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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PIZZA DEATH : REIGN OF THE ANTICRUST】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH KANE OF PIZZA DEATH !!

“The Best Music Comes From Artists Who Are Giving a True Genuine Reflection Of Themselves Through Their Music.”

DISC REVIEW “REIGN OF THE ANTICRUST”

「スラッシュというジャンルは、僕たち全員がプレイしていて本当に楽しいと感じる音楽なんだ。でも、タフなメタル・ヘッドのように振る舞っている自分たちを、客観的な自分は真剣に受け止めることができない。だからピザのような馬鹿げたテーマを持つことで、音楽を通して、タフガイじゃない自分たち、その個性をより素直に反映させることができるんだ」
メタルやハードコアのようなエクストリーム・ミュージックの世界において、”マッチョ” で “タフ” で “シリアス” であることは長年、リスペクトを得るための至上命題だったのかもしれません。弱さも優しさもユーモアも、激しい音楽にとっては足枷でしかない。しかし、そんな時代は過ぎ去ろうとしています。METALLICA が自分たちが無敵ではないことを告白して、ファンと痛みを分かち合おうとしているように、激音の伝道者たちは本来の自分を曝け出しつつあります。当然でしょう。いつでも完璧で鋼鉄な人間など、存在しないのですから。
「シーンには、自分の怒りや不満、意見や見解を表現する手段として音楽を使いたがる人たちがたくさんいる。それは素晴らしいことで、僕も彼らは大好きだよ。でもね、僕らがそれをやると “フェイク” なんだよな。だって僕らは、最高の音楽は、音楽を通して自分自身をありのままに表現しているアーティストから生まれるものだと思っているから」
メルボルンで焼かれた PIZZA DEATH も、メタルのステレオタイプと本来の自分の間で悩み、葛藤し、ピザの悪魔の力を借りたユーモアの影で遂にありのままの個性を解き放つことに成功したバンドです。”Pasta of Muppets”, “Naplam Cheese” といった思わず笑顔になるようなジョークの裏側で、彼らは当時の英雄たちに引けも劣らぬ猛攻を仕掛けていきます。スラッシュ、ハードコア、グルーヴ・メタルにグラインド・コア。ピザのトッピングは、MUNICIPAL WASTE や TOXIC HOLOCAUST のクロス・オーバーに輪をかけて色とりどり。そうして、その原動力はやはり、メタルのステレオタイプとは異なる、ハイオク満タンの POWER “Violence” TRIP。特筆すべきは、27分20曲が瞬く間に通り過ぎるそのキャッチーな “ピザの耳”。
もちろん、チーズィーな “ピザ・スラッシュ “とは、METALLICA, EXODUS, KREATOR といった80年代のアイドルに傾倒しすぎた新しいスピード・メタル・バンドに向けられた蔑称ですが、PIZZA DEATH は明らかにこの言葉を意識しながら、反発して、より自分たちの個性を曝け出すことに成功しています。結局、”ピザの耳” はアンチが多いものの、食べてみればなかなかの歯ごたえと美味を備えているのですから。
今回弊誌では、ベーシストの Kane がインタビューに答えてくれました。「かのお方こそ、最強のアンチクラスト (反ピザの外側の硬い生地) 様だ!なぜ、どうやってそうなってしまったのかはわからないが、アンチクライストがピザ生地にはまり込んでしまい、それがシン・スリジー・ピッツェリアのオーブンに入れられると、サタン自身がピザ生地に焼き付けられ、アンチクラスト様に大変身してしまったのだ!」 ピザの耳は許すがパイナップルの侵入は許さない。絶滅させよ!どうぞ!!

PIZZA DEATH “REIGN OF THE ANTICRUST” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【RELIQA : I DON’T KNOW WHAT I AM】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MONIQUE PYM OF RELIQA !!

“A ‘Relic’ Refers To Something Old, Like an Artefact. A Lot o Of People Say This Contradicts Us a Bit, And We Agree, Because One Of Our Goals As Musicians Is To Create Sounds That Are Contemporary And New.”

DISC REVIEW “I DON’T KNOW WHAT I AM”

