COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【DREAM UNENDING : SONG OF SALVATION】


COVER STORY : DREAM UNENDING “SONG OF SALVATION”

“There will be bands where you’re like, “I only like the early stuff because the later stuff got different.” That’s fine, but do you really need six records that sound like one specific thing?”

DREAM UNENDING

人生は厳しいもの。人は必ず成長し、生きるために働き、老いて死にます。もし、そんな苦痛のサイクルから解き放たれたとしたら? もし私たちが現代生活の呪縛から解放され、哲学的な反乱を起こし、諦めるのではなく人生を謳歌することができたらどうでしょう。TOMB MOLD の Derrick Vella と INNUMERABLE FORMS, SUMERLANDS の Justin De Tore によるデュオ、DREAM UNENDING は、そうして人生という果てしないファンタジーに慰めを見出しました。
ANATHEMA や Peaceville Three に影響を受けたデスメタル、ドゥーム・メタルを背景に、DREAM UNENDING が描く人生に対する理想を理解することは簡単ではないでしょう。De Tore は、人生の循環的な側面と、逆境に直面した際の魂の回復力をテーマに、音楽とのより深い感情的なつながりを求めているのです。
すべての弦楽器を担当する Vella は、夢のように破砕的な雰囲気を作り出し、バンドが影響を受けてきた素材をさらに高揚させながら、個性と職人的なセンスで巧みにアイデアを育てていきます。デスメタル、ドゥーム・メタル、デス・ドゥームではなく、バンドを “ドリーム・ドゥーム” と呼ぶ Vella のソングライティングは、ヘヴィネスの黒海と天国から射す光のちょうど中間にある絶壁で稀有なるバランスを取っています。
それにしても、デスメタルの救世主として名を売った2人は、なぜゴシックやデス/ドゥームメタルの父である “Peaceville” にオマージュを捧げることになったのでしょう?Derrick Vella が答えます。
「僕が初めて Peaceville に触れたのは PARADISE LOST だった。2000年代に古いゴスのブログを通じて “Shades of God” を聴いたことがあったんだ。正直なところ、あのアルバムは好きではなかったね。そのブログで彼らが “Gothic” というアルバムも出していることを知ったんだけど…なぜあのブログはそっちをアップロードしなかったのか、理解できなかったよ。
“Gothic” は簡単に僕を虜にした。当時聴いていたダーク・ウェイヴ、ポストパンク、エクストリーム・メタルの延長線上にあるような、論理的なものだったからね。まさに世界がぶつかり合う瞬間だった。ちょうどあの頃は、夜、真っ暗なバスで帰宅していたから、このアルバムと THIS MORTAL COIL の “Filigree and Shadow” が混ざっても、それほど飛躍した感じはしなかったね。思い出深いアルバムだよ。
その頃から、友人がドゥーム・メタルにハマり始めたんだけど、彼はカーゴ・パンツのドゥームではなく、もっとベルボトムのようなドゥームが好きでね。だから幸運なことに、THERGOTHON や ESOTERIC みたいなバンドを紹介してもらうことができたんだ。ESOTERIC はこれまで存在した中で最も偉大なメタル・バンドかもしれないね。とても共鳴したよ。UNHOLY のファースト・アルバムもそう。それで結局、Peaceville のものをもっと聴くようになったんだ。
でも、何よりも他のバンドより心に響いたのは、ANATHEMA だった。いつも一番胸が締め付けられる。パワフルで壮大だ。ドゥームというのは面白いジャンルだよね。奇妙にプログレッシブであったり、簡単に雰囲気を作り上げることができたり、空間をシンプルに埋めて濃密なものを作り上げることができたり。デスメタルと同じくらい、いや、それ以上に好きなんだ。
DREAM UNENDING が存在するのは、Justin にバンドを始めようと誘われたからなんだ。それまではドゥーム・メタルを書こうとさえしていなかった。みんなは、僕が高いクオリティでたくさんの曲を書くことができるといつも言ってくれるけど、本当に頼まれたときしかやらないんだ。他人のために書くというプレッシャーの中でこそ、僕は成長できるんだろうな」
ボーカルとドラムを担当する Justin De Tore にとっても、PARADISE LOST と ANATHEMA は重要なバンドでした。
「PARADISE LOST を初めて聴いたのは、”Draconian Times” が発売されたときだった。ここボストンの大学ラジオでレギュラー・ローテーションとして放送されていたんだよね。ただ、EVOKEN / FUNEBRARUM の Nick Orlando が PARADISE LOST の最初の数枚のレコードをチェックするように薦めてくれるまで、彼らの初期の作品を聴くことはなかったんだ。僕は21歳で “Gothic” を聴いて、とても深い経験をした。基本的に Nick は僕をデス/ドゥームに引き込んだ人物で、だから彼には感謝しているよ。
ただ、”Peaceville Three”も好きなんだけど、一番好きなのは ANATHEMA。Darren White のように痛みや悲しみを表現する人は他にいないよ。とても感動的だ。とにかく、このスタイルで演奏するのはずっと夢だったんだけど、それを実現するための適切な仲間がいなかったんだ。だから、Derrick のように、僕と同じような熱意を持ってくれる人に出会えたことは、自分にとって幸運だったと思っている」

ドゥーム・メタルを作る際のアプローチと、デス・メタルの世界との違いは何なのでしょうか?両者を股にかける作曲家 Derrick が答えます。
「デスメタルに対して、ドゥームではあまり安全策を取らずに書ける気がするんだ。Justin は、自分がどう感じるかを自由に書いて、そこにたくさんのレイヤーを追加してくれる。メロディックになりすぎることを心配することもないし、リフに長くこだわりすぎることもない。もしそうなっても Justin が教えてくれるしね。彼には、”このリフを考え直してみて” と言われることもあるけど、ほとんどいつも彼の言うとおりさ。アルバム “Tide Turns Eternal” を書いたときも、特に対立することはなかったね。”Dream Unending” の長い中間部に差し掛かったとき、僕はこのバンドに何を求めているのかを理解したよ。美しい部分と不穏な部分が同居しているのだけど、それぞれの部分に必ず重みがあるんだよね。
新しいバンドをゼロから始めることの良い点は、何も期待されていないこと。自分たちの好きなように演奏できるし、誰にどう思われようが気にならない。プレッシャーから解放されるんだ。Justin と僕はある程度有名人というか、正直に言うと、彼はスターだけど、二人ともこの音楽をどう思われようと気にしていないよ」
DREAM UNENDING は、自分たちが影響を受けたものをある程度身にまとっているにもかかわらず、伝統的な “デス/ドゥーム・メタル” というタグを敬遠し、自分たち独自のジャンルを確立しています。Derrick はどうやって、”ドリーム・ドゥーム” という言葉が生み出したのでしょうか?
「最初はバンド名や、アルバム名が夢の中で浮かんだということから。COCTEAU TWINS, “Disintegration” 時代の THE CURE, THIS MORTAL COIL といったドリーミーなサウンドのバンドのことを考えながら、曲を肉付けしていった感じかな。曲やアートワークのアイデアのインスピレーションも、映画の夢のシーンから得たものがあるしね。それこそ、黒澤明の “影武者” とかね。ただ、そういうものは “ドリーム・ポップ” というブランドで呼ばれているから、僕たちは “ドリーム・ドゥーム にしたんだよ」
メタル・サウンドと先進的な “ドリーム・ドゥーム” サウンド、それぞれのバランスをどうとっているのでしょうか? Justin が説明します。
「最初から何か違うクリエイティブなことをやりたかったんだ。Derrickも言っていたけど、このプロジェクトに参加するにあたっては、二人ともかなりオープンマインドだった。ドゥームのレコードを作るということでは合意していたと思うんだけど、それ以外のことはほとんど決まっていなかった。かなり慎重にやったよ。僕がやっているバンドのほとんどは、特定のスタイルにしっかりと根ざしていて、それはそれでクールなんだけど、時々輪を乱してしまうようなレコードを作るのはとても楽しいことだよ」
Derrick が補足します。
「結局、Justin と僕はただの音楽オタクなんだ。そして、ヘヴィネスにこだわらず、何かを喚起するような印象的な音楽を作ることに重点を置くようになった。最もヘヴィな部分は、クリーンなパッセージの中にある。そのバランスは、”重さとは?” という問いかけのようなものだと思うんだ。どの曲もすべてのパートに説得力を持たせ、手を抜かないようにするのが僕たちの努め。そして、その説得力をさらに高めるために、必要であれば外部の力を借りることもある。Justin が心を開いて僕を信じてくれることは、本当に助けになるよ。それが自信につながり、自分を追い込み続けることができるんだ」

つまり、TOMB MOLD との違いは実はそれほどないのかも知れません。
「TOMB MOLD の曲は僕が作るかもしれないけど、それをバンドに持ち込むと、みんなが自分の DNA を入れてくれる。今年3曲入りのテープを出したんだけど、エンディングの “Prestige of Rebirth” にクリーンセクションが入っていて、それを聴いて DREAM UNENDING みたいだと言う人が多かったんだ。まあ、あの部分の土台は僕が書いているし、そうなるのは当然なんだけど、あのテープでは TOMB MOLD がもっとメロディックな面を開拓しているから面白いんだよね。
メロデス的なものではなくて、CYNIC の “Focus” や “Traced in Air” を彷彿とさせるような感じで、もしくは特に FATES WARNING ようなバンドの延長線上にあるような感じなんだ。みんなプログレッシブ・メタルが好きで、プログレッシブ・デス・メタルも好きで、そこに浮気しがちでね。DREAM UNENDING はほとんどそれをスローダウンさせただけのようなものだと思うんだ。とにかく、デスメタルはとても想像力豊かなジャンルだから、ドゥームがより想像力豊かなジャンルだとは言いたくない。たぶん、どちらのジャンルにもルールはないんだ」
ANATHEMA の中でも、”Pentecost III” と “Serenades” は特別な作品だと Derrick は言います。
「この2枚のレコードで聴けるような、ゆっくりとした陰鬱なパッセージがとても好きなんだ。伝統的でないパワー・コードをうまく使っている。それと、”We, the Gods” のような曲もね。この曲は基本的にタイトル曲の “Tide Turns Eternal “の青写真なんだ。でも、ペースをきっちりコントロールすることで、自分たちのものにした。ANATHEMA の特徴を壊したり、攻撃的で耳障りなものにしたくはなかったんだ。アルバムのテンションが上がっても、ペースを乱すことはない……といえば、わかりやすいだろうか?
ただ、彼らは常に進化しているんだ。それがバンドの素晴らしいところであり、音楽のカッコいいところでもある。若い頃、あるいは今でも、”後期は全然違うから初期のものしか好きじゃない” という人がいるでしょ。それはそれでいいんだけど、1つのサウンドを持つレコードが6枚も必要なんだろうか?リスナーとしては、好きなバンドにはもっと多くのものを求めるものだと思うし、彼らがどこまで到達できるかを常に見たい。ANATHEMA は30年前の ANATHEMA のようには聴こえない。2枚目、3枚目のアルバムでやめてしまう人もいるだろう。だけど、僕は最初の8枚くらいは全部好きなんだ」
もちろん自分たちはコピーバンドではないがと前置きして Justin が続けます。
「僕たちは特定のバンドをコピーしようとは思っていないよ。ボーカルに関しては、Darren White のような激しさを出したいとは思っているけど、それは無理な話。僕たちは異なる人間であり、最終的に僕は僕でなければならないからね。全体として、このアルバムでは歌詞もサウンドも自分自身に忠実であったと思うよ」
ゴシック・ドゥームというジャンルは一般的にヨーロッパのもので、2人でアメリカからその世界に参入するという感覚はあるのでしょうか?
「全然違うよ。僕らには EVOKEN がいるから。いい仲間なんだ」
この “陰鬱” なスタイルは、なぜアメリカよりもヨーロッパのシーンに多く浸透しているのでしょう? 2人にもその理由はわからないようです。
「僕はいつもこのジャンルに惹かれているのだけど、アメリカでは同じ興味を持つ友人が数人しかいない。おそらくこれはアメリカ的なものではないんだ。あと、美学は人々にとってとても重要でイメージが全ての場合もある。スタイリッシュでないサブジャンルは、スタイリッシュなものほど受け入れられてはいない」
「なぜもっと多くの人がこのジャンルを愛さないのか、なぜ皆 AHAB の最初の2枚を崇拝しないのか、わからないんだ。美意識の問題なのだろうか?でも、革ジャンを着た人たちには、海やクジラは十分にカルトではないんだろうな。レーベルの問題かもしれないけどね。ドゥームにはある種の忍耐力が必要だ。ドローンやベルボトム・ドゥームは、僕の知っている北米の人たちにはもっとインパクトがあったように感るな。多分、多くの人はメタルを聴いている時にまで、鬱な気分になりたくないだけなんだろうけど」

