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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【HOUKAGO GRIND TIME / RIPPED TO SHREDS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ANDREW LEE OF HOUKAGO GRIND TIME / RIPPED TO SHREDS !!

“I Want To Express My Love For Anime Through Music, And I Think Educated Listeners Can See That I Have Equal Love For Both Moe Anime And Goregrind.”

DISC REVIEW “HOUKAGO GRIND TIME2 / 劇變(JUBIAN)”

「僕は、自分が感情移入できないもので芸術を作るのは好きではないんだよ。だから、音楽を作るときは、特に作詞作曲や映像のデザインをする場合はいつでも、自分が情熱を傾けられるような題材でなければならないんだ。僕は音楽を通してアニメへの愛を表現したいし、教養のあるリスナーには僕が萌えアニメとゴア・グラインドを等しく愛していることが分かると思う」
愛するものを、自らのアイデンティティを、自然に自由にアートへと昇華する。言うは易く行うは難し。特に、音楽が金銭と直結しにくくなった現代において、理想のハードルは以前よりも高くそびえ立っています。
しかし結局は、案ずるより産むが易し。台湾からアメリカに移住したアジア系アメリカ人の Andrew Lee は、HOUKAGO GRIND TIME ではアニメに対する愛と情熱を、RIPPED TO SHREDS では自らの出自である中国/台湾のアイデンティティで “自らの声” を織り込み、二足のわらじで “嘘のない” アートを実現しています。
「エンターテイメントとは、そのエンターテイメントが市場の需要に応えるという意味で、それを生み出す社会の反映なんだ。エンターテイメントが社会から排除された人たちにオアシスを提供するのは良いことだけど、だからそのエンターテイメント自身が資本主義によって作られた “製品” に過ぎないように感じることがよくあるんだよね」
もしアニメ “けいおん!” の放課後ティータイムがグラインド・コアをやっていたら…そんな荒唐無稽を想像させるような夢のある地獄のグラインドコアが HOUKAGO GRIND TIME。グラインドコアもアニメの世界の一角も、荒唐無稽で大げさでそこそこに不真面目であるべきで、だからこそ、その両者を併せ持った HOUKAGO GRIND TIME の音には説得力が二倍となって宿ります。
さらに言えば、メタルもアニメも社会から時に抑圧され、時に無視される “オタク” にとっての拠り所、逃避場所、心のオアシスで、その両者を併せ持つ HOUKAGO GRIND TIME の寛容さももちろん二倍。重要なのは、Andrew の精神や目的が資本主義の欺瞞から最も遠く離れた場所にあることでしょう。ゆえに、ここには逃げられる、心を許せる、心底楽しめる。
「僕は、他のアジア系アメリカ人が “自分たちの” デスメタルバンドを結成し、自分たちにとって重要なテーマについて歌うようになればいいと思っているんだよ。多くのアジアのバンドは、特にアンダーグラウンドでは、プレゼンテーションやテーマの面で西洋の同世代のバンドを真似してきたからね。SABBAT, IMPIETY, ABIGAIL みたいなバンドは、ビール、パーティー、サタン/キリスト、その他西洋のテーマについて歌っているから」
デスメタルを追求する Andrew もう一つの翼、RIPPED TO SHREDS でも彼の正直さ、純粋で無欲な姿勢は一向に変わりません。Relapse 期待の一作 “劇變”(Jubian)” は、スウェーデンの古を召喚した地獄のようなデスメタルでありながら、スラッシュ譲りの獰猛さとメロディアスなギターワークを備えます。
中国語を多用した歌詞やタイトル、項羽と劉邦や三国志をイメージさせるアートワーク、そしてあの HORRHENDOUS にも例えられるプログレッシブで鋭い技巧の刃は明らかにステレオタイプのメタルをなぎ倒す怒涛のモメンタム。このわずか33分で RIPPED TO SHREDS は歴史、アイデンティティ、そして中国/台湾とアメリカとの関係について深く考察し、自分の頭で考え、自分の音楽を、自分にとって重要なテーマで語っているのです。
RIPPED TO SHREDS の目標の一つは、アジア系アメリカ人のメタルに対する認知度を高めること。Andrew は、歴史の陰惨な側面に立ち向かいながら、キャッチーなリフとエモーショナルかつ奇抜なソロの洪水よって、この目標を実現に近づけていきます。”アメリカのマイノリティであることは本質的に政治的” “アメリカの文脈の中で中国のアートを作るという行為こそが破壊的な問題提起” だと Andrew は指摘しますが、”劇變(Jubian)” はまず細部に至るまで豊かで濃密なヘヴィ・メタルです。
特に “獨孤九劍月神教第三節(In Solitude – Sun Moon Holy Cult Pt 3)” にはコントロールされたカオスが大量に盛り込まれていて、この10分の作品は、疾走感から壮大なメロデスの慟哭、ドゥーミーな中間部までエピックのスイを尽くしてリスナーを民話に根ざした物語に惹きこんでいきます。秦の時代、豊満な戦士が宦官に変装して宮中に忍び込み、皇太后を誘惑するというおかしくも恐ろしいエピソードから、アメリカの原爆投下、中国の重層的な政治的歴史まで、RIPPED TO SHREDS が扱うテーマには必ず Andrew のアイデンティティが下敷きにあって、彼はヘッドバンキングの風圧でそこに火を注ぎ、見事に燃焼させていくのです。
今回弊誌では、Andrew Lee にインタビューを行うことができました。「世の中にはアニメ・ゴア/BDMバンドが少なくないけど、彼らはグロ・ロリ・バイオレンスを “ショック・バリュー” “衝撃度” として使っているだけで、本当にそのテーマに興味を持っているバンドは皆無だよね。アイツらは、自分らのポルノの題材で一瞬たりともシコってないんだよ。ヤツらはただ “hentai violence” でググって、任意の過激な画像をアルバムに載せているだけ。まさに、怠惰なビジュアル、怠惰なテーマ、怠惰なアート、怠惰な音楽」 どうぞ!!

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