NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SCYTHE OF SORROW : RAVEN’S CRY OF DESPAIR】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PETTERI SCYTHE FROM SCYTHE OF SORROW !!

“From The Moment I First Heard CoB, Alexi Became My Greatest Idol And Role Model As a Musician. His Music And Lyrics Have Helped Me Through Many Difficult Moments In Life.”

DISC REVIEW “RAVEN’S DRY OF DESPAIR”

「彼の死を知った日のことはよく覚えている。妻と僕はヘルシンキで大晦日を祝った後、ポーランドに戻ったところだった。当時、僕はヘルシンキにいたけど、まだここには住んでいなかった。僕のアイドルが亡くなったとき、同じ街にいたことを知り、とても恐ろしい気持ちになったんだよ。
その日は受け入れることができなかった。彼はまだ若く、これからの人生もあった。僕は彼の新しいプロジェクト、BODOM AFTER MIDNIGHT に大きな期待を寄せていたし…。ああした結果になってしまったのは悲劇だよ。特にコンサートの前夜は、よく墓地に彼を訪ねるんだ。 彼が恋しいよ…」
伝説が、英雄が亡くなった時、私たちは大きな喪失感に襲われます。心にポッカリと穴が空いたような、空虚で無力で無気力な日々。押し寄せるのはただ悲しみだけ。4年前の年の瀬、ヘヴィ・メタル・コミュニティ全体がそんな状態に陥りました。CHILDREN OF BODOM の心臓で、唯一無二のメタル・ヒーロー Alexi Laiho がこの世を去ったのです。依存症というヘヴィな話題も、私たちの心を突き刺しました。
喪失感や痛み、空虚な心はある程度、時間が癒してくれます。あれから4年の月日を経て、私たちはそれでもやっと、CHILDREN OF BODOM がもう決して戻らないことを受け入れ始めました。彼らの音楽を聴き継いでいくことで、ありし日の姿を語り継いでいくことで、Alexi はずっと心の中に生き続けると。そしてもちろん、Alexi は自らの音楽以外にも、”影響” という大きな遺産を残してくれています。あの日、同じ悲しみに身を裂かれた Petteri Scythe はまさに Alexi の大いなる遺産で今、彼らの穴を埋めようと奮戦しています。
「CHILDREN OF BODOM を初めて聴いた瞬間から、Alexi は僕のミュージシャンとしての最大のアイドルで、ロールモデルになった。彼の音楽と歌詞は、人生における幾多の困難な場面で僕を助けてくれたんだ。もし彼と彼の音楽がなかったら、SCYTHE OF SORROW を作るためにポーランドからフィンランドに移住することもなかっただろう。彼はミュージシャンとしての僕にとって、常に究極のインスピレーションであり続けるだろうね」
Petteri の言葉通り、SCYTHE OF SORROW は CHILDREN OF BODOM の大いなる息子であり、Alexi の目指した未来を切り開く者。もちろんこれは彼らのデビュー作で、偉大なるレジェンドのレベルにはまだ及びませんが、それでもフレーズの端々に、テクニックの切れ味に、メロディの輝きに、私たちは “影の口付け” を垣間見ます。
「僕の一番ははいつもこれ。”Something Wild”。文字通り…ワイルドだからね。すべてから怒り、攻撃性、情熱が感じられる。 特に “In The Shadows” と “The Nail” が大好きなんだ。
次に “Follow The Reaper”。ちょっと皮肉なことに、ほとんどの人が “Hate Crew Deathroll” を選ぶだろうけど、僕はこのアルバムこそが世界への扉を開いたと信じているんだ」
もちろん、”赤青緑が好きなんだったらもっとネオクラに振ってくれ!” とか、”バカクソ長いソロセクションやインタープレイがあってもいいんだよ?” とか、”もうちょっと歌に説得力が欲しいなあ” とかいろいろあるでしょうけど、このキラキラなメロディック・デスメタルとあのギター、あのシルエットがもう一度私たちの前に降臨した…まずはその奇跡を喜ぼうではありませんか。
Petteri が EUROPE や Alexi の愛した GUNS N’ ROSES の大ファンというのも、ポイントが高いですね。今はまだ “Follower the Reaper” かもしれませんが、あの大鎌はいつか我々の喉元にきっとズブリと突き刺さるはずです。
今回弊誌では、Petteri Scythe にインタビューを行うことができました。「世界で最も人気のあるジャンルではないかもしれないが、ここフィンランドではかなり好調だ。 トラディショナル・ヘヴィ・メタルのニュー・ウェーブのように、メロディック・デスメタルのニュー・ウェーブが来るかもしれない。僕たちがその一部になれることを願っているよ!」 もうね、曲が疾走を始める寸前のアジテーション…あれだけで涙腺ダバダバですね。どうぞ!!

SCYTHE OF SORROW “RAVEN’S CRY OF DESPAIR” : 9.9/10

続きを読む NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SCYTHE OF SORROW : RAVEN’S CRY OF DESPAIR】

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【MOISSON LIVIDE : SENT EMPERI GASCON】


COVER STORY : MOISSON LIVIDE “SENT EMPERI GASCON”

“Je ne pourrais pas m’en passer, l’école power metal a laissé des traces bien trop profondes, merci Tobias Sammet !”

SENT EMPERI GASCON

MOISSON LIVIDE のデビュー・アルバムは、フォーク&パワー・メタルが黒に染まった魔法のような作品です。
ガスコーニュ地方として知られるフランス南西部出身の MOISSON LIVIDE(怒りの収穫)は、主に Baptiste Lavenne の発案によるプロジェクトです。Lavenne は、関連の深いフォーク・メタル・バンド、BOISSON DIVINE(神の酒)の中心人物ですが、MOISSON LIVIDE では、より幅広い楽器と様々な影響を取り入れながら、サウンドの攻撃性と激しさ、そして芳醇なるメロディを研ぎ澄ませました。
“Sent Empèri Gascon” は、初手であらゆる民族楽器(アコーディオン、バグパイプ、ティン・ホイッスル、ホルン、ブズーキなど)が魅了するかもしれませんが、作品が聴き手にしみ込んでいくにつれ、最も印象的なのは、実は基本的で最も重要なこと、つまり歌だとわかります。民俗音楽の系譜に忠実な Lavenne には、新鮮さと古さを同時に感じさせるメロディーを紡ぎ出し、それを中心に壮大でありながら論理的な構成を構築する才能があるのです。そうした点で、このアルバムには初期の MOONSORROW との強いつながりがあるのかもしれませんね。
そして何よりも意外性がここにはあります。フォーク・メタルはソフトだと思うなら、ここにはロケット燃料を使ったブラックメタルの激しさがあります。ブラックメタルは頑固で真面目だと思っているなら、このアルバムは暖かさと胸を高鳴らせる高揚感や笑いに溢れています。メタルは極端さを追求すると道を踏み外すと思っているなら、MOISSON LIVIDE は伝統的なメタルの疾走とツインギターのリードが唸りを上げます。彼らはフォーク・メタルを核に、ブラック・メタル、トラディショナル・メタル、メロデス、ピュア・フォーク、パンク、シネマティックな雰囲気、パワー・メタルなど、曲が必要とするところへ放射状その豊かな味わいを広げていくのです。
そうして、パンチの効いたパワー・メタルとパワフルなブラック・メタルの間で揺れ動くこの新しいバンドは、イノシシのように彼らの生まれた土地を隅々まで掘り下げます。自嘲と皮肉、そして何よりも知性に満ちた LAVENNE は、このプロジェクトの起源を振り返ります。

「BOISSON DIVINE があるからまあ、このプロジェクトが冗談のようなものだと考えるのは完全に間違っているわけではない。もう少し詳しく説明しよう。私がブラックメタルを知ったのは、雑誌のCDサンプラーでメタル全般を知った後、かなり早い時期だった。当時は正直言って、そのスタイルをよく理解していなかった。暴力のレベル、イメージ、ドラミングのスピード、皮を剥ぐようなボーカル……もちろん印象的ではあったけど、私にはすべてがほとんど不条理に思えたんだ。私はすぐにそこから離れ、明るいもの、特にパワー・メタルを愛するようになった。私は DISSECTION に出会い、衝撃を受けたんだ!DISSECTIONは、私がこのスタイルの虜になるために不可欠なバンドだった。アグレッションとメロディーの比率、メタルのちょっとしたアクセント、アコースティックなパッセージ、それは私にとって勝利のコンボだった!それから少しして、VEHEMENCE、AORLHAC、ABDUCTION、PAYDRETZ、HANTERNOZ…といったフランスのメロディック&メディーヴァルなシーンを味わった。だから私は、ゆっくりと、でも自然に、ブラックメタルの影響を自分の作曲に取り入れるようになった。それは BOISSON DIVINE の他のメンバーに定期的に送っていた新曲のデモにも反映されるようになっていったんだ。
それから、ガスコーニュ地方のブラックメタルというアイデアが気に入り、私は曲作りに熱中した(笑)。アイデアがどんどん湧いてきて、あっという間にすべてがうまくいった。BOISSON DIVINE をもじって MOISSON LIVIDE と名付けた。自分たちの足跡を隠すため、人々を笑わせるため、そして不意を突くためにね。こうして “Sent Empèri Gascon”が誕生したんだ」
このアルバムは明らかにガスコーニュ人による、ガスコーニュ地方のための、ガスコーニュのアルバムです。こうしたレコードを作るというアイデア全体、つまりジャンルの制約を気にせず、マーチング・トランペットとブラストビートと80年代のシュレッド・ソロを嬉々としてミックスするスピリットが、とてもフランス的だとも言えるでしょう。”気にしない” という強い姿勢、それはフランスのメタル・シーンに貫かれた哲学なのでしょうか?
「”We don’t care” はアルバムの雰囲気をよく表しているね(笑)。私を突き動かしている哲学であることは間違いない。反商業的な精神が大好きなんだ。自分たちの好きなことをやって、誰がそれを好きなのか見る。既成のジャンルの基準に100%固執して自分たちを芸術的に制限することは考えられないし、それは無意味だからだ。きれいなコーラスを思いつくたびに、私はこの言葉を口にしてきた。誰が気にするんだ?!ってね。ブラック・メタル純血主義者に嫌われる?ああ、でも私は気にしない!」