バンド名の由来となった “果てしない夢” とは何を意味するのでしょうか?Derrick の言葉です。
「僕にとっては、人生という誰もが共有する旅のこと。ひとりひとりの中にある魂は、僕たちよりも長生きし、もしかしたら永遠に続くかもしれない。それは、自分自身と世界における自分の位置を再調整する方法なんだ。僕は誰の上にも立っていない。みんながそうだよ。僕たちは皆同じ生身の人間で、自分たちが理解するよりも大きなものを運ぶ器なのさ。僕は君が生きているのと同じ夢を生きているんだよ。重要なのは希望を失わないこと、自分は一人ではないこと、忍耐すること、人生は生きる価値があること、人生は動き続けるものだからそれに合わせて動くこと、過去にこだわらないこと、神に不可能でも愛があれば救われること。
“Dream Unending” という曲のクリーンなブレイクは、緩やかで脆いものとの相性が抜群だと思うんだ。このアルバムは確かにダークに聞こえる時もあるし、美しくメランコリックで、ダグラス・サークの映画みたいに葛藤もある。でも、クリーン・ブレイクはとてもきれいだし、ネガティブではなく人生を肯定するような内容で、その後の歌詞の内容もより希望に満ちた方向にシフトしているよ。Justin の歌詞は崇高なもの。とにかくめちゃくちゃいい。リスナーに読んでほしいね。
自分たちだけでなく、心を開いてくれた人たちにもある種のメッセージを届けたかった。だから、意識的にきれいな話し言葉とクリーンなパートを使ったんだと思うんだ。そのパートは僕が書いたんだけど、Justin が僕に貢献させてくれてよかったよ。僕らふたりは、毎日が自分自身を向上させ、前進し続けるためのチャンスだと考えているんだ。”魂は波であり、潮の流れは永遠である” とね。くよくよせず、癒すことを選んでいきたい。少なくとも努力はするよ」
Justin がホラーやカオスなど、ネガティブなテーマを扱った長い時間を経て、人生を肯定するようなポジティブなものにシフトしたのは、なぜだったのでしょうか?
「解放されたんだよ。ニヒルな歌詞を書いたことはないんだけど、今の時点ではネガティブなことに疲れてしまったんだ。それを楽しむのは卑怯だと思うんだ。希望に満ちたものを書くことは、精神的に良いことだと思う。楽観的なものを作るために、怒りや激しさを妥協したわけでもない。ただ、この歌詞は、これまで書いてきたものと同じくらいリアルなんだ」
Derrick もこれまで、容赦のないデスメタルを奏で続けてきました。
「これは、TOMB MOLD が前作を出したあたりから、ずっとやりたかったことなんだ。ただ、それを表現するための適切なプラットフォームがなかったんだよね。Justin のことを知れば知るほど、僕らの波長が似ていることに気づいて、それが理にかなったことだったんだ。他のバンドがやっていることに反発するわけじゃないけど、不気味な陰鬱なデスとか、神の怒りとか、そういう悲観的なことは絶対にやらないようにしていた。これは僕らにとってより良い道であり、僕らにとってより真実だったんだ。一般的なメタル・ファンにはあまり好まれない道かもしれないけど、そんなことはどうでもいいんだ (笑)」

短いインターバルでリリースされた最新作 “Song of Salvation” はよりプログレッシブになったと Derrick は語ります。
「12弦ギターを手に入れて、曲作りのアプローチも少し変わったと思う。曲の真ん中が先にできているようなことが多くなったね。”これからどうするか” という感じでね。曲の最初から最後まで書くのとは違って、いろいろなものを組み合わせていくことができたんだよ。ホワイトボードを買って、長い曲のいろいろな部分をビジュアルマップにしたんだ。新譜の曲のいくつかは、14分から16分で、繰り返しがあまりない。だから、ほとんどプログレッシブなクオリティになっているよ。幸運なことに、このアルバムを完成させるのに十分な時間があったんだ」
“プログレッシブ” には意図的に舵を切ったのでしょうか?ギタリストが答えます。
「20分の曲を書こうと思っても、時間を伸ばすために必死になっているような感じがあるよね。今回の曲は、時間のことはあまり考えず、自然に終わると思うまで書いたんだ。長い曲は山あり谷ありで、それがプログレッシブ・ロックの良さでもあるから。クレイジーな部分やエネルギッシュな部分があって、一旦下がって、緊張が高まって解放されるような感じ。
このアルバムでは、より自信を持ってソロを書けるようになった。”Tides” でも満足していたんだけど、ギターを弾く時間が増えたことと、またギターのレッスンを受け始めたことが大きかったと思う。これが大きな鍵になった。レッスンを受け始めた頃には、アルバムの大部分はできていたんだけど、ソロのいくつかはまだ完成していなかった。レッスンを受けて、いろいろなアイデアを投げかけてもらって、アプローチして、また演奏や何かに取り組むという日常に戻って、それが練習でも課題でも、音楽的に自分を高めるための大きなステップになったんだ。
僕のの先生は Kevin Hufnagelで、彼は GORGUTS で演奏している。毎週レッスンが楽しみだよ。GORGUTS のレコード、DYSRYTHMIA、彼の昔のバンド SABBATH ASSEMBLY など、彼はクオリティの高い人で、音楽は様々。いろいろなことを教えてくれるし、僕が何を見せても、彼はいつもとても楽しそうに聞いてくれる。お互いが充実している、そんな師弟関係だと思うんだ。
でも、めちゃくちゃ長い曲を書くのは、ちょっとリスクがあるよね。ドゥーム・ミュージックはとにかく長いんだけど、”アルバムの半分が15分の曲” っていうのは、多くのリスナーを遠ざけることになる。そんな長い曲を聴いてる暇はないという人もいる。4分の曲でもスキップする人がいるんだから恐ろしいよね。まあ、それはアンダーグラウンドというよりメインストリームの問題だけど。まあ、全部聴いてくれる人、実際に13分間に渡って曲を聴いてくれる人にだけ聴いてほしいというような感じかな」
ゲスト・ボーカリストや多種多様な楽器もアルバムを彩りました。
「”Secret Grief” では、友人のレイラがトランペットを吹いてくれた。元々、この曲のデモを作ったとき、このメロディーの部分はエレキギターで、ほとんどシンプルなソロでやっていたんだ。でも、スコットランドのバンド BLUE NILE が大好きで、彼らの2枚目のアルバムには、とてもブルーで夢のようなクオリティーがあってね。その中に “Let’s Go Out Tonight” という曲があるんだけど、”このエッセンスを瓶詰めにして、なんとか僕らのレコードに入れたい” と思っていたんだ。確か Justin に、トランペット奏者と共演しているデヴィッド・トーンのアルバムかライブ映像を見せたら、それがすごくドリーミーで、この曲に使えるんじゃないかと思ったんだよな。レイラは何でもできるプロだから、それを見事に達成してくれた。アルバムに新しいテイストを加えてくれたよね。
アルバムに収録されているピアノやオルガンは、すべて僕の父の手によるもの。父がアルバムに参加することは、とてもクールなことなんだ。彼がピアノを弾いているのを見て、僕は音楽に目覚めたんだからね。僕がギターを弾きたいと思ったときも、彼は “お前ならできる、レッスンを受けろ” と言ってくれた。両親ともすごく励ましてくれる人なんだよ」

彼らは音そのものではなく、音の生み出す雰囲気を捉えることに長けているようです。
「Justin と僕は音楽全般についてよく話すし、自分たちが好きなものについても話す。LIVE というバンドを覚えているかな?Justin も僕もあのバンドと “Throwing Copper” というレコードが大好きでね。LIVE みたいな曲を作りたいとは思わないけど、”Lightning Crashes’ を聞いたときに感じるような感情を作りたいんだ。それが僕のキーポイントになっているような気がするね。サウンドをそのままコピーするわけではないんだけど、フィーリングやエモーションを掴むというか。
このレコードを制作していたとき、ターンテーブルから外さなかったレコードは、TOTO の “Hydra” だったと思う。TOTO のようなリフを書こうとは思わないけど、スティーブ・ルカサーのギターを聴いて、彼のソロのアプローチについて考えたり、感じたりすることはできるんだ。
JOURNEY の “Who’s Crying Now” いう曲もそう。あの曲のソロは決してトリッキーなものではないけど、そこから引き出される感情が見事なんだ。だから、僕はいつもそういうものを “鍵” にしている。今回のアルバムでは12弦で弾いているせいか、MAHAVISHNU OSCHESTRA のジョン・マクラフリンが弾いていたようなクリーンな瞬間がいくつかある。彼は僕よりずっとギターが上手いから、もっとシンプルだけどね。
僕たちはドゥームのもっとゴシックな側面、例えば THE GATHERING のようなバンドがとても好きなんだ。彼らも ANATHEMA のようにサウンドを進化させ続け、プログや PINK FLOYD のような領域に踏み込んでいったバンドなんだ。だから、このアルバムではクリーン・シンガーが何人か加わって、そういう部分を強調することができた。僕は成長を見るのが好きなんだ。フランク・ザッパが好きなら、その人はいろいろなテイストの音楽をたくさん聴くことができる。でも、フランク・ザッパが半分しか作品を出さなかったら?僕はアーティストの旅路を見るのが好きなんだよ。
メッセージやフィーリングを伝えるには、クリーン・ボーカルの方がずっと簡単なんだよ。スポークンワードのパートを使うのも同じで、より感情的なトーンを設定することができる。その点では、僕たちはより良い作品を作ることができたと思うな。”Tides” の出来が悪かったというわけではなくて、もっとコントロールできた気がしたんだ。
もうひとつ、僕らがよく話すバンドで、DREAM UNENDING の精神的なコンパスが KINGS Xなんだ。僕たちは彼らのようにクリスチャンではないけれど、彼らが話していることの多くは、”ある曲を聴くとその曲を聴く前よりも100倍も気分が良くなる” というもの。音楽にそんな力があるなんて驚きだよね。僕は音楽が高揚感をもたらすという考え方が好きで、それが DREAM UNENDING の方向性を決めるのに役立っていると思うんだ。ドゥームというジャンルは、特に最近は気分を悪くさせるように作られているから不思議なんだけど、僕たちは “それもいいけど、ちょっと違う方向にも行ってみようかな” と思っているんだ。
だからこのアルバムを作っている間は、あまりドゥーム・メタルを聴いていなかったと思う。ドゥーム・メタルの中で唯一聴いたのは ANATHEMA の “Silent Enigma” だと思うけど、それよりも “Alternative 4” と “Judgement” を聴いていたね。ESOTERIC よりも Bruce Hornsby を聴いていたかもしれない」
DREAM UNENDING の “高揚感” はより深く、よりスピリチュアルな側面を見出していきます。

「自分を大いなる力に委ねる必要はなく、もっと自分の中にあるもの、自己発見、自己改善という考え方に基づいたスピリチュアルな側面がこのバンドにはあると思う。人によっては、より良い人間になるための道として、宗教的な経験や啓示を得ることがあるかもしれないし、僕はそういったものをとても興味深く感じている。僕の周りには信仰を持つ人がいて、人生全般について話をするのが好きだし、彼らの視点が好きなんだ。
アルバム “Song of Salvation” は、自分自身を見つめて、”何かを変えなければならないのなら、変えるのは自分でなければならない” “何かを追い求めて自分を向上させなければならないことを受け入れる” 、そんな作品だと思う。それはとても重要なことで、僕たちはなかなか口にできないけど、大切なことなんだ。
だって、惨めな思いはしたくないでしょう?誰がみじめになりたいの?幸せを見つけることだって、一種の精神的な目覚めであり、自分自身と平和になることであり、周囲と平和になることでもある。それが何であれ、僕はそこに本当の力があると思うし、身体にも、精神衛生にも、魂にも良いことだと思うよ。どんなものであれ、そこに何かを見出すことができればね。
だから、”Song of Salvation” は、何よりも自己受容を扱っていると思う。ただ、それと同時に、忘れるために生きている人もいる。僕たちは後悔しながら物事を振り返り、人生において良くも悪くも物事を行い、それが自分自身を形成していく。それを受け入れて、自分の中に居場所を見つけて、ずっと一緒に暮らす必要はないけれど、否定する必要もないんだということを理解したほうがいいと思うんだ。自分自身から逃げているだけでは、ほとんど嘘をついて生きているようなものだから」
もちろん、リスナーは “救済” の先を期待してしまいます。
「そうだね、これまで取り組んできたものに関しては、まだ先があるんだ。曲作りは、”今、何を聴いていて、何が好きか?” ということを考えながら進めていくから楽しいんだよ。OPETH に似ていると言われたこともある。彼らほどヘヴィではない部分もあるけれども、いい意味で彼らも長尺なアプローチをするバンドだね。”Damnation” は、すべてクリーンで歌われたアルバムで、このアルバムを作っているときは、それをとにかく聴き込んだんだ。
どうすれば可能性を押し広げ続けることができる?例えば、中間部全体を使ったソロを書きたいとか、クリーンなソロを書きたいとか、ちょっと変わったソロを書きたいとか、みんなが期待しているような曲とは違う曲を書きたいとか。曲の長さや曲の性質上、DREAM UNENDING ではいろいろなことを試すスペースがあると思うんだ。そのことをずっと考えていて、曲を書き続けているんだ」

参考文献: NEW NOISE:INTERVIEW: DREAM UNENDING ON WEAVING A MUSICAL TAPESTRY

INVISIBLE ORANGE:he Soul is a Wave: A Conversation with Dream Unending (Interview)

TREBLE:The spiritual alignment of Dream Unending

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【RING OF FIRE : GRAVITY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MARK BOALS FROM RING OF FIRE !!

