COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【ALCEST : SPIRITUAL INSTINCT】


COVER STORY : ALCEST “SPIRITUAL INSTINCT”

For Me, One Of The Most Difficult Things I Have To Live With Is That I Have Very Low Self-esteem. I Don’t Like Myself Very Much, And It’s Really Not Cool Because You Are Always Putting Yourself Down And This Is Not a Normal Way To Live. This Album Is Full Of Doubts, Full Of Questions. But I’m In a Better Place Now, I Think. The Album Was Part Of The Healing Process.

JOURNY TO “SPIRITUAL INSTINCT”: INTROSPECTION & SPIRITUALITY

フランス南部、プロバンス地方にある人口2万人足らずの街バニョール=シュル=セーズで生まれ育った Stephane Paut は、後に自身をフランス語で雪を意味する “Neige” と称し ALCEST のフロントマンとして世界に衝撃を与えることとなりました。
「クレイジーだよ。プロバンスはとても美しく、まるでポストカードみたいにゴージャスなんだ。だけど都市部は、本当に本当に面白くない。周りにあるもの全てが素晴らしいのに、街は最悪なんだ。南フランスにおけるアスホールみたいなものさ。決して何にも起こりはしない。だから僕にとって正しい場所にいるようには思えなかったね。」
しかし、バニョール=シュル=セーズの退屈で特徴のない毎日だけが Neige に自分の居場所ではないと思わせた理由ではありません。
「僕は少し夢見がちな人間で、絵を描くのが大好きだった。だけど南フランスのメンタリティーはとても荒くて厳しいんだ。とてもマッチョなんだよ。男ならこんな風に生きなきゃいけない、サッカーを好きにならなきゃいけないって感じなんだよ。」

実際、伝説の “寺CEST” を経験した後、”Kodama” リリース時の弊誌インタビューで Neige は日本のアニメ、ゲーム文化への深い愛情を示すと同時にスピリチュアルな世界へも敬意を抱く日本人に共感と憧憬にも近い感情を示しています。
「日本文化がここまでフランスを魅力しているのは”対比”が理由だと思う。実際、日本にはとてもモダンで高度なテクノロジーを備えた社会が存在するのに、伝統や自然、スピリチュアルなものに大きな敬意を抱いているよね。僕にはもののけ姫のサンと共感出来る部分がたくさんあってね。自分の中に存在する2面性、なにか自分の居場所ではないという感覚、まるで都市と自然、物質世界と精神世界の2つに生きているような気がしているんだよ。」
音楽に大きな価値を見出すような人間は Neige の周りには存在すらしませんでした。しかし Neige は絵を描くことと共に EMPEROR のようなブラックメタルのリアルなアグレッションに惹かれていきました。ただし重要なのは、アンダーグラウンドのリアルだけではなく、オルタナティブロックのブライトでメジャーなサウンドも同様に彼を惹きつけた事実でしょう。
事実、SMASHING PUMPKINS のクラッシック “Siamese Dream” は今でも Neige のオールタイムフェイバリットです。後にその特異なバランス感覚は、ブラックメタルにシューゲイズのテクスチャーを織り込んだポストブラック第一世代の中でも多次元で光と影を司り比類なきコントラストを描く ALCEST の雛形となったのです。

DEAFHEAVEN の “Sunbather” を含むアトモスフェリックブラックメタルに多大なる影響を与え、アンダーグラウンドの至高となった ALCEST も遂に羽化の時を迎えたようです。2005年に “Le Secret” をリリースしブラックメタル世界から憎しみさえ買ったバンドは、大きな成功を眼前に捉えているのです。
「ALCEST はゲイなんてよく言われたものさ。DEAFHEAVEN なんかのおかげで今はあまり言われなくなったけど、最初の頃はその意見が大勢を占めていたんだよ。」
最初の4枚のレコードで光と影の幻想的かつ気まぐれなダンスを披露した ALCEST。穏やかでソフトな切れ味のポストロックとシューゲイズの美学が支配する神秘のメタルは “Shelter” で完成を見たと言えるのかも知れません。”Kodama” で一握りのアグレッションを掬い上げた彼らは、”Spiritual Instinct” においてさらに野生的で生々しいブラックメタルの原衝動にアクセスしたようにも思えます。ただし、それは単純な原点回帰ではなく、痛みと快楽、ハイとローの麻薬的な相互作用。
「6枚のアルバム全てが異なっていると思う。全然違うって訳じゃないけどね。ただ “Shelter” だけは全然違う作風になったね。あのアルバムで僕たちはメタルの要素を全て取り払ったから。ただ、毎回異なるアングルで作品に挑んでいるのは確かさ。」

