COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【DAWN RAY’D : TO KNOW THE LIGHT】


COVER STORY : DAWN RAY’D “TO KNOW THE LIGHT”

“We Are a Black Metal Band, But Worry Not, We Are Anarchists And Antifascists. We Still Want To Be Part Of This Community.”

TO KNOW THE LIGHT

リーズのステーションハウスは、かつて警察署でした。そのため、今でも警察官と話すためにドアをノックする人が後を絶たないほどです。レコーディング・スタジオとして再利用された多くの古い建物と同様に、この場所の特徴は、新しい機能とうまくクロスオーバーしています。The Stationhouse の場合、いくつかの小部屋が、バンドがギターアンプを置いたり、ボーカルを録音したりするためのアイソレーション・ブースになっています。
Fabian Devlin は、「あの部屋は昔の留置場だったんだろうね」と言います。「僕らからするとかつての卑劣な場所でレコーディングして、今はクリエイティブになれる場所、警察を解体するアイデアを探求できる場所になっているというのは、ちょっと不思議な感じだったね」
Fabien と彼のバンド DAWN RAY’D がかつての警察署で録音した曲は、バンドのサードアルバム “To Know The Light” のオープニング・トラック “The Battle Of Sudden Flame” でした。この曲は、 “豚野郎が何もないのに子供を虐待した” 後に子供の父親が炎で反撃する物語。歌詞によると “分断の間違った側に生まれた” 警官の話。この曲は、レコーディングされた場所で行われていた “ビジネス” に対する考えが明確であり、特に「給料をもらっていた警官たちははみんなくたばれ” という宣言に、彼らの思いが込められています。
バンドのシンガー兼バイオリニストの Simon Barr がこの楽曲を微笑みながら紐解きます。
「そこには素敵なメタファーがあると思うんだ」
すでに DAWN RAY’D に目をつけている人たちにとって、こうした過激さは驚きではないでしょう。2015年に “A Thorn, A Blight EP” で登場して以来、リバプールを拠点とするブラックメタル・トリオ Simon、ギターの Fabian、ドラマーの Matthew は今や、政治的な事柄を扱うバンドの代名詞となり、イギリスのメタル・アンダーグラウンドの新星となっているのですから。”To Know The Light” のリリースを控えた彼らは、その音楽の質と発言力の両方において、英国エクストリーム・ミュージック界で最も話題のバンドのひとつとなっています。

DAWN RAY’D は警察が嫌いで、反ファシスト。資本主義はあらゆる戦争と同じくらい破壊的だと考えています。選挙は結局のところ良い方向にはあまり向かわないという思想から、投票参加しません。王室について彼らがどう考えているかは想像がつくでしょう。つまり、DAWN RAY’D は、最も基本的なレベルでの人権、コミュニティ、平等、自分自身と隣人のために周りの世界をより良くすることとそのための努力のみを信じているのです。彼らは、一度や二度ではなく、何度でも、誇りを持ってアナーキズムを実践していきます。
「アナーキズムとはギリシャ語で “指導者のいない人々” を意味する “anarcho” から来ている」と Simon は説明します。「世界で起こっていることを外から見てみると、とにかくすべてが混沌としているよな。資本主義のもとでは、世界は滅びつつある。これほどカオスな世界はないだろう。僕にとってアナーキーとは、矛盾しているようだけど、秩序、協力、組織、そしてもっと全体的な生き方を意味しているんだ」
Fabian が付け加えます。
「他の誰にも悪い影響を与えない限り、誰もが自分にとって正しい生き方をする権利を持っている。そして、それを少し拡大すると、自分が生きたいように生きられるだけでなく、他の人たちが生きたいように生きられるようにベストを尽くすべきなんだよな。人は皆喜びと幸福に満ちた人生を送るべきで、できるだけ多くの苦労を取り除くべきなんだよ」
煽情的なオープニングと、より激しい音楽的な衝動が示すように、”To Know The Light” は政治的な怒りと同じくらい個人的なテーマを扱ったレコードです。Simon は、人はスローガンに惑わされることなく、最終的なゴールを自身が生きるに値する人生であると認識することだと定めています。それが結局は、すべての人のためになると信じて。
「COVIDでは、アナーコ・ニヒリズムに傾倒したんだ」と Simon は言います。「環境は破壊され、すべてが最悪で、革命も起きないかもしれない。しかし、ただ諦めて人間嫌いや絶望に屈するべきじゃない。酷い現実に対処する方法は、とにかく抵抗すること。抵抗のために抵抗し、尊厳と喜びを見出すことなんだ。それは、この世界が何であるかを見つけ、受け入れ、続けることにつながるからね」

実際、”To Know The Light” は、様々な意味で彼らのこれまでの作品とは一線を画しています。政治的な側面は変わりませんが、以前よりも個人的な傾向を帯びていて、怒りから絶望、そして周囲の闇を根本的に受け入れ、解放と喜びという新たな理解に至るまで、アナーコ・ニヒリズムの旅を辿るような歌詞になっているのです。テーマとなる内容の多くは、怒りと抵抗に根ざしていますが、ポジティブな要素も随所に見受けられます。
DAWN RAY’D はフォーク・ミュージックを、労働者階級の人々の傷や虐待、実生活の物語を記録する方法として定義し、他の方法ではアクセスできないような情報を広める方法と目しています。だからこそ、サウンド面でも彼らは伝統的なフォーク・ミュージックの要素を自分たちの音楽に取り入れていて、特に “Requital” や “Freedom in Retrograde” などの曲ではハーモニーやレイヤーにその傾向が見られます。
アルバムのジャケットは、デモの火の前でシルエットになった人物。”To Know The Light” は、単なる叫びではなく、新しい世界の見方を提示する誠実な作品だと彼らは考えてほしいのです。
「労働者が自分たちの人生を語ることができる方法のひとつがフォーク・ミュージックだ。労働争議、革命家の人生、そして権力者が我々に対して行うあらゆる虐待を記録している。過去と現在の間に隔たりはなく、これは最善の方法で語られる真実の物語なのだ。フォーク・ミュージックは “アコースティック” の代名詞ではなく、僕たちの実際の生活の音楽であり、苦労の結晶なんだ。
女性を残酷に扱い、貧しい人々を苦しめ、有色人種を平気で殺し、虐待する金持ちをかばい、反対意見を押しつぶすような組織を憎むことは議論の余地がなく正しい。警察への反対を正当化する必要はない。それは警察を支持する人たちの責任だ」
最近、英国ではもっぱら、最高権力者の金銭スキャンダル、警察での性的暴行、行方不明の移民の子供たち、不法滞在を許さないと下院で叫ぶ現職議員(Fabian は政治の中心にある “残酷さ” を強調するだけだと言う)、給与と条件についてストライキに入った疲れ切った病院スタッフを非難する政治家など、下水のようなニュースが垂れ流されています。
「絶望の中に身を置くのは簡単だ」と Fabian は言います。「このアルバムのテーマのひとつは、絶望を受け入れ、そこに寄り添い、絶望を通過し、でも絶望感を麻痺してしまわないようにすること。絶望に打ちのめされず、そこから喜びを見いだすべきなんだ。それがアナーキズムなんだよ」

