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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【SANGUISUGABOGG : HOMICIDAL ECSTASY】


COVER STORY : SANGUISUGABOGG “HOMICIDAL ECSTASY”

“A Chuck Jones or Tex Avery approach, where we rip out entrails and we’re jumping rope with them.”

HOMICIDAL ECSTASY

Devin Swank は SANGUISUGABOGG が笑われることを気にしてはいません。オハイオ州コロンバスのフロントマン(そして時折スタンダップ・コメディアン)は、デスメタルのピエロ的な側面、道化役を強く意識しています。9月にエリザベス2世が亡くなったとき、彼はファンのお気に入りである “Dead As Shit” をステージ上で彼女に捧げ、SANGUISUGABOGG のミームを煮詰めた自虐的な Instagram アカウントを運営しています。ソーシャルメディアの誰かが、バンドの増え続けるTシャツ・デザインのストックをぼろくそに言ったときには、彼らの Encylopaedia Metallum のジャンルを “マーチ・コア” と変更。血みどろにこだわった歌詞も、怖いというより喜劇の匂いがします。
「俺はこれを面白いことだと思っている。トムとジェリーやロードランナーのチャック・ジョーンズのようなアプローチで、内臓を引きちぎって縄跳びをするんだ」

オハイオの悪名高い、境界を押し広げる、吸血デスメタルの SANGUISUGABOGG は、CANNIBAL CORPSE, MORTICIAN, GWAR, DETHKLOK といったビジュアルやステージにも拘った先達からインスピレーションを得て、90年代初頭のアクションコメディ “Sgt. Kabukiman N.Y.P.D” からカブキマン軍曹を招集し、ホラー・コメディのセンスで、妥協のない、率直で、強烈なデスメタルを作り上げています。
自称ホラー映画の狂信者で、10 歳のときに両親に引きずられて劇場でリングを見に行ってトラウマとなったSwank。トロマ映画とミュージック・ビデオでのコラボレーションは、BOGGブランドを確立することにつながりました。
「トロマと一緒に仕事をするのは本当にクールだったね。それは俺たちの夢のようなものだった。バンドを結成する前から、俺たちは皆巨大なトロマヘッドのようだった。トロマが忙しくしていなかったら、今もトロマと一緒に仕事を続けていただろう。彼らは今、”トキシック・アベンジャー” のリブートに取り組んでいるからね。エクストリーム・ミュージックとホラーの間には間違いなく境界線がほとんどなくて、両者とも視覚的にも音響的にも非常にインパクトがあり、人々に語りかけ、人々を魅了する。そうやって多くの時間を一緒に過ごして、脳が地獄にワープして戻ってくるように笑い合っているんだ」

同時に、Swank と彼のバンドメンバーは、デスメタルのテクニックにも専念しています。「俺たちは自分たちの音楽性、演奏、そしてどれだけ一生懸命に働くかをいつも真剣に考えてるんだ」
つまり、面白いバンドであることとコメディ・バンドであることの間には明確に違いがあって、SANGUISUGABOGG は後者と間違われることを望んでいないのです。”Homicidal Ecstasy” は彼らにとって2枚目のフルアルバムで、ここにはしっかりと彼らの旗が聳え立っています。ニューシングル “Face Ripped Off” には、JESUS PIECE の Aaron Heard がゲスト・ボーカルとして参加していて、その点でも彼らの活動がシーンに認められつつあると伝わるでしょう。
「俺たちには証明したいことがあったんだ。今回はもっと真剣に取り組んだし、その上、何かをまとめるための時間があったから、より多くの心を込めたんだ」
SANGUISUGABOGG は、FROZEN SOUL, UNDEATH, NECROT, TOMB MOLD, SKELTAL REMAINS, GATECREEPER といったレーベルメイトの北米デスメタル・バンドと共に、”NWOOSDM”、オールドスクール・デスメタルの旗手としてリリースを独占しています。
そして Swank は、OSDMを新しい世代の耳へと届けるムーブメントの一部であることを誇りに思っているのです。ちなみに、FROZEN SOUL と SANGUISUGABOGG は過去に、難読バンドロゴ対決で戦ったライバルでもあります。
「若い人たちに受け入れられているこのスタイルのデスメタルの先駆者になるために、全員が同時に成功を収めたのはクールなことだ。FROZEN SOUL と UNDEATH のメンバーは親友のようなものだ。みんなお互いをサポートし合っているんだ。UNDEATH とは2回ツアーをやったし、FROZEN SOUL と自分たちが同じレーベルになったことで、これから一緒にいろいろなことをやっていくことになると思う」

SANGUISUGABOGG が最初にシーンに登場したのは、2019年の “Pornographic Seizures” で、1日で録音、トラッキング、ミックスされたプリミティブ・デスメタルの電撃的作品でした。Bandcamp のジャンル・タグを調べれば誰もが知っているように、そうした何処の馬の骨ともわからない地下作品は毎週何十枚もリリースされています。しかし、”Pornographic Seizures” は、そうした有象無象の頂点に立つことができたのです。
「アンダーグラウンド・サーキットで話題になるだろうと思っていた。もちろん、大きなメディアに、この作品が取り上げられるとは思っていなかった。でも、頭の片隅には、これが話題になるようなクールなものになるかもしれないし、ライヴでもクールなものになるかもしれないと思っていたんだ。EP がリリースされる前にガレージ・ライブをやったんだけど、リリースされた瞬間に NPR に取り上げられたんだ。子供の頃に尊敬していたミュージシャンたちが、この曲について話しているんだ。これは想像していたよりもずっと大きなことだと思ったね。最初からとても感謝していたし、謙虚な気持ちでいたよ」
“Pornographic Seizures” がネットで話題になった直後、SANGUISUGABOGG はツアーを開始します。すると最初のツアーで、メタル界の重鎮 Century Media の社員が、レーベルのA&R担当者にEPを渡すと連絡してきたのです。しかし、少なくとも最初はうまくいきませんでした。
「彼らのA&Rからメールが来て、本当に悪口は言わなかったけど、ちょっと馬鹿にしていて、最初は興味がなかったんだ。それで、無知でふざけた感じで、EP のレコードを出すときに、Century Media の悪口を書いたステッカーを貼り付けたんだ。彼らがメールで言っていたことを引用して、”From The Posers That Brought You Deez Nuts” (君にタマキンをもたらすポーザーより) と書いたんだ。それを売ったら、みんなが大喜びして、いつの間にか彼らのA&Rがそれを知って、”お前たちのことを誤解していた” って言ってきたんだよ」

しかし、Century Media とのレコード契約のインクが乾く前に、バンドには嵐雲が立ちこめはじめます。まず、COVID-19 の大流行でライブハウスが閉鎖され、予定されていた BLACK DAHLIA MURDER, CATTLE DECAPITATION, KNOCKED LOOSE とのツアーが頓挫。その後すぐに、結成当初のギタリスト Cameron Boggs とバンドの他のメンバーとの間に距離ができ始めます。Boggs は Century Media からのデビュー作 “Tortured Whole” には参加しましたが、それが SANGUISUGABOGG への事実上の最後の貢献となりました。
「彼は約7ヶ月間、俺らと一緒に練習することはなかった。パンデミックの後に戻って最初のツアーをしようとした時に、正式に脱退するとメールを送ってきたんだ。その時、彼は額にアルバム名のタトゥーを入れたんだけど、そこからはもう会わなくなったよ」
バンドの創設者 Boggs は高校時代には友達がゼロで、クラスでゲイの子ということで激しくいじめられていました。学校生活は悲惨でしたが、彼と Davison は SUICIDE SILENCE から BLOOD BROTHERS までを楽しみ、最終的には TRAPPED UNDER ICE や COLD WORLD のようなハードコア・バンドまで、その足跡を辿っていきました。Boggs は小学4年生からギターを弾いていて、高校を卒業するとハードコアの中に受け入れるコミュニティーを見つけ、その後、ユースクルーハードコア、スクリーモ、テクデス、ブラックメタルなど、ヘヴィなスペクトルのあらゆるバンドでプレイするようになりました。

彼らが始めたベッドルームのブラックメタル・プロジェクトは、最終的にデスメタル・バンドである SANGUISUGABOGG へと変化していきました。当初は Boggs と Davidson の2人組で活動する予定でしたが、ボーカルが必要だと考えた Boggs が Facebook で Swank と出会い、1週間後にデモを録音しに来るように依頼。すぐに意気投合し、最初のセッションの帰りの車の中でミックスを聴きながら、曲が終わるたびにお互いに顔を見合わせ、「ヘヘヘ、シックだね」と、さながら “Beavis and Butt-Head” のように笑いあっていたのです。
Boggs の短期間のブラックメタル・バンドでのステージネームはSanguisuga(ラテン語で吸血鬼の意味)でしたが、”bog” がイギリスのスラングで “トイレ” を意味することを知り、このプロジェクトでこの2つを組み合わせることにしました。つまり、吸血トイレ。最初から彼らのジョークは冴え渡っていたのです。
Boggs の脱退は短期的には事態を複雑にしましたが、新しく改良された SANGUISUGABOGG への道を開くことにもなりました。ベースを担当するために最近加入した Ced Davis が、ギターにスライド。ベースは MUTILATRED の Drew Arnold が担当することに。そして、バンドの共同創設者であり、”Tortured Whole” のほとんどの曲の作詞者でもあるドラマーの Cody Davidson が存在感を増して、ラインナップはさらに充実しました。Swank によると、SANGUISUGABOGG は2022年に125回という異常な数のライブを行ったそう。それは、大胆な新しい構成から始まりました。
「俺たちはただ、何かバカなことをやろうぜって感じだったんだ。俺の好きなバンドのひとつにAGORAPHOBIC NOSEBLEED がいるんだけど、彼らにはベースがいなかったんだ。彼らはギターをベース・キャブに通すということをやっていた。PIG DESTROYER もそうしていたな。だから、”2人のギタリストを使って、俺らが聴いているデスメタル・バンドが得意とするような泥臭いトーンでやってみよう” ということになったんだ。そして、(2022年初頭の)NILE と INCANTATION のツアーで試してみることにして、そこからは、これにこだわろうということになったんだ」

“Homicidal Ecstasy” でバンドが捉えた腹の底に響くような低音の音色は、その実験の成功を裏付けています。
「ライブのサウンドをできるだけ再現したかったんだ。サブ・ウーファーやローエンドの下にあるベースの音を再現している。でも、これはギターなんだ。一方で、ベース・ソロも入っていて、そのサウンドは “甘い” んだよな」
“Homicidal Ecstasy” の音の病は、そのベース音にとどまりません。Swank は、このアルバムがバンドにとってこれまでで最も協力的な作品であると自負していて、メンバー全員がリフの製造を担当しています。ゆえに、スタジオで制作された前作とは異なり、”Homicidal Ecstasy” は素晴らしいライブバンドの作品のように聴こえるのです。彼らは過去1年半、デスメタルの王道、ハードコアの伝説、そしてハングリーな若手バンドとの共演を果たしています。そのすべてが反映されているようなサウンド。”Homicidal Ecstasy” は、その打撃効果に一途でありながら、グルーヴ、スピード、そしてメロディーと、さまざまな方法で豊かさを実現しているのです。
“Homicidal Ecstasy” は歌詞やテーマの面でも大きな進歩を遂げていますが、これは Swank がようやく歌詞を書くのに十分な時間が取れるようになったため。連続殺人犯のドラマ “デクスター: 警察官は殺人鬼” に触発されたアイデアから始まったこの作品は、デスメタルにおける殺人に対する執着を一種の麻薬のように描いています。
「猟奇殺人はハマってしまうようなもの。多幸感があって安心できるもの。必要で切望するもの。長い目で見れば自分を傷つけるもの。だけど、80年代にティッパー・ゴア(アル・ゴアの元妻で、PMRCを率いて、暴力的あるいは性的に露骨な歌詞が含まれる音楽を批判) に狙われていたらと思うと、フランク・ザッパやディー・スナイダーと一緒に、このテーマがいかに深刻でないかを訴えていただろうからね」

