“I Am Braced For a Fair Amount Of Eye-rolling To ‘Another Masked Band’, Which Is Fair Comment. But Also, Is It Really So Different To The Legions Of Corpsepaint Coated Black Metal Bands?”
DISC REVIEW “OF GOLDEN VERSE”
「ニュートラルで “小さい” 響きを持つ名前がよかったんだ。そこで、一般的な男性代名詞にしたのだけど、Him には聖書で頻繁に言及される神という意味合いもあって、二重の意味で使うことにしたんだ。それに、讃美歌はキリスト教の説教 (Sermon) で歌われるもの。言葉の響きという点でもつながっているよね」
Him を神として崇める仮面の匿名バンド SERMON は、2019年のデビュー・アルバム “Birth of the Marvellous” で、どこからともなく現れ喝采を浴びました。強烈でエモーショナルなプログレッシブ・メタルの驚異的な完成度は、スタートにしてすでに洗練された宝石で、謎の一団はシーンに凄まじい衝撃を与えたのです。そのメロディックな核心、巧妙な複雑さ、緊張感とメランコリーは、KATATONIA, TOOL, 後期の PORCUPINE TREE, RIVERSIDE に OPETH といったモダン・プログの語り部たちと美的な類似性を持っていました。
ただし、SERMON の鋭くユニークなエッジと巧妙なリズム細工は、プログ・メタルに魅了されていないリスナーにも間違いなくアピールする魅力を備え、群を抜いていました。デビュー作から4年。そうして SERMON 2枚目のLP、”Of Golden Verse” は深紅に染まる世界の奥底へとさらに足を踏み入れます。
「最近は、メタル以外のアーティストに影響を受けることが多いんだ。このアルバムでは、Michael Jackson, WOVENHAND, KILLERS, THE MACCABEES, CAMEL から影響を受けている。このアルバムに影響を与えたと思われるメタル・バンドを考えてみたんだ。SOILWORK は間違いなくそのひとつで、彼らのアルバム “Verkligheten” は僕らのデビューと同じ頃に発売されたんだけど、どの曲も最高の曲ばかりで、圧倒されたのを覚えているよ」
衝撃的なデビュー作で見せたクオリティとポテンシャルは、刺激と説得力を加えながらその洗練を拡大させています。SERMON が作り出す陰鬱で不吉な雰囲気は、血と知に染まりながら肌に染み込んできます。前作同様、”Of Golden Verse” は沸点に達するような緊張感に包まれ、その不吉でほとんど儀式的なムードは、威嚇と不安を誘う序章から高鳴るメロディーと変幻自在のフックへと巧みにシフトしながら、カタルシスの領域まで到達します。つまり、SERMON のユニークで複雑、かつ感情的にパワフルなサウンドはプログレッシブ・メタルの領域をすでに超越しているのです。
ロック、ドゥーム、ブラック、ゴシックの連なるドラマのが、安っぽさやメロドラマ的な場所に陥ることなく、プログレッシブな筋肉にに浸透。プログレッシブ・メタルの特徴を強く持ちながら、メロディック・ドゥームを筆頭に地下音楽の暗がりへと螺旋状に降下する彼らの音楽は、精神的、神学的なバランスの概念を “Sermon”、説くことに捧げられました。この匿名集団は、その音楽と同様に、あらゆる信念の思慮深い交差を作ることに重きを置いています。極論、群集心理、分裂した意見、無謀な信仰に囲まれた世界の中で、すべての信念を等しく受け入れるバランスのとれた中心地を見つけること。世界を取り巻く残虐行為に関するテーマを軸に、”Of Golden Verse” は人類の歴史をたどりつつ、人間本来のあり様を世に問うのです。
今回弊誌では、Him にインタビューを行うことができました。「もちろん、”また仮面バンドか” と言われるのは覚悟の上で、それはそれで正しい意見だよ。しかし、コープスペイントのブラックメタル・バンドの軍団と、本当にそんなに違うのだろうか?」 どうぞ!!
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SARAH PENDLETON OF THE OTOLITH !!
