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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【AETERNAM : HEIR OF THE RISING SUN】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH AETERNAM !!

“We Do Think Of War As Part Of Human History And Mainly a Great Way To Learn That Violence Is Never The Answer To Resolving Any Conflict. There’s Nothing Positive In Death Of Innocents That Benefits Humanity At Large.”

DISC REVIEW “HEIR OF THE RISING SUN”

「歌詞を読んでみると、この作品がただの歴史の授業ではなく、詩的で、時には出来事の完全な説明というより、もっとテーマを喚起するような内容になっていることに気がつくと思うんだ。中世ビザンツ帝国の時代は北米じゃ軽視されがちだけど、歌詞の内容的にも音楽的にも大きな可能性を秘めた、取り組むべき興味深い題材だと思った」
大砲が何発も何発も都市の城壁に打ち込まれる中、ダミアヌスは深く動揺しながらも、矢を手に城壁の上に立つ。彼はすぐに聖母に祈りを捧げた後、弓を包囲者たちに向けて放つ。埃が空中に舞い上がり、大砲を操るオスマン軍の将を左に数センチ外してしまう。パニックの中、ダミアヌスは選択を迫られる。先祖の土地を捨てて去るべきか、それとも戦って死ぬべきか?ダミアヌスが戦うことを決断した数分後、大砲の弾が命中し、彼の手足は引き裂かれ骨は粉々になった。おそらく神は帝国の滅亡を望んでおられるのだろう。コンスタンティノープルの街のあちこちが限界点に達し、ノヴァローマの富を手に入れるため、オスマン帝国はついに征服不可能な都市に突入した。
「実は、この曲はウクライナ戦争が始まるずっと前に作られたものなんだ。とはいえ、僕たちは戦争を人類の歴史の一部と考え、暴力がどんな争いも解決するための答えには決してならない、そのことを学ぶために最適な方法だと考えているんだ。罪のない人々の死が、人類全体の利益となるなんてことは絶対にない。戦争にポジティブなことは何もないのだから」
この “The Fall of Constantinople” “コンスタンティノープルの陥落” は、AETERNAM の5枚目のアルバム “Heir of the Rising Sun” を締めくくる、ビザンツ帝国の終焉を描いた壮大な楽曲です。この歴史的、音楽的なクライマックスに到達するために、AETERNAM は SEPTICFLESH の映画的シンフォニー、WILDERUN の知の陶酔、AMORPHIS の旋律劇、ORPHANED LAND の異国の香りを見事に混交しています。リスナーはこのレコードで時を超え、オスマンとビザンツの時代に旅をしながら、”永遠” の名を持つバンドが提起する人類永遠の課題 “戦争” を追体験するのです。この物語は遠い昔の話しでありながら、実は過去の遺物ではありません。そろそろ私たちは、ほんの少しでも歴史から何かを学ぶべきでしょう。
「”Kasifi’s Verses” の冒頭にあるトルコ語のちょっとしたナレーションを入れると、実は5つあるんだよね。 それは、曲の中で僕たちが語る人々に対する言葉でのオマージュと見ることができるだろうね」
“Heir of the Rising Sun” で AETERNAM はアグレッシブ・メロディアスなリフの合間に、中東・北アフリカの風を受けたギターリードがオスマン帝国の誇りを見せつけ、”征服者” がコンスタンティノープルを手にするため力をつけていく様を描いていきます。もちろん、その絵巻物の情景は、モロッコに生まれ育った Achraf の歌声が肝。
そうしてアルバムは、1453年5月29日が近づくにつれそのオリエンタルなテンションを増していきます。”Beneath the Nightfall” や “Where the River Bends” におけるブラックメタルの激しい旋律、荘厳に勝利を響かせる “Nova Roma”。
一方で、”The Treacherous Hunt” では、東洋の水にグレゴリオ聖歌とシンフォニック・ブラックメタルの構造を無理なく融合させて、ビザンツ帝国の側からもストーリーを肉付けしていきます。戦争に正義などありませんし、完全に善と悪で割り切れるものでもないでしょう。AETERNAM は侵略者、被侵略者、両方の物語を描く必要があることを知っていました。英語、ギリシャ語、トルコ語、ノルウェー語、ラテン語という5つの言語を使用したメタル・アルバムなど前代未聞。しかし、それはこの壮大な “教訓” をリアルに語るため、絶対に不可欠な要素だったのです。
フィナーレにしてクライマックスのクローザーでは、大胆なメロディとスタッカート主体のリフ、ドラムが大砲のように鳴り響き、オスマントルコの攻撃を演出。しかし、途中から勇壮なギター・リフに移り変わり、ビザンツ兵の視点が強調されます。逃げ出すか、このまま街に残って死ぬか。彼は嘆きながらこう決心するのです。
「もし神の意志で街がこの夜に滅びるのなら 私は命を捧げた戦士たちの側に倒れよう」
今回弊誌では、魂のボーカル&ギター Achraf Loudiy と、創始者のドラマー Antoine Guertin にインタビューを行うことができました。「Achraf と僕が出会ったとき、彼は AETERNAM の曲にもっと東洋的なメロディーを取り入れるというアイディアを持っていたんだ。 彼はモロッコでそうしたメロディーを聴いて育ったし、彼の母親が素晴らしいシンガーであることも重要だった。家系的にもそうなんだよね」 どうぞ!!

AETERNAM “HEIR OF THE RISING SUN” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【BE’LAKOR : COHERENCE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH STEVE MERRY OF BE’LAKOR !!

“We Have Always Tried To Retain The Melodies. I Think The Style Of The Melodies Does Evolve Over The Years, But They Always Remain a Big Thing In Our Music.”

DISC REVIEW “COHERENCE”

「私たちは今でも自分たちのことをストレートなプログ・メタルではなく、プログレッシブな要素を強く持つメロディック・デスメタルバンドだと考えているんだ。結成当初はもっとそうで、ほとんど純粋なメロディック・デスメタルだった。だから、音楽にもう少しプログレッシブな要素を取り入れるためには、地道で段階的なプロセスを踏むことが必要だったんだと思う。若い頃の私たちは、IN FLAMES, AT THE GATES, DARK TRANQUILLITY, OPETH の名盤に大きく影響されていたんだよ」
メロディック・デスメタルは一本調子だ。そう謳われたのは過去のこと。今では、このジャンルを始動したオリジネーターはもちろん、後続の綺羅星たちも数多の興味深いバリエーションを生み出し多様性の高いサブジャンルであることを証明しています。
中でも最も興味深いのは、00年代半ばに台頭した OMNIUM GATHERUM, INSOMNIUM, ETERNAL TEARS OF SORROW といったフィンランドのバンドでした。ヨーテボリ生まれのオリジナルスタイルに、よりアトモスフェリックな味わいを加えた夢見る涙の登場。このニッチで魅惑のスタイルは当然厳寒を湛えた北欧のバンドに多く見られますが、不思議なことに陽光降り注ぐオーストラリアの5人組、BE’LAKOR は異世界のメロデスを特徴をさらに際立たせるため冒険的でプログレッシブな音の葉を注入し、南半球に知で凍てつく冬の寒さをもたらしています。
「最近の2枚のアルバム、特にこの “Coherence” ではスポークン・ワードがより大きな特徴になっているよね。本質的に、語り手を加えて物語を伝えるという感覚を大事にしたいんだ。私たちは、それを音楽に加えるのが好きなんだよね」
“物語のメロデス” で中心となるのは、山とそこに住む人々の描写です。 大きな山に住んでいる女性がいて、その山やその周辺に住んでいる別の人物の物語が、それぞれの楽曲で描かれていきます。 彼らはお互いを知らず、それぞれが自分の哀しみ、苦痛を語る中で人間にとって共通の課題が露わになっていきます。最後はこの山で育つ子供たちの物語。彼らはまだ人生の重荷を背負っていません。人生について学び、偶然にもアルバムの中で描かれてきた人物を見たり、会ったりする中で人生の現実を、世界を目の当たりにしていきます。
抽象度の高いジャケットアートとは裏腹に、”Coherence” は印象派の絵画のような流れを持つアルバムで、具体的なストーリーとビジュアルをまさに自分の目に映った印象そのままを投影していくような作品です。ただし、印象派によくある自然を題材にしたテーマと、メタルらしいファンタジックなテーマが巧みに融合している点で、アルバムの物語は彼らの音楽と完全にシンクロしています。メタリックなリフ・ワークとキーボードのアンビエンス、そしてピアノとアコースティック・ギターによる夢見心地なパッセージが溶け合う自然の中の群集劇。
BE’LAKOR はテンポや音色を変化させながら、カオスで凶暴な極寒から瞬時にプログ的傾向をより深め、アップテンポでメタリックな怒りやグルーブ感、アトモスフィアにアコースティック・バラードなど、さながら山々の四季のように多彩な変化を与えていきます。8章仕立ての長大なアンセムにも思える1時間の包括的な体験。だからこそ、”Sweep of Days” のようなメロデスの一閃が尚更切れ味をましていきます。「私たちは常に哀愁や慟哭を保とうとしてきたんだよ」
“The Jester Race” や “The Gallery” といった90年代の名作に魅了されたリスナーに愛されながら、NE OBLIVISCARIS や ALCEST のようなプログレッシブかつアトモスフェリックな領域に踏み込むことは決して簡単ではありません。しかし、彼らはやり遂げました。メタルの世界では、シンプルさと複雑さは敵対するものではなく、むしろパートナーとして機能しているのですから。
今回弊誌では、鍵盤奏者 Steven Merry にインタビューを行うことができました。「アルバムとしては “Damnation” がとても好きで、あれにはデスメタル・ヴォーカルが存在しないよね。でも、あのアルバムの曲はとても陰鬱で、聴く人を引き込むんだ。彼らの新しい作品は、少し面白みや魅力に欠ける気がするな」 どうぞ!!

