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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【OCTOPLOID : BEYOND THE AEONS】”TALES FROM THE THOUSAND LAKES” 30TH ANNIVERSARY!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH OLI-PEKKA LAINE OF OCTOPLOID & AMORPHIS !!

“Probably The Most Important Band For Amorphis Were Piirpauke, Wigwam and Kingston Wall. Especially, Since It Was Possible To Witness Kingston Wall Live, It Made a Huge Impact On Us.”

DISC REVIEW “BEYOND THE AEONS”

「AMORPHIS も BARREN EARTH も素晴らしい人たちから成る素晴らしいバンドだと思うけど、僕は自分のキャリアの中で初めて、音楽的に100%自分の言葉で何かをする必要があったんだ。そうした “マザーバンド” とそれほど違いはないけれど、OCTOPLOID の作曲やプロダクションには、他のバンドでは不可能なニュアンスがあるんだ」
“Beyond the Aeons” “永劫の彼方に” と名付けられた OCTOPLOID という不思議な名前のバンドによるアルバムは、まさにフィンランド・メタル永劫の歴史を眺め続けてきた Olli-Pekka Laine の結晶だといえます。彼は1990年に北欧の伝説 AMORPHIS を結成したメンバーのひとりであり、2000年代にバンドを脱退した後、今度はプログ・メタルの英雄 BARREN EARTH に参加。そして2017年、AMORPHIS に復帰しました。加えて、MANNHAI, CHAOSBREED, といったバンドでもプレイしてきた Oli にとって、”Beyond the Aeons” は自身が歩んだ道のり、まさにフィンランド・メタルの集大成なのかもしれません。
「当時も今と同じように自分たちの仕事をしていただけだから、少し奇妙に感じるよ。ただ、当時としては他とはかなり違うアルバムだったから、 AMORPHIS のフォロワーにとってなぜ “Tales” が重要なのかは、なんとなくわかるよ。デスメタルに民族音楽とプログを組み合わせ、神秘的な歌詞と素晴らしいプロダクション。要は、そのパッケージがあの時代にドンピシャだったんだ。それまで誰もやったことのないコンビネーションだったから、上手くいったのさ」
Oli が歩んだ道のりを包括した作品ならば、当然そのパズルのピースの筆頭に AMORPHIS が位置することは自然な成り行きでしょう。特に Oli にとって思い入れの深い、今年30周年を迎える “Tales From The Thousand Lakes”。そのデスメタルとフォーク、プログを北欧神話でつないだ奇跡の悪魔合体は、この作品でもギラリとその牙を剥いています。しかし、AMORPHIS が AMORPHIS たる由縁は、決してそれだけではありませんでした。
「おそらく僕ら AMORPHIS にとって最も重要なバンドは、PIIRPAUKE, WIGWAM, KINGSTON WALL だったと思う。特に KINGSTON WALL のライブを見ることができたことは大きくて、本当に大きな衝撃を受けたんだ。だから、OCTOPLOID のサウンドにサイケデリアを加えるのは自然なことだった」
Oli が牽引した90年代の “ヴィンテージ” AMORPHIS にとって、フィンランドの先人 KINGSTON WALL のサイケデリックなサウンド、イマジネーションあふれるアイデアは、彼らの奇抜なデスメタルにとって導きの光でした。そしてその光は、”Elegy”, “Tuonela” と歩みを進めるにつれてより輝きを増していったのです。Oli はあまり気に入っていなかったようですが、”Tuonela” で到達した多様性、拡散性は、モダン・メタルの雛形としてあまりにも完璧でしたし、その音楽的包容力は多彩な歌い手たちを伴い、明らかに OCTOPLOID にも受け継がれています。
AMORPHIS の遺産 “Coast Of The Drowned Sailors”、KINGSTON WALL の遺産 “Shattered Wings”。両者ともにそのメロディは珠玉。しかしそれ以上に、ヴァイキングの冒険心、素晴らしいリードとソロ、70年代の思慮深きプログ、80年代のシンセワーク、サイケデリアが恐ろしき悪魔合体を果たした “Human Amoral ” を聴けば、Oli がフィンランドから世界へ発信し続けてきた、アナログの温もり、ヘヴィ・メタルの可能性が明確に伝わるはずです。聴き慣れているけど未知の何か。彼の印象的なベース・ラインは、これからもメタルの未来を刻み続けていくのです。
今回弊誌では、Olli-Pekka Laine にインタビューを行うことができました。「Tomi Joutsen と一緒に大阪と東京の街をよく見て回ったし、この前は西心斎橋通りで素晴らしいフレットレスの日本製フェンダーベースを買ったよ。いいエリアだったよ!日本の人たちも素晴らしいよ。日本の自然公園もぜひ見てみたい。定年退職したら、日本に長期旅行すると誓うよ!」 どうぞ!!

OCTOPLOID “BEYOND THE AEONS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【BLIND CHANNEL : EXIT EMOTIONS】 JAPAN TOUR 24′


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH NIKO MOILANEN OF BLIND CHANNEL !!

“We’ve Never Been Afraid Of Pop Music And We Believe Hit Songs Are Hit Songs For a Reason. We Have No Shame In Being Musically Inspired By Everything Cool That’s Happening In The Mainstream Music Scene.”

DISC REVIEW “EXIT EMOTIONS”

「アメリカのマーケットは巨大で、独自の世界だ。フィンランドやヨーロッパの多くの人たちは、アメリカを目指す僕たちをクレイジーだと言ったけれど、僕たちにとってそれは最初からの計画だった。
“Wolves in California” は、僕らのアメリカでの経験を歌った曲だけど、北欧のルーツを強さに変えて、アメリカのオーディエンスに僕らのエキゾチックな部分を強調した曲でもあるんだ」
“世界最大のバンドになりたい!”。80年代ならまだしも、人々の趣味嗜好、そして音楽ジャンル自体も枝葉のように細分化された現代において、そんな言葉を吐くバンドがいるとしたら、それは大言壮語の狼男か歌舞伎者でしょう。そう、たしかに BLIND CHANNEL は北欧の狼であり歌舞伎者。しかし、歌舞伎者だからこそ、彼らはアメリカでも “北の狂気” を貫き、冒頭の言葉を達成しようとしているのです。
「僕らは最初から野心的で反抗的だった。ビルボード・メインストリーム・ロック・エアプレイにチャートインしたフィンランドのバンドは、僕らが3組目だと思う。でも、僕らに影響を与えたバンドのほとんどはアメリカ出身だから、それが常に目標だったんだ」
フィンランドには “北の狂気” という言葉があります。”できない” と言われたら、それが間違っていることを証明するために、とにかくやってみる。やりつづける。まさにそれが BLIND CHANNEL の原始的なエネルギー。北欧のメタルといえば、メロデス、ブラック、ドゥーム、プログレッシブのようなカルトで陰鬱なものが多い中で、彼らは最初からアメリカを目指し、メインストリームにこだわりつづけました。
「フィンランド出身の国際的な Nu-metal は僕たちだけだからね。たぶんそれは、僕たちがポップ・ミュージックを恐れたことがなく、ヒット曲にはヒット曲の理由や価値があると信じているからだと思う。メインストリームの音楽シーンで起こっているクールなこと全てに音楽的にインスパイアされている。それを恥じることはないんだ“」
その若さと顔の尊さから、かつては “ボーイズ・バンド” と揶揄されたこともあった BLIND CHANNEL。しかし、彼らはそうした侮蔑でさえも野心のために利用します。人気を得るためなら、衣装も揃え、ダンスも覚える。すべては、メインストリームで勝負するため。なぜなら、彼らは売れる曲、売れるジャンル、トレンドとなる音楽には、それだけの価値や理由が秘められていると信じているから。そして、売れることでより多くの人に、彼らのメッセージを届けることができるから。
「僕たちは、人々が感情を吐き出すためにライブに来ていることに気づき、僕たちのショーでも同じような逃避場所を人々に提供したいと思ったんだ。特にここ数年、世界はクソみたいな場所だった。僕たちは、ガス抜きができて楽しい時間を過ごすための安全な空間を提供したいんだ」
“ここ数年、世界はクソみたいな場所だった”。世界で勝負をつづける彼らは、だからこそ、いかに今の世界で憂鬱や喪失を抱え、孤独で居場所のない人々が多いのかを知っています。そして彼らに寄り添えます。なぜなら、BLIND CHANNEL 自身も、北欧の村社会で自分を貫き居場所を失った過去があるから。ステレオタイプに反抗していじめを受けた心の傷を持つから。
ただし、”ヴァイオレント・ポップ” としてアメリカでこれだけ大きな波となった今、彼らは自らの出自である北欧のエキゾチックな煌めき、そして “Hybrid Theory” よりも “Meteora” を選ぶオルタナティブな感性が成功を後押ししたことに気づきました。メインストリームを目指していても、必要なのは他とは違う可能性。そしていつも “劣勢” から巻き返してきた彼らは、メタルの回復力でカリフォルニアのオオカミたちとして君臨することになったのです。
今回弊誌では、ボーカル Niko Moilanen にインタビューを行うことができました。マンガやアニメは僕の日常生活で大きな役割を果たしているんだ。ナルト、ブリーチ、鋼の錬金術師で育ったからね。デスノートと進撃の巨人は今まで作られたアニメで最高のシリーズだと思うし、今でも年に1回は見ている。いつか自分のマンガを描くのが夢なんだ。ストーリーはもう書いてあるんだけど、絵が下手なんだよね…」初の来日も決定!どうぞ!!

