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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【SLEEP THEORY : STUCK IN MY HEAD】


COVER STORY : SLEEP THEORY “STUCK IN MY HEAD”

“If Sleep Theory Was To Take All The Guitars Away, We Can Make a Pop Song. That’s What We Always Want To Do.”

SLEEP THEORY

SLEEP THEORY はまさにメタル世界のライジング・スター。たった1年で旋風を巻き起こしました。フロントマンの Cullen Moore はしかし、そのブレイクのために生涯をかけてトレーニングしてきたのです。R&Bミュージシャンの息子として育ち、父の後を継いで陸軍に入隊した Moore は、何年もかけて音楽キャリアの成功に必要な意欲、協調性、創造的なビジョンを培ってきました。
そして実際、このメンフィスのバンドは、2023年にデビュー・シングル “Another Way” をドロップした直後にブレイク。このムード満点のエモーショナルなアンセムは TikTok でバズり、わずか36時間で50万ビューを記録したのです。この即効性、即時性はまさに今という時代を誰よりも反映した存在でしょう。
「自分たちの音楽を広める機会に恵まれたのは幸運だった。インターネットとソーシャルメディアの力のおかげで、僕たちは人々とつながることができた。
TikTokで爆発的にバズったとき、僕たちはSNSでできる限りファンに対応しようとした。とにかく、今の時代はファンとつながることが重要だし、それが勢いを持続させる大きな鍵だったと思う」

Epitaph からリリースされたデビューEP “Paper Hearts” がその直後に発表され、David Draiman や Jelly Roll を含む多くのフォロワーや有名ファンを獲得。メタルコア、ポップ、R&Bをミックスしたバンドのエキサイティングなサウンドは、明らかに大きな反響を呼び、さらに SHINEDOWN, BEARTOOTH, FALLING IN REVERSE, WAGE WAR との共演で名を上げた SLEEP THEORY は、瞬く間にヘヴィ・ミュージックの大ブレイク・アーティストの一人となったのです。
彼らのサウンドは、BAD OMENS や SLEEP TOKEN のようなジャンルにとらわれないバンドを彷彿とさせ、ビートの効いたリフとソウルフルで胸を打つバラードを自信を持って織り交ぜています。
「正直、自分たちがどんなジャンルなのかさえわからない。ただ僕たちは、君たちの予想を裏切るつもりはない。ただこれが僕たちの好きなことなんだ」
Moore に加えて、ベーシストのPaolo Vergara、そしてギタリスト Daniel Pruitt とドラマー Ben Pruitt の兄弟で構成される SLEEP THEORY。Moore 以外のメンバーは、突然の注目に慌てましたが、Moore の反応は違いました。
「驚きはなかった。むしろ、”よし、始まったぞ “って感じだった」

つまり、Moore は一夜にして成功したように見えるかもしれませんが、彼がここにたどり着くまでには何年も必要とし、その道は決して一直線ではなかったのです。
この素晴らしきボーカリストが生まれる前、父親はR&Bに手を出し、子育てが優先される時期までバラードを書いていました。
Moore 自身の音楽への情熱が燃え上がったのは10代の頃で、彼は LINKIN PARK からマイケル・ジャクソンまで、あらゆるものにインスパイアされました。彼の父親は Moore をずっとサポートしてきましたが、しかし、母親は現実的な懸念を抱いていました。
「母も音楽が好きだったが、確実なキャリアを歩んでほしかったんだ。音楽で生計を立ててどっちに行くかわからないというのは、親にとって怖いことなんだよな」
Moore は父の音楽への情熱を共有しながらも、父と同じ軍人の道には進まないと確信していました。しかし、いつしか考え方や立場が変わり、彼はその “確実なキャリア” を選び、陸軍に入隊したのです。
「僕は決して面倒な人間ではなかったが、それでも軍隊に入ったことは自分にとって良かったんだ。他の人と協力し、心を開き、冷静になり、状況を全体的に見る方法を学べたからね。軍隊にいた時間は、いろいろな意味で自分を形成するのに役立ったよ」
しかし、結局 Moore の音楽への愛情は揺るがず、最終的にはロックスターの夢を追い求めるために退役を決めたのです。

まず、Moore はメンフィスのローカル・バンドと一緒にやってみたのですが、彼らのサウンドを次のレベルに引き上げてくれると信じていたプロデューサーの David Cowell との仕事をグループが拒否したため、そのパートナーシップは2019年に頓挫しました。そこで Moore と Cowell はクリエイティブ・パートナーシップを切り離し、新体制の SLEEP THEORY に専念することを決めたのです。
最初の数年間、SLEEP THEORY は Moore と Cowell を中心とした純粋なスタジオ・プロジェクトでした。しかし当初から、2人は音楽に対する大きな夢と野望を共有していました。
「多くの人は地元のアーティストと競争する傾向があるけど、それではダメなんだ」
SLEEP THEORY という名前はエニグマティックで、SLEEP TOKEN に次ぐ第二の “SLEEP” といったムードも醸し出しています。
「理由はバンドがある種の科学的な名前を調べ始めたという単純なことだった。科学的な言葉をググって、”REM Sleep” と “Theory” を見たんだ」
ベーシストの Vergara とはある誕生日パーティーで出会いました。彼がギターを手に取り、PARAMORE の “My Heart” を演奏するのを目撃した Moore は即リクルート。フィリピンから移住してきた Vergara は成功に飢えていました。
「2016年にアメリカに引っ越してきて、僕の人生の目標はミュージシャンか映画監督になることだった。バンドに加入したときは、今このような立場になるとは思ってもみなかった。フィリピンでバンドをやっていたけど、夢を実現したり、自分たちの曲を発表したりするチャンスはなかった。だから、もしアメリカに来て、バンドとしての夢を実現するチャンスがあるなら彼らの誇りになるようにしなければならない。その夢は今でもずっと心に残っている」

次に彼らはすぐにドラマーの Ben Pruitt を採用します。彼は “Another Way” のサビに入る、スキッターのようなドロップを見せつけました。
幸運なことに、SLEEP THEORY の音楽を求める声が急速に高まると、バンドは Ben の弟で、シュレッドとスクリームを自在に操るギタリスト、Dan を見つけます。ラインナップは固まりました。
「多くのステップを飛ばしたと言われるだろう。でも、正直なところ、いきなり急成長するのは、何年もそれに向かって努力するよりもストレスがたまるものなんだ。ちょっとでも、物事を風化させてしまうと、人々はすぐに気が散ってしまう……忘れ去られてしまう。どうすれば人気を保てるかを考えなければならなかった」
SLEEP THEORY の音楽的な成功の鍵は、ジャンルを飛び越えたサウンドのミックス、モダン・メタルの多様性を駆使して、最も熟練したメタル・リスナーをも飽きさせないその哲学にあります。受けた影響は、BRING ME THE HORIZON, LINKIN PARK, BEARTOOTH, SAIOSIN といった Moore が幼少期に愛したアーティストから、BAD OMENS, ISSUES のような現代のオルタナティブ・メタル・グループにまで遡ることができるます。特に後者の2019年作 “Beautiful Oblivion” は、Moore が今も目指している ベンチマークです。
ただし、彼らの影響はそれだけにとどまりません。子供の頃は Boyz II Men や TEMPTATIONS にも強く影響を受けていた Moore。当然、それらのインスピレーション、多くの人が共感するノスタルジーは SLEEP THEORY の音楽にも深く根付いています。
「SLEEP THEORY は、音楽業界において非常にユニークな位置にある。僕たちの目標は常に、ジャンルの融合を図りながら、人々に時代を超えたノスタルジックな感覚を与えること。僕たちはロック・バンドだけど、僕たちのサウンドは枠にはめることができないんだよ」

さらには、Ariana Grande や Drake まで。つまり、この予測可能性の欠如が SLEEP THEORY の創作プロセスを定義するようになっていったのです。&Bを織り交ぜたローファイな曲を作るという実験的な試み “Gone or Staying” のようなシングルから、Moore が “スーパーR&B” だと強調するリリースされたばかりのニュー・シングル “Stuck in My Head” まで、彼らの音楽は想像の斜め上へと飛び出していきます。
同時に Moore にとって、素直さと弱さを感じさせる歌詞を書くことも重要でした。
「多くの場合、人はその曲をどう受け取って解釈してもいいという書き方をする。でも僕たちは、それをどう受け取ればいいかをしっかり伝えて曲を書きたいんだよ」
Moore のリリシズムのこの要素は、感情的な直接的さをと同様に、SLEEP THEORY の “Reimagined” “再想像シリーズ” で大きな役割を果たしています。オルタナティブに録音された同じ曲の別の音源を聴くことで、彼の言葉の背後にある感情をまったく違った角度から見ることができるのです。
この例として彼は “Numb” を挙げています。”Numb”は、GODSMACK 風のピットでの怒りに満ちた失恋ソングとして生まれましたが、”Reimagined” バージョンではアコースティック・ギター・ソングとして、傷ついた絶望のナンバーへと変貌を遂げました。
「SLEEP THEORY からギターをすべて取り除いたら、ポップ・ソングができる。それが僕らがいつもやりたいことなんだ。ポップ・ソングを書き、それをメタルやロックにする」
Moore がファンからもらったネット上のコメントのひとつに、”このバンドは悪い曲をリリースしたことがない” というものがあります。彼はその考えを持ち続け、今後取り組むすべての作品の指標としています。
「その言葉に取り憑かれてしまったんだ。どの曲もバンガー (最高) に次ぐ最高であり続けようとしている。それはまるで強迫観念のようだ。音楽を作るのは楽しいよ.僕らはクールな曲を書いて、それを楽しんでいるんだ」
そして彼らは、2025年にリリース予定のデビュー・アルバムで、その注目度の高さに応えるような、バイラルを途切れさせないような作品を作ろうと意欲を燃やしています。Moore によれば、まだタイトルの決まっていないアルバムはほぼ完成していますが、”Beautiful Oblivion” のような “飛ばす曲のないアルバム” にしたいという彼の完璧主義と強迫観念のせいもあり、今でも微調整を続けているのです。
「僕たちは、君たちが予想もしないような音楽を投げかけるつもりだよ。そしてこのアルバムを隅から隅まで体験してもらいたいんだ」


参考文献: REVOLVER:SLEEP THEORY: HOW AN ARMY VET FOUND A NEW MISSION IN THIS METALCORE-MEETS-R&B PROJECT

MUSIC SCENE MEDIA: SLEEP THEORY INTERVIEW

LOUDWIRE: SLEEP THEORY

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【OMERTA : CHARADE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH OMERTA !!

“Even Many Of The Biggest Japanese Mainstream Hits Tout Musical Penmanship With Such Finesse That It Makes Western Music Look Amateur And Incompetent By Comparison.”