当初、DAWN RAY’D はここまで政治的なことをやるつもりはありませんでした。3人はスクリーモのバンド We Came Out Like Tigers で一緒に演奏し始めましたが、このバンドには政治的な傾向があり、政治活動家が運営するスクワットで、同じような考えのバンドとよく演奏していました。このバンドが終わると、彼らは DAWN RAY’D(19世紀のアナーキスト作家 Voltairine de Cleyre の詩から取った名前)を結成し、Simon の不思議なほど効果的なヴァイオリンをトップに、新しい、ブラックメタルの道を歩み始めたのです。政治的な内容は、ブラックメタルとの関係性により、より顕著になりました。
「ヨーロッパ本土では、ブラックメタルは危険な領域だった。ヨーロッパのスクワットでは、国家社会主義とのつながりのせいで、人々はブラックメタルをチラシに載せないんだ。どのシーンでも同じだよ。極右はとっくの昔に文化利用の重要性に気づいていたんだ。ブラックメタルでも全く同じことが起こった。ノルウェーの数人のティーンエイジャーが、物議をかもすために卍を使い、実際のナチスに食い物にされた。だけど、パンク、スカ、テクノ、民族音楽でそうした連中が処分されたように、このシーンのチンカス連中も追放されるはずさ」と Simon は言います。「だから、俺たちは最初から、”俺たちはブラックメタル・バンドだけど、心配するな、俺たちはアナーキストで反ファシストだ、俺たちはまだこのコミュニティの一員でありたいんだ” とはっきり言わなければならなかったんだ」
続けて、ブラックメタルとアナーキズムの親和性について語ります。
「たしかに、ブラックメタルは伝統的にアナーキストと考えられているシーンではないと思うけど、革命、野性、自由、権威への憎悪といった考え方は、ブラックメタルの文脈の中ですべて納得がいくものなんだ。かつて、ブラックメタルがアナーキズムと相容れないものであったとしても、今は相容れるということだよ(笑)。
ネオナチはソーシャルメディアのコメント欄で僕たちに文句を言うけど、僕たちは右翼的なものを削除するのがとても上手で、彼らはライブで僕らに何か言う勇気はないんだ。それに、僕たちの発言には信じられないようなサポートがある。演奏するすべてのショーでこうしたアイデアについて話し、大きな募金活動を何度も行い、出来うる限り声を上げる僕らを人々評価してくれているようだから。僕たちが受ける憎しみは、僕たちが得るサポートによって圧倒的に覆い隠されるのだよ」
つまり、ブラックメタルは音楽的にも、哲学的にも、革命の最中にあります。
「PANOPTICON や ISKARA のようなバンドが道を切り開き、アナーキズムがこのジャンルにさらに踏み込んでいけるような新しい波が来ているように感じるね。
それに、時代の流れでもある。僕たちは絶望的な時代に生きていて、恐ろしい未来に直面している。どんな政治家も決して何かを解決することはできず、僕たちが信頼できるのは自分自身と自分たちのコミュニティだけだということが、これほどはっきりしたことはないだろうから。僕は、今、音楽を含む人生のあらゆる部分に革命への飢えがあると思っていてね。
ブラックメタルはアナーキズムにとても適している。僕は教会が嫌いだ。白人のキリスト教の礼節が嫌いだ。カトリック帝国の犯罪が嫌いだ。それらの建物が燃えても涙を流さない。メタルの右翼は、実は白人のキリスト教的価値観を支持している。それは、我々アナーキストよりもブラックメタルから分離しているように感じるね」

彼らの精神的ルーツは、MAYHEM や EMPEROR よりも、CRASS や CHUMBAWAMBA のアナーコパンクに近いと言えるのかもしれません。しかし、かえってその折衷性が、このリバプールのバンドのメッセージと影響力を高めています。
「パンクのショーでは僕らはメタル・バンドで一部の人には重すぎるし、ブラックメタルのショーでは政治的すぎて少し面食らう人もいるけど、それを楽しんでくれる人は必ずいる」と Simon は説明します。「そういうやり方が好きなんだ。僕たちは、本当に様々なフェスに出演してきた。マンチェスターで行われた反ファシストのフェスティバルに出演したんだけど、ヘヴィなバンドは僕らだけで、ラッパーやDJが出演していたよ」
逆に言えば、”真の” ブラックメタルでないことが、DAWN RAY’D のアイデンティティだと Simon は言います。MY DYING BRIDE を手がけた Mark Mynett の起用もその恩恵の一つ。
「僕たちに対する批判は、”真の” ブラックメタル・バンドではないというものが多かった。なぜなら、僕たちは反ファシストでありアナーキストだから。でも、”真の” ブラックメタル・バンドでなければならないというプレッシャーも感じていた。ブラックメタルはこうあるべきという他の人たちの考えに訴えかけようとしていたのかもしれない。このアルバムでは、それに逆らうような形で、自分たちの言葉で本当に演奏したいレコードを作ったんだ。ブラックメタルがどうあるべきかではなく、DAWN RAY’D がどうあるべきかでね。より親しみやすくメロディック。狂気のシンセサイザー、クリーン・ボーカル、ハーモニーを強調したアカペラ・ソング、そして大聖堂のパイプ・オルガン…”グロッシー” とでも言うべきだろうか。今回のアルバムは全く違うんだ。このレコードはとても違っていて、より多くの努力と時間とお金をつぎ込んでいるんだ」

政治性はすでに長い間、個人として彼らの中にあったもの。Simon はまず学生の反戦デモに参加し、次にリバプールのDIYパンクやハードコアのライブに行き、そこで音楽と政治の意味をしっかりと結びつけていたのです。そんなライブで手にしたアナーコ集団 CrimethInc のZINEは、彼がすでに信じていたものと多くの共通点がありました。
「そこにはアナーキズムとは何かということが書かれていて、”もしあなたがこれらのことをすでに信じているなら、あなたはすでにアナーキストです” と書いてあったんだ。それが僕にとっての啓示の瞬間だった。物事が間違っていることを知り、世界をより良い場所にしたいと思ったんだよな。すでに学生の抗議活動などにも参加していて、皆が世界をより良い場所にしたいというエネルギーを持っているのだとわかっていた。CrimethInc のZINEは、それに名前をつけただけなんだ」
Fabianにとっても、より若い頃の反抗心が種になっているとはいえ、同じようなことが起こりました。
「若いころはよくスケートボードをやっていたんだ。それは、よく不法侵入して、よく追いかけられたということ。それが、権威が必ずしも正しいとは限らないという考え方につながっているんだ。その後、CrimethInc にハマり、学生のデモに参加するようになったね。アナーキストのブロックを見て、すごいと思ったのを覚えているよ。彼らは僕に新聞を売ろうとしたり、自分たちの奇妙なグループに参加するよう説得したりせず、ただ本当に親切で、協力的で、励ましてくれて、決して見返りを求めない人たちだったからね。思いやりがあって、思慮深くて、みんなよりちょっとだけ張り切っていたんだよ。これからは彼らと一緒にやっていこうと思ったんだ」
そして、BLACK SABBATH のおかげで、メタルは “政治的であることから始まった” と断言する Matt。
「ドイツやスイスなど、かなり裕福な国でも、人々は反発し、自分たちの生活を完全に自分たちのやり方で送り、さらに周りのものをより良くしようと努力している」

環境破壊に使われる機械にダメージを与えたり、フードバンクを運営したり、単に隣人が無事かどうか確認したりと、アナーキストの “反撃” とは実際には様々なことを意味します。
「パンデミックのとき、リバプールでは素晴らしい活動が行われたんだ」とFabianは例を挙げて説明します。「政府は、繁栄するコミュニティの一員であり、私達の住むコミュニティに多大な貢献をしながらも、パンデミックで働くことを許されなかったため国の支援に頼っていた難民を、馬鹿げた、執念深い理由で、街から数マイル離れた場所に移して、本当に隔離するというひどい政策をとっていた。アナーキズムの最も良い例のひとつは、つながりを維持することが直ちに必要であると認識し、対応できること。誰かが車で来て、人々が無事かどうか、法的手続きを行っている人々が必要なサポートにアクセスできるかどうか確かめ、店からどれだけ離れているかを知って、すぐに自転車を用意した。こうやって、実践的で即効性のある組織作りを行っているのは、ただ、優れた人々なんだ。委員会や多額の資金は必要ない。必要なのは、僕たちにできるポジティブな活動なんだよ」
一方で、アナーキストを、一部の人たちはただの愉快犯や破壊者だと考えているようです。
「その通りだ」 と Fabian も認めます。「長い間、無力で底辺にいるように感じられてきた人たちが、破壊を通して自分の持っている力を認識すれば、それは人生においても自分の持っている力を認識する良い方法となる。正直なところ、企業の窓ガラスが割れたところで、誰が気にするの?どうでもよいことだよ。でも、それがきっかけで、職場で上司から搾取されないように組織を作ったり、地域社会に貢献したりと、ポジティブな形で物事を実践できるようになれば、それは素晴らしいことだろ?」
「僕が会った中で、破壊で反撃をやっている人たちは、フードバンクを運営している人たちと同じだよ」と Simon は付け加えました。「彼らは同じなんだ。良いアナーキストと悪いアナーキストは存在しないんだ。僕が知っている限り、違法とされるようなことに携わってきた人たちは、思いやりのあることをやっている人たちでもあるんだ」

バンドの反警察的なスタンスについても、多くの人がいろいろと言うでしょう。
「僕たちが主張しているのは、警察の改革とか、資金の削減とか、規則の変更とかではなく、警察を廃止することなんだ」と Fabian は言います。「今日、警察を廃止すれば、世界はより良くなるのだよ」
それはとても強い主張です。それは、誰かに頭を蹴られていても警察官が止めてくれないという事態を意味します。
「でも、警察が実際にそうしているのを見たことある?たいていは、後から現れるだけだ」Fabian は真剣です。「でも、地域の人たちがお互いに気を配っている例ならある。今、僕たちが座っているこのパブでも、誰かが襲われているのを見たら、みんなその人を助けるためにベストを尽くすだろう。何もしないのは、人間として、コミュニティの一員としての義務を放棄していることになるのだから。多くの場合、人々は互いに助け合うもので、警察がいることは事態を単純化するのではなく、むしろ複雑にしてしまうのではないだろうか?
君の家に泥棒が入ったとき、警察はその犯罪を解決してくれるかい?自分のものは戻ってくる?刑務所で凶悪犯罪はなくなるの?薬物使用はなくなるか?警察は真に凶悪な犯罪を犯した人たちを罰することができるのだろうか?警察は財産と金持ちを守るために存在する。家庭内暴力や性的虐待の被害者、貧しいコミュニティ、有色人種のコミュニティに対する扱いを見れば、警察が正義を実現したり、人々を助けたりするために存在しているのではないことは明らかだろ?」
DAWN RAY’D の面々は、こうした疑問について議論し、自分たちの言動に責任を持つことを喜んでいます。同様に、自分たちの意見に反対する人たちを招き、まず話を聞き、対話をすることも厭いません。
数年前、彼らはあるフェスティバルで、政治的にいかがわしいと思われているバンドと共に出演しました。ファンの中には、なぜ彼らが降板しないのかと疑問を持つ人も。その質問に対して、Fabian は、「文化的空間は争われるものであり、もし我々がその中立の領域から一歩下がっていたら、負けを認めたことになる」と言っています。

