THE 30 MOST IMPRESSIVE ALBUMS OF 2023: MARUNOUCHI MUZIK MAGAZINE


THE 30 MOST IMPRESSIVE ALBUMS OF 2023: MARUNOUCHI MUZIK MAGAZINE

1. EXTREME “SIX”

「EXTREME には、常に情熱がある。他のバンドと競争しているわけではなくて、いつも自分たちを超えるために努力しているんだ。そのための情熱さ。このアルバムにはそんな瞬間がある」
現代のメタルは多様でしょうか?YES。寛容でしょうか?YES。感染力、生命力、そして包容力に満ちたメタルの音の葉は、人種や宗教、文化、言語、ジェンダーといった世界中の壁を壊しながら伝播し、根付き、そして抱きしめます。そう、このファンタジーの世界は、暗くて厳しい2020年代の現実にとって完全無欠の逃避場所であり、抑圧や憂鬱から回復し立ち上がるためのレジリエンスを供給する力の根源でもあるのです。
では、なぜメタルにはそれほどの力、エネルギーが備わっているのでしょうか?その答えは、EXTREME とヌーノ・ベッテンコートが15年ぶりとなる新作で代弁してくれました。
「”Six” では、エネルギーと意思を持って物事を投げかけることが重要だった。炎や情熱という言葉は俺の日常だ。ギタリストとしてどのアルバムでも、俺は常に偉大なプレイヤーからインスピレーションを受けてきた。でも、いつかは彼らを倒したいと思わなければならない。俺はまだ倒せると信じている。 “ヒーロー” と肩を並べられると信じていないのに、なぜ誰かと何かを共有したいと思えるんだ?そうやって俺は人々とつながり、ギターの楽しい面を見せたいんだよ。ギターを世界に取り戻したいんだ」
そう、メタルには受け継がれる情熱の炎があります。当たり前が当たり前ではなくなった時代に、当たり前に続けていて情熱と共に前へと進んでくれる存在…そのなんと頼もしいことか。実際、2023年はそうした歴戦の勇者たちが復活し、あるいは再び怪気炎をあげた一年となりました。そして幸運なことに、弊誌でも情熱あふれる “レジリエンス・ヒーロー” たちにインタビューを多く行うことができました。
MR.BIG、ELEGY、SAVATAGE、WINGER、VICIOUS RUMORS、Robby Valentine、Steven Anderson、そして THE ALMIGHTY。そう、彼らの中には誰一人として、常に順風満帆だった人はいません。いや、むしろ度重なる逆風の中で、時に傷つき、時に立ち止まり、時には一度諦めて、それでもメタルの魅力には抗えず、情熱の炎に薪をくべ続けてきた人たちです。だからこそ、リスナーに寄り添える。だからこそ、リスナーは信じられる。
昔は良かったなどと口にしようものなら即座に老害認定される世界で、たしかにこれは時代錯誤でロマンチックすぎる、甘酸っぱいノスタルジーなのかもしれません。それでも、ロックやメタルはあの時代に彼らが与えてくれた “全能感”、”この音楽さえ聞いていれば何でもできる” という無限の可能性と胸の鼓動を今も確実に受け継いでいます。
スター・ウォーズやスタンド・バイ・ミーが “ジョーカー” へと変異した現代において、今みんなが心待ちにしているのは、きっと本物の “体験” と、溢れんばかりの笑顔で夢を紡ぐ新たなエディ・ヴァン・ヘイレンの登場なのでしょう。
「ここ8~10年、本当に素晴らしいギタリストの大半は、俺もフォローしている驚異的なプレイヤーは、みんな部屋に座っているってこと。俺は舞台の上にいる。エネルギーが違うんだ。彼らは一人でスタジオに座って、ギターを弾きながら、SNS が何かで俺たちを驚かせる。彼らと俺の違いは、バンドが登場すること。だからこそ、感情的で、フィジカルなものになる。バンドの誰かが曲の途中でハーモニーやボーカルをとるし、歌詞もあるし、アレンジも、ブリッジも、とにかくオールインで、情熱的に演奏している。それこそが、人々を再び興奮させるレシピなんだよ」

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2.VOICE OF BACEPROT “RETAS”

「もし誰かがわたしたちのヒジャブについて尋ねたら、どうするか知っている? もし誰かがわたしたちに憎しみを込めた言葉を使ったら、どうするか知ってる?ヒジャブはわたしたちの選択なのかと聞かれら、どうするかわかる?こうするんだ!」
間髪を入れず、Marsya がマイクに向かって叫び、Sitti がドラムを叩き、Widi がベースをかき鳴らす。VOICE OF BACEPROT には世界を変える力があるのです。
ヒジャブのメタル戦士 VOICE OF BACEPROT の3人組、Sitti, Widi, Marsya は歩くときは腕を組み、三つ子と間違えられるほど似た姿で笑顔を振りまきます。3人は決して笑いを止めません。その笑いはさながらヘヴィ・メタルのごとく周りに伝染し、3人が母国語のスンダ語で話しているにもかかわらず、誰もが笑顔を纏うようになるのです。
インドネシアはイスラム教徒が大多数を占める国で、西ジャワは特に保守的。そのコミュニティにおいて、音楽はハラーム(イスラム法で禁じられている)だと信じられているため、3人がメタルの世界に飛び込んだときも彼らはあまり良い反応を示さなかったのです。Marsya は、『悪魔の音楽を作るな』と書かれたメモに包まれた石で頭を殴られ、さらにはオートバイにわざとぶつけられたり、母親の店の窓ガラスを割られたりと散々な目にあいました。VOB がステージに上がる直前に宗教指導者が電源を抜いたこともあり、マネージャーはバンド解散を迫る脅迫電話を受けたこともあります。言うまでもなく、VOB はふざけているわけでも、何かをバカにしているわけでもありません。彼女たちはただ、夢を実現するためにすべてを犠牲にしてきたのです。
しかし、そうした周囲のノイズはトリオに寛容と敬意についての貴重な教訓をも与えました。大切なのは、ルーツを忘れずに夢を追うこと。
「女性だけのメタルバンドがヒジャブを着ているのは、それほど一般的ではないのは事実よ。でも、わたしたちの国はそれほど厳格ではないのも事実。わたしたちは村では、(イスラム教徒として)多数派である自分たちの特権に安住しすぎていたの。でもメタル・シーンに入ると、ヒジャブをかぶった女性はメタル・シーンの一部とは見なされず、わたしたちは少数派になってしまった。だからこそ、許し合うこと、平和と寛容のメッセージがとても重要だとわかるのよ」

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3. TABAHI “THRASH FOR JUSTICE”