BE’LAKOR “COHERENCE” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【WIZARDTHRONE : HYPERCUBE NECRODIMENSIONS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MIKE BARBER OF WIZARDTHRONE !!

“Children Of Bodom Played At Tuska Festival And Alexi Dedicated “Bodom Beach Terror” To Me And My Friends, And I Went Home To The UK Feeling More Motivated Than I Ever Had To Follow this path”

DISC REVIEW “HYPERCUBE NECRODIMENSIONS”

「私たちは基本的に過去15年間の音楽を無視していたんだよね。エクストリーム・ウィザード・メタルはうまく機能していると思うよ。レビュアーがこのバンドをパワー・メタル、メロディック・デス、テクニカル・デス、シンフォニック・ブラックと表現しているのをよく目にするけど、結局私たちの音楽はそれらのどれにも当てはまらず、すべての要素を少しずつ取り入れているんだよね」
WIZARDTHRONE は、宇宙から来たテクニカル・パワー・デス・シンフォニック・ブラック・メタルの名状し難き混合物で、いくつもの多元宇宙を越えた魔法使いの王。
カラフルで印象的な音楽性と純粋な不条理の間を行き来する複合魔法の創造性は、ALESTROM, GLORYHAMMER, AETHER REALM, NEKROGOBLIKON, FORLORN CITADEL といったメタル世界のファンタジーを司る英傑を依り代として生まれています。そうして、何百万光年も離れた銀河から地球に到達した彼らのデビュー・アルバム “Hypercube Necrodimensions” には、激しさと情熱、そして知性とファンタジーが溢れているのです。
「歌詞を見てすぐにはわからないかもしれないけど、このアルバムは、現代の政治的な音楽と同じように、同じくらい、強い声明を出していると思うんだよ。これは世界が悲しみと怒りに満ちている時代に作られた情熱と生命の祭典であり、作りながら僕たちにも未来への希望を与えてくれたんだ」
暗く歪んだ2020年を経て、メタル世界でも政治的な発言やリリックは正義の刃を構えながら確実に増殖しつつあります。メタルにおけるファンタジーやSFの役割は終わったのか?そんな命題に、GLORYHAMMER でも “ハンマー・オブ・グローリー” を手に暗黒魔術師ザーゴスラックスと戦う Mike Barber は堂々たる否をつきつけました。
「2007年にフィンランドを旅行した際、共通の友人から Alexi と Janne を紹介されたんだけど、彼らは親切で純粋で、何時間も私たちと一緒にいて、質問に答えたり、ビールを一緒に飲んだり、ミュージシャンになるためのアドバイスをしてくれたんだよね。翌日、CoB はTuskaフェスティバルで演奏し、彼はなんと “Bodom Beach Terror” を私と私の友人に捧げてくれたんだ。私は、この道を進むことにかつてないほどのモチベーションを感じながら英国に帰ったんだよ」
COB + EMPEROR などと陳腐な足し算ですべてを語る気はありません。ただし、未曾有のメタル・メルティングポットでありながら、ここ15年間の方程式をあえて捨て置いた WIZARDTHRONE の魔法には、たしかに亡き Alexi Laiho と CHILDREN OF BODOM の遺産が根づいています。
Mike と Matthew Bell (FORLORN CITADEL)。そのギターのデュエルは “Frozen Winds of Thyraxia” の凍てつくような風速を越えて、まばゆいばかりの爆発的なエネルギーをもたらします。さながら Alexi と Rope のコンビにも似た魅惑のダンス。タイトル・トラック “Hypercube Necrodimensions” では、その場所に ALESTORM や GLORYHAMMER の怪人 Christopher Bowes の高速鍵盤乱れ打ち、フォルクローレの瞬きが加味されて、”Wildchild” の面影がノスタルジアの星砂へと込められます。それは、テクデスのテクニカルな威圧をのみもってしても、パワー・メタルの勇壮をのみをもってしてもなし得ない、奇跡の瞬間でしょう。
一方で、”The Coalescence of Nine Stars in the System Once Known as Markarian-231″ の冷徹で黒々としたシンフォニックな響き、ナレーションを加えた “Black Hole Quantum Thermodynamics” のドラマティックなメタル劇場、”Forbidden Equations Deep Within the Epimethean Wasteland” の複雑を超越した音世界といった、様々なサブジャンルを予測不可能にシームレスに横断するハイパーキューブな黄泉の多次元体は、宇宙の真実を物語る現実を超えた壮大なサウンドに到達しているのです。もちろんそれは、メンバー各自が自身のバンドから持ち寄った “種” を育てた結果でもあり、スーパーバンドとしての理想形をも提示しているのではないでしょうか。
今回弊誌では、Mike Barber にインタビューを行うことができました。「サウンドよりも、彼らのアティテュードがこのアルバムの制作に影響を与えたと思う。ただし、タイトル曲には、CoB の解散に敬意を表して、明らかな影響をいくつか入れているよ。Alexi が亡くなってから、彼らは私にとってまた新たな意味を持つようになったんだ」 どうぞ!!

WIZARDTHRONE “HYPERCUBE NECRODIMENSIONS” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【NINE TREASURES : AWAKENING FROM DUKKHA】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ASKHAN AVAGCHUUD OF NINE TREASURES !!

“I Start Practicing Since 2018, Because I Had Pretty Negative Life Before That. I Wanted To Pool Out Myself From Anxiety And I Found That Buddhism Is Very Suit For Me.”

DISC REVIEW “AWAKENING FROM DUKKHA”

「実際のところ、僕たちの曲のほとんどは、モンゴルの歴史や神話をテーマにしたものではないんだよね。古い神話にインスパイアされた曲もあるんだけど、ほとんどの曲は、僕の考えや頭の中にある何かを表現したいと思って書いたものなんだ」
大草原、砂漠、馬、そして匈奴やモンゴル帝国といった母国の自然と歴史、神話をテーマにメタルを侵略したモンゴルのハン、THE HU, TENGGER CAVALRY。一方で、同じく蒙古の血を引く内モンゴルのフォーク・メタルバンド、NINE TREASURES は伝統を次の時代へ導く九連宝燈です。
「僕は内モンゴルのとても小さな街で生まれたんだ。間違いなく、確実にメタルにとっても “砂漠地帯” のね。まあそれでも、かろうじてメタルの CD はお店で買えたんだよね。信じられないだろうけど。僕は、人間はみんな自分の愛する音楽に出会う運命があると信じているんだ。僕にとってその運命の出会いが HURD をはじめて聴いた時だったんだ」
中国の内モンゴル自治区、小さな草原の街で中学教師の息子として育った Askhan Avagchuud は、METALLICA よりも影響を受けたという HURD の音楽を聴いてメタルに目覚めます。HURD はモンゴルにメタルを伝導した偉大なバンド。そうして彼は首都フフホトの大学に通いながら、北京に移ってからは働きながらメタルの道を追求していきました。
「バンドで生活費を稼げるようになるまで、両方を同時に続けるのはとても大変だったよ。世界の他の地域と同じように、中国でもライブだけで生活できるメタルバンドは少ないし、ここではまだアンダーグラウンドな市場なんだ」
転機が訪れたのは2013年。ドイツの名高いメタル・フェス “Wacken Open Air” のバンドバトルで2位を獲得したのです。モンゴルの代名詞とも呼べるモリンホール、そしてウクライナ発祥ロシアの叙情バラライカ。2つの伝統楽器を優美に奏でながら、朴訥としたエピック・メタルを熱演する NINE TREASURES の情熱は、いつしか南は台湾から北はウランバートルまでツアーを行うほどにその人気を確固たるものにしていきました。自然を呼び覚ますメタルのダンスでありながら、TOOL の知性や IN FLAMES の哀愁、時に琴の音色までを盛り込みながら。
「ほとんどのモンゴルのフォークバンドがホーミーの技術を使っているから、逆に僕は自分の歌い方を守った方がいい。そうすれば、観客に違う選択肢を与えることができるからね」
インタビューから伝わるように、Askhan は他のモンゴル由来のバンドほど母国の文化や伝統を重要視はしていません。それでも、神話や歴史を時に引用する彼の重厚な唸りは、モンゴル語の自然なトリルと有機的に結合し、得も言えぬ中毒性、草原絵巻をリスナーへと届けていきます。
「仏教に改宗するまではかなりネガティブな人生を送っていたんだ。だから2018年から仏門の修行を始めたんだよ。不安から解放されたいと思っていたところで、仏教がとても自分に合っていることに気づいたからね」
“Awakening From Dukkha” “一切皆苦からの目覚め” と題された NINE TREASURES の新たな作品は、ネガティヴに生きてきた Askhan が仏教に改宗し新たな世界観でフィルターをかけた、バンド再生のリレコーディング・アルバムです。古代モンゴルの詩に登場する9つの要素をその名に掲げた歴戦の勇者は、達磨に学ぶことで不安や社会、批判といった苦しみから解放されて、真の自由を感じることができました。
つまり “Awakening from Dukkha” は、彼らがこれまで丹念に作り上げてきたメタルとモンゴル、ロシア、中国のフュージョンを、清らかに血の通った仏の門で蒸留した未来への意思表明なのでしょう。きっと、自ら命を絶った TENGGER CAVALRY, NATURE G. の魂を携えながら。
今回弊誌では、Askhan Avagchuud にインタビューを行うことができました。「最近僕は日本語を学んでいて、来年日本に行く予定なんだ。2年前に日本でマネージャーを見つけたので、うまくいけば彼が日本に連れてきてくれるだろうね。とても興奮しているよ」 どうぞ!!