「深い意味合いでは、バンド名の元となった “relic” とは古い人工物のようなものを指すの。だから、多くの人が矛盾していると言うわ。なぜなら、私たちのミュージシャンとしてのゴールのひとつは、現代的で新しいサウンドを作り出すことだから (笑)」
シドニーの現代的なプログレッシブ集団 RELIQA。その名前は実は不適切で矛盾をはらんでいると言わざるを得ません。RELIQA というバンド名は過去の遺物、アイテム、工芸品を連想させますが、そのサウンドと音楽は未来を見据えた全く異なるイデオロギーに満ちているのですから。
もちろん、そんな異変に気づく賢明なリスナーなら、第二の異変、この EP のタイトルにも明らかな矛盾を感じるはずです。”I Don’t Know What I Am”。”自分が何者なのかわからない”。しかし、このバンドは間違いなく、自分たちが何者であるか、自分たちの方向性は何か、音楽的に何を達成したいのかを、正確かつ的確に把握しているのですから。そしてそれは、過去ではなく、現在と未来の超越的にプログレッシブでヘヴィな音の葉を創造すること。
「自分たちに対して正直であることが重要なのよ。それが何であれ、”自分たち” らしさを感じる音楽を作る。それが大事。確かに少し奇抜ではあるけれど、自分たちの音楽をわかりやすく、まとまりのあるものにするために積極的に取り組んでいるわ」
ヘヴィ・プログの常識を破る女性がフロントに鎮座したパフォーマンス、きらびやかで最先端のプロダクション、そしてダイナミックで驚きと楽しさに満ちた不可解な楽曲をさながら現代建築のごとく巧みに組み立てる想像力など、このバンドの意識は前時代の慣習すべてを置き去りにするほどモダンで先鋭的。
そのサウンドは、90年代以降に芽吹いた音の新芽を沸騰した鍋に投入し、轟音とともにかき混ぜ、完璧な味付けをほどこし、カラフルでありながら逆説的に首尾一貫まとまった形で仕上げられた、耳なじみの良いプログのオージー料理。
一見、バラバラな要素が組み合わされ、完成するはずのないパズルが完成してしまう。”Safety” のメタル好きにはたまらないヘヴィネスはもちろん、ストリングスとピアノが導く甘く高揚感のあるバラード “Second Naure”、実験的インスト曲 “blip”、ポップなボーカル、ラップにエレクトロニカ、果てはエスニックで東洋的な瞬間など、実際、この6曲入り EP にはあまりに多くのアイデアが滝のように密集して流れ落ちているのです。
個々の技術、曲作りの技術、そしてそれらを分かりやすく聴きやすいパッケージに落とし込む技術に長けた異能の集団。その料理の腕前は あの GOJIRA や SYSTEM OF A DOWN を彷彿とさせるほど。
「長い間男性に支配されてきたこの業界で、周りの女性たちと支え合うネットワークを形成できることは、とても “神聖” なことだと思っているの。だからこそ、SPIRTBOX の Courtney が “Good For A Girl” “女の子のために” というポッドキャストを始めたとき、彼女の目的がいかに素晴らしいものであるかということがよくわかったのよね」
10代後半から20代前半の若者が葛藤しながら向き合い、探し出す自分。そんな魂とアイデンティティの探求をテーマとした作品で、バンドのボーカリスト Monique は女性であることにも対峙しました。今やメタル世界のカリスマとなった SPIRTBOX の Courtney LaPlante。彼女と連帯することで、Monique の物語はさらに深い色を帯びていきます。
女性の学びの経験やエンパワーメント、女性らしさについて、ヘヴィ・メタルを牽引する女性たちがポッドキャストで配信する。そのネットワークや配信自体、そして、ポッドキャストや YouTube チャンネル、SNS のようなプラットフォームを開拓することがいかに重要で、抑圧された人たちを解放する力となるのか。彼女たちは自らを研ぎ澄まし、語り合い、支え合い、成長し、表現することで伝えようとしています。
「オージー・バンドのミュージックビデオを見ていると、YouTube のコメント欄には必ず “オーストラリアの水には何かがある!” と書かれているのよ。私もその通りだと思う。本当にたくさんの素晴らしい才能がここは存在している。そういう背景があるから、今、彼らの多くとステージを共有し、オーストラリアのプログレッシブ・メタルの新たな新興世代の一員となったことが、どれほど特別な気分か想像できるでしょ?」
オーストラリアがヘヴィ・ミュージックやプログレッシブのエルドラドであることを隠さなくなった10年ほど前から、数多のバンドが “急成長中” や “新星” というレッテルを貼られ、期待を寄せられていますが、一方でその中の大半はひっそりと消え行く南半球の仇星となったのが実情。
しかし、RELIQA は、例えば SPIRTBOX の Courtney LaPlante から賛辞を送られたり、MAKE THEM SUFFER の Sean Harmanis が作品に参加したりと、大器の片鱗をすでに見せています。彼らが正しい行動さえとれば、プログレッシブ・ヘヴィの未来は約束されているのです。
今回弊誌では、Monique Pym にインタビューを行うことができました。「ミュージシャンとしての私たちが自分たちが何者で、どこに属しているのかよくわからないのと同じように、人間としての私自身も、まだ自分が何者で、周囲の世界の中で自分のアイデンティティは何なのかを見極めようとしているところなのよ」Z世代の苦悩と葛藤、そして光。どうぞ!!

RELIQA “I DON’T KNOW WHAT I AM” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【BE’LAKOR : COHERENCE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH STEVE MERRY OF BE’LAKOR !!

“We Have Always Tried To Retain The Melodies. I Think The Style Of The Melodies Does Evolve Over The Years, But They Always Remain a Big Thing In Our Music.”