BLIND CHANNEL “EXIT EMOTIONS” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【METAL DE FACTO : LAND OF THE RISING SUN PART.1】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ESA ORJATSALO OF METAL DE FACTO !!

“Power Metal Is The Pinnacle Of Music. It Is Music De Facto, Metal Music De Facto… And From There It Came, Metal De Facto!”

DISC REVIEW “LAND OF THE RISING SUN Pt.1”

「パワー・メタルは音楽の最高峰だということだ。これこそが真の音楽であり、真のメタルだとね…そしてそこから生まれたのが METAL DE FACTO だったんだ!パワー・メタルが再び大衆の意識の中で正当な地位を取り戻すことを願っているんだ!」
魅力的なアートを生み出すために最も必要なのは、好きを突きつめることかもしれません。フィンランドが輩出したパワー・メタルの秘宝 METAL DE FACTO は、その音楽も、そのテーマも自らの好きを貫き通して、情熱の炎で新たな傑作を世に産み落としました。
「たしかにパワー・メタルは、2000年代初頭の全盛期を過ぎると、世間のレーダーから姿を消したように思えたけど、完全に姿を消したわけではなかったと思う。ファンやミュージシャンは、かつてほどの人気がなかったにもかかわらず、パワー・メタルを存続させた」
そう、かつて、パワー・メタルはヘヴィ・メタルが揶揄されるマンネリの象徴でした。”すべてが予定調和で、同じに聴こえる”。そんな逆境中でも、パワー・メタルを愛し、その可能性を信じ続けた STRATOVARIUS, BLIND GUARDIAN, GAMMA RAY, HELLOWEEN といった不屈の魂は、いつしかこのジャンルを豊かで実り多い大地へと変えていきました。METAL DE FACTO は彼らの背中を見て育ち、追い求め、そしてついには同じ舞台、同じ高みへと到達しました。
フィンランド訛りが郷愁を誘う Tony Kakko のような歌声、Steve Harris への憧憬が愛しいベース捌き、疾走するツインリードに Jens Johansson 印の眩いキーボード。”Make Power Metal Great Again” を掲げる彼らの眼差しには、パワー・メタル・マニアックスが求めるものすべてが克明に映し出されているのです。
「大学で民族音楽学を専攻していたとき、ゼミで日本の芸術音楽について研究していたんだけど、日本人がフィンランドのアーティストをどう受け止めているか、フィンランドのメディアがフィンランドのアーティストの日本公演をどう報じているかについても研究したんだ。そう考えると、日本についてのアルバムを作るのはとても自然なことだったと思う」
そうして METAL DE FACTO は、パワー・メタルという暗い現実を薙ぎ払うファンタジーにも好きを貫きます。テーマに選んだ天照大神、赤穂浪士、元寇。それは、Esa Orjatsalo が人生で憧れ続けた日本の歴史や神話そのもの。そうして彼らは “Land of the Rising Sun” “日出る国” と第打ったアルバムで、愛する日本とパワー・メタルの今の姿を重ねます。沈んだ太陽。しかし日はまた必ず昇る。そう、権力や多数派に惑わされず、私たちが好きを貫き続ければ。可能性を信じ続ければ。
今回弊誌では、Esa Orjatsalo にインタビューを行うことができました。「”社畜”。この歌は、権力を得るために会社(または主人)に人生を捧げ、大成功を収めたものの、心の中は空虚で、権力なしで人生がシンプルだった時代を懐かしむ人の物語だからね。また、この曲には、何を望むかには注意しなさい、それは実際に望むものではないかもしれないというより普遍的なテーマもあるんだよ」 どうぞ!!

METAL DE FACTO “LAND OF THE RISING SUN PT.1” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【VALKEAT : FIREBORN】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MIIKKA VIRTAPURO OF VALKEAT !!

“For Us As Artists It’s Important To Do Something New And Fresh, And Not Only Redo Stuff That People Have Already Done. We Want To Expand The Map Of Kantele Music And Metal Music.”

DISC REVIEW “FIREBORN”

「僕たちはパイオニアとして、人々がこれまでに聴いたことのないような新しいカンテレ・ミュージックを作りたかったんだ。僕たちアーティストにとって重要なのは、何か新しく新鮮なことをすることであって、すでに人々がやっていることをやり直すことではない。いわば、カンテレ・ミュージックとメタル・ミュージックの地図を広げたいんだよ」
古くはジャン・シベリウスが、メタル世界では AMORPHIS が、フィンランドの民間伝承から生み出された国民的叙事詩カレワラをインスピレーションとして音楽を創造し、彼の地の空気、風景、文化、そして人の有り様を伝えてきました。カレワ族の勇士たちの物語が、フィンランドのロシアからの独立を強く後押ししたことを述べるまでもなく、カレワラはフィンランドの心であり、そこから生まれた伝統楽器カンテレはフィンランドの音であり続けています。
そう、AMORPHIS の楽曲にもあるように、カンテレはフィンランドの音であり、ヘヴィ・メタルも当然、フィンランドを代表する音楽です。ゆえに、VALKEAT はその両者をより太い糸で結び付けようと思い立ちました。そうやって彼らは、カンテレの地図も、メタルの地図も広げながら、フィンランド音楽のアンバサダーとして世界に羽ばたいていくのです。
「カンテレは、フィンランドが誇る国民的楽器だ。日本の琴のようなものといえばいいかな。そして、カンテレは琴と同じように、僕らが創造するどんな音楽にも合うんだ!」
実際、カンテレは想像以上にメタルとの相性が良さそうです。もちろん、その蜜月は VALKEAT の類稀なるコンポジションの妙あってこそ。”Fireborn” は非常に複雑で多層的なアルバムで、リスナーをフィンランドのモダン・フォークとシンフォニック・メタルの新時代へと同時に導く灯台ののような輝きを纏っています。
「サンポのストーリーは、それを持つ者に無限の富を生み出す機械、誰が持とうと永遠の富を生み出すのさ。だから僕たちは、サンポの音楽版のような、それを聴く人に比喩的に “富” を生み出すものを作りたかった。サンポは火で鍛えられたものだから、このアルバムを “Fireborn” “火から生まれしもの” と呼ぶことにしたんだ」
“Fireborn” はカレワラに登場する、所有する者に永遠の富をもたらす機械、サンポにちなんで名付けられました。そうして、壮大なフィンランドとメタルの物語の偉大な伝統を受け継いだアルバムには、崇高な賛美歌、荘厳な歌声、フォーク・メタルの陽気さと原始的なメロディー、異教の精神が詰まっていて、そもそもカンテレがあるべくしてあるよう巧みに設計されています。
非常にダークでアグレッシブな冒頭の “My Crown” で、フィンランド人の深層心理を掘り下げた彼らは、リリックでは精神の最も暗い部分に踏み込み、音楽ではストリングスとブラスのオーケストラを吹き込んでいきました。サーミの人たちの素晴らしい文化に敬意を表した儀式的な “Moraš”、フィンランドのバンドのメランコリックでフォーキーな側面にフォーカスした “Swan Song” でも北欧の色と音を伝えながら、リスナーに無限の富であるカタルシスを与え続けます。
まさにフィンランドへのラブレターとなった涼やかなアルバム。今回弊誌では、ボーカリスト Miikka Virtapuro にインタビューを行うことができました。「僕たちは CHILDREN OF BODOM と同じ地域の出身で、実は Alexi は僕と同じ学校のちょうど10年先輩なんだよ。もちろん、あれほどの才能が若くして亡くなるなんて、とても悲しいニュースだったな…」 どうぞ!!

VALKEAT “FIREBORN” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THY ROW : UNCHAINED】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MIKAEL SALO OF THY ROW !!

“What Always Drew Me Into Japanese Music Was The Melodies – I Feel That Japanese Metal Bands Always Keep The Focus On The Melody, Like a Redline Running Through The Song. This Is Extremely Important To Me Also In My Own Music.”