NINE TREASURES “AWAKENING FROM DUKKHA” : 9.9/10

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IN MEMORY OF ALEXI LAIHO: PAINT THE SKY WITH BLOOD


IN MEMORY OF ALEXI LAIHO 

PAINT THE SKY WITH BLOOD

Randy Rhoads, Stevie Ray Vaughan, Dimebag Darrell、Chuck Schuldiner、Eddie Van Halen。世界はこれまで、6弦の英雄たちに何度悲しみの別れを告げたでしょう。その夭折のリストに Alexi Laiho までが加わるとは、神様は非情で不公平です。いや、”死神” に魅入られてしまったと言うべきでしょうか。
何よりもまず、Alexi は現代のギターヒーローとしてメタル界の歴史に名を残すことになるでしょう。2009年には Guitar World 誌の読者投票で Best Metal Guitarist に選ばれました。ただし、彼は単なるシュレッダーではなく、メタルの最も暗く、最も極端な場所に、メロディーと華やかさを浸透させる誘惑の扉を開く先見の明もありました。CHILDREN OF BODOM で彼は、前人未到のジャンルの実験、ブラック・メタル、パワー・メタル、メロデス、クラシカル、スラッシュのフラスコを華麗なリードと “ファックユー” のアティテュードで煮詰め、将来のプレイヤーとなるべき世代にインスピレーションを与え続けたのです。SVALBARD の Serena Cherryの言葉は正鵠を得ています。
「ギタープレイをスポーツのように扱うギタリストがいるけど、Alexi はスピードと正確さを持ち合わせているだけでなく、彼の声が演奏に含まれていたの。 個人的には知らない人でも、ギターの演奏を聴いているうちに、その人のことを知っているように感じることがある。私の場合、Alexi がそうだったわ。ステージ上で弾くすべてのソロから、彼の個性がにじみ出ているのを感じたの」
Nita Starauss も同様に Alexi を崇めていた一人です。
「私は Vai や Satriani のシリアスなギタープレイにもハマっていたけど、ヘヴィーな音楽も好きだったの。だから、CHILDREN OF BODOM は両者の完璧な架け橋だったわ。キーボードとギターのハーモニーは、今でも私のソングライティングに大きな影響を与えているの。何より、ヘヴィーで、ブルータルで、それでも楽しいでしょ?そのやり方を真似しようとしているんだけど、誰も彼より上手くはやれないわね」
TRIVIUM の Matt Heafey にとって Alexi は完璧なギターヒーローでした。
「”Something Wild”, “Hatebreeder”, “Follow the Reaper” がなければ TRIVIUM の音楽性は変わっていただろう。さみしくなるよ、Alexi…」
DRAGONFORCE の Herman Li にとっては、素晴らしいライバルだったようです。
「モンスターのようなギタープレイと素晴らしい才能で、メタル世界に信じられないプレゼントを贈り続けたね。俺の世代では、最高のギタリストだと思い続けてきたよ。アプローチもアティテュードも最高だった」
Gus.G がはじめて雑誌の表紙を飾ったのは、日本の Young Guitar 誌で、Alexi と一緒でした。
「俺の世代最高のギタリストの1人。あの写真はよく覚えている。はじめての雑誌の表紙だったから。お互い ESP のギターを使っていたから、それからもよく交流していた。彼の新しいバンドを楽しみにしていたのに…」
あの Dave Mustaine にまで一目置かれていました。
「何度も一緒にツアーをやったな。素晴らしい才能の持ち主だったよ」

フィンランドのメロディック・デスメタル・バンド、CHILDREN OF BODOM のギタリスト兼ボーカリストだった Alexi は、2020年12月29日にフィンランドのヘルシンキにある自宅で亡くなりました。
41歳になった “ワイルド・チャイルド” は、人生の最後の数年間、長期的な健康問題に悩まされていました。SINERGY のバンドメイトで、死亡時の法的な妻であった Kimberly Gossは、Alexi の死因を “アルコールによる肝臓と膵臓の結合組織の変性” であったと明らかにし、救えた命だったと嘆きました。中毒という悪魔によって、以後彼のような才能を奪われることがないようにと心から願いながら。
「私の真の初恋の人。バンド仲間で親友でもあった。このパンデミックの中での光明は、一緒に過ごす時間の質の高さを得られたこと。私たちのマラソンのような FaceTime での通話、昼夜を問わず延々と続くテキストメッセージや電話は、永遠に私の心に残ることでしょう。
ステージの上でも外でも、一緒に過ごした人生を振り返ることができたこと、そして何年も変わらない友情を大切にすることができたという事実に、私はとても慰められているわ。
アリュー、私の心は満たされていると同時に傷ついているの。これほど長く豊かな歴史を持っている友について、何も語らないままでいられる人はそうそういないでしょう。あなたは私に安らぎを与えてくれたし、あなたの疲れた体がついに限界を迎えるまでの数ヶ月間、数週間の間、私の後悔の念をゼロにしてくれたわ。本当にありがとう。そしてこれからもずっとずっと愛しているわ。
あなたと Tommy (2012年に亡くなった元 SINERGY のドラマー) が天国で再び一緒になって、喜びと笑い声が聞こえてくるのが眼に浮かぶわ。
あなたを知り、愛していた私たちの心の中にあなたはいつまでも残り、あなたの遺産は、世界に祝福を与えた音楽の中で永遠に生き続けるでしょう。
目を閉じて、わたしのダーリン。ようやく安らかな眠りにつけたのよ。愛しているわ」

アーティストとしての Alexi の歴史は、幼馴染みである Jaska Raatikainen と INEARTHED というグループを結成した90年代中盤まで遡ります。INEARTHED は、CHILDREN OF BODOM に改名し、Spinefarm Records と契約するまでに3本のデモテープを録音していました。
当時の彼らを表現する一文に「時速100万マイルのパワーコードと、スウィープ・アルペジオ、ヴァイにインスパイアされたテクニック、そして感染力のあるリードを組み合わせた、ブルータルでありながら、メロディックで複雑なサウンド」とありますが、実に的を得た一文だと言えるでしょう。誰もが、疑いもなく、次世代のギターヒーローが登場したと確信したはずです。
「10歳のときにMTVを見ていたら、Steve Vai の “For the Love of God” のビデオが流れてきた。その時、俺は絶対にギターを始めなきゃならないと思ったんだ」
Alexi Laiho は、1979年4月8日、フィンランドのエスポーで Markku Uula Aleksi Laiho として生まれました。彼は幼い頃から天才の兆しを見せていて、4歳で父の聴く DIRE STRAITS で天職を悟りながら、5歳でバイオリンを習いはじめ、少年時代は主にクラシック音楽を聴いて過ごしました。そんな少年に神 Steve Vai は舞い降り、メタルという宗教に目覚め改宗するきっかけを与えたのです。
Alexi が11歳のとき、初めて父親がギターを買ってくれました。それは Tokai (トーカイ) の白いストラトタイプでした。ヘア・メタルの妙技に夢中になった彼は、Randy Rhoads, Jake E. Lee, Zakk Wylde といった達人の真似事をはじめました。
「いいギターだった。毎日、学校から走って帰ってきては、親に殴られそうになりながら、寝るまで弾いていたんだから」
高校時代、ギターへの執着をさらに強めた Alexi は、最終的には授業を休んで家で薪割りをしつつ、メタルやシュレッドのテクニックを教則ビデオから独学で学んでいったのです。
「何かを犠牲にしなければならなかった。俺にとってそれは学校だったんだ。母は僕が高校を卒業できないことを知っていたよ。でも、夢中になっていることで成功するように手助けしてくれたんだ」

Alexi は友人でドラムの Jaska と2人でジャムをしながら、後に INEARTHED、そして CHILDREN OF BODOM となる異形の基礎を作っていきました。ベルギーのレーベルと契約しましたが、よりビッグな Spinefarm Records が INEARTHED に興味を持ち、望ましい契約を申し出ました。ベルギーのレーベルとの契約から逃れるために、彼らは INEARTHED が解散してアルバムを出せなくなったとレーベルに伝えたのです。
そうしてフリーエージェントとなった彼らは、CHILDREN OF BODOM という新しい名前で “再結成” し、Spinefarm と契約を結びます。その契約は、Alexi とCOB のメンバーにすぐさま大きな変化をもたらしました。
バンドは1997年11月にデビューアルバム “Something Wild”を発表。アルバムを引っさげてツアーを行い、地元以外でも人気を高めることに成功します。熱狂的なソロ、壮大なシンフォニー、騒々しいコーラスがアドレナリンを爆発させる音楽。当時のトレンドとは真逆の、楽しく、必死で、まだ無名だったギタリストのやりたいことがすべて詰まったサウンド。トレンドやファッションに中指を立て、シーンの限界を拒んだのです。
「俺たちは本当に小さなアンダーグラウンド・メタルの世界にいたけど、そこで俺は間違いなく最高のギタリストだった。誰のケツでも蹴ることができたし、それが評価されたんだ」
一方で、ベーシスト Henkka Seppälä は COB の未来を信じられずにいました。
「自分たちのやっていることは本当に好きだったけど、同時に 、自分たちは何者なんだろう?この音楽は何なんだ?と思っていたんだ。大げさではなく、これは誰の趣味にも合わないものだと確信していたんだよね。でも Alexi は “Something Wild” のレコーディングが終わったとき、マスターCDをプリントしてそこにこう書いたんだ。”未来のゴールドセラー・アルバム”とね (笑)。もちろん、彼は冗談を言っていたんだけど。運が良ければ数百枚は売れるだろうと思っていたけど、10年後には実際にゴールドを獲得したんだ」
Alexi 自身はこの作品をこう評します。
「”Deadnight Warrior” と “Lake Bodom” …これらは実際に良い曲だったけど、それ以外は素晴らしいリフ上で俺が卑猥な言葉を叫んでいるだけだった。何も計画していなかったからね」


