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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【WELKIN : 武勇】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH HASTHUR OF WELKIN !!

“I Was Struck With Incredibly Profound Emotion. It Was Probably Then That I Was Fully Set On Dedicating This Album To The Three Kingdoms Period, And More Specifically, To The Brothers Of Liu Bei, Guan Yu, and Zhang Fei.”

DISC REVIEW “武勇”

「若いバンドにどんなアドバイスができるかと聞かれたら、俺はいつもこう言うんだ。音楽だけでなく、コンセプトが必要なんだとね。色々な面で注目を集める必要がある。SABATON や POWERWOLF のようにね。何か特別なことをしなければならない。音楽だけではそう簡単にはいかない時代なんだよ」
メタル世界の大御所 Udo Dirkschneider の言葉です。そしておそらくそれは、正鵠を得ています。無料でワンクリックで膨大な音楽が聴ける時代です。溢れかえる音の宇宙から見つけてもらうためには、素晴らしい音楽を作るだけではもうダメなのかもしれませんね。ただし、いかにコンセプトが優れていても、音楽が魅力的なものでなければ本末転倒。もしくは、例え音楽が素晴らしいものでも、コンセプトが陳腐なものであればやはり長続きはしないでしょう。シンガポールから登場した三国志のブラックメタル WELKIN は、明らかにその両者を抱擁した2023年の完璧なメタル・モデルケースでしょう。
「関羽の忠義に僕は信じられないほど深い感動に襲われ、ふとしたひらめきで、タイトル曲の最後のリフ(9分18秒の “Emblems of Valour”)が僕の前に姿を現したんだ。このアルバムを三国時代、特に劉備、関羽、張飛の兄弟に捧げようと完全に心に決めたのは、おそらくその時だったな」
中国名で “皇天” の名を抱く WELKIN の首謀者 Hasthur は、1800年も昔の中国の物語に、今ではは失われてしまった人と人の絆を見出します。デジタルの世界では、ただボタンを押すだけで手元に品々が届けられ、ワンクリックで誰かとつながることも可能です。しかし、Hasthur はその “絆” に疑問を感じています。テクノロジーの盲信的な進化によって、人は他者や自然を軽んじる、私利私欲のためにそこからただ搾取するのみの存在となってしまった。本来の “絆” とは、物質的な利害を超えた “自由” な関係ではないか?劉備も関羽も張飛も、決して利害で動いていたわけではありません。彼らはただ、”自由” に互いに惚れあって、”自由” に己を捧げあっていたのです。
「”除邪” のアートワークは清朝時代の絵画集 “謹遵聖諭辟邪全圖”(悪を祓う勅令に従え)なんだ。この場合の “悪” とはキリスト教のこと。この解放の本質は、自己克服と奴隷道徳の完全否定だ」
そうして Hasthur が三国志の絆を描くためにブラックメタルを選んだのには、確固たる理由がありました。中国に出自を持つシンガポール人の Hasthur は、清朝時代に “侵略者” であった西欧列強とキリスト教を “悪” と捉え、”奴隷化” されたアジアの人々が西洋の物質文化やキリスト教から解放されることを、ブラックメタルという “西洋” の入れ物で願ったのです。皮肉にも、キリスト教を “敵” と捉える点で、二者のベクトルは同じ方向を向いていました。そう考えると、”ブラックメタルと悪魔崇拝の結びつきは、本質的なものというよりはむしろ美的なものである” という Hasthur の言葉には、真実味が増してきます。逆に言えば、Hasthur が “イカれた共産主義” と嫌悪する現中国政府も、彼にとってはキリスト教と同様のものなのかもしれませんね。
「ジャンルの枠にとらわれない要素を意識的に取り入れる場合、”これは適切なのか?それとも、ただエキゾチックに聞こえるからXを加えたいだけなのか?” と自問しなければならない。民族楽器や民族メロディ、あるいは確立された文化に関連するものの場合、この問いに対する答えが、真にユニークな作曲と、還元主義的なオリエンタリズム/オクシデンタリズム/自分自身をバカにすることとの分かれ目となる」
もちろん、Hasthur のブラックメタルにあるオリエンタリズムは決して陳腐なものではありません。むしろ、そこにあるべくしてあったもの。WELKIN が目指す独自の道筋。その音楽はタイトなプロダクションをベースにさらに成熟し、ロマンティックに”武勇” と共に挑戦し、雄叫びをあげながら真の東洋ブラックメタルの壮大さで遠い過去の戦場の炎と栄光を呼び起こしていきます。音に刻まれし悠久。歴史から、ブラックメタルから、我々は何を学べるでしょうか?
今回弊誌では、Hasthur にインタビューを行うことができました。「偉大なる三島由紀夫 (注: 三島もニヒリズムに傾倒した作家) の言葉を借りよう。”自分を超越した価値を見出すことができなければ、精神的な意味での人生そのものが無意味になってしまう”」 インペリアル・ブラックメタルの飛翔。どうぞ!!

WELKIN “武勇” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【WORMROT : HISS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH RASYID JURAIMI OF WORMROT !!