DISC REVIEW “UNCHAINED”

「僕が日本の音楽に惹かれたのは、メロディーなんだ。日本のメタル・バンドは、曲の中を走る赤い線のように、常にメロディーに焦点を当てていると感じるよ。これは、僕自身の音楽においても非常に重要なことなんだ」
才能溢れる多くのバンドを抱えながら、さながら鎖国のように世界への輸出を拒んできた日本の音楽世界。イメージや言語、そして理解されない珠玉メロディーなどその理由はさまざまでしたが、近年はそんな負の連鎖から解き放たれつつあります。アニメやゲームといった日本のコンテンツが抱擁されるにつれて、永久凍土に見えた音の壁が緩やかに溶け始めたのかもしれません。そして、フィンランドの THY ROW は衝撃のデビュー・アルバム “Unchained” において、日本の音楽が持つクリエイティブな可能性とその影響を惜しみなく解放しています。
「歌を録音することはとても負担が大きく、感情的なプロセスで、歌い終えた後はいつも疲れてしまう。でも、もし誰かの心をどこかに動かし、その曲の意味やストーリーを感じてもらうことができたら、ボーカリストとしての目標は達成できたと思うんだよ」
枚方に一年間留学し、日本語や日本文化、そして感情の機微を胸いっぱいに吸い込んだボーカリスト Mikael Salo は、THY ROW の音楽へと日本の空気を思い切り吐き出しました。
坂本英三、森川之雄。こぶしの効いた浪花節を思わせる、すべてが熱く “Too Much” な二人の歌声は Mikael の心を動かし、憑依し、アルバムに感情の津波を引き起こすことになりました。おそらくは、ANTHEM がこれまで世界にあまり受けいれられなかったのも二人の歌唱が、メロディーが、きっとあまりに “日本的” だったからで、その部分が雪解けとなった20年代では、Mika のようなユーロと日本のハイブリッドの登場もある意味では当然でしょう。ANTHEM は何十年も、ただ最高のメタルを作り続けているのですから。
「”Burn My Heart” や “Destiny” は完璧なパワー・メタルだけど、”Still Loving You” や “Destinations”のような曲は、彼らのスタイルの多様性を示していて、息を呑むような音楽性によってパワー・メタルの曲作りのルールを曲げているよね。驚きだよ!」
THY ROW に影響を与えた日本の音楽は ANTHEM だけではありません。GALNERYUS や X JAPAN の “パワー・メタル” の枠だけには収まらない千変万化の作曲術も、THY ROW にとって不可欠な養音となりました。そうして彼らは、ロックとメタルの境界線の間でバランスを取りながら、メロディーに重点を置き、時折ラジカルなギターソロとマジカルな展開を交え、ビッグなコーラスによって感染力の高い楽曲を完成させてきたのです。
「制作面では、ミキシング・エンジニアの Jussi Kraft(Starkraft Studio)と一緒に、AVENGED SEVENFOLD のアルバム “Hail To The King” を参考にしたんだよね。音楽的には、モダンな影響ならブラジルのバンド ALMAH や、アメリカのバンド ADRENALINE MOB みたいなバンドが思い浮かぶね」
重要なのは、彼らが過去の亡霊に囚われてはいないこと。手数の多いドラムの騒然は MASTODON の嗎に似て、耳を惹くオルタナティブなフレーズは INCUBUS の異端にも似て、クランチーなリフワークとサウンドは QOTSA のエナジーにも似て、THY ROW の音楽を80年代と20年代の狭間に力強く漂わせるのです。冒頭、”Road Goes On” や “The Round” といった真のアンセムを誇示する一方で、アルツハイマーをテーマとしたダークでプログレッシブな “The Downfall” 三部作でアルバムを閉める構成力も素晴らしいですね。
今回弊誌では、Mikael Salo にインタビューを行うことができました。「当時、間抜けなティーン・エイジャーだった僕は、兄にかなり失礼な質問をしてしまったんだよね。”ヘヴィ・メタルって、ドラッグをやったり、タトゥーを入れたりしている人たちのものじゃないの?”って。でも賢明な兄はこう答えたんだ。”そんなことはないよ、美しくて情熱的な音楽だから、ぜひチェックしてみて!”」THY ROW の音楽も十二分に美しく、そして情熱的です。どうぞ!!

THY ROW “UNCHAINED” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【OCEANHOARSE : DEAD RECKONING】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BEN VARON OF OCEANHOARSE !!

“We Just Want The Live Shows To Be LIVE, With No Backing Tracks. I’m So Tired Of Going To See a Band In Concert, And Having 50% Of The Music Come From Laptops Instead Of The Musicians. Fuck That!”

DISC REVIEW “DEAD RECKONING”

「バンドのコンサートを見に行って、音楽の50%がミュージシャンではなくラップトップから流れてくるのにはうんざりしているんだ。そんなことはどうでもいい。バンドがどのように曲をアレンジしているのか、アルバムバージョンとは多少違っていても、ステージ上でうまくいくようにしているのかを見てみたいんだから」
Pro Tool, アンプ・シュミレーター、ラップトップ。テクノロジーの進化によって、”コンピューターのメタル” は今や当たり前の存在となっています。そうして、Djent ムーブメントが象徴するように、シンセサイザーと機械的なギターワークを組み合わせた近未来の音景色はつい最近まで最先端であり、ステージでもコンピューターの恩恵を受けた未来色のサウンドが定着するようになったのです。
「シンセは別のバンドにとっては素晴らしいものだろうけど、僕たちの音楽には合わないと思っていてね。僕たちは、ドラム、ベース、ギター1本とボーカルだけで、できるだけ多くのパワーと音楽性を伝えようとしているんだ。Djent は僕たちの好みじゃないんだよ」
ただし、時代は巡ります。アレンジの妙、インプロビゼーション、テクニックのイノベーションもなく、コンピューター制御でアルバムと全く同じサウンドを再現するステージにフィンランドのスーパー・グループは真っ向から疑問を呈します。
惜しくも解散した AMORAL のギター・ヒーロー Ben Varon を中心に、WARMEN の Jyli Helko, 元 NAILD COIL の Joonas Kosonen と実際に “演れる” メンバーを揃えた OCEANHOARSE は文字通り海馬のごとく完全に “生” のメタル・サウンドでテクノロジーの海を切り裂いていくのです。
「GOJIRA からの影響は、PANTERA, TOOL, ALICE IN CHAINS, MASTODON, METALLICA, IRON MAIDEN, MEGADETH, DEFTONES, AVENGED SEVENFOLD なんかと混ざりながらあちこちに現れていると思うよ」
エネルギッシュかつパワフルでありながら、モダンなテクノロジーやアトモスフィアとは一線を画す音景色。彼らの中で一つ、GOJIRA のやり方がヒントとなったのは確かでしょう。GOJIRA はたしかにその創造性をマグマのように噴き出しますが、実に様々な音楽の炎がコンパクトにキャッチーにまとめられて地上へと降り注ぎます。
AMORAL でギタリストとしての複雑怪奇な才能を存分に見せつけた Ben Varon ですが、あの “インモラル” なテクニックの殿堂においてさえ彼は Ari Koivunen という “歌い手” を欲してその音楽性までをも変遷させていきました。つまり、フィンランドの鬼才が “生の” メタルに潜む狂喜として次に目をつけたのが、”プログレッシブ・グルーヴ・メタル” に内包されるコンパクトなイヤー・キャンディーだったのです。
「AMORAL のテクニカルでプログレッシブな音楽に比べて、もう少し直接的な音楽にしたいと強く思っていたんだよね。僕たちは、大きなフックのある、よりキャッチーで短い曲を作りたかったんだ。ライブで盛り上がり、観客とバンドの間にエネルギーを生み出すような曲を作りたかったんだ」
本人は知らないと語っていますが、OCEANHOARSE を北欧が育んだメタルに特化した PROTEST THE HERO と定義すれば辻褄があうようにも思えます。断続的に騒々しいギターリフとドラム、メロディック・アグレッシブなボーカル、アップ・ビートでエネルギッシュな原動力の類いまれなる調和はカナダの至宝とその哲学を等しくしますが、AVENGED SEVENFOLD や CHILDREN OF BODOM のメタリックなイメージを胸いっぱいに抱きしめた OCEANHOARSE の前向きなカオスは、ある意味カオティック・ハードコアの並行世界とでも呼べるほどに斬新で刺激的だと言えるでしょう。というよりも、PTH がハードコア方面からパワーメタルを見据えたとしたら、OCEANHOARSE は Nu-metal 方面からその勇壮を引き入れたと言うべきでしょうか。
それにしても、PTH のピロピロの代替として光り輝く Ben のシュレッド、そして 海坊主 Joonas のヒロイックな歌唱は確実に “Dead Reckoning” を別次元へと押し上げていますね。
今回弊誌では、Ben Varon にインタビューを行うことができました。「”Fields of Severed Dreams” という曲で、Alexi の古いJackson Rhoads で2つのソロを弾いていて、個人的に彼に敬意を表しているんだ。友人の Daniel Fryeberg がそのギターを所有していて(数年前に Alexi から買ったもの)、この曲のために貸してくれたんだよ」 どうぞ!!

