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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ORANSSI PAZUZU : MESTARIN KYNSI】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ONTTO & EVILL OF ORANSSI PAZUZU !!

“When I Say Progressive, I Mean That In The Literal Sense, Thinking About Music That Has The Idea Of Exploration At Heart. We Are Not Doing a Prog Tribute. Not Following Anyone Else’s Path, But Making Your Own Path.”

DISC REVIEW “MESTARIN KYNSI”

「僕たちにとって、プログレッシブとは1つのジャンルに誠実でいることではなく、ジャンルを旅して新たな音の次元へと進んでいくことなんだ。そして僕はプログの巨人たちが、当時同じようなアイデアを持っていたと確信しているんだよ。」
古の巨人とその探究心を共有するフィンランドの哲音家、サイケデリックブラックマスター ORANSSI PAZUZU。ジャンルを巡るバンドの旅路は最新作 “Mestarin Kynsi” (マスターの爪) において一際ブラックメタルの暗黒宇宙を飛び出し、プログレッシブ、クラウトロック、アシッドハウス、ジャズ、アヴァンギャルド、ミニマル、ノイズの星々を探訪する壮大なる狂気の音楽譚へと進化を遂げています。
「ORANSSI PAZUZU という名前は、僕たちの音楽に存在する二元的な性質を表すため選んだんだ。サイケデリックなサウンドと70年代スタイルのジャムベースなクラウトロックの探検を、ブラックメタルに取り入れたかったからね。」
艶やかなオレンジと魔神パズズ。二極化されたバンド名が象徴するように、ORANSSI PAZUZU は時にメタルという重力からも解放されて、不可思議なリズム感とポップな感性を備えつつ、神秘と悲惨の破片に溶け出す独特の審美世界を呼び起こします。
「ゲームのサウンドトラックからは間違いなく影響を受けているね。その風景やイベントを視覚化し参照することについては、バンド内で多くのコミュニケーションをとっているんだ。時には、特定のゲームのシーンについても言及しながらね。」
ファイナルファンタジーシリーズを手掛けた植松伸夫氏に多大な影響を受けたと語る Evill。実際、イタリアのホラーフィルムや UNIVERS ZERO の暗黒舞踏を想起させるオープナー “Ilmestys” (天啓) を聴けば、アルバムがシンセサイザーの深霧や電子の海へと乗り出したサウンドトラックの一面を湛えることに気づくはずです。当然、時にホーミーを思わせる Jun-His の表魔力と不協和のギターも音の映画化に一役買っていますが。
「確かにこのアルバムではたくさん異なることが起こっているよね。 ただ、できるだけ数多くの影響を詰め込むことが目標ではなかったんだ。」
SWANS の方法論でエクストリームメタルにアヴァンギャルド革命をもたらした2016年の “Värähtelijä” から、ORANSSI PAZUZU は「演奏する音楽という “結果” が “リーダー” で周りに存在するミュージシャンは、その “リーダー” という中心に仕える方法を考える」自らの流儀をさらに研ぎ澄まして完成された黒のシネマ、ラブクラフトのコズミックホラーを届けてくれました。
もちろん、”Tyhjyyden Sakramentti” に潜む CAN, DARKTHRONE, TANGERINE DREAM の複雑怪奇な共存、”Kuulen ääniä maan altar” に忍ばせた PERTURBATOR とのシンクロニシティー、さらにはサイケブラックに20世紀最高のミニマリスト Steve Reich, Philip Glass の創造性を混入させた奇跡 “Uusi teknokratia” など、ロックとメタルの歴史を網羅した歴史家、研究家の一面は健在です。
ただし Ontto の、「まずはアトモスフィアが湧いてきて、僕たちの目的はそれに従うことなんだ。組み込まれる様々なジャンルは、たいていの場合、音楽を望ましい方向に操作するための適切な道具だと考えているよ」 の言葉通り、最終的に ORANSSI PAZUZU の探究心、好奇心はジャンルという絵の具を一枚の絵画を想像を超える創造として仕上げるための道具として使用しているに過ぎません。
それはトワイライトゾーンとツインピークスの不気味を抽出してブレンドした、異次元のブラックホールと言えるのかもしれませんね。メタル世界、いや音楽世界自体が経験したことのない、魑魅魍魎、異形のサウンドスケープがここには存在するのです。
今回弊誌では、ベーシスト Ontto とキーボーディスト Evill にインタビューを行うことができました。「個人的に最初のビッグアイドルの1人は、ファイナルファンタジーサーガの音楽を創生した植松伸夫氏だったんだ。今でも彼のハーモニーやエモーションの素晴らしきアプローチに影響を受けていることに気づかされるね。”FF VII” は僕のエピカルで壮大な感覚が生まれた場所なんだ。」
ANEKDOTEN 以降の北欧プログとの共通項を見出すのも一興。MAGMA や MAYHEM の波動を抱く DARK BUDDAH RISING とのコラボレーション、WASTE OF SPACE ORCHESTRA もぜひ。どうぞ!!

ORANSSI PAZUZU “MESTARIN KYNSI” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ELDER : OMENS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH NICK DISALVO OF ELDER !!

“I’d Like To Think That We’re Channeling The Adventurous And Explorative Spirit Of The Prog Scene In The 70’s, But Not Directly The Sound. We Want To Be Our Own Band, But Also Push The Boundaries Of Our Own Creativity.”