“It Is Worrisome And Frightening How Easily We Seem To Slip Back Into The Grave Mistakes Of The Past And Allow Ugliness And Hatred And Aggression To Poison Us. Vigilance And Memory Are Vital. Love Is Vital”
DISC REVIEW “FOLIUM LIMINA”
「”Bone Dust” はウクライナ侵攻の前に書かれたものだけど、自分の家を守るための歌。私たちは簡単に過去の重大な過ちに戻り、醜さと憎しみと侵略に毒されることを許してしまうようね。心配だし恐ろしいわ。警戒心と記憶力は不可欠だと思う。何よりも、愛は不可欠よ」
世界は多くの場所、様々な理由で燃えているように思えます。だからこそ、”過去” という灰の中から生まれた THE OTOLITH の “Bone Dust” は2022年に必要なアンセムにも感じられるのです。見事にサンプリングされた “独裁者” におけるチャップリンの演説と同様に、この楽曲は徐々に強度と熱を増し、燃え盛る世界の醜さ、憎しみ、不条理に対して教訓という愛を注いでいきます。
THE OTOLITH 63分のデビュー作 “Folium Limina” は、”Sing no Coda “に聞こえる遠い教会の鐘から、TOOL のような陶酔感の “Andromeda’s Wing”, ISIS を思わせるドラマティックなクローザー “Dispirit” の最後の音までリスナーは絶句し、静寂と轟音、美麗と醜悪の狭間で人間の業を知り、それでも希望という名の光を胸に秘めて生を見つめます。
「SUBROSA の終焉は、私たちにとって胸が張り裂けるような出来事だったわ。予期せぬ出来事で、私たちは何ヶ月も悲しみと混乱と嘆きに包まれていたの。でもね、グループのメンバーの一人がその一員であることを望まなくなったとき、最終的にはそれを受け入れて前に進まなければならないの」
THE OTOLITH は、ソルトレイク・シティで愛された SUBROSA の灰の中から生まれたバンド。元 SUBROSA のメンバー Sarah Pendleton、Kim Cordray、Andy Patterson、Levi Hanna と、VISIGOTH のベーシスト Matt Brotherton で新たな生を受けました。THE OTOLITH は不死鳥のように蘇るのか。それとも、イカロスのように燃え尽きるのか。求めよ、さらば与えられん。5人のデビュー作 “Folium Limina” は明らかに SUBROSA の遺品をさえ凌ぐフェニックスに違いありません。
「”Otolith” とは、ギリシャ語で “耳の石” を意味する言葉。内耳にある小さな水晶の構造物なのよ。バランス、動きの検出、音の検出を助けるの。アルバム・タイトルのフォリアとは、脳の中にある葉っぱのような構造物で、電気や電磁波のエネルギーを伝導させる働きをする。木の枝のように見えるわ。そして、リミナという言葉は、覚醒と夢想の間、シラフと陶酔の間、生と死の間などの心の辺境状態に由来している」
耳の石の名を冠した THE OTOLITH は、SUBROSA の残したものをある程度は受け継いでいると言って良いでしょう。巨大でアヴァンギャルドなドゥームを得意とし、情景を映し出すモノリシックなメランコリーが彼らの命題。氷河のようなリフがドゥーミーな海に突き刺さり、幽霊のようなヴァイオリンがその表面を悲しみの色に染め上げます。
美と破滅の間に境界線を引かず、幽玄なストリングスとダイナミックなベース、ギター、パーカッションを織り込んだ闇のタペストリー。現実と夢想、生と死の狭間で輝くのは Sarah と仲間の千変万化な歌唱。深く掠れた咆哮、礼拝的な詠唱、合唱のような澄んだ歌声は、SUBROSA の影をなぎ払い、キャッチーで、ダイレクトで、ドラマティックな THE OTOLITH の現在地を内耳の水晶へと刻みます。
「誠実さ、純粋な感情こそが、音楽を作る上で最も重要なピースだと信じているわ。だから、私たちにとって、それは今も変わっていない。その感情がネガティブなものであろうとポジティブなものであろうと、誠実である限り、すべての楽曲に含まれるべき唯一の要素なのよ」
誠実、純粋、愛。THE OTOLITH のスロウ・バーンはそうした感情の大切さと共に、過去の過ちから学ぶべき知恵の輝きを再確認させてくれます。残虐で冷酷な悲壮から切ない美しさまで、音のスペクトラムを横断する6曲は、近年稀に見る “アルバム” 志向の作品。つまり、これはタペストリーであり、美しく説得力のあるしかし欠点に満ちた人生の教科書なのでしょう。メタルを通して生命を吹き込まれた人間の経験は、暗く、美しく、思慮深く、超越的なものとなるはずですから。
今回弊誌では、Sarah Pendleton にインタビューを行うことができました。「ヘヴィ・メタルはバラエティに富んだ多元的な世界なの。木星サイズの抽象画のように、より多様になり、渦を巻き続けているのよ。私たちは、どんなサブジャンルに分類されようが、そこからこぼれ落ちようが、その世界の一部であることに恍惚としているの」 どうぞ!!
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DANIEL DROSTE OF AHAB !!