“To Me, Grindcore Is The Most Free-Form Of Extreme Music. I Try To Challenge The Notions Of ‘Tough Guy’ And ‘Angry Music’. You Don’t Have To Be ‘Tough Guy’ To Listen To Grindcore Or Metal.”

DISC REVIEW “HISS”

「グラインド・コアには様々な見方があると思うんだ。ただ、多くの人はグラインド・コアに対して厳格なガイドラインを持っていると思うんだけど、僕にはそのガイドラインがないんだよね。
僕にとってグラインド・コアはエクストリーム・ミュージックの中で最もフリーフォームなもの。僕は “タフガイ” や “怒れる音楽” という概念に挑戦しようとしているんだよ。グラインド・コアやメタルを聴くのに “タフガイ” である必要はないんだ。最大限のディストーションも必要ない。パンクのジャケットも必要ない。自由でいいんだ。でも、正直でなければならない。なぜなら、結局リスナーは “たわごと” を嗅ぎつけることができるから」
グラインド・コアは、新規に参入するバンドが注目を集めることが難しいジャンルかもしれません。すでに目的地に到達したと分析するリスナーも多く、基本的に同じような系統の、激しく楽しく怒れるバンドが何百と存在する場所。シンガポールの英雄 WORMROT は、そんなグラインド・コアのガイドラインを破壊し、ジャンルの “門番” たちを一掃しようとしています。
6年ぶりとなるアルバム “Hiss” は、バイオリニストの Myra Choo が暗闇で跳梁し、Arif の歌声は千変万化、ジャズやポスト・メタルの領域まで探求した、気高き創造性の塊。その裏には、メタルに古くから存在する “マッチョイズム” ひいては、保守的なステレオタイプに対する反抗が潜んでいたのです。
「彼の脱退についてあまり深掘りすることはしたくないんだ。家族の問題だからね。僕は人生をかけて WORMROT のために曲を書いてきた。だから、うん、WORMROT は Arif なしでも続いていくよ」
WORMROT 4枚目のアルバム “Hiss” の完成直後に、オリジナルメンバー Arif Suhaimi がボーカリストとフロントマンの座を降りることが明らかになりました。現代のグラインド・コアで最も多様なボーカリストの一人が、最高傑作を発表したばかりのこの時期にバンドを去る。それは WORMROT にとって明らかに大きな痛手です。しかし、ギタリスト Rasyid Juraimi とドラマー Vijesh Ghariwala は不屈です。襲い来る苦難はむしろ、21のトラックの中で吐き出されるフラストレーション、勝利、敗北、良い経験、悪い経験をリアルにし、”Hiss” はこの波乱の時代により “傲慢に” 跋扈する作品となったのです。
「今回、”Hiss” で梶芽衣子と “女囚サソリ:701号恨み節” にオマージュを捧げたのは、アルバムのテーマに合っていて意味があると思ったからだよ。日本の音楽は、Boris、324、Four Get Me A Nots、Casiopea、杏里、中森明菜などなど、いろいろ聴いているよ」
この音楽的な自由と拡散を “セルアウト” と断じることは簡単です。しかし、そもそも Rasyid には、日本の映画や音楽から受けた濃密な養分が備わっていました。BORIS, CASIOPEA, 中森明菜。そのどれもが実は、”Hiss” の重要なパズルの欠片。むしろ、原点に立ち返り “正直” になった Rasyid にとって、グラインド・コアとは真っ白なフリーフォームのキャンパスだったのでしょう。
それでも、”Hiss” は依然として、ベースなしのグラインドとパワーバイオレンスの伝統に則った短く速い曲で溢れるアルバムです。つまり、WORMROT は PIG DESTROYER が過去数年の間に行ったのと同じように、その味覚を拡大したのです。クラシックロックのセンスとリフを時速数百マイルで掘り起こす “The Darkest Burden” 、グラインドとノイズコアの狂気に VOIVOD の不協和を追加した “Your Dystopian Hell”、通常の瞬きで見逃すほどのグラインド “Unrecognisable” といった強烈な “ガイドライン” があればこその対比の美学。
ポスト・メタルの音の渦をブラストビートと凶悪なボーカルの上に漂わせる “Desolate Landscapes” は出色。”Broken Gaze” では感情的なクリーンボーカルを取り入れ、”Behind Closed Doors” ではパンクとクラシックなベイエリア・スラッシュを組み合わせ、何より、”Grieve”、”Pale Moonlight”、”Weeping Willow ” のトリロジーは、SWANS のようなトライバルなリズムから、NAKED CITY 的フリーフォームの前衛的サウンドスケープへのアプローチまで、極限の雰囲気を持ち、バイオリンが不協和音の合間で泣き叫びます。つまり、彼らはグラインド・コアという狭い檻から、さながら女囚さそりのように脱獄を試みているのです。アートワークはまさに恨み節のカタルシス。
今回弊誌では、Rasyid Juraimi にインタビューを行うことができました。「どこの国でも長所と短所があると思う。シンガポールは小さな国だから、国家が僕たちを監視し、動きを制限するのは簡単なんだよ。ただ、だからこそ僕たちはもっと賢くならなければならないよね。それは、決して不可能なことではないよ」どうぞ!!

WORMROT “HISS” : 10/10

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