NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【A.C.T : FALLING】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH HERMAN SAMING OF A.C.T !!

“Hopefully More Will Understand Our Music In The Future. They Will Get It In Time.”

DISC REVIEW “FALLING”

「最近の人たちは音楽の聴き方が変わってきているからね。いつか、長いエピック・アルバムが戻ってくるかもしれないけど、今はファンがバンドにもっと頻繁に音楽をリリースすることを望んでいるんだよ。将来的にはフルレングスのアルバムをリリースするかもしれないけど、今のところ、今やっているEPのコンセプトに満足しているよ」
SNS で30秒の演奏動画がもてはやされ、音楽視聴もストリーミング全盛の時代。時短、合理性、簡潔が価値とされるインスタントな文化において、プログレッシブ・ミュージックは逆風の中にいます。だからこそ、複雑かつ長編のプログ絵巻で世界に抗するアーティストもいますが、スウェーデン、マルメからプログ・ポップを牽引した A.C.T は時代と調和する道を選びました。
「僕たちは、リスナーに “一巡する聴き方” をしてもらいたいと思っているんだよ。1stEP “Rebirth”(春)から聴き始め、”Heatwave”(夏)、 “Falling”(秋)、そして最後のEP(冬)を聴き終えたら、また最初から聴き始める。リスナーには、1年の季節を何度も感じてもらいたいんだ」
近年のパンデミックや戦争、気候変動を見ていると、人はもしかすると歴史から学ぶことなく、何度も何度も滅亡と再生を繰り返しているのではないか?そんな疑念も生じますが、A.C.T が時代と調和する際に選んだのがまさに人類の栄枯盛衰のディストピア。彼らは滅亡の原因を “ヒートウェーブ” と定めました。ただし、熱波は我々のエゴから生まれるのではなく、小惑星の衝突で起こってしまいます。そう、この4部作は6600万年前の再現であり、恐竜と人類の違いが試されているのです。
「僕たちだってより多くの人に A.C.T.を聴いてもらいたいという気持ちはあるんだけど、同時に自分たちのファンベースをとても誇りに思っているんだ。僕たちは世界で最高のファンを持っている!将来、もっと多くの人が僕たちの音楽を理解してくれることを願っているよ。うん、そのうち理解されるだろう」
恐竜と同じように、ごく近い将来、人類は絶滅に直面し、小惑星が最大速度で地球に向かって突進する。この筋書きは、逆境に直面した際、いかに対応し、いかに再生し、いかに人間らしさを保てるかというこれまで人類が養ってきた寛容さや回復力の踏み絵ともなっています。ただし、そうした陰鬱なストーリーにもかかわらず、バンドの活気あるサウンドとアップビートなテンポ、そして澄み渡った旋律の魔法が、EP群をうまく連動して人の光をつないでいます。複雑なプログレッシブ・ロックとエルトン・ジョンやビリー・ジョエルのメジャー感を混ぜ合わせた感染力の強いプログ・ポップはそうしてこの連続リリースにおいて、感情を高めるエフェクトやサウンドクリップを用いることで映画のような一大スペクタクルに昇華されました。A.C.T は決して確立した地位に甘んじるような “役者” ではないのですから。そうして地球は暗闇に飲み込まれます。フォール・アウト。審判の日はすぐそこです。
今回弊誌では、類稀なるフロントマン Herman Saming にインタビューを行うことができました。「新しいバンドが良いメロディーを優先しているのを見るのは素晴らしいことだよ。実はこの秋、MOON SAFARI と一緒にライブをする予定なんだ。彼らは素晴らしいミュージシャンを擁する、とても有能なバンドだ。彼らに会うのが本当に楽しみだよ」 二度目の登場。どうぞ!!

A.C.T “FALLING” : 9.9/10

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COVER STORY 【RETURN OF SAVATAGE】 INTERVIEW WITH ZAK STEVENS


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ZAK STEVENS OF ARCHON ANGEL & SAVATAGE !!

“Criss Treated Everyone With Total Love And Respect. He Had a Really Angelic Spirit.”

復活のSAVATAGE

「タイトルは”カーテン・コール”になるだろう。来年の4月、Criss の誕生日にリリースしたい。そうしてツアーでファンに愛と感謝とさよならを伝えるんだ。これまでのメンバー全員に関わってもらい、10点満点の最高傑作で幕を閉じる」
US プログ・パワーの伝説、SAVATAGE の首領 Jon Oliva の言葉です。復活の SAVATAGE。アメリカにプログ・メタルとパワー・メタルの種をまいたドラマティックな反乱軍が、ついにメタル世界へと帰還します。
「僕が92年に初めて SAVATAGE に参加したとき、Criss が “今まで一緒にいられなかった時間を取り戻し、一緒に遊んで、もっとお互いを知る必要がある。だから一緒に暮らそう” と言ってくれたんだ。それが彼のやり方なんだよ。彼は誰に対しても完全な愛と敬意を持って接していた。本当に天使のような精神を持っていたんだ。僕たちは一緒に音楽を作り、失われた時間を取り戻していった。だからこそ、数年というより、10年以上一緒に仕事をしていたような気がしているんだ」
SAVATAGE を語るとき、避けては通れない2つの魂こそ、Criss Oliva と Paul O’Neill。両者とも、この世を去って何年も経ちますが、未だに彼らに対するスタンディング・オベーションと “カーテン・コール” は鳴り止みません。
Jon Oliva の弟、Criss Oliva は天賦の才に恵まれたギタリストでした。Eddie Van Halen の技量を宿しながら、エモーションとカタルシスに全振りした Criss の流麗なソロイズムはまさに天国への階段で、バンドのドラマ性を飛躍的に向上させていました。Zak Stevens が証言するように、誰が評しても “天使” となるその本質は、むしろ Randy Rhoads に近かったのかもしれません。とにかく、Criss のギターと Jon のピアノ、そして後に Zak が受け継ぐ旋律の魔法を軸とし、Paul O’Neill の荘厳華麗なシンフォニーと変幻自在なリズム、そこに考え抜かれたコンセプトが加わって、SAVATAGE の唯一無二は実現していました。
ただし、Criss と Paul が召されてもなお、SAVATAGE-Ismは脈々と受け継がれ、途絶えることはありません。Chris Caffery, Alex Skolnick, Al Pitrelli といった超一流がギターの芸術を繋ぎ、Paul O’Neill のシンフォニーは TRANS-SIBERIAN ORCHERSTRA として多くの SAVATAGE メンバーと共に夢のような成果を残しました。後続への影響も並々ならぬものがあったはずです。そして、Jon Oliva が SAVATAGE の声であるのと同様に、Zak が歌った4枚の名作、その驚異的な完成度を鑑みれば彼もまた、SAVATAGE の声に違いありません。
「僕はいつも QUEENSRYCHE と FATES WARNING の大ファンだったんだ。ARCHON ANGEL とその2つのバンドを比較することは、間違いなく正しいよ。Aldo も QUEENSRYCHE の大ファンであることは知っているので、その比較は完全に理にかなっているね」
Jon Oliva とボーカルを分け合う Zak Stevens による新たなバンド ARCHON ANGEL も、そうした SAVATAGE-Ism の継承者であり、同時に SAVATAGE の復活を祝う天使の啓示でもあるでしょう。これほどドラマティックかつ知的なプログ・パワーは近年稀に見ると言わざるをえません。素晴らしいのは、SAVATAGE のシンフォニーやドラマを基軸としながらも、QUEENSRYCHE が見せたコンパクト&キャッチーなプログ劇場、FATES WARNING の濃密なプログ・エキスをしっかりと抽出して、アーコン・エンジェルの物語へと落とし込んでいるところでしょう。アーコンとは、神々の宣託を地上に伝える選ばれた天使のこと。その天使がもし、Criss Oliva だったとしたら、我々は USプログ・メタルの始祖が三位一体となった ARCHON ANGEL の作品で、SAVATAGE の雄々しき復活を今まさに天から告げられているのでしょう。
今回弊誌では、Zak Stevens にインタビューを行うことができました。「特に2020年以降、世界で起きているネガティブな出来事については、とても残念に思っている。 復活した SAVATAGE は、今まで通り、人々の人生のタイムラインになるような曲、人生の辛い時期を乗り越えるような曲、そして感動を与えるような曲を届けることができると思っているよ。 それは、ファンのみんなからいつも聞いている話で、僕たちの音楽を通じて、そうした素晴らしい出来事が継続することを期待しているんだ」 どうぞ!!

ARCHON ANGEL “Ⅱ” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CRESCENT LAMENT :花殤 & 噤夢】 JAPAN TOUR 23!!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CRESCENT LAMENT !!

“Recently, There Are More And More Taiwanese Artists Presenting Notable Creations That Attract Foreigners To Take Notice Of Taiwan. As Long As We Can Keep Showing The Uniqueness Of Taiwan’s Culture And The Good Nature Of Taiwanese People, We Shall Get Positive Support From The World.”

DISC REVIEW “花殤 & 噤夢”

「私たち台湾人にも故郷を語り継ぐ義務がある。二.二八事件や白色テロでは、数え切れないほどの勇敢な台湾人、その多くは若いエリートが、残忍な独裁政権と戦うために命を犠牲にした。しかし、彼らの生涯を記した記録は、白色テロ時代の厳しい検閲のため、ほとんど残っていないんだ。
あと10年もしないうちに、二.二八事件の虐殺と拷問から生き延びた台湾の長老たちは、おそらくもう存在しなくなる。私たちの祖父母は、どのような不幸を目の当たりにしてきたのだろうか。彼らはどんな悲劇を記憶に封印してきたのだろうか。なぜ彼らは、第二次世界大戦中の日々を、第二次世界大戦後よりもまだ良かったと言うのだろうか。掘り下げれば掘り下げるほど、私たちは悲しい気持ちになる。
阿香と明風の物語は、私たちの祖父母の世代に属するもの。かつて台湾を窒息させた権威主義的な前政権によって、彼らは何十年も黙殺されてきた。今、私たちはそれを声高に語る義務があるのだよ」
東洋きっての悲劇の語り部。CRESCENT LAMENT の来日が決定しました。台湾という政治や国の争いに翻弄され続ける場所で、彼らは二胡と台湾語、そしてノスタルジックなアジアのメロディを用いて、メタルで抑圧や搾取に抗い続けています。その旋律は物語で、その物語は旋律。切っても切れない迫真の “オーディオ・ムービー” に、私たちは今こそ目と耳を傾ける時なのかもしれません。
時は昭和初期。阿香と明風の悲劇の物語は、台湾の日本統治時代に幕を開けます。日本人の松子と台湾人ビジネスマン清田が恋に落ち、産まれたのが阿香でした。しかし、当然のように松子と清田は共に両親からの猛反対を受けて別離。阿香は父清田のもとで育てられますが、心の傷を負った清田は自死を選び、阿香は置屋に売られてしまいます。
昭和15年。芸者として働き始めた阿香ですが、その心には将来への不安や仕事への葛藤が渦巻いていました。そんな折、一つの希望が湧き上がります。実業家、明風との出会いです。混沌とした時代に、若い2人は通じ合い、互いを運命の人だと信じます。
帰ってきたら結婚しよう。そんな言葉を残して明風は仕事で1年間、日本へと渡ることになります。しかしみるみるうちに戦況は悪化。何年も連絡のないままに、阿香は女将によって別の人と結婚を決められてしまうのです。
結婚式の当日。突然、明風があらわれます。そして、阿香に終戦まで出国が不可能だったことを涙ながらに告げるのです。すべては遅すぎたのでしょうか。来世での幸せを誓い合って2人は別の道を歩むことになってしまいます。
終戦を期に、日本による台湾統治は終わり、代わりに中国国民党がやってきます。「よく吠える犬が去って豚が来た」 などと言われるように、腐敗し抑圧的な中国国民党の支配は日本以上に台湾の人たちから嫌われるようになります。強姦、略奪、殺人など国民党が起こした事件は日本統治時代の30倍とも言われました。
そうした時代の変化は、裕福な家庭に嫁いだ阿香にとっても無縁ではありませんでした。軍人に強盗に入られ、夫を警官に殴り殺される。妾であった阿香は結局、もとの無一文、宿無し生活に逆戻りしてしまいました。
そんな窮状を再び救ったのが明風でした。新聞で事件の詳細を知り、すぐに阿香のもとへと駆けつけて、彼女を自分の商店へと連れ帰ります。ついに再会を果たした運命の2人。やっと幸せで平穏な時が流れるかに思ましたが、物価の大幅な上昇、搾取、そしてコレラの蔓延で台湾人の怒りが爆発。抗議行動を開始した彼らに浴びせられる機銃掃射。鬱憤は爆発し、二.二八の騒乱が巻き起こります。遂に結婚した若き2人でしたが、明風は台湾人としての誇りを胸に、阿香を残して抗議活動へとその身を投じます。帰らぬ愛しき人。移り変わるは季節だけ。しかし、阿香はいつまでも、いつまでも、明風の帰りを待ち続けるのです。中国国民党は92年までの白色テロで14万人もの知識人を惨殺したと言われています。
今回弊誌では、CRESCENT LAMENT にインタビューを行うことができました。「物理的な国防強化に加え、台湾の色彩豊かな文化を世界に輸出することは、我々普通の台湾人ができる簡単で効果的な方法だ。最近、台湾のアーティストが注目すべき作品を発表し、外国人が台湾に注目することが多くなっている。台湾の文化のユニークさと、台湾の人柄の良さをアピールし続ければ、世界から積極的に支持されるはずだからね」 どうぞ!!

