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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【JORDAN RUDESS : WIRED FOR MADNESS】【DREAM THEATER : DISTANCE OVER TIME】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JORDAN RUDESS OF DREAM THEATER !!

“I Believe The Keyboard World Can Move To Higher Level Much Like The World Of The Electric Guitar In The Last 50 Years. The Keyboard And The Keyboardist Have Incredible Potential For Music Making. “

DISC REVIEW “WIRED FOR MADNESS”

「僕は “Jordan Rudess” が経験してきたこと全てをこの作品に注ぎたかったんだ。完全に自由になって、ロックのフォーマットで僕の音楽精神全てを表現することが重要だったんだよ。」
現代キーボードヒーローの代名詞。そして巨人 DREAM THEATER にとって心臓にして中枢となった鍵盤の魔術師は、それでもなお音の自己証明をソロアルバムに求めます。
アーティストにとってソロ作品の利点は、所属する集団から隔離された天性のスペース、実験のラボラトリー、”完全なる自由”。
「”The Astonishing” は素晴らしい音楽的なチャレンジで、僕は本当に楽しめたんだ。一方で、新しい DREAM THEATER のアルバムは、ファンの愛する要素を全て取り入れた作品だと感じているよ。まさにプログとメタルのクールなミックスさ!!」
Jordan は “Distance Over Time” の即効性、穿った言い方をすれば素晴らしき “ファンへの贈物” を完全にポジティブに捉えています。しかし一方で “人生を変えたアルバム” を見れば伝わるように、彼のエクレクティックな影響の海原において原点、精髄があくまでもプログレッシブロック、”The Astonishing” に集約された挑戦の美学にあることは明らかでしょう。
コンテンポリーなクラシカルミュージック、ソロピアノ作品、奇想天外なカバーアルバムとその多様なバックボーンをソロアルバムとして昇華してきたマエストロ。そうして到達した個性の極み “Wired For Madness” は、”自分を完全に表現” した “本当にプログレッシブな作品” となったのです。
35分の組曲で、2つの楽章がさらに10のパートに分かれる一大エピック “Wired For Madness” は、Jordan にとっての “Tarkus” であり “Karn Evil 9” ではないでしょうか。それは、人生をより良くするため自己の一部をコンピューター化する男の物語。
もちろん、彼の Keith Emerson に対する心酔はよく知られるところですが、音楽のみならず楽曲の題材、テーマまでSF狂 EMERSON LAKE & PALMER へのリスペクトに溢れたエピック “Wired For Madness” のプログレッシブスピリットは圧倒的です。
加速するテクノロジーへの依存、現実世界との分断。コンピューターボイスとデジタルワールドをプロローグに、オッドタイムと鍵盤のパラダイムで近未来の特異点を描く Jordan は現代の吟遊詩人なのかも知れませんね。
興味深いことに、Jordan 自らが歌い紡ぐテクノロジーの詩は時に親交のあった David Bowie をも想起させます。ジギー・スターダストの方法論で警鐘を鳴らす鬼才の声と慧眼は、ロックの庭内でジャズやオーケストラ、エスノ、エレクトロをクロスオーバーさせながら “楽曲によりスペーシーでメロウな感覚を持たせる” ことに成功しています。
故に、例えば THE BEATLES と LIQUID TENSION EXPERIMENT, GENTLE GIANT と APHEX TWIN が入り乱れるこのレトロフューチャーな実験を奏功へと導いたのも、演者を自由に選択可能なソロ作品のアドバンテージであったと言えるのかも知れません。そして事実、彼のSFオペラには、自らのマルチプレイを含め適材適所なキャスティングがなされています。
DREAM THEATER の同僚 John Petrucci, James LaBrie、さらに Marco Minnemann, Guthrie Govan, Vinnie Moore, Joe Bonamassa, Rod Morgenstein, Elijah Wood, Jonas Reingold, Alek Darson, Marjana Semkina。ベテランから新鋭まで、ロックワールドの要人をこれほど巧みに配した作品は決して多くはないでしょう。
組曲を離れても、DIRTY LOOPS にインスパイアされた “Perpetual Shine”、意外性のヘヴィーブルーズ “Just Can’t Win”、さらに絶佳の叙情を湛えた珠玉のバラード “Just For Today” と聴きどころは満載。そうして壮大なプログ劇場は、5/8 と 6/8 を往来するコズミックなプログチューン “When I Dream” でその幕を閉じるのです。
今回弊誌では、Jordan Rudess にインタビューを行うことが出来ました。「僕はキーボードの世界は、エレキギターがこの50年で作り上げた世界に匹敵する高いレベルへ移行することが可能だと信じているんだよ。キーボード、そしてキーボーディストは、音楽制作において驚異的なポテンシャルを秘めているんだ。」 どうぞ!!