確かに、”Black Market Vasectomy” や “Necrosexual Deviant” といった楽曲は挑発的ではあるものの、基本的に笑いがあって、そこから現実の猟奇的殺人が起こるようには思えません。一方で、シリアスなテーマも存在します。
「アルバム全体のテーマはすべて死に関係していて、そのエクスタシーは多幸感のようなもの。物質やドラッグに関係している可能性もある。死は人を引き込むもの。俺たちが ”A Lesson in Savager” と呼んでいる曲があってこれは、一生殺しをやめられない男のことを皮肉を込めて歌ったもの。まるで中毒のようだ。
同じ中毒でも、現実的なドラッグにも再発のようなものがあるし。自分自身や、自分ををとても愛し、気にかけてくれる人々の周りに大きな影響を及ぼす。俺を育ててくれた祖母を亡くしたとき、俺はドラッグで自分をすり減らし壊すか、彼女のために生きるか選択を迫られた。ありがたいことに、俺は後者を選んだけど、”Mortal Admonishment” “死への戒め” では、そうしなかったらどうなるかという状況を書いた。この曲を書いたのは、いつも俺たちに手を差し伸べてくれる人がいるということを人々に知らせるため。なあ、俺らはいつでも君のそばにいる。何かを乗り越えるためにバンドや音楽が必要な場合は、俺たちがそのバンドになろう。喜んで力を貸すさ」
“Homicidal Ecstasy” が新しいファンを獲得するならば、それはバンドが自分たちの方式を破ってやり直したからではなく、自分たちの方式をより強固にするために一緒になったからであるはずです。
「俺たちは両極端なバンドなんだ。変なロゴと変な名前のバンドだから、みんな俺らのことをどう考えているのかわからない。でも、”Homicidal Ecstasy” を他の作品と比較して聴いてみると、俺らがデスメタルにより多くの愛情を注いでいることがわかる気がするんだ。もっともっと “俺ら” が入っているからな」

参考文献: STEREOGUM:Band To Watch: Sanguisugabogg

REVOLVER: SANGUISUGABOGG

METAL INJECTION:SANGUISUGABOGG: Trauma, Troma Entertainment & The Horrors Of Homicidal Ecstasy

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【RVNTVH : CONTEMPLATION OF THE VOID】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH RVNTVH !!

“We’re Pretty Much Filling In The Gap Where There Wasn’t Any Indonesian Band That Sounds Like This.”

DISC REVIEW “CONTEMPLATION OF THE VOID”

「インドネシアのメタルシーン自体はまだまだアンダーグラウンドで、人々はメタルシーンを何か奇妙でネガティブなものとして見ているようなんだ。インドネシアでも、メタルヘッズは昔のロックスターの習慣から生まれた、ドラッグを使う酔っぱらいの一団という、本当に間違ったステレオタイプのイメージがあるんだよ」
ヘヴィ・メタル大統領として名を馳せる Joko Widodo の存在、レッチリや RATM にも認められた反抗の少女たち VOICE OF BACEPROT の登場、そしてデスメタルが盛んという伝聞やイメージから、私たちはインドネシアをメタルの楽園だと想像します。しかし、隣の芝は青く見えるもの。彼の地に登場した “インドネシアの OPETH” こと RVNTVH (ルントゥフ) は、Joko Widodo の “売名” を疑い、メタルはここでもアンダーグラウンドだよと嘆きながら、それでもプログレッシブで悲しみを湛えた魂を南方から開花させようと真剣です。
「僕たちは、インドネシアにこういうサウンドのバンドがいなかったからこそ、そのギャップを埋めているようなものなんだ。僕が理解しているかぎりでは、OPETH やそれに類するバンドに熱中している人は、この地域にはあまりいないようだからね。そうしたバンドを知っている人は、ここではほんの一握りなんだ」
あくまでも、大衆的な人気はポップ・ミュージックに集中するジョグジャカルタで、RVNTVH はさながらインドネシアの多島美を体現するかの如く、様々な音楽的嗜好を持つメンバーが様々な地域から集結し、混沌と悲壮のメタルに挑戦しています。
東カリマンタンのバリクパパンに生まれ、東ジャワのバニュワンギに移り住み、IRON MAIDEN に始まり MESHUGGAH, PERIPHERY, さらにノイズやアンビエントまで愛するギター/ボーカル Arif Shuardi。
同じくギター/ボーカルの Rabin Rana は RVNTVH のリーダーで創設メンバー。ジョグジャカルタ出身で、現在はオランダのロッテルダムに住んでおり、70年代のプログレッシブ・ロックをこよなく愛します。そこから、プログレッシブ・デスメタルやアトモスフェリック・ブラックメタルに到達し、この2つの音楽に対する愛情が、RVNTVH を両者の融合の場としたのです。
この二人を核として、中部ジャワに住み RADIOHEAD や MUSE を基盤とする3人目のギタリスト Imam、Tricot, ELEPHANT GYM, COVET に影響を受けたチレゴン出身のベーシスト Denis、さらに民族音楽のスペシャリストで鍵盤、サックス、フルートを操る Rico と才能あふれるメンバーが揃い、RVNTVH は世界に打って出ることになりました。
そうした多様な出自や音楽観は、実に新鮮で驚きを秘めた RVNTVH の音楽へ見事に投影されています。OPETH を原点としながらも、KING CRIMSON, LAMB OF GOD, EMPEROR, DREAM THEATER, PERIPHERY, さらにはインドネシアの民族音楽に日本のアニメの影響まで、時間も場所もジャンルも超越した色鮮やかなナシゴレンがデビュー作にして完成しているのです。
まさに、メタルの生命力、感染力、包容力を証明するような第三世界の台頭。まだ拙い部分もありますが (特にクリーン・ボーカルの音程)、リフの一つ一つ、メロディの一つ一つがとても印象的。フルートやサックスといったノン・メタルの楽器も効果的で、なによりデビュー作から22分の大曲を収録できるのは選ばれたバンドだけ。
今回弊誌では、Arif と Rabin にインタビューを行うことができました。「Arif は “Death’s Preparation” で “真・女神転生” についてのパートを書いていたくらいでね。僕が自分のパートを付け足す前に、知らないうちにね!僕はどちらかというとガンダム派なんだよ。セイラ・マスは俺の嫁!」 どうぞ!!

RVNTVH “CONTEMPLATION OF THE VOID” : 9.8/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【DREAM UNENDING : SONG OF SALVATION】


COVER STORY : DREAM UNENDING “SONG OF SALVATION”

“There will be bands where you’re like, “I only like the early stuff because the later stuff got different.” That’s fine, but do you really need six records that sound like one specific thing?”

DREAM UNENDING

人生は厳しいもの。人は必ず成長し、生きるために働き、老いて死にます。もし、そんな苦痛のサイクルから解き放たれたとしたら? もし私たちが現代生活の呪縛から解放され、哲学的な反乱を起こし、諦めるのではなく人生を謳歌することができたらどうでしょう。TOMB MOLD の Derrick Vella と INNUMERABLE FORMS, SUMERLANDS の Justin De Tore によるデュオ、DREAM UNENDING は、そうして人生という果てしないファンタジーに慰めを見出しました。
ANATHEMA や Peaceville Three に影響を受けたデスメタル、ドゥーム・メタルを背景に、DREAM UNENDING が描く人生に対する理想を理解することは簡単ではないでしょう。De Tore は、人生の循環的な側面と、逆境に直面した際の魂の回復力をテーマに、音楽とのより深い感情的なつながりを求めているのです。
すべての弦楽器を担当する Vella は、夢のように破砕的な雰囲気を作り出し、バンドが影響を受けてきた素材をさらに高揚させながら、個性と職人的なセンスで巧みにアイデアを育てていきます。デスメタル、ドゥーム・メタル、デス・ドゥームではなく、バンドを “ドリーム・ドゥーム” と呼ぶ Vella のソングライティングは、ヘヴィネスの黒海と天国から射す光のちょうど中間にある絶壁で稀有なるバランスを取っています。
それにしても、デスメタルの救世主として名を売った2人は、なぜゴシックやデス/ドゥームメタルの父である “Peaceville” にオマージュを捧げることになったのでしょう?Derrick Vella が答えます。
「僕が初めて Peaceville に触れたのは PARADISE LOST だった。2000年代に古いゴスのブログを通じて “Shades of God” を聴いたことがあったんだ。正直なところ、あのアルバムは好きではなかったね。そのブログで彼らが “Gothic” というアルバムも出していることを知ったんだけど…なぜあのブログはそっちをアップロードしなかったのか、理解できなかったよ。
“Gothic” は簡単に僕を虜にした。当時聴いていたダーク・ウェイヴ、ポストパンク、エクストリーム・メタルの延長線上にあるような、論理的なものだったからね。まさに世界がぶつかり合う瞬間だった。ちょうどあの頃は、夜、真っ暗なバスで帰宅していたから、このアルバムと THIS MORTAL COIL の “Filigree and Shadow” が混ざっても、それほど飛躍した感じはしなかったね。思い出深いアルバムだよ。
その頃から、友人がドゥーム・メタルにハマり始めたんだけど、彼はカーゴ・パンツのドゥームではなく、もっとベルボトムのようなドゥームが好きでね。だから幸運なことに、THERGOTHON や ESOTERIC みたいなバンドを紹介してもらうことができたんだ。ESOTERIC はこれまで存在した中で最も偉大なメタル・バンドかもしれないね。とても共鳴したよ。UNHOLY のファースト・アルバムもそう。それで結局、Peaceville のものをもっと聴くようになったんだ。
でも、何よりも他のバンドより心に響いたのは、ANATHEMA だった。いつも一番胸が締め付けられる。パワフルで壮大だ。ドゥームというのは面白いジャンルだよね。奇妙にプログレッシブであったり、簡単に雰囲気を作り上げることができたり、空間をシンプルに埋めて濃密なものを作り上げることができたり。デスメタルと同じくらい、いや、それ以上に好きなんだ。
DREAM UNENDING が存在するのは、Justin にバンドを始めようと誘われたからなんだ。それまではドゥーム・メタルを書こうとさえしていなかった。みんなは、僕が高いクオリティでたくさんの曲を書くことができるといつも言ってくれるけど、本当に頼まれたときしかやらないんだ。他人のために書くというプレッシャーの中でこそ、僕は成長できるんだろうな」
ボーカルとドラムを担当する Justin De Tore にとっても、PARADISE LOST と ANATHEMA は重要なバンドでした。
「PARADISE LOST を初めて聴いたのは、”Draconian Times” が発売されたときだった。ここボストンの大学ラジオでレギュラー・ローテーションとして放送されていたんだよね。ただ、EVOKEN / FUNEBRARUM の Nick Orlando が PARADISE LOST の最初の数枚のレコードをチェックするように薦めてくれるまで、彼らの初期の作品を聴くことはなかったんだ。僕は21歳で “Gothic” を聴いて、とても深い経験をした。基本的に Nick は僕をデス/ドゥームに引き込んだ人物で、だから彼には感謝しているよ。
ただ、”Peaceville Three”も好きなんだけど、一番好きなのは ANATHEMA。Darren White のように痛みや悲しみを表現する人は他にいないよ。とても感動的だ。とにかく、このスタイルで演奏するのはずっと夢だったんだけど、それを実現するための適切な仲間がいなかったんだ。だから、Derrick のように、僕と同じような熱意を持ってくれる人に出会えたことは、自分にとって幸運だったと思っている」

