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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【NYTT LAND : SONGS OF THE SHAMAN】 JAPAN TOUR 25′


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ANATOLY PAKHALENKO OF NYTT LAND !!

“Throat singing is a real treasure, the heritage of our indigenous peoples. We use throat singing in our music quite actively, as it is an incredible magic and it is our connection with our ancestors.”

DISC REVIEW “SONGS OF SHAMAN”

「私たちにとってシベリアで暮らすのは、世界のどの地域よりもずっと簡単なんだ。 ここは私たちの祖国であり、祖先の土地であり、自分たちのルーツを大切にして、伝統を守ることが重要なんだよ。 私たちはアジア人で、ライフスタイルの面では非常に保守的だ。 フランス、ノルウェー、セルビアなど、他の国や大都市への移住を何度も勧められよ。でも、私たちはそんなことはしたくない。 どこまでも続く美しい草原、山々、森といった生まれ育った土地を離れることは、私たちにとって大きなストレスになる。 ここが私たちの人生のすべてであり、私たちが生まれた場所であり、先祖が生まれた場所であり、私たちの一部であり、だからこそ私たちはここに住んでいるのだよ」
シベリアの大地に深く根を張る NYTT LAND の作品は、2021年の “Ritual” を皮切りに、北欧のフォーク・ミュージックからシベリアの伝統をより深く表現するダークな音楽へと徐々に移行し、最新アルバム “Songs Of The Shaman” で頂点を極めました。
満州・ツングース民族のシャーマニズム的な歌や呪文を、彼ら自身の言語と伝統楽器を用いて解釈することで NYTT LAND は自らの古代文化を守り、より幅広いオーディエンスに届けることを目指しています。NYTT LAND の音楽を聴けば、かつてシベリアに広がっていた風景や営みが心に深く刻まれるような感覚を覚えます。それは、まさに太古の昔からもたらされた音のささやき。 これはもはや、地球上で最も古い文化を巡る魅力的な旅。そして、”Songs Of The Shaman” でその旅路の鮮やかさは一段と際立っています。
「ホーミーはシベリアとモンゴルの先住民の伝統的な歌唱法なんだ。こうした伝統的な歌い方は、世界中のどこを探しても見つからない。もし誰かが、バイキングの間でのどを使った歌い方があったという話をしたら、その人の顔にツバを吐いてもいいだろう。現在では、喉歌をヨーロッパ民族のものとすることが非常にポピュラーになっているけど、これはまったくのナンセンスだよ。喉歌は、先住民族の遺産であり、真の宝なんだ。私たちが非常によく喉歌を使うのは、喉歌が信じられないような魔法であり、祖先とのつながりでもあるからなんだ」
伝統的なシャーマニズムの歌と呪文を解釈した NYTT LAND の音楽。すべての曲は原語で録音され、喉歌や太鼓などの非常に古い音楽技法が用いられています。そうして彼らは、イントネーションとリズムからも生まれる魔法の力を逃さないようにしています。降霊術、呪文、祝福…古代の魔法は、慎重に選択され、有害な呪いは意図的に排除されていきました。NYTT LANDは聴く者すべてを、精霊たちが今も支配し、神々でさえも恐れる時空の秘境、音楽の旅へと誘います。
そうしてこの音の旅は、原始的な人間性に対する理解を何よりも深めてくれるはずです。真っ暗な草原の夜空の下、焚き火のそばに座り、シャーマンが祖先、星々、そこに宿る神々、そしてこの極寒の地を形作る岩や川についての物語を紡ぐのをただ聞いている。そしてシャーマンが炎の中で喉歌を歌い踊る姿に目を奪われる…そこに広がるのは民俗神話の荘厳なる世界。
そう、NYTT LAND こそ古の草原を旅する真の音楽遊牧民。そしてもちろん、この原始と神話、古代の再来は、NYTT LAND が祖先、土地、ルーツと伝統を心から大切にしてきたからこそ成り立っているのです。
今回弊誌では、Anatoly Pakhalenko にインタビューを行うことができました。妻 Natalia とのユニット。「私たちはメタルを演奏するのではなく、伝統的な儀式のフォークロアとその音楽における解釈を研究しているんだ。 そう、私たちの聴衆の一部は間違いなくメタル・ヘッズで、それはクールなことだ。 これは、私たちの音楽がすべての人の魂に触れ、ある種の感情を呼び起こすことを意味している」 ARKONA との来日も決定。どうぞ!!

NYTT LAND “SONGS OF THE SHAMAN” : 10/10

INTERVIEW WITH ANATOLY PAKHALENKO

Q1: In 2021, when we interviewed you at KIBERSPASSK, you said you were a big fan of Babymetal. And Finally, you have decided to come to Japan, their hometown! How do you feel now? Is there somewhere you want to go?

【ANATOLY】: Look, we’re fans of their music, but not the girls themselves. Moreover, we are no longer actively following their work, and in general, the world modern music scene. We have switched more to traditional music and it would probably be interesting to watch the performance of musicians performing traditional Japanese music on folk instruments.
Japan is interesting to us primarily because of its history and culture, both traditional and, of course, popular modern. And we are looking forward to this tour to get to know all this personally, and not just via the Internet.

Q1: 2021年、KIBERSPASSK でインタビューしたとき、あなたは Babymetal の大ファンだと言っていましたね。 そしてついに、彼女たちの故郷である日本に来ることになりました!

【ANATOLY】: 私たちは彼女たちの音楽のファンだけど、彼女たち自身のファンではないんだよ。しかも、彼女たちの作品や、一般的に世界の現代音楽シーンを積極的に追いかけることはもうしていないんだ。 私たちはどちらかというと伝統的な音楽に切り替えていて、むしろ日本の伝統的な音楽を民族楽器で演奏するミュージシャンのパフォーマンスを見るほうがおそらく面白いだろうね。
日本が私たちにとって興味深いのは、主にその歴史と文化、伝統的なものと、そしてもちろんポピュラーな現代音楽の両方があるからだ。そして、インターネットを通じてだけでなく、実際にこれらすべてを知ることができるこのツアーを楽しみにしているんだよ。

Q2: You are also playing with Arkona from Russia. Are you acquainted with them? And how do you feel about their music?

【ANATOLY】: Yes, we know the guys, and we’ve even played shows together a few times. The guys themselves are good, it’s always a pleasure to meet them. As for their music, they now have a big emphasis on black metal, and I am absolutely far from this genre, so I can hardly evaluate Arkona’s work in any way. Let the fans and journalists do it.

Q2: 同じロシアの ARKONA と共演します。彼らと面識はありますか? また、彼らの音楽についてどう感じていますか?

【ANATOLY】: そうだね、私たちは彼らのことを知っているし、何度か一緒にショーをやったこともある。彼ら自身は良い人たちで、彼らに会うのはいつも楽しい。 ARKONA の音楽については、現在彼らはブラック・メタルに大きな重点を置いているけど、我々はこのジャンルからは全くかけ離れているのから、その作品を評価することはほとんどできないよ。それはファンやジャーナリストに任せておけばいい。

Q3: What was the meaning behind the name “Nytt Land” when you chose it?

【ANATOLY】: We urgently needed to come up with a name for the project for which we recorded the album. And since the first albums focused on Scandinavian music and mythology, we sat down at the translator and chose a title in Norwegian. That’s how the “New Land” Nytt Land appeared.
It was in the middle of 2013, when we wrote our first album and were preparing it for release. Then there was an urgent need for the name of our project.

Q3: NYTT LAND という名前にはどんな意味が込められているのですか?

【ANATOLY】: あの時私たちは、アルバムをレコーディングするプロジェクトの名前を緊急に考える必要があった。 最初のアルバムはスカンジナビアの音楽と神話に焦点を当てたものだったので、私たちは翻訳機の前に座り、ノルウェー語のタイトルを選んでいったんだ。こうして “新天地” Nytt Land が登場した。
2013年の半ば、ファースト・アルバムを書き上げ、リリースの準備をしていた時だった。 そのとき、私たちのプロジェクトの名前が緊急に必要になったんだよ 。

Q4: Your music is heavily inspired by the nature and history of your native Siberia, and you even include the cawing of crows and the rustling of forests on your records. At first glance, it seems like it would be very difficult to live in Siberia, but what is it about Siberia that attracts you?

【ANATOLY】: Well, it’s much easier for us to live in Siberia than in any other part of the world. This is our homeland, the land of our ancestors, and it is important to hold on to our roots and preserve the tradition. We are Asians and we are very conservative in terms of lifestyle. We were repeatedly offered to move to a big city, to other countries – to France, to Norway, to Serbia. But we don’t want to do that. It would be a huge stress for us to leave our native habitat – our beautiful endless steppes, mountains, forests. This is all our life, the place where we were born, where our ancestors were born, is a part of us, and that’s why we live here.

Q4: あなたの音楽は、生まれ故郷であるシベリアの自然や歴史に大きくインスパイアされており、レコードにはカラスの鳴き声や森のざわめきまで入っていますね。 一見、シベリアで暮らすのは大変そうですが、シベリアのどういったところに惹かれるのですか?

【ANATOLY】: まあ、私たちにとってシベリアで暮らすのは、世界のどの地域よりもずっと簡単なんだ。 ここは私たちの祖国であり、祖先の土地であり、自分たちのルーツを大切にして、伝統を守ることが重要なんだよ。
私たちはアジア人で、ライフスタイルの面では非常に保守的だ。 フランス、ノルウェー、セルビアなど、他の国や大都市への移住を何度も勧められよ。でも、私たちはそんなことはしたくない。 どこまでも続く美しい草原、山々、森といった生まれ育った土地を離れることは、私たちにとって大きなストレスになる。 ここが私たちの人生のすべてであり、私たちが生まれた場所であり、先祖が生まれた場所であり、私たちの一部であり、だからこそ私たちはここに住んでいるのだよ。

Q5: Your throat singing is one of the hallmarks of Nytt Land, would you say this is part of the traditional Siberian culture?

【ANATOLY】: Throat singing is the traditional type of singing of the indigenous peoples of Siberia and Mongolia. You will not find this type of singing anywhere else in the world in the tradition, and if someone tells you about throat singing among the Vikings, well, you can safely spit in that person’s face. It has now become very popular to attribute throat singing to European peoples, but this is complete nonsense, since in this case a real regional tradition should have been preserved, but this is not the case.
Throat singing is a real treasure, the heritage of our indigenous peoples. We use throat singing in our music quite actively, as it is an incredible magic and it is our connection with our ancestors.

Q5: 喉歌、ホーミーは NYTT LAND の特徴のひとつですが、これはシベリアの伝統文化の一部だと言えますか?