DISC REVIEW “COHERENCE”

「私たちは今でも自分たちのことをストレートなプログ・メタルではなく、プログレッシブな要素を強く持つメロディック・デスメタルバンドだと考えているんだ。結成当初はもっとそうで、ほとんど純粋なメロディック・デスメタルだった。だから、音楽にもう少しプログレッシブな要素を取り入れるためには、地道で段階的なプロセスを踏むことが必要だったんだと思う。若い頃の私たちは、IN FLAMES, AT THE GATES, DARK TRANQUILLITY, OPETH の名盤に大きく影響されていたんだよ」
メロディック・デスメタルは一本調子だ。そう謳われたのは過去のこと。今では、このジャンルを始動したオリジネーターはもちろん、後続の綺羅星たちも数多の興味深いバリエーションを生み出し多様性の高いサブジャンルであることを証明しています。
中でも最も興味深いのは、00年代半ばに台頭した OMNIUM GATHERUM, INSOMNIUM, ETERNAL TEARS OF SORROW といったフィンランドのバンドでした。ヨーテボリ生まれのオリジナルスタイルに、よりアトモスフェリックな味わいを加えた夢見る涙の登場。このニッチで魅惑のスタイルは当然厳寒を湛えた北欧のバンドに多く見られますが、不思議なことに陽光降り注ぐオーストラリアの5人組、BE’LAKOR は異世界のメロデスを特徴をさらに際立たせるため冒険的でプログレッシブな音の葉を注入し、南半球に知で凍てつく冬の寒さをもたらしています。
「最近の2枚のアルバム、特にこの “Coherence” ではスポークン・ワードがより大きな特徴になっているよね。本質的に、語り手を加えて物語を伝えるという感覚を大事にしたいんだ。私たちは、それを音楽に加えるのが好きなんだよね」
“物語のメロデス” で中心となるのは、山とそこに住む人々の描写です。 大きな山に住んでいる女性がいて、その山やその周辺に住んでいる別の人物の物語が、それぞれの楽曲で描かれていきます。 彼らはお互いを知らず、それぞれが自分の哀しみ、苦痛を語る中で人間にとって共通の課題が露わになっていきます。最後はこの山で育つ子供たちの物語。彼らはまだ人生の重荷を背負っていません。人生について学び、偶然にもアルバムの中で描かれてきた人物を見たり、会ったりする中で人生の現実を、世界を目の当たりにしていきます。
抽象度の高いジャケットアートとは裏腹に、”Coherence” は印象派の絵画のような流れを持つアルバムで、具体的なストーリーとビジュアルをまさに自分の目に映った印象そのままを投影していくような作品です。ただし、印象派によくある自然を題材にしたテーマと、メタルらしいファンタジックなテーマが巧みに融合している点で、アルバムの物語は彼らの音楽と完全にシンクロしています。メタリックなリフ・ワークとキーボードのアンビエンス、そしてピアノとアコースティック・ギターによる夢見心地なパッセージが溶け合う自然の中の群集劇。
BE’LAKOR はテンポや音色を変化させながら、カオスで凶暴な極寒から瞬時にプログ的傾向をより深め、アップテンポでメタリックな怒りやグルーブ感、アトモスフィアにアコースティック・バラードなど、さながら山々の四季のように多彩な変化を与えていきます。8章仕立ての長大なアンセムにも思える1時間の包括的な体験。だからこそ、”Sweep of Days” のようなメロデスの一閃が尚更切れ味をましていきます。「私たちは常に哀愁や慟哭を保とうとしてきたんだよ」
“The Jester Race” や “The Gallery” といった90年代の名作に魅了されたリスナーに愛されながら、NE OBLIVISCARIS や ALCEST のようなプログレッシブかつアトモスフェリックな領域に踏み込むことは決して簡単ではありません。しかし、彼らはやり遂げました。メタルの世界では、シンプルさと複雑さは敵対するものではなく、むしろパートナーとして機能しているのですから。
今回弊誌では、鍵盤奏者 Steven Merry にインタビューを行うことができました。「アルバムとしては “Damnation” がとても好きで、あれにはデスメタル・ヴォーカルが存在しないよね。でも、あのアルバムの曲はとても陰鬱で、聴く人を引き込むんだ。彼らの新しい作品は、少し面白みや魅力に欠ける気がするな」 どうぞ!!

BE’LAKOR “COHERENCE” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ARCING WIRES : PRIME】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH YUTARO OKUDA OF ARCING WIRES !!

“Definitely Meshuggah Is a Very Important Artist For The Band. I Guess We’re Musicians That Went To ‘Jazz School’ But Still Want To Play Metal As Well So Maybe That Has a Bit To Do With Our Sound.

