサウンドは、明らかに大きな反響を呼び、さらに SHINEDOWN, BEARTOOTH, FALLING IN REVERSE, WAGE WAR との共演で名を上げた SLEEP THEORY は、瞬く間にヘヴィ・ミュージックの大ブレイク・アーティストの一人となったのです。
彼らのサウンドは、BAD OMENS や SLEEP TOKEN のようなジャンルにとらわれないバンドを彷彿とさせ、ビートの効いたリフとソウルフルで胸を打つバラードを自信を持って織り交ぜています。
「正直、自分たちがどんなジャンルなのかさえわからない。ただ僕たちは、君たちの予想を裏切るつもりはない。ただこれが僕たちの好きなことなんだ」
Moore に加えて、ベーシストのPaolo Vergara、そしてギタリスト Daniel Pruitt とドラマー Ben Pruitt の兄弟で構成される SLEEP THEORY。Moore 以外のメンバーは、突然の注目に慌てましたが、Moore の反応は違いました。
「驚きはなかった。むしろ、”よし、始まったぞ “って感じだった」

つまり、Moore は一夜にして成功したように見えるかもしれませんが、彼がここにたどり着くまでには何年も必要とし、その道は決して一直線ではなかったのです。
この素晴らしきボーカリストが生まれる前、父親はR&Bに手を出し、子育てが優先される時期までバラードを書いていました。
Moore 自身の音楽への情熱が燃え上がったのは10代の頃で、彼は LINKIN PARK からマイケル・ジャクソンまで、あらゆるものにインスパイアされました。彼の父親は Moore をずっとサポートしてきましたが、しかし、母親は現実的な懸念を抱いていました。
「母も音楽が好きだったが、確実なキャリアを歩んでほしかったんだ。音楽で生計を立ててどっちに行くかわからないというのは、親にとって怖いことなんだよな」
Moore は父の音楽への情熱を共有しながらも、父と同じ軍人の道には進まないと確信していました。しかし、いつしか考え方や立場が変わり、彼はその “確実なキャリア” を選び、陸軍に入隊したのです。
「僕は決して面倒な人間ではなかったが、それでも軍隊に入ったことは自分にとって良かったんだ。他の人と協力し、心を開き、冷静になり、状況を全体的に見る方法を学べたからね。軍隊にいた時間は、いろいろな意味で自分を形成するのに役立ったよ」
しかし、結局 Moore の音楽への愛情は揺るがず、最終的にはロックスターの夢を追い求めるために退役を決めたのです。

まず、Moore はメンフィスのローカル・バンドと一緒にやってみたのですが、彼らのサウンドを次のレベルに引き上げてくれると信じていたプロデューサーの David Cowell との仕事をグループが拒否したため、そのパートナーシップは2019年に頓挫しました。そこで Moore と Cowell はクリエイティブ・パートナーシップを切り離し、新体制の SLEEP THEORY に専念することを決めたのです。
最初の数年間、SLEEP THEORY は Moore と Cowell を中心とした純粋なスタジオ・プロジェクトでした。しかし当初から、2人は音楽に対する大きな夢と野望を共有していました。
「多くの人は地元のアーティストと競争する傾向があるけど、それではダメなんだ」
SLEEP THEORY という名前はエニグマティックで、SLEEP TOKEN に次ぐ第二の “SLEEP” といったムードも醸し出しています。
「理由はバンドがある種の科学的な名前を調べ始めたという単純なことだった。科学的な言葉をググって、”REM Sleep” と “Theory” を見たんだ」
ベーシストの Vergara とはある誕生日パーティーで出会いました。彼がギターを手に取り、PARAMORE の “My Heart” を演奏するのを目撃した Moore は即リクルート。フィリピンから移住してきた Vergara は成功に飢えていました。
「2016年にアメリカに引っ越してきて、僕の人生の目標はミュージシャンか映画監督になることだった。バンドに加入したときは、今このような立場になるとは思ってもみなかった。フィリピンでバンドをやっていたけど、夢を実現したり、自分たちの曲を発表したりするチャンスはなかった。だから、もしアメリカに来て、バンドとしての夢を実現するチャンスがあるなら彼らの誇りになるようにしなければならない。その夢は今でもずっと心に残っている」

次に彼らはすぐにドラマーの Ben Pruitt を採用します。彼は “Another Way” のサビに入る、スキッターのようなドロップを見せつけました。
幸運なことに、SLEEP THEORY の音楽を求める声が急速に高まると、バンドは Ben の弟で、シュレッドとスクリームを自在に操るギタリスト、Dan を見つけます。ラインナップは固まりました。
「多くのステップを飛ばしたと言われるだろう。でも、正直なところ、いきなり急成長するのは、何年もそれに向かって努力するよりもストレスがたまるものなんだ。ちょっとでも、物事を風化させてしまうと、人々はすぐに気が散ってしまう……忘れ去られてしまう。どうすれば人気を保てるかを考えなければならなかった」
SLEEP THEORY の音楽的な成功の鍵は、ジャンルを飛び越えたサウンドのミックス、モダン・メタルの多様性を駆使して、最も熟練したメタル・リスナーをも飽きさせないその哲学にあります。受けた影響は、BRING ME THE HORIZON, LINKIN PARK, BEARTOOTH, SAIOSIN といった Moore が幼少期に愛したアーティストから、BAD OMENS, ISSUES のような現代のオルタナティブ・メタル・グループにまで遡ることができるます。特に後者の2019年作 “Beautiful Oblivion” は、Moore が今も目指している ベンチマークです。
ただし、彼らの影響はそれだけにとどまりません。子供の頃は Boyz II Men や TEMPTATIONS にも強く影響を受けていた Moore。当然、それらのインスピレーション、多くの人が共感するノスタルジーは SLEEP THEORY の音楽にも深く根付いています。
「SLEEP THEORY は、音楽業界において非常にユニークな位置にある。僕たちの目標は常に、ジャンルの融合を図りながら、人々に時代を超えたノスタルジックな感覚を与えること。僕たちはロック・バンドだけど、僕たちのサウンドは枠にはめることができないんだよ」

