NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SCARCITY : THE PROMISE OF RAIN】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BRENDON RANDALL-MYERS OF SCARCITY !!

“NYC Is Also Objectively a Hard Place To Live – It’s Expensive, It’s Cramped, And The Infrastructure Is Constantly On The Verge Of Breaking – So The People That Stay Here Are Very Driven And a Little Crazy. I Think That Discomfort And Difficulty Also Feed Into The Sound And Ethos Of a Lot Of NYC Bands.”

DISC REVIEW “THE PROMISE OF RAIN”

「ニューヨークは客観的に見ても住みにくい場所だ。物価は高いし、窮屈だし、インフラは常に壊れかけている。だから、それでもここに滞在する人たちはとても意欲的で、少しクレイジー。その不快感や困難さが、多くのニューヨークのバンドのサウンドやエトスにも影響していると思う」
ニューヨークが現代の “アヴァンギャルド” なメタルにとって聖地であり、産地であることは語るまでもないでしょう。KRALLICE, IMPERIAL TRIUMPHANT, DYSRHYTHMIA. そして PYRRHON。ブラックメタルやデスメタルといった “エクストリーム・ミュージック” における実験を推し進め、アートの域まで昇華する彼らの試みは、明らかにNYCという “土壌” が育んでいます。
港湾を有し、人種の坩堝といわれる NYC。多様な人種が集まれば、そこには多様な文化の花が咲き、未知なる経験を胸いっぱいに摂取したアーティストたちの野心的な交配が活性化されていきます。物価の高騰や人口の密集、インフラの老朽化。NYC は必ずしも住みやすい場所ではありません。それでも彼の地に居を構え、アートに生を捧げる人が後をたたないのは、そうした “土壌” の肥沃さに理由があるのでしょう。
「正直なところ、僕らはみんなニューヨークのシーンで長い付き合いなんだ。Doug とは大学時代からの付き合いで、PYRRHON の最初のフル・アルバムからのファンなんだ。彼とは2016年の時点から一緒にプロジェクトをやろうという話をしていて、最終的に2020年に “Aveilut” になるもののMIDIデモを送ったら、彼が歌ってくれることになったんだ。
そんな NYC で、メタルとアヴァンギャルドの完璧なハイブリッドとして登場したのが SCARCITY です。マルチ奏者 Brendon Randall-Myers の落胤として始まった “希少性” の名を持つプロジェクトは、 NYC の同士 PYRRHON の Doug Moore の力を得て産み落とされました。デビュー作にして “Aveilut” “追悼” と名づけられたそのレコードは、パンデミックの発生による人と世界の死に対する “悲嘆の儀式” として、あまりにも孤独なマイクロトーナル・ブラックメタルとして異端の極北を提示したのです。
「僕たちは明らかに伝統的なブラック・メタル・バンドになろうとしているわけではない。でも、このジャンルには大好きなものがたくさんあるし、ブラック・メタルはこのバンドがやっていることの根底にあり続けると思う」
そうして到達したセカンド・アルバム “The Promise of Rain” で彼らは、さらに NYC の風景を色濃く反映しました。KRALLICE や SIGUR ROS, Steve Reich のメンバーが加わり、メタルとアヴァンギャルド、そしてノイズの融合に温かみと人間性を施したアルバムは、あまりにも雄弁で示唆に富んだブラックメタルの寓話。
ユタ州の砂漠を旅しながら恵みの雨を待った経験をもとに作られたコンセプトは、前作の悲しみから人生へとそのテーマを移し、困難に直面する人々や困難な地域における苦闘を、トレモロの噴火から火災報知器、ドローンにDJを駆使して描いていきます。たしかに、迷路のようですべてがポジティブな作品ではありません。それでも、少なくともこの作品は孤独でも引きこもりでもありません。われわれのいない世界から、SCARCITY はわれわれを含む世界へと戻ってきたのですから。
今回弊誌では、Brendon Randall-Myers にインタビューを行うことができました。「ゲームでは、コナミやフロム・ソフトウェアのゲームが大好きで、任天堂やスクウェア、スクウェア・エニックスの名作もたくさんやっているよ。最近 FFVII:Rebirth を終えて、今はエルデンリングのDLCをプレイしているんだ。
アニメは、あまり最新ではないけど、AKIRA やエヴァンゲリオン、攻殻機動隊、カウボーイビバップなどの名作を高校生の時に観ていて、最近ではデスノート、鋼の錬金術師、約束のネバーランド、進撃の巨人、風が強く吹いている、呪術廻戦などを観ているね。
バンドでは、G.I.S.M.、Gauze、Envy、Melt Banana、Boris、Boredoms、Ruins が好きだよ。読んで、聞いてくれてありがとうね!」どうぞ!!

SCARCITY “THE PROMISE OF RAIN” : 10/10

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COVER STORY + INTERVIEW 【ROLAND GRAPOW : HELLOWEEN : MASTER OF THE RINGS】 30TH ANNIVERSARY !!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ROLAND GRAPOW !!

“At The Beginning I Was a Little Upset, After All, I Was a Big Part Of The Helloween’s History, I Wrote a Lot Of Songs. But I’m a Fatalist, I Believe That Everything That Happens In This World, Everything Happens For The Best.”

DISC REVIEW “MASTER OF THE RINGS”

「”Master of the Rings” は、新しい HELLOWEEN のラインナップによる素晴らしいアルバムだ。バンド・メンバーやレコード会社の不安定な状況が何年も続いた後、僕たちは再び少し自由を見つけ、再び素晴らしいパワー・メタル・アルバムを作ることができた。僕たちもファンも幸せだった。振り返れば、実に素晴らしい時代だったね」
ここ日本で、いや世界中で、90年代のメタル・キッズをメタルへと誘った HELLOWEEN の傑作 “Master of the Rings” から30年。四半世紀以上の時を経ても、このアルバムが色褪せることはなく、素晴らしく時の試練に耐えています。それはきっと、”Master of the Rings” が、メタルの持つ逆境からの “回復力” と共鳴したから。実際、この前年、HELLOWEEN は崩壊の危機に瀕していました。
「僕は Weiki に、日本で “Chameleon” の曲(アコースティックな曲も多かった)を演奏した時、ファンが僕の前で泣いていたと言ったんだ。そして、”Keeper 1+2″ のような昔のスタイルに戻るべきだとも言った。彼は納得していたよ。それから数ヶ月して、Andi がバンドに加わった。彼も僕と同じことを言って、なぜ “Chameleon” のようなアルバムを作ったんだい?と尋ねていたね。とにかく、Uli と Andi がバンドに加わったことで、僕らの進むべき方向はまたひとつになったんだ」
“Master of the Rings” がリリースされる前年、HELLOWEEN が発表した “Chameleon” という文字通りカラフルなアルバムは大きな失敗と受け止められました。典型的なメタル、HELLOWEEN らしいパワー・メタルを捨てて、ポップな実験を試みたこのアルバムは、あまりに早すぎたのかもしれませんね。今聴けば、その多様性や芳醇なメロディが好奇心をそそる好盤にも思えますが、ステレオタイプは当時あまりに大きな壁でした。
「素晴らしい気持ちと同時に悲しい気持ちもあった。Ingo は病気だったし、僕らには本当にそうする以外選択肢がなかったんだ。一方で、Michael はポップ指向に傾倒していて、メタル・ミュージックにはもう興味がなかった。Andi と Uli は、ちょうどいいタイミングで適切なメンバーだったんだ」
さらに、HELLOWEEN の顔ともいえた Michael Kiske と Ingo Schwichtenberg の脱退は、負の連鎖に拍車をかけることとなります。しかし、心の病に侵された Ingo、そしてメタルに興味を失った Kiske がバンドを続けることは不可能でした。そして救世主となったのが、Andi Deris と Uli Kusch だったのです。
“Master of the Rings” は、あまりに印象的なドラム・フィルをイントロとする強烈な2つのスピード・チューンでその幕を開けます。実際、このドラム・フィルに心を奪われてメタルに誘われたファンも少なくないはずです。加えて、ガチガチのツイン・ペダルで暴風のように疾走する開幕の二撃。Uli の個性とインプットは、明らかにこの作品の見せ場となりました。
そして何より、Andi Deris の旋律。哀愁。高揚。激情。楽曲毎にコロコロと、猫の目のようにその色を変える Andi の感情は、ヘヴィ・メタルの強みを完璧なまでに代弁していました。
“Perfect Gentleman” で笑い、”Secret Alibi”で疼き、”In the Middle of Heartbeat” で咽び泣く。”Game is On” で初代ゲームボーイとのシンクロを楽しみ、”Mr.Ego” で素晴らしくも憎らしい Michael Kiske を偲ぶ。Andi の歌う新たな HELLOWEEN のアルバムには、明らかに、人の心に寄り添うヘヴィ・メタルの生命力が見事に吹き込まれていました。そして同時に、この作品には HELLOWEEN 史上最も理知的な整合感を極めたソング・ライティングとリフワークが備わっていたのです。何という復活!私たちはこの作品を聴いて、暗闇にもいつか光が射すことを教わりました。多くの困難は克服できると学びました。
「彼らのことを思えば満足だ。僕は招待されなかったから、再結成には参加していない。そう、最初は少し動揺したんだ。何しろ、僕はバンドの歴史の大きな部分を占めていたし、たくさんの曲を書いたからね。でも僕は運命論者で、この世で起こることはすべて最善のために起こると信じている」
“まだいける。俺たちはまだまだいけるんだ!”。30年前、アルバムに誰よりも力強い “Still We Go” を提供し大復活の立役者となった Roland Grapow はしかし30年後、HELLOWEEN の過去と未来をつなぐ大集結 PUMPKINS UNITED に呼ばれることはありませんでした。あの名曲 “The Chance” や “Someone’s Crying”, “Mankind” を作曲したにもかかわらず。
ある意味、これもまた大きな壁であり痛みなのかもしれません。しかし、”負けヒーロー” となった Roland は腐ることなく現在のメンバーたちにエールを贈ります。これぞまさに、ヘヴィ・メタルの寛容さ、包容力。音楽業界への失望を克服し、前を向いた Roland はこれからもまだまだ “いける” のです。
今回弊誌では、Roland Grapow にインタビューを行うことができました。「Weiki と僕がギターの腕前を競い合ったことは一度もなかった。Weiki はそのことについていつもクールだったからね。僕はただ、ギタリストとしてのスキルを少しでも伸ばしたかったんだ」 30年…Roland のお気に入り、”Dark Ride” の評価が海外で爆上がりしているのも面白いですね。どうぞ!!