“Listening To The Repetitive And Gloomy Atmosphere Of Funeral Doom Immediately Created Pictures In My Mind.”
DISC REVIEW “THE CORAL TOMBS”
「ジュール・ヴェルヌの “ノーチラス号” の小説は、”白鯨” に次いで、航海小説の中で最も人気のある物語。僕は60年代のディズニー映画で初めてこの物語に触れ、子供の頃本当に大好きだったんだ」
ドイツが生んだフューネラル・ドゥームの巨神 AHAB は常に深海に魅せられてきました。ハーマン・メルヴィルの “白鯨” に登場する狂気の船長を名乗る彼らの作品は、未知の世界への航海と、未知に隠された恐怖という名のカタルシスをいつも表現しているのです。
さながら IRON MAIDEN の大作 “Rime Of The Ancient Mariner” を深く暗い海底へと沈めるかのように、深海のフューネラル・ドゥーム集団は2006年の “The Call Of The Wretched Sea” で白鯨を語り、そこから2009年の “The Divinity of Oceans” でマッコウクジラによるエセックス捕鯨船沈没を舞台とした海の脚本を演じ続けました。
さらに、エドガー・アラン・ポーの “ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語”(2012年 “The Giant”)や、ウィリアム・H・ホジソンの “The Boats Of The Glen Carrig”(2015年の同名アルバム)においても、深海の神秘性とアトモスフィア、そして “自由” を、その深みを持った重くて広がりのある葬送曲で見事に表現してきたのです。
「強硬派に言わせれば、ドゥーム・メタルがドゥーム・メタルであるためには特定の様式美が必要だと主張するだろうが、ここには自由がある。これまで AHAB のために作曲している間、限界を感じたことは一度もないからね。ドゥーム・メタルというと、まずそのスロー・テンポや独特のハーモニーを思い浮かべるだろうけど、それ以外にも、ほとんどすべてのジャンルの要素を取り入れることができる自由があるんだ」
なぜ AHAB がこれほどまでに深海へと魅了されるのか。それはきっと、ドゥームと同様に海の底にも “不自由の中の自由” が存在するから。たしかに、光の届かない高圧の海底と同様に、ドゥームには重くて遅い反復の美学という確固とした不文律が存在します。しかし AHAB は、その不自由という音の檻を神秘性やエニグマという魅力へと変えながら、ドゥーム・メタルの長所を引き立てていきます。
つまり、”フューネラル・ドゥームのダークなムードとモノトーンな雰囲気においては、メロディやリズムのシンプルな変化で大きなインパクトを与えることができる” という Daniel の言葉通り、AHAB は屍が降り積もる真っ暗な海底でなお、音楽的な実験と冒険を繰り広げているのです。
「小説という雛形にとって、その物語の解釈に間違いや正解はない。目的ははアートであり、制限やルールは存在しないはずだからね。そして、それこそが僕が作曲をする上で好きな部分なんだ」
深海の語り部が “The Coral Tombs” で挑んだのは、ジュール・ヴェルヌの名著 “海底二万里”。オープニングから、物語のため彼らがはるか海面下に降りていくのが伝わります。”Prof. Arronax’ Descent Into The Vast Oceans” は、不協和音の予期せぬ爆発で始まり、ブラストビートと悲鳴で真っ暗な海道へと突入。スロウでドゥーミーなものを想像していた人には衝撃的な導入部。
一方、”The Sea as a Desert” は、海の砂漠が漂う即興的でサイケデリアを帯びた楽曲。そして、このアルバムの美しくミニマルな瞬間は、主にポストロックに由来していることが明らかとなっていきます。そう、AHAB の新たな冒険は、明らかに以前よりも多様化し、語り口が増幅されているのです。
特筆すべきは Daniel の歌声で、スクリームは魂の奥底まで浸透し、彼のクリーンな歌声は今までのどのアルバムよりも力強くエモーショナル。新たな武器を得た船長は、テンポ、テンション、メロディ、楽器編成をダイナミックに変化させ、レイヤーを緩やかに行いながら、重厚なメランコリーで彼らが熟練の船乗りであることを証明していきます。穏やかなアンビエンスから死のドゥームまで巧みに変容する音楽は、未曾有の音楽体験だと言えます。
それでも、”The Coral Tombs” の大半がドゥームであることに間違いはありません。外部からの影響はこれまで以上に大きいかもしれませんが、AHAB サウンド骨子となる、噛み応えのあるリード、引きずるようなリフワーク、そして沈むようなリズムの波は、未だに海の神秘を尊さまで備えながらリスナーの鼓膜をさながら海底地震のごとく揺らすのです。
今回弊誌では、Daniel Droste にインタビューを行うことができました。「AMORPHIS の “Tales From The Thousand Lakes” と HYPOCRISY の “The Fourth Dimension” を見つけたとき、10代の僕は本当に感動したんだ。アグレッシブな音楽は聴いていたけど、アグレッシブな音楽とダークなアトモスフィア、そして AMORPHIS の曲で使われているオリエンタルなメロディーの組み合わせは、僕を強く惹きつけるものがあったんだ」 どうぞ!!
