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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【BLOOD INCANTATION : ABSOLUTE ELSEWHERE】


COVER STORY : BLOOD INCANTATION “ABSOLUTE ELSEWHERE”

“A Lot Of People Would Say, ‘I Don’t Even Listen To Any Metal At All, But This Record Somehow Does It For Me,’ Which I Found Amazing”

ABSOLUTE ELSEWHERE

「PINK FLOYD をどう説明する?彼らはサウンドトラックを作った。他のこともやっていた。”彼らはメタルやロック、プログのバンドだ” と言われるのではなく、ただ “バンドの名前だ” と言われるような立場にいることは、とてもクールなことだと思う。そして、僕らもその段階に差し掛かりつつある。BLOOD INCANTATION はただ BLOOD INCANTATION なんだ」
一見、BLOOD INCANTATION の作品はとっつきにくいように思えるかもしれません。デンバーの実験的デス・メタル・バンドは、過去10年間、音楽的挑戦だけでなく、一見不可解で幻覚的なイメージも包括する世界に肉薄してきました。その哲学は、彼らの歌詞だけでなく、アルバムのアートワークにも浸透しています。
つまり、BLOOD INCANTATION を完全に理解するには、エイリアンやピラミッド、オベリスクの意味を理解しようとする必要があるのです。CANNIBAL CORPSE が “スター・ウォーズ” なら、BLOOD INCANTATION は “2001年宇宙の旅”。
難解な音楽を披露するバンドにもかかわらず、彼らは幅広く多様な聴衆を惹きつけることに成功しています。2016年に発表された初のフルアルバム “Starspawn” は、バンドの土台を築き、より壮大でプログレッシブな野心を示す、最初の突破口となりました。しかし、扉を大きく開けたのは2019年の “Hidden History Of The Human Race” でしょう。その代表曲は18分ものサイケ・エピック “Awakening From The Dream Of Existence To The Multidimensional Nature Of Our Reality (Mirror Of The Soul)” であるにもかかわらず、”Hidden History” は2010年代で最も幅広く評価されたメタル・アルバムの1枚となりました。そうして、ブルース・ペニントンの象徴的なアルバム・ジャケット(グレーのエイリアン、淡いブルーの空、謎の浮遊物)をあしらったTシャツは、インディ・ロックのライヴで見かけるくらいに有名になったのです。
ギタリストの Morris Kolontyrsky は、「多くの人が、”私はメタルをまったく聴かないのに、このレコードはなぜか聴いてしまう” と言うんだ」 と目を細めます。

めまいがするほど広大な3枚目のLP “Absolute Elsewhere” を発表する準備中、彼らは増え続けるファンベースに対して過激なまでにオープンな姿勢をとりました。アルバムの発表と同時にDiscordチャンネルが開設され、そこでバンドはリスナーとたわむれたり、たわごとを言い合ったりしています。
彼らは、アルバムを構成する2曲のロング・トラックのうちの1曲目、”The Stargate” のMVを兼ねたショート・フィルムのプレミアに出席し、ベルリンの伝説的なハンザ・スタジオでのセッションを詳細に描いたドキュメンタリーの制作を監督しました。メイキング・ドキュメントのタイトルは、ハンザでミックスされた CAN の名曲から引用した “All Gates Open” “全ての扉は開いている”。ドラマー Isaac Faulk はその意味を説明します。
「このドキュメンタリー、そしてアルバムのエトス全体がオープンであることなんだ。自発性に対する開放性、コラボレーションに対する開放性。積極的に指示したり、箱の中に押し込めようとするのではなく、僕たち全員が波に乗っていたこの相互の創造的衝動。だから、すべての門が開かれているんだ」
BLOOD INCANTATION には最初から、濃密でクレイジーなアイディアが詰まっているけれど、そこにリスナーを招き入れたいんだ。隠された神秘的なものになろうとしているのではない。純粋なレベルで人々に関わってもらいたいんだ」
ハンザ・スタジオを訪れ、POWER TRIP や自身のバンド、SUMERLANDS のプロデュースで知られる Arthur Rizk とレコーディングを行った BLOOD INCANTATION。彼らがデビュー以来テーマとしてきたのは、人類の進歩に対する地球外からの影響と、すべての生命の相互関連性でした。ハンザの異質な環境に身を置くことは、新しいレコーディングの雰囲気を形成するのに役立ちました。
「壁には香のようなものが染み込んでいて、何十年も何十年もそこでレコーディングしてきた人たちの何かがそこにあるんだ」
ハンザのスタジオはまさに “Hidden History” でした。彼らは、ブライアン・イーノがデヴィッド・ボウイのエンジニアリングをしていたときに、ミキシング・デスクの脇の壁に自分の名前を書き込んだ場所を見ます。ボウイのレコーディングで使われたピアノがスタジオに残っていて、その音はアルバムに収録されました。TANGERINE DREAM が使用したマイク(おそらく現在では35,000ユーロの価値がある)は、”クローゼットの中” だったと、彼らはまだ信じられない様子で言います。そして BLOOD INCANTATION はそのすべてを “Absolute Elsewhere” に注ぎ込み、さらに9,000ユーロ相当のシンセサイザーを追加購入したのです。

バンドは、市内にある練習場で、9日間かけてアルバムの曲を40〜50回通しでリハーサルしました。ハンザ入りする前の週末、彼らはオリンピアシュタディオンで行われた DEPESCHE MODE のギグに8万人の観客とともに参加しましたが、このイギリスのシンセ・ポップ・グループも3枚のアルバムををハンザで制作していたのです。
“Absolute Elsewhere” の核心には、BLOOD INCANTATION の核心と同じように二律背反が存在します。一見、このアルバムは近寄りがたく、謎めいた作品でしょう。曲は2曲だけで、両者とも3つの楽章に分かれており、そのそれぞれが20分を超えています。そして BLOOD INCANTATION の過去のどのリリースよりも、デスメタルの攻撃性にクラウト・ロック、ダーク・アンビエント、70年代プログからの大胆なアイデアを加えており、作品の最も密度の高い部分では、アイデアからアイデアへと奔放に自由気ままに飛躍していきます。
その一方で、ギター・パートは、エクストリームであっても豊かなメロディーを奏で、かつてはミックスの奥深くに埋もれていた Paul Riedl のボーカルは鮮明。そのフレージングとアーティキュレーションを重視した彼の歌は、間違いなく BLOOD INCANTATRON 史上初めて、キャッチーを極めています。そして Riedl はクリーン・ボーカルを多く披露もしています。つまり、”Hidden History” が、ほとんど偶然に広く一般的なファン層を見出したとすれば、”Absolute Elsewhere” は、さらに多くの人々に届く態勢をしっかりと整えているのです。
「”Absolute Elsewhere” のサウンドは断固としてブルータルで、これまでのどの作品よりも飛躍的にテクニカルでプログレッシブだ。ただ、その過激さとは裏腹に、よりメロディアスでキャッチーで親しみやすい。この巨大で残酷なものの泥沼の中で、キャッチーな部分があればそれでいい。BLOOD INCANTATION の影響範囲は常に外に向かっているのだから。だから、僕たちが最初の範囲から外れたのものから学び始めることは避けられないし、常にそれらを大きな血の呪文のピラミッドに組み込んでいくんだよ」
BLOOD INCANTATION の誰もが、2022年にリリースされたアンビエント作品 “Timewave Zero” なくして “Absolute Elsewhere” はあり得なかったと信じています。4人のメンバー全員が典型的なギターとドラムの代わりにヴィンテージのシンセサイザーを演奏していたアルバムを、気に入った人も批判した人もいました。しかし、バンドにとって “Timewave Zero” は、自分たちのサウンドのパラメーターを広げる手段であり、同時に創造性の奥行きを広げる方法でもあったのです。”Timewave Zero” の経験は、バンドが “こうあるべき” という既成概念を打ち砕きました。
「メンバーと、異なる方法で、異なる言語で、一緒に音楽を演奏する方法を学んだ。僕たちはそして、”Timewave Zero” を通してより親密な友人にもなれたんだ」Kolontyrsky は言います。「”Absolute Elsewhere” では、その感性が発揮されたのだと思う。僕たちの絆はとても強いから、誰かの最悪のアイデアでも、誰も敬遠したり馬鹿にしたりすることはないんだ。
僕らはメタル・バンドが非メタルのレコードを作るのが好きなんだ。10代の頃、エクストリームでアンダーグラウンドなブラックメタルやデスメタルに夢中になっていて、CORRUPTED のようなバンドが大好きだった。あるいは ULVER のようなバンドは、すぐにアコースティックになり、その後、これまで以上にハードになって戻ってくる。そうしたバンドはすべて、サウンドスケープやアトモスフィアを取り入れている。彼らはそれをまったく恐れていない。彼らは逆張りをするためにやっているのではない。自分たちの音楽がいかに高尚かどうかを証明しようとしたわけでもない。彼らはただ、自分たちの旅路をたどるアーティストであり、僕たちのような若く多感な人々に、メタルにノンメタルを取り入れることが完全に可能であることを示しただけなんだよ。物理的に可能なことなんだ」

そう、彼らはモダン=多様性という、モダン・メタルの方程式を完全に理解しています。そして、もうひとつの重要なステップは、バンドが昨年秋にリリースした両A面シングル “Luminescent Bridge” でした。デスメタルのルネッサンスについて、まだ知らない人は多いかもしれませんが、しかしそれはアンダーグラウンドの洞窟でますます大きく鳴り響いています。CANNIBAL CORPSE や OBITUARY が活動を続け、会場の規模をアップグレードしているのと同様に、このサブジャンルの新しい形態もまた台頭してきているのです。そのひとつがコズミック・デス・メタルで、人体の切断を歌った曲を避け、人間存在に関するより広い形而上学的な問いを探求することを好んでいます。
昨年9月15日、コズミック・デス・メタルの先駆者2組が新曲を発表しました。トロントの TOMB MOLD が発表した “The Enduring Spirit” は、90年代のスピリチュアルな先達、CYNIC のサイケデリックな洗練に大きく傾倒した驚異的な作品で、最終曲の “The Enduring Spirit Of Calamity” は、クリスタルのようなギター・ソロと長く繰り返されるリフレインを含み、デスメタルに対する既成概念を大きく変えました。
同日、デンバーの BLOOD INCANTATION が12インチ・マキシ・シングル “Luminescent Bridge” をリリースしました。タイトル・トラックは、シンセとクリーン・ギターによるマントラのような作品で、2022年のアルバム “Timewave Zero” のアンビエントな実験性を引き継いでいましたが、A面の “Obliquity Of The Ecliptic” では、地球を震撼させるアルバムのメタリックな炎を宿しながらメロディックに飛び立ちました。
つまり、”Absolute Elsewhere” の鼓動するメロディックなハートは、”架け橋” のおかげでここまで完全に露わになったのです。「”Luminescent Bridge” の両面は、”Hidden History” よりもメロディーを取り入れやすくなっている」と Riedlyは言います。「”Obliquity Of The Ecliptic” の最後に巨大でヘヴィーなメタル・ギター・ソロがある。高揚感があって、メロディアスで、勝利的なんだ。それから “Luminescent Bridge” はほとんどメロディックなパートばかりだ。不協和音は最初と最後のスペース・サウンドだけ。それ以外はすべて、繰り返しのギター・リフ、繰り返しのギター・メロディ、そして大きく舞い上がるカラフルなメロディがある。でも、とてもシンプルなんだ」

BLOOD INCANTATION のサウンドスフィアでは、時間は平坦な円となり、まるで、彼らが長年にわたって発表してきたすべての音楽が、独自の次元に同時に存在しているかのよう。既知の音楽宇宙のはるか彼方への彼らの旅は、私たちの現実を構成する最も小さな粒子、存在の大きな理論、そして私たちの意識そのものを探求するもの。Issac Foulk は言います。
「僕はよく、多くのバンドは自分たちのサウンドにこだわりすぎると、その輪を自ら小さくしてしまうと言ってきた。でも僕らは、自分たちのサウンドを追求していくうちに、輪が大きくなり、さらにいろいろなものが加わっていくような気がするんだ」
BLOOD INCANTATION は、彼らの愛するビデオ・ゲームで例えれば、RPGでキャラクターがレベルアップするように、スキルツリーを通してレベルアップしているように思えます。レコードを出すたびに、バンドはXPを獲得し、新しいスキルをアンロックしていくようです。
「リリースのたびに、僕たちはハードウェアの能力を最大限に引き出している」とフレットレス・ベースの使い手 Jeff Barrett は言います。「そしてうまくいけば、僕たちは学び、次のリリースでハードウェアを拡張して、さらにその学びをプッシュすることができる」
BLOOD INCANTATION が “Absolute Elsewhere” に望んでいたのは、Faulk に言わせれば、「大きくて、壮大で、自由で、境界のない、超越した存在」になることでした。
“The Stargate” では、激しいリフが残響の多いダブのようなセクションへと進み、PINK FLOYD の “Echoes” のジャム・セクションを想起させるパッセージへと展開します。そして彼らは、あからさまに David Gilmoure 風のギター・ソロを聴かせます。そして嵐の前の静けさ、シンセサイザーとアコースティックの波の音。
「BLOOD INCANTATION は当初から、デスメタル以外のエクストリーム・メタル(特に90年代と2000年代)が、いかに様々な方向に突き進む音楽であるかに興味を持っていた」と Faulk は証言します。
“The Stargate” は、無限の宇宙に奉仕する儀式的な肉体の破壊を描いています。「すべての生命は一時的なものであり、永続するものは意識である」