JORDAN RUDESS “WIRED FOR MADNESS” : 9.9/10

DISC REVIEW “DISTANCE OVER TIME”

DREAM THEATER がいなければ今日のプログメタルは存在しなかったでしょう。
メタルの転換期にして、モダンメタルにとって架け替えのない重要なピリオドとなった80年代後半から90年代前半の “ポストファーストメタルタイム”。ある者は複雑なリズムアプローチを、ある者はプログレッシブロックを、ある者はデスメタルを、ある者はエクストリームな残虐性を、ある者はフォルクローレを “ベーシック” なメタルに加えることで、彼らはモダンメタルの礎となる多様性を築き上げていきました。
様々なバンドがより幅広いスペクトルの音楽を聴くことで、メタルに “意外性” を加えていった変革の時代に、DREAM THEATER は別世界のテクニック、精密繊細なコンポジション、洗練されたデザイン、静謐と激重のダイナミズムでプログメタルの雛形を作り上げたのです。
特筆すべきは、QUEENSRYCHE を除いて、商業的なアピールに乏しかったそれまでのプログメタルワールドに、コマーシャルな新風を吹き込んだ点でしょう。複雑で思慮深くありながら、幅広いオーディエンスにアピールするフック、メロディー、テンションの黄金比は確実にプログメタルのあり方を変えました。
30年を経て、現在も DREAM THEATER はプログメタルの顔であり続けています。ただし、30年前のように崇高なる革命家であるかどうかについては議論が分かれるのかも知れませんね。
もちろん、DREAM THEATER に駄作は存在しません。Mike Portnoy の離脱、Mike Mangini の加入は、テクニック的には寧ろ向上にも思えますし、マスターマインド John Petrucci が聴く価値のない楽曲を制作するはずもないでしょう。ただし一方で、Mangini の加入以降、バンドの行先が “ロボティック” でアートよりもサイエンスに向いているという指摘が存在したのも確かです。
だからこそ、誤解を恐れずに言えば、前作 “The Astonishing” は傑作になり損ねたレコードでした。メロディーやエモーション、インストゥルメンタルなアプローチに関しては、群を抜いていたとさえ言えるでしょう。壮大なロックオペラというコンセプトも実にチャレンジングでしたが、故に引き算の美学を行使できず、結果として冗長な2時間超のアルバムに着地してしまったようにも思えます。
言いかえれば、プロデューサー John Petrucci 一頭体制の限界だったのかも知れませんね。少なくとも、Mike Portnoy は取捨選択のエキスパートでした。
対照的に、バンド全員でライティング&レコーディングを行った一体化と有機性の最新作 “Distance Over Time” は、Jordan の言葉を借りれば、「ファンの愛する要素を全て取り入れた作品だと感じているよ。まさにプログとメタルのクールなミックス」のレコード。
“Images & Words” のようにコンパクトでキャッチー、そして “Train of Thought” のようにダークでヘヴィーなアルバムは、RUSH と METALLICA の婚姻という原点をコンテンポラリーに再構築した快作です。
エセリアルな天使が鍵盤と弦上を華麗に踊る “Untethered Angel”、TOOL ライクなグルーヴの海に LaBrie の技巧が映える “Paralyzed”、”Black Album” meets カントリーな “Fall into the Light”、”Barstool Warrior” に開花する Petrucci の溢れるエモーション、”S2N” で炸裂する John Myung のアタッキーな妙技、そして “At Wit’s End” の LIQUID TENSION EXPERIMENT を彷彿とさせるトリッキーなシーケンシャルロマン。聴きどころに不足することは間違いなくないでしょう。
そうして、アルバムは DREAM THEATER らしいリリックの巧妙でその幕を閉じます。”Pale Blue Dot”。カール・セーガンへのオマージュで彼らは、殺戮や憎悪まで生命の営み全てが詰め込まれた碧き “点” への再考とリスペクトを促すのです。
“Distance Over Time” には、プログメタル革命の新たな旗が描かれているわけではないかも知れません。ただし、バンドの秘めたる野心の牙はきっとその鋭さを増しています。革命家の DREAM THEATER を求めるのか、政治家の DREAM THEATER を求めるのか。リスナーの需要や願望によってその評価が分かれる作品なのかも知れませんが、クオリティーは最高峰です。

DREAM THEATER “DISTANCE OVER TIME” : 9.8/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【INTO THE GREAT DIVIDE : INTO THE GREAT DIVIDE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ZACK ZALON OF INTO THE GREAT DIVIDE !!