DISC REVIEW “CHARADE”

「日本のメディアは欧米のメディアよりも常にエッジが効いているんだ。だから、オルタナティブな文化に憧れを抱いて育った子供時代には、当然その方が魅力的だった。題材がより成熟していたのか、アートスタイルがそうだったのか、何にせよ、欧米で普通に見られるものよりも奥深さや意図があるように思えた。また、僕たちはインターネットとともに成長し、日本のメディアは多くのオンライン・コミュニティに信じられないほど強い影響力を持っている。日本の技術力は言うまでもないしね。だから自然と、今日のインターネット文化は、日本にルーツがあるだろうものの下流にある作品が多くなったんだよ」
先日、来日を果たし大盛況のうちにツアーを終えた BLIND EQUATION が最も影響を受けた音楽が、ZUN による東方サウンド・トラックでした。そう、現代ほど日本のサブカルチャーやアンダー・グラウンドの文化が世界中に “飛び火” し、花開いた時代はなかったはずです。なぜそんな状況が訪れたのか。今、日本のネット音楽界隈で最も “バズって” いるアメリカのバンド OMERTA は、その理由を日本のアートが異質で尖っていたから、そうした日本文化を敬愛するオンライン・コミュニティで育ったから、そしてそんなファンタジーの世界が、メタルと同様に暗い世界で増えつつある心を病んだ “メンヘラ” な人たちの逃避場所となっているからだと説明します。つまり、同時多発的な日本文化礼賛バンドのバイラルは、決して偶然ではなく必然なのでしょう。
「アメリカで育ってきた僕にとって、アメリカのメインストリーム音楽はとても “安全” な傾向があるんだよ。西洋音楽と非西洋音楽の断絶は驚くほど明白だよ。平均して、西洋の曲は不協和音、調の変化、半音階的表現、ポリリズムなどを避け、非常に無難な旋律とリズムの慣習に従っている。これとは対照的に、日本の音楽は曲作りやプロダクションのデフォルト・モードとして複雑さやテクニックを用いることが多い。日本ではメインストリームの大ヒット曲の多くでさえ、西洋音楽が素人や無能に見えるほど精巧な音楽的巧妙さを売り物にしている」
さらに、ラテン系やアジア系をルーツに持つ OMERTA にとって、欧米のメインストリーム・ミュージックはあまりに安全で、耳に馴染まず、冒険心のない音楽に聴こえました。移民の国アメリカのメインストリームは、すでに誰からも愛される音楽ではありません。
一方で、吸収と研究が得意な日本。様々な場所から無節操に思えるほど多くの影響を取り入れ、コード感や変調、リズムの豊かさを強調し、それでいて日本らしいポップなメロディを備える  J-Rock やアニメ、ゲームの音楽こそ、OMERTA にとってはよほど魅力的な挑戦に見えたのでしょう。
「メタルコアや Nu-metal、あるいは僕たちより前に存在していたかもしれない他のジャンルの既存の基盤の上に、僕たちの音楽を構築することではない。これらのジャンルにはそれぞれ理論的な天井があり、それを突破することはできないから。僕たちの作曲に対するアプローチは、ラベルを無視して、最も適切と思われるものをただ書くというもの。僕たちは、アーティストとは神のインスピレーションを直感し、解釈し、伝える媒介物に過ぎないと固く信じている。ジャンルの枠に自分を縛ることは、唯一無二の美しさを歪めてしまう危険性があるからだ」
そんな、BLIND EQUATION や OMERTA といった日本文化の “下流“ にある Z世代のアーティストが口を揃えて主張するのが “ジャンルの破壊” です。実際、OMERTA の音楽にジャンルのラベルを貼ることは決して簡単ではないでしょう。巨大なバイラルを得た最新シングル “Charade” を聴けば、メタルコアや Nu-metal はもちろん、プログレッシブ、J-Rock, K-Pop, ボカロやアニメ、ヒップホップなど実に多様な音のパレットが反発することもなく耳下に広がっていきます。
そう、ネット世代の若さは壁をたやすく突き破りました。彼らの使命は、芸術とはこうあるべきだという期待やステレオタイプに挑戦すること。結局、暴力的な芸術とは慣例の破壊。粉々に吹き飛ばされた瓦礫の上に、何か美しいもの、何か新しいものを構築することこそ “Hyperviolence” なのです。
今回弊誌では、OMERTA にインタビューを行うことができました。メタル魔法少年オメルたん。薄い本にも期待です。Vincente Void が生んだ、アメリカで “一番嫌われている” ボーイズ・バンドだそうですよ。どうぞ!!

OMERTA “CHARADE” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【ELECTRIC CALLBOY : TEKKNO】 FOX_FEST 24 SPECIAL !!


COVER STORY : ELECTRIC CALLBOY “TEKKNO”

“You Listen To With Your Ears But Feel In Your Heart. You’d Never Predefine The Type Of Person You’d Fall In Love With, So Why The Songs?”

TEKKNO

「僕たちが考えた他の新しい名前はどれも間違っていると感じた。ESKIMO CALLBOY は10年以上僕らの名前だったから、新しい名前にするのは違和感があったんだ。でも、僕らにはバンドとしての責任があることは分かっていた。他人のことを気にしないバンドにはなりたくない。人々を分断したり分離させたりするのではなく、ひとつにまとめなければならないんだ」
長く親しんだ名前を変えること。それは容易い決断ではありません。大人気のバンドならなおさら。それでもドイツのヤング・ガンズは改名に踏み切りました。 彼らは “Eskimo” という単語を “Electric” に変更しましたが、これはエスキモーという言葉が北極圏のイヌイットやユピックの人々に対する蔑称と見なされるため。その後、彼らは過去のアルバムのアートワークを新名称で再リリースしたのです。
「僕は初めて父親になったが、すでに存在するバンドに新しい名前をつけるのは難しいよ。だから、僕たちは “EC” というイニシャルを残したかった。”エレクトリック” ならかなり流動的だったし、イニシャルも残っていた。そうでなければ、リブランディングは大きな問題になると思ったんだ。みんな受け入れてくれるだろうか?多くの不安があった。でも、たぶん受け入れられるのに1ヵ月もかからなかったし、みんなそんなことは忘れてしまったよ。この新しい名前はとてもクールだよ」

改名のタイミングも完璧でした。最新作 “Tekkno” のリリース前、ロックダウン中。彼らのインターネットでの存在感を通してファンとなった人たちは、”Hypa Hypa” で津波のような畝りとなります。何よりも、ネオン輝くエレクトロニック・ミュージックとメタルの鋭さは、人々が最も暗く、そしておそらく最も慢性的に憂鬱をオンラインで感じているときに必要なものだったのです。
この曲の大成功は、すでに5枚のアルバムをリリースし、新時代の到来を告げるドイツのグループにとって強力な基盤となりました。
ラインナップの変更も発生。クリーン・ボーカリストの Nico Sallach が加入し、それに伴いグループ内に新たなケミストリーが生まれました。Sallach ともう一人のボーカリスト兼キーボーディスト Kevin Ratajczak の間には紛れもない絆が生まれ、それは ELECTRIC CALLBOY のライブ体験の特別な基盤となっています。そんな絶好調の彼らを “ドイツ最大の輸出品” と推す声も。
「今は2年前のような、みんながすごく期待していたような感じではないんだ。パンデミックの間に高まっていたバブル(誇大広告)だよ」

バブルは弾けるものですが、この人気の津波は決して彼らが儚い泡のようなアーティストではなかったことを証明しています。極彩色をちりばめた “Tekkno” のリリースは、バンドにとってスターダムへの最後の後押しとなりました。
重厚なブレイクダウンと自信に満ちたメタルコアのリフ、大胆にポップへと傾倒した予測不能なボーカル・メロディ。”Tekkno” は、ELECTRIC CALLBOY にドイツで初のアルバム・チャート1位をもたらしただけでなく、ヨーロッパやイギリスの他の地域のアルバム・チャートでもトップ20の栄誉を与えました。
さらに、このアルバムはソングライター、プロデューサーとしての彼らの洗練された芸術性をも実証しました。曲作りからプロダクション、ビデオへの実践的なアプローチに至るまで、そこに彼らの一貫した意見と指示がないものはありません。
「僕たちはお互いを高め合っている」 と Ratajczak は言います。「多くのバンドは、プロデューサーとバンドの1人か2人で曲を作っている。でも僕らは、みんなで曲について話し合うんだ。みんな、自分たちのアイディアを持っている」

つまり、ELECTRIC CALLBOY は、バンドだけでなく、音楽的にも生まれ変わったと言っていいのでしょう。
「Nico を新しいシンガーに迎え、以前のシンガーが辞めたこと。これは新たなスタートであり、かつてのバンドの死でもあった。新しいスタートを切り、2010年に戻ったのだから、何が起こるかわからなかった。 でも、少なくとも “Tekkno” で何をしたいかはわかっていた。”再生” という言葉がぴったりだと思う。これが自分たちだと胸を張って言える。これが僕らの音楽なんだ」
“Tekkno” に込めたのは、純粋さと楽しさ。シリアスなテーマのメタルコア・バンドが多い中、より楽観的なサウンド・スケープにフォーカスして作られたこのアルバムで彼らは、たまには解放されてもいいと呼びかけました。
「人生でやりきれないことがあったら、そのままにして人生を楽しもう。自分のために何かをしよう。
バンドを始めたとき、僕らは20代半ばだった。パーティーと楽しい時間がすべてだった。他のことはあまり気にしていなかった。責任感もなかった。ただその瞬間を生き、楽しい時間を過ごした。それは音楽にも表れていた。
しかし、成功とともに責任も重くなった。僕はいつもスパイダーマンとベンおじさんの言葉を思い出す。”大いなる力には大いなる責任が伴う”。だから多くのバンドが、政治的なテーマであれ、その他さまざまな深刻なテーマであれ、シリアスなテーマを取り上げるようになる。
でも僕たちは、たとえ嫌な気分、仕事で嫌なことがあったり、配偶者とケンカしたりしたときでも、その状況から気持ちを切り離して、そのままにしておいて、楽しい時間を過ごしたり、映画を観たり、例えばエレクトリック・コアを聴いたり、ただ放心状態になったりすると、日常生活の問題に再び立ち向かえるほど強くなれることに気づいたんだ。哲学的に聞こえるかもしれないけど (笑)。でも、これは普通の行動だと思う。自分のために何かをする、自分を守るためにね」

“パーティー・コア” “エレクトリック・コア” というジャンルに今や真新しい輝きがないことは多くの人が認めるところですが、彼らは改名を機に、このジャンルに再度新たな命を吹き込みました。
「5人全員が同意して、またこのジャンルをやってみたいと思った時期があって、再び書き始めたんだ。
“Rehab” は悪いアルバムだった (笑)。好きな曲もあったけど、あれはひとつの時代の終わりだった。あのアルバムを仕上げるのは、ほとんど重荷だった。昔のシンガーと妥協点を見出すのは不可能に近かったから。もうスタジオには行きたくなかった。その結果、僕たちは以前のボーカリストと決別することになった。正直なところ、これは僕たち全員にとって最高の出来事だった。というのも、僕たちは皆、バンドを愛し、10年以上もこのために懸命に働いてきた。だからそれがすべて崩れ去ることを恐れていたんだ。
恐怖だけではなかった。どうやって続けるのか?ファンは新しいボーカリストを受け入れてくれるだろうか?僕たちは新しいボーカリストを受け入れるのか?言っておくけど、前のボーカルのせいにはしたくない。彼は彼自身のことをやっている。彼も同じ話をするだろう。その後、5人全員がスタジオに来て、”2010年のように音楽を作ろう” と言ったんだ」
THY ART IS MURDER, SCOOTER, THE PRODIGY が彼らの中で同居することは、それほど奇妙ではありません。
「僕たちは、ジャンルの境界線が難しいと信じたことは一度もない。もちろん思春期には、自分が何者で、何を聴くかによって自分がどう違うかを定義しようとするものだ。でもね、音楽に説明はいらない。耳で聴き、心で感じる。どんな人と恋に落ちるかは決められないのに、なぜ好きになる歌はジャンルで決めるの?」