さらには、Ariana Grande や Drake まで。つまり、この予測可能性の欠如が SLEEP THEORY の創作プロセスを定義するようになっていったのです。&Bを織り交ぜたローファイな曲を作るという実験的な試み “Gone or Staying” のようなシングルから、Moore が “スーパーR&B” だと強調するリリースされたばかりのニュー・シングル “Stuck in My Head” まで、彼らの音楽は想像の斜め上へと飛び出していきます。
同時に Moore にとって、素直さと弱さを感じさせる歌詞を書くことも重要でした。
「多くの場合、人はその曲をどう受け取って解釈してもいいという書き方をする。でも僕たちは、それをどう受け取ればいいかをしっかり伝えて曲を書きたいんだよ」
Moore のリリシズムのこの要素は、感情的な直接的さをと同様に、SLEEP THEORY の “Reimagined” “再想像シリーズ” で大きな役割を果たしています。オルタナティブに録音された同じ曲の別の音源を聴くことで、彼の言葉の背後にある感情をまったく違った角度から見ることができるのです。
この例として彼は “Numb” を挙げています。”Numb”は、GODSMACK 風のピットでの怒りに満ちた失恋ソングとして生まれましたが、”Reimagined” バージョンではアコースティック・ギター・ソングとして、傷ついた絶望のナンバーへと変貌を遂げました。
「SLEEP THEORY からギターをすべて取り除いたら、ポップ・ソングができる。それが僕らがいつもやりたいことなんだ。ポップ・ソングを書き、それをメタルやロックにする」
Moore がファンからもらったネット上のコメントのひとつに、”このバンドは悪い曲をリリースしたことがない” というものがあります。彼はその考えを持ち続け、今後取り組むすべての作品の指標としています。
「その言葉に取り憑かれてしまったんだ。どの曲もバンガー (最高) に次ぐ最高であり続けようとしている。それはまるで強迫観念のようだ。音楽を作るのは楽しいよ.僕らはクールな曲を書いて、それを楽しんでいるんだ」
そして彼らは、2025年にリリース予定のデビュー・アルバムで、その注目度の高さに応えるような、バイラルを途切れさせないような作品を作ろうと意欲を燃やしています。Moore によれば、まだタイトルの決まっていないアルバムはほぼ完成していますが、”Beautiful Oblivion” のような “飛ばす曲のないアルバム” にしたいという彼の完璧主義と強迫観念のせいもあり、今でも微調整を続けているのです。
「僕たちは、君たちが予想もしないような音楽を投げかけるつもりだよ。そしてこのアルバムを隅から隅まで体験してもらいたいんだ」


参考文献: REVOLVER:SLEEP THEORY: HOW AN ARMY VET FOUND A NEW MISSION IN THIS METALCORE-MEETS-R&B PROJECT

MUSIC SCENE MEDIA: SLEEP THEORY INTERVIEW

LOUDWIRE: SLEEP THEORY

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MIRAR : MARE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MIRAR !!

“Thall Is Tone, Ambience And a Genre If You Want. Everything I Do In Mirar Is Inspired By Vildhjarta And HLB, so Based On That I Think We Have a Lot In Common.”

DISC REVIEW “MARE”