OCEANHOARSE “DEAD RECKONING” 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【WHEEL : RESIDENT HUMAN】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SANTEI SAKSALA OF WHEEL !!

“Tool Is One Of The Greatest Bands Of All Times And Being Compared To Them Doesn’t Feel Bad At All. Being Their Successor Or Not, That Is For The People To Decide, We Will Just Keep Making Music!”

DISC REVIEW “RESIDENT HUMAN”

「WHEEL (車輪) という言葉が僕たちのアート制作のイデオロギー全体を表しているように感じたんだよね。それは、継続的でありながら、常に過去だけでなく未来にも目を向けているという意味でね。音楽においても、人生全般においても、新しい領域やアイデアを探求するムーブメントの象徴だからね。頻繁に出発点に戻ってくるけど、それでも僕たちは常に前に進んでいる」
技術の進歩により、音楽はお手軽に作られ、お手軽に聴かれる時代になりました。制作にもリスニングにも異様な労力を消費するプログレッシブ・ミュージックは、いまや風前の灯火です。
かつて世界を作ったプログ・ロックの巨人たちは次々に鬼籍へと入り、労力以上の見返りなど得られるはずもない現状に新規参入者、新たなリリースは目に見えて減っています。そんな中、フィンランドの4人組 WHEEL には、”車輪の再発明” を通してエンジンを生み出すほどに前向きなエナジーと才能が備わっているようです。
「北欧のプログ・メタルと僕たちに共通しているのは、新しい領域を開拓し、自らの道を見つけようとする意欲があるところだと思う。だから当然だけど、WHEEL にとってインスピレーションの源となっているよ。例え、直接的な影響を受けたわけではないとしてもね。OPETH は独自の道を歩み、期待に屈しないことで音楽的な強さを見出した素晴らしいお手本だよ」
メロデスやヴァイキング・メタルが深く根差した北欧にも、OPETH, PAIN OF SALVATION, SOEN といったプログメタルの孤高は存在します。他とは違う道を歩む確固たる意志を胸に秘めつつ、やはりその背後には北欧の暗く美麗な空気を纏いながら。
TOOL の正当後継者と謳われる WHEEL にも、当然その血脈は受け継がれています。そうして彼らは、自らの “カレリアン・シチュー” に KARNIVOOL の知的なアトモスフィア、さらに青年期に影響を受けた SOUNDGARDEN や ALICE IN CHAINS の闇をふりかけ、コトコトと煮込んで熟成させたのです。
「僕たちは、作曲家として、ミュージシャンとして、そしてバンドとして、自分たちを成長させ続けたいと思っていたし、これまでにやったことのないことを今回もやりたかったんだ。”Moving Backwards” には満足しているけど、同じアルバムを繰り返し作ることはしたくなかったんだよ」
ただし、彼らは成功を収めたデビュー作 “Moving Backwards” の場所に留まり続けてはいません。WHEEL 2度目の旅路 “Resident Human” を聴けば、そのオーガニックで生々しいプロダクションに驚くはずです。そしてその変化は、そのまま Aki & Santeri が構築するリズムのパーカッシブな飛躍へと繋がりました。もちろん、その手法を取ることで彼らは、TOOL, RIVERSIDE, KATATONIA, DEAD SOUL TRIBE といった現代プログ変異種の影響を、より存分に咀嚼し、養分とすることが可能だったはずです。
さらに紐解けば、骨太でダイナミズムを重視したその音像は、RUSSIAN CIRCLES のようなポスト・メタルの鼓動ともシンクロし、奇しくも “プログ” “オルタナ” という同じ根を持つ DIZZY MIZZ LIZZY の最新作 “Alter Echo” の目指す先へと歩みを進めていきます。
「基本的には、何も声を上げないないのが最悪だと思っている。1枚のアルバムや1人のアーティストが、今の世界の仕組みを変えることはできないと思うけど、意見を発信するたびに少しは変化が生まれ、物事を良い方向に変えることができるはずだよ」
陰鬱な雰囲気が漂い、パーカッシブなエッジが際立ち、非常にシリアスなアルバムは、過去12カ月間に起こった出来事に大きな影響を受けています。パンデミック、BLM、気候変動。もう私たちは無関心な幸せのままではいられません。
“Resident Human” に収録されている7曲は、現代社会とそこに巣食う闇、分断に纏わる人の感情を的確に表現しています。”Dissipating” の怒りやフラストレーションも、”Hyperion” の親しみやすさも、”Old Earth” のメランコリーと後悔も。
今回弊誌では、ドラマーで中心人物 Santei Saksala にインタビューを行うことができました。「TOOL の後継者であるかどうか、それは人々が決めることで、僕たちはただ音楽を作り続けるだけだよ」 どうぞ!!

WHEEL “RESIDENT HUMAN” : 9.9/10

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IN MEMORY OF ALEXI LAIHO: PAINT THE SKY WITH BLOOD


IN MEMORY OF ALEXI LAIHO 

PAINT THE SKY WITH BLOOD

Randy Rhoads, Stevie Ray Vaughan, Dimebag Darrell、Chuck Schuldiner、Eddie Van Halen。世界はこれまで、6弦の英雄たちに何度悲しみの別れを告げたでしょう。その夭折のリストに Alexi Laiho までが加わるとは、神様は非情で不公平です。いや、”死神” に魅入られてしまったと言うべきでしょうか。
何よりもまず、Alexi は現代のギターヒーローとしてメタル界の歴史に名を残すことになるでしょう。2009年には Guitar World 誌の読者投票で Best Metal Guitarist に選ばれました。ただし、彼は単なるシュレッダーではなく、メタルの最も暗く、最も極端な場所に、メロディーと華やかさを浸透させる誘惑の扉を開く先見の明もありました。CHILDREN OF BODOM で彼は、前人未到のジャンルの実験、ブラック・メタル、パワー・メタル、メロデス、クラシカル、スラッシュのフラスコを華麗なリードと “ファックユー” のアティテュードで煮詰め、将来のプレイヤーとなるべき世代にインスピレーションを与え続けたのです。SVALBARD の Serena Cherryの言葉は正鵠を得ています。
「ギタープレイをスポーツのように扱うギタリストがいるけど、Alexi はスピードと正確さを持ち合わせているだけでなく、彼の声が演奏に含まれていたの。 個人的には知らない人でも、ギターの演奏を聴いているうちに、その人のことを知っているように感じることがある。私の場合、Alexi がそうだったわ。ステージ上で弾くすべてのソロから、彼の個性がにじみ出ているのを感じたの」
Nita Starauss も同様に Alexi を崇めていた一人です。
「私は Vai や Satriani のシリアスなギタープレイにもハマっていたけど、ヘヴィーな音楽も好きだったの。だから、CHILDREN OF BODOM は両者の完璧な架け橋だったわ。キーボードとギターのハーモニーは、今でも私のソングライティングに大きな影響を与えているの。何より、ヘヴィーで、ブルータルで、それでも楽しいでしょ?そのやり方を真似しようとしているんだけど、誰も彼より上手くはやれないわね」
TRIVIUM の Matt Heafey にとって Alexi は完璧なギターヒーローでした。
「”Something Wild”, “Hatebreeder”, “Follow the Reaper” がなければ TRIVIUM の音楽性は変わっていただろう。さみしくなるよ、Alexi…」
DRAGONFORCE の Herman Li にとっては、素晴らしいライバルだったようです。
「モンスターのようなギタープレイと素晴らしい才能で、メタル世界に信じられないプレゼントを贈り続けたね。俺の世代では、最高のギタリストだと思い続けてきたよ。アプローチもアティテュードも最高だった」
Gus.G がはじめて雑誌の表紙を飾ったのは、日本の Young Guitar 誌で、Alexi と一緒でした。
「俺の世代最高のギタリストの1人。あの写真はよく覚えている。はじめての雑誌の表紙だったから。お互い ESP のギターを使っていたから、それからもよく交流していた。彼の新しいバンドを楽しみにしていたのに…」
あの Dave Mustaine にまで一目置かれていました。
「何度も一緒にツアーをやったな。素晴らしい才能の持ち主だったよ」