ゆえに、ELECTRIC CALLBOY にとって “メインストリームになる”、あるいは “メインストリームに引き寄せられる” といった揶揄は、いささかも意味をなしません。それは彼らのインスピレーションの源は、ほとんど無限であるだけでなく、ブラックメタルやデスコアのようなジャンルに閉じこもるバンドが、現実的には世界人口の1%にも届かないことを痛感しているからでしょう。
「僕の経験では、ヘヴィ・バンドが “メインストリームになる” というのは、バンドが自分たちの音楽を変えるということなんだ。彼らはよりソフトになり、より親しみやすくなり、より多くのリスナーを積極的に求めている。僕らはそんなことはしていない。確かに、ELECTRIC CALLBOY がメタル・ミュージックを “非メタル・ファン” の人たちにも親しみやすいものにしていると言われれば、それはとても美しいことだと思う。それでも、世界人口の60%以上にリーチできるかもしれないポップ・アーティストに比べれば、誰もが僕らを知る機会があるわけじゃない。僕たちは、すべての人々にリーチしたいし、その可能性があると信じている。だけどね、そのために変わることはない。大事なのは、僕たちのショーに参加した人たちが、友達みんなに伝えてくれて、次にその人たちも来てくれるようになることなんだよ」


参考文献: KERRANG! :Electric Callboy: “We’re living our best lives right now. This is the time to celebrate that”

OUTBURN:ELECTRIC CALLBOY: Rebirth

LOUDERSOUND:”We have to bring people together not divide them”: Electric Callboy don’t mind being tagged a ‘novelty’ band so long as they can make metalheads smile

FOX_FEST JAPAN 特設サイト

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FIXATION : MORE SUBTLE THAN DEATH】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JONAS W HANSEN !!

“We Wanted Something To Reflect The Title «More Subtle Than Death» Which Was Derived From The Quote «Society Knows Perfectly Well How To Kill a Person And Has Methods More Subtle Than Death»”

DISC REVIEW “MORE SUBTLE THAN DEATH”

「タイトルの “More Subtle Than Death” “死よりも巧妙な死” は、”社会は人を殺す方法を熟知しており、死よりも巧妙な方法がある” という名言に由来している。
僕にとってこの言葉は、社会が人間らしさを奪い去り、殻に閉じこもらせてしまうということを指しているんだ。それは僕たちがアートワークに込めた思いでもある。この花は人間のメタファーでもあるんだ」
正邪混沌の時代。事実と虚構の境界線は日ごとに曖昧となり、貪欲、腐敗、抑圧が横行した世界で、ノルウェーの FIXATION はデビュー・アルバムからそうした社会の経年劣化をメタル・コアの叫びで再生したいと願います。
アルバム “More Subtle Than Death” “死よりも巧妙な死” において彼らは、社会の無慈悲な盲目さを大胆に取り上げました。肉体的な死よりも残酷なのは精神的な死。誰からも認められない孤独な尊厳の死こそ最も恐ろしいことを、社会が時に途方もなく欲望に忠実で残酷なことを FIXATION は知っています。それは、自分たちもここまで来るのに、認められるのに多くの時間と孤独を費やしたから。だからこそ彼らは世界中に絶望と恐怖をもたらす対立や分断の溝を埋めながら、希望を持ち続け、自分に忠実であり続け、名声よりも自分自身の中に強さを見出そうとメッセージを放っているのです。その言葉はアルバムを通して真実味を帯びています。
「あれでもない、これでもないと言われたこともあるよ。でも正直に言うと、僕たちはただ自分たちが好きな音楽を作っているだけで、人々がそれを何と呼ぼうと勝手なんだ。門番なんて本当にバカバカしいよ。みんなが好きな音楽を楽しめばいいんだ」
自分に忠実であり続けるというメッセージは、その音楽にも貫かれています。通常、メタル・コアといえば、ヘヴィネス、クリーンとグロウルのダイナミズム、モンスターのようなブレイクダウンが重視されるものですが、FIXATION のメタル・コアではそれ以上に質感、ニュアンス、アンビエンスがサウンドの骨格を担います。だからこそ、ヘヴィなギター・リフ、エレクトロニックな装飾、幻想的なイメージ、フックのあるコーラスがシームレスに流動し、感情が生まれ、聴く者を魅了し、活力を与えるのです。加えてここには、ポップな曲もあれば、アグレッシブな曲もあり、さらにオペラも顔負けの壮大なスケールの曲まで降臨して、実にバラエティにも富んでいます。”メタルコア、ポスト・ハードコア、スタジアム・ロックを取り入れたハイテンションでしかしよく練られたモダン・ロック” とはよく言ったもので、BRING ME THE HORIZON からメールを受け取ったという逸話にも納得がいきます。
「世界が暗い方向に向かっていても、トンネルの先に光があることをもちろん願っているよ。もしその希望の光がなかったら、僕たちは何のために戦っているのだろう?」
欲望や名声を追い求めることに警告を発したアルバムにおいて、エンディング・トラックの “Dystopia” は特別オペラティックに明快なメッセージを贈ります。天使のような純粋さで歌い上げる歌詞には、支配と抑圧の色合いが兆し、しばらくの沈黙の後、沸き起こるコーラスにおいて、次世代の未来に対する警告のメッセージが叫ばれます。最後のメッセージ “俺たちは寄生虫” という言葉は、示唆に富み、激しく心を揺さぶります。そう、このアルバムには何か美しく心を揺さぶるものがあるのです。おそらくそれは、欲にまみれた人間の手による世界の終焉を我々みなが予感しているからかもしれませんね。
今回弊誌では、シーンきっての美声の持ち主 Jonas Wesetrud Hansen にインタビューを行うことができました。「日本のゲームとともに育ったことは、僕たちの子供時代を決定づけたし、大人になった今でも僕たちを決定づけ続けている。全員が任天堂、ポケモン、マリオ、ゼルダとともに育ったんだから。もちろんキングダム・ハーツもね!」 どうぞ!!

FIXATION “MORE SUBTLE THAN DEATH” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CONQUER DIVIDE : SLOW BURN】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ISABEL “IZZY” JOHNSON OF CONQUER DIVIDE !!

“The Metal Community Is a Great Escape For People Because The Music Has So Much Energy And The Listeners Are So Welcoming To One Another. We Can Be Outcasts…But We Are Outcasts Together!”

DISC REVIEW “SLOW BURN”

「メタル・コミュニティは人々にとって素晴らしい逃避場所よ。なぜなら、メタルにはエネルギーが溢れているし、リスナーたちはお互いを歓迎しているからね。そうね、私たちは社会から追放されることもある……でも私たちは一緒に追放されているから大丈夫なんだよ! 」
分断された社会やパンデミックで、孤独に苛まれる世界。誰もそばにいない、誰もわかってくれない、誰も手を差し伸べてくれない。誰もが社会から一瞬で “追放” され、転がり落ちる危険をはらんだ世界で、メタルの叫びはきっと蜘蛛の糸。君はひとりじゃない。自らも社会から疎外された経験を持つ CONQUER DIVIDE はそうして様々な孤独の檻を、”Slow Burn” 緩やかな優しさの炎で燃やしていきます。
「私たちはみんな BRING ME THE HORIZON のファンなのよ。みんなと同じように、ミュージシャンも変化する。アーティストとして、何度も何度も同じような古い音楽を作るのはファンに対する冒涜だから」
長い活動休止を経て復活した国際的な5人組 CONQUER DIVIDE は、さながらリスペクトを捧げる BRING ME THE HORIZON のように豊かな成熟を遂げていました。クラシックなメタル・コアから、洗練と実験のオルタナティブへ。色彩と幅が広がった5人の音楽は、5人の内面や経験を語ることでさらに新たなレベルのカタルシス、芸術性、内省をもたらし、物語のメタル・コアとして孤独に挑むことになりました。
「”gAtEkEePer” は基本的に、私たちが女性だけのバンドであることを理由に、私たちを粗末に扱ってきた業界関係者や同業者すべてに対して立てた中指なの。それは、常に女性がフロントマンを務める音楽をブロックしようとする音楽業界のゲートキーパーたちに直接向けられたものよ」
CONQUER DIVIDE にとって新時代の到来を告げるこのエモーショナルでヘヴィなアルバムには、リスナーの心を揺さぶる感情や傷が幾重にも含まれています。そんな傷の中でも “いじめ” は一つの大きなトラウマとして常に語られています。
女性であることで拒絶され、SNS で誹謗中傷された傷。学生時代に文字通りのいじめを受けた傷。そうした “傷” は、加害者が思うよりも長く、永遠のように心の中に燻り続けることを彼女たちは知っています。だからこそ、ここでバンドもアンセムで、バラードで、そしてメタル・コアの叫びでその負の感情を解放し、同じような悩みでもがき続けるリスナーにも感情の解放を促しました。
“いつまでも過去にとらわれず、前へ進もう”。そうしてCONQUER DIVIDE は、”INVISIBLE” で世界から “透明人間” “のけもの” として傷ついた過去を捨て去り、みんなで未来へ進もうと呼びかけるのです。一緒なら大丈夫と抱きしめながら。
今回弊誌では、ギタリストの Isabel “Izzy” Johnson にインタビューを行うことができました。「10代の頃はアニメをよく見ていたし、J-ロックにもハマっていて、2008年にはロンドンでMIYAVI を見たよ。MIYAVI を見て14~15歳の頃のようなギターを弾く情熱が戻ってきたんだよ。正直なところ、MIYAVI の影響がなかったら、今の私は音楽をやっていなかっただろうね!」 どうぞ!!

CONQUER DIVIDE “SLOW BURN” : 9.9/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【I PREVAIL : TRUE POWER】NEX-FEST


COVER STORY : I PREVAIL “TRUE POWER”

“I Want To Write Something That Stands The Test Of Time.”