「カラチが挑戦的な都市であるという評判は、ある程度は僕たちの音楽に影響を与えているかもしれないけど、僕たちを真に突き動かしているのは、スラッシュ・メタルが社会に語りかける能力なんだ。僕たちは、スラッシュ・メタルを強力な媒体として、自分たちの考え、経験、感情を世界と共有し、そうすることで、自分たちの身近な問題に取り組みながら、世界のメタル・コミュニティに貢献することを目指しているよ」
カラチはパキスタンで、いやもしかすると世界で最も危険で暴力的な都市だと言われています。この国で唯一のスラッシュ・メタル・バンド TABAHI がカラチを故郷とするのは、なるほどいかにもふさわしいように思えます。加えて、TABAHI というバンド名がウルドゥー語で “Destruction”(破壊)であることも、彼らのオールドスクールなスラッシュが猛威を振るう様を象徴しています。
「”Thrash For Justice” は、スラッシュ・メタルを様々な形で正義に取り組み、提唱する手段として使うという僕たちのコミットメントなんだ。僕たちは音楽と歌詞を通して、正義を求める差し迫った社会的、政治的、文化的問題に光を当てることを目指している。故郷カラチの闘争であれ、より広い世界的な関心事であれ、僕たちは自分たちの音楽を使って正義と前向きな変化を求める声を増幅させることを信じている」
ただし、彼らが破壊したいのは、”正義” に反することだけです。パキスタンのカラチは、実に多くの困難に直面しています。暴力が蔓延り、犯罪率が高く、政治と社会不安のある都市で、社会的な不公平が当たり前のように横行しています。だからこそ、彼らは “正義” に焦がれ、”正義” を望みます。そして TABAHI が正義を貫くに最も適した音楽こそ、スラッシュ・メタル、そのエネルギーと反発力だったのです。
「パキスタンでは、メタルというジャンルは依然としてニッチで、その生のエネルギーと激しさゆえに限られた聴衆にしか評価されていない。TABAHI という名前は、僕たちが耐えている苦難、僕たちが体現しているレジリエンス “回復力”、そして僕たちに不利な状況が積み重なっているにもかかわらず、それでも世界に永続的なインパクトを与えるという揺るぎない決意を痛烈に思い出させるものとなっているんだ」

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4. SLEEP TOKEN “TAKE ME BACK TO EDEN”

SLEEP TOKEN について、人々は何をもって特別だと言っているのでしょうか?ヘヴィー、ソフト、メロディック、アトモスフェリック、エクスペリメンタルなど、様々なスタイルの曲を巧みに作り上げる彼らの能力に興味を持った人が多いようです。複数のジャンルや従来とは異なるやり方を取り入れることを恐れない。まさにモダン・メタルの雛形だと言えます。
「SLEEP TOKEN は2020年代のメタルのあり方を体現している」と、ブラック・メタルの伝説 EMPEROR の共同創設者であり、アヴァンギャルドなメタル・アーティストのパイオニアである Ihsahnは語り、このバンドと同じレーベルに所属しています。「初めて聴いたときから、完全に興味をそそられたんだ。モダン・メタルの要素と非常にダークなムードを混ぜ合わせながら、非常にクリアでモダンなR&Bスタイルのプロダクション・バリューもあるんだからね」
SLEEP TOKEN は決してメタル界初の匿名集団、マスク・ド・メタルではありませんが、彼らのシンボルをあしらったマスク、ダークなボディ・ペイント、北欧のルーン文字からヒンドゥー教のシンボルまでを使用したアートワークは、メタルファンやミュージシャン仲間の好奇心を十二分に刺激しています。
「我々がどうやってここに来たかは、我々が誰であるかということと同じくらい無関係だ。重要なのは音楽とメッセージだ。我々はスリープに仕え、彼のメッセージを映し出すためにここにいる。バンドの未来?何もない。永遠に続くものはない」

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5. LITURGY “93696”

「男性から女性に移行してからの生活は信じられないほど良くなっているわ。 残念ながら、アメリカではジェンダーに対する政治的な圧力はますます恐ろしいものになってきているけど、それでも、オープンに生きている方が私はずっといいんだよ」
ブラック・メタルを哲学する革新者、LITURGYのハンター・ハント・ヘンドリクスは現在、ラヴェンナ・ハント・ヘンドリクスへとその名を変えています。
「私は女性よ。ずっとそうだった。様々な拒絶を恐れて明かせなかったの。私は女性として音楽家、神学者、詩人で、生まれるものは全て女性の心から。同時に男性として生まれたことを否定したくもないのよね」
長い間、女性の心を持つ男性として生きてきたラヴェンナにとって、トランスジェンダーの告白は非常に勇気のいるものでした。周りの目や差別、弾圧といった現実のプレッシャーをはねのけて、それでも彼女がカミング・アウトした理由は、自分の人生を、そして世界をより良くしたいから。彼女の理想とする天国であり想像の未来都市”Haelegen”実現のため、ラヴェンナの音楽は、魂は、いつしか抑圧を受ける少数派の祈りとなったブラック・メタルと共に、もう立ち止まることも、変化を恐れることもありません。
「ブラック・メタルはロックという枠組みとその楽器を使ってクラシックを作るものだと考えていたんだ。 みんながそう思っているわけではないけど、私にとってはそこが大きな魅力だから」

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6. BLIND EQUATION “DEATH AWAITS”

「メタルのルールや境界線を破るためだけに音楽を書いているとは言わないけど、その境界線が自分の制作や作曲のプロセスに影響を与えることはないね。破壊が理にかなっていて、人々の期待を打ち砕くようなものであれば、僕はそれをとても楽しいことだと思うからね」
イリノイの BLIND EQUATION が牽引する “サイバー・グラインド” が一体何なのかよく分からなくても、”Death Awaits” を聴けばその狂気に衝撃を受けることは間違いありません。8bitのチップチューン、ユーロ・トランス、ブラックメタル、そしてグラインドが融合したこの混沌は純粋に、これまで世の中に存在しなかったもの。その音楽はまるでアートワークの彼岸花のように、甘く、切なく、美しく、そして危険です。
「僕らの音楽に最も大きな影響を与えているのは、ZUN による東方サウンド・トラックなんだ。特に東方8、”東方永夜抄 ~ Imperishable Night” だね。夢日記とそのファンゲームも、過去2枚のアルバムに大きな影響を与えているんだよ。ライティング・プロセスでよくプレイしていたからね」

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7. MATTEO MANCUSO “THE JOURNEY”