フィンランドのメロディック・デスメタル・バンド、CHILDREN OF BODOM のギタリスト兼ボーカリストだった Alexi は、2020年12月29日にフィンランドのヘルシンキにある自宅で亡くなりました。
41歳になった “ワイルド・チャイルド” は、人生の最後の数年間、長期的な健康問題に悩まされていました。SINERGY のバンドメイトで、死亡時の法的な妻であった Kimberly Gossは、Alexi の死因を “アルコールによる肝臓と膵臓の結合組織の変性” であったと明らかにし、救えた命だったと嘆きました。中毒という悪魔によって、以後彼のような才能を奪われることがないようにと心から願いながら。
「私の真の初恋の人。バンド仲間で親友でもあった。このパンデミックの中での光明は、一緒に過ごす時間の質の高さを得られたこと。私たちのマラソンのような FaceTime での通話、昼夜を問わず延々と続くテキストメッセージや電話は、永遠に私の心に残ることでしょう。
ステージの上でも外でも、一緒に過ごした人生を振り返ることができたこと、そして何年も変わらない友情を大切にすることができたという事実に、私はとても慰められているわ。
アリュー、私の心は満たされていると同時に傷ついているの。これほど長く豊かな歴史を持っている友について、何も語らないままでいられる人はそうそういないでしょう。あなたは私に安らぎを与えてくれたし、あなたの疲れた体がついに限界を迎えるまでの数ヶ月間、数週間の間、私の後悔の念をゼロにしてくれたわ。本当にありがとう。そしてこれからもずっとずっと愛しているわ。
あなたと Tommy (2012年に亡くなった元 SINERGY のドラマー) が天国で再び一緒になって、喜びと笑い声が聞こえてくるのが眼に浮かぶわ。
あなたを知り、愛していた私たちの心の中にあなたはいつまでも残り、あなたの遺産は、世界に祝福を与えた音楽の中で永遠に生き続けるでしょう。
目を閉じて、わたしのダーリン。ようやく安らかな眠りにつけたのよ。愛しているわ」

アーティストとしての Alexi の歴史は、幼馴染みである Jaska Raatikainen と INEARTHED というグループを結成した90年代中盤まで遡ります。INEARTHED は、CHILDREN OF BODOM に改名し、Spinefarm Records と契約するまでに3本のデモテープを録音していました。
当時の彼らを表現する一文に「時速100万マイルのパワーコードと、スウィープ・アルペジオ、ヴァイにインスパイアされたテクニック、そして感染力のあるリードを組み合わせた、ブルータルでありながら、メロディックで複雑なサウンド」とありますが、実に的を得た一文だと言えるでしょう。誰もが、疑いもなく、次世代のギターヒーローが登場したと確信したはずです。
「10歳のときにMTVを見ていたら、Steve Vai の “For the Love of God” のビデオが流れてきた。その時、俺は絶対にギターを始めなきゃならないと思ったんだ」
Alexi Laiho は、1979年4月8日、フィンランドのエスポーで Markku Uula Aleksi Laiho として生まれました。彼は幼い頃から天才の兆しを見せていて、4歳で父の聴く DIRE STRAITS で天職を悟りながら、5歳でバイオリンを習いはじめ、少年時代は主にクラシック音楽を聴いて過ごしました。そんな少年に神 Steve Vai は舞い降り、メタルという宗教に目覚め改宗するきっかけを与えたのです。
Alexi が11歳のとき、初めて父親がギターを買ってくれました。それは Tokai (トーカイ) の白いストラトタイプでした。ヘア・メタルの妙技に夢中になった彼は、Randy Rhoads, Jake E. Lee, Zakk Wylde といった達人の真似事をはじめました。
「いいギターだった。毎日、学校から走って帰ってきては、親に殴られそうになりながら、寝るまで弾いていたんだから」
高校時代、ギターへの執着をさらに強めた Alexi は、最終的には授業を休んで家で薪割りをしつつ、メタルやシュレッドのテクニックを教則ビデオから独学で学んでいったのです。
「何かを犠牲にしなければならなかった。俺にとってそれは学校だったんだ。母は僕が高校を卒業できないことを知っていたよ。でも、夢中になっていることで成功するように手助けしてくれたんだ」

Alexi は友人でドラムの Jaska と2人でジャムをしながら、後に INEARTHED、そして CHILDREN OF BODOM となる異形の基礎を作っていきました。ベルギーのレーベルと契約しましたが、よりビッグな Spinefarm Records が INEARTHED に興味を持ち、望ましい契約を申し出ました。ベルギーのレーベルとの契約から逃れるために、彼らは INEARTHED が解散してアルバムを出せなくなったとレーベルに伝えたのです。
そうしてフリーエージェントとなった彼らは、CHILDREN OF BODOM という新しい名前で “再結成” し、Spinefarm と契約を結びます。その契約は、Alexi とCOB のメンバーにすぐさま大きな変化をもたらしました。
バンドは1997年11月にデビューアルバム “Something Wild”を発表。アルバムを引っさげてツアーを行い、地元以外でも人気を高めることに成功します。熱狂的なソロ、壮大なシンフォニー、騒々しいコーラスがアドレナリンを爆発させる音楽。当時のトレンドとは真逆の、楽しく、必死で、まだ無名だったギタリストのやりたいことがすべて詰まったサウンド。トレンドやファッションに中指を立て、シーンの限界を拒んだのです。
「俺たちは本当に小さなアンダーグラウンド・メタルの世界にいたけど、そこで俺は間違いなく最高のギタリストだった。誰のケツでも蹴ることができたし、それが評価されたんだ」
一方で、ベーシスト Henkka Seppälä は COB の未来を信じられずにいました。
「自分たちのやっていることは本当に好きだったけど、同時に 、自分たちは何者なんだろう?この音楽は何なんだ?と思っていたんだ。大げさではなく、これは誰の趣味にも合わないものだと確信していたんだよね。でも Alexi は “Something Wild” のレコーディングが終わったとき、マスターCDをプリントしてそこにこう書いたんだ。”未来のゴールドセラー・アルバム”とね (笑)。もちろん、彼は冗談を言っていたんだけど。運が良ければ数百枚は売れるだろうと思っていたけど、10年後には実際にゴールドを獲得したんだ」
Alexi 自身はこの作品をこう評します。
「”Deadnight Warrior” と “Lake Bodom” …これらは実際に良い曲だったけど、それ以外は素晴らしいリフ上で俺が卑猥な言葉を叫んでいるだけだった。何も計画していなかったからね」


HYPOCPISY と COVENANT とのツアーでは、Alexi が少年時代にMTVで見たような、野性的なロックンロールのライフスタイルを実践していきました。
「タダでお酒が飲めるところなんてはじめてだった。あれは最高だったな。他のバンドと一緒に大きなバスに乗って、とても楽しい時間を過ごしたよ。彼らは、俺たちが演奏やパーティーのやり方を知っていることを確認すると、すぐに受け入れてくれたね」
1997年の10月、CHILDREN OF BODOM は DIMMU BORGIR ヘルシンキ公演で前座を務めました。DIMMU BORGIR は3枚目のアルバム “Ensrone Darkness Triumphant” をリリースしたばかりの大物で、会場となる “Lepakko” はロック界では伝説的な存在。Silenoz は当時のことを鮮明におぼえています。
「楽屋からオープニングバンドの演奏が聞こえてきた。Yngwie Malmsteen のような光速のサウンドだったよ。俺たちは外に飛び出し、その光景を見て、口を開いたまま立ち尽くしてしまった…」
1997年に Alexi と SINERGY を結成し、2002年に結婚することとなる Kimberly Goss はそのとき、DIMMU BORGIR のキーボード奏者でした。当時を振り返ります。
「私たちには秘密の言語があったのよ。1998年、一緒にエストニアに行ったとき、私たちは効果音、セリフも含めて “バック・トゥ・ザ・フューチャー” 一作目の言葉ですべて話していたの」

“Something Wild” をリリースした後、CHILDREN OF BODOM はさらに人気を高め、アンダーグラウンドにおけるメロディック・デスメタルの代表的な存在となりました。Alexi が鋭利な ESP ギターで刻んだ、高速難解なリフワークと目にも止まらぬトリッキーかつクラシカルなリードはバンドの代名詞として定着。
フィンランドのメタルは、90年代後半ルネッサンスの真っ只中にあり、HIM, SONATA ARCTICA, APOCALYPTICA, NIGHTWISH といったバンドが脚光を浴びはじめます。一方の COB は、ブレイクするまでに数年を要します。セカンド・アルバム “Hatebreeder”、日本でおそらく一番人気の “Follow The Reaper” は、”Something Wild” に盛り込まれたアイデアを基により洗練された楽曲を提示しましたが、フィンランドで1位を獲得しメタル界全体が注目するきっかけとなったのは、2003年の “Hate Crew Deathroll” でした。その年、彼ら”Finnish Metal Music Awards” で “Metal Band Of The Year” に選ばれ、ヨーロッパや日本でもヘッドライナーとして活躍することになります。最も重要なことは、NEVERMERE, HYPOCRISY, DIMMU BORGIR と共に、ついに初の米国ツアーへ名乗りを上げたことでしょう。