TRUE POWER

失恋は個人の成長を促すとも言われています。I PREVAIL のボーカル Brian Burkheise は、2013年5月1日の夜の体験が、その言葉を裏付けていると証言します。
当時20歳の Brian は、その約束をデートだと思って出かけました。1925年にステート・シアターとしてオープンした伝説的な会場フィルモアに、PIERCE THE VEIL, MAYDAY PARADE, YOU ME AT SIX が出演するライブに若い女性を連れて行った時のこと。
PIERCE THE VEIL のセットの途中で Brian は、自分の夢を彼女と分かち合うことに決めます。「俺はいつかこれをやりたいんだ…」Brian は2,900人収容のハウスを満員にすることと、ライブの観客を魅了することを彼女に誓ったのです。
Brian は自身の言葉を固く信じていましたが、しかし彼の愛情の対象は彼の言葉をあまり信じてはいませんでした。
「彼女はにやりと笑い、絶対にありえないと思っているような目で俺を見ていた。ライブが終わると、彼女は別の男に会いに行ったんだ。自尊心を傷つけられたね」
落胆しながらも Brian は一人で家に帰る途中、自分の将来を考え始めます。
「起こったことはモチベーションの源となる。なぜ自分はこれほどハードにプッシュしなければならないのか、その理由にね。自分ならできる、夢は実現可能だということを人々に示すための力になると自分に言い聞かせたのを覚えているよ」

あの運命的な夜から10年。Brian と彼のバンド I PREVAIL に起こったことを考えれば、その言葉が真実であることを証明できるでしょう。2度のグラミー賞ノミネート、3枚のフル・アルバム、そしてモダン・メタルで最も鋭いキャリアの軌跡。それだけではありません。バンドのサード・アルバム “True Power” を引っ提げた北米ツアーのクライマックス、PIERCE THE VEIL の後に出演した彼らはフィルモアでヘッドラインを飾ったのです。それはまさに、ヘヴィ・メタルのレジリエンス、回復力、反発力を証明する出来事でした。
「自分が尊敬していた人たちとステージを共有できた。これからも、常に自分自身をプッシュしなければならないと感じさせるね」
Brian は現在、3年連れ添った妻 Caylin と暮らしています。彼女とは、苦渋を舐めたあの夜の数カ月後に知り合いました。では、彼を裏切った女性はどうなったのでしょう?
「あれから、彼女はレコードを出すたびにメールをくれるのがおもしろくてね。結婚してからは、メッセージは来なくなったよ」

Brian には、自信なさと生意気さが混在しています。ミシガン州南東部のランドマーク・アカデミーという “超小規模 “高校を40人クラスで卒業した彼は、ESCAPE THE FATE の曲を車の中で歌って仲間に声の強さを指摘されるまで、自分に才能があることに気づいてはいませんでした。両親は彼の願望を応援してくれましたが、一方で友人や家族からは、よく言えば非現実的、悪く言えばクレイジーだと思われ、それが彼自身へのプレッシャーを強めることにもなっていました。
しかし Brian はそのプレッシャーまでも反発力でモチベーションに変換しました。成功を収めるために彼は、歌や照明、アートワークや舞台裏の仕組みに至るまで、自分が関わりたいと思う世界を科学的に研究に研究を重ねたのです。Brian は、ミュージシャンであると同時にマーケッターの頭脳を持っていたおかげで、バンドという乗り物を “超分析” し、悪名や宣伝材料の不足など、将来の成功を阻むかもしれない要因を特定していったのです。
I PREVAIL が今日のように、自分たちの活動の細部にまで気を配り、それが全体的なゲームプランの中で果たす役割に気を配るようになったのは、まさに Brian の現実的な哲学が浸透していったから。あくまでも彼らは長期的な視野で活動していて、単に自分たちの事業の将来性を確保したいだけなのです。
「音楽が僕らの根源であるのと同じくらい、僕らはみんなビジネスマンなんだ。バンドは発展し、成長しなければならない。人脈を作り、可能な限り多くのことを学ばなければならない。30年後、僕らが60歳になっても、この仕事を続けていたいからね」

Brian とボーカルを分け合う Eric Vanlerberghe のインスタグラム・アカウントは彼のレコード・コレクションに捧げられています。
「自分が手掛けた作品が誰かの手元に届くというのは、特別なことなんだ。誰かがそのレコードをコレクションしていて、その友人や子供たちが、何年か後にそのコレクションを手にとって、僕たちが作ったものを発見するんだからね」
Eric は昔ながらのロマンチックな音楽鑑賞を愛していますが、ストリーミングがもたらす影響にもしっかりと気を配っています。I PREVAIL は2022年に182カ国で2億4690万回のストリーミングを得ています。
「誰かが自分の音楽に人生の多くを捧げているのを目の当たりにするのは…正気の沙汰じゃない。A DAY TO REMEMBER の “Homesick” や MY CHEMICAL ROMANCE の “Black Parade” を聴きながら、自分の人生のどれだけの時間を過ごしたか、過去に戻って確かめたいものだよ」
Eric の足には “Black Parade” のタトゥーがあり、CDを聴きすぎて “燃え尽きて” しまったのだといいます。ゆえに、MY CHEMICAL ROMANCE がヘッドライナーを務めた “When We Were Young” フェスティバルに出演することは Eric にとって光栄以外の何物でもありませんでした。彼が初めて行ったライブは FALL OUT BOY で、すぐにカリフォルニアのデスコア・アウトフィット、CARNIFEX が続きました。エモもデスコアも同時に包容するのが彼らのやり方。
「この前のツアーでは、SLAYER の “Raining Blood “をカバーしたんだ。毎晩、みんなを驚かせるためにね。特に、みんなが演奏するとは思っていないような曲を演奏したいよね。I PREVAIL が SLAYER を演奏すると思うかい?」

I PREVAIL がデビューEP、2014年の “Heart vs. Mind” を準備していた頃、最初の注文は1,000枚にすべきだという提案に反対したのも Eric でした。「そして今、僕たちはここにいる」それ以来、彼らは目標を常に “高い” ものに再設定し、常にハングリーで追い求める姿勢を崩していません。
彼らの成功の雛形は LINKIN PARK の影響によるものです。重いリフをポップなフックと融合させ、寛容にさまざまな形に変化させながら、音楽ファンがヘヴィ・ミュージックへの愛を発見する “門” として重要な役割を果たした Nu-metal 界のレジェンド。ただし、”入門バンド” には入門バンドの苦悩もあります。I PREVAIL もテイラー・スウィフトの曲をカヴァーしたことで、早い時期にジャンルの “門番” たちから大きな非難を浴びています。
「気にしてないよ。誰かが僕らを “入門バンド” だと言っているコメントを読むと、侮辱のつもりで言っているんだろうけど笑ってしまう。でも、僕たちは人々をメタルに引き込んでいるんだ。いいかい? 人々は自分を引き込んでくれたバンドを、この先何年もの間、いつも近くに置いておくものだ。METALLICA は、僕にメタルとは何かを教えてくれた最初のバンドだった。そこから SLIPKNOT、Underøath、SYSTEM OF A DOWN と続き、2年も経たないうちにデスメタルやグラインドコア、その他諸々を聴くようになった。メタルに対する飽くなき渇望があったんだ。だけど、そうやって世界が広がった今でも、最初に僕をメタルに引き込んでくれたバンドやアルバムは大好きなんだ」

まだ嫌われ者たちとの付き合いは終わっていませんが、彼らはむしろその戦いを反発力で自分自身を奮い立たせる追い風に使っています。I PREVAIL が2019年のセカンド・アルバム “Trauma” を完成させたとき、メンタルヘルスと喪失というテーマを赤裸々に扱ったこの作品に彼らはすべてを注ぎました。だからこそ、その知識は、荒らしが押し寄せてきたとき、バンドにある程度の防御策を与えてくれたのです。ありがたいことに、現段階では Eric は否定的な意見に免疫があります。
「人々は自分たちがうまくいかなかったことに嫉妬している。夢を持っていたのに、チャンスを得られなかったとか、努力が報われなかったとか。笑っちゃうよ。それで、髪の長さとか、曲の単語の発音とか、くだらないことで僕を嫌うんだ。だから僕は、そうした批判も追い風にするよ」
“Trauma” を書いた理由は、バンド自身が本当に暗闇の時期を経験したから。だからこそ、Eric は自分たちのメンタリティをできる限り良い方向に保とうと努力しています。
「難しいけどね! “Trauma” では学ぶことが多かった。Brian が喉を怪我して、ツアー中に親友の一人を自殺で亡くしたんだ。だから “Trauma” は、自分たちが経験した暗闇、そしてどん底についてオープンにしたものだ。巨大な高揚感に包まれながら、予想もしていなかったような本当の低空飛行に対処しようとしている。”Trauma” を書き、レコーディングし、その過程を経て、パンデミックで家に閉じこもり、たくさんのことを学び、考え抜いた。でも、僕の場合は、ガールフレンドや家族、グループチャットをする故郷の友人たちなど、特定のグループがいて助けになった。
僕は大のオタクなんだ。ツアー中は、トレーディングカード店や本屋、レコード店を探すようにしている。演奏や I PREVAIL での活動以外でも自分の個性を発揮して、自分の一日や自分の時間を持ちたいんだ。それは大きなものだと思うよ。”True Power” はそういうところから生まれたんだ。困難や小康状態、低空飛行をどのように処理するか、そしてどのように光を見出すかを学んでいるんだ。より強く立ち直り、そこから学び、成長し、それを維持し、そこから花を咲かせ、その中で自分自身の強さを見つけ、成長する方法もあるんだから」

I PREVAIL の先見性は作品のテーマにまで及びます。Eric がクリストファー・ノーラン監督を愛し、同監督の作品の中で “インターステラー” がお気に入りの作品であることは有名な話。マシュー・マコノヒー主演の “インターステラー” は、地球が住めなくなる中、人類の新しい故郷を探そうとする宇宙飛行士を描いた、先見の明のあるSF映画の傑作です。Eric 風に言えば、 “インターステラー” のテーマの濃密さ、感情の生々しさ、五感の饗宴は、”Trauma” に相当します。そう考えると、Eric のもうひとつのお気に入りであるタイムトラベル・スリラー “テネット”、”True Power” に似ているのかも知れませんね。期待通りのスケールとスペクタクルが実現されていながら、そこに必ずしも簡単な答えが用意されているわけではないのですから。
「”Trauma” は、自分たちが壊れていくことを探求したアルバムだったから、完全にオープンで正直に、自分たちが感じていることを書いていたんだけど、”True Power” の曲の具体的な内容については、もっとベールに包まれているんだ。”True Power” は、僕らにとって新しい章の始まり。過去には、外部からの影響によって、成功とはどのようなものなのか、成功に到達するためにはどのようなルールに従わなければならないのかを教えられようとしてきた。僕たちはそれに抵抗してきたけど、今は完全に自信を持ち、人々は僕たちの決断に疑問を抱くよりも、支持してくれている」

Brian がステージから I PREVAIL の観衆を見渡すと、彼らを見に来た多くのファンの傾向を確認できます。彼らはたいてい6~8人のグループでやってくる、かつて LINKIN PARK や A7X のようなバンドを見に行った年月を懐かしむ30~35歳の兄弟たち。とはいえ、それだけではありません。
「僕らは誰でも聴くことのできるバンドになりたいんだ」 ラッパーのジョイナー・ルーカスとコラボしたトラック “DOA” や、EDM界の大御所 Illenium とコラボしたシングル “Feel Something” など、I PREVAIL は外部からの影響を幅広く取り入れ続けていることを誇りに思っています。
「僕たちが常に目指しているのは、どんな年齢、どんな人種、どんなジャンルの人でも聴いてインスピレーションを得られるバンドであることだからね。”True Power” はロックでありメタルであり、これまでで最もヘヴィなアルバムだと感じているけど、それでも非常に多様なサウンドが収録されている。そのおかげで、じっくりと腰を据えてこのアルバム全体を見渡すことができたと思う。”これまでにやったことのないことで、やってみたいことや、既成概念にとらわれないアイデアは何だろう?” ってね。振り返ってみて、とてもクリエイティブで、いろいろな側面を持つことができて、とても楽しかったんだ」