CRESCENT LAMENT “噤夢” : 10/10

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COVER STORY + INTERVIEW 【ELEGY : REUNION 2023】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH IAN PARRY OF ELEGY !!

“Henk Was Ahead Of His Time With His Unique Song Writing Style And Phenomenal Technique On Guitar.”

ELEGY REUNION 2023

「やはり Henk の功績は大きいよ。彼は、DREAM THEATER などの偉大なバンドが存在するプログ・シーンよりも何年も前に、ELEGY の曲を書いていたんだからね。だから、Henk はそのユニークな曲作りのスタイルとギターの驚異的なテクニックで、時代の先端を走っていたと言える」
日本ほど ELEGY を愛し、ELEGY に愛された国は他にありません。おそらく、この国のリスナーは世界のどの国よりもメタルに知を求め、美を求めていました。だからこそ、早すぎたオランダの至宝に恋焦がれ、挽歌が眠りについた際にはいつまでも、いつまでもその目覚めを待ち続けていたのです。今でこそ、当たり前になったファンタジーとテクニカルの饗宴、”プログ・パワー” ですが、明らかに ELEGY はその源流です。そうして、DREAM THEATER よりもファンタジックで、HELLOWEEN よりもテクニカルかつ知的な失われし夢の迷宮がついに長き眠りから覚める時が訪れました。
「あの頃、Henk の母親が悲しいことに他界してしまい、想像できるように、それは彼にとって本当にものすごい打撃となってしまったんだ。彼は2人の子供を育てていたから、家族のために音楽から手を引くことにしたんだよ。でも ELEGY は、Henk と常に連絡を取り合っていたんだ」
ELEGY と聞いて、あなたは何を思い浮かべるでしょうか?明らかに、前ボーカリスト Eduard Hovinga の月まで突き抜けるような甲高いハイトーンとドラマティックなメロディは、初期 ELEGY の象徴でした。そしてもちろん、Henk van der Laars と Arno van Brussel / Gilbert Pot が織りなすあまりに劇的なギター・ハーモニーの疾駆は、ELEGY の代名詞と言えるでしょう。
その美しき両翼が完全に噛み合った “Lost” において、私たちはメタル・カタルシスの最高到達点を経験しました。逆に言えば、”Spanish Inquisition” の身を捩るような音スタシーを知ってしまった我々は、生半可なプログ・パワーでは満足しない体に調教されてしまったのです。いやー、”Supremacy” も良いんですよね…”Lust For Life” みたいな壮大荘厳なバラードを書けるバンドが他にどれほどいることか。
そうした絶頂期に、なぜかギター・スイープのテクニックまでずば抜けていた Eduard がバンドを去り、VENGENCE, Misha Calvin, そして TAMAS などで活躍した “Zero” の申し子ともいえる Ian Parry が ELEGY に加入します。Ian は Eduard のような天空のシンガーではありませんが、例えば Ronni James Dio のような力強く、エモーショナルな歌唱を得意としていました。だからこそ、少しスピードを抑えて、内省的で狂おしいほどにエモーショナルな “State of Mind” には適任でした。
嘘のような話ですが、当時の中高生は皆、カラオケで名曲 “Shadow Dancer” を歌いながら踊り狂ったものでした。それほど、あの頃の ELEGY は人気があったのです。本当です。Ian Parry はあの年、BURRN! 誌のベスト・シンガーに選ばれたんじゃなかったかな…とにかく、だからこそ、突然の Henk の脱退は青天の霹靂、あまりにも衝撃的で絶望的なニュースだったのです。
「ELEGY は2000年から、Jean Michel Jarre/Consortium Project の Patrik Rondat と2枚のアルバム “Forbidden Fruit”, “Principle of Pain” をレコーディングしていた。しかし、ファンが Henk を欲していることは明らかで、Patrik がやめると決めた時、Martin と私はバンドを繭の中に入れて、いつか Henk が戻ってくることを願うことにしたんだよ。その日がついに訪れたんだ!」
バンドは名手 Patrik Rondat を勧誘し活動を続けますが、非常にユニークなソングライターと、本当にユニークなサウンドを持つギタリストという二足の草鞋を履いていた天才の抜けた穴を埋めることは難しく、ELEGY は長い眠りにつくことになりました。たしかに Patrik はクラシック・ギターも縦横無尽に使いこなすフランスでも屈指のプレイヤーでしたが、ヴァイオリンから始まっている Henk が司るキーボードまで含めたゴージャス&カルフルなオーケストレーションの色彩こそ、ELEGY の真骨頂だったのかもしれませんね。
結局、ファンだけでなく、Ian も Martin も Dirk も Henk van dar Laars という偉人の帰りを待っていたのです。”Lost” のアートワークに描かれた月のように、時は満ちました。全作の再発、日本も含む?!リユニオン・ツアー、そしてその道の先には、私たちが焦がれ続けた新作が待っているようです。
今回弊誌では、Ian Parry にインタビューを行うことができました。「素晴らしい未来への希望を歌うことだよ。メディアでよく見聞きするような怖い話ではなく、もっとおとぎ話を書きたいんだ。魔法にかかったようなファンタジーの世界をね。そうだね、それで、1997年の “State of Mind” の時のように、ファンの皆に再び幸せな気持ちになってもらえたらうれしいね」 弊誌独占世界初インタビュー。どうぞ!!

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【METALLICA : 72 SEASONS】


COVER STORY : METALLICA “72 SEASONS”

“We’re All Really Average Players, But When You Put Us Together, Something Happens”

72 SEASONS

METALLICA の前作 “Hardwired… To Self-Destruct” から7年。数多の受賞歴があり、数百万枚の売り上げを誇るモンスター・バンドにとっても、11作目となる “72 Seasons” は、世界的なパンデミックの余波でまったく新しい状況の中の創造となりました。
パンデミックの坩堝の中で生まれた “72 Seasons” は、単なるニューアルバムではありません。コロナ以前に比べて、ポップカルチャーの中で、より大きな位置を占めるようになったバンドの再登場という意味合いが強いのです。その理由のひとつは、1986年の名曲 “Master of Puppets” が Netflix のレトロSFシリーズ “Stranger Things” で大きく取り上げられ、大きな後押しを受けたこと。もうひとつは、Lars Ulrich, Kirk Hammett, Robert Trujillo が昨年ブラジルのステージで、James Hetfield が観客に少し年をとって不安を感じていると認めた後に、3人でこのフロントマンを抱きしめたヴァイラル・ビデオの存在。METALLICA が Ozzy Osbourne とツアーを行い、テストステロンとビールを燃料とするスラッシュ・マシーンだった80年代には、こんなことは考えられませんでした。Lars Ulrich が振り返ります。
「バンド仲間をハグすることは、僕らの楽しみだよ。そして、お互いへの愛、40年以上経った今でもつまずきながらもやっていけることへの感謝をオープンにする。俺たちはそういう面をとても心地よく感じているんだ。俺たちは、お互いにオープンで透明な関係であろうとしている。30数年前、自分が20歳の時に “メタル・ロボット” であるため感情を持つことが許されなかった時代とは対照的だ。当時は、人間的な要素は、ある意味、置き去りにされていたんだ。ステージから降りたとき、俺たちはよく議論したものだ。 “あれは失敗した” “いや、俺のミスじゃない”。それは、ある種の完璧さを求める、狂気じみた、人間離れした努力だった…それが達成可能かどうかもわからない。でも今は、加齢に伴う自分たちの姿に満足し、”あの曲のあの失敗、面白かったよね?”と思えるようになった。今、俺たちは失敗を笑い、冗談にしているんだ。それでも俺たちは毎晩、ベストを尽くそうとする人間なんだよ」

つまり、結局のところ、2023年版の METALLICA はまったく別物なのでしょう。現在の彼らは、2004年に公開されたドキュメンタリー映画 “Some Kind of Monster” で見られるように、単に高額の精神科医を雇って創造性の違いを調整したり、バンド間の対立を仲裁したりすることはありません。彼らは実際に自分たちの感情について話しています。ステージ上でさえ。だからこそ、”72 Seasons” に収録された楽曲は、これまで以上にパーソナルなものになっているのです。以前のように必ずコンセプトや決まりごとから始まった作品ではなく、自らを曝け出し、初めて本音や伝えたいことをむき出しにしたアルバムなのかもしれませんね。
音楽的には、このアルバムはバンドの42年のキャリアを概観するような内容になっています。タイトル曲や “Shadows Follow”, “Too Far Gone?” は METALLICA 初期の熱狂的なスラッシュを蘇らせ、”You Must Burn!” は “Black Album” に収録されていたようなグルーヴを宿し、”Sleepwalk My Life Away” と “Chasing Light” では LORD/RELORD 時代のむき出しのロック・グルーヴを披露。一方、リードシングルの “Lux Æterna” は、METALLICA の初期のインスピレーション NWOBHM, 具体的には DIAMOND HEAD に向けたトリビュートのよう。11分のクローズ曲 “Inamorata” は、KYUSS と METALLICA 1986年のインストゥルメンタル曲 “Orion” の両方を呼び起こすことに成功しています。さて、このキャリアを包括するような新たな歴史の1ページは、いかにして生を受けたのでしょうか?
当初、バンドは毎週 Zoom ミーティングを行い、つながりを保ちながらアイデアを伝えていきました。遠隔地でのコラボレーション最初の試みは、2020年4月に各メンバーの自宅スタジオで録音された “Blackened” のアコースティック・バージョン(Blackened 2020)でした。そこからやがて、メンバー間の会話はより充実した音楽を作ることへと変わっていったのです。
Kirk Hammett が当時を振り返ります。
「ロックダウンが行われたとき、僕はかなりイライラしていた。両手を縛られたような気分だった。Rob(Trujillo) と “どうするんだ、このままじゃダメだ” っていう会話をしたのを覚えているよ!”こんなに時間を失うわけにはいかない!どうやってこの時間を取り戻すんだ!” とね。でも、Rob が言ったことがすごく心に響いたんだ。彼は “こんな時こそポジティブであれ。クリエイティブであれ” と言った。僕はそれを心に刻んだんだ。
今は、音楽的なアイデアがありすぎて、混乱してしまうくらいだ。そうして、ソロEP “Portals” の2曲を完成させることができたし、テクニックを鍛え、ずっとやりたかったギター・プレイに取り組むことができたんだ。時間が出来て、とても幸運だったと思えるよ。ロックダウンは、多くの人にさまざまな影響を与え、中には良くない影響を受ける人もいた。でも僕は Rob のおかげで、ポジティブに、要領よく、生産的でクリエイティブに過ごせたんだ」