HYPOCPISY と COVENANT とのツアーでは、Alexi が少年時代にMTVで見たような、野性的なロックンロールのライフスタイルを実践していきました。
「タダでお酒が飲めるところなんてはじめてだった。あれは最高だったな。他のバンドと一緒に大きなバスに乗って、とても楽しい時間を過ごしたよ。彼らは、俺たちが演奏やパーティーのやり方を知っていることを確認すると、すぐに受け入れてくれたね」
1997年の10月、CHILDREN OF BODOM は DIMMU BORGIR ヘルシンキ公演で前座を務めました。DIMMU BORGIR は3枚目のアルバム “Ensrone Darkness Triumphant” をリリースしたばかりの大物で、会場となる “Lepakko” はロック界では伝説的な存在。Silenoz は当時のことを鮮明におぼえています。
「楽屋からオープニングバンドの演奏が聞こえてきた。Yngwie Malmsteen のような光速のサウンドだったよ。俺たちは外に飛び出し、その光景を見て、口を開いたまま立ち尽くしてしまった…」
1997年に Alexi と SINERGY を結成し、2002年に結婚することとなる Kimberly Goss はそのとき、DIMMU BORGIR のキーボード奏者でした。当時を振り返ります。
「私たちには秘密の言語があったのよ。1998年、一緒にエストニアに行ったとき、私たちは効果音、セリフも含めて “バック・トゥ・ザ・フューチャー” 一作目の言葉ですべて話していたの」

“Something Wild” をリリースした後、CHILDREN OF BODOM はさらに人気を高め、アンダーグラウンドにおけるメロディック・デスメタルの代表的な存在となりました。Alexi が鋭利な ESP ギターで刻んだ、高速難解なリフワークと目にも止まらぬトリッキーかつクラシカルなリードはバンドの代名詞として定着。
フィンランドのメタルは、90年代後半ルネッサンスの真っ只中にあり、HIM, SONATA ARCTICA, APOCALYPTICA, NIGHTWISH といったバンドが脚光を浴びはじめます。一方の COB は、ブレイクするまでに数年を要します。セカンド・アルバム “Hatebreeder”、日本でおそらく一番人気の “Follow The Reaper” は、”Something Wild” に盛り込まれたアイデアを基により洗練された楽曲を提示しましたが、フィンランドで1位を獲得しメタル界全体が注目するきっかけとなったのは、2003年の “Hate Crew Deathroll” でした。その年、彼ら”Finnish Metal Music Awards” で “Metal Band Of The Year” に選ばれ、ヨーロッパや日本でもヘッドライナーとして活躍することになります。最も重要なことは、NEVERMERE, HYPOCRISY, DIMMU BORGIR と共に、ついに初の米国ツアーへ名乗りを上げたことでしょう。

「このアルバムは、俺たちがようやく自分たちの道とスタイルを見つけた作品さ。それまでの俺たちは、ちょっとあちこちに行くような感じだったからね。自分たちが何をしたいのか探しているようなものだった。そして、”Hate Crew” でようやくそれを掴むことができたんだ。CHILDREN OF BODOM にとって最も重要なアルバムであるだけでなく、間違いなく最高のアルバムの一つだね。多くの人にとって、COBの最も好きなアルバムであり、それを責めるつもりはまったくないよ。自分で言うのもなんだけど、すごくいいアルバムだから。振り返って聴いてみると、ヤバいな、俺たち。こんな凄いアルバムを作ったんだ!ってなるからね」
アルバムのタイトルは Alexi お得意の邪悪なジョークの一つ。
「”Hate Crew “は、”CHILDREN OF BODOM “の別の言い方だ。COB のヘイトクルーは、常にギャングの側面を持っているからな。”Deathroll” は好きなように解釈してくれよ。戦争になると、必ず “死亡者リスト” が出てくる。また、これから殺したい人や、すでに殺した人のリストということもできる。みんなが自分で考えてそれを作ればいいんだよ」

2005年にリリースされた “Are You Dead Yet?” は、彼らをさらにレベルアップさせました。そして、遂に地球上で最もビッグなメタルバンドの1つ SLAYER が声をかけてきたのです。2006年の “The Unholy Alliance Tour” に招待されたのです。Kerry King は当時を懐かしみます。
「”Are You Dead Yet? “は、彼らのアルバムの中でも最も好きなアルバムだった。当時から、ヤツは未来だ、次のギターヒーローだと思っていたよ。見ていて『クソッ!』と思うような、努力を惜しまない人間なんだ。俺が一日中練習しているのに、まったく敵わねえと思ってしまうようなね」
LAMB OF GOD や MASTODON と並ぶ強力なラインナップに加わった CHILDREN OF BODOM は、ライブという戦場で果敢に SLAYER に挑みました。Kingも認めています。
「彼らは成功していたよ。俺は、惨敗したヤツらを見てきたからな。
彼らのセットリストはヘヴィーなもので、それは俺たちのオープニングとしては賢明なことだった。見ていて楽しいし、Alexi はギターの神様だったよ」
ツアーを振り返って、Henkka は Alexi を「パーティーを始めた人」「友達を作るのが上手い人」と表現します。それまで自分がアイドルだと思っていたバンドと一緒に行動することにも臆することはありませんでした。
「多くの人は、Kerry と一緒にイェーガーを飲み始めるというトリックに陥る。Kerry は大きな耐性を持っているのにね (笑) Alexi が Kerry の部屋から運び出された夜もたくさんあったよ。”ヘイトクルー” のメンバーになりたい人は、ツアーバスのバックラウンジに来て、裸になって逆立ちをしなければならないという儀式があった。そして口にウイスキーを注ぐんだけど、必ず鼻に入ってしまうんだよ(笑) 少なくとも Randy Brythe はその後、タトゥーを入れたから、儀式をやって公式にヘイトクルーになったはずだよ(笑)」

MASTODON のドラマー/シンガー Brann Dailor はこのツアーが基本的にサマーキャンプだったと言います。
「COB のメンバーはウォッカを何ケースかもらうはずだったんだけど失敗してラム酒をもらってきた。彼らは、「もういいや、ミキサーを買おう」と言っていたね。全員が休暇中のような帽子をかぶり、バスの中でラム酒のブレンドドリンクを作ったんだ。バスの中は、まるでステロイドを使った MOTLEY CRUE 82年版のようでね。彼らが聴いていたのは80年代のヘア・メタルばかり。SKID ROW や WINGER だよ。俺は、「もうこのバスから降りなければ!なあ、BON JOVI はもう聴きたくないよ、みんな!」って感じさ」
時おり見せる邪悪なユーモアも、やはり Alexi の魅力でした。
「ブリットポップのクソ、OASIS…あんなものは大嫌いだ。PEARL JAM のように、音楽が泣き言や不平不満に聞こえるようなバンドもね。あのボーカルの声には、かなりイライラさせられるね」また、Britney Spears の “Oops!… I Did It Again” や Bananarama 1984年のヒット曲 “Cruel Summer” をカバーすることで、メタル純粋主義者を愚弄することに喜びを感じているようでもありました。
“Hate Crew Deathroll”(2003), “Are You Dead Yet?” (2005), の成功により、CHILDREN OF BODOM はエクストリーム・メタル界にその名を轟かせ、Alexi は念願の国際的な評価を得ることになりました。
Alexi を知る人たちは、彼のことを物腰の柔らかい穏やかな心と、無謀で自発的な一面を併せ持つ、周囲の誰よりもパーティーを盛り上げる “ワイルド・チャイルド”と表現しています。
「彼の芸術は残忍で攻撃的だったけど、それは猛烈で大きな心を持った優しい男の一面に過ぎなかった。俺にはいない、兄のような存在だっよ」と語るのは、RECKLESS LOVE のフロントマンで、グラムロックのトリビュートアクト THE LOCAL BAND で Alexi と共にプレイした Olli Herman。

しかし、バンドが世界的な成功を収めたことで、皮肉にも Alexi はその成功を保つためのプレッシャーから自己破壊的な行動へ走るようになり、才能多き若きエースは多大なダメージを肉体や精神に蓄積していくこととなります。
“Are You Dead Yet?” は、COB にとってメインストリームへの最も大胆な挑戦であり、バンドの知名度を高めたにもかかわらず、ファンからは様々な反応がありました。2008年には “Blooddrunk” を発表。このレコードは COB の成長が停滞しているという印象を払拭するためには不十分な作品でした。さらに、Alexiの健康状態が懸念され、出演をキャンセルするケースが相次ぎます。
Alexi のキャリアは約25年に及びますが、その間、孤独なギターヒーローはドラッグやアルコール、うつ病と常に戦っていました。それらの悪魔が原因で、北欧のネオクラシストはあまりにも多くの恐怖を経験し、骨を折り、病院へ担ぎ込まれています。1998年末、19歳の Alexi は、30種類の精神安定剤と数杯のウイスキーを摂取してゆるやかな自殺を図っています。
「子供時代は大丈夫だったけど、17歳くらいになると頭がかなりおかしくなっていった。友人が床に倒れている俺を見つけ、病院に連れて行ってくれたんだ。俺は決して良い状態ではなかった」と2005年に語ったように。強まる自殺願望。その一件は単なる始まりに過ぎませんでした。
「どんどん気分が悪くなっていった。薬を飲んでから数年後、精神的に完全に参ってしまい、1週間ほど入院したことがある。それが3度目の入院だった。人生で最悪の気分だったよ」
危険な状況はエスカレートしていきました。2006年、”ワイルドチャイルド” は、酒に酔って車の上から転落し、手首を骨折。修理が必要なのは彼の腕でした。
「友達がボーリングをしていて、ホワイトロシアを飲んでいたんだ。ストライクが出て、俺はちょっとしたダンスか何かをやったんだけど、酔っ払っていたから滑ってしまった。何かの拍子に逆さまになって、左肩に着地したんだ。最初はみんな笑っていたし、俺も笑っていた。すると突然、肩が大きく腫れ上がり、腕を骨折したことを知ったんだ」