Eric はこの作品が時の試練に耐えうる “True Power” を有していると胸を張ります。
「時の試練に耐えるものを書きたかった。子供たちが10年後にこのレコードを聴いても、友達みんなに見せてくれるようなバンドになりたい。でも僕は、聴いてくれる子供たちにどんな概念も押し付けたくはない。彼らが音楽の旅の中で経験したことを、いつか自分の音楽に置き換えることができるような、音楽との深いつながりを与えたいんだよ。オープンエンドな性質、アトモスフェリック、容赦ないヘヴィネス、そして新鮮なアイデア…」
多くの熱心なミュージシャンがそうであるように、Eric は “良いものなら何でも聴く” 音楽愛好家。具体的には、FIT FOR AN AUTOPSY, SLIPKNOT の “Iowa”、PANTERA の “Vulgar Display Of Power” を最近でもよく聴いています。
「”時代を超越した音楽” というのは、まさにそういうことなんだ。20年後に聴いても、その音楽のエネルギーや怒りを感じることができる」
I PREVAIL は明らかに、自身の継続的な成功のためではなく、ヘヴィ・ミュージック全体が音楽の他の大物と同じテーブルに座ることを願い、シーンのためになりたいと思っています。2020年に I PREVAIL がグラミー賞に出席した際、ロック部門は生放送されませんでした。
「BRING ME THE HORIZON と僕たちは、お互いに顔を見合わせたんだ。そうして、10年後にまたグラミーに戻ってくることができるように、そしてロックが再び大きく受け入れられて、かつてのようにテレビの生放送で放送されるようにやっていこうと誓ったのさ」

彼らの創造性、情熱、そして意志の強さを宿した音楽は、様々なリスナーの人生を変えています。最近、あるファンが Brian に、大事故で骨折して入院していたことを話しました。彼は、”True Power” を聴くことで、最低の瞬間や耐え難い痛みを乗り越える力が湧いてきたと Brian に伝えました。「それが僕たちにとっての成功なんだ」
共同ボーカル Brian と Eric のダイナミックな関係もまた、I PREVAIL の中心軸となっています。
Brian が語ります。
「僕たちは偶然出会ったんだ。ロックの神様かメタルの神様か、どう呼ぼうと勝手だけど、僕らをペアにすることに決めてくれてラッキーだったよ。僕ら2人がいなかったら、このバンドは成り立たなかったと思うし、彼もそう言うと思う。安っぽいかもしれないけど、僕たちは兄弟のようなものなんだ。兄弟のような関係というのは、お互いのことを一番に考えているということ。特に初期の頃は、2人のボーカルがいることで、外部の影響によって、関係が難しくなりそうになったこともあったからね」
Eric は、ツアー中の混沌とした生活の中で、チームのメンバーのように4人の仲間と、じっくりと一杯の酒を味わうことほど好きなことはありません。
「もしお互いを信頼し、自分たちのやり方でやっていなかったら、今の自分たちはなかっただろう。僕たちは確かに個人だが、それでも、I PREVAIL が人々の記憶に残る名前になることを全員が望んでいるんだ」
今のところ、彼らはかなりいい仕事をしています。

http://NEX-FEST JAPAN

参考文献: I Prevail’s Eric Vanlerberghe: ‘I Want To Write Music That Stands The Test Of Time’

KERRANG!I Prevail: “Thirty years from now when we’re all 60, we want to still be doing this for a living”

BILLBOARD:I Prevail Reflect on the Pandemic, ‘Trauma’ and New LP ‘True Power’

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【OUT OF NOWHERE : DEJA VU】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH AMIN YAHYAZADEH OF OUT OF NOWHERE !!

“Iran Is Very Suppressive And Many Things That Are Normal Anywhere Else In The World Is Forbidden Here. This Includes Most Of Music Genres And The “Most Illegal” Of Them All Is Metal.”

DISC REVIEW “DEJA VU”

「残念ながらイランの政府は非常に抑圧的で、他の国では普通のことでも、ここでは禁じられていることがたくさんあるんだ。音楽もほとんどそうで、その中でも “最も違法” なのがメタルなんだ。刑務所に入れられた友人もいたし、その他にもいろいろなことがあってね…。音楽は僕たちを生かしてくれた唯一のもので、決してやめられない。だから、国を出たんだ」
イランからトルコへ。OUT OF NOWHERE という名前を体現する根無草のメタル集団は、母国の厳しい道徳的ルールと対峙しながら10年以上かけて自分たちのサウンドを磨き上げ、常に脅かされながら演奏し、危険と隣り合わせの夢を追い求めてきました。2021年、バンドは自分たちの創造的な可能性をさらに追求し、音楽を作ることで逮捕される心配のない活動をするためにトルコに移住します。そこで起こったあの大地震。彼らの情熱は今、革命の始まりのように純粋なイランの人々、そして大災害にも負けないトルコの人と共にあります。メタルの回復力、反発力と共に…
「僕たちはこのビデオをイランの女性たちに捧げた。基本的な自由のために戦い、政府によって殺されようとしている人たちに。彼女たちは僕たちの姉妹だから。イランの若い世代は、僕たちに大きく勇敢である方法を教えてくれた。彼らは、自分たちの若さと未来が台無しになることを望んでいない。僕たちイラン人は暴力的な人間ではないよ。どこの国の人でも自由を持つ権利があるけど、僕たちは基本的な自由さえ持っていなかった。言論の自由もない。政権の弾圧のために、僕たちの夢のほとんどは6フィートの深さに埋もれてしまった。でも、イランで兄弟姉妹が毎日殺されているのに、黙っているわけにはいかないじゃないか」
“Wrong Generation” は、抗議活動を悩ませた当局の暴力や、イラン人女性から基本的な自由を奪い続ける抑圧的な支配を非難するプロテスト・ソングで、協調のアンセム。彼らの情熱的な抗議の形であり、もううんざりだと判断した女性や若者の怒りを代弁しています。
昨年、22歳のイラン系クルド人ジナ・マフサ・アミニは、イランのガイダンス・パトロール(この地域の迫害警察をより洗練した言葉で表現したもの)に拘束されました。彼女の罪は、政府の基準に従って伝統的なヒジャブを着用していなかったことです。アミニは逮捕後まもなく、テヘランの病院で不審な死を遂げます。この事件をきっかけに、テヘランの女性や若者たちは伝統的な圧制に終止符を打つために街頭に繰り出しました。
デモに参加したことで約18,055人が拘束され、その結果、437人が死亡したと伝えられています。イランのサッカー代表チームも自国の女性たちとの連帯を示し、ワールドカップ初戦のイングランド戦に向けて、世界中の観客が見守る中で自国の国歌を歌うことを拒否しました。そうして、自由への連帯は “最も違法“ で悪魔の音楽とみなされていたヘヴィ・メタルにも広がっていきました。OUT OF NOWHERE はそうして、自由への障害となる壁を、地理的にも、社会的にも、音楽的にも壊していくことを望んでいるのです。
「サントゥールはイランでとても人気のある楽器で、さまざまなジャンルで広く使われているんだけど、エレキギターやメタル・ミュージックのサウンドと組み合わせることは、これまでになかったこと。僕たちは、それを最高の形で実現し、イランの伝統的な楽器のひとつを世界に紹介することに挑戦したんだ」
抑圧的な社会や法律から逃れるためにイランからトルコに移住した OUT OF NOWHERE は、国を超えた境界線だけでなく、音楽における固定観念も打ち破りました。”Deja Vu” の最初の1分間で、彼らの創造的な遺伝子に ARCHITECTS のダイナミズムと POLYPHIA の野心が眠ることをリスナーはすぐに察知するでしょう。同時に彼らは、飽和し、変身の時を迎えたモダン・メタルコアというサブジャンルに対して、その解決策の一つを提示して見せました。自らのアイデンティティであるサントゥールの使用です。あまりにもドラマティックで劇的なルーツの提示は、自分たちが何者で、どこから来たのか、どこへ進むべきなのかを瞬時に知らしめる音の魔法。そうして彼らは、音楽においても、社会においても、適切な変化と自由の重要性を世界へと訴えかけます。
今回弊誌では、フロントマン Amin Yahyazadeh にインタビューを行うことができました。「これまで僕たちは、常に逆風の中生きて来た。でもね、すべてが自分にとって不利でどうしようもないときでも、僕たちはヘッドホンをつければ別世界に行くことができたから。悲しいときやストレスがあるときだけでなく、楽しいときでも、音楽はいつも君のそばにいて、元気にしてくれる。だからこそ、僕たちは音楽を作ることができることに本当に感謝しているんだよ」どうぞ!!

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【ARCHITECTS : THE CLASSIC SYMPTOMS OF A BROKEN SPIRIT】


COVER STORY : ARCHITECTS “THE CLASSIC SYMPTOMS OF A BROKEN SPIRIT”

“Music Is an Escape For People. You Can Have Very Traumatic Experiences And Come And Enjoy Our Music And Listen To The Songs That Are About These Situations. But I Also Want You To Be Able To Come And Switch Off And To Let Us Be Your Saturday Night, Even If It’s On a Tuesday Or Wednesday, Come And Have a Good Time With Us And To Forget About The Stresses Of The Modern World.”

a classic symptoms of a broken spirit

アウトサイダーを自認する ARCHITECTS の Sam Carterは、期待という名の束縛から解き放たれ、ついに自分のありたい姿を受け入れられるようになりました。ARCHITECTS は10枚目のアルバムに伴い、ファンのプレッシャーから離れ、純粋に創造の自由への道を見つけようとしているのです…
「このアイラインのおかげで、何も苦しまずに済んだんだ…」
ARCHITECTS は、自分たちのファンが最も厳しい批評家であることに慣れています。ただ、彼らの軌跡とストリーミングの数字が不動の上向きであるとしても、メタルの世界で新しい何かに挑戦することは、決して簡単ではありません。Sam が戸惑ったのは、アウトサイダーが集まりがちなこの世界で、アイラインを引いた(実際にはとてもクールに見える)ことが、罪になっていることでした。
「メタルは、オープンでウェルカムな場所だと思っていたんだ。僕たちは皆、学校でヘヴィ・ミュージックを聴いていて、そのせいで小便をかけられたようなキッズだった。変わり者だと思われていたんだよね。だから何年もの間、ジーンズとノースリーブのTシャツを着てきたけど、ようやく今、長い間着たくても着れなかったものを着るようになったんだ。
それで、メタルのファンからちょっとバカにされたような気がしたんだよね。でも、僕はそれを恥ずかしがるような人間じゃないから、すぐに倍返ししてやるってもっと着るようになったよ。だってそうでしょ?アイラインをひいたオジーを見て “なんだこりゃ!” とは思わないだろ?彼はちょうどメイクアップ・シリーズを発表したところだ」
Sam は以前からバンドのライブに演劇的な要素を加え、メイクアップや衣装で “自分を表現したい” と思っていましたが、特定のファンからの反発を恐れてたのです。悲しいことに、彼は正しかったことが証明されました。
「そんなに悪くないはずだと思ったんだ。でもみんなの反応はひどかった。でも、ここはオルタナティブ・シーンであるべきだと思う。その中でみんながクリエイティブで自由であることをサポートすべきなんだ」
しかし最終的に、批判はバンドのレジリエンス、回復力、反発力を強めるだけでした。
「自分の直感と心と頭を信じるしかないんだ。多くの門番がいる。でもメタルはドラムと歪んだギターがあるだけのファッキン・ミュージックだ。考えすぎちゃいけないんだ。ここでは誰も “White Album” なんて書いていないんだから。
なあ、”Lost Forever…”, “All Our Gods”, “‘Holy Hell” いうメタルコアの “ホーリー・トリニティー” は常に存在し続けるんだ。これらの曲は常に僕たちのセットの中にある。でも、僕たちには10枚のアルバムがあるし、そのリフを真似ている他のバンドもたくさんいる。だから僕たちは新しいものに挑戦してみたいんだ」

