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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【BLOOD INCANTATION : ABSOLUTE ELSEWHERE】


COVER STORY : BLOOD INCANTATION “ABSOLUTE ELSEWHERE”

“A Lot Of People Would Say, ‘I Don’t Even Listen To Any Metal At All, But This Record Somehow Does It For Me,’ Which I Found Amazing”

ABSOLUTE ELSEWHERE

「PINK FLOYD をどう説明する?彼らはサウンドトラックを作った。他のこともやっていた。”彼らはメタルやロック、プログのバンドだ” と言われるのではなく、ただ “バンドの名前だ” と言われるような立場にいることは、とてもクールなことだと思う。そして、僕らもその段階に差し掛かりつつある。BLOOD INCANTATION はただ BLOOD INCANTATION なんだ」
一見、BLOOD INCANTATION の作品はとっつきにくいように思えるかもしれません。デンバーの実験的デス・メタル・バンドは、過去10年間、音楽的挑戦だけでなく、一見不可解で幻覚的なイメージも包括する世界に肉薄してきました。その哲学は、彼らの歌詞だけでなく、アルバムのアートワークにも浸透しています。
つまり、BLOOD INCANTATION を完全に理解するには、エイリアンやピラミッド、オベリスクの意味を理解しようとする必要があるのです。CANNIBAL CORPSE が “スター・ウォーズ” なら、BLOOD INCANTATION は “2001年宇宙の旅”。
難解な音楽を披露するバンドにもかかわらず、彼らは幅広く多様な聴衆を惹きつけることに成功しています。2016年に発表された初のフルアルバム “Starspawn” は、バンドの土台を築き、より壮大でプログレッシブな野心を示す、最初の突破口となりました。しかし、扉を大きく開けたのは2019年の “Hidden History Of The Human Race” でしょう。その代表曲は18分ものサイケ・エピック “Awakening From The Dream Of Existence To The Multidimensional Nature Of Our Reality (Mirror Of The Soul)” であるにもかかわらず、”Hidden History” は2010年代で最も幅広く評価されたメタル・アルバムの1枚となりました。そうして、ブルース・ペニントンの象徴的なアルバム・ジャケット(グレーのエイリアン、淡いブルーの空、謎の浮遊物)をあしらったTシャツは、インディ・ロックのライヴで見かけるくらいに有名になったのです。
ギタリストの Morris Kolontyrsky は、「多くの人が、”私はメタルをまったく聴かないのに、このレコードはなぜか聴いてしまう” と言うんだ」 と目を細めます。

めまいがするほど広大な3枚目のLP “Absolute Elsewhere” を発表する準備中、彼らは増え続けるファンベースに対して過激なまでにオープンな姿勢をとりました。アルバムの発表と同時にDiscordチャンネルが開設され、そこでバンドはリスナーとたわむれたり、たわごとを言い合ったりしています。
彼らは、アルバムを構成する2曲のロング・トラックのうちの1曲目、”The Stargate” のMVを兼ねたショート・フィルムのプレミアに出席し、ベルリンの伝説的なハンザ・スタジオでのセッションを詳細に描いたドキュメンタリーの制作を監督しました。メイキング・ドキュメントのタイトルは、ハンザでミックスされた CAN の名曲から引用した “All Gates Open” “全ての扉は開いている”。ドラマー Isaac Faulk はその意味を説明します。
「このドキュメンタリー、そしてアルバムのエトス全体がオープンであることなんだ。自発性に対する開放性、コラボレーションに対する開放性。積極的に指示したり、箱の中に押し込めようとするのではなく、僕たち全員が波に乗っていたこの相互の創造的衝動。だから、すべての門が開かれているんだ」
BLOOD INCANTATION には最初から、濃密でクレイジーなアイディアが詰まっているけれど、そこにリスナーを招き入れたいんだ。隠された神秘的なものになろうとしているのではない。純粋なレベルで人々に関わってもらいたいんだ」
ハンザ・スタジオを訪れ、POWER TRIP や自身のバンド、SUMERLANDS のプロデュースで知られる Arthur Rizk とレコーディングを行った BLOOD INCANTATION。彼らがデビュー以来テーマとしてきたのは、人類の進歩に対する地球外からの影響と、すべての生命の相互関連性でした。ハンザの異質な環境に身を置くことは、新しいレコーディングの雰囲気を形成するのに役立ちました。
「壁には香のようなものが染み込んでいて、何十年も何十年もそこでレコーディングしてきた人たちの何かがそこにあるんだ」
ハンザのスタジオはまさに “Hidden History” でした。彼らは、ブライアン・イーノがデヴィッド・ボウイのエンジニアリングをしていたときに、ミキシング・デスクの脇の壁に自分の名前を書き込んだ場所を見ます。ボウイのレコーディングで使われたピアノがスタジオに残っていて、その音はアルバムに収録されました。TANGERINE DREAM が使用したマイク(おそらく現在では35,000ユーロの価値がある)は、”クローゼットの中” だったと、彼らはまだ信じられない様子で言います。そして BLOOD INCANTATION はそのすべてを “Absolute Elsewhere” に注ぎ込み、さらに9,000ユーロ相当のシンセサイザーを追加購入したのです。

バンドは、市内にある練習場で、9日間かけてアルバムの曲を40〜50回通しでリハーサルしました。ハンザ入りする前の週末、彼らはオリンピアシュタディオンで行われた DEPESCHE MODE のギグに8万人の観客とともに参加しましたが、このイギリスのシンセ・ポップ・グループも3枚のアルバムををハンザで制作していたのです。
“Absolute Elsewhere” の核心には、BLOOD INCANTATION の核心と同じように二律背反が存在します。一見、このアルバムは近寄りがたく、謎めいた作品でしょう。曲は2曲だけで、両者とも3つの楽章に分かれており、そのそれぞれが20分を超えています。そして BLOOD INCANTATION の過去のどのリリースよりも、デスメタルの攻撃性にクラウト・ロック、ダーク・アンビエント、70年代プログからの大胆なアイデアを加えており、作品の最も密度の高い部分では、アイデアからアイデアへと奔放に自由気ままに飛躍していきます。
その一方で、ギター・パートは、エクストリームであっても豊かなメロディーを奏で、かつてはミックスの奥深くに埋もれていた Paul Riedl のボーカルは鮮明。そのフレージングとアーティキュレーションを重視した彼の歌は、間違いなく BLOOD INCANTATRON 史上初めて、キャッチーを極めています。そして Riedl はクリーン・ボーカルを多く披露もしています。つまり、”Hidden History” が、ほとんど偶然に広く一般的なファン層を見出したとすれば、”Absolute Elsewhere” は、さらに多くの人々に届く態勢をしっかりと整えているのです。
「”Absolute Elsewhere” のサウンドは断固としてブルータルで、これまでのどの作品よりも飛躍的にテクニカルでプログレッシブだ。ただ、その過激さとは裏腹に、よりメロディアスでキャッチーで親しみやすい。この巨大で残酷なものの泥沼の中で、キャッチーな部分があればそれでいい。BLOOD INCANTATION の影響範囲は常に外に向かっているのだから。だから、僕たちが最初の範囲から外れたのものから学び始めることは避けられないし、常にそれらを大きな血の呪文のピラミッドに組み込んでいくんだよ」
BLOOD INCANTATION の誰もが、2022年にリリースされたアンビエント作品 “Timewave Zero” なくして “Absolute Elsewhere” はあり得なかったと信じています。4人のメンバー全員が典型的なギターとドラムの代わりにヴィンテージのシンセサイザーを演奏していたアルバムを、気に入った人も批判した人もいました。しかし、バンドにとって “Timewave Zero” は、自分たちのサウンドのパラメーターを広げる手段であり、同時に創造性の奥行きを広げる方法でもあったのです。”Timewave Zero” の経験は、バンドが “こうあるべき” という既成概念を打ち砕きました。
「メンバーと、異なる方法で、異なる言語で、一緒に音楽を演奏する方法を学んだ。僕たちはそして、”Timewave Zero” を通してより親密な友人にもなれたんだ」Kolontyrsky は言います。「”Absolute Elsewhere” では、その感性が発揮されたのだと思う。僕たちの絆はとても強いから、誰かの最悪のアイデアでも、誰も敬遠したり馬鹿にしたりすることはないんだ。
僕らはメタル・バンドが非メタルのレコードを作るのが好きなんだ。10代の頃、エクストリームでアンダーグラウンドなブラックメタルやデスメタルに夢中になっていて、CORRUPTED のようなバンドが大好きだった。あるいは ULVER のようなバンドは、すぐにアコースティックになり、その後、これまで以上にハードになって戻ってくる。そうしたバンドはすべて、サウンドスケープやアトモスフィアを取り入れている。彼らはそれをまったく恐れていない。彼らは逆張りをするためにやっているのではない。自分たちの音楽がいかに高尚かどうかを証明しようとしたわけでもない。彼らはただ、自分たちの旅路をたどるアーティストであり、僕たちのような若く多感な人々に、メタルにノンメタルを取り入れることが完全に可能であることを示しただけなんだよ。物理的に可能なことなんだ」

そう、彼らはモダン=多様性という、モダン・メタルの方程式を完全に理解しています。そして、もうひとつの重要なステップは、バンドが昨年秋にリリースした両A面シングル “Luminescent Bridge” でした。デスメタルのルネッサンスについて、まだ知らない人は多いかもしれませんが、しかしそれはアンダーグラウンドの洞窟でますます大きく鳴り響いています。CANNIBAL CORPSE や OBITUARY が活動を続け、会場の規模をアップグレードしているのと同様に、このサブジャンルの新しい形態もまた台頭してきているのです。そのひとつがコズミック・デス・メタルで、人体の切断を歌った曲を避け、人間存在に関するより広い形而上学的な問いを探求することを好んでいます。
昨年9月15日、コズミック・デス・メタルの先駆者2組が新曲を発表しました。トロントの TOMB MOLD が発表した “The Enduring Spirit” は、90年代のスピリチュアルな先達、CYNIC のサイケデリックな洗練に大きく傾倒した驚異的な作品で、最終曲の “The Enduring Spirit Of Calamity” は、クリスタルのようなギター・ソロと長く繰り返されるリフレインを含み、デスメタルに対する既成概念を大きく変えました。
同日、デンバーの BLOOD INCANTATION が12インチ・マキシ・シングル “Luminescent Bridge” をリリースしました。タイトル・トラックは、シンセとクリーン・ギターによるマントラのような作品で、2022年のアルバム “Timewave Zero” のアンビエントな実験性を引き継いでいましたが、A面の “Obliquity Of The Ecliptic” では、地球を震撼させるアルバムのメタリックな炎を宿しながらメロディックに飛び立ちました。
つまり、”Absolute Elsewhere” の鼓動するメロディックなハートは、”架け橋” のおかげでここまで完全に露わになったのです。「”Luminescent Bridge” の両面は、”Hidden History” よりもメロディーを取り入れやすくなっている」と Riedlyは言います。「”Obliquity Of The Ecliptic” の最後に巨大でヘヴィーなメタル・ギター・ソロがある。高揚感があって、メロディアスで、勝利的なんだ。それから “Luminescent Bridge” はほとんどメロディックなパートばかりだ。不協和音は最初と最後のスペース・サウンドだけ。それ以外はすべて、繰り返しのギター・リフ、繰り返しのギター・メロディ、そして大きく舞い上がるカラフルなメロディがある。でも、とてもシンプルなんだ」

BLOOD INCANTATION のサウンドスフィアでは、時間は平坦な円となり、まるで、彼らが長年にわたって発表してきたすべての音楽が、独自の次元に同時に存在しているかのよう。既知の音楽宇宙のはるか彼方への彼らの旅は、私たちの現実を構成する最も小さな粒子、存在の大きな理論、そして私たちの意識そのものを探求するもの。Issac Foulk は言います。
「僕はよく、多くのバンドは自分たちのサウンドにこだわりすぎると、その輪を自ら小さくしてしまうと言ってきた。でも僕らは、自分たちのサウンドを追求していくうちに、輪が大きくなり、さらにいろいろなものが加わっていくような気がするんだ」
BLOOD INCANTATION は、彼らの愛するビデオ・ゲームで例えれば、RPGでキャラクターがレベルアップするように、スキルツリーを通してレベルアップしているように思えます。レコードを出すたびに、バンドはXPを獲得し、新しいスキルをアンロックしていくようです。
「リリースのたびに、僕たちはハードウェアの能力を最大限に引き出している」とフレットレス・ベースの使い手 Jeff Barrett は言います。「そしてうまくいけば、僕たちは学び、次のリリースでハードウェアを拡張して、さらにその学びをプッシュすることができる」
BLOOD INCANTATION が “Absolute Elsewhere” に望んでいたのは、Faulk に言わせれば、「大きくて、壮大で、自由で、境界のない、超越した存在」になることでした。
“The Stargate” では、激しいリフが残響の多いダブのようなセクションへと進み、PINK FLOYD の “Echoes” のジャム・セクションを想起させるパッセージへと展開します。そして彼らは、あからさまに David Gilmoure 風のギター・ソロを聴かせます。そして嵐の前の静けさ、シンセサイザーとアコースティックの波の音。
「BLOOD INCANTATION は当初から、デスメタル以外のエクストリーム・メタル(特に90年代と2000年代)が、いかに様々な方向に突き進む音楽であるかに興味を持っていた」と Faulk は証言します。
“The Stargate” は、無限の宇宙に奉仕する儀式的な肉体の破壊を描いています。「すべての生命は一時的なものであり、永続するものは意識である」

一方で、Riedl と Kolontyrsky の音楽的応答が、アルバムのB面 “The Message” です。”The Stargate” が BLOOD INCANTATION のこれまでのビジョンの集大成だとすれば、”The Message” は彼らが向かっている “絶対的な別の場所”。
この曲は、エクストリーム・メタル内部の戦争をシミュレートしているかのよう。恍惚としたブラックメタルのセクションが近年最高のスラッシュ・メタル・リフと競い合う至高。彼らはその高尚な音楽性ゆえに、狙った場所にハンマーを振り下ろすことができるのです。
Faulk がこの曲の中でサイケ・ロック・セクションと表現している部分は、彼にとって特別な挑戦でした。小節のタイミングがとても奇妙だったので、彼はリハーサルの間中、コンピューターで曲を追いかけ、躍起になってタイミングを捕まえようとしていました。
“The Message” の歌詞は、バンドの哲学的な水域に深く潜り込み、瞬間の陶酔状態を認めていきます。それは Faulk が「強烈な明晰さ、一体感、ありのままを受け入れること」と表現するもの。
「僕たちの音楽がやろうとしていることのひとつは、ジャンルだけでなく、バンドがなりうるもの、バンドができることの境界線を押し広げること。僕らは10年以上前にもこのようなことを話していた。これは、BLOOD INCANTATION の大きなテーマだった。自分たちがどこから来たのか、何者なのか、自分たちの深い信念を再考すること……。世界史や人類の起源に地球外生命体が影響を及ぼしている可能性。
それは、哲学とアイデアのイースト・ミーツ・ウエスト(東洋と西洋の融合)だ。意識とは、西洋科学がそうみなしたもの、つまりニューロンがたまたま発火しているだけで、もっと深いものがあるわけではない。でも、もっと深く掘り下げていくと、もっと多くのことがあるように思えてきて、すべての意識とすべての生命との間には、もっと深いつながりがあるように思えてくるんだ」