彼らは、自分たちの意見に反対する人がいることも当然知っています。何人かの人たちから殺害予告を受けたからです。
「彼らは、すべてのひどいことを言ってきた」 と Matt は疲れ果てて話します。「他の誰かが僕たちを好きにならないように、積極的にコメント爆撃をしたり。トランス、クィア、有色人種など、あらゆる人々が僕らのファンになるのは危険だと思わせようとしたんだ。でも、彼らはずっと残ってくれている」
アメリカでのツアー中、彼らは何度も “撃たれるぞ” と脅され、ある公演では武装した警備員がいたほどでした。
「もちろん、嫌なことだ」と Matt は言いますが、脅しに屈するつもりはありません。「でも、右翼を怒らせるということは、何か正しいことをしているということなんだ。彼らは恐ろしい人たちだ!彼らは人々がより良く生きることを望んでいない。彼らの本性に訴えようとしても無駄だ。アナーキストや反人種差別主義を明確に表明するバンドの数は、本当にあっという間に爆発的に増えたんだ。今、メタル・シーンには素晴らしいバンドが沢山いるんだよ。僕たちの負担も少しは軽減されたよ!(笑)」
最終的に、DAWN RAY’D は世界がより良く、より素敵で、より公平な場所になることを望んでいます。もっとぶっきらぼうかもしれませんが、ENTER SHIKARI とそれほど違いはありません。音楽には多くのメッセージが込められていて、その最大のものは連帯とコミュニティなのですから。私たちは皆、誰かに顔をブーツで踏まれることなく、ただ生きていたいのです。アナーキーとは、彼らがそれを実現するために選んだ名前に過ぎません。
「僕らをアナーキズムと呼ぶ必要はない」と Simon は話します。「これは単なるイデオロギーではないんだ。教義を広めることでも、カルトや政党になることでも、BURZUM のシャツを着た人をライブから追い出す現場警察になることでもない。ちなみに、僕らはそんなことはしたことがない、そんなことをするために、やっているんじゃないからね。ただ、近所の人に声をかけ、地域に密着し、直すべきところを見て、自分で直す。実際にやってみれば、それがとても簡単なことだと驚くはずさ」
Fabian も同意します。
「君の持っている力は、すべてどこかで役に立つ。アナーキストである必要はないけど、今こそ世界をより良い場所にするために戦い始めるべき時なんだ。権力に助けを求めるのをやめて、自分たちでやり始める時なんだ。革命に参加する人は誰でも歓迎される。ねえ、みんな。世界を良くするために、誰かの許可を得る必要はないんだよ」

参考文献: KERRANG! Dawn Ray’d: “You don’t have to ask for permission to make things better”

REDPEPPER:Playing on the dark side: An interview with Dawn Ray’d

RUSH ON ROCK:EXCLUSIVE INTERVIEW: DAWN RAY’D

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FROSTBITT : MACHINE DESTROY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH IVAN HANSEN OF FROSTBITT !!

“We Have For As Long As We Have Listened To Metal Been Listening To Japanese Rock Bands Like Dir En Grey, Maximum the Hormone, Moi Dix Mois, Babymetal And a Lot Of Anime Openings!”

DISC REVIEW “MACHINE DESTROY”

「Mana 様の作品はどれも好きだけど、特に Moi Dix Mois で作られた音楽は最高だよね!Dir En Grey は、僕たちの大のお気に入り。”Yokan / 予感” や “Cage” のようなファンキーでアーバンなものから、”Obscure” のような Nu-metal、そして後のデスコアやジャンル・ブレンドのヘヴィなものまで、彼らの全てのスタイルが大好きだよ!特に特定の曲のライブ・バージョンが大好きで、より生々しくエモーショナルに聴こえるんだ。”濤声” のライブ・バージョンのようにね。あれは僕にとって完璧だ!NARUTO は特に130話までが僕にとって特別な場所。Asian Kang-Fu Generation の “カナタハルカ” は、生々しい叫びのようなボーカルで、僕に大きなインスピレーションを与えてくれた!」
日本の音楽は世界では通用しない。そんなしたり顔の文言が通用したのも遥か昔。アニメやゲームのヴァイラル化とともに、日本の音楽は今や海外のナードたちにとって探求すべき黄金の迷宮です。とはいえ、ノルウェーのノイズテロリスト FROSTBITT ほど地下深くまで潜り込み、山ほどの財宝を掘り当てたバンドはいないでしょう。
「特にボーカルとベース・サウンドは、KORN から大きなインスピレーションを受けているよ。”Solbrent” “Frostbitt” では、Johnathan Davis とChino Moreno のヴァイブに深く入り込んでいるんだ。ただ、そのせいで少し非難されたし、一時期ちょっとやりすぎたという事実にも同意しているよ。でも、この新しいレコードでは、彼らのインスピレーションはそのままに、他の多くのものも取り入れて、より味わい深いものになったという気がするね。自分たちを取り戻したような感じさ」
未だ Djent が新しく、勢いのあった10年代初頭に頭角を現した FROSTBITT は、近隣の MESHUGGAH や MNEMIC (素晴らしい!) に薫陶を受け、ローチューンのリズミック・マッドネスに心酔しながらも、同時に Nu-metal, 特に KORN や DEFTONES の陰鬱や酩酊をその身に宿す稀有な存在としてシーンに爪痕を残します。ただし、インタビューに答えてくれた Ivan Hansen の歌唱があまりにも Jonathan Davis に似すぎていたため、あらぬ批判を受けることもあったのです。まさに “Life is Djenty”。
しかし、FROSTBITT の時間旅行は “Machine Destroy” で空も海も飛び越える3Dの冒険へと進化しました。”Machine Destroy” というアルバム・タイトルが示すように、FROSTBITT の目的は常識や次元、時間、既存のメカニズムの破壊。CAR BOMB とのツアーは、FROSTBITT にとってノイズと獰猛さを探求するきっかけとなり、あの英国の破壊王 FRONTIERER をも想起させるアクロバティックなエフェクト・ノイズの数々は、”Frost-Riff” というユニーク・スキルとしてリスナーの脳裏に深く刻まれます。これはもう、ギミックの域を超越したテクニックの領域。
さらに、ここには日本からの影響も伝播しました。”Masked Ghost Host” のシアトリカルで狂気じみた呪文のような言霊の連打からの絶叫は、明らかに Dir en Grey の京をイメージさせますし、作品のテーマは攻殻機動隊。何より、”曲をリフ・サラダではなく、構造や繰り返しのある実際の歌らしい歌にしたい” という彼らの理想は非常に日本的な作曲法ではないでしょうか。タイトル・トラック “Machine Destroy” の致死的な電気の渦の中でも埋もれない、メロディの輝きは日本イズムの何よりの証拠。今作ではさらに、時に RADIOHEAD の知性までも感じさせてくれます。
デスメタルの単調とブラックメタルの飽和が囁かれるこの世界では、新しいアイデアを持ったバンドが必要とされているようです。1996年に片足を突っ込み、もう片足をThallの迷宮に突っ込んで、両腕を遠い東の島国に向けて突き上げる FROSTBITT の3Dな音楽センスは、明らかに前代未聞唯一無二で尊ばれるべき才能でしょう。
今回弊誌では、Ivan Hansen にインタビューを行うことができました。「ノルウェーは、暖かい夏と厳しい寒さの冬と雪の両方がある美しい場所。国土が広く、人々は国土全体に散らばっているから、ノルウェーを旅行するときはかなり遠くまで行くことが多いよね。それに、多くの家庭が森の中に山小屋を持っているから、歩く文化や山越えの文化も盛んなんだ。少なくとも、ブラックメタル・バンドからはそんな雰囲気が伝わってくるし、僕自身も同じようなことを実感しているんだよ」 どうぞ!!