「このアルバムは、俺たちがようやく自分たちの道とスタイルを見つけた作品さ。それまでの俺たちは、ちょっとあちこちに行くような感じだったからね。自分たちが何をしたいのか探しているようなものだった。そして、”Hate Crew” でようやくそれを掴むことができたんだ。CHILDREN OF BODOM にとって最も重要なアルバムであるだけでなく、間違いなく最高のアルバムの一つだね。多くの人にとって、COBの最も好きなアルバムであり、それを責めるつもりはまったくないよ。自分で言うのもなんだけど、すごくいいアルバムだから。振り返って聴いてみると、ヤバいな、俺たち。こんな凄いアルバムを作ったんだ!ってなるからね」
アルバムのタイトルは Alexi お得意の邪悪なジョークの一つ。
「”Hate Crew “は、”CHILDREN OF BODOM “の別の言い方だ。COB のヘイトクルーは、常にギャングの側面を持っているからな。”Deathroll” は好きなように解釈してくれよ。戦争になると、必ず “死亡者リスト” が出てくる。また、これから殺したい人や、すでに殺した人のリストということもできる。みんなが自分で考えてそれを作ればいいんだよ」

2005年にリリースされた “Are You Dead Yet?” は、彼らをさらにレベルアップさせました。そして、遂に地球上で最もビッグなメタルバンドの1つ SLAYER が声をかけてきたのです。2006年の “The Unholy Alliance Tour” に招待されたのです。Kerry King は当時を懐かしみます。
「”Are You Dead Yet? “は、彼らのアルバムの中でも最も好きなアルバムだった。当時から、ヤツは未来だ、次のギターヒーローだと思っていたよ。見ていて『クソッ!』と思うような、努力を惜しまない人間なんだ。俺が一日中練習しているのに、まったく敵わねえと思ってしまうようなね」
LAMB OF GOD や MASTODON と並ぶ強力なラインナップに加わった CHILDREN OF BODOM は、ライブという戦場で果敢に SLAYER に挑みました。Kingも認めています。
「彼らは成功していたよ。俺は、惨敗したヤツらを見てきたからな。
彼らのセットリストはヘヴィーなもので、それは俺たちのオープニングとしては賢明なことだった。見ていて楽しいし、Alexi はギターの神様だったよ」
ツアーを振り返って、Henkka は Alexi を「パーティーを始めた人」「友達を作るのが上手い人」と表現します。それまで自分がアイドルだと思っていたバンドと一緒に行動することにも臆することはありませんでした。
「多くの人は、Kerry と一緒にイェーガーを飲み始めるというトリックに陥る。Kerry は大きな耐性を持っているのにね (笑) Alexi が Kerry の部屋から運び出された夜もたくさんあったよ。”ヘイトクルー” のメンバーになりたい人は、ツアーバスのバックラウンジに来て、裸になって逆立ちをしなければならないという儀式があった。そして口にウイスキーを注ぐんだけど、必ず鼻に入ってしまうんだよ(笑) 少なくとも Randy Brythe はその後、タトゥーを入れたから、儀式をやって公式にヘイトクルーになったはずだよ(笑)」

MASTODON のドラマー/シンガー Brann Dailor はこのツアーが基本的にサマーキャンプだったと言います。
「COB のメンバーはウォッカを何ケースかもらうはずだったんだけど失敗してラム酒をもらってきた。彼らは、「もういいや、ミキサーを買おう」と言っていたね。全員が休暇中のような帽子をかぶり、バスの中でラム酒のブレンドドリンクを作ったんだ。バスの中は、まるでステロイドを使った MOTLEY CRUE 82年版のようでね。彼らが聴いていたのは80年代のヘア・メタルばかり。SKID ROW や WINGER だよ。俺は、「もうこのバスから降りなければ!なあ、BON JOVI はもう聴きたくないよ、みんな!」って感じさ」
時おり見せる邪悪なユーモアも、やはり Alexi の魅力でした。
「ブリットポップのクソ、OASIS…あんなものは大嫌いだ。PEARL JAM のように、音楽が泣き言や不平不満に聞こえるようなバンドもね。あのボーカルの声には、かなりイライラさせられるね」また、Britney Spears の “Oops!… I Did It Again” や Bananarama 1984年のヒット曲 “Cruel Summer” をカバーすることで、メタル純粋主義者を愚弄することに喜びを感じているようでもありました。
“Hate Crew Deathroll”(2003), “Are You Dead Yet?” (2005), の成功により、CHILDREN OF BODOM はエクストリーム・メタル界にその名を轟かせ、Alexi は念願の国際的な評価を得ることになりました。
Alexi を知る人たちは、彼のことを物腰の柔らかい穏やかな心と、無謀で自発的な一面を併せ持つ、周囲の誰よりもパーティーを盛り上げる “ワイルド・チャイルド”と表現しています。
「彼の芸術は残忍で攻撃的だったけど、それは猛烈で大きな心を持った優しい男の一面に過ぎなかった。俺にはいない、兄のような存在だっよ」と語るのは、RECKLESS LOVE のフロントマンで、グラムロックのトリビュートアクト THE LOCAL BAND で Alexi と共にプレイした Olli Herman。

しかし、バンドが世界的な成功を収めたことで、皮肉にも Alexi はその成功を保つためのプレッシャーから自己破壊的な行動へ走るようになり、才能多き若きエースは多大なダメージを肉体や精神に蓄積していくこととなります。
“Are You Dead Yet?” は、COB にとってメインストリームへの最も大胆な挑戦であり、バンドの知名度を高めたにもかかわらず、ファンからは様々な反応がありました。2008年には “Blooddrunk” を発表。このレコードは COB の成長が停滞しているという印象を払拭するためには不十分な作品でした。さらに、Alexiの健康状態が懸念され、出演をキャンセルするケースが相次ぎます。
Alexi のキャリアは約25年に及びますが、その間、孤独なギターヒーローはドラッグやアルコール、うつ病と常に戦っていました。それらの悪魔が原因で、北欧のネオクラシストはあまりにも多くの恐怖を経験し、骨を折り、病院へ担ぎ込まれています。1998年末、19歳の Alexi は、30種類の精神安定剤と数杯のウイスキーを摂取してゆるやかな自殺を図っています。
「子供時代は大丈夫だったけど、17歳くらいになると頭がかなりおかしくなっていった。友人が床に倒れている俺を見つけ、病院に連れて行ってくれたんだ。俺は決して良い状態ではなかった」と2005年に語ったように。強まる自殺願望。その一件は単なる始まりに過ぎませんでした。
「どんどん気分が悪くなっていった。薬を飲んでから数年後、精神的に完全に参ってしまい、1週間ほど入院したことがある。それが3度目の入院だった。人生で最悪の気分だったよ」
危険な状況はエスカレートしていきました。2006年、”ワイルドチャイルド” は、酒に酔って車の上から転落し、手首を骨折。修理が必要なのは彼の腕でした。
「友達がボーリングをしていて、ホワイトロシアを飲んでいたんだ。ストライクが出て、俺はちょっとしたダンスか何かをやったんだけど、酔っ払っていたから滑ってしまった。何かの拍子に逆さまになって、左肩に着地したんだ。最初はみんな笑っていたし、俺も笑っていた。すると突然、肩が大きく腫れ上がり、腕を骨折したことを知ったんだ」

骨折の回復は決して早いものではありませんでした。骨が正常に治癒していないため、6週間にわたって左腕はスリングで固定され、その後は演奏できるようになるまで数ヶ月間、厳しい理学療法を受ける必要がありました。ギタリストにとっては気が重くなるような出来事でした。さらに運が悪いことに、崇拝していたギタリストZakk Wylde, Steve Vai と一緒に Guitar World 誌の表紙を飾る予定がありました。
「正気の沙汰じゃなかった。断ることができなかったから、腕にギブスをして、目の周りをきれいにしてもらったんだ。もうあんな経験はこりごりだよ。まあ、ボウリングや酒はやめていないけどね。でも、もう十分に自分の体を壊したよ。骨折もしたしね」
Zakk Wylde は、その思い出に苦笑します。
「彼がギブスをしていたのを覚えているよ。まるで結婚式の準備をしている女の子のようで、人生最大の日なのに、結婚式の写真を撮る時に腕が折れて目が黒くなっているようだった。面白かったよ。最高だった」
不幸なことに、ボーリング以外にも体への負担は続きます。2年後、COB のツアーバスで運転手が急カーブを切ったとき、寝台から投げ出されて肩を骨折したのです。この事故は飲酒が原因ではありませんでしたが、年齢のわりに Alexi の体がますます脆くなっていたことを示唆しています。
Alexi は、これらの出来事によって、自分の体がダメージを受けていることを十分に認識していましたが、おそらく最も大きな衝撃は、2011年カリフォルニア州アナハイムで開催されたNAMMコンベンションでの体調悪化です。二日酔いのせいだと思って様子を見ていましたが、出血と嘔吐は9時間も続きました。病院では医師から驚くべき診断を受けました。
「潰瘍ができていて、かなりひどかった。内臓を吐いていて、それが止まらなかったんだよ。吐き続けて、まったく我慢できなかった。4日ほど入院しなければならなかったね。水分補給のために大量の点滴を受けたよ。史上最悪の事態だった。本当だよ」