ALCEST にとって6枚目のフルアルバムとなった “Spiritual Instinct”。そのアルバムタイトルは前作 “Kodama” に伴う長期のツアーが要因となったようです。
「僕はいつも内性と霊性の中に存在していた。だけど長期のツアーで家を空けて日常から離れるうちに自分を失っていたんだ。僕は基本1人が好きだしね。体は死に絶え心は失われた。だからそれを取り戻す必要があったんだよ。だってスピリチュアルでいることは選んだ訳じゃなく、息をするのと同じように人生において必要としていることなんだから。つまり本能のようなものなんだ。だからタイトルにしたんだよ。このアルバムはこれまでの僕の旅路の集大成なんだ。」
影から闇へ。霊性の一時的な喪失は、Neige に自らと真摯に向き合い “Spiritual Instinct” に以前よりも内なる闇を持ち込む結果をもたらしました。故に多様と対比が最も際立つも自明の理。
「調子が良くなくて、だから正直になって自分の闇をもっと音楽に取り入れることにしたんだ。これまでは勇気がなくて向かい合うことが出来なかった部分をね。あるがままの自分を見つめるのは簡単じゃないよ。だけど人として成長を遂げるのに必要なことなんだ。」

故に “Spiritual Instinct” の製作は Neige にとってある意味ヒーリングプロセスとも言えるものでした。
「生きづらいと感じる原因の一つが自己評価の低さなんだ。自分が全然好きじゃなくてね。それってクールじゃないんだけどね。自分を貶めながら生きている訳だから。普通の生き方じゃないよ。だからこのアルバムは疑問と疑いに満ちている。だけど今はあの頃より良い場所にいる。だからこの作品は治療の意味合いもあったんだ。」
高貴な顔と羽の裏に獣の爪を隠し持つ対比の怪物、アートワークに使用したスフィンクスにも当然深淵と疑いが込められています。
「このモンスターはほとんど人間の顔をしているよね。僕はこのクリーチャーを見ると自分を当てはめてしまうんだ。生まれ育った南フランスでもアウトサイダー、メタルマガジンにも距離を置かれていた。自分の居場所を見つけられなかったからこそ、この怪物に共感を覚えるんだ。僕はとても落ち込んで疑念を抱く時もあれば、スピリチュアルでハイになることもある。このスフィンクスは両方を結んでいるんだ。エニグマと疑問のシンボル。大きなクエスチョンマーク。それこそがスピリチュアリティーだよ。死を迎える時何が起こる?魂はどうなる?つまりスフィンクスは疑問を宿したスピリチュアルな旅に誘う最高の象徴なんだ。」

“Protection” の MV に現れる危険なダンスは内なる苦しみの象徴。
「最初の2,3曲を書いたくらいでアルバムの方向性が露わになる。今回は、”Protection” を書いた時点で異なる作品になると分かったね。ヘヴィーでダイレクトなレコードさ。内なる悪魔から自らを守ることについて。自然をある種の盾として使っているんだ。これは内なる戦いなんだよ。」
最も深い闇は友人の自殺でした。
「彼は画家で大きな成功を手に入れ始めていた。パリでも数少ない、絵で裕福な暮らしを送れる人物だったんだ。才能があってとても重要な人物になるはずだった。何年も前から友人だったからとても動揺したね。彼が亡くなった次の日にタイトルトラック “Spiritual Instinct” を書いた。これは偶然じゃないよ。」
では “Spiritual Instinct” はリスナーにそれぞれの疑問に対する何かの答えをもたらすのでしょうか?
「僕自身答えを持っていないんだから、何かを答えることはできないね。僕がキリスト教か何かの権威なら知っているふりをするだろう。だけどそんなことはしないよ。神の本質や人生の意味を知っているふりをするなんて傲慢にも程がある。全てを超えたものなのにね。」

無慈悲な不協和音と荘厳なオーケストレーションがシームレスに融解し続けるブラックメタルの新たな次元 “Spiritual Instinct”。そこには FAILURE や CAVE IN の独創的な空間活用術でさえ活かされています。とは言え、Neige はテクノロジーへの過度な依存には否定的。
「テクノロジーはあまり好きじゃないね。コンピューターにも疎いんだ。このアルバムはどの瞬間もとてもシンプルに生み出されている。創造とは永遠のエニグマだよ。何処からかアイデアが浮かび音楽の形を形成していく。自分でもどうやったのかさえ分からないからマジカルな瞬間なんだ。」
さらに TOOL や SYSTEM OF A DOWN にも通じる “Sapphire” のリフドライブは神秘のアトモスフィアと霧の中で溶け合い、”Le Miroir” はブラックゲイズの森の奥でゴスのレースを織り上げます。何よりタイトルトラック “Spiritual Instinct” が抱きしめた究極にアクセシブルでポップな本能的メロディーと JESU や SUNNO))) のスピリチュアルな実験は、ALCEST が向かい合う地中海の多島美を象徴しているのかもしれませんね。