「”Thall” とはトーンであり、アンビエンスであり、君がそうとりたいならジャンルでもある。僕が MIRAR でやっていることは全て VILDHJARTA と HLB にインスパイアされているんだ」
Thall とは何なのか?Thall とは魂であり、ユーモアであり、重力であり、アトモスフィア。Thall の解釈は千差万別、人それぞれでしょうが、いつしかこの魔法の言葉は Djent の宇宙を超えた超自然的ジャンルを形成するようになりました。もちろん、その根源にして黎明は Thall 生みの親である VILDHJARTA。その分家である HUMANITY’S LAST BREATH も含まれるはずです。そして、彼らの音楽に心酔し、バンドを始めたフランス&ノルウェーの混合軍 MIRAR もまた、間違いなく “Thall” なのです。
「”Thall” は Calle Thomer と Daniel Adel のゲームに過ぎないんだ。山の中でも、夜でも、水辺でも、嵐の中でも。まるで魅惑の世界を探検しているような気分だった。彼らのギターの音は、まるで生き物のようで、魔女のようで、僕には小さな妖精に取り憑かれた風景や森が見えた。分析的なアプローチを超えて、ただ夢中になることができた。僕は “Thousand of Evils” の続編を作曲したいと思うほど夢中になったよ。特に彼らが何年も行方不明になっているときはね。
彼らのスタイルで作曲したいと思ったのは、彼らが音楽をリリースしていないことが悔しかったからだ。僕のパソコンには VILDHJARTA 風のリフが何十曲も入っていて、個性がなくてもいいから彼らのサウンドを真似しようと何年も費やしたんだ。だから、VILDHJARTA には感謝しているよ! 」
どうやら、MIRAR にとって Thall とは、MESHUGGAH→Djent→Thall という進化系統ではなく、MESHUGGAH→Djent、MESHUGGAH→Thall という考えのようです。そして、その MIRAR が提唱する Thall の進化論は彼ら自身の音楽によって証明されました。
MIRAR は敬愛する VILDHJARTA と同様、無機質なポリリズムの海に風景を持ち込みました。000 の重低音に感情を持ち込みました。それはさながら、暗い北欧の森に住む怪しい魔女の見せる幻影。魔法。怪異。
「高校卒業後は音楽学を学び、偉大な作曲家を発見した。最初によく聴いたのはルネサンスのポリフォニー(オッケム、トマス・タリス、ジョスカン・デ・プレ、マショー、パレストリーナなど)と中世の歌曲だ。一方で、ダブやダブステップのコンサートも見に行く。
それから、ヘンリー・パーセル、バッハ、ヴィヴァルディ、ラモー、クープラン、リュリ、そして全く違うスタイルではラフマニノフに没頭した。彼らは今でも僕のお気に入りの音楽家たちだ。
なぜかわからないが、僕はクラシックの時代にはあまり敏感ではない。でも、アーノルド・シェーンベルクやリゲティのような現代の音楽家は本当に好きだ」
そう、MIRAR は彼らがアートワークとして使用したカラヴァッジョの絵画のように、飽和した Djent のステレオタイプを断罪していきます。ここには、ルネサンスがあり、現代音楽があり、ジャズがあり、ダブステップがあります。そして何より、彼らのリフは Thall 発祥の由来となった World of Warcraft に巣食う夜のエルフのように悲しく、トロールのように畏怖めいていて、もちろん人狼のように雄々しく、アンデットのように怪しく蠢きます。そのピッチシフトは生命の証。彼らのリフ、彼らの音楽にはうねりがあり、胎動があり、命が込められているのです。
今回弊誌では、MIRAR にインタビューを行うことができました。「僕はメタルはあまり聴かない。インディーやジャズを中心に聴いている。この5年間は、メタルだとほとんど VILDHJARTA と HLB しか聴いていない。この2つのバンド以外、僕をインスパイアするメタル音楽はない。だから自然とこのジャンルで存在したいと思うようになった」 どうぞ!!

MIRAR “MARE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【HARPAZO : THE CRUCIBLE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH HARPAZO !!

“Prog Metal Is Not Dead, It’s Finally Getting Recognized. Music Should Be an Experience And Something New And Our Hope Is We Deliver That.”

DISC REVIEW “THE CRUCIBLE”

「SHADOW GALLERY はいつか復活する。そう信じているよ。僕らの最初の大きなブレイクは、日本の放送局やマサ伊藤のような人たちが、最初の数枚のレコードを強く支持してくれたからこそ起きた。だから僕は、そうしたプロモーターと日本をとても愛しているんだよ。日本のファンは、それほど選り好みしないし、新たな音楽の味に飛びつく準備ができている。日本のファンは音楽とバンドに投資してくれる。HARPAZO でもチャンスを掴めたら、そして僕が持ち込まずにはいられない SHADOW GALLERY の強固な影響をここで聴いてくれたらうれしいね」
SHADOW GALLERY は誠実なバンドでした。音楽のためだけに生きたバンドでした。旋律と構成の妙を追求し尽くしたバンドでした。プログ・メタルの理想形を体現したバンドでした。だからこそ、オリジナル・ボーカル Mike Baker の死は大きな衝撃で、彼の遺産を残した2009年の “Digital Ghost” が今のところバンド最後の作品となっているこもが残念でなりません。SHADOW GALLERY は今も存続していますが、彼らの音楽は15年もの間、”石に刻まれた” ままなのです。
「プログ・メタルは死んでいない。ついに認知を得てきているんだ。DREAM THEATER はグラミー賞を受賞したばかりだし、彼らの曲はどれも6分以上ある。僕たちのファンになってくれるのは、同じようなレシピに飽きた人たちなんだ。音楽は体験であり、何か新しいものであるべきで、僕たちはそれを提供したいと願っているんだよ」
しかし例え、SHADOW GALLERY がその “遺産” の中に住み続けていようと、心配はいりません。バンドの中心人物でマルチ・プレイヤー Gary Wehrkamp が彼の一番弟子 Marc Centanini を引き連れて復活の狼煙をあげました。”プログ・メタルのレミゼラブル” と評される HARPAZO で、彼らはトレンドとは真逆の複雑性、長尺、旋律美で現代のリスナーに新たな選択肢をもたらし、ロック・オペラ、プログ・メタルの再評価を促します。
「HARPAZO のポイントは、ジャンルの枠を超えたバンドを作ることだった。ロック・オペラは、マスターするのが難しい特別な芸術形態だけど、うまくいけば、リスナーはヒット・シングルだけを聴くのではなく、アルバム全体を考慮に入れて聴かざるを得なくなる。各曲は次の曲を強化し、コンセプトを構築するものでなければならない」
例えば、AYREON の “Human Equation” のように。例えば、AVANTASIA の “The Metal Opera” のように。例えば、MEATLOAF の “Bat Out of Hell” のように。HARPAZO の “The Crucible” はまさに音楽の “るつぼ” であり、アーティストのるつぼ。FATES WARNING の Mark Zonder をドラムに、ROYAL HUNT の DC Cooper をリード・ボーカルに迎え、プログ・メタルの黄金スカッドを完成させた HARPAZO は、そこに “演者” という名の多様なボーカリストたちを加えて美しくも狂おしいメタル・オペラを上演しました。
「”ファイナル・ファンタジー7″ をプレイして完クリし、悪名高い9999の限界突破とナイツオブラウンドを手に入れた。”ファイナルファンタジー・タクティクス”、”タクティクス・オウガ”、”サガ・フロンティア”、”スター・オーシャン”、”クロノ・クロス”、”ゼノギアス”、”エルデンリング”、”ダーク・ソウル”、”ドラゴンズ・ドグマ” などに夢中になったよ。これらのゲームにはすべて、英雄と巨悪が登場する。HARPAZO のストーリーと似ているのは間違いないね」
機械の体、機械の知能を求めた人類のディストピア。さながら銀河鉄道999のようなトランスヒューマニズムなストーリー・ラインは、実際、日本のゲームやアニメから大きなインスピレーションを得ています。それだけではありません。この世界に降臨した新たなヒーロー Marc Centanini は、桜庭基や植松伸夫を筆頭とする日本のゲーム・コンポーザー、音楽家たちからも影響を受けています。つまり、この HARPAZO という未曾有のメタル・オペラは、SHADOW GALLERY を発見し育んだ日本のファンに対する素晴らしき贈り物でもあるのです。
今回弊誌では、HARPAZO にインタビューを行うことができました。「”Tyranny” は僕にとって特別なアルバムだと思う。というのも、このアルバムの制作には、バンド・メンバー全員が様々な面で全面的に関わっていたと思うからだ。僕たちの影響力の偉大さを感じることができるし、そのチームワークはいつも僕の心に語りかけてくる」 どうぞ!!