骨折の回復は決して早いものではありませんでした。骨が正常に治癒していないため、6週間にわたって左腕はスリングで固定され、その後は演奏できるようになるまで数ヶ月間、厳しい理学療法を受ける必要がありました。ギタリストにとっては気が重くなるような出来事でした。さらに運が悪いことに、崇拝していたギタリストZakk Wylde, Steve Vai と一緒に Guitar World 誌の表紙を飾る予定がありました。
「正気の沙汰じゃなかった。断ることができなかったから、腕にギブスをして、目の周りをきれいにしてもらったんだ。もうあんな経験はこりごりだよ。まあ、ボウリングや酒はやめていないけどね。でも、もう十分に自分の体を壊したよ。骨折もしたしね」
Zakk Wylde は、その思い出に苦笑します。
「彼がギブスをしていたのを覚えているよ。まるで結婚式の準備をしている女の子のようで、人生最大の日なのに、結婚式の写真を撮る時に腕が折れて目が黒くなっているようだった。面白かったよ。最高だった」
不幸なことに、ボーリング以外にも体への負担は続きます。2年後、COB のツアーバスで運転手が急カーブを切ったとき、寝台から投げ出されて肩を骨折したのです。この事故は飲酒が原因ではありませんでしたが、年齢のわりに Alexi の体がますます脆くなっていたことを示唆しています。
Alexi は、これらの出来事によって、自分の体がダメージを受けていることを十分に認識していましたが、おそらく最も大きな衝撃は、2011年カリフォルニア州アナハイムで開催されたNAMMコンベンションでの体調悪化です。二日酔いのせいだと思って様子を見ていましたが、出血と嘔吐は9時間も続きました。病院では医師から驚くべき診断を受けました。
「潰瘍ができていて、かなりひどかった。内臓を吐いていて、それが止まらなかったんだよ。吐き続けて、まったく我慢できなかった。4日ほど入院しなければならなかったね。水分補給のために大量の点滴を受けたよ。史上最悪の事態だった。本当だよ」

幸運にもこの時は生き延びることができましたが、Alexi はハードなパーティーと中毒という悪魔にツケを払う必要を実感していました。
「胃に永久的なダメージはないと言われたけど、解毒して過度な飲酒の習慣から抜け出さなければならなかった。毎日ウイスキーを5杯も飲む必要はないと思ったね」
入院したからといって、Alexi が自分のやり方を完全に変えることはありませんでした。
「入院したのはいいことだったよ。退院してからはあまり飲んでいない。ビールを数本飲む程度だ。あちこちでビールを飲むくらいで、ハードな酒は完全にやめた。ショットを飲むなんて考えたくもないね。永遠にやめるというわけではないよ。ただ、今は考えていないだけだ。俺はいつも、困難な方法で物事を学ばなければならない運命なんだ。ただ、このままではいけない、もっと自分を大切にしなければならないと気づかされたね」
ANNIHILATOR の Jeff Waters は悔やみきれない様子です。
「Alexiとは最初から意気投合した。互いの演奏を愛してたから。最初はどうやって酒をやめたの?と助けを求めたけど、結局他の中毒者と同様酷い状態に戻り、俺に話しかけなくなった…でも心底ヤツは酒や薬と手を切ることを望んでたんだ。寂しいね…助けを求めるのは恥じゃないよ」
何年にもわたって、Alexi は自らのうつ病や音楽の背後にある精神的な混乱について、いつも率直に語ってきましたが、彼はしばしば、最も暗い瞬間を乗り越えさせてくれたのはバンドだと主張しましていました。
「何かを失うことを恐れるとしたら、ギターを弾くことが真っ先に思い浮かぶんだ」
2011年の “Relentless Reckless Forever”のインタビューでは、Alexi の精神状態が話題になりました。ただ、このアルバムは、2003年の “Hate Crew Deathroll” のように、鋭く、技術的に優れた作品になったと評価されただけでなく、フロントマンの状態もずっと良くなっていました。
「いつもと同じライフスタイルを続けることはできない 。朝、起きてからウイスキーを1本飲むこともできない。大げさだけど、いつの間にかかなりハードになっていて、それに気づかなかったんだ。人としてもミュージシャンとしても機能していたし、ショーを台無しにしたこともなかったけど、落ち着いて、自分を大切にしなければならないと気付いたんだ」

時に、Alexi はグループ内の不和をほのめかすこともあり、ギタリストの Roope Latvala には必要な「労働倫理」が欠けていると主張したこともありました。結局 Roope は2015年に COB を脱退し、バンド最後の作品 “Hexed” で後任 Daniel Freyberg の登場を予告したとき、Alexi はこう説明しています。
「俺たちの残りのメンバーは…子供の頃からお互いを知っている…20年間一緒にツアーを続けてみてみなよ。そうすれば、時には結婚生活のように、くだらないことで口論になってしまうこともあるということがわかるだろうね」
“Hexed” では “Follow The Reaper” で完成させたようなネオクラシカルな要素を再び取り入れましたが、より筋肉質になり、パンチの効いたクランチーなリフ、メロディックなバック・アレンジがよりシームレスに融合していました。批評家たちはこのアルバムを「ルーツへの回帰」と評しましたが、Alexi はその事実をいつものように軽妙に認めました。
「俺たちは何度もそこに戻っているように見えるけどね」
そうして CHILDREN OF BODOM は、Alexi がアナハイムの病院に入院した後もレコーディングやツアーを続け、後期の作品では若返りも感じられたもののバンドは2019年に解散を発表します。彼らの最後のライブは、12月15日のヘルシンキ・アイスホールでした。Henkka は昨日のことのように回想します。
「いつも通りのことをやった。ショーの前にはフィストバンプをして、ショーの後にはハグをして、また会おうと言ったよ。みんな喜んでいたし、気分も良かった。もちろん、もう二度と一緒に演奏することはないとわかっていたから、悲しい気持ちもあったけどやり遂げたんだ」

著作権の問題でCOBの名前を使い続けることができなかった Alexi は、新バンド BODOM AFTER MIDNIGHT を結成し、自身のキャリアの新たな章を始める準備を行います。2020年10月には、フィンランドで3回の小さなライブを行いました。COB時代からの盟友 Daniel は悲しげに語ります。
「Alexi はとてもオールドスクールな人物で、リフとメロディーだけもってスタジオにあらわれ、それをメンバーに見せて膨らませていくんだよ。そうやって、レコードを書き始めて、今年レコーディングして、2022年にリリースする予定だったんだけど、そうはならなかったんだ…彼はとても興奮していたよ。新たな意欲とモチベーションを持っていて、自分がまだ頑張れることを示したかったんだ」
「彼は小さなクラブでのライブをとても喜んでいたわ」と Kimberly も同意します。「彼は、派手さなんていらないと思っていたのよ。演奏はシャープで、歌も素晴らしく、新しいラインアップはキラー。彼は、あのライブがこの世に存在する最後の3つのライブになったことをとても誇りに思っているでしょうね。自分のルーツである小さなクラブ、素晴らしいエネルギー、新しいパワーに戻ったのだから。アルコール依存症や薬物乱用の問題で苦しんでいる人は助けを求めて。彼と同じ運命をたどる必要はないわ。誰かが手を差し伸べるのは愛情から。依存を助長するような人たちに囲まれないようにしてね。彼の死を無駄にしたくないの。だからAlexiを教訓に一人でも多くの命が救われればと願っているのよ」
BODOM AFTER MIDNIGHT に残した僅かなレコーディングの一つ、”Paint The Sky With Blood” は空を真っ赤に染める Alexi の新たな野望を象徴した楽曲でした。生き様でした。まさに遺音。メンバーは誇りを持って、再度獣を檻から放ちました。
「俺たちと同じように、Alexi もバンドの曲に熱中していたし、この曲を発表することを待ち望んでいた。だから、彼の願いを叶えることができて嬉しいね。言うまでもなく、俺たちは彼の最後の創造物の一部となれることを光栄に思い、誇りに思っている。Alexi の音楽、遺産、そして彼自身を称えるために、もう一度、獣を檻から解き放つ時が来たんだよ」
Alexi が無人島に持っていくレコードを聞かれたとき、「無人島でパーティーがあったときのために」と、Andrew WKの “I Get Wet” を選んだのは楽しい逸話でした。彼が今、どこにいようと、あのアルバムを大音量で聴いていることは間違いないでしょう。
最後に Alexi の言葉を置いておきましょう。
「賞や賛辞のためにこの仕事をしているわけではないんだよ。音楽のため、そして演奏することを愛するためにやっているんだ。それだけだ」

参考文献:GUITAR WORLD: THE LIFE AND TIMES OF ALEXI LAIHO

LOUDER SOUND:Alexi Laiho: the blazing life and wild times of a modern metal hero

NME:RIP, Children of Bodom’s Alexi Laiho: Finnish metalhead with a wicked sense of humour

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【COUNTLESS SKIES : GLOW】2020’s OPETH FROM UK


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JAMES PRATT OF COUNTLESS SKIES !!