“Absolute Elsewhere” は、キーボーディスト兼フルート奏者の Paul Fishman が結成した70年代のプログレッシブ・ロック・バンドにちなんで名づけられました。彼はエーリッヒ・フォン・デニケンの1973年の著書 “In Search Of Ancient Gods” にインスパイアされたコンセプト・アルバムをレコーディングするためにそのグループを結成。最も注目すべきは、KING CRIMSON の Bill Bruford がセッション・ミュージシャンとしてそこでドラムを叩いていたことでしょう。
奇妙な偶然ですが、ABSOLUTE ELSEWHERE の長らく行方不明だったセカンド・アルバム “Playground” が今年リリースされたばかり。BLOOD INCANTATION がアルバム・タイトルにこのバンドを引用し、Robert Fripp がボウイやイーノとハンザでレコーディングしたときと同じ空間を巡ったことで、宇宙の閉塞が解け、ABSOLUTE ELSEWHERE の作品が再び物質的に存在するようになったかのようにも思えます。
そして実際、”All Gates Open” のドキュメンタリーは、ハンザがこの作品のための適切な実験場であったことを明らかにしています。ハンザは、デヴィッド・ボウイとイギー・ポップがベルリンで重なり合った時代の中心にあったスタジオで、”Timewave Zero” に唯一最大の影響を与えた TANGERINE DREAM はこの場所でアルバム “Force Majeure” をレコーディングしていました。彼らはハンザでの大規模なセッションでそのすべてを活用することができたのです。Riedl がその喜びを語ります。
「同じ芸術的な道に身を置くだけでなく、僕たちが聴いてきたレコードで彼らが使ったのと全く同じ機材や回路を使うことで、僕たちがインスパイアされた伝説的な人々を解明することができた。ほとんどの場合、誰かがこの機材を持っていたとしても、貴重すぎて触ることはできないだろう。でも、スタジオ全体がそうだからね。スタジオには、展示されているのに使えない機材はなかった。すべて、使ってレコーディングするためにあったんだ」

機材だけでなく、バンドはゲスト・ミュージシャンも自由に起用し、アルバムの限界をさらに押し広げました。2005年から TANGERINE DREAM を率いている Thorsten Quaeschning は、”The Stargate” の第2楽章に瑞々しいシンセ・サウンドスケープを提供し、SIJJIN と NECROS CHRISTOS の Malte Gericke は絶叫するような死のうなり声と話し言葉のボーカルを母国語のドイツ語で加えました。しかしおそらく最も重要なのは、HALLAS のキーボーディスト Nicklas Malmqvist が名誉メンバーとしてバンドに加わり、ピアノ、シンセサイザー、メロトロンのパートを重ねることで、このアルバムの70’sプログへの傾倒を顕在化させたことでしょう。BLOOD INCANTATION のメンバー4人だけで構想・実行された “Timewave Zero” とは異なり、”Absolute Elsewhere” のシンセ・パートはメタル圏外から提供されたのです。そして、それが重要でした。
「メタル系の人がアンビエントを作ると、ある種特定のサウンドになる」と Riedl は認めます。「でも Nicklas の耳は “メタルっぽさ” から完全に切り離されていて、だからメロトロン・フルートのようなクレイジーなアイデアをたくさん持ってくるんだ。ドキュメンタリーの中で、彼が “あまりヒッピーっぽいサウンドにはしたくない” と言っているのがわかる。でも、それが僕たちの望みなんだ!僕たちは20年以上メタル・バンドをやってきたから、ヒッピー・サウンドにはできない。彼の頭脳はもっと自由だから、そういうインスピレーションを取り入れることができるんだ」
バンドがデスメタルの繭の外に出てハンザでレコーディングしたり、メタル外の人たちと共演したりするのは、メタルヘッズに一見異質な分野が織り成す成果を示し、明確なつながりを作るためでもあります。Riedl は、BLOOD INCANTATION が人々に示したいことの例として、クラウトロックのパイオニア Conrad Schnitzler が MAYHEM の “Deathcrush” に提供したイントロ、”Silvester Anfang” を挙げました。
「この巨大なタペストリーは、影響と創造性の連続体における僕らの位置を示している。僕たちは、リスナーに対して、自分たちがこの異世界に参加していることだけでなく、そうやって広がる “輪” が、彼らが想定しているよりもずっと近くて大きいものであることを説明しようとしているのさ」
「つまり、最もカルト的でアンダーグラウンドでブルータルなブラック/デスでありながら、同時に高尚なエレクトロニック・ミュージックや70年代のプログ・スタイルのレトロ・バンドの世界にも入り込めるということを示している」と Kolontyrsky は付け加えます。「このバンドが成長するにつれて、そうしたすべてのコーナーに同時に進出していく。このバンドが成長するにつれて、ニッチで小さなもののひとつひとつに突き進んでいくんだ」

Steve. R. Dodd のアートワークもこのアルバムに欠かせないピースのひとつ。
「アートワークは僕らの包括的な美学の一部であり、それぞれが全体的なコンセプトの段階的な拡大に貢献している。僕たちのリリースを見れば、”ああ、これは明らかに BLOOD INCANTATION だ” とすぐに見分けることができる。さまざまなアートワークに描かれたそれぞれの風景が、理論的には同じ宇宙内の新しい場所となりうるという意味で、僕らの視覚的宇宙の発展にとって重要なんだよね」
Riedl の “Absolute Elsewhere” の歌詞には、BLOOD INCANTATION のディスコグラフィ全体にも言えることでしょうが、そうした考え方が反映されています。神秘主義やオカルト、古代のエイリアンやシュメール神話へのベールに包まれた言及の下で、Riedl は根本的に人間のつながりについて、つまり、理解しているかどうかにかかわらず、私たちは皆、集合意識の中に組み込まれていると語っているのです。MAYHEM と CAN、TIMEGHOUL と TANGERINE DREAM を結びつけるのと同じ絆が、私たち一人ひとりを互いに結びつけるのです。
「ダンスの中で自分の居場所を認識すること/己のビートを時間内に知り、どこからステップを踏むべきか知ること” と、Riedl は “The Message” の中で歌っています。そのダンスを学べば、BLOOD INCANTATION の見かけの不可解さは消え去るはずです。
「リスナーに直接語りかけたかったんだ。僕が話そうとしていることを理解するため、その人が戦わなければならないようなことはしたくなかった。BLOOD INCANTATION を聴いているとき、彼らもまた僕たちの一部なのだということを、暗黙のうちに理解してほしかった。それは巨大な、つながった相乗効果で、彼らがどこにいようと、僕たちがどこにいようと、両者をつなぐ心の橋なんだ。いわば、リスナーは僕らに侵入するようなものさ」


参考文献: STEREOGUM:Opening The Gates With Blood Incantation

THE QUIETUS:Expanding the Circle: Blood Incantation Interviewed

WESTWORD:Blood Incantation Is Taking Death Metal to New Frontiers

ANTICHRISTMAG:Interview with Paul Riedl of BLOOD INCANTATION

弊誌インタビュー2019

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【CONSIDER THE SOURCE : THE STARE】


COVER STORY : CONSIDER THE SOURCE “THE STARE”

“Our Music Combines Influences From Turkish, Bulgarian, North and South Indian Styles With Jazz And Fusion, And Then We Filter It Through Our Own Heavy, Rock and prog sounds and approaches.”

THE STARE

CONSIDER THE SOURCE の音楽は、70年代フュージョン、伝統的な中東や中央アジアのスタイル、プログの難解とメタルの激しさを巧みにミックスしたものです。ギタリストの Gabriel Marin は、並外れたシュレッド、複雑なタイム感、伝統的スケールの博士号、稀有なるフレットレス・ギターの流暢さ、そしてエフェクトを操る多才すぎる能力を誇ります。そして、3機のペダルボード、17個のペダル、2台のギター・シンセサイザー、2台のアンプ、そして異形のカスタム・ダブルネックを持ってツアーする筋金入りの機材ジャンキーでもあるのです。
ニューヨーク出身の Marin はピアノから始め、16歳でギターを手に入れました。1年半後には Yngwie Malmsteen の “Far Beyond The Sun” を体得。ハンター・カレッジでクラシック音楽の学士号を取得し、インドの巨匠デバシシュ・バッタチャリヤの弟子となり、デヴィッド・フィウジンスキーに師事しました。OPETH や RADIOHEAD の傑出したカバーを披露する一方で、彼はまた、バ・ラマ・サズ、カマンチェ、ドンブラ、ドター、タンブール、ダン・バウなど、伝統的なアコースティック楽器の演奏法も会得しているのです。

「バンドを始めた当初はロックに傾倒していたけど、常に違う世界のものにも興味を持っていた。最初はグランジやシュレッダーから影響を受けた。Jerry Cantrell と Billy Corgan はグランジ系だった。10代の頃は Yngwie Malmsteen, John Petrucci, Steve Vai も好きだった。そういうプレイを学ぶことで、たくさんのギター・チョップを身につけることができた。僕は17歳で、ギターを始めて1年半くらいだったんだけど、イングヴェイの “Far Beyond the Sun” を弾けたんだ。”ああ、僕は何でも弾けるんだ!” って感じだったよ(笑)。
でもその後、2ヶ月の間にジョン・コルトレーンの “A Love Supreme” と John McLaughlin を聴いて、自分の音楽がすっかり変わってしまった。テクニックはそこそこだったけど、それ以上の意味があるように思えたんだ。コルトレーンが速いラインを弾いているとき、それは “この速いラインを弾いている私を見て” ではなかった。スピリチュアルな音の爆発だった。
僕は、”よし、これが自分のやりたいことだ” と思った。僕はいつも、顔で弾いたりギターを変な持ち方をしたりするような、ショー的なシュレッダーが苦手だった。それは僕には理解できなかった。でもそのふたりは一音一音に真剣で、超高速で演奏しているにもかかわらず、一切無意味なでたらめさがなかった」
オリエンタルな伝統音楽にのめり込んだのはなぜだったんでしょうか?
「その後すぐに、伝統音楽をギターで演奏する方法を見つけたいと思うようになり、インド、トルコ、ペルシャの音楽にのめり込んでいった。幸運なことに、偉大なミュージシャンと一緒にこうしたスタイルを学ぶことができた。僕はフレットレス・ギターを弾くので、伝統音楽のフレージングや装飾を正確に表現できるんだ。
僕は伝統的な楽器を使ってトルコやペルシャの古典音楽を演奏するために時々雇われるんだけど、そんな時でもフレットレス・ギターを持って行く!フレットレス・ギターをそのような場に持ち込むのはクールなことだ。CONSIDER THE SOURCE では、超未来的なサウンドを作るのが好きなんだ。僕らはトルコ、ブルガリア、北インド、南インドのスタイルからの影響をジャズやフュージョンと組み合わせ、それを独自のヘヴィ・ロックでプログなサウンドやアプローチでろ過しているんだ!」

たしかにフレットレスであることは、オリエンタルなサウンド・メイクに効果的です。
「フレットレスはスライドに最適なだけでなく、微分音も使える。中東のような多くの異なる文化では、ピッチとピッチの間にピッチがあるから、4分の1ステップや8分の1ステップといったものがあるんだ。
それに、フレットレスにEBowやサスティナー・ピックアップをつけ、ボリューム・ペダルを使えば、ギタリストというよりシンガーに近いサウンドになる。
僕はあまりコードを弾かないんだ。どちらかというとメロディックな単音奏者で、フレットレスはそれに最適な楽器なんだ。フレットを弾くときでも、流動的なピッチを得るために、ワミー・バーはずっと小指にあるくらいでね」
アラビアやインドの伝統音楽は、単にハーモニック・マイナー・スケールを演奏しているだけではありません。
「それが問題なんだ!インド音楽といえば、僕はインドのラップスティール奏者、デバシシュ・バッタチャリヤの弟子だった。彼は信じられないような人で、SHAKTI のレコーディングにも何度か参加している。僕はインドで彼と一緒に暮らし、彼がアメリカに来るときはいつも、1ヵ月間彼の家に滞在して本当に熱心に勉強したんだ。
あと、アゼルバイジャンのムガームのスケールも素晴らしい、 アゼルバイジャンでは本当に素晴らしい音楽が作られているんだ。他の国の人の耳にはなじみにくい音階を聴きたいなら、検索エンジンにその音階を入力して聴いてみて!」

フレットレスのもうひとつの魅力は、フレットレスに専念しているプレイヤーがほとんどいないことだと Marin は言います。
「僕はフレットレスを弾いているけど、シーンの誰もフレットレスを弾いていなかった。僕のフレージングのほとんどは、エレキ・ギターを弾かないミュージシャンから学んだものだ。未知の領域だよ。
最後にトルコを訪れたとき、ドゥドゥクを弾く人のレッスンを受けたんだ。僕がレッスンに現れたとき、彼は “ドゥドゥクはどこだ” と言ったので、僕はフレットレスを取り出した。彼は僕にどう教えたらいいのかわからなくて、何か弾いてみて、それをコピーさせて、僕のやり方が正しいかどうか教えてくれと言ったんだ。
管楽器で顎の圧力を下げる真似をギターでするんだ!それを理解するのは楽しかった。フレットレスのもうひとつの魅力は、フレットレスに専念している奏者がほとんどいないことだからね」
Marin は多くの伝統的なアコースティック楽器を演奏しますが、テクニックやスケール、モードといった面で、それはエレクトリック方面ににどの程度反映されているのでしょうか?
「スケールとモードは100パーセント。ここ10年ぐらいでトリルやスライドが自分の演奏に組み込まれたから、何を弾いても東洋の楽器のように聴こえてしまうんだ。それが今の僕の弾き方なんだ。でも、右手のテクニック、たとえばドンブラやドゥタールのテクニックは、ギターにはできないんだ。不思議なもので、ドンブラやドゥタール、あるいはサズを2、3時間弾いた後、ギターを手に取り、演奏できる状態になると思っていたのに、まるでまだ全然弾いていないかのようなんだ。まったく違うんだ。
フュージョンをうまくやるには、フュージョンしようとしている音楽の内側に入り込む必要があると思う。僕はトルコやペルシャの音楽を忠実に演奏することができる。そうやって、まずは正しい方法で音楽の言語を学び、それから自分の目的に向かうのが大切だと思う。
インド音楽を勉強していたとき、ちょっとブルージーな感じで弾いたら先生がすごく怒ってね。それが僕を変えた。よし、学ぶときは正しい方法で学ぼう。それから離れて演奏するときは、好きなようにやればいい。でも、それは分けて考えるんだってね」