“There will be bands where you’re like, “I only like the early stuff because the later stuff got different.” That’s fine, but do you really need six records that sound like one specific thing?”
DREAM UNENDING
人生は厳しいもの。人は必ず成長し、生きるために働き、老いて死にます。もし、そんな苦痛のサイクルから解き放たれたとしたら? もし私たちが現代生活の呪縛から解放され、哲学的な反乱を起こし、諦めるのではなく人生を謳歌することができたらどうでしょう。TOMB MOLD の Derrick Vella と INNUMERABLE FORMS, SUMERLANDS の Justin De Tore によるデュオ、DREAM UNENDING は、そうして人生という果てしないファンタジーに慰めを見出しました。
ANATHEMA や Peaceville Three に影響を受けたデスメタル、ドゥーム・メタルを背景に、DREAM UNENDING が描く人生に対する理想を理解することは簡単ではないでしょう。De Tore は、人生の循環的な側面と、逆境に直面した際の魂の回復力をテーマに、音楽とのより深い感情的なつながりを求めているのです。
すべての弦楽器を担当する Vella は、夢のように破砕的な雰囲気を作り出し、バンドが影響を受けてきた素材をさらに高揚させながら、個性と職人的なセンスで巧みにアイデアを育てていきます。デスメタル、ドゥーム・メタル、デス・ドゥームではなく、バンドを “ドリーム・ドゥーム” と呼ぶ Vella のソングライティングは、ヘヴィネスの黒海と天国から射す光のちょうど中間にある絶壁で稀有なるバランスを取っています。
それにしても、デスメタルの救世主として名を売った2人は、なぜゴシックやデス/ドゥームメタルの父である “Peaceville” にオマージュを捧げることになったのでしょう?Derrick Vella が答えます。
「僕が初めて Peaceville に触れたのは PARADISE LOST だった。2000年代に古いゴスのブログを通じて “Shades of God” を聴いたことがあったんだ。正直なところ、あのアルバムは好きではなかったね。そのブログで彼らが “Gothic” というアルバムも出していることを知ったんだけど…なぜあのブログはそっちをアップロードしなかったのか、理解できなかったよ。
“Gothic” は簡単に僕を虜にした。当時聴いていたダーク・ウェイヴ、ポストパンク、エクストリーム・メタルの延長線上にあるような、論理的なものだったからね。まさに世界がぶつかり合う瞬間だった。ちょうどあの頃は、夜、真っ暗なバスで帰宅していたから、このアルバムと THIS MORTAL COIL の “Filigree and Shadow” が混ざっても、それほど飛躍した感じはしなかったね。思い出深いアルバムだよ。
その頃から、友人がドゥーム・メタルにハマり始めたんだけど、彼はカーゴ・パンツのドゥームではなく、もっとベルボトムのようなドゥームが好きでね。だから幸運なことに、THERGOTHON や ESOTERIC みたいなバンドを紹介してもらうことができたんだ。ESOTERIC はこれまで存在した中で最も偉大なメタル・バンドかもしれないね。とても共鳴したよ。UNHOLY のファースト・アルバムもそう。それで結局、Peaceville のものをもっと聴くようになったんだ。
でも、何よりも他のバンドより心に響いたのは、ANATHEMA だった。いつも一番胸が締め付けられる。パワフルで壮大だ。ドゥームというのは面白いジャンルだよね。奇妙にプログレッシブであったり、簡単に雰囲気を作り上げることができたり、空間をシンプルに埋めて濃密なものを作り上げることができたり。デスメタルと同じくらい、いや、それ以上に好きなんだ。
DREAM UNENDING が存在するのは、Justin にバンドを始めようと誘われたからなんだ。それまではドゥーム・メタルを書こうとさえしていなかった。みんなは、僕が高いクオリティでたくさんの曲を書くことができるといつも言ってくれるけど、本当に頼まれたときしかやらないんだ。他人のために書くというプレッシャーの中でこそ、僕は成長できるんだろうな」
ボーカルとドラムを担当する Justin De Tore にとっても、PARADISE LOST と ANATHEMA は重要なバンドでした。
「PARADISE LOST を初めて聴いたのは、”Draconian Times” が発売されたときだった。ここボストンの大学ラジオでレギュラー・ローテーションとして放送されていたんだよね。ただ、EVOKEN / FUNEBRARUM の Nick Orlando が PARADISE LOST の最初の数枚のレコードをチェックするように薦めてくれるまで、彼らの初期の作品を聴くことはなかったんだ。僕は21歳で “Gothic” を聴いて、とても深い経験をした。基本的に Nick は僕をデス/ドゥームに引き込んだ人物で、だから彼には感謝しているよ。
ただ、”Peaceville Three”も好きなんだけど、一番好きなのは ANATHEMA。Darren White のように痛みや悲しみを表現する人は他にいないよ。とても感動的だ。とにかく、このスタイルで演奏するのはずっと夢だったんだけど、それを実現するための適切な仲間がいなかったんだ。だから、Derrick のように、僕と同じような熱意を持ってくれる人に出会えたことは、自分にとって幸運だったと思っている」
“Off Course In Messa All These Elements Are Somewhat Used As Contrast, Or As a Way To Expand The Sonoric Palette We Have At Our Disposal. Contrast Is a Very Important Thing In Our Music.”