「僕は指弾きを選んだというわけじゃなくてね。というのも、エレキギターを始めたばかりの頃は、ピックを使うということを知らなかったんだ!その後、ピックを “発見” したんだけど、フィンガー奏法に慣れすぎていたし、僕は(今もそうだけど)信じられないほど怠け者だったから、ピックの使い方を学ばなかったんだ。メリットとデメリットはあると思うけど、どちらが良いということはないとも思う。何をプレイしたいかによるんじゃないかな」
John Petrucci, Joe Satriani, Steve Vai, Tom Morello, Frank Gambale など、ギター・シュレッドの世界は実は、イタリア系のプレイヤーを中心に回ってきました。そしてここにまた、イタリアの赤、光速の、フェラーリ・レッドの血を引くシュレッダーが登場しました。驚くべきことに、Steve Vai, Al Di Meora, Tosin Abasi といったモンスター級のギタリストがこぞって “ギターの未来” と称するこの26歳のシチリア人 Matteo Mancuso は、かの Allan Holdsworth にも例えられる難解かつ超常的フレーズの数々を、指弾きでこなしています。
「僕は自分のことをジャズやロック、どちらかのプレイヤーだとは思っていないんだ。僕はただ、ギターを自分を表現する道具として使っているミュージシャンなんだ!だから、聴いたものすべてをミックスするのが好きなんだよ。その方が自然でのびのびと感じられるからね」

http://sin23ou.heavy.jp/?p=20018

8. TOMB MOLD “THE ENDURING SPIRIT”

「あの写真で僕たちは文字通り気楽なTシャツと短パンしか着ていない。なんでそれだけでワーワー言うんだ?特集全体を見るまで待ってくれよ。なぜ君らは、自分ではない何かになりたいと思うんだ?そんな必要ある?僕らの外見を見て、外見だけで批判するなら、ぜひとも僕らのバンドを聴くのをやめてくれ。あのジャケット写真は、僕らが何者であるかを完全に正直に描いたものだ。完全に僕らの正体を表しているんだ。これは、現代で最も興味深く野心的なエクストリーム・メタル・バンドのひとつである、強大な AKERCOCKE にも失礼だよ。彼らも僕たちと同じように、自分たちに誠実なだけなんだから」

https://note.com/marunouchimuzik/n/nc3c22d36caff

9. FIFTH NOTE “HERE WE ARE”

「僕たちは、州内だけでなく、世界的に知られるバンドになりたいんだ。僕たちは西洋のスタイルにとても影響を受けているけれど、自分たち独自のプレイも創り出そうとしている。アルバム・タイトルの “Here We Are” “僕らはここにいる” は、そうした僕たちのモチベーションを端的に表しているんだよ。僕たちは、魂に平和や癒しをもたらすような良い音楽を作りたいと思っているんだ。そして、僕たちの音楽で世界にインパクトを与えたいと願っているんだよ」
インターネットや SNS の登場、進化によって、音楽は世界中のものとなりました。これまで、決してスポットライトが当たらなかったような僻地からも発信が可能となり、人種、文化、宗教の壁を超えて多くの人の耳に届けることが叶う世の中になったのです。特に、メタルの生命力、感染力、包容力は桁外れで、思わぬ場所から思わぬ傑作が登場するようになりました。
「FIFTH NOTE と ABOUT US は、お互い西洋音楽の影響を多く受けているのは同じだね。その上で、僕たちナガ族は美しいメロディーを作るのが好きなんだ。また、トニック・ソルファ (相対音感) のような独自の音楽アレンジもあるからね。そうした美しいメロディやアレンジは、きっと深く僕らのルーツに刻まれているんだろうな」
近年、そうしたメタルの “第三世界” で特に注目を浴びているのがインドです。いや、もはや国力的にも、人口的にも、文化的にも第三世界と呼ぶのも憚られる国ですが、ここ最近、メタルの伸張は並々ならぬものがあります。ボリウッドを抱きしめた BLOODYWOOD の大成功は記憶に新しいところですが、それ以外にも様々なジャンル、様々な地域でまさに百花繚乱の輝きを放っているのです。中でも注目したいのが、インド北東部のナガランド。かつては首狩りの慣習もあったというナガ族が住むこの地域は、文化的にも民族的にも音楽的にも、インドのメジャーな地域とは異なっていて、だからこそ、この場所のメタルは独自の進化を遂げることができたのかもしれませんね。

https://sin23ou.heavy.jp/?p=20215

10. MOON SAFARI “HIMLABACKEN VOL.2”

「プログレというジャンルを目指したことはないよ。私たちはただ芸術を創り出したいだけで、私たちが書く一音一音には目的がある。どの曲もそれ自体がアートなんだ。だからこそ、ある曲は3分の短くエネルギッシュなものでなければならないし、ある曲は壮大で長いものでなければならないんだ。変拍子の方が合うと思う曲もあるけれど、決して複雑さのためだけに使っているわけではないんだよ。変拍子の方がグルーヴ感が出るのであれば、例えば9/8でもいいんだけどね」
かのメタルの帝王 Ozzy Osbnurne が最近、”私はメタルをやっているつもりはない。昔はすべてがロックと呼ばれていたし、私もその中にいると思う” と発言して物議を醸しましたが、スカンジナビアの良心 MOON SAFARI もきっと同じ哲学の下にいます。
複雑怪奇な “プログレ” と呼ぶには甘すぎて、ビーチ・ボーイズ由来のポップスと呼ぶには知的すぎる。そんな定まらぬジャンルは彼らにとって足枷であり、魅力でもありました。そして今回、10年ぶりにリリースした “Himlabacken Vol.2” で、彼らは周りの目には気もくれず、ただ自らの創造性とアートにしたがってさらにその世界を広げました。
「歌詞の多くは、現在の世界と、それが歩んできた間違った道についてだから。私たちの子供たちもその間違った歩みの世界にいるわけだよ。だからこそ、私たちは人間の愚かさについて歌い、世の中には悪いこともたくさんあることも描く。だけど、一番大切なのは、未来の世界にとって何が良い面なのかを知ってもらうことだと歌っているんだ。今の子供たちがこの世界の良さを信じ続ければ、いつか世界を良い方向に変えることができるかもしれないからね」

https://sin23ou.heavy.jp/?p=20349

11. COVET “CATHARSIS”

「私にとって音楽とは、喜びや悲しみ、怒りなどの感情を吐き出すこと。カタルシスなの」
2010年代にマスロックイーンとして華々しくシーンに登場したイヴェット・ヤングは、CHON, POLYPHIA, PERIPHERY といったバンドとともに時代の寵児として新しいギターの波を起こしました。音楽的な多様性と機材的な野心の革命。そんな中で、まだまだ女性の少ないギター・ワールドにおいて、彼女のずば抜けたテクニックとマルチな才能、そしてキュートな容姿は多くのファンやアーティストを魅了し、さながら”ギタサーの姫”としてシーンを席巻したのです。しかし、どんなお姫様も永遠に夢見る少女じゃいられません。
嵐が巻き起こったのは、2020年のことでした。PERIPHERYのマーク・ホルコムと恋愛関係となったイヴェットは、後に彼が既婚であることを知り正直に事の顛末を話したものの、マークの酷い行いのみならず彼のファンベースからも誹謗中傷を受け、セラピーに通わざるを得ないほどに傷つきます。同時にパンデミックが世界を襲い、ツアーの機会も奪われました。一方で、あのウィル・スミスの娘Willowとコラボレートを果たし、彼女から世界最高のギタリストの一人と称されるといううれしい出来事もありました。しかし様々な”傷”と”歪み”は最終的に、彼女の”ホーム”であるバンドCOVETの瓦解へと繋がってしまいます。
「正直、このアルバムの制作過程はとても困難なものだった。シンプルに言えば、私はCOVETをやめたいと思うようになった。本当に、新たなスタートを切るか、このプロジェクトを完全に破棄するかどちらかだとね。だから、ベースのブランドン・ドーヴ、ドラムのジェシカ・ブルデーとともに”再生”を行うことができるのは、私の人生でとてもポジティブなこと。もう、過去のCOVETのネガティブなことには触れたくないの」
バンドの中で何かがあったのは明らかです。しかし、私たちがそれを知る必要はありません。イヴェットがCOVETに再び前向きになり、灰の中から”Catharsis”という美しい復活の火の鳥を届けてくれた。その事実だけで充分でしょう。そう、これは輝かしいアイドルが成熟したアーティストへと生まれ変わるレコード。そのために必要だったのが、喜びも悲しみも含めた”テクニカラー”な経験で、彼女はそれを今回”カタルシス”として吐き出していったのです。
「このアルバムがあなたを旅に連れ出すことを願うわ。アルバムのテーマはファンタジーへの逃避。音楽は私にとって常にエスケープであり、セラピーの源でもある。この音楽がみんなをどこかに連れて行き、想像力をかき立て、少なくとも何かを感じさせてくれることを私は願っているの」