【ANATOLY】: ホーミーはシベリアとモンゴルの先住民の伝統的な歌唱法なんだ。こうした伝統的な歌い方は、世界中のどこを探しても見つからない。もし誰かが、バイキングの間でのどを使った歌い方があったという話をしたら、その人の顔にツバを吐いてもいいだろう。現在では、喉歌をヨーロッパ民族のものとすることが非常にポピュラーになっているけど、これはまったくのナンセンスだよ。
喉歌は、先住民族の遺産であり、真の宝なんだ。私たちが非常によく喉歌を使うのは、喉歌が信じられないような魔法であり、祖先とのつながりでもあるからなんだ。

Q6: On the other hand, why did you incorporate traditional European instruments like Norse mythology and the Kantele into your music?

【ANATOLY】: Well, as I mentioned earlier, we started with Scandinavian mythology as the main key to creativity. Now, almost 13 years after we started working on Nytt Land, I can say that it was a cool base that taught us a lot. And now, having completely switched to the development of the traditional ritual folklore of the indigenous peoples of Siberia, we still return from time to time to the “Scandinavian” base that we passed through in the initial stages of our creative journey. Natalia and I are historians by education, and during our university years we studied Scandinavian mythology and the Old Norse language a lot. And it was from there that the Nytt Land band was born.

Q6: その一方で、北欧神話やカンテレといったヨーロッパの伝統楽器も音楽に取り入れたのはなぜですか?

【ANATOLY】: さて、先に述べたように、私たちはスカンジナビアの神話を創造性の主な鍵としてスタートしたんだ。NYTT LAND の制作を始めてから約13年経った今、それは私たちに多くのことを教えてくれたクールな下地だったと言える。
そして今、私たちはシベリアの先住民の伝統的な儀式のフォークロアの開発に完全に切り替えたのだけど、創作の旅の初期段階で通過した “スカンジナビア” ベースに今でも時折戻ってくる。Natalia と私は歴史学者で、大学時代にはスカンジナビアの神話と古ノルド語をよく勉強した。 そして、そこから NYTT LAND が生まれたからね。

Q7: As the breakthrough of Bloodywood shows, bands that incorporate the traditional music and culture of the place where they grew up into metal have been gaining popularity in recent years. In a sense, has metal truly been liberated through the world?

【ANATOLY】: It’s hard for me to judge that. We don’t play metal, we study traditional ritual folklore and its interpretation in our music. Yes, a part of our audience is undoubtedly metalheads, and that’s cool. This means that our music touches the souls of all people and evokes certain emotions.
Well, folklore is a powerful base and not only if we are talking about some extreme musical styles. Please note that elements of traditional music can be heard everywhere – in electronic music, metal, and hip-hop.
Nowadays, it’s possible that it’s gaining more and more momentum, and it’s cool, too, which means the music industry is moving in the right direction.

Q7: BLOODYWOOD の躍進が示すように、育った土地の伝統音楽や文化をメタルに取り入れるバンドが近年人気を集めています。
NYTT LAND のダーク・フォークを広義のメタルと解釈する時、ある意味、メタルは本当に世界中へと解放されたのでしょうか?

【ANATOLY】: それを判断するのは私には難しい。 私たちはメタルを演奏するのではなく、伝統的な儀式のフォークロアとその音楽における解釈を研究しているんだ。 そう、私たちの聴衆の一部は間違いなくメタル・ヘッズで、それはクールなことだ。 これは、私たちの音楽がすべての人の魂に触れ、ある種の感情を呼び起こすことを意味している。
まあ、フォークロアは強力なベースであり、エクストリームな音楽スタイルについて話す場合だけではない。 伝統音楽の要素は、エレクトロニック・ミュージック、メタル、ヒップホップなど、あらゆるところで聴くことができることに留意してほしいな。
今では、それがますます勢いを増している可能性があるし、クールでもある、 つまり、音楽業界が正しい方向に向かっているということだよ。

Q8: The world has changed dramatically since we interviewed you in 2021, divisions are growing, and your country is at war. What can metal do in such a dark world?

【ANATOLY】: First of all, it’s about staying out of politics. That’s the most important thing.
Music, like any kind of art, is a very big force, and say, «big power, it’s a big responsibility”. It is important to understand this.
From time to time, we encounter politicization in our industry. This applies to some festivals, but it just speaks to the chauvinism of the organizers and their low level of intelligence when they let politics into their organization. Real art has always, at all times, been fundamentally kept out of politics and various moods, and this is precisely its value. Music should unite, especially in the darkest times.

Q8: 2021年のインタビュー以来、世界は劇的に変化し、分断は拡大し、あなたの国は戦争状態にあります。そんな暗い世界で音楽やメタルには何ができるのでしょうか?

【ANATOLY】: まず第一に、政治に関わらないことだ。 それが最も重要なことだと思う。
音楽は、他の種類の芸術と同様に、非常に大きな力であり、”大きな力、それは大きな責任だ” と…このことを理解することが重要だ。
時折、私たちの音楽業界では政治化が起こる。 これはいくつかのフェスにも当てはまるけど、それは主催者の排外主義と、政治を組織に取り込む彼らの知性の低さを物語っているに過ぎない。 本物の芸術は、いつの時代も、基本的に政治やさまざまなムードから遠ざけられてきた。だからこそ、その価値が保てるんだ。そしてもちろん、音楽は団結するべきだ…特に暗い時代には。

ANATOLY’S RECENT FIVE FAVORITE ALBUMS !!

Queen “The Works”

Nytt Land “Ritual”

Johnny Cash “American III”

Eagles “Hotel California”

From The Land “Stolen Season pt.I”

MESSAGE FOR JAPAN

Our family cars have large Intelligence Corps symbol stickers on the rear windows from the TV series Attack onTitans. And on Natalia’s and my phones, the ringtone is the soundtrack of the opening of Attack on Titans season 2. So yes, we are big fans of this series. I like Hideo Kojima’s games. Well, our son is a fan of Jojo’s Incredible Adventure. So modern Japanese pop culture is also a small part of our lives.

我が家の車のリアガラスには、TVシリーズ “進撃の巨人” の調査兵団シンボルのステッカーが大きく貼られている。そしてナタリアと私の携帯電話の着信音は、”進撃の巨人” シーズン2のオープニングのサウンドトラックだ。 そう、私たちはこのシリーズの大ファンなのだ。 小島秀夫監督のゲームが好きなんだ。 息子は “ジョジョの奇妙な冒険” のファンでもある。 だから、現代の日本のポップ・カルチャーも私たちの生活の一部なんだ。

NYTT LAND

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来日公演の詳細はこちら。Evoken de Valhall Production

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ARKONA : KOB’】 JAPAN TOUR 25′


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MARIA “MASHA SCREAM” ARKHIPOVA OF ARKONA !!

“As a result, Slavic paganism became a part of my life, and subsequently I began to convey my worldview through my music.”

DISC REVIEW “KOB'”

「古代スラブのペイガニズムは私たちの歴史であり、過去であり、取り返しのつかない、しかしどうしようもなく説得力のあるテーマだ。私たちのルーツに戻り、多神教的な宇宙とそのさまざまな顔、解釈、そして数多くの神々や要素という形での現れと相互作用しながら、自然の法則のみに従って動くその世界そのものに真に没頭するよう教えてくれる。 私の意識はこのテーマに完全に没頭し、その結果、スラブ多神教は私の生活の一部となり、その後、私は音楽を通して自分の世界観を伝えるようになった」
ロシアの ARKONA (Аркона) は、ペイガン・メタルとフォーク・メタルの定義と革新を今もなお追求し続けています。ダークなプロダクション、ブラック・メタルとプログレッシブ・メタルの融合、強烈で内臓をえぐるようなパフォーマンス、そして物憂げで重々しいギターワークと民族色豊かな管楽器の響き。そうした言語をも超越した ARKONA のパフォーマンスは、自らが生まれ育った母なるロシアの厳しくも美しい大地と、ルーツである古代スラブのペイガニズムに捧げられています。
「ARKONA は非常に多様で、バンド結成20年の間に、私たちの音楽は大きな変化を遂げた。昔の、のんきで陽気で、荒々しく正直で、エネルギッシュでありながら儀式的な神秘に満ちたフォーク時代の ARKONA と、新しい、暗くて絶望的で、骨抜きで死の息吹が漂い、混沌の果てしない抱擁の中で勝利する ARKONA の両方のファンがいることは素晴らしいことだ。 誰もが自分自身のアルコナを選ぶことを勧めるよ。そして、1枚のアルバムに焦点を当てるには、あまりにも私たちは多面的で広大だ」
ARKONA の音楽は、彼らが崇拝するスラブ多神教のごとく多様で千変万化。初期の “Yarilo” や “Stenka Na Stenku” のようにある種牧歌的で楽しくしかしどこか憂いを帯び、直情的でパワフルなスラブ音楽の祭典はもちろん ARKONA の原点。一方で、近年の大作路線、難解で神秘的、死と混沌のプログレッシブ・ブラックにも彼らのペイガニズムは儀式として根付いています。
そして何より、今回のインタビューイでありボーカリスト Maria “Masha Scream” Arkhipova の哲学と人類の現代、そして未来観という深く暗い領域はどの時代の ARKONA においても紡がれていて、ペイガンの伝統、その光の中で音楽を描き出していくのです。
「ARKONA が結成されたとき、私はすでに熱狂的なメタル・ファンだったので、あるリハーサルで生々しく過激なヴォーカル・スタイルで歌ってみたところ、すぐに夢中になったの。 その結果、私はすぐにこの新しい、自発的な能力を自分の仕事に取り入れることにした。当時は、同じような声のテクニックを持つ女性ヴォーカリストのことをほとんど知らなかったから、だれかの真似をしたわけじゃない。 すべてが自然に起こったんだよ」
古代スラブの神話を語る時、Masha のスクリームやグロウルはストーリーに大きな抑揚を生み出します。その個性、存在感、そして圧倒的な音域は人智を超えた未知の恐怖と神性を ARKONA の音楽へともたらします。比較的自由で穏やかだったソ連崩壊後に声楽を学び、まだ女性スクリーマーがほとんど存在しなかった90年代後半からスクリームを追求し続ける彼女の声は、今や当たり前となったメタル世界の女性たちを力強く後押しし、今ではメタル世界最高の女性スクリーマーのひとりと言われるまでになりました。そうして、Masha の声は、人類が長らく忘れてしまった過去の知恵、太古の生活を蘇らせます。戦争、疫病、宗教的信念、環境問題によって社会が自らの墓穴を掘る中で、ARKONA は本物の疫病が現代を生きる強欲な人類自身であると太古の森から警告を発していくのです。
今回弊誌では、Maria “Masha Scream” Arkhipova にインタビューを行うことができました。「どんな状況でも、メタルは私たちを団結させてくれる。あなたが前の質問で、ヘヴィ・メタルは国際的な現象となり、政治や支配者層が私たちを陥れようとしているあらゆる汚物を超越する、と指摘したのは正しんだよ」 来日決定!どうぞ!!