そうして、4人の怪物たちは、何百ものアイデアを纏めるために選別し始めました。しかし、Zoom の喜びも束の間、何百、何千マイルも離れた場所にいる彼らは、これまで遭遇したことのない難題に直面しました。プロデューサーの Greg Fidelman がLAにいて、METALLICA のメンバーは西海岸に散らばっていたため、文字通りバラバラで、Lars はこの状況を “クラスター・ファック” と表現していました。
月日が流れ、世界が変わり始めた2020年11月、バンドは “All Within My Hands” のために集まり、実際に同じ空間で初めて新曲に取り組みます。それ以降、メンバーが家族の元に戻る前に会ったり、2021年にキャンセルされたライブを実現したりと、非常にストップ・アンド・ゴーなプロセスでしたが、ゆっくりと、しかし確実に、レコードが見えてきたのです。Lars がそのプロセスについて振り返ります。
「時には、より直接的で明白なビジョンが目の前に示されることもあれば、より本能的で言葉にならないこともある。2008年の “Death Magnetic” は、リック・ルービンと初めて組んだアルバムで、自分たちが何をしているのか、自分たちは何者なのか、これまでどこにいたのか、これからどこへ行くのか、アイデンティティや方向性について話し合うことがとても多かったんだ。こんな風に、各レコードは常に独自の旅であり、独自の存在なんだけど、このレコードはまるで偶然に突然出会ったようだった」
“音楽が現れた時、自分たちの方向に向かっているように感じた” と、Kirk は懐かしそうに振り返ります。
「これは僕らにとって初めてのことだよ。これまでは何度も、自分たちが考えるコンセプト通りに音楽を操作する必要があると感じていたんだけど、今回はそれがなかった。リフが現れて、一緒になって、僕たちはただ邪魔をしないようにするだけだった。音楽が飛び立つのを待つのが好きで、僕はその軌道を維持するためのガードレールに過ぎないんだ」
Lars の説明によると、具体的な目標や方向性に関する “ロッカールームでの会議” はなく、計画に関してはかなりルーズな感じだったと言います。パンデミックという外界の不確実性に囲まれていたため、より直感的に、考えすぎず、Kirk が言うように、音楽の流れに身を任せる必要があると感じていたようです。
「形にはなってきたけど、ゴールはなかった。というのも、創作活動でやっていることの大部分は、心臓や腸など、体の一部から生まれるものだと思うんだよな。もしそれが重くなりすぎたり、頭でっかちになったりすると、少し強引になってしまうし、過去に俺たちが頑張りすぎてしまったこともたしかにあった。だから “Hardwired” やこのアルバムは、曲作りのプロセスを可能な限り有機的なものにすることに重きを置いていると思う」

この自由で無秩序な作業方法と、作曲とレコーディングの過程でバンドに与えられた余分な時間は、音楽とそのクリエイターに余裕を与え、それまでとは全く異なるダイナミズムを植え付けました。Lars はそれは METALLICA にとって驚きだと言います。
「この2年間の制作期間中、誰かが声を荒げたり、議論や衝突があったとは思えない。40年も一緒にいれば、当然ぶつかることもあるし(笑)、それは過去によく語られてきたし、映画などでもよく記録されている。でもこれは、METALLICA がこれまでに作ったレコードの中で、断然、100パーセント、摩擦のないレコードだ。
結局のところ、俺らは自分たちがやっていることをとても愛しているし、自分たちが持っているものをとても大切にしているから、その道を旅するにつれてより大切にするようになるんだ。METALLICA を台無しにするようなことはしたくないから、もし何か問題が起きたら、すぐに手を引くんだ。今は互いにもっと共感できるようになったし、お互いを信頼して、すべての意見の相違が口論になる必要はないと思えるようになったのかもしれない。以前は、自分自身や全体像に対する信頼や信念が足りなかったから、あらゆることが喧嘩になったものだけど、今はそうではないんだよ。つまり、”過去” とは違う環境だ。このバンドにいて一番いいのは、安全な空間のように感じられることで、みんながそれに貢献している。みんながそれをとても大切にしているんだ」
James Hetfield は、METALLICA という “乗り物” があるからこそ4人が輝くと考えているようです。
「俺たち4人は個々でいると、マジで平均的なプレイヤーだよ。だが、4人が集まると何かが本当に起こるんだ。だから、基本的に他のミュージシャンとジャムるのは、俺にとって悪夢のようなものなんだ。俺はとてもシャイだから。1万人、2万人の前に立つよりも、誰かと1対1で座っている方がずっと不安なんだ」
Rob Trujillo も METALLICA の絆を感じています。
「METALLICA は家族なんだ。僕は家族に加わったんだよ。新しい兄弟を受け継いだ。ほとんどの人が知っているように、あるいは知っていてほしいのだが、特にこのようなバンドに参加するときは、責任が生じるんだ。もちろん、演奏できることは必要だし、信頼もパフォーマンスも必要だ。でも同時に、家族の一員として、その人の個性に合わせることも大切なんだ。METALLICA のメンバーはみんな違うし、同じではない。だから、物事を解決するためには、たくさんのコミュニケーションが必要なんだ。そして時には、自分の兄弟と同じように、完全に怒っている自分に気づくこともある。自分の家族と同じように、性格の違いを乗り越えていかなければならない。それと同時に、本当に大切なのはサポートだ。兄弟の誰かが落ち込んでいるとき、どうすれば彼を助けられるかを知っておかなければならないよ。METALLICA にいることは、そういうことなんだ」

METALLICA が闇を知らないわけではありません。”Master Of Puppets” での薬物中毒、 “One” での恐ろしいまでの孤独、”Fade To Black” での自殺願望など、彼らの作品は決して祝福と幸福に満ちたものではありませんでした。しかし、そんな中でも “72 Seasons” は、人間の大きな苦しみと不確実性を背景にした、彼らの最も暗い作品かもしれません。Kirk が説明します。
「ありきたりだけど、音楽は僕らの感情的、精神的、霊的な状態の反映なんだ。逆に言えば、”そうであってはならない” ということが理解できないんだ!僕たちはよく働くバンドだ。ロックダウンで閉じ込められたとき、僕らのエネルギーをどうやって取り除くんだ?僕たちはそれを音楽に注ぎ込む。だから、多くの音楽はとてもエネルギッシュなんだ。バラードがないのは、バラードが現れなかったからだ、兄弟。素敵で優しくて繊細な音楽はないんだ。この感情をカタルシスのある方法で吐き出したいんだ」
確かに、バラードはありません。77分という長い時間をかけて、”72 Seasons” は猛烈な勢いで駆け抜けていきます。このバンドは明らかに、自分たちの才能を誇示する気はなく、代わりに内なる猛り狂った地獄を共感させることを選んだのです。
しかし、この強烈なメタルの狂気は、”72 Seasons” の一つの側面に過ぎません。実際、James Hetfield はキャリアの中で最も露骨で脆弱な歌詞を残しています。人生の最初の18年間は、その後の人生に影響を与えるというコンセプトのもと、72 Seasonsはノスタルジア(”Lux Æterna”)、自傷行為(”Screaming Suicide”)、内省(”Room of Mirrors”, “Sleepwalk My Life Away”)など一見暗い内なるテーマを扱っています。Lars が説明します。
「このアルバムのテーマは、人生の最初の過程で経験したことが、いかに自分を形成し、自分が下す決断に影響を与え続けるか、そして自分が何者であるかを決めるということ。James は、人間のすべてが、最初の “72シーズン” で形作られるというコンセプトを持っていたんだ」

2019年10月、フロントマンは依存症をめぐる問題で2度目のリハビリ施設に入りました。”72 Seasons”のコンセプトは、人生の形成期である18年間と、それが最終的にどのように自分自身のあり方へと影響を与えるかだと説明した James 自身は、厳格なクリスチャンの家庭で育ち、13歳の時に両親が離婚。16歳のとき、母親はがんで亡くなっています。James は “大人は誰しも子供時代の “囚人” という言葉を使っています。
「James は、自分が経験してきた多くのことを、とてもオープンにし、透明にしているように感じるんだ。その多くが歌詞に現れていて、彼が歌詞を使ってコミュニケーションをとることをとても支持している。彼の口を塞ぎたくはないんだよ」
歌詞を読み解くと、憂鬱、逃れられない闇、誘惑、分裂、救済への願望など、明確なテーマがあり、その根源は魂の探求と隠れた悪魔との対峙に費やした結果だろうと読み取れます。しかし、 Lars は James の言葉にポジティブなものも見出しているのです。
「James は闇と光のコントラストを表現しているんだ。一歩引いて、歌詞や James が今回持ってきたテーマを見てみると、光と闇の両側面や両者の相互作用についてとてもよく感じられる。自分探しや、自分の弱さ、可能な限り透明であろうとすることなど、多くの要素に取り組んでいるんだ」
Kirk も Lars に同意します。
「歌詞が暗いとは思わない。彼は本当に暗いテーマに明るい光を当てているという事実において、非常にポジティブだと思う。それは必ずしも悪いことではなく、誰も触れようとしないようなパーソナルでタブーなテーマにアプローチすることで、みんなに大きな奉仕をしているんだ。そうやって、自分自身を世界に示しているんだ。もちろん、とても勇気のいることだよ。物事のネガティブな面を見ることは、世界で一番簡単なことなんだ。人は3秒でネガティブになれるが、ポジティブになるにはもう少し努力が必要だ。時間が経つにつれて、ポジティブでいること、みんなの幸福を拾い上げることだけでも努力する価値があると気づくだろう。James はこの歌詞をポジティブに捉えているんだ。KING DIAMOND のように究極の終末を語るわけでもなく、デスメタルのようなものでもなく、James は希望について歌っているんだ」
James も光を認めます。
「俺の人生、キャリアにはたくさんの暗闇があった。しかし、常に希望の感覚を持ち、暗闇の中に光を持ってきた。暗闇がなければ光はないのだから。人生には良いことがたくさんある。それに集中するんだよ。そうすることで、人生のバランスをとることができるんだ。誰もが自分の人生に何らかの希望や光を持っているんだ。明らかに、音楽は俺のもの。”Lux Æterna” では特に、コンサートに集まった人たちのことを歌っているんだ。ライブでは音楽から生まれる喜び、生命、愛、そして家族を見ることができ、ただただ高揚する感覚を味わうことができる」