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TOM TEMPLAR OF GREEN LUNG !!
“We Wanted To Create Something That Harked Back To The Foundations Of The Genre, Something That Tried To Tap Into The Magic Of The Days When You Could Hear a Tony Iommi Riff Or a Halford Scream On Mainstream Radio.”
DISC REVIEW “BLACK HARVEST”
「自分たちですべてを行うことで得られる創造的な独立性と経済的報酬、その観点からすると、これまで受けたオファーは意味をなさないということなんだよね。大手レーベルと契約する理由の多くは、足がかりやオーディエンスを見つける手助けなんだ。僕たちは主に Bandcamp から有機的にファンを増やすことができたから、今僕たちの権利を手放すことは意味がないと思うんだよ」
英国の陰鬱な伝承を描くドゥームの新鋭 GREEN LUNG は、その音楽だけでなく、この時代におけるバンドのあり方についても革命を起こそうとしています。独立志向の強いバンドは、メジャーレーベルとの契約を断り、代わりにフィンランドのカルト・レーベル Svart Records から最新作 “Black Harvest” をリリースすることを選びました。そうして、Bandcamp のアルバム・チャートで首位を獲得したのです。
「Spotify は僕たちのようなアルバム・アーティストにとっては最悪のプラットフォームだよ。アルバムよりもシングル曲が優遇され、プレイリストをコントロールするために多くの資金が投入され、無機質で、そして僕たちはほとんどお金を得ることができないんだ。Bandcamp はその逆で、80年代や90年代の口コミやジン・カルチャーに相当するようなオンラインのプラットホームなんだよ。僕たちの最大の収入源のひとつさ。インディペンデントな音楽文化をたった一つのサイトが救っているのだから、いくら高く評価しても言い足りないくらいだよ」
GREEN LUNG のフロントマン Tom Templar は Bandcamp について “音楽業界における最後の砦” と表現します。唯一の倫理的な音楽配信・販売サービスだと。メジャーから提示される前金よりも Bandcamp の方が利益が出る現実。実際、現代の音楽産業において Bandcamp は、インディペンデントのアーティストにとって文字通り命綱です。特に、”メインストリームの大きなロックバンドになろうとはしていない” GREEN LUNG のようなバンドにとっては。
彼らがメジャーからの支援を必要としないのは、今を生きるバンドらしいその成長過程にも理由があります。2019年のデビュー作 “Woodland Rites” は、70年代後半の NWOBHM 的郷愁のサウンドと BLACK SABBATH のオカルト・ドゥーム、そして1968年の “ウィッチファインダー・ジェネラル” といった心をかき乱す映画の感覚を融合し、アンダーグラウンドのメタル世界を沸かせました。
「パブで5人くらいを相手にライブをしていたんだけど、ネットの世界から熱狂的なファンが現れたんだ。今では、バンドのマスコット、悪魔のようなヤギのタトゥーを入れている人は20人以上いるんだよ」
ただし、バンドが大量の新しいファンを獲得できたのは Instagram の投稿がバズったからで、特に、伝統的な木版画のデザインでレコードを覆う、彼らの不吉でありながらエレガントな美学が音楽的にも視覚的にも “無料で” 潜在的なリスナーたちの元へと届いたから。もはや、20年代のバンドたちにとって、大きな音楽レーベルの養ってきたノウハウや豊富な資金力は必要のないものなのかもしれません。それよりも、真に必要なのはクリエイティブな自由。
「僕たちは一つのジャンルにとどまるようなバントでいたくはないんだ。ドゥームやストーナーの構成要素を取り入れ、それを使ってモダンなものを作りたいと思っているんだよ。例えば、TURNSTILE がハードコアで、POWER TRIP がクロスオーバー・スラッシュ でやったようにね」