“聖なるガスコン帝国” というアルバム・タイトル、そして壮大なストーリーにも、フランスイズム、ガスコンイズム、そして中央集権化された首都への苛立ちが宿っています。
「コンセプト・アルバムではないし、テーマは曲によって大きく異なる。地元に古くから伝わる伝説や歴史上の人物、田舎からの脱出や過疎化といったシリアスな話題もあれば、サイクリストに関するユーモラスな話題や、大都会から来た迷惑な観光客をやっつける妄想もある。しかし、タイトルとジャケットは、技術の飛躍的進歩の後に銀河系ガスコン帝国が誕生するという近未来的な架空の物語で “Sent Empèri Gascon”(聖なるガスコン帝国)という曲に基づいている。2084年、パリのジャコバン党が、投票率83%で、”ヨーロッパ連合超民主主義共和国 “として知られる新生国家の選挙に勝利した。その後、中央集権化、自由を奪う、抑圧的な政策が強まった。公共の安全を確保するために高速道路の制限速度が時速50キロに引き下げられ、債務削減のために付加価値税が42%に引き上げられた。エネルギー消費を抑えるため、夜7時からの夜間外出禁止令が導入され、朝7時まで停電となった。反乱は拡大し、地域の独立を望む声はかつてないほど強くなった。
10月2日、鴨の胸肉の脂肪の摂取を禁止する改正案が可決された。さすがに背に腹は代えられなかった。ガスコーニュ地方の2人の農民、ジルとジョン・ドゥディジョスは首都を訪れ、パリの警察署に放火した。彼らの逮捕はメディア、特に24時間放送のオック語ニュースチャンネル “ベルグー・ニュー” で大きく報道された。民衆蜂起の試みを阻止するため、彼らは罰則を受けた。トラクターのボンネットは、自転車のフレームやスクーターのハンドルとして再利用される。彼らはまた、60.8°F以上の暖房をしている市民を通報する無料ホットラインの電話オペレーターとして、2週間の社会奉仕活動を強いられる。国防委員会は、公衆の面前でベレー帽をかぶった場合、頭囲1センチにつき90ユーロの罰金を科すという最後の一撃を加えた。
このような極端な暴力に直面した反体制派は、できる限り目立たないように、新たな集会の方法を探さざるを得なかった。しかし11月17日、すべてを変える出来事が起こった。バスク地方のイルレギー近郊で考古学的発掘が行われ、ガスコン語で刻まれた動物の骨が発見されたのだ。専門家たちの懸命の努力にもかかわらず、フェブシア文字で書かれたメッセージを解読することはできなかった。
そんなことができるのは、この世でただ一人の男だけだ。ピック・デュ・ミディ・ド・ビゴールからほど近い暗い洞窟に住む孤独な男、ガスコン族の最後の一人、ジャン・タイエール。伝説によると、彼は辞書を破って作ったマットレスの上で寝ており、マイクロトポニーミーへの執着が彼を狂わせたという。南風が吹く満月の夜には、アレッテの詩の一節を叫ぶ声が聞こえる。
12月21日、彼のもとに骨が運ばれてきた。彼は一息で、書物を覆っていた埃を払い落とした。Quan dou cèu e séra cadut Lou princi qui estoû proumétut Fénira lou téms de misèri Bastiram lou nouste Empèri」(約束された王子が天から降るとき、不幸の時は終わり、我々は帝国を築く)。
大地震が山を揺らした。何とも言えない音とともに、別世界からの宇宙船のようなものが岩の上に着陸した。長い金髪に熊の絵で飾られたマントを羽織った人型の巨漢が出てきた。彼は完璧なガスコン語で聴衆に語りかけた。彼の名はアラリック4世、Kメラト太陽系のブラアD星から来た。何千年もの間、地球を観察してきた彼の祖先が、ガストン・フェビュスの姿に魅了され、1390年8月2日、彼のバスタブの下にあるマイクロ・ブラックホールを使って、彼を誘拐する計画を立てたという話をした。溺れているように見せかけ攫ったと。
アラリック4世は話を続けた。予言は聖典によって明らかにされた。彼の使命はガスコーニュの人々に星間旅行と反重力の原理を理解する鍵を与え、パリのジャコバン派の凡庸さ、愚かさ、寄生から地球と銀河系を解放することだった。彼は、この技術的飛躍に不可欠な燃料である元素115を安定させる方法を教えた。ニンニク1片、ワイングラス2杯、モスコビウム7kgを量子粒子加速器の中で混ぜなければならなかった。
このようにしてマスターされた115番元素は、核兵器の1万2000倍の破壊力を持つ、想像を絶する恐ろしい戦争兵器の創造も可能にした。核兵器の1万2千倍の破壊力を持つのだ。権力を取り戻し、専制君主を打倒し、フェブスの昔からの夢を実現するときが来たのだ。そして、彼の意志は実現した。
この文章は、ほとんど理解できないような曖昧な文学や社会的引用で、ばかばかしくさえあることは分かっている。しかし、現在の(そして過去200年間の)フランスがどのようなものかを説明するならば、フランスは高度に中央集権化された国で、権力、資金、決定は主にパリに集中している。共和国はその支配力を確立するために文化の標準化を推進し、その結果、パリだけのフランス人を優遇するために、地方の文化や言語は破壊され、少なくとも弱体化した。
このアルバムには、肯定と復讐の思想がある。存在への叫び、私たちが再発見しなければならない生命力。要するに、私たちは自分自身を死なせるのではなく、抵抗しなければならないという考えだ。
疑念を抱くたびに、そのことが頭をよぎった。この精神がフランスのシーン全体に一般化できるかどうかはわからない。いずれにせよ、君がそう感じるのであれば、そこには何らかの真実があるに違いない」

MOISSON LIVIDEの音楽は、ブラックメタルやヘヴィメタル、さらにはパワー・メタルを基調としながら、伝統的な中世の楽器やフォーク的な部分も持ち込んだ実に多様な農夫のメタル。
「まあ、オープンマインドを強調するつもりはないけれど、時間が経てば経つほど、聴くものが多様になり、影響を受けたものが蓄積されていくんだ。私は作曲が大好きで、Cubase の空のセッションを開いて、ここ数ヶ月の間に蓄積されたアイデアの断片に命を吹き込み、それを構造化することをとても楽しんでいる。音楽を分析するのも好きだし、好きなスタイルのコードはすぐに理解できる。でも、あるジャンルを聴くことで、それが頭の片隅に残って、自然と出てくるんだ。結局、作曲のプロセスを説明するのはかなり難しい。脳がさまざまな情報の断片を保存し、その都度ユニークな組み合わせの混合物の形で吐き出すのだと想像している」
Lavenne が恐ろしいのは、農家であることをメタルに活用しているところでしょう。まさに農家とメタルの二刀流。
「私は頭を使ってよく書く。本当にほとんど楽曲は頭で書いている。アイデアは何の前触れもなく浮かんでくるので、ボイスレコーダーアプリを取り出し、赤いボタンを押してラララと歌う。夕方家に帰ると、自分が書いたものを聴いて、アコースティックギターかピアノでコードを練る。ほとんどすべて仕事中に書いている。私はワイン生産者なので、多くの時間をブドウ畑で手作業に費やしている。ブドウの木は1本1本違うが、やるべきことを覚えたら、他のすべてのブドウの木で同じ作業を繰り返す。これを疎外感と捉える人もいるかもしれないが、私は脳の時間を解放する素晴らしい機会だと考えている。
数年のノウハウとブドウ畑の知識があれば、ある種の自動操縦モードに入ることもある。楽器を手にして座り、何か書かなければと自分に言い聞かせることは、本当にめったにない。だから同時に2つのことができる。そのおかげで膨大な時間を節約できる。さまざまな影響について話を戻すと、このようにたくさんの曲をミックスするときに一番難しいのは、”コラージュ” 的な嫌味を出さずに、すべての曲を調和させる一貫性、共通の糸を保つことだ。
だから私は、長尺にもかかわらずかなりシンプルな構成に特に注意を払っている。フック、節、繰り返されるテーマ、コーラス……私はビッグなコーラスが大好きなんだ!パワー・メタル派は、メタルにあまりにも深い足跡を残しすぎた!ありがとう、トビアス・サメット!」
歌詞はガスコーニュ地方の昔話、寓話と現代の出来事に対する批判、さらには未来的な推測の間で揺れ動きます。
「いつもメロディーが先に作られる。それからコード。歌詞はその連鎖の最後のリンクにすぎない。実際、デモを作るときは、曲を完成させるために、何でも歌ったり、思いつきで書いたりすることがよくあるんだ。本当の歌詞は、曲がアルバムの選考段階を通過してから、後で書く。これが一番難しい作業で、なかなか進まないこともある。それでも、美しく、よく書かれた文章を最終的に完成させるのはとても満足感がある……少なくとも形としてはね、内容がくだらないこともあるから(笑)。
ただ、テーマを最初に思いつくということはよくあるんだ。それが曲の内容に大きく影響する。実際、最も非定型的な作曲はそうやって生まれることが多い。主題に変化をつけるのに役立つからだ。また、あらかじめテーマがあると、イメージを思い浮かべることができ、とても刺激になる。最終的には、それをメモに書き写すだけ」