ARKONA “KOB'” : 9.9/10

INTERVIEW WITH MASHA

Q1: First, what kind of music did you listen to growing up?

【MASHA】: As a child, I wasn’t really listening to any music, because I was focused on my own creativity. However, the first impression on me of a great artist was made by Jean-Michel Jarre’s concert show when they came to Moscow. The show was absolutely grand, and it made me think about and truly fall in love with electronic music. However, I discovered metal music much later..

Q1: 本誌初登場です!まずは、あなたの音楽的なバックグラウンドからお話ししていただけますか?

【MASHA】: 子供の頃は、自分の創作に集中していたから、音楽はあまり聴いていなかったんだ。
偉大なアーティストを初めて感じたのは、ジャン=ミシェル・ジャールがモスクワに来たときのコンサートだった。 そのショーは本当に壮大で、エレクトロニック・ミュージックについて考えさせられ、本当に大好きになったよ。 メタル・ミュージックに出会ったのはもっと後のことなの。

Q2: I understand that you started your music career shortly after the collapse of the Soviet Union, Did you encounter any difficulties in this situation?

【MASHA】: I’ve been writing music since my early childhood and have been driven by my creativity, regardless of any external factors, problems, the national situation, and so on. The collapse of the USSR remains imprinted in my memory as a relatively calm time, even though everything around me seemed like a turmoil and a whirlwind of events.
My more conscious musical career was started in a vocal and instrumental ensemble, and from the age of 13 to 15, I performed various well-known hits of the time and my own creations with live musicians accompanying me. This was in 1995-1997, when both the time and my age were conducive to a calm and measured approach to my work. I simply went with the flow and lived exclusively for music..

Q2: ソ連が崩壊して間もなく音楽活動を始めたと聞いていますが、そうした状況で苦労したことはありましたか?

【MASHA】: 私は幼い頃から作曲を続けていて、外的要因や問題、国情などに関係なく、ただ自分の創造性に突き動かされてきた。ソビエト連邦の崩壊は、私の周りではすべてが混乱し、出来事が渦巻いているように見えたけれど、一方で比較的穏やかな時代としても記憶に残っているの。
より意識的に音楽活動を始めたのは声楽と器楽のアンサンブルで、13歳から15歳まで、生演奏の伴奏で当時の有名なヒット曲や自作の曲をいろいろと演奏した。1995年から1997年にかけてのことで、時代も私の年齢も、仕事に対する冷静で慎重なアプローチを助長するものだった。 私はただ流れに身を任せ、音楽のためだけに生きていたわ。

Q3: Why did you decide to make metal about Russian folklore and myths of the Slavic peoples?

【MASHA】: In 2000, when I decided to create my own metal band, I was joined by some guys from my neighborhood, including Alexander “Warlock,” who later became our drummer. He was deeply fascinated with ancient Slavic paganism and soon drew me in as well. This is our history, our past, an irrevocable yet inexorably compelling theme, that tells us toreturn to our roots and discover the true immersion in that very world that operates solely according to the laws of nature, interacting with the polytheistic universe and its various faces, interpretations, and manifestations in the form of numerous deities and elements. My consciousness got completely immersed in this, and as a result, Slavic paganism became a part of my life, and subsequently I began to convey my worldview through my music.

Q3: なぜロシアの民話やスラブ民族の神話を題材にしたメタルを作ろうと思ったのですか?

【MASHA】: 2000年、自分のメタル・バンドを作ろうと決心したとき、後にドラマーとなる Alexander “Warlock “を含む、近所に住む何人かの男たちと一緒に始めたの。彼は古代スラブのペイガニズムに深く魅了されていて、すぐに私も引き込まれた。
古代スラブのペイガニズムは私たちの歴史であり、過去であり、取り返しのつかない、しかしどうしようもなく説得力のあるテーマだ。私たちのルーツに戻り、多神教的な宇宙とそのさまざまな顔、解釈、そして数多くの神々や要素という形での現れと相互作用しながら、自然の法則のみに従って動くその世界そのものに真に没頭するよう教えてくれる。 私の意識はこのテーマに完全に没頭し、その結果、スラブ多神教は私の生活の一部となり、その後、私は音楽を通して自分の世界観を伝えるようになった。

Q4: Arkona also incorporates a variety of traditional instruments, doesn’t it? Why do you think that Slavic traditional music and traditional instruments and metal music have such a wonderful chemistry?

【MASHA】: I don’t think anything about it, I just do and I have always done what my own intuition me to do.
On our early albums, we replaced live instruments with keyboard samples, but on the album “Vo Slavu Velikim” we suddenly felt the urge to replace all the artificial sounds with the real ones, thereby adding an even more authentic atmosphere to our music. At a Moscow folk concert, we met Vladimir Cherepovsky, who impressed us with his masterful playing of numerous wooden ethnic instruments, and we invited him to bring his skills to life in this album and subsequent ones by Arkona. Later, his student, also named Vladimir, but now Reshetnikov (Volk), continued his work with us on a permanent basis.

Q4: ARKONA も様々な伝統楽器を取り入れていますよね。スラヴの伝統音楽、伝統楽器とメタル・ミュージックが素晴らしい化学反応を起こすのはなぜだと思いますか?

【MASHA】: 私は何も考えず、ただそうしてきたし、いつも自分の直感でそうしてきた。
初期のアルバムでは、生楽器をキーボードのサンプルに置き換えていたけど、アルバム “Vo Slavu Velikim” では、突然、人工的な音をすべて本物の音に置き換えたいという衝動に駆られ、それによって私たちの音楽にさらに本物の雰囲気を加えることができた。 モスクワのフォーク・コンサートで、私たちは Vladimir Cherepovsky に出会った。彼は数々の木製の民族楽器を巧みに演奏し、私たちに感銘を与えてくれた。 その後、同じく Vladimir という名の彼の弟子(現在は Reshetnikov Volk) が、私たちとの仕事を永続的に続けてくれることになった。

Q5: You are considered one of the finest female screamers in the metal world, and you use a variety of voices wonderfully. When you started out as a vocalist, there were very few female screamers in the metal world, so what made you decide to try your hand at screams and growls?

【MASHA】: Since I was already a die-hard metal fan when Arkona was created, I tried singing in a raw, extreme vocal style during one of the rehearsals, and I nailed it right away. As a result, I immediately incorporated this new, spontaneous ability into my work.
Back then, I knew very little about female vocalists with similar voices techniques, so I didn’t focus on it. It all just happened naturally.

Q5: あなたはメタル界で最も優れた女性スクリーマーの一人と言われていて、様々な声を見事に使い分けています。
あなたがヴォーカリストとして活動を始めた頃、メタル世界には女性スクリーマーはほとんどいませんでしたが、なぜスクリームやグロウルに挑戦しようと思ったのですか?

【MASHA】: ARKONA が結成されたとき、私はすでに熱狂的なメタル・ファンだったので、あるリハーサルで生々しく過激なヴォーカル・スタイルで歌ってみたところ、すぐに夢中になったの。 その結果、私はすぐにこの新しい、自発的な能力を自分の仕事に取り入れることにした。
当時は、同じような声のテクニックを持つ女性ヴォーカリストのことをほとんど知らなかったから、だれかの真似をしたわけじゃない。 すべてが自然に起こったんだよ。

Q6: You have an extensive discography. If a new fan coming to a live show were to dive into the world of Arkona, which album would you recommend first?

【MASHA】: Arkona is very diverse; over the 20 years of the band’s existence, our music has undergone enormous changes. Arkona then and Arkona now are two completely different bands. However, if you’re interested in learning about the band’s history, then of course you should start listening to the first albums. But I know some people who have only recently became fans of our music, and for them, the old Arkona was completely alien and uninteresting. However, they value and love the path we have chosen for ourselves today. It’s wonderful when there are fans of both the old, carefree, cheerful, and wildly honest, energetic yet ritually mystical folk era of Arkona, and the new, dark and hopeless, with bare bones and the breath of death, triumphant in the endless embrace of chaos. Everyone is encouraged to choose their own Arkona. And it’s too multifaceted and vast to focus on any one album.
Arkona is a long and meticulous exploration. And this exploration comes only from album to album, song to song, and nothing else. So the choice is yours; once you start studying, you’ll understand everything.

Q6: ARKONA は多くのディスコグラフィを誇りますが、もしライブに来る新しいファンが ARKONA の世界に飛び込むとしたら、どのアルバムを最初に勧めますか?

【MASHA】: ARKONA は非常に多様で、バンド結成20年の間に、私たちの音楽は大きな変化を遂げた。当時の ARKONA と現在の ARKONA は全く異なるバンドだ。ただ、バンドの歴史を知りたいのであれば、もちろん最初のアルバムから聴くべきだよ。 でも、最近になって私たちの音楽のファンになった人たちを何人か知っていて、彼らにとって昔の ARKONA はまったく異質で面白くないものなんだ。それでも、彼らは今の自分たちが選んだ道を評価し、愛してくれている。
昔の、のんきで陽気で、荒々しく正直で、エネルギッシュでありながら儀式的な神秘に満ちたフォーク時代の ARKONA と、新しい、暗くて絶望的で、骨抜きで死の息吹が漂い、混沌の果てしない抱擁の中で勝利する ARKONA の両方のファンがいることは素晴らしいことだ。 誰もが自分自身の ARKONA を選ぶことを勧めるよ。そして、1枚のアルバムに焦点を当てるには、あまりにも私たちは多面的で広大だ。
ARKONA は、長く綿密な探求である。 そしてこの探求は、アルバムからアルバムへ、曲から曲へと続く…それ以外の何物でもない。 だから、選択はあなた次第だ。ARKONA の勉強を始めれば、すべてを理解できるだろう。

Q7: As the breakthrough of Bloodywood shows, bands that incorporate the traditional music and culture of the place where they grew up into metal have been gaining popularity in recent years. In a sense, has metal truly been liberated through the world?

【MASHA】: The thing is, that it is quite difficult for a band from India, for example, to win the hearts of their listeners by playing Viking metal and incorporating elements of their own national culture into their music. Despite the fact that all the riffs have been played a thousand times before, the band becomes slightly more original.

Q7: BLOODYWOOD の躍進が示すように、育った土地の伝統音楽や文化をメタルに取り入れるバンドが近年人気を集めています。 ある意味、あなたのようなバンドがやってきたことがついに実り、やっとメタルは本当に世界中へと解放されたのでしょうか?

【MASHA】: それは、例えばインド出身のバンドが、ヴァイキング・メタルを演奏し、リスナーの心をつかむのはかなり難しいということだ。 自分たちの国の文化の要素を音楽に取り入れることで、すべてのリフが過去に何千回も演奏されているにもかかわらず、バンドはわずかに独創的になれる。

Q8: Since 2020, divisions are growing, and your country is at war. What can metal do in such a dark world?