“I Look To Singers Such As Pavarotti Who Never Lost Their Level Of Excellence And Singing Up Until The Day They Left This Earth. I Hope And Pray To Be Able To Do The Same!”

DISC REVIEW “GRAVITY”

「長い休みを取ったんだ。前作はコンセプトアルバムだったんだけど、ロシアを題材にしたこともあってあまり評判が良くなかったんだよね。ちょうどその頃、ロシアという国やその指導者に対して皆が怒っていた。だから、とても良いアルバムだったのだけど、チャンスをもらえなかった気がするね。その結果、僕たちは RING OF FIRE のバンドの活動から非常に長い間離れることになったんだ」
20世紀の最終盤に、特にここ日本で猛威を振るったネオクラシカルなシュレッドと、プログレッシブなヘヴィ・メタル。その複雑でしかし神秘的な二つの審美を炎と冷静でつなぎあわせた RING OF FIRE の存在は、ARTENSION と共に、かつて私たちを不可能を可能にした不可視領域へと誘ってくれました。
時は2022年。ネオクラシカルとプログを、素直に、ウルトラ・テクニックで結びつけるバンドはほとんど絶滅してしまいました。マグナ・カルタやシュラプネルはほとんど息をしていませんし、SHADOW GALLERY はメンバーの死により沈黙。SYMPHONY X はネオクラシカルを脱出し、ROYAL HUNT がその灯火を必死で繋いでいるといった状況なのかもしれません。
Vitalij Kuplij と Tony MacAlpine。もしくは George Bellas。さらに、彼のソロアルバムにおける Greg Howe との共演に、さながらパブロフの犬がごとく心が踊った私たちの偏った性癖は、もはや相当時代遅れなのかもしれませんね。実際、ヘヴィ・メタルは今でも多くのリスナーを惹きつけ、拠り所となっていますが、もっと多様で広義の “プログレッシブ”、そうでなければよりヒロイックで視覚にも訴えかける大仰なファンタジーを人々は求めているようです。
では、RING OF FIRE に、もう付け入る隙はないのでしょうか? 否。9年ぶりに帰ってきた彼らのサウンドは、自らのアイデンティティを保ちながらも、しっかりと “今”のヘヴィ・メタルの風を受けています。ウクライナ人である Vitalij にとってはもちろん侵略に、そして稀代のシンガー Mark Boals にとっては加齢という “重力” に、引っ張られるわけにはいかなかったのでしょう。RING OF FIRE 5枚目のアルバム “Gravity” は、その “反発力” で過去の遺産を見事に “エピック” なキャンパスへと描き切りました。
「Vitalij Kuprij はウクライナ出身だから、どのアルバムもヨーロッパ的な雰囲気はあると思う。もちろん、Cole や Aldo も曲を書いて独自のヴァイブを加えているし、僕以外のバンドはみんなヨーロッパにルーツがあるから欧州の音になるのも当然だよね」
血の入れ替えは完璧に成功しました。名の売れた古株を選ぶよりも、Mark と Vitalij はイタリアの新鋭3人に賭け、そしてギャンブルに勝利しました。特に、SECRET SPHERE のギタリスト Aldo Lonobile は掘り出し物としか言いようがありません。これまでの RING OF FIRE にもしかしたら欠けていた、ヨーロッパのエピックやスケール感、それにストーリー・テリングのスキルが Aldo によってもたらされました。それはまさに、今のメタルに求められるもの。
このアルバムのマグナム・オーパスである “The Beginning” と “Storm Of The Pawns” は、複雑な感情、洗練の感覚、鍛錬を重ねたクラシックの技術が、エピック・メタルのイメージで再構築されています。重要なのは、そこにプログレッシブ・メタル特有の驚きが組み込まれているところ。Vitalij が紡ぐ突然のピアノの旋律は、至る所でリスナーにサプライズを提供していきます。もちろん、”Melanchonia” のような内省的なリリックとメランコリーが、メタライズされた感情を爆発させる RING OF FIRE 式対比の美学も健在。”King Of Fool’s” や “21 Century Fate Unknown” のように、時には予想外の不協和音を音楽に取り入れて、心理的変化を伝える “物語” の能力も見事。
タイトル曲の “Gravity” はそんな新たな RING OF FIRE に生まれたマイルストーンなのかもしれません。メンタル、スピリチュアル、フィジカル。歌の三要素を整えた Mark Boals の歌唱は絶対領域へと到達。ドラマチック・シネマティックなシンセサイザーが響く中、ダニー・エルフマンがメタル映画のスコアを作ったような感染力が楽曲のフックを最高潮まで高めます。心強いことに、RING OF FIRE は今でも挑戦を重ね、最後の1音までそのクオリティを保っています。ネオクラシカル/プログレッシブ最後の桃源郷がここにはあるのです。
今回弊誌では、メタルの歌聖 Mark Boals にインタビューを行うことができました。「僕はまだまだ歌い方を勉強している感じなんだよ。パバロッティのように、この世を去るまでその卓越した歌唱力を失うことがなかった人たちは、特に尊敬しているよ。僕もそうでありたいと願っているから」BILLIONAIRES BOYS CLUB、いいですよね。どうぞ!!

RING OF FIRE “GRAVITY” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【OBSIDIOUS : ICONIC】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH LINUS KLAUSENITZER OF OBSIDIOUS !!

“The Wars And Violence In The World Can Only Make You Feel Depressed. I Try To Still Have a Normal Life By Focusing On The Beautiful Things In Life Without Ignoring What Is Happening In The World.”

DISC REVIEW “ICONIC”

「OBSCURA の Steffen と違って、Javi はギターと歌を同時に演奏する必要がない。だから、もう複雑さにも限界はないんだよ。アルバムのプロダクションはとてもモダンで、音楽の中の情報がよりクリアに伝わってくる。それに、僕たちはパワー・メタルの要素を取り入れているのも特徴だ。テクデスとパワー・メタルのミックスはあまり見かけないものだし、プレイしていて楽しかったね」
Linus Klausenitzer, Rafael Trujillo, Sebastian Lanser, Javi Perera。OBSCURA, ALKAROID, ETERNITY’S END, JUGGERNAUT といったプログレッシブ/テック・メタルの綺羅星から集結した4人。これまでも、複雑かつテクニカルなメタルの迷宮で存分に好き者たちを魅了してきた英傑たちは、それでも飽き足らずに複雑の限界を越えようとしています。ただし、黒曜石でできた新たな惑星 OBSIDIOUS はこれまでの星々とは全く別の美しさを誇ります。”Iconic” と名付けられた集合体の象徴は、ウルトラ・テクニカルでありながら敷居の高い堅苦しさとは無縁。このアルバムは、炎のようなインテンスを保ちながら、耳を捉えて離さないメロディーの洪水に満たされています。さながら、溶岩と濁流がクラッシュして黒曜石が生まれる奇跡の瞬間のように、OBSIDIOUS はパワー・メタルとデスメタルをテクニカルな化学反応で一つにしていくのです。
「僕たちはあの頃のバンドの雰囲気に不満で、もう将来の進展、未来の展望が見えなかったんだ。残念ながら、Steffen は僕たちの脱退にとても腹を立てている。もう連絡は取っていないよ。でも、OBSCURA に対して悪い感情は持っていないし、彼らの成功を願っているんだ」
4人中3人がかつてテック・メタルの巨星 OBSCURA の住人で、なおかつ “OBS” で始まるバンドを結成。これで OBSCURA を意識しないリスナーはいないでしょう。しかし、本人たちはどこ吹く風。巨星の絶対的独裁者 Steffen Kummerer から解き放たれ自由を手にした3人は、新たな挑戦にその身を躍らせます。パワー・メタルの咀嚼ももちろん、その一つ。加えて、Rafael Trujillo と Linus のタッグが永続的に復活したことで、多弦ギターとフレットレス・ベースによる異次元のフレットレス・マッドネスが繰り広げられることにも繋がりました。”フレットレス楽器は人間の歌声に近い” と Linus が語る通り、そうして OBSIDIOUS の音楽はより有機的な人間味を帯びることとなったのです。
「結局、世界の戦争や暴力は、自分を憂鬱にさせるだけ。僕は、世界で起こっていることを無視することなく、人生の美しいものに焦点を当てることで、まだ普通の生活を送れるよう努力しているんだよ」
人間味を帯びたのは、何も音楽だけにとどまりません。宇宙をテーマとしていた巨星を脱出した3人とボーカルの Javi Perera は、ロックダウンによるインスピレーションの “無” や、戦争の暴力を目の当たりにして地面に降り立とうと決意します。日常からあまりにもかけ離れた壮大な宇宙の話から、より人間らしいテーマを扱おうと。性的に加虐嗜好が行きすぎた人の話から、認知症とその周りの苦悩まで、誰にでも起こり得るテーマに焦点を当てながら、OBSIDIOUS は人の営みに黒曜石の輝きを探していきます。その探索に、Javi の看護師としての “体験” が生きていることは言うまでもないでしょう。
それにしても、モダンなテクデスからブラッケンドな息吹、スピード違反のアルペジオ、GOJIRA 風のチャグチャグ、ドラマチックなリード・メロディにジェットコースターのソロワークまで、互いの通れない音の隙間をぬいながら、ジャンルの障壁をいとも簡単にぶち破る弦楽隊の多様な才能には恐れ入ります。特に Linus にとって、その音楽的な寛容さは、OBSCURA はもちろん、様々なセッション・ワーク、パワー・メタルの ETERNITY’S END, そしてより伝統的なプログを摂取した ALKAROID で養われたものに違いありません。
そして、見事なオーケストレーションに、硬軟、単複、自由自在なカメレオンのボーカル。知的でエンターテイメント性の高いヘヴィ・メタルと言うことは簡単ですが、その両極端を勇気を持って結びつけるバンドは決して多くはないのですから。例えば、メタル版オペラ座の怪人とか、ブロードウェイのテクニカル・デスメタル。そんな表現を使いたくなるほど、OBSIDIOUS の挑戦は際立っているのです。
今回弊誌では、Linus Klausenitzer にインタビューを行うことができました。「Warrel Dane のファースト・ソロアルバム “Praises to the War Machine” を再び見つけたんだ。このアルバムには素晴らしい曲がたくさんあって、彼のボーカルはとても個性的に聞こえるね」 4度目の登場。どうぞ!!

OBSIDIOUS “ICONIC” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【LORDS OF THE TRIDENT : THE OFFERING】JAPAN TOUR 22!!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TY CHRISTIAN !!

“Just Like My Short Time With My Host Family In Japan, It Doesn’t Take Much To Change Someone’s Life For The Better. Just a Little Bit Of Kindness Can Completely Change The World!”