HELLOWEEN “MASTER OF THE RINGS” : ∞/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【IN SEARCH OF SUN : LEMON AMIGOS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ADAM LEADER OF IN SEARCH OF SUN !!

“I Think The Whole ‘Angry Looking Metal Band’ Is Getting a Bit Stale In General.”

DISC REVIEW “LEMON AMIGOS”

「”怒っているように見えるメタル・バンド” というのは、一般的に少し古臭くなってきていると思う。”Virgin Funk Mother” は間違いなく、自分たちの個性を探求し、殻を破り始めたアルバムだ。典型的なメタルではないアイデアを持ち込むことを恐れなくなった」
かつて、ヘヴィ・メタルといえば、そのイメージの中心に “怒り” が必ずありました。それは、隣の家のババアが凍るくらい寒いスイスの冬に向けられた怒りかもしれませんし、親のクドクドしたお説教に突きつける “Fuckin’ Hostile” かもしれませんし、ド悪政に対して売りつける喧嘩歌舞伎なのかもしれません。もちろん、そうやって怒りを吐き出すことで、アンガーマネージメントを行い、心の平穏を保つこともできました。つまり、メタルの中にはネガティブな怒りと、ポジティブな怒りが常に同居していたのです。
しかし、多様なモダン・メタルの開花とともに、メタル=怒りという単純な方程式は崩れつつあります。喪失や痛みを陰鬱なメタルで表現するバンドもあれば、希望や回復力を光のメタルで提示するバンドもいます。
そして、BULLET FOR MY VALENTINE, FUNERAL FOR A FRIEND, TWELVE FOOT NINJA といった大御所ともステージを共にしてきたロンドンの新たな才能 IN SEARCH OF SUN は、明らかに “高揚感” をそのメタルの主軸に据えています。典型という概念さえ時代遅れとなりつつある今、人生にもメタルにも、愛、幸福、悲しみ、怒りといったあらゆる感情が内包されてしかるべきなのかもしれませんね。
「本当に単純なことなんだけど、僕らはいろんな音楽が大好きで、みんなグルーヴに夢中なんだ!それがいつも僕らの曲作りに現れていて、それが僕らの音楽にファンキーな雰囲気を加えているんだと思う。グルーヴがなければ、音楽はただのノイズだからね!」
パッション・イエローの背景に、輪切りの悪魔的レモン。そのアートワークを見れば、IN SEARCH OF SUN がメタルの典型を一切気にしていないことが伝わります。もちろん、悪魔こそここにいますが、ではトヨタのロゴマークを悪魔に模した車すべてが真性の悪魔崇拝者なのでしょうか?むしろ、ここには甘酸っぱいエモンの果汁や、ちょっとしたユーモア、そして踊り出したくなるような楽しい高揚感で満たされています。
もしかすると、例えば、最強の魔法ゾルトラークがほんの10年ちょっとで誰にでも使える一般攻撃魔法になってしまったように、メタルの怒りや過激さ、凶悪な音、そんなヘヴィのイタチごっこにも限界があるのかもしれません。だからこそ、グルーヴがなければ音楽なんてただのノイズだと言い切る彼らの、冒険を恐れない多様性、典型を天啓としない奔放さ、そして何より、メインストリームにさえ挑戦可能な豊かで高揚感のあるリズムとメロディの輝きは、メタルの未来を託したくなるほどに雄弁です。
今回弊誌では、Adam Leader にインタビューを行うことができました。「ファースト・アルバムの中に “In Search Of Sun” という曲があるんだけど、この曲は内なる葛藤と、自分が一番愛しているものを掴みに行くための世界との戦いについて歌ったものなんだ。この曲は、決意と自分自身を決してあきらめないことについて歌っている。僕たち全員がそのような姿勢を共有しているから、自分たちを真に定義するような名前に変えるのは正しいことだと思ったんだ」 PANTERA や Djent, BON JOVI とMJと、UKポップス、UKガレージ、ダンス・ミュージックが出会う刻。どうぞ!!

IN SEARCH OF SUN “LEMON AMIGOS” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【KINGCROW : HOPIUM】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DIEGO CAFOLLA OF KINGCROW !!

“I Think Kintsugi Is Really a Great Metaphor About Dealing With Traumas And Overcoming Them And Even Celebrate Them Since They Are Part Of Our Growth Process.”

DISC REVIEW “HOPIUM”