【MASHA】: In any situation, metal unites us, and you were right when you noted in the previous question that this music is an international phenomenon that is above politics and all the filth that the ruling class is trying to plunge us into.

Q8: 2020年代に入って、世界は劇的に変化し、分断は拡大し、あなたの国は戦争状態にあります。 そんな暗い世界でメタルに出来ることはあるでしょうか?

【MASHA】: どんな状況でも、メタルは私たちを団結させてくれる。あなたが前の質問で、ヘヴィ・メタルは国際的な現象となり、政治や支配者層が私たちを陥れようとしているあらゆる汚物を超越する、と指摘したのは正しんだよ。

FIVE ALBUMS THAT CHANGED MASHA’S LIFE!!

Thanatomass “Hades”

Hawkwind “In Search Of Space”

Abysmal Lord “Disciples of the Inferno”

Led Zeppelin “Led Zeppelin”

Black Sabbath “Paranoid”

MESSAGE FOR JAPAN

No, I’m not interested in any modern or trendy movements at all. I don’t know if that’s fortunate or unfortunate. I’m on a different path. But I’ve certainly heard of Japanese culture in general and am a little familiar with Japanese underground metal music. I plan to delve deeper into your country’s highly specialized musical art in the future. I love Japan very much; it’s a beautiful country, rich in remarkable history, mythology, philosophy, and wonderful cultural values. I’m so glad to finally return there after 10 long years. See you at our live shows!

私は現代的なムーブメントや流行のムーブメントにはまったく興味がないの。それが幸運なのか不幸なのかは分からない。 私は別の道を歩んでいる。 でも、日本の文化全般について聞いたことがあるのは確かだし、日本のアンダーグラウンド・メタル・ミュージックについては少し知っている。
今後、あなたたちの国の高度に専門化された音楽芸術をより深く掘り下げていくつもり。 日本は美しい国で、素晴らしい歴史、神話、哲学、素晴らしい文化的価値観に溢れている。 10年という長い年月を経て、ようやく日本に戻ることができて本当にうれしいよ。 ライブで会いましょう!

MASHA SCREAM

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【KORYPHEUS : GILGAMESH】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ANDY GUSHIN OF KORYPHEUS !!

“Since August I am serving in the army. So we stopped writing new music. However, before that we managed to record 2 new songs and were about to record the third one in September but…”

DISC REVIEW “GILGAMESH”

「僕たちはロシアの SLAUGHTER TO PREVAIL とのツアー、その経験から距離を置こうとしているんだ。ああした協力は、今では不可能だよ。8月から僕は兵役に就いているんだ。だから、僕らは新曲を作ることをやめざるを得なかった。なんとか、その前に2曲の新曲をレコーディングすることができて、9月には3曲目をレコーディングしようとしていたんだけどね…」
戦争に巻き込まれること…それは私たちが享受し、人生の糧としている “文化” の破壊にもつながります。ウクライナの素晴らしきプログレッシブ・メタルコア KORYPHEUS は、ロシアの侵略によって多くを失いました。SLAUGHTER TO PREVAIL は決して侵略を肯定しているバンドではありませんが (というより、Alex Terrible は当局による逮捕の可能性もあって、アメリカに居を移している)、それでも彼らはロシアのバンドと協力することは今や不可能だといいます。メタルの寛容さや壁を壊す力も、非道の戦争には抗えません。
そして何より、ボーカリスト Andy Gushin が祖国を守るため兵役についたことで、バンドの未来さえ暗礁に乗り上げようとしているのです。それでも、KORYPHEUS はドローンとミサイルが飛び交うキーウの防空壕から見事なアルバムを届けてみせました。それはきっと、音楽家としての誇りと使命がもたらしたもの。
「子供の頃から神話が好きだった。 ギルガメシュは最古の叙事詩だ。 後の多くの登場人物、神話、英雄のルーツはメソポタミアにある。でも、このアルバムは古代の神話をテーマにしているわけではないんだ。 実際、僕たちの脳の奥深くに根付いていて、自分たちの行動や潜在意識に影響を与えている原型というものがある。それは過去と現在が出会う場所だ。僕たちはアマテラスのことも知っているよ。とても興味深いよね」
そんな KORYPHEUS が自らの “叫び” を音に乗せるため、選んだテーマは様々な神話をベースにしていました。”Gilgamesh”, “Odysseus” そして “Icarus”。神話上の人物を想起させるタイトルの数々は、古代の英雄譚に巣食う人の傲慢さ、そして悲劇へとつながり、そのアルバムを通じた人間の業はそのまま彼らが今直面している現代の悪夢へと通じているのです。
「メソポタミアは文明発祥の地。 古代のルーツを知ることは重要だ。僕たちは今でも、メソポタミアの文化と音楽は広い意味で自分たちのものだと感じているんだ。Yossi のことは、ORPHANED LAND とツアーをする予定だったから知っているんだよ。 戦争のせいで実現しなかったんだ」
JINJER, IGNEA など活気あふれるウクライナのプログ/メタルコア世界においても、KORYPHEUS が放つ異世界感は明らかに際立っています。それは、彼らがメソポタミアという人類の素晴らしさ、そして愚かさすべての始まりの地を大きな柱としているから。もちろん、彼らの音楽は PERIPHERY や GOJIRA のように実に新鮮でモダンで知的で重くダイナミックですが、同時にそこにはメソポタミアが育んだ太古の響きとドラマが潜んでいます。そうして彼らは、遥か昔の神話を現代に重ねるように、その音楽でも過去と現在を見事に出会わせていくのです。愚かな歴史は繰り返すのかもしれませんが、歴史から学べるのもまた、人間の良さなのですから。
今回弊誌では、Andy Gushin にインタビューを行うことができました。「キーウの状況はあまりよくないよ。 毎日、この都市はドローンやミサイルで攻撃されているんだ。だから、多くの人が安全を求めて防空壕に逃げ込んでいる。一方で、このような事態に嫌気がさし、危険を無視して家に留まり閉じこもっている人もいるんだ」ヘヴィ・メタルの轟音でも戦争の足音はかき消せないかもしれませんが、それでも私たちはこの優しい音楽と共に “浅はか” な思考回路を捨て去り、様々な世界に共感して文化を、そして平和を守っていくべきでしょう…どうぞ!!

KORYPHEUS “GILGAMESH” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MAWIZA : ÜL】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH AWKA OF MAWIZA !!

“Our Song Wingkawnoamestá Is Based On The Dance Of The Wemul (Deer). It Has a Syncopated Rhythm Because This Animal Has The Wisdom To Confuse Its Predators, It Even Makes a False Step.”

DISC REVIEW “ÜL”

「僕たちはヘヴィ・メタルやロックの自由の叫びから、大きな力とエネルギーを見出したんだ。これは偶然ではないと感じているよ。自然とその精霊はメタルの力に気づいている。マプチェの知識では、マプ(土地)は最も身近なエネルギーを使うと言われている。MAWIZA は土地に仕える者だからね」
チリ・アルゼンチンに暮らす先住民、マプチェ族。マプは土地、チェは人を意味し、文字通り自らの生まれ育った土地を守りながら生きる人々。インカ帝国にも、スペインにも屈することなく独立を貫き続けた誇り高きマプチェの民は、その土地の自然とスピリチュアリティを何よりも大切にしています。そしてその自然や精霊から得られる大きな力、エンパワーメントがメタルとシンクロすることに MAWIZA は気づいたのです。自由の叫びと共に。
「僕たちの言語、マプズグン(土地の言語)は、19世紀末に抑圧されたため、現在復活の過程にあるんだ。マプズグンでフルアルバムをリリースすることは、それ自体がマプチェ復興のための活動であり、僕たちから奪われた場所を取り戻す行為でもある。
僕たちは、先住民の視点から現代の楽器を使用し、メタルを通じてこの活動を実践することで、エンパワーメント、力を得ている。それが、このアルバムで表現しようとしたものなんだ。
僕たちはマプチェの論理に基づいて音楽を構成しているから、自然、鳥、動物のリズム、海洋のパターンを模倣した音が聴こえるだろうね」
19世紀末、”アラウカニア制圧作戦” でスペインから独立したチリ政府に併合されたマプチェ族。以降彼らは、ピノチェトや国軍、大企業、もしくはヨーロッパから移住したチリのエリートから差別や迫害を受け、抑圧され、共に生き育てた自然を奪われていきました。マプズグンという彼らの言葉さえも奪われてしまいました。
いつの世も、植民者、征服者にとって先住民とは “なかったこと” にしたい存在です。それでも、マプチェとメタルには並外れた回復力、反発力、レジリエンスが宿っていました。MAWIZA はマプチェの言葉で歌い、マプチェのメタルを奏でることで、民族の復興を願っているのです。
「マプチェのリズムは先祖から受け継がれたもの。僕たちは、こうしたダンスを動物、風、海から学んだんだ。それはマプチェの民のコミュニティによって異なるんだよ。例えば、僕たちの曲 “Wingkawnoamestá” は、ウェムル(鹿)のダンスを基にしている。鹿は捕食者を混乱させる知恵を持ち、偽のステップを踏むため、シンコペーションのリズムが特徴となっているよ。実際、自然はメタルだよ」
そう自然はメタル。マプチェ復興の強い意志が込められた MAWIZA の最新作 “ÜL” には、雷のような轟音、風や海と地を揺るがすグルーヴ、情熱の炎と先祖から受け継いだ知恵とスピリチュアリティが織り込まれています。”ÜL” の詠唱はまさに土地の声。”Wingkawnoam” はインダストリアルで現代的なビートで進行しますが、その音はマプチェの儀式用ドラム “Kultxung” で叩き出されています。 Kultxung は神聖な楽器。シャーマンがこのドラムを叩くとき、彼らは空のエネルギーを受け取り、それを大地に伝えると言われています。
そうして彼らはシャーマンの言葉、先祖の夢託により、鹿のステップをプログレッシブなリズムに落とし込みました。自然の力である鹿を自らに見立て、植民者たちの目を撹乱するために。そう、マプチェの土地は今でも自然との共存とは程遠い開発業者の侵食に脅かされています。それでも、MAWIZA は先祖や長老から受け継いだ知恵、そして自然とメタルのエンパワーメントで力強い抵抗を続けていきます。彼らが紡ぐのは、血に飢えた征服者の目ではなく、土地と生きる先住民の目から見た歴史。
今回弊誌では、ボーカリスト Awka にインタビューを行うことができました。「MAWIZA とは “山” を意味する。現在僕たちが住むピクン・マプ(北部の土地)では、アンデス山脈が圧倒的な規模で広がっていてね。毎日、太陽がアンデスの背後から昇る光景は息をのむほど美しいものだ。冬には雪に覆われ、時にはピューマが山から下りてくる。森と山は多くの命が交わる場所。そこでは水、滝、多様な樹種、薬草、動物が共存しているんだよ」GOJIRA の Joe Duplantier もゲスト参加。どうぞ!!