DISC REVIEW “THE OFFERING”

「パワー・メタルのジャンルやコミュニティーをバンドや人々にとってポジティブな場所にすることができれば、人と人とのつながりが生まれ、友情が生まれ、最近の暗い時代と戦うことができるのではないかと思うからね。僕が日本でホストファミリーと過ごした短い時間のように、誰かの人生を良い方向に変えるのに、それほど多くの時間は必要ないんだよ。ほんの少しの優しさが、完全に世界を変えるんだ!」
茨城県阿見町。霞ヶ浦を抱く人口4万5000の小さな町の優しさが、遂には北米のパワー・メタル世界を大きな愛で一つにしようとしています。
「実は高校生のとき、茨城県阿見町の家庭でホームステイをしたことがあるんだ。日本に渡り、素晴らしい人たちと一緒に過ごしたことが僕の人生を変えたんだ。彼らはあまり英語を話せないから、日本語でお礼と日本での体験がいかに重要だったかを伝えたいと思った。それで、大学に進学して、3つの専攻のうちの1つを日本語にしたんだ。
日本語の授業でアキ(日本人のハーフだけどアメリカで育ったから言葉は通じない)と出会い、一緒にバンドを結成したよ。また、妻ともその日本語の授業で出会ったんだ。ホストファミリーと過ごした短い時間、そしてホストファミリーのアメリカ人の高校生に対する優しさが、僕の人生を完全に変えてくれたんだ。彼らのおかげで、僕は今ここにいるんだよ」
米国ウィスコンシン州のスーペリア市と姉妹都市である阿見町。その縁もあって、高校生の Fang VonWrathenstein A.K.A. Ty Chritsian はホームステイで阿見町にやってきました。日本の田舎町で受けた歓待、そしてどこの馬の骨かもわからぬ自分に向けられた家族のような温かい優しさは、Ty の人生を完全に変えました。RIP SLYME や GLAY を発見し、日本語を学び、日本語の授業で妻やバンドの盟友 Aki Shimada と出会い、日本のゲームやアニメ、コスプレと共鳴するメタル・バンド LORDS OF THE TRIDENT を結成。日本の優しさから生まれた日本への愛情は、そうしていつしか北米のパワー・メタル世界を優しさで一つにしていきます。
「パワーメタルのバンドや自分たちが作る音楽は、地域のコミュニティーをひとつにまとめ、世界にポジティブな変化をもたらす非常に強い力になるとも思っているんだ。僕たちは、北米のパワー・メタル・バンド、そのコミュニティーを友好的に結びつけることに取り組んでいる」
アメリカのメタルは “怒り” と “恐れ” の音楽。ゆえに、前向きで優しく、ファンタジーと伝統に彩られたパワー・メタルは未だにヨーロッパのもの。ただし、そんな状況を変えるために、LORDS OF THE TRIDENT は北米のパワー・メタル・コミュニティーを一つにしようと決意します。UNREASH THE ARCHERS, SEVEN KINDGOMS, AETHER REALM といったバンドの中心に LORDS OF THE TRIDENT は存在し、Kickstarters、Patreonキャンペーン、ゲームやプロレスのYoutube シリーズ、Twitch など様々なエンターテイメントに共同して取り組み、北米の熱烈なパワー・メタル・ファンや改心者の忠実なコミュニティを徐々に育んできたのです。
ここ数年のよう、現実の生活が悲惨で暗く憂鬱なときは、勝利を収めるヒーローの救済、そんな物語を欲するもの。現実の世界ではヒーローと悪役を見分けることさえも簡単ではありません。勇ましい主人公が究極の悪に立ち向かい暗闇を払う物語は、暗い現実を忘れ前向きに生きるための特効薬なのかもしれません。そんなアメリカの苦悩や絶望を、LORDS OF THE TRIDENT はパワー・メタルのファンタジックな絆で優しさに変えていこうとしているのです。
「僕らは伝統的なパワー・メタルとオールド・スクールなヘヴィ・メタルの間のどこかに存在しようとしてるんだ。ヨーロッパの多くのパワー・メタルとは違って、僕らの音楽には余計なオーケストレーションがないんだ。キャッチーな曲とコーラスを書くことにいつも重点を置いていて、それが僕らの音楽を広めるのに役立っていると思う」
アメリカにパワー・メタルを根付かせるための試みは、DIY のエンタメ活動だけにとどまりません。欧州のプログレッシブでエピックなパワー・メタルと、米国のフラッシーでキャッチーな80’s メタルを巧みに融合することで、彼らはアメリカのオーディエンスに訴えかけました。同時に、コミコンやゲーム・コンベンションのライブで培った、コスプレや小道具、演出で派手好きな米国人を虜にしていきます。そうして、遂には “地球で最もメタルなバンド” の称号を (勝手に) 得ることになりました。
そんな LORDS OF THE TRIDENT が日本に恩返しにやってきます。日本の小さな優しさが生んだ大きなパワー・メタルの物語は、きっとこのツアー、そして夢の土浦公演でひとつのフィナーレを迎えるのでしょう。そして、霞ヶ浦に降り立ったポセイドンは、次の物語にむけて新たな章を開くのです。
今回弊誌では、Ty Chritsian にインタビューを行うことができました。「”ファイナル・ファンタジー6″ が一番好きなゲームで、その音楽とも深いつながりがあるんたよね。実際、Baron の奥さんは結婚式で、”ファイナル・ファンタジー6″ の曲に合わせてヴァージン・ロードを歩いたからね」 どうぞ!!

LORDS OF THE TRIDENT “THE OFFERING” : 9.9/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【BLIND GUARDIAN : THE GOD MACHINE】


COVER STORY : BLIND GUARDIAN “THE GOD MACHINE”

“I think What We Did Now Is How Speed Metal Has To Sound Right Now And This Is How It Can Be Interesting For The New Generation Of Metal Fans.”

THE GOD MACHINE

1984年、ギタリストの André Olbrich は、高校の同級生だった Hansi Kürsch をロックバンドのリハーサル室に誘います。そこから、BLIND GUARDIAN の歴史は始まりました。
「Hansi と僕は修学旅行で酒を飲んでいたんだ。すると突然、彼は King Diamond のように高音で歌い始め、完全におかしくなった。でも僕は同時に、”なんて声なんだ! 信じられない!圧倒されるし、こんなに高い音も出せるんだ!”と思ったんだ」
André はすぐに Hansi を自分のバンドで歌わないかと誘いましたが、Hansi は自分はシンガーではなくギタリストであると主張して断りました。 André のバンドにはすでに2人のギタリストがいて、3人目を加える計画はありませんでした。しかし、2人の間ですぐに妥協が成立します。Hansi のベース/ボーカルとしての参加です。さらに André は最終的に希望をかなえ、1997年、Hansi はベースを置いてボーカルだけに専念することになります。ここに、BLIND GUARDIAN の前身である LUCIFER’S HERITAGE が誕生したのです。
「Hansi が参加した瞬間から、ロックっぽいバンドからメタル・バンドになったんだ」
Hansi が付け加えます。
「André と一緒にバンドを組もうと決めたときから、とても真剣に取り組んでいた。僕ら二人は、夢を生きられない人たちにうんざりしていたんだ。誰もが有名になることについて話していたけど、話すことと実行することは別なんだから」
リハーサル室での地味な活動から抜け出し、新たに LUCIFER’S HERITAGE と改名した彼らは、2本のデモテープをリリースし、ドイツの小さなメタルレーベル、No Remorse Records の目にとまることになります。1988年、彼らはレーベルとレコード契約を結び、その記念として新しい名前を手に入れます。BLIND GUARDIAN。まもなくメタル世界で最も神聖なバンドのひとつとなる名前です。こうして彼らのオデッセイは幕を開けました。

BLIND GUARDIAN の名で最初にリリースされたのは1988年の “Battalions of Fear” で、この作品はより壮大なものに目を向けたスピード・メタルだったと言えます。 André, Hansi, ギタリストの Marcus Siepen、ドラマーの Thomen Stauch は、1987年10月にプロデューサー Kalle Trapp とレコーディング・スタジオに入り、世界の頂点に立ったような気分になっていたと André は明かします。
「スタジオに入ったとき、僕たちはとても高揚していたんだ。ヘヴィ・メタルのシーンの一部になって、自分たちのアルバムを持つことになるとね。録音するのは僕らのデモの曲で、僕らが大好きな曲だったから、最高のアルバムになると確信していたんだ」
“Battalions” のセッションは、この若いバンドにとってスタジオ・レコーディングの猛特訓となりました。クレーフェルトのリハーサル・ルームでデモを作っていた彼らのやり方は、あらゆるミスが目につく無菌状態のスタジオでは通用しなかったのです。”Battalions” は初期のバンドの奔放な野心を、特に “指輪物語” のアラルゴンに感化された中心曲の “Majesty” で見せつけますが、彼らにはまだ学ぶべきことがたくさんありました。特に André にとって、”ギターソロを作曲するべき” という気づきは、今後の BLIND GUARDIAN にとって重要な指針となっていきます。
「もっと時間があれば、もっと良くなっていたかもしれない」と André は振り返ります。「例えばソロの場合、あの時は一発勝負で、運が良ければ2発で録れた記憶がある。2回で録音できなかったものは?自分の問題だ。このままではいけないと思った。次のアルバムでは、通常のバンド・リハーサルだけでなく、一人でリハーサルをして、ギターソロを作曲する必要があるとね。スタジオで自分が何を演奏したいのか、どの音が必要なのかを考えるのではなく、その前に準備する必要があるとわかったんだよ」

“Battalions” がスタジオ・レコーディングの厳しさに対してバンドが準備不足だったとすれば、1989年の “Follow the Blind” は全く別の問題があったと André は言います。
「”Battalions of Fear” では、曲作りに時間的なプレッシャーはなかった。曲は全部できていたからね。デモテープにあった曲で、あと1、2曲書いて、アルバムは完成したんだ。そしたら突然、レーベル・マネージャーが “OK、次のアルバムは1年以内に出してくれ” って言ったんだ。それで僕たちは、まったくナイーブに、”ああ、問題ない!” と言ってしまった。だって、1年なんて結構長いと思ったから」
しかし、その1年はあっという間でした。André は公務員になり、Hansi も見習いとして働いていました。バンドはまだ BLIND GUARDIAN をフルタイムの仕事にすると決めていなかったので、曲作りとリハーサルは仕事の後の深夜に詰め込まれることになっていました。
「要求に応じて音楽を作るというのは、そんなに簡単なことではないとを初めて知った。だから多くのことが急いで行われ、リハーサル室で数回だけアイデアをまとめて曲をリハーサルしたんだ」
とはいえ、”エルリック・サーガ” に感化された “Fast To Madness” などファンタジックなメタルはより存在感を増しました。”Follow the Blind” のために彼らが最後に書いた曲は “Valhalla” で、André はこの曲を単なる “繋ぎ” だと考え、トラックリストから危うくカットするところでした。André の予想に反して今日、この曲は BLIND GUARDIAN の曲の中で最も人気のある曲の一つとなり、ライブの定番曲として観客のシンガロング欲を常に刺激しています。
「僕たちは素晴らしい曲を書くことができた。”Valhalla” は、あまり考えすぎない方が良いという素晴らしい例だ。自分の中から出てくるものをすべて、最初に受け止めてしまえばいい。最初のアイデアを採用する。2つ目のアイデアを待つという選択肢はなく、ただそこにあるものをつかむんだ。それがとても純粋で、とても本質的なことだと思うし、それこそが “Valhalla” なんだ。そして、これこそが純粋な BLIND GUARDIAN なんだ」

“Tales from the Twilight World” は、BLIND GUARDIAN がすべてをまとめ始めたレコードです。エピカルでありながら、比較的ストレートなスピード・メタルを2枚お見舞いした後、”Tales” でバンドは曲がりくねった曲の構成と綿密に重ねられたアレンジを導入し、以降それが彼らの特徴になることを宣言したのです。公務員と労働はすでにバックミラーの彼方にありました。バンドは André と Hansi の仕事になっていたのです。
「最初の2枚のアルバムで稼いだお金を全部つぎ込んで、自分たちの小さなスタジオを買ったんだ。スタジオと同じプロセスが必要だった。学ぶべきだとね。曲を事前にプロデュースする必要があったけど、これは小さなスタジオでしかできない。だから、スタジオ機材を購入したんだ。そして、この技術的な機材を手に入れた瞬間から、Hansi と僕はリハーサルルームで生活するようになった。機械を使って、一分一秒でも早く曲に取りかかろうとしたんだ」
Hansi も変革の時であったことを認めます。
「僕たちはいつもいろいろなことを試すのが好きなんだ。実験に対する情熱は、僕たちのソング・ライティングには欠かせないからね。”Follow The Blind” の後、自分たちで初めてスタジオ機材を手にしたとき、僕たちの選択肢は無限に広がり始めた。これがあの頃感じていたことだ」
“Tales” のハイライトである “Traveler in Time”, “Lost in the Twilight Hall”, “The Last Candle” といった楽曲は、複雑で重く、しかしメロディックでキャッチーな要素を一度に味わうことができました。”Lord of The Ring” では素直に自らの素性を告白。振り返ってみると、これはパワー・メタルの発明、そしてその体系化の始まりようにも感じられますが、2人は会話の中で、意図的にこの用語を避けていました。どのように呼ぶにせよ、”Tales” は明らかにバンドが自分たちの “声” を発見した瞬間でした。
「僕たちは、ミュージシャンとしての自分たちについて考えていた」 と André は言います。「どうすれば自分の個性を生かせるか?リード・ギタリストとしての音色はどうすればいいのか?そして、Hansi はもちろん、ボーカリストとしての自分の個性を見つけ、初めて、僕たちが知っている Hansi のような、カリスマ的なサウンドを奏でたと思う。”Follow the Blind” では、彼はもう少しスラッシーなサウンドを出そうとしていて、どこに行けばいいのかよくわからなかったんだと思う。でも、”Tales” ではわかっていた。そして僕らも分かっていた。みんな、自分たちがどこにいて、どんな音を出したいのかわかっていたんだ」
そして、”Tales” でメインストリームでの成功がもたらされたと Hansi は言います。
「もはや、誰もが BLIND GUARDIAN が何であるかを知っていた。最初の2枚のアルバムよりも当然優れていることは別として、違いを生んだのは人々の意識だった。次のアルバムに対する人々の期待を実感したことで、”Somewhere Far Beyond” の制作は最も重要で困難な曲作りの期間となったんだ」
期待はソングライターとしての自分たちに大きなプレッシャーを与えたと André も同意します。
「だって、”なんてこった、こんなに成功したアルバムがあるのに、どうやったらこれを超えることができるんだ?”って思ったんだから」