伝統的な演奏方法と、CONSIDER THE SOURCE での解釈方法とは、明確に区別しているということでしょうか?
「伝統的な奏法について本当に研究しているのは、バンドで僕だけだからね。僕はバンド・メンバーのためにメロディーを弾き、彼らには自分のパートを書いてもらう。ふたりとも優れたミュージシャンだから、それぞれの持ち味を出してほしいんだ。例えば、ドラマーはダルブッカで育ったトルコ人じゃない。彼はドラムセットで素晴らしい演奏をする西洋人なんだ。彼はトルコのリズムを聴いて、それに合わせて自分なりの素晴らしいことをする。僕たちは決して伝統音楽をやっているわけではないからね。僕は伝統音楽を勉強しているけど、僕らはフュージョン・バンドなんだ」
CONSIDER THE SOURCE は変拍子も独特です。バンドが変拍子をダンスに適したリズムに分割する方法は、バルカン音楽にインスパイアされているのです。
「最初に変拍子を理解し始めたのは、DREAM THEATER の曲とか、わざと変拍子にしてあるようなプログの曲に合わせて演奏していた時だった。それからバルカン音楽を弾き始めて、深く衝撃を受けたんだ。装飾音やトリルなど、すべてが魅力的で、”よし、これこそが9拍子の曲だ” と思ったんだ。でも、ライブを観に行くと、バブーシュカを着た老女たちが踊っている。どうやって9で踊るんだ?どうやって11と7で踊っているんだろう?”と思うだろ?でもそれは、音楽が小さなグループに分かれているからできることなんだ。だから、僕はすべての音楽を小さなグループに分けるようにしたんだ。もう変な感じはしないね。バルカン半島の伝統的なダンス曲を5つのグループに分けて演奏するんだけど、何人かの人たちは、気にすることもなく、ノリノリになるんだ」

フレットレスを弾くときは、音名のない特定の微分音を意識しているのでしょうか?
「とても具体的だよ。微分音にはさまざまな伝統がある。例えば、トルコの伝統とアラビアの伝統はまったく違う。トルコ音楽でマカーム(伝統的な音程とそれに付随する旋律図形)を演奏する場合、第2音をある程度フラットにする。アラブ音楽でそれを演奏する場合は、別の程度までフラットにする。イントネーションは、僕が演奏中にとても意識していることだよ」
ワーミー・バーの叩き方にもこだわりがあるのでしょうか?
「イエスでもありノーでもある。あるときは、ただヒラヒラさせたり、叩いてみたりして、何が起こるか確かめたくなる。ワーミー・バーは本当にワイルドカードだ。音を出した後にギターを操作する余地がたくさんある。だから、そういう面は意識している。バーを使えば、自分の好きな音程に正確に曲げられるだけでなく、クールなこともできるはずだ」
Marin の演奏は、ペダルボードの上でダンスを踊ると評されます。
「10代の頃はペダルをいじるのに多くの時間を費やした。僕は大のSFオタクなんだ。ギターを弾きたいと思うようになったきっかけのひとつは、父に連れられてサム・アッシュ (ギターショップ) に行ったとき、フェイザー・ペダルを見たことだった。何これ?フェイザーだ!って。だからオタク音楽という側面は、僕にとって大きなものなんだ。クレイジーなSFサウンドが大好きなんだ。フリージャズも大好きだった。サックスで20分間、男たちがイカレた音を出すのを聴くのが好きなんだ。CONSIDER THE SOURCE ではあまりそういうことはできないけど、ペダルを使ってクレイジーなサウンドスケープを作るのが大好きなんだ。
そして僕らのアルバムにはキーボードがない。いつも “誰がキーボードを弾いたの?”って聞かれるんだ。誰もキーボードは弾いていない。僕はMIDIギターを使っている。ペダルは何十万も使う。リハーサルは、”この小節の3拍目にこのペダルを踏み、4拍目にこのペダルを踏み、次の小節の下拍にこのペダルを踏む “という感じだ。Axe-Fxとか、ボタンを1つ押せばすべてが変わるようなものは使わない。オン・オフしたいときは、ひとつずつやるんだ。このペダルを踏んで、スプリングが外れて、このペダルにジャンプする、というポイントがいくつかあるんだ。見た目はかなり面白いね。
EBowもよく使うし、KORGのKaoss Padもスタンドに置いてある。僕の周りには17台のペダルがある。ネックも2つあるし、スイッチも10億個ある。音楽の中で最も意識しなければならないのはそういう面だ。演奏は心から生まれるものだけど、そのためには意識的な思考が必要なんだ」

楽曲とソロに対するアプローチは変えているのでしょうか?
「曲の構成はほとんど変わらない。でも、ジャムになると、意識的に違うものにしようとするんだ。例えば、昨夜は高い位置からソロを始めたと記憶していたら、次の晩は低い位置から始める。前の晩にすごく良いものをやったとしたら難しいよ。”最高だった、もう一回やってみよう” と思うのは簡単だ。でも僕はその逆をやるようにしている。ひどいソロを弾くかもしれないけれど、ゼロから即興で始めたほうがいい。即興演奏をしていると、そういうこともある。でも同時に、それは必要なことなんだ。次の夜には、そのおかげで素晴らしい演奏になっているかもしれないからね。知っていることを演奏して成功するよりも、挑戦して失敗する方がずっといい」
CONSIDER THE SOURCE の音楽は世界中の多様な聴衆に届くはずです。
「ボーカルなしの長い曲を変拍子でクレイジーに演奏するんだ。僕たちのやることはすべて、新しいバンドを目指す人にするアドバイスとは正反対。その点、僕たちはちょっと頭が固いけど、自分たちのやっていることは多くの人に届く可能性があると本当に信じている。他の国に行って、あまり関係がないかもしれない他の国の音楽を演奏すれば、きっと気に入ってもらえると信じている。
初めて海外に行ったときのことを覚えている。イスラエルとトルコに行ったんだけど、そのときは外交問題で揉めた直後だった。イスラエルで、トルコでライブをすると発表したんだ。彼らはブーイングを浴びせたが、その後トルコの曲を演奏したら、彼らは熱狂した。そしてトルコに行って、イスラエルから来たと言ったんだ。ブーイングだった。それからクレズマーの曲を演奏したら、みんな大喜びだった。みんなが音楽を愛してくれた。そういうものなんだ。僕らの観客は老人、若者、いろんな人種、メタル・ヘッド、ジャム・キャットなど、超混ざり合っている。それを見るのが本当にうれしいんだよ」


参考文献: GUITAR WORLD:Gabriel Akhmad Marin: “I don’t play many chords. I’m more of a melodic single-note player, and the fretless guitar is a great instrument for that”

PREMIER GUITAR:Tao Guitar: Gabriel Marin

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ANCIIENTS : BEYOND THE REACH OF THE SUN】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH KENNY COOK OF ANCIIENTS !!

“Opeth And Mastodon Are Amazing Bands And Are Clearly The Benchmark For Progressive Metal In Todays Perspective.”

DISC REVIEW “BEYOND THE REACH OF THE SUN”

「ANCIIENTS を結成した当時、僕はちょうど OPETH と MASTODON を発見したところで、彼らがやっていることに本当にインスパイアされたんだ。両者とも素晴らしいバンドで、現代的な観点から見れば明らかにプログレッシブ・メタルのベンチマークだからね」
OPETH と MASTODON。まさにモダン・プログ・メタルのベンチマークであり、雛形とも言える両雄の完璧なキメラとして生を受けた ANCIIENTS は、デビュー作 “Heart of Oak” からプログ・メタルの未来という評価を確固たるものとします。時は Bandcamp 戦国時代。INTRONAUT や WILDERUN, CALIGULA’S HORSE といった次世代を担うプログ・メタルの新鋭が鎬を削った10年代前半においても、ANCIIENTS の描く複雑の青写真と存在感は群を抜いていました。あの Bandcamp の音とアートワークの海の中で、彼らの作品を覚えていないディガーなどモグリでしかありません。そして16年には、地元カナダのグラミーと言われるジュノー賞を獲得。プログの “古代” と現代を巧みに融合する彼らの未来は約束されたように思えました。
「一連の不幸な出来事に直面し、音楽活動から身を引いていたんだよね。家族の深刻な健康問題、バンド内のメンバーチェンジ、そしてコヴィッド。この3つが、長期の活動休止の理由だった」
しかし彼らはさながら古代のロスト・テクノロジーのように、突如として沈黙し、休眠期間に入ります。8年という長い不在の間に、ライバルたちはメジャー・レーベルへと移籍。しかし、ついに復活を遂げた ANCIIENTS の音楽は決して名を上げた彼らに劣ってはいません。むしろ、8年という沈黙は、そして痛みは、ANCIIENTS の音楽をさらなる高みへと押し上げました。
“Beyond The Reach of The Sun” 制作のために戦い抜かなければならなかった試練や苦難(家族の病気、メンバーの交代、転居、パンデミック)を知ることで、このアルバムには感情的な重みが加わります。フロントマン Kenny Cook が逆境を乗り越えてきた年月があったからこそ、このアルバムは不確実で、孤独で、恐怖の長い夜が明けて勝利の夜明けを迎えたような印象を与えるのでしょう。
「面白いことに気づいたね!ここ数年、ALICE IN CHAINS, SOUNDGARDEN など、あの時代の曲を聴き直しているんだ。ギターを習っていた頃は、そうしたバンドの大ファンだったし、ミュージシャンとしての僕に大きな影響を与えてくれたからね」
特筆すべきは、Kenny がこの作品でさらに、自らの原体験、ルーツへと回帰した点でしょう。リード・シングルの “Melt the Crown” では、1本でも2本でもなく、3本のギター・ソロが飛び出しますが、そのひとつひとつが、フォークからサザン・ブルース、サイケデリック・プログまで、独自のテイストを持っています。MASTODON の哲学と70年代が煌めくこの楽曲において、響き渡るは Mikael Akerfeldt の陰を帯びた美声、そして Jerry Cantrell の陰鬱なコーラス・ワーク。
そう、私たちはグランジとメタルをとかく別のフィールドに置きがちですが、確実にその垣根はつながっています。”Beyond The Reach of The Sun” は、90年代から00年代を駆け抜けた ALICE IN CHAINS, OPETH, MASTODON の連続性と類似性を見事に実証したレコードだと言えるでしょう。
そう、アルバムのテーマは “Wisdom”、”叡智”。これは異次元からの力によって奴隷化された社会の物語。思考が停止するやいなや奴隷化されてしまう世界で今、最も必要な洞察力や叡智を養えるプログ・メタルの有用性も、彼らは同時に証明してくれたのです。
今回弊誌では、Kenny Cook にインタビューを行うことができました。「当時は、特にプログレッシブ・ロックのジャンルにおいて、多くの実験が行われていた。KING CRIMSON, YES, CAMEL, PINK FLOYD, Alan Persons Project は、何らかの形で僕らのサウンドに大きな影響を与えた。同時に、JUDAS PRIEST の古いレコード、THIN LIZZY、そしてもちろん DEEP PURPLE も同じようなテイストを持っているが、よりハード・ロックのジャンルだよね」 どうぞ!!

ANCIIENTS “BEYOND THE REACH OF THE SUN” : 10/10

INTERVIEW WITH KENNY COOK

Q1: Anciients was silent for a long time after winning the Juno Award. Why have you been inactive for so long?

【KENNY】: We faced a series of unfortunate events which caused us to take a step back from working on music. There were some serious health issues involving a family member, some line up changes within the band, and Covid. Those 3 things, among others were the reasons for our lengthy hiatus.

Q1: ANCIIENTS はジュノー賞を受賞した後、長い間沈黙していましたね?

【KENNY】: 一連の不幸な出来事に直面し、音楽活動から身を引いていたんだよね。家族の深刻な健康問題、バンド内のメンバーチェンジ、そしてコヴィッド。この3つが、長期の活動休止の理由だった。

Q2: When I first heard Anciients on “Heart of Oak,” I thought I had found the perfect band. It was a perfect fusion of Opeth and Mastodon, two of the best bands I had ever heard in my life. Were these two bands actually a big part of your life?

【KENNY】: At the time of forming this group I was just discovering both of those bands, and was really inspired by what the were doing.Both of them are amazing bands and are clearly the benchmark for progressive metal in todays perspective. I wouldn’t say they are my biggest influences, but both certainly have their place. We definitely get a lot of comparisons to them and I can understand that mostly with our first record. I like to think we have found our own sound, more so on this new record, than anything we’ve released previously.

Q2: “Heart of Oak” で初めて ANCIIENTS を聴いた時、完璧なバンドを見つけたと思ったんです。大好きな OPETH と MASTODON の完璧なフュージョンだったからです。この2つのバンドは、実際にあなたの人生の大きな部分を占めていたのですか?

【KENNY】: このグループを結成した当時、僕はちょうどこの2つのバンドを発見したところで、彼らがやっていることに本当にインスパイアされたんだ。両者とも素晴らしいバンドで、現代的な観点から見れば明らかにプログレッシブ・メタルのベンチマークだからね。
だから、この2つのバンドに一番影響を受けたとは言わないが、どちらも自分の中に大きな居場所があるのは確かだ。僕たちは間違いなく彼らと比較されることが多いし、僕たちの最初のレコードでそれが理解できた。でもこの新譜では、これまでにリリースしたどの作品よりも、自分たち自身のサウンドを見つけることができたと思う。

Q3: Why did you choose the band name Anciients in the first place? Indeed, your music and images have an ancient mythological and oriental feel to them, right?

【KENNY】: We had a very broad list of names that we had compiled and we shared that list with a bunch of our friends in a group chat. It was basically left up to a democratic choice amongst everyone. There were a lot of different things we could tie into this name as far as themes and aesthetics so in the end it felt like the clear winner.

Q3: そもそもなぜ ANCIIENTS というバンド名を選んだのですか?確かに、あなたたちの音楽とイメージは、古代神話的でオリエンタルな雰囲気がありますよね。

【KENNY】: 僕たちはとても幅広い名前のリストを持っていて、グループチャットで友人たちとそのリストを共有したんだよね。基本的には、みんなの民主的な選択に任されたんだ。テーマや美学に関して、この名前に結びつけることができるさまざまなものがたくさんあったので、最終的には、ANCIIENTS が明確な勝者だと感じたよ。

Q4: “Beyond the Reach of the Sun” is about enduring dark times, overcoming darkness, and capturing happiness and hope in a science fiction and Lovecraftian fantasy setting, right? Of course, it is a metaphor for the current darkness of pandemics, division, and war, isn’t it? Can humanity overcome these hardships?

【KENNY】: Unfortunately there will always be evil people in this world. The thought of a perfect society is nice, but chances are greed and entitlement will always be present.