FROSTBITT “MACHINE DESTROY” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FIRST NIGHT : DEEP CONNECTION】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH RENECK SWEET OF FIRST NIGHT !!

“The Good Old AOR Scene Might Even Disappear Completely In About 20 Years. I Would Not Be Surprised By That But The Music Remains. Thanks To The Albums And The Internet.”

DISC REVIEW “DEEP CONNECTION”

「エストニアで生きていると、時間が経つにつれて、たくさんの素晴らしいバンドを発見できて面白かった。情報のない箱の中で生きているような時もあったからね」
時に限定された状況は、強力な好奇心を生み出します。音楽を聴けないから聴きたくなる。ゲームを買えないからやりたくなる。女性が振り向いてくれないから振り向かせたくなる。そんな、不自由の中の自由から、人は進歩とチンポを続けてきたのです。
エストニアはバルト三国で最も北に位置する小さな国。スウェーデンやフィンランドに面しながらもメタルやロックの黄金郷となれなかったのは、多分にソヴィエト連邦に支配された過去があるからでしょう。しかし、かつて激しく抑圧を受けていた美しい国は、独立を回復した後、目覚ましい発展を遂げます。
ITの分野において、エストニアは今や世界の最先端です。電子国家と呼ばれるように、ほとんどの手続きはインターネットで終わります。Skypeを産んだのもエストニア。さらに、国民の教育レベルは非常に高く、マルチリンガルで、報道の自由度も日本とは比べられないほど高いのです。
そんな小国の回復力、”レジリエンス” は、エストニアから世界を驚かせた FIRST NIGHT の音楽にもしっかりと根付いています。
「バッキングトラックのアイデアやミキシングのアイデアは全て Mutt Lunge から影響を受けている。ただ、僕らのバンドは DEF LEPPARD やどんな他の一つのバンドのようになるつもりはないよ。80年代の全体を愛しているからね」
FIRST NIGHT のメイン・コンポーザー Reneck Sweet にとって、情報が制限された世界はむしろプラスに働いたのかもしれません。ストリーミングや”〇〇放題”は確かに簡単で便利で安価ですが、いつでもあることの安心感が自分で探す楽しさ、探究心や好奇心を大きく犠牲にしている可能性はあります。事実、Spotifyのオススメとは無縁の環境で育った Reneck は、今やトレンドやセールスとは程遠いメロディック・ハードの世界を自らの手で探求し、遂にはエストニアが誇るインターネットの分野で大きな話題となるまでに成長を遂げたのです。
実際、デビュー作から4年の月日を経てリリースされた “Deep Connection” には、80年代への愛情、知識、好奇心が溢れんばかりに詰まっています。北欧的なキーボード/シンセのとうめいかと華やかさ、80年代ドイツ風のクリーン・ボーカル、カナダから輸入した清らかなギター・ライン、さらに80年代後半のブリティッシュAORからの影響、そしてもちろんアメリカのビッグ・サウンドがコーラスに組み込まれ、この作品はあらゆる国、あらゆる側面からメロディック・ハードの “美味しいとこどり” を実現しているのです。ウジウジとした女々しいテーマも実にメロディック・ハードしていてたまりませんね。
「AORというジャンルが徐々に衰退していくのも不思議ではないよ。ほとんどのメロディック・ロックバンドは、若い聴衆を獲得するために、よりヘヴィでモダンなサウンドにすり寄っているからね。でも僕はその方向には行きたくないんだ。僕らのアルバムを買ってくれるのは45~60歳くらいの人が多いんだよ。だから、古き良きAORシーンは、20年後には完全に消滅してしまうかもしれない。そうなっても驚かないけど、音楽は残っていくんだ。名作アルバムとインターネットに感謝だね」
Reneck はもはや、メロディック・ハードの消滅を悲観してはいません。というよりも、かつて限られた情報の中でも情熱を失わなかった自らの姿を重ねながら、音楽さえ電子空間に残っていれば誰かが聴いてくれる、語り継いでくれるという確固たる自信が Reneck の中にはあるのでしょう。DEF LEPPARD, Bryan Adams, BLUE TEARS, BOULEVARD, STRANGEWAYS, DA VINCI といった決して消えない名手の名作たちのように。”Deep Connection” で FIRST NIGHT は明らかに音のタイムトラベルをマスターしたようです。残念なのは、実際に80年代へとタイムトラベルが行えないこと。きっとそこには、満員のアリーナが待っていたはずです。
とはいえ、世はTikTok戦国時代。あの場所でメロディック・ハードがバズる確率は、きっとゼロではないでしょう。今回弊誌では、Reneck Sweet にインタビューを行うことができました。「僕は良いメロディーがとても好きなんだ。僕にとって音楽はメロディーが全てと言えるほどにね。そして “Deep Connection” はまさにそんな僕の望んでいたとおりのものとして完成した」 元嫁の顔をジャケにできるのはメロハーだけ。1st AVENUE 好きに悪い人はいない。どうぞ!!

FIRST NIGHT “DEEP CONNECTION” : 9.9/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【THE WORLD IS QUIET HERE : ZON】 VIDEO GAME IS PROG METAL…


COVER STORY : THE WORLD IS QUIET HERE “ZON”

“The Legend of Zelda: Majora’s Mask Is My Favourite Game. I Loved Ocarina of Time, but Majora’s Mask Is On a Different Level”

ZON

プログレッシブ・メタルとは、実験的でしかし感情的で、技術的にも音楽的にも他の人がやらないようなことをやってのけたうえに、そのすべてをうまくまとめるという難攻不落の使命を帯びたジャンルです。ウィスコンシンの新鋭 THE WORLD IS QUIET HERE のニューアルバム “Zon” はその難題をクリアした稀有なレコードでしょう。彼らのプログレッシブ・メタルは実に冒険的で、エモーショナルで、しかしその創造的な自由の中で、エクストリーム・ミュージックのファンなら誰もが魅了されるであろうメタリックな旅へと誘います。
ドラマーの David Lamb はそもそもジャズ畑のプレイヤーですが、驚くべきことにこのバンドは他にも “学位” を持つプレイヤーが二人もいます。
「ギタリストの Isaac Stolzer と僕 (Tyler Dworak) は音楽専攻で、二人ともレコーディング・プログラムを修了している。David も少しだけど、彼はソフトウェアのプログラミングか、コンピュータの何かを勉強したと思うんだ。彼はドラムが得意で、Izaac はジャズ・アンサンブルでギターを弾いていたね。それがきっかけで、ふたりは本当につながったんだ。僕らの何人かはクラシックのトレーニングを経て、音楽の学位を持っているんだよ」
新ボーカル Lou の歌唱は、この分野では非常に独特で、際立っていて、例えるなら SikTh の Mikee のような異彩を放っています。
「Lou が素晴らしいのは、自分が何をやっているのか理解していること。彼の音域はとても広いから、シンガーではない僕らがハーモニーを担当する必要もなかったね。歌の分野でもっと経験豊富な人がいることは、僕たちにとって本当に必要なことだったし、Lou がそれに応えてくれることに本当に感謝しているよ。それに、面白いことに Lou は車の中で全部録音したんだ。彼は基本的に車の中だけで自分を孤立させることができる。だから、僕の知る限り、Lou の音はすべて彼の車の中で録られたものだ」

同時に、”Zon” には元 PAINTED IN EXILE のギタリスト Ivan Chopik、元 NATIVE CONSTRUCT のギタリスト Kee Poh Hock、そしてOTHERS BY NO ONE のシンガー Max Mobarry といったそうそうたるメンバーがゲスト参加していて、界隈における彼らの高まりつつある名声を証明してます。ただ、特別興味深いことに、TWIQH の面々は、プログレッシブ・メタルが要求する高いハードルを越えるため、ストーリーや音楽においてビデオゲームをジャンプの原動力としています。
もちろん、メタル、特にプログレッシブ・メタルの世界では、そのマニアックな音楽性や世界観と共鳴するかのようにゲームやアニメの “オタク” が多いのですが、彼らの “ナー度” はその中でも群を抜いています。ベーシストで中心メンバーの Tyler Dworak が “この世界” にのめり込んだのは、あるゲームがきっかけでした。
「漠然とした記憶だけど、セガの “アラジン” が最初に買ったゲームかな。実際に覚えている最初のゲームは “ドンキーコング64” だね。クリスマスに買ってもらったんだけど、僕の小さな脳みそが吹き飛ぶくらいの衝撃。あのゲームの巨大さは現実離れしていて、ビーバー (ノーティ) を蹴って探検するのが楽しい世界だった。今でも持っていて、ときどき引っ張り出して遊んでいるよ」
最近はどんなゲームにハマっているのでしょうか?
「最近はアクション・アドベンチャーや RPG が好きだね。時間がかかるゲームや、ストーリーのあるゲーム。音楽と一緒だよ。僕は “ゼルダの伝説” シリーズで育ち、今でもほぼ全作品が大好きで、ずっと夢中になっている。ちょうど今は、ゼルダ・スタイルのゲームのルネッサンスのようなもので、とても素晴らしい。新しい “God of War” も最高だよね。”エルデン・リング” は、プレイヤーにとっては時には悲惨な結果になることもあったけど、オープンワールドのゲームの勝利だよ。
最近は JRPG にハマっているんだけど、ちょっと変わったゲームも好きだよ。”マザー” のゲーム、特に “マザー3” が大好きでね。17年前のゲームとは思えないほど、ストーリーの構成が斬新なんだ。影響されるよね。ここ数年は “ペルソナ5″ に夢中で、あのゲームは僕らのバンド以上にスタイルがあるよ。あと、僕と妻が冗談のように話しているのが、”ゼノブレイド・クロニクル” シリーズ。あのゲームはバカバカしくて、脚本も声優もかなりひどいものだけど、それも魅力のひとつだし、大好きなんだ (笑)」