今年30周年を迎え記念のツアーも行われた “Somewhere Far Beyond” で BLIND GUARDIAN は、”Tales” のメロディックなアイデアを発展させると同時に、より多くのサウンド要素を導入しました。バグパイプを使った “The Piper’s Calling” とタイトル曲、シンセサイザーによる “Theater of Pain”、さらに “ホビットの冒険” を踏まえた “The Bard’s Song(In the Forest)” では悲しげなアコースティック・ギターを、続編 “The Bard’s Song(The Hobbit)” ではそれを発展させた中世的なサウンドを披露して、バンドは “Tales” における自己発見を倍加させながら、さらに外界へと拡大していったのです。ちなみに、”The Quest For Tanelorn” は、ムアコックのエターナル・チャンピオンシリーズが元ネタ。
「”Tales” から “Somewhere” へ進む中で、明らかな進化があった」と André は言います。「だから、ギターの音をもっとリッチにして、”Tales” でやったことにすべて上乗せしようとしたんだ」
“Somewhere Far Beyond” は同時に、BLIND GUARDIAN がリハーサル・ルーム時代にお世話になったプロデューサー、Kalle Trappe との関係を終了させる作品ともなりました。「彼はプロデューサーとして非常に保守的で、僕がサウンドやプロダクションに関して革新的なアイデアを思いついても、いつもブロックされた」と André は嘆きます。だからこそ、1995年の “Imaginations from the Other Side” でバンドは、METALLICA の80年代を支えた伝説のエンジニア、Flemming Rasmussen を起用することにしたのです。

「彼はミュージシャンの尻を叩く方法を知っている。前任者は、パフォーマンスとグルーヴとキャラクターにしか興味がなかったんだ。でも Flemming は、僕たちをミュージシャンとして押し上げることを望んでいた。だから、最初は指から血が出るほど演奏していたよ。”もう100%やってるよ!”って言っても彼は、”そんなのは認めないぞ!もっと頑張れ!” と言うんだよ」
Flemming がミキシング・ボードの後ろにいることで、BLIND GUARDIAN はこれまでで最もタイトで、プログレッシブかつ最もダイヤルの合ったアルバムを完成させます。ファンタジー全般を礼賛するタイトルトラックにアーサー王伝説を引用した “Mordred’s Song” まで、”想像のアザー・サイド” を祝賀する “Imaginations” は大ヒットし、バンドにとって待望の国際的なブレイクを成し遂げました。世界のメタル・シーンは、ドイツと日本のオーディエンスがすでに気づいてたことにやっと気づいたのです。また、このアルバムはメロディック・メタルが低迷していた時期に発表された、豊かなレイヤーを持つバロック的なパワー・メタルでした。95年と言えばグランジがまだ優勢で、Nu-metal が徐々に台頭し、アンダーグラウンドの世界はますます過激になるデス・メタルやブラック・メタルに固執していました。それでも、André は気にしませんでした。ロンドンから来た彼のヒーローが、道を示してくれたから。
「僕たちは QUEEN を尊敬していたんだ。彼らは常に、何があろうと自分たち自身のことをやっていた。彼らは個性的で、シーンから完全に独立していた。僕たちも同じようになりたかった。他のバンドを見すぎて、成功したトレンドに自分を合わせようとすると、常に先を行くバンドより少し遅れてしまうから下降する一方なんだ。僕たちは何かを発明するバンドになりたかったんだ」

現在では誰もが認める名盤となっているため、当時 “Nightfall in Middle Earth” がいかに大きな賭けであったかを想像するのは困難かもしれません。BLIND GUARDIAN は常にオタク的な性癖を持っていて、お気に入りの SF やファンタジーの本を基にした歌詞を書いていました。
「僕はオタク的だと思ったことはないし、自分がオタクだとも思っていなかった」と Hansi は抗議しますが。「オタクだったのは、 André と Marcus だ。彼らはコンピュータのロールプレイングに夢中だったからね。でも僕はクールな男だった。彼らがそうしてる間に本を読んでいたんだよ」
“Nightfall” では、トールキンの “シルマリルの物語” をベースにした22曲入りのメタル・オペラを制作し、これまで以上にファンタジーの道を突き進むことになります。
「このアルバムは、トールキンのファンや、僕たちのようなファンタジーが好きな人にとって素晴らしいものになると思ったんだ」と André は回想します。「だから、自分たちのためでもあった。商業的な考えは排除したんだ。レーベルがこの作品をあまり好まないだろうことは、もうわかっていた。このアルバムには、ヒット曲やラジオのシングル曲、MTVのビデオクリップ的なものは入っていないからね。それは分かっていた。でも、”だからどうした?自分たちがやりたいことなんだから” って思っていたよ」
“Nightfall” の構成は、バンドにとって新たな挑戦となりました。”Imaginations” のように単独で成立する曲を作るのではなく、全体の物語とどのように相互作用するかを考えなければならなかったから。 André が回想します。
「Hansi は “メランコリックなものが必要だ”, “戦いが必要だ”, “あれもこれも必要だ” と言っていたよ。ファンタジー世界に深く入り込んで、トールキン的な感覚に合うようなアイデアを出そうとしたんだ。今までとは違う作業工程だったけど、とても興味深く、違う道を歩んだその時から多くのことを学んだんだろうな」
「この作品は新たな BLIND GUARDIAN のソングライティングの出発点だったのかもしれない」 と Hansi は言います。「当時はそう感じなかったけど、今思えばここがポイントだったのかもしれない。曲作り全体が常に進行しているんだ。だから、”Imaginations” から新しいものに向かって自然で有機的な進化を遂げることになったんだ」

“Nightfall” は、 André がクラシック音楽とオーケストラ・アレンジメントに興味を持ち始めたきっかけとしても重要な作品であった。このこだわりは、”Nightfall” の次の作品である2002年の “A Night at the Opera” でさらに実を結ぶことになります。「キーボードでクラシックの楽器を演奏して、それをレコーディングできるなんて、本当に驚いたよ」と André は言います。
「僕たちは、壮大でクラシック志向の曲を作り、実験していたバンドのひとつだったんだ。そして、これらのサウンドの融合は素晴らしいものだと今でも思っている。メタル・ミュージックにとてもよく合うんだ。曲のストーリーやメロディーで作り上げるエモーションは、オーケストラが入ればさらに強くすることができるんだよ」
“A Night at the Opera” で最も大胆な試みは、ホメロスの長編叙事詩 “イーリアス” を14分に渡ってシンフォニック・メタルに翻案した “And Then There Was Silence” でしょう。この曲は、オーケストラの楽器をふんだんに使い、コーラスだけが繰り返されるという、ほとんど圧倒的な音楽的アイデアの洪水を実現しています。”Opera” のレコーディングを開始する頃、2人はクラシック音楽のアルバム “Legacy of the Dark Lands” の制作を始めていました。 André は”Legacy” で採用した作曲スタイルに解放感を覚え、それをメタルの文脈で適用しようとしたのです。
「ルールはない。僕はただ音楽で物語を語りるだけ。もちろん、ドラムとギターを加えなければならなかったけど、とてもうまくいった。ヴァース/コーラス/ヴァース/コーラス/ソロ/コーラス/コーラスみたいな普通の曲の流れから抜け出したかったんだ。それに縛られたくなかったんだ。それに、ヘヴィ・メタルには物語をどこかに導いてくれる自由があると感じている。左の道を通って、またまっすぐな道に戻って、別のところに行くこともできるってね。森の中を歩いていて、木が来たらルートを変えるようなもの。ずっとまっすぐな道である必要はないんだよ」

“Opera” をリリースした後、多くのバンドがレトロなアルバムを制作した時期があったと André は嘆息します。
「彼らは80年代のような音を出そうとしたんだ。僕にとっては、それはひどいことで、そうしたアルバムはすべてひどいと感じた。後ろ向きに歩いているような気がしたんだ。彼らは80年代をもう一度再現したかったんだろうけど、何をバカなことを! 時間は一方向にしか流れていないんだ」
BLIND GUARDIAN のカタログの中で見過ごされてきた逸品、”A Twist in the Myth” がそうしたレトロに回帰するバンドに対する André の答えでした。長年のドラマー Thomas “Thomen” Stauch が脱退し Frederik Ehmke が新たに加入。その厳しい制作スタイル、短くしかし密にミックスされた楽曲、奇妙なシンセ音の多用は、そうしたレトロの風やバンド自身の “A Night at the Opera” からも可能な限り距離を置いていました。 André は、”Twist” について今でも、その最高の曲 -“This Will Never End”, “Otherland”, “Fly” は、トップレベルの BLIND GUARDIAN であると信じています。そして彼は、それらをさらに良くするために手を加え続けたいと思っています。
「今聴くと、もっとこうしたらいいのにと思うことがたくさんある。でも、当時、僕たちはこうした音楽の作り方をこのやり方しか知らなかったし、心の中ではベストだったんだ。でも、いつかこのアルバムの曲のいくつかを作り直したいと思っているんだ。素晴らしいアイデアなんだけど、曲はもっといい方法でアレンジできるし、もっとキャッチーになるはずだからね。このアルバムは、初めて聴く人にとって、とてもとても入り込みにくいものだったということが、今になってよくわかる。情報過多になってしまうし、カッコ悪い。今ならこのアルバムをどうプロデュースするかがわかるんだ」

“Twist” の成果に失望した André は、”And Then There Was Silence” の壮大でシンフォニックな実験に立ち返り、そこから前に進むためのインスピレーションを得ようとしました。そしてその頃、 “Legacy of the Dark Lands” のリリースに向けたセッションに没頭していた André は、本物の人間によるオーケストラを BLIND GUARDIAN のアルバムに使用したくてたまらなくなっていました。
「本物のオーケストラを録音して多くを学んだからこそ、壮大なものを書いてみよう、より良いものを作ろうと言って “And Then There Was Silence” をプログラミングしたからね」
プラハ交響楽団は、”A Night at the Opera” の最大級の衝動をより有機的に感じさせる “At the Edge of Time” で重要な脇役となっています。ゲームの主題歌ともなった “Sacred Worlds” と”時の車輪” がモチーフの  “Wheel of Time” はアルバムの中枢として機能し、”And Then There Was Silence” の圧倒的なスケールをややコンパクトにまとめて提供しています。一方で、”Ride Into Obsession” は André の “作曲された” リードギターがメロディアスなフレーズを奏でなければスラッシュと見紛うばかりのアグレッションを纏います。結局、”At the Edge of Time” は原点回帰という名の一時後退で、 André とバンドの他のメンバーが “Twist” の “失敗” を克服するために必要なリセットであったのです。

2015年の “Beyond the Red Mirror” は、”At the Edge of Time” の自然な伴侶となるべき作品でしょう。この2枚のアルバムはほぼ同じシークエンスとペースで構成されていて、この作品では9分の “The Ninth Wave” と “Grand Parade” を、”Edge” における “Sacred Worlds” と “Wheel of Time” と同じスロットに配置しています。 André は当時、エピックモードで作業し、BLIND GUARDIAN のサウンドを盛り上げるオーケストラの使用に満足していました。
「この2枚のアルバムの間で抜本的な改革はしていないんだ。よし、”Tales” と “Somewhere” の間でやったように、さらに良い音にして、このスタイルをさらに進歩させようという感じだったね。”Beyond the Red Mirror” でピーク・ポイントを設定したかった。ソングライティングはそうできたと思うけど、プロダクションはそうじゃなかったんだ」
確かに、”Mirror” のオーケストラの要素は、”Edge” の力強さに比べて妙に弱々しく感じられ、その結果、アルバムは少しスケールダウンしています。それでも、”Prophecies” のようにいくつかの素晴らしい曲が含まれていますが、 André は “壮大なオーケストラの BLIND GUARDIAN 路線” に行き詰まりを感じていたようにも思えます。
「僕にとっては、その時、この壮大なスタイルを続ける必要はないと思ったんだ。しばらくはこれをやっていたが、今は他のことをやる時だ。もう一度激変が必要なんだとね」