「金継ぎは素晴らしいアイデアだと思ったんだ。自身のトラウマ、傷と向き合い、それを克服し、さらには成長過程の一部でもあるその傷を祝福できるようになる。金継ぎは、その歌詞の実に素晴らしい比喩だと思ったね。また、金継ぎのコンセプトはアートワークにも使用し、アルバムのビジュアル表現にも全面的に取り入れているよ。なぜなら、その魅力的な哲学をおいても、素晴らしく美しい芸術形態だから」
欠けたり割れたりした器を、漆を使って修復する日本の伝統的な技法、金継ぎ。もう二度と戻らない致命的な “傷” を優しくつなぎ合わせ、美しい金でコーティングすることでその傷を唯一無二の前向きな個性とする金継ぎはもはや、修理を超えてアートの域に達しています。
イタリアの伊達プログ KINGCROW は、その技法と哲学、アイデアに魅せられ、”Kintsugi” を自らの血肉へと昇華させました。ネットの普及により致命的な心の “傷”を負いやすい時代に、彼らは金継ぎを人間そのものに例えます。 つなげない傷なんてない。トラウマを克服し、いつかはその傷を個性とし、その傷ごと優しく抱きしめられる日がやってくる。彼らの “Kintsugi” はそんな美しい希望の歌になったのです。
「答えを提示するのではなく、自分の考えや視点を説くのでもなく、さまざまなトピックについてリスナーに考えさせ、自分なりの答えを見つけさせようとしている。だから、君が指摘したように、”Hopium” のアイデアのひとつも、盲目的に従うのではなく、疑問を持つことなんだ。そう、フェイクニュースや誤った情報が氾濫する時代には、物事に対して疑問を持つことがこれまで以上に重要なんだよ」
“Kintsugi” を収録した KINGCROW の最新作、そのタイトルは “Hopium”。”Hope” “希望” と “Opium” “麻薬” を掛け合わせたアメリカの新たなスラングには、幻想的な甘い希望の意味が込められています。ネットのエコーチェンバー、バブルの中に閉ざされて自身を絶対的な正義だと思い込み、異なる意見、異なる存在を悪と断じる狂気の世界で、彼らはただ、”疑問” を持って欲しいと願います。差別や分断を煽るフェイクニュースやプロパガンダをまずは、少しでも疑うこと。KINGCROW は、そう投げかけることで、一度傷つき “割れて” しまった人類の絆を取り戻し、より美しく、再びつなぎあわせたいのです。
「PAIN OF SALVATION の “マジック” の中核には、とても感情的な創造性があると思うし、それは僕たちも同じだと思いたい。クールなものを作るために、曲のエモーショナルなメッセージを犠牲にすることは絶対にないからね。僕たちはただ、感情を揺さぶる音楽を、興味深い美学とさまざまなレイヤーで表現しようとするだけだ」
KINGCROW がつなぎ合わせるのは、人だけではありません。プログ以外にも、メタル、オルタナティヴ、エレクトロニカといった珠玉のジャンルを黄金の光沢でつなぎあわせ、唯一無二の美しき個性とする彼らの音楽こそ、まさに金継ぎ。感情を決して置き忘れず、極限まで洗練された楽曲には必ず、ハッと息を呑むような、魂を揺さぶられる瞬間が用意されていて、リスナーは大鴉のマジックにただ酔しれます。アルバムには、奇しくも現在 PAIN OF SALVATION で鍵盤をつとめる Vikram Shankar がゲスト参加していますが、もしかすると彼らこそが “魂の救済” を謳った最も “エモーショナル” なプログ・メタルバンドの後継者なのかもしれませんね。
今回弊誌ではギタリスト、キーボーディストでメイン・コンポーザーの Diego Cafolla にインタビューを行うことができました。「バンド名を探していたとき、実はちょうどエドガー・アラン・ポーの詩集を読んでいて、”大鴉” にはいつも心を奪われるものがあったんだ。会話のすべてが主人公の心の中で起こっているという事実は、本当に魅力的なアイデアだ。
僕にとっては、外界といかにかかわるかで、自分の現実だけがそこにあると思い込んでしまうことを象徴していた。だから結局、KINGCROW という名前になったんだ」 もはや、LEPROUS, HAKEN, CALIGULA’S HORSE と並んでモダン・プログ・メタル四天王の風格。どうぞ!!

KINGCROW “HOPIUM” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【HOUKAGO GRIND TIME : KONCERTOS OF KAWAIINESS: STEALING JOHN CHANG’S IDEAS, A BOOK BY ANDREW LEE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ANDREW LEE OF HOUKAGO GRIND TIME !!

“I Think That Would Be My Ultimate Goal: To Write a Series That Could Be Adapted By KyoAni, And Then Compose Music For It.”

DISC REVIEW “Koncertos Of Kawaiiness: Stealing Jon Chang’s Ideas, A Book By Andrew Lee”

「萌えアニメを伝道するのに最適な方法かどうかはわからないけど、これが僕が知っている唯一の方法だから。自分には同人誌を描く能力がない。だから、音楽やグッズで愛を表現するしかないんだよ。京アニでアニメ化されるようなシリーズを書いて、そのために作曲をする…というのが僕の最終目標かな」
オッサンがオッサンというだけで抑圧される時代。それでもオッサンは、艱難辛苦に耐え忍び生きて行かなければなりません。オッサンがそうした辛い現実や抑圧から逃避する場所。その代表こそ、萌えアニメであり、ヘヴィ・メタルなのです。
Kawaii に癒され、メタルで首を振る。間違っても、オッサンが Kawaii で腰を振ることは許されません。とにかく、オッサンにだって、心のオアシスは必要です。HOUKAGO GRIND TIME の Andrew Lee は、DISCORDANCE AXIS や GRIDLINK で有名な “先輩” に敬意を表しつつ、そんなオアシスとオアシスの悪魔合体に挑み、そして成功を収めました。
「やっと日本でライブができて本当に感謝しているよ!アメリカ国内でライブをする場合、観客の年齢層は少し高めで、アニメ文化に馴染みがないことがほとんどだ。”遊戯王” や “ぼくのぴこ” のもっと有名なミームならわかる人も何人かいるかもしれないけど、ほとんどの人にとってアニメのサンプルはただの面白い音でしかないんだ。日本でショーに来てくれた人たちはみんな真のオタクで、イントロやサンプルをしっかり理解してくれていた。それは本当にうれしいことだったんだ」
Andrew の悪魔合体。しかしそれは、母国アメリカでは少し孤独な戦いでもありました。グラインド・コアと萌えアニメの両方を等しく愛する彼にとって、強烈なグラインド・コアだけを求めるアメリカのファンには、少し違和感を感じていたのかもしれませんね。そんな中で、大成功を収めた日本ツアーは、Andrew にとって自らのアートが完璧に認められた瞬間で、孤独から解放された瞬間で、生きがいを得た瞬間でもありました。わかりあえる、認め合えるというだけで、孤独なオッサンやオタクにとっては奇跡のような “めたる・タイム・きらら” が生まれることもあるのです。
「いろいろなアニメのサウンドトラックを楽しんでいるけど、特に菅野よう子さんの “天空のエスカフローネ” のOSTが大好きでね。もちろん、”Just Communication”、”Irony”、”sister’s noise”、”only my railgun”、”Don’t Say Lazy” など、OPやEDの名曲もたくさんあるよね。ただ、あのスタイルで書くのは自分には難しいので、基本的にはギターソロくらいで、僕の曲に影響を与えていることはないかな。また、”響け!ユーフォニアム” や “ぼざろ” には、ひどい演奏がいくつか入っているのもいい!コンサート・バンドの最初の演奏は学生が録音したのに、最後の演奏はプロが作ったとか、ぼっちちゃんのの最初のバンド・シーンで聴ける意図的なミスや突っ込みとかね」
“Koncertos Of Kawaiiness: Stealing Jon Chang’s Ideas, A Book By Andrew Lee” は、まさにわかりあえるオタク、認め合えるオッサンだけに贈られた Kawaii のメタル・コンチェルト。萌えメタてぇてぇ。Moe to the Gore。腸が煮えくり返るようなボーカルとハイパー・ブラストなゴミ箱スネアの旋風に刻み込まれた萌えアニメの尊いわかりみ、そしてウルトラ・テクニカルなギター・ソロ。そのアンバランスはしかし、まるでこの分断された世界で Kawaii とメタルだけが世界をつないでくれるような不思議な期待感を持たせてくれます。
そう、世界がこれほどまでに分断され、激動している今、唯一の処方箋はわかりみと Kawaii の二重奏に違いありません。オッサンだって自己実現してもいい。オッサンだって美少女になりたい。Kawai くないようじゃ、無理か。オッサンもね、Kawai くしておかないと。オッサンがすべからく HENTAI だと思うなよ!盲点。むしろ久しい。
今回弊誌では、Andrew Lee にインタビューを行うことができました。「僕の人生のすべてが “ハルヒ” と “らき☆すた” に捧げられている。これらの作品を見て、僕は自分をただ “アニメを見ている” 人間だと思わなくなり、真の “オタク “になれたのだから」 わかります。二度目の登場。 彼の本職 (?), RIPPED TO SHREDS も最高です。どうぞ!!