ドゥーム・メタルを作る際のアプローチと、デス・メタルの世界との違いは何なのでしょうか?両者を股にかける作曲家 Derrick が答えます。
「デスメタルに対して、ドゥームではあまり安全策を取らずに書ける気がするんだ。Justin は、自分がどう感じるかを自由に書いて、そこにたくさんのレイヤーを追加してくれる。メロディックになりすぎることを心配することもないし、リフに長くこだわりすぎることもない。もしそうなっても Justin が教えてくれるしね。彼には、”このリフを考え直してみて” と言われることもあるけど、ほとんどいつも彼の言うとおりさ。アルバム “Tide Turns Eternal” を書いたときも、特に対立することはなかったね。”Dream Unending” の長い中間部に差し掛かったとき、僕はこのバンドに何を求めているのかを理解したよ。美しい部分と不穏な部分が同居しているのだけど、それぞれの部分に必ず重みがあるんだよね。
新しいバンドをゼロから始めることの良い点は、何も期待されていないこと。自分たちの好きなように演奏できるし、誰にどう思われようが気にならない。プレッシャーから解放されるんだ。Justin と僕はある程度有名人というか、正直に言うと、彼はスターだけど、二人ともこの音楽をどう思われようと気にしていないよ」
DREAM UNENDING は、自分たちが影響を受けたものをある程度身にまとっているにもかかわらず、伝統的な “デス/ドゥーム・メタル” というタグを敬遠し、自分たち独自のジャンルを確立しています。Derrick はどうやって、”ドリーム・ドゥーム” という言葉が生み出したのでしょうか?
「最初はバンド名や、アルバム名が夢の中で浮かんだということから。COCTEAU TWINS, “Disintegration” 時代の THE CURE, THIS MORTAL COIL といったドリーミーなサウンドのバンドのことを考えながら、曲を肉付けしていった感じかな。曲やアートワークのアイデアのインスピレーションも、映画の夢のシーンから得たものがあるしね。それこそ、黒澤明の “影武者” とかね。ただ、そういうものは “ドリーム・ポップ” というブランドで呼ばれているから、僕たちは “ドリーム・ドゥーム にしたんだよ」
メタル・サウンドと先進的な “ドリーム・ドゥーム” サウンド、それぞれのバランスをどうとっているのでしょうか? Justin が説明します。
「最初から何か違うクリエイティブなことをやりたかったんだ。Derrickも言っていたけど、このプロジェクトに参加するにあたっては、二人ともかなりオープンマインドだった。ドゥームのレコードを作るということでは合意していたと思うんだけど、それ以外のことはほとんど決まっていなかった。かなり慎重にやったよ。僕がやっているバンドのほとんどは、特定のスタイルにしっかりと根ざしていて、それはそれでクールなんだけど、時々輪を乱してしまうようなレコードを作るのはとても楽しいことだよ」
Derrick が補足します。
「結局、Justin と僕はただの音楽オタクなんだ。そして、ヘヴィネスにこだわらず、何かを喚起するような印象的な音楽を作ることに重点を置くようになった。最もヘヴィな部分は、クリーンなパッセージの中にある。そのバランスは、”重さとは?” という問いかけのようなものだと思うんだ。どの曲もすべてのパートに説得力を持たせ、手を抜かないようにするのが僕たちの努め。そして、その説得力をさらに高めるために、必要であれば外部の力を借りることもある。Justin が心を開いて僕を信じてくれることは、本当に助けになるよ。それが自信につながり、自分を追い込み続けることができるんだ」

つまり、TOMB MOLD との違いは実はそれほどないのかも知れません。
「TOMB MOLD の曲は僕が作るかもしれないけど、それをバンドに持ち込むと、みんなが自分の DNA を入れてくれる。今年3曲入りのテープを出したんだけど、エンディングの “Prestige of Rebirth” にクリーンセクションが入っていて、それを聴いて DREAM UNENDING みたいだと言う人が多かったんだ。まあ、あの部分の土台は僕が書いているし、そうなるのは当然なんだけど、あのテープでは TOMB MOLD がもっとメロディックな面を開拓しているから面白いんだよね。
メロデス的なものではなくて、CYNIC の “Focus” や “Traced in Air” を彷彿とさせるような感じで、もしくは特に FATES WARNING ようなバンドの延長線上にあるような感じなんだ。みんなプログレッシブ・メタルが好きで、プログレッシブ・デス・メタルも好きで、そこに浮気しがちでね。DREAM UNENDING はほとんどそれをスローダウンさせただけのようなものだと思うんだ。とにかく、デスメタルはとても想像力豊かなジャンルだから、ドゥームがより想像力豊かなジャンルだとは言いたくない。たぶん、どちらのジャンルにもルールはないんだ」
ANATHEMA の中でも、”Pentecost III” と “Serenades” は特別な作品だと Derrick は言います。
「この2枚のレコードで聴けるような、ゆっくりとした陰鬱なパッセージがとても好きなんだ。伝統的でないパワー・コードをうまく使っている。それと、”We, the Gods” のような曲もね。この曲は基本的にタイトル曲の “Tide Turns Eternal “の青写真なんだ。でも、ペースをきっちりコントロールすることで、自分たちのものにした。ANATHEMA の特徴を壊したり、攻撃的で耳障りなものにしたくはなかったんだ。アルバムのテンションが上がっても、ペースを乱すことはない……といえば、わかりやすいだろうか?
ただ、彼らは常に進化しているんだ。それがバンドの素晴らしいところであり、音楽のカッコいいところでもある。若い頃、あるいは今でも、”後期は全然違うから初期のものしか好きじゃない” という人がいるでしょ。それはそれでいいんだけど、1つのサウンドを持つレコードが6枚も必要なんだろうか?リスナーとしては、好きなバンドにはもっと多くのものを求めるものだと思うし、彼らがどこまで到達できるかを常に見たい。ANATHEMA は30年前の ANATHEMA のようには聴こえない。2枚目、3枚目のアルバムでやめてしまう人もいるだろう。だけど、僕は最初の8枚くらいは全部好きなんだ」
もちろん自分たちはコピーバンドではないがと前置きして Justin が続けます。
「僕たちは特定のバンドをコピーしようとは思っていないよ。ボーカルに関しては、Darren White のような激しさを出したいとは思っているけど、それは無理な話。僕たちは異なる人間であり、最終的に僕は僕でなければならないからね。全体として、このアルバムでは歌詞もサウンドも自分自身に忠実であったと思うよ」
ゴシック・ドゥームというジャンルは一般的にヨーロッパのもので、2人でアメリカからその世界に参入するという感覚はあるのでしょうか?
「全然違うよ。僕らには EVOKEN がいるから。いい仲間なんだ」
この “陰鬱” なスタイルは、なぜアメリカよりもヨーロッパのシーンに多く浸透しているのでしょう? 2人にもその理由はわからないようです。
「僕はいつもこのジャンルに惹かれているのだけど、アメリカでは同じ興味を持つ友人が数人しかいない。おそらくこれはアメリカ的なものではないんだ。あと、美学は人々にとってとても重要でイメージが全ての場合もある。スタイリッシュでないサブジャンルは、スタイリッシュなものほど受け入れられてはいない」
「なぜもっと多くの人がこのジャンルを愛さないのか、なぜ皆 AHAB の最初の2枚を崇拝しないのか、わからないんだ。美意識の問題なのだろうか?でも、革ジャンを着た人たちには、海やクジラは十分にカルトではないんだろうな。レーベルの問題かもしれないけどね。ドゥームにはある種の忍耐力が必要だ。ドローンやベルボトム・ドゥームは、僕の知っている北米の人たちにはもっとインパクトがあったように感るな。多分、多くの人はメタルを聴いている時にまで、鬱な気分になりたくないだけなんだろうけど」

バンド名の由来となった “果てしない夢” とは何を意味するのでしょうか?Derrick の言葉です。
「僕にとっては、人生という誰もが共有する旅のこと。ひとりひとりの中にある魂は、僕たちよりも長生きし、もしかしたら永遠に続くかもしれない。それは、自分自身と世界における自分の位置を再調整する方法なんだ。僕は誰の上にも立っていない。みんながそうだよ。僕たちは皆同じ生身の人間で、自分たちが理解するよりも大きなものを運ぶ器なのさ。僕は君が生きているのと同じ夢を生きているんだよ。重要なのは希望を失わないこと、自分は一人ではないこと、忍耐すること、人生は生きる価値があること、人生は動き続けるものだからそれに合わせて動くこと、過去にこだわらないこと、神に不可能でも愛があれば救われること。
“Dream Unending” という曲のクリーンなブレイクは、緩やかで脆いものとの相性が抜群だと思うんだ。このアルバムは確かにダークに聞こえる時もあるし、美しくメランコリックで、ダグラス・サークの映画みたいに葛藤もある。でも、クリーン・ブレイクはとてもきれいだし、ネガティブではなく人生を肯定するような内容で、その後の歌詞の内容もより希望に満ちた方向にシフトしているよ。Justin の歌詞は崇高なもの。とにかくめちゃくちゃいい。リスナーに読んでほしいね。
自分たちだけでなく、心を開いてくれた人たちにもある種のメッセージを届けたかった。だから、意識的にきれいな話し言葉とクリーンなパートを使ったんだと思うんだ。そのパートは僕が書いたんだけど、Justin が僕に貢献させてくれてよかったよ。僕らふたりは、毎日が自分自身を向上させ、前進し続けるためのチャンスだと考えているんだ。”魂は波であり、潮の流れは永遠である” とね。くよくよせず、癒すことを選んでいきたい。少なくとも努力はするよ」
Justin がホラーやカオスなど、ネガティブなテーマを扱った長い時間を経て、人生を肯定するようなポジティブなものにシフトしたのは、なぜだったのでしょうか?
「解放されたんだよ。ニヒルな歌詞を書いたことはないんだけど、今の時点ではネガティブなことに疲れてしまったんだ。それを楽しむのは卑怯だと思うんだ。希望に満ちたものを書くことは、精神的に良いことだと思う。楽観的なものを作るために、怒りや激しさを妥協したわけでもない。ただ、この歌詞は、これまで書いてきたものと同じくらいリアルなんだ」
Derrick もこれまで、容赦のないデスメタルを奏で続けてきました。
「これは、TOMB MOLD が前作を出したあたりから、ずっとやりたかったことなんだ。ただ、それを表現するための適切なプラットフォームがなかったんだよね。Justin のことを知れば知るほど、僕らの波長が似ていることに気づいて、それが理にかなったことだったんだ。他のバンドがやっていることに反発するわけじゃないけど、不気味な陰鬱なデスとか、神の怒りとか、そういう悲観的なことは絶対にやらないようにしていた。これは僕らにとってより良い道であり、僕らにとってより真実だったんだ。一般的なメタル・ファンにはあまり好まれない道かもしれないけど、そんなことはどうでもいいんだ (笑)」