GREEN LUNG が “現代的” なのは、その野心です。面白いものならば、創造的になれるのであれば、ドゥームという地底の音楽に STEELY DAN の羽を纏わせることも、MADBALL の跳ねを植え付けることも厭いません。そうして、”Black Harvest” はその哲学と “Woodland Rites” の基盤すべてを、よりビッグで、よりクラシックで、より壮大なものへと増幅させていました。
そうして、プロデューサー Wayne Adams のタッチ、オルガニスト John Wright のハモンドを前面に押し出しアルバムに思慮深くダークな雰囲気を与えつつ、Tom のキャッチーで世界を包むこむようなオジーの歌唱に、 Scott Black のリフが幾重にも活力と華を添えて “Black Harvest” は完璧なバランスを得ることになりました。つまり、”Black Harvest” は、DEEP PURPLE や BLACK SABBATH, QUEEN といったメタルの祖先が誇りに思うような、壮大な70年代のリバイバルでありながら、深い層を持った進化するアルバムであり、クラシックとなり得る強烈なインパクトと現代らしい奔放さを十二分に兼ね備えているのです。荘厳な”カテドラル” に灯る紫の炎、そして宿る女王の気品。
今回弊誌では、Tom Templar にインタビューを行うことができました。「僕たちは皆、若い頃にエクストリーム・メタル・バンドでプレイしていた。それがあったから、GREEN LUNG を始めたとき、逆にこのジャンルの基礎に立ち返るようなものを作りたかったし、Tony Iommi のリフや Rob Halford の叫びをメインストリーム・ラジオで聞くことができた時代のマジックに触れようと思ったんだ」 どうぞ!!
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TOBY DRIVER OF KAYO DOT !!
“It Was Mindblowing To Me When I Discovered That There Were Bands That Blended Death Metal With Sludge And Atmospheric Keyboards, Such As Tiamat, Disembowelment, My Dying Bride, Anathema, And Many Others. That Became My Favorite Style Of Music.”
KAYO DOT “MOSS GREW ON THE SWORDS AND PLOWSHARES ALIKE”
「パンデミックの影響で、私は街から離れ、友人や他のミュージシャンとも離れて孤立せざるを得なかった。すべての作品を孤独の中で作らなければならなかったんだよ。当時は精神的にかなり参っていたけど、振り返ってみると、あれは私にとってまさに必要な休暇だったと思えるね。都会の喧騒や過酷な生存競争に巻き込まれることなく、自分自身で大きく成長することができたからね」
メタル/プログレッシブの世界で異端の道を歩み続ける修道僧、KAYO DOT の Toby Driver。彼は、パンデミックの影響により都会から離れ、自然豊かな地元コネチカットの田舎の暮らしで自身を見つめ直すことになりました。そこで再訪したのが、高校時代に愛した Toby のルーツとも言えるレコードたちでした。
「TIAMAT, DISEMBOWELMENT, MY DYING BRIDE, ANATHEMA みたいに、デスメタルにスラッジやアトモスフェリックなキーボードを加えた音楽を知ったときは、驚かされたよね。そして、それが私のお気に入りの音楽スタイルになったんだ」
当時、アメリカの田舎町でヨーロッパのゴシック・ドゥームメタルを愛聴していた若者がいったい何人いたでしょう?さらに、それを聴きながら幽体離脱の瞑想をしていたというのですから、Toby Driver という人物の超越性、異端児ぶりには恐れ入ります。
時は90年代初頭。メタルが遂に “多様性” を手に入れ始めたカラフルな時代の息吹は、青年だった Toby の音楽形成、境界を破壊する才能に大きく寄与することとなります。そうして、MAUDLIN OF THE WELL というプログレッシブ・メタルから始まった彼の音旅は、KAYO DOT でのアヴァンギャルド、ポスト・メタル、アトモスフェリック、チェンバー、エレクトロニカの寄港地を経て再びゴシック・ドゥームの地へと舞い戻りました。