Lars が James と出会ったのが、ちょうど17の時でした。ある意味、原点に戻るような意図もあったのでしょうか?
「バンドの原点を振り返るというより、俺ら自身のストーリーを振り返るということだと思う。長い間活動していると、その境界線は本当に曖昧になるからな。俺は17歳のときから METALLICA に参加しているから、人生のほとんどすべてを METALLICA の出来事と関連付けている。James と俺が出会ってバンドを始めたのが17歳の時だった。その2、3ヵ月後に18歳になったんだ。だから、人生のタイムラインは、基本的にバンドのタイムラインと連動しているんだよ。この2つを別々の軌跡として切り離すことはできないんだ。
もちろん、仲間と一緒に座って、昔話や喧嘩の話などをすることもあるだろう。旅先での話や、さまざまなおかしないたずらについて話すこともある。でも俺は過去にはあまり時間を割かないんだ。むしろ、未来に時間を割きすぎていて、現在には十分な時間を割いていないのかもしれないよな。でも、過去、現在、未来の間で、俺は間違いなくほとんど未来にいる」
ただし、リード・シングルの “Lux Æterna” に初期の METALLICA、もっと言えば NWOBHM の影響を見る人は多いでしょう。
「”Lux Æterna” を書いているとき、DIAMOND HEAD の話は出てこなかったと思う。でも、曲の中で James が “Lightning the Nations” (DIAMOND HEADのデビュー作) と言ったのは、明らかに意識していたよな。正直なところ、歌詞について彼に聞くことはあまりないんだ。でも、 “NWOBHMみたいだ” とか “DIAMOND HEAD みたいだ” とか言われると、なるほどと思うことがあるのは、俺らのことをよく知っているからだろう。専門的なことを言えば、あのリフのキーはAで、NWOBHM の曲の多くもAだった。俺らの曲の大半はEかF#のどちらかだからな。そこまで分解するのは嫌いだけどね」
セカンドシングルの “Screaming Suicide” をYoutubeで見ようとすると、”この曲は自傷行為について話しています” という警告があり、同意する必要があります。その下には自殺ホットラインの番号が書かれています。
「まあ、それは後からついてきたものだ。作っている最中は、どう解釈されるかなんて考えている暇はない。でも、このテーマ、この歌詞の土台であれば、免責事項や情報をパッケージにしたほうが役に立つと思い、選択したんだよ。そして、それは俺にとって本当に、本当に感情的なことだった。発売から1、2日後にコメントをチェックしたのだけど、ファンからのフィードバックには、自分の家族、親戚、友人など、どれだけの人がこのテーマに影響を受けているのかが書かれていて、ただただ驚かされるばかりだったよ。YouTubeのコメントを読んでいると、3つ目か4つ目のコメントには、身近な人の自殺や自殺願望に関するエピソードが書かれていたんだ。俺は涙を流しながら、この感想を読んでいたよ」

40年のキャリアに11枚のアルバム、そして4人のメンバー全員が60歳代を迎えた METALLICA。暖炉の周りに座って自分たちの遺産について反芻していても不思議ではありませんが、実際の彼らは正反対。METALLICA のタンクにはまだ燃料があり、成し遂げるべきことがはるかに残されているのです。ポール・マッカートニー、ブルース・スプリングスティーン、DEEP PURPLE などを例に挙げ、Lars は 「彼らが最高レベルでキャリアを続けていることは刺激になるだけでなく、何が可能かを示している」と言います。
「バンドの精神は長く続けることで、僕らはこれを本当に楽しんでいるんだ。この5年、10年の間に、自分たちの境界線と限界を理解し、どれだけ自分を追い込むべきかを理解できるようになった気がする。でも、膝や首、背中、肘、喉など、いろいろなガタがくるのは、これからだよ(笑)。ステージに上がると、やはり疲労が蓄積するから、健康を祈るばかりだよ」
Rob にとっては、”72 Seasons” こそがバンドの最高傑作です。
「僕らにとっての祝福と呪いのひとつは、新しい音楽的なアイデアがたくさんあって、レコードを作るのが楽しいということ。METALLICA のように長く活動しているバンドの多くは、ある時点で行き詰まりを感じたり、高いレベルで創作することが難しくなったりするものだけどね。でも、僕たちはたくさんのアイデア、たくさんのリフ、たくさんの音楽を持っているバンドなんだ。Kirk のリフのストックなんて、何百もあるみたいだしね。だから、僕らが持っているすべてのアイデアを実現するほど十分なアルバムをまだ作っていないんだよ。だから、想像するに、そう、僕らは新しい音楽を作り続けるんだろう。この作品は、僕がバンドをやってきてから一番いい作品だと思う。だから、これからも新しい音楽には事欠かない。ただ、それをやるための時間があるかどうかだ。それは全く別の話だ」
しかし、METALLICA にはまだ野望があるのだろうか?彼らは地球上のほとんどすべてのフェスティバルでヘッドライナーを務め(今秋にはカリフォルニアで開催される大規模フェスティバル Power Trip に出演予定)、7大陸すべてで演奏した唯一のバンドであり、1億2500万枚以上のアルバムを販売し、ビールやウィスキーの自社製品も持っています。さらに、レコードのプレス工場も購入したばかりです。Lars が答えます。
「よし、まだ月でライブをしたことがないから、その方法を考えてイーロン・マスクに電話しようみたいなチェックリストはないんだ。俺にとっては、自分たちを更新し続けることが重要だ。これからの数年間は、自動操縦に陥らず、自分に挑戦し続けるという適切なバランスを見つけることが大切なんだ」
Kirk は METALLICA の音楽の未来について、たとえ自分たちがこの世から去ったとしても遺せるものがあると信じています。
「ロックンロール・バンドの歴史を見れば、僕らはとっくに解散しているはずなのに、解散していないんだ! なぜそうしなかったかというと、僕たちが真の兄弟だからだ、お互いに離れられないと心から思っている。それに音楽が一番大事なんだ!僕たちはいつか死ぬし、賞味期限があるけど、音楽にはそれがない。音楽は生き続ける。楽曲は何年も何年も存在し続けて、聴かれ、発見されるのを待つ。100年後、誰かが “Seek & Destroy” を発見して、何だこれは?となっても、誰も僕たち4人のことまでは気にしないよ!”うわー、あいつら誰だ?長髪の男たち?でも、Enter Sandman” はクールだ”。レガシーとは、エゴの旅であり、ある意味無駄なものなんだよ」

アルバムのタイトルにもあるように、人生の最初の72シーズン (18年) は、その人のあり方を決定づけます。ある人は、子供の頃が本当に自由だった最後の時期だと振り返り、現実の生活に埋没する前に人生の最高のものを経験したと考えます。一方で、幼少期は過去として残し、明日は前よりも良い日であると考える人もいるでしょう。James は親となる事で、そのどちらをも肯定するようになりました。”過去は終わった” と認めることで希望が生まれる。混沌とした子供時代は避けられなかったかもしれませんが、それも過去であり、未来は自身が作るもの。
「人生最初の72シーズンがどんなもので、それが今どんな意味を持つかは、人それぞれだ。ただ、子供を持つことは、自分の子供時代や両親が経験したことを理解するのに役立つのは間違いない。どちらかというと俺は後者だね。親である俺は、”みんな、勘弁してくれよ。俺はただの人間なんだ” って感じだけど、子供のころは、親を神様のように尊敬していた。親は悪いことをしないし、親が言うことは何でも正しいと崇拝していた。でも親も人間だったんだ。世代を超えて、親として、本当に、俺がやりたいことは、自分の親がやったことより、もう少しうまくやることかもしれない。それが、自分に求めたいことだね。努力しなければならないこともあれば、完全に忘れなければならないこともあるし、見つけなければならないこともある。ただ、あれやこれやと親を責めるのはもうやめにしたいんだ。一つ言えるのは、誰にでも幼少期がある。それが良かったか悪かったかは、人生の後半で決めればいい。子供時代を変えることはできないが、子供時代の概念や今の自分にとっての意味は変えることができるから」
黄色のパッケージを選んだのにも理由がありました。
「俺にとっての黄色は、光。光なんだ。善の源なんだよ。だから、黒に対して、本当にポップな光の作品なんだ。俺のビジョンは、もともとこのアルバムを “Lux Æterna” (永遠の光) という名前にすることだったんだ。そして、俺は名前決めの投票に負けたんだけど、これは素晴らしいことだよ。”72 Seasons” は、より噛み砕きやすい曲であることは間違いない。それが何であるかを理解することができる。もう少し掘り下げて、噛み砕いてみてほしいね。でも、あの色は “Lux Æterna” から生まれたものなんだ」

METALLICA のメンバーにとって、72シーズンは複雑な旅路でしたが、最終的には、今日まで存在するメンバー共通の情熱、すなわちヘヴィ・Fuckin’・メタルを発見したことがすべてでした。Kirk が振り返ります。
「僕は機能不全な子供時代を過ごしていた。18歳になる頃には、頭が真っ白になっていたよ。都会で育ったから、あまりにも多くのものを、あまりにも早くから見すぎたんだ。だから、言いたくはないが、50回目のシーズンにはすでに傷物になっていたんだ(笑)。でも、72シーズンという短い期間の中で、いろいろな音楽を聴くことができたのは、僕にとって大きな財産になった。ベイエリアの音楽、ソウル、ファンク、R&B、ラップ、サルサ、ジャズ、クラシックなど、たくさんの音楽を聴いて育ったからね。ハードロックに目覚めたのは12歳か13歳のときで、KISSというバンドは好きだし、LED ZEPPELIN も好き、PINK FLOYD も好き…と思い、そこから始まったんだ。15歳のときに NWOBHM に出会い、JUDAS PRIEST や MOTORHEAD を知り、IRON MAIDEN のファースト・アルバムが発売され…そういったことはすべて72シーズンのうちに起こったことだ!その間に音楽的な情報を得て形成されたものが、今の僕の人生の音楽なんだ。どんな音楽も好きだけど、ヘヴィーでアグレッシブでエネルギッシュでダークな音楽を演奏するのは、心の底から好きなんだ。メタルが僕の72の季節を映し出す鏡であり、実際に過去に戻らなくても、あの頃のメタルを聴けばそこに行くことができる。それは健全なことだ」
Lars はどうでしょう?
「テニスをする家庭で育ったから、自分の中ではテニスで生きていくと思っていた。デンマークで育ち、テニス選手として国のトップ10にランクされたのに、ロサンゼルスでは、自分が住んでいる通りのベスト10に入ることもできないなんて、思いもよらぬ衝撃だった。だから、音楽の世界に飛び込んで、IRON MAIDEN, DIAMOND HEAD, TYGERS OF PAN TANG といった、バンドが、”音楽をやるのは楽しいかもしれない” と思わせてくれたんだ。それが目標だったんだ。James と俺が音楽を作り始めると、自分たちが求めていたものと同じようなもの、つまりメタルに没頭することを求めている人たちがもっといることに気づいたんだ。当時は世界の仕組み上、誰も知らなかったけど、俺らと同じようなはみ出し者や不適合者、権利を奪われた一匹狼が世界中に何百万人もいて、同じものを探していたんだよ!」