“壊れた精神の典型的な症状”。Sam は不安を感じた時、David Bowie のビデオを見ます。このビデオは、ミュージシャンに対して、常に自分の直感に従い、決して引き下がらないようにと励ましているのです。
「David Bowie は、アーティストの最高の作品は、足が底につかず、水の上に浮かんでいる瞬間だと言っている。もし安全すぎて足が床についていたら、正しい仕事をしているとは言えないんだよ」
Sam は、Bowie の助言を確かに心に刻みました。ARCHITECTS はパンデミックに見舞われる前に、すでに世代を超えた最高のUKメタル・バンドとしての地位を固めていました。2015年の “Lost Forever // Lost Together”、2016年の “All Our Gods Have Abandoned Us”、2018年の “Holy Hell” はすべて、先進のテクニカル・メタルコアのスタンダードとなるものだったのです。しかし、バンドがその荒涼としたブルータリティの限界を押し広げ始めたとき、物事は変化を始めました。昨年の “For Those That Wish To Exist” でブライトンの5人組は、よりクリーンでメロディックな音の時代を切り開くことになったのです。
ARCHITECTS のニューアルバム “the classic symptoms of a broken spirit” の作曲とレコーディングの際に Sam は、Bowie の知恵を取り戻しました。”For Those That Wish to Exit” のようなシネマティックなピークやストリングスはなく、代わりに巨大なリフ、ダーク” はギター、そしてスタジアムでも通用するフックが使われています。Sam はこのアルバムを “殺伐としたパーティー・アルバム” と表現しています。
「新作の構想はダーティーでインダストリアル。新しい ARCHITECTS や古い ARCHITECTS も入っているけど、全てを通してこのテーマがあるんだ。僕たちはインダストリアルなバンドを全く知らないんだけど、それでもやっていこうと思ってるんだ」

ARCHITECTS は常に変幻自在です。このアルバムを例え聴いていなくても、メタルバンドはこうあるべきというステレオタイプからは明らかに外れています。白を基調としたシンプルなアートワーク、小文字で書かれたタイトル。そこから、悪魔崇拝やメタルらしいファンタジーは微塵も感じられないのですから。
そして音楽を聴けば、以前はストリングスや広がりのあるパッセージで感情表現をしていた ARCHITECTS が、この作品ではさらにエレクトロニクス、インダストリアルの世界をバンドのレパートリーとして取り込んでいることに気づくはずです。グリッチ風味のシンセサイザーによるサウンドが、彼らが20年近くかけて完成させたサウンドにさらなる深みを加えています。
エレクトロニクスを積極的に取り入れた現代のメタルバンドなら、シーンをリードする BRING ME THE HORIZON との比較は避けられません。特にオープニングの “deep fake” はシンセの使い方とヴォーカルの表現が彼らに似て秀逸。”Sempiternal” の影は10年近く経った今でもメタルコアの亡霊として影を落としますが、ここではそれ以上のものがあります。もちろん、RAMMSTEIN の面影を宿す “tear gas” にも。
“burn down my house” は静電気を帯電したよりスローでムーディーな曲で、一方 “living is killing us” はシンセウェーブのビートが深く刻まれた未来的な都市景観。アルバム全体を通して何層にも重ねられた挑戦的な建築物は、一つのアイディアに固執することはありません。
バンドが自分たちのサウンドを進化させ続けることが重要だと Sam は言います。2016年にギタリスト兼ソングライターの Tom Searle(ドラマーの Dan の双子の兄)が28歳で癌で他界した後、ARCHITECTS はメタル・コミュニティの “悲しみ” を背負うことになりました。多くのファンは、起こったことの意味を理解しようとしたアルバムである2018年の “Holy Hell” に溢れた悲しみにカタルシスを見出しました。しかし ARCHITECTS は、芸術のために自分たちの痛みの中で生きることが、不健康になりつつあることに気づいたのです。
「”グリーフ・コア” か何かのようなジャンルにならないことが重要だったと思う。Tom は僕らが常に痛みに耐えて、毎晩トラウマになるような経験を持ち出すことを望んではいないはずだ。インダストリアル・バンドになるなんてとんでもないことだが、僕たちはそれに挑戦するつもりなんだ」

つまり、ARCHITECTS の今日の状況はバラ色です。このビデオは、10枚目のアルバム、”the classic symptoms of a broken spirit” は大好評。あの BIFFY CLYRO と共にツアーに出る予定で、ロンドンのThe O2にも初上陸する手筈。前作 “For Those Wish To Exist” はチャートで1位を獲得し、The Official Charts Company からトロフィーが授与されています。
「あの出来事は、レスターがプレミアリーグで優勝したようなものだ。誰もがそんなことは起こらないとタカをくくっていた」
しかし、岡崎のチームと同様に、ARCHITECTS は狂ったオッズをはねのけて優勝しました。そして、ARCHITECTS はこれまでで最大の UK ツアーを敢行。それから彼らは昨年末、ロンドンの伝説的なアビーロード・スタジオで、オーケストラとレコーディングを行いました。
「最初のテイク “Black Lungs” をやったとき、僕は何も歌えなくなったんだ。完全にパニックになって、部屋を出なくちゃいけなかった。マネージャーからジンを渡され、涙ぐんでいた僕は指揮者のサイモン・ドブソンに慰められたんだ。彼は僕を抱きしめて、”一緒に乗り越えよう” と言ってくれた。”他のことは気にしないで、自分ことだけに集中して” と。そして、それはうまくいったんだ」
ビートルズに傾倒するフロントマンは、これを “聖書のような体験” と呼び、パンデミックがまだすべてを終わらせる恐れがある中でコストとリスクを秤にかけつつ、結局次のアルバムを書くことにしたのです。
「ロックダウンという、何もしない退屈な時間の中で、作曲だけが唯一意味のあることだったんだ。自分がミュージシャンであること、これが自分の仕事であることを再認識させてくれた。僕は犬の散歩が得意なんだけど、あとは本当にそれくらいしかできないんだ。だから、何か集中できるものがあってよかったし、みんなのコミュニケーションも保てた。一緒にスタジオにいなくても、アルバム制作のために、常に連絡を取り合っていたからね」

もしあなたが、Sam がビデオでメイクをしていることや、シングル “tear gas” が2007年の “Ruin” よりもさらに RAMMSTEIN 的なインダストリアルな香りがすることに腹を立てているとしても、歌詞の内容を知るまでその怒りは収めるべきでしょう。すべてが小文字のタイトルが物語るのは、傷ついた精神の典型的な症状です。”living is killing us”, “doomscrolling”, “a new moral low ground”, “be very afraid”, “born again pessimist” など、収録されている曲のタイトルがまさにそれを物語っています。Sam は、このような荒涼とした表現には “Very Architects” ARCHITECTS らしい胆力のあるユーモアがあると言いますが、気候変動や、持てる者と持たざる者の残酷な格差社会、そして自分自身の精神状態にかんする率直な分析といったセンシティブなテーマを扱うときには、まさにそのユーモアと胆力が必要なのだと言います。
「そうでなければ、いつも泣きながら歩いていることになる。人々の逃避場所になりたいんだ。自分の音楽は、人々が一緒になって、この国や世界の状況に対する疲労や弱さを共有できる場所でありたいと思うんだ。暖房費も気候変動も心配だけど、僕たちにはそれを話し合える相手がいるし、バンドで歌うこともできる。でも、そういった場所がない人もいるわけで。彼らは本当に心配しているのに、友人たちはそんなこと気にも留めていなかったりしてね。だから、こういうことを話せるバンドがいて、身を乗り出して、”クソみたいな話だよな” と言えるのはいいことだと思うよ」
ARCHITECTS のようなバンドがいることは、もちろん良いことでしょう。今のイギリスは、実際、”クソみたいな話” ばかりなのですから。イギリスの政府は、この数ヶ月で4人目の財務大臣となるジェレミー・ハントを発表。彼は、NHS を解体し、そこで働く人々の士気を破壊することによって売却のための下準備をしているように見えました。食べ物を買う余裕がないとか、凍死しないか?とか、基本的な生命の尊厳が脅かされているのです。さらに、前首相のリズ・トラスはよりクリーンな代替案ではなく、環境の破壊が進むべき道であると主張し続けていました。
同じ週、Just Stop Oil のキャンペーン参加者2人がロンドンのナショナル・ギャラリーに入り、ゴッホの “ひまわり” にスープの缶を投げつけ、壁に貼り付ける様子を撮影しました。芸術と命、どちらが大切なのか。絵画を守ることと、地球と人間を守ることのどちらが大事なんだ?と。その後、彼らの主張よりもその手法が話題になったのは当然ですが残念なことでした。イギリスは自国の気候変動目標の達成にさらに遅れをとっています。

Sam は、自分が答えを持っていないことを最初に認めます。そして、個人として、たとえ彼のような熱心な人間であっても、全体の “ゲーム” が地球に対して不正に操作されている間は、ほとんど何をやっても無駄に近いと理解しています。ARCHITECTS の音楽には、こうした不安も織り込みながら、悩みを他人と共有し、何ができるかを考えようとしているのです。
「誰のせいでもなく、僕たちにできることはあまりない。僕たちの社会におけるより大きな問題は、おそらく世界の炭素排出量の80パーセントを担っている約13の企業にかかっているのだから。環境に配慮している人は、リサイクルのやり方を間違えると、何かを殺してしまったような気がして、イライラしながらベッドに入ることになる。でも大丈夫。それは結局、企業の責任なんだ。もちろん、環境問題は自分の手を離れたわけではないし、毎日、環境のため、自分のため、周りの人のために、より良いことをしようと努力している。でも、時には、それが彼らの責任であることに気づかなければならないんだよ。問題は、誰も大企業にそうした質問をしないこと。みんな、こうした企業が提供するすべてを必要なものとして見なしているから、誰も踏み込めないんだよ。本当にクソ難しい問題なんだ。
僕たちはいつも、世界で何が起こっているのかを、虫眼鏡で見て、”これが本当の姿だ” と話してきた。今のイギリスは生活費や暖房費に苦しんでいる人たちが多いから、すごく暗いんだ。それってもちろん、僕たちにとっても恐ろしいことだけど、人工呼吸器をつけたまま寝ている老婦人にとってはもっと、本当に恐ろしいことだからね」