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Incredible Multi-instrumental Player, Zack Zalon Creates Pure Prog-metal Epic “Into The Great Divide” With Dream Theater’s Maestro Mike Mangini !!

DISC REVIEW “INTO THE GREAT DIVIDE”

マルチインストゥルメンタリスト、伏竜 Zack Zalon が提唱し、Mike Mangini, Richard Chycki の DREAM THEATER 人脈が入眼へと導いた “ロックノベル” プロジェクト INTO THE GREAT DIVIDE が渾身のデビュー作をリリースしました!!プログメタルのレガシーを存分に咀嚼し忠実に新構築する彼らの純粋なる流儀は、細分化極まるモダンメタルの風土へ却って新鮮な風を運びます。
プログロックの中でも特に RUSH や YES の持つエピカルなメロディー、繊細なテクニック、数学的な変拍子、壮大なオーケストレーションをメタルと融合させたプログメタル。DREAM THEATER, FATES WARNING の二大巨頭を始祖とするジャンルは黎明期から様々にユニークなバンドを多く輩出しています。
SHADOW GALLERY, LIQUID TENSION EXPERIMENT, MAGELLAN, ICE AGE, DALI’S DILEMMA。プログメタル、シュレッドに特化した偉大な Magna Carta, Shrapnel 両レーベルが残した遺産は決して安易に風化させてしまうべきではないはずです。(余談ながら ICE AGE デビュー作のタイトルは奇しくも “The Great Divide”。)
「これは疑いようもなくプログミュージックだよ。自分自身で聴きたいような作品を作ることに決めたんだ。だから、ある意味この作品は僕が聴いて育ったバンドたちへのオマージュの意味も持つわけさ。」 Zack が語るように、INTO THE GREAT DIVIDE は確かにプログメタルの原点とも言えるトラディショナルなポリリズム、クラッシックロックのメロディー、フラッシーなギターとエピックなキーボードに彩られ、無類の遺産を相続するに相応しきヴィジョンを提示しています。
同時により洗練されたデリケートなアレンジメント、ピアノやストリングが生み出す静と動のダイナミックなコントラスト、幻想的でシネマティックなオーケストレーションは 「それでいてフレッシュで異なるものに仕上がっていればと思う。」 というマスターの言葉を裏付けますね。
オープナー、”The Crossing” や冒険へ誘う “A Call to Adventure” はまさにレガシーとコンテンポラリーが交差するグランドライン。Zack がドラムス以外全ての楽器を手がけることで、楽曲のデザインはより密にその完成度を高めます。
冒頭にピアノやギターで示される魅力的な楽曲のテーマが、リズムや音階を少しづつ変えながら優美に展開していく様は実に音楽的で圧巻。鬼才 Brendon Cassidy のオーケストラアレンジメントも呼応し溶け合い、プロジェクトが提唱する小説や映画のようなプログメタルは見事にリスナーの想像力を喚起するのです。
フレッシュと言えば、インストゥルメンタルでありながらアルバムに濃密なストーリーを抱かせる “ロックノベル” のアイデアに触れない訳にはいきませんね。楽曲毎に用意されたイントロダクション、ディープボイスのナレーションは雄弁にして簡潔に逆境に打ち勝つ勝利の道筋を語ります。確かに全曲に解説が付与されたインストルメンタルアルバムは前代未聞で、特に英語をネイティブとするリスナーにとっては画期的なコンセプトでしょう。
Zack の全く弾き控えしないシュレッドも本作の重要なセールスポイントです。Lukather や Huff にリスペクトを捧げる Zack。経過音を豊富に組み込んだリズミックでジャジーなマエストロの滑らかなギター捌きは真に卓越しています。
加えて、折に触れて出現する様々な Shrapnel ロースターをイメージさせる場面、パッセージも好き者には溜まりませんね。Petrucci は元より、Steve Morse や MacAlpine, ロマンチックなフレーズは Neil Zaza、さらには Michael Lee Firkins のカントリーテイストまで垣間見ることが出来るのですからあの時代を愛するリスナーにとっては堪えられない贈り物となるはずです。
“Challenge Accepted” で披露するトライバル&マシナリー、刻刻と移行する拍子の魔法を完全掌握した性格無比なプレイが代弁するように、クリエイティブかつ的確に楽曲を支える手数王の素晴らしさは最早語るまでもないでしょう。
今回弊誌では、Zack Zalon にインタビューを行うことが出来ました。「Mikeはプロジェクトの熱心な支持者として参加し、彼の並外れたスタイルと能力をアルバムにもたらしてくれたんだ。」 どうぞ!!

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INTO THE GREAT DIVIDE “INTO THE GREAT DIVIDE” : 9.7/10

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