ヘヴィ・メタルは Lars にとって外の世界に初めてできた “家” でした。
「俺は一人っ子なんだ。バンドをやっているのは、他の人と一緒にいたいからなんだよ。幼いころは確かに一匹狼で、仲間はずれにされ、大きなクラブに所属したこともなく、注目の的だったこともない。いつも1人で外をウロウロしていたんだ。テニスをしていたけど、テニスは孤独なスポーツだ。俺は多くの時間を壁に向かってプレーしたり、ボールマシンでプレーしたりしていたからな。学校へは、他の子供たちと一緒にバスに乗るよりも、自転車で通うことにしていた。だから、バンド、グループ、集団、ギャング……どんな呼び方でもいいけど、俺は常に帰属意識を持ちたかったんだ。
昔は不器用で孤立した一匹狼の子供だったけど、バンドという環境に飛び込んだ。だから、ミート&グリートや、人と一緒にいること、昔はパーティーなど、社会的な要素はすべてその後に生まれたものだ。同じ志を持ち、抑圧されたメタル・ヘッズたちと一緒にいることで、”うわ、俺たちはこんなにたくさんいるんだ” と感じたんだよ。バンドを結成した当初は南カリフォルニアで、俺と James、そしてごく初期に一緒に演奏した数人のメンバーでスタートしたんだ。その後、サンフランシスコに移り、そこのスラッシュ・シーンの一員となった。そこから、メインストリーム以外のミュージシャンやメタル・ファンにどんどん出会っていった。人とのつながりを求めるのは、間違いなく俺の道だ。それは、一人っ子であることから始まった。でも、誰にでも自分なりの道があるものだよ。君にもきっと、自分なりの道があるはずだ」
Lars は、まだクラブで演奏していたころの PANTERA と知り合い、その仲を深めてきました、
共演も控えています。
「”Ride The Lightning” のツアーで兄弟に会って、友達になったんだ。ダラスでのことだよ。二人とも大好きで、テキサスには仲間もいて、テキサスを通るときはいつも会っていたよ。バンドがロック的な雰囲気から、クリエイティブでユニークな力へと進化していくのを、俺たちは何年もかけて見てきたんだ。だから、何十年も彼らとの関係を保ってきたんだ。”Walk” が好きでね。彼らが PANTERA の音楽と魔法を祝うという考えは……人々がそれを支持するかどうかについて、コミュニティで多くの話があるのは知っている。でも、俺はグレン・ヒューズが DEEP PURPLE のセットで演奏したいと言ったら、それを支持するタイプなんだ。だから、PANTERA の再結成はいいことだと思うんだ。Charlie が参加するのも素晴らしいことだ」
そして約40年後の今、ベイエリア出身のはみ出し者たちが、何百万人もの世界中のオーディエンスに接続され、真っ暗な闇の中から希望と光のメッセージを語っているのです。METALLICA の軌跡は、二度と繰り返すことのできない伝説であり、世代を超えたものでありながら、今だに1981年にバンドを始めた10代の若者たちの血と汗と涙が燃料となっているのです。
さて、Lars は72シーズンを終えた18歳の自分にどんなアドバイスをするのでしょうか?
「長髪を楽しめ。30代になったら前髪は消えてしまうし、あの大きなデニッシュのおでこは、一生目立つビジュアルになるんだから!」


参考文献: KERRANG! :Metallica: “In the past every single thing had to be fought over… now the band is a safe space and everyone is very protective of it”

REVOLVER:INSIDE ’72 SEASONS’: METALLICA’S JOURNEY FROM “METAL ROBOTS” TO OPEN-HEARTED FAMILY

CONSEQUENCE SOUND : Letter from the Editor: The Metallica Consequence Cover Story

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【DEMONSTEALER : THE PROPAGANDA MACHINE】


COVER STORY : DEMONSTEALER “THE PROPAGANDA MACHINE”

“Make The Minority The Big Villain That The Majority Should Fear In Any Country, And You’ve Suddenly Got Control. It’s All The Same Tactics; It’s Just That The Country Changes.”

THE PROPAGANDA MACHINE

“The Propaganda Machine” は、エクストリーム・メタルの言葉で叫ばれる戦いの鬨。Sahil Makhija 4枚目のソロ・アルバム “Demonstealer” は、母国インドをはじめ世界中の大衆を操り搾取する右翼政治家、人種差別主義者、偽情報の拡散者、宗教過激派を狙い撃ちしています。Sahil が言葉を濁すことなく、このアルバムに収録されている歌詞はすべて、抑圧に対する抗議の看板となり得るもの。ただし Sahil は、20年前、彼の先駆的バンド DEMONIC RESURRECTION でインドにデスメタルを紹介していた頃には、まだ “The Propaganda Machine” を作ることはできなかったと認めています。
「俺はボンベイ・シティに住む、かなり恵まれた子供だった。そして、ほとんどの子供がそうであるように、俺は政治に興味がなかったんだ」と Sahil は自身の音楽活動の初期を振り返って言います。SEPULTURA の “Refuse/Resist” のような政治的なメタルを聴いていたにもかかわらず、政治を意識することはなかったのです。
Sahil の覚醒は緩やかでした。彼は2015年のシングル “Genocidal Leaders” で遂に DEMONSTEALER に社会的な歌詞を取り入れ始め、前2作 “This Burden Is Mine” と “The Last Reptilian Warrior” では現実世界の問題がより浸透するようになりました。しかし、”The Propaganda Machine” は、彼がこれまで制作した中で、圧倒的に政治色が強いレコードだと言えます。その理由は、周囲を見渡せばわかるでしょう。トランプ、Brexit、目に余る警察の残虐行為、復活したネオナチズム、世界的なパンデミック、ロシアのウクライナ侵攻など、その暗闇のリストは身近で気が滅入るものばかり。

「このアルバムは、プロパガンダ・マシーンというタイトル通り、ここ数年の世界のあり方に完全にインスパイアされているんだ。特に、ヒンドゥー教の右翼過激派政権が誕生してからのインドでの出来事に触発されているよ。”The Fear Campaign” では、多数派が少数派を恐れるように仕向けることで、政府が大衆をコントロールすることについて。”Monolith of Hate” は、憎しみの政治と、恐怖のキャンペーンを通じて多数派が少数派を憎むように仕向ける方法について歌っているよ。正直なところ、世界中でこうしたことが起こっているよな。インドではヒンドゥー教徒が大多数で、ヒンドゥーの政府はイスラム教徒に関する悪いプロパガンダを流し続け、ヒンドゥー教徒がイスラム教徒に恐怖を抱くようにしようとしている。イギリスやアメリカ、ヨーロッパでも同じように、移民を恐れさせるキャンペーンが行われているし、アメリカでは、人種や宗教などでも同じことが行われている。世界的な “戦術” なんだよな。”恐怖を与え続け、従順にさせる” という歌詞は、まさにすべてを要約しているよ。
“The Art of Disinformation” は、テクノロジーがいかに武器になるかについて。インドでは、WhatsApp の偽ビデオが、この憎しみを広めるために使われ、最終的には少数民族への暴力や殺害さえも扇動しているんだ。”Screams Of Those Dying” は、ここ数年、リンチや暴動、警察の横暴、殺人、基本的人権のために戦う人々の暗殺によって失われた実際の命について歌った。”The Great Dictator” は、自分たちの利益のために憎悪と暴力を推進・宣伝する右派の指導者について。”‘The Anti-National” “反国家” は、インドや自国の政府に疑問を持つ人々が、いかに “反国家” と呼ばれているかについて。そして最後に “Crushing the Iron Fist” は、俺たちが力を合わせれば、私腹を肥やし、宗教、カースト、人種によって人々を分断するのではなく、生活の質を向上させるために働く、より良い政府を見つけることができるかもしれないという希望をアルバムに残している。国民のために働くという、本来あるべき姿の政府をね」

世界のリスナーにとってあまり馴染みがないのは、2014年にナレンドラ・モディが首相に就任して以来、インドで起きている混乱かもしれません。NRC(全国市民登録制度)とCAA(市民権修正法)という大規模な政治問題です。CAA では、トランプの人種差別的なムスリム禁止令とは異なり、インドに入ってくるイスラム教徒の移民を制限する一方で、他の宗教のメンバーがより自由に入国できるようにしようとしていました。
「多くの抗議があり、俺もそうした抗議に出向いていた。そして、その抗議は、右翼過激派グループが大学の子供たちを攻撃したり、抗議者に発砲したりすることで頂点に達したんだ。その結果、ニューデリーで大規模な暴動が起こり、ヒンドゥー教の過激派によって多くのイスラム教徒が殺されてしまった。その後、パンデミックが始まった。すると政府は突然、人々の移動を制限するようになった。出稼ぎ労働者は出身地でない都市に取り残され、飛行機で帰ることもできず、結局、何百キロも歩いて村まで帰ることになった。その途中で亡くなった人も少なくないんだよ。社会として、俺たちはより憎しみに満ちた生き物へと変化していってしまう。幼い頃から憎むことを教え込まれ、宗教、肌の色、性的嗜好など、異なる誰かを憎むことを強いられ、憎しみは押し付けられ、憎しみのモノリスを築いている。それは俺たちを蝕んでいくものだ。特にインドでは、現在の右派の政府関係者自身が、憎しみのスローガンを唱え、暴力行為や犯罪を呼びかけるデモを行い、彼らのすべてのアジェンダが憎しみで構築されている。なんとかしなければ」
そんな暗闇が重くのしかかる中、Sahil は自宅のスタジオに入り、”The Propaganda Machine”となる曲を書き始めました。歌詞には、自分がインドで体験したことを反映させたかったのですが、同時にリスナーが世界の他の地域とも簡単に結びつけられるようにもしたかったのです。
「どこの国でも同じようなことが起きているのを見た。どの国でも、少数派を多数派が恐れるべき大悪党に仕立て上げれば、突然コントロールが可能になる。国が変わるだけで、すべて同じ手口なんだ。俺たちがいかにプロパガンダに対して盲目的になりがちであるかを伝えたい。宗教であれ、政治であれ、俺たちはある特定の “信者” になるよう条件付けされてきた。宗教もまた、最大のプロパガンダ・マシンのひとつで、世界中のほとんどの人が信じるように仕向けられ、現実が見えなくなる」

プロパガンダによる洗脳に惑わされないために、教育レベルの向上は必須でしょう。
「ただ、インドは巨大な国で、極度の貧困と社会的不平等が存在するから、効果が出るまでには長い時間がかかる。インドには巨大な国土があり、極度の貧困と社会的不平等が存在するんだ。時間が経てばその地点に到達できるかもしれないという希望はあるけど、ほとんどの場合、堂々巡りになってしまう。インドの生活の質、政府が運営する学校や病院の状況を見れば、その状況がわかると思うよ。本当に、宗教的な洗脳や政府による洗脳、時代遅れの習慣や伝統にしがみつく人々など、長い道のりが待っているんだ」
SNS も今や権力の “武器” と化しています。
「俺たちは、ソーシャルメディアによって物語がコントロールされる世界に住んでいる。インドでは、世界の他の地域と同様にフェイクニュースの大きなな問題があって、SNS のほとんどは、右派の与党政府によってコントロールされている。右派政権に対抗できる政党やまともな野党がほとんどない状態でね。この国で最大の誤報拡散者である Whatsapp を使ってプロパガンダや誤報を拡散するためだけに人が雇われているよ。Whatsapp が原因で、リンチされたり殺されたりした人も。物議をかもした市民権法に対する抗議デモの際も、IT部門はフル回転していた。彼らの最大の自慢は、Twitter で何でも流行らせることができること。どんな話題でも、コピーペーストしたようなツイートが表示されるのは悪夢のようなものだ。ウクライナへの攻撃の際にも、このようなことが起こっていたよな」
“レッテル貼り” も権力お得意の分断の手法。
「特にインドにおける右翼の戦術のひとつは、人々に “反国家” の烙印を押すこと。政府に疑問を持てば反国家、あるイデオロギーを推進しなければ反国家というわけさ。最悪なのは、政治とヒンドゥー教を結びつけてしまったことだ。だから今日、牛肉を食べると、憲法で権利が認められているにもかかわらず、反国民とみなされる。現政権は非常に攻撃的で、親ヒンドゥー的でファシスト的な性格を持ち、非常に暴力的なグループを支持している。現首相を批判する人がいれば、ネット上の荒らしの軍団や、実際のチンピラまで現れて問題を起こし、反国民の烙印を押されてしまうんだ。俺は、批判的で、宗教的・政治的な駆け引きではなく、国民の向上のために政府を後押ししようとする人たちこそ、真の愛国者であると信じている」