HOUKAGO GRIND TIME “KONCERTOS OF KAWAIINESS” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【NILE : THE UNDERWORLD AWAITS US ALL】 JAPAN TOUR 24′


COVER STORY : NILE “THE UNDERWORLD AWAITS US ALL”

“Nile Is Unconcerned With Delusions Of Functioning As an Ethnomusicological Museum Conservatory”

THE UNDERWORLD AWAITS US ALL

その名の通り、NILE はあの悠久の流れのごとく決して静止することはありません。10枚目のアルバム “The Underworld Awaits Us All” は、バンドにとってまた新たな王朝の幕開けとなりました。NILE のディスコグラフィにおけるこれまでの9作と同様、このアルバムもまた兄弟作とは一線を画すユニークな作品となっています。実際、唯一神 Karl Sanders 率いる砂漠の軍団は、アルバムごとに新たな王朝を開いていて、その芸術的刷新の傾向はこのアルバムでも続いています。太陽が昇るように規則正しく、バンドは再び前作から学んだことを取り入れ、その苦労して得た経験を頑丈な土台に注ぎ込み、ピラミッドの改築と再構築に役立てているのです。
「”Amongst the Catacombs of Nephren-Ka” と “Black Seeds of Vengeance” 以来、私たちが作ったアルバムはどれも、”他の NILE のアルバムに似ている “とか、”あのアルバムのようなサウンドにしたかったのか? “とか、好きなレコードのどれかに似ていると言う人がいることに気づいたが、私はシンプルに “メタルを作ることに集中する” ことを好む。人々が愛着を抱くような過去のアルバムを作ったことで、最終的に “やると呪われる、やらないと呪われる” 状況が生まれるのなら、我々は “呪われる” を選ぶんだ」
とはいえ、その新鮮さにもかかわらず “The Underworld Awaits Us All” は紛れもなく NILE のアルバムであり、すぐにそれとわかるバンドの特徴が焼き付けられています。好奇心をそそるエジプト学と古代史、練り込まれたオリエンタルなリフ、燃えるようなテンポと骨の折れるようなスローダウン。これは1994年に NILE がデビュー・デモをリリースして以来、創意工夫を重ねてきたデスメタルの異形であり偉業です。
そして30年後の今、私たちは “Chapter For Not Being Hunged Upside Down On A Stake In The Underworld And Made To Eat Feces By The Four Apes” “冥界の杭の上で逆さまに吊るされ、四匹の猿に糞を食べさせられることのないように” という信じられないようなタイトルの曲を食べさせられることになりました。決してその場しのぎではない、タイトルから曲調に至るまで、デスメタルを愛する人々のためのデスメタル。
新たな血の注入を受けた “Four Apes “は、NILE が今でもレッドラインを越えてなおアクセルを吹かせられることを証明しているのです。ドラマーのファラオ、George Kollias の音の壁を破るようなパフォーマンスだけでも YouTubeは大賑わいでしょう。ある意味、人間離れしたスピードとレーザーガイドのような正確さが組み合わさったこの曲は、過去にバンドが好んだテクニカルなワークアウトを進化させています。NILE のDNAは、そのカタログの総和。
ゆえに、”Four Apes” は2015年の “What Should Not Be Unearthed” のような楽しさがあり、2019年の “Vile Nilotic Rites” のようなダイナミックできらびやかな鋼鉄のサウンドデザインも完備しています。それでも、NILE に刻まれた DNA のもう1つ、改革に執着する部分も存分に発揮されています。

その改革と再生へのこだわりは、”The Underworld Awaits Us All” に深く入り込めば入り込むほど明確になっていきます。”Doctrine Of Last Things” は、NILE の真髄であるスローモーなリフをピラミッドのように積み重ね、盛り上げていきます。テクニカル・ドゥームを愛する多くのリスナーが、なぜこのバンドをマイルストーンとして挙げるのか。Sanders とその仲間たちがもたらす、脂ぎった、悪臭を放つグロテスクな音像はしかし、川の急流のように決して淀まず、静止せず、前へ前へと流れていくのです。
「我々は歴史保存協会ではない。どの曲もアイデアを見つけるのにかなりの時間を費やし、そしてそのアイデアを新しい場所に持っていく。リサーチするだけでは十分ではない。私たちに言いたいことがあることも重要だと思う。これまでのレコードを振り返ってみると、私たちがただ歴史を語っているのではないことがわかる。これは歴史小説だ。歴史小説という媒体を通して、私たち自身の視点や考えを伝えているのだよ」
アメリカを拠点とする NILE は今回も、エジプト学のダークなエッセンスを再びより集めました。エジプト地域の残忍でしかし神秘的な歴史に、これほど適切なサウンドトラックを提供したアーティストはこれまでいないでしょう。しかし Sanders は NILE の音楽が、まず文化の保存ありきではないと主張します。
「NILE は、民族音楽博物館としての機能には無頓着だ。我々は、何よりもまずメタル・バンドである。だから、民族音楽学上の食人族に近いかもしれない。我々のギター・リフの基礎となっている東洋的な様式や調性は、すべてのメタル・リフの遺産とも共通していて、その性質上、多様なアイデアの交配と再利用を推し進めているんだ。それは古代の文化を守ることとは正反対だ。私たちはそうしたアイデアを取り入れて新たなメタルを “作って” いるのだから」
NILE は、ただの文化的なトリビュート・バンドとみなされることへの挑戦を続けると同時に、30年の間に冥界を震撼させるような作品を次々と発表してきたことで、自分たちに課したプレッシャーも克服しているのです。だからこそ、過去のアルバムとは一線を画す部分があります。
「これはストレートな NILE のアルバムだ。東洋の影響を受けたトーンや様式美はまだそこにあるが、このアルバムの直感的な焦点は、メタルの純粋で野蛮な本質にある。私は最近、無意味にオーケストレーションされ、過剰にプロデュースされたレコードの数々を聴いてうんざりしていたので、このアルバムを書いている間、キーボードを下ろしてクローゼットの中にしまい込んだのさ」

Sanders はこの作品でデスメタルの意味を再発見しました。
「デスメタルのレコードは、まず殴打し、次に楽しませるものだと思う。思慮深く、より複雑でスローなものを最初にレコードの前面に出すと、人々は “ああ、これはブルータルじゃない。邪悪さが足りない。あいつらどうしたんだ?” ってなるからね。
それを、”Ithyphallic” で気づいたんだ。”Ithyphallic” の1曲目、”What May Be Safely Written” は、ビッグで長くて壮大な野獣のような曲だけど、必ずしも即効性のある曲ではない。かけてすぐにバーンという感じではない。奇妙で、クトゥルフ的で、クトニックなスタートだった。あの曲に対するリアクションが、このレコードをどうするか、決定づけたんだ。ハードでツボを押さえた曲を前面に出さなかったせいで、迷子になってしまった人もいると思う。教訓を得たよ。まずは頭を殴って、それから別の場所に連れて行こう」
デスメタルに音楽理論は必要なのでしょうか?
「でも、ギターというのは本来、自分が何をやっているのかわからなくてもいいものだと思う。CELTIC FROST のフロントマンである Tom G. Warrior は、ギターで何をやっているのかさっぱりわかっていないが、信じられないような音楽を作っている!
私が知っているデスメタルを演奏している人たちの中には、自分が何を演奏しているのかまったくわからないのに、音楽を作っている人たちがいる。では、理論は必要なのか?いいえ」
しかし、Sanders 自身は音楽をもっと深く掘り下げているように思えます。
「私はいろんなタイプの音楽を聴く。それは NILE の音楽にも表れていると思う。CANNIBAL CORPSE と SUFFOCATION しか聴かない人、とは思えないよね。NILE を聴くと、他のものもたくさん聴こえてくる。でも、それは必ずしもデスメタルにとって必要なものではない。
つまり、デスメタルばかり聴いていれば、デスメタルをうまく演奏できるようになると思うよ。実際、そういう人はたくさんいるけど、私はたまたまいろんなものが好きなだけなんだ。
影響を受けたものが1つだけだと、音楽的には満足できない。世の中には宇宙みたいに広い音楽の海があって、楽しめるものがたくさんある。実際、クソほどたくさんの音楽があり、クソほどたくさんのギターがある。学べば学ぶほど、自分が何も知らないことを知ることになる!」