DISC REVIEW “PRIME”

「バンドにとって MESHUGGAH は非常に重要なアーティストだよ。僕らは “ジャズスクール” に通っていたミュージシャンだけど、メタルもやりたいと思っているから、それが僕らのサウンドに少し関係しているのかもしれないね」
ジャズとメタルを平等に愛し、その融合に成功するミュージシャンは決して多くはありません。ジャンル自体が希少種と言えるジャズメタルの領域において、ARCING WIRES ほど挑戦的で、楽しく、複雑でありながら消化しやすく、美しさに包まれた音楽に出会えることは奇跡でしょう。
「サウンドの一部として、サックスはもちろん、常に多くのエフェクトやプログラミングを取り入れていて、同様に大きな影響を受けたエレクトリック・ギターやベースのトーンとブレンドすることで、ARCING WIRES サウンドの非常に美しい、不可欠な部分を生み出していると僕は思っているよ」
ギター2本、ドラム、ベースというスタンダードなロックのラインアップにサックスを加えることは、もちろん新機軸ではありません。ドイツの伝説 PANZERBALLETT はすでにそのフォーメーションで繊細なジャズダンスと重厚なメタル戦車の完璧な融合を成し遂げています。
たしかに、”The Lizard”, “Catacaustic”, “Blue Steel” のオープニング3曲を聴けば、その比較はそれほど的外れではないと感じるはずです。しかし、同時に “Catacaustic” から放たれるマスロックの軽快さは眩しいほどにブライトで、さらに “Blue Steel” の終盤では、完全に彼ら自身の「声」を見つけ出すことに成功しています。
「HIATUS KAIYOTE は、僕たちが音楽をどう演奏するかってアイデアを形成する上で、非常に大きな影響を受けているね」
日本人である Yutaro Okuda 氏が語るように、開放的な空と海がジャンルの境界を曖昧にするのでしょうか。オーストラリアは近年、HIATUS KAIYOTE, KING GIZZ のような真のごった煮平等主義者を多数輩出しています。そうして、ジャンルからジャンルへと音の虹をかける ARCING WIRES も当然彼らの血を引いています。Art As Catharsis という彼らのレーベルも、現代におけるロックの多様性を追求する完璧なソウルメイト。
事実、”Prime” はメタルのような怒涛のグルーヴ、非常に流暢で熟練したプログレッシブ・ロック、マスロックのブライトな知性、ポスト・ロックの瞑想、アンビエントの静寂、そしてジャズ/フュージョンの魂とメソッドをシームレスに漂うサーフィンのレコード。
その波乗りを、彼らは実に繊細かつ上品にこなしているため、アルバムの基盤を見極めるのは非常に難しく、音の支配者を探し出すこともほぼ不可能。見事なバランス感覚は真の平等主義者にのみ宿ります。
「学生時代に直接影響を受けたのが Mike Rivett の “Digital Seed” というアルバムだったね。当時の僕にとっては、エレクトリック・サウンドとアコースティック・ジャズの音色の融合を初めて耳にしたアルバムだったんだ。素晴らしいよ」
“Arc9” では、ヘヴィネスとエナジーを抑えて煌めきのグルーヴとメロディに集中し、 “Eniargim” では、オリエンタルな雰囲気が導入し異国の風を運びます。何より、”Serotonin” に込められたエレクトリック・ジャズの鼓動は、UKの新たなジャズの波光とシンクロしながら、音楽に本来あるべきポジティブな新鮮さを感情の高まりに重ねてみせたのです。テレキャスやギブソンで紡がれるギターソロの音色も、画一的な現代のそれではなく、個性的な味わいで素晴らしいですね。明らかにキラキラの Djent とは距離を保ち、伝統と感情を全てに織り込んでいますから。
今回弊誌では、Yutaro Okuda 氏にインタビューを行うことができました。「日本のポップ・パンクのカルテット ELLEGARDEN は大好きだったバンドの一つさ。シドニーに住むアジア人の子供として、ある種のステレオタイプが存在していたから、彼らは僕にとって重要な存在だったな。」ANIMALS AS LEADERS 以来の衝撃。どうぞ!!

ARCING WIRES “PRIME” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ALARUM : CIRCLE’S END】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MARK PALFREYMAN OF ALARUM !!

“Bands Like Atheist And Cynic Were Big Influences On Our Band And Helped Inspire Us To Explore What We Could Do With Music. They Both Covered a Lot Of Ground And Continue To Do So.”

DISC REVIEW “CIRCLE’S END”

