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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【TABAHI : THRASH FOR JUSTICE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH FAIQ AHMED OF TABAHI !!

“While Karachi’s Reputation As a Challenging City May Have Influenced Our Music To Some Extent, It’s The Genre’s Ability To Speak To The Experiences Of Our Society That Truly Drives Us.”

DISC REVIEW “THRASH FOR JUSTICE”

「カラチが挑戦的な都市であるという評判は、ある程度は僕たちの音楽に影響を与えているかもしれないけど、僕たちを真に突き動かしているのは、スラッシュ・メタルが社会に語りかける能力なんだ。僕たちは、スラッシュ・メタルを強力な媒体として、自分たちの考え、経験、感情を世界と共有し、そうすることで、自分たちの身近な問題に取り組みながら、世界のメタル・コミュニティに貢献することを目指しているよ」
カラチはパキスタンで、いやもしかすると世界で最も危険で暴力的な都市だと言われています。この国で唯一のスラッシュ・メタル・バンド TABAHI がカラチを故郷とするのは、なるほどいかにもふさわしいように思えます。加えて、TABAHI というバンド名がウルドゥー語で “Destruction”(破壊)であることも、彼らのオールドスクールなスラッシュが猛威を振るう様を象徴しています。
「”Thrash For Justice” は、スラッシュ・メタルを様々な形で正義に取り組み、提唱する手段として使うという僕たちのコミットメントなんだ。僕たちは音楽と歌詞を通して、正義を求める差し迫った社会的、政治的、文化的問題に光を当てることを目指している。故郷カラチの闘争であれ、より広い世界的な関心事であれ、僕たちは自分たちの音楽を使って正義と前向きな変化を求める声を増幅させることを信じている」
ただし、彼らが破壊したいのは、”正義” に反することだけです。パキスタンのカラチは、実に多くの困難に直面しています。暴力が蔓延り、犯罪率が高く、政治と社会不安のある都市で、社会的な不公平が当たり前のように横行しています。だからこそ、彼らは “正義” に焦がれ、”正義” を望みます。そして TABAHI が正義を貫くに最も適した音楽こそ、スラッシュ・メタル、そのエネルギーと反発力だったのです。
「パキスタンでは、メタルというジャンルは依然としてニッチで、その生のエネルギーと激しさゆえに限られた聴衆にしか評価されていない。TABAHI という名前は、僕たちが耐えている苦難、僕たちが体現しているレジリエンス “回復力”、そして僕たちに不利な状況が積み重なっているにもかかわらず、それでも世界に永続的なインパクトを与えるという揺るぎない決意を痛烈に思い出させるものとなっているんだ」
つまり、彼らに刻印された “破壊” という名前は、臥薪嘗胆の薪であり胆でした。カラチで抑圧に耐える日々。しかし彼らは知っています。ヘヴィ・メタルも長く抑圧され、そしてその抑圧を自らが持つ回復力、反発力、”レジリエンス” で跳ね返してきた事実を。
“Breaking News” の散弾銃のようなリズム。”Run For Your Life” のソドマイズされた叫び。”Survive Or Die” のオールドスクールとモダンの激突。怒りと正義を力に変えた TABAHI のスラッシュ・メタルは、”ニュース速報”、”人生からの逃避”、”生きるか死ぬか” という楽曲のタイトル、その生々しさも手伝って、”本物” の匂いを怖いほどに醸し出しています。そう、”正義のためのスラッシュ”とは、人が人らしく生きるための当たり前を取り戻す反発と回復のモッシュ・ピットなのです。
今回弊誌では、TABAHI にインタビューを行うことができました。
「メタル・ミュージックの生々しくカタルシス溢れる性質は、僕たちの感情やフラストレーションを歌に注ぎ込むことを可能にすると同時に、同じような苦悩を経験しているかもしれない聴衆とのつながりを感じさせる。メタルの集団的な経験、情熱的なファン・ベース、そして音楽の団結力には、個人を高揚させ、逆境に正面から立ち向かう力を与える力があると僕たちは信じているんだよ。メタルは単なるジャンルではなく、コミュニティであり、強さの源であり、回復力を促し、それを最も必要とする人々を鼓舞する自己表現の形なんだ」 誰もがメタルの素晴らしさを再確認できるアルバム。それに、もしかしたら彼らの “正義感” は日本のアニメで養われたのかもしれないよね。そう考えると面白い!どうぞ!!

TABAHI “THRASH FOR JUSTICE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FARAZ ANWAR : TALE OF THE LUNATICS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH FARAZ ANWAR !!

“Youtube Was Also Banned Couple Of Years Ago. Few Singer’s Were Killed In Target Killing. So It’s a Bad Political Situation Over Here But We Are Doing It For The Love Of Music.”