幸運にもこの時は生き延びることができましたが、Alexi はハードなパーティーと中毒という悪魔にツケを払う必要を実感していました。
「胃に永久的なダメージはないと言われたけど、解毒して過度な飲酒の習慣から抜け出さなければならなかった。毎日ウイスキーを5杯も飲む必要はないと思ったね」
入院したからといって、Alexi が自分のやり方を完全に変えることはありませんでした。
「入院したのはいいことだったよ。退院してからはあまり飲んでいない。ビールを数本飲む程度だ。あちこちでビールを飲むくらいで、ハードな酒は完全にやめた。ショットを飲むなんて考えたくもないね。永遠にやめるというわけではないよ。ただ、今は考えていないだけだ。俺はいつも、困難な方法で物事を学ばなければならない運命なんだ。ただ、このままではいけない、もっと自分を大切にしなければならないと気づかされたね」
ANNIHILATOR の Jeff Waters は悔やみきれない様子です。
「Alexiとは最初から意気投合した。互いの演奏を愛してたから。最初はどうやって酒をやめたの?と助けを求めたけど、結局他の中毒者と同様酷い状態に戻り、俺に話しかけなくなった…でも心底ヤツは酒や薬と手を切ることを望んでたんだ。寂しいね…助けを求めるのは恥じゃないよ」
何年にもわたって、Alexi は自らのうつ病や音楽の背後にある精神的な混乱について、いつも率直に語ってきましたが、彼はしばしば、最も暗い瞬間を乗り越えさせてくれたのはバンドだと主張しましていました。
「何かを失うことを恐れるとしたら、ギターを弾くことが真っ先に思い浮かぶんだ」
2011年の “Relentless Reckless Forever”のインタビューでは、Alexi の精神状態が話題になりました。ただ、このアルバムは、2003年の “Hate Crew Deathroll” のように、鋭く、技術的に優れた作品になったと評価されただけでなく、フロントマンの状態もずっと良くなっていました。
「いつもと同じライフスタイルを続けることはできない 。朝、起きてからウイスキーを1本飲むこともできない。大げさだけど、いつの間にかかなりハードになっていて、それに気づかなかったんだ。人としてもミュージシャンとしても機能していたし、ショーを台無しにしたこともなかったけど、落ち着いて、自分を大切にしなければならないと気付いたんだ」

時に、Alexi はグループ内の不和をほのめかすこともあり、ギタリストの Roope Latvala には必要な「労働倫理」が欠けていると主張したこともありました。結局 Roope は2015年に COB を脱退し、バンド最後の作品 “Hexed” で後任 Daniel Freyberg の登場を予告したとき、Alexi はこう説明しています。
「俺たちの残りのメンバーは…子供の頃からお互いを知っている…20年間一緒にツアーを続けてみてみなよ。そうすれば、時には結婚生活のように、くだらないことで口論になってしまうこともあるということがわかるだろうね」
“Hexed” では “Follow The Reaper” で完成させたようなネオクラシカルな要素を再び取り入れましたが、より筋肉質になり、パンチの効いたクランチーなリフ、メロディックなバック・アレンジがよりシームレスに融合していました。批評家たちはこのアルバムを「ルーツへの回帰」と評しましたが、Alexi はその事実をいつものように軽妙に認めました。
「俺たちは何度もそこに戻っているように見えるけどね」
そうして CHILDREN OF BODOM は、Alexi がアナハイムの病院に入院した後もレコーディングやツアーを続け、後期の作品では若返りも感じられたもののバンドは2019年に解散を発表します。彼らの最後のライブは、12月15日のヘルシンキ・アイスホールでした。Henkka は昨日のことのように回想します。
「いつも通りのことをやった。ショーの前にはフィストバンプをして、ショーの後にはハグをして、また会おうと言ったよ。みんな喜んでいたし、気分も良かった。もちろん、もう二度と一緒に演奏することはないとわかっていたから、悲しい気持ちもあったけどやり遂げたんだ」

著作権の問題でCOBの名前を使い続けることができなかった Alexi は、新バンド BODOM AFTER MIDNIGHT を結成し、自身のキャリアの新たな章を始める準備を行います。2020年10月には、フィンランドで3回の小さなライブを行いました。COB時代からの盟友 Daniel は悲しげに語ります。
「Alexi はとてもオールドスクールな人物で、リフとメロディーだけもってスタジオにあらわれ、それをメンバーに見せて膨らませていくんだよ。そうやって、レコードを書き始めて、今年レコーディングして、2022年にリリースする予定だったんだけど、そうはならなかったんだ…彼はとても興奮していたよ。新たな意欲とモチベーションを持っていて、自分がまだ頑張れることを示したかったんだ」
「彼は小さなクラブでのライブをとても喜んでいたわ」と Kimberly も同意します。「彼は、派手さなんていらないと思っていたのよ。演奏はシャープで、歌も素晴らしく、新しいラインアップはキラー。彼は、あのライブがこの世に存在する最後の3つのライブになったことをとても誇りに思っているでしょうね。自分のルーツである小さなクラブ、素晴らしいエネルギー、新しいパワーに戻ったのだから。アルコール依存症や薬物乱用の問題で苦しんでいる人は助けを求めて。彼と同じ運命をたどる必要はないわ。誰かが手を差し伸べるのは愛情から。依存を助長するような人たちに囲まれないようにしてね。彼の死を無駄にしたくないの。だからAlexiを教訓に一人でも多くの命が救われればと願っているのよ」
BODOM AFTER MIDNIGHT に残した僅かなレコーディングの一つ、”Paint The Sky With Blood” は空を真っ赤に染める Alexi の新たな野望を象徴した楽曲でした。生き様でした。まさに遺音。メンバーは誇りを持って、再度獣を檻から放ちました。
「俺たちと同じように、Alexi もバンドの曲に熱中していたし、この曲を発表することを待ち望んでいた。だから、彼の願いを叶えることができて嬉しいね。言うまでもなく、俺たちは彼の最後の創造物の一部となれることを光栄に思い、誇りに思っている。Alexi の音楽、遺産、そして彼自身を称えるために、もう一度、獣を檻から解き放つ時が来たんだよ」
Alexi が無人島に持っていくレコードを聞かれたとき、「無人島でパーティーがあったときのために」と、Andrew WKの “I Get Wet” を選んだのは楽しい逸話でした。彼が今、どこにいようと、あのアルバムを大音量で聴いていることは間違いないでしょう。
最後に Alexi の言葉を置いておきましょう。
「賞や賛辞のためにこの仕事をしているわけではないんだよ。音楽のため、そして演奏することを愛するためにやっているんだ。それだけだ」

参考文献:GUITAR WORLD: THE LIFE AND TIMES OF ALEXI LAIHO

LOUDER SOUND:Alexi Laiho: the blazing life and wild times of a modern metal hero

NME:RIP, Children of Bodom’s Alexi Laiho: Finnish metalhead with a wicked sense of humour

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ORANSSI PAZUZU : MESTARIN KYNSI】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ONTTO & EVILL OF ORANSSI PAZUZU !!

“When I Say Progressive, I Mean That In The Literal Sense, Thinking About Music That Has The Idea Of Exploration At Heart. We Are Not Doing a Prog Tribute. Not Following Anyone Else’s Path, But Making Your Own Path.”