「僕たちが楽しんで聴いている音楽には、これまであまりヘヴィな音楽には混ざっていなかったスタイルがたくさんあるんだよね。だから様々な音を混ぜ合わせた音楽を書くのは、今でも楽しくてやりがいがあるよ。これからさらにドラスティックになるんじゃないかな…」
タイトで正確で、ブラストビートからメロディックな遊覧飛行、さらにフュージョンの小宇宙まで、すべてを備えたメルボルンのベテランプログデス ALARUM の帰還はあまりに鮮烈でした。
「ATHEIST や CYNIC のようなバンドは、僕らに大きな影響を与えてくれたし、音楽で何ができるかを探求するためのインスピレーションを与えてくれたんだ。彼らは共に多くの分野をカバーしてきたし、今もそうしている。」
近年、モダンプログ/メタルの聖地として活況を呈するオーストラリア。ただし、90年代から活動を続けるメタルアクトは決して多くはありません。ALARUM はそんな稀有な存在の一つです。
さらに驚くべきは、彼らが当時からモダンメタルの多様な精神を宿していたことでしょう。CYNIC, ATHEIST, PESTILENCE, DEATH といった勇敢な登山家たちを崇拝し、オンタイムでその挑戦心を抱きしめていたわけですから不思議ではありませんね。そうして特筆すべきは、ALARUM がオーストラリアの燦々とした陽光を全身で浴びている点でしょう。
「”Crystals” は何か違うものだよね。僕たちの歌詞の多くはより高揚感のあるものだから、それを反映した音楽を取り入れるのは自然なことなんだ。」
自己実現や宇宙、科学をテーマとした “Circle’s End” において、やはり際立つのはそのアップリフティングな音の葉でした。アルバムの中盤に現れる “Crystal” は、女性ボーカルを配し、軽快で知的、80年代のジャパニーズフュージョンのようなパステルカラーを纏うインタルード。そこから異能の冒険 “Sand” を導きます。
Devin Townsend が放つ壮大なサウンドスケープを彷彿とさせながら、メタルの壁とフュージョン壁をいとも容易く溶解し時に対比させ、13thコードを STRAPPING YOUNG LAD へも突きつけます。ヘヴィーなセクションから舞い上がるコーラスパートはキーボードの陽光が降り注ぎ、CACOPHONY の重なるギターラインまで追体験させる多様な砂嵐。
フュージョンといえば、Pat Metheny を見るまでもなく、ワールドミュージックへの憧憬が重要なインスピレーションとなっていますが、ALARUM のメタルも世界を巡る旅行記の様相を呈します。
“War of Nerves” では大胆なサンバのリズムとパーカッションでリオのカーニバルを訪れ、”In Spiral” ではカリブ海でラテンのダンスに興じ、さらには “Thoughts to Measure” で東欧チェコの山々まで訪れポルカのワルツで邪悪を踊るのです。ただし、冒険の中においても、デスメタルの獰猛や暗闇、ハイテクニックを一握りも失わず、斬新な世界観やエセリアルな情景とコントラストを描くのが彼らのやり方です。
そうしてアルバムは、CYNIC の宇宙的アトモスフィアを再創造する “Sojourn” でその幕を閉じるのです。
今回弊誌では、ボーカル/ベースのフロントマン Mark Palfreyman にインタビューすることができました。「MESHUGGAH が自分たちのスタイルを形成してきた方法が本当に好きだし、他の多くの人に影響を与えて、よりテクニカルなリズム/パルスやフォームを音楽に取り入れてきたのは素晴らしいことだよ。彼らはそのメソッドやテクニックの王様だよ。」 どうぞ!!

ALARUM “CIRCLE’S END” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【TERAMAZE : I WONDER】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DEAN WELLS OF TERAMAZE !!

ALL PHOTO BY KARINA WELLS

“I Like To Push My Self As a Musician So That Style Lets Me Do All The Styles That I Like To Write, We Fall In And Out Of Progressive Metal Its Anything Goes Really In Teramaze, Thats What Makes It Fun.”

DISC REVIEW “I WONDER”

「僕はミュージシャンとして自分をプッシュするのが好きだから、好きなスタイル全部を込めて作曲が出来るんだよ。プログレッシブメタルの中に出たり入ったり……TERAMAZE では何でもありで、それが楽しいんだ。」
PLINI, HIATUS KAIYOTE, KARNIVOOL, KING GIZZ, CALIGULA’S HORSE, VOYAGER, NE OBLIVISCARIS。オーストラリアが今、多様で真にプログレッシブなアーティストの桃源郷であることは疑う余地もありません。TERAMAZE の Dean Wells はインタビューてその理由を意味不明だと笑いましたが、実は彼自身が意識する “プログメタルに出たり入ったり”、自由自在何でもありのスピリットが彼の地には浸透しているのかも知れませんね。
「Tera とは何兆億もの道を指し、Maze は迷宮。だから、基本的に TERAMAZE とは平和への一つの道を通って自分の進む場所を見つけることなんだ。」
実際、 プログメタルというエニグマティックな迷宮においても、TERAMAZE が辿り到達した道の先は稀有なる特異点だと言えるでしょう。結成は1993年、デビュー作のリリースが95年ですから実はかなりのベテラン。当初はスラッシュメタルや PANTERA の影響色濃いアグレッシブなメタルをプレイしていましたが、2002年の解散、そしてリユニオンを経て、旋律の色彩を解き放つプログレッシブの昴として瞬き躍動しているのですから。
Dean が人生を変えたアルバムの一枚に SAVAGE GARDEN の “Affirmation” を挙げていることは、彼らを紐解く重要なヒントなのかも知れません。90年代を席巻した同郷オーストラリアのポップレジェンドは、たしかに TERAMAZE の遺伝子を改変しました。
メランコリーを帯びた官能的な歌声と旋律。洗練と無機の狭間で揺らぐ未来型シンセとドラムパターン。そんな二極を混淆して新世界への扉を開けた SAVAGE GARDEN の哲学は、そのまま TERAMAZE のエモーション極まるポップログメタルへと通じています。
「”Lake 401″ はたしかにサクスフォンととてもよく似ているよね。面白い話だけど、サックスは僕が初めて習った楽器で、正直嫌いだったんだ。(笑) でも今はそのサウンドが大好きだよ。実に歌っているようだからね。」
Dean の別プロジェクト、エクストリームな MESHIAAK のアルバムを聴けば、彼のテクニックが今まさに臨界へと達していることは明らかです。それでも、Dean が TERAMAZE でギターを捌くのではなく語らせるのは、ポリリズムやプログレッシブに潜む歌心を何よりも重視しているからでしょう。
そうして遂に Dean は最新作 “I Wonder” で自らが歌うことを選びました。バンドにとっては3作連続で異なるシンガーがフロントを務めることになりましたが、どうやら Dean の感傷的なソフトボイスは TERAMAZE の進化へと完璧に寄り添っているようですね。
アルバムには10分に迫る大曲が多数配置され、構成の妙やリズムの魔法で目眩く闇と祈りの絵巻物を象っていきます。それでも作品で最も印象に残るのは、”Lake 401″, “A Deep State of Awake”, “I Wonder” のような甘く切ないメロディーの輝き。逆に言えば、きっとポップソングは5分以内という常識を打ち破るのが何でもありの TERAMAZE なポップログ。
今回弊誌では、Dean Wells にインタビューを行うことができました。「僕たちは自分たちを、信念に従い音楽を書こうとしている人間以外の何者でもないと思っているんだ…僕は自分の信念を持っているし、それが音楽に浸透していくこともあるんだけど…でも、俺たちはただの TERAMAZE なんだよ。どんなラベルも関係なくね。」 どうぞ!!