DISC REVIEW “TALE OF THE LUNATICS & ISHQ KI SUBAH”

「パキスタンでは、政府が音楽と芸術を職業として認めていない。だから音楽のための良いインフラがないんだよ。レーベルやアーティスト・マネジメント会社、音楽学校も禁止されている。私たちの宗教は音楽が禁止されているからね」
昨年、パキスタンの伝説的ギタリスト Faraz Anwar が Facebook に投稿した内容が、メタル世界で大きな物議を醸しました。”ミュージシャンであることを理由に家の賃貸を拒否された。イスラム教は自由な宗教だというけれど、これがこの国のアーティストに対する扱いだ。必要なときには呼ばれるが、私たちが必要なものは与えられない。銀行口座さえ作れないんだから”。Faraz はパキスタンの政府や社会、宗教が望む “口をつぐんでやりすごす” ことを決してよしとはしませんでした。
「パキスタンのフォークやウルドゥー語は重要じゃないね。だけどね、パキスタンのような国に住んでいると、母国語のウルドゥー語で曲を作らないと、誰も聴いてくれないんだよ。もし外国に移住すれば、ウルドゥー語の曲なんて作らないだろうな。私は英語の曲の方が好きだからね」
モダン・メタルの生命力、感染力は世界中に根を張り巡らせて、その地、その地の伝統や伝承、文化を栄養に成長を遂げています。ただし、すべてのバンドが自身の背景すべてを誇りとしているわけではありません。
例えば、以前弊誌でインタビューを行ったレバノンの TURBULENCE は、「みんなも知っているように、ロックやメタルは反抗的な音楽で、洋楽を聴いて育ってきた僕たちにとって、メタルはある意味そうした母国の文化からの逃げ場になっていたんだからね」 と語っています。メタルは時に自身の出自からの逃避や、権力に対する反抗の原動力にもなるのです。Faraz Anwar もそんなアーティストの一人でした。
「私はあらゆるジャンルの音楽を探求したい。一つの音楽のスタイルにとらわれたくないから、プログレッシブ・ロックをやっているんだよ。 プログレッシブ・ロックは、あらゆるジャンルの音楽を探求する自由を私に与えてくれる。でも、プログのような複雑な音楽は、一般の人には理解しにくいんだよね。だから、私は一般大衆向けのストレートな曲も作っているし、それもまた好きなんだ」
ポップスターのギタリストとして音楽キャリアをスタートし、カラチを代表するメタル/プログバンド MIZRAAB のフロントマンとしてスーパースターとなった Faraz は、遂に待望のソロアルバム “Ishq Ki Subah” をリリース。波に乗った彼はわずか2年で壮大なコンセプト作 “Tale of the Lunatics” を完成に導きました。
面白いことに、前者がパキスタンのフォークやポップの響きを大胆に取り入れたプログ作品であるのに対して、後者の最新作はより本格的な西欧プログメタルに接近しています。その音楽性の推移、パキスタンからの逃避はおそらく彼の本音であり本懐。そうして、我々リスナーは、その両者の恩恵を存分に受けられる贅沢な立ち位置にいるのです。
ロマンチックなタイトルの “Ishq Ki Subah”。このアルバムは、Faraz がプログやメタルに限定しているという愚かな誤解に抗う、多様な音楽ジャンルを網羅する15曲。Faraz がメタルとプログレッシブの聖火ランナーであることは間違いありませんが、”Ishq Ki Subah” で彼は、パキスタンのフォーク、ポップス、ボリウッド、デスメタルを等しくその聖火に強力な薪としてくべているのです。
Kiko Loureiro と Tosin Abasi をミックスしたような Faraz の熱狂的なギター・テックを生かしつつ、牧歌的な異国情緒も見事に咲かせた不思議なメタル世界。幅広いアンサンブルとスペクトルにフォーカスした作品において、不誠実な政治家や抑圧的な政府に対して吐き出された “One of Them” は異質に陰鬱で、悪化する国の状況に不気味に共鳴しています。
「YouTube が何年か前に禁止されたよ。数人の歌手が標的として殺された。だから、まあこっちの政治状況も悪いけど、結局私たちは音楽を愛するがためにやっているんだ」
そしてその硬質で異質な “One of Them” は “Tale of the Lunatics” にも収録されて二つをつなぐ架け橋となりました。架空の天使 “アファエル” の物語を描いたこの作品は、世界中の差別や人権侵害に抗議し、人々の自由と世界の平和/安定を願っているように思えます。プログレッシブ・メタルに繊細や孤独と共に宿る、普遍的な光、ポジティブさを提示したアルバムは創造性に満ち溢れ、現状がどうであれ、憂鬱で辛い未来を思い起こさせることは全くありません。
Faraz の内省的でありながら華麗なサウンド・オペレーションは明らかに世界でも一級品で、彼の華麗なギタープレイと熱狂的な歌声は、リスナーのモチベーションを確実に高め未知なる力を与えていくのです。
今回弊誌では、Faraz Anwar にインタビューを行うことができました。「たしかに私の音楽は DREAM THEATER に似たプログレッシブ・ロックの要素を持っているけど、彼らよりももっとたくさんの要素がある。だって、DREAM THEATER を聴いて、誰も彼らを第2の KANSAS, RUSH という風には呼ばないでしょ?」 どうぞ!!

FARAZ ANWAR “TALE OF THE LUNATICS” “ISHQ KI SUBAH” : 10/10

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