一方で、Riedl と Kolontyrsky の音楽的応答が、アルバムのB面 “The Message” です。”The Stargate” が BLOOD INCANTATION のこれまでのビジョンの集大成だとすれば、”The Message” は彼らが向かっている “絶対的な別の場所”。
この曲は、エクストリーム・メタル内部の戦争をシミュレートしているかのよう。恍惚としたブラックメタルのセクションが近年最高のスラッシュ・メタル・リフと競い合う至高。彼らはその高尚な音楽性ゆえに、狙った場所にハンマーを振り下ろすことができるのです。
Faulk がこの曲の中でサイケ・ロック・セクションと表現している部分は、彼にとって特別な挑戦でした。小節のタイミングがとても奇妙だったので、彼はリハーサルの間中、コンピューターで曲を追いかけ、躍起になってタイミングを捕まえようとしていました。
“The Message” の歌詞は、バンドの哲学的な水域に深く潜り込み、瞬間の陶酔状態を認めていきます。それは Faulk が「強烈な明晰さ、一体感、ありのままを受け入れること」と表現するもの。
「僕たちの音楽がやろうとしていることのひとつは、ジャンルだけでなく、バンドがなりうるもの、バンドができることの境界線を押し広げること。僕らは10年以上前にもこのようなことを話していた。これは、BLOOD INCANTATION の大きなテーマだった。自分たちがどこから来たのか、何者なのか、自分たちの深い信念を再考すること……。世界史や人類の起源に地球外生命体が影響を及ぼしている可能性。
それは、哲学とアイデアのイースト・ミーツ・ウエスト(東洋と西洋の融合)だ。意識とは、西洋科学がそうみなしたもの、つまりニューロンがたまたま発火しているだけで、もっと深いものがあるわけではない。でも、もっと深く掘り下げていくと、もっと多くのことがあるように思えてきて、すべての意識とすべての生命との間には、もっと深いつながりがあるように思えてくるんだ」

“Absolute Elsewhere” は、キーボーディスト兼フルート奏者の Paul Fishman が結成した70年代のプログレッシブ・ロック・バンドにちなんで名づけられました。彼はエーリッヒ・フォン・デニケンの1973年の著書 “In Search Of Ancient Gods” にインスパイアされたコンセプト・アルバムをレコーディングするためにそのグループを結成。最も注目すべきは、KING CRIMSON の Bill Bruford がセッション・ミュージシャンとしてそこでドラムを叩いていたことでしょう。
奇妙な偶然ですが、ABSOLUTE ELSEWHERE の長らく行方不明だったセカンド・アルバム “Playground” が今年リリースされたばかり。BLOOD INCANTATION がアルバム・タイトルにこのバンドを引用し、Robert Fripp がボウイやイーノとハンザでレコーディングしたときと同じ空間を巡ったことで、宇宙の閉塞が解け、ABSOLUTE ELSEWHERE の作品が再び物質的に存在するようになったかのようにも思えます。
そして実際、”All Gates Open” のドキュメンタリーは、ハンザがこの作品のための適切な実験場であったことを明らかにしています。ハンザは、デヴィッド・ボウイとイギー・ポップがベルリンで重なり合った時代の中心にあったスタジオで、”Timewave Zero” に唯一最大の影響を与えた TANGERINE DREAM はこの場所でアルバム “Force Majeure” をレコーディングしていました。彼らはハンザでの大規模なセッションでそのすべてを活用することができたのです。Riedl がその喜びを語ります。
「同じ芸術的な道に身を置くだけでなく、僕たちが聴いてきたレコードで彼らが使ったのと全く同じ機材や回路を使うことで、僕たちがインスパイアされた伝説的な人々を解明することができた。ほとんどの場合、誰かがこの機材を持っていたとしても、貴重すぎて触ることはできないだろう。でも、スタジオ全体がそうだからね。スタジオには、展示されているのに使えない機材はなかった。すべて、使ってレコーディングするためにあったんだ」

機材だけでなく、バンドはゲスト・ミュージシャンも自由に起用し、アルバムの限界をさらに押し広げました。2005年から TANGERINE DREAM を率いている Thorsten Quaeschning は、”The Stargate” の第2楽章に瑞々しいシンセ・サウンドスケープを提供し、SIJJIN と NECROS CHRISTOS の Malte Gericke は絶叫するような死のうなり声と話し言葉のボーカルを母国語のドイツ語で加えました。しかしおそらく最も重要なのは、HALLAS のキーボーディスト Nicklas Malmqvist が名誉メンバーとしてバンドに加わり、ピアノ、シンセサイザー、メロトロンのパートを重ねることで、このアルバムの70’sプログへの傾倒を顕在化させたことでしょう。BLOOD INCANTATION のメンバー4人だけで構想・実行された “Timewave Zero” とは異なり、”Absolute Elsewhere” のシンセ・パートはメタル圏外から提供されたのです。そして、それが重要でした。
「メタル系の人がアンビエントを作ると、ある種特定のサウンドになる」と Riedl は認めます。「でも Nicklas の耳は “メタルっぽさ” から完全に切り離されていて、だからメロトロン・フルートのようなクレイジーなアイデアをたくさん持ってくるんだ。ドキュメンタリーの中で、彼が “あまりヒッピーっぽいサウンドにはしたくない” と言っているのがわかる。でも、それが僕たちの望みなんだ!僕たちは20年以上メタル・バンドをやってきたから、ヒッピー・サウンドにはできない。彼の頭脳はもっと自由だから、そういうインスピレーションを取り入れることができるんだ」
バンドがデスメタルの繭の外に出てハンザでレコーディングしたり、メタル外の人たちと共演したりするのは、メタルヘッズに一見異質な分野が織り成す成果を示し、明確なつながりを作るためでもあります。Riedl は、BLOOD INCANTATION が人々に示したいことの例として、クラウトロックのパイオニア Conrad Schnitzler が MAYHEM の “Deathcrush” に提供したイントロ、”Silvester Anfang” を挙げました。
「この巨大なタペストリーは、影響と創造性の連続体における僕らの位置を示している。僕たちは、リスナーに対して、自分たちがこの異世界に参加していることだけでなく、そうやって広がる “輪” が、彼らが想定しているよりもずっと近くて大きいものであることを説明しようとしているのさ」
「つまり、最もカルト的でアンダーグラウンドでブルータルなブラック/デスでありながら、同時に高尚なエレクトロニック・ミュージックや70年代のプログ・スタイルのレトロ・バンドの世界にも入り込めるということを示している」と Kolontyrsky は付け加えます。「このバンドが成長するにつれて、そうしたすべてのコーナーに同時に進出していく。このバンドが成長するにつれて、ニッチで小さなもののひとつひとつに突き進んでいくんだ」

Steve. R. Dodd のアートワークもこのアルバムに欠かせないピースのひとつ。
「アートワークは僕らの包括的な美学の一部であり、それぞれが全体的なコンセプトの段階的な拡大に貢献している。僕たちのリリースを見れば、”ああ、これは明らかに BLOOD INCANTATION だ” とすぐに見分けることができる。さまざまなアートワークに描かれたそれぞれの風景が、理論的には同じ宇宙内の新しい場所となりうるという意味で、僕らの視覚的宇宙の発展にとって重要なんだよね」
Riedl の “Absolute Elsewhere” の歌詞には、BLOOD INCANTATION のディスコグラフィ全体にも言えることでしょうが、そうした考え方が反映されています。神秘主義やオカルト、古代のエイリアンやシュメール神話へのベールに包まれた言及の下で、Riedl は根本的に人間のつながりについて、つまり、理解しているかどうかにかかわらず、私たちは皆、集合意識の中に組み込まれていると語っているのです。MAYHEM と CAN、TIMEGHOUL と TANGERINE DREAM を結びつけるのと同じ絆が、私たち一人ひとりを互いに結びつけるのです。
「ダンスの中で自分の居場所を認識すること/己のビートを時間内に知り、どこからステップを踏むべきか知ること” と、Riedl は “The Message” の中で歌っています。そのダンスを学べば、BLOOD INCANTATION の見かけの不可解さは消え去るはずです。
「リスナーに直接語りかけたかったんだ。僕が話そうとしていることを理解するため、その人が戦わなければならないようなことはしたくなかった。BLOOD INCANTATION を聴いているとき、彼らもまた僕たちの一部なのだということを、暗黙のうちに理解してほしかった。それは巨大な、つながった相乗効果で、彼らがどこにいようと、僕たちがどこにいようと、両者をつなぐ心の橋なんだ。いわば、リスナーは僕らに侵入するようなものさ」


参考文献: STEREOGUM:Opening The Gates With Blood Incantation

THE QUIETUS:Expanding the Circle: Blood Incantation Interviewed

WESTWORD:Blood Incantation Is Taking Death Metal to New Frontiers

ANTICHRISTMAG:Interview with Paul Riedl of BLOOD INCANTATION

弊誌インタビュー2019

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【CONSIDER THE SOURCE : THE STARE】


COVER STORY : CONSIDER THE SOURCE “THE STARE”

“Our Music Combines Influences From Turkish, Bulgarian, North and South Indian Styles With Jazz And Fusion, And Then We Filter It Through Our Own Heavy, Rock and prog sounds and approaches.”

THE STARE

CONSIDER THE SOURCE の音楽は、70年代フュージョン、伝統的な中東や中央アジアのスタイル、プログの難解とメタルの激しさを巧みにミックスしたものです。ギタリストの Gabriel Marin は、並外れたシュレッド、複雑なタイム感、伝統的スケールの博士号、稀有なるフレットレス・ギターの流暢さ、そしてエフェクトを操る多才すぎる能力を誇ります。そして、3機のペダルボード、17個のペダル、2台のギター・シンセサイザー、2台のアンプ、そして異形のカスタム・ダブルネックを持ってツアーする筋金入りの機材ジャンキーでもあるのです。
ニューヨーク出身の Marin はピアノから始め、16歳でギターを手に入れました。1年半後には Yngwie Malmsteen の “Far Beyond The Sun” を体得。ハンター・カレッジでクラシック音楽の学士号を取得し、インドの巨匠デバシシュ・バッタチャリヤの弟子となり、デヴィッド・フィウジンスキーに師事しました。OPETH や RADIOHEAD の傑出したカバーを披露する一方で、彼はまた、バ・ラマ・サズ、カマンチェ、ドンブラ、ドター、タンブール、ダン・バウなど、伝統的なアコースティック楽器の演奏法も会得しているのです。

「バンドを始めた当初はロックに傾倒していたけど、常に違う世界のものにも興味を持っていた。最初はグランジやシュレッダーから影響を受けた。Jerry Cantrell と Billy Corgan はグランジ系だった。10代の頃は Yngwie Malmsteen, John Petrucci, Steve Vai も好きだった。そういうプレイを学ぶことで、たくさんのギター・チョップを身につけることができた。僕は17歳で、ギターを始めて1年半くらいだったんだけど、イングヴェイの “Far Beyond the Sun” を弾けたんだ。”ああ、僕は何でも弾けるんだ!” って感じだったよ(笑)。
でもその後、2ヶ月の間にジョン・コルトレーンの “A Love Supreme” と John McLaughlin を聴いて、自分の音楽がすっかり変わってしまった。テクニックはそこそこだったけど、それ以上の意味があるように思えたんだ。コルトレーンが速いラインを弾いているとき、それは “この速いラインを弾いている私を見て” ではなかった。スピリチュアルな音の爆発だった。
僕は、”よし、これが自分のやりたいことだ” と思った。僕はいつも、顔で弾いたりギターを変な持ち方をしたりするような、ショー的なシュレッダーが苦手だった。それは僕には理解できなかった。でもそのふたりは一音一音に真剣で、超高速で演奏しているにもかかわらず、一切無意味なでたらめさがなかった」
オリエンタルな伝統音楽にのめり込んだのはなぜだったんでしょうか?
「その後すぐに、伝統音楽をギターで演奏する方法を見つけたいと思うようになり、インド、トルコ、ペルシャの音楽にのめり込んでいった。幸運なことに、偉大なミュージシャンと一緒にこうしたスタイルを学ぶことができた。僕はフレットレス・ギターを弾くので、伝統音楽のフレージングや装飾を正確に表現できるんだ。
僕は伝統的な楽器を使ってトルコやペルシャの古典音楽を演奏するために時々雇われるんだけど、そんな時でもフレットレス・ギターを持って行く!フレットレス・ギターをそのような場に持ち込むのはクールなことだ。CONSIDER THE SOURCE では、超未来的なサウンドを作るのが好きなんだ。僕らはトルコ、ブルガリア、北インド、南インドのスタイルからの影響をジャズやフュージョンと組み合わせ、それを独自のヘヴィ・ロックでプログなサウンドやアプローチでろ過しているんだ!」