当然、TWIQH のアルバムにも際立ったストーリーが存在します。
「僕らの音楽はすべて1つの連続した物語だから、このアルバムはファースト・アルバムの直後が舞台なんだ。前作 “Prologue” のリリースからもう5年も経っているんだ。歌詞を読んで内容を推測することなく、インパクトのある形で物語を伝える方法を模索しているよ。もっと決定的な表現方法を見つけたいんだ。
ファースト・アルバムの主人公は、1曲目から推測できるように、”Some Call Me Cynical” という曲だけど、自分をとても卑下していて、人生観が良くないんだ。彼は内向きのスパイラルに陥り、アパートの屋上から飛び降りることになり、”Prologue” の最後で死んでしまうん。僕たちは、人が死ぬとどうなるのかを知りたかった。
何年か前に Eithan のアイデアで、死後の世界は天空の宇宙いうことを思いついてね。死後の世界は “Zon” と呼ばれる惑星から始まり、そこで自分の嫌なところや人生で後悔したことを自分なりに受け止めて、折り合いをつけていく。
だからこのアルバムの物語は、人生の終わりにひどい人間だった主人公が、そのことに気づき、どうすれば変われたか、どうすればもっと良くなれたかをゆっくりと受け入れていくというものなんだ。自分を償うことができれば、その先にあるものを手に入れることができる。彼は今は煉獄から抜け出せないでいるようなものだね。
SF的な要素は少なく、どちらかといえば少しファンタジーに傾いているね。宇宙船やディストピアなどは出てこないよ。手遅れかもしれないのに、より良い人間になろうとする自己反省についてのとても個人的な物語なんだ」
ゲームのようにアルバムのストーリーに浸って欲しいとバンドは望んでいます。
「このアルバムは濃密で、たくさんのことが起こっているんだけど、みんなに歌詞に参加してほしいんだ。このアルバムを聴いて、絶対的なヘヴィネスを追求するのではなく、今まで聴いたことのないような、内省的で奇妙な旅を楽しんでもらいたいんだ。アルバムで語られていることはたくさんあって、ちょっと行間を読むと大きなテーマがあるんだ。そういうことを考えてもらいたいね。
さっきも言ったけど、このアルバムは自分を見つめ直すための大きな作品だし、個人的にもそれはより良い人間になるためにとても大切なことだと思う。だから、その旅を始めるのは大変なことだけど、これをその第一歩にしてほしい。だから、このアルバムの内容を楽しんで、歌詞を読んで、僕らが何を言おうとしているのか、よりよく理解してほしいな」

ゲームからは、ストーリーのみならず、音楽的なインスピレーションも受けているようです。
「”Zon” のベースラインは “ペルソナ3” の勝利のテーマにインスパイアされたものなんだ。偶然、初代スーパーマリオブラザーズの “バウアーズキャッスル” を超彷彿とさせるベースラインを書いたんだけど、これは結局使わなかったね。
アルバム中盤にある “Heliacal Vessels II” のパートがお気に入りなんだ。この曲には、他のどのパートとも違う、Lou が伝道師に変わる部分があるんだ。主人公が出会うキャラクターはほとんど預言者のようなもので、彼は信徒に向かって演説している。ジャズの要素がたくさん入っていて、その部分はとても楽しくて、13分もある超ヘビーな曲の真ん中にあるのだから、おそらく最も奇妙である意味ダサいパートだと思う。このユーモアは多くの人に気に入ってもらえたと思うよ。
最近、僕はシンセサイザーを使った音楽をたくさん作っているんだけど、このゲームがミームになっているのと同じくらい、”Undertale” のサウンドトラックにはインスパイアされたな」
最も長時間プレイしたゲームは何でしょう?
「いくつか思い浮かぶな。生涯では、間違いなくポケモンシリーズがナンバーワンだね。フランチャイズ全体で、何千時間もプレイしているだろう。赤・青・黄以降のゲームは、駄作も含めてすべて何度もプレイしている。見たことのないポケモンを見ると、6歳の頃、レベル100のカメックスだけが大事だったことを思い出すんだ。
“シングルゲーム” ということであれば、パンデミックが始まった頃に夢中になった “ペルソナ5″ は、妻とふたりで合わせて300時間以上やり込んでいる。また、”大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL” と “The Binding of Isaac (アイザックの伝説)” はそれぞれ400時間以上やっているね。どちらもとても上手になるにはそれでも時間が足りないけど、電源を入れて物事を深く考えないようにするには最高のゲームなんだ」

“Zon” の美しいアートワークのように、今までプレイした中で最も美しいゲームは何ですか?
「”大神” だね。最近でこそ人気が出てきたけど、2006年に発売された当時、あのゲームは大失敗という認識だった。当時は新しいゲーム機が出始めたばかりで、PS2のゲームには誰も見向きもしなかったのだけど、このゲームは隅から隅まで本当に素晴らしい出来だった。筆で描いたような独特のグラフィックと、セル画のような陰影が、独特の世界観を作り出していたね。日本の民話に根ざしたストーリー、驚くほど面白く心に響く脚本、ゲーム界で最も素晴らしいサウンドトラック(”ワンダと巨像” に次ぐもの…かも)と相まって、ぼくがこれまで経験した中で最も充実したゲーム体験のひとつとなっているよ。いつもリプレイしているけど、その魅力は決して消えることはないね」
TWIQH の音楽のように、今までで一番難解なゲームは何ですか?
「おそらく “エルデン・リング” だろうね。まあ、他のフロムゲーを全くプレイしていない僕が言うのだから、もう信用は失墜しているけど。バンドのメンバーと一緒にプレイするために、”エルデン・リング” を発売と同時に手に入れたんだけど、荒削りだったね。あのゲームをプレイするのは好きだったし、驚異だと思うんだけど、フロムゲーをプレイしていない人間としてのトラウマは強烈なんだ。このゲームはわざと難しくしているのだ!そして時には自分の実力不足もあるのだ!と悟る必要があったね…でも、このゲームは好きなように遊べるから、その仕組みを学ぶにはもってこいだったよ。とはいえ、本当に難しいボスからは全部逃げていて、マレニアは倒せなかった。もう限界なんだ…」
一番良かったゲームは何でしょう?
「最近よく言われることだけど、”ゼルダの伝説 ムジュラの仮面” が一番好きなゲームだね。”時のオカリナ” も好きだけど、”ムジュラの仮面” はレベルが違うね。Nintendo 64の他のゲームのほとんどは、プレイヤーがある場所から別の場所に移動することが重要で、環境は背景に溶け込むようなものだった。しかし “ムジュラの仮面” は、じっくりと世界を探索し、そこに登場するキャラクターたちと交流することで、初めて成立するものなんだよ。
月が落ちてくる3日間で、時計塔の街が変化していく様子には、いつも驚かされる。市民たちのスケジュールが変わり、彼らとの関わり方によってすべてが違ってくる。ゲームって決してゲーム性だけじゃないんだなあと、子供のころに目から鱗だったんだ。それに加えて、超弩級のサウンドトラックとタルミナという舞台が、これ以上ないくらいにマッチしているんだよ」