A面、B面というロスト・テクノロジーもこの作品で再び発掘されました。
「レコードのシーケンスは、デジタルの時代になって失われた芸術だと思う。70年代には、アイズレー・ブラザーズのレコードがあった。A面はパーティーのレコードで、B面までに誰かとイチャイチャしていなければ、大失敗だ。
10代の頃、友達の家に集まってレコードをかけて、ハイになって、しばらくアルバムのジャケットを見つめていたね。A面とB面の曲順は本当に重要だった」
実際、NILE はエジプトの歴史を紐解くだけでなく、ロックやメタルの歴史をも紐解いているのです。
「ブルータルなリズム・パートから別のリズム・パートへと移行し、フィーリングを変化させたり、フックの到来を予感させたりするようなパッセージ。それは、エレクトリック・ギターの先駆者たちにさかのぼる。ブルースやジャズのコード進行、モチーフ、ターンアラウンドからね。それらははすべて、CREAM やEric Clapton, 初期の Jeff Beck といった初期のものを研究した結果なんだ。Jeff Beck! なんてすごいギタリストなんだ!
レノンとマッカートニーの作品を研究するだけでも、学べることはたくさんある!たとえ君がテクデスを演奏していたとしても、何であれ、ソングライティングはクソ重要だ。音楽的な要素をどのように取り入れ、それらを使って音楽的なストーリーを語るかを知ることは、ただ空から降ってくるようなものではない。
そのためには多くの技術が必要で、巨匠たちの作品を研究することが重要だ」
“The Underworld Awaits Us All” におけるバンドのヴィジョンは、そうしたロックの生々しく奔放で野蛮さのある作曲をすることでした。
「過去の NILE のアルバムでは、確かにエキゾチックな楽器をふんだんに取り入れた。バグラマ・サズやグリセンタール、トルコのリュート、古代エジプトのアヌビス・シストラムに銅鑼、様々なパーカッションなど、自分たちの手で演奏するアコースティックな楽器もあれば、キーボード、ギター・シンセ、映画音楽のライブラリもあった。すべてが混ざり合って、静かに脳を爆発させる音楽。
それはそれでとても楽しいよ。弦楽器では、ギターのテクニックをクロスオーバーさせることもある。バグラマやグリセンタを手にしたときでも、私がメタル奏者であることに変わりはない。やっぱり自分なんだ。つまり、魔法のようにマハラジャに変身したりはしない。私はメタル・パーソンだからな。
でもね、今回は曲の進展が進むにつれ、合唱パートをキーボードで考えるのではなく、本物のヴォーカリストにやってもらおうと思ったんだ。高校時代の友人が地元のゴスペル・クワイアで活動していて、4人のゴスペル・シンガーを紹介してくれた。ゴスペル・シンガーたちとのレコーディング・セッションは、とても素晴らしいものだった。彼らは私たちが誰なのかも、デスメタルというものが一体何なのかも知らなかった。しかし、レコーディング・セッションが進むにつれて、彼らはブルータルなグルーヴとの天性の関係をすぐに見出し、あっという間にヘッドバンギングをしていたよ」

Sanders がたどり着いたリフの極地。それは、シンプルであること。
「初期の CELTIC FROST の大ファンなんだ。シンプルな曲で、シンプルなギター・パートなのに、信じられないほどヘヴィなんだ。
リフやアイデアがシンプルであればあるほど、より直接的な結びつきが生まれ、その重みを感じることができる。重さ、破滅、それはとてもとらえどころのないものだ。あまりトリッキーになりすぎると、破滅の感覚をすぐに失ってしまう。それは儚いものだ。鹿のように逃げてしまう!
そう、シンプルなリフが重要なんだ。この NILE の新譜では、すべての新しいクレイジーさに混じって、スローなリフがたくさんある。
それに、シンプルであること自体が美しいこともある。ある曲のヴァージョンがあるんだけど、ちょっと待って、思い出そうとしているんだけど、古いルー・リードの曲で、”Sweet Jane” という曲なんだけど、15年前に誰かがそれを発表したんだ。シンプルなアコースティック・ギターで、アンビエンスがたくさんで、ボーカルが1レイヤー入っていて、他には何もないんだけど、今まで聴いた中で一番美しくて、心を揺さぶられるような曲だった」
アコースティックな楽器の演奏を覚えるのは、メタル・パーソンの嗜みだと Sanders は考えています。
「よく自問自答するんだけど、現代にはエレクトリック・ギターや大きなドラム・キット、エレクトリック・ベースがある。5,000年前の人々は、邪悪でクソみたいなことをやりたいとき、どうしていたのだろう?ってね。エレキギターはなかった。持っているもので何とかするしかなかった。
逆に、もし人類が滅亡してしまったら……黙示録がやってきたら、私はどうやって生きていけばいいんだろう?電気がなくなったら、どうやってエレキギターを弾けばいいんだ?だから、アコースティック・ギターを弾けるようになった方がいい。4,000年前にはアコースティック楽器しかなかったわけだから」

もうひとりのギタリスト、Brian Kingsland とのコンビネーションも熟成されてきました。
「Brian がギタリストとしてやっていることの新鮮さがとても好きだ。彼は、必ずしもメタル的なアイディアではないけれども、それをメタル的な文脈の中で演奏している。例えば、彼はピックと3本の指で複雑なアルペジオ・シークエンスを演奏するんだけど、それは必ずしもメタルの文脈では見られないものなんだ。
例えば、ふたりでマイナーセブンスフラットファイブ(m7b5)のアルペジオを弾いても、彼はピックだけじゃなくて指も使っているから、ヴォイシングが全部変わっていく。
彼が簡単そうに聴かせるから、聴いているとすべてがスムーズで簡単に聴こえるが、実際にやっていることはとても新鮮だ。このアルバムで彼が書いた曲のコード・ヴォイシングのいくつかは、”なんてこった!天才だ!” って感じだ。彼は私とはまったく違うスタイルを持っているのに、NILE のやっていることを正確に理解している。このギター・チームには本当に満足しているよ」
いつかは “Doom” のようなゲームのサウンド・トラックを作りたいという野望もあります。
「僕は “Doom” のファンなんだ。”Doom Eternal” のサウンド・トラックは神がかり的で、そのサントラも持ってるよ。家事をしながら聴いているんだけど、そうすれば、家の中で何かしていても、それがくだらない家事であっても、”Doom” をやっているように感じられるから、苦に感じないんだ(笑)
メタルはこういう壮大なストーリーにとても適している。誰かが NILE の音楽を取り上げて脚本にする必要があるね!」
NILE の作曲法には黄金の方程式があります。
「僕らの曲作りに秘密のハックや近道があるかどうかはわからない。でも通常、その道は歌詞から始まり、曲はそこから発展していくんだ」
実際、NILE のストーリーテリング能力は驚異的です。エジプトの神々が戦争を繰り広げ、人類を混乱に追いやった遠い過去へとリスナーを即座にいざなうことができるのですから。そして驚くべきことに、彼らが語る神話的なエピソードは、しばしば現代の私たちの世界と共鳴していきます。

例えばテム (アトゥム) 神。タイトル・トラック “The Underworld Awaits Us All” の主題である創造神テムは、同じ名前の略奪的なオンラインショッピングサイト Temu の形で復活したのかもしれません。Sanders は、神をデジタルの形で解き放つという役割に喜びを感じています。
「PCのスタートページに Temu が現れ、すでにアマゾンで買ったものを売りつけようとするのを見るたびに、このタイトル曲の歌詞を思い出すよ。”死がなかった時代があった、テム神だけが存在した時代が”。
今考えているのは、このアルバムがリリースされたら、Temu のAIボットが私に直接広告を出して、 “The Underworld Awaits Us All” を Temu で買わせようとするなんて皮肉な未来だ。いずれわかるだろう」
とはいえ、メタルはデジタルの恩恵も強く受けています。Sanders はメタルとギターの進化に目を細めています。
「新しいデスメタルはファンがいろいろ送ってくれるから、どんなことがあっても見つけられる。私の受信箱はバンドからの問い合わせでいっぱいだ。デスメタルからは逃れられないんだ。でも、私たちは今、メタルという芸術の爆発的な進化の中に生きていると思う。
YouTubeの登場は、音楽活動のあり方を大きく変えた。例えば私が演奏を学んでいた頃は、YouTubeはなかった。何かを学ぶことは、必ずしも今ほど簡単ではなかった。でも今は、もし君が若いギタリストなら、スティーブ・ヴァイと入力するだけで、ビデオが150本も出てくる。そしてそれを見ることができる。
誰かが何かをやっているのを見るのは、それをただ聴くのとはまったく違う経験だ。好むと好まざるとにかかわらず、私たちは霊長類なのだ。だから今、私たちは、信じられないほど豊富なギター演奏の知識に瞬時にアクセスできる世代を持つことになった。クリックひとつで、しかも無料で。
それを理解し、ハングリーで、何かを学びたいと思っている人たちにとっては、まさにうってつけだ。ここ10年のギター・プレイのレベルは、こんな感じだ!生きていてよかった。まさにメタル・リスナーのための時間だよ」
同時に、怒りが渦巻く世界で、その対処法も古代エジプトからヒントを得ました。
「”Stelae Of Vultures”(禿鷹の墓)。個人的なアンガーマネジメントみたいなものだね。エンナトゥムがウンミテ人を容赦なく虐殺し、その殺戮を楽しんだときに何が起こったのか?いったいなぜ彼は人々を虐殺し、ハゲタカの餌にするようなことをしたのか?なぜ彼は殺戮と残虐行為に酔いしれたのか?誰も、戦いの初期に彼が矢で目を撃たれたことについては言及しない。矢で目を撃たれるなんて、痛いに決まっている。一日中痛むに違いない。慈悲や人間性という概念が窓から消えてしまうに違いない。
これは人間の状態を表す良いたとえ話だ。目には目をというだけではない。目には目をから始まり、そして飽くなき、しかし破壊的な血の欲望を鎮めるために、さらにもっととエスカレートしていく」