TERAMAZE “I WONDER” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【I BUILT THE SKY : THE ZENITH RISE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ROHAN “RO HAN” STEVENSON OF I BUILT THE SKY !!

PHOTO BY Huang Jiale

“To Me It Expresses The Nature Of The Project, Being Free To Create Your Reality I Built The Sky = I Create My World/My Art.”

DISC REVIEW “THE ZENITH RISE”

「僕にとってこの名前は、プロジェクトの本質を表現しているんだ。現実から自由になって、”空を構築する”。つまり、それって自分の世界/芸術を創造するって意味なんだ。
このプロジェクトは、以前僕の考え方だった “努力して作る” よりも、純粋に創造するため始めたものなんだけど、皮肉なことに、今ではフルタイムで取り組んでいるよ。」
“空には限界がないでしょ?” 南半球オーストラリアの天つ空は Rohan “Ro Han” Stevenson の牙城です。そうして大気圏から成層圏、東西南北を所狭しと吹き抜けるギターの風は、流動の旋律を後方へと置き去りにしていきます。
「僕は、空がどれだけ芸術的であるかにもとても惹かれているんだ。様々な色合い、要素、バリエーションがあって、全く同じような空模様になることは2度とない。だからこそ、その一期一会な偶発性を心から楽しんでいるのさ。」
Tosin Abasi, Plini, David Maxim Micic, Misha Mansoor。ある者は衝撃のテクニックを、ある者はリズムの迷宮を、ある者は斬新なトーンを携えて登場したモダンギターの精鋭たちは、弦の誉を別次元へと誘っています。
そんなニッチなインストゥルメンタルワールドにおいて、Ro Han は空という蒼のキャンバスにカラフルな虹音を誰よりも美しく描いていきます。テクニックや複雑性よりもリスナーを惹きつける魔法とは、きっとストーリーを語り景色を投影する能力。彼にはそんな音の詩才や画力が備わっているのです。
「僕は Tosin や Misha と対照的に多くの部分でロックやパンクのヴァイブを保っていると思うんだ。間違いなく、彼らほどギターは上手くないんだけど、それはきっとユニークなセールスポイントだろう。」
BLINK 182, GREENDAY といったポップパンクの遺伝子を色濃く宿したハイテクニックの申し子。”Journey to Aurora” は象徴的ですが、確かに Ro Han の空にはいつだって明快なメロディーが映し出されています。そして、djent のリズミックアクセントを、さながら流れる雲のごとく疾走感へ巧みに結びつけていくのです。
100万回の視聴を記録した “Up Into The Ether” は Ro Han の決意をアップリフティングな旋律に込めた希望の轍。2019年の夏に仕事を辞して I BUILT THE SKY で生きていくと誓った Ro Han。成功しようと失敗しようと後悔を残して生きるよりはましだと訴えます。
一方で、KARNIVOOL, DEAD LETTER CIRCUS を手がけた名プロデューサー、Forrester Savell との共闘、オーストラリアンセンセーションはアルバムによりアトモスフェリックで感傷的な空模様ももたらしました。
ダークで激しい雷鳴のようなタイトルトラック “The Zenith Rise” が晴れ渡ると、レコードはクリーンギターとアコースティックのデリケートでメロウ、時に優しくチャーミングな鮮やかな3つの音風景を残してその幕を閉じます。実際、この偶発性、予想不可能性から生まれるダイナミズムこそ Ro Han の音楽がクラウドコア、天気予報のインストミュージックと例えられる由縁なのでしょう。
今回弊誌では、Rohan “Ro Han” Stevenson にインタビューを行うことができました。「僕は自分でやらなきゃ気が済まないタイプで(コントロールフリークと言う人もいるかもしれないけど)、これが他の人との共同作業から遠ざかっていた原因の一部なんだ。
それはたぶん、僕が強い芸術的なビジョンを持っているからだと思う。自分が何を達成したいのか分かっているような気がするし、外から他の要素を加えても結局最終的な目標から遠ざかるだけだろうから、主に一人で音楽を作っているんだ。」8/5には P-Vine から日本盤もリリース決定!どうぞ!