その変化はすぐにやってきますが、その前に André と Hansi は20年以上も温めていた愛の結晶をリリースする必要がありました。BLIND GUARDIAN TWILIGHT ORCHESTRA とクレジットされ、エレクトリック・ギターがゼロである “Legacy of the Dark Land” は、2019年に発売されました。”Legcy” に収録されている最も古い曲は、”Nightfall” 時代までさかのぼります。
「純粋な体験について言えば、常に学び続けるプロセスだった」 と、Hansi は説明します。「音楽家としての能力はもちろん、機能的な曲作りや音楽における物理学について、膨大な知識を得ることができた。それは、実際よりも理論的にね。音楽の魂にとって、その知識は効率的なんだよ」
メタルではないアルバムをリリースし、その理由をファンに理解してもらうことができたのは BLIND GUARDIAN が数十年に渡って築き上げてきた実験の証といえるでしょう。バンドは常にAndré と Hansi の実験室であり、”Legacy” は彼らの最も壮大な実験であったと言えます。だからこそ、二人はこの作品をとても大切にしているのです。
「20年という時間の中で、このような学習プロセスがあったのだから、本当に素晴らしいことだ。こうした時間があったからこそ、このアルバムを作ることができた。何も変えたくないんだ。僕にとってあれは完璧なアルバムで、今までで最高の作品だ」

「長い間、僕らの思考を支配してきたオーケストラ・アルバムの後に、僕らが何か声明を出したかったのは確かだ」と Hansi は言います。「今、僕たちはやりたいことを何でも自由にできるようになったんだ。”The God Machine” は、解き放たれたブラインド・ガーディアンなんだ」
“解き放たれた” という言葉は、”The God Machine” にとって完璧な言葉でしょう。少なくとも “A Twist in the Myth” 以来、あるいはそれ以前から、BLIND GUARDIAN のアルバムの中で最もヘヴィな作品なのですから。このアルバムは、”Deliver Us from Evil”, “Damnation” という2曲の強烈なスピード・メタルで幕を開けます。その後に続く “Secrets of the American Gods” は7分間の音の迷宮で、”The God Machine” の中で最も叙事詩に近いもの。この曲は、Marcus のリズムギターを軸に、アレンジが螺旋状の回廊を下っていくようなうねりを伴っています。Marcus、ドラマーの Frederik Ehmke、ベーシストの Barend Courbois は André や Hansi と同様にアルバムのサウンドにとって重要な存在であることは言うまでもないでしょう。
「久々にバンドとしてリハーサルを再開したんだ。そして、”Legacy of the Dark Lands” に取り組んでいる間、ずっと見逃していたバンドのエネルギーとヘヴィネスを感じたんだ。それは僕らが再び速く、よりハードになった理由のひとつだ」
“The God Machine” はコロナ時代の BLIND GUARDIAN 最初のアルバムですが、彼らの曲は世界的な大災害よりもエルフや魔法使いについての曲の方が未だに多いのはたしかです。ただし、このアルバムは André が今の世界の “世相” と呼ぶものを捉えているようです。
「世界全体が厳しくなったように感じた。人々がお互いにどのように話しているのかがわかった。10代の頃のイライラした気持ちに近いものがあった。そして、それが “The God Machine ” の感覚だった。フラストレーションを全部吐き出して、エネルギーを全部込めたんだ。もっとスピード・メタルなんだ。もっとハードでファストな感じ。僕にとって、それは今の時代を反映しているもので、常に重要なこと。そしておそらく、僕がこの時代に抱いた感情を解消するのに役立つのであれば、それは他の人々にも役立つかもしれない」
今回、BLIND GUARDIAN の挑戦は “スピード・メタル 2022” です。
「もう2017年末のツアーの直後から曲作りを始めていたね。ただアイデアを集めて、すべてをオープンにしておいたんだ、なぜなら、最初のうちは、自分たちを特定の方向に限定したくないから、どんなアイデアがあるか見て、そこから作業するんだ。だから、最初は “American Gods” と “Architects of Doom” に取り組んでいて、その後、”Legacy of the Dark Lands” に集中しなければならない、あるいは集中したいので、曲作りは一旦中断したと思うんだ。それが終わると、オーケストラやアレンジメントと一緒に仕事をするのはとても強烈で、僕にとっては何か別のことをするのが自然だと感じたし、メタル・バンドを再び感じ、残忍さとスピードを感じることができた。だから自然に、最初の1、2曲はスピード感のある曲になった。Wacken Worldwide で演奏して “Violent Shadows” をプレイしたとき、この曲に対して素晴らしいフィードバックを受けた。そして、この直後に、いや、この直後ではなく、すでにこの前に、パンデミックがスタートしたんだ。その瞬間、僕の周りや世界が一変した。よりタフになり、ある種のサバイバルモードに切り替わったような感じ。だから僕もよりタフに、よりハードにならざるを得なかった。すべてが少し混沌としているように見え、その瞬間、よりハードで残忍な音楽を書くことが本物だと感じたんだ。だから、このアルバムは、僕らが今感じている “タイム・スピリット” 世相や瞬間を捉えたものだと思うし、それは僕らの音楽の中に常にあるもので、古いアルバムからずっと、音楽における感覚の大きな部分を占めていたんだ。
このスピード感のあるアルバムは、僕らにとっては自然なことなんだ。レトロなアルバムを作ろうとか、昔を真似しようとは思っていなかった。僕らにとってこの作品は、メタル・バンドとしてスタートしたときの純粋なに、今の知識を加え、バンドとして、作曲家として成長を加えたものなんだ。スピード・メタルを2021年、2022年の時代に移したかった。だから、よりモダンなサウンドにする必要があったし、アレンジに関しても少しトリッキーにする必要があって、それを実行した。振り返ってみて、通用しないような曲は嫌なんだ。そうだね、今回僕らの挑戦は、スピード・メタルが今どう聞こえるべきかということであり、新しい世代のメタル・ファンにとってどう興味深いものになり得るかということだと思う。もし今、16歳や20歳の若者が聴いたら、80年代のオリジナル曲よりもずっと彼らの関心を引くことができると思う」

ある意味、”The God Machine” は BLIND GUARDIAN の新章、その幕開けと言えるのかもしれません。
「どこか別の場所に行きたかった、それは確かだ。いわば、新しい BLIND GUARDIAN のサウンドを定義したかったんだ。”At the Edge of Time” と “Beyond the Red Mirror” はかなり近かったから、あれを1つの章として見ている。そのあと時折、章を閉じ、別の章を開く必要があるんだよ。今がそのタイミングだと思ったんだ。プロデューサーのチャーリーと、どうやったら新しいアルバムをまったく違うサウンドにできるかについて何度も話し合ったんだけど、結論は最初からすべてを変えること。ドラムの録り方も変えたし、ギターの音も完全に変えた。ミキシングも新しい人にやってもらったし、そういうことを全部ひっくるめて、新しい章が始まるんだということがわかるような、今までとは違う作品になったと思う。アートワークについてもね。ファンタジーであることに変わりはないけど、より現代的であることを示すようなアートワークのカットが必要だと」
ただし、BLIND GUARDIAN にとっての “現代化” とは、断捨離で、ミニマライズで、スペースを作ることでした。
「同じダイナミックさ、同じアグレッションを持ちながら、たくさんのスペースが欲しかった…今回の音楽はもっとオープンで、もっとスペースがあるんだ。80の楽器が同時にトリックを繰り広げるような超壮大なものではなく、もっと…僕は70年代のものが好きでね。DEEP PURPLE から LED ZEPPELIN まで、僕の好きなバンドの多くは70年代のロックバンドで、彼らのギターサウンドが本当に大好きなんだ。だから今の僕の基本的なサウンドは70年代のアンプをベースにしていて、それによってよりスペースができて、ある意味ボーカリストがより輝いている。
実際、”The God Machine” はかなり70年代の影響を受けている。今でもライブではこのコンセプトにこだわっていて、うまくいっている。その方がみんなにとってずっといいんだ。僕たちは、基本的なロックっぽいバンドに少し戻っているからね。例えば、ギターから見たアメリカ流のメタル・サウンド、SLIPKNOT, KORN, DISTURBED は、典型的な歪み過ぎ。僕のヒーローは Eddie Van Halen なんだけど、彼のサウンドをいつもチェックしていて、何が好きで何が嫌いなのかっていうのを考えていたんだ。たぶん、それが僕らにとっての進むべき道なんだと思うし、スピード・メタル系の音楽でも、こういうサウンドは気持ちいいと感じるんだ」
“Life Beyond the Spheres” にはたしかに、70年代の音もかなりはっきりと入っています。
「この曲は特殊な奏法で演奏されているんだけど、この奏法を実現するために何度もリハーサルを重ねたんだ。僕は音楽ジャンル全体を何か別のものに前進させる、イノベーションの大ファンなんだ。もしかしたら、今までなかった新しい何かを見つけられるかもしれない。”Life Beyond the Spheres” では、サウンドトラックの方向へ行きたいと思ったんだ。当時は “サイバーパンク 2077″ をやっていたから、ちょっとそこからインスピレーションがあった。サイバーパンクの方向性で、今までよりもスペイシーなメタル・サウンドを持ち込もうとしたんだ。その感覚を Hansi も掴んでくれて、今までやったことのない、このジャンルに近くない曲ができたと思う。いいよね、これはとても革新的な曲で、誇りに思っているよ」
多くのバンドが左に進むと、右に行くのが BLIND GUARDIAN のやり方。
「”Twist in a Myth” のように、遠くへ行ったアルバムもあるし、エレクトロニック・サウンドの実験もたくさんやった。当時はもっとシンセティックなサウンドにしたかったし、シーケンサーで遊んでみたかった。禁止されていることは何もない。自分の頭の中に素晴らしいコンセプトがあれば、何があってもそれを実現させたい。僕らにとってはただ、アルバム全体が調和していることが重要なんだ。曲作りの段階でたくさんの曲を考えたけど、その中には絶対に合わない曲もある。それを入れるのは休憩とか場違いみたいになってしまうから嫌なんだ。だから、曲順を工夫すれば、ストーリーが生まれるような曲ばかりを選んでいった。全く違う方向性の曲もあったよ。ジャズ的な要素も試したし、本当にクールなアイデアもある。ある時点で、リリースする予定だけど、すべては正しく行われなければならない。それでも、オリジナルの BLIND GUARDIAN サウンドにこだわる必要はない。僕の考えでは、BLIND GUARDIAN の本当の最初の定義となったのは “Tales of the Twilight World” だった。だから僕たちはどこへでも行けるんだ」

André は未だに長年連れ添った Hansi と意見が合わないこともあると認めています。”Blood of the Elves” はまさにそんな2人の違いとケミストリーが生んだ曲。
「キャッチーでフックなメロディーを聴く耳は、僕の方が上だと思う。Hansi はそういう意味では、もっと複雑で、プログレッシブな思考を持ちすぎている人。僕は楽器の演奏ではそうなんだけど、壮大でクラシックな曲になると複雑になりすぎてしまうのは嫌なんだ。僕は心に残るようなサビが好きなんだよ。Hansi はこれを壊したがっていたんだけど、僕は絶対にダメだと言ったんだ。彼にとっては、歌詞のセンスを入れることがとても重要なんだよね…全体がコーラス部分に収まる必要があるんだよ。でも僕はリズムもメロディも完璧なんだから、そのままでいいじゃないかと。だから、たまにはそういうこともあるけど、たいていの場合は同意する。僕たちはそんなに離れているわけでもないし、2つの世界が衝突するようなことはない。
結局、BLIND GUARDIAN の成功は、僕と Hansi のケミストリーのおかげだから。それは、愛憎半ばするケミストリー。僕たちは、本当に何でも話し合えるコミュニケーション方法を持っているから。たとえ意見が合わないときでも、すべてを持ち寄る。でも、最終的には一歩引いて、 “やっぱり、君が正しかった” と言えるんだ。それができるのが大事なんだよ。Hansi が思い通りになることもあれば、僕が思い通りになることもあり、時には妥協点を見出すこともできる。でも、僕は妥協があまり好きじゃなくて、妥協すると何かを失うと思ってしまう。だから、100%彼のやり方で行くか、100%僕のやり方で行くか、その方がいいんだ。何かに合意したら、何かを決めたらそれを100%追求する。それが僕らのいいところで、例えば Hansi が何かに反対していたとして、じゃあ君のやり方でやろうと言った瞬間から、そのアイディアに100%賛成することになるし、その反対もある。それが結果的にいい音楽につながっている」