“Maybe, Some Of The People Who Miss The Death Metal Elements Will Enjoy Glow. I Think If Nothing Else, It Has The Diversity That Was Found In Early Opeth.”

DISC REVIEW “GLOW”

「”Glow” では、プログの要素をより多く取り入れて、他の音楽からの影響も取り入れた。僕は今も自分たちのサウンドを保ちたいと願っているんだ。ただし、新たなダイナミックな方法でね。今は自分たちのサウンドを見つけ始めていると思う。」
メロディックデスメタルは多くのファンに愛されるジャンルですが、あまりにそのサウンドが明確なため、90年代初頭の予定調和が繰り返されるだけという側面も否めません。実際、21世紀以降、この場所に新鮮な空気を持ち込んだ異能は数少なく、DARK TRANQUILLITY, INSOMNIUM, OMNIUM GATHERUM といった創始者に近い英傑たちに進化を委ねるしかありませんでした。
「僕たちは BE’LAKOR の大ファンなんだ。彼らは、自分たちの良さの基本を守りながら、常に変化し、新しいサウンドを探求しているバンドだからね。彼らの最新アルバム “Vessels” は、音楽的にも非常に異なるものになっている。」
僅かな例外の一つが BE’LAKOR で、彼らのプログレッシブな旅路が多くの後続を勇気づけたことは間違いありません。北欧のメランコリーからかけ離れた高級住宅街、イングランドのハートフォードシャーに現れた COUNTLESS SKIES もそんなバンド一つです。BE’LAKOR の名作 “Stone’s Reach” のファイナルトラックをバンド名に戴き、彼らの最新作 “Vessels” と自らのデビューフル “New Dawn” のリリースデートを合わせこむ COUNTLESS SKIES の BE’LAKOR 愛は本物。ただし、受け継いだのは音楽性そのものではなく、挑戦者の哲学とスピリットでした。
「有能なバンドを際立たせているのは、メタルをはるかに超えたところから影響を受け取り入れる能力だと思うからね。プログメタルは、他のジャンルのように特定のサウンドに限定されていないから好きなんだ。僕たちはメロディックデスメタルの観点からプログレッシブメタルに取り組んでいるんだ。」
BE’LAKOR や INSOMNIUM に薫陶を受けたデビュー作はあくまでプロローグに過ぎませんでした。オペラティックな歌声、プログレッシブな楽曲構成、メタリックな感性を刺激するテクニカルな嘶き、そしてストリングスやクワイア、メロトロンの優雅で重厚なノンメタルな響き。その全てがタペストリーの如く、メロディックデスメタルの下地へと幾重にも重ねられていきます。
「今回はオーケストラの要素がとても楽しかったね。使用した楽器は、それぞれの曲のアイデンティティーの大きな部分を占めていると思う。」
英語には Glow と Grow Up を掛け合わせて「大きく変貌を遂げる」という意のスラング Glow Up が存在しますが、COUNTLESS SKIES の最新作 “Glow” はまさに Glow Up な傑作です。
ブラストビートに重なる ANATHEMA、メロデスの DEAFHEAVEN とでも形容したくなる鮮烈なオープナー “Tempest” は、”We’re Here Because We’re Here” と同種の希望やエナジーをもたらすオレンジの嵐。BLIND GUARDIAN のゴージャスさえ纏った “Summit” の一方で、INSOMNIUM 直系の獰猛とメランコリーを伝える “Moon” はエセリアルなピアノの響きと共にバンドの出自を示し、夕映えに佇む月の哀愁を物語るのです。
「デスメタルの要素を恋しく思っている人たちの中には、”Glow” が楽しめる人もいるかもしれないね。何より、初期の OPETH に存在した多様性を持っていると思うから。」
極め付けは、3楽章20分から成るタイトルトラックでしょう。メロトロンにストリングス、フォーキーなダンスに現代的アトモスフィア、エアリーなハーモニー、そのすべてを抱きしめ OPETH の哲学で裁縫した空の織物は間違いなく20年代を代表するプログエピックでしょう。プログメタルとメロデスが鬩ぎ合いながら幕を引くエンディングは鳥肌もの。もちろん現存するバンドですが、それでも2020年の OPETH と信じたいほどに遺産を気高くアップデートしているのです。
今回弊誌では、リードギタリストにしてコンポーザー James Pratt にインタビューを行うことができました。「BLMを公に支持している人々に対する反発が大きかったことを覚えているよ。ああいった混乱の時には、人々と関わることが大切だと思うね。偏屈な人は常に存在するけれど、中には誤った情報を持っている人もいて、なぜそれが重要なことなのか、きちんとした説明を必要としている人もいるんだから。」FORWARD. THINKING. METAL.は空に映える。どうぞ!!

COUNTLESS SKIES “GLOW” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【AVATAR : HUNTER GATHERER】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JOHANNES ECKERSTROM OF AVATAR !!

“On One Hand It Is Obviously True We Do Things In a Very Theatrical And Bombastic Manner. On The Other The Most ipmportant Asset to Any Stage Performer Is His Eyes. We Never Want To Lose Focus On The Humanity On Stage And In The Interaction With The Audience.”

DISC REVIEW “HUNTER GATHERER”

「僕たちがやっていることにはある種の二面性があるということじゃないかな。一方では、非常に芝居がかっていて、大げさなやり方でやっている。それは明らかな事実だよ。 でもその一方で、舞台のパフォーマーにとって最も重要な財産は自分の目なんだ。舞台上においても、人間性にフォーカスすることや、観客との対話を決して失いたくはないからね。」
RAMMSTEIN からリック・フレアー、果てはスタンリー・キューブリックまで、芸術における “シアトリカル” を濃縮したメタルのライジングスター AVATAR は、そのエピックを敷き詰めたステージにおいても人間を見つめる “目” の価値を忘れることはありません。
70年代に Alice Cooper がロックと演劇を一体化させて以来、KING DIAMOND, MARILYN MANSON とそのシアトリカルな血脈は絶えることなく受け継がれ続けています。20年近くに及ぶキャリアの中で、ゆっくりと、しかし確実にメタル世界で最も創造的かつ興味深く、予測不可能な集団の一つに成長した5人のクラウンは、そのショックロックの遺伝子にジョーカーの狂気を継ぎ足して北欧からジャンルや境界線の予定調和を打ち破ってきました。
「”Mad Max” は、たしかに僕たちが今向かっている道の一つかもしれないね。だけど “スタートレック” のシナリオだって存在するはずなんだ。強い意志があって、一時的な犠牲を払う覚悟があれば、この問題を解決できる可能性はある。僕たちの歌に描かれる、世界全体を通して繰り返し起こる大きな問題は、僕たちの道に立ちふさがっている。でも最終的には、誰も僕たちの正しい行動を止めることはできないんだよ。」
確かな “目” を備えた AVATAR にとって、この呪われた2020年に “Black Waltz” のサーカスや、”Avatar Country” の幻想的な旅路を再現することは不可能でした。かつて完全に想像の産物であった世界の終末、ディストピアを肌で感じた現代のアバターは、そうして破滅のシナリオを回避するためのレコード “Hunter Gatherer” を世に送り出したのです。
たしかに、虹やドラゴン、聖剣の妄想で現実から逃れることは難しくありません。しかし、マッチの炎が消えた暗闇には冷徹な現実が残されます。AVATAR はそれよりも、闇に直面し、闇を受け入れ、世界をあるがままに受け入れる道を選びました。彼らのトレードマークでもある毒舌家で生意気なアティテュードも、ダークで怒りに満ちた人間性をシニカルに表現するレコードとピッタリ符号しました。
「この不確かな時は、僕たちが近年の自分たちよりも (闇や権力との) 対決姿勢を深めた理由にも繋がるんだよね。その対決姿勢は過去から現在までのメタルアルバムたちにも言えることだと思うんだ。僕たちメタルバンドはみんな、様々な方法で闇を探求し、闇に立ち向かう傾向があるから、暗い時代において僕たちの音楽は重要な役割を果たすわけさ。」
つまり、2020年の呪いはメタルが解くべきなのでしょう。Devin Townsend の “Deconstruction” の邪悪なグルーヴと THE HAUNTED の暴走がシンクロするオープナー “Silence in the Age of Apes” でテクノロジーの盲信に唾を吐き、GOJIRA のグルーヴにシンガロングを誘うビッグなコーラスを織り込んだ “Colossus” でディストピアの悪夢を描く “Hunter Gatherer” のワンツーパンチはいかにもシニカルです。
マカロニウエスタンな Corey Tayler の口笛からパンキッシュに疾走する “A Secret Door” はまさに AVATAR を象徴するような楽曲でしょう。ステージにおいてシアトリカルであることを指標する彼らにとって、物語りの豊かさは切っても切り離せない能力です。60年代のストーリーテラー Leonard Cohen, Willie Nelson のカントリーフォークとダイナミックなメタルはそうして AVATAR の胎内で出会いました。もちろん、インタビューに答えてくれた Johannes が敬愛する BLIND GUARDIAN にしても、ストーリーを大仰に伝える才能は群を抜いていましたね。
かつてデスメタルの本質は凶暴なリフやスピードよりもグルーヴと語った Johannes の本領が発揮された “God of Sick Dreams” はパワーメタルと結びついてバンドの新たなアンセムとなり、一方で “Justice” の叙情と哀愁は日本のファンにも大いにアピールするセレナーデでしょう。
極め付けはレコードで最も多様な “Child” で、マーチングバンドから激烈なメタル、求心的なコーラスにカオティックなジャムとアコースティックなアウトロそのすべては、ロボトミー手術が正当だと信じられていた時代の悲哀と愚かさを演じるためだけに存在します。時を経た2020年、常識と情報、そのすべては盲目に信じられるものなのでしょうか?
今回弊誌では、稀代の演者にしてボーカリスト Johannes Eckerström にインタビューを行うことが出来ました。「鳥山明から黒澤明、村上春樹からタイガーマスク、上原ひろみから tricot まで、日本からの多くの創造的な衝動が、僕の個人的でクリエイティブな旅を形作ってきたんだ。」Babymetal との US ツアーでも話題に。ギター隊の常軌を逸したハイテクニックも見逃せませんね。どうぞ!!