HARPAZO “THE CRUCIBLE” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CRIMSON GLORY : TRISKAIDEKA】 REUNION 2024 !!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JEFF LORDS OF CRIMSON GLORY !!

“To Me, Progressive Suggests Innovation, But If a Given Band Tries To Innovate Or Change Too Much, They Will Be Discredited Because They Ventured Too Far Out Of The “Prog” Box. I Find That As Sad As I Do Ironic.”

DISC REVIEW “TRISKAIDEKA”

「”プログレッシブ” と呼ばれるロックやメタルのファンの多くは、自分が聴くものに関しては決してその主張を曲げないということだ。私にとっては、プログレッシブとは革新的であることを意味するのだが、もしあるバンドが革新的であったり変化しすぎたりすると、”プログレ” の枠からはみ出しすぎたという理由で信用されなくなる。それは皮肉であると同時に悲しいことだと思う。しかし要するに、音楽は主観的なものであり、誰もが自分の好きなものを好むということなんだよね」
80年代後半、メタルの多様性が花開く瞬間の前夜。”正統派” の枠組みの中で、いかにメロディックに、いかにプログレッシブにメタルは進化できるのかという挑戦を重ねたバンドが登場し、人気を博しました。FATES WARNING の “Perfect Symmetry” や IRON MAIDEN の “Seventh Son of a Seventh Son”、そしてもちろんその筆頭が QUEENSRYCHE の “Operation: Mindcrime” であったことに疑いの余地はありません。
いわゆる “プログ・パワー” の誕生。そしてその “プログ・パワー” の定着と拡大に、QUEENSRYCHE の傑作と同じくらいの貢献を果たした作品があります。CRIMSON GLORY の “Transcendence” です。
「Todd は QUEENSRYCHE に参加するために CRIMSON GLORY を去ったのではなく、バンドの “惰性” のために去ったのだよ」
“Transcendence” の音楽は、QUEENSRYCHE と比較してもずば抜けて完璧な “プログ・パワー” でした。まさに “超越的”。あまりに壮大で、あまりにメロディックで、知性を抱擁し、緩急自在、実にプログレッシブ。驚異のシンガー Midnight が持ち込んだ、次作のよりカラフルで実験的な傑作 “Strange & Beautiful” につながるアルバム後半の LED ZEPPELIN 的な実験も魅力的で、これほど好奇心を誘う80年代のメタル・アルバムはそう多くはないでしょう。
しかし、残念ながらこのミステリアスな仮面集団はあまりに “怠惰” でした。活動休止期間も長く、1983年から2013年の30年で残したアルバムはわずか4枚だけ。シアトリカルなファーストからエスニックな “Astronomica” まで、そのすべてがいかに素晴らしくとも、バンドは徐々に忘れ去られ、バンドの顔だった超絶ハイトーンの Midnight は亡くなり、新たな才能 Todd LaTorre は QUEENSRYCHE へと引き抜かれ、ピカピカだったシルバーの仮面は色褪せていきました。
「新しい CRIMSON GLORY は、最初に私たちをメタルの地図に載せたスタイルに意図的に戻ることになるだろう。しかし、同時に私たち全員がミュージシャンとしてどのように成長したかを明らかにし、現代的なエッジを加えながらもルーツに忠実であることが可能であることを示すことができればと思うよ。過去を再現することばかりにこだわっていては、アーティストとして成長できない。逆に、トレンディであること、時流にこだわりすぎるのも欠点がある。だから、バランスを取ることが大切なんだ」
それでも、仮面と薔薇の騎士は時を超えて戻ってきました。ここには Midnight も、Wade Black も、Jon Drenning もいませんが、それでも歴戦の強者たち、リズム隊とギターの片翼は今も健在。そして新たな血となるボーカリスト Travis Wills とギタリスト Mark Borgmeyer が加わりました。特に、Midnight の超絶ハイトーンからアペアランス、ペルソナまで完全にコピーして、”超越” を志す Travis の存在は驚異的。プログ・パワーの勇壮や正義、そしてファンタジーが必要とされる時代に、CRIMSON GLORY は再びその神秘と審美を世界に注ぐため復活を決めたのです。
今回弊誌では、ベーシスト Jeff Lords にインタビューを行うことができました。「日本食は大好きだよ!音楽では、BAND MAID は素晴らしいバンドだと思う。とくにドラマーの Akane は尊敬しているよ。和楽器バンドも好きでね。とてもクールなアクトだ。三味線奏者が好きなんだ」 どうぞ!!