ただ、歌詞のアイデアは、この曲での “Witcher” のように “オタク” である彼と Marcus が Hansi に押し付けることもあります。ただし、正解を出すのはいつも Hansi です。
「Hansi は歌詞について素晴らしい才能を持っているよ。だから彼に任せるよ。彼はボーカリストだから、正しい言葉に対する正しい感覚を持っているし、サビの部分の言葉ひとつで大きく変わるからね。もし、シンガーが嫌がる言葉を入れたら、曲が台無しになることもある。だから、最終的にボーカリストが気に入ったものを演奏することが本当に大事だと思う。Hansi の歌詞は、行間を読ませるような書き方をしていて、大好きだ。彼はいつも、解釈のためのスペースをたくさん残しているんだ。彼がヒントを与えることで、人々は何が起こっているのか、どういう意味なのかを考え始め、より深く、より深く掘り下げていくことができる。そうすることで、BLIND GUARDIAN の音楽は最終的にもっと強烈なものになるんだ。時には、歌詞がきっかけで本を見つけて、本を読んでくれるなんてこともあるくらいでね。
曲作りの時に彼はダミーの歌詞を使うから、時々議論が起こる。そのダミーの歌詞の中で、彼はとても良さそうな言葉を選んでいて、でも最終的に彼はその素敵な言葉を交換しようとするから、いつもまた喧嘩になる。ただ、Hansi は本当にセンスがよくて、曲のフィーリングや音楽に合うトピックを見抜く力があるんだよね。逆に、僕が音楽を作るとき、例えば “Destiny” は、僕が大のRPG好きで、あれは僕にとって、”World of Warcraft” という氷の世界の何かを題材にしたゲームにインスパイアされたものなんだ。そのことを彼に話し、僕のイメージするリッチキングのことを話した。すると彼は、”僕はそのストーリーに興味がないから、これについては書かないけど、同じ感情をキャッチできるようなものを考えてみるよ” と言ったんだ。彼はそれが本当に上手だから、心配する必要はないし、干渉する必要もないんだよね」
パンデミックで文化としての音楽、文化としてのメタルも危機に瀕しました。
「若い人がいきなり2年間も趣味を追求できなくなる。いきなり家に閉じこもってしまう。もちろん、フラストレーションは溜まる。僕が思うに、一番の捌け口は “音楽” だよ。音楽は良い治療法だ。ハードなバンドをいくつか聴いて、それを捌け口にするんだ。若い世代の人たちは昔よりオープンだからね。そんな若いファンにとって、スピード・メタルに親しむことは間違いなく面白いことだと思うんだ。”The God Machine” はスピード・メタルだけど、ただ、非常にモダンなスピード・メタルだから埃をかぶってはいない。そうやってスピード・メタルのエッセンス、エネルギーを今の時代に伝え、若い世代の足元に投げかけて、”ここにいい音楽があるよ” と言うことが大切だと思うんだ。パンデミックで、音楽シーンは社会の中で何のステータスもなく、真っ先にキャンセルされ、サポートされないことが明らかになった。この生じた穴を再び埋めることができればと願っているよ。多くのオーガナイザーやバンドが潰れてしまわないように。文化は重要だし、音楽は政治家が考えている以上に重要だよ。音楽という文化がこのまま、2023年以降も、僕たちが築き上げることのできる確かなものであってほしいと願っているんだ」

参考文献: TUONELA MAG:Interview with Blind Guardian — “We wanted to define a new Blind Guardian sound.”

BANDCAMP :An Introduction to Blind Guardian’s Mighty Power Metal

HARDFORCE:BLIND GUARDIAN Interview André Olbrich

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【VOIVOD : ULTRAMAN EP / SYNCHRO ANARCHY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DAN “CHEWY” MONGRAIN OF VOIVOD !!

“Let’s Help Each Other And Sing Together! Metal Is One Of The Most Open Community, People Gather And Have Fun, They Connect! We All Can Try To Be Ultraman In Our Own Ways And Help Each Other!”

DISC REVIEW “ULTRAMAN EP / SYNCHRO ANARCHY”

「今世界には、気候、戦争、政治など常に緊張感がある。日本はそれをよく理解しているはずなんだ。SF は時に僕たちが考えるよりも現実に近い。だからこそ、僕たちは皆、テレビの中のウルトラマンが勝利を収めることを望んでいたんだよね。そこに現実世界を重ねているから」
ピコン・ピコン・ピコン・ピコン…私たちは皆子供の頃、ウルトラマンの胸で輝くカラータイマーの点滅が加速するたび、スリルと心配で手に汗を握り、勝利を願いながらテレビにかじりついたものでしょう。もちろん、頭では “これは現実ではない” と理解していても、あの SF 怪奇大作戦に心がのめり込むのは “もしかすると現実でも起こり得る” そんな潜在的な不安と恐怖、そして共感をウルトラマンの巧みな設定やストーリー、そして音楽が掻きたてたから。そして、SF メタルの第一人者 VOIVOD は、今、この暗い時代にこそウルトラマンが必要だと誰よりも深く理解しているのです。
「僕たちは皆、ケベック州(カナダのフランス語圏)で翻訳されたフランス語版のウルトラマンを見て育ったんだ。オリジナル・シリーズ、音楽、怪獣、ベータ・カプセル…カラータイマーがどんどん早くなる時の緊張感…など、ウルトラマンはここケベックで知るものとは全く違っていて、新しい種類の冒険に心を開いてくれたんだよ」
なぜ今、VOIVOD がウルトラマンに着目し、テーマソングをカバーすることに決めたのか。理由は大きく二つ。一つは子供の頃からのヒーローだから。VOIVOD のメンバーはカナダ出身ですが、全員がフランス語圏のケベックで育ちました。日本の特撮やアニメの需要が高いフランス語圏において、彼らがウルトラマンやキャプテン・ハーロック、グレンダイザーをヒーローとして育ったことはある意味自然な成り行きでした。音楽産業がパンデミックや戦争で危機に瀕した時、ウルトラマンの登場を願うことも。
メンバーの中でも特に日本通、Dan “Chewy” Mongrain にとって、コロナ・ウィルスは怪獣に見えたのです。そして、ウルトラマンがその “怪獣コロナ” を一撃必殺のスペシューム光線で粉砕することを願いながら、ウルトラマンのテーマをアレンジしていったのです。そう、VOIVOD にとって光の戦士はまさに希望の象徴でした。
「このパンチの効いた不協和音はまさに VOIVOD のサウンドみたいだよね (笑) もしかするとオリジナル・ギタリストの Piggy は、ウルトラマンの音楽から影響を受けて初期の VOIVOD の音楽を作っていたのかもしれないね!ドラムの Away は僕のデモを聴いて、”うわっ!完全に VOIVOD だ!”と言っていたよ」
もう一つの理由は、純粋にウルトラマンのテーマがあまりに VOIVOD らしい楽曲だったから。それは Chewy が、前任のギタリストでバンドの支柱だった Piggy が、ウルトラマンのサウンドトラックから影響を受けたと推測するほどに。もちろん、半分は冗談でしょうが、SF マニアだった Piggy のことです。絶対にありえない話ではないでしょう。それほどに、ウルトラマンのテーマソング、そこに宿るブラスやオーケストレーション、そして不協和は解体してみれば実に VOIVO-DISH な姿をしています。
実際、VOIVOD は今が絶頂かと思えるほどに充実しています。40年にわたり SF プログレッシブ・スラッシュの王者として君臨してきた彼らは、1987年の3rd “Killing Technology” でこのスタイルを確立しましたが、メンバーの満ち引きを繰り返しながらその独自の方式に繰り返し改良を加えてきました。変幻自在にタイトでトリッキー、そしてフックの詰まった最新フル “Synchro Anarchy” は、まさにバンドが最高の状態にあることを示しています。
冒頭から、威風堂々圧倒的に異世界なギターリフ、近未来の激しいパーカッション、クセの強いディストピアンなボーカルが炸裂し、VOIVOD らしい歓迎すべきねじれた雰囲気を確立。 VOIVOD の愛する黙示録的な高揚感を完璧に体現しています。一方で、反復する心地よいハーモニーの催眠効果、不規則なサイクルと唐突な場面転換で、さながらフランク・ザッパのように VOIVOD は自由自在にメロディック・プログレッシブの地平も制覇していきます。
VOIVOD がただ、直接的な “苛酷” のみに止まらないのは、リスナーにポジティブなオーラ、夢や希望、ひと時でも現実を忘れる娯楽を提供するため。そうして彼らは、”Synchro Anarchy” と “Ultraman EP” の連作において見事にその目的を達成しました。ウルトラの父がいる。ウルトラの母がいる。そして “忠威” がここにいる。
今回弊誌では、Dan “Chewy” Mongrain にインタビューを行うことができました。「僕たちがしようとしたことは、皆を喜びやポジティブな気持ちをもたらすものに集中させること。悪い時は過ぎ去り、きっと良い日はやってくる。だからお互いに助け合い、一緒にメタルを歌おうよ! メタルは最もオープンなコミュニティーの一つだ。人はここに集まり、楽しみ、そしてつながっていく! 僕たちは皆、自分なりの方法で誰かのウルトラマンになろうと努力できるし、お互いに助け合うことができるんだよ!」 3度目の登場。感謝。どうぞ!!

VOIVOD “SYNCHRO ANARCHY” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【BLIND ILLUSION : WRATH OF THE GODS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BLIND ILLUSION !!

“It’s Really All About The Love Of Playing Music And Most Of All This Latest Incarnate Was Designed To Be Able To Bring The Progressive Thrash Metal To The World.”

DISC REVIEW “WRATH OF THE GODS”

「そう、俺らはあの作品を “ヒッピー・スラッシュ” とか “プログレッシブ・スラッシュ・メタル” と呼んでいたんだ。俺たちは常にあらゆる音楽から影響を受けたリフを取り入れていたし、今でもそうしている。ヘヴィに変換できる素材なら何でもいいのさ! 」
ベイエリアのスラッシュ・シーンで名を馳せた BLIND ILLUSION は、バンドが始まって10年を超えるの活動期間中に、デモなどを除けば、たった1枚のスタジオ・アルバムを制作しただけでした。しかしあの Combat Records からリリースされたアルバム “The Sane Asylum” は、発売から四半世紀以上が経過した現在でもその異端な激音のブレンドでカルトな名盤として語り継がれています。プログ、クラシック・ロック、NWOBHM, サイケをふんだんにまぶした、あの酩酊を誘う重量感を一度耳にすれば決して忘れることはないでしょう。BLIND ILLUSION は、スピードとアグレッションが主流だった当時シーンに、別種のテクニックと多様性、そしてヒッピーの哲学的な味わいを加味し、”美味しすぎる” 闇鍋を作り上げていたのです。
「俺たちは学校で顔を合わせることの多い友人で、3人とも音楽にとても夢中になっていた。Les がギターを習いたいと言ったから、Kirk は俺からレッスンを受けるようにお膳立てしたんだよ。でも俺はベーシストが必要だったから、Les に “ギタリストはどこにでもいる。でもベースを弾けるようになればいつでもバンドを見つけられるぞ!”と言ったんだ。それで彼は BLIND ILLUSION に参加し、当時演奏していた曲から基本的なことを学んでいったんだ」
BLIND ILLUSION の功績はその音楽だけにとどまりません。バンドの首謀者 Mark Biedermann の周りには不思議と異能のアーティストが集まり、その才能を羽ばたかせていきます。類は友を呼ぶということでしょうか。
BLIND ILLUSION が POSSESSED も経由しているギタリスト Larry LaLonde とベースの魔術師 Les Claypool からなる史上最強のオルタナ・ファンク・メタル PRIMUS を生み出したことはつとに有名ですが、まさか Mark が Les にベースへの転向を勧めていたとは…そこにあの Kirk Hammett も絡んでいるのですから言葉を失いますね…あの3人が同じ学校で机を並べて勉強していたのですから。ゆえに当然、EXODUS のデビューにも BLIND ILLUSION のサポートがあったわけです。
「音楽を演奏することへの愛がすべてだよ。何よりもこの最新の俺の化身は、プログレッシブ・スラッシュ・メタルを世界に広めることができるように設計されているんだからね」
デビュー作のリリース後にバンドは解散し、ボーカル/ギターの Mark Biedermann は2010年に酩酊を深めた異なるサウンド、異なるラインナップで復帰しますが、長続きはしませんでした。しかし、Mark のプログレッシブ・スラッシュに対する情熱が消え去ることはありません。2017年に元 HEATHEN のギタリスト Doug Piercy とベーシスト Tom Gears が加入し、4曲入り EP が続き、遂にプログ・スラッシュの伝道作 “Wrath of the Gods” の完成を見ます。ただでさえ、百戦錬磨のスラッシュ戦隊に、元 DEATH ANGEL のドラマー Andy Galeon を加えながら。
「特にベイエリアやアメリカのスラッシュ・シーンで一番心配なのは、真に画期的な新しいバンドがいないことだよ。新しい世代の若いミュージシャンたちは、YouTube のビデオを見たり、既存のバンドと同じようなサウンドを出すのではなく、全く新しいことを実際にやってみる必要がある。GOJIRA, BLIND ILLUSION, SATAN, TOXIK, ANNIHILATOR のようなバンドは皆、他とは違う、未知の世界に踏み出すために懸命に働いているんだからね」
Doug Piercy がそう語る通り、この音は今でも真に画期的で、他とは異なる BLIND ILLUSION のお家芸。30年という時間は、忍耐強く待つには非常に長い時間ですが、それでも “Wrath of the Gods” は間違いなくその価値があります。本作は、場面転換やギアチェンジ、ズバ抜けた個々のパフォーマンス、現代的な洗練を適度に施したビンテージなプロダクションによって、確かに “The Sane Asylam” の真の後継作、そのプライドを宿しています。
このアルバムの素晴らしさは、金切り音を上げるギターソロや突然のリズムチェンジ、独特のしわがれ声というベイエリアの三原則、勝利の方程式を保持しながらがら、スローダウンしてファンクのグルーヴ、サイケのムードで耳を惹く場面が何度もあるところでしょう。やはり、この時代の人たちは YouTube のような “規範” など一切存在しなかっただけあって、自分の色が鮮明。
“Protomolecule’ や “Wrath of the Gods” といった神々しきリフの数々は、破砕的でテクニカルでありながら、非常にキャッチーでエネルギーに満ち、次の展開の予想でリスナーをスピーカーの前に釘付けにするのです。逆に、これで葉っぱキメてないと言われても容易には信じられませんね。
今回弊誌では、Mark Biedermann と Doug Piercy にインタビューを行うことができました。「機会があれば PRIMUS をよく見に行ったものだよ。特に Todd Huth がギタリストだった初期の PRIMUS が大好きでね。それでも、Larry が加入してからも本当に驚かされてばかりさ。透明で流れるようなギターのフレーズをよりヘヴィに仕上げていてね。彼らが新曲を発表するたびに、すぐにチェックしているんだよ」 どうぞ!!