MAWIZA “ÜL” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【IMPUREZA : ALCÁZARES】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH LIONEL CANO MUNOZ OF IMPUREZA !!

“Metal And Flamenco…Two Worlds That Seem To Be Opposites, But Which Share The Same Intensity, The Same Pain, The Same Rebellion. It’s This Mixture That Forged The Guitarist I Became.”

DISC REVIEW “ALCÁZARES”

「非常に美しい進化だと思うよ。メタルはついに、これまで以上にユニバーサルなものになりつつあるんだからね。各言語には歴史、色、文化があり、それを使用する者にリズムを与える。スペイン語は、僕たちの歌詞に特有の音楽性をもたらし、ドラマチックで激しく暴力的な側面を与え、メタルの力とフラメンコの強度を自然に融合させてくれるんだ」
BLOODYWOOD や THE HU の台頭により、メタルに宿る生命力、包容力、感染力がついに可視化されました。今やメタルに第三世界はありません。その大いなる寛容さで様々な地域、様々な人々の文化を暖かく包み込み、メタルの咆哮と旋律に共感を誘います。
“ヒスパニック・メタル” を標榜する IMPUREZA も、そんなユニバーサルなモダン・メタル世界を象徴するバンドのひとつ。フランスとスペインの伝統の炎…その熱き血潮で鍛えられた IMPUREZA は、エクストリーム・メタルとフラメンコの情熱的で激しい融合を20年もの長きに渡って、追求してきました。そして今、イベリア半島のアイデンティティを刃物のように操り、自らのルーツをメタルの中に浸透させた彼らの勇気に遂に時代が追いついたのです。
「僕はフラメンコとメタルという、非常に強力な2つの世界の間で育ったんだ。家ではパコ・デ・ルシア、カマロン・デ・ラ・イスラといったスペインのギター音楽を聴いていたんだよ。一方で、METALLICA, PANTERA, SLAYER, MORBID ANGEL, TESTAMENT, NILE などにも完全に浸っていた。一見対立する二つの世界だけど、同じ情熱、同じ苦悩、同じ反逆の精神を共有しているんだよ。このふたつのミックスが、ギタリストとしての僕を形作ったんだ」
そう、一見交わらないように思える様々な道を交わらせるのがメタルの力。しかし、そもそもフラメンコとメタルには、情熱、苦悩、そして逆境を跳ね返す回復力といった多くの共通項が存在しました。だからこそ、今回のインタビューイでありイベリアのギター・ヒーローLionel Cano Muñoz は PANTERA とパコ・デ・ルシアを同時に愛することができたのです。
「フラメンコには深い、悲劇的で、感情的、本能的な精神がある。メタルには、この解放的な音楽の力を通じて、僕たちの中に埋もれたエネルギーをアウトプットする能力がある。ただしふたつとも複雑な音楽で、多くの厳格さを必要とする。勇気は、この絶対的な誠実さから生まれてくるんだ」
とはいえ、これほど精巧で、荘厳で、ドラマティックなヒスパニック・メタルはまさに前人未到の領域。誰も踏み入れたことのない場所を開拓するためには勇気が必要です。そして、NILE や BEHEMOTH のように凶悪でありながら、OPETH のように挑戦的で、パコ・デ・ルシアのように革命的で苦悩と歓喜に満ちた “La Orden del Yelmo Negro” は、絶対的な勇気の歌。あの Jacob Hansen 指揮の下、見事に練られたクラシカルなストリングスとリズミックなパーカッションが、メタルの “レコンキスタ”、再征服を誇り高く宣言します。そしてもちろん、フレットレス・ベースの嗎はプログレッシブなデスメタルの矜持。
「スペインの歴史には、その偉大さと衰退の両方が刻まれている。政治的、宗教的、さらには神秘的な対立が多くの不幸の根源だけど、そうしたテーマは僕たちの創作に無限のインスピレーションを与えてくれる。僕たちは戦争を美化しようとしているわけではなく、その精神的、文化的、人間的な共鳴を探求しているんだ。戦争は確かに暴力的なものだけど、同時に深くて象徴的なものだと思う」
常にイベリアの歴史を物語ながら、ある種の教訓をもたらしてきた現代の吟遊詩人 IMPUREZA。今回のアルバム “Alcázares” で彼らは、血と死が今よりもはるかに近くにあった中世、レコンキスタをテーマに選びました。キリストとイスラム…血塗られた歴史と神秘が交錯する宗教と戦いのストーリー。争いから始まった文化と人の流動性はいつしか成熟され、洗練され、多様な背景を持つ人々を生み出し、ルネサンスの下地にもなりました。血と死に導かれたレコンキスタはまさに、メタルとフラメンコの “不純な” 婚姻にも似て、多文化共生、異文化共鳴の始まりでもあったのです。
今回弊誌では、Lionel Cano Muñoz にインタビューを行うことができました。「メタルは世界を変えることができない。それはたしかだ。だけど、ニュース、本、映画とは全く異なるチャンネルを通じて物語を伝えることならできる。そうやって、いつも僕たちに “逃避” する場所を与えてくれるんだ。メタルはおそらくこの世界におけるユニバーサルな言語であり、表現における最高の武器なんだ!」どうぞ!!

IMPUREZA “ALCÁZARES” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DARKASIDE : DECADE OF CRISIS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JOSHUA MAYUM OF DARKASIDE !!

“Kakarot Is My Favorite Hero, He Is a Force That Knows No Fear, He Always Challenges Himself And Fights For Others That Need Help, As a Kid I Always Wanted To Be Like Goku And Stand Up For Others”

DISC REVIEW “DECADE OF CRISIS”

「カカロットが僕の一番好きなヒーローなんだ。彼は恐れを知らない存在で、常に自分自身に挑戦し、助けを必要とする他者のために戦う。子供の頃、僕は常に悟空のように他者のために立ち上がることを望んでいたんだよ」
誰にでも、幼いころに勇気や優しさをもらったヒーローはいるはずです。もしかしたら、そうしたヒーローから “生き方” のお手本を示してもらった人もいるかもしれませんね。パプア・ニューギニアで抑圧をうけるブーゲンビルの DARKASIDE は、恐れ知らずで、自分に挑戦し、弱いもののために立ち上がる生き方をドラゴンボールの悟空から受け継ぎました。そう、もちろんメタルも誰かのヒーローになれるのです。
「この曲はブーゲンビルの人々に対して、危機を乗り越えて戦った人々や命を落とした人々の犠牲を忘れないよう、また現在も独立のために戦っている人々へのメッセージとリマインダーなんだ。抑圧と弾圧の下でも、ブーゲンビルの人々は互いを支え合い、教育、仕事、ビジネスに努力し、自己を向上させることで、この不条理を克服しなければならないことをね。現在のパプア・ニューギニア政府は、ブーゲンビルが資源(金、銅、カカオなど)に富むため、僕たちの島を富と収入の源と見なし、独立を渋っているんだ」
世界でも最も文化的・人種的・言語的に多様な国の一つといわれる異色の地、パプア・ニューギニアの中でもブーゲンビルはさらに異色の地です。首都ポートモレスビーのあるニューギニア島から離れた場所にあるブーゲンビル島は、鉱物や海洋資源が豊富。その資源は国の主な収入源のひとつとなっています。特に巨大なパングナ鉱山は国の生命線。しかし、政府によるその利益の分配が不公平だとブーゲンビル人は怒り、独立を求めています。内戦まで発展したそのブーゲンビル危機の裏側には、肌の色、言葉、文化の違いで抑圧を受け続けたブーゲンビルの人々の怒り、反骨精神、逆境を乗り越える回復力が存在しました。そしてその回復力は、まさにヘヴィ・メタルに宿る力。
“Decade of Crisis” はそのブーゲンビル危機をテーマとした楽曲です。ただし、DARKASIDE は争いや暴力による解決を求めているわけではありません。友と互いに支え合って高め合い、己を磨き、自己実現を果たしていく中で、権利を主張し譲歩を求める。それはまさにドラゴンボールの修行と武道会。そして、不条理を跳ね退けた先に待っているのは、きっと悟空とベジータのように互いを認め合う心なのかもしれませんね。
「僕たちはメタルを愛しているけど、僕たちはパプア・ニューギニア人であり、より具体的にはブーゲンビル人だ。僕たちは地元の伝統、文化、民話、言語(トク・ピジン/ナシオ)も大切にしているんだよ。こうした文化すべてが非常に重要で、可能な限り自然にメタル・ジャンル(カナカ・メタル)と融合させようと努めているよ。伝統とメタルは、それぞれの地域にとってリアルで忠実なものだから、よく調和するんだ。だから、人々は BLOODYWOOD や SEPULTURA の音楽スタイルに共感するんだよ」
重要なのは、DARKASIDE が理想だけを語る絵に描いた餅、机上の空論のような存在では決してないことです。彼らの音楽には明らかに、人を惹きつける何かがあります。Nu-metal と伝統音楽の類稀なる蜜月。BLOODYWOOD が蒔いたリズミックでフォーキッシュなメタルの種は今、世界中で芽吹こうとしています。そう、世界各地の文化、音楽、言語を吸収するセルのような力こそ、メタルの生命力にして真骨頂。今やメタルに第三世界はありません。ゆえに、そんなモダン・メタルの申し子ともいえる DARKASIDE が、5年後に BLOODYWOOD と肩を並べていたとしても決して不思議ではないのです。
今回弊誌では、フロントマン Joshua Mayum にインタビューを行うことができました。「メタルは、男女の関係について歌ったり、派手なライフスタイルや富を追求したり、この世界の快楽に浸るためのものではない。この音楽は、正義と平等を求める戦いの叫びであり、僕たちが日常の生活で直面する現実の状況と闘い続けるための武器なんだよ」 どうぞ!!

DARKASIDE “DECADE OF CRISIS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【KING GARCIA : HAMELIN】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH KORNILIOS KIRIAKIDIS OF KING GARCIA !!

“The Clarinet, In Particular, Has a Fascinating Quality: It Offers Freedom Between Tempered And Non-Tempered Systems, Opening Up Countless Musical Pathways. It Can Transform From a Sweet, Intimate Instrument To a Scream Of Despair, Making It Incredibly Expressive.”