Q4: “Beyond The Reach of The Sun” は、SFやラヴクラフト的なファンタジーの設定の中で、暗い時代に耐え、闇を乗り越え、幸福と希望を掴むことをテーマにしていますね?その闇とはもちろん、パンデミック、分断、戦争といった現在の闇のメタファーでもありますが、人類はこうした苦難を乗り越えることができるのでしょうか?

【KENNY】: 残念ながら、この世界には常に悪人が存在する。完璧な社会というのはいいものだが、世界には貪欲さと権力ばかりが常に存在する可能性があるのだ。

Q5: Speaking of fantasy, Japan is a mecca for fantasy-themed video games, anime, and music. Are you influenced by such Japanese culture?

【KENNY】: I spent a lot of time playing video games growing up as a child/teen. I haven’t delved to deep in to anime thus far in my life but certainly not opposed to the idea. I’ve got some studying to do but maybe the next record will be anime themed!

Q5: ファンタジーといえば、日本はファンタジーをテーマにしたゲームやアニメ、音楽のメッカです。そうした日本文化に影響を受けていますか?

【KENNY】: 幼少期や10代の頃は、ビデオゲームに多くの時間を費やしたよ。これまでの人生でアニメを深く掘り下げたことはないけれど、その考えに反対しているわけではない。少し勉強しなければならないけど、次のレコードはアニメをテーマにするかもしれないね!

Q6: Musically, the impression is of a more diverse soup of the time, with a strong influence of classic rock and prog from the 1970s, such as Deep Purple and King Crimson. In a way, we can feel the air of creativity and freedom of that era, would you agree?

【KENNY】: Yes! There was a lot of experimentation going on in those days, especially in the progressive rock genre. We pull from a wide variety of inspirations, King Crimson, Yes, Camel, Pink Floyd, and Alan parsons have had a great influence on our sound in one way or another. The older Judas Priest records, Thin Lizzy and of course Deep purple also had the same kind of thing going on but in more of the Hard rock genre.

Q6: 今回の作品は、音楽的には DEEP PURPLE や KING CRIMSON など、1970年代のクラシック・ロックやプログの影響が強く、より多様な “時代のスープ” を味あわせてくれます。ある意味、あの時代の創造性と自由な空気が強くなりましたよね?

【KENNY】: そうだよね!当時は、特にプログレッシブ・ロックのジャンルにおいて、多くの実験が行われていた。KING CRIMSON, YES, CAMEL, PINK FLOYD, Alan Persons Project は、何らかの形で僕らのサウンドに大きな影響を与えた。
同時に、JUDAS PRIEST の古いレコード、THIN LIZZY、そしてもちろん DEEP PURPLE も同じようなテイストを持っているが、よりハード・ロックのジャンルだよね。

Q7: Interestingly, there are times on this album that remind me of grunge, especially Alice In Chains. Their vocals, chord progressions, and chorus works are very unique, did you absorb some of their gloominess?

【KENNY】: Funny you noticed that! I have been going back and listening to a lot of Alice and Chains, Soundgarden and others from that time period again over the last few years. I was a huge fan of all of those bands when I was learning to play guitar and they’ve had a huge influence on me as a musician.

Q7: 興味深いことに、このアルバムにはグランジ、特に ALICE IN CHAINS を思わせるような場面が少なくありません。彼らのボーカル、コード進行、コーラスワークはとてもユニークですが、そうした陰鬱な感覚を吸収したのでしょうか?

【KENNY】: 面白いことに気づいたね!ここ数年、ALICE IN CHAINS, SOUNDGARDEN など、あの時代の曲を聴き直しているんだ。ギターを習っていた頃は、そうしたバンドの大ファンだったし、ミュージシャンとしての僕に大きな影響を与えてくれたからね。

Q8: This is an album that should be listened to completely through the piece from head to toe. With the advent of streaming and social networking, the music industry has moved to a completely instant and shallow culture, but in such a world, why do you still follow prog metal, epicness, and intelligence that defies the trend?

【KENNY】: First and foremost we make music that we like to listen to and makes us feel something to play. I think if one decides to create music or any art for that matter, to please other people, it kind of defeats the purpose. It starts as a personal thing that I genuinely like to do with my spare time. People (although their attention spans have become shortened) are smart enough to figure out if there is real emotion and purpose behind the songs, as opposed to whipping out some garbage in hopes to make some sort of capital gains from it.

Q8: このアルバムは、最初から最後まで完全に通して聴くべき作品でしょう。ストリーミングやSNSの登場により、音楽業界は完全にインスタントな文化へと移行しましたが、そのような世界でもなお、プログ・メタルや壮大さ、流行に逆らわない知性を追い求めるのはなぜですか?

【KENNY】: 何よりもまず、僕たちは自分たちが聴いて好きで、演奏していて何かを感じられるような音楽を作っている。音楽でも芸術でも、他人を喜ばせるために作ろうと思ったら、それは目的を失うことになると思う。
結局、僕らの求める音楽って、純粋に好きな音楽で余暇を過ごすのが好きだという個人的な理由から始まるからね。でもね、それでも人々は注意力のスパンが短くなったとはいえ、曲の背後に本当の感情や目的があるかどうかを見極めるのに十分賢いよ。これは、キャピタルゲインを期待してゴミを持ち出すのとは対照的な音楽だよ。

FIVE ALBUMS THAT CHANGED KENNY’S LIFE!!

Pink Floyd “The Wall”

Al Di Meola, John McLaughlin, Paco de Lucia “The Guitar Trio”

Judas Priest “Staind Class”

Alice in Chain “Dirt”

Metallica “Master of Puppets”

MESSAGE FOR JAPAN

Hey Japan! We would live so much to make it to your beautiful country one day to perform. Start the petition! Hehe!

やあ、日本!いつか君たちの美しい国に行って演奏できたら、本当に幸せだよ。嘆願書を出してほしいね!(笑)

KENNY COOK

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ANCIIENTS

SEASON OF MIST

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【MARCIN : DRAGON IN HARMONY】


COVER STORY : MARCIN “DRAGON IN HARMONY”

“The First Thing, Which Is Pretty Accessible For Any Guitarist, Is To Learn Tapping With Your Left Hand So That You’re Able To Produce Melodies And Basslines Very Clearly, Without Weird Overtones. It Frees Up Your Right Hand To Do a Bunch Of Fun Stuff.”

DRAGON IN HARMONY

フラメンコ、クラシックの世界から登場したギター・センセーション、Marcin Patrzalek は、デビュー・アルバムを世に放った時点ですでに何百万人ものファンが彼の才能に畏敬の念を抱いているという驚くべき存在です。そう彼は今、”エレキ・ギターの大物” たちから脚光を浴びながら、”アコースティック・ギターの未来” を披露しようとしているのです。
ポーランド生まれの24歳、Marcin はその若さにもかかわらず、すでに世界を股にかけて活躍し、アコースティック・ギターの新たな可能性を推し進めています。彼のデビュー・アルバム “Dragon In Harmony” は、クラシックで鍛えた左手とフラメンコをベースにしたストラミング、そして器用なパーカッシブ・テクニックが織り成す、ジャンルを融合させた妙技で大きな話題を呼んでいるのです。
17歳の誕生日を迎える前にポーランドとイタリアのTVタレントショーで勝利を収めた Marcin は、2019年に “America’s Got Talent” の準決勝に進出し、さらに多くの視聴者を獲得しました。数々のバイラルと成功を通じて、彼はすでに162万人のYouTube登録者を獲得しています。
LED ZEPPELIN の “Kashmir” のDADGADストンプ、ベートーベンの “月光” のロマンチックなメロディー、SYSTEM OF A DOWN の “Toxicity” におけるメタリックな激情。彼のカバー・ソングは2000万ビューを超え、同時にオリジナル曲も想像力をかきたてる魅力的な世界観を誇ります。
Marcin は、Tim Henson や Ichika といったモダン・ギター・シーンの “ビッグ・ボーイズ “たちがやっていることを見て、この楽器に対する人々の認識を再定義し、アコースティック・ギターがエレキ・ギターと同じくらいクールでありうることを証明したいと考えているのです。

「僕のゴールは、ミュージシャンやギタリストだけでなく、世界中にパーカッシブ・アコースティックが次の大きな流行になると示すこと。
これはメインストリームや一般大衆が注目するに値するもので、まだ多くの人が見たことも聞いたこともないものだからね。だから僕の曲は、”Snow Monkey” のように、ヒップホップ、ラテン、レゲトンの影響を受けた、よりメインストリーム向けのものなんだ。実験的な演奏と、メインストリームで親しみやすいものとの融合…。
アリアナ・グランデのようなサウンドになるとは言っていない。でもそれはギター界に欠けているものかもしれない。僕は実験的でニッチな音楽が大好きだけど、パーカッシブなギターは何にでも入れられるということをみんなに知ってほしい。こういった様々なサウンドやアプローチを使うことで、一般の人たちに、これが次の大きな流行になることを理解してもらえるはずだ!」
若手のギタリストはもちろんのこと、Steve Vai, Tom Morello, Jack Black といった大御所たちも皆、 Marcin のギタリズムには驚きを隠せません。2022年にギター・ワールドが彼を “同世代で最も才能あるギタリストのひとり” と称賛したのも決してフロックではないのです。
Marcin にとって、この数年は実にワイルドな日々でした。SNS のアカウントでファースト・ネームだけを名乗り、クラシック・ギターの頂に上り詰め、その世界では事実上他に類を見ないクロスオーバーの成功を収め、実写版 “One Piece” にも楽曲を提供。最近では “成功した” ことの最大のシンボルである彼自身のシグネチャー・ギターを手に入れました。

Marcin の特徴は、自分のギターを時にドラムセットのように扱いながら、叩いたり、ピッキングしたり、スクラッチしたりするアプローチでしょう。
このアプローチは、実際の音楽と同じかそれ以上に視覚的な派手さが重要視される現在の音楽業界の潮流において、Marcin を際立たせました。例えば、彼のSpotifyの月間リスナーは8万2000人弱ですが、YouTubeのチャンネル登録者数はその10倍近く、Instagramのフォロワー数は100万人を超えています。クラシック音楽界の多くを支配する伝統主義的な考え方を考えると、その成果は特に印象的。
「クラシック・ギターは、他の人、特に古い世代のクラシック音楽家を模倣することが多い。だから僕は、可能な限りワイルドなことをやりたかったし、それがこのスタイルに結実した」
そして Marcin は、そのスタイルをより多くの聴衆に伝える機会を十分に得ています。2年連続で、Jared Dines によるホリデーシーズン恒例のシュレッド・コラボレーションに参加し、Matt Heafy, Jason Richardson, Herman Li といったエレクトリックの巨匠たちとともにアコースティックでシュレッドを刻みました。また最近では、日本が誇る Ichika とのチームも注目を集めています。彼がこれまでに共演したギタリストの多彩さは、ギター界が今いかに健全であるかを物語っていると Marcin は誇ります。
「もはやポップスやロックが支配的な力ではなくなっているため、ギター・プレイヤーたちは “より折衷的で特異な” 演奏方法に引き寄せられている。そうしなければ、自分の居場所はないからね。
私はすべてを違うサウンドにしようとする、 たとえそれがインスタグラムの1分間の動画であってもね。
それが今の音楽のクールなところなんだ」

IbanezのMRC10は、20フレット全てに手が届くディープ・カッタウェイ、フィッシュマン・プリアンプ内蔵、そしておそらく最も重要なのは、Marcin 独特のパーカッシブなボディ・タッピング奏法を強化するためにデザインされた強化ウッド・プレートでしょう。
「ストラップを自分に巻けば、ギターを持ってステージを走り回ったり、飛び跳ねたりできるギターなんだ。このギターがあれば何でもできる。
僕はパーカッシブ・プレイヤーとしては、かなりユニークな立場だ。ソニー・ミュージックという大きなレーベルにいて、何百万人もの人が僕の名前をオンラインで知っている。だからこそ、自分ができることの全領域を見せたいんだ。このアルバムは、モダンなパーカッシブ・ギターがどのようなものであるかというヴィジョンと、今現在の自分の立ち位置を忠実に表現したものなんだ」
そんな Marcin のバックグラウンドは純粋にクラシック。10歳から勉強を始めたと彼は言います。
「ギターを手にしたのは10歳のとき。クラシック・ギターだったんだけど、この世界では、10歳というのは始めるにはちょっと遅いんだ。クラシックのヴァイオリン奏者を見ると、普通は4、5歳で始めている。僕がクラシックを始めたのは、父親が僕に何かやることを見つけてほしかったからなんだ。
音楽、特にメタルが好きだったのは10歳の頃。METALLICA はメタルで最初にハマる人が多い。父もロックが大好きで、僕に練習を始めさせたかったんだよね。
最初の先生は、大柄で風変わりな人だった。でも彼はとても率直で、とても協力的だった。彼は僕に完全なギターのヴィジョンを与えてくれたんだ。
練習が本当に楽しくて、普通は嫌がることだけど、そのおかげですぐに打ち込むことができた。正確な日付は覚えていないけど、父と先生から3ヶ月で最初のコンクールで優勝したと聞いた……初心者にしては超早いよね。10歳の大会だったんだけど、それからはすごくやる気が出たんだ。
それからの数年間は、僕にとって発展途上の日々だったが、徐々にクラシック音楽に、いや、他の人が何十年も何世紀も演奏してきたことをただ繰り返すことに、少し飽き始めた。クラシックのレパートリーでは定番中の定番で、学校の他の50人とまったく同じように弾くんだ。それで何が言いたいの?」

13歳のとき、”フラメンコのメッカ” バレンシアのフラメンコ教師兼大学教授、カルロス・ピナーニャにマンツーマンで指導を受けることになりました。
「ワークショップに参加したとき、先生は僕を見て “スカイプで教えてあげよう、少年” と言ったんだ。それは僕にとって大きな出来事だった」
そうして Marcin は5年間、家庭教師の指導を受け、その経験は彼の右手を大きく変え、その過程でクラシックとフラメンコ、2つの伝統的なスタイルを融合させることになったのです。
「クラシック・ギターはとても伝統的で、多くを語ることはできないが、その多くが音楽全般とギター演奏の基礎を形成している。フラメンコはそれほど厳密ではないけれど、それでも厳格なリズムやコンパス、ギターにおけるフラメンコ音楽とは何かという具体的な考え方がある。単なるアコースティック・ギターには制限がない。
アコースティック・ギターは焚き火を囲んで演奏することもできるし、誰も予想しないようなワイルドなこともできる。アコースティック・ギターに転向してからは、ネットで他のパーカッシブ・プレイヤーがやっていることを見たり、自分自身のクラシックやフラメンコのテクニックを取り入れたりして、自分の音楽をさらに進化させられると確信したんだ」
つまり、Marcin は伝統主義にはこだわっていません。Tommy Emmanuel との出会いによって、彼はパーカッシブな演奏の世界に足を踏み入れます。それは、何百年ものギターの歴史を否定することなく、アコースティックに現代的なエネルギーを注入するための、パズルの最後のピースとなったのです。
「Tommy Emmanuel はアコースティック・ギターの伝統的な道を歩まない人たちが世界にいることを教えてくれた。それはとてもニッチだった。でも、僕はアウトサイダーになりたかったんだ」