戦争のトランペット、狩の角笛、あるいは反逆のパンクなど、まったく予想外の要素を導入するのも、意外性を生み出すためでしょうか?
「常にそれを意識してやっているわけではないけど、たしかにそんな一面はある。私はアレンジのバラエティーが大好きで、あらゆる方向に飛び出したり、いくつもの音域に触れたり、さまざまなスタイルをミックスしたり、要するにあらゆる棚からつまみ食いするのが好きなんだ(笑)。私はその冒険心をとらえようとしていて、”何でもあり” でいたい。商業的には間違いなく逆効果だけど、仕事ではないので経済的な制約がなく、このようなリスキーな組み合わせができるのは贅沢なことだ。というか、音楽制作のリスクって何?」
残忍さにメロディを加えるという意味で参考にしたのは、あのレジェンドでした。
「 CHILDREN OF BODOM がいい例だよ。私は必ずしもブラックメタルに詳しいわけではないけど、あれほどパワー・エッジの効いた残忍なメタルはまだ聴いたことがない。だから、ブラックメタルの純血主義者のことは気にせず、100%ブラックなアルバムを作る意味はなかった。 ビッグなコーラスがないトラックは作れないし、思いつくことはできても実現できない。私は、ハーディ・ガーディ、ランド地方のバグパイプ、マンドリン、ブズーキ(ちなみにガスコーニュ風ではない)を使い、私が望んでいたハードでキャッチーなコーラスをミックスしている。そしてもちろん、フランスの地方の力強さ、古くからの伝統や価値観に親近感と哀愁をもたらす伝統楽器も」
もちろん、パワー・メタルからの影響も強く残ります。
「IRON MAIDEN, JUDAS PRIEST, ACCEPT, HELLOWEEN, GAMMA RAY…それ以上に AVANTASIA とトビアス・サメットの大ファンでもあるし、伝統的なフォークに軍隊行進曲の側面もある。実際、MOISSON LIVIDE は、私のでたらめな考えをすべて受け入れてくれるような存在だった」
歌詞に使われているガスコン語で自分のルーツに忠実であること、信憑性を保つことは重要なのだろうか?
「簡単に言えば、ガスコン語は私の心の言葉だよ。私の言語だから私の言語で歌う。他の言語で音楽を作ろうとは思わないし、ごく散発的にしかやらないよ。ガスコン語はバスク語をローマ字にしたようなもので、特にRの転がし方にロック的な側面がある。メロディアスなんだ。
私がマスターしている他の言語に関して言えば、フランス語はゲルマン語の影響を受けてメロディーに悪影響を与えるし、メタルでは英語は完全に使いすぎだ。カスティーリャ語に関しては、中学の最後の年以来レベルが急降下しているし、イベリアの友人には失礼だが、ホタの使い方には少し抵抗がある。私たちの歴史はフランス共和国の学校では教えられていない。しかし、私たちのささやかなやり方で、この地域の文化を広める手助けをしている。私たちの歌のおかげでガスコン語を習い始めた人たちや、語学教室に通い始めた人たちからメッセージをもらうと、とてもうれしいね。ガスコン語の使用は70年前から減少しており、復活を望むのはユートピア的だとは思うけどね」
時代に反して、MOISSON LIVIDE の楽曲はかなり長く、変化に富んだパッセージに満ちています。
「レコード盤のフォーマットを埋める必要があったし、Cubase の ctrlC + ctrlV は僕のお気に入りの機能なんだ。”St.Anger” の遺産だね!冗談はさておき、曲のフォーマットは計画的なものではなく、とても本能的なもので、テーマによって本当に様々なんだ。でも、多くの場合、壮大な題材は少なくとも8分以上の時間を必要とする。昔の IRON MAIDEN や HELLOWEEN のアルバムのラスト・トラックに影響を受けているんだ(笑)」

アルバムのジャケットに使われている地図と紋章にも興味をそそられます。
「左の紋章はガスコン地方の紋章で、ルイ14世の紋章官が作った最も広く普及しているシンボルのひとつなんだ。2頭のライオンと麦の穂が描かれたこの紋章は、歴史上ガスコーニュの国旗は存在しないが、これは国旗の役割を果たした。私は赤と青よりも、より正統的な赤と白の方が好きだった。その下の標語は “Sauvatgèr, pataquèra, quantica, renavida” で、意味は “野蛮、乱闘、量子、刷新”。まあ、何の意味もないのだけど、なかなか調子に合っていると思う。ローマ帝国にちなんで乗っかっただけだ。右は銃士の十字架、ガスコン語で “crotz deu larèr”(囲炉裏の十字架)。
その下には “Nunqan Polluta”(決して汚されない)という標語がある。これはバイヨンヌの街の歴史的標語で、何度も包囲されたが一度も奪われなかったから。その版図は日本にまで及んでいるね。地図にはデタラメやダジャレがたくさん書かれているので、全部を解剖するつもりはないけど、パリは帝国の監獄と記されている。この街はこれ以上の価値はない」
MOISSON LIVIDE の精神には、人に内在する嘲笑と楽しみの精神が如実に感じられます。それは人生の明るい面を見る方法であり、蔓延する憂鬱を鼻で笑うこと。
「私の音楽はシリアスで、形式は巧みだけど、歌詞の半分は不条理で、二番煎じで挑発的で、実にくだらないものだ。それは私の性格の一部だからね。単純に人生の反映だと思う。映画の人生のように一面的なものではない。あるときはシリアスで厳粛、またあるときは遊び心にあふれ嘲笑的、速いか遅いか、短いか長いか、まったく異なるムード、サウンド、モード、トーナリティを通過する。深く掘り下げれば、自分の好みに合うものがすぐに見つかるからだ。とはいえ…メタルは真面目すぎるよな(笑)」

原点回帰の田舎暮らしを推奨し、礼賛するメタルだとすればまさに前代未聞でしょう。
「ただ、私たちは必ずしもそのメッセージを伝えようとしているわけではないんだよ。私たちがやっていることは、結局のところ、私たちが情熱を持っていて、他の人に音楽にして聴いてもらいたいと思っているテーマについて話しているだけだからね。特に制約もなく、思いついたものをミックスしているだけなんだ。個人的には、”土地に根を下ろせ”、”田舎に帰れ”, “庭を作れ”, “その土地の言葉を学べ” といった命令や小難しいフレーズを発する気にはならない。おそらく、私は人に指図されるのがあまり好きではないし、その逆もしかりだからだろう。だから自分でビジネスを立ち上げて、働き手を持たないのがいいんだ(笑)。
というのも、無理強いすることなく、ただ敬意を表し、練習し、提案することによって、私たちは人々にガスコン語を習得してもらい、年配の人々には再びガスコン語を始めてもらい、若者たちはランド・バグパイプのような伝統楽器を手にしてもらい、地元のポリフォニック・グループは私たちの歌をレパートリーに取り入れてもらっている。私たちのささやかな貢献によって、さまざまな人々が同じ旗のもとに集い、ガロンヌ地方やピレネー地方を越えて、この地方の知名度を高めることができるのは光栄なことだからね」
最後に、このアルバムにはどんなワインを合わせるべきなのだろうか?
「メルローではなく、100%タナだ!もちろん、MOISSON LIVIDE を存分に味わいたいなら、私のドメーヌ・ド・マティラのタナを飲まなければならない。私の祖父が1960年代に植えた古木のタナ100%の2020年のキュヴェがある。素晴らしいタンニンの強さを持ち、味わいはとてもリッチだが、とてもソフトでクリーミーでもある。家で15年から20年保存できるようなボトルだ。
アルバムを聴きながらタナを飲めば、五感が活性化する。飲むために聴き、その逆もまた然り。高価なVIPチケットよりずっといい、まさに没入型の体験だ。もし私の国を通りかかったら、遠慮なく訪ねてきてほしい。私は夜間、敷地内で人々を歓迎し、試飲やワイナリー周辺のツアーを提供しているからね」

参考文献: HARD FORCE:MOISSON LIVIDE Interview Darkagnan

HEAVY METAL DK:Interview med Baptiste ”Darkagnan” Labenne fra Moisson Livide

METAL OBS:MOISSON LIVIDE : OH, MA DOUCE FRANCE !

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ALLT : FROM THE NEW WORLD】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH OLLE NORDSTROM OF ALLT !!

“Hiroshima And Nagasaki Were The Starting Points For Our Research When Writing This Album. We Can’t Even Begin To Imagine The Horrors The Victims Experienced.”

DISC REVIEW “FROM THE NEW WORLD”

「メタルのコアなジャンルを掘り下げた後、2012年にデビュー・アルバムをリリースした VILDHJARTA を知ったんだ。彼らのサウンドはそれまで聴いたことのないものだった。僕の作曲にも音楽の好みにも大きな影響を与えたよ。彼らはモダン・メタルにおけるランドマーク的なバンドだよ」
2010年代にあれだけ一世を風靡した Djent は死んだのでしょうか?いえ、そんなことはありません。Djent のリフエイジやポリリズミカルなダンス、そして多様性や DIY の哲学はあのころ、Djent を崇め奉っていた若者たちの楽曲に今も息づいています。
2020年にスウェーデンのカールスコガにて結成された ALLT は、音楽で物語を語るストーリーテリングの能力と、機械的でありながら有機的という革新的なアプローチですぐに頭角を現しました。その名の通り “ALLT (All) is Everything” ジャンルを超越したメタルコアの煌めきは、フランス&ノルウェーの連合軍 MIRAR と双璧をなしていますが、驚くべきことに両バンド共にその心臓には VILDHJARTA の奇跡が眠っています。そう、美しいメタルは決して一夜にして築かれることはありません。そこには必ず、過去からの学びやつながりがあるのです。
「広島と長崎は、このアルバムを作る際のリサーチの出発点だった。犠牲者が経験した恐怖は、僕たちには想像することさえできないよ。石に刻まれた “人影の石” のような悲しみを知ることで、とても悲劇的なイメージが鮮明になり、1曲目の “Remnant” の歌詞になったんだ。 “死の人影、悲劇のシルエット” としてね。このようなテーマについて書くことは、僕たちに感情の解放や浄化を与えてくれる。そして、僕らと共にリスナーにもこうしたテーマを探求する機会を与えられたらと願う。僕たちは、犠牲者とその家族に対する深い尊敬の念を持ってこの曲に取り組んだんだ」
まさに “新世界より” 来たる “From The New World” は、荒廃の中に自己を発見する、綿密に作られた音楽の旅。世界の緊張と恐怖にインスパイアされたこの旅路は、核兵器による崩壊と回復、そしてその後に続く感情的で哲学的な風景をテーマにしています。そしてその創作の道のりで、ALLT は日本を物語の源泉に据えたのです。
そのタイトルが表すように、”From the New World” は日本から生み出された小説、アニメ “新世界より” に啓示を受けて生み出されました。そこでは、核兵器並みの暴力サイコキネシスによって滅んだ世界と、そのサイコキネシスを徹底した情報管理とマインドコントロールによって抑えた暴力のない新世界が描かれていました。ALLT はその物語を、核の脅威にさらされた現代と照らし合わせます。
機械的なサウンドと有機的なサウンドは自ずと融合し、荒廃と、その余波の中で生き続ける生命の静かな美しさ両方を呼び起こします。電波の不気味な質感から膨大な計算能力を持つ巨大な機械まで、あらゆるものを模倣した広がりのあるシンセ、ダイナミックなインストゥルメンテーション、パワフルなボーカル、そしてオーガニックな質感がこの音楽にリアリティを根付かせました。そうして彼らがたどり着いたのが、広島と長崎でした。
「僕の経験では、メタルは常に人々が暗闇に立ち向かい、カタルシスを見出すことのできる空間だった。メタルのコミュニティは一貫してファシズム、人種差別、不平等を拒絶してきた。メタルは、人々が最も深い感情を表現し、同じ感情を持つ人々とつながることのできる空間なんだよ。アーティストが真実を語り、境界線を押し広げ続ける限り、ポジティブな変化への希望は常にあると思う」
ALLT は “人影の石” に恐怖し、人の憎悪や暴力性が生み出す悲劇や不条理に向き合いました。それでも彼らは人類を諦めてはいません。なぜなら、ここにはヘヴィ・メタルが存在するから。一貫して人類の暗闇に立ち向かい、魂の浄化を願ってきたヘヴィ・メタルで彼らは寛容さ、優しさ、多様性、平和で世界とつながることを常に願っています。混沌とした世界でも、メタルが真実とポジティブなテーマを語り続ける限り、一筋の巧妙が消えることはないのですから。
今回弊誌ではギタリスト Olle Nordstrom にインタビューを行うことができました。「フロム・ソフトウェアと宮崎英高が創り出す世界には本当にインスパイアされているんだ。彼のゲームやストーリーは、僕が ALLT のリリックでストーリーを創り上げていく方法の大きなインスピレーションになっているんだ。アルバムのタイトルも、僕の大好きなアニメのひとつ “新世界より” から拝借したんだ。”エヴァンゲリオン” からも、そのスケールの大きさと想像力に深くインスパイアされているね。10代の鬱屈した時期に観て以来、あらゆる媒体の中で最も影響を受けた作品のひとつになったよ」 どうぞ!!