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12. AVENGED SEVENFOLD “LIFE IS BUT A DREAM”

AVENGED SEVENFOLD は、常に自分たち独自の方法で物事を進めることで、モダン・メタル最大のバンドのひとつとなりました。それでも、フロントマン M. Shadows にとって最新作 “Life Is But A Dream…” の変化は我ながら衝撃でした。
「ショックだった!プログレッシブなザッパのようなものから、突然ファンク、DAFT PUNK、そしてフランク・シナトラやオズの魔法使いのようなものへと変化していく。こんなの初めてだよ。よし、これはすごいぞ!という感じだった。最近では、100 gecs とかと同じ衝撃。彼らの曲を聴いたら、”脳みそが花火になったみたいだ” って思ったんだ。でも、とてもうまくできている。音楽を作る人間として、”これは表面上のものではない” と思ったんだ」
しかし、彼は常にそう確信していたわけではありません。ギタリストの Synyster Gates と一緒に車に乗っていたとき、Shadows はバンドメンバーに向かってこう尋ねたのです。
「このアルバムはそんなに突拍子もないのか?」 と。Shadows はあまりに長い間、このアルバムとともに生きてきたため、衝撃はいくらか薄れて “普通” に感じられていたのです。
しかし、Synyster は友人の心配とは違う解釈をしていました。
「このアルバムは、アレンジやプロダクションの観点から、奇妙でクレイジーでファックな作品だよ。そして多分、Shadows が言いたかったのは、ソングライティングの構造。今までは考えもしなかったんだけど、このアルバムは僕らの中で最も子守唄的で親しみやすいアルバムかもしれないということなんだ。ソングライティングは、私たちのベストだと思う。40歳が18歳の道具を使っているような音にならないように、どれだけめちゃくちゃにできるか試してみたかったんだ!」

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13. HENGE “ALPHA TEST 4”

「なぜ地球に降り立ったのか?それは、この星からの遭難信号を受信したから。深刻なレベルで危険なピークに達し、地球の住民の間に悲しみの伝染病が蔓延していることは明らかだった。イギリスのマンチェスターは、僕たちのミッションを開始するには良い場所のように思えた… 僕たちは、この都市を震源地とする “レイヴ” と呼ばれる最近の社会的/音楽的ムーブメントを知っていた。レイヴ・ミュージックは、異なる社会的背景を持つ人々を団結させることで知られているからね。だから、この場所から始めようと思ったんだ」
張本人には見えないことが、世界には多々あります。例えば、夏休みの宿題に手をつけていない、危険な男にひっかかる、タバコや酒をやめられない。周りから見ればヤバよりのヤバなのに、当の本人には危機感がまったくなくあっけらかんとしている。今の地球はもしかしたら、そんな状況なのかもしれませんね。
だからこそ、宇宙の音楽と地球の “プログレッシブ・レイヴ” で悲しみを癒しにやってきた地球外生命体 HENGE には、この星の危機的状況がよく見えています。
「音は強力な力になる。実際、僕たちの宇宙船マッシュルーム・ワンは音で動いているんだ。だからノム、グー、そして僕は、深宇宙を航行する毎日の日課として、いつも音楽を演奏してきたんだ。常に音楽を流してきた。地球に着陸して以来、僕たちにはエイリアンの周波数を人間の耳に適合させるのを手伝ってくれる人間がいる。そうして共に悲しみと闘い、人類に喜びをもたらす善意の音波兵器を作ることを目指しているんだ」

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14. MOHINI DEY “MOHINI DEY”

「私はインド人で、カルナティック・ミュージックで多くのコナッコルを学んだわ。それをスラップ・ベースに取り入れ始めたら、みんなとても楽しんでくれたし、それがみんなにとってとても新鮮で新しかったのだと思うわ。私は様々に異なるスタイルやヴァイブをベースで表現するのが好きだから」
ムンバイ出身のかわいいとおいしいを愛する26歳のベーシスト、Mohini Dey は、Forbes Indiaによって “30歳未満で最も成功したミュージシャン” と評されています。9歳で世界への扉をこじ開けた Mohini は、それから18年間、類稀なる才能と努力で Steve Vai, Simon Phillips, Stanley Clarke, Jordan Rudess、Quincy Jones, Mike Stern, Marco Minneman, Gary Willis, Dave Weckl, Tony Macalpine, Stu Hamm, Plini, Guthrie Govan, Chad Wackerman, Chad Smith, Gergo Borlai, Victor Wooten など、本当にそうそうたるアーティストと共演を果たしてきました。日本のファンには、B’z との共演が記憶に新しいところでしょう。
インドは今や、ロックやメタル、プログレッシブにフュージョンの新たな聖地となりつつありますが、確実にその波を牽引したのは Mohini でした。そして音楽の第三世界がまだ眠りについていた当時、彼女がムンバイから世界への特急券を手に入れられたのには確固たる理由があったのです。
「並外れた存在になりたければ、並外れた時間を費やし、才能を磨く必要がある。才能は報酬ではない。報酬とは、才能を磨くために懸命に努力した結果、実りを得ることだから。人は何でも盗めるけど、あなたの芸術までは盗めないの」