DISC REVIEW “HAMELIN”

「ハーメルンの伝説は、社会的にも政治的にも、多くの文脈に適用できる。芸術家は常に、はみ出し者、フリンジ (奇抜な狂信者、過激派) として扱われてきた。しかし、芸術には世界を動かす力があると同時に、世界を止めてしまう力もあるんだ。救うことも破壊することも、団結させることも分断させることもできる。重要なメッセージは、権力の行使、あるいは行使の誤りこそが、救世主と暴君を分けるということだ」
欲望に魅入られた権力者の心ない、愚かな行為や圧政、暴力に差別はいつの世にも存在します。そしていつの世も、そんな理不尽や抑圧を引き受けるのは弱い者、はみ出し者、社会の常識に収まらなかった者。
ドイツの寓話、”ハーメルンの笛吹き男” では、ネズミ退治を請け負った 笛吹き男が報酬を支払ってもらえず、怒って町の子どもたちを笛の音で誘い森へと連れ去りました。一方で現代メタルの “笛吹き男”、ギリシャの KING GARCIA は暗い世にはびこるあらゆる種類の腐ったネズミたち-政治家、侵略者、宗教家-をその笛の音で何処かへ連れ去ろうとしています。こうした寓話から読み取れることは何でしょう?”生産性” がないと切り捨てられた人に、実際は世界を動かす力がある?芸術に秘められた諸刃の剣?とはいえ、その寓話と言葉のないアルバム “Hamelin” の受け止め方はリスナーの耳に委ねられています。
「僕たちはクラリネットやトランペットのような管楽器を “伝統的な楽器” として使っているわけではないということだよね。僕たちにとって最も重要なのは、木管楽器や金管楽器のサウンドと、それがもたらすユニークな特徴なんだ。特にクラリネットは魅力的な性質を持っている。調律された音と調律されてない音の間で自由を提供してくれて、数え切れないほど音楽の道を開いてくれる。甘く親密な楽器から絶望の叫びまで変幻自在で、信じられないほどの表現力を発揮するんだ」
実際、モダン・メタルの笛吹き男、その異名は伊達ではありません。クラリネットを主軸にトランペット、バグパイプ、ガイダ、カヴァルといった多彩な管楽器を駆使するのは、バンドの “声” の幅を広げるため。もちろん、ひとつの楽器、ボーカルやギターを “声” に据えてもその才能によって幅を広げることは可能ですが、KING GARCIA は楽器自体を入れ替えるという手法で “声” の多様さを追い求めようとしています。さらに、主軸となるクラリネット、そのギターで言えばフレットレスのような調律のフレキシビリティーがさらに “声” の可能性を押し広げていきます。
「伝統的なギリシャ音楽の影響が僕たちのスタイルにシームレスに織り込まれ、KING GARCIA のサウンドの豊かさと独自性を際立たせている。僕たちの音楽的伝統への敬意は、創造性を制限するものではなく、むしろそれを高め、僕たちの作品に聴衆と直接共鳴する深みを与えているんだよ」
そうした “声” の幅広い可能性は、KING GARCIA の肉体、その音楽的基盤の多様さによってさらに増幅されていきます。ただし、彼らが血肉としてきた影響の数々は、決して意図的ではなく有機的にその体内を巡ります。PAIN OF SALVATION, MESHUGGAH, QUEENS OF THE STONE AGE といったプログレッシブ/オルタナティブの極北、その雫は KING GARCIA の原衝動である ギリシャの伝統音楽とシームレスに混ざり合い、ガイダやカヴァルといった彼の地の伝統楽器を心臓にその体内を駆け巡ります。もしエンニオ・モリコーネやジョン・ウィリアムズがメタルを作ったら…そんな “If” の世界を実現できるのは、きっと彼らだけではないでしょうか?
今回弊誌では、ベーシストの Kornilios Kiriakidis にインタビューを行うことができました。「オンライン中毒による注意力の分断が事実上すべての人に影響を及ぼしている時代において、5秒以上続くものは今やリスクとみなされている。しかし、日常生活の中には、このような注意散漫が侵入できないわずかな時間がまだ残されているんだ。複雑で要求の多い音楽が輝きを放つのは、こうした瞬間なんだよ」 MOTHER OF MILLIONS のメンバーが参加、NEED のプロデューサーが手がけたギリシャ・メタルの最高到達点。どうぞ!!

KING GARCIA “HAMELIN” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CKRAFT : UNCOMMON GROUNDS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CHARLES KIENY OF CKRAFT !!

“I Might Be Wrong, But I Don’t Think There’s Another Metal Band Fronted By This Accordion And Saxophone Section.”

DISC REVIEW “UNCOMMON GROUNDS”

「バンド名の CKRAFT は、”Craft” と “Kraft” という2つの単語を意図的に組み合わせたもので、僕たちの音楽哲学の核心を表している。英語の “Craft” は、僕たちが深く大切にしている “クラフトマン・シップ”、つまり作曲、レコーディング、演奏、そしてサウンドをゼロから構築していく実践的な作業を意味している。サンプルもプログラミングもなく、すべては楽器の演奏から生まれることをね。一方、ドイツ語で “Kraft” は “強さ” や “力” と訳され、ヘヴィでクラッシングなサウンドを意味するんだ!」
テクノロジーの進歩は、メタル世界にも様々な恩恵をもたらしています。アナログ時代には想像も出来なかったサウンド、正確性、利便性。その一方で、アナログ時代に確かに存在した “クラフトマン・シップ”、職人芸や鍛錬を重ねることでたどり着く創造性が失われたと感じるリスナーも少なくないでしょう。芸術の都パリを拠点とする CKRAFT は、伝統と革新の融合で失われつつある音楽の “クラフトマン・シップ” を再度提示します。
「僕の最大の情熱のひとつは、音楽(そして芸術全般)がいかに永続的で普遍的なものであるかを探求することで、このような古代のサウンドがいかに現代の文脈の中でも共鳴しうるかということが、それをよく表していると思う。それは、一見異質な世界の間に “共通点” を見出すことなのだ」
CKRAFT がすべて人の手から生まれる “クラフトマン・シップ” にこだわるのは、音楽の、芸術の永続性を探求するため。最新のテクノロジーどころか、電気もなかった時代。そんな時代の音楽でも、今の世に響く素晴らしさ。そこに CKRAFT は感動を覚えました。そうして、CKRAFT は、現代で感動を覚える MESHUGGAH や GOJIRA のヘヴィ・グルーヴと古代の音楽が共鳴することを発見します。彼らが特に感化されたのが、グレゴリオ聖歌。その壮大で神聖なクオリティは、まさに CKRAFT が愛するジャズとメタル、そして古代と現代のギャップを埋める重要な “糸” だったのです。
「アコーディオンやサックスはおそらく、僕たちを知ったときに最初に目にするもののひとつで、CKRAFT を際立たせている。間違っているかもしれないけど、このアコーディオンとサックス・セクションを前面に出したメタル・バンドは他にないと思う。僕にとっては、破砕的なリフに対する深い愛と、僕が大切にしているアコースティック楽器を融合させ、それを力強く機能させる方法を見出したかったということに尽きる」
CKRAFT のそんな野望、野心に応える楽器がアコーディオンでした。17世紀に誕生した美しき蛇腹の楽器は現在まで、時の試練に耐えその麗しき音色を奏で続けています。まさに時代をつなぐアーティファクト。だからこそ、聖歌、クラシック、ジャズ、メタルの架け橋として、彼らにとっては完璧な楽器でした。もちろん、そのままの音量ではメタルの喧騒に埋もれてしまいます。アコーディオン奏者で今回のインタビューイ Charles Kieny はそこに現代のテクノロジーを注ぎ込みました。シンセ・アコーディオン。ラウドに生まれ変わった古来の楽器は、そうしてモダン・メタルと多様な融合を果たすことになりました。
そうして “クラフトマン・シップ” の申し子たちは、メタルのヘヴィネス、ジャズの自由、グレゴリオの不滅の旋律を借りた、精巧でパワフルなサウンドの職人として完成しました。テナー・サックスとアコーディオンの熱狂的なブラストは決して声にも劣りません。真に才能のあるインストゥルメンタル・アーティストは、言葉を一切使わずに最も壮大なイメージを呼び起こすことができるのです。
今回弊誌では、Charles Kieny にインタビューを行うことができました。「MESHUGGAH はメタルにおける複雑さと精密さの頂点を表していると思う。彼らには独自のグルーヴがあり、そのリフはこの地球上の誰も生み出したことのないものだ」 どうぞ!!

CKRAFT “UNCOMMON GROUND” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【BLOODYWOOD : NU DELHI】 JAPAN TOUR 25′


COVER STORY : BLOODYWOOD “NU DELHI”

“It’s True For Babymetal As Well. Like Wasabi, It’s an Acquired Taste. Once You Understand It, You Cannot Get Enough!”

NU DELHI

「BLOODYWOOD はメタルなんだけど、たくさんのスパイスが効いていて、五感を圧倒するんだ。 誰もがヘドバンして、最後は僕らと一緒に踊ることになるよ」
これは、メタル界で最も独創的なバンドのひとつである BLOODYWOOD のミッション・ステートメントです。 2016年に結成された BLOODYWOOD は、伝統的なインド楽器を用いてメタルの常識を覆しました。彼らの曲にはクランチング・リフと同じくらいのバーンスリーやドールがフィーチャーされています。 ステージでは6人編成になる彼らは、オリジナル曲を作る前にYouTubeでポップ・ソングやオルタナティブ・ヒットをカバーし、バイラル・センセーションを巻き起こしました。そこから彼らの人気に火がつきました。
最初のギグは、2019年のドイツのメタル・フェスティバル、ヴァッケン・オープン・エア。その4年後、彼らはイギリスのダウンロード・フェスティバルで、日曜日の早い時間にメイン・ステージにおいて大勢の観客を集めました。 フジロックでの好演も記憶に新しいところ。
2022年のデビュー・アルバム “Rakshak” がUKロック&メタル・チャートとUSデジタル・チャートでトップ10入りを果たしたとき、国際的な好意は確信に変わりました。さらに、彼らの楽曲 “Dana Dan” がアクション超大作 “Monkey Man” のワンシーンのサウンドトラックに採用されると、その人気はさらに高まっていきました。BLOODYWOOD はインド史上最大のメタル輸出品となったのです。
「インドのメタル・シーンなんて誰も気にしてなかったんだ。そこで僕らが考えたのは、インターネットで自分たちを全世界に発信することだった。 その土地の言葉でヒップホップやポップスをやっていれば、その土地のアーティストになれる。 でも、メタルでそれをやっても、少なくともインドでは通用しなかった。だから世界を目指したんだ」