ALLT “FROM THE NEW WORLD” : 10/10

続きを読む NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ALLT : FROM THE NEW WORLD】

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SKINFLINT : BALOI】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH GIUSEPPE SBRANA OF SKINFLINT !!

“No Metal Bands Were Covering African Mythology And Tales. So I Wanted To Incorporate This Element Of Our Culture Into The Music. I Feel These Tales Are The Most Important Aspect Of Skinflint.”

DISC REVIEW “BALOI”

「アフリカでは多くの人がメタルに触れる機会が少なかった。ラジオ局でメタルが流れていなかったり、自分の周りにメタルについて知っている人がいなかったりすれば、やっぱりメタルに出会うことはなかっただろう。今はインターネットが普及し、人々はより簡単に様々な種類の音楽にアクセスできるようになったからね」
モダン・メタルに宿る寛容さが羽ばたかせたメタルの種子は、今や世界中に飛散し、芽吹き、華麗な花を咲かせようとしています。モダン・メタルの生命力は実に瑞々しく、行く手を遮るさまざまな障壁を壊し、世界各地の文化を包容し、その硬質な高揚感や知性を感染させていきます。
それでも、アフリカ大陸にメタルが根付くまでには長い時間を要しました。ライブがなかったり、渡航費が高かったり、ラジオでかからなかったり、そもそもメタルの存在自体が知られていなかったりで、近年までこの場所はまさにメタル不毛の地だったのです。
「ボツワナでは、メタルをブッキングしてくれる会場やプロモーターが絶対的に不足している。多くの人は、地元にシーンがあることさえ知らない。アフリカでの旅費は非常に高く、距離も離れているしね。さらに、ライヴは週末や月末にしか行われない。そのため、ツアーは非常に難しく、ほとんどのバンドはここでツアーさえ行おうとしないんだ。ステージもPAシステムも、スタジオだって自分たちで作らないといけない。とてもDIYなんだよ」
しかし、インターネットの普及によって、アフリカでもメタルは徐々に身近なものになりました。チェニジアの MYRATH や、南アフリカの VULVODYNIA、アンゴラの BEFORE CRUSH などは世界的に注目を集め、アフリカ大陸のメタルをあのバオバブの木のようにスクスクと育てています。
それでも、この地のメタルには今でも苦労が絶えないと、ボツワナの古豪 SKINFLINT の首領 Giuseppe Sbrana はその心情を吐露します。距離的問題、設備的問題、人的問題。そんな逆境においても彼らがメタルを諦めないのは、音楽に対する情熱とアフリカの誇り、そして DIY の矜持から。
「アフリカは歴史、神話、口承伝承の豊かな大陸だ。これらの物語の多くは、主流メディアで取り上げられたことさえなかったし、他のメディアでもまったく伝えられてこなかった。当時、こうした物語を取り上げるメタル・バンドは皆無だった。だから私は、私たちの文化のこの素晴らしい要素を音楽に取り入れたかったんだ。アフリカの物語は SKINFLINT の最も重要な側面だと感じているよ」
そう、彼らがメタルで描くのはアフリカの伝統とプライド。彼の地に残る神話や伝承を風化させず、世界中に伝えたい。その想いが、モダン・メタルの生命力、包容力、感染力と完璧にシンクロして彼らの最新作 “Baloi” は生まれました。アルバムでも屈指の名曲、”Sangoma Blood Magic” は、アフリカのシャーマンでヒーラー、サンゴマのストーリー。
身体的、精神的、スピリチュアル的な治療だけでなく、戦う人々を守ったり、迷子の牛を見つけたり、占いをしたり。薬草や動物の皮などを使って人々を癒すサンゴマ。西欧の医術が広まった今でもサンゴマの存在は大きく、人口の半分以上の人々がさまざまな困難でサンゴマを頼りにしています。それはきっと、日本の神道、八百万の神と同様にサンゴマが祖先と、伝統と、大地とつながっているから。
そんなズールーの秘術を宿した SKINFLINT のメタルは、MOTORHEAD のごとくパンキッシュに爆走し、VENOM のように凶暴で、SOULFLY のように伝統のリズムを体で受け止めます。ある意味、彼らのメタルも癒しであり、儀式。そうして、そのスピリチュアルなメタルのブラッド・ダンスはやがて世界を席巻するはずです。
今回弊誌では、Giuseppe Sbrana にインタビューを行うことができました。「私のメッセージは、欧米の検閲、キャンセルカルチャーによって、君たちの芸術が破壊され、本来の表現が変わってしまうことを決して許さないでほしいということ。日本はとてもユニークでクリエイティブな国なのだから」 どうぞ!!

SKINFLINT “BALOI” : 9.9/10

続きを読む NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SKINFLINT : BALOI】

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ZYGNEMA : ICONIC】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SIDHARTH KADADI OF ZYGNEMA !!

“I Was Deeply Connected And Impressed With a Steve Vai Track Titled Blood And Tears Since I Was a Teenager. It Has Carnatic Vocals With Electric Guitar And It Still Gives Me Goosebumps Whenever I Hear It.”

DISC REVIEW “ICONIC”

「地元の音とメタル音楽をブレンドして、この都市と州の人々にとってよりパーソナルなものにするという非常に効果的なアイデアを思いついた。だから、僕らが取り入れようとしている伝統的な音楽のブレンドは、パンジャブ音楽のようにポピュラーなものではない。正直なところ、西と南のミックスなんだ。”Iconic”, “Rise Again”, “To reach the Gods” を聴いてもらえば、その装飾がはっきりわかるはずだ。歌詞はムンバイの鼓動(人々)を語っていて、できるだけ多くの顔を見せることにした。ムンバイは喧騒に満ちているんだ」
想いや思い出、共感、怒りに願い。ヘヴィ・メタルがただの “音楽” ではなく、共に歩むうちいつしか人生になるように、ZYGNEMA の “Grind” も単なる “歌” ではありません。それは、彼らが生まれ育った故郷、ムンバイの精神と人々に捧げられた力強いアンセムです。
「音楽を通して表現することを可能にし、ライブに熱心に通い、メタル音楽に耳を傾ける人々は、その経験をより個人的なものにする。そうやって自分らしくいられること、個人的な感情を自由に表現できることは、誰もが望んでいることなのだろう。そこに、それぞれの文化や意味のある歌詞を融合させることで、より絆が深まるのだと思う」
インドの伝統的なリズムとモダン・メタルのアグレッションの極上のブレンドによって生まれたこの曲は、ムンバイの喧騒、混沌、疲れ知らずのエナジーを的確に捉え鮮やかに讃えるメタル讃歌。第三世界に根を広げるメタルの生命力、包容力、感染力を完膚なきまでに実現した、絆と人生の音楽。ハードなグルーヴと大胆不敵なテーマで知られる ZYGNEMA は、心に宿るローカルな文化とメタルの獰猛さの融合がいかに魅力的であるかを再び証明しました。
「”Grind” のインスピレーションは、ヘヴィなサウンドとリフ、そして PRODIGY の “Smack my bitch up” のようなエレクトロニックでインダストリアルなサウンドをブレンドすることだった。僕が10代の頃親しみ、感銘を受けた Steve Vai の “Blood & Tears” のようにね。エレクトリック・ギターにカルナティックなボーカルが入っていて、今でも聴くたびに鳥肌が立つよ。もうひとつのインスピレーションは、偉大なる Mattias Eklundh なんだ」
ムンバイの落ち着きのない鼓動を完璧に反映した轟音リフと複雑なグルーヴによって、”Grind” は台頭するインド・メタルの、そしてムンバイの新たなアンセムとなりました。コナッコルの複雑怪奇なパーカッションと歌で従来のメタルとは一線を画す印象的なリズムの質感を生み出していますが、そのルーツが欧米でこの奏法に早くから目をつけていた Steve Vai と Mattias Eklundh にあるのも興味深いところ。そうしてこの革新的な組み合わせは、ムンバイの活気に満ちた多様な雰囲気を映し出しながら、西洋と東洋の融合を祝います。
さらに “Grind” のミュージック・ビデオは、この曲のテーマに力強く命を吹き込んでいます。ムンバイの賑やかな通りを背景にしたこのビデオは、露天商、会社員、学生など、実際この地に生きる人々の日常をとらえています。彼らは皆、撮影時に話しかけて出演を快諾してくれたムンバイの人々。だからこそ、ムンバイの鼓動を伝えるこのビデオ、そして音楽には紛れもない信憑性があります。
「ムンバイの人々はたくましく、日々の生活を楽しく切り詰めている。ムンバイで苦難は誰も惜しまない。どんな階層や階級に属していようと、誰も文句を言わない。一日の終わりに、彼らは楽しみ、自分の功績を祝う。それが、僕たちがこのミュージック・ビデオで表現したいこと」
テクノロジーとSNSによって人類は退化しているのではないか。そう訝しむ ZYGNEMA のギタリスト Sidharth Kadadi。懸命に働く人々と、喜びや祝福を分かち合う瞬間がシームレスに織り込まれるこのビデオは、人間の回復力と精神力の証であり、困難にもかかわらず、揺るぎない決意で努力し、乗り越え、繁栄を勝ち取ったムンバイとメタルの記念碑でもあるのです。
今回弊誌では、Sidharth Kadadi にインタビューを行うことができました。「ストリート・ファイターは子供の頃にプレイしたことがあり、リュウの師匠の弟 (豪鬼) が “殺意の波動”という暗黒の修行に没頭してアクマになってしまうというバックストーリーがとても面白かった。剛柔流空手を学ぶことに間違いなく興味があるし、音楽と一緒にもうひとつ芸術を学ぶ時間を作るつもりだよ」どうぞ!!