CRIMSON GLORY “TRISKAIDEKA” : 10/10

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COVER STORY 【MASTODON : LEVIATHAN】 20TH ANNIVERSARY !!


COVER STORY : MASTODON “LEVIATHAN 20TH”

“If You Play Jazz, You Should Listen To Metal. If You Play Metal You Should Listen To Jazz. If You Play Country You Should Listen To Classical, You Know What I Mean?”

LEVIATHAN

「地上の愚かさで人間の狂気に勝るものはない。水にはすべての人を惹きつける魔力がある」
2004年。今から20年前の夏、メタル・リフに革命をもたらし、リフの歴史を変えた2枚のアルバムがリリースされました。MASTODON の “Leviathan” と LAMB OF GOD の “Ashes of the Wake”。奇しくもその20年後、2つのバンド、2つのアルバムは邂逅し、共に旅をはじめます。

MASTODON のセカンド・アルバム “Leviathan” は2004年8月31日にリリースされました。その衝撃は津波のように伝わり、ジョージア州アトランタとその周辺のDIYシーンからバンドを大舞台へと連れ出しました。2004年の Unholy Alliance ツアーで SLIPKNOT, SLAYER のサポートを務め、2005年のOzzfest ではセカンド・ステージに登場。ライターや掲示板のユーザーたちは、彼らが次の METALLICA ではないかと推測し始めました。
この比較は、音楽的成長の質の高さからいえば適切なものでした。もちろん、2002年にリラプス・レコードからリリースされたファースト・アルバム “Remission” は、見事なまでにニヒルで野心的なデビュー作でした。バンドはヘヴィ・メタルの頂点に臆することなく立ち向かい、奇妙で伸びやかなメロディック・パッセージ、恐ろしいほどヘヴィな血の激流、そして先見性のある歌詞のアプローチなど、独自の特徴的なサウンドを見せつけていました。
しかし、”Leviathan” はそれ以上のまさに津波でした。傲慢、強迫観念、狂気を描いたハーマン・メルヴィルの古典小説 “白鯨” を軸にしたこのコンセプト・アルバムは、よりフォーカスされた、より大胆な作品となりました。IRON MAIDEN から THIN LIZZY, MELVINS まで、様々な影響が渦潮のごとく渦巻いていながら、彼らのリフやサウンドは完全にオリジナルでした。そして、オープナーのエクストリーム・アンセム “Blood and Thunder” から、海の底から蘇ったエイリアン的コーダ “Joseph Merrick” まで、モダン・メタルの叙事詩はリスナーを冒険の船旅へと誘います。

今では、”21世紀最高のメタル・アルバム” と呼ばれることも少なくない “Leviathan”。20年経った今、ドラマーでボーカリストの Brann Dailer はこのアルバムを “僕らのディスコグラフィーの柱のひとつであり、僕らのすべてを変えたアルバム” だと語っています。
「”Leviathan” で自分たちが新しい場所に行ったような気がして興奮したんだ」
興味深いことに、MASTODON はこのアルバムの制作にあたって、特に強い音楽的野心を持っていたわけではありませんでした。彼らが出すアルバムはどれも、”その時たまたま取り組んでいた曲” を反映しているだけなのです。楽曲で十分にジャムり、強力だと判断した時、バンドはアルバムをレコーディングします。”Leviathan” の音楽は比較的早くまとまりました。そして彼らの音楽的ヒーローである NEUROSIS の例に倣い、彼らは2004年初頭に CLUTCH をサポートしたアメリカの東海岸から西海岸にまたがるツアーを利用して、狂気の試みを実行に移しました。
「よし、”Leviathan” の全曲を演奏しよう。そして、基本的に毎晩、ライブの観客の前でアルバムのリハーサルをするんだ。レコーディング地、シアトルに着くまでに、すべてを把握しよう!」
サポート・アクトとして、メインのバンドの観客にまったく未知の曲をぶつけるのは、狂気か天才かのどちらかでしょう。MASTODON の場合は、おそらくその両方でした。そのツアーでバンドが “Blood and Thunder” をジャムっている動画が出回っていますが、ベーシスト兼シンガーの Troy Sanders は、この曲のリード・ボーカルの音程を試しながら、大混乱の中で歌詞にもならない無意味なことを叫んでいるだけでした。
2、3ヶ月のツアーを終えてシアトルに着く頃には、エンジニアの Matt Bayles はこうぶっきらぼうに言ったそうです。
「2度とこんなことはするな。オマエらもうヘトヘトじゃねーか!」