ローカルをすっ飛ばして世界へ。BLOODYWOOD は当初インドのシーンではなく、FacebookやYouTubeにカバー曲を投稿してファンを増やしていきました。バイラルを叩き出すために、インドのサウンドスケープが欠かせないもの。彼らの曲は、8弦ギターのリフで鼓膜をへし折るかのような、脈打つような Nu-metal を核にしていますが、ヒンディー語の歌詞を英語に混ぜ、ドールのような民族楽器も使っています。
「ヤギの皮でできていて、どの種類の木かもわからないんだ」
しかし、彼らはただアイデアと遊び心のある奇抜な人気者というわけではありません。ギタリストの Karan Katiyar はソーシャルメディア上で 「ここ2、3年はこれまで以上に多くのいじめや憎悪を目にする。 また、その多くがエスニシティに向けられたものであり、だからこそ自分たちのストーリーを伝えることがより重要になった」と語っています。
ボーカリストの Jayant Bhadula は年上のいとこを通じてヘヴィ・メタルに出会い、ヴァイキング・メタル AMON AMARTH の音楽を教示され、SLIPKNOT から SYSTEM OF A DOWN までモダン・クラシックの詰まったCDを焼いてもらいました。その両者からの影響は、まさに BLOODYWOOD の音楽に滲み出ています。「誰かが僕をモッシュピットに放り込んでくれて、人生で最高の時間を過ごしたよ」
ただ、最初から順風満帆だった訳ではありません。
「最初にレコーディングしたのは、本当のスタジオではなかったんだ。 狭くて、夜はとても寒かった。 毛布がなかったから、カーテンを下ろして代わりに使っていた。 貧乏だったわけじゃない。両親には自分の活動を隠すのが一番だと考えていたからね。
インドでは、親が認める職業は3つしかない。医者、弁護士、役人だ。 当時なら親はきっと賛成してくれなかっただろうけど、今は賛成してくれて嬉しいよ」

Katiyar の最初のギターは “Givson” でした。
「インドの偽ギター業界を紹介するよ!最初のギターは、”Givson” というブランドのエレクトロアコースティックだった。そのアンプのひとつにオーバードライブのセッティングがあって、もちろんノブなんだけど、ノブをゼロから0.01でも何でもいいから少し回した瞬間に、信号が完全に歪んでしまうんだ (笑)」
ラップを担当する Raoul Kerr に出会った時のことを、Katiyar は今でも覚えています。善のための力になろうというバンドの意欲をアピールする Kerr は、強いメッセージで性的暴力を非難しています。 今日、彼はほとんどいつも “No Flag” の文字が入ったマッスルベストを着て、BLOODYWOOD が分断ではなく団結を望んでいることを一貫して証明しているのです。
「彼に会った瞬間から、僕たちが同じビジョンを共有していることは明らかだった。最初はレスラーのようだと思ったけどね! 彼のライムとフロウは、まさに僕たちがまだ探していたピースだった。 僕たちは何を探しているのか正確には知らなかったが、とにかくそれを見つけたんだ」
ラッパー Kerr にとっての神様は、多面的でした。
「Mike Shinoda が僕の最初のインスピレーションで、Nu-metal 的な要素もあった。LINKIN PARK は僕の最初の音楽的な神だ。 昔は他の人と同じように、ラジオから流れている音楽は何でも聴いていた。でも、LINKIN PARK は初めて好きになったバンドで、積極的に追いかけた。その後、ヒップホップの入り口が開かれ、Eminem に入ったんだ。彼は、一世代前のラッパーたちにとって誰もが認めるインスピレーションの源だから、多くの人が彼を1位にする。 彼について好きになれるものはたくさんある。 嫌いなところもたくさんある。でも、ひとつだけ反論できないのは、彼が正直で、自分をさらけ出しているということだ。 彼のテクニックは手がつけられないほどだけど、正直なところ、テクニックとかよりも、彼は正直なんだ。 だから僕はこう言いたい。Mike, Eminem, RAGE AGAINST THE MACHINE は、僕が大人になってからの神だった。 彼らが音楽と政治の融合で社会変革の境界線をどこまで押し広げ、社会的インパクトを与えることができたかという点で、影響は大きいね」

Bhadula によれば、彼らの出身地であるデリーでは音楽教育が盛んで、ギターやドラムのクラスがあるところがたくさんあるといいます。
「学校では音楽を演奏している人の中でも、いつもメタルを演奏している人がみんなの度肝を抜いていた」
と Katiyar は回顧します。 しかし、そうした状況がインドのメタル・シーンに広く浸透しているとはまだいえません。
「インドはとても大きな国だから、メタルのリスナーが少ないという事実をつきつけられるのは不思議なことだよ」
インドのメタルはライブだけでなく、音楽のプロモーションというインフラも欠けていると Bhadula はいいます。
「インドでは、音楽の仕事といえば基本的にボリウッドで働くことであり、メタルは仕事になるわけじゃない」
つまり、BLOODYWOOD は多くのローカルなアンダーグラウンドのバンドを背負って、世界でほぼ一人でインドの旗を振っているのです。
「自分たちの音楽で国や文化を表現するのが大好きなんだ」と Katiyar はいいます。 「プレッシャーは全くないけれど、時々頭を悩ませるのは、インドという国全体を代表することが難しいということだ。 文化も言語もたくさんあるし、楽器の数も数えきれない。それでも、可能な限り、みんなを代表したいんだ」

BLOODYWOOD が2023年のダウンロードのメインステージのオープニングを飾ったとき、6月の日差しを浴びる観客の多さは、このインドのメタル・アクトが本物であることを証明していました。デビュー・アルバム “Rakshak” をリリースしたばかりの彼らは、ドールやタブラといったインドの伝統楽器と怪物的なリフを融合させ、インド・メタルを世界地図にしっかりと刻み込んだのです。
「大盛況だった! 僕たちは決して期待しないで臨む。なぜなら、期待値を低く抑えれば、いつもそれを上回ることができるからね。 でも、あれは子供の頃に夢見た瞬間のひとつだった。ヨーロッパの人々が僕たちのところにやってきて、僕たちの曲が彼らにとってどれほど重要かを話してくれたとき、自分たちが到達したレベルを理解し始めた。 僕たちの曲のいくつかは、世界中で困難な時期を乗り越える人々を助けてきた。 天職を見つけたという意味での “made it “だね」
2019年のドキュメンタリーを “Raj Against the Machine” と命名し、ナン色のレコードを販売するなど自分たちの文化に遊び心を加えて紹介する一方で、彼らはシングル “Gaddaar” で憎悪に満ちたレトリックを使って分断を図ろうとする政治家たちに反撃し、レイプ・カルチャーに反対するために音楽を使ってステイトメント、連帯の意思表示を発してきました。「これは世界的な問題であり、僕たちが強く主張ていることだよ」と Katiyar は言います。 「愛する人のために立ち上がること以上にメタルなことはあまりないと思う」
彼らのニューアルバム “Nu Delhi” は、2022年のデビュー作 “Rakshak” に比べて政治色が抑えられています。Katiyar は、ロシアがウクライナに侵攻したのと同じ週に “Rakshak” がリリースされ、それ以来、世界は絶え間なく毒のような敵意に渦巻いていると指摘します。
「人々はどちらか一方を選び、もう一方と戦うことに熱心だ」

だからこそバンドは、自分たちの祖国と歴史の物語を祝うことで、毒性、ステレオタイプ、いじめに対抗することを選んだのです。 「音楽を通して、世界を生きやすい場所にしようとしているんだ。音楽のポジティブな面をできるだけ多くの人に届けたいんだよ」
BLOODYWOOD のニュー・アルバムのタイトルは “Nu Delhi” ニュー・メタルとインドの影響を融合させたダジャレのようなもの。しかしその歌詞は、音楽と同様に彼らの国の文化への敬意に満ちています。タイトル曲は、人口3,400万人の大都市、インドの首都の過密な通りへとリスナーを引きずり込みます。
「ここでは誰もが試されている。聖人も罪人もいる、街ではなくチェスのゲームだ」
彼らにとっての目標は、より広い世界に、正真正銘のインド観を提供すること。同時に英語とヒンディー語の両方で精神疾患に光を当て、性的虐待を告発し、愛と喪失の両方を探求することが彼らのヘヴィ・メタル。そう Bhadula は主張します。
「僕たちはいつも、自分たちの身近にあるものをテーマにしようとしているんだ。”Nu Delhi” では、インドにはメタルだけでなく、世界に匹敵するような盛んな音楽シーンがあることを知らせたかったんだ。ファースト・シングルの “Nu Delhi” そのものが、僕たちからこの街へのラブレターなんだ」
“Tadka” ではインド料理に対する不滅の愛を表現しました。
「”Tadka” の正確な意味は、”スパイスや調味料のエッセンスを引き出し、料理を爆発的な味に変える技術” なんだ。料理の味を引き立てるために使うんだよ。”Tadka” を使うと赤唐辛子、マスタードオイル、マスタードシードなど、その料理の味がまるで別物のようになる。南インドから北インドまで、東インドから西インドまで、同じ食材でも使い方は人それぞれだ。味の大爆発なんだ!」
料理について熱く語ったメタルはそうそうないでしょう。
「僕たちが書くトピックはすべて、僕たちの心に近いものなんだ。ツアー中、僕らはヨーロッパ料理を食べていて、それは数日間はいいんだけど、最終的にはインド料理が食べたくなった。じゃあインド料理の素晴らしさについて書けばいいじゃないか。インド料理は芸術なんだ。スパイスのバランスを保たなければならないからね。
Karan がインストゥルメンタル・パートを考えてくれたんだけど、サビに入るリフが何か言っているような感じがしたんだ。”Tadka” は素晴らしい言葉だし、それが雪だるま式に広がっていった。料理だけに使われる言葉ではないから、人生に味をつける、人生にスパイスを加えるという比喩として使うことができる。とはいえ、僕たちは皆、本当に食べ物に対する情熱を持っているんだ」

“Bekhauf” では、BABYMETAL とアジアン・メタルの新たな歴史を作りました。
「以前から BABYMETAL のファンだったんだ。彼女たちを知ったのは “ギミチョコ!!” で、”メギツネ” も聴いたんだけど、あれはアレンジの点で、今まで聴いた中で最高のメタル・トラックのひとつだよ。”ド・キ・ド・キ⭐︎モーニング” がとても好きだし、”KARATE” も大好きだ。 実は BABYMETAL の曲も何曲かカバーしてみたんだけど、歌詞がめちゃくちゃでね(笑)。
最初は興味本位でビデオを見ていたんだけど、甲高いボーカルで歌い始めて、その間にバンドが全力疾走しているんだ。 最初は不思議だと思ったんだけど、一緒に聴くとすごくいいんだ。わさびと同じで、後天的な味覚だ。 一度理解したら、それなしでは満足できない。
ある時、BABYMETALのプロデューサーである KOBAMETALがライブに来てくれたんだ。それからずっと後になって、Karan が “Bekhauf” のためにインストゥルメンタルを作っていたんだけど、偶然にも同じ頃にKOBAから “一緒に何かやろう”というメッセージを受け取ったんだ。
僕たちはすでに BABYMETAL のためにパートを書いていて、それを気に入れば先に進めようということになっていた。僕たちは音節をどのようにヒットさせたいかというアイディアを持っていて、3人はそれを実現してくれた。すべてが相乗効果でうまくいったね」
BLOODYWOOD はバンドとして、日本の文化にゾッコンです。
「日本のマーケットはメタルを本当に受け入れているんだ。 僕はずっとアニメを見てきた。 例えば、”Death Note” の主題歌、MAXIMUM THE HORMONE の “What’s Up People?!!!” はとてもヘヴィだ。 こういう曲が日本のテレビで放送されていることにいつも衝撃を受ける。 インドでは、生まれてこのかた、テレビでメタルの曲を見たのは1曲だけだよ。メタルファンは100%素晴らしいコミュニティだ。 世界中のメタルヘッズは、どこの出身であろうと共通の特徴を持っているからね」