たしかにフレットレスであることは、オリエンタルなサウンド・メイクに効果的です。
「フレットレスはスライドに最適なだけでなく、微分音も使える。中東のような多くの異なる文化では、ピッチとピッチの間にピッチがあるから、4分の1ステップや8分の1ステップといったものがあるんだ。
それに、フレットレスにEBowやサスティナー・ピックアップをつけ、ボリューム・ペダルを使えば、ギタリストというよりシンガーに近いサウンドになる。
僕はあまりコードを弾かないんだ。どちらかというとメロディックな単音奏者で、フレットレスはそれに最適な楽器なんだ。フレットを弾くときでも、流動的なピッチを得るために、ワミー・バーはずっと小指にあるくらいでね」
アラビアやインドの伝統音楽は、単にハーモニック・マイナー・スケールを演奏しているだけではありません。
「それが問題なんだ!インド音楽といえば、僕はインドのラップスティール奏者、デバシシュ・バッタチャリヤの弟子だった。彼は信じられないような人で、SHAKTI のレコーディングにも何度か参加している。僕はインドで彼と一緒に暮らし、彼がアメリカに来るときはいつも、1ヵ月間彼の家に滞在して本当に熱心に勉強したんだ。
あと、アゼルバイジャンのムガームのスケールも素晴らしい、 アゼルバイジャンでは本当に素晴らしい音楽が作られているんだ。他の国の人の耳にはなじみにくい音階を聴きたいなら、検索エンジンにその音階を入力して聴いてみて!」

フレットレスのもうひとつの魅力は、フレットレスに専念しているプレイヤーがほとんどいないことだと Marin は言います。
「僕はフレットレスを弾いているけど、シーンの誰もフレットレスを弾いていなかった。僕のフレージングのほとんどは、エレキ・ギターを弾かないミュージシャンから学んだものだ。未知の領域だよ。
最後にトルコを訪れたとき、ドゥドゥクを弾く人のレッスンを受けたんだ。僕がレッスンに現れたとき、彼は “ドゥドゥクはどこだ” と言ったので、僕はフレットレスを取り出した。彼は僕にどう教えたらいいのかわからなくて、何か弾いてみて、それをコピーさせて、僕のやり方が正しいかどうか教えてくれと言ったんだ。
管楽器で顎の圧力を下げる真似をギターでするんだ!それを理解するのは楽しかった。フレットレスのもうひとつの魅力は、フレットレスに専念している奏者がほとんどいないことだからね」
Marin は多くの伝統的なアコースティック楽器を演奏しますが、テクニックやスケール、モードといった面で、それはエレクトリック方面ににどの程度反映されているのでしょうか?
「スケールとモードは100パーセント。ここ10年ぐらいでトリルやスライドが自分の演奏に組み込まれたから、何を弾いても東洋の楽器のように聴こえてしまうんだ。それが今の僕の弾き方なんだ。でも、右手のテクニック、たとえばドンブラやドゥタールのテクニックは、ギターにはできないんだ。不思議なもので、ドンブラやドゥタール、あるいはサズを2、3時間弾いた後、ギターを手に取り、演奏できる状態になると思っていたのに、まるでまだ全然弾いていないかのようなんだ。まったく違うんだ。
フュージョンをうまくやるには、フュージョンしようとしている音楽の内側に入り込む必要があると思う。僕はトルコやペルシャの音楽を忠実に演奏することができる。そうやって、まずは正しい方法で音楽の言語を学び、それから自分の目的に向かうのが大切だと思う。
インド音楽を勉強していたとき、ちょっとブルージーな感じで弾いたら先生がすごく怒ってね。それが僕を変えた。よし、学ぶときは正しい方法で学ぼう。それから離れて演奏するときは、好きなようにやればいい。でも、それは分けて考えるんだってね」

伝統的な演奏方法と、CONSIDER THE SOURCE での解釈方法とは、明確に区別しているということでしょうか?
「伝統的な奏法について本当に研究しているのは、バンドで僕だけだからね。僕はバンド・メンバーのためにメロディーを弾き、彼らには自分のパートを書いてもらう。ふたりとも優れたミュージシャンだから、それぞれの持ち味を出してほしいんだ。例えば、ドラマーはダルブッカで育ったトルコ人じゃない。彼はドラムセットで素晴らしい演奏をする西洋人なんだ。彼はトルコのリズムを聴いて、それに合わせて自分なりの素晴らしいことをする。僕たちは決して伝統音楽をやっているわけではないからね。僕は伝統音楽を勉強しているけど、僕らはフュージョン・バンドなんだ」
CONSIDER THE SOURCE は変拍子も独特です。バンドが変拍子をダンスに適したリズムに分割する方法は、バルカン音楽にインスパイアされているのです。
「最初に変拍子を理解し始めたのは、DREAM THEATER の曲とか、わざと変拍子にしてあるようなプログの曲に合わせて演奏していた時だった。それからバルカン音楽を弾き始めて、深く衝撃を受けたんだ。装飾音やトリルなど、すべてが魅力的で、”よし、これこそが9拍子の曲だ” と思ったんだ。でも、ライブを観に行くと、バブーシュカを着た老女たちが踊っている。どうやって9で踊るんだ?どうやって11と7で踊っているんだろう?”と思うだろ?でもそれは、音楽が小さなグループに分かれているからできることなんだ。だから、僕はすべての音楽を小さなグループに分けるようにしたんだ。もう変な感じはしないね。バルカン半島の伝統的なダンス曲を5つのグループに分けて演奏するんだけど、何人かの人たちは、気にすることもなく、ノリノリになるんだ」

フレットレスを弾くときは、音名のない特定の微分音を意識しているのでしょうか?
「とても具体的だよ。微分音にはさまざまな伝統がある。例えば、トルコの伝統とアラビアの伝統はまったく違う。トルコ音楽でマカーム(伝統的な音程とそれに付随する旋律図形)を演奏する場合、第2音をある程度フラットにする。アラブ音楽でそれを演奏する場合は、別の程度までフラットにする。イントネーションは、僕が演奏中にとても意識していることだよ」
ワーミー・バーの叩き方にもこだわりがあるのでしょうか?
「イエスでもありノーでもある。あるときは、ただヒラヒラさせたり、叩いてみたりして、何が起こるか確かめたくなる。ワーミー・バーは本当にワイルドカードだ。音を出した後にギターを操作する余地がたくさんある。だから、そういう面は意識している。バーを使えば、自分の好きな音程に正確に曲げられるだけでなく、クールなこともできるはずだ」
Marin の演奏は、ペダルボードの上でダンスを踊ると評されます。
「10代の頃はペダルをいじるのに多くの時間を費やした。僕は大のSFオタクなんだ。ギターを弾きたいと思うようになったきっかけのひとつは、父に連れられてサム・アッシュ (ギターショップ) に行ったとき、フェイザー・ペダルを見たことだった。何これ?フェイザーだ!って。だからオタク音楽という側面は、僕にとって大きなものなんだ。クレイジーなSFサウンドが大好きなんだ。フリージャズも大好きだった。サックスで20分間、男たちがイカレた音を出すのを聴くのが好きなんだ。CONSIDER THE SOURCE ではあまりそういうことはできないけど、ペダルを使ってクレイジーなサウンドスケープを作るのが大好きなんだ。
そして僕らのアルバムにはキーボードがない。いつも “誰がキーボードを弾いたの?”って聞かれるんだ。誰もキーボードは弾いていない。僕はMIDIギターを使っている。ペダルは何十万も使う。リハーサルは、”この小節の3拍目にこのペダルを踏み、4拍目にこのペダルを踏み、次の小節の下拍にこのペダルを踏む “という感じだ。Axe-Fxとか、ボタンを1つ押せばすべてが変わるようなものは使わない。オン・オフしたいときは、ひとつずつやるんだ。このペダルを踏んで、スプリングが外れて、このペダルにジャンプする、というポイントがいくつかあるんだ。見た目はかなり面白いね。
EBowもよく使うし、KORGのKaoss Padもスタンドに置いてある。僕の周りには17台のペダルがある。ネックも2つあるし、スイッチも10億個ある。音楽の中で最も意識しなければならないのはそういう面だ。演奏は心から生まれるものだけど、そのためには意識的な思考が必要なんだ」

楽曲とソロに対するアプローチは変えているのでしょうか?
「曲の構成はほとんど変わらない。でも、ジャムになると、意識的に違うものにしようとするんだ。例えば、昨夜は高い位置からソロを始めたと記憶していたら、次の晩は低い位置から始める。前の晩にすごく良いものをやったとしたら難しいよ。”最高だった、もう一回やってみよう” と思うのは簡単だ。でも僕はその逆をやるようにしている。ひどいソロを弾くかもしれないけれど、ゼロから即興で始めたほうがいい。即興演奏をしていると、そういうこともある。でも同時に、それは必要なことなんだ。次の夜には、そのおかげで素晴らしい演奏になっているかもしれないからね。知っていることを演奏して成功するよりも、挑戦して失敗する方がずっといい」
CONSIDER THE SOURCE の音楽は世界中の多様な聴衆に届くはずです。
「ボーカルなしの長い曲を変拍子でクレイジーに演奏するんだ。僕たちのやることはすべて、新しいバンドを目指す人にするアドバイスとは正反対。その点、僕たちはちょっと頭が固いけど、自分たちのやっていることは多くの人に届く可能性があると本当に信じている。他の国に行って、あまり関係がないかもしれない他の国の音楽を演奏すれば、きっと気に入ってもらえると信じている。
初めて海外に行ったときのことを覚えている。イスラエルとトルコに行ったんだけど、そのときは外交問題で揉めた直後だった。イスラエルで、トルコでライブをすると発表したんだ。彼らはブーイングを浴びせたが、その後トルコの曲を演奏したら、彼らは熱狂した。そしてトルコに行って、イスラエルから来たと言ったんだ。ブーイングだった。それからクレズマーの曲を演奏したら、みんな大喜びだった。みんなが音楽を愛してくれた。そういうものなんだ。僕らの観客は老人、若者、いろんな人種、メタル・ヘッド、ジャム・キャットなど、超混ざり合っている。それを見るのが本当にうれしいんだよ」


参考文献: GUITAR WORLD:Gabriel Akhmad Marin: “I don’t play many chords. I’m more of a melodic single-note player, and the fretless guitar is a great instrument for that”

PREMIER GUITAR:Tao Guitar: Gabriel Marin

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【UNDEATH : MORE INSANE】 JAPAN TOUR 24′


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ALEXANDER JONES OF UNDEATH !!

“Anthrax – Fistful of Metal Is a Pretty Obvious Inspiration Here!”

DISC REVIEW “MORE INSANE”

「僕たちは非常にグロテスクでタブーなことを歌っているけど、皮肉混じりで、ユーモアがあり、舌を巻くような態度でそのテーマを扱おうととしているのさ」
アンデッドの進撃、悪魔のような賞金稼ぎ、殺人、恐ろしく失敗した倒錯的な人体実験、血の涙を流して泣き叫ぶ死者、そして殺人(再び)。ドラマーの Matt Browning の手による狂気のジャケット・アートを抱いた狂気より狂気な “More Insane” で、UNDEATH が “Lesions Of A Different Kind” で始めたグロテスクな3部作は終わりを告げます。
「”More Insane” のアートワークはタイトル曲の歌詞にインスパイアされたもので、サビに “My head/a catacomb” “俺の頭はカタコンベ” という一節があるんだ。ANTHRAX の “Fistful of Metal” は、かなり強烈で明らかなインスピレーションだよ!」
UNDEATH がオールドスクール・デスメタルをリバイバルするバンドの中でも際立っているのは、彼らがデスメタルの中にあるユーモアやグロテスクを深く抱きしめ、理解している点でしょう。例えば、CANNIBAL CORPSE のアートワークやリリックが発禁ものの悍ましさを宿していても、巨首のフロントマンはクレーンゲームでぬいぐるみを集めて子供たちに寄付しています。
つまり、デスメタルの中の内臓やゾンビに血飛沫はホラー映画的な空想の世界であって、お化け屋敷のようにはしゃいで楽しむべきもの。むしろ、暗い現実を忘れられる逃避場所のファンタジー。”インターネット音楽オタク” である UNDEATH の面々は、特にその “シリアスでありながらシリアスでない” デスメタルの長所をあまりにもよく理解していて、地獄の音楽をポジティブに奏でる天才なのです。
「僕たちは皆、単純にこのバンドをできる限り遠くまで、ビッグになるまで運ぶことを目指しているんだ」
そのポジティブな哲学は、UNDEATH の楽曲にまで深く浸透しています。CANNIBAL CORPSE, MORBID ANGEL, AUTOPSY といったデスメタルの礎石に敬意を表しながらも、彼らはよりキャッチーで口ずさめるデスメタルを目指しています。インディ・ロックの達人 Scoops Dardaris とのコラボレーションもその一貫。そしてなにより、リード・シングル “Brandish The Blade” を聴けば、そこに JUDAS PRIEST や IRON MAIDEN といった古き良き “アリーナ・メタル” の遺産を感じるはずです。
実際、彼らはこのアルバムで、”70年代半ばから現代までのメタルの道のりをなぞる” 旅を目論んでいました。その理由は、より多くの人に UNDEATH のデスメタルを届け、より多くの人に楽しい時間を過ごしてもらうため。ダークで抑圧的な雰囲気を作り上げるメタル・バンドは少なくありませんが、彼らはこのニッチなジャンルに対する期待を遥かに超えたメタルの共同体に訴えかけ、より祝祭的な “Fun” なメタルを創造したいのです。
その試みはどうやら成功を収めたようです。そうして UNDEATH は、前人未到 “More Insane” のアリーナに到達するデスメタルをいつか手中に収めるでしょう。
今回弊誌では、フロントマン Alexander Jones にインタビューを行うことができました。「ビデオゲームといえば、UNDEATH という名前は実は Skyrim のMODから来ているんだ。僕らのデスメタル同様、楽しくて、キャッチーで、印象に残る名前だと思ったからね」 どうぞ!!