メルヴィルの小説の中で、エイハブ船長がモビー・ディックと呼ばれる巨大な白いマッコウクジラを追い求めざるを得なかったように、彼らは自らの可能性を追い求めました。
「何が自分たちの地平線の上にあるのか、見当もつかなかった。でも、僕たち全員が、自分たちの想像力のさまざまな面や、自分たちが好きなさまざまな影響を実験することに興味を持っていたんだ」
後年のリリースで MASTODON はより表現力豊かな “プログ” に接近したといわれています。しかし、このプログレッシブな感覚は、マストドン・プロジェクトに最初から備わっていたものでした。”Leviathan” は、型にはまらないという意味でも間違いなくプログレッシブなレコードです。長年ライヴで愛されている “Megalodon” では、ギタリストの Brent Hinds が中盤でブルー・グラスの長めのリリックを披露し、その後、急転直下、METALLICA の “Welcome Home (Sanitarium)” の後半を強く想起させる怒涛のスラッシュ・パートに突入する場面はその象徴でしょう。
「奇妙な並置が僕らのお気に入りなんだ。リスナーの意表をつくようなことは何でも大歓迎だ」
MASTODON はメタルなのでしょうか?
「有機的でヘヴィでソウルフル。音楽的に複雑で挑戦的なものもあれば、頭脳的な意味でヘヴィなものもある。自分たちがメタルだと言うことを恐れてはいない。メタルというジャンルには、いろいろな形があると思う。たぶん、世の中にある他のどんな種類の音楽よりも多くの形があると思う。ダイナミックに、メタル・ミュージックでできることはたくさんある。本当にソフトに演奏することもできるし、クソほどヘヴィに演奏することもできる。ハードの中のハードとヘヴィの中のヘヴィが同時に存在できる。メタルではそれが可能なんだ」

“Leviathan” で MASTODON は現代的なリフの可能性、つまりリズミックな挑戦を追求しました。言いかえれば、MASTODON と LAMB OF GOD の登場で、一般的なメタルのリスナーまでも複雑さを包容し、欲しがり始めたともいえます。そうした意味でも、”モダン・メタル” における MASTODON の貢献は計り知れません。では、そうした複雑さ、”プログレッシブ” な影響はどこから現れたのでしょうか?
「特に70年代のプログレッシブ・ロックに影響を受けた。例えば、”Colony of Birchmen” という曲名が “The Colony of Slippermen” へのオマージュであるように。GENESIS の “The Lamb Lies Down on Broadway”。あのコンセプト・アルバムは僕の一番好きなアルバムなんだ。
赤ん坊の頃から僕の人生の大部分を占めている。僕の両親は初期の GENESIS に夢中だった。母の昔のバンドは “Supper’s Ready” をよくカバーしていたんだ。僕にとって GENESIS はおばあちゃんのミートローフのようなもので、最初の数音をピアノで聴くと心が安らぐんだ」
Brann はドラマーとしても Phil Collins の大ファンです。
「彼のドラミングは大好きだし、彼が出した Peter Gabriel 以降のアルバム、”Abacab” も好きだ!GENESIS のドラマーとして、彼は驚異的だと思う。
多くの人が彼のことを “GENESIS をダメにした男” としか思っていなかったり、偉大で革新的なドラマーというよりは、ジャケットとネクタイ姿のラウンジ・シンガーとしてしか知らなかったりする。
僕が Phil Collins と Stevie Wonder が好きな2人のドラマーだと話すと驚かれるよ。多くの人は Stevie Wander が自分のアルバムでドラムを叩いていることさえ知らないんだ。ドラムは彼が最初に手にした楽器なんだ。Stevie は、Peter Gabriel, David Bowie と並んで、僕の一番好きなミュージシャンだ」

加えて、ジャズからの影響が MASTODON の複雑さと重さの架け橋になっています。
「ジャズで影響を受けたのは Elvin Jones, Billy Cobham, Tony Williams。この3人がトップ3だね。この3人のキットの動かし方が好きなんだ」
まさにモダン・メタルの多様性。では、メタル・プレイヤーにとって、ジャズを学ぶことは重要なのでしょうか?
「僕も勉強したことはないけれど、ミュージシャンとして一般的に何でも聴くべきだと思う。ジャズを演奏するなら、メタルを聴くべきだ。メタルをやるならジャズを聴くべきだ。カントリーをやるならクラシックを聴くべきだ。もし音楽をやっているのなら、音楽的な状況やセッティングに入るときに、自分が何を話しているのかを知っておくべきだからね。そうすれば、何が何に合うかを頭の片隅に置いておくことができる。あらゆる種類の音楽について一般的な知識を持っておくべきだ。世の中にはどんなジャンルにも宝石がある。それを探すんだ。Willie Nelson のように、多くの人がその音楽について語り、クラシック・アーティストとして賞賛されていれば、きっとその音楽は素晴らしいものであるはずだ。今はピンとこないかもしれないけど、後でピンとくるかもしれない。
若いうちは少し閉鎖的になりがちかもしれないけれど、あるスタイルの音楽に対して “絶対ダメ” とは言わない方がいいと思う。たとえ好きでなくても、その音楽について何か知っておくべきだと思う。13歳か14歳の頃、スラッシュ・メタルをよく聴いていたんだけど、その時は家では他のものを聴いていることを認めることができなかった。聴いていたけど、カッコつけてたんだよな」
THE MARS VOLTA のメンバーだった Jon Philip Theodore と比較されることも多い Brann。
「Jon は僕の相棒なんだ!ライブで知り合ったんだ。彼は僕の親友で、よく話をする。僕らのスタイルは絶対に似ていると思う。初めて Jon の演奏を聴いたとき、いろんな意味で自分を思い出したよ。似ているところがたくさんあると思うし、彼のスタイルが大好きなんだ。彼は本当に流動的で、最高においしいビートを持っている。彼がキットを動き回る様子はとても流動的で、でも僕には彼がやることすべてが正しい場所にあるように思える。ドラマーに聴かせたいものは何でも、彼がやってくれる。彼は私を幸せにしてくれるんだ」