「90年代に活躍したバンドを思い浮かべると、たしかにあの頃のミュージシャンたちは皆とても若くて、音楽に成熟したものを期待することはできなかったよね。私は、あのゴシック・ドゥームという音楽が、成熟していて、経験を積んでいて、しかもまったく新しいもののようにエキサイティングだとしたら、どのように聞こえるだろうかと自問したんだ」
しかし、Toby のその長旅は、すべて最新作 “Moss Grew on the Swords and Plowshares Alike” の養分となり、未成熟で不器用だったあのころのゴシック・ドゥームを完成させるパズルのピースとなりました。言ってみればこのアルバムは、過去への感謝の念を抱いた自由意志の結晶。
「今回は、アーティストとして意味のある音楽を演奏するだけでなく、私たちが所属している Prophecy Productions というレーベルにマッチした音楽を演奏して、お互いに成長できるようにしたいと思っているんだ」
レーベルに合わせて音楽を書く。そんな試みもまさしく前代未聞ですが、それを実現できるのが日本ツアーであの平沢進までカバーした音楽の図書館こと Toby Driver。”The Knight Errant” はそんな KAYO DOT の “錬金術” を象徴する絶景。欧州に根差すブラック・メタルの激しい敵意とゴシックの耽美、さらに LYCIA のようなアメリカのシューゲイズ、そして ULVER や THE CURE といった Toby の “お気に入り” が調合された謎めいたアンチマターは、非常に “Prophecy 的” でありながら純粋で、驚きを秘め、感情を雷鳴のように揺さぶります。KAYO DOT の哲学には明らかに、野蛮とエレガントの巧妙な天秤が設置されていて、どちらか一方に傾くことはありません。
“Eternity” 時代の ANATHEMA を想起させる “Void in Virgo (The Nature of Sacrifice)” を聴けば、よりメタルだったころの Toby を喚起した MAUDLIN OF THE WELL のメンバーを招集した意味も伝わるはずです。シンコペーションとギターのアルペジオが彩る “Necklace” はまさにあのころのゴシックの申し子でしょうが、それよりも自由と伝統の共存、まさに90年代のゴシック・ドゥームの美学を KAYO DOT の豊富な “スペクトル” で調理した “Spectrum of One Colour” にこそこの作品の本質があるのかもしれませんね。
北欧神話や一神教を表のテーマとしながら、実際は世界に蔓延するヒーロー気取りの愚か者を断罪する。それもまた自由と伝統の共存なのでしょう。
今回弊誌では、Toby Driver にインタビューを行うことができました。「私は彼の音楽がとても好きで、東京にある “Shop Mecano” (中野ブロードウェイ) というプログレのレコード店にも足を運んだんだよね。ここは都内でも平沢さんの音楽を扱う主要な業者のひとつなんだろうか?沢山あったからDVDを何枚も買ってしまったよ (笑)」4度目の登場。もはやレギュラーですね。どうぞ!!
KAYO DOT “MOSS GREW ON THE SWORDS AND PLOWSHARES ALIKE” : 10/10
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SIMON OHLSSON OF VOKONIS !!
“Opeth Is a Great Inspiration To Me, One Of My Favourite Heavy Bands Of All time. It’s Probably The First Time I Got Really Introduced To Prog Rock And Started My Journey There.”
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ALEXANDER VON MEILENWALD FROM THE RUINS OF BEVERAST !!
“We Were Teenagers And Fairly Easily Manipulable, And an Extreme Movement Coming From Obscure Scandinavia, That Was Surrounded By Kind Of an Occult Aesthetic And an Almost Radical Anonymity And Secretiveness, Seemed Overwhelmingly Fascinating To Us.”