UNDEATH “MORE INSANE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SCARCITY : THE PROMISE OF RAIN】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BRENDON RANDALL-MYERS OF SCARCITY !!

“NYC Is Also Objectively a Hard Place To Live – It’s Expensive, It’s Cramped, And The Infrastructure Is Constantly On The Verge Of Breaking – So The People That Stay Here Are Very Driven And a Little Crazy. I Think That Discomfort And Difficulty Also Feed Into The Sound And Ethos Of a Lot Of NYC Bands.”

DISC REVIEW “THE PROMISE OF RAIN”

「ニューヨークは客観的に見ても住みにくい場所だ。物価は高いし、窮屈だし、インフラは常に壊れかけている。だから、それでもここに滞在する人たちはとても意欲的で、少しクレイジー。その不快感や困難さが、多くのニューヨークのバンドのサウンドやエトスにも影響していると思う」
ニューヨークが現代の “アヴァンギャルド” なメタルにとって聖地であり、産地であることは語るまでもないでしょう。KRALLICE, IMPERIAL TRIUMPHANT, DYSRHYTHMIA. そして PYRRHON。ブラックメタルやデスメタルといった “エクストリーム・ミュージック” における実験を推し進め、アートの域まで昇華する彼らの試みは、明らかにNYCという “土壌” が育んでいます。
港湾を有し、人種の坩堝といわれる NYC。多様な人種が集まれば、そこには多様な文化の花が咲き、未知なる経験を胸いっぱいに摂取したアーティストたちの野心的な交配が活性化されていきます。物価の高騰や人口の密集、インフラの老朽化。NYC は必ずしも住みやすい場所ではありません。それでも彼の地に居を構え、アートに生を捧げる人が後をたたないのは、そうした “土壌” の肥沃さに理由があるのでしょう。
「正直なところ、僕らはみんなニューヨークのシーンで長い付き合いなんだ。Doug とは大学時代からの付き合いで、PYRRHON の最初のフル・アルバムからのファンなんだ。彼とは2016年の時点から一緒にプロジェクトをやろうという話をしていて、最終的に2020年に “Aveilut” になるもののMIDIデモを送ったら、彼が歌ってくれることになったんだ。
そんな NYC で、メタルとアヴァンギャルドの完璧なハイブリッドとして登場したのが SCARCITY です。マルチ奏者 Brendon Randall-Myers の落胤として始まった “希少性” の名を持つプロジェクトは、 NYC の同士 PYRRHON の Doug Moore の力を得て産み落とされました。デビュー作にして “Aveilut” “追悼” と名づけられたそのレコードは、パンデミックの発生による人と世界の死に対する “悲嘆の儀式” として、あまりにも孤独なマイクロトーナル・ブラックメタルとして異端の極北を提示したのです。
「僕たちは明らかに伝統的なブラック・メタル・バンドになろうとしているわけではない。でも、このジャンルには大好きなものがたくさんあるし、ブラック・メタルはこのバンドがやっていることの根底にあり続けると思う」
そうして到達したセカンド・アルバム “The Promise of Rain” で彼らは、さらに NYC の風景を色濃く反映しました。KRALLICE や SIGUR ROS, Steve Reich のメンバーが加わり、メタルとアヴァンギャルド、そしてノイズの融合に温かみと人間性を施したアルバムは、あまりにも雄弁で示唆に富んだブラックメタルの寓話。
ユタ州の砂漠を旅しながら恵みの雨を待った経験をもとに作られたコンセプトは、前作の悲しみから人生へとそのテーマを移し、困難に直面する人々や困難な地域における苦闘を、トレモロの噴火から火災報知器、ドローンにDJを駆使して描いていきます。たしかに、迷路のようですべてがポジティブな作品ではありません。それでも、少なくともこの作品は孤独でも引きこもりでもありません。われわれのいない世界から、SCARCITY はわれわれを含む世界へと戻ってきたのですから。
今回弊誌では、Brendon Randall-Myers にインタビューを行うことができました。「ゲームでは、コナミやフロム・ソフトウェアのゲームが大好きで、任天堂やスクウェア、スクウェア・エニックスの名作もたくさんやっているよ。最近 FFVII:Rebirth を終えて、今はエルデンリングのDLCをプレイしているんだ。
アニメは、あまり最新ではないけど、AKIRA やエヴァンゲリオン、攻殻機動隊、カウボーイビバップなどの名作を高校生の時に観ていて、最近ではデスノート、鋼の錬金術師、約束のネバーランド、進撃の巨人、風が強く吹いている、呪術廻戦などを観ているね。
バンドでは、G.I.S.M.、Gauze、Envy、Melt Banana、Boris、Boredoms、Ruins が好きだよ。読んで、聞いてくれてありがとうね!」どうぞ!!

SCARCITY “THE PROMISE OF RAIN” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【HOUKAGO GRIND TIME : KONCERTOS OF KAWAIINESS: STEALING JOHN CHANG’S IDEAS, A BOOK BY ANDREW LEE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ANDREW LEE OF HOUKAGO GRIND TIME !!

“I Think That Would Be My Ultimate Goal: To Write a Series That Could Be Adapted By KyoAni, And Then Compose Music For It.”

DISC REVIEW “Koncertos Of Kawaiiness: Stealing Jon Chang’s Ideas, A Book By Andrew Lee”

「萌えアニメを伝道するのに最適な方法かどうかはわからないけど、これが僕が知っている唯一の方法だから。自分には同人誌を描く能力がない。だから、音楽やグッズで愛を表現するしかないんだよ。京アニでアニメ化されるようなシリーズを書いて、そのために作曲をする…というのが僕の最終目標かな」
オッサンがオッサンというだけで抑圧される時代。それでもオッサンは、艱難辛苦に耐え忍び生きて行かなければなりません。オッサンがそうした辛い現実や抑圧から逃避する場所。その代表こそ、萌えアニメであり、ヘヴィ・メタルなのです。
Kawaii に癒され、メタルで首を振る。間違っても、オッサンが Kawaii で腰を振ることは許されません。とにかく、オッサンにだって、心のオアシスは必要です。HOUKAGO GRIND TIME の Andrew Lee は、DISCORDANCE AXIS や GRIDLINK で有名な “先輩” に敬意を表しつつ、そんなオアシスとオアシスの悪魔合体に挑み、そして成功を収めました。
「やっと日本でライブができて本当に感謝しているよ!アメリカ国内でライブをする場合、観客の年齢層は少し高めで、アニメ文化に馴染みがないことがほとんどだ。”遊戯王” や “ぼくのぴこ” のもっと有名なミームならわかる人も何人かいるかもしれないけど、ほとんどの人にとってアニメのサンプルはただの面白い音でしかないんだ。日本でショーに来てくれた人たちはみんな真のオタクで、イントロやサンプルをしっかり理解してくれていた。それは本当にうれしいことだったんだ」
Andrew の悪魔合体。しかしそれは、母国アメリカでは少し孤独な戦いでもありました。グラインド・コアと萌えアニメの両方を等しく愛する彼にとって、強烈なグラインド・コアだけを求めるアメリカのファンには、少し違和感を感じていたのかもしれませんね。そんな中で、大成功を収めた日本ツアーは、Andrew にとって自らのアートが完璧に認められた瞬間で、孤独から解放された瞬間で、生きがいを得た瞬間でもありました。わかりあえる、認め合えるというだけで、孤独なオッサンやオタクにとっては奇跡のような “めたる・タイム・きらら” が生まれることもあるのです。
「いろいろなアニメのサウンドトラックを楽しんでいるけど、特に菅野よう子さんの “天空のエスカフローネ” のOSTが大好きでね。もちろん、”Just Communication”、”Irony”、”sister’s noise”、”only my railgun”、”Don’t Say Lazy” など、OPやEDの名曲もたくさんあるよね。ただ、あのスタイルで書くのは自分には難しいので、基本的にはギターソロくらいで、僕の曲に影響を与えていることはないかな。また、”響け!ユーフォニアム” や “ぼざろ” には、ひどい演奏がいくつか入っているのもいい!コンサート・バンドの最初の演奏は学生が録音したのに、最後の演奏はプロが作ったとか、ぼっちちゃんのの最初のバンド・シーンで聴ける意図的なミスや突っ込みとかね」
“Koncertos Of Kawaiiness: Stealing Jon Chang’s Ideas, A Book By Andrew Lee” は、まさにわかりあえるオタク、認め合えるオッサンだけに贈られた Kawaii のメタル・コンチェルト。萌えメタてぇてぇ。Moe to the Gore。腸が煮えくり返るようなボーカルとハイパー・ブラストなゴミ箱スネアの旋風に刻み込まれた萌えアニメの尊いわかりみ、そしてウルトラ・テクニカルなギター・ソロ。そのアンバランスはしかし、まるでこの分断された世界で Kawaii とメタルだけが世界をつないでくれるような不思議な期待感を持たせてくれます。
そう、世界がこれほどまでに分断され、激動している今、唯一の処方箋はわかりみと Kawaii の二重奏に違いありません。オッサンだって自己実現してもいい。オッサンだって美少女になりたい。Kawai くないようじゃ、無理か。オッサンもね、Kawai くしておかないと。オッサンがすべからく HENTAI だと思うなよ!盲点。むしろ久しい。
今回弊誌では、Andrew Lee にインタビューを行うことができました。「僕の人生のすべてが “ハルヒ” と “らき☆すた” に捧げられている。これらの作品を見て、僕は自分をただ “アニメを見ている” 人間だと思わなくなり、真の “オタク “になれたのだから」 わかります。二度目の登場。 彼の本職 (?), RIPPED TO SHREDS も最高です。どうぞ!!

HOUKAGO GRIND TIME “KONCERTOS OF KAWAIINESS” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【NILE : THE UNDERWORLD AWAITS US ALL】 JAPAN TOUR 24′


COVER STORY : NILE “THE UNDERWORLD AWAITS US ALL”

“Nile Is Unconcerned With Delusions Of Functioning As an Ethnomusicological Museum Conservatory”

THE UNDERWORLD AWAITS US ALL

その名の通り、NILE はあの悠久の流れのごとく決して静止することはありません。10枚目のアルバム “The Underworld Awaits Us All” は、バンドにとってまた新たな王朝の幕開けとなりました。NILE のディスコグラフィにおけるこれまでの9作と同様、このアルバムもまた兄弟作とは一線を画すユニークな作品となっています。実際、唯一神 Karl Sanders 率いる砂漠の軍団は、アルバムごとに新たな王朝を開いていて、その芸術的刷新の傾向はこのアルバムでも続いています。太陽が昇るように規則正しく、バンドは再び前作から学んだことを取り入れ、その苦労して得た経験を頑丈な土台に注ぎ込み、ピラミッドの改築と再構築に役立てているのです。
「”Amongst the Catacombs of Nephren-Ka” と “Black Seeds of Vengeance” 以来、私たちが作ったアルバムはどれも、”他の NILE のアルバムに似ている “とか、”あのアルバムのようなサウンドにしたかったのか? “とか、好きなレコードのどれかに似ていると言う人がいることに気づいたが、私はシンプルに “メタルを作ることに集中する” ことを好む。人々が愛着を抱くような過去のアルバムを作ったことで、最終的に “やると呪われる、やらないと呪われる” 状況が生まれるのなら、我々は “呪われる” を選ぶんだ」
とはいえ、その新鮮さにもかかわらず “The Underworld Awaits Us All” は紛れもなく NILE のアルバムであり、すぐにそれとわかるバンドの特徴が焼き付けられています。好奇心をそそるエジプト学と古代史、練り込まれたオリエンタルなリフ、燃えるようなテンポと骨の折れるようなスローダウン。これは1994年に NILE がデビュー・デモをリリースして以来、創意工夫を重ねてきたデスメタルの異形であり偉業です。
そして30年後の今、私たちは “Chapter For Not Being Hunged Upside Down On A Stake In The Underworld And Made To Eat Feces By The Four Apes” “冥界の杭の上で逆さまに吊るされ、四匹の猿に糞を食べさせられることのないように” という信じられないようなタイトルの曲を食べさせられることになりました。決してその場しのぎではない、タイトルから曲調に至るまで、デスメタルを愛する人々のためのデスメタル。
新たな血の注入を受けた “Four Apes “は、NILE が今でもレッドラインを越えてなおアクセルを吹かせられることを証明しているのです。ドラマーのファラオ、George Kollias の音の壁を破るようなパフォーマンスだけでも YouTubeは大賑わいでしょう。ある意味、人間離れしたスピードとレーザーガイドのような正確さが組み合わさったこの曲は、過去にバンドが好んだテクニカルなワークアウトを進化させています。NILE のDNAは、そのカタログの総和。
ゆえに、”Four Apes” は2015年の “What Should Not Be Unearthed” のような楽しさがあり、2019年の “Vile Nilotic Rites” のようなダイナミックできらびやかな鋼鉄のサウンドデザインも完備しています。それでも、NILE に刻まれた DNA のもう1つ、改革に執着する部分も存分に発揮されています。