ZYGNEMA “ICONIC” : 10/10

続きを読む NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ZYGNEMA : ICONIC】

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【LOWEN : DO NOT GO TO WAR WITH THE DEMONS OF MAZANDARAN】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH NINA SAEIDI OF LOWEN !!

“The Government Of Iran Does Not In Any Way Represent Iranian People And Culture, Their Suppression Of The Arts And Oppression Of Women Goes Against Everything In Iranian culture. Our Culture Has Celebrated Women And The Arts For Millennia Prior To The Dictatorship.”

DISC REVIEW “DO NOT GO TO WAR WITH THE DEMONS OF MAZANDARAN”

「シャーナーメは、多くの寓話や物語を含む魅力的なテキストで、今日の世界で起きていることと非常に関連性があると感じるのよ。世界の舞台であれ、個人的なレベルであれ、このテキストに登場する王や悪党たちの愚行や戯れは、生き生きとした現代的なものに感じられる。この本は、色彩豊かで大げさな方法で人間性を表現した見事な作品であり、私はそれを私たちの音楽で取り入れたいと思ったの」
ペルシャの叙事詩 “シャーナーメ: 王書” は、創造と征服、勝利と恐怖に満ちた、10万行にも及ぶ広大な詩。ロンドンのプログレッシブ・ドゥーム集団 LOWEN の素晴らしき第二幕 “Do Not Go To War With The Demons Of Mazandaran” にインスピレーションを与えているのは、その中に収められている Mazandaran の悪魔の頭領 Div-e Sepid の物語。強大な力と熟練した魔術を持つ巨大な存在で、王の愚かさを懲らしめるため彼の軍隊を破壊し、失明させ、地下牢に幽閉する。
「このアルバムは、それを聴く人々への警告なの。戦争には絶対に勝者などいないし、戦争で利益を得る人間が最大の悪党となる。私はいつも、ウィリアム・ブレイクのような予言的人物に魅了されてきた。彼らは詩や芸術を使って、近未来の可能性について人々に警告を発している。このアルバムが歴史を変えることはないとわかっているけど、私たちの周りで起こっていることの愚かさを鮮やかな色彩で浮き彫りにせざるを得ないと感じている自分がいるのよ」
そう、このアルバムは戦争をけしかける愚かなる王、支配者、権力者たちへの芸術的な反抗であり、英雄に引っ張られる市民たちへの警告でもあります。いつの時代においても、戦争に真の勝者はなく、そこにはただ抑圧や痛みから利益を貪るものが存在するのみ。ただし、LOWEN の歌姫 Nina Saeidi には、そうした考えに至る正当な理由がありました。
「中東の最近の歴史は、100年以上にわたる不安定化と植民地化によって、悲劇的で心が痛むものになってしまった。今のイラン政府はイランの人々や文化を代表するものではなく、芸術の弾圧や女性への抑圧はイラン文化のすべてに反するものだと思っているわ。私たちの文化は、独裁政権以前の何千年もの間、女性と芸術を祝福してきたのだから」
イラン革命の亡命者の娘として産まれた Nina にとって、現在のイランのあり方、独裁と芸術や女性に対する抑圧は、本来イランやペルシャが培ってきた文化とは遠く離れたもの。本来、女性や芸術は祝福されるべき場所。そんな Nina の祖国に対する強い想いは、モダン・メタルの多様性と結びついてこのアルバムを超越的な輝きへと導きました。
何よりその音楽的ルーツは、彼女の祖先の土地に今も深く刻み込まれていて、ゴージャスで飛翔するような魅惑的な歌唱は、パートナーのセム・ルーカスの重戦車なリフの間を飛び回り、大渦の周りに蜃気楼を織り成していきます。”クリーン” な歌声が、これほどまでにヘヴィな音楽と一体化するのは珍しく、また、奈落の底への冒険をエキゾチシズムと知性で表現しているのも実に神秘的で魅力的。多くのメタル・バンドがアラブ世界のメロディを駆使してきましたが、LOWEN のプログレッシブ・ドゥームほど “本物” で、古代と今をまたにかけるバンドは他にいないでしょう。
今回弊誌では、Nina Saeidi にインタビューを行うことができました。「日本から生まれたプログは世界でもトップクラスよね!喜多島修と高中正義は、私の最も好きなミュージシャンの一人なの。もちろん、スタジオジブリの映画のファンでもあるし、『xxxホリック』や『神有月の子ども』など、日本の民話や神話を取り入れたファンタジーやアニメのジャンルも大好きよ。『ヴァンパイア・ハンターD』も、若い頃に好きだったアニメ映画のひとつね。ゴシック映画の傑作。
ビデオゲームでは、私はゼルダの大ファンなの。Wiiのゲームはプレイする機会がなかったけど、N64とSwitchのゲームは今でもプレイする機会があればヘビーローテーションしているの」 どうぞ!!

LOWEN “DO NOT GO TO WAR WITH DEMONS OF MAZANDARAN” : 10/10

続きを読む NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【LOWEN : DO NOT GO TO WAR WITH THE DEMONS OF MAZANDARAN】

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【LETHAL X : 90 TONS OF THUNDER】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MILAN POLAK OF LETHAL X !!

“The First Time I Heard “Street Lethal,” I Was Completely Blown Away. The Guitar Playing, The Energy And Attitude Were Just Jaw-Dropping. And The Fact That Paul Was Only 18 Was Unbelievable And Incredibly Inspiring.”

DISC REVIEW “90 TONS OF THUNDER”

「初めて “Street Lethal” を聴いたときは、完全に衝撃を受けた。そのギター・プレイ、エネルギー、アティテュードには度肝を抜かれたよ。Paul が当時まだ18歳だったことも信じられないし、その音楽はあまりにも感動的だった。技術的にも、彼はその後数年間、僕が最も影響を受けた人物の1人となったね。RACER X の曲で一番好きなのは断然、 “Street Lethal” と “Scarified” かな」
RACER X の何が凄かったのか?その答えは “Paul Gilbert が凄かった” です。もちろん、のちの、BADLANDS のドラマー、JUDAS PRIEST のドラマー、MARS VOLTA のベーシスト、MR.BIG と THE SCREAM のギタリストを輩出した才能の宝庫であったこと。そして、スタジオ・アルバムではなく “Extreme Volume: Live” というライブ・アルバムで完成に近づいた、”ツインギターが舞い踊る究極で複雑なるスピード・メタル” の狂気。そのすべてが RACER X の魅力ではありました。
しかし、それでも RACER X は Paul Gilbert です。なぜなら、RACER X はすでに “Street Lethal” の時点で飛び抜けて凄かったから。この頃の Paul は、スピード・メタルの領域においてリフをいかに複雑に、テクニカルに、クレイジーに聴かせるかにすべてを注いでいた節があります。もはや、リードとリフの境目すら理解不能なネオ・クラシカルの極北。ここに齡わずか18歳でたどり着いていたのですから、その衝撃はまさに “90 Tons of Thunder” でした。
「その曲にインスピレーションを受けた Jeff が、完全なボーカル入りの曲を送り返してくれて、”90 Tons Of Thunder” が誕生したんだ。実際、Jeff はとても感激して、もっと曲を書いて、RACER X のファースト・アルバム “Street Lethal” へのオマージュ作品をバンド名 ”Lethal X” で作ろうと提案してきた。そうしてアイデアを交換し始め、何曲か作った後、ユニークな化学反応が起こり、アルバムが独自の野獣になることがはっきりしたんだ」
そして、当時の Paul Gilbert に90tの雷ほどの衝撃を受けた男が今、彼の偉業を引き継ぎます。Milan Polak。知る人ぞ知る、遅すぎた元シュラプネル系ギタリスト。”Guitar Odyssey” は、例えば Bumblefoot や Buckethead のような多様でカラフルで好奇心を激しくくすぐるギター・インストの名品ですし、後に Randy Coven, John Macaluso を従えてスタートした歌モノの作品群も Mark Tremonti のソロくらいは認知を得てもおかしくない素晴らしさ。だからこそ、ついに彼がここで陽の目を浴びる、しかも彼が敬愛する Paul Gilbert の後継バンドでという筋書きはあまりにもドラマティック。まさにメタルの回復力。
Paul Gilbert (になぜか Billy Sheehan まで) はこのアルバムにゲスト参加をしていますが、今の彼がこうした音楽をパーマネントにやることはおそらくないでしょう。Scott Travis も、John Alderete も、Bruce Bouillet もきっと戻りませんし戻れません。だからこそ、彼らはこのメンバー、この名前、この音楽で “Street Lethal” と今の狭間でアクセルを踏み抜きます。
もちろん、私たちは Jeff Martin のあの声を聴けば、懐かしさに包まれます。バンドが GIT で産声をあげたころのドラマー Harry Gschoesser も健在。うれしいことに、ベースは Mark Szuter が務め、Milan もフレキシブルなギターワークで作品に貢献。そうして、Paul Gilbert の人脈で集められた新たな RACER X、”LETHAL X” は、ほぼ全員が歌える楽器の名手という奇跡的なメタル・バンドとして再生したのです。
今回弊誌では、Milan Polak にインタビューを行うことができました。「多くの RACER X ファンが驚くと思うよ。Mike はとても才能のあるミュージシャンで、素晴らしいシンガーだ。アルバムでは Jeff と僕がすべてのバッキング・ボーカルを担当したけど、ライブでは必ず Mike が参加してくれる。僕たち3人の歌のDNAが合わさることで、とてもユニークなサウンドが生まれると思う」 アルバムは、来年の1/15に MARQUEE/AVALON よりリリース!どうぞ!!