とはいえ、MASTODON と Brann は別段突拍子もない特別なことをしたわけではありません。解放弦を多用したカントリー風のリック、ツインギターのハーモニー、バディ・リッチのような手数の多いドラム・マシンガン、幾何学的な変拍子。彼らはこれまであったものを活用し、うまく溶け合わせることで難解でヘヴィでありながらオーガニックという MASTODON のユニーク・スキルを築き上げました。特に、当たり前のようなリフ、古臭いカントリーのリック、シンメトリーなパターンを、雷のようなドラミングで磨き上げ、リズムのトリックを生み出し、現代的に仕立て上げる Brann の手練手管はもはやリフの一部でした。
こうした音楽にしては、Brann のドラムは驚くほどルーズでしなやか。死ぬほどハードに叩いているわけではないのに、ブルータルなサウンドを生み出しているのは驚異的です。
「すべてのパートで基本的なビートを作ってからいじくり回す。基本の枠にはとらわれない。ストレートなビートでないとうまくいかないリフもある。でも、多くの曲では、自分のやりたいことをやって、2秒後にそれを戻すことができるんだ。
若い頃、たぶん16歳か17歳の頃、ツーバスに頼りすぎていると感じていた。シングルベースだけでビートをフルにするようにしたんだ。ツーバスは、必要なときにアクセントとして入れるんだ。軍艦や戦車が転がってくるようなリフもあって、そこで必要になる。
僕が演奏しているときの目標は、飛び立つことなんだ。飛び立ってどこかに行く。毎回そうなるわけではない。でも、もしその場所に行くことができたら、音楽を演奏することで得られる、ほとんど体の外にいるような体験がしたいんだ」

当時、スピードと”正確性” へと向かっていたメタルのトレンドを揺り戻したのも MASTODON でした。
「演奏にもっと多様性が出てくるといいよね。僕は超高速のツーバスが得意じゃないから、手を開発したんだ。手を鍛えるのと一緒に、クレイジーなフィルとかもたくさんできるようになった。僕のドラムの多くは、僕ができなかったことを許容した結果なんだ(笑)。そういうプレイをする連中が一番上手いんだから、わざわざ僕がいじろうとする必要はないだろう。僕はただ自分のことをするだけで、自分自身のオリジナリティを保ち、できる限り挑戦し、自分がプレーできる最もクールなものを考えるようにしたい。時には AC/DC のPhil Rudd になることも必要だ。僕はただ、自分が演奏しても面白いし、リスナーが聴いても面白いパートを作るように心がけている。音楽を中心にビートを組み立てているんだ。その時に鳴っているリフからインスピレーションを受けるんだ。そうすると、トランジションを作りたくなるし、クレッシェンドを作りたくなる。ドラマーとして求めている激しさが曲の中で起こるようにしたいんだ。次のレベル、”ランナーズ・ハイ” のようなものをね。それをいつも探しているんだ」
Brann はそれでも “ただドラムを叩いていただけ” と自身の貢献を軽視しますが、”Iron Tusk” の冒頭のドラム・ブレイクは、明らかに MASTODON が偉大なメタル・バンドの仲間入りを果たした瞬間でした。しかし、Brann にとってより重要だったのは、”感情にフックする” ことであり、偉大なヘヴィ・ミュージックを生み出した “原始的な場所” に行くことでした。そして、Brann にはその夢を分け合った盟友が存在したのです。
「彼は僕のハイハット・スタンドにメモをテープで貼っていた。演奏する前にね。それは、”Seabeast”…”Seabeast”はやらないの?せめて最後のリフだけでも……お願い……”って感じだった」
SLIPKNOT とツアーを共にした際、Joey Jordison がBrann のサウンドチェックを見ていた時の話。モダン・メタル界で最も偉大なドラマーである2人が、互いのプレイを見守り、賞賛し合っていたのです。両者とも “忙しない” ドラマーとして名を馳せましたが、スネアを鳴らして楽曲を作り上げた Brann に対して、足とバスドラで主張する Joey はまさに好対照の好敵手でした。
ともあれ、Joey の懇願は十分に理解できます。”Seabeast” は、異世界のように蛇行したギターラインとのトリッピーで漂うようなボーカルから、一風変わった音階の轟音コーラスで推進力を得て進む海獣。最後のリフは、そのギザギザの牙で強襲しながらバンドが今日まで忠実に守っている激しさを見せつけます。
「他の作品がよりポップになったり、スーパー・プログレッシヴになったとしても、少なくとも1枚のアルバムに2、3回は、常に牙を見せようとしているんだ」