http://sin23ou.heavy.jp/?p=20252

15. KATATONIA “SKY VOID OF STARS”

「すべてのアルバムは新しい章であり、作曲やレコーディングをしている間は、そのアルバムが将来的にどんな意味を持つかなんて考えていない。僕らははただ “今” にいて、自分自身を凌駕しようとしている。作ったアルバムがディスコグラフィーの名作になるかどうかは、歴史が示してくれるだろうね」
KATATONIA、そして Jonas Renkse は、”時代” という言説をあまり信用していません。正直なところ、多くのバンドはそうではありません。そして、KATATONIA というアーティストは、自身をリスナーとは全く違った “今” というレンズで作品を見ています。
「僕らの音楽に付けられる様々なタグはあまり気にしていないんだ。僕らが生み出せるのはインスピレーションを維持できる音楽だけで、それがどんなジャンルであろうと関係ないんだからね」
ゴシック・ドゥームやデスメタルに生を受け、アトモスフェリックなダーク・メタル、ポスト系の音作り、アンビエント、フォーク、プログレッシブと、時に鋭く、時に溶け合いながら、万華鏡のごとくそのサウンドを変化させてきた KATATONIA。リスナーからすれば、アルバム間の区別、つまり “Brave Murder Day” と “Discouraged Ones”、”Last Fair Deal Gone Down” と “Viva Emptiness” 、”The Great Cold Distance” と “Night Is the New Day” 、さらにそこから “Dead End Kings” とのリリースを隔てる、ほとんど断崖絶壁のような決定的 “違い” は、何らかの意識的な決断が働いていると思わざるを得ません。しかし、Jonas はインタビューの中で、そうではなく、KATATONIA の各アルバムは明らかに、一つの芯となる同じ DNA を共有していることを明かしています。それは、彼らの象徴である鴉に宿る暗がりで、メランコリーで、憂鬱。ただし、そんな KATATONIA にも、皮肉なことに “時代” の風を受けた変化の兆しが現れています。
「音楽は常に苦しい現実からの慰めと逃避を提供してきた。そして今もそうだ。音楽という、苦難から乖離した聖域を作り出すことのできる力。その一部になれたことを、僕はうれしく思うよ」

http://sin23ou.heavy.jp/?p=20056

16. ZULU “A NEW TOMORROW”

世界は分断されています。左対右、金持ち対貧乏人、私たち対彼ら。ソーシャルメディアやニュースをざっと見ただけでも、私たちの “違い” に関する言説が耳をつんざきます。そして、ヘヴィ・ミュージックのアーティストたちは、何十年もの間、この本質的な怒りと激情を音楽へと注ぎ込み、怒りをぶつけ、反乱を呼びかけてきました。しかし、人生の喜びや、世の中の良いことに焦点を当てたバンドはそれほど多くはありません。
そこでロサンゼルスのパワーヴァイオレンス・クルー、ZULU の登場です。デビューLP “A New Tomorrow” を発表した際、ボーカルの Anaiah Lei は「愛に焦点を当てたポジティブなレコードを作りたい」と語っていました。なぜそれが重要な決断だったのでしょうか。
「愛と希望は人生の主要な部分だから、それについて常に話したいと思っていたんだ。このジャンルでは、もちろん怒りを吐き出すのはクールだし、悩みを打ち明けるのは素晴らしいこと。ヘヴィ・ミュージックは、他の世界から排除され、慰めを求めている人たちが行く場所で、自分が経験したすべての問題を話し、ただそれを吐き出すための場所。歌っていても、ステージに上がっていても、ピットの中にいてもね」
物心ついたときから音楽とバンド活動に携わってきた Anaiah は、自分の発言をよく理解しています。特に ZULU は、2枚の EP とカオティックなライブでハードコア・シーンに衝撃を与え、デビュー・アルバムのプレッシャーと認知度は相当なものでしたから。彼は今度のアルバムについて、時の試練に耐えられるような “大きなステートメント” でありたいと述べています。
「怒りや攻撃性についてだけ語るのであれば、そうすることもできないわけではない。でも人生において、怒りや苦難だけでなく、人々に影響を与えたいとすれば、それは愛から来るものなんだ」

http://sin23ou.heavy.jp/?p=19142

17. LUNAR CHAMBER “SHAMBHALLIC VIBRATIONS”

「Tomarumは普通に Progressive Black Metal をしてて、したことないもっとヘヴィな Progressive Death Metal をしたかったんです。お気に入りの Death Metal バンドを尊敬しながら自分のサウンドを作りたかったんです!」
“Shambhallic Vibrations” はプログレッシブでテクニカルなデスメタルのファンにとって、まさに天啓です。ブルータルでありながら静謐、エピックでありながら親密、難解でしかしスピリチュアルなデスメタルが、煌めきとヘヴィネスを伴って届けられる涅槃。
新進気鋭、アトランタのプログ・ブラック集団 Tómarúm の中心メンバー Brandon Iacovella と Kyle Warburn が Timeworn Nexus と They, Who May Not Be Perceived というペンネームで始めたバンドには、フレットレス・モンスターThomas Campbell、BENIGHTED のドラム・マシン Kévin Paradis という異才が加入して LUNAR CHAMBER の名乗りをあげました。
彼らのスピリチュアルな広がりと深みのあるブルータリティーは、現代のシーンに真の類似品がなく、その豊かできめ細かな質感は、フレットレス・ベースとスペーシーなシュレッドの綺羅星によって殊更際立つものとなっています。そのアプローチ、テクニック、トーン、そして影響の数々はあまりにも無数で、むしろすべてが一体となっていることさえ不思議なくらいですが、そこには、日本や仏教、東洋哲学に由来する調和の精神が大きく作用していました。
「若いころからヒンズー教と仏教に興味があって、歌詞とテーマを作りたかった時にその興味を思い出して、日本に住んでいた時とどのぐらい人生が変われたのかも思い出して、そのテーマについて書きたくなったんです」

http://sin23ou.heavy.jp/?p=19386

18. ROBBY VALENTINE “EMBRACE THE UNKNOWN”

「僕にとっての成功とは、商業的な成功や売り上げで測られるものではなく、もっと芸術的なもの。若い世代に、人生は再生回数や “いいね!” の数ではないことを理解させるには何が必要だろうか。充実感、愛、そして現実を手に入れる唯一の方法は、自分自身の道を歩み、心の奥底にある自分の望みを実現することなんだ。つまり、自己実現だね。だけど今は、携帯電話やソーシャルメディア、スマートデバイスが普及し、自分の内なる声を聞くことはほとんど不可能になってしまっているんだ」
Robby Valentine。オランダの貴公子、旋律の魔術師の二つ名を持つ眉目秀麗の美男子は、しかしその端麗なルックスからは想像もつかないほどの芯の強さと回復力を兼ね備えています。思えば、今年30周年を迎えたプログ・ハードの傑作 “The Magic Infinity” は、あと数年早ければ彼をロックスターの座に押し上げたはずですし、そのゴージャスな出立ちも時代が時代ならば世界中に信者を増やしたに違いありません。しかし、世はスマホもネットもないグランジが席巻した90年代初頭。Robby の音楽や容姿、言葉は、世界中からダサい、クサい、時代遅れだと切って捨てられてしまったのです。真の音楽とは、タイムレスで、内なる自己実現の賜物であるにもかかわらず。
「日本は僕にとってオアシスだった。長髪、化粧、その他もろもろのせいで、オランダでは信じられないほど苦労した。でも、日本のバンドと比べると、まったく着飾っていないほうだったよ。X Japan のようなバンドのルックスは大好きだった」

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19. IGNEA “DREAMS OF LANDS UNSEEN”