短いインターバルでリリースされた最新作 “Song of Salvation” はよりプログレッシブになったと Derrick は語ります。
「12弦ギターを手に入れて、曲作りのアプローチも少し変わったと思う。曲の真ん中が先にできているようなことが多くなったね。”これからどうするか” という感じでね。曲の最初から最後まで書くのとは違って、いろいろなものを組み合わせていくことができたんだよ。ホワイトボードを買って、長い曲のいろいろな部分をビジュアルマップにしたんだ。新譜の曲のいくつかは、14分から16分で、繰り返しがあまりない。だから、ほとんどプログレッシブなクオリティになっているよ。幸運なことに、このアルバムを完成させるのに十分な時間があったんだ」
“プログレッシブ” には意図的に舵を切ったのでしょうか?ギタリストが答えます。
「20分の曲を書こうと思っても、時間を伸ばすために必死になっているような感じがあるよね。今回の曲は、時間のことはあまり考えず、自然に終わると思うまで書いたんだ。長い曲は山あり谷ありで、それがプログレッシブ・ロックの良さでもあるから。クレイジーな部分やエネルギッシュな部分があって、一旦下がって、緊張が高まって解放されるような感じ。
このアルバムでは、より自信を持ってソロを書けるようになった。”Tides” でも満足していたんだけど、ギターを弾く時間が増えたことと、またギターのレッスンを受け始めたことが大きかったと思う。これが大きな鍵になった。レッスンを受け始めた頃には、アルバムの大部分はできていたんだけど、ソロのいくつかはまだ完成していなかった。レッスンを受けて、いろいろなアイデアを投げかけてもらって、アプローチして、また演奏や何かに取り組むという日常に戻って、それが練習でも課題でも、音楽的に自分を高めるための大きなステップになったんだ。
僕のの先生は Kevin Hufnagelで、彼は GORGUTS で演奏している。毎週レッスンが楽しみだよ。GORGUTS のレコード、DYSRYTHMIA、彼の昔のバンド SABBATH ASSEMBLY など、彼はクオリティの高い人で、音楽は様々。いろいろなことを教えてくれるし、僕が何を見せても、彼はいつもとても楽しそうに聞いてくれる。お互いが充実している、そんな師弟関係だと思うんだ。
でも、めちゃくちゃ長い曲を書くのは、ちょっとリスクがあるよね。ドゥーム・ミュージックはとにかく長いんだけど、”アルバムの半分が15分の曲” っていうのは、多くのリスナーを遠ざけることになる。そんな長い曲を聴いてる暇はないという人もいる。4分の曲でもスキップする人がいるんだから恐ろしいよね。まあ、それはアンダーグラウンドというよりメインストリームの問題だけど。まあ、全部聴いてくれる人、実際に13分間に渡って曲を聴いてくれる人にだけ聴いてほしいというような感じかな」
ゲスト・ボーカリストや多種多様な楽器もアルバムを彩りました。
「”Secret Grief” では、友人のレイラがトランペットを吹いてくれた。元々、この曲のデモを作ったとき、このメロディーの部分はエレキギターで、ほとんどシンプルなソロでやっていたんだ。でも、スコットランドのバンド BLUE NILE が大好きで、彼らの2枚目のアルバムには、とてもブルーで夢のようなクオリティーがあってね。その中に “Let’s Go Out Tonight” という曲があるんだけど、”このエッセンスを瓶詰めにして、なんとか僕らのレコードに入れたい” と思っていたんだ。確か Justin に、トランペット奏者と共演しているデヴィッド・トーンのアルバムかライブ映像を見せたら、それがすごくドリーミーで、この曲に使えるんじゃないかと思ったんだよな。レイラは何でもできるプロだから、それを見事に達成してくれた。アルバムに新しいテイストを加えてくれたよね。
アルバムに収録されているピアノやオルガンは、すべて僕の父の手によるもの。父がアルバムに参加することは、とてもクールなことなんだ。彼がピアノを弾いているのを見て、僕は音楽に目覚めたんだからね。僕がギターを弾きたいと思ったときも、彼は “お前ならできる、レッスンを受けろ” と言ってくれた。両親ともすごく励ましてくれる人なんだよ」

彼らは音そのものではなく、音の生み出す雰囲気を捉えることに長けているようです。
「Justin と僕は音楽全般についてよく話すし、自分たちが好きなものについても話す。LIVE というバンドを覚えているかな?Justin も僕もあのバンドと “Throwing Copper” というレコードが大好きでね。LIVE みたいな曲を作りたいとは思わないけど、”Lightning Crashes’ を聞いたときに感じるような感情を作りたいんだ。それが僕のキーポイントになっているような気がするね。サウンドをそのままコピーするわけではないんだけど、フィーリングやエモーションを掴むというか。
このレコードを制作していたとき、ターンテーブルから外さなかったレコードは、TOTO の “Hydra” だったと思う。TOTO のようなリフを書こうとは思わないけど、スティーブ・ルカサーのギターを聴いて、彼のソロのアプローチについて考えたり、感じたりすることはできるんだ。
JOURNEY の “Who’s Crying Now” いう曲もそう。あの曲のソロは決してトリッキーなものではないけど、そこから引き出される感情が見事なんだ。だから、僕はいつもそういうものを “鍵” にしている。今回のアルバムでは12弦で弾いているせいか、MAHAVISHNU OSCHESTRA のジョン・マクラフリンが弾いていたようなクリーンな瞬間がいくつかある。彼は僕よりずっとギターが上手いから、もっとシンプルだけどね。
僕たちはドゥームのもっとゴシックな側面、例えば THE GATHERING のようなバンドがとても好きなんだ。彼らも ANATHEMA のようにサウンドを進化させ続け、プログや PINK FLOYD のような領域に踏み込んでいったバンドなんだ。だから、このアルバムではクリーン・シンガーが何人か加わって、そういう部分を強調することができた。僕は成長を見るのが好きなんだ。フランク・ザッパが好きなら、その人はいろいろなテイストの音楽をたくさん聴くことができる。でも、フランク・ザッパが半分しか作品を出さなかったら?僕はアーティストの旅路を見るのが好きなんだよ。
メッセージやフィーリングを伝えるには、クリーン・ボーカルの方がずっと簡単なんだよ。スポークンワードのパートを使うのも同じで、より感情的なトーンを設定することができる。その点では、僕たちはより良い作品を作ることができたと思うな。”Tides” の出来が悪かったというわけではなくて、もっとコントロールできた気がしたんだ。
もうひとつ、僕らがよく話すバンドで、DREAM UNENDING の精神的なコンパスが KINGS Xなんだ。僕たちは彼らのようにクリスチャンではないけれど、彼らが話していることの多くは、”ある曲を聴くとその曲を聴く前よりも100倍も気分が良くなる” というもの。音楽にそんな力があるなんて驚きだよね。僕は音楽が高揚感をもたらすという考え方が好きで、それが DREAM UNENDING の方向性を決めるのに役立っていると思うんだ。ドゥームというジャンルは、特に最近は気分を悪くさせるように作られているから不思議なんだけど、僕たちは “それもいいけど、ちょっと違う方向にも行ってみようかな” と思っているんだ。
だからこのアルバムを作っている間は、あまりドゥーム・メタルを聴いていなかったと思う。ドゥーム・メタルの中で唯一聴いたのは ANATHEMA の “Silent Enigma” だと思うけど、それよりも “Alternative 4” と “Judgement” を聴いていたね。ESOTERIC よりも Bruce Hornsby を聴いていたかもしれない」
DREAM UNENDING の “高揚感” はより深く、よりスピリチュアルな側面を見出していきます。

「自分を大いなる力に委ねる必要はなく、もっと自分の中にあるもの、自己発見、自己改善という考え方に基づいたスピリチュアルな側面がこのバンドにはあると思う。人によっては、より良い人間になるための道として、宗教的な経験や啓示を得ることがあるかもしれないし、僕はそういったものをとても興味深く感じている。僕の周りには信仰を持つ人がいて、人生全般について話をするのが好きだし、彼らの視点が好きなんだ。
アルバム “Song of Salvation” は、自分自身を見つめて、”何かを変えなければならないのなら、変えるのは自分でなければならない” “何かを追い求めて自分を向上させなければならないことを受け入れる” 、そんな作品だと思う。それはとても重要なことで、僕たちはなかなか口にできないけど、大切なことなんだ。
だって、惨めな思いはしたくないでしょう?誰がみじめになりたいの?幸せを見つけることだって、一種の精神的な目覚めであり、自分自身と平和になることであり、周囲と平和になることでもある。それが何であれ、僕はそこに本当の力があると思うし、身体にも、精神衛生にも、魂にも良いことだと思うよ。どんなものであれ、そこに何かを見出すことができればね。
だから、”Song of Salvation” は、何よりも自己受容を扱っていると思う。ただ、それと同時に、忘れるために生きている人もいる。僕たちは後悔しながら物事を振り返り、人生において良くも悪くも物事を行い、それが自分自身を形成していく。それを受け入れて、自分の中に居場所を見つけて、ずっと一緒に暮らす必要はないけれど、否定する必要もないんだということを理解したほうがいいと思うんだ。自分自身から逃げているだけでは、ほとんど嘘をついて生きているようなものだから」
もちろん、リスナーは “救済” の先を期待してしまいます。
「そうだね、これまで取り組んできたものに関しては、まだ先があるんだ。曲作りは、”今、何を聴いていて、何が好きか?” ということを考えながら進めていくから楽しいんだよ。OPETH に似ていると言われたこともある。彼らほどヘヴィではない部分もあるけれども、いい意味で彼らも長尺なアプローチをするバンドだね。”Damnation” は、すべてクリーンで歌われたアルバムで、このアルバムを作っているときは、それをとにかく聴き込んだんだ。
どうすれば可能性を押し広げ続けることができる?例えば、中間部全体を使ったソロを書きたいとか、クリーンなソロを書きたいとか、ちょっと変わったソロを書きたいとか、みんなが期待しているような曲とは違う曲を書きたいとか。曲の長さや曲の性質上、DREAM UNENDING ではいろいろなことを試すスペースがあると思うんだ。そのことをずっと考えていて、曲を書き続けているんだ」

参考文献: NEW NOISE:INTERVIEW: DREAM UNENDING ON WEAVING A MUSICAL TAPESTRY

INVISIBLE ORANGE:he Soul is a Wave: A Conversation with Dream Unending (Interview)

TREBLE:The spiritual alignment of Dream Unending

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【HOUKAGO GRIND TIME / RIPPED TO SHREDS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ANDREW LEE OF HOUKAGO GRIND TIME / RIPPED TO SHREDS !!

“I Want To Express My Love For Anime Through Music, And I Think Educated Listeners Can See That I Have Equal Love For Both Moe Anime And Goregrind.”