DISC REVIEW “MESTARIN KYNSI”

「僕たちにとって、プログレッシブとは1つのジャンルに誠実でいることではなく、ジャンルを旅して新たな音の次元へと進んでいくことなんだ。そして僕はプログの巨人たちが、当時同じようなアイデアを持っていたと確信しているんだよ。」
古の巨人とその探究心を共有するフィンランドの哲音家、サイケデリックブラックマスター ORANSSI PAZUZU。ジャンルを巡るバンドの旅路は最新作 “Mestarin Kynsi” (マスターの爪) において一際ブラックメタルの暗黒宇宙を飛び出し、プログレッシブ、クラウトロック、アシッドハウス、ジャズ、アヴァンギャルド、ミニマル、ノイズの星々を探訪する壮大なる狂気の音楽譚へと進化を遂げています。
「ORANSSI PAZUZU という名前は、僕たちの音楽に存在する二元的な性質を表すため選んだんだ。サイケデリックなサウンドと70年代スタイルのジャムベースなクラウトロックの探検を、ブラックメタルに取り入れたかったからね。」
艶やかなオレンジと魔神パズズ。二極化されたバンド名が象徴するように、ORANSSI PAZUZU は時にメタルという重力からも解放されて、不可思議なリズム感とポップな感性を備えつつ、神秘と悲惨の破片に溶け出す独特の審美世界を呼び起こします。
「ゲームのサウンドトラックからは間違いなく影響を受けているね。その風景やイベントを視覚化し参照することについては、バンド内で多くのコミュニケーションをとっているんだ。時には、特定のゲームのシーンについても言及しながらね。」
ファイナルファンタジーシリーズを手掛けた植松伸夫氏に多大な影響を受けたと語る Evill。実際、イタリアのホラーフィルムや UNIVERS ZERO の暗黒舞踏を想起させるオープナー “Ilmestys” (天啓) を聴けば、アルバムがシンセサイザーの深霧や電子の海へと乗り出したサウンドトラックの一面を湛えることに気づくはずです。当然、時にホーミーを思わせる Jun-His の表魔力と不協和のギターも音の映画化に一役買っていますが。
「確かにこのアルバムではたくさん異なることが起こっているよね。 ただ、できるだけ数多くの影響を詰め込むことが目標ではなかったんだ。」
SWANS の方法論でエクストリームメタルにアヴァンギャルド革命をもたらした2016年の “Värähtelijä” から、ORANSSI PAZUZU は「演奏する音楽という “結果” が “リーダー” で周りに存在するミュージシャンは、その “リーダー” という中心に仕える方法を考える」自らの流儀をさらに研ぎ澄まして完成された黒のシネマ、ラブクラフトのコズミックホラーを届けてくれました。
もちろん、”Tyhjyyden Sakramentti” に潜む CAN, DARKTHRONE, TANGERINE DREAM の複雑怪奇な共存、”Kuulen ääniä maan altar” に忍ばせた PERTURBATOR とのシンクロニシティー、さらにはサイケブラックに20世紀最高のミニマリスト Steve Reich, Philip Glass の創造性を混入させた奇跡 “Uusi teknokratia” など、ロックとメタルの歴史を網羅した歴史家、研究家の一面は健在です。
ただし Ontto の、「まずはアトモスフィアが湧いてきて、僕たちの目的はそれに従うことなんだ。組み込まれる様々なジャンルは、たいていの場合、音楽を望ましい方向に操作するための適切な道具だと考えているよ」 の言葉通り、最終的に ORANSSI PAZUZU の探究心、好奇心はジャンルという絵の具を一枚の絵画を想像を超える創造として仕上げるための道具として使用しているに過ぎません。
それはトワイライトゾーンとツインピークスの不気味を抽出してブレンドした、異次元のブラックホールと言えるのかもしれませんね。メタル世界、いや音楽世界自体が経験したことのない、魑魅魍魎、異形のサウンドスケープがここには存在するのです。
今回弊誌では、ベーシスト Ontto とキーボーディスト Evill にインタビューを行うことができました。「個人的に最初のビッグアイドルの1人は、ファイナルファンタジーサーガの音楽を創生した植松伸夫氏だったんだ。今でも彼のハーモニーやエモーションの素晴らしきアプローチに影響を受けていることに気づかされるね。”FF VII” は僕のエピカルで壮大な感覚が生まれた場所なんだ。」
ANEKDOTEN 以降の北欧プログとの共通項を見出すのも一興。MAGMA や MAYHEM の波動を抱く DARK BUDDAH RISING とのコラボレーション、WASTE OF SPACE ORCHESTRA もぜひ。どうぞ!!

ORANSSI PAZUZU “MESTARIN KYNSI” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【WALTARI : GLOBAL ROCK】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH KÄRTSY HATAKKA OF WALTARI !!

“Let’s Keep The Rock Tradition Alive And Reform It In a Brand New Way Suitable For 2020, And The People Living This Life Here And Now!”

DISC REVIEW “GLOBAL ROCK”

「スカンジナビアのバンドたちは、より幅広いスペクトルの音楽を聴くことで、メタルに “クレイジーさ” を加えていったんだ。そしてしばらくすると、突如として、”ポストファーストメタルタイム” のバンドたちは “ベーシックメタル” のバンドたちを後方に残し、素晴らしく花開いたんだ。」
メタルが多様なスペクトルに枝葉を伸ばし始めた90年代初頭、フィンランドから示現した WALTARI の千変万化でカメレオンの虹彩はまさにポストファーストメタルタイムの象徴でした。
同じアルバムは2枚作らないと語るように、WALTARI はレコードを通じて様々な冒険を行っていきました。”Yeah! Yeah! Die! Die” ではオーケストラとデス/スラッシュメタルの完璧なる邂逅を持たらし、”Space Avenue” ではエレクトロインダストリアルに振り切ったサウンドで周囲を圧倒。素晴らしき “Blood Sample”, “Release Date” といった近年の比較的、普遍なモダンメタルへと接近した作風の中にさえ、煌めくような驚きの瞬間は星の数ほど散りばめられているのですから。
「ロックの伝統を生かしながら、2020年に適した形でリフォームしようじゃないか、だって僕たちは今この時を生きているんだから!それこそがロックに活力を与え、僕たち全員にとって意味のあることなんだ。ロックのアティテュードとは、オープンマインドかつ予測不可能な純粋さだからね!」
あの眩しきメタル革命から30年。WALTARI の首領 Kärtsy Hatakka の主張は今でも一貫しています。端的に言えば温故知新のスピリット。伝統を守りながら時代に即した再構築を促し、自らが先頭に立って “オープンマインドで予測不能な” ロックの純粋なアティテュードを体現しているのです。
「実は、僕たちはいつも自らの音楽がとても “アニメ的” だと感じていたんだよ。だから、日本ツアーの後に Tomo を見つけることができたのはとても素晴らしい出来事だったね。何せ彼女はとても才能があるからね!」
自らの音楽を “アニメ的” と形容したのは、そのやはり予想不可能かつ非現実的な音の葉ゆえでしょうか。最新作 “Global Rock” には、日本のアーティスト Tomo Kataoka の手によるアニメ的なアートワークが採用されています。メンバーが輪になって、「世界各地の人々や伝統と繋がる」その青々としたイメージは、レコードのスピリットを完膚なきまでに反映しているのです。
既存の “ポストロック” のイメージとは遠く離れた、サウンドエフェクトと重低音のメロディックな邂逅、WALTARI 流 “Post Rock” で幕を開けるアルバムは、実際、メタルとロックを基盤にパンク、ファンク、テクノ、ポップ、ヒップホップ、カントリー、エスニックで世界を巡る旅路です。
“Metal Soul” で自らの出自とシュレッドのギター爆撃を敢行したバンドは、コンテンポラリーなヒップホップを抱きしめる “Skyline” や、Post Malone のオマージュと言及する “Boots” で Kärtsy 語るところの “ジェネリックポップ” が大多数のリスナーを惹きつける理由を探求していきます。それはまさしく音故知新。生き残るために再構築し、現代の水で磨きあげたロックのニューチャプター。BRING ME THE HORIZON の “Amo” を愛聴している事実も象徴的ですね。
一方で、FAITH NO MORE のオルタナティブをメタル的に解釈する “The Way” や “No Sacrifice”、カントリーとエクストリームミュージックの不可思議なキメラ “Orleans”、さらに CANNED HEAT のカバーまで、彼らはクロスオーバーの源流としてその誇らしき多様の旗を空高く掲げつつ、勇敢な音のメルティングポットを見せつけていくのです。
「この世界で生き残るためには、僕たち全員が力を合わせなければならないから。」厄災の時代に WALTARI は、奇しくも時空を超えて世界と音楽で繋がりました。
「金銭的には、僕のようなすべてのフリーランサーにとってまさに地獄だよ。何しろ、稼ぎの元であるライブができないんだからね。だけど、自然には祝福されているように感じるね。だから、この危機からポジティブな面を見つけていかなければならないよね。」
音の百鬼夜行にばかり注目が集まりがちな WALTARI ですが、不安や孤独、現代社会に対する嘆きを独自のアイロニーを交えつつ珠玉の旋律へと変換する Kärtsy は旋律と宣律を誰よりも巧みに操るフロントマンです。彼が見つけた道を切り開く方法とは、きっと繋がり進み続けること。今回弊誌では、鬼才に2度目のインタビューを行うことができました。「日本人はロックの再構築を常にかなりよく理解していて、いつもプログレッシブになりたいと考えている。BABYMETAL のような (アイドル的) アクトについてさえね!」どうぞ!!

WALTARI “GLOBAL ROCK” : 9.9/10

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