そうした “良い” ゲームから学んだこともあります。
「可能な限り包括的で寛容で多様でありたいと思っている。僕は FLUMMOX というバンドの大ファンなんだ。そのバンドの僕らの親友 Max Moberry は、OTHERS BY NO ONE という別のバンドにも参加しているんだけど、彼らは…間違ったラベルを付けたくはないんだけど、そのコミュニティの一員なんだ。そして Max は僕らのアルバムにもフィーチャーされているんだ。”Moonlighter” の一番最後にね。
だから、僕たちはどんな生き方も歓迎するし、誰も排除したくはないんだ。むしろ、少数派の人たちにスポットライトを当てたい。OTHERS BY NO ONE は昨年 “Book II: Where Stories Come From” という素晴らしいアルバムを出していて、FLUMMOX は最近たくさんのライブをやっているよ。この2つのバンドとは Max のおかげでつながることができた」
トレカの収集にも余念がありません。
「”ハースストーン” は大学までずっとプレイしていたよ。物を集めるのは好きなんだけど、実際に物を買って集めるお金がなかったから、無料でゲームができるのは痒いところに手が届くというかそんな感じでね。2021年にBlizzard(Entertainment)が何かと物議を醸し、今のままでは応援できないと思い、その年の夏からプレイをやめたんだ。ちょうどその頃、同僚の多くが仕事帰りや昼休みに定期的に “マジック:ザ・ギャザリング” をプレイしていることを知り、僕も飛びついたんだ。
トレカにハマったのは、同年代のみんなと同じで、ポケモンカードが最初だよ。幼少期は絶対的なアイテムだったな。買いものに行くたびに親にカードをせがんだよ。これもみんなと同じように、実際のゲームの遊び方を知らなかったから、友達に見せびらかしたり、弟に自慢したりするためだけに、カードのお金をせびっていたんだ。それがきっかけで収集癖がついたというかね。その後、”遊戯王”、”マジック・ザ・ギャザリング” へと進んだんだ」

トレカの醍醐味とは何でしょう?
「一緒にプレイする仲間さ。コマンダー形式をプレイするので、だいたい4人組になる。確かに勝つために、できるだけ攻撃的になるゲームもあるけど、たいていの場合は、できる限り非常識なやりとりをしようと思っているんだ。テーブルで誰も見たことのないようなクレイジーなことが起こるのであれば、喜んでゲームに負けるよ。職場の Discord では、デッキのアイデアやルール、トレードなどについてみんなで話している。一緒にいて楽しいコミュニティだよ」
これから、ネットゲームやトレカ、テーブルトークRPG を始める人たちにアドバイスは?
「僕はストーリーを語るのが好きで、即興で人を笑わせるのが好きなんだ。僕がプレイを始めたのは、みんなで貢献できる方法で、お金もかからず、友達と面白い話をしたかったから。初めてプレイする人は、恥をかきたくないとか、オタクになるのが心配とか、いろいろな不安を抱えているし、それは理解できる。キャラクターを演じる “ということは、演じたことがない人” にとっては怖いことなんだよね。地元のゲームショップのイベントに行くのは、安全で歓迎される空間である限りオススメだよ。そこにいるほとんどの人は、たいてい新しい人にやり方を教えることにとても熱心で、理解を示してくれるはずさ」
音楽世界も同様に、初心者やバンドに寛容であるべきでしょう。
「人々はレコードを注文するべきだと思うし、好きなバンドから何かを受け取り続けるべきだと思う。音楽業界は今、バンドがツアーに出られなかったり、ツアーに出ても大赤字だったりと、良い状況ではないので、できる限りバンドをサポートし、クールな音楽を聴くべきだと思うよ」

参考文献: Level Up: The World Is Quiet Here’s Tyler Dworak on Video Games, Card Games, and RPGs

Interview with Tyler Dworak of The World Is Quiet Here

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【SANGUISUGABOGG : HOMICIDAL ECSTASY】


COVER STORY : SANGUISUGABOGG “HOMICIDAL ECSTASY”

“A Chuck Jones or Tex Avery approach, where we rip out entrails and we’re jumping rope with them.”

HOMICIDAL ECSTASY

Devin Swank は SANGUISUGABOGG が笑われることを気にしてはいません。オハイオ州コロンバスのフロントマン(そして時折スタンダップ・コメディアン)は、デスメタルのピエロ的な側面、道化役を強く意識しています。9月にエリザベス2世が亡くなったとき、彼はファンのお気に入りである “Dead As Shit” をステージ上で彼女に捧げ、SANGUISUGABOGG のミームを煮詰めた自虐的な Instagram アカウントを運営しています。ソーシャルメディアの誰かが、バンドの増え続けるTシャツ・デザインのストックをぼろくそに言ったときには、彼らの Encylopaedia Metallum のジャンルを “マーチ・コア” と変更。血みどろにこだわった歌詞も、怖いというより喜劇の匂いがします。
「俺はこれを面白いことだと思っている。トムとジェリーやロードランナーのチャック・ジョーンズのようなアプローチで、内臓を引きちぎって縄跳びをするんだ」

オハイオの悪名高い、境界を押し広げる、吸血デスメタルの SANGUISUGABOGG は、CANNIBAL CORPSE, MORTICIAN, GWAR, DETHKLOK といったビジュアルやステージにも拘った先達からインスピレーションを得て、90年代初頭のアクションコメディ “Sgt. Kabukiman N.Y.P.D” からカブキマン軍曹を招集し、ホラー・コメディのセンスで、妥協のない、率直で、強烈なデスメタルを作り上げています。
自称ホラー映画の狂信者で、10 歳のときに両親に引きずられて劇場でリングを見に行ってトラウマとなったSwank。トロマ映画とミュージック・ビデオでのコラボレーションは、BOGGブランドを確立することにつながりました。
「トロマと一緒に仕事をするのは本当にクールだったね。それは俺たちの夢のようなものだった。バンドを結成する前から、俺たちは皆巨大なトロマヘッドのようだった。トロマが忙しくしていなかったら、今もトロマと一緒に仕事を続けていただろう。彼らは今、”トキシック・アベンジャー” のリブートに取り組んでいるからね。エクストリーム・ミュージックとホラーの間には間違いなく境界線がほとんどなくて、両者とも視覚的にも音響的にも非常にインパクトがあり、人々に語りかけ、人々を魅了する。そうやって多くの時間を一緒に過ごして、脳が地獄にワープして戻ってくるように笑い合っているんだ」

同時に、Swank と彼のバンドメンバーは、デスメタルのテクニックにも専念しています。「俺たちは自分たちの音楽性、演奏、そしてどれだけ一生懸命に働くかをいつも真剣に考えてるんだ」
つまり、面白いバンドであることとコメディ・バンドであることの間には明確に違いがあって、SANGUISUGABOGG は後者と間違われることを望んでいないのです。”Homicidal Ecstasy” は彼らにとって2枚目のフルアルバムで、ここにはしっかりと彼らの旗が聳え立っています。ニューシングル “Face Ripped Off” には、JESUS PIECE の Aaron Heard がゲスト・ボーカルとして参加していて、その点でも彼らの活動がシーンに認められつつあると伝わるでしょう。
「俺たちには証明したいことがあったんだ。今回はもっと真剣に取り組んだし、その上、何かをまとめるための時間があったから、より多くの心を込めたんだ」
SANGUISUGABOGG は、FROZEN SOUL, UNDEATH, NECROT, TOMB MOLD, SKELTAL REMAINS, GATECREEPER といったレーベルメイトの北米デスメタル・バンドと共に、”NWOOSDM”、オールドスクール・デスメタルの旗手としてリリースを独占しています。
そして Swank は、OSDMを新しい世代の耳へと届けるムーブメントの一部であることを誇りに思っているのです。ちなみに、FROZEN SOUL と SANGUISUGABOGG は過去に、難読バンドロゴ対決で戦ったライバルでもあります。
「若い人たちに受け入れられているこのスタイルのデスメタルの先駆者になるために、全員が同時に成功を収めたのはクールなことだ。FROZEN SOUL と UNDEATH のメンバーは親友のようなものだ。みんなお互いをサポートし合っているんだ。UNDEATH とは2回ツアーをやったし、FROZEN SOUL と自分たちが同じレーベルになったことで、これから一緒にいろいろなことをやっていくことになると思う」

SANGUISUGABOGG が最初にシーンに登場したのは、2019年の “Pornographic Seizures” で、1日で録音、トラッキング、ミックスされたプリミティブ・デスメタルの電撃的作品でした。Bandcamp のジャンル・タグを調べれば誰もが知っているように、そうした何処の馬の骨ともわからない地下作品は毎週何十枚もリリースされています。しかし、”Pornographic Seizures” は、そうした有象無象の頂点に立つことができたのです。
「アンダーグラウンド・サーキットで話題になるだろうと思っていた。もちろん、大きなメディアに、この作品が取り上げられるとは思っていなかった。でも、頭の片隅には、これが話題になるようなクールなものになるかもしれないし、ライヴでもクールなものになるかもしれないと思っていたんだ。EP がリリースされる前にガレージ・ライブをやったんだけど、リリースされた瞬間に NPR に取り上げられたんだ。子供の頃に尊敬していたミュージシャンたちが、この曲について話しているんだ。これは想像していたよりもずっと大きなことだと思ったね。最初からとても感謝していたし、謙虚な気持ちでいたよ」
“Pornographic Seizures” がネットで話題になった直後、SANGUISUGABOGG はツアーを開始します。すると最初のツアーで、メタル界の重鎮 Century Media の社員が、レーベルのA&R担当者にEPを渡すと連絡してきたのです。しかし、少なくとも最初はうまくいきませんでした。
「彼らのA&Rからメールが来て、本当に悪口は言わなかったけど、ちょっと馬鹿にしていて、最初は興味がなかったんだ。それで、無知でふざけた感じで、EP のレコードを出すときに、Century Media の悪口を書いたステッカーを貼り付けたんだ。彼らがメールで言っていたことを引用して、”From The Posers That Brought You Deez Nuts” (君にタマキンをもたらすポーザーより) と書いたんだ。それを売ったら、みんなが大喜びして、いつの間にか彼らのA&Rがそれを知って、”お前たちのことを誤解していた” って言ってきたんだよ」