このアルバムでは、同じように厳しい視線を内側にも向けています。”burn down my house” では、Dan Searle の歌詞が精神的な健康について語りかけます。この2、3年、パンデミックに対する恐怖と怒りが、人との接触がかろうじて合法となったことで増幅されました。自分自身の葛藤の重さだけでなく、精神の病が現実的な健康問題とはなぜ見なされないのかという疑問符をこの曲は描き出します。
「この曲はすごく暗い曲なんだ。僕と Dan の精神的な健康について歌っているんだけど、社会的な状況に昇華できるオープンな曲だと思う。精神衛生についての議論や、チャリティ活動みたいに、人々が何かをすることはあるけど、この問題は思うほどにはまだ現実味がない。実際にきちんとした会話になっていないんだ。”大丈夫じゃなくてもいいんだよ” って言うだけで、”本当に大丈夫なのだろうか?” 答えは “ノー” だ」
ギタリスト、Tom Searle が2016年に亡くなる1年前から、Sam は抗うつ薬を服用するようになっていました。パンデミックにかけて、世界がいつもより混乱する中、彼は服用量を倍増させていきました。抗うつ薬はたしかに、暗いものを閉じ込めておくのに役立ちましたが、それ以外のものも同様に閉じ込めてしまったのです。うつ病の代わりに、彼は何も感じなくなりました。
「抗うつ剤が悪いとは思わないよ。抗うつ剤がなかったら、僕はここにいないだろうから。だけど、服用量を2倍にしたとき、僕はやり過ぎてしまった。喜びも悲しみも、まったく感じられなくなったんだ。全く何も感じない。喜びも悲しみがまったくないんだ。悲しみを感じたい、感情を持ちたいと思っていたよ」
Sam の友人たちが、彼と彼の婚約者に、娘の名付け親になってほしいと頼んだ瞬間が転機でした。その時、婚約者は涙を流しましたが、Sam 自身は、依頼されたことを光栄に思い、嬉しく思っていたが、何も感じなかったといいます。その瞬間に彼は、「もう薬はやめよう、もっと自分を見つめ直そう」と思ったのです。
「あまりに急に断薬するのは危険なので、時間をかけて断薬していったんだ。でも、その間は気が狂いそうだった。断薬するのはとても大変だったんだ」
同時に、サムは自分自身と自分の人生をより徹底的に検討し始めました。バンドが公の場で気高く Tom の死という悲しみを乗り越えてきたように、彼はより静かで個人的なケアも必要だと気づいたのです。

「実際にすべてを眺めてみると、”そうか、自分が対処しなければならないこと、話して癒さなければならないことがたくさんあるんだ” と気づいたんだ。僕と Dan は同じ時期にそれを経験していたんだと思う。Tom が亡くなった後、僕らはそのままツアーに出て、その状況についてレコードを録音した。ステージでも毎晩、彼のことを話したよ。それは本当にすべてを包み込むようなもので、本当に大変だった。
24時間365日、自分のトラウマをみんなに開放するのは簡単なことではないからね。かなり疲れるし、本当にただただ悲しかった。ステージに上がるたびに、Tom の話をするんだけど、同じ話ばかりするわけにはいかない。台本を読んでいるように聞こえるのが嫌だったから。だからこそ、毎晩 Tom の話をしているうちに、トラウマになるような思い出に入り込んでいくんだけど、それがすごくいい思い出だったり、すごくつらい思い出だったりする。
でも、僕本当のことを話していたんだ。Dan と話したんだけど、明らかに僕がステージでこの話をするのがどれだけ大変かを見ていて、”嫌ならこれ以上心を開く必要はない”, “もし君が多くを語らず、ショーを乗り切って楽しい時間を過ごし、ここにいることに感謝する必要があるなら、そうすべきだ” と言ってくれた。
だから、スタジオに入ったときも、今回は、今あるこの瞬間を本当に楽しもうという感じだったね。Tom が僕らにしてほしいと思っていることをやろう、つまり、悲しんでみじめに座っているのはやめようと決めた。Tom が望んでいるのは、悲しんだり惨めになったりすることではなく、自分の人生を精一杯生きて、すべての瞬間を楽しむことだから。
だから、自分の中に戻ってみると、”一人で乗り越えなきゃいけないんだ。みんなの前で僕が乗り越えるんじゃないんだ” って気づくんだ。僕はすでにカウンセラーに会っていたんだけど、最優先って感じじゃなかった。パブで大金を使ったり、ずっと欲しかったレコードを買ったりすること…カウンセラーの優先順位はその下にあるものだったんだよね。だけど、その転機で僕は、できる限り最高のカウンセラーに相談し、お金を貯めて、自分自身をケアするためにお金を使おうと思ったんだ」

結局、ステージから降りればアーティストも普通の人間です。
「チェスター・ベニントンや彼が経験した苦悩を見れば、スーパースターであるかどうかは関係ないんだ。みんな毎日を過ごして、学んで、お互いのために頑張るしかない。僕たちは、他の人たちと同じように、人生や家族、子供、浮き沈み、不安、長所、短所を持った普通の人間だ。僕は少し前に、なぜ怒りの音楽に惹かれるのかに気づいたんだ。他の多くの人と同じように、僕も自分の怒りのための健全なはけ口を持っていなかったから。実際、僕はそれを “許容できる” 方法で表現する方法をまったく知らなかったけど、ヘヴィー・ミュージックは、他の何にもできないときに、その感情を表現する場所を与えてくれたんだ。
今日、僕は18歳ではなく34歳で、自分の怒りのすべてを理解しているわけではないけど、音楽を作るときに表現することを求める感情はそれだけではないし、それはこのバンドのメンバー全員にも当てはまる。そう、怒る理由はたくさんあって、その感情はこの作品に表現されているけれど、もっと複雑な感情もここにあるんだ」
Sam はファンから受けるフィードバックをあまり気にかけてはいません。ARCHITECTS 初期の作品を特徴づけていた破砕的なヘヴィネスが失われたことを嘆く否定的なコメントなどを軽く笑い飛ばし、気にしない。メイクアップのことも、そこまで大した問題ではありません。唯一、本当に気になるのは、バンドが Tom と一緒にいたときとは違うという不満を持つ人たち。そこに Sam は恐怖や嫌悪感を感じています。
「最近はファンの声が大きい。インスタや Twitter を得て皆が突然、音楽評論家になった。だからどうでもいいんだ。良いものも悪いものも読まないよ。ただ若者の作品がその声に影響されるのは嫌だ。音楽を出すだけで怒られるのは辛いからね。
バンドにいるから、楽な人生だろうと思われているような気がする。でもね。毎日、毎秒、Tom のことを考えているんだ。ARCHITECTS という言葉を聞けば、彼のことを考えずにはいられない。Tom ならこれを恥じるだろう、Tom ならこのレコードを嫌うだろう、Tom ならこうしただろう、Tom の遺産に泥を塗るな、と言う人をたくさん見てきた。だけど、オマエは Tom の何を知っているんだ? 名前を口にするのもおこがましいって言いたいよ。
Tom はメインソングライターで、今はみんなが ARCHITECTS でソングライターとしてのあり方を学んでいる。僕たちはこの作品を作るために一生懸命働いてきた。”Tom なしではもう無理だ” と言う方がよっぽど簡単だっただろう。もうこれ以上できない。Tom の真似はできないよってね。つまり、僕たちは親友の音楽をパクってるわけじゃないんだ。後任のギタリスト Josh Middleton に Tom のようなリフを書いてくれなんて頼めないよ。それがどれだけ侮辱的なことかわかる?」
そうして Sam は “大丈夫じゃなくても大丈夫” の件に戻ります。
「SNS のヤツらは、今の僕らが気に入らないからと言って、僕の人生の中で最もトラウマになった瞬間を持ち出してもいいと思っているんだ。そのことで何度も泣いたし、何度も傷ついた。人がこんなに卑屈になれるなんて信じられない。そんなこと言うヤツは狂ってるよ。”大丈夫じゃなくても大丈夫” なんて言われるのは腹立たしいよ。だから、僕たちはお互いに話し方に気をつける必要があるんだよ。Tom がいた頃と比べられるのが僕は恐ろしいから。
新しい ARCHITECTS を好きになれとは言わない。音楽は完全に主観的なものだから。多くのファンは、僕のビートルズの “Revolver” のB面が最高だという話は聞きたくないと思うんだ。わかるよ。嫌いなら嫌いでいい。ただ、そこで僕を侮辱したり、僕のベストメイトを持ち出したりする必要はないんだよ」

“the classic symptoms of a broken spirit” を聴いていると、すべての挫折した感情の結び目が大きく書き込まれています。Sam が言うように、これは共有されることを意図したものでもあり、平易な言葉はそれを聞いて感じる必要のある人々に届く方法として使われているのです。そうして Sam は、自分のバンドがカタルシスの源となり、人々が暗闇の中に光を見出すことができるようにと願っているのです。
「ライヴでは、水曜日の夜を金曜日の夜に変えたいんだ (笑)。現代社会のストレスを忘れて欲しい。音楽は、人々にとって逃避の場だから。大きなトラウマになるような体験をしても、僕たちの音楽を楽しみに来て、トラウマをその時だけは忘れられる。
君がお金をかけて僕たちに会いに来てくれる時、僕たちは君のためにショーを行っているんだよ。君のお金は、僕たちのパフォーマンスという形で君に還元され、君を世の中のストレスから解放するということを知ってほしいんだ。
今の僕たちはオルタナティヴ・アリーナ・メタルだよ。よくわからないけど。つまるところ、僕たちはただのロックンロール・バンドなんだ」
最近の曲は実際にそうしたステージのために作られたもの。Sam は “Animals” をライブで演奏するときの興奮を、”大勢の人が巨大でシンプルなリフに押しつぶされる” という言葉で表現します。そして、疑うことを知らない BIFFY ファンは、英国で最も優れたメタル・バンドのひとつに初めて遭遇するのです。
「”これは一体何なんだ?”と思ってくれる人がいるといいんだけどね。面白くなりそうだ。楽しみだよ。僕はいつも打ち負かすことを楽しんでいる。観客の中にいる誰かを見て、激怒しているその一人に集中して、考えを変えようとする…そのチャレンジが好きなんだ」
何より今、Sam Carter は幸せです。彼は人生に満足し、自分のバンドの新しいアルバムに喜びを感じ、ようやく友人たちとツアーに出られるという見通しも立ちました。今の彼は自分自身をきちんとケアしていて、以前との違いを目の当たりにしているところです。そして、アルバムに収録されている音楽と同じくらい Sam の人生は、彼が人々と共有し、絆を深めたいと考えているものなのです。
「これが僕の人生だなんて、信じられないよ。”信じられない”! みんなにそれが伝わればいいな。それは、とても大切なこと。まるで、誰かが僕の口の中に LSD を入れたみたいだ」
壊れた精神?建築家はそれをリフォームする方法を知っています。

参考文献: KERRANG!Architects: “You want your music to be an escape for people. You want to be a place where people can come together…”

NME:Architects: “We’re not afraid to try new things, and I don’t think anybody should be

LOUDWIRE:How Architects Are Still Celebrating Tom Searle With Upbeat New Album Read More: How Architects Are Still Celebrating Tom Searle With Upbeat Album

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【RELIQA : I DON’T KNOW WHAT I AM】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MONIQUE PYM OF RELIQA !!