DISC REVIEW “HOUKAGO GRIND TIME2 / 劇變(JUBIAN)”

「僕は、自分が感情移入できないもので芸術を作るのは好きではないんだよ。だから、音楽を作るときは、特に作詞作曲や映像のデザインをする場合はいつでも、自分が情熱を傾けられるような題材でなければならないんだ。僕は音楽を通してアニメへの愛を表現したいし、教養のあるリスナーには僕が萌えアニメとゴア・グラインドを等しく愛していることが分かると思う」
愛するものを、自らのアイデンティティを、自然に自由にアートへと昇華する。言うは易く行うは難し。特に、音楽が金銭と直結しにくくなった現代において、理想のハードルは以前よりも高くそびえ立っています。
しかし結局は、案ずるより産むが易し。台湾からアメリカに移住したアジア系アメリカ人の Andrew Lee は、HOUKAGO GRIND TIME ではアニメに対する愛と情熱を、RIPPED TO SHREDS では自らの出自である中国/台湾のアイデンティティで “自らの声” を織り込み、二足のわらじで “嘘のない” アートを実現しています。
「エンターテイメントとは、そのエンターテイメントが市場の需要に応えるという意味で、それを生み出す社会の反映なんだ。エンターテイメントが社会から排除された人たちにオアシスを提供するのは良いことだけど、だからそのエンターテイメント自身が資本主義によって作られた “製品” に過ぎないように感じることがよくあるんだよね」
もしアニメ “けいおん!” の放課後ティータイムがグラインド・コアをやっていたら…そんな荒唐無稽を想像させるような夢のある地獄のグラインドコアが HOUKAGO GRIND TIME。グラインドコアもアニメの世界の一角も、荒唐無稽で大げさでそこそこに不真面目であるべきで、だからこそ、その両者を併せ持った HOUKAGO GRIND TIME の音には説得力が二倍となって宿ります。
さらに言えば、メタルもアニメも社会から時に抑圧され、時に無視される “オタク” にとっての拠り所、逃避場所、心のオアシスで、その両者を併せ持つ HOUKAGO GRIND TIME の寛容さももちろん二倍。重要なのは、Andrew の精神や目的が資本主義の欺瞞から最も遠く離れた場所にあることでしょう。ゆえに、ここには逃げられる、心を許せる、心底楽しめる。
「僕は、他のアジア系アメリカ人が “自分たちの” デスメタルバンドを結成し、自分たちにとって重要なテーマについて歌うようになればいいと思っているんだよ。多くのアジアのバンドは、特にアンダーグラウンドでは、プレゼンテーションやテーマの面で西洋の同世代のバンドを真似してきたからね。SABBAT, IMPIETY, ABIGAIL みたいなバンドは、ビール、パーティー、サタン/キリスト、その他西洋のテーマについて歌っているから」
デスメタルを追求する Andrew もう一つの翼、RIPPED TO SHREDS でも彼の正直さ、純粋で無欲な姿勢は一向に変わりません。Relapse 期待の一作 “劇變”(Jubian)” は、スウェーデンの古を召喚した地獄のようなデスメタルでありながら、スラッシュ譲りの獰猛さとメロディアスなギターワークを備えます。
中国語を多用した歌詞やタイトル、項羽と劉邦や三国志をイメージさせるアートワーク、そしてあの HORRHENDOUS にも例えられるプログレッシブで鋭い技巧の刃は明らかにステレオタイプのメタルをなぎ倒す怒涛のモメンタム。このわずか33分で RIPPED TO SHREDS は歴史、アイデンティティ、そして中国/台湾とアメリカとの関係について深く考察し、自分の頭で考え、自分の音楽を、自分にとって重要なテーマで語っているのです。
RIPPED TO SHREDS の目標の一つは、アジア系アメリカ人のメタルに対する認知度を高めること。Andrew は、歴史の陰惨な側面に立ち向かいながら、キャッチーなリフとエモーショナルかつ奇抜なソロの洪水よって、この目標を実現に近づけていきます。”アメリカのマイノリティであることは本質的に政治的” “アメリカの文脈の中で中国のアートを作るという行為こそが破壊的な問題提起” だと Andrew は指摘しますが、”劇變(Jubian)” はまず細部に至るまで豊かで濃密なヘヴィ・メタルです。
特に “獨孤九劍月神教第三節(In Solitude – Sun Moon Holy Cult Pt 3)” にはコントロールされたカオスが大量に盛り込まれていて、この10分の作品は、疾走感から壮大なメロデスの慟哭、ドゥーミーな中間部までエピックのスイを尽くしてリスナーを民話に根ざした物語に惹きこんでいきます。秦の時代、豊満な戦士が宦官に変装して宮中に忍び込み、皇太后を誘惑するというおかしくも恐ろしいエピソードから、アメリカの原爆投下、中国の重層的な政治的歴史まで、RIPPED TO SHREDS が扱うテーマには必ず Andrew のアイデンティティが下敷きにあって、彼はヘッドバンキングの風圧でそこに火を注ぎ、見事に燃焼させていくのです。
今回弊誌では、Andrew Lee にインタビューを行うことができました。「世の中にはアニメ・ゴア/BDMバンドが少なくないけど、彼らはグロ・ロリ・バイオレンスを “ショック・バリュー” “衝撃度” として使っているだけで、本当にそのテーマに興味を持っているバンドは皆無だよね。アイツらは、自分らのポルノの題材で一瞬たりともシコってないんだよ。ヤツらはただ “hentai violence” でググって、任意の過激な画像をアルバムに載せているだけ。まさに、怠惰なビジュアル、怠惰なテーマ、怠惰なアート、怠惰な音楽」 どうぞ!!

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【AN ABSTRACT ILLUSION : WOE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH AN ABSTRACT ILLUSION !!

“We Take Influences From Anathema, But Also From Brian Eno, Hammock And Ólafur Arnalds.”

DISC REVIEW “WOE”

「EDGE OF SANITY の “Crimson” からは大きな影響を受けた。もちろん、INSOMNIUM の “Winter’s Gate” からも影響を受けているよ」
1996年、スウェーデンの鬼才 EDGE OF SANITY が、40分1曲で構成されたアルバム “Crimson” をリリースしました。それは、アルバム全体を1曲で構成するというアイデア以上に、繰り返される説得力のあるテーマや作品の多様性が白眉で、エクストリーム・メタルという文脈において非常に特異なものに感じられたものです。
それから20年。同じスウェーデンの INSOMNIUM が同様に1曲のみの傑作 “Winter’s Gate” をリリースしました。彼らに共通するのは飽くなき知への探求と境界を押し広げる冒険心。幸運にも当時弊誌では、彼らにインタビューを行うことができました。
「アルバムには 90年代のスカンジナビアンメタルの雰囲気が多分に存在するね。僕たちが10代の頃に愛していたようなマテリアルだよ。EMPEROR, EDGE OF SANITY, DISSECTION, OPETH といったようなね」
スカンジナビアにはやはり、純黒で物憂げでプログレッシブな雪の結晶が眠っています。さらに5年以上が経過し、今度はスウェーデンの新鋭 AN ABSTRACT ILLUSION が、7つの章から成る60分1曲の壮大なエピック “Woe” で、メランコリックな美狂乱を披露します。
「今回は、AN ABSTRACT ILLUSION のよりアトモスフェリックなサウンドを追求したかった。今はそのスタイルがより心地よく感じられるようになり、だからこそ注目度も高まっているんだろう。ANATHEMA はもちろん、Brian Eno, HAMMOCK, Ólafur Arnalds からも影響を受けているんだ」
しかし、このアルバムが特別なのは、奇抜な方法論や、メタリックとメロディック、過激と難解、冷静とカタルシス、激情と友愛といった異なる要素をすべて対比させつつ使用していることだけではありません。それらはただはめ込むだけのパズルのピースではなく、さながら弧を描くように循環し、シームレスに、流れ込むよう注意深く織り込まれているのです。その画期的な手法は、大曲のまとまりのなさを解消するだけではなく、過去に彼らが比較されてきた OPETH や NE OBLIVISCARIS でさえ迷い込む “定型化” の迷宮からの脱出にも大きく寄与しています。
「”Woe” という単語には “大きな悲しみや苦悩” という意味があるんだけど、このアルバムの全体的なムードを表現するのに適していると思ったんだ。アートワークでは、女性が美しい花輪を身につけているんだけど、同時に茨の冠のように血を流しているのが見えるよね。この美と痛みの対比は、僕たちの音楽の大部分に当てはまることなんだ」
幽玄で崇高で孤高。アルバムには数多くの山と谷があり、繰り返される音楽テーマとその再演、そしてアトモスフィアのうねりはポスト・メタルやクラシックのダイナミズムを連想させ、60分の絵巻物にたしかな連続性を与えています。メインテーマとなるメロディーは非常に多くの変容を遂げ、そのすべてを把握することは不可能に近いでしょう。
さらに、インターバルの変化、3拍子の解釈、コード進行やトランスポーズなど、純粋に音楽だけをとっても飽きることのない面白さがここには秘められています。大きなテーマの違いが提案されたときに章は移り変わり、幕間はオーケストラやコーラス、電子音がちりばめられたインタルードがつないでいきます。すべては、花と血のために。
まさに “Woe” は、考える人のためのアルバムでしょう。科学と演劇の両方に対応し、その巧妙な対位法と劇的な性質によって驚きと畏怖を見事に両立しています。その核となる音楽はアトモスフェリック・デスメタルですが、このジャンルでおなじみの不協和音は影を潜め、定形を排除することで、彼らは KING CRIMSON や YES に対する挑戦権を得たのです。ツンドラからの賛美歌によって。
今回弊誌では、AN ABSTRACT ILLUSION にインタビューを行うことができました。「僕たちの音楽はメタルに支配されているわけではなくて、それがサウンドにも反映されているんだよ。メタルという制約に縛られている感じは全くないんだ」 どうぞ!!

AN ABSTRACT ILLUSION “WOE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【WAKE : THOUGHT FORM DESCENT】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH RYAN KENNEDY OF WAKE !!

“I Think We’re a Metal Band. For Better Or Worse There’s No Specifying Sub-genres For The Type Of Music We Want To Make, In My Opinion. We Play Metal.”

DISC REVIEW “THOUGHT FORM DESCENT”