BLIND ILLUSION “WRATH OF THE GODS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【HOUKAGO GRIND TIME / RIPPED TO SHREDS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ANDREW LEE OF HOUKAGO GRIND TIME / RIPPED TO SHREDS !!

“I Want To Express My Love For Anime Through Music, And I Think Educated Listeners Can See That I Have Equal Love For Both Moe Anime And Goregrind.”

DISC REVIEW “HOUKAGO GRIND TIME2 / 劇變(JUBIAN)”

「僕は、自分が感情移入できないもので芸術を作るのは好きではないんだよ。だから、音楽を作るときは、特に作詞作曲や映像のデザインをする場合はいつでも、自分が情熱を傾けられるような題材でなければならないんだ。僕は音楽を通してアニメへの愛を表現したいし、教養のあるリスナーには僕が萌えアニメとゴア・グラインドを等しく愛していることが分かると思う」
愛するものを、自らのアイデンティティを、自然に自由にアートへと昇華する。言うは易く行うは難し。特に、音楽が金銭と直結しにくくなった現代において、理想のハードルは以前よりも高くそびえ立っています。
しかし結局は、案ずるより産むが易し。台湾からアメリカに移住したアジア系アメリカ人の Andrew Lee は、HOUKAGO GRIND TIME ではアニメに対する愛と情熱を、RIPPED TO SHREDS では自らの出自である中国/台湾のアイデンティティで “自らの声” を織り込み、二足のわらじで “嘘のない” アートを実現しています。
「エンターテイメントとは、そのエンターテイメントが市場の需要に応えるという意味で、それを生み出す社会の反映なんだ。エンターテイメントが社会から排除された人たちにオアシスを提供するのは良いことだけど、だからそのエンターテイメント自身が資本主義によって作られた “製品” に過ぎないように感じることがよくあるんだよね」
もしアニメ “けいおん!” の放課後ティータイムがグラインド・コアをやっていたら…そんな荒唐無稽を想像させるような夢のある地獄のグラインドコアが HOUKAGO GRIND TIME。グラインドコアもアニメの世界の一角も、荒唐無稽で大げさでそこそこに不真面目であるべきで、だからこそ、その両者を併せ持った HOUKAGO GRIND TIME の音には説得力が二倍となって宿ります。
さらに言えば、メタルもアニメも社会から時に抑圧され、時に無視される “オタク” にとっての拠り所、逃避場所、心のオアシスで、その両者を併せ持つ HOUKAGO GRIND TIME の寛容さももちろん二倍。重要なのは、Andrew の精神や目的が資本主義の欺瞞から最も遠く離れた場所にあることでしょう。ゆえに、ここには逃げられる、心を許せる、心底楽しめる。
「僕は、他のアジア系アメリカ人が “自分たちの” デスメタルバンドを結成し、自分たちにとって重要なテーマについて歌うようになればいいと思っているんだよ。多くのアジアのバンドは、特にアンダーグラウンドでは、プレゼンテーションやテーマの面で西洋の同世代のバンドを真似してきたからね。SABBAT, IMPIETY, ABIGAIL みたいなバンドは、ビール、パーティー、サタン/キリスト、その他西洋のテーマについて歌っているから」
デスメタルを追求する Andrew もう一つの翼、RIPPED TO SHREDS でも彼の正直さ、純粋で無欲な姿勢は一向に変わりません。Relapse 期待の一作 “劇變”(Jubian)” は、スウェーデンの古を召喚した地獄のようなデスメタルでありながら、スラッシュ譲りの獰猛さとメロディアスなギターワークを備えます。
中国語を多用した歌詞やタイトル、項羽と劉邦や三国志をイメージさせるアートワーク、そしてあの HORRHENDOUS にも例えられるプログレッシブで鋭い技巧の刃は明らかにステレオタイプのメタルをなぎ倒す怒涛のモメンタム。このわずか33分で RIPPED TO SHREDS は歴史、アイデンティティ、そして中国/台湾とアメリカとの関係について深く考察し、自分の頭で考え、自分の音楽を、自分にとって重要なテーマで語っているのです。
RIPPED TO SHREDS の目標の一つは、アジア系アメリカ人のメタルに対する認知度を高めること。Andrew は、歴史の陰惨な側面に立ち向かいながら、キャッチーなリフとエモーショナルかつ奇抜なソロの洪水よって、この目標を実現に近づけていきます。”アメリカのマイノリティであることは本質的に政治的” “アメリカの文脈の中で中国のアートを作るという行為こそが破壊的な問題提起” だと Andrew は指摘しますが、”劇變(Jubian)” はまず細部に至るまで豊かで濃密なヘヴィ・メタルです。
特に “獨孤九劍月神教第三節(In Solitude – Sun Moon Holy Cult Pt 3)” にはコントロールされたカオスが大量に盛り込まれていて、この10分の作品は、疾走感から壮大なメロデスの慟哭、ドゥーミーな中間部までエピックのスイを尽くしてリスナーを民話に根ざした物語に惹きこんでいきます。秦の時代、豊満な戦士が宦官に変装して宮中に忍び込み、皇太后を誘惑するというおかしくも恐ろしいエピソードから、アメリカの原爆投下、中国の重層的な政治的歴史まで、RIPPED TO SHREDS が扱うテーマには必ず Andrew のアイデンティティが下敷きにあって、彼はヘッドバンキングの風圧でそこに火を注ぎ、見事に燃焼させていくのです。
今回弊誌では、Andrew Lee にインタビューを行うことができました。「世の中にはアニメ・ゴア/BDMバンドが少なくないけど、彼らはグロ・ロリ・バイオレンスを “ショック・バリュー” “衝撃度” として使っているだけで、本当にそのテーマに興味を持っているバンドは皆無だよね。アイツらは、自分らのポルノの題材で一瞬たりともシコってないんだよ。ヤツらはただ “hentai violence” でググって、任意の過激な画像をアルバムに載せているだけ。まさに、怠惰なビジュアル、怠惰なテーマ、怠惰なアート、怠惰な音楽」 どうぞ!!

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MARBIN : DIRTY HORSE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DANI RABIN OF MARBIN !!

“I Feel Like The Number One Problem With Fusion Music Today Is That People With The Groove Or The Chords First And Their Melodies End Up Being Something That Fits. A Melody Is The Center. Everything Else Should Be Bent To Fit It.”

DISC REVIEW “DIRTY HORSE”

「僕たちは常にメロディから始めるんだ。コードやハーモニーはフレームだけど、結局メロディーを生み出さないとキャンバスの形がわからないからね。今のフュージョン音楽で一番問題なのは、グルーヴやコードが先にあって、メロディがその場しのぎで終わってしまうことだと思う。でもそうじゃないだろ?メロディーは中心だよ。それ以外のものは、メロディーに合わせていかなければならないんだ」
MAHAVISHNU ORCHESTRA や WEATHER REPORT, そしてもちろん Miles Davis など、かつて “エレクトリック・フュージョン” が革命的で、刺激的で、しかしキャッチーな音楽の花形だった時代は確実に存在しました。日本でも、Casiopea や T-Square がマニア以外にも愛され、運動会で当たり前に流されるという “幸せな” 時代がたしかにあった訳です。
なぜ、エレクトリック・フュージョンは廃れたのか。あの Gilad Hekselman や Avishai Cohen を輩出したジャズの黄金郷、イスラエルに現れた MARBIN のギタリスト Dani Rabin は、率直にその理由を分析します。変わってしまったのは、”メロディーだ” と。
「ファラフェル・ジャズ (ファラフェルとは中東発祥の揚げ物) と呼ばれるものは、イスラエルの音楽を戯画化し、わざわざ最大の “決まり文句” を取り上げて音楽の中に挿入し、人工的に一種のエキゾチックな雰囲気を作り出すもので、僕はいつも軽蔑しているんだ。イスラエルは人種のるつぼで、様々なバックグラウンドを持った人々が集まっている。僕は作曲家として、自分の中にある音楽をそのまま出していけば、民族的なスタンプが有機的に、そしてちょうど良い形で自分の音楽に現れてくると感じているからね」
最近のフュージョンの音楽家が思いついたメロディにコミットできないのは、それが自分を十分に表現できていないメロディだから。そう Dani は語ります。たしかに、近年ごく僅かとなったジャズ・ロックの新鋭たち、もしくはフュージョンの流れを汲んだ djent の綺羅星が、予想可能で機械的なお決まりの “クリシェ” やリズムの常套句を多用しているのはまぎれもない事実でしょう。テクニックは一級品かもしれない。でも、それは本当に心から出てきたものなのだろうか? MARBIN は “Dirty Horse” で疑問を投げかけます。
オープニングの “The Freeman Massacre” で、MARBIN の実力のほど、そして彼らが意図するメロディーの洗練化は十二分に伝わります。Dani とサックス奏者 Danny Markovitch はともに楽器の達人で、バンドはグルーヴし、シュレッドし、卓越した即興ソロを奏でていきます。フュージョンの世界ではよくワンパターンとかヌードリングという言葉を聞くものですが、彼らの色とりどりのパレットは退屈とは程遠いもの。
何より、この複雑怪奇でしかし耳を惹くメインテーマは、”ビバップは複雑なメロディとソロのシンプルなグルーヴで成り立っている。それが正しい順序” という Dani の言葉を地でいっています。”Donna Lee” ほどエキサイティングで難解なテーマであれば、ジャコパスも安心して浮かばれるというものでしょう。
一方で、二部構成のタイトルトラック “Dirty Horse” では、バンドのロマンティックな一面が浮き彫りになります。Dani と Danny のユニゾン演奏は実に美しく、目覚ましく、そして楽しい。両者が時に同調し、時に離別し、この哀愁漂う異国の旋律で付かず離れず華麗に舞う姿は、エレクトリック・フュージョンの原点を強烈に思い出させます。
さらに二部構成の楽曲は続き、”Sid Yiddish” のパート1でバンドは少しスローダウンしながら、Danny の長いスポットライトで彼らの妖艶な一面を、チベットの喉歌で幕を開けるパート2で多彩な一面を印象づけます。能天気なカントリー調から急激に悲哀を帯びる “World Of Computers” の変遷も劇的。正反対が好対照となるのが MARBIN のユニークスキル。
驚くことに、このアルバムは2021年8月にスウィートウォーター・スタジオにおいて、たった3日でレコーディングされています。これほど複雑怪奇で豊かな音楽を3日で仕上げた事実こそ、MARBIN がフュージョンの救世主であることを物語っているのかも知れませんね。MAHAVISHNU のようなレジェンドのファンも、THANK YOU SCIENTIST のような新鋭のファンも、時を超えて手を取り合い、共に愛せるような名品。もちろん、メタル・ファンは “Headless Chicken” でその溜飲を下げることでしょう。
今回弊誌では、日本通の Dani Rabin にインタビューを行うことができました。「僕がイスラエルのサウンドで本当に好きだったのは、東欧の影響とショパンのような和声進行がミックスされている音楽なんだ。というか、僕の好きな世界中の音楽には、そうした共通点が多くあるんだよね。 Piazzolla や Django Reinhardt と、僕が好きなイスラエルの音楽は、ある意味、思っている以上に近いんだよね」 どうぞ!!

MARBIN “DIRTY HORSE” : 10/10

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