“A ‘Relic’ Refers To Something Old, Like an Artefact. A Lot o Of People Say This Contradicts Us a Bit, And We Agree, Because One Of Our Goals As Musicians Is To Create Sounds That Are Contemporary And New.”

DISC REVIEW “I DON’T KNOW WHAT I AM”

「深い意味合いでは、バンド名の元となった “relic” とは古い人工物のようなものを指すの。だから、多くの人が矛盾していると言うわ。なぜなら、私たちのミュージシャンとしてのゴールのひとつは、現代的で新しいサウンドを作り出すことだから (笑)」
シドニーの現代的なプログレッシブ集団 RELIQA。その名前は実は不適切で矛盾をはらんでいると言わざるを得ません。RELIQA というバンド名は過去の遺物、アイテム、工芸品を連想させますが、そのサウンドと音楽は未来を見据えた全く異なるイデオロギーに満ちているのですから。
もちろん、そんな異変に気づく賢明なリスナーなら、第二の異変、この EP のタイトルにも明らかな矛盾を感じるはずです。”I Don’t Know What I Am”。”自分が何者なのかわからない”。しかし、このバンドは間違いなく、自分たちが何者であるか、自分たちの方向性は何か、音楽的に何を達成したいのかを、正確かつ的確に把握しているのですから。そしてそれは、過去ではなく、現在と未来の超越的にプログレッシブでヘヴィな音の葉を創造すること。
「自分たちに対して正直であることが重要なのよ。それが何であれ、”自分たち” らしさを感じる音楽を作る。それが大事。確かに少し奇抜ではあるけれど、自分たちの音楽をわかりやすく、まとまりのあるものにするために積極的に取り組んでいるわ」
ヘヴィ・プログの常識を破る女性がフロントに鎮座したパフォーマンス、きらびやかで最先端のプロダクション、そしてダイナミックで驚きと楽しさに満ちた不可解な楽曲をさながら現代建築のごとく巧みに組み立てる想像力など、このバンドの意識は前時代の慣習すべてを置き去りにするほどモダンで先鋭的。
そのサウンドは、90年代以降に芽吹いた音の新芽を沸騰した鍋に投入し、轟音とともにかき混ぜ、完璧な味付けをほどこし、カラフルでありながら逆説的に首尾一貫まとまった形で仕上げられた、耳なじみの良いプログのオージー料理。
一見、バラバラな要素が組み合わされ、完成するはずのないパズルが完成してしまう。”Safety” のメタル好きにはたまらないヘヴィネスはもちろん、ストリングスとピアノが導く甘く高揚感のあるバラード “Second Naure”、実験的インスト曲 “blip”、ポップなボーカル、ラップにエレクトロニカ、果てはエスニックで東洋的な瞬間など、実際、この6曲入り EP にはあまりに多くのアイデアが滝のように密集して流れ落ちているのです。
個々の技術、曲作りの技術、そしてそれらを分かりやすく聴きやすいパッケージに落とし込む技術に長けた異能の集団。その料理の腕前は あの GOJIRA や SYSTEM OF A DOWN を彷彿とさせるほど。
「長い間男性に支配されてきたこの業界で、周りの女性たちと支え合うネットワークを形成できることは、とても “神聖” なことだと思っているの。だからこそ、SPIRTBOX の Courtney が “Good For A Girl” “女の子のために” というポッドキャストを始めたとき、彼女の目的がいかに素晴らしいものであるかということがよくわかったのよね」
10代後半から20代前半の若者が葛藤しながら向き合い、探し出す自分。そんな魂とアイデンティティの探求をテーマとした作品で、バンドのボーカリスト Monique は女性であることにも対峙しました。今やメタル世界のカリスマとなった SPIRTBOX の Courtney LaPlante。彼女と連帯することで、Monique の物語はさらに深い色を帯びていきます。
女性の学びの経験やエンパワーメント、女性らしさについて、ヘヴィ・メタルを牽引する女性たちがポッドキャストで配信する。そのネットワークや配信自体、そして、ポッドキャストや YouTube チャンネル、SNS のようなプラットフォームを開拓することがいかに重要で、抑圧された人たちを解放する力となるのか。彼女たちは自らを研ぎ澄まし、語り合い、支え合い、成長し、表現することで伝えようとしています。
「オージー・バンドのミュージックビデオを見ていると、YouTube のコメント欄には必ず “オーストラリアの水には何かがある!” と書かれているのよ。私もその通りだと思う。本当にたくさんの素晴らしい才能がここは存在している。そういう背景があるから、今、彼らの多くとステージを共有し、オーストラリアのプログレッシブ・メタルの新たな新興世代の一員となったことが、どれほど特別な気分か想像できるでしょ?」
オーストラリアがヘヴィ・ミュージックやプログレッシブのエルドラドであることを隠さなくなった10年ほど前から、数多のバンドが “急成長中” や “新星” というレッテルを貼られ、期待を寄せられていますが、一方でその中の大半はひっそりと消え行く南半球の仇星となったのが実情。
しかし、RELIQA は、例えば SPIRTBOX の Courtney LaPlante から賛辞を送られたり、MAKE THEM SUFFER の Sean Harmanis が作品に参加したりと、大器の片鱗をすでに見せています。彼らが正しい行動さえとれば、プログレッシブ・ヘヴィの未来は約束されているのです。
今回弊誌では、Monique Pym にインタビューを行うことができました。「ミュージシャンとしての私たちが自分たちが何者で、どこに属しているのかよくわからないのと同じように、人間としての私自身も、まだ自分が何者で、周囲の世界の中で自分のアイデンティティは何なのかを見極めようとしているところなのよ」Z世代の苦悩と葛藤、そして光。どうぞ!!

RELIQA “I DON’T KNOW WHAT I AM” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE CALLOUS DAOBOYS : CELEBRITY THERAPIST】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CARSON PACE OF THE CALLOUS DAOBOYS !!

“The Non-metal Elements Are Way More Important, That’s What Sets Us Apart. We Would Be Playing To 5 People At Local Shows Once a Month If We Didn’t Think Outside Of The Box And Push Ourselves To Be More Than Just a Heavy Band.”

DISC REVIEW “CELEBRITY THERAPIST”

「真の “ダークサイド” なんて存在しないんだよ。少なくとも、君や僕が同意しない側にいる人々にとって、彼ら自身はまったく “ダークサイド” ではないんだから。彼らは自分を社会ののけものとか殉教者だと思っているかもしれないけど、少なくとも自分から見て悪意ある行動をとっているわけではなくてね。真摯に話せる友人がいないから間違った道に進んでしまう」
ジョージア州アトランタのメタルコア・ハイブリッド、THE CALLOUS DAOBOYS。彼らはマスコア、ソフトジャズ、ボサノバ、オルタナティブ、ラジオ・ロック、エフェクトで歪んだヴァイオリンなど複雑なサウンドの嵐を生成し、メタル世界で大きな注目を集めています。そしてその台風の目には、Carson Pace がいます。
ステージ上のエネルギーレベルは桁外れで、PUPIL SLICER とのコラボレートや GREYHAVEN とのツアー、そしてバンドの待望のセカンド・アルバム “Celebrity Therapist” のリリースで、彼らの知名度は飛躍的に向上しました。重要なのは、世界に解き放たれたことで Pace が対話を始める機会を多く得られたということ。彼の叫びはなぜか、陰謀論やカルトに囚われた人たちにも素直に届きます。それはきっと、頭ごなしに否定から入ることをしないから。”ダークサイド” だと見下し、馬鹿にして、間違っていると断言することで、囚われの勇者たちはむしろ、自分が正しいと確信してしまうのですから。
「安倍晋三は去った。それが僕の公式見解だよ。右と左の争いについては、グッドラック!としか言えないよね。僕たちはその解決策をまだ見つけられていないけど、まあ解決策を探す人たちには幸運を祈るよ」
しばしば謎めいた歌詞のアプローチにもかかわらず、Carson は THE CALLOUS DAOBOYS にその生来のストーリーテラー、語り部の感覚を持ちこむことに成功しています。Carson の声は、パワーハウス的な叫びから、Mike Patton や Greg Puciato のような筋張った歌声へとドラマティックに変化して、ストーリーを紡ぎます。”Celebrity Therapist” における Carson のリリックは、盲目の愛国心、陰謀論、アルコール依存症、有名人の崇拝などを点と線で結びつけ、人は皆いずれかの悪徳に陥っていると主張しているのです。
例えば、”Title Track” では、彼は “有名人だと威張って話すリードシンガーの不条理さ” を論じていますが、この内観は逆説的に自己矛盾を抱えていることを自覚しています。つまり、Carson がハマってしまった “カルト” とはナルシズム。自分たちが FOO FIGHTERS ではないにもかかわらず押し寄せるエゴイズム。そう、陰謀論やカルトは決して他人事、宇宙人の話ではないのです。
「THE DILLINGER ESCAPE PLAN も MR. BUNGLE も僕の大好きなバンドだからね。でも、先日イギリスのインタビュアーが、僕らを90年代の Madonna と比較していたんだけど、あれは最高にクールだったね。僕はヘヴィーな音楽よりもポップスやエレクトロニック・ミュージックをよく聴くんだけど、それが間違いなく曲作りに反映されていると思うんだ」
カルトといえば、彼らの “アート・メタル” もカルト的なファンを集めています。”Celebrity Therapist” に収録されたよりプリズム的で、常識はずれな楽曲の数々は、流動性と万華鏡の輝きを保ちながら、常にメタルの常識を疑っています。つまり、彼らの教義とは、疑うこと。エレベーター・ミュージックをモチーフにした轟音スラッシュ “The Elephant Man in the Room”、ポップでロックなファンク・ベースと組み合わされたサイコなバイオリン “Beautiful Dude Missile”、サックスが冴える理路整然なポップとグロテスク・デス・モッシュ “What Is Delicious? Who Swarms”。そうした異端と驚きの数々は、メタルらしさ、メタルの定形を疑うことから生まれ落ちたのです。
今回弊誌では、Carson Pace にインタビューを行うことができました!「僕たちにとってはメタル以外の要素の方がずっと重要で、それが僕らを際立たせているんだ。もし、メタルという狭い箱から出なかったとしたら、自分たちを単なるヘヴィー・バンド以上の存在に押し上げなかったとしたら、月に一度、地元のライブでたった5人を相手に演奏することになっていただろうからね」 どうぞ!!

THE CALLOUS DAOBOYS “CELEBRITY THERAPIST” : 10/10

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