つまり、NILE の曲は過去からのストレートな伝言ではなく、例えばホメロス詩や、ヘロドトスの歴史のように神話や伝説が入りこんでいます。さらに、曲によってはラブクラフト的な超自然的な感覚も存在するでしょう。
「私のプロセスはシンプルだ。曲を書く時間だ。本棚に行く。ランダムに本を選ぶ。これは僕が持っている “死者の書” の一冊だ。目を閉じて開き、 目を開けて、そこに何があるか見る。
たいていの場合、これは曲作りの方法としては愚かなことだ。なぜなら、本を開いて適当なページを開いても、そこにはメタルの曲になるようなものは何もないからだ。でも、何十回かに1回くらいは、本を開いて “これはメタル・ソングになるかもしれない” と思うことがある。
“冥界の杭に逆さまに吊るされず、4匹の猿に糞を食わされないための章” がそうだ。私は “死者の書” を第181章まで開いた。逆さ吊りにされず、糞を食べさせられないための章だった。それを見て、これはメタルの曲になると思ったんだ。そして、本から与えられたものを何でも、時にはとんでもなく薄いものでも、メタルの曲に変えてしまうんだ。そうすると大抵、他の本を手に取らなければならなくなる」
だからこそ、ある意味確立された歴史よりも、未だ未知なる歴史の方が題材にしやすいと Sanders は考えています。
「泥沼に片足を突っ込んでしまえば、その泥沼で水しぶきを上げるのは簡単だ。だから私は古王国時代(王朝時代以前の時代)が好きなんだ。その時代について実際に知られていることは少ない。だから、デスメタルのようなアーティスティックな表現もしやすい。私たちは古代史のバランスの取れた視点を提示しているのではない。デスメタルの曲を書いているんだ。それは2つの異なることなんだ。4,000年前の土器を大切に保存する歴史保存協会とは違うんだ。私たちはデスメタルの曲を書いているんだ。無名で誤解されているものを掘り起こして、より誤解されるようにしているんだ。それがとても好きなんだ」
エンターテインメントが学びの入り口となることはよくあることです。
「だから、このままでいいと思う。今、考古学者や大学教授として活躍している人の何割が、ボリス・カーロフの映画で初めてエジプト学に触れたのだろう?では、それは本当に悪いことなのだろうか?歴史について本当に知りたければ、図書館に行くなり、ヒストリーチャンネルを見るなり、インターネットを見るなりして、自分で実際に少し読めばいい。ハリウッドは、そして我々は人々を楽しませるのが仕事であり、その過程で自由を奪うことはできない。エンターテインメントが教育に優先すると決めたのは社会だからな!」


参考文献: NEW NOISE MAG:INTERVIEW: KARL SANDERS OF NILE TALKS ‘THE UNDERWORLD AWAITS US ALL’

STEREOGUM:Animals Of The Nile: An Interview With Nile’s Karl Sanders

METAL INJECTION:INTERVIEWSKARL SANDERS Talks Creating “Music For Tripping” On Saurian Apocalypse, Three Decades Of NILE & The Evolution Of Metal

GUITAR WORLD : KARL SANDERS

SOUNDWORKS DIRECT JAPAN

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【GLYPH : HONOR. POWER. GLORY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JEFF BLACK OF GLYPH !!

“Honor. Power. Glory.” Sums Up All The Fun, Silly And Awesome Things About Power Metal That We Love. Something That’s Really Important To Us Is To Do Things That Are a Little Crazy And Over The Top, Like In Pro Wrestling!”

DISC REVIEW “HONOR. POWER. GLORY.”

「”Honor. Power. Glory.” というタイトルは、僕たちが愛してやまないパワー・メタルの、楽しくて、バカバカしくて、だからこそ最高なものすべてを要約してくれている。僕らにとって本当に大切なことは、プロレスのようにちょっとクレイジーで大げさなことをすることなんだ!多くのバンドは、自分たちの音楽スタイルにある馬鹿げたことを受け入れるにはクールすぎる感じに振る舞っているけど、僕らはその真逆をやりたいんだ」
“GLYPH。彼らは単なるヘヴィ・メタル・バンドではなく、宇宙船VSSドラゴンロードで滅びゆく惑星を脱出する銀河系傭兵のクルー。明らかに、彼らはただ曲を作っているのではなく、新たに世界を構築している”。
そんな謳い文句がしっくりくるほど、GLYPH の音楽やルックはあまりにも大仰でシアトリカルです。それは、彼らがメタルを WWE のようなあからさまで、しかしリスナーに勇気を与える素晴らしきエンターテイメントだと信じているから。エンタメではとにかく突き抜けた者が勝者。そんな彼らのメンタリティは、確実に現代のシリアスなメタル世界に一石を投じます。そう、メタルは現実を見つめても、現実から逃避しても、勇気を出して現実と対峙してもかまわない。そんな寛容な音楽なのです。
「もし人々が GLYPH から強さ、希望、勇気を見出してくれるなら、僕たちは自分たちの仕事を正しくやっているという証拠だよね。パワー・メタルは今、特に北米とヨーロッパで盛り上がっているよ。SABATON, POWERWOLF, WIND ROSE のようなバンドがこのジャンルに新しい息吹をもたらし、人々はその息吹に大きく反応している。ファンタジーやSFを題材にした音楽とつながる “オタク” と呼ばれる人々の文化全体が、かつてないほど大きくなっているんだよ」
栄誉。力。栄光。まるで、努力、友情、正義を掲げた少年ジャンプのようなアルバム・タイトルも彼らの “やりすぎ” なパワー・メタルにはよく似合います。そして彼らはこの場所から、リスナーに強さや希望、勇気といったポジティブなエナジーを見出して欲しいと願います。パワー・メタルというジャンル自体も、この暗い世界でかつてないほどに輝きを放ち始めました。それはある意味、抑圧され、逃げることを余儀なくされたアニメや映画、ゲームといったファンタジーの信奉者、”ナード” “オタク” と呼ばれしものたちのレコンキスタなのかもしれませんね。
「現代のパワー・メタル・バンドをいくつか聴いて、複雑な気持ちになったんだ。曲作りがタイトで即効性があり、コーラスやフックの力強さが好きだったんだけど、ただそこにはメタル要素(リフやソロ)がかなり不足しているように聴こえたんだ。だから、90年代や2000年代のパワー・メタルのクールな要素を取り入れて、タイトでメロディ主導のソングライティング・スタイルに持っていったら面白いと思ったんだ」
そして何より、GLYPH のパワー・メタルには華があります。現代のパワー・メタル、その華のなさ、足りないクレイジーに不満を持って始めた新世代のバンドだけに、DRAGONFORCE や SABATON の剛と勇、そこに90年代が輩出した STRATOVARIUS や BLIND GUARDIAN のシュレッドやエピックが存分に埋め込まれたメタルの園はもはや楽園。もはやその実力はデビュー作にして TWILIGHT FORCE や GLORYHAMMER にも匹敵しています。残念ながら、優れたフロントマンの R.A. は脱退してしまいましたが、もちろんメタルの回復力でより強くなって戻ってきてくれることでしょう。
今回弊誌では、Jeff Black にインタビューを行うことができました。「17歳のときに2ヶ月間日本を訪れたこともあるんだ。 学生時代は漫画やアニメに夢中で、今でも時々見ているよ。好きだったシリーズは、”るろうに剣心”、”カウボーイビバップ”、”新世紀エヴァンゲリオン”、”エルフェン・リート”。ファンタジーやSFに対する日本のアプローチにはいつも感心しているんだ。とても独特で無節操なんだ。スピリチュアルやファンタジーの要素がたくさんあって、でもロマンスなど他のジャンルにも入り込んでいるからね」 新たなキーボード・ヒーローの誕生。どうぞ!!