その改革と再生へのこだわりは、”The Underworld Awaits Us All” に深く入り込めば入り込むほど明確になっていきます。”Doctrine Of Last Things” は、NILE の真髄であるスローモーなリフをピラミッドのように積み重ね、盛り上げていきます。テクニカル・ドゥームを愛する多くのリスナーが、なぜこのバンドをマイルストーンとして挙げるのか。Sanders とその仲間たちがもたらす、脂ぎった、悪臭を放つグロテスクな音像はしかし、川の急流のように決して淀まず、静止せず、前へ前へと流れていくのです。
「我々は歴史保存協会ではない。どの曲もアイデアを見つけるのにかなりの時間を費やし、そしてそのアイデアを新しい場所に持っていく。リサーチするだけでは十分ではない。私たちに言いたいことがあることも重要だと思う。これまでのレコードを振り返ってみると、私たちがただ歴史を語っているのではないことがわかる。これは歴史小説だ。歴史小説という媒体を通して、私たち自身の視点や考えを伝えているのだよ」
アメリカを拠点とする NILE は今回も、エジプト学のダークなエッセンスを再びより集めました。エジプト地域の残忍でしかし神秘的な歴史に、これほど適切なサウンドトラックを提供したアーティストはこれまでいないでしょう。しかし Sanders は NILE の音楽が、まず文化の保存ありきではないと主張します。
「NILE は、民族音楽博物館としての機能には無頓着だ。我々は、何よりもまずメタル・バンドである。だから、民族音楽学上の食人族に近いかもしれない。我々のギター・リフの基礎となっている東洋的な様式や調性は、すべてのメタル・リフの遺産とも共通していて、その性質上、多様なアイデアの交配と再利用を推し進めているんだ。それは古代の文化を守ることとは正反対だ。私たちはそうしたアイデアを取り入れて新たなメタルを “作って” いるのだから」
NILE は、ただの文化的なトリビュート・バンドとみなされることへの挑戦を続けると同時に、30年の間に冥界を震撼させるような作品を次々と発表してきたことで、自分たちに課したプレッシャーも克服しているのです。だからこそ、過去のアルバムとは一線を画す部分があります。
「これはストレートな NILE のアルバムだ。東洋の影響を受けたトーンや様式美はまだそこにあるが、このアルバムの直感的な焦点は、メタルの純粋で野蛮な本質にある。私は最近、無意味にオーケストレーションされ、過剰にプロデュースされたレコードの数々を聴いてうんざりしていたので、このアルバムを書いている間、キーボードを下ろしてクローゼットの中にしまい込んだのさ」

Sanders はこの作品でデスメタルの意味を再発見しました。
「デスメタルのレコードは、まず殴打し、次に楽しませるものだと思う。思慮深く、より複雑でスローなものを最初にレコードの前面に出すと、人々は “ああ、これはブルータルじゃない。邪悪さが足りない。あいつらどうしたんだ?” ってなるからね。
それを、”Ithyphallic” で気づいたんだ。”Ithyphallic” の1曲目、”What May Be Safely Written” は、ビッグで長くて壮大な野獣のような曲だけど、必ずしも即効性のある曲ではない。かけてすぐにバーンという感じではない。奇妙で、クトゥルフ的で、クトニックなスタートだった。あの曲に対するリアクションが、このレコードをどうするか、決定づけたんだ。ハードでツボを押さえた曲を前面に出さなかったせいで、迷子になってしまった人もいると思う。教訓を得たよ。まずは頭を殴って、それから別の場所に連れて行こう」
デスメタルに音楽理論は必要なのでしょうか?
「でも、ギターというのは本来、自分が何をやっているのかわからなくてもいいものだと思う。CELTIC FROST のフロントマンである Tom G. Warrior は、ギターで何をやっているのかさっぱりわかっていないが、信じられないような音楽を作っている!
私が知っているデスメタルを演奏している人たちの中には、自分が何を演奏しているのかまったくわからないのに、音楽を作っている人たちがいる。では、理論は必要なのか?いいえ」
しかし、Sanders 自身は音楽をもっと深く掘り下げているように思えます。
「私はいろんなタイプの音楽を聴く。それは NILE の音楽にも表れていると思う。CANNIBAL CORPSE と SUFFOCATION しか聴かない人、とは思えないよね。NILE を聴くと、他のものもたくさん聴こえてくる。でも、それは必ずしもデスメタルにとって必要なものではない。
つまり、デスメタルばかり聴いていれば、デスメタルをうまく演奏できるようになると思うよ。実際、そういう人はたくさんいるけど、私はたまたまいろんなものが好きなだけなんだ。
影響を受けたものが1つだけだと、音楽的には満足できない。世の中には宇宙みたいに広い音楽の海があって、楽しめるものがたくさんある。実際、クソほどたくさんの音楽があり、クソほどたくさんのギターがある。学べば学ぶほど、自分が何も知らないことを知ることになる!」

A面、B面というロスト・テクノロジーもこの作品で再び発掘されました。
「レコードのシーケンスは、デジタルの時代になって失われた芸術だと思う。70年代には、アイズレー・ブラザーズのレコードがあった。A面はパーティーのレコードで、B面までに誰かとイチャイチャしていなければ、大失敗だ。
10代の頃、友達の家に集まってレコードをかけて、ハイになって、しばらくアルバムのジャケットを見つめていたね。A面とB面の曲順は本当に重要だった」
実際、NILE はエジプトの歴史を紐解くだけでなく、ロックやメタルの歴史をも紐解いているのです。
「ブルータルなリズム・パートから別のリズム・パートへと移行し、フィーリングを変化させたり、フックの到来を予感させたりするようなパッセージ。それは、エレクトリック・ギターの先駆者たちにさかのぼる。ブルースやジャズのコード進行、モチーフ、ターンアラウンドからね。それらははすべて、CREAM やEric Clapton, 初期の Jeff Beck といった初期のものを研究した結果なんだ。Jeff Beck! なんてすごいギタリストなんだ!
レノンとマッカートニーの作品を研究するだけでも、学べることはたくさんある!たとえ君がテクデスを演奏していたとしても、何であれ、ソングライティングはクソ重要だ。音楽的な要素をどのように取り入れ、それらを使って音楽的なストーリーを語るかを知ることは、ただ空から降ってくるようなものではない。
そのためには多くの技術が必要で、巨匠たちの作品を研究することが重要だ」
“The Underworld Awaits Us All” におけるバンドのヴィジョンは、そうしたロックの生々しく奔放で野蛮さのある作曲をすることでした。
「過去の NILE のアルバムでは、確かにエキゾチックな楽器をふんだんに取り入れた。バグラマ・サズやグリセンタール、トルコのリュート、古代エジプトのアヌビス・シストラムに銅鑼、様々なパーカッションなど、自分たちの手で演奏するアコースティックな楽器もあれば、キーボード、ギター・シンセ、映画音楽のライブラリもあった。すべてが混ざり合って、静かに脳を爆発させる音楽。
それはそれでとても楽しいよ。弦楽器では、ギターのテクニックをクロスオーバーさせることもある。バグラマやグリセンタを手にしたときでも、私がメタル奏者であることに変わりはない。やっぱり自分なんだ。つまり、魔法のようにマハラジャに変身したりはしない。私はメタル・パーソンだからな。
でもね、今回は曲の進展が進むにつれ、合唱パートをキーボードで考えるのではなく、本物のヴォーカリストにやってもらおうと思ったんだ。高校時代の友人が地元のゴスペル・クワイアで活動していて、4人のゴスペル・シンガーを紹介してくれた。ゴスペル・シンガーたちとのレコーディング・セッションは、とても素晴らしいものだった。彼らは私たちが誰なのかも、デスメタルというものが一体何なのかも知らなかった。しかし、レコーディング・セッションが進むにつれて、彼らはブルータルなグルーヴとの天性の関係をすぐに見出し、あっという間にヘッドバンギングをしていたよ」

Sanders がたどり着いたリフの極地。それは、シンプルであること。
「初期の CELTIC FROST の大ファンなんだ。シンプルな曲で、シンプルなギター・パートなのに、信じられないほどヘヴィなんだ。
リフやアイデアがシンプルであればあるほど、より直接的な結びつきが生まれ、その重みを感じることができる。重さ、破滅、それはとてもとらえどころのないものだ。あまりトリッキーになりすぎると、破滅の感覚をすぐに失ってしまう。それは儚いものだ。鹿のように逃げてしまう!
そう、シンプルなリフが重要なんだ。この NILE の新譜では、すべての新しいクレイジーさに混じって、スローなリフがたくさんある。
それに、シンプルであること自体が美しいこともある。ある曲のヴァージョンがあるんだけど、ちょっと待って、思い出そうとしているんだけど、古いルー・リードの曲で、”Sweet Jane” という曲なんだけど、15年前に誰かがそれを発表したんだ。シンプルなアコースティック・ギターで、アンビエンスがたくさんで、ボーカルが1レイヤー入っていて、他には何もないんだけど、今まで聴いた中で一番美しくて、心を揺さぶられるような曲だった」
アコースティックな楽器の演奏を覚えるのは、メタル・パーソンの嗜みだと Sanders は考えています。
「よく自問自答するんだけど、現代にはエレクトリック・ギターや大きなドラム・キット、エレクトリック・ベースがある。5,000年前の人々は、邪悪でクソみたいなことをやりたいとき、どうしていたのだろう?ってね。エレキギターはなかった。持っているもので何とかするしかなかった。
逆に、もし人類が滅亡してしまったら……黙示録がやってきたら、私はどうやって生きていけばいいんだろう?電気がなくなったら、どうやってエレキギターを弾けばいいんだ?だから、アコースティック・ギターを弾けるようになった方がいい。4,000年前にはアコースティック楽器しかなかったわけだから」

もうひとりのギタリスト、Brian Kingsland とのコンビネーションも熟成されてきました。
「Brian がギタリストとしてやっていることの新鮮さがとても好きだ。彼は、必ずしもメタル的なアイディアではないけれども、それをメタル的な文脈の中で演奏している。例えば、彼はピックと3本の指で複雑なアルペジオ・シークエンスを演奏するんだけど、それは必ずしもメタルの文脈では見られないものなんだ。
例えば、ふたりでマイナーセブンスフラットファイブ(m7b5)のアルペジオを弾いても、彼はピックだけじゃなくて指も使っているから、ヴォイシングが全部変わっていく。
彼が簡単そうに聴かせるから、聴いているとすべてがスムーズで簡単に聴こえるが、実際にやっていることはとても新鮮だ。このアルバムで彼が書いた曲のコード・ヴォイシングのいくつかは、”なんてこった!天才だ!” って感じだ。彼は私とはまったく違うスタイルを持っているのに、NILE のやっていることを正確に理解している。このギター・チームには本当に満足しているよ」
いつかは “Doom” のようなゲームのサウンド・トラックを作りたいという野望もあります。
「僕は “Doom” のファンなんだ。”Doom Eternal” のサウンド・トラックは神がかり的で、そのサントラも持ってるよ。家事をしながら聴いているんだけど、そうすれば、家の中で何かしていても、それがくだらない家事であっても、”Doom” をやっているように感じられるから、苦に感じないんだ(笑)
メタルはこういう壮大なストーリーにとても適している。誰かが NILE の音楽を取り上げて脚本にする必要があるね!」
NILE の作曲法には黄金の方程式があります。
「僕らの曲作りに秘密のハックや近道があるかどうかはわからない。でも通常、その道は歌詞から始まり、曲はそこから発展していくんだ」
実際、NILE のストーリーテリング能力は驚異的です。エジプトの神々が戦争を繰り広げ、人類を混乱に追いやった遠い過去へとリスナーを即座にいざなうことができるのですから。そして驚くべきことに、彼らが語る神話的なエピソードは、しばしば現代の私たちの世界と共鳴していきます。

例えばテム (アトゥム) 神。タイトル・トラック “The Underworld Awaits Us All” の主題である創造神テムは、同じ名前の略奪的なオンラインショッピングサイト Temu の形で復活したのかもしれません。Sanders は、神をデジタルの形で解き放つという役割に喜びを感じています。
「PCのスタートページに Temu が現れ、すでにアマゾンで買ったものを売りつけようとするのを見るたびに、このタイトル曲の歌詞を思い出すよ。”死がなかった時代があった、テム神だけが存在した時代が”。
今考えているのは、このアルバムがリリースされたら、Temu のAIボットが私に直接広告を出して、 “The Underworld Awaits Us All” を Temu で買わせようとするなんて皮肉な未来だ。いずれわかるだろう」
とはいえ、メタルはデジタルの恩恵も強く受けています。Sanders はメタルとギターの進化に目を細めています。
「新しいデスメタルはファンがいろいろ送ってくれるから、どんなことがあっても見つけられる。私の受信箱はバンドからの問い合わせでいっぱいだ。デスメタルからは逃れられないんだ。でも、私たちは今、メタルという芸術の爆発的な進化の中に生きていると思う。
YouTubeの登場は、音楽活動のあり方を大きく変えた。例えば私が演奏を学んでいた頃は、YouTubeはなかった。何かを学ぶことは、必ずしも今ほど簡単ではなかった。でも今は、もし君が若いギタリストなら、スティーブ・ヴァイと入力するだけで、ビデオが150本も出てくる。そしてそれを見ることができる。
誰かが何かをやっているのを見るのは、それをただ聴くのとはまったく違う経験だ。好むと好まざるとにかかわらず、私たちは霊長類なのだ。だから今、私たちは、信じられないほど豊富なギター演奏の知識に瞬時にアクセスできる世代を持つことになった。クリックひとつで、しかも無料で。
それを理解し、ハングリーで、何かを学びたいと思っている人たちにとっては、まさにうってつけだ。ここ10年のギター・プレイのレベルは、こんな感じだ!生きていてよかった。まさにメタル・リスナーのための時間だよ」
同時に、怒りが渦巻く世界で、その対処法も古代エジプトからヒントを得ました。
「”Stelae Of Vultures”(禿鷹の墓)。個人的なアンガーマネジメントみたいなものだね。エンナトゥムがウンミテ人を容赦なく虐殺し、その殺戮を楽しんだときに何が起こったのか?いったいなぜ彼は人々を虐殺し、ハゲタカの餌にするようなことをしたのか?なぜ彼は殺戮と残虐行為に酔いしれたのか?誰も、戦いの初期に彼が矢で目を撃たれたことについては言及しない。矢で目を撃たれるなんて、痛いに決まっている。一日中痛むに違いない。慈悲や人間性という概念が窓から消えてしまうに違いない。
これは人間の状態を表す良いたとえ話だ。目には目をというだけではない。目には目をから始まり、そして飽くなき、しかし破壊的な血の欲望を鎮めるために、さらにもっととエスカレートしていく」