I BUILT THE SKY “THE ZENITH RISE” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CALIGULA’S HORSE : RISE RADIANT】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JIM GREY OF CALIGULA’S HORSE !!

“There Is Never a Moment Of Darkness In Caligula’s Horse Without Emphasising The Light – The Last Thing That I Want Is To Put Music Out In The World That Is Celebrating Something Tragic Or Dark Without Showing That There Is a Way Out.

DISC REVIEW “RISE RADIANT”

「CALIGULA’S HORSE には、光を強調しない闇は決してないんだよ。僕にとって最も好ましくないことは、出口を示さず、悲惨なことや暗いことを祝う音楽を世に送り出すことだから。そのコントラストこそ、僕たちの作曲における中心であり焦点の1つなんだ。」
性的倒錯、残忍な浪費家、狂気の暴君。ローマを刹那支配した悪名高きカリグラ帝は、しかし少なくとも愛馬を元老院に任ずるほど愛していました。もはやオーストラリアを代表するプログメタルのインペラトルにとって、レコードを覆うメランコリーの闇芝居はすべて愛情や強さを手繰り寄せる一条の光への道筋に違いありません。
プログレッシブのネオサザンクロスとして KARNIVOOL, NE OBLIVISCARIS, VOYAGER といった綺羅星と共に台頭した CALIGULA’S HORSE は、最もプログメタルの流儀を残すその手法が例えば英国の HAKEN と深く通じているのかも知れませんね。特に、Djent やシュレッダーの流れを汲む Sam Vallen の悍馬のテクニックを基盤としたメタリックな “Caligula’s Groove” は、絶対的なバンドの顔となっています。
一方で、プログメタルもう一つの巨星 LEPROUS とシンクロする表情も少なくはありません。シーンでも最高の評価を分かち合う Einar Solberg と Jim Grey は共に果てなきメランコリーの使徒ですし、コンテンポラリーな音のメルティングポットとしても双方存分です。では、CALIGULA’S HORSE 自身の強烈なアイデンティティーはどこにあるのでしょうか?肝要なその答えこそ、最新作 “Rise Radiant” にあるはずです。
「”Rise Radiant” は再定義と言うよりも、別の自然な進化の結実だと思う。世界中をツアーする中で多くを学び、書きたいことや演奏したいものをしっかり理解出来たんだ。」
8分の大曲 “Salt” を聴けば、CALIGULA’S HORSE がクラッシックにも通じるやり方で、エピカルなメタルの交響曲を具現化したことに気づくでしょう。ヴァイオリンやヴィオラの荘厳な響きはありませんが、それでも充分にこの絶佳の名曲はワーグナーでありリストのロマンチシズムを湛えています。
「エンディングは Ruggero Leoncavallo の手によるオペラ “道化師” で歌われるアリア “衣装をつけろ” から触発されたと言っていたね。最終的に、”Salt” は音楽テーマの要約 (楽章からの音楽テーマをもう一度提示すること)で終わるんだ。つまり、その構造を通じて、よりクラシックなスタイルからインスピレーションを得ているのは確かだよね。」
シンコペートするピアノの響きは指揮者、レイヤーにレイヤーを重ねたコーラスは聖歌隊、8弦ギターのほろ苦き低音はコントラバスでしょうか。モチーフの膨らませ方、印象の変化もあまりに劇的で巧みです。
一方で、最近メタルはあまり聴いていないと語る Jim の言葉を裏付けるように Becca Stevens や Jacob Collier の色彩を付与した “Resonate” は、電子音とアコースティックの狭間を浮遊する海月のしなやかさを描き、牧歌的な “Autumn” でフォークやカントリーの領域まで掘り下げてメタルの新たな可能性を提示するのです。
いつものように閉幕は長尺のエピック。”The Ascent” のドラマ性はベートーベンのシンフォニーにも引けを取ることはありません。
今回弊誌では Jim Grey にインタビューを行うことができました。「努力を重ね、ウイルスの遮断に大きな進歩を遂げてきた国は素晴らしいよ。残念ながら、そういった国々の努力を完全に台無しにしている国がいくつかあるよね。
どの国について話しているかわかるよね? 音楽と国際的なツアーの世界がコロナ以前と同じになることはなさそうだよね…結局は待つしかないんだけどね! 」何と三度目の登場!感謝です。どうぞ!!

CALIGULA’S HORSE “RISE RADIANT” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【VOYAGER : COLOURS IN THE SUN】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ALEX CANION OF VOYAGER !!