AVATAR “HUNTER GATHERER” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE BLACK DAHLIA MURDER : VERMINOUS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TREVOR STRNAD OF THE BLACK DAHLIA MURDER !!

“We Did Come Up During The Age Of Swedish Influenced Metalcore ala As I Lay Dying, Unearth, etc And Did Get Lumped In With That Genre a Lot But I Don’t Personally Believe We’ve Ever Been That. It’s Always been Death Metal To Me. “

DISC REVIEW “VERMINOUS”

「僕たちが登場したのは AS I LAY DYING とか UNEARTH のようなスウェーデンの影響を受けたメタルコアが勃興した時期だったね。そして確かにメタルコアのジャンルによく分類されてきたよ。
だけど、個人的には僕たちがメタルコアだったことはないと信じているんだ。ただずっとデスメタルであり続けただけなんだ。」
THE BLACK DAHLIA MURDER のおよそ20年のキャリアは、誤解を振りほどくための飽くなき闘争だったのかもしれません。無残な猟奇事件の被害者、ブラックダリアの名を冠するデスメタルバンドにとって、登場した時期、場所、人脈すべてが本質とは少しずつかけ離れ理想と乖離しながら得た名声は、70年前の事件と同様ミステリーだったのかも知れませんね。
ただしバンド、いやもやはメタルシーン全体のご意見番として定着した Trevor Strnad がデスメタルのタグに拘るのは、メタルコアのフォーミュレイクな音楽性云々以前に、アンダーグラウンドメタルへの深い愛情が理由であるはずです。
「だって僕たちはアンダーグラウンドミュージックを愛しているからね。僕たちの音楽はアンダーグラウンドミュージックへのトリビュートさ。僕たちが達成した成功は、自分たち自身の条件に妥協することなく基づいているからね。」
BRING ME THE HORIZON が恐れなきその眼差しでジェネリックポップを抱きしめ自らの理想をメタルの新聖歌へ昇華したのとは対照的に、THE BLACK DAHLIA MURDER はエクストリームであり続けアンダーグラウンドを追求することで自らの理想を鋼鉄の大樹へと刻むのです。
「僕たちのメタル文化は社会の大部分から過小評価されているけど、計り知れない強さを持ち、宗教の束縛なしで自由に生きることができるコミュニティーなんだ。」
Trevor にとって、理想的なメタルヘッズとは今でも主流の対岸に位置し、偏見なく音楽ひいては社会の常識や欺瞞を疑う監視者。つまり、権力や主流派にとっては知識という疫病を運ぶ害虫であるべきなのでしょう。ゆえに、当然 “Verminous” “害虫” の名を冠した最新作は新たな反抗の幕開けです。
「僕はこのバンドが何年もかけてより3次元的なサウンドへ、自然に進化を遂げていったと思っているんだ。だから今ではバンドとしてダイナミズムを出すために何をするべきか完全に理解しているんだよ。まさに多様性の力だね。」
あの運指マシーン Ryan Knight を凌ぐほどに燦然と輝く Brandon Ellis の加入と共に前作 “Nightbringers” で芽生えた創造の羽は、”Verminous” において漆黒の大翼として下水道の闇に君臨します。
皮肉にも、”形式的” “一辺倒” を揶揄するために TBDM を含むかつてのメタルコア一派が称された “任天堂サウンド” は、彼らの臓腑の奥底でゲーム音楽が本来有するダイナミズムと万華鏡の音の葉を強調し始めることになったのです。
「確実に僕の書く歌詞はロールプレイングゲームのファンタジーサイドから影響を受けているよね。任天堂のクラッシックなゲーム音楽はメタルと様々な相似点が存在するし、僕たちが書いている音楽もそこから影響を受けているんだよ。」
ドラマティックでシネマティック、より感情的に喚起される作品が書きたかったと語る Trevor。実際、”Verminous” は切り裂きジャックや吸血鬼が主人公ですが、彼が敬愛するドラゴンクエストやファイナルファンタジーに勝るとも劣らないファンタジックな猟奇譚で、好奇のローラーコースターでしょう。
メロディックデスメタルはもちろん、スラッシュ、プログレッシブ、クラシカル、さらにはドゥームの鼓動まで感じさせるレコードのカラフルでムーディー、カリスマティックなイメージは、洗練と地下水脈をまたにかける THE BLACK DAHLIA MURDER にのみ許された秘伝、調合の魔法に違いありません。同時に、体内の害虫は貪欲にに肌を食い破り、変わらぬ凶暴を見せつけるのです。
今回弊誌では、Trevor Strnad にインタビューを行うことができました。「僕は特にレトロゲームを愛しているんだ。フェイバリットは、ドラゴンクエストとファイナルファンタジーシリーズだね。昔の16bit とか 8bit の時代が大好きなのさ。
ゲーム機ならファミコン、スーパーファミコン、メガドライブ (セガ) が絶対的に好みだね。中でもオリジナルのファミコンが最高さ!」 どうぞ!!

THE BLACK DAHLIA MURDER “VERMINOUS” : 9.9/10

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COVER STORY【AMON AMARTH: GUIDE TO VIKINGS】DOWNLOAD JAPAN 2020 SPECIAL !!


COVER STORY: AMON AMARTH

“Okay, So If Vikings Didn’t Have Horns On Their Helmets, Why Did We Have Them On Our Drum Riser? Amon Amarth Is a Show. It Makes For a Good Stage Prop To Have Horns, Even Though It’s Not Historically Accurate.”

JOHAN’S GUIDE TO VIKINGS & NORSE MYTHOLOGY

AMON AMARTH がヴァイキングの歴史、北欧神話、そして壮大な戦闘絵巻について書いた最初のメタルバンドという訳ではありません。それでもこのストックホルムの5人組は、世界で最もヴァイキングをイメージさせる雄々しき邪神です。
過去4半世紀にわたって、彼らはムーブメントの創始者でさえ想像も成し得なかったオーディンメタルを紡いで来ました。ビルボードデビュートップ20、ワールドツアー、さらにはモバイルビデオゲームまで、その社会的影響と成功、さらにアリーナを熱狂に巻き込むライブパフォーマンスを鑑みればネクスト IRON MAIDEN の座を確約されているように思えます。
純粋性という観点で言えば、AMON AMARTH は真のヴァイキングメタルではないかもしれません。ブラックメタル第一波の先駆者である BATHORY がサタンを称賛しなくなり、異教のルーツを受け入れたように。そう、アトモスフィアと剣撃を配置した新たな BATHORY の音の葉は、後にヴァイキングメタルのトレードマークとなる魔法を含んでいました。

90年代半ばから後半にかけて、UNLEASHED, ENSLAVED, EESIFERUM, ELUVIETIE はヴァイキングの旅団に加わり、ブラックメタルを北欧民族の神話や伝承、神から得る知恵と力、怒りの海を股にかける航海、暗く危険な森、死との戦い、ヴァルハラの門を越えた永遠の生といったテーマに憑依させました。
対照的に、AMON AMARTH は、AT THE GATES や DARK TRANQUILLITY といったスウェーデンのメロディックデスメタルをスタート地点としています。故に、先述のヴァイキングメタルパイオニアとは毛色が異なります。しかし当初から、ボーカリストの Johan Hegg はヴァイキングの祖先に魅了されていました。彼は詩的な民間伝承を知っていて、コロンブスが到達する500年前の北アメリカの海岸線へのヴァイキング遠征と、ウクライナとロシアへの9世紀の探検を深く研究していたのです。

実際、フロントマン Johan がヴァイキングに注ぐ情熱は並々ならぬものがあります。
AMON AMARTH でバンドメイトを率いるだけでなく、彼は “バイキング時代の文化からインスピレーションを得て解釈された” ヴァイキンググッズのレプリカを製造しているGrimfrost という会社を共同所有している程なのですから。Johan はラグナル・ロドブロークの伝説と空想の狭間で語られる大人気のテレビドラマ “ヴァイキング-海の覇者たち-” についてこう語っています。
「本当に良いショーだと思う。他にはバーナード・コーンウェルの本に基づいた “最後の王国” と呼ばれる別の素晴らしいシリーズもあるね。
ヴァイキングは明らかに歴史の中で自由を謳歌しているけど、彼らは物語を本当にうまく構築し、キャラクターを非常に客観的に描写したと思うな。必ずしもヴァイキングを善悪の二面性のみで演じるわけではなく、多面性を描いている。それはヴァイキングを描写しようとする以前の試みには欠けていたものだ。それまでのテレビドラマは戦い、性交し、飲む!の1次元的なものだったからね。」