つまり、NILE の曲は過去からのストレートな伝言ではなく、例えばホメロス詩や、ヘロドトスの歴史のように神話や伝説が入りこんでいます。さらに、曲によってはラブクラフト的な超自然的な感覚も存在するでしょう。
「私のプロセスはシンプルだ。曲を書く時間だ。本棚に行く。ランダムに本を選ぶ。これは僕が持っている “死者の書” の一冊だ。目を閉じて開き、 目を開けて、そこに何があるか見る。
たいていの場合、これは曲作りの方法としては愚かなことだ。なぜなら、本を開いて適当なページを開いても、そこにはメタルの曲になるようなものは何もないからだ。でも、何十回かに1回くらいは、本を開いて “これはメタル・ソングになるかもしれない” と思うことがある。
“冥界の杭に逆さまに吊るされず、4匹の猿に糞を食わされないための章” がそうだ。私は “死者の書” を第181章まで開いた。逆さ吊りにされず、糞を食べさせられないための章だった。それを見て、これはメタルの曲になると思ったんだ。そして、本から与えられたものを何でも、時にはとんでもなく薄いものでも、メタルの曲に変えてしまうんだ。そうすると大抵、他の本を手に取らなければならなくなる」
だからこそ、ある意味確立された歴史よりも、未だ未知なる歴史の方が題材にしやすいと Sanders は考えています。
「泥沼に片足を突っ込んでしまえば、その泥沼で水しぶきを上げるのは簡単だ。だから私は古王国時代(王朝時代以前の時代)が好きなんだ。その時代について実際に知られていることは少ない。だから、デスメタルのようなアーティスティックな表現もしやすい。私たちは古代史のバランスの取れた視点を提示しているのではない。デスメタルの曲を書いているんだ。それは2つの異なることなんだ。4,000年前の土器を大切に保存する歴史保存協会とは違うんだ。私たちはデスメタルの曲を書いているんだ。無名で誤解されているものを掘り起こして、より誤解されるようにしているんだ。それがとても好きなんだ」
エンターテインメントが学びの入り口となることはよくあることです。
「だから、このままでいいと思う。今、考古学者や大学教授として活躍している人の何割が、ボリス・カーロフの映画で初めてエジプト学に触れたのだろう?では、それは本当に悪いことなのだろうか?歴史について本当に知りたければ、図書館に行くなり、ヒストリーチャンネルを見るなり、インターネットを見るなりして、自分で実際に少し読めばいい。ハリウッドは、そして我々は人々を楽しませるのが仕事であり、その過程で自由を奪うことはできない。エンターテインメントが教育に優先すると決めたのは社会だからな!」


参考文献: NEW NOISE MAG:INTERVIEW: KARL SANDERS OF NILE TALKS ‘THE UNDERWORLD AWAITS US ALL’

STEREOGUM:Animals Of The Nile: An Interview With Nile’s Karl Sanders

METAL INJECTION:INTERVIEWSKARL SANDERS Talks Creating “Music For Tripping” On Saurian Apocalypse, Three Decades Of NILE & The Evolution Of Metal

GUITAR WORLD : KARL SANDERS

SOUNDWORKS DIRECT JAPAN

日本盤のご購入はこちら。Ward Records

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【GLYPH : HONOR. POWER. GLORY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JEFF BLACK OF GLYPH !!

“Honor. Power. Glory.” Sums Up All The Fun, Silly And Awesome Things About Power Metal That We Love. Something That’s Really Important To Us Is To Do Things That Are a Little Crazy And Over The Top, Like In Pro Wrestling!”

DISC REVIEW “HONOR. POWER. GLORY.”

「”Honor. Power. Glory.” というタイトルは、僕たちが愛してやまないパワー・メタルの、楽しくて、バカバカしくて、だからこそ最高なものすべてを要約してくれている。僕らにとって本当に大切なことは、プロレスのようにちょっとクレイジーで大げさなことをすることなんだ!多くのバンドは、自分たちの音楽スタイルにある馬鹿げたことを受け入れるにはクールすぎる感じに振る舞っているけど、僕らはその真逆をやりたいんだ」
“GLYPH。彼らは単なるヘヴィ・メタル・バンドではなく、宇宙船VSSドラゴンロードで滅びゆく惑星を脱出する銀河系傭兵のクルー。明らかに、彼らはただ曲を作っているのではなく、新たに世界を構築している”。
そんな謳い文句がしっくりくるほど、GLYPH の音楽やルックはあまりにも大仰でシアトリカルです。それは、彼らがメタルを WWE のようなあからさまで、しかしリスナーに勇気を与える素晴らしきエンターテイメントだと信じているから。エンタメではとにかく突き抜けた者が勝者。そんな彼らのメンタリティは、確実に現代のシリアスなメタル世界に一石を投じます。そう、メタルは現実を見つめても、現実から逃避しても、勇気を出して現実と対峙してもかまわない。そんな寛容な音楽なのです。
「もし人々が GLYPH から強さ、希望、勇気を見出してくれるなら、僕たちは自分たちの仕事を正しくやっているという証拠だよね。パワー・メタルは今、特に北米とヨーロッパで盛り上がっているよ。SABATON, POWERWOLF, WIND ROSE のようなバンドがこのジャンルに新しい息吹をもたらし、人々はその息吹に大きく反応している。ファンタジーやSFを題材にした音楽とつながる “オタク” と呼ばれる人々の文化全体が、かつてないほど大きくなっているんだよ」
栄誉。力。栄光。まるで、努力、友情、正義を掲げた少年ジャンプのようなアルバム・タイトルも彼らの “やりすぎ” なパワー・メタルにはよく似合います。そして彼らはこの場所から、リスナーに強さや希望、勇気といったポジティブなエナジーを見出して欲しいと願います。パワー・メタルというジャンル自体も、この暗い世界でかつてないほどに輝きを放ち始めました。それはある意味、抑圧され、逃げることを余儀なくされたアニメや映画、ゲームといったファンタジーの信奉者、”ナード” “オタク” と呼ばれしものたちのレコンキスタなのかもしれませんね。
「現代のパワー・メタル・バンドをいくつか聴いて、複雑な気持ちになったんだ。曲作りがタイトで即効性があり、コーラスやフックの力強さが好きだったんだけど、ただそこにはメタル要素(リフやソロ)がかなり不足しているように聴こえたんだ。だから、90年代や2000年代のパワー・メタルのクールな要素を取り入れて、タイトでメロディ主導のソングライティング・スタイルに持っていったら面白いと思ったんだ」
そして何より、GLYPH のパワー・メタルには華があります。現代のパワー・メタル、その華のなさ、足りないクレイジーに不満を持って始めた新世代のバンドだけに、DRAGONFORCE や SABATON の剛と勇、そこに90年代が輩出した STRATOVARIUS や BLIND GUARDIAN のシュレッドやエピックが存分に埋め込まれたメタルの園はもはや楽園。もはやその実力はデビュー作にして TWILIGHT FORCE や GLORYHAMMER にも匹敵しています。残念ながら、優れたフロントマンの R.A. は脱退してしまいましたが、もちろんメタルの回復力でより強くなって戻ってきてくれることでしょう。
今回弊誌では、Jeff Black にインタビューを行うことができました。「17歳のときに2ヶ月間日本を訪れたこともあるんだ。 学生時代は漫画やアニメに夢中で、今でも時々見ているよ。好きだったシリーズは、”るろうに剣心”、”カウボーイビバップ”、”新世紀エヴァンゲリオン”、”エルフェン・リート”。ファンタジーやSFに対する日本のアプローチにはいつも感心しているんだ。とても独特で無節操なんだ。スピリチュアルやファンタジーの要素がたくさんあって、でもロマンスなど他のジャンルにも入り込んでいるからね」 新たなキーボード・ヒーローの誕生。どうぞ!!

GLYPH “HONOR. POWER. GLORY.” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DAATH : THE DECEIVERS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH EYAL LEVI OF DAATH !!

“I Think That This Is The Best Time In History To Be a Musician. Because, Just The Only Time In History Where You Have Been Able To Reach The Masses And Reach Niche Audiences Are On Your Own Without Having a Huge Labour.”

DISC REVIEW “THE DECEIVERS”

「今はミュージシャンとして史上最高の時期だと思う。というのも、大衆にリーチし、ニッチな聴衆にリーチすることができる。巨大な労働力を使わずに自力でね。今はそんな歴史上唯一の時代だからね」
2000年代初頭。New Wave of American Heavy Metal 通称 NWOAHM の波が盛り上がりを見せ始めました。”ヨーロピアン・スタイルのリフワークに乾いた歌声を乗せて、メタルをメジャーに回帰させる” というムーブメントはたしかに一定の成果を上げ、いくつかのメタル・バンドはメジャー・レーベルと契約していきました。特に熱心だったレーベルがロードランナー・レコードで、当時新進気鋭のバンドをまるで豊穣な木に実ったおいしい果実のように青田買いを続けたのです。
DAATH もロードランナーに見出されたバンドのひとつ。他の NWOAHM とは明らかに一線を画していましたが、さながら十把一絡げのようにレーベルは彼らと契約。2007年の “The Hinderers” で大成功を収め、その年の Ozzfest にも出演しました。彼らのデスメタルには、バークリー仕込みのウルトラ・テクニック、高度な建築理論、さらにオーケストレーションとエレクトロ的なセンスがあり、まさに彼らの名曲 “Dead On The Dance Floor” “ダンス・フロアの死体” を地でいっていたのです。旧約聖書の生命の樹、その隠されたセフィアの名を冠したバンドの才能は、”どこにもフィットせず”、しかし明らかに際立っていました。
しかし、御多分に洩れずロードランナーのサポートは停滞。その後、DAATH は何度もメンバー・チェンジを繰り返し、レコード会社を変えながら数年活動を続けましたが、2010年のセルフタイトルの後、実質的に活動を休止したのです。世界は14年も DAATH を失いました。しかし、SNS や YouTube といったプラットフォームが完備された今、彼らはついに戻ってきました。もはや巨大な資本や労働力よりも、少しのアイデアや好奇心がバズを生む現代。”どこにもフィットしない” ニッチな場所から多くのリスナーへ音楽を届けるのに、今以上に恵まれた時代はないと DAATH の首謀者 Eyal Levi は腹を括ったのです。
「シュレッドは戻ってきたと思うし、シュレッディングはしばらくここにある。それがバンドを復活させるのにいい時期だと思った理由のひとつでもあるんだ。リスナーは今、シュレッドやテクニックを高く評価して、ヴァーチュオーゾの帰還を喜んでいるように思えたんだ。全体として、今の観客はもっとオープンになっているように感じる。今はヘヴィ・ミュージックをやるには歴史上最高の時代だと思うし、それが観客が楽器の可能性の限界に挑戦するバンドやアーティストに飢えている理由のひとつなんだ」
Eyal はもうこれ以上待てないと、ほとんどのメンバーを刷新してこの再結成に望みました。そして今回、彼が DAATH のメンバーの基準としたのは、ヴァーチュオーゾであること。そして、異能のリード・パートが書けること。
そもそも、Eyal からして父はイングヴェイとも共演した有名クラシック指揮者で、音楽の高等教育を受けし者。そこに今回は、あの OBSCURA でフレットレス・ギターを鳴らした Rafael Trujillo、DECAPITATED や SEPTICFLESH の異端児ドラマー Krimh、さらにあの Riot Games でコンポーザーを務める作曲の鬼 Jesse Zuretti をシンセサイザーに迎えてこの “シュレッド大海賊時代” に備えました。念には念を入れて、Jeff Loomis, Dean Lamb, Per Nillson, Mark Holcomb といった現代最高のゲスト・シュレッダーまで配置する周到ぶり。
「自然を見ると、例えば火山のように、美しいけれど自然がなしうる最も破壊的なこと。海や竜巻など、自然には素晴らしい美しさがある一方で、破壊的で残酷な面もある。だから、美しさと残忍さ、あるいは重苦しさの中の美しさは、必ずしも相反するものだとは思わない。だから、僕のなかでヘヴィで破壊的で残酷な音楽と、美しいメロディやオーケストレーションはとてもよくマッチするんだ。というか、真逆という感覚がないね。メロディーやオーケストレーションは、ヘヴィネスの延長線上にあるもので、音楽をより強烈なものにしてくれる」
そう、そしてこの “The Deceivers” にはまさに旧約聖書のセフィア DAATH が目指した美しき自然の獰猛が再現されています。”妨害者”、”隠蔽者”、そして “詐欺師” を謳った DAATH の人の欺瞞三部作は、人類がいかに自然の理から遠い場所にいるのかを白日の下に晒します。欺瞞なき大自然で、美と残忍、誕生と破壊はひとつながりだと DAATH の音楽は語ります。愚かなプロパガンダ、偽情報に踊り踊らされる時代に必要なのは、自然のように飾らない正直で純粋な魂。
Riot Games の Jesse が手がけた荘厳なオーケストレーションを加えて、”The Deceivers” の音楽は、さながら RPGゲームのボス戦が立て続けに発生するようなアドレナリンの沸騰をリスナーにもたらします。いや、むしろこれはメタルのオーケストラ。そしてこのボス戦のデスメタルが戦うのは、きっと騙し騙され嘘を生業とした不純な現代の飾りすぎた魂なのかもしれませんね。
今回弊誌では、Eyal Levi にインタビューを行うことができました。「インストゥルメンタル・プログレッシヴの POLYPHIA や INTERVALS, PLINI, SHADOW OF INTENT がそうだよね。とてもとてもうまくやっている。芸術的な妥協はゼロでね。僕らの時代にこのようなタイプの技術があれば、よかったと思うよ」 どうぞ!!