“As For a Band That Has Influenced The Band’s Sound As a Whole, It’d Have To Be Type O Negative. They’ve Been a Huge Inspiration.”

DISC REVIEW “COLOURS IN THE SUN”

「世界の生は今ほど良くなったことはないという事実と、同時にそうして実現しつつある人間としてのカラフルな多様性を祝うべきであるというテーマを扱っているよ。」
燦々と輝くオーストラリアの太陽の下、集結した5つの異なる個性は VOYAGER の名が表す通り人類の多様性を探求する音の船を大洋へと導きます。
メタル第三世界から現れた VOYAGERは、拡散と多様化のモダンメタルを象徴するのみならず、個性を尊重して育む現代世界の潮流まで確かに体現したバンドです。実際、彼らは音楽のルーツも各自の特徴も異なりながら、あたかも南天の夜空を彩る南十字のごとくそれぞれが際立って輝いているのです。
ショルダーキーボードを携え見た目もゴージャスなボーカリスト Danny Estrin は、紅旗からトヨタの MR2 までオールドスクールな車に情熱を燃やし、MODERN TALKING のようなシンセポップを崇拝。
一方で TesseracT の Dan Tompkins と ABSENT HEARTS も牽引するギタリスト Scott Kay は、”Dungeons & Dragons” のようなゲームを愛し、ARCHITECTS 的モダンギターの世界に心酔するニュータイプ。
今回インタビューに答えてくれたベーシスト Alex Canion にしても、バンドの外では声優の夢を追いマーシャルアーツに情熱を捧げ、LEVEL 42, THE CURE といった80’sをインスピレーションの中心に挙げているのですから。
ただし、VOYAGER という星座の中ではむしろそのバラバラにも思える個性が化学反応を起こします。
「出来るだけ単純化したプログレッシブポップメタルという言葉で、みんなが僕たちのプレイする音楽のイメージを掴みやすくしているんだけど、実際は、シンセウェーブメタルという表現が僕たちのマテリアルに対して最もしっくり来ると思うんだ。」
Danny のシンセポップ、Scott のモダンギター、Alex の80’s、それに紅一点 Simone の Devin Townsent 愛。全ての糸が絡み合い溶け合うことで、VOYAGER のカラフルかつアクセシブルな “シンセウェーブメタル” が織り上げられるのです。
「このアルバムではキーボードとシンセサイザーが大きな役割を果たしていて、アルバムを通して作品に “カラー” を仄めかし続けているね。」
Alex が語るように、バンドの最新作 “Colours in the Sun” は、これまで以上にキーボードとシンセサイザーを核に据えた、最もポップでしかし最もヘヴィーな作品だと言えるでしょう。
ノスタルジックなシンセサイザーの緩波と先鋭なポリリズムジェンティズムがせめぎ合うオープナー “Colours” はまさにアルバムの未来予想図。嫋やかで優雅な Danny の歌声は音のパレットへと染み渡り、アンセミックでダンサブルなビッグコーラスを導きます。
「バンド全体のサウンドに影響を与えたという意味では、TYPE O NEGATIVE だろうな。彼らからは巨大なインスピレーションを受けているよ。」
VOYAGER がゴシックメタルの偉大なる先駆者を最大のインスピレーションに挙げるのは、少々意外かもしれませんが理に適っています。事実、刻々と移ろうテンポの中で繊細なシンセサイザーのさざめきとメランコリー極まるメロディーを奏でる “Saccarine Dream” を聴けば “October Rust” の幽玄なゴシックホラー、TYPE O NEGATIVE に潜むニューウェーブへと連続性を認めるのも難しくはないでしょう。
当然、それ以上に彼らの実験性にシンクロニシティーを感じているのは確か。無論、これは祝祭のレコードですが、それでも耽美とメランコリーは VOYAGER を VOYAGER たらしめる絶佳の魔法です。
クライマックスは Alex も当代きってのシンガーと認める LEPROUS の Einar がゲスト参加を果たした “Entropy” で訪れます。最も才能に満ちたプログメタル最北端と最南端の衝突は、超常的なエナジーとエモーションを創出しました。
その実、エントロピーはレコードで最もスタンダードなメタルチューンかもしれませんが、故に VOYAGER のヘヴィーでプログレッシブな一面を深々と堪能出来る一つの熱量でしょう。
“Water Over the Bridge” で MESHUGGAH までもシンセウェーブに染めた後、”Runaway” でこの世のポップを追求するまさに千変万化、カラフル極まる祝祭のフィナーレ。PERTURBATOR や TesseracT に目配せをしながらよりレトロフューチャーに舞う太陽の蝶。
今回弊誌では Alex Canion にインタビューを行うことが出来ました。「パースはとても孤立している場所だから、故に世界の他の地域に追いつきたいという意欲が少なくとも小さな役割は果たしていると思うね。だから小さくてもオリジナルなシーンがとても繁栄してきたように思えるね。」 どうぞ!!

VOYAGER “COLOURS IN THE SUN” : 9.9/10

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