「もちろん、音楽は非常に重要なもので、この1年間、ウクライナでもそのことが示された。塹壕の中や負傷したときに歌う兵士、防空壕の中で歌う人々、音楽は人々をより落ち着かせることができたわ。だから、音楽は人の気分や心を変えることはできると思う。でも、世界を変えるなんて……自分や自分の国に起こったことを考えると、そんなにナイーブにはなれないわ」
ロシアとプーチンの侵攻から1年経った今、ウクライナのモダン・メタル旅団 IGNEA はアルバムという自らの分身を世に放つことを決意します。当然、彼らのドッペルゲンガー “Dreams of Lands Unseen” が怒りに満ちた作品でも、暴虐に向けた鋭き矛先でも、リスナーが驚くことはないでしょう。もちろん、音楽は世界を変えられない。音楽で身を守ることはできない。それでも、IGNEA はより芸術家らしい方法で、不条理に抗することを決めたのです。
「Sofia はどこを旅しても、必ずウクライナ文化の一部を持ち込んでいて、自分がウクライナ人であることを強調していたのよ。また、彼女は言葉の使い方が巧みで、歌詞の中のフレーズもそのまま彼女の言葉をウクライナ語で残したかったんだ。最後に、私たちはウクライナ人で、自分たちの言葉を愛しているから、自分たちのルーツへのトリビュートとしてもウクライナ語を使ったのよ」

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20. WINGER “SEVEN”

「全体的に “SEVEN” はクラシックな WINGER の特徴を備えていると感じているんだ。それは、Paul Taylor の復帰とオリジナル・ロゴの復活でより強調されているね」
WINGER は巨大な才能を持ちながら、同時に “二刀流” というジレンマに悩まされてきたバンドです。華やかなロックやメタルには知性が強すぎ、プログレッシブの宮殿に入るには騒がしすぎる。この、実は非常にユニークな並列の魔法は、爆発的なヒットとなったデビュー2作のあと、局所的なリスペクトを得ることを生贄に、バンドの足枷として長く活躍の妨げともなってきたのです。
「僕たちは決して “解散” していないんだよ。グランジ・ミュージックに支配され、その間に “Beavis and Butthead” と METALLICA の騒動が起こって、当時僕たちは続けることが不可能になったから、長い間休んでいただけなんだ。アーティストとして、僕なら他のアーティストを公然と侮辱するようなことは絶対にしないよ。”Pull” に関しては、あのレコードは僕らのベスト盤のひとつだと今でも信じているんだ」
生贄といえば、WINGER はまさに90年代の “生贄” となったバンドなのかも知れませんね。ヘアメタルと呼ぶには、あまりに高度なオーケストレーションに演奏技術を纏いながら、売れてしまったがゆえに祭り上げられた不可解なシンボルの座。Reb Beach は最近、当時を振り返ってこう語っています。
「90年代に入って、グランジが台頭して、ギター20本と家を売った。アニメに WINGER のTシャツを着たキャラが登場してね。家に帰ると両親も WINGER、犬まで WINGER のTシャツを着てる(笑)。全員オタクなんだ。ダサくなったヘアメタルの象徴というかね。翌週からチケットが全く売れなくなったよ…」

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21. SCAR SYMMETRY “THE SINGULARITY (PHASE II – XENOTAPH)”

「MESHUGGAH のツアーで数年間は忙しかったし、NOCTURNAL RITES のアルバム制作とツアー、KAIPA との数枚のアルバムのレコーディング、他のバンドのプロデュースやミックスの仕事、セッションの仕事、2019年には父親になったし、世界的なパンデミックも起きた。だから、私生活でも仕事でも世界全体でもいろいろなことがあったんだよ!でも、アルバムがついにリリースされ、ファンが本当に気に入ってくれているようで、今は本当に素晴らしいと感じているよ!」
スウェーデンの近未来知的創造体 SCAR SYMMETRY がバンド結成20年のメモリアルに華々しい復活を遂げようとしています。主役はもちろん、あの MESHUGGAH で鬼才 Fredrik Thordendal の代役を長く務めたギターマスター Per Nilsson。紆余曲折のあったバンドですが、中心メンバーであった Christian Älvestam と Jonas Kjellgren が去って Per の創造性を心臓に据えた北欧の特異点は、メロデスのカタルシスとプログレッシブな冒険心を絶妙な “対称性” で律する最高の SF エピックを紡ぎ出しています。
「3部作の各章は、3部作の音楽世界の一部とつながり、感じられる必要がある一方で、僕は各フェーズが独自のものであることも望んでいたからね。だから、”Phase II” では、メロディや先進性を犠牲にしてでも、”Phase I” よりもかなりヘヴィでアグレッシヴなものにする必要があったんだ」

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22. DRAGONCORPSE “THE DRAKKETH SAGA”

「僕たちは、自分たちが影響を受けたものをしっかりとその名に刻んでいるんだよ。DRAGONFORCE をはじめとしたパワーメタルからの多大な影響。そして WHITECHAPEL や CANNIBAL CORPSE をはじめとするデスメタルやデスコアからの影響。だから、両方の名前を統合するべきだと思ったんだ」
DRAGONFORCE の名を挙げるまでもなく、天翔るドラゴンはファンタジックなパワー・メタルの代名詞であり象徴です。一方で、”Corpse” “死体” は、CANNIBAL CORPSE を引き合いに出すまでもなく、デスメタルの根幹であり原点。その2つの単語を安直なまでに大胆に繋ぎ合わせたオーストラリアの新鋭 DRAGONCORPSE の登場は、A7X が語るようにヘヴィ・メタルが “大胆な” 進化を厭わなくなる予兆なのかもしれません。
「パワー・メタルとデスコア。この一見相容れない2つのジャンルを融合させたきっかけは、僕と BEYOND DEVIATION の Kris Chayer との単純なやり取りから生まれたんだ。そこで僕らは、ヘヴィな音楽全般においてクリーン・ボーカルが十分に活用されていない、そして馬鹿にされていることは、あらゆる可能性を失っていることになると話したんだよ」
そもそも、ヘヴィ・メタルの世界はクリーン・ボーカルが花形で主流でした。しかし、スラッシュ、デスメタル、メタルコアと時を重ねるうちに、重さこそ正義、グロウルやスクリームであらずんばメタルにあらずといった空気が醸し出されてきたような気もします。そんな中で、DRAGONCORPSE はメタルにおけるクリーン・ボーカルの重要性に再度焦点を当て、デスコアの現代的な重力の中にパワー・メタルのファンタジーを組み込む事でメタルの新たな可能性を見出して見せました。
「どのようなスタイルの音楽にも、おそらく永遠に “純粋な人” たち、ピュアリストはいるものだろう。僕たちが取り込みたいのは、ヘヴィな音楽もファンタジックな音楽も両方楽しめる、オープンマインドな人たちだよ。僕たちのようなバンドが現れて、実際に活動するのを長い間待っていたと言ってくれる人がたくさんいることは、正しい道を歩んでいることを意味しているんだ」

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23. VVON DOGMA I “THE KVLT OF GLITCH”