DAATH “THE DECEIVERS” : 10/10

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COVER STORY 【TURNSTILE : HARDCORE RENAISSANCE】FUJIROCK 2024


COVER STORY : TURNSTILE “HARDCORE RENAISSANCE”

“Hardcore Can Be Whatever Anyone Wants It To Be.”

TURNSTILE LOVE CONNECTION

ボルチモアの TURNSTILE は妥協を許さないエネルギーと伝説的なライブで、ハードコアを全く新しいオーディエンスに紹介しながら、純粋主義者までも納得させる現代のダ・ヴィンチです。
フロントマン Brendan Yates は、たとえその両輪が困難な道だとしても、自分の心に従うべきだと固く信じています。
Yeats のその信念は、2021年のアルバム “GLOW ON” の中心にあり、このアルバムは、シンガーと彼のバンドメイトをスーパースターへと急速に押し上げました。”GLOW ON” は2023年のグラミー賞で3部門にノミネートされ、TURNSTILE は BLINK 182の2023年夏のツアーに参加することになったのです。
そして今や TURNSTILE は、メインストリームの音楽界で起きているハードコア・ルネッサンスの中心にいます。ラッパー、ロッカー、シンガー、プロデューサーたちは皆、このジャンルが築き上げてきた荒々しいエネルギーと獰猛な信憑性の一部を自らの中に取り込もうとしているようです。
今では、どのラッパーもライヴでモッシュピットを起こそうとしているように見えます。他のミュージシャンがハードコアのサウンドを “瓶詰め” にして持ち帰ろうとしている一方で、TURNSTILE は新たなハードコアの栓を抜き、ハードコアの魅力を薄めることなく、より広く、より多様で、より包括的なオーディエンスにハードコアを広めようとしているのです。
ハードコアのルーツは70年代後半まで遡ることができます。そして、BAD BRAINS, MINOR THREAT, BLACK FLAGのようなバンドが、当時流行していたアヴァンギャルドなニューウェーブ・ミュージックとは対照的な存在だったおかげで、このジャンルは80年代に一時代を築きました。それまでのパンク・ロックよりもハードで、より速く、よりアグレッシブなハードコアは、常にスピードと激しさ、そしてそう、”本物” であることを大切にしてきたのです。ギタリストの Pat McCrory はハードコアの自由についてこう語っています。
「ハードコアには自由がある。自分が本当に大切にしていることを歌っている限りね。そうすれば、オーディエンスは耳を傾けてくれるし、内容を理解することができる」

このジャンルの生涯の学習者だと主張する TURNSTILE のメンバーは、その習慣と伝統を尊重しながらも、今までのどのバンドよりもこのジャンルの境界線を押し広げようとしています。”GLOW ON” は、”TLC” や “Don’t Play” を筆頭に、伝統的なハードコア・ミュージックに根づくスラッシュ・ギターとファストなテンポに満ちていますが、同時にアルバム全体を通して外部の要素も貪欲に取り入れています。”HOLIDAY” や “MYSTERY” ではバンドの研ぎ澄まされたグルーヴが際立ち、”BLACKOUT” は複雑なドラム・ソロがエピローグ。”FLY AGAIN” では Yates が荘厳なボーカルを披露し、”NEW HEART DESIGN” や “UNDERWATER BOI” ではラジオ向けのリズムとリフをけれんみなく披露します。
ドラマーの Daniel Fang は TURNSTILE のサウンドの拡大についてこう感じています。
「”伝統的 “という概念がない方が、僕たち全員が人生を楽しめると思うんだ。僕らのバンドは、常に特定のサウンド、文化、コミュニティ、歴史に根ざしている。でも、時には、束縛されず、痒いところに手が届くような、自分たちの感情に従っていくのが好きなんだ。伝統的なものに縛られることは、発見すべき感情を制限するだけだから」
“Glow On” のレコーディングは MASTODON, AVENGED SEVENFOLD から Eminem, Jonas Brothers まであらゆるバンドを手がけたベテラン・プロデューサーのマイク・エリゾンドがおこないました。以前はハードコア・シーンの友人たちとコラボレートしていましたが、マイクの多彩な経験と新鮮な耳によって、彼らは新しいサウンドに挑戦することができたのです。
「マイクはメタル系のアーティストとも仕事をしたことがあるけど、Dr.Dre の下で育ち、フィオナ・アップルのようなアーティストとも仕事をしたことがある。彼がレコーディングしてきたアーティストのスペクトルの広さは、TURNSTILE のような必ずしも簡単にはひとつのカテゴリーに入らないバンドにとって、彼が理にかなっていることを意味していたんだ」
Yates が初めて共同プロデュースにも手を染めたことで、TURNSTILE はソウルやサイケデリア、ラップ・ロックやR&Bに、オルタナティブ・ポップやインディの新しい色合いを重ねることができるようになりました。それは、人間の感情の “複雑で多次元的” な性質を首尾一貫した音の構成に抽出する試み。
「このアルバムは、多くのダンス・ミュージックにインスパイアされている。僕たちは常にリズムを重視している。どの曲も意図的に、いや、意図的ではないのかもしれないが…ダンサブルだ。超高速やグルーヴィーである必要があるという意味ではなく、ミッドペースでもスローでも何でもいい。ラテンのマレンゲのリズム。ジャズ・ミュージック。ハードコアのヘヴィなグルーヴ。興奮が絶えないということなんだ」

ハードコアとジャンルを横断するプログレッシブさが闊達にブレンドされた TURNSTILE の音楽は、資本主義とは遠い場所にあると Yates は語ります。
「音楽を作るという個人的な充実感以外に、何らかの利益を追い求めることはない。その点で、”Time & Space” は可能性を広げてくれた。自分たちがやりたいことを何でもやっていいんだと思えるようになったからね。やりたくないことをやらなければならないというプレッシャーを感じなくなった。もちろん他の人たちが意見を言ったり、何かを参考にしたりすることはできるけど、僕たちは自分たちが大好きで、自分たちにとって特別だと感じる音楽を作ることに集中しているんだ。
僕たちは音楽を仕事として見たことがない。ビジネスや商業的な問題とは常に切り離されている。自分が何をしたいのかわからないまま大学に行ったときでさえ、”音楽は僕の特別なものだから、音楽は仕事にしない” と言ったんだ。
人生は非常に短い。もし、経済的な理由で、気分が乗らないことをするような、犠牲を払わなければならないような状況になったら、生きているとは言えないだろう」
Yates が音楽を愛しているのは、常に経験が加算されていくところ。
「音楽のクールなところは、それが音楽を作ることであれ、インスパイアされることであれ、常に前進する軌跡を持っていることだ。音楽のDNAは、常に追加されていくものなんだ。人生って結局、人、物、出来事など、さまざまな影響やインスピレーションに興奮することだよね。音楽もその影響を入れ替えるのではなく、加えていくんだ」
Yates にとって、執着を無くす、止まらない、新たなものを受け入れるマインドが音楽にプラスに働いています。
「音楽を作ったり、独立したり、旅をしたりするときには、とても流動的であることが重要だと思う。非常に自覚的に変化を受け入れ、新しいことを受け入れるということ。なぜなら、自分のイデオロギーや活動方法、あるいは自分が楽しんでいることの周りに障壁を作れば作るほど、自分自身を制限しているようなものだからだ。バンドに関して言えば、常にオープンマインドを保ち、たとえそれが過去に興奮したり、インスピレーションを受けたりしたものと違っていても、新たな物事の中にある美しさを探そうとすることだと思う。だから、音楽や、ツアーなど、バンドとしてやると決めたことに関しては、常に最も快適で明白な決断を選ばないようにしている。というのも、常に流動的であること、新しい経験やものに対してオープンであることが重要だと思うからだ」

フランク・ザッパ、デヴィッド・ハッセルホフ、エドガー・アラン・ポーなど、さまざまな著名人を育てたボルチモアの小さなコミュニティと多様性も、彼らの万華鏡のようなサウンドに大いに役立っています。「僕はいつも、呼ばれればどこへでも行くという考えをオープンにしてきた。でもボルチモアは特別なんだ。ニューヨークやLAのように、たくさんの人々が音楽を作っていて、自分が大海の中の小さな魚になってしまうような場所ではない。アート、音楽、スケートなど、さまざまな世界の多様な人々が集まる、とても親密な街で、独特の美しさがあるんだ」
TURNSTILE は近年の爆発的な評判を利用して、同じエネルギーと多様性を世界規模で体験しています。
「ヘヴィとかギター・ベースのバンドは僕らしかいないフェスティバルで演奏する機会もあった。自分たちがやっていることとはまったく関係がない人たちともつながることができるんだ」
TURNSTILE は、数え切れないほどの様々なクラブ・ショーに加え、Tyler, The Creator の Camp Flog Gnaw Carnival, Jay-Z の Made In America Fest, そしてあの Coachella にも招待されました。そんな中で Yates は、2019年8月にノルウェーのトロンハイムで開催された Pstereo を、ロンドンのインディー集団 Bloc Party、エセックスのエレクトロニック・アイコン Underworld、フランスのシンセ・ウェイヴの謎Carpenter Brut らと共演した、特に目立ったイベントとして挙げています。
「すべてが美しいバランスなんだ。ある日、あのようなフェスティバルで演奏し、次の日には小さな地下室のDIYショーで演奏する。いつだって自分は自分なんだ。それを受け入れ、誰とでも分かち合おうとすることだ。軌道を選ばず、どんな経験にもオープンであること。成り行きに任せるんだ」
成り行き任せ。それは、彼らのクリエイティブな精神をますます支えています。
「僕たちは、アイデアを持つこと、そして、それが正しいと感じること、そして僕ら5人を適切に反映すること以外に何も心配することなく、それを音楽にすることができる。僕たちがこれまで歩んできた道。今いる場所。これからどうなりたいか..」

そのサウンドに加え、ライブもハードコアの重要な要素です。ハードコアのライブにおいて、バンドと観客の間にある本当の区別は、誰が音楽を演奏しているかということだけ。それはカタルシスであり、感情の美しい共有、解放であり、モッシュピット、ステージ・ダイブ、ヘッドバンギング、超越を追い求める抑制の解放という形のセラピーだと彼らは言います。
「好きなだけ大声で歌ってもいいし、モッシュしてもいいし、ステージダイブしてもいい。バンドがやっていることも、観客がやっていることも、まったく同じことなんだ」
TURNSTILE のライヴに参加することは、ナイフで切れるほど鋭く、濃厚で豊かなエネルギーに身を浸すこと。うねるような群衆の塊に身を委ね、汗と魂を分かち合うこと。ベーシストの Franz Lyons は 「ライブを見なければわからない」と語っていますが、それは決して誇張ではありません。
「目標は、バンドと応援に来てくれる人々との間にできるだけ距離を置かないようにすることなんだ。みんなが何かの一部であることを感じ、ライブで何が起こっても受け入れてほしいんだ。様々な人生を歩んできた人たちと、その経験を分かち合うことは本当に最高にクールなことだからね」
TURNSTILE の強烈な世界とは裏腹に、バンドのメンバーは皆、気取ったり、ステレオタイプのロックスターの態度に似たものは一切なく、実際に会うと、とても親切でオープン。4人のメンバー(と現在のツアー・ギタリスト Meg Mills) の間にある本物の絆は、このバンドが根強い信頼性を持っている証拠。TURNSTILE はそして、名声が高まるにつれて、ファンベースとより心を通わせていきました。
「何かをするときはいつも、その裏にある意図に全エネルギーを注いでいる。僕たちのサウンドもそうであるように、僕たちのオーディエンスはその意図までも感じることができ、個人的に語りかけてくるのだと思う」
TURNSTILE は5枚のEP、3枚のスタジオ・アルバムをリリースしていますが、サウンドが進化したとしても、バンドのプロセスは不変です。
「僕たちは、自分たちにとって良いと感じれば音楽を発表する。シンプルなことだ。僕たちのゴールは、常に個々人が自分自身とつながっていることであり、そうすればグループとして、自分たちがつながることができる音楽を作れる。そしてそうすることで、自然と他の人たちにもつながる機会が生まれると思う。排他的にはなりたくない。それこそがマジカルなんだ」