ヴァイキングに関する誤解にも言及します。
「3つの大きな誤解があると思う。まず、ヴァイキングのヘルメットには角がなかったんだ。実際のヘルメットは俺が知る限り3つしか見つからなかったから、実際の姿は知る由もないんだよ。おそらくヘルメットは手作りで、異なる装いがあっただろうが、当時の描写はどれもホーンを身に着けていなかったんだ。19世紀からそんな描写になったみたいだよ。
ヴァイキングが大群で略奪する殺人集団だったというのが2つ目の誤解。たしかに彼らはそういった行いもしたけれど、それは他の戦争で他の人々が行う略奪と同じようなものだった。彼らはただ異なる戦術を持ち、戦闘に非常に長けていただけなんだ。まあもちろん、旅と戦いと流血はメタルに最高にハマるんだけど。
3つめの誤解は、彼らが汚れていて臭い獣だというイメージ。実際は、ヴァイキングはとても良好な衛生状態を保つことで知られていたんだ。少なくとも週に一度は体を洗っただろう。」
ではなぜ AMON AMARTH のヘルメッドラムライザーにはホーンが掲げられているのでしょう?
「ヴァイキングのヘルメットに角がなかったのに、なぜ俺たちのドラムライザーに角があるのだろう?たしかに俺は角の設置にあまり熱心ではなかったよ。
だけど、Grimfrost は正確さに基づいて構築された会社だけど、AMON AMARTH はショーなんだ。歴史的に正確ではないけれど、角は優れた舞台用小道具になる。AMON AMARTH はエンターテイメントだから、必ずしも完全に正確であるとは限らないよ。」


Grimfrost の設立はヴァイキングコミュニティーへの寄与を念頭においてのものでした。
「もともと、友人から会社の顔になるようにアプローチされ、当初はマーケティング側に関与するつもりだったんだが、人々が求めているものを理解していたからね。
明らかにビジネスだけど、ヴァイキングの文化と歴史に興味がある人々のためのコミュニティを構築しようともしているんだ。俺たちが持っている知識を共有してね。(北欧のフォークグループ)WARDRUNA の Einar Selvikや “Vikings” キャストのメンバーの体験についてもインタビューを行ったよ。ルーンの専門家の本も販売している。ヴァイキングの文化と歴史に興味のある人が来て、学ぶことができるコミュニティを構築しようとしているんだ。製品を販売するだけでなく、理解と帰属意識を作り出すことも重要だからね。」
Johan は当然ローイングピットを愛しています。
「2017年にヘッドライナーを務めた Bloodstock のローイングピットはかなり壮観だった。素晴らしいメタルヘッドとは何かを教えてくれたし、素晴らしいファンの証だと思う。そう、メタルヘッドはただ酔って、ただ想像もできないような最も残忍な音楽を聴きながら、ただ愚かなこと楽しみたいだけなんだ。その全てを愛しているよ。」


トールキンの影響を忘れるわけにはいきません。
「トールキンからバンド名を取ったんだ。AMON AMARTH とは”ロード・オブ・ザ・リング” に出てくるドゥーム山 (オルドルイン) の噴火だからね。だけど多くの人々は彼がスカンジナビアの神話にどれほど影響を受けたか知らないかも知れないね。北欧神話を読むと、ガンダルフを始めとするトールキンのルーツが垣間見えるよ。フィンランドのカレワラも彼のルーツの一つ。彼は基本的に北欧の神話に似た彼自身の神話を書きたかったんだ。」
Johan は9歳の頃から北欧神話の神々に魅了されてきました。しかし敬虔なクリスチャンの多いストックホルムから20キロの地元の町では、ヴァイキングが崇拝した異教の神を積極的に教えることはありませんでした。
「オーディンやトールを本で簡単に教えるくらいだよ。キリスト教からは見下されているからね。だから姉の励ましもあって図書館に向かい、12,3世紀の詩を読み漁ったんだ。そしてトールキンに出会った。そのフィクションに魅了されたんだ。」
豆知識にも精通しています。
「知ってる? Wednesday, Thursday, Friday は北欧神話の神にちなんで命名されたんだ。Wednesday は Oden, Thursday は Thor, そしてFriday は Frey の日なんだ。」

現代のヴァイキングに寄せるメッセージとは?
「ヴァイキングは誠実で忠誠心を持つ。重要なのは、約束を守ることなんだ。約束を守れば、コミュニティーから追放されることはないだろう。
また、あまり知られていないかもしれないが、ヴァイキングは非常にオープンマインドだった。彼らは世界を旅し、取引し、戦った。たとえば、コンスタンティノープルのヴァラング親衛隊は伝説的だよ。彼らは基本的にビザンチン皇帝の個人的なボディーガードで、信頼できて忠実なヴァイキング戦士だった。彼らは異なる文化で活動するために必要であれば改宗さえ行い、家に帰ってからは馴染みのやり方に戻っていたわけさ。
誠実とオープンマインド。この二つは今の社会にもぜひ持ち込むべき心得だと思うな。」

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【OBSEQUIAE : THE PALMS OF SORROWED KINGS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TANNER ANDERSON OF OBSEQUIAE !!

“For Example, Satyricon’s “Dark Medieval Times” Does Not Have Medieval Riffs. And That’s The Point. Metal Often Alludes To These Themes Without Actually Using Them. I Want To Use Them. And That’s The Difference.”

DISC REVIEW “THE PALMS OF SORROWED KINGS”

「SATYRICON の “Dark Medieval Time” には中世のリフなんて含まれていないよ。そこが重要なんだ。メタルはしばしば、中世の音楽を使用することなく、そのテーマを仄めかして来た訳さ。僕は実際に中世の音楽を使用したい。そこが違いさ。」
黒死病の蔓延、階級社会、厳格なキリスト教倫理、貧困、多産多死。”Near-Death Times”、死の香りや足音があまりに身近であった暗美な中世ヨーロッパを現代へと映し出す “古城メタル” OBSEQUIAE は、メタルお得意のメディーバルな世界観、ドラゴンのファンタジーをよりリアルに先へと進めます。
「多くのメタルバンドが中世のイメージやテーマを扱っている。だけど、ほとんどの人はリアルな中世の音楽がどんなサウンドなのか知らないよね。例えばそれはケルティック音楽でも、多くの映画で流れるファンファーレでもないんだよ。音量がとても小さくなる危険を孕んでいるけど、もっと複雑でやり甲斐のある音楽なんだ。」
“歌う宗教” とも例えられるキリスト教を基盤とし、1000年の悠久をへて単旋律から複旋律へと進化を遂げた中世西欧音楽は、現代の音楽家にとって未だ探索の余地に満ちた白黒写真だと OBSEQUIAE のマスター Tanner Anderson は語ります。故にアーティストは自らのイマジネーションやインスピレーションを色彩に描きあげることが可能だとも。
「あの時代の音楽にはまだまだ発見すべき余地が沢山残されているからね。今日僕たちが音楽を記すように記されていた訳じゃないし、拍子だってなかったんだからとても “自由” だよね。」
リュートやハープ、ダルシマーを画筆として中世の音景に命を吹き込む “The Palms of Sorrowed Kings” で OBSEQUIAE はリスナーの “不思議” をより鮮明に掻き立てました。
「実のところ、僕は OBSEQUIAE をブラックメタルだなんて全く考えたこともないんだよ。僕の影響元は、SOLSTICE (UK), WARLORD (US), FALL OF THE LEAFE, EUCHARIST, OPHTHALAMIA みたいなバンドだからね。」
メロディックブラックメタル、メディーバルブラックメタルと称される OBSEQUIAE の音楽ですが、城主の思惑は異なります。
「トラディショナルなメタルに自らのインスピレーションを加えるようなアーティストは尊敬するよ。」
DARK TRANQUILLITY や IN FLAMES といった “最初期の” メロディックデスメタルに薫陶を受けた Tanner は、トレモロやアトモスフィアといったブラックメタルのイメージを抱きながらも、むしろ兄弟と呼ぶ CRYPT SERMON, VISIGOTH と共にトラディショナルメタルのリノベーション、”メタルレコンキスタ” の中心にいます。
「僕はギターのレイヤーとテクスチャーに重量感をもたらしたいんだ。そして、多くの場合、メロディーのフレージングは “声” として聴こえてくるんだよ。」
“In The Garden of Hyasinths” を聴けば、輝きに満ちたギターのタペストリーが十字軍の領土回復にキリストの奇跡をもたらしていることを感じるはずです。その福音は “伴奏、即興、編曲、演奏のテクニック、モードの変曲、リズムなどに関しても多くの考え方が存在する” 中世音楽の独自性を基に構築され、そうして咲き乱れる在りし日のヒヤシンスの庭を蘇らせるのです。
前作 “Aria of Vernal Tombs” に収録されていた4曲のメディーバルインタルードの中でも、”Ay Que Por Muy Gran Fermousa” のミステリアスな美麗は群を抜いていましたが、5曲と増えた今作のインタルードでもメディーバルハーピスト Vicente La Camera Mariño の描き出す耽美絵巻は浮世の定めを拭い去り、リスナーを中世の風車たなびく丘陵へと連れ去るのです。
クリーンボーカルの詠唱がクライマックスを運ぶタイトルトラックや “Morrigan”で、新たに加わったドラムス Matthew Della Cagna の Neil Part を想わせるプログレッシブなスティック捌きが楽曲にさらなるダイナミズムをもたらしていることも付け加えておきましょう。
今回弊誌では、Tanner Anderson にインタビューを行うことが出来ました。「情報も音楽も全てが利用可能なんだから、当時の “アンダーグラウンド” な感覚は感じることが出来ないよ。僕の成長期には、こういった音楽を作っている人について知ることは全く出来なかったからね。時には名前や写真さえないほどに。」 どうぞ!!

OBSEQUIAE “THE PALMS OF SORROWED KINGS” : 10/10

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