ALCEST をブラックメタルと呼ぶ事に長い間葛藤を抱いていた Neige。もちろん、”Les Jardins de Minuit” のブラストビートはジャンルの基盤ですが、それでも繊細で愛情さえこもったディティールとムードへの拘りは30年前ブラックメタルが生まれた時代には想像も及ばなかった創造的成果であり、ジャンルに対するある種のクーデターでしょう。そもそも Neige はメタルファンがダークなサウンド、イメージに惹かれる理由さえ当初は理解さえしていませんでした。
「全然理解できなかったんだよ。なぜいつもダークである必要があるんだい?だからこそ ALCEST のファーストアルバムが出た際に大きな論争を呼んだんだ。なんでメタルなのにブライトで繊細なんだ?ってね。ただ僕は憎しみに触れたくなかっただけなんだけどね。そこに興味が持てないから。それでも今でもオールドスクールなブラックメタルはよく聴くんだ。ただ最近のブラックメタルバンドはちょっと怠惰だと思うよ。ブラックメタルの慣習に従い、紋切り型の演奏を披露しているだけだからね。残念だよ。」
一足先にブレイクを果たした盟友 DEAFHEAVEN についてはどう思っているのでしょう?
「彼らの成功はピンクのカバーのお陰じゃない。全てが首尾一貫していて理に適っているからなんだ。ルックス、リリック、背景など、とてもサイコロジカルなメタルだよ。悪魔や炎、森、城について歌っている訳じゃないから、僕にとってブラックメタルではないよ。そもそも彼らはブラックメタルのふりなんてしたこともないんじゃないかな。そこはまさに ALCEST と同じだよ。僕たちはブラックメタルをプレイしてはいないんだ。トレモロとブラストを使用すればブラックメタルって訳じゃないから。ブラックメタルとは”ブラック”、つまり非人間的でダークな精神性を宿しているからね。僕たちはいつもそうじゃない。」

Neige が厳格に成文化されたブラックメタルの基準を回避して来たのは、その音楽の大部分が怒りに根差していないからとも言えます。自然からインスピレーションを受けるノルウェーのミュージシャンに共感する一方で、常に希望を伝える Neige の有り様はコープスペイントで木々に五芒星を書き殴るよりも、森の中のアニミストのようにも思えます。
実際、Neige は5歳のころから約4年間自らの精神が肉体を離れる幽体離脱、臨死体験のような超感覚的ビジョンを経験しています。
「何度も何度も、完全にランダムに起こる現象だった。この世界には存在しないような場所のイメージや感情、時にはサウンドまで心の中に浮かんで来るんだ。まさにスピリチュアルな体験で、人生を永遠に完全に変えたんだ。」

そうして物質宇宙を超えて別の領域が存在するという確信を得た Neige は、スピリチュアルに呼吸する” 音楽 “Spiritual Instinct” を完成へと導きました。
「あの臨死体験を経て、僕は死後の世界、魂とは何か、そして人生の意味を問うようになったんだ。ビッグクエッションだよね。」
多くのメタルアーティストが描く悪夢の死後世界と異なり、Neige は自らの目で見た “あの世” を恐ろしいとは感じていません。むしろ子供の頃に感じていたバニョール=シュル=セーズの厳しい現実、マッチョイズム、自分に対して冷酷な街の雰囲気を心から追いやるに充分の桃源郷。
「想像を遥かに超えた美しく、言葉には表せない世界だったね。直接アクセス出来なくなった今でも心の中奥底ではあの世界を感じているんだ。奇妙に聞こえるかもしれないけど、この物理的な世界に完全に属しているとは感じられていないんだ。皆んな本当はそうなのかもしれないよね。ここ以外に真の家があるのかも。だからある意味、僕たちはこのバンドでその場所を探求しているんだよ。」

つまり、Neige がフランス語で紡ぐ憂鬱と悲しみのイントネーションには、彼が憧れの中に垣間見た魔法の場所へと回帰するロマンチックな目的まで含まれているのです。ALCEST の動力源は審美の探求。例えその場所が死によってのみでしか到達できないとしても。
「ALCEST を始めたのは、臨死体験が僕を孤独にしたからなんだ。音楽を世に放つのは、海にボトルを投げて返事を待つようなものだよ。だから反響があるととても感動するよ。愛する誰かを失って、だけど僕たちの音楽が助けになったと話してくれる人もいるんだ。それって最高に美しいフィードバックだよ。」
そうして ALCEST は “Spiritual Instinct” でもその光と闇の探求を続けます。
「若い頃は死を迎える時、自分を待つ家があると感じられることが希望だった。だけど同時に世界から切り離されているようにも感じていたんだ。別の場所から来たように思えてね。だからいつも2つの世界に住んでいるようだった。だからこそ、ALCEST はその2つの世界、光と闇を1つに繋いでいるんだよ。」

参考文献: REVOLVER:”BLACKGAZE” LEADERS ALCEST ON “LIVING BETWEEN TWO WORLDS,” EMBRACING DARK SIDE

BILLBOARD:French Band Alcest Fuses Black-Metal Dissonance with Alt-Rock Guitar Orchestration for ‘Spiritual Instinct’

CoC:Alcest’s Neige on Spiritual Instinct, Initial Black Metal Backlash, Deafheaven’s Rise, and More

INVISIBLE ORANGES:http://www.invisibleoranges.com/alcest-neige-interview-spiritual-instinct/

MARUNOUCI MUZIK MAG “KODAMA”

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