クラシックをコンテンポラリーに聴かせるための秘訣はあるのでしょうか?
「例えば、僕はメタルを聴いたときに、Djent のブレイクダウンを聴いてインスピレーションを受ける。それがすべて僕のアプローチに反映されているんだ。Paco De Lucia は僕の最大のアイドルの一人で、彼の音楽からはたくさんの激しいテクニックや信じられないようなことが聴き取れる。Tommy Emmanuel もその一人で、若い頃は毎日、時には1日に2本もビデオを見ていたね。とはいえ、誰かのモノマネをすることは決してなかったよ」
クラシックといえば、メタルの世界にも Yngwie Malmsteen のような “クラシック奏者” が存在します。
「僕の考えでは、すべてのジャンルは一緒に混ざり合うことができる。多くのメタルはクラシックやシンフォニック・ミュージックから引用している。Yngwie はパガニーニから多くのことを学び、それらを自然に組み合わせることができたからだ。メタルのテクニックや和声構造は、特にパガニーニを見ると、クラシックに非常に近いものがある。
また、ANIMALS AS LEADERS のようにジャズのアイデアを多く取り入れたバンドでも、和声的な類似点はたくさんある。それは、もし彼らがディストーションやよりヘヴィなドラム・ビートを使わなければ、もっと明白になるのかもしれないね。
それから、CHON のようなバンドもある。彼らはドラムとリズムを取り除けば、ジャズやクラシック音楽に近い。だから、どのステップを踏んで、どのように枝分かれしていくかがすべてなんだよね….」

その独特なパーカッシブ・スタイルのアコースティック・プレイを習得するための最初のステップはどんな方法が適しているのでしょうか?
「どんなギタリストでも簡単にできることだけど、まずは左手のタッピングを覚えて、変な倍音を出さずにメロディーやベースラインをはっきり出せるようにすることだね。そうすれば、右手を解放していろいろな楽しいことができるようになる。左手だけですべてを演奏できるようになれば、自由な右手で可能性は無限に広がるんだ。左手でアストゥリアス(イサーク・アルベニスの曲)のベースラインを弾いて、右手をどう使うかはプレイヤーの想像力次第だ。
左手は低音弦をちょっと叩いて、それを鳴らすだけでいいんだ。右手については、まず弾きやすい曲を見て、なぜそうなるのかを理解し、メトロノームを使ってゆっくり弾くようにした。
人は練習しているときにいつしかメトロノームのことを忘れてしまい、答えは明白なのになぜうまくいかないのかと疑問に思う。僕のフラメンコの先生は、メトロノームはトイレにまで持って行けと言っていたよ!」
Marcin のスタイルを習得するためには、マルチタスクが得意であるべきなのでしょうか?
「正直なところ、人間がマルチタスクをこなせるとは思っていない。僕たちの脳はそういう仕組みになっていないと思う。意識的に2つのことを同時にこなすことはできない。もし僕がギターを弾きながら君に話しかけられるとしたら、それは僕が長年かけて鍛え上げたマッスルメモリーを駆使しているだけで、僕はただ自分が話していることに集中し、ギターは筋肉が覚えているんだよね。
だから、普段は左手が何をしているかなんて、脳内のシナプスは少しも考えていない。僕が考えているのは右手のことで、右手はより複雑でエキサイティングなリズムを刻んでいる。
一方で、右手がキックドラムのパートを演奏しているだけなら、左手に集中する。それは脳のスペースを空けることであって、分割しようとすることではないんだ。音楽は全体であって、別々のレイヤーの束ではないからね」

ギターのボディからさまざまな音を出すためのコツはあるのでしょうか?
「多くの人はドラムセットのようにアプローチするけど、重要なのは右手のどの部分を使うかだ。手首でボディを叩けば、どこを叩いてもとても低い音が出る。それがキック・ドラムになるんだ。
一方で、人差し指と親指でボディをL字型に叩くと、ムチのような動きになって、キックと同じところを叩いても、スナッピーでタイトなスネアができるんだ。
また、ナットから先の弦を叩けば、キメのいいシンバルになるし、爪でギターのボディを引っ掻くこともできる。
大きな違いはギターの側面だ。ここで最も一般的なのは、リムをかすめてサウンドホールに向かう方法だ。これは非常にキレがいいし、音も大きい。作曲をしていると、ちょっとした隙間(のようなもの)が見えてくるから、そういうテクニックを使えばそれを埋めることができる」
では、ドラムキットの感覚どの程度忠実に守っているのでしょう?
「アレンジを始めるとき、実はドラム・キットのことは考えないんだ。だからライブではドラマーと一緒に演奏するし、アルバムではカホンやさまざまなサンプルとのレイヤリングを多用している。すべてをギター・パートで代用するのは傲慢だ。ドラマーとパーカッシブスタイルのアコースティックな演奏をすることを誰も止めないよ」
弦ではなく、ギターのボディにラスゲアード (複数の指を使って弦を掻き鳴らすフラメンコのテクニック) を使うこともあります。
「あれはフラメンコの直接の影響なんだけど、僕がよくやるからネットで自分のパロディをよく見かける!薬指、人差し指、親指、または薬指、中指、人差し指という動きで、スネアを叩くようにボディを叩くんだ。右手のストラミング・テクニックをパーカッシブな演奏に取り入れるのが好きなんだ」

ソロ・ギターでバンド演奏をカバーするには、必ず取捨選択が必要です。
「ソロ・ギターのためのアレンジを始めようと思っている人は、最初は原曲をミラーリングしてみるといい。異なるパートや楽器が何をやっているのかがわかるだろう。それはかなり直訳的なものになるだろうが、もちろん自分ひとりですべてをこなすことはできないので、いくつかの犠牲を強いられることになる。
でもね、そうやって曲をカバーするのは、しばらくすると、とても芸術的ではないことに気づいた。僕はまるでCDプレイヤーとして生きているようなものだった。
だからソロ・ギターの限界を克服するクールな方法を見つける必要がある。結局、曲を完璧に再現しようとするのをやめて、音楽に新しい命を吹き込もうとした。今は、何かをアレンジすると決めたら、特にすでによく知っている曲はあまり聴かない。カバーするときにオリジナルを尊重する必要はないと思う。
むしろ、カバーにおいても “オリジナリティ” が大事なんだ。同じ音楽を違う頭脳と心で演奏するのだから。だから、僕の “Cry Me A River” のカバーには、ブラジルのボサノヴァのセクションが全部入っているんだ。メロディーを上に持ってくるまでは、オリジナルとのつながりはない。実験するのは自由だ」
右手で指板の上をタップすることも少なくありません。
「実用的なんだ。僕の右手は特によく動く。流動性を保つために円を描くように動かすので、いつも自然に手が戻ってくるんだ。だから、両手でタッピングするのは実用的だし、スクラッチパッドも17フレットあたりから始まるんだ」
このスタイルでは、オープンチューニングを使用するプレイヤーが多いといわれています。
「僕もオープンチューニングが大好きなんだけど、今まで誰もやったことがないようなセミ・オープンチューニングを試しているんだ。これは “Classical Dragon” と “I Don’t Write About Girls” で使ったチューニングで、B5スタンダードと呼んでいるんだ。
低音3弦はB5コード(B F# B)、そして上弦はスタンダード(G B E)。上の弦はおなじみだからアドリブで自由に弾けるけど、そのあと低音弦は地獄のように肉厚で、Animals As Leaders のベース・サウンドだって作ることができるんだ」

“Classical Dragon” といえば、POLYPHIA の Tim Henson がゲスト参加して見事なプレイを披露しています。
「”Classical Dragon” は実はとても古い曲なんだ。2020年頃に書き始めたんだ。その頃の僕の目標は、フィンガースタイルの枠を飛び出して、エレクトリック・プレイヤーの真似をすることなく、彼らと手を組むことだった。僕の世界では誰もそういうことに挑戦していなかった。Tim はインスタグラムで僕をフォローし始めてくれたから、僕は “よし、どうやって彼を曲に誘おうか?” と思って、彼を意識して書いたんだ。
POLYPHIA のトラップっぽいハイハットが多かった。Tim にこの曲についてメッセージを送ったんだ。彼はすぐに返事をくれて、”これは素晴らしい、一緒に何かやろう!”って言ってくれたよ。
彼が送ってくれたパートは素晴らしかった。彼がこれまでやってきたこととはまったく違っていて、それに触発されて、より Marcin らしい曲にしようと思ったんだ。その後、何度も作り直したよ。彼がやっていることには本当に畏敬の念を抱いているので、彼がこの曲に参加してくれたことは信じられない経験だった」
この曲ではタッピングを多用しています。
「成長した複雑なアプローチなんだ。クラシックの曲は特に、ハーモニーという点ではかなり肉付けされたものになる。だから僕のタッピングは典型的な意味でのアルペジオではなく、コードの輪郭を描くのが普通でね。通常、ステップを踏んだり降りたりはしない。開放弦もたくさん使うよ。
左手でタッピングしながら、右手の指を1本か2本使えば、残りの指で開放弦を弾くことができる。突然、たくさんの音が鳴り響くハープのような構造を作ることができる。
パガニーニのカプリス24番を演奏したときに、よりゆっくりした、より開放的な変奏があるのがわかるだろう。基本的に、僕はこれらの下降音階を演奏しようとしたけど、できるだけ多くの音が鳴り響くように演奏したんだ。レガートでバタバタと弾くような感じがいいんだ。僕はこれをやるのが大好きでね」

両手タップに最も影響を与えたプレイヤーは誰なのでしょう?
「Michael Hedges について、ギターを始めた当初は知らなかったけど、このスタイルをやっている人はみんな彼を知っている。彼はこのスタイルのOGだ。80年代から90年代にかけて、彼は本質的に今起こっていることの青写真を作ったし、それは今でも発展し続けている。彼は悲劇的な早すぎる死を遂げたよね…
僕は彼から直接何かを学んだわけではないけど、間接的に大きな影響を受けた。そして、僕のアレンジをカバーしたり、僕のスタイルで演奏する人は、間接的に彼に影響を受けていることになる。彼のテクニックは誰をも超越しているし、まだ多くの人が彼のことをよく知らないから、彼のことに触れておきたかったんだ。
Mike Dawes も尊敬するプレーヤーの一人だ。僕が15歳のとき、彼はアレンジメントで爆発的に売れ始めていて、僕のスタイルに大きな影響を与えた。彼は今では私の友人で、インスタグラムで連絡を取り合っている。会えそうな機会もあったんだけど、Covidがそれを完全にぶち壊してしまった。彼は素晴らしい人だし、彼と知り合えて幸せだよ。
Jon Gomm も素晴らしい人だし、ミュージシャンでもある。彼は僕のスタイルに大きな影響を与えたわけではないし、また、彼はシンガーでもあり、それは素晴らしいことだが、僕自身は歌いたいという願望はないにしてもね。そうした人たちすべてがなんらかの影響を与えてくれた。だから僕は、メタルからフラメンコ、ヒップホップまで、どんなものでもアレンジに取り入れるよ」
パーカッシブな演奏にギターの種類は関係あるのでしょうか?
「でも、どんなアコースティック・ギターでもパーカッシブな演奏はできるよ。優れたパーカッシブ奏者なら、テイラー・スウィフトのギターでも僕のギターでも同じように演奏できる。
DIYで変えられるのは、弾き心地の良さだ。タッピング、特にゴースト・タップは音が大きくなるのでよくやるんだけど、ロー・アクションが絶対的な鍵になると思う。ロー・アクションだと鳴りが少ないから、きれいに弾きやすいんだ。
スクラッチパッドは最もわかりやすい付加物で、僕のIbanezのシグネチャーモデル MRC10 には非常に特別なもの(オイルフィニッシュされた無垢のシトカ・スプルース製)が使われている。ボディにスクラッチすることもできる」

ライブでギターを叩きすぎて、手が痛くなることはないのでしょうか?
「何かが当たってその場にとどまると、衝撃が長引くよ。でも、ちょっと叩いて手を離すだけなら、振動が発生するだけで、自分自身やギターを傷つけることはない。例えば、建物は常に振動している。日本はそうやって地震に耐えているんだ。
唯一の問題は、キック・ドラムを手首で叩くときで、振動が同じになるのが嫌だから、ギターのボディに少し長く置いたままにするんだ。ギターを傷める可能性があるけど、ブレーシングを補強するプレートを追加することができる」
Steve Vai も Marcin の才能を見出したひとりです。
「彼はギター界の光だ。彼は励ましてくれた…とても直接的に、徹底的にね。彼はとても明晰で、自分の意見やアドバイスをくれる。最近、彼は僕のLA公演にやってきて、バックステージで1時間も話をしたんだ。彼は僕が成功して、最高の自分になることを望んでいるんだ」
パーカッシブ・アコースティックを次の大きな流行にしたいと、Marcin は望んでいます。
「ここ2、3年で目にしたのは、フラメンコのパーカッシブをやっている人たちのカバーやアレンジのレベルが一気に上がったということだ。”Classical Dragon” が出てから、3日後にはネットでカヴァーがアップされるようになった。
だから今、このスタイルの聖火は多くの人に受け継がれつつある。クラシカル・フラメンコ的なパーカッシブな奏法が存在することを集団で理解するようになった。これはギミックではなく、ギターの世界を純粋にレベルアップさせるものなんだ」
若き天才は、さらに若い次の世代にどんなアドバイスを贈るのでしょうか?
「ピッキングがとても正確なプレーヤーがいる。僕はその一人だとは言えないし、下手なわけでもない。僕のスタイルでは、フレットを叩く手が常に支配的なんだ。どのプレイヤーも自分の長所を見極めるべきだし、みんなユニークな才能を持っている。
だから、できる限りそれを伸ばして、自分の音に磨きをかけることが重要なんだ。僕は世界最速のピッカーになりたいとは思っていない。
だからまず、好きな人全員のすべてを真似をしたり、すべてのテクニックを求めるのではなく、全ての基本をしっかりと身につけること。それは当たり前のことで、その上で、どれが自分のスタイルに響くかを見極めるんだ」


参考文献: GUITAR WORLD :“Classical-flamenco percussive playing is not a gimmick – it’s a level-up of the guitar world”: Steve Vai mentored him, Tim Henson lent him his talents, and now he’s invented his own “semi-open” tuning – Marcin is on a mission to redefine acoustic guitar

GUITAR WORLD :“Classical guitar is often about emulating other people, especially older generations – so I just wanted to do the wildest thing possible”: Marcin Patrzalek is reinventing the nylon-string for a new generation – and going viral while he’s at it

GUITAR WORLD :Marcin Patrzalek: “My goal is to show the world that percussive acoustic guitar should be the next big thing”

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SCARCITY : THE PROMISE OF RAIN】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BRENDON RANDALL-MYERS OF SCARCITY !!