Sahil は声を上げるためには、ある程度の人気が必要だと考えています。
「音楽にはたくさんの力がある。音楽がもたらす癒しやポジティブな変化はたくさんあるんだ。だけど、ニッチなジャンルの音楽を、ニッチな国で、しかも人気のないアーティストが演奏するとなると、そんな変化も期待できない。もしかしたら、一部の人に影響を与えるかもしれないけど、本当に影響を与えるためには、もっと多くの人に聴いてもらう必要があるんだよ。だから、今のところは、DEMONSTEALER は俺が目にした世界の間違ったことに対して発言するためのただの道具だ。でも、もしそれが人々に語りかけられ、共感され、音楽が人生の困難な時期を乗り越える助けになるなら、それは俺にとっても世界にとっても意味のあることとなる」
音楽的には、Sahil は DEMONSTEALER を実験室として使用し、頭に浮かんだあらゆるアイデアを探求する傾向があります。”The Propaganda Machine” では、彼のキャリアの中で最も緻密なレイヤーを持つ楽曲を作曲していることに気づくでしょう。もし、Sahil の威厳と自信に満ちたクリーン・ボーカルと、元 CRADLE OF FILTH キーボード奏者の Annabelle Iratni が醸し出すシンフォニックな華やかさがなければ、アルバムはもっとデスラッシュの閉塞空間にあったでしょう。Sahil は、自分の直感を信じることで、荘厳と凶暴の適切なバランスを見つけているのです。
「”次のアルバムは、今までで一番ブルータルなアルバムにしよう、ブラストビートと、最も重厚なリフ、そしてうなり声を出すだけだ” なんて思っていても、実際に曲を書き始めると、突然美しいメロディーを思いつき、”これはこの曲にピッタリだ!” なんて思うんだ」

DEMONSTEALER は厳密には Sahil のソロプロジェクトですが、NILE の George Kollias が “This Burden Is Mine” でドラムを叩いて以来、ゲスト・ミュージシャンはそのサウンドに欠かせない要素となっています。DEMONSTEALER のサポート・キャストは着実に増えており、”The Propaganda Machine” は総勢12人のプレイヤーによって命を吹き込まれているのです。クレジットには、鍵盤の Iratni、Hannes Grossmann を含む4人のドラマー、さらに4人のベーシスト、3人のリード・ギタリストの名前があります。James Payne (Kataklysm, Hiss From The Moat), Ken Bedene (Aborted), Sebastian Lanser (Obsidious/Panzerballett), Dominic ‘Forest’ Lapointe (First Fragment, Augury, BARF), Stian Gundersen (Blood Red Throne, You Suffer, Son of a Shotgun), Martino Garattoni (Ne Obliviscaris, Ancient Bards), Kilian Duarte (Abiotic, Scale The Summit), Alex Baillie (Cognizance), Dean Paul Arnold (Primalfrost), Sanjay Kumar (Equipoise, Wormhole, Greylotus)。Sahil は、彼らの役割について厳格に規定することはありません。ここでは、それぞれのミュージシャンが、それぞれの長所を発揮しているのです。
「各ミュージシャンは、それぞれの個性を生かす。これほど多才なミュージシャンと仕事をするのであれば、俺がプログラミングをしたり、これとこれを演奏しろなんて厳しく指示する意味はない。もちろん、ドラムのパートをすべてサンプルで置き換えるのはとても簡単だが、すべて全く同じ音になってしまう。それに何の意味があるのだろう?だから、ドラムの音はアルバムの曲によって変化するし、ベースのダイナミズムも当然変わってくるさ」
このアルバムは、Sahil の独特なソングライティングだけでなく、彼の思想によっても一貫性を保ちます。右翼のポピュリストが支配する不安定な国で活動することは簡単ではありません。最近、ニューデリーとムンバイにあるBBCのオフィスが、インド特集を放送した後に家宅捜索を受けました。”モディ・クエスチョン”(2023年)は、2002年にグジャラート州で起きた一連の暴動で首相が果たした役割を探るドキュメンタリー。ボリウッドの作品は、過激派の脅迫によって定期的に中断、破壊、閉鎖され、Sahil 自身も、風刺ロックバンド WORKSHOP で政治家と悪徳警官を罵倒した際、検閲に直面しました。Sahil が “偉大なる独裁者” や “鉄拳を砕く” のような曲を書くことの結果を恐れているとしても、彼はそれを表に出すことはありません。恐れよりも、彼は何度も自分の特権と、それを使って抑圧と闘う責任について言及します。
「俺のような人間は、アパートでくつろぎながら、こう言うこともできる。これは俺の戦いではないんだ。普通の平穏な暮らしを送ればいいってね。俺は何気ない生活を送れるのだから。だけど、踏みつけにされそうになっている人たちが大勢いる。いずれは反撃に出るべき人たちが。抗議の力、情報の力によって、俺たちは実際に変化を起こすことができるはずだ。どんな形であれ、善戦する人たちはたくさんいる。そして、願わくば、より多くの人々が目を開き、自分たちが持っている特権や、声を上げる必要があるという事実に気づくことを期待しているんだ。そして、この先、より良い日々が待っていることもね。俺たちは、自分たちが見つけた世界よりも良い世界を残すことができる、すべての人々にとってより公正で平等な世界に住むことができると信じたい。他人を親切に扱い、専制や抑圧に負けることはないとね。しかし、実際には、これは長い戦いで、変化は一夜にして起こるものではない。だからこそ俺は、より良い世界を作るために、時間、エネルギー、努力、時には命さえも犠牲にしてきたすべての人々に敬意を表したいんだ」

実際、Sahil 自身もより良いインドのメタル世界のために戦い続けてきました。
「俺たちも DEMONIC RESURRECTION でオリジナル曲を演奏するようになって、観客から瓶や石を投げつけられたものだよ。バスドラのペダルさえも手に入れるのが困難だった。レコード会社もなく、”ロック・ストリート・ジャーナル” という地元のロック雑誌があり、大きな大学では毎年、文化祭でバンド・バトルをやっていたくらいでね。当時はそれしかなかったんだ」
インドにおけるメタルのリソース不足に直面した Sahil は、インドのバンドを実現させたいなら、自分でやるしかないと決意しました。彼は、インド初のメタル専用のレコーディング・スタジオを設立し、その後すぐにインド初のメタル・レーベルである Demonstealer Records を設立します。そこで自身の音楽を発表し、ALBATROSS や今は亡き MyndSnare といったインドのバンドをサポートするだけでなく、彼のレーベルは BEHEMOTH や DIMMU BORGIR といった入手困難なバンドのアルバムをライセンスしリリースしました。また、元 DEMONIC RESURRECTION のベーシストである Husain Bandukwala と共に、インドで唯一のエクストリーム・メタル専門のフェスティバルである”Resurrection Festival” を立ち上げ、長年にわたって運営しました。インド・メタルシーンの柱としての Sahil の地位は議論の余地がありません。しかし、自身の影響力と遺産について彼は実に控えめです。
「でも、もし俺がやらなくても、おそらく他の誰かがやってきて、いつか俺の成したことをすべてやっていただろうね。でも、もし私が何らかの形で貢献できたのなら、それで満足だ。私は人生をメタル音楽の演奏に捧げているのだから」
Sahil は、貧困が蔓延している社会構造に加え、意味のある音楽ビジネスのインフラがないため、インドでバンドを存続させるためには基本的な収入が必要だと説明します。また、移動距離が長いためバンに乗って全国ツアーに出ることはできず、飛行機代やホテル代も考慮しなければならないことも。さらに最近まで、独自のPAシステムを備えた会場を見つけられることは稀で、各会場でPAシステムを調達し、レンタルしなければなりませんでした。
「その結果、ほとんどのバンドが赤字になり、長期的には解散してしまうんだ。今はマーチャンダイズで、なんとかやっていこうというバンドもいる。ツアーができるバンドもあるけど、簡単なことではないんだよ」

Sahil は早い時期から、物事を実現するために必要なことは何でもやると決めていました。
「メタル・ミュージシャンを続けられるように、自分の人生を設計したんだ。親と一緒にいること、子供を作らないこと、休暇にお金をかけないことも選んだ。自分がやりたいことはこれだとわかっていたから、そういった犠牲を払った。もし、友人たちのように給料が高くない仕事をするなら、その予算でどうやって生きていくかを考えなければならないだろうからね」
幸運にも、彼は “Headbanger’s Kitchen” というチャンネルと番組で、YouTuberとしてのキャリアを手に入れることができました。当初は一般の料理番組としてスタートした彼のチャンネルは、仲間のメタルミュージシャンにもインタビューを行いながら Sahil が実践しているケト食を推奨するプラットフォームへと発展し、今では彼の主な収入源となっています。
しかし、彼の最愛のものがメタルであることに変わりはなく、彼自身の努力もあって、この10年ほどでインドのメタルシーンは花開き始めています。多くの色彩、創造性、活気を伴いながら。ただし、インドから生まれるバンドは、インドと同じくらい多様でありながら、ほとんどの場合、彼らは民族的なモチーフを過剰に使用することはないと Sahil は語ります。
「というのも、この国のメタルの魅力のひとつは、自分たちの文化に反抗することだからね」

オールドスクールなスラッシュとメタルを演奏する KRYPTOS、ブルータルなデス/グラインドを演奏するGUTSLIT、シッキム州の SKID ROW, もしくは WHITESNAKE とも言われる GIRISH AND THE CHRONICLES、メイデン風の高音ボーカルでホラー・メタルを演奏する ALBATROSS, 弊誌でインタビューを行ったインドの DREAM THEATER こと PINEAPPLE EXPRESS などこの地のメタルは意外にも、伝統への反抗意識から西欧の雛形を多く踏襲しています。
彼の地の多くのスタイルやサブジャンルが西洋の聴衆になじみがある一方で、社会的・政治的システムへの怒りや、地元の文化や神話を参照した歌詞には、インド独特の風味が際立ちます。ムンバイのスラッシャー、ZYGNEMA の最新シングル “I Am Nothing” は、インドの多くの地域で未だに悲しいことに蔓延している女性差別やレイプ文化に対して憤慨した楽曲。そして、The Demonstealer のバンドである DEMONIC RESURRECTION は、壮大なブラック・シンフォニック・デスメタルを得意とし、前作 “Dashavatar” はヒンドゥー教の神 Vishnu の10のアバターについて論じています。そして、ニューデリーのBLOODYWOOD。スラミング・ラップ・メタルとインドの民族音楽を組み合わせ、英語、パンジャブ語、ヒンディー語を織り交ぜながら、政治的、個人的な問題に正面から取り組む歌詞を描いた彼らのユニークなサウンドは、近年ますます話題になっています。
「インドはとても大きく、多様性に富んでいて、これがインドだと断定できるものは何もない。彼らはパンジャブ音楽を使うけど、その音楽はインドの南部では人気がないんだ。言語も文化も音楽も違う。国語もなく、すべてが多様なんだよね。でも BLOODYWOOD は、欧米や世界中の人が “インドのメタルはどんな音だろう?”と興味を持ったときに、聴きたいと思うようなものを捉えているんだ」
つまり、Sahil Makhija はもっとポジティブで、特に彼が愛するヘヴィ・メタルの未来については楽観的です。
「インドのバンドがもっと国外に進出するのは間違いないだろう。10年前と比べると、みんなもっとたくさんツアーをやっているし、国際的なバンドがインドで演奏することも増えてきた。今後数年の間に、インド全土でそれなりのシーンと強力なオーディエンスを築き上げることができると思うよ」

参考文献:Bandcamp Daily: Demonstealer Fights For a Better India Through Death Metal

No Clean Singing:AN NCS INTERVIEW: DEMONSTEALER

Demonstealer’s Incendiary Metal Assaults “The Propaganda Machine” (Track-by-Track Rundown)

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【COVET (YVETTE YOUNG) : CATHARSIS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH YVETTE YOUNG OF COVET !!