LETHAL X “90 TONS OF THUNDER” : 10/10

続きを読む NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【LETHAL X : 90 TONS OF THUNDER】

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【OPETH : THE LAST WILL AND TESTAMENT】


COVER STORY : OPETH “THE LAST WILL AND TESTAMENT”

“Why Not Do The Screams?’ And Now It’s Like, ‘Why Do The Screams?’ You Can’t Win!”

THE LAST WILL AND TESTAMENT

OPETH のニュー・アルバム “The Last Will & Testament” から、”§1″ というタイトルの新曲が発表されると、この楽曲は2019年の “In Cauda Venenum” からの曲よりもずっと大きな話題となりました。それは、これまでよりもずっとヘヴィで、数年ぶりに Mikael Åkerfeldt のグロウルが戻ってきたからでした。しかし、なぜ今なのでしょう?
「そうだね。グロウルがいつも問題になる。以前は、”なぜグロウルを使わないんだ?” で、今は “なぜグロウルを使ったのか?”。勝ち目がないね!でも、なぜ今なのか?ニュー・アルバムはコンセプト・アルバムだから、あのようなボーカルが有効だと思ったんだよ。
ある意味、流行に流されないのが好きなんだ。だから、あのデス・メタルのボーカルを復活させるときは、人々がもう気にしなくなったときにしたかったんだ!
逆に言えば、外からのプレッシャーを感じたことはない。もちろん、私も “OPETH はかつて素晴らしかった”, “OPETH をもう一度素晴らしくしてくれ。また OPETH をうならせてくれ” という声は知っていたよ。でも過去4枚のアルバムでは、そういうボーカルの余地はなかった。自分のもうひとつの声ももう少し追求したかったし、音楽がそれを必要としていなかった。前の4枚のアルバムには、そういうボーカルを入れる意味がなかったんだ。
それに、自信を持てたんだ。古い曲をたくさん演奏するツアーを何度かやったけど、楽しかった。私にとってスクリーミングは、ある意味ラップに近い。ラップがうまいというわけではないけど、私のリズム全体が面白いと思う。
私はグロウルにはとてもこだわりがあるんだ。相当うまくなければならない。具体的でなければならない。そういうものに関しては特別なセンスがあるんだ。そしてもちろん、音楽全体のアイデアにプラスになるものでなければならない。今回はコンセプト・レコードだから、そうなっている。全体として、より良いレコードになったと思う」

16年ぶりにうなる最初のラインは?”死に包まれて…伝承の遠吠え…”。この冒頭のセリフはこれから起こることの舞台を整えていますが、同時にグループとしての OPETH の伝承、伝説、歴史を物語っています。結成当初から、OPETH と Mikael は、メタルの同胞たちとは一線を画してきました。初期には、フロントマンが見事なグロウルとクリーン・パッセージを聴かせるプログレッシブ・スタイルのデス・メタルとブラック・メタルを提示することで、同世代のバンドとは一線を画していました。
その後のリリースごとに、バンドはソングライティングに対してより簡潔で合理的なアプローチを示し、自分たちを繰り返すことなく、優れた作品を作り続けました。コンセプト・アルバムであろうと、ハーシュとメロウという異なるスタイルをフィーチャーしたツイン・レコードであろうと、デス・グロールを完全に捨て去ろうと、英語とスウェーデン語の両方でアルバムをリリースしようと、Mikael とその仲間たちは常に自分たちの音楽を最高水準に保ってきました。彼らはその完全性を徹底的に守りながら、次の進化に努めてきたのです。
古い曲をライヴで演奏するのと、再びスタジオで、新曲で叫ぶのは異なる体験なのでしょうか?
「みんなに変な感じ?って聞かれたよ。いや、そんなことはなかったよ。ボーカルは全部、自宅の地下室でひとりで座って録音したんだ。でも、なぜかうまくいった。他のシンガーの友人には、私が怠け者の年寄りのように座ってボーカルを録音したことを話したけど、とにかくなぜだかうまくいったんだ。ただ試してみて、最終的にカッコいいと思える曲ができた。それをみんなに送ったら、グロウルを聴いて、クールだって言ってくれたんだ」

グロウルを必要としたコンセプトはどんなストーリーなのでしょうか?
「時代は第一次世界大戦後の世界。3人の兄妹が実家の豪邸に到着するところから始まる。彼らの父親は厳格で年老いた保守的で偏執的で邪悪で高貴なクソ野郎だが、他界したんだ。3人の兄妹は、20代後半の男女2人の双子と、ポリオという骨格系の病気に冒された少女だ。そして、歌詞は遺言の朗読のようになっている。だから曲にはタイトルがなく、ただ1…2…7…と段落があるだけなんだ。
“遺言 “の朗読を通して、この子供たちは自分自身について、父親の秘密について、家族とのつながりについて、たくさんのことを知る。双子の兄妹はドナーによる子作りの結果生まれた。父とその妻は子供を作ろうとしたがうまくいかず、彼は妻が不妊であると責めた。しかしどうしても子供が必要だった彼は、妻に他の男をあてがうんだ。妻は双子を妊娠したが、その間、主人公は妻が他の男に犯されたことを後悔していた。だから、彼は基本的に2人の双子を後悔している。
“遺言 “の朗読を通して、双子は彼が本当の父親でないことを知り、最終的に遺産から取り残される。彼の唯一の血のつながった本当の子供は、病気の女の子だ。彼女はすべてを受け継ぐ。しかし彼女は、彼が屋敷のメイドと交わした恋の結果だった。彼は妻に、彼女のかわいそうな子供を身内のように面倒を見るべきだと嘘をついたんだ。
今、彼の妻も亡くなった。しかし、妻は夫が浮気をしていたことを知っていたようで、彼女は血のつながった相続人となった。彼女はすべてを相続する。そして遺言が終わり、最後の曲 “The Story Never Told” がはじまる。
彼女は今、屋敷に住んでいる。彼女はすべてを手に入れた。しかし、そこに一通の手紙が届く。それはメイドである母親からのもの。”私はあなたの父親に嘘をつきました。あなたは別の恋愛の結果です。彼はあなたの父親ではなかった” って。つまり、父は不妊症だったんだ」
かの KING DIAMOND が生み出しそうなストーリーです。
「否定できないね!(笑) だけど、彼はキャラクターとか名前とか、そういうことにもっと興味があるんだ。でも、私は家族全体に興味があったんだ。遺産相続をめぐって家族がどう衝突するかとか、血は水よりも濃いとか、そういうことにね。前作でもそうだった。そして、それをいい形で表現できるような音楽があれば、面白くてダークなトピックになると感じたんだ」

ストーリーと音楽。どちらからはじめたのでしょう?
「いつも音楽から始めるんだ。でも、アイデアはあったし、今回は並行してストーリーを考え始めて、メモを書き出した。同時に、曲の順番も考えなければならなかった。私は、音楽にとって良い方法で並べたかった。いわば、最初の10分で、すべてを台無しにするようなことはしたくない。私はレコードの流れるようなシークエンスが好きなので、まず音楽的にやりたかった。でも、いったん歌詞が決まったら、それを変えることはできなかったね。だから、いつもより少し大変だったかもしれないけど、より興味深かったし、楽しかったと思う。ガールフレンドにもたくさん助けてもらったしね。主人公に子供がいないという最後のひねりは、彼女のアイデアなんだ」
Mikael の作曲術は直感が命です。
「自分の直感を信じる。あまり深く考えない。ある種の知識はあると思うけど、それは理論から得たものではない。シンガーソングライターのレコードから持ってきたものもあるし、ポール・サイモンの曲かもしれない!デクスター・ゴードンの曲かもしれないし、MORBID ANGEL の曲かもしれない。必ずしもパクろうとするわけではないが、これらのパーツの総和が、私にとっての普通なんだ。
私にとってはいつもそうだった。例えば、MORBID ANGEL のサウンドにすぐに影響を受けたのは、ずいぶん昔の若い頃だった(笑)。どうやったらあんなことができるんだろう?彼らのサウンドって何だろう?そしてしばらくして、リフを書いてみて、”ああ、クソッ” って感じたんだ!”私が探していたのは、MORBID ANGEL のサウンドのようなものなんだ”ってね。ちょっと変わったミュージシャンに惹かれるんだ。
例えば、Trey Azagthoth とかね。私の知る限り、彼は唯一無二の存在だ。あんな音楽は誰も書けない。もし私が彼にインタビューするなら、こうを 聞くだろう。どうやったらこんなものが書けるんだ?何を聴いて今に至ったんだ?どんな血とDNAがあれば書けるんだ?とね。そうやって私の中にさまざまなジャンルがブレンドされているからこそ、OPETH はジャンルレスなサウンドなんだよ」

コンセプト・アルバム、プログ・メタル・オペラの制作は想像以上に労力を要します。
「直前になって、ある曲を2曲目ではなく7曲目に入れるなどということはできない。でもそれはある意味、解放的なことだった。
曲作りには常に多くの困難がつきまとうが、そのほとんどは個人的なものだ。自分自身を感動させたい。自分がいいと思うものを作りたい。いいものにしたい。鳥肌を立てたい。今自分がいる場所で、今自分がクールだと感じる音楽を書くのが好きなんだ。最終的に僕が求めているのは楽しむことなんだ。これを仕事だとは思っていないんだ」
Mikael はこのアルバムを、TikTok に例えます。
「これはとても落ち着きのないレコードだ。誰かが閉所恐怖症だと言った。あまりハッピーなレコードではない。つまり、どのメタル・バンドも “ダーク” という言葉を使うけど、このアルバムはそれよりも…落ち着きがないんだ。ぜんぜんダラダラしていない。アイデアが爆発しているような感じ…まるでTikTokのようだ。テレビシリーズの “サクセション” にも影響された。マードックのような父親の後を継いだ兄弟間の権力闘争を描いた素晴らしいテレビシリーズだったね。
安っぽく聞こえるかもしれないけど、ああいうストーリーが大好きなんだ。あのアイデア全体が私にとっては魅力的だ。父親を喜ばせて、王座を簒奪する、王座への道を拓く。金と権力は、人を自分がそうなるとは思ってもみなかったようなものに変えてしまう。兄と弟がお金を巡って争うように、家族が分裂するというアイデアに興味を持ったんだ。突然、血は水よりも濃くなくなった。私はそれが魅力的だと思う。このようなアイデアの断片を手に入れたら、あとは物語全体を通して自由な発想で進めていくだけだ」