DISC REVIEW “THE THULE GRIMOIRES”
「自分がやっていることがブラック・メタルのルールに則っているかどうかは、あまり意識していない。もちろん、NAGELFAR 時代にもそうしていたんだけど、THE RUINS OF BEVERAST は最初から巨大な音の風景を構築することを目的としていたから、限界を感じるものは直感的に無視しようとしていたのだと思うな。そして、何よりもまず制限となるのは、ジャンルのルールだからね」
ジャーマン・ブラック・メタルの伝説。Alexander von Meilenwald の落とし胤 THE RUINS OF BEVERAST は、長い間メタルの海岸線を侵食しながらアンダーグラウンドの美学を追求してきました。ブラック、デス、ドゥームに、サイケデリックな装飾や多彩なサウンドスケープ、サンプルを宿しながら綴る、音のホラー小説。
デビューアルバム “Unlock the Shrine” の広大なアトモスフィアから、15世紀ドイツの異端審問を描いた “Blood Vault – The Blazing Gospel of Heinrich Kramer” のコンセプチュアルな作品まで、Alex の言葉を借りれば、自然や世界を聴覚的に表現する音楽はアルバムごとにそれぞれの独特な感性を備えています。
「俺はいつもゼロからのスタートなんだ。いつも、新しいアルバムのためのビジョンを描き、それが創造的なプロセス全体の地平線として設定される。そして、先ほど言ったように、それは以前の作品とは全く関係がないんだ。」
Alex の6度目の旅路 “The Thule Grimoires” は、これまでのどの行き先よりも楽曲を重視し、アイデアを洗練させ、多様であると同時に即効性のある目的地へと向かいました。スラッジの破壊と暗く壮大な混沌のドゥームを探求した “Exuvia” とは異なり、”The Thule Grimoires” は初期の生々しいスタイルを再度回収しています。では、Alex は過去の寄港地、ブラックメタルのルーツにそのまま戻るのでしょうか?それともトライバルでサイケデリックな領域をさらに旅し続けるのでしょうか?圧倒的で落胆に満ちたドゥーム・アルバム? メタルではなくアンビエントなテクスチャーに根ざした何か?答えはその全てです。
「ブラック・メタルが重要じゃないわけじゃないんだ。”Ropes Into Eden” の冒頭を聴いてみると、かなり古典的なブラックメタルのパートだけど、同時に見慣れない要素によって拡張されている。これはすべてオートマティックに起こることさ」
アグレッシブなテンポ、ブラスト・ビート、そしてトレモロ・リフに大きな重点を置きながら、美しく録音された作品には、フューネラル・ドゥームの深い感情を呼び起こすような、不安になるほど酔いしれた雰囲気が漂っています。ただし、テンポが速くなったことでこれまで以上に素早くシーケンスからシーケンスへと飛び移ることが可能となり、その結果、楽曲は様々な影響が回転ドアのように目まぐるしく散りばめられているのです。
「俺の音楽人生には何度か、必ずポップ、シンセウェーブ、ポスト・パンクの衝撃が戻ってきているんだ。NAGELFAR の “Srontgorrth” アルバムや、初期の THE RUINS OF BEVERAST のリリースでも、少なくともゆるやかには存在していたからね。ただこのアルバムでみんながこれほど “ノン・メタル” な影響を確認する主な理由は、クリーンなボーカルだと思うんだ」
アルバムは陰鬱なスペース・ロック、”Monotheist” 時代の CELTRC FROST、さらには80年代のゴス・ロック、ポスト・パンク、シンセ・ポップからも影響を受けています。しかし、すべてのスタイルを支えているのは、鼓動するブラックメタルの心臓。
例えば “Polar Hiss Hysteria” ではトレモロの嵐とサイケデリックなリードがバランスよく配置されており、膨らんだ緊張感はそのままドゥーム・メタルに身を委ねていきます。クリーン・ボーカルも、アルバム中盤のハイライト “Anchoress in Furs” の見事なコーラスのようにより強調され、不協和音のコーラス讃歌にサイケデリックなギター、Alex の奇妙に高揚したバリトン・ヴォイスが万華鏡のような泥沼を創造します。
「俺はあのバンドを心から尊敬しているし、Peter Steele は “俺たち” の音楽世界でら最も非凡で傑出した人物の一人だと思っているんだよ。彼の黙示録的な皮肉は独特で、彼の声も同様に独特だった。完全に他にはないものだったね。だからこそ、俺は彼の真似をしようとは思わなかったんだ。”Deserts To Bind And Defeat” の冒頭では、俺の声をできるだけ深いトーンで表現することにしたんだよ」 そしてもちろん、TYPE O NEGATIVE。
今回、弊誌では Alexander von Meilenwald にインタビューを行うことができました。「ブラック・メタルのムーブメントが始まったとき、俺たちはノルウェーについてできるだけ多くのことを知りたいと思った。突然、ほとんどすべての人が、スカンジナビアから生まれた創作物を賞賛することに同意したんだからね。俺たちはティーンエイジャーで、簡単に影響をうける年ごろだった。オカルト的な美学と、匿名性と秘密性に包まれた、無名のスカンジナビアから生まれた過激なムーブメントは、俺たちにとって圧倒的に魅力的なものだったんだ」 ブラックメタルが贈る審美の最高峰。どうぞ!!
THE RUINS OF BEVERAST “THE THULE GRIMOIRES” : 10/10
ALL PICS BY Julia Marie Naglestad & Thor EgilLeirtrø
“If My Work Can Be Considered a Bridge In Music, Nothing Is Better! I’d Love To Be a Bridge Between The Good Qualities In Jazz And The Good Qualities Of Metal. Complexity, Simplicity, Embodied. Like Most Humans.”