「最近、僕らの音楽活動に対して “成長” や “発展” という言葉がメディアによってよく使われているけど、僕らにとっては、すべてが論理的で当たり前のステップのように感じられる。長い間同じ音楽を聴いてきて、その時々に浮かんだアイデアを形にするだけ。それが “ユニーク” かどうかはわからないけど、少なくとも自分たちを正直に表現しているとは言えると思う」
カナダの WAKE は決して同じことを繰り返すだけのバンドではなく、リリースのたびに進化を遂げているとメディアは評します。しかし彼らはただフワフワとジャンルの境を漂う根無し草などではなく、溢れ出る自らの音楽的な創造の泉を “エクストリーム” “ブルータル” とは何かを再考し再発明するための挑戦の場として活用しているのです。
「”ブルータル”、”クラッシング”、”デヴァステーティング” という言葉は、エクストリーム・ミュージックの形容詞として乱用されすぎだ。僕たちは、”ブルータル” や “エクストリーム” のアイデアはブラストビートや鋭いトライトーンだけではないことを証明したいし、もっと重要なのは “ブルータル” な要素は鋭さだけでなく受動的な緩やかさからも生み出せるんだ。そのどちらにも通じる、ユニークな衝撃を生み出すことができるというアイデアを、人々に直面させようと思ったんだ」
その結果、容赦なくヘヴィなものから絶妙な美しさまで、時に片側一車線、しばしば相互通行で同時に駆け抜けるニュアンス豊かな8曲が誕生しました。それは瞬時にリスナーの心を掴み、全ての神経を張り巡らせれことを要求します。”Thought Form Descent” は豊かな質感と緻密なレイヤーで構成され、聴くたびに奥行きを感じさせ、WAKE をナチュラルに新たな次元へと導いているのです。
「僕たちは単にメタル・バンドだと思うんだよ。良くも悪くも、僕らが作りたい音楽のタイプにサブジャンルの指定はないと僕は思っているんだ。僕らが演奏するのはメタルであり、あらゆるジャンルを網羅したメタルなんだ。僕たちの個性は、ジャンル、テンポ、音色がどうであれ、僕たちが導入するあらゆる音の要素の間に常に潜んでいるから」
重要なのは、WAKE が “クラスで一番” を目指しているわけではなく、メタル世界全体の “目覚め” を誘うことに重きを置いている点でしょう。例えば同郷の ARCHSPIRE のように、”テクニカル・デスメタル” という狭い “教室” を極め尽くして一番になる。それも名を上げる一つの方法です。しかし、WAKE はあらゆるメタル、あらゆるサブジャンルを網羅した包括的な “ヘヴィ・メタル” でメタルの革新を願うのです。故にグラインドに 端を発する彼らの旅路には、ブラックも、デスも、ドゥームも、スラッジも、プログレッシブも存在し、ポストメタルでさえ顔を覗かせていきます。
「今回は多くのアイデアが試されたけど、すぐに却下されていった。なぜなら、典型的な怒りに満ちた攻撃的な歌詞から軌道修正する必要性があったから。同時に、あまりに憂鬱で個人的なものでもないようにしたんだ。そうして僕たちは、自分たちのドリーミーな方向性を追求していったんだ」
タイトルの “Thought Form Descent” は、「心の中に一種の迷宮を作り、それを現実に物理的に顕在化させる」というアイデアに由来しています。自分自身の無意味さ、人生の虚無感に直面した主人公が現実と対立し、未知の世界に大きな意味を見いだすというもの。
明晰夢、瞑想、幽体離脱、臨死体験といった手段で、彼は未知の場所に旅立ち、良くも悪くも現実の扉の向こう側を発見します。己の生との対立、現実との対立。そうして主人公はアストラルセルフとフィジカルセルフのどちらが真の存在なのかで混乱し、2つの間を引き裂くような意識状態の中で戦っている自分に気づきます。そして最終的に彼は、両方を元に戻して絶対的な無になろうとするのです。
現実からの逃避と夢見がちなストーリー・ライン。その音楽的な具現化には、ALLEGAEON, CATTLE DECAPITATION, KHEMMIS, PRIMITIVE MAN などモダンメタルの多様を牽引するプロデューサー Dave Otero も一役買っています。彼のメタルだけでなくポップ・ミュージックとその構成を理解する能力、音楽理論の知識、リフだけでなく曲の動きとコード進行にも連動する姿勢は、”デスメタル” “ブラックメタル” をはるかに超え、同様に “超越者” である GORGUTS の Kevin Hufnagel が流麗なメロディーを奏でることでアルバムは至上の域に達しました。
今回弊誌では、ベーシスト Ryan Kennedy にインタビューを行うことができました。「たしかに僕は DARKTHRONE や MAYHEM, BATHORY などを聴いて育ったから、ブラックメタルと僕は強い感情的なつながりを持っているけど、哲学的な意味合いを持っているわけではないからね。それに、僕も歳をとったから、哲学的な傾倒がより多様化する傾向にあるしね」 どうぞ!!

WAKE “THOUGHT FORM DESCENT” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【IMPERIAL TRIUMPHANT : SPIRIT OF ECSTASY】


COVER STORY : IMPERIAL TRIUMPHANT “SPIRIT OF ECSTASY”

“I Got Into Learning About Rolls­-Royce As a Company And Learning About These Ultra Luxury Product Companies Like Rolex And Such. The Rolls-Royce Has This Hood Ornament That Is Known As The Spirit Of Ecstasy.”

SPIRIT OF ECSTASY

2012年のデビュー以来、IMPERIAL TRIUMPHANT の Zachary Ilya Ezrin (vocals, guitars), Steve Blanco (bass, vocals, keys, theremin), Kenny Grohowski (drums) にはニューヨークの中心部に深く入り込むというミッションがあり、彼らの Bandcamp には “NY の最上階の豪華さから地下の腐ったような場所まで” と優雅に表記されています。
「ニューヨークの音の風景と、そのさまざまなダイナミクスを具現化しようとしているんだ。ニューヨークの風景には視覚的に大きな影響を受けているし、この街ならではのものだよね。この街はとても密度の高い場所だから、いろいろな意味でインスパイアされるものがたくさんあるんだ。音楽的な血統からインフラまで、あらゆる分野で歴史がある。
それに、ニューヨークには何か国家的なナショナリズムのようなものがある。移住してきた人たちも、ニューヨーカーであることを誇りにしているんだ。何が自慢なんだ?棺桶の中に住んでるんだぞ!?とか言われるけどね。ニューヨークという街に対して、みんなすごく興奮しているだよね。その中で、曲のコンセプトが生まれる。大都会のプライドと自己達成のヴェールは、探求するにはとても興味深いコンセプトだよ」

そして、メジャーからの最初の作品 “Alphaville” をリリースした後、最上階の豪華さについての考え方は、さらに深まりました。Trey Spruance (Mr. Bungle) がプロデュースし、Colin Marston が Menegroth Studios で録音した “Alphaville” は、壮大なスケールで、これまでで最大のサウンド・プロダクションとなっていたのです。メタル・コミュニティーの中でのこのレコードの評判は非常に大きく、アールデコの影響を受けた不可思議なトリオは、地元の人気者からメタルのアーカイブスにその地位を刻むまでになったのです。Century Media から2枚目のリリースとなる “Spirit of Ecstasy” でIMPERIAL TRIUMPHANT は、その場所から音楽におけるより細かい部分に焦点を当てるために、音を十分に減らすことを決めました。
「ライブでは、僕の彼女と弟の彼女にマントを着てもらって、観客にマスクを配っていた。当時、僕らの音楽でモッシュする人はいなかったから、ブルックリンの人たちがじっと見ているクラシックな雰囲気よりも、もっと良い雰囲気になる方法はないかと考えていたんだ。全員がマスクをしていれば、グループの儀式になるし、僕らもその一員になれると思ったんだよね。今はモッシュピットも増えてきたけど、それでもマスクをかぶって来る人はいて、ライヴのために華やかなコスチュームに身を包んでくれる人もいる。ライブが単なるパフォーマンスではなく、みんなで参加する儀式のようなものだと感じてもらえたらうれしいね」
弊誌2020年のインタビュー で彼らはあのマスクについてこう説明してくれました。
「あのマスクは20世紀前半のニューヨークで育まれたアールデコ運動と密接に関係しているんだ。そのムーブメントは数千年前にさかのぼり、過去と深遠で神秘的な多くのつながりを持っている。そしてそれは、かつて僕たちの一部であったものがここにあると悠久に想いを馳せる、時を超えた夢の形でもあるんだよ。つまり歴史的意義のある魅力的な美学なんだ」

栄光と黄金のマスクを手にする前に、IMPERIAL TRIUMPHANT は2005年にフロントマン Zachary Ilya Ezrin のハイスクール・プロジェクトとしてスタートしました。そして2012年、このプロジェクトは、テクニカルとメトロポリタンをベースにしたテーマを掲げ、後にその特徴的な不協和音のデスメタル・スタイルとなる何かを形成し始めたのです。トレモロピックとディミニッシュ・セブンスを支えるブラスト・ビートから、金メッキを施したアールデコ調の豪華なイメージまで、IMPERIAL TRIUMPHANT のすべては極端。 不協和音のハイゲイン、悪夢のようなサウンドスケープ、強烈なポリリズムからなるアールデコの仮初めは、今にも全世界が崩壊しそうな感覚を与えます。
2006年に “ごく普通のブラックメタルバンドとして” 結成された彼らは、さまざまな不協和やジャズの要素を取り入れて進化してきました。近年流行りの “ディソナンス系” の一歩も二歩も先を行く凄みは、3人のメンバーの音楽的背景と、より協力的なユニットになったことによる自然な結果。このサウンドの開発以来、 Ezrin は、プロジェクトの寿命と鮮度を保つものは、コラボレーションであると感じています。
「自分の中で一貫しているのは、オープンマインドを保つことだ。コラボレーションをすればするほど、より良い音楽が生まれるんだ」

そうしてニューヨークの美学をさらに追求した Ezrin は、ニューヨークの建築物とフリッツ・ラング1927年の名作映画 “メトロポリス” からインスピレーションを得ることになります。この新たな着想は、トリオのターニングポイントとなり、今や象徴的な存在となったあのコスチュームを作るきっかけとなりました。
「全てはアールデコから始まったんだ。59丁目、セントラルパーク・サウスを歩いていたら、アールデコの古い建物がたくさんあるんだよ。アールデコはニューヨークに限ったものではないけど、もともとニューヨーク的な感じがするし、ヘヴィ・メタルでは使われない。そういうものに飛び込んで、IMMORTAL やブラックメタルが冬にやったことをアールデコでやってみたらどうだろう?って考えたのさ。Steve Blanco がマスクを思いつき、そのコンセプトを発展させ、さらに追加していったんだ」
Ezrin のペダルボードには必要なものしかストックされておらず、Victory amps の V4 Kraken で身軽に移動可能。
「それは IMPERIAL TRIUMPHANT とニューヨークの音楽が一般的に持つ、身軽で包括的な性質の一部だと思う。でも、このアルバムは特に、深夜のダウンタウンのジャズ・バー、そんな場所のジャムに入り込んだような、みんながリラックスして座っているような感じにしたかったんだ」
ニューヨークは夢と現実が共生している場所。
「この街には極端な二面性があり、超高音と超低音がある。最も裕福な人々が住む場所であり、最も貧しい人々が住む場所でもある…そして、それらは互いにほんの数ブロックしか離れていないんだ。音楽的には、IMPERIAL TRIUMPHANT はニューヨークの音にインスパイアされていると言える。通りを歩いていて、サイレンが鳴り響いたり、地下鉄に乗ったり、列車が文字通りトンネルをすり抜ける音を聞いたことがあるだろう。そういうものからインスピレーションを受けて、 “ああ、これをギターで弾いてみよう” と思うんだ。なんでわざわざサンプリングするんだ?自分のギターで弾けばいいんだから」

アールデコを基調とした大都市の風景というテーマは、自然とより大きなスケールで、いわば摩天楼の高みに到達することを切望していきました。そこで、メジャーなメタル・レーベル、Century Media と手を組むことになったです。
「僕たちはかなり野心的なバンドで、その野心をサポートしてくれるレーベルが必要だったんだ。彼らは俺たちに大きなリスクを負ってくれた。ただ、僕たちがアリーナで売れまくって、金儲けしたいっていうのとは違うんだ。彼らはまず芸術的なことを考えてくれるから、結果的に彼らのリスクが報われたと言えるね」
そうして生み出された “Alphaville”はメタル世界で賞賛を浴びましたが、それは決して偶然ではありませんでした。IMPERIAL TRIUMPHANT は何年もかけて自分たちのスタイルを確立し続け、”Alphaville” はまさにその積み重ねの結果。「少しの運と多くの努力があれば、すべてのチャンスは次のチャンスにつながるんだ」
“Alphaville” が IMPERIAL TRIUMPHANT の能力のマクロに焦点を当てたことで、トリオは次の作品を書く時には何か違うことをしようと決めていました。
「”Spirit of Ecstasy” は、まずその名前にとてもインスパイアされている。ロールス・ロイスという会社について学ぶうちに、ロレックスのような超高級品会社について学ぶようになったんだ。ロールス・ロイスには、”スピリット・オブ・エクスタシー” と呼ばれるフードオーナメントがある (ボンネットに装着するエンブレム) 。ロールス・ロイスの製品には、そうしたユーザーの体験や製品のメカニズムに役立つような小さなディテールがたくさんあるんだよね。面白いコンセプトだと思ったから、そのメンタリティーを音楽に応用してみたらどうだろうと考えたのさ」