とはいえ、MASTODON には怒りや激しさだけがあるわけではありません。
「妹は僕が15歳の時に自殺した。妹は14歳だった。それから13年。僕が心の中に抱えていたすべての痛み。姉を失った痛みはいつもそこにあった。TODAY IS THE DAY では怒りが込み上げてきた。それ以降は、怒りたくない。MASTODON で活動を始めてアトランタに移ったとき、個人的に大きな癒しがあった。それには MASTODON が大きく関係している。それが、”Remission” を作った大きな理由のひとつだ。Remission とは、許しと癒しという意味だ。MASTODON が助けてくれた。人生に起こった多くのことを許してくれた」
彼らの音楽が複雑になるにつれ、バンドは “Leviathan” ほど直接的な攻撃性を見せることはほぼなくなりました。だからこそ、シンプルかつ強烈な “Blood and Thunder” のメイン・リフを思いついた瞬間は、まさに奇跡でした。MASTODON 流 “Paranoid”, “Enter Sandman”, “Highway Star” のようなアンセムで、シンプルで、即効性があり、誰も否定することはできません。
「”Blood and Thunder” の最初のリフが出来上がったとき、全員が部屋に集まって、100時間演奏し続けたよ!」
Brann に言わせれば、バンドはあのリフで宝くじに当たったようなもので、そこからリスナーは MASTODON に病みつきになるのです。
“Blood and Thunder” が天才的なのは、その原作である “白鯨” のエッセンスを巧みに抽出しているところでもあります。”Blood and Thunder!” という絶叫自体が、18世紀に一種の誓いとして生まれたもの。小説では、ペレグ船長が叫び、彼が所有するペコッド号の乗組員たちに、エイハブ船長の指揮の下、急いで出港するよう促す呼びかけの言葉でした。
1984年の “Powerslave” に収録された IRON MAIDEN の名曲 “Rime of the Ancient Mariner” が、基本的にコールリッジの同名の詩を自分たちのために書き直したのとは異なり、MASTODON は白鯨をテーマのバックボーンとして使用しています。”Aqua Dementia” (ボーカルは NEUROSIS の Scott Kelly)では、彼らはさらに踏み込んで、船室の少年ピップがクジラ船から飛び降り、一時的に海に捨てられている間に精神に異常をきたした経験を詳しく説明しています。
「水とか火とか、いろんなものを使いたかった。純粋な攻撃性も欲しかったし、美しさも欲しかったし、すべてが混ざり合っていたかった」

この曲のもうひとつのイメージである “大地を燃やす完璧な火” は、アルバムの水のテーマに反するもの。MASTODON の最初の4枚のアルバムがそれぞれ元素のひとつをテーマにしているのは、”Remission” のリリース後に考案されたものでした。”Remission” の火のシンボルを認め、そして彼らは、次の作品に水を求めたのです。
水というテーマは、その性質上、絞り込むのが難しく、Brann は2003年のハワイ滞在中に “白鯨” を購入しました。この本がハワイに由来することも、ハワイの火山の女神ペレの燃えるようなイメージがリヴァイアサンの歌詞に残っていることもそれが理由。また、このアルバムの中で最も過酷で不協和音が多い “ĺsland” に描かれているように、1973年にアイスランドのハイマエイ島で起きた噴火にも言及しています。
そして “Hearts Alive”。この曲は言葉ではとても言い表せません。まるで海そのもののようなサウンド。海水は揺れ動き、沸騰し、重厚なリフと揺らめくアルペジオが互いに重なり合う。そして高揚感あふれるギター・ソロ。さながらメルヴィルの小説の最後に出てくるペコッド号の沈没に対する鎮魂歌のように、最後の3分間で鳴り響く勝利の和音と湧き上がるリズムの波動。白鯨とマストドンが共に水面を突き破り、海は墓場となり、空に向かって上昇していきます。
さらに白鯨と鯨狩りの道具は、Brann とジャケット・アーティストのポール・ロマーノとの会話に完璧なインスピレーションを与えました。バンドは、”M” の後ろに交差した銛をバンドのロゴ兼海上の紋章のように使用。ロマノがこのアルバムのために制作したアートワークは、MASTODON の歌詞と音楽に加え、小説や関連する原典、学術的なリサーチなど、多くの素材に恵まれました。そうして、船を背負った巨大な白鯨の威厳は、音楽史上最も壮大なアルバム・ジャケットのひとつとなったのです。
「アルバムが完成したとき、駐車場に座ってビールを1ケースくらい飲みながら、”Leviathan” を何度も何度も聴いたのを覚えている。出来上がりにとても興奮していた。みんながどう思うかはわからなかった。”Blood and Thunder” については、シンプルでストレートすぎると怒っていた人たちがいたのを覚えている。でも、自分たちが書きたいこと、好きなことを書いていただけなんだ」
そうして “白鯨” を捕まえた “Leviathan” から20年。結成から四半世紀が経とうとしていますが、MASTODON のもうひとつの特筆すべき点は、2000年以降メンバーを一人も失っていないことでしょう。エイハブのような執念が、彼らをこれまで以上に強く結び付けているのです。
「同じ4人組がずっと活動を続けているのは、確かに最近では珍しいことだと思う」

参考文献: INK19:An Interview with Brann Dailor of Mastodon

LOLIPOP MAG: MASTODON

KNOTFEST:Of Fire and Water: Twenty years of Mastodon’s ‘Leviathan’