“NYC Is Also Objectively a Hard Place To Live – It’s Expensive, It’s Cramped, And The Infrastructure Is Constantly On The Verge Of Breaking – So The People That Stay Here Are Very Driven And a Little Crazy. I Think That Discomfort And Difficulty Also Feed Into The Sound And Ethos Of a Lot Of NYC Bands.”

DISC REVIEW “THE PROMISE OF RAIN”

「ニューヨークは客観的に見ても住みにくい場所だ。物価は高いし、窮屈だし、インフラは常に壊れかけている。だから、それでもここに滞在する人たちはとても意欲的で、少しクレイジー。その不快感や困難さが、多くのニューヨークのバンドのサウンドやエトスにも影響していると思う」
ニューヨークが現代の “アヴァンギャルド” なメタルにとって聖地であり、産地であることは語るまでもないでしょう。KRALLICE, IMPERIAL TRIUMPHANT, DYSRHYTHMIA. そして PYRRHON。ブラックメタルやデスメタルといった “エクストリーム・ミュージック” における実験を推し進め、アートの域まで昇華する彼らの試みは、明らかにNYCという “土壌” が育んでいます。
港湾を有し、人種の坩堝といわれる NYC。多様な人種が集まれば、そこには多様な文化の花が咲き、未知なる経験を胸いっぱいに摂取したアーティストたちの野心的な交配が活性化されていきます。物価の高騰や人口の密集、インフラの老朽化。NYC は必ずしも住みやすい場所ではありません。それでも彼の地に居を構え、アートに生を捧げる人が後をたたないのは、そうした “土壌” の肥沃さに理由があるのでしょう。
「正直なところ、僕らはみんなニューヨークのシーンで長い付き合いなんだ。Doug とは大学時代からの付き合いで、PYRRHON の最初のフル・アルバムからのファンなんだ。彼とは2016年の時点から一緒にプロジェクトをやろうという話をしていて、最終的に2020年に “Aveilut” になるもののMIDIデモを送ったら、彼が歌ってくれることになったんだ。
そんな NYC で、メタルとアヴァンギャルドの完璧なハイブリッドとして登場したのが SCARCITY です。マルチ奏者 Brendon Randall-Myers の落胤として始まった “希少性” の名を持つプロジェクトは、 NYC の同士 PYRRHON の Doug Moore の力を得て産み落とされました。デビュー作にして “Aveilut” “追悼” と名づけられたそのレコードは、パンデミックの発生による人と世界の死に対する “悲嘆の儀式” として、あまりにも孤独なマイクロトーナル・ブラックメタルとして異端の極北を提示したのです。
「僕たちは明らかに伝統的なブラック・メタル・バンドになろうとしているわけではない。でも、このジャンルには大好きなものがたくさんあるし、ブラック・メタルはこのバンドがやっていることの根底にあり続けると思う」
そうして到達したセカンド・アルバム “The Promise of Rain” で彼らは、さらに NYC の風景を色濃く反映しました。KRALLICE や SIGUR ROS, Steve Reich のメンバーが加わり、メタルとアヴァンギャルド、そしてノイズの融合に温かみと人間性を施したアルバムは、あまりにも雄弁で示唆に富んだブラックメタルの寓話。
ユタ州の砂漠を旅しながら恵みの雨を待った経験をもとに作られたコンセプトは、前作の悲しみから人生へとそのテーマを移し、困難に直面する人々や困難な地域における苦闘を、トレモロの噴火から火災報知器、ドローンにDJを駆使して描いていきます。たしかに、迷路のようですべてがポジティブな作品ではありません。それでも、少なくともこの作品は孤独でも引きこもりでもありません。われわれのいない世界から、SCARCITY はわれわれを含む世界へと戻ってきたのですから。
今回弊誌では、Brendon Randall-Myers にインタビューを行うことができました。「ゲームでは、コナミやフロム・ソフトウェアのゲームが大好きで、任天堂やスクウェア、スクウェア・エニックスの名作もたくさんやっているよ。最近 FFVII:Rebirth を終えて、今はエルデンリングのDLCをプレイしているんだ。
アニメは、あまり最新ではないけど、AKIRA やエヴァンゲリオン、攻殻機動隊、カウボーイビバップなどの名作を高校生の時に観ていて、最近ではデスノート、鋼の錬金術師、約束のネバーランド、進撃の巨人、風が強く吹いている、呪術廻戦などを観ているね。
バンドでは、G.I.S.M.、Gauze、Envy、Melt Banana、Boris、Boredoms、Ruins が好きだよ。読んで、聞いてくれてありがとうね!」どうぞ!!

SCARCITY “THE PROMISE OF RAIN” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【IN SEARCH OF SUN : LEMON AMIGOS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ADAM LEADER OF IN SEARCH OF SUN !!

“I Think The Whole ‘Angry Looking Metal Band’ Is Getting a Bit Stale In General.”

DISC REVIEW “LEMON AMIGOS”

「”怒っているように見えるメタル・バンド” というのは、一般的に少し古臭くなってきていると思う。”Virgin Funk Mother” は間違いなく、自分たちの個性を探求し、殻を破り始めたアルバムだ。典型的なメタルではないアイデアを持ち込むことを恐れなくなった」
かつて、ヘヴィ・メタルといえば、そのイメージの中心に “怒り” が必ずありました。それは、隣の家のババアが凍るくらい寒いスイスの冬に向けられた怒りかもしれませんし、親のクドクドしたお説教に突きつける “Fuckin’ Hostile” かもしれませんし、ド悪政に対して売りつける喧嘩歌舞伎なのかもしれません。もちろん、そうやって怒りを吐き出すことで、アンガーマネージメントを行い、心の平穏を保つこともできました。つまり、メタルの中にはネガティブな怒りと、ポジティブな怒りが常に同居していたのです。
しかし、多様なモダン・メタルの開花とともに、メタル=怒りという単純な方程式は崩れつつあります。喪失や痛みを陰鬱なメタルで表現するバンドもあれば、希望や回復力を光のメタルで提示するバンドもいます。
そして、BULLET FOR MY VALENTINE, FUNERAL FOR A FRIEND, TWELVE FOOT NINJA といった大御所ともステージを共にしてきたロンドンの新たな才能 IN SEARCH OF SUN は、明らかに “高揚感” をそのメタルの主軸に据えています。典型という概念さえ時代遅れとなりつつある今、人生にもメタルにも、愛、幸福、悲しみ、怒りといったあらゆる感情が内包されてしかるべきなのかもしれませんね。
「本当に単純なことなんだけど、僕らはいろんな音楽が大好きで、みんなグルーヴに夢中なんだ!それがいつも僕らの曲作りに現れていて、それが僕らの音楽にファンキーな雰囲気を加えているんだと思う。グルーヴがなければ、音楽はただのノイズだからね!」
パッション・イエローの背景に、輪切りの悪魔的レモン。そのアートワークを見れば、IN SEARCH OF SUN がメタルの典型を一切気にしていないことが伝わります。もちろん、悪魔こそここにいますが、ではトヨタのロゴマークを悪魔に模した車すべてが真性の悪魔崇拝者なのでしょうか?むしろ、ここには甘酸っぱいエモンの果汁や、ちょっとしたユーモア、そして踊り出したくなるような楽しい高揚感で満たされています。
もしかすると、例えば、最強の魔法ゾルトラークがほんの10年ちょっとで誰にでも使える一般攻撃魔法になってしまったように、メタルの怒りや過激さ、凶悪な音、そんなヘヴィのイタチごっこにも限界があるのかもしれません。だからこそ、グルーヴがなければ音楽なんてただのノイズだと言い切る彼らの、冒険を恐れない多様性、典型を天啓としない奔放さ、そして何より、メインストリームにさえ挑戦可能な豊かで高揚感のあるリズムとメロディの輝きは、メタルの未来を託したくなるほどに雄弁です。
今回弊誌では、Adam Leader にインタビューを行うことができました。「ファースト・アルバムの中に “In Search Of Sun” という曲があるんだけど、この曲は内なる葛藤と、自分が一番愛しているものを掴みに行くための世界との戦いについて歌ったものなんだ。この曲は、決意と自分自身を決してあきらめないことについて歌っている。僕たち全員がそのような姿勢を共有しているから、自分たちを真に定義するような名前に変えるのは正しいことだと思ったんだ」 PANTERA や Djent, BON JOVI とMJと、UKポップス、UKガレージ、ダンス・ミュージックが出会う刻。どうぞ!!

IN SEARCH OF SUN “LEMON AMIGOS” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【KINGCROW : HOPIUM】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DIEGO CAFOLLA OF KINGCROW !!

“I Think Kintsugi Is Really a Great Metaphor About Dealing With Traumas And Overcoming Them And Even Celebrate Them Since They Are Part Of Our Growth Process.”

DISC REVIEW “HOPIUM”

「金継ぎは素晴らしいアイデアだと思ったんだ。自身のトラウマ、傷と向き合い、それを克服し、さらには成長過程の一部でもあるその傷を祝福できるようになる。金継ぎは、その歌詞の実に素晴らしい比喩だと思ったね。また、金継ぎのコンセプトはアートワークにも使用し、アルバムのビジュアル表現にも全面的に取り入れているよ。なぜなら、その魅力的な哲学をおいても、素晴らしく美しい芸術形態だから」
欠けたり割れたりした器を、漆を使って修復する日本の伝統的な技法、金継ぎ。もう二度と戻らない致命的な “傷” を優しくつなぎ合わせ、美しい金でコーティングすることでその傷を唯一無二の前向きな個性とする金継ぎはもはや、修理を超えてアートの域に達しています。
イタリアの伊達プログ KINGCROW は、その技法と哲学、アイデアに魅せられ、”Kintsugi” を自らの血肉へと昇華させました。ネットの普及により致命的な心の “傷”を負いやすい時代に、彼らは金継ぎを人間そのものに例えます。 つなげない傷なんてない。トラウマを克服し、いつかはその傷を個性とし、その傷ごと優しく抱きしめられる日がやってくる。彼らの “Kintsugi” はそんな美しい希望の歌になったのです。
「答えを提示するのではなく、自分の考えや視点を説くのでもなく、さまざまなトピックについてリスナーに考えさせ、自分なりの答えを見つけさせようとしている。だから、君が指摘したように、”Hopium” のアイデアのひとつも、盲目的に従うのではなく、疑問を持つことなんだ。そう、フェイクニュースや誤った情報が氾濫する時代には、物事に対して疑問を持つことがこれまで以上に重要なんだよ」
“Kintsugi” を収録した KINGCROW の最新作、そのタイトルは “Hopium”。”Hope” “希望” と “Opium” “麻薬” を掛け合わせたアメリカの新たなスラングには、幻想的な甘い希望の意味が込められています。ネットのエコーチェンバー、バブルの中に閉ざされて自身を絶対的な正義だと思い込み、異なる意見、異なる存在を悪と断じる狂気の世界で、彼らはただ、”疑問” を持って欲しいと願います。差別や分断を煽るフェイクニュースやプロパガンダをまずは、少しでも疑うこと。KINGCROW は、そう投げかけることで、一度傷つき “割れて” しまった人類の絆を取り戻し、より美しく、再びつなぎあわせたいのです。
「PAIN OF SALVATION の “マジック” の中核には、とても感情的な創造性があると思うし、それは僕たちも同じだと思いたい。クールなものを作るために、曲のエモーショナルなメッセージを犠牲にすることは絶対にないからね。僕たちはただ、感情を揺さぶる音楽を、興味深い美学とさまざまなレイヤーで表現しようとするだけだ」
KINGCROW がつなぎ合わせるのは、人だけではありません。プログ以外にも、メタル、オルタナティヴ、エレクトロニカといった珠玉のジャンルを黄金の光沢でつなぎあわせ、唯一無二の美しき個性とする彼らの音楽こそ、まさに金継ぎ。感情を決して置き忘れず、極限まで洗練された楽曲には必ず、ハッと息を呑むような、魂を揺さぶられる瞬間が用意されていて、リスナーは大鴉のマジックにただ酔しれます。アルバムには、奇しくも現在 PAIN OF SALVATION で鍵盤をつとめる Vikram Shankar がゲスト参加していますが、もしかすると彼らこそが “魂の救済” を謳った最も “エモーショナル” なプログ・メタルバンドの後継者なのかもしれませんね。
今回弊誌ではギタリスト、キーボーディストでメイン・コンポーザーの Diego Cafolla にインタビューを行うことができました。「バンド名を探していたとき、実はちょうどエドガー・アラン・ポーの詩集を読んでいて、”大鴉” にはいつも心を奪われるものがあったんだ。会話のすべてが主人公の心の中で起こっているという事実は、本当に魅力的なアイデアだ。
僕にとっては、外界といかにかかわるかで、自分の現実だけがそこにあると思い込んでしまうことを象徴していた。だから結局、KINGCROW という名前になったんだ」 もはや、LEPROUS, HAKEN, CALIGULA’S HORSE と並んでモダン・プログ・メタル四天王の風格。どうぞ!!