“Spirit of Ecstasy” は “Alphaville” よりもシンプルなサウンドですが、しかし、よりミクロで、彼らの細部へのこだわりは繰り返し聴くことでより一層、聴き応えを与えてくれます。
「構造的には、”Alphaville” よりもさらにシンプル。僕らは次のステップに進むために、自分たちのミクロなニッチをさらに開拓し、狭い穴にさらに入り込んで、そう、ソングライティングもさらに向上させようとしたんだ。混沌の中にある明晰さの瞬間を人々に与えようとしたんだ。僕たちは曲をすべて書き上げてから、それらをいじくりまわして、非常に細かい部分まで綿密に調べていった。すべてがあるべき姿であることを確認するために、1秒1秒レコードを見直したんだ」
こうしてニューヨーカーの努力は、異様に録音されたボーカル、サックスとギターのデュエル、風の吹くサンプルなど様々な要素を加えるという形で実を結び、すべてが特定の場所に配置され、独自の “フードオーナメント” を掲げて、”Spirit of Ecstasy” がラグジュアリーな “高級ブランド” の産物であることを示すことになりました。
「Max G (Kenny G の息子) は親しい友人で、以前は IMPERIAL TRIUMPHANT のメンバーだった。一緒にニューヨークで小さな会社を経営しているんだ。ある日の午後、ランチを食べているときに、彼にこう聞いたんだ。”僕たちの新譜にこんなパートがあるんだけど、ギターがサックスと戦うというか踊るようなデュアルソロの状況を想像している。君と君のお父さんはこのパートに興味がある?”ってね。彼はイエスと答え、父親に尋ね、父親も同意し、そして彼らは絶対的な傑作を作り上げて帰ってきてくれた。僕たちのやっていることを理解してくれる人たちと一緒に仕事をすると、より強い作品ができるんだ。彼らのような演奏は、僕には決してできないからね。ゲストを招くのは結局、音楽のためであり、他の人の才能に信頼を置くことでもある。Kenny G はモンスター・プレイヤーで、Max G はモンスター・シュレッダーだということを知らない人がいるかもしれないけどね。
僕たちのドラマーの Kenny は Alex Skolnick とフリー・インプロヴァイズのカルテットで演奏している。だから、彼にはかなり簡単に依頼できたよ。VOIVOD の Snake は、彼らも Century Media に所属しているから、”Alphaville” のためにやった VOIVOD の “Experiment” のカヴァーを彼らが気に入っていることが分かったんだ。だから、Century Media は、もし僕らがゲストを望むなら、コネクションを作ることができると言ってくれたんだ。IMPERIAL TRIUMPHANT が決してやらないことは、名前だけのゲストをアルバムに迎えること。どんなに有名な人が来ても、その人がもたらすものは、何よりもまず音楽のためになるものでなければならない。それ以降のことは、すべて飾りに過ぎない」

一方で、Ezrin のギターに対するアプローチは、それ自体が興味深いもの。クラシックからジャズ、スラッシュからブルースまで、様々なスタイルを研究してきた Ezrin は、伝統的な手法と非伝統的な手法を融合させ、既成概念にとらわれないものを作り上げています。
「例えば、チャールズ・ミンガスのような演奏スタイルからインスピレーションを得て、そこから盗むことが多いんだ。彼は指板の上で弦を曲げたり外したりして、エフェクトをかけるんだ。完璧に音を出すことにこだわらなくなれば、いくらでもクールなことができる。アンプを通さない状態でヘヴィーでファッキンなサウンドなら、ゲインたっぷりのアンプで弾くと超ヘヴィーに聞こえるはずだよね。
プレイヤーとして、ある種のパラメーターを持つことはとても楽しいことなんだ。例えば、僕のギターはEスタンダードなんだけど、それよりずっと低い音で演奏するんだ。ワミーバーを使って、ローEのずっと下の音でメロディーを作るんだ。そうすることで、より深く考え、よりクリエイティブになることができる」
IMPERIAL TRIUMPHANT は、リスナーが “Spirit of Ecstasy” を掲げたロールス・ロイスでディストピアの荒野を走り抜けるようなイメージを追求しました。スラッシュ・ヒーローの VOIVOD TESTAMENT のメンバー、そして伝説のサックス奏者 Kenny G を加えたトリオは、不協和音のデスメタルに新たなラグジュアリーと高級感を付与し、55分の長さの中でリスナーにさらなる探究心を抱かせるきっかけとなりました。
「このアルバムは、聴けば聴くほど好きになるようなレコードの一つだと思うんだ。それは非常に挑戦的なことだけど、非常にやりがいのあることだ」

参考文献: BROOKLYN VEGAN : IMPERIAL TRIUMPHANT TALK ART-DECO INSPIERD DEATH METAL

Imperial Triumphant’s Zachary Ezrin on his wild approach to guitar: “There’s tons of cool stuff you can do when you stop caring about hitting the note perfectly”

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【KARDASHEV : LIMINAL RITE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH NICO MIROLLA OF KARDASHEV !!

“Young People Will Inevitably See The Cognitive Decline Of Someone Close To Them Beit a Grandparent, Aunt, Uncle, Or Parent In Their Life At Some Point And We Wanted To Capture That Moment In An Album.”

DISC REVIEW “LIMINAL RITE”

「基本的に僕たちは、ブラックメタルよりもデスメタルやデスコアの要素が強いと思っている。例えば、歌メロにしても、メタルコアとは明らかに違うからね。それに、アトモスフェリックな要素もあるけど、アトモスフェリックなブラックメタルとは違っている。最終的に、少なくとも僕にとって KARDASHEV は、デスメタルのリフやドラムワークとシューゲイザーのカスケード・リバーブを組み合わせたものだと判断し、”Deathgaze” “デスゲイズ” と呼ぶことにしたんだ」
KARDASHEV は、デスメタルとシューゲイザーの婚姻を祝いつつ、様々なフレーバーの独特なコンビネーションを生み出し、リリースごとに革命的な進化を遂げてきました。その名に仰ぐガルダシェフ・スケールでいえば、さながらメタルのタイプⅢ、銀河文明と言えるでしょうか。セカンド・フル “Liminal Rite” で彼らは、メタルの境界線をさらに押し広げ、極端にヘヴィでありながら、繊細で壊れやすい、不可能にも思える二律背反の音楽でとめどない感情の頂きに至ったのです。
「ナレーションには、リスナーが実際に向かい合う現実の認知症の人物とストーリーをつなぐ役割を果たし、アルバムを抽象的ではなく、より現実的なものにする役割があるんだよ。若い人たちは、祖父母、叔父、叔母、親など、身近な人の認知機能が衰えていくのを必ず目にするはずで、その瞬間をアルバムに収めたいと思った」
KARDASHEV は、”デスゲイズ” という独創的なジャンルの創始者であるだけでなく、歌詞の面でもヘヴィ・メタルの常識を覆します。その高齢化とは裏腹に、これまで多くのメタル戦士が避けて通ってきた “加齢” “認知症” という重さの種類が異なるテーマを、KARDASHEV は深々と掘り下げているのです。
過去に生きるとはどういうことなのか?過度のノスタルジーはいつ強迫観念となり、現在の妨げとなり、罪悪感という牢獄となるのか? “Liminal Rite” は、過度に美化された過去がいかに現在を傷つけ、誘惑し、自己破壊の道へと導くのかを探求し警鐘を鳴らしているのです。そして、リスナーが作品と現実をより強固に結びつけられるように、彼らはメタル世界ではそう馴染みのないナレーターを導入したのです。
インタビューに答えてくれた Nico は、このアルバムが忘れられた過去を喚起することで、今一度子供を強く抱きしめたり、長年話していなかった友人に電話をしたり、昔ハマっていた趣味を再開させたリスナーがいることをうれしく思っています。ただ、過去を反芻しすぎた結果、現在の混沌に圧倒されるノスタルジアのスパイラルにはまり込み、少し強迫観念的になってしまうことを怖れています。それは認知症の優しいはじまりかもしれないのですから。実際、”Luminal Rite” は、日々の生活が徐々に現実と乖離していく老人の物語。
「僕たちはポップなメタルを書いているわけではない。それは確かだ。でも、GOJIRA や ANIMALS AS LEADERS のようなアバンギャルドでもなく、ただ感情と興奮の瞬間を積み重ねる音楽を書いているだけなんだ。それが慣習を破壊することであるならば、それはそれでよいのだけど、僕たちはただ意味のある音楽を作りたいだけなんだよ」
音楽的にも、明らかに KARDASHEV はメタルの過去や慣習を破壊していますが、それはただ吐き出される感情や興奮が積み重なっただけ。まずはエモーショナルなトーン、それから他のすべてが続く。それが KARDASHEV のやり方です。”The Approaching Of Atonement” のゴージャスなドローン、”Silvered Shadows” の緻密なレイヤー、そこから悲劇の空気がアルバムの大部分を覆い、その文脈において彼らは様々な音楽の領域をカバーしていきます。プログレッシブ・デスメタルの世界から、”Lavender Calligraphy” のようなポストメタルの音の葉へシームレスに移行する彼らの破天荒な才能は、さながらフリーフォーム・ジャズや前時代のプログレッシブ・ロックのようでもあり、流星のようなサクスフォンとシンセの海を交えながら狂気のエナジーで意図的な物語を紡いでいくのです。
中でも、ブラックメタルの喉をかきむしるような騒めき、獣のようなデスメタルの咆哮、ポストハードコアの叫び、ガラスのような高音のクリーンなど、様々なスタイルをマルチトラックで表現する Garrett が、”Glass Phantoms” で見せる痛々しいまでの怒り、やり場のない絶望に心を動かされない人はいないはずです。KARDASHEV はまぶしいほど明るい場所と、心を奪われるほど暗い場所、そしてその美醜の中間を見事に支配して、最初から最後まで、心が痛むほど美しく、事実上、完璧な作品を作り上げました。
今回弊誌では、ギタリストで中心人物 Nico Mirolla にインタビューを行うことができました。「今は、まるで数年前よりも STEM (化学、技術、工学、数学) 分野で驚くべき進歩がまったく遂げられていないかのように、”優れている” “良い” 生活のあり方にまつわる時代錯誤があるように思えるんだよね。昔の方が良かったって。さらに、ノスタルジアはとんでもない麻薬であって、対処しないままだとひどく有害なものになりかねないということに、全員が同意したんだよ」 ライブより昼間の仕事を優先するというのも、これまでにはなかったタイプのバンドかもしれませんね。TesseracT のファンにもおすすめしたい。どうぞ!!

KARDASHEV “LIMINAL RITE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ET MORIEMUR : TAMASHII NO YAMA】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ZDENEK NEVELIK OF ET MORIEMUR !!

“Tamashii no Yama“ Is a Concept Album About The Japan Air Lines Flight 123 Incident That Happened In August 1985. What Inspired Me Most Than apnything Were The Notes Passengers On That Plane Left To Their Relatives And Loved Ones Before Dying. They Are Very Powerful In Their Everydayness.”