アニメとメタルは世界をつなぐ架け橋だと彼らは考えています。
「バンド全員が “ドラゴンボールZ” と “進撃の巨人” のアニメシリーズを見ていて、大好きなんだ。音楽だけでなく、キャラクターやストーリーも楽しめる。”ドラゴンボールZ” の界王拳を引用した “Aaj” という曲は、自分の限界に挑戦し、より良い自分になることを歌った曲なので、ぴったりだったよね。
曲を書いているときに、この言葉を使えると思ったんだ。 簡単なディスカッションをして、たとえみんながその言葉を知らなくても、耳にはとてもいい響きに聞こえると判断したんだ。 驚いたのは、僕たちの支持基盤の多くが即座にその言葉を理解したことだ!
僕たちのファンの多くがアニメも見ていることに気づいたよ。だから今、僕らはソーシャルメディア上でアニメの推薦を受け入れるようになり、最新の情報を得るようになった。 最近、映画 “呪術廻戦0” を観に行ったんだ。友達は誰もアニメを観ないから、ひとりで。 リクライニング・チェアがあり、ポップコーンがあり、幸せだった! 」
そうして世界中とコラボしてツアーすることで、ニューデリーの良さを再認識できたと Bhadula は考えています。
「このアルバムは、ニューデリーが “やあ、僕らもメタル世界にちゃんと入ったよ” と言っているんだ。もちろん、ニューデリーにいるときはもっと好感が持てる。家にいて、周りに友達がいて、ある種の安心感がある。でもツアーに出ているときも、故郷のように感じるよ。だってヒンドゥー語を知らない人たちが、一緒に歌っているのを見ることができるからね。グラスポップ・メタル・ミーティングでは、ヨーロッパに住むパキスタン人(インド国旗を掲げていた)がいて、 “君たちのおかげでメタル世界の一員になれた気がする” と言っていた。この感謝の気持ちが、ホームシックなんて吹き飛ばしてくれるんだ…料理は別としてね!」
最近のドキュメンタリー “Expect A Riot” で彼らは、このアルバムで “インドに対する認識を変えたい” と語っていました。
「どのようなソーシャルメディア上でも、あるレベルのインド嫌いが蔓延している。”BABYMETALよ、なぜこんなP******とコラボしたんだ?” みたいなね。僕たちは常に平和な場所にいるわけではない。それは SNS 上で取り組まなければならないことで、僕たちのためだけでなく、世界中のすべての人のためでもある。僕たちができる最初の一歩は、そうした人たちの偏見、インドに対する認識を変えることだ。
僕たちは、世界で最も古い文明のひとつから生まれた。インドの文化は非常に多様で、一生かけてもインド全土を巡り、そのすべてを理解することはできないだろうね。そして伝統や文化だけでなく、科学にも多くのものを提供してきた国なんだ。他の誰かを攻撃することで、この認識を変えることはできない。このアルバムは、僕たちの一部分と、僕たちの出身地であるこの街への愛を分かち合うものだ。願わくば、人々が理解し、巷にはびこるインド人嫌いのフィルターを越えて見てくれることを願っているよ」

インドに対する偏見は、TikTok の影響だとも。
「インドに対する人々の印象は、実際とはかなり違っていて、その多くはTikTokに関係している。TikTokでは、インドの偏ったバージョンが常に描かれているんだ。汚い食べ物、汚い道路、汚い人々。 でも、実際にはそういうもは、探さなければ見つからない。 もしインドに来て、まずい店を探すなら、まずい街のまずいところに行くしかない。 この国はそういう国じゃないんだ。もしそうだとしたら、美味しい物が好きな僕たちみんな死んでるよ (笑)」
“Bekhauf” でのシンセサイザーの多用は、より純粋なフォーク・メタル・スタイルからの逸脱を予言しているのでしょうか?
「危険な要素もあるんだ。僕らのフィルターを通さない意見からだけでなく、このアルバムで実験した方法からもね。実験のひとつは “Bekhauf” で、次のアルバムで何をすべきかについて、誰もがそれぞれの意見を持っていた。でも、僕たちは最初からそうしてきたように、最も正直な気持ちを吐き出し、それを聴いてもらうことで、好きか嫌いかを決めてもらうことにしたんだ」
歌詞をすべて追えなくても、彼らの曲がいかに心からのものであるか、その情熱が伝わるはずです。そしてこの “Nu Delhi” は政治色よりもアットホームな要素を全面に押し出しました。例えば、”Halla Bol” では歴史的に重要な事件を扱い、”Hutt” では自己承認や否定的な雑音に立ち向かうという考え、あるいは “Tadka” ではインド料理の楽しさなど、ポジティブな意思を発信しています。
「音楽が世界に与える影響の限界を押し広げようとしているんだ。それが内なる戦いであれ、より良い世界のための戦いであれ、僕らのサウンドはみんなをひとつにして勝利に導くためのものなんだ」
常に “謙虚” だからこそ、BLOODYWOOD のメッセージは多くの人の心に届きます。
「実は…この成功は夢のようなものなんだ。インドでは、海外に出て、世界最大の舞台で国際的な観客のためにプレーする人はあまりいないんだ。つまり、50%は夢のようなもので、現実であるには素晴らしすぎる。 でも、あとの50%はとても信じられる。 なぜなら、インドだけでなく、世界中には、24時間365日、音楽が好きで働いているミュージシャンのように、懸命に努力している人たちがたくさんいることを知っているから。どんなに才能があっても、運という要素は必要だ。僕たちはそれを手に入れた。 でも同時に、自分たちの仕事を必死でやっていたから、幸運が訪れた。だから、このバンドはみんな謙虚でいられるんだと思う」


参考文献: JAPAN FORWARD :INTERVIEW | India’s Bloodywood Are Babymetal Fans and Out to Inspire Change in the World

KERRANG! :Bloodywood: “This album is New Delhi saying, ‘Hi, we’ve entered the metal world chat’”

THE GUARDIAN :Indian rock sensations Bloodywood: ‘What’s more metal than standing up for people you love?

GUITAR.COM :https://guitar.com/features/interviews/bloodywood-interview-karan-katiyar-nu-delhi/

来日公演の詳細はこちら。SMASH JAPAN

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SAOR : ADMIST THE RUINS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ANDY MARSHALL OF SAOR !!

“When People Listen To SAOR, I Want Them To Close Their Eyes And Be Transported Somewhere Else―Away From Their Worries, Even If Just For a Little While. Music Has That Power, And I Think That’s What Makes It So Special.”

DISC REVIEW “ADMIST THE RUINS”

「メタルには生の激しさがあり、伝統的な民族音楽と見事に調和するパワーがある。民族音楽は魂に語りかけるもので、歴史や感情、土地との深いつながりを運んでくる。それとメタルのヘヴィネスとエネルギーとを組み合わせると、重厚で深い感動が生まれる。自然な融合だよ」
ブラックメタルが根付いた土地の文化や自然を愛する営みは、今やメタル世界において最も純粋さが感じられる尊い瞬間のひとつ。その老舗であり盟主、SAOR の中の人 Andy Marshall は世界屈指のフォーク/ブラックメタル・アーティストであり、スコットランドの計り知れない美しさと民俗文化に誰よりも思いを馳せ、愛情を注ぎながらその音楽を書いています。そう、ヘヴィ・メタルも伝統音楽も、魂に語りかける歴史と感情の音楽。だからこそ両者は、純粋に、そして外連見なく溶け合います。
「僕はいつもスコットランドの歴史に魅了されてきたんだ。”グレンコーの虐殺” は、僕たちの過去において最も暗く悲劇的な瞬間のひとつだった。僕は自分の音楽でスコットランドの歴史の異なる時代を探求していくのが好きなのだけど、当時は、この特殊なストーリーがとても心に響いたんだよね」
“Amidst the Ruins” “廃墟の中で” と題された SAOR 6枚目のアルバムは、ここ数作で少し霞んでいたスコットランドの自然、荒涼とした高地、艶やかな湖、霧に覆われた渓谷が再びまざまざと眼下に広がる作品に仕上がりました。壮大でプログレッシブ。伝統楽器とディストーションがドラマチックに勇躍する旋律の重厚舞踏。
ブラックメタルの激しさとケルト民謡のメロディーの壮大な融合はそうして、ハイランドの歴史に生命を吹き込んでいきます。 カレドニアの精神に導かれ、SAOR の音楽は故郷の古代の物語と響き合い、時を超えます。哀愁漂う廃墟と自然の中で SAOR の奏でる音魂は、人間の裏切りから森がささやく秘め事まで、時代を超越した風景と人類の業を風化した幽玄なる渓谷から蘇らせていくのです。
インタビューの中で Andy は、歳をとるにつれて政治に関心がなくなってきた、暴力や欺瞞が蔓延る暗い現代よりも自分の音楽に集中したいと語っています。実際、スコットランドの独立を願っていた以前よりも肩の力が抜けて、スコットランドの美点へとよりフォーカスした作品はそんな考え方の変化を反映しているようにも感じます。
ただし、そうした変化の中でも Andy は、荘厳にして深淵、一際悲哀を誘う “Glen of Sorrow” で “グレンコーの虐殺” を取りあげました。これは17世紀にイングランド政府が手引きして起こった、スコットランド、グレンコーの罪なき村人たちが殺戮された忌まわしき事件。この一件により、スコットランドとイングランドはより険悪な関係となり、その余韻は300年を経た今でも少なからず続いています。ハイランドの嘆きの谷。そこに巣食う亡霊は今の世界を見て何を思うのでしょうか?きっと、Andy Marshall はそんな問いかけをこの美しくも悲しい暗がりで世界に発しているのではないでしょうか?
今回弊誌では、Andy Marshall にインタビューを行うことができました。
「僕はメタルだけじゃなく、すべての音楽は、ある意味で逃避場所になりうると思う。人々がSAORを聴くとき、目を閉じてどこか他の場所へ…ほんの少しの間でも悩みから遠ざかってほしい。音楽にはそういう力がある。それが音楽を特別なものにしていると思う」それでも、私たちにはヘヴィ・メタルがある。二度目の登場。 どうぞ!!

SAOR “ADMIST THE RUINS” : 10/10

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