しかし、Century Media とのレコード契約のインクが乾く前に、バンドには嵐雲が立ちこめはじめます。まず、COVID-19 の大流行でライブハウスが閉鎖され、予定されていた BLACK DAHLIA MURDER, CATTLE DECAPITATION, KNOCKED LOOSE とのツアーが頓挫。その後すぐに、結成当初のギタリスト Cameron Boggs とバンドの他のメンバーとの間に距離ができ始めます。Boggs は Century Media からのデビュー作 “Tortured Whole” には参加しましたが、それが SANGUISUGABOGG への事実上の最後の貢献となりました。
「彼は約7ヶ月間、俺らと一緒に練習することはなかった。パンデミックの後に戻って最初のツアーをしようとした時に、正式に脱退するとメールを送ってきたんだ。その時、彼は額にアルバム名のタトゥーを入れたんだけど、そこからはもう会わなくなったよ」
バンドの創設者 Boggs は高校時代には友達がゼロで、クラスでゲイの子ということで激しくいじめられていました。学校生活は悲惨でしたが、彼と Davison は SUICIDE SILENCE から BLOOD BROTHERS までを楽しみ、最終的には TRAPPED UNDER ICE や COLD WORLD のようなハードコア・バンドまで、その足跡を辿っていきました。Boggs は小学4年生からギターを弾いていて、高校を卒業するとハードコアの中に受け入れるコミュニティーを見つけ、その後、ユースクルーハードコア、スクリーモ、テクデス、ブラックメタルなど、ヘヴィなスペクトルのあらゆるバンドでプレイするようになりました。

彼らが始めたベッドルームのブラックメタル・プロジェクトは、最終的にデスメタル・バンドである SANGUISUGABOGG へと変化していきました。当初は Boggs と Davidson の2人組で活動する予定でしたが、ボーカルが必要だと考えた Boggs が Facebook で Swank と出会い、1週間後にデモを録音しに来るように依頼。すぐに意気投合し、最初のセッションの帰りの車の中でミックスを聴きながら、曲が終わるたびにお互いに顔を見合わせ、「ヘヘヘ、シックだね」と、さながら “Beavis and Butt-Head” のように笑いあっていたのです。
Boggs の短期間のブラックメタル・バンドでのステージネームはSanguisuga(ラテン語で吸血鬼の意味)でしたが、”bog” がイギリスのスラングで “トイレ” を意味することを知り、このプロジェクトでこの2つを組み合わせることにしました。つまり、吸血トイレ。最初から彼らのジョークは冴え渡っていたのです。
Boggs の脱退は短期的には事態を複雑にしましたが、新しく改良された SANGUISUGABOGG への道を開くことにもなりました。ベースを担当するために最近加入した Ced Davis が、ギターにスライド。ベースは MUTILATRED の Drew Arnold が担当することに。そして、バンドの共同創設者であり、”Tortured Whole” のほとんどの曲の作詞者でもあるドラマーの Cody Davidson が存在感を増して、ラインナップはさらに充実しました。Swank によると、SANGUISUGABOGG は2022年に125回という異常な数のライブを行ったそう。それは、大胆な新しい構成から始まりました。
「俺たちはただ、何かバカなことをやろうぜって感じだったんだ。俺の好きなバンドのひとつにAGORAPHOBIC NOSEBLEED がいるんだけど、彼らにはベースがいなかったんだ。彼らはギターをベース・キャブに通すということをやっていた。PIG DESTROYER もそうしていたな。だから、”2人のギタリストを使って、俺らが聴いているデスメタル・バンドが得意とするような泥臭いトーンでやってみよう” ということになったんだ。そして、(2022年初頭の)NILE と INCANTATION のツアーで試してみることにして、そこからは、これにこだわろうということになったんだ」

“Homicidal Ecstasy” でバンドが捉えた腹の底に響くような低音の音色は、その実験の成功を裏付けています。
「ライブのサウンドをできるだけ再現したかったんだ。サブ・ウーファーやローエンドの下にあるベースの音を再現している。でも、これはギターなんだ。一方で、ベース・ソロも入っていて、そのサウンドは “甘い” んだよな」
“Homicidal Ecstasy” の音の病は、そのベース音にとどまりません。Swank は、このアルバムがバンドにとってこれまでで最も協力的な作品であると自負していて、メンバー全員がリフの製造を担当しています。ゆえに、スタジオで制作された前作とは異なり、”Homicidal Ecstasy” は素晴らしいライブバンドの作品のように聴こえるのです。彼らは過去1年半、デスメタルの王道、ハードコアの伝説、そしてハングリーな若手バンドとの共演を果たしています。そのすべてが反映されているようなサウンド。”Homicidal Ecstasy” は、その打撃効果に一途でありながら、グルーヴ、スピード、そしてメロディーと、さまざまな方法で豊かさを実現しているのです。
“Homicidal Ecstasy” は歌詞やテーマの面でも大きな進歩を遂げていますが、これは Swank がようやく歌詞を書くのに十分な時間が取れるようになったため。連続殺人犯のドラマ “デクスター: 警察官は殺人鬼” に触発されたアイデアから始まったこの作品は、デスメタルにおける殺人に対する執着を一種の麻薬のように描いています。
「猟奇殺人はハマってしまうようなもの。多幸感があって安心できるもの。必要で切望するもの。長い目で見れば自分を傷つけるもの。だけど、80年代にティッパー・ゴア(アル・ゴアの元妻で、PMRCを率いて、暴力的あるいは性的に露骨な歌詞が含まれる音楽を批判) に狙われていたらと思うと、フランク・ザッパやディー・スナイダーと一緒に、このテーマがいかに深刻でないかを訴えていただろうからね」

確かに、”Black Market Vasectomy” や “Necrosexual Deviant” といった楽曲は挑発的ではあるものの、基本的に笑いがあって、そこから現実の猟奇的殺人が起こるようには思えません。一方で、シリアスなテーマも存在します。
「アルバム全体のテーマはすべて死に関係していて、そのエクスタシーは多幸感のようなもの。物質やドラッグに関係している可能性もある。死は人を引き込むもの。俺たちが ”A Lesson in Savager” と呼んでいる曲があってこれは、一生殺しをやめられない男のことを皮肉を込めて歌ったもの。まるで中毒のようだ。
同じ中毒でも、現実的なドラッグにも再発のようなものがあるし。自分自身や、自分ををとても愛し、気にかけてくれる人々の周りに大きな影響を及ぼす。俺を育ててくれた祖母を亡くしたとき、俺はドラッグで自分をすり減らし壊すか、彼女のために生きるか選択を迫られた。ありがたいことに、俺は後者を選んだけど、”Mortal Admonishment” “死への戒め” では、そうしなかったらどうなるかという状況を書いた。この曲を書いたのは、いつも俺たちに手を差し伸べてくれる人がいるということを人々に知らせるため。なあ、俺らはいつでも君のそばにいる。何かを乗り越えるためにバンドや音楽が必要な場合は、俺たちがそのバンドになろう。喜んで力を貸すさ」
“Homicidal Ecstasy” が新しいファンを獲得するならば、それはバンドが自分たちの方式を破ってやり直したからではなく、自分たちの方式をより強固にするために一緒になったからであるはずです。
「俺たちは両極端なバンドなんだ。変なロゴと変な名前のバンドだから、みんな俺らのことをどう考えているのかわからない。でも、”Homicidal Ecstasy” を他の作品と比較して聴いてみると、俺らがデスメタルにより多くの愛情を注いでいることがわかる気がするんだ。もっともっと “俺ら” が入っているからな」

参考文献: STEREOGUM:Band To Watch: Sanguisugabogg

REVOLVER: SANGUISUGABOGG

METAL INJECTION:SANGUISUGABOGG: Trauma, Troma Entertainment & The Horrors Of Homicidal Ecstasy

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【GGGOLDDD : THIS SHAME SHOULD NOT BE MINE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH GGGOLDDD !!

“It’s Something I Need To Remind Myself Of Daily. That It Wasn’t My Fault And That All The Shame And Guilt That I Felt Shouldn’t Be Mine. But Should Be Felt By The Perpetrator.”