DISC REVIEW “TAMASHII NO YAMA”

「”Tamashii No Yama” は、1985年8月に起きた日本航空機123便墜落事故を題材にしたコンセプトアルバムなんだ。何よりもインスピレーションを受けたのは、あの飛行機の乗客が死ぬ前に親族や恋人に残したメモだった。ああ、彼らはとても力強く毎日を生きていたんだ…と感じるよね。だからこそ、高天原は魂の山なのだよ」
1985年8月12日、524名を乗せた日本航空の飛行機が、東京から西に約125マイル離れた高天原に墜落しました。生存者はわずか4名。史上最悪の航空事故のひとつとなりました。
チェコのブラッケンド・ドゥーム ET MORIEMUR 4枚目のアルバム “Tamashii No Yama” は、羽田空港(アルバムのオープニング “Haneda”)から最後の地高天原(14分のエンディング “Takamagahara”)までのルートを暗く、重く、荘厳にたどることで、あの運命のフライトを今に蘇らせています。そうして ET MORIEMUR はそのバンド名 “ミメント・モリ” の精神を魂の山から伝えているのです。
「尺八はとても美しい楽器で、シンプルでありながら奥深いもの。しかし、ここチェコで尺八を吹ける人を見つけるのは簡単ではなかったよ。だけど、禅の瞑想センターの友人を通じて、チェコと日本の尺八の師匠のもとで尺八を学んできたマレク・マトヴィヤに連絡を取ることができたんだよね」
命と運命の始点と終点の間で展開されるのは、華麗なオーケストレーションと、幻想のようなアヴァンギャルド・ドゥーム・メタルの組曲です。ピアノ、ヴァイオリン、ハープ、チェロ、そして日本の伝統的な尺八は、この最後の旅路において歪んだリフやひりつくような咆哮と同じくらいに重要な役割を果たしています。このアルバムに収録されているすべての音は、日航機事故の悲劇がもたらした深い痛みと許容不可能な非現実、そして今際の際の命の煌きを呼び起こすために存在しているようでさえあります。
「僕は、人間と環境との調和的な関係や、人生に対するスピリチュアルな、いわば “魔法” のようなアプローチを持つ神道にとても共感していてね。そして、もう何年も前から禅宗に傾倒しているんだ。曹洞宗の開祖である道元禅師は、この地球上に存在する最も優れた哲学者の一人であると僕は考えているんだよ」
日本神話では、高天原は天の神の宿る聖地とされています。高天原には多くの神々(天津神)が住み、天之安河や天岩戸、水田、機織の場などもあったといわれています。そんな神々が集う場所に無数の魂が引き寄せられた。チェコから神道や禅宗に心酔する Zdenek にとって、あの不幸な事故は同時にスピリチュアルな意味を帯びたのかもしれません。その神聖さと悲しみを、”魂之山” はかくも鮮やかに、エモーショナルに、生き生きと自由な魂で表現しているのです。
オープニングの “Haneda” は Zdeněk Nevělík によるピアノ主体のインストゥルメンタルで、映画音楽から抜粋されたような美しさ。アコースティックギターの正確なメロディーは、この儚い曲の美しさをさらに際立たせていて、ストリングスに和楽器が加わりスピリチュアルな世界へと引き込んでいきます。
ハープシコードとクワイアで飾り立てた “Nagoya” のゴシック・アヴァンギャルド、ドゥーム・メタル、ゴシックなアトモスフィア、デス/ブラックメタル、SIGH のアバンギャルド、ミニマル、そして日本の伝統音楽が Zdenek の千変万化な歌声で煮詰められた “Tamagahara” など、解き放たれた音魂は自由に羽ばたきながらも、他のすべての要素を超越したシンプルなメロディーの美しさでリスナーに語りかけ、共鳴し、魔法をかけていくのです。明日が必ず訪れるわけではない。今日を懸命に生きよ。他者や他の命を尊べと。
今回弊誌では、Zdeněk Nevělík にインタビューを行うことができました。「僕たちチェコ人はスローペースな生活と安全な日常生活を愛し、勇敢というよりは慎重で、どちらかというと懐疑的で、あまり愛国的ではないんだけど、僕はそれが気に入っているんだよ。この国民性は、この国で40年だけ続いた共産主義の遺産よりも重要だと思っているよ」 どうぞ!!

ET MORIEMUR “TAMASHII NO YAMA” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【VENOM PRISON : EREBOS】Becoming a Mother in a Metal World


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ASH GRAY OF VENOM PRISON !!

“Without Hope, What Is The Point? We Are Here Now And We Can Live, We Have To Survive, We Have To Be Happy And Our Youth Will Learn And Understand And Hopefully Generations To Come Are The People To Make The World a Better Place. If We Don’t Try, We Won’t Find Out.”

BECOMING A MOTHER IN A METAL WORLD

「とても残念だけど、2022年に予定されている公演を全てキャンセルすることにしたわ。妊娠中、私は生まれてくる子供と共に VENOM PRISON のフェスティバルやショーを実現させるために計画を立ててきた。でも今になって、私は野心的で、初めての母親業をこなしながら物事を実現するため自分にプレッシャーをかけすぎていたことに気づいたの。
メンバーたちは、私の状況に合わせながら、ステージに復帰するために本当によく動いてくれていた。そして、彼らのサポートと理解にはとても感謝しているの。私たちは本当に努力したんだけど、息子と家族には今、フルタイムで私が必要なのよ」
VENOM PRISON のボーカリスト Larrisa Stupar が6月8日に出したステイトメントです。そしてここには、ライブを愛するメタルのカリスマとしての Larrisa と、家族を愛するひとりの女性としての Larrisa、その狭間で悩み、苦しみ、葛藤する等身大の彼女がそのまま投影されています。
「Larissa と夫の James に元気な男の子が生まれたんだ! そして、Larrisa がこのような野心を持ち、僕たちが “人生はこうあるべきだ” と言われてきたような従来のやり方に甘んじようとしない人であることが、とてもクールで、尊敬に値すると思っているよ」
Larrisa の妊娠をうけて、当の Larrisa 夫妻とその家族だけでなく、VENOM PRISON のメンバー全員、ひいてはメタル世界すべてが喜びにつつまれました。かつて弊誌のインタビューで 、”私はメタルという自分のミクロな宇宙の中だけでなく、あらゆるレベルで性差別と戦いたいと思うのよ” と語り、実際、インドにおける商業的な代理出産 (インドの貧困の中で暮らす脆弱な女性から搾取し、自分の子供を持つことが困難な米国の若い家族からも搾取するという悪魔の二重構造) 負の輪廻に “Samsara” という牙を叩きつけ、“Uterine Industrialisation” “子宮工業化” に怒り狂った彼女にとって、母になることとは明らかに特別な経験であり祝祭だったのです。
「希望なくして、何の意味があるのだろう。僕たちは今ここにいて、生きることができている。生き延び、幸せにならなければならないんだよ。若者たちには学び、理解し、願わくば、来るべき世代が世界をより良い場所に導くための人々であってほしいのだよ。やってみなければ、わからない。為せば成る、為さねば成らないのだから」
もちろん、2022年において子を持つ、母となることは並大抵のことではありません。安い賃金、貧困、取得できても短い育休、保育園の不足など、取るべき対策を取らない政府や富裕層によって、ほとんど世界共通で “育てる” ということのハードルが非常に高くなっています。加えて、様々な差別、欺瞞、戦争、さらにパンデミックや戦争が跋扈するこの世界を新たな命に見せたくない、そう思う人も少なくありません。それでも、Larrisa と VENOM PRISON の面々はこの世界に新たな命を迎えることを喜び、音楽と希望を託していくことに決めたのです。Larrisa は、今年の国際女性デー、KERRANG! 誌にこうした文章を掲載しました。
「この10年、職場や仕事の機会、社会における平等は少しずつ改善されてきている。しかし、音楽業界は、全体的にまだ男性優位の分野。SNS や音楽メディアを見ると、男女の表現は多かれ少なかれ平等であるように見えるかもしれないけど、研究結果はそうではないことを示しているわ。2012年から2017年にかけて、ビルボードの年末 Hot 100チャートにランクインした600曲のうち、女性が演奏した曲はわずか22.4%で、女性のソングライターの数はさらに少なかったそう。これは、レーベルや雑誌、ブッキング・エージェンシーで女性が占める地位ではないのだから、非常に厳しい数字よ。さて、このような大きな男女格差の原因とその解決策について述べることもできるけど、これはもう何度も議論されてきたこと。その代わりに、男性が支配するこの業界を女性がどのように乗り越えていかなければならないかを取り上げたいと思う。
VENOM PRISON がパンデミックに襲われる前、2019年の最後のライヴを行ったとき、次に2021年の Bloodstock に出演するためにステージに戻るとき、自分が妊娠9週目になるとは思ってもみなかった。最近、スタジオで “Erebos” のレコーディングを終えた私は、練習セッション中にこのニュースをバンドの他のメンバーに伝えることにしたの。私は、音楽業界で働く他の多くの女性たちと同様、妊娠を知った人たちがどのような反応を示すかとても心配だった。多くの女性ミュージシャンにとって、将来母親となることを発表することは、おめでたいことではなく、むしろ不愉快なことかもしれないから。ツアー中のミュージシャンの場合、影響を受けるのは自分のバンドだけでなく、マネージメント、レコード会社、ブッキングエージェント、PR、ツアークルーなど、一緒に仕事をする人たちにも及ぶから。
ありがたいことに、バンド仲間、レーベル、マネージメント、みんなが前向きで私の状況を理解してくれて、とてもサポートされていると感じていても、ミュージシャンとしての将来はとても不安だったわ。ライブ業界でのキャリアは、多くの新進気鋭のミュージシャンにとって仕事というよりもライフスタイルのようなもので、ツアースケジュールをこなすことはは非常に難しく、新しい母親にとってはほとんど不可能に思えるかもしれないくらいにね。
そのためか、ロックやメタルの世界では、出産を控えた女性ミュージシャンやすでに親になっているミュージシャンをあまり見かけない。この世界は自分のキャリアを計画するのが難しく、多くの人が音楽的願望やキャリアを追求するために子供の世話を犠牲にしなければならないことを恐れているの。私はメタルの世界で母となるため、多くの質問や疑問を抱えているけど、単に誰も頼ることはできないの。音楽のキャリアをどう進めるか、休業中の経済的負担はどうするか、他の女性たちはツアーと子育てをどう両立させているかなど、自分一人で考えなければならないのよ。
だから、私たちは意識改革を行う必要がある。より包括的になるために、業界は妊娠と母性という概念を理解する必要があるわ。ライブハウス業界では女性はまだ少数派で、それがこうした話題がほとんど出てこない大きな理由の一つ。妊娠中のミュージシャンやクルーのための戦略や手配を導入する必要があるわね。他の業界と同様に、妊娠を理由に差別をしないこと、妊娠中の親とこの問題について敬意を持って話し合うこと、可能な限りサポートを提供することを学ぶ必要がある。私たちは、世界を良くしていく必要があるの」
結果として、Larrisa の野心や挑戦は出産直後という難しい状況において、うまくはいかなかったかもしれません。もちろん、幼い頃は子供に寄り添うべきという議論もあるでしょう。しかし、ライブと家族、愛するもの両方を大切にしたい、どちらも失いたくないという彼女の気持ちは多くの人々に届いたはずですし、そんな決して大望とはいえない願いを叶えていくのが優しい世界というものでしょう。きっと、メタルの包容力があれば叶うはず。そして何より、Larrisa のこれからの長い人生において、子育てとメタルの両立はライフワークとなり、時に強烈で時に繊細な彼女の歌のように、誇り高きメタルの母親像を提示していってくれるはずです。”Erebos” で体現したように、闇や混沌をなぎ払いながら。
今回弊誌では、Ash Gray にインタビューを行うことができました。「貧困と暴力の連鎖は、結局富裕層からのサポートがないことに起因しているんだ。僕は貧困層の人たちと一緒に働き、彼らの生活を見てきた。制度がいかに彼らを完全に失敗させ、弱者として残し、そこから生き残るために決断を下さざるを得ない状況をね」もともと、Larrisa が受けてくれる予定でしたが難しくなり、急遽代役を引き受けてくれたのですが、現在バンド、そして世界が置かれた状況を素晴らしく伝えてくれています。世界を良くしたい。願わくばそう望む人が一人でも増えますように。どうぞ!!

VENOM PRISON “EREBOS” : 10/10

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