“I Would Not Be Alive Today If Not For Guitar!”

DISC REVIEW “CATHARSIS”

「私にとって音楽とは、喜びや悲しみ、怒りなどの感情を吐き出すこと。カタルシスなの」
2010年代にマスロックイーンとして華々しくシーンに登場したイヴェット・ヤングは、CHON, POLYPHIA, PERIPHERY といったバンドとともに時代の寵児として新しいギターの波を起こしました。音楽的な多様性と機材的な野心の革命。そんな中で、まだまだ女性の少ないギター・ワールドにおいて、彼女のずば抜けたテクニックとマルチな才能、そしてキュートな容姿は多くのファンやアーティストを魅了し、さながら”ギタサーの姫”としてシーンを席巻したのです。しかし、どんなお姫様も永遠に夢見る少女じゃいられません。
嵐が巻き起こったのは、2020年のことでした。PERIPHERYのマーク・ホルコムと恋愛関係となったイヴェットは、後に彼が既婚であることを知り正直に事の顛末を話したものの、マークの酷い行いのみならず彼のファンベースからも誹謗中傷を受け、セラピーに通わざるを得ないほどに傷つきます。同時にパンデミックが世界を襲い、ツアーの機会も奪われました。一方で、あのウィル・スミスの娘Willowとコラボレートを果たし、彼女から世界最高のギタリストの一人と称されるといううれしい出来事もありました。しかし様々な”傷”と”歪み”は最終的に、彼女の”ホーム”であるバンドCOVETの瓦解へと繋がってしまいます。
「正直、このアルバムの制作過程はとても困難なものだった。シンプルに言えば、私はCOVETをやめたいと思うようになった。本当に、新たなスタートを切るか、このプロジェクトを完全に破棄するかどちらかだとね。だから、ベースのブランドン・ドーヴ、ドラムのジェシカ・ブルデーとともに”再生”を行うことができるのは、私の人生でとてもポジティブなこと。もう、過去のCOVETのネガティブなことには触れたくないの」
バンドの中で何かがあったのは明らかです。しかし、私たちがそれを知る必要はありません。イヴェットがCOVETに再び前向きになり、灰の中から”Catharsis”という美しい復活の火の鳥を届けてくれた。その事実だけで充分でしょう。そう、これは輝かしいアイドルが成熟したアーティストへと生まれ変わるレコード。そのために必要だったのが、喜びも悲しみも含めた”テクニカラー”な経験で、彼女はそれを今回”カタルシス”として吐き出していったのです。
「このアルバムがあなたを旅に連れ出すことを願うわ。アルバムのテーマはファンタジーへの逃避。音楽は私にとって常にエスケープであり、セラピーの源でもある。この音楽がみんなをどこかに連れて行き、想像力をかき立て、少なくとも何かを感じさせてくれることを私は願っているの」
成熟したアーティストとして、イヴェットが最初にリスナーへと提供したのは、暗い現実、癒えない傷からの逃避場所でした。それは、イヴェット自身、痛みや傷から逃れる手段として、音楽やギターに頼っていた経験があったから。
「ギターがなかったら、今生きていないわ!(笑) 。4歳の時にクラシックピアノ、7歳の時にヴァイオリンを始めたんだけど、プレッシャーが大きくて、体調をひどく崩してしまったの。入院中にギターを独学することにしたんだけど、そのおかげで自尊心が芽生え、自分にはないと思っていた “声” があるように感じさせてくれたの。今でもギターは私にとって神聖なもの。だから、楽器や芸術を通じて、自分の声やアイデンティティ、自己表現を探求することを奨励したいと思っているのよ。私の音楽を聴いたりしてね。そうなれば、多くの命を救うことができるし、人々が世界で孤独や迷いを感じることが少なくなると思うから」
実際、このアルバムを聴いて現在、そして未来においても救われる人は多いでしょう。アートは異世界への扉を開く鍵であり、未来へと続く道。COVET は、独創的なギター、絶妙なアレンジ、予測不可能なリズム、ダイナミックな”音声”によって、臨場感あふれる生き生きとした音世界を作り出していきます。その音色、メロディー、グルーヴは、映画のヒーローやヒロインのように生き生きとしたファンタジックな楽曲のキャラクターを呼び覚ますのです。
「音楽やビデオゲームは逃避のための器にも思えるわ。この世界には多くの問題があるけど、社会問題の解決や地球の修復に力を注ぐ代わりに、テクノロジーを使って代替現実や”より良い世界”を築こうとする傾向があるようね。この曲は、そんなメタファーで、人々がに逃避するための代替現実のようなもの。虚空に飛び込み、幻想的なサウンドスケープの世界へと浸れるようなね」
近年、盟友ともいえるPOLYPHIAのティム・ヘンソンが、その真意は測れないにしろ、ロックやメタル、ギター・ミュージックを時代遅れだと考え、流行とヴァイラルを追う姿勢を少なからず打ち出しています。イヴェットはロックとギターの未来についてどう考えているのでしょうか?
「人気者になることやヴァイラルを得ることは、私の芸術を蝕むと思う。私は自分のために音楽を書き、ギターを弾いているから。それが私の神聖な場所。私の人生を救ってくれた場所。だからもし、人の評価を気にし始めたら、私の書く音楽は本物ではなくなってしまうでしょう。どんなジャンルにも、収まるべき時と場所がある。どんな音楽でも時代遅れだとは思わないし、メタルやロックに見切りをつけるのはフェアではないと思うわ。私はただ、私の音楽で希望が湧いたとか、ギターを手にしたと言ってくれる人がいるととてもうれしいの。不安や痛み、時には抑圧的な現実から逃れるために音楽や芸術に頼ってほしい。そうして、音楽やアートを使って、こんな世界があったらいいなと思うような理想の世界へと旅立つの。音楽はとてもパワフルで、例え歌がなくてもみんなを高揚させ、共感させることができるのだから」

YVETTE YOUNG 弊誌インタビュー 2020

COVET “CATHARSIS” ライナーノーツ4000字完全版は4/21に  P-VINE からリリースされる日本盤をぜひ!!

COVET “CATHARSIS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE ONGOING CONCEPT : AGAIN】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DAWSON SCHOLZ OF THE ONGOING CONCEPT !!

“When I Do Listen To Music Though It’s Not Heavy Music, I Tend To Listen To More Groovy/funk Style Bands Like Cory Wong And Dirty Loops.”

DISC REVIEW “AGAIN”

「音楽を聴くときは、ヘヴィ・ミュージックではなく、Cory Wong や Dirty Loops のようなグルーヴィーでファンクなスタイルのバンドを聴くことが多いね。で、ヘヴィとファンク、この2つの要素が、僕らの音楽がしばしば異なるジャンルに溶け込む理由だと思うんだ」
THE ONGOING CONCEPT はメタルコア/ポスト・ハードコアシーンにおいて常に謎の存在であり続けています。多くの人は、バンジョーによるカオスな冒険 “Cover Girl” と、それに合わせた愉快なミュージック・ビデオでまず彼らに気づいたはずです。メタルコア、ファンク、ブルース、サザンロック、ポスト・ハードコア、プログレッシブ・メタル、アコースティックなど、様々なスタイルから影響を受けながら、魅力的なブレンドと奇抜な発想でサウンドを形成してきた THE ONGOING CONCEPT のコンセプトはまさに “Ongoing” “進行中”。ワイルド・ウェストをテーマにした “Saloon” や、全ての楽器を一から作り上げた “Handmade” など、彼らのアルバムは常に興味深いコンセプトを携えて、刻々と冒険という名の変化を続けているのです。
「14歳のときに DREAM THEATER に出会って、音楽に対する考え方が変わったよ。プログレッシブ・ロックや DREAM THEATER がやっていた奇妙なことに夢中になった。それが、THE ONGOING CONCEPT の音楽に様々な要素を取り入れたり、アルバムにコンセプトを取り入れたりする理由になっていると思う」
バンドのファンなら、6年ぶりの新作 “Again” の曲名に見覚えがあるはずです。なぜなら、すべてが新曲でありながら “Again” の枕詞はすべてバンドの過去の曲名であり、そうすることでバンドは、過去の作品への言及やイースターエッグを取り入れつつ、過去と現在を融合させた新しい楽曲を作りたかったのです。こうした、遊び心やコンセプト・イズム、過去との邂逅は、まさに DREAM THEATER の優秀な門下生であることの証明でしょう。
どのみち、”Amends Again” ですぐにリスナーは曲名の謎を理解します。オリジナル曲のキャッチーなフックへのコールバックが曲中にちりばめられ、彼らの特徴的なリフはまるで旧友が戻ってきたかのような弾むようなグルーヴでアルバムをスタートさせます。オリジナル・スクリーマーでキーボーディスト Kyle Scholz の象徴的な、高音で混沌とした叫び声は、間違いなく “Swancore” リスナーに歓迎され、バンドのサウンドに再度命を吹き込んでいます。
一方で、”Unwanted Again” では、Dawson Scholz と Andy Crateau のボーカルが前面に出て、インディーズ・スタイルのメロウなロックソングを標榜。Kyle が奏でる複雑なクリーントーンのギターとシンセが、グルーヴィーでヴィヴィッドなこの曲は、アルバムの中でも際立ち、最後は味わい深いクラシックなソロで締めくくられていきます。
「僕らが音楽を作るときは、できるだけ純粋でありたいと思っているからね。周りの世界で何が起ころうとも、僕らの音楽に反映させる必要はないし、僕らの目には重要ではない。重要なのは、その曲がどんな時でもどのような気持ちにさせるかなんだ。10年後、100年後、僕たちの曲は時代を超越したものでありたいと思っているから。僕らが曲を書くときは、携帯電話やテレビ、コンピュータの電源を切って、自分たちがハッピーになれるような曲を書くことを心がけているんだ」
前作に続き、このアルバムもバラエティに富んでいるのが魅力。エレクトロニックな要素を含んだよりチルな雰囲気の曲もあれば、メタルコアとサザンロックのハイブリッドを披露しより激しい顔を生み出す曲もあり、ジャジーなブレイクやファンキーなグルーヴなど予想不可能な瞬間の目まぐるしき目白押しでジャンルに縛られないこと、自らの音楽に正直であることの楽しさを実証していきます。好きこそ物の上手なれ。結局、好きに勝てるモチベーションはないのですから。
今回弊誌では、Dawson Scholz にインタビューを行うことができました。「僕たちはたくさんの “Swancore” のバンドとツアーを行ってきたんだ。その中には、僕たちの大切な友人であるバンドもいる。特に EIDOLA は、一緒にツアーを回った中で最も好きなバンドのひとつだね」 どうぞ!!