「2000年代のメタルやハードコアのシーンは、スタイルがまだ探求され、発展していた時期だった。音楽のサブジャンルがまだ生まれていて、中でもケベックのバンドは本当に何かを持っていたんだよ。CRYPTOPSY の前にはテクデスがなかったように、DESPISED ICON の前にはデスコアがなかったように。さらに ION DISSONANCE のようなバンドはエクストリームなマスコアを前進させた…そして UNEXPECT は、その意味がどうあれ、”アヴァンギャルド・メタル” という言葉を生み出す手助けをしたんだよ」
VOIVOD の偉業を振り返るまでもなく、カナダ、特にケベック周辺はメタルの進化に欠かせない異形を生み続ける特異点です。そして振り返れば、まだモダン・メタル=多様の定義もおぼつかなかった90年代後半から00年代にかけて、UNEXPECT ほど混沌と新鮮をメタル世界にもたらしたバンドは多くはありませんでした。
「UNEXPECT が早すぎるということはなかったと思うよ。僕の考えでは、シーン全体を前進させるためには、新しいアイデアを持って、早すぎるくらいに登場する必要があるんだよ」
もはや伝説となった9弦ベースの使い手 Frédérick “ChaotH” Filiatrault はそう嘯きますが、プログレッシブ、デスメタル、ブラックメタル、ジャズ、クラシック、オペラ、フォーク、エレクトロニカが “予想外の” ダンスを踊る UNEXPECT の音楽は、現在の多弦楽器の流行を見るまでもなく、あまりにも “早すぎて” 理解を得られなかった鬼才で奇祭にちがいありません。そして、UNEXPECT や WALTARI がいなければ、アヴァン・メタルの現在地も、今ほど “攻め” やすい場所ではなかったのかもしれませんね。
「このバンドは、90年代のオルタナティブや Nu-metal、2000年代の実験的なハードコアやメタル、2010年代のエレクトロニックの爆発など、僕がこれまで聴いてきたすべてのジャンルの音楽を調和させようとしたものなんだ。James Blake、Bon Iver, DEFTONES, MESHUGGAH, MARS VOLTA, IGORRR…といったアーティストのありえないブレンドを目指していたからね」

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24. CROW BLACK SKY “SIDEREAL LIGHT Vol.2”

「悲しいことに、僕たちの国はいまだに非常に分断されていて、多くの問題を抱えながら生きているんだ。だけどね、ラグビーのワールドカップで、僕らは国全体が団結して力を合わせることができることを証明したばかり。音楽も同じような効果をもたらすことができるよ。南アフリカではスポーツのような規模にはまだなっていないかもしれないけど、いつかそうなることを願っているよ」
南アフリカの立法府がおかれるケープタウン。テーブル・マウンテンや希望峰、テーブル湾が望める風光明媚なこの街にも、やはりアパルトヘイトの暗い影は残っています。白人が多く住む高級住宅街シーポイントの一方で、誇りと砂のケープ・フラッツには低所得者層が溢れています。そこは、かつてアパルトヘイトで強制移住させられたカラード (有色人種) たちの居住区。南アフリカで白人の入植が始まった “マザー・シティ” は、すべての人種にとって母なる街ではありません。暴動、窃盗、レイプ…それでもこの街とアフリカの壮大を愛するブラックメタル・バンド CROW BLACK SKY は音楽で憎しみや差別の壁を壊したいと焦がれます。
「僕たちは将来、間違いなくまた “黒い” ブラックメタルを作るだろう。でも今はもっと明るく、宇宙の威厳をたたえたサウンドを作りたかったんだ」

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25. PIZZA DEATH “REIGN OF THE ANTICRUST”

「スラッシュというジャンルは、僕たち全員がプレイしていて本当に楽しいと感じる音楽なんだ。でも、タフなメタル・ヘッドのように振る舞っている自分たちを、客観的な自分は真剣に受け止めることができない。だからピザのような馬鹿げたテーマを持つことで、音楽を通して、タフガイじゃない自分たち、その個性をより素直に反映させることができるんだ」
メタルやハードコアのようなエクストリーム・ミュージックの世界において、”マッチョ” で “タフ” で “シリアス” であることは長年、リスペクトを得るための至上命題だったのかもしれません。弱さも優しさもユーモアも、激しい音楽にとっては足枷でしかない。しかし、そんな時代は過ぎ去ろうとしています。METALLICA が自分たちが無敵ではないことを告白して、ファンと痛みを分かち合おうとしているように、激音の伝道者たちは本来の自分を曝け出しつつあります。当然でしょう。いつでも完璧で鋼鉄な人間など、存在しないのですから。
「シーンには、自分の怒りや不満、意見や見解を表現する手段として音楽を使いたがる人たちがたくさんいる。それは素晴らしいことで、僕も彼らは大好きだよ。でもね、僕らがそれをやると “フェイク” なんだよな。だって僕らは、最高の音楽は、音楽を通して自分自身をありのままに表現しているアーティストから生まれるものだと思っているから」

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26. DØDHEIMSGARD “BLACK MEDIUM CURRENT”

「自分の芸術が本当に無限のものであるためには、特定の美学に縛られるわけにはいかないと思った。結局のところ、私は芸術を実践したいのであって、説教をしたいわけではないのだから」
原始的で典型的なブラックメタルは、その最高峰のバンド達にとってもはや十分な “乗り物” とは言えないのかもしれません。この悪名高いサブジャンルの冷血なアナーキズムと凍てつくような反妥協主義は、天才的なクリエイターを惹きつけるに十分な魅力ですが、ULVER から ENSLAVED、SIGH に至るまで、その屍を塗りつぶした暗黒のパレットには、拡大する芸術的ニーズを満たすには単にその色が足りないのでしょう。
ノルウェーの地下宮殿を支配した DODHEIMSGARD は今も依然としてアンダーグラウンドな存在ですが、明らかにその “最高峰” リストの筆頭に挙がるべきバンドでしょう。オスロで結成されたこの集団は、今や真のプログレッシブの体現者となり、地獄の業火と宇宙の瞬きを同時に表現するフロンティアを創造しています。90年代前半から中盤にかけての “セカンドウェーブ” のうねりの中で、生々しく重苦しいブラックメタルで影響力を増した DODHEIMSGARD は、その後、画期的なリリースごとに真に多彩な巨人へと進化してきました。9年ぶりに彼らから届けられた7枚目のアルバム “Black Medium Current” は、そんな壮大な暗黒航海の魅力的な最新地点。
「かつて社会は我々を文化的サブグループに属するミュージシャン/アーティストとしては見ていなかった。そうではなく、社会は我々を、唾を吐きかけられ、殴られ、追放されて当然の、ほとんど人間ではない恐ろしい存在として見ていたんだ」

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27. THE ANCHORET “IT ALL BEGAN WITH LONELINESS”