地下室だけでなく、ウェールズのロックフィールドでもレコーディングを行いました。
「素晴らしかった!音楽の大部分はそこで録音したね。僕の家でメロトロンやボーカルを録り、その他のエフェクトなどはそこでやった。ソロのいくつかは、Fredrik Åkesson が自宅のスタジオでやったんだ。JETHRO TULL の Ian Anderson が参加しているが、彼はどこかのスタジオでスポークンワードのパートを担当した。EUROPE の Joey Tempest もこのアルバムに参加している。だから、いろんなスタジオを使ったけど、大部分はロックフィールドで作ったんだ。
超クールな場所だよ。あそこが大好きなんだ。ロックフィールドは落ち着きを与えてくれるし、孤立しているとは言わないけど、田舎の農場にいるような感じなんだ。だから、新しく入ってきたメンバー(ドラマーの Waltteri Väyrynen)との絆を深めるのに適していた。レコーディングの間、みんなでそこにいて、ぶらぶらしたり、ご飯を食べたり、ビールを飲んだり、くだらない話をしたり、とにかくレコードに集中したんだ」
そこはかつて、JUDAS PRIEST や OASIS がレコーディングした場所。
「クールだよ。たいていの場合、有名なスタジオに行くと、”ここがキッチンで、ここがコントロール・ルーム” みたいな感じなんだ。でも、そこには QUEEN がよく使っていたグランドピアノが普通に置いてある。”Killer Queen” はそのピアノでやったし、私たちのレコーディングでも使った。だから、本当にクールなんだ」
Ian Anderson と Joey Tempest。ふたりの異なる才能もアルバムに華を添えています。
「Ian は、何年か前に “Herigtage” のアルバムでフルートを吹いてくれないかと頼もうと思った。それで、正しいアドレスかどうかわからないけど、イアン宛にメールを送ったんだ。でも返事がなくてね。それで結局、今は亡きスウェーデン人をそのアルバムに起用したんだ。
しばらくして、レコードについて話すインタビューがあった。そのうちのひとつは JETHRO TULL のレコードで、Ian が返事をくれなかったことを話し、”あの野郎!” みたいなことを言ったと思う。そのあと、JETHRO TULL のマネージメントからメールが来て、”イアンは将来あなたと一緒に演奏したい。連絡してくれ” って言ってくれた。Ian のインタビューを見ていたら、彼の声、つまりしゃべりがすごくいいんだ。だから、彼にナレーションのようなものを頼んだんだ。その流れで、彼は “フルートも必要かい?” って。
Joey Tempest は私の家にランチを食べに来たんだ。それで “こんなパートがあるんだけど、私は本当にできないんだ。もし歌ってくれるなら、本当にクールだよ” って言った。すると彼は “マイクを向けてくれ” と言ってくれたんだ。まあ、私は歌詞をまだ書いていなかったので、結局、彼はロンドンで自分のパートをやった。たとえ彼らが私のヒーローであっても、有名人であっても、何であっても、2人のおかげですべてがとても良くなった。それが結局、彼らの名前ではなく、彼らがそこにいる理由なんだ」

アルバムには、ブラックモアやギルモアを想起させるギターヒーロー的な見せ場もふんだんに盛り込まれています。
「ああ、それはとてもいい指摘だ。Fredrik は ARCH ENEMY に在籍していたんだ。それに彼はスウェーデンの TALISMAN というバンドにいて、そのバンドには元Yngwie Malmsteenの2人、Marcel Jacob とJeff Scott Soto がいた。まさにギターヒーローだよ。彼はスウェーデンでトップ・ギタリストの一人として確立されていたけど、加えてミュージシャンとしての地位を確立したいという願いがあった。彼は私が難しいと感じることもこなせるし、私にはないギターヒーロー的な気概も持っている。私は彼のギターが大好きだ。彼は世界最高のギタリストだと思う。
私自身もギター・ヒーローが大好きだけど、私はソングライターでもあるから、シュレッドするときとソウルフルで長い音を出すときがはっきりしているんだ」
唯一曲名を持つ “A Story Never Told” のソロはそんなふたりのギターヒーローの協力の結果です。
「Fredrik には何も言う必要はなかった。彼はブレーキを踏むタイミングも知っているし、トップギアに入れるタイミングも知っている。彼はただ素晴らしいソロを披露してくれた。私は、ただ “ああ、最高だ” と言うだけだよ。
“A Story Never Told” のソロも上手くやるって言ってね。私はちょうど RAINBOW の “Bent Out Of Shape” を聴いていたんだけど、その中に “Snowman” という曲があって、すごくスローなんだ。だからこそ私はブラックモアが大好きなんだ。彼はいろんなトリックを持っていて、素晴らしいプレイヤーだったけど、いつも音楽的だった。Fredrik もそうさ!」
今回のレコーディングでは珍しく、テレキャスターも使用しました。人間らしさを得るために。
「私たちが目指しているのは完璧さではない。バーチャルの楽器を本物の楽器に置き換えるとき、欠点を探すのではなく、人間的な面を探している。不完全さの中にこそ人間性がある。それはデモにはないものだ。私のデモを聴けば、クソ完璧だ。私は、繰り返しになるが、人間的なサウンドの擁護者なのだ。完璧は私にとっては正しい音ではないんだ。完璧なテンプレートがあるのはいいことだけど、それをレコーディングするときにちょっと失敗して、最終的に人間的なサウンドのレコードになるんだ」

元 PARADISE LOST のスティックマンである Waltteri Väyrynen もバンドに新鮮な要素をもたらしています。彼がボスを感心させたことは間違いありません。
「Walt が素晴らしいドラマーだということは知っていた。このバンドはくだらないミュージシャンの集まりじゃない。演奏はできる。でも私たちはロックフィールド・スタジオに座っていて、彼は非常識でテクニカルな曲をワンテイクでやっていた。ほとんどリアルタイムでレコーディングしていた!彼はすごいよ!」
そう、これは OPETH 史上最高のギター・アルバムで、リズム・アルバムでもあるのです。バンドのもうひとりのキーパーソン、ギタリスト、Fredrik Åkesson も今回のアルバムの仕上がりには興奮を隠せません。
アルバムの複雑なテーマを踏まえて、Fredrik は Mikael とのコラボレーションが鍵だったと明かしました。
「このアルバムは、2008年の “Watershed” でバンドに加わったときと同じくらいエキサイティングだと今でも思っている。僕にとって特別なアルバムだからね。もちろん、どのアルバムも良いし、どれも満足しているけれど、このアルバムは、古い OPETH とプログの OPETH が新しい方向性と一歩前進のために組み合わされたような作品なんだ。
だからこそ、自分を本当にプッシュしたかったんだ。そして、すべてのソロに目的を持たせたかったんだ。Mikael と僕はヘヴィなリズム・リフを分担し、僕はアルバムの多くのメロディーを演奏した。Mikael はアコースティック・ソロを弾いているね。
“In Cauda Venenum” の時僕は、Mikael のスタジオで即興的にソロを弾いていた。でも今回は、音楽を送ってくれたんだ。だから、自分のスタジオでソロを考え、今までやったことのないことをやろうとより多くの時間を費やした。どのソロもそれぞれ違うものにしたかったんだ」
そうして Fredrik はこのアルバムで、より思慮深いアプローチへと突き進みました。この新しい創造的な空間において、彼は楽曲だけでなくレコードの大きな物語に合うように、それぞれのソロを綿密に作り上げていったのです。
「”目立ちたい “という考え方は好きじゃないんだ。テクニカルなものを盛り込むのは好きだけど、それは目的があってのこと。このアルバムでは、リードに多くの時間と余韻を費やした。
かつて Gary Moore が言ったように、”あなたが弾くすべての音色は、人生で最後に弾く音色のようであるべきだ”。そういうメンタリティなんだ。人生を当たり前だと思ってはいけない。常にベストを尽くしたいと思うだろう。それがいいモデルだと思うし、できればそれ以上になりたい。ちょっと野心的に聞こえるかもしれないけど、ある意味、少なくとも僕が目指していたのはそういうことなんだ。みんながどう思うかはこれからだけど、かなりいい出来だと思うよ」

ヘヴィでアグレッシヴなパッセージと、幽玄でメランコリックな瞬間がぶつかり合う OPETH の特徴的なサウンドは、このアルバムの中核をなしています。この両極端の間の複雑なバランスは、バンドが長年かけて習得してきたもので、彼らはアイデンティティを失うことなく、幅広いサウンドパレットを探求できるようになりました。そして彼らの14枚目のスタジオ・アルバムでは、そうした対照的な要素の相互作用が、慣れ親しんだものであると同時に、新たに活性化されたようにも感じられると Fredrik は言います。
「僕の見方では、OPETH の曲は陰と陽のようなものなんだ。とてもアグレッシブなパートと、よりメランコリックなパートが出会って、一方が他方のパートを糧にする。これはレコーディングの方法でどのように演奏し、どのようなサウンドを使うかによって、音楽にそうした極端な変化を生み出すことができるんだ。
ヘヴィなものから森のような夢のようなサウンドスケープまで。それは “Orchid” 以来、OPETH の一部になっているものだと思う。しかし、それは常に発展し、様々な方法で行われてきたんだよ」
“The Last Will and Testament” が形になるにつれ、この作品は Fredrik のようなベテラン・ミュージシャンにとっても新たな挑戦となることは明らかでした。レコーディング・プロセスでは、技術的な複雑さと新鮮な創造的要素がプロジェクトの重みを増し、バンドは予想外の方向にまで突き進みました。しかし、限界に挑戦し続けるというバンドの決意は揺るがず、革新と芸術的進化への深い情熱がその決意を支えたのです。実際 Fredrik は、音楽そのものの複雑さが障害となり、また成長の源となったことを明かしています。
「今回のドラムのパートはとても複雑だから、リフを入れるのに時間がかかった。ポリリズム的なものがとても多いんだ。だから、リフのいくつかを捉えるのに時間がかかった。でも僕は挑戦することが好きなんだ。Mikael は常に僕らにも挑戦したかったんだと思う。いい意味でちょっとサディスティックなんだ」