KINGCROW “HOPIUM” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【NILE : THE UNDERWORLD AWAITS US ALL】 JAPAN TOUR 24′


COVER STORY : NILE “THE UNDERWORLD AWAITS US ALL”

“Nile Is Unconcerned With Delusions Of Functioning As an Ethnomusicological Museum Conservatory”

THE UNDERWORLD AWAITS US ALL

その名の通り、NILE はあの悠久の流れのごとく決して静止することはありません。10枚目のアルバム “The Underworld Awaits Us All” は、バンドにとってまた新たな王朝の幕開けとなりました。NILE のディスコグラフィにおけるこれまでの9作と同様、このアルバムもまた兄弟作とは一線を画すユニークな作品となっています。実際、唯一神 Karl Sanders 率いる砂漠の軍団は、アルバムごとに新たな王朝を開いていて、その芸術的刷新の傾向はこのアルバムでも続いています。太陽が昇るように規則正しく、バンドは再び前作から学んだことを取り入れ、その苦労して得た経験を頑丈な土台に注ぎ込み、ピラミッドの改築と再構築に役立てているのです。
「”Amongst the Catacombs of Nephren-Ka” と “Black Seeds of Vengeance” 以来、私たちが作ったアルバムはどれも、”他の NILE のアルバムに似ている “とか、”あのアルバムのようなサウンドにしたかったのか? “とか、好きなレコードのどれかに似ていると言う人がいることに気づいたが、私はシンプルに “メタルを作ることに集中する” ことを好む。人々が愛着を抱くような過去のアルバムを作ったことで、最終的に “やると呪われる、やらないと呪われる” 状況が生まれるのなら、我々は “呪われる” を選ぶんだ」
とはいえ、その新鮮さにもかかわらず “The Underworld Awaits Us All” は紛れもなく NILE のアルバムであり、すぐにそれとわかるバンドの特徴が焼き付けられています。好奇心をそそるエジプト学と古代史、練り込まれたオリエンタルなリフ、燃えるようなテンポと骨の折れるようなスローダウン。これは1994年に NILE がデビュー・デモをリリースして以来、創意工夫を重ねてきたデスメタルの異形であり偉業です。
そして30年後の今、私たちは “Chapter For Not Being Hunged Upside Down On A Stake In The Underworld And Made To Eat Feces By The Four Apes” “冥界の杭の上で逆さまに吊るされ、四匹の猿に糞を食べさせられることのないように” という信じられないようなタイトルの曲を食べさせられることになりました。決してその場しのぎではない、タイトルから曲調に至るまで、デスメタルを愛する人々のためのデスメタル。
新たな血の注入を受けた “Four Apes “は、NILE が今でもレッドラインを越えてなおアクセルを吹かせられることを証明しているのです。ドラマーのファラオ、George Kollias の音の壁を破るようなパフォーマンスだけでも YouTubeは大賑わいでしょう。ある意味、人間離れしたスピードとレーザーガイドのような正確さが組み合わさったこの曲は、過去にバンドが好んだテクニカルなワークアウトを進化させています。NILE のDNAは、そのカタログの総和。
ゆえに、”Four Apes” は2015年の “What Should Not Be Unearthed” のような楽しさがあり、2019年の “Vile Nilotic Rites” のようなダイナミックできらびやかな鋼鉄のサウンドデザインも完備しています。それでも、NILE に刻まれた DNA のもう1つ、改革に執着する部分も存分に発揮されています。

その改革と再生へのこだわりは、”The Underworld Awaits Us All” に深く入り込めば入り込むほど明確になっていきます。”Doctrine Of Last Things” は、NILE の真髄であるスローモーなリフをピラミッドのように積み重ね、盛り上げていきます。テクニカル・ドゥームを愛する多くのリスナーが、なぜこのバンドをマイルストーンとして挙げるのか。Sanders とその仲間たちがもたらす、脂ぎった、悪臭を放つグロテスクな音像はしかし、川の急流のように決して淀まず、静止せず、前へ前へと流れていくのです。
「我々は歴史保存協会ではない。どの曲もアイデアを見つけるのにかなりの時間を費やし、そしてそのアイデアを新しい場所に持っていく。リサーチするだけでは十分ではない。私たちに言いたいことがあることも重要だと思う。これまでのレコードを振り返ってみると、私たちがただ歴史を語っているのではないことがわかる。これは歴史小説だ。歴史小説という媒体を通して、私たち自身の視点や考えを伝えているのだよ」
アメリカを拠点とする NILE は今回も、エジプト学のダークなエッセンスを再びより集めました。エジプト地域の残忍でしかし神秘的な歴史に、これほど適切なサウンドトラックを提供したアーティストはこれまでいないでしょう。しかし Sanders は NILE の音楽が、まず文化の保存ありきではないと主張します。
「NILE は、民族音楽博物館としての機能には無頓着だ。我々は、何よりもまずメタル・バンドである。だから、民族音楽学上の食人族に近いかもしれない。我々のギター・リフの基礎となっている東洋的な様式や調性は、すべてのメタル・リフの遺産とも共通していて、その性質上、多様なアイデアの交配と再利用を推し進めているんだ。それは古代の文化を守ることとは正反対だ。私たちはそうしたアイデアを取り入れて新たなメタルを “作って” いるのだから」
NILE は、ただの文化的なトリビュート・バンドとみなされることへの挑戦を続けると同時に、30年の間に冥界を震撼させるような作品を次々と発表してきたことで、自分たちに課したプレッシャーも克服しているのです。だからこそ、過去のアルバムとは一線を画す部分があります。
「これはストレートな NILE のアルバムだ。東洋の影響を受けたトーンや様式美はまだそこにあるが、このアルバムの直感的な焦点は、メタルの純粋で野蛮な本質にある。私は最近、無意味にオーケストレーションされ、過剰にプロデュースされたレコードの数々を聴いてうんざりしていたので、このアルバムを書いている間、キーボードを下ろしてクローゼットの中にしまい込んだのさ」

Sanders はこの作品でデスメタルの意味を再発見しました。
「デスメタルのレコードは、まず殴打し、次に楽しませるものだと思う。思慮深く、より複雑でスローなものを最初にレコードの前面に出すと、人々は “ああ、これはブルータルじゃない。邪悪さが足りない。あいつらどうしたんだ?” ってなるからね。
それを、”Ithyphallic” で気づいたんだ。”Ithyphallic” の1曲目、”What May Be Safely Written” は、ビッグで長くて壮大な野獣のような曲だけど、必ずしも即効性のある曲ではない。かけてすぐにバーンという感じではない。奇妙で、クトゥルフ的で、クトニックなスタートだった。あの曲に対するリアクションが、このレコードをどうするか、決定づけたんだ。ハードでツボを押さえた曲を前面に出さなかったせいで、迷子になってしまった人もいると思う。教訓を得たよ。まずは頭を殴って、それから別の場所に連れて行こう」
デスメタルに音楽理論は必要なのでしょうか?
「でも、ギターというのは本来、自分が何をやっているのかわからなくてもいいものだと思う。CELTIC FROST のフロントマンである Tom G. Warrior は、ギターで何をやっているのかさっぱりわかっていないが、信じられないような音楽を作っている!
私が知っているデスメタルを演奏している人たちの中には、自分が何を演奏しているのかまったくわからないのに、音楽を作っている人たちがいる。では、理論は必要なのか?いいえ」
しかし、Sanders 自身は音楽をもっと深く掘り下げているように思えます。
「私はいろんなタイプの音楽を聴く。それは NILE の音楽にも表れていると思う。CANNIBAL CORPSE と SUFFOCATION しか聴かない人、とは思えないよね。NILE を聴くと、他のものもたくさん聴こえてくる。でも、それは必ずしもデスメタルにとって必要なものではない。
つまり、デスメタルばかり聴いていれば、デスメタルをうまく演奏できるようになると思うよ。実際、そういう人はたくさんいるけど、私はたまたまいろんなものが好きなだけなんだ。
影響を受けたものが1つだけだと、音楽的には満足できない。世の中には宇宙みたいに広い音楽の海があって、楽しめるものがたくさんある。実際、クソほどたくさんの音楽があり、クソほどたくさんのギターがある。学べば学ぶほど、自分が何も知らないことを知ることになる!」

A面、B面というロスト・テクノロジーもこの作品で再び発掘されました。
「レコードのシーケンスは、デジタルの時代になって失われた芸術だと思う。70年代には、アイズレー・ブラザーズのレコードがあった。A面はパーティーのレコードで、B面までに誰かとイチャイチャしていなければ、大失敗だ。
10代の頃、友達の家に集まってレコードをかけて、ハイになって、しばらくアルバムのジャケットを見つめていたね。A面とB面の曲順は本当に重要だった」
実際、NILE はエジプトの歴史を紐解くだけでなく、ロックやメタルの歴史をも紐解いているのです。
「ブルータルなリズム・パートから別のリズム・パートへと移行し、フィーリングを変化させたり、フックの到来を予感させたりするようなパッセージ。それは、エレクトリック・ギターの先駆者たちにさかのぼる。ブルースやジャズのコード進行、モチーフ、ターンアラウンドからね。それらははすべて、CREAM やEric Clapton, 初期の Jeff Beck といった初期のものを研究した結果なんだ。Jeff Beck! なんてすごいギタリストなんだ!
レノンとマッカートニーの作品を研究するだけでも、学べることはたくさんある!たとえ君がテクデスを演奏していたとしても、何であれ、ソングライティングはクソ重要だ。音楽的な要素をどのように取り入れ、それらを使って音楽的なストーリーを語るかを知ることは、ただ空から降ってくるようなものではない。
そのためには多くの技術が必要で、巨匠たちの作品を研究することが重要だ」
“The Underworld Awaits Us All” におけるバンドのヴィジョンは、そうしたロックの生々しく奔放で野蛮さのある作曲をすることでした。
「過去の NILE のアルバムでは、確かにエキゾチックな楽器をふんだんに取り入れた。バグラマ・サズやグリセンタール、トルコのリュート、古代エジプトのアヌビス・シストラムに銅鑼、様々なパーカッションなど、自分たちの手で演奏するアコースティックな楽器もあれば、キーボード、ギター・シンセ、映画音楽のライブラリもあった。すべてが混ざり合って、静かに脳を爆発させる音楽。
それはそれでとても楽しいよ。弦楽器では、ギターのテクニックをクロスオーバーさせることもある。バグラマやグリセンタを手にしたときでも、私がメタル奏者であることに変わりはない。やっぱり自分なんだ。つまり、魔法のようにマハラジャに変身したりはしない。私はメタル・パーソンだからな。
でもね、今回は曲の進展が進むにつれ、合唱パートをキーボードで考えるのではなく、本物のヴォーカリストにやってもらおうと思ったんだ。高校時代の友人が地元のゴスペル・クワイアで活動していて、4人のゴスペル・シンガーを紹介してくれた。ゴスペル・シンガーたちとのレコーディング・セッションは、とても素晴らしいものだった。彼らは私たちが誰なのかも、デスメタルというものが一体何なのかも知らなかった。しかし、レコーディング・セッションが進むにつれて、彼らはブルータルなグルーヴとの天性の関係をすぐに見出し、あっという間にヘッドバンギングをしていたよ」

Sanders がたどり着いたリフの極地。それは、シンプルであること。
「初期の CELTIC FROST の大ファンなんだ。シンプルな曲で、シンプルなギター・パートなのに、信じられないほどヘヴィなんだ。
リフやアイデアがシンプルであればあるほど、より直接的な結びつきが生まれ、その重みを感じることができる。重さ、破滅、それはとてもとらえどころのないものだ。あまりトリッキーになりすぎると、破滅の感覚をすぐに失ってしまう。それは儚いものだ。鹿のように逃げてしまう!
そう、シンプルなリフが重要なんだ。この NILE の新譜では、すべての新しいクレイジーさに混じって、スローなリフがたくさんある。
それに、シンプルであること自体が美しいこともある。ある曲のヴァージョンがあるんだけど、ちょっと待って、思い出そうとしているんだけど、古いルー・リードの曲で、”Sweet Jane” という曲なんだけど、15年前に誰かがそれを発表したんだ。シンプルなアコースティック・ギターで、アンビエンスがたくさんで、ボーカルが1レイヤー入っていて、他には何もないんだけど、今まで聴いた中で一番美しくて、心を揺さぶられるような曲だった」
アコースティックな楽器の演奏を覚えるのは、メタル・パーソンの嗜みだと Sanders は考えています。
「よく自問自答するんだけど、現代にはエレクトリック・ギターや大きなドラム・キット、エレクトリック・ベースがある。5,000年前の人々は、邪悪でクソみたいなことをやりたいとき、どうしていたのだろう?ってね。エレキギターはなかった。持っているもので何とかするしかなかった。
逆に、もし人類が滅亡してしまったら……黙示録がやってきたら、私はどうやって生きていけばいいんだろう?電気がなくなったら、どうやってエレキギターを弾けばいいんだ?だから、アコースティック・ギターを弾けるようになった方がいい。4,000年前にはアコースティック楽器しかなかったわけだから」

もうひとりのギタリスト、Brian Kingsland とのコンビネーションも熟成されてきました。
「Brian がギタリストとしてやっていることの新鮮さがとても好きだ。彼は、必ずしもメタル的なアイディアではないけれども、それをメタル的な文脈の中で演奏している。例えば、彼はピックと3本の指で複雑なアルペジオ・シークエンスを演奏するんだけど、それは必ずしもメタルの文脈では見られないものなんだ。
例えば、ふたりでマイナーセブンスフラットファイブ(m7b5)のアルペジオを弾いても、彼はピックだけじゃなくて指も使っているから、ヴォイシングが全部変わっていく。
彼が簡単そうに聴かせるから、聴いているとすべてがスムーズで簡単に聴こえるが、実際にやっていることはとても新鮮だ。このアルバムで彼が書いた曲のコード・ヴォイシングのいくつかは、”なんてこった!天才だ!” って感じだ。彼は私とはまったく違うスタイルを持っているのに、NILE のやっていることを正確に理解している。このギター・チームには本当に満足しているよ」
いつかは “Doom” のようなゲームのサウンド・トラックを作りたいという野望もあります。
「僕は “Doom” のファンなんだ。”Doom Eternal” のサウンド・トラックは神がかり的で、そのサントラも持ってるよ。家事をしながら聴いているんだけど、そうすれば、家の中で何かしていても、それがくだらない家事であっても、”Doom” をやっているように感じられるから、苦に感じないんだ(笑)
メタルはこういう壮大なストーリーにとても適している。誰かが NILE の音楽を取り上げて脚本にする必要があるね!」
NILE の作曲法には黄金の方程式があります。
「僕らの曲作りに秘密のハックや近道があるかどうかはわからない。でも通常、その道は歌詞から始まり、曲はそこから発展していくんだ」
実際、NILE のストーリーテリング能力は驚異的です。エジプトの神々が戦争を繰り広げ、人類を混乱に追いやった遠い過去へとリスナーを即座にいざなうことができるのですから。そして驚くべきことに、彼らが語る神話的なエピソードは、しばしば現代の私たちの世界と共鳴していきます。

例えばテム (アトゥム) 神。タイトル・トラック “The Underworld Awaits Us All” の主題である創造神テムは、同じ名前の略奪的なオンラインショッピングサイト Temu の形で復活したのかもしれません。Sanders は、神をデジタルの形で解き放つという役割に喜びを感じています。
「PCのスタートページに Temu が現れ、すでにアマゾンで買ったものを売りつけようとするのを見るたびに、このタイトル曲の歌詞を思い出すよ。”死がなかった時代があった、テム神だけが存在した時代が”。
今考えているのは、このアルバムがリリースされたら、Temu のAIボットが私に直接広告を出して、 “The Underworld Awaits Us All” を Temu で買わせようとするなんて皮肉な未来だ。いずれわかるだろう」
とはいえ、メタルはデジタルの恩恵も強く受けています。Sanders はメタルとギターの進化に目を細めています。
「新しいデスメタルはファンがいろいろ送ってくれるから、どんなことがあっても見つけられる。私の受信箱はバンドからの問い合わせでいっぱいだ。デスメタルからは逃れられないんだ。でも、私たちは今、メタルという芸術の爆発的な進化の中に生きていると思う。
YouTubeの登場は、音楽活動のあり方を大きく変えた。例えば私が演奏を学んでいた頃は、YouTubeはなかった。何かを学ぶことは、必ずしも今ほど簡単ではなかった。でも今は、もし君が若いギタリストなら、スティーブ・ヴァイと入力するだけで、ビデオが150本も出てくる。そしてそれを見ることができる。
誰かが何かをやっているのを見るのは、それをただ聴くのとはまったく違う経験だ。好むと好まざるとにかかわらず、私たちは霊長類なのだ。だから今、私たちは、信じられないほど豊富なギター演奏の知識に瞬時にアクセスできる世代を持つことになった。クリックひとつで、しかも無料で。
それを理解し、ハングリーで、何かを学びたいと思っている人たちにとっては、まさにうってつけだ。ここ10年のギター・プレイのレベルは、こんな感じだ!生きていてよかった。まさにメタル・リスナーのための時間だよ」
同時に、怒りが渦巻く世界で、その対処法も古代エジプトからヒントを得ました。
「”Stelae Of Vultures”(禿鷹の墓)。個人的なアンガーマネジメントみたいなものだね。エンナトゥムがウンミテ人を容赦なく虐殺し、その殺戮を楽しんだときに何が起こったのか?いったいなぜ彼は人々を虐殺し、ハゲタカの餌にするようなことをしたのか?なぜ彼は殺戮と残虐行為に酔いしれたのか?誰も、戦いの初期に彼が矢で目を撃たれたことについては言及しない。矢で目を撃たれるなんて、痛いに決まっている。一日中痛むに違いない。慈悲や人間性という概念が窓から消えてしまうに違いない。
これは人間の状態を表す良いたとえ話だ。目には目をというだけではない。目には目をから始まり、そして飽くなき、しかし破壊的な血の欲望を鎮めるために、さらにもっととエスカレートしていく」