THE ONGOING CONCEPT “AGAIN” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【STARGAZER : LIFE WILL NEVER BE THE SAME】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH STARGAZER !!

“TNT Was The First Norwegian Hard Rock Band With International Success, And We, Coming From The Same City As Them, Were So Proud.”

DISC REVIEW “LIFE WILL NEVER BE THE SAME”

「僕たちは HAREM SCAREM や BAD MOON RISING を知っているし、彼らが僕たちと同じようなバンドから影響を受けていることもわかってもらえると思う。グランジやストーナー・ロックが主流になる中で、自分たちのスタイルを貫いたバンドたちだよ。彼らがいたからこそ、僕らも元々インスパイアされていた音楽にこだわっていると言えるかもしれない」
メロディック・ハードロック北欧5人組 STARGAZER は、2001年に F.R.I.E.N.D. というバンド名で結成され、2005年にEPをリリース。2008年に STARGAZER へと改名し、2009年にセルフ・タイトルを、10年の時を経て2019年に2ndアルバム “The Sky Is the Limit” をリリースし、古き良きメロディ志向のリスナーから高い評価を得続けています。なぜでしょう。それは、このノルウェーの美しき星見櫓にたしかな理由と信念が存在するからです。
「まず第一に、僕らは昔ながらの方法で、マイクを使ってアナログで録音しているんだ。アナログの伝統的なプリアンプを使い、リ・アンプは一切行わず、すべての信号を本物らしく保つ。僕たちは、ティン・パン・アレー (アメリカの大衆音楽業界の象徴。Frontiers のやり方を揶揄していると思われる) のような音楽メーカーから曲を買うのではなく、時間と労力をかけて、自分たちの音楽を根本から作り上げているんだよ。だから、僕たちが作る音楽は、僕たちの心に最も近い音楽なんだ」
ご承知の通り、近年の “メロハー” その大部分はイタリアの Frontiers Music から供給されていて、好きものにとっては最後の砦、生命線ともいえるような存在となっています。ただし、心を打つような素晴らしいリリースと同時に、メンバーをシャッフルした集金プロジェクトも少なくないのが事実。また、Alessandro Del Vecchio を中心とした “ホーム・バンド” に作曲、編曲、演奏を依存することも多く、すべてが “心からの” 音楽とは言い難い状況でしょう。
STARGAZER の素晴らしさは、そうしたしがらみに縛られることなく、自分たちのやり方で、心からの音楽を追求しているところにあります。もちろん、HAREM SCAREM にも、BAD MOON RISING にも常に迷いはありましたが、それでもあの困難な時代においてハードロックを追求し続けたその気概と音楽は今よりももっと賞賛されるべきでしょう。そしてSTARGAZER は、そんな90年代の荒波を乗り越えたメロハーの信念をその身に宿しているのです。
「TNT はノルウェーで初めて国際的な成功を収めたハードロック・バンドで、彼らと同じ都市に住む僕たちはそれをとても誇りに思っているんだ。彼らのアルバム “The Knights of the New Thunder” は、僕たちの心を激しく揺さぶったね!彼らは、ノルウェーのような小さな国からでも、世界のシーンに大きな影響を与えることができることを、他のハードロック・バンドに示したんだから」
そして、何より STARGAZER はあの TNT の血脈を引いています。同じトロンヘイムの出身で、Ronnie のギターを受け継ぎ、Morty の客演を成功させた STARGAZER 以上に TNT イズムを体現するバンドはいないでしょう。オーロラのハーモニーに、ガラス細工の美旋律、そしてギターのマシンガンの三位一体は、John Sykes と WHITESNAKE の骨太を加えて、完璧な1987年を今ここに蘇らせました。”Life Will Never Be The Same”。そう、彼らのメロハーを知った後の人生は、これまでとは決して同じではないはずです。
今回弊誌では、シンガーの Tore Andre Helgemo とギタリストの William Ernstsen にインタビューを行うことができました。「ギタリストとしての William はもちろん John Sykes の影響を受けているし、シンガーとしてのTore André は David Coverdale の素晴らしい軌跡と共に歌ってきた。BLUE MURDER も僕らがよく聴いているバンドなんだ」 どうぞ!!

“Of course we recognize Harem Scarem and Bad Moon Rising, and you might see that they are influenced by a lot of the same bands as we are. These are bands sticking to their guns while grunge and stoner-rock took the mainstream. Therefore, you can say we too hold on to that music we were originally inspired by.”
Melodic hard rock Scandinavian five-piece STARGAZER formed in 2001 under the band name F.R.I.E.N.D., released an EP in 2005, changed their name to STARGAZER in 2008, self-titled in 2009, and after 10 years, released their second in 2019 album “The Sky Is the Limit” and continues to be highly acclaimed by old-school, melody-oriented listeners. Why is that? Because there are certain reasons and beliefs that exist in this beautiful Norwegian stargazing turret.
“First thing is we record the old-fashioned way, analogue with microphones. Using analogue traditional pre-amps and no re-amping, to keep every signal authentic. We don’t go out there and buy songs from Tin-Pan-Alley-like music makers, but we spend time and dedication in creating our own music from the bottom. The music we make is the music closest to our hearts.”
As you know, the majority of “Melo-hard” music in recent years has come from Italy’s Frontiers Music, which has become something of a last resort and lifeline for the likes of you. However, along with the mind-blowingly great releases, the fact is that there have been a few collection projects that have shuffled members around. Also, they often rely on their “home band,” led by Alessandro Del Vecchio, to compose, arrange, and perform, so not all of their music is “from the heart. The beauty of STARGAZER is that it is a band with a lot of heart.
The beauty of STARGAZER is that they are not bound by these ties, but pursue music from the heart in their own way. Of course, Harem Scarem and Bad Moon Rising always had their doubts, but their spirit and music that continued to pursue hard rock in those difficult times should be praised even more than now. And STARGAZER carries in its body the conviction of a melodic musician who overcame the stormy seas of the 90s.
“TNT was the first Norwegian hard rock band with international success, and we, coming from the same city as them, were so proud. Their album “The Knights of the New Thunder” blew our minds! They kind of showed the way for other hard rock bands that it was possible to come from a small country like Norway, and make a big impact on the world scene anyway. ”
Above all, STARGAZER is in that TNT vein. Hailing from Trondheim, no band embodies the TNT-isms more than STARGAZER, which inherited Ronnie’s guitar and successfully guest-starred Morty. The trinity of Aurora’s harmonies, the beautiful melodies of Glasswork, and the machine guns of the guitars, with the added brawn of John Sykes and WHITESNAKE, brings the perfect 1987 back to life here and now.” Life Will Never Be The Same”. Yes, Our life will never be the same after discovering their melodies.
We had the pleasure of interviewing singer Tore Andre Helgemo and guitarist William Ernstsen. Here
we go!

STARGAZER “LIFE WILL NEVER BE THE SAME” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SERMON : OF GOLDEN VERSE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH HIM OF SERMON !!

“I Am Braced For a Fair Amount Of Eye-rolling To ‘Another Masked Band’, Which Is Fair Comment. But Also, Is It Really So Different To The Legions Of Corpsepaint Coated Black Metal Bands?”

DISC REVIEW “OF GOLDEN VERSE”

「ニュートラルで “小さい” 響きを持つ名前がよかったんだ。そこで、一般的な男性代名詞にしたのだけど、Him には聖書で頻繁に言及される神という意味合いもあって、二重の意味で使うことにしたんだ。それに、讃美歌はキリスト教の説教 (Sermon) で歌われるもの。言葉の響きという点でもつながっているよね」
Him を神として崇める仮面の匿名バンド SERMON は、2019年のデビュー・アルバム “Birth of the Marvellous” で、どこからともなく現れ喝采を浴びました。強烈でエモーショナルなプログレッシブ・メタルの驚異的な完成度は、スタートにしてすでに洗練された宝石で、謎の一団はシーンに凄まじい衝撃を与えたのです。そのメロディックな核心、巧妙な複雑さ、緊張感とメランコリーは、KATATONIA, TOOL, 後期の PORCUPINE TREE, RIVERSIDE に OPETH といったモダン・プログの語り部たちと美的な類似性を持っていました。
ただし、SERMON の鋭くユニークなエッジと巧妙なリズム細工は、プログ・メタルに魅了されていないリスナーにも間違いなくアピールする魅力を備え、群を抜いていました。デビュー作から4年。そうして SERMON 2枚目のLP、”Of Golden Verse” は深紅に染まる世界の奥底へとさらに足を踏み入れます。
「最近は、メタル以外のアーティストに影響を受けることが多いんだ。このアルバムでは、Michael Jackson, WOVENHAND, KILLERS, THE MACCABEES, CAMEL から影響を受けている。このアルバムに影響を与えたと思われるメタル・バンドを考えてみたんだ。SOILWORK は間違いなくそのひとつで、彼らのアルバム “Verkligheten” は僕らのデビューと同じ頃に発売されたんだけど、どの曲も最高の曲ばかりで、圧倒されたのを覚えているよ」
衝撃的なデビュー作で見せたクオリティとポテンシャルは、刺激と説得力を加えながらその洗練を拡大させています。SERMON が作り出す陰鬱で不吉な雰囲気は、血と知に染まりながら肌に染み込んできます。前作同様、”Of Golden Verse” は沸点に達するような緊張感に包まれ、その不吉でほとんど儀式的なムードは、威嚇と不安を誘う序章から高鳴るメロディーと変幻自在のフックへと巧みにシフトしながら、カタルシスの領域まで到達します。つまり、SERMON のユニークで複雑、かつ感情的にパワフルなサウンドはプログレッシブ・メタルの領域をすでに超越しているのです。
ロック、ドゥーム、ブラック、ゴシックの連なるドラマのが、安っぽさやメロドラマ的な場所に陥ることなく、プログレッシブな筋肉にに浸透。プログレッシブ・メタルの特徴を強く持ちながら、メロディック・ドゥームを筆頭に地下音楽の暗がりへと螺旋状に降下する彼らの音楽は、精神的、神学的なバランスの概念を “Sermon”、説くことに捧げられました。この匿名集団は、その音楽と同様に、あらゆる信念の思慮深い交差を作ることに重きを置いています。極論、群集心理、分裂した意見、無謀な信仰に囲まれた世界の中で、すべての信念を等しく受け入れるバランスのとれた中心地を見つけること。世界を取り巻く残虐行為に関するテーマを軸に、”Of Golden Verse” は人類の歴史をたどりつつ、人間本来のあり様を世に問うのです。
今回弊誌では、Him にインタビューを行うことができました。「もちろん、”また仮面バンドか” と言われるのは覚悟の上で、それはそれで正しい意見だよ。しかし、コープスペイントのブラックメタル・バンドの軍団と、本当にそんなに違うのだろうか?」 どうぞ!!

SERMON “OF GOLDEN VERSE” : 9.9/10

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