“The Last Will and Testament” は過去への回帰を意味するのか、それとも OPETH の進化の継続を意味するのでしょうか?
「継続だ。一歩前進だ。これは初期の OPETH とプログ時代の OPETH をひとつにまとめたものだ。他のアルバムとはいろいろな意味で違うが、OPETH サウンドは健在だ。ちょっと新しいサウンドなんだ。グロウルのヴォーカルもあるけど、Mikael は “Paragraph I” で聴けるような、もっと芝居がかったクリーン・ヴォイスを開発したんだ。これまでそういうことはしてこなかったからね」
バンドとして革新と進化を続ける原動力は、自己満足を避けたいからだと Fredrik は説明します。
「飽きられたくない。常にステップアップし、レベルを上げ、限界を上げなければならない。もちろん、それは難しいことだ。でも、新しいアルバムはリスナーに対してではなく、自分自身に対して何かを証明する機会なんだよね。
毎回また何かを証明する必要があると思うし、それは今でも OPETH のアルバムのモットーなんだ。ビジネスを維持するためだけにアルバムを作るのなんて意味がないからね」
最後に Mikael は自分とバンドの立ち位置を明確にします。
「私は自分をミュージシャンだと思いたい。ミュージシャン…つまり、私は自分が消費する音楽の産物だ。私はもう50歳だ。だから、長年にわたってたくさんの音楽を聴いてきた。そうして多くの音楽を盗み、参考にしてきたんだ。でも結局のところ、私は自分が何をやっているのかわからないんだよな!」

日本盤のご購入はこちら。Ward Records

参考文献: KERRANG! :“Screaming, for me, is almost like rapping”: Mikael Åkerfeldt talks Opeth’s new album, The Last Will & Testament

MUSIC RADER :“What we are after is not perfection. You’re looking for the flaws… the noise… earth hum. You’re looking for the arm-tight playing… the human aspect”: Opeth’s Mikael Åkerfeldt on inspirations, intuition, shred, and the problem with modern metal

PROG SPHERE :OPETH Guitarist Fredrik Åkesson on Crafting Their Most Challenging Record

GUITAR INTERACTIVE MAG:“It’s about a Murdoch-type media mogul and his children fighting for control… that inspired me to explore those dynamics.” How HBO’s Succession helped inspire Opeth’s new album The Last Will and Testament | Interview

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE FALLEN PROPHETS : PRIMORDIAL INSTINCT】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH FRANCOIS VAN DER MERWE OF THE FALLEN PROPHETS !!

“All The Major Cities In South Africa Have Their Problems With Crime. It Could Possibly Affect Our Music. We Do Live In a Place That, As Beautiful As It Is, Constantly Reminds Us Of Violence And The Dark Nature Of Humanity.”

DISC REVIEW “PRIMORDIAL INSTINCT”

「ケープタウンは危険な街だよ。僕たちは皆、犯罪に何度も遭遇しながら育ったんだ。それが世界の他の都市とどう違うのかはわからないけど、南アフリカの主要都市はどこも犯罪の問題を抱えている。それはもしかしたら僕たちの音楽にも影響しているかもしれないね。美しいと同時に、暴力や人間の暗い本性を常に思い起こさせる場所に住んでいるのだから」
南アフリカ発祥の地 “マザーシティ” と称されるケープタウンは、風光明媚な多文化自然都市として知られています。最先端のショッピングタウンに街の象徴テーブルマウンテン、そして世界で最も美しい岬、喜望峰。そんな理想的に見える場所には実は裏の顔が存在します。世界で最も危険な都市のひとつ。
貧困と格差、失業率の高さが生み出す犯罪は後をたたず、強盗、スリ、性犯罪、車上荒らし、そして南アフリカ全体で1日に75件の殺人事件が発生。銃社会のこの国は、アパルトヘイト撤廃後の混乱と流入にうまく対処できなかったのです。
そんな南アフリカ、ケープタウンの光と闇を全身全霊で喰らい尽くしたバンドこそ、THE FALLEN PROPHETS です。彼らのデスメタルには、常に流れるような美しさと人間の深い闇が同居しています。
「アフリカのメタルは市場が小さいし、ほとんどの国際的なアーティストにとってアフリカは地理的にかなり遠いという事実。通貨も弱い。しかし、世界がデジタルの時代へと進化し、アフリカがその不利を克服してきたことで、僕たちは最近より多くの音楽に触れることができるようになった。今アフリカは間違いなく、世界で最もユニークなメタルを生み出している」
世界で最も遅くメタルが根付いたアフリカ大陸は、インターネットで世界が小さくなった今、個性的でユニークなメタルを生み出す奇跡の場所へと変貌しつつあります。そして、THE FALLEN PROPHETS は、ダークでアグレッシブなテーマとデスメタルの揺るぎないルーツ、そしてクラシックやバロック音楽からの意外な影響を融合させることでケープタウンの今を投影し、アフリカのメタル、その進化を証明してみせました。
“Primordial Instinct” はそんなバンドにとって大胆な新章の幕開けです。ネオ・クラシカルの複雑さを取り入れ、より洗練された彼らのデスメタルはブラックメタルの凶暴まで内包。”Beneath The Veil Of Flesh” では、デスメタルの真髄である容赦ないリフ、ブラックのトレモロにブラストビートを叩きつけながら、バロック・ギターのイントロ、複雑なアルペジオ、ディミニッシュのランで彼らの個性を際立たせていきます。これぞメタルの没入感。ハイテンションで強烈で時に流麗。自身のペルソナと同化した彼らのデスメタルはもはや単なる音楽ではなく、生き方そのものとなりました。ABORTED, BLOODBATH, CANNIBAL CORPSE, HYPOCRISY, NILE, VADER といったバンドに対する情熱や憧れは、ケープタウンの風景の中に昇華されていきます。
今回弊誌では、ギタリスト Francois van der Merwe にインタビューを行うことができました。「差別はなくなったのか?いや、なくなってはいない。残念ながらこれからも差別が完全になくなることはないだろう。そして、過去の残虐行為のせいで、人々から軽蔑されることも常にある。でもね、幸運なことに、そういう考え方をする人の数は日に日に少なくなっているのもまた事実なんだ」 どうぞ!!

THE FALLEN PROPHETS “PRIMORDIAL INSTINCT” : 9.9/10

続きを読む NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE FALLEN PROPHETS : PRIMORDIAL INSTINCT】

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SEEDS OF MARY : LOVE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JULIEN JOLVET OF SEEDS OF MARY !!

“I Quite Like “Progressive Grunge”! Actually We Are As Much Fond Of Grunge As We Are Of Prog Music.”

DISC REVIEW “LOVE”

「僕たちは GOJIRA をとても尊敬している。彼らは僕らの世代にとって、まさにフレンチ・メタルのパイオニアだ。彼らは僕たちに進むべき道を示し、フランスのオルタナティヴ・カルチャーにスポットライトを当てる手助けをしてくれた。彼らの音楽は妥協がなく、とてもよく練られている。彼らがこのセレモニーに参加するとは予想外だったけど、今や世界中が彼らのことを知っているよね。それは素晴らしいことだよ」
GOJIRA, ALCEST, IGORRR, BETRAYING THE MARTYRS, LANDMVRKS, DEATHSPELL OMEGA, GOROD, THE GREAT OLD ONES, BLUT AUS Nord。挙げればキリがありませんが
これほど多くの才能あふれる革新的メタル・バンドが揃っていながら、フランスにメタル大国というイメージはこれまでありませんでした。それは、日本と同じく “後追い” の国だったからかも知れませんね。しかし、そんなイメージもついに今年、ガラリと変わることになりました。
オリンピック・ゲームの開会式で、地元フランスの GOJIRA が見せたパフォーマンスはまさに圧巻でした。王宮と牢獄。光と影のコンシェルジュリーを光と影のメタルが彩る奇跡の瞬間は、世界中を驚かせ、メタルの力、フランスのメタル・シーンを羽ばたかせることになったのです。
「僕たちはみんなあの時代に育ったから、より共感しやすいんだ。きらびやかな80年代からダークな90年代へのシフトによって、君が言ったような偉大なバンドが出現した。戦争、大量失業、ウイルス性疾患など、残念ながら僕らの生きる今の時代は90年代に通じると思う。だからこそ、そうしたバンドや音楽の美学は今でもかなり重要なんだ」
ではなぜ、モダン・メタルの力が今、世界中で必要とされているのでしょうか?その答えを、フランスの新星 SEEDS OF MARY が代弁してくれました。煌びやかな80年代からダークな90年代へのシフト。それは、まさに理想を追い求め、追い求めすぎたためにやってきたこの “欲望の時代” への揺れ戻しと非常にシンクロしています。だからこそ、多様でダークな90年代のメタルを原点として育った新たなメタルの形、その審美性や哲学、暗がりに臨む微かな光がリスナーの心に寄り添うのでしょう。
「ALICE IN CHAINS からは常に大きな影響を受けてきた。事実、SEEDS OF MARY として初めて演奏した曲は、”Them Bones” のカバーだったんだからね。今日、僕たちはその影響から解放されて、自分たち独自のものを作ろうとしている。でも、声のハーモニーや音楽にあのダークなムードがあると、リスナーがAICを思い浮かべないのは難しいことだと思う」
ゆえに、彼らの音楽は “プログレッシブ・グランジ” と評されることもあります。ALICE IN CHAINS は間違いなく、グランジの渦の中から這い出でましたが、その本性はメタルでした。あの時代の新しい形のメタルでした。そして、その怪しいハーモニーや不確かなコード、リズムの変質に絶望のメロディはあの時代のプログレッシブであり、見事にあの時代を反映した革新でした。
SEEDS OF MARY はそこに、Devin Townsend, Marilyn Manson, SLIPKNOT, SOILWORK, SOTD, NIN といった90年代の代弁者を取り揃えながら、より現代的な手法や趣向に PINK FLOYD のサイケデリアを散りばめることで見事に20年代の暗がりを表明します。
音楽の流行に圧倒されることなく、”種” をまき、収穫する。暴力的で、幽玄で、特定の難しい彼らのサウンドは、内省的な歌詞とありのままの感情の肯定によって、急速に強く成長していきます。
今回弊誌では、Julien Jolivet にインタビューを行うことができました。「僕たちは皆、間接的に日本文化の影響を受けているんだよ。みんなレトロなビデオゲームをプレイしたことがあるし、Jeremy はクラシックな日本映画をよく観ている。アニメやマンガは僕の人生の大部分を占めているよ。アニメの音楽(たとえば “AKIRA”)や菊池俊輔のような作曲家は、間違いなく僕に影響を与えているね」 どうぞ!!

SEEDS OF MARY “LOVE” : 9.9/10

続きを読む NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SEEDS OF MARY : LOVE】

Just find your own music