つまり、NILE の曲は過去からのストレートな伝言ではなく、例えばホメロス詩や、ヘロドトスの歴史のように神話や伝説が入りこんでいます。さらに、曲によってはラブクラフト的な超自然的な感覚も存在するでしょう。
「私のプロセスはシンプルだ。曲を書く時間だ。本棚に行く。ランダムに本を選ぶ。これは僕が持っている “死者の書” の一冊だ。目を閉じて開き、 目を開けて、そこに何があるか見る。
たいていの場合、これは曲作りの方法としては愚かなことだ。なぜなら、本を開いて適当なページを開いても、そこにはメタルの曲になるようなものは何もないからだ。でも、何十回かに1回くらいは、本を開いて “これはメタル・ソングになるかもしれない” と思うことがある。
“冥界の杭に逆さまに吊るされず、4匹の猿に糞を食わされないための章” がそうだ。私は “死者の書” を第181章まで開いた。逆さ吊りにされず、糞を食べさせられないための章だった。それを見て、これはメタルの曲になると思ったんだ。そして、本から与えられたものを何でも、時にはとんでもなく薄いものでも、メタルの曲に変えてしまうんだ。そうすると大抵、他の本を手に取らなければならなくなる」
だからこそ、ある意味確立された歴史よりも、未だ未知なる歴史の方が題材にしやすいと Sanders は考えています。
「泥沼に片足を突っ込んでしまえば、その泥沼で水しぶきを上げるのは簡単だ。だから私は古王国時代(王朝時代以前の時代)が好きなんだ。その時代について実際に知られていることは少ない。だから、デスメタルのようなアーティスティックな表現もしやすい。私たちは古代史のバランスの取れた視点を提示しているのではない。デスメタルの曲を書いているんだ。それは2つの異なることなんだ。4,000年前の土器を大切に保存する歴史保存協会とは違うんだ。私たちはデスメタルの曲を書いているんだ。無名で誤解されているものを掘り起こして、より誤解されるようにしているんだ。それがとても好きなんだ」
エンターテインメントが学びの入り口となることはよくあることです。
「だから、このままでいいと思う。今、考古学者や大学教授として活躍している人の何割が、ボリス・カーロフの映画で初めてエジプト学に触れたのだろう?では、それは本当に悪いことなのだろうか?歴史について本当に知りたければ、図書館に行くなり、ヒストリーチャンネルを見るなり、インターネットを見るなりして、自分で実際に少し読めばいい。ハリウッドは、そして我々は人々を楽しませるのが仕事であり、その過程で自由を奪うことはできない。エンターテインメントが教育に優先すると決めたのは社会だからな!」


参考文献: NEW NOISE MAG:INTERVIEW: KARL SANDERS OF NILE TALKS ‘THE UNDERWORLD AWAITS US ALL’

STEREOGUM:Animals Of The Nile: An Interview With Nile’s Karl Sanders

METAL INJECTION:INTERVIEWSKARL SANDERS Talks Creating “Music For Tripping” On Saurian Apocalypse, Three Decades Of NILE & The Evolution Of Metal

GUITAR WORLD : KARL SANDERS

SOUNDWORKS DIRECT JAPAN

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【OCTOPLOID : BEYOND THE AEONS】”TALES FROM THE THOUSAND LAKES” 30TH ANNIVERSARY!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH OLI-PEKKA LAINE OF OCTOPLOID & AMORPHIS !!

“Probably The Most Important Band For Amorphis Were Piirpauke, Wigwam and Kingston Wall. Especially, Since It Was Possible To Witness Kingston Wall Live, It Made a Huge Impact On Us.”

DISC REVIEW “BEYOND THE AEONS”

「AMORPHIS も BARREN EARTH も素晴らしい人たちから成る素晴らしいバンドだと思うけど、僕は自分のキャリアの中で初めて、音楽的に100%自分の言葉で何かをする必要があったんだ。そうした “マザーバンド” とそれほど違いはないけれど、OCTOPLOID の作曲やプロダクションには、他のバンドでは不可能なニュアンスがあるんだ」
“Beyond the Aeons” “永劫の彼方に” と名付けられた OCTOPLOID という不思議な名前のバンドによるアルバムは、まさにフィンランド・メタル永劫の歴史を眺め続けてきた Olli-Pekka Laine の結晶だといえます。彼は1990年に北欧の伝説 AMORPHIS を結成したメンバーのひとりであり、2000年代にバンドを脱退した後、今度はプログ・メタルの英雄 BARREN EARTH に参加。そして2017年、AMORPHIS に復帰しました。加えて、MANNHAI, CHAOSBREED, といったバンドでもプレイしてきた Oli にとって、”Beyond the Aeons” は自身が歩んだ道のり、まさにフィンランド・メタルの集大成なのかもしれません。
「当時も今と同じように自分たちの仕事をしていただけだから、少し奇妙に感じるよ。ただ、当時としては他とはかなり違うアルバムだったから、 AMORPHIS のフォロワーにとってなぜ “Tales” が重要なのかは、なんとなくわかるよ。デスメタルに民族音楽とプログを組み合わせ、神秘的な歌詞と素晴らしいプロダクション。要は、そのパッケージがあの時代にドンピシャだったんだ。それまで誰もやったことのないコンビネーションだったから、上手くいったのさ」
Oli が歩んだ道のりを包括した作品ならば、当然そのパズルのピースの筆頭に AMORPHIS が位置することは自然な成り行きでしょう。特に Oli にとって思い入れの深い、今年30周年を迎える “Tales From The Thousand Lakes”。そのデスメタルとフォーク、プログを北欧神話でつないだ奇跡の悪魔合体は、この作品でもギラリとその牙を剥いています。しかし、AMORPHIS が AMORPHIS たる由縁は、決してそれだけではありませんでした。
「おそらく僕ら AMORPHIS にとって最も重要なバンドは、PIIRPAUKE, WIGWAM, KINGSTON WALL だったと思う。特に KINGSTON WALL のライブを見ることができたことは大きくて、本当に大きな衝撃を受けたんだ。だから、OCTOPLOID のサウンドにサイケデリアを加えるのは自然なことだった」
Oli が牽引した90年代の “ヴィンテージ” AMORPHIS にとって、フィンランドの先人 KINGSTON WALL のサイケデリックなサウンド、イマジネーションあふれるアイデアは、彼らの奇抜なデスメタルにとって導きの光でした。そしてその光は、”Elegy”, “Tuonela” と歩みを進めるにつれてより輝きを増していったのです。Oli はあまり気に入っていなかったようですが、”Tuonela” で到達した多様性、拡散性は、モダン・メタルの雛形としてあまりにも完璧でしたし、その音楽的包容力は多彩な歌い手たちを伴い、明らかに OCTOPLOID にも受け継がれています。
AMORPHIS の遺産 “Coast Of The Drowned Sailors”、KINGSTON WALL の遺産 “Shattered Wings”。両者ともにそのメロディは珠玉。しかしそれ以上に、ヴァイキングの冒険心、素晴らしいリードとソロ、70年代の思慮深きプログ、80年代のシンセワーク、サイケデリアが恐ろしき悪魔合体を果たした “Human Amoral ” を聴けば、Oli がフィンランドから世界へ発信し続けてきた、アナログの温もり、ヘヴィ・メタルの可能性が明確に伝わるはずです。聴き慣れているけど未知の何か。彼の印象的なベース・ラインは、これからもメタルの未来を刻み続けていくのです。
今回弊誌では、Olli-Pekka Laine にインタビューを行うことができました。「Tomi Joutsen と一緒に大阪と東京の街をよく見て回ったし、この前は西心斎橋通りで素晴らしいフレットレスの日本製フェンダーベースを買ったよ。いいエリアだったよ!日本の人たちも素晴らしいよ。日本の自然公園もぜひ見てみたい。定年退職したら、日本に長期旅行すると誓うよ!」 どうぞ!!

OCTOPLOID “BEYOND THE AEONS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DAATH : THE DECEIVERS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH EYAL LEVI OF DAATH !!

“I Think That This Is The Best Time In History To Be a Musician. Because, Just The Only Time In History Where You Have Been Able To Reach The Masses And Reach Niche Audiences Are On Your Own Without Having a Huge Labour.”

DISC REVIEW “THE DECEIVERS”

「今はミュージシャンとして史上最高の時期だと思う。というのも、大衆にリーチし、ニッチな聴衆にリーチすることができる。巨大な労働力を使わずに自力でね。今はそんな歴史上唯一の時代だからね」
2000年代初頭。New Wave of American Heavy Metal 通称 NWOAHM の波が盛り上がりを見せ始めました。”ヨーロピアン・スタイルのリフワークに乾いた歌声を乗せて、メタルをメジャーに回帰させる” というムーブメントはたしかに一定の成果を上げ、いくつかのメタル・バンドはメジャー・レーベルと契約していきました。特に熱心だったレーベルがロードランナー・レコードで、当時新進気鋭のバンドをまるで豊穣な木に実ったおいしい果実のように青田買いを続けたのです。
DAATH もロードランナーに見出されたバンドのひとつ。他の NWOAHM とは明らかに一線を画していましたが、さながら十把一絡げのようにレーベルは彼らと契約。2007年の “The Hinderers” で大成功を収め、その年の Ozzfest にも出演しました。彼らのデスメタルには、バークリー仕込みのウルトラ・テクニック、高度な建築理論、さらにオーケストレーションとエレクトロ的なセンスがあり、まさに彼らの名曲 “Dead On The Dance Floor” “ダンス・フロアの死体” を地でいっていたのです。旧約聖書の生命の樹、その隠されたセフィアの名を冠したバンドの才能は、”どこにもフィットせず”、しかし明らかに際立っていました。
しかし、御多分に洩れずロードランナーのサポートは停滞。その後、DAATH は何度もメンバー・チェンジを繰り返し、レコード会社を変えながら数年活動を続けましたが、2010年のセルフタイトルの後、実質的に活動を休止したのです。世界は14年も DAATH を失いました。しかし、SNS や YouTube といったプラットフォームが完備された今、彼らはついに戻ってきました。もはや巨大な資本や労働力よりも、少しのアイデアや好奇心がバズを生む現代。”どこにもフィットしない” ニッチな場所から多くのリスナーへ音楽を届けるのに、今以上に恵まれた時代はないと DAATH の首謀者 Eyal Levi は腹を括ったのです。
「シュレッドは戻ってきたと思うし、シュレッディングはしばらくここにある。それがバンドを復活させるのにいい時期だと思った理由のひとつでもあるんだ。リスナーは今、シュレッドやテクニックを高く評価して、ヴァーチュオーゾの帰還を喜んでいるように思えたんだ。全体として、今の観客はもっとオープンになっているように感じる。今はヘヴィ・ミュージックをやるには歴史上最高の時代だと思うし、それが観客が楽器の可能性の限界に挑戦するバンドやアーティストに飢えている理由のひとつなんだ」
Eyal はもうこれ以上待てないと、ほとんどのメンバーを刷新してこの再結成に望みました。そして今回、彼が DAATH のメンバーの基準としたのは、ヴァーチュオーゾであること。そして、異能のリード・パートが書けること。
そもそも、Eyal からして父はイングヴェイとも共演した有名クラシック指揮者で、音楽の高等教育を受けし者。そこに今回は、あの OBSCURA でフレットレス・ギターを鳴らした Rafael Trujillo、DECAPITATED や SEPTICFLESH の異端児ドラマー Krimh、さらにあの Riot Games でコンポーザーを務める作曲の鬼 Jesse Zuretti をシンセサイザーに迎えてこの “シュレッド大海賊時代” に備えました。念には念を入れて、Jeff Loomis, Dean Lamb, Per Nillson, Mark Holcomb といった現代最高のゲスト・シュレッダーまで配置する周到ぶり。
「自然を見ると、例えば火山のように、美しいけれど自然がなしうる最も破壊的なこと。海や竜巻など、自然には素晴らしい美しさがある一方で、破壊的で残酷な面もある。だから、美しさと残忍さ、あるいは重苦しさの中の美しさは、必ずしも相反するものだとは思わない。だから、僕のなかでヘヴィで破壊的で残酷な音楽と、美しいメロディやオーケストレーションはとてもよくマッチするんだ。というか、真逆という感覚がないね。メロディーやオーケストレーションは、ヘヴィネスの延長線上にあるもので、音楽をより強烈なものにしてくれる」
そう、そしてこの “The Deceivers” にはまさに旧約聖書のセフィア DAATH が目指した美しき自然の獰猛が再現されています。”妨害者”、”隠蔽者”、そして “詐欺師” を謳った DAATH の人の欺瞞三部作は、人類がいかに自然の理から遠い場所にいるのかを白日の下に晒します。欺瞞なき大自然で、美と残忍、誕生と破壊はひとつながりだと DAATH の音楽は語ります。愚かなプロパガンダ、偽情報に踊り踊らされる時代に必要なのは、自然のように飾らない正直で純粋な魂。
Riot Games の Jesse が手がけた荘厳なオーケストレーションを加えて、”The Deceivers” の音楽は、さながら RPGゲームのボス戦が立て続けに発生するようなアドレナリンの沸騰をリスナーにもたらします。いや、むしろこれはメタルのオーケストラ。そしてこのボス戦のデスメタルが戦うのは、きっと騙し騙され嘘を生業とした不純な現代の飾りすぎた魂なのかもしれませんね。
今回弊誌では、Eyal Levi にインタビューを行うことができました。「インストゥルメンタル・プログレッシヴの POLYPHIA や INTERVALS, PLINI, SHADOW OF INTENT がそうだよね。とてもとてもうまくやっている。芸術的な妥協はゼロでね。僕らの時代にこのようなタイプの技術があれば、よかったと思うよ」 どうぞ!!

DAATH “THE DECEIVERS” : 10/10

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