つながりといえば、友人とのつながりも大事にする TURNSTILE にとって、POWER TRIP のフロントマンでハードコア界の革命児 Riley Gale の死はあまりにも衝撃的でした。”Thank you for let me C myself / Thank you for let me B myself!” と、傑出したT.L.C.(Turnstile Love Connection)で彼らは感謝を込めて吠え、しかし、”Fly Again” の “それでも君が残した穴を埋められない!” という叫びは、彼らのバック・カタログのどれよりも荒々しく、絶望的な感じが伝わります。
「孤独。漂流感。生きる意味。”Glow On” のテーマは自分が人として世界に与える影響や、自分がこの世からいなくなった時に何を残したかについての大局的な考察なんだ…」
TURNSTILE がさらに前進するにつれて、フロントマンは自分たちをハードコア・バンドと呼ぶのはフェアなことだと主張しますが、ジャンルの定義からはますます遠ざかっています。
「レッテルはあまり好きじゃなかった。レッテルは人を分断するものだから。僕はその逆を行くように努力している。カテゴライズは認められるべきだと思うけど、重要で称賛されるべきなのは、音楽を作っている一人ひとりをとてもユニークにしているものなんだ。音楽を作る人たちの精神がね。誰の個性も強調することが重要で、そのようなジャンル定義の中にある真のバンドとは何かということだ。誰かを排除することは決してない」
それは音楽だけにとどまらず、広い世界にも当てはまることだとYates は強調します。個人主義、自己決定、非伝統主義、多様性といった核となる価値観を持つ TURNSTILE は、2021年以降、人類が再び太陽の下へと歩みを進めるためのサウンドトラックにこれ以上ふさわしい存在はいないはずです。
「人々は、すべてが分類されたシステムを構築することに人生を費やしている。それを打ち破り、謎を解き明かし、学び、以前は理解できなかった人々を理解する余地を残しておくことは、大いに意味がある」
そして、この暗い時代が最終的には新しい音楽と芸術、開かれた心、より高い精神の “ルネッサンス” への踏み台になることを彼らは信じているのです。彼らは、今、かつてないほど毎日を楽しく過ごし、それぞれの経験を喜んでいます。
「ハードコアは誰もが望むものになろうとしている。僕らは何かエキサイティングなことの端っこにいるような気がする。未来に約束されたもの、保証されたものなど何もない。でも、同じ目標をもつ人たちとこの世界を共有できることは、とても特別なことなんだ」


参考文献: KERRANG!:Glow With The Flow: How Turnstile shut out the noise to stay true to themselves

HYPEBEAST:Turnstile: The Heart of Hardcore

The Editorial Mag:A Conversation with Turnstile

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【SLEEP THEORY : STUCK IN MY HEAD】


COVER STORY : SLEEP THEORY “STUCK IN MY HEAD”

“If Sleep Theory Was To Take All The Guitars Away, We Can Make a Pop Song. That’s What We Always Want To Do.”

SLEEP THEORY

SLEEP THEORY はまさにメタル世界のライジング・スター。たった1年で旋風を巻き起こしました。フロントマンの Cullen Moore はしかし、そのブレイクのために生涯をかけてトレーニングしてきたのです。R&Bミュージシャンの息子として育ち、父の後を継いで陸軍に入隊した Moore は、何年もかけて音楽キャリアの成功に必要な意欲、協調性、創造的なビジョンを培ってきました。
そして実際、このメンフィスのバンドは、2023年にデビュー・シングル “Another Way” をドロップした直後にブレイク。このムード満点のエモーショナルなアンセムは TikTok でバズり、わずか36時間で50万ビューを記録したのです。この即効性、即時性はまさに今という時代を誰よりも反映した存在でしょう。
「自分たちの音楽を広める機会に恵まれたのは幸運だった。インターネットとソーシャルメディアの力のおかげで、僕たちは人々とつながることができた。
TikTokで爆発的にバズったとき、僕たちはSNSでできる限りファンに対応しようとした。とにかく、今の時代はファンとつながることが重要だし、それが勢いを持続させる大きな鍵だったと思う」

Epitaph からリリースされたデビューEP “Paper Hearts” がその直後に発表され、David Draiman や Jelly Roll を含む多くのフォロワーや有名ファンを獲得。メタルコア、ポップ、R&Bをミックスしたバンドのエキサイティングなサウンドは、明らかに大きな反響を呼び、さらに SHINEDOWN, BEARTOOTH, FALLING IN REVERSE, WAGE WAR との共演で名を上げた SLEEP THEORY は、瞬く間にヘヴィ・ミュージックの大ブレイク・アーティストの一人となったのです。
彼らのサウンドは、BAD OMENS や SLEEP TOKEN のようなジャンルにとらわれないバンドを彷彿とさせ、ビートの効いたリフとソウルフルで胸を打つバラードを自信を持って織り交ぜています。
「正直、自分たちがどんなジャンルなのかさえわからない。ただ僕たちは、君たちの予想を裏切るつもりはない。ただこれが僕たちの好きなことなんだ」
Moore に加えて、ベーシストのPaolo Vergara、そしてギタリスト Daniel Pruitt とドラマー Ben Pruitt の兄弟で構成される SLEEP THEORY。Moore 以外のメンバーは、突然の注目に慌てましたが、Moore の反応は違いました。
「驚きはなかった。むしろ、”よし、始まったぞ “って感じだった」

つまり、Moore は一夜にして成功したように見えるかもしれませんが、彼がここにたどり着くまでには何年も必要とし、その道は決して一直線ではなかったのです。
この素晴らしきボーカリストが生まれる前、父親はR&Bに手を出し、子育てが優先される時期までバラードを書いていました。
Moore 自身の音楽への情熱が燃え上がったのは10代の頃で、彼は LINKIN PARK からマイケル・ジャクソンまで、あらゆるものにインスパイアされました。彼の父親は Moore をずっとサポートしてきましたが、しかし、母親は現実的な懸念を抱いていました。
「母も音楽が好きだったが、確実なキャリアを歩んでほしかったんだ。音楽で生計を立ててどっちに行くかわからないというのは、親にとって怖いことなんだよな」
Moore は父の音楽への情熱を共有しながらも、父と同じ軍人の道には進まないと確信していました。しかし、いつしか考え方や立場が変わり、彼はその “確実なキャリア” を選び、陸軍に入隊したのです。
「僕は決して面倒な人間ではなかったが、それでも軍隊に入ったことは自分にとって良かったんだ。他の人と協力し、心を開き、冷静になり、状況を全体的に見る方法を学べたからね。軍隊にいた時間は、いろいろな意味で自分を形成するのに役立ったよ」
しかし、結局 Moore の音楽への愛情は揺るがず、最終的にはロックスターの夢を追い求めるために退役を決めたのです。

まず、Moore はメンフィスのローカル・バンドと一緒にやってみたのですが、彼らのサウンドを次のレベルに引き上げてくれると信じていたプロデューサーの David Cowell との仕事をグループが拒否したため、そのパートナーシップは2019年に頓挫しました。そこで Moore と Cowell はクリエイティブ・パートナーシップを切り離し、新体制の SLEEP THEORY に専念することを決めたのです。
最初の数年間、SLEEP THEORY は Moore と Cowell を中心とした純粋なスタジオ・プロジェクトでした。しかし当初から、2人は音楽に対する大きな夢と野望を共有していました。
「多くの人は地元のアーティストと競争する傾向があるけど、それではダメなんだ」
SLEEP THEORY という名前はエニグマティックで、SLEEP TOKEN に次ぐ第二の “SLEEP” といったムードも醸し出しています。
「理由はバンドがある種の科学的な名前を調べ始めたという単純なことだった。科学的な言葉をググって、”REM Sleep” と “Theory” を見たんだ」
ベーシストの Vergara とはある誕生日パーティーで出会いました。彼がギターを手に取り、PARAMORE の “My Heart” を演奏するのを目撃した Moore は即リクルート。フィリピンから移住してきた Vergara は成功に飢えていました。
「2016年にアメリカに引っ越してきて、僕の人生の目標はミュージシャンか映画監督になることだった。バンドに加入したときは、今このような立場になるとは思ってもみなかった。フィリピンでバンドをやっていたけど、夢を実現したり、自分たちの曲を発表したりするチャンスはなかった。だから、もしアメリカに来て、バンドとしての夢を実現するチャンスがあるなら彼らの誇りになるようにしなければならない。その夢は今でもずっと心に残っている」

次に彼らはすぐにドラマーの Ben Pruitt を採用します。彼は “Another Way” のサビに入る、スキッターのようなドロップを見せつけました。
幸運なことに、SLEEP THEORY の音楽を求める声が急速に高まると、バンドは Ben の弟で、シュレッドとスクリームを自在に操るギタリスト、Dan を見つけます。ラインナップは固まりました。
「多くのステップを飛ばしたと言われるだろう。でも、正直なところ、いきなり急成長するのは、何年もそれに向かって努力するよりもストレスがたまるものなんだ。ちょっとでも、物事を風化させてしまうと、人々はすぐに気が散ってしまう……忘れ去られてしまう。どうすれば人気を保てるかを考えなければならなかった」
SLEEP THEORY の音楽的な成功の鍵は、ジャンルを飛び越えたサウンドのミックス、モダン・メタルの多様性を駆使して、最も熟練したメタル・リスナーをも飽きさせないその哲学にあります。受けた影響は、BRING ME THE HORIZON, LINKIN PARK, BEARTOOTH, SAIOSIN といった Moore が幼少期に愛したアーティストから、BAD OMENS, ISSUES のような現代のオルタナティブ・メタル・グループにまで遡ることができるます。特に後者の2019年作 “Beautiful Oblivion” は、Moore が今も目指している ベンチマークです。
ただし、彼らの影響はそれだけにとどまりません。子供の頃は Boyz II Men や TEMPTATIONS にも強く影響を受けていた Moore。当然、それらのインスピレーション、多くの人が共感するノスタルジーは SLEEP THEORY の音楽にも深く根付いています。
「SLEEP THEORY は、音楽業界において非常にユニークな位置にある。僕たちの目標は常に、ジャンルの融合を図りながら、人々に時代を超えたノスタルジックな感覚を与えること。僕たちはロック・バンドだけど、僕たちのサウンドは枠にはめることができないんだよ」

さらには、Ariana Grande や Drake まで。つまり、この予測可能性の欠如が SLEEP THEORY の創作プロセスを定義するようになっていったのです。&Bを織り交ぜたローファイな曲を作るという実験的な試み “Gone or Staying” のようなシングルから、Moore が “スーパーR&B” だと強調するリリースされたばかりのニュー・シングル “Stuck in My Head” まで、彼らの音楽は想像の斜め上へと飛び出していきます。
同時に Moore にとって、素直さと弱さを感じさせる歌詞を書くことも重要でした。
「多くの場合、人はその曲をどう受け取って解釈してもいいという書き方をする。でも僕たちは、それをどう受け取ればいいかをしっかり伝えて曲を書きたいんだよ」
Moore のリリシズムのこの要素は、感情的な直接的さをと同様に、SLEEP THEORY の “Reimagined” “再想像シリーズ” で大きな役割を果たしています。オルタナティブに録音された同じ曲の別の音源を聴くことで、彼の言葉の背後にある感情をまったく違った角度から見ることができるのです。
この例として彼は “Numb” を挙げています。”Numb”は、GODSMACK 風のピットでの怒りに満ちた失恋ソングとして生まれましたが、”Reimagined” バージョンではアコースティック・ギター・ソングとして、傷ついた絶望のナンバーへと変貌を遂げました。
「SLEEP THEORY からギターをすべて取り除いたら、ポップ・ソングができる。それが僕らがいつもやりたいことなんだ。ポップ・ソングを書き、それをメタルやロックにする」
Moore がファンからもらったネット上のコメントのひとつに、”このバンドは悪い曲をリリースしたことがない” というものがあります。彼はその考えを持ち続け、今後取り組むすべての作品の指標としています。
「その言葉に取り憑かれてしまったんだ。どの曲もバンガー (最高) に次ぐ最高であり続けようとしている。それはまるで強迫観念のようだ。音楽を作るのは楽しいよ.僕らはクールな曲を書いて、それを楽しんでいるんだ」
そして彼らは、2025年にリリース予定のデビュー・アルバムで、その注目度の高さに応えるような、バイラルを途切れさせないような作品を作ろうと意欲を燃やしています。Moore によれば、まだタイトルの決まっていないアルバムはほぼ完成していますが、”Beautiful Oblivion” のような “飛ばす曲のないアルバム” にしたいという彼の完璧主義と強迫観念のせいもあり、今でも微調整を続けているのです。
「僕たちは、君たちが予想もしないような音楽を投げかけるつもりだよ。そしてこのアルバムを隅から隅まで体験してもらいたいんだ」


参考文献: REVOLVER:SLEEP THEORY: HOW AN ARMY VET FOUND A NEW MISSION IN THIS METALCORE-MEETS-R&B PROJECT

MUSIC SCENE MEDIA: SLEEP THEORY INTERVIEW

LOUDWIRE: SLEEP THEORY