GLYPH “HONOR. POWER. GLORY.” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【OCTOPLOID : BEYOND THE AEONS】”TALES FROM THE THOUSAND LAKES” 30TH ANNIVERSARY!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH OLI-PEKKA LAINE OF OCTOPLOID & AMORPHIS !!

“Probably The Most Important Band For Amorphis Were Piirpauke, Wigwam and Kingston Wall. Especially, Since It Was Possible To Witness Kingston Wall Live, It Made a Huge Impact On Us.”

DISC REVIEW “BEYOND THE AEONS”

「AMORPHIS も BARREN EARTH も素晴らしい人たちから成る素晴らしいバンドだと思うけど、僕は自分のキャリアの中で初めて、音楽的に100%自分の言葉で何かをする必要があったんだ。そうした “マザーバンド” とそれほど違いはないけれど、OCTOPLOID の作曲やプロダクションには、他のバンドでは不可能なニュアンスがあるんだ」
“Beyond the Aeons” “永劫の彼方に” と名付けられた OCTOPLOID という不思議な名前のバンドによるアルバムは、まさにフィンランド・メタル永劫の歴史を眺め続けてきた Olli-Pekka Laine の結晶だといえます。彼は1990年に北欧の伝説 AMORPHIS を結成したメンバーのひとりであり、2000年代にバンドを脱退した後、今度はプログ・メタルの英雄 BARREN EARTH に参加。そして2017年、AMORPHIS に復帰しました。加えて、MANNHAI, CHAOSBREED, といったバンドでもプレイしてきた Oli にとって、”Beyond the Aeons” は自身が歩んだ道のり、まさにフィンランド・メタルの集大成なのかもしれません。
「当時も今と同じように自分たちの仕事をしていただけだから、少し奇妙に感じるよ。ただ、当時としては他とはかなり違うアルバムだったから、 AMORPHIS のフォロワーにとってなぜ “Tales” が重要なのかは、なんとなくわかるよ。デスメタルに民族音楽とプログを組み合わせ、神秘的な歌詞と素晴らしいプロダクション。要は、そのパッケージがあの時代にドンピシャだったんだ。それまで誰もやったことのないコンビネーションだったから、上手くいったのさ」
Oli が歩んだ道のりを包括した作品ならば、当然そのパズルのピースの筆頭に AMORPHIS が位置することは自然な成り行きでしょう。特に Oli にとって思い入れの深い、今年30周年を迎える “Tales From The Thousand Lakes”。そのデスメタルとフォーク、プログを北欧神話でつないだ奇跡の悪魔合体は、この作品でもギラリとその牙を剥いています。しかし、AMORPHIS が AMORPHIS たる由縁は、決してそれだけではありませんでした。
「おそらく僕ら AMORPHIS にとって最も重要なバンドは、PIIRPAUKE, WIGWAM, KINGSTON WALL だったと思う。特に KINGSTON WALL のライブを見ることができたことは大きくて、本当に大きな衝撃を受けたんだ。だから、OCTOPLOID のサウンドにサイケデリアを加えるのは自然なことだった」
Oli が牽引した90年代の “ヴィンテージ” AMORPHIS にとって、フィンランドの先人 KINGSTON WALL のサイケデリックなサウンド、イマジネーションあふれるアイデアは、彼らの奇抜なデスメタルにとって導きの光でした。そしてその光は、”Elegy”, “Tuonela” と歩みを進めるにつれてより輝きを増していったのです。Oli はあまり気に入っていなかったようですが、”Tuonela” で到達した多様性、拡散性は、モダン・メタルの雛形としてあまりにも完璧でしたし、その音楽的包容力は多彩な歌い手たちを伴い、明らかに OCTOPLOID にも受け継がれています。
AMORPHIS の遺産 “Coast Of The Drowned Sailors”、KINGSTON WALL の遺産 “Shattered Wings”。両者ともにそのメロディは珠玉。しかしそれ以上に、ヴァイキングの冒険心、素晴らしいリードとソロ、70年代の思慮深きプログ、80年代のシンセワーク、サイケデリアが恐ろしき悪魔合体を果たした “Human Amoral ” を聴けば、Oli がフィンランドから世界へ発信し続けてきた、アナログの温もり、ヘヴィ・メタルの可能性が明確に伝わるはずです。聴き慣れているけど未知の何か。彼の印象的なベース・ラインは、これからもメタルの未来を刻み続けていくのです。
今回弊誌では、Olli-Pekka Laine にインタビューを行うことができました。「Tomi Joutsen と一緒に大阪と東京の街をよく見て回ったし、この前は西心斎橋通りで素晴らしいフレットレスの日本製フェンダーベースを買ったよ。いいエリアだったよ!日本の人たちも素晴らしいよ。日本の自然公園もぜひ見てみたい。定年退職したら、日本に長期旅行すると誓うよ!」 どうぞ!!

OCTOPLOID “BEYOND THE AEONS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DAATH : THE DECEIVERS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH EYAL LEVI OF DAATH !!

“I Think That This Is The Best Time In History To Be a Musician. Because, Just The Only Time In History Where You Have Been Able To Reach The Masses And Reach Niche Audiences Are On Your Own Without Having a Huge Labour.”

DISC REVIEW “THE DECEIVERS”