「音楽は、人種、肌の色、信条など、あらゆる境界を超越する。コンサートに行けば、僕たちが皆、互いに共生しているとわかる。そして想像力を育み、精神を高めてくれる!音楽は僕の人生を救ってくれた!音楽のあるところでは、僕らは決して一人じゃない! 」
結局、人とは孤独な生き物です。一人で生まれ、一人で死んでいく。すべては孤独から始まります。ただし、その孤独と孤独の狭間、ほんの閑日月に私たちは寂寞以外の何かに縋り、救われます。音楽、特にヘヴィ・メタルのファンタジーや包容力は、今や大きな社会問題とまでなった孤独、そして憂鬱の素晴らしき逃避場所。カナダを拠点とする THE ANCHORET は、世捨て人の名を冠した神々しき神父のプログ・メタルで、許しの灯火をかかげていきます。
「CYNIC と OPETH の両方と少しでも比較されるのは光栄なことだからね!この二つのバンドは、Paul Masvidal の “Aeon Spoke” とともに、僕の活動すべてに大きな影響を与えている。OPETH が音楽の探求を教えてくれたとしたら、 CYNIC は音楽の流れをよりよく理解する方法を教えてくれた」
孤独からの逃避、自己愛と希望の重要性を説く隠遁の神父たちにとって、プログ・メタルは格好の経典でした。プログとはプログレッシブ、即ち進化すること。もちろん、人は打ち込めるものがあれば、自分の才能と向き合えれば、将来の光を目視できれば、孤独を感じることはないでしょう。そのための鍵となる “好奇心” を、プログの世界は存分に与えてくれるのです。

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28. KOSTNATĚNÍ “ÚPAL”

「現在ブラックメタルを前進させているバンドは、サタニズムをテーマにしていないバンドだと思う。それを強制させられた時点で、創造的とはいえないからね。ブラックメタルは、歪んだギターで演奏されるエネルギッシュな音楽であれば、どんなものにも適応できるし、同様に幅広いテーマやムードを取り入れることができる」
モダン・メタルはその生命力、感染力、包容力で世界中に根を張り、多様な文化を吸収して、今も拡大を続けています。その最先端に位置するのがブラックメタルであることは、もはや公然の秘密でしょう。そして、その多くがもはや原初のサタニズムを強制されてはいません。強制とは創造の反対語。米国ミネアポリスを拠点とする Kostnatění も、全身全霊で創造の限りを尽くします。
「僕は単純にトルコの音楽に長い間興味を持っていて、それをメタルに取り入れた結果を楽しんできたんだ。”Úpal” にはトルコ音楽の影響だけでなく、マリのティショマレンや中東・北アフリカの民族音楽、ポップス、クラシック音楽からの影響もある」
灼熱の太陽、砂漠の熱砂、地獄の乾燥。蜃気楼の踊る異国のアルバム “Úpal” は、チェコ語で “熱射病 “を意味し、極限に咲く美しさと激しさの二律背反を表現しています。Kostnatění が目指すのは、”砂漠の太陽、その灼熱の光と正気の融解”。威厳と殺戮を伴って移り変わる砂の上の文明に焦点を当て、酷暑に屈っせず進化する人々の強さに敬意を表します。
ゆえに、そのブラックメタルには音楽の進化の証であるポップスやクラシック、現代音楽とともに、中東やトルコ、北アフリカの音楽が共存しているのです。
「僕はいつも、今ある既存のものとはまったく違うサウンドを作ることを目標に音楽に取り組んできた。いろいろな音楽を聴いて、それを組み合わせることで、簡単に他とは異なる目立つ音楽を作ることができる。それに加えて、僕はポップ・ミュージックの感性を曲作りに生かすようにしている。どんなに激しく邪悪な音楽であっても、記憶に残るものでなければならないと思うからね」

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29. SERMON “OF GOLDEN VERSE”

「ニュートラルで “小さい” 響きを持つ名前がよかったんだ。そこで、一般的な男性代名詞にしたのだけど、Him には聖書で頻繁に言及される神という意味合いもあって、二重の意味で使うことにしたんだ。それに、讃美歌はキリスト教の説教 (Sermon) で歌われるもの。言葉の響きという点でもつながっているよね」
Him を神として崇める仮面の匿名バンド SERMON は、2019年のデビュー・アルバム “Birth of the Marvellous” で、どこからともなく現れ喝采を浴びました。強烈でエモーショナルなプログレッシブ・メタルの驚異的な完成度は、スタートにしてすでに洗練された宝石で、謎の一団はシーンに凄まじい衝撃を与えたのです。そのメロディックな核心、巧妙な複雑さ、緊張感とメランコリーは、KATATONIA, TOOL, 後期の PORCUPINE TREE, RIVERSIDE に OPETH といったモダン・プログの語り部たちと美的な類似性を持っていました。
ただし、SERMON の鋭くユニークなエッジと巧妙なリズム細工は、プログ・メタルに魅了されていないリスナーにも間違いなくアピールする魅力を備え、群を抜いていました。デビュー作から4年。そうして SERMON 2枚目のLP、”Of Golden Verse” は深紅に染まる世界の奥底へとさらに足を踏み入れます。
「最近は、メタル以外のアーティストに影響を受けることが多いんだ。このアルバムでは、Michael Jackson, WOVENHAND, KILLERS, THE MACCABEES, CAMEL から影響を受けている」

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30. OUT OF NOWHERE “DEJA VU”

「残念ながらイランの政府は非常に抑圧的で、他の国では普通のことでも、ここでは禁じられていることがたくさんあるんだ。音楽もほとんどそうで、その中でも “最も違法” なのがメタルなんだ。刑務所に入れられた友人もいたし、その他にもいろいろなことがあってね…。音楽は僕たちを生かしてくれた唯一のもので、決してやめられない。だから、国を出たんだ」
イランからトルコへ。OUT OF NOWHERE という名前を体現する根無草のメタル集団は、母国の厳しい道徳的ルールと対峙しながら10年以上かけて自分たちのサウンドを磨き上げ、常に脅かされながら演奏し、危険と隣り合わせの夢を追い求めてきました。2021年、バンドは自分たちの創造的な可能性をさらに追求し、音楽を作ることで逮捕される心配のない活動をするためにトルコに移住します。そこで起こったあの大地震。彼らの情熱は今、革命の始まりのように純粋なイランの人々、そして大災害にも負けないトルコの人と共にあります。メタルの回復力、反発力と共に…
「僕たちはこのビデオをイランの女性たちに捧げた。基本的な自由のために戦い、政府によって殺されようとしている人たちに。彼女たちは僕たちの姉妹だから。イランの若い世代は、僕たちに大きく勇敢である方法を教えてくれた。彼らは、自分たちの若さと未来が台無しになることを望んでいない。僕たちイラン人は暴力的な人間ではないよ。どこの国の人でも自由を持つ権利があるけど、僕たちは基本的な自由さえ持っていなかった。言論の自由もない。政権の弾圧のために、僕たちの夢のほとんどは6フィートの深さに埋もれてしまった。でも、イランで兄弟姉妹が毎日殺されているのに、黙っているわけにはいかないじゃないか」

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