DISC REVIEW “THIS SHAME SHOULD NOT BE MINE”

「私たちの歌詞は、いつも現実をテーマにしているの。実際の現実のことを書けるのに、ファンタジー的な暗さや悪のような題材を探す衝動に駆られないんだ。それが、私たちの音楽の、辛辣で時に直接的なサウンドにぴったりだと思うのよ」
辛く抑圧的な現実からの逃避場所。目の前の痛みを忘れられるファンタジー。ヘヴィ・メタルがそうして、多くの人の心を癒し救っているのはまちがいありません。バンドの義務は演奏と作曲で、政治的発言や不快な真実を突きつける必要はないと考える人も多いでしょう。それでも、メッセージのあるバンドは、現実と向き合うアーティストは時に、人の心を激しく揺さぶり、音と言論の組み合わせが超常現象を引き起こすことを証明します。オランダの GGGOLDDD がヘヴィ・メタルに込めたメッセージはただ一つ、”合意のない性交をするな!”
「”この罪悪感は私のものじゃない”。それは私が毎日自分に言い聞かせるべきことでもあるの。レイプの被害を受けたのは私のせいではない。私が感じたすべての恥や罪悪感は、私のものであってはならないということをね。それは加害者が感じるべきものなのよ」
GGGOLDDD のメッセージは、痛々しい実体験に基づいています。バンドのフロントを務める Milena Eva は19歳のときにレイプされ、17年間も羞恥心と罪悪感を持ち続けてきました。
それは、彼女がバンドで作る音楽にも時折反映され、波状的に表面化しながらも、決して沸騰することはありませんでした。しかし、パンデミックの停滞期に時間を持て余し、思考が巡る中で彼女のトラウマは完全に噴出し、それが “This Shame Should Not Be Mine” 制作の原動力となったのです。このアルバムは、ただ被害者意識に浸るのではなく、むしろ背筋を伸ばし、身をもって罪の意識を感じさせるほど激しい怒りと非難を秘めることになりました。
「アルバムを書くことが必ずしもセラピーとは言えないと思うけど、そうすることでカタルシスを感じ、あの出来事と真剣に向かい合うことはできた。どちらもセラピーの説明として使える言葉だとは思うのよ。自分があの出来事をどう感じ、何を経験してきたかを言葉にする助けにはなったのよね」
メタルにおいて歌詞はしばしば後回しにされがちですが、”This Shame Should Not Be Mine” では歌詞を素通りすることはできません。性的暴行。そのトラウマを背負った羞恥と罪の意識の人生にスポットライトを当て、婉曲や比喩で和らげることはありません。”Spring”では、死んだようなモノトーンの目で “臭いを消してほしい/皮膚が剥がれるまでシャワーを浴びたい” とつぶやき、”Strawberry Supper” では “オマエは私を太陽と呼び、私を引き裂いた” とレイプ犯に直接語りかけます。そして、”Notes on How to Trust “では、同じ苦痛を再び経験するリスクを冒さず、どうすれば他人にに心を開くことができるかを考えていきます。
音楽を通してトラウマに対処し、トラウマを曲作りに反映させる。LINGUA IGNOTA は、この点で GGGOLDDD の良き理解者でしょう。しかし、これほどまでに荒々しく、直接的な方法でトラウマを扱っているバンドはほとんどなく、Milena の歌詞は詩というよりも、棘の鞭や鋭いナイフのような物理攻撃に特化した武器にも思えます。
この容赦のない怒りの津波は、オルタナティブ、インダストリアル、ブラック・メタルの境界で嘶くその音楽にも反映されています。そしてこの荒涼としたテーマの完璧な背景となりながら、メロディックなフックと反復の魔法によって、このアルバムは頭にこびりつくような麻薬にも似た中毒性を帯びていきます。
もちろん、”This Shame Should Not Be Mine” は、楽しいアルバムではありません。万人受けするようなアルバムでもないでしょう。ただ GGGOLDDD は、近年のメタルらしい不協和音や異質な曲の構成によってではなく、楽曲を難解にしないことによって、アクセスを容易にすることによって、むしろ意図的に不快感を与えているのです。恥や罪、痛みや長い苦しみを加害者の胸の奥に深く、永遠に刻み込むかのように。
今回弊誌では、GGGOLDDD にインタビューを行うことができました。「鎧のコンセプトは、”This Shame Should Not Be Mine” の内容を可視化することだった。この鎧は、私たちがいつも持ち歩いているもの。そして、自分と他者との間に残る、盾のような境界線」 日本の至宝、MONO とのツアーも決定!どうぞ!!

GGGOLDDD “THIS SHAME SHOULD NOT BE MINE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【RVNTVH : CONTEMPLATION OF THE VOID】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH RVNTVH !!

“We’re Pretty Much Filling In The Gap Where There Wasn’t Any Indonesian Band That Sounds Like This.”

DISC REVIEW “CONTEMPLATION OF THE VOID”

「インドネシアのメタルシーン自体はまだまだアンダーグラウンドで、人々はメタルシーンを何か奇妙でネガティブなものとして見ているようなんだ。インドネシアでも、メタルヘッズは昔のロックスターの習慣から生まれた、ドラッグを使う酔っぱらいの一団という、本当に間違ったステレオタイプのイメージがあるんだよ」
ヘヴィ・メタル大統領として名を馳せる Joko Widodo の存在、レッチリや RATM にも認められた反抗の少女たち VOICE OF BACEPROT の登場、そしてデスメタルが盛んという伝聞やイメージから、私たちはインドネシアをメタルの楽園だと想像します。しかし、隣の芝は青く見えるもの。彼の地に登場した “インドネシアの OPETH” こと RVNTVH (ルントゥフ) は、Joko Widodo の “売名” を疑い、メタルはここでもアンダーグラウンドだよと嘆きながら、それでもプログレッシブで悲しみを湛えた魂を南方から開花させようと真剣です。
「僕たちは、インドネシアにこういうサウンドのバンドがいなかったからこそ、そのギャップを埋めているようなものなんだ。僕が理解しているかぎりでは、OPETH やそれに類するバンドに熱中している人は、この地域にはあまりいないようだからね。そうしたバンドを知っている人は、ここではほんの一握りなんだ」
あくまでも、大衆的な人気はポップ・ミュージックに集中するジョグジャカルタで、RVNTVH はさながらインドネシアの多島美を体現するかの如く、様々な音楽的嗜好を持つメンバーが様々な地域から集結し、混沌と悲壮のメタルに挑戦しています。
東カリマンタンのバリクパパンに生まれ、東ジャワのバニュワンギに移り住み、IRON MAIDEN に始まり MESHUGGAH, PERIPHERY, さらにノイズやアンビエントまで愛するギター/ボーカル Arif Shuardi。
同じくギター/ボーカルの Rabin Rana は RVNTVH のリーダーで創設メンバー。ジョグジャカルタ出身で、現在はオランダのロッテルダムに住んでおり、70年代のプログレッシブ・ロックをこよなく愛します。そこから、プログレッシブ・デスメタルやアトモスフェリック・ブラックメタルに到達し、この2つの音楽に対する愛情が、RVNTVH を両者の融合の場としたのです。
この二人を核として、中部ジャワに住み RADIOHEAD や MUSE を基盤とする3人目のギタリスト Imam、Tricot, ELEPHANT GYM, COVET に影響を受けたチレゴン出身のベーシスト Denis、さらに民族音楽のスペシャリストで鍵盤、サックス、フルートを操る Rico と才能あふれるメンバーが揃い、RVNTVH は世界に打って出ることになりました。
そうした多様な出自や音楽観は、実に新鮮で驚きを秘めた RVNTVH の音楽へ見事に投影されています。OPETH を原点としながらも、KING CRIMSON, LAMB OF GOD, EMPEROR, DREAM THEATER, PERIPHERY, さらにはインドネシアの民族音楽に日本のアニメの影響まで、時間も場所もジャンルも超越した色鮮やかなナシゴレンがデビュー作にして完成しているのです。
まさに、メタルの生命力、感染力、包容力を証明するような第三世界の台頭。まだ拙い部分もありますが (特にクリーン・ボーカルの音程)、リフの一つ一つ、メロディの一つ一つがとても印象的。フルートやサックスといったノン・メタルの楽器も効果的で、なによりデビュー作から22分の大曲を収録できるのは選ばれたバンドだけ。
今回弊誌では、Arif と Rabin にインタビューを行うことができました。「Arif は “Death’s Preparation” で “真・女神転生” についてのパートを書いていたくらいでね。僕が自分のパートを付け足す前に、知らないうちにね!僕はどちらかというとガンダム派なんだよ。セイラ・マスは俺の嫁!」 どうぞ!!

RVNTVH “CONTEMPLATION OF THE VOID” : 9.8/10

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