「今はミュージシャンとして史上最高の時期だと思う。というのも、大衆にリーチし、ニッチな聴衆にリーチすることができる。巨大な労働力を使わずに自力でね。今はそんな歴史上唯一の時代だからね」
2000年代初頭。New Wave of American Heavy Metal 通称 NWOAHM の波が盛り上がりを見せ始めました。”ヨーロピアン・スタイルのリフワークに乾いた歌声を乗せて、メタルをメジャーに回帰させる” というムーブメントはたしかに一定の成果を上げ、いくつかのメタル・バンドはメジャー・レーベルと契約していきました。特に熱心だったレーベルがロードランナー・レコードで、当時新進気鋭のバンドをまるで豊穣な木に実ったおいしい果実のように青田買いを続けたのです。
DAATH もロードランナーに見出されたバンドのひとつ。他の NWOAHM とは明らかに一線を画していましたが、さながら十把一絡げのようにレーベルは彼らと契約。2007年の “The Hinderers” で大成功を収め、その年の Ozzfest にも出演しました。彼らのデスメタルには、バークリー仕込みのウルトラ・テクニック、高度な建築理論、さらにオーケストレーションとエレクトロ的なセンスがあり、まさに彼らの名曲 “Dead On The Dance Floor” “ダンス・フロアの死体” を地でいっていたのです。旧約聖書の生命の樹、その隠されたセフィアの名を冠したバンドの才能は、”どこにもフィットせず”、しかし明らかに際立っていました。
しかし、御多分に洩れずロードランナーのサポートは停滞。その後、DAATH は何度もメンバー・チェンジを繰り返し、レコード会社を変えながら数年活動を続けましたが、2010年のセルフタイトルの後、実質的に活動を休止したのです。世界は14年も DAATH を失いました。しかし、SNS や YouTube といったプラットフォームが完備された今、彼らはついに戻ってきました。もはや巨大な資本や労働力よりも、少しのアイデアや好奇心がバズを生む現代。”どこにもフィットしない” ニッチな場所から多くのリスナーへ音楽を届けるのに、今以上に恵まれた時代はないと DAATH の首謀者 Eyal Levi は腹を括ったのです。
「シュレッドは戻ってきたと思うし、シュレッディングはしばらくここにある。それがバンドを復活させるのにいい時期だと思った理由のひとつでもあるんだ。リスナーは今、シュレッドやテクニックを高く評価して、ヴァーチュオーゾの帰還を喜んでいるように思えたんだ。全体として、今の観客はもっとオープンになっているように感じる。今はヘヴィ・ミュージックをやるには歴史上最高の時代だと思うし、それが観客が楽器の可能性の限界に挑戦するバンドやアーティストに飢えている理由のひとつなんだ」
Eyal はもうこれ以上待てないと、ほとんどのメンバーを刷新してこの再結成に望みました。そして今回、彼が DAATH のメンバーの基準としたのは、ヴァーチュオーゾであること。そして、異能のリード・パートが書けること。
そもそも、Eyal からして父はイングヴェイとも共演した有名クラシック指揮者で、音楽の高等教育を受けし者。そこに今回は、あの OBSCURA でフレットレス・ギターを鳴らした Rafael Trujillo、DECAPITATED や SEPTICFLESH の異端児ドラマー Krimh、さらにあの Riot Games でコンポーザーを務める作曲の鬼 Jesse Zuretti をシンセサイザーに迎えてこの “シュレッド大海賊時代” に備えました。念には念を入れて、Jeff Loomis, Dean Lamb, Per Nillson, Mark Holcomb といった現代最高のゲスト・シュレッダーまで配置する周到ぶり。
「自然を見ると、例えば火山のように、美しいけれど自然がなしうる最も破壊的なこと。海や竜巻など、自然には素晴らしい美しさがある一方で、破壊的で残酷な面もある。だから、美しさと残忍さ、あるいは重苦しさの中の美しさは、必ずしも相反するものだとは思わない。だから、僕のなかでヘヴィで破壊的で残酷な音楽と、美しいメロディやオーケストレーションはとてもよくマッチするんだ。というか、真逆という感覚がないね。メロディーやオーケストレーションは、ヘヴィネスの延長線上にあるもので、音楽をより強烈なものにしてくれる」
そう、そしてこの “The Deceivers” にはまさに旧約聖書のセフィア DAATH が目指した美しき自然の獰猛が再現されています。”妨害者”、”隠蔽者”、そして “詐欺師” を謳った DAATH の人の欺瞞三部作は、人類がいかに自然の理から遠い場所にいるのかを白日の下に晒します。欺瞞なき大自然で、美と残忍、誕生と破壊はひとつながりだと DAATH の音楽は語ります。愚かなプロパガンダ、偽情報に踊り踊らされる時代に必要なのは、自然のように飾らない正直で純粋な魂。
Riot Games の Jesse が手がけた荘厳なオーケストレーションを加えて、”The Deceivers” の音楽は、さながら RPGゲームのボス戦が立て続けに発生するようなアドレナリンの沸騰をリスナーにもたらします。いや、むしろこれはメタルのオーケストラ。そしてこのボス戦のデスメタルが戦うのは、きっと騙し騙され嘘を生業とした不純な現代の飾りすぎた魂なのかもしれませんね。
今回弊誌では、Eyal Levi にインタビューを行うことができました。「インストゥルメンタル・プログレッシヴの POLYPHIA や INTERVALS, PLINI, SHADOW OF INTENT がそうだよね。とてもとてもうまくやっている。芸術的な妥協はゼロでね。僕らの時代にこのようなタイプの技術があれば、よかったと思うよ」 どうぞ!!

DAATH “THE DECEIVERS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ESODIC : DE FACTO DE JURE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ZED AMARIN OF ESODIC !!

“Even If Acceptance Doesn’t Grow Significantly, I Don’t Foresee Metal Vanishing From the Middle East, As It Conveys Specific Messages And Emotions That Resonate Uniquely With Its Audience.”

DISC REVIEW “DE FACTO DE JURE”

「ロサンゼルスに移住してバンドを復活させようと決めたのは、ヨルダンですべてのチャンスを使い果たしたから。どんなに最善を尽くしても、ヨルダンで自分のバンドや他のバンドとドラムを演奏して持続可能なキャリアを築くことはできなかった。自分の情熱を追求し、好きなことで生計を立てられる場所に移住する必要があることがはっきりしたんだ」
スラッシュ・トリオ、ESODIC の歴史は深く長く、1995年にヨルダンのアンマンで結成され、当初は PURGATORY として知られていました。彼らは過去30年間にデモ、スプリット、そして2枚のEPをリリースしていますが、ヨルダンでのメタル活動には限界がありました。
「スラッシュ・メタルに惹かれた理由。スラッシュには、現実の問題や社会的不正義を訴えてきた長い歴史があり、それが僕たちの心に深く響いた。SEPULTURA, KREATOR, EXODUS のようなバンドは、政治的なテーマや抑圧への反抗を声高に主張してきた。このサブジャンルは、強烈でパワフルな音楽を通して、僕たちのフラストレーションをぶつけ、現実の複雑さに取り組むための完璧なはけ口を提供してくれる」
SLAYER, TESTAMENT, KREATOR, SEPULTURA, EXODUS といった巨人たちにインスパイアされた ESODIC の音楽と哲学は、抑圧や差別と戦い続けてきた偉人たちの薫陶を受け、常に中東の激動する社会政治情勢を反映したものでした。だからこそ、中東、ヨルダンという不安定な場所においては、バンドとしての存在そのものが嫌がらせや逮捕の危険にさらされていたのです。
「メタル関連の品物をすべて没収されたり、投獄されたり、殴られたり、精神的にも肉体的にも拷問に耐えた者もいた。僕たちの元メンバーは皆、何年にもわたる拘留と激しい嫌がらせに苦しんできた。ムスリム同胞団が大きな影響力を持つ中、ヨルダン政府は僕たちのイベントでの過激な暴力の可能性を防ぐために、メタルヘッズを標的にしていたんだ。それは例えば、10年ほど前、怒った首長の一団がハロウィーン・パーティーで100人以上の人々を石で攻撃したことがあるから。悪魔崇拝者だと決めつけたからだ」
悪魔崇拝。かのパリ・オリンピックでも GOJIRA が揶揄されたように、21世紀の今となってもメタルに貼り付けられたレッテルはそうやすやすと剥がれ落ちてはくれません。伝統や宗教色が濃い国ならなおさらでしょう。しかし、ESODIC やメタルが目指す抑圧への怒り、自由への回復力、寛容な世界への祈りはそれでも決して根を上げることはありません。
“De Facto De Jure” で彼らはウダイ・フセインをテーマにスラッシュ・アタックをキメています。あのサダム・フセインの息子にして、”中東で最も忌み嫌われた男”。女性やスポーツ選手の命をあまりに無慈悲に、ぞんざいに扱った男の愚行は、何年経っても忘れ去るわけにはいかないのです。
「中東ではイスラム教の存在とその禁止事項が強いにもかかわらず、メタル音楽が完全に消滅することはないだろうね。多くのアラブ諸国は、以前よりも徐々にメタルを受け入れつつある。たとえ受容が大きく進まないとしても、メタルがこの地域から消えることはないだろう。なぜなら、メタルは聴衆の心に響く特別なメッセージや感情を伝えているからだよ」
ESODIC は、あらゆる困難をものともしない強さを、回復力を音楽的な寛容さへと還元し、多様で豊かな中東と世界の融解を導き出しました。ここでは、神秘的でエキゾチックなアラビアン・ナイトと、デスラッシュの狂気がひとつの均質な塊として信じられないほどうまく機能しています。ヘヴィなギターとブルータルなボーカルが、トライバルなリズムと繊細な民族音学、民族楽器に命を吹き込む冒険のシンドバッド。ほのかに漂うメランコリーは、ヨルダンを出国せざるを得なかった Zed の望郷の念でしょうか。
今回弊誌では、Zed Amarin にインタビューを行うことができました。「音楽には癒しと団結の力があるように、理解と思いやりを育む役割を果たすことができると信じているからね。ボブ・マーリーがかつて言ったように、”音楽のいいところは、当たっても痛みを感じないところだ”。音楽は架け橋となり、僕たちに共通の人間性を思い出させ、明るい未来をもたらす手助けをすることができるよ」 どうぞ!!

ESODIC “DE FACTO DE JURE” : 10/10

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