DISC REVIEW “OMENS”

「僕は日本の浮世絵を購入したばかりでね。それをきっかけに、日本の文化について読んでいて”浮世”の意味を発見したんだ。読み進めるにつれて、僕がアルバムのために書いている歌詞と本当にシンクロしていて興味をそそられたよ。
住んだことのない場所についてはあまり多くは語れないけど、少なくとも僕の住む西洋世界では、人生に意味をもたらさない過剰な消費に執着し過ぎているように感じるね。必要のないものを買うために働いているように思えるよ。大きな家やファンシーな車を買い、意味のない人生を送り、ゴミ以外何も残さず死んでいく。
このアルバムの楽曲は、僕たちの多くが精神的奴隷として生きていることを悟り、人生を充足させるため自分自身の道を見つけることについて書かれているんだよ。」
前作 “Reflections Of A Floating World” リリース時のインタビューで、Nick DiSalvo はそう語ってくれました。古の日本に学び、物質世界よりも精神世界に重きを置く彼の哲学は、おそらく ALCEST の Neige とも通じています。
そして奇しくも、シンプルなストーナーアクトとしてスタートし、プログ/ヘヴィーサイケの方角へと舵を切った ELDER の音楽性は、ストーリーを喚起するシネマティックな創造と、ジャンルを縦横無尽に横断する精神性という意味でいつしか ALCEST と神話を共有できる数少ない語り部に成長を遂げていたのです。
「今日僕たちは、サウンドとアトモスフィアのスペクトルを広げて探求を続けている。だけど、君が “Omens” について “ブライト” で “アップリフティング” と評したのはとても興味深いね。だってこのアルバムのテーマはさっきも語った通り実にダークなんだから!まあ僕はいつも悲哀と喜びの2つの対照的な感情を描こうとしているんだ。そして両者のムードを全ての楽曲に落とし込もうとしているんだよ。」
前作で “浮世” の浄土を描いた ELDER は、”Omens” で対照的に欲望渦巻く物質世界の限界を鋭く描写することとなりました。さながら対となるレコードにも思える2枚のアルバム。その陰の “裏面” はしかし、映し出した深刻なテーマと反するように陽のイメージを以前とは比較にならないほどブライトに宿しています。
新たな輝きは明らかに、ANATHEMA, ALCEST, CYNIC といったモダンメタル/プログの革命家とも通じるように思えます。前作の時点でクラッシックプログ、クラウトロック、インディーからの影響がシームレスに芽生えるカラフルで多彩な浮世草子を創世していた ELDER ですが、その物語にシューゲイズやポストロックの息吹をふんだんに加えたことは確かでしょう。ただし Nick はその場所よりも、さらに純粋に澄み切ったプログジャイアントへの憧憬を隠そうとはしませんでした。
「彼らに比べて音楽的な才能が欠けているから、僕たちが直接的に YES の系譜に位置するかはわからないけど、彼らが僕たちの大きなインスピレーションと探求の源であることは間違いないね!どちらかと言えば、僕たちは70年代のプログシーンの冒険心と探究心を伝え、チャネリングしていると思う。サウンドを直接伝えているのではなくてね。」
ストーナーへの愛情を湛え、後ろ髪を引かれながらもその音心は確実にかつての恋人から遠ざかっています。実際、”Ember” は現代に突如として現れた “オルタナティブな YES” と表現したいほどに、70年代の宇宙的で英知的な “残り火” を灯しているのですから。
もちろん、”Omens”, “Halcyon” に漂うサイケデリックな営みは PINK FLOYD の遺産でしょう。ただし、”In Procession”, “One Light Retreating” に Nick が施した Steve Howe と Jon Anderson の彫刻、GENTLE GIANT の細工は、他の現代を生きるバンドには決して真似できない匠の孤高。
「“Elder” “長老” は僕にとって古の感覚、篝火に佇む古の賢人を想起させる言葉で、僕たちの歌うテーマにフィットすると思ったんだよ。今でも、この言葉は確かな美しさを持っていると感じるね。」
フェンダーローズ、メロトロン、ムーグ、さらに瑞々しきギターの百花繚乱を携えた長老の紡ぐ古の音楽は、”Omens” の物語と同様に、プログレッシブの新緑が世界中の廃墟から成長し、次世代のサイクルを始める美しき象徴に違いありません。
今回弊誌では、Nick DiSalvo に2度目のインタビューを行うことができました。「僕はこの時間を出来るだけ新たな音楽の作曲に当てて、生産的でいようと心がけているんだ。特にこの春はコンサートをキャンセルせざるを得ないからね。だから僕たちにできる最良のことは、出来るだけ賢くこの時間を使うことなんだよ。」
前回のインタビューでは ANEKDOTEN を挙げて驚かせてくれた Nick ですが、今回はノルウェー気鋭のジャズロック NEEDLEPOINT を2作も挙げている点にも注目です。どうぞ!!

OMENS TRACK BY TRACK BY ELDER

Omens

タイトルトラック “Omens” はレコードの舞台設定だね。その本質は、文明の衰退についてのコンセプトアルバム。悪い兆候のもとにある社会の有り様を描いているんだ。壮大な文明の城は高く聳えるけど、迫り来る変化の暗い雲に覆われているよ。
僕たちのレコードでは大抵、楽曲は書かれた順序で収録されている。実際にこのタイトルトラックはアルバムで最も古い曲なんだ。そのため、おそらく以前のレコードと最もイメージが似ていて、最もリフの多い楽曲になったね。だけど最後の部分は、ほぼシューゲイズとポストロックの領域に浸っているかな。
オープニングのピアノのリードは、もともとは曲のモチーフにしようと考えていたんだけど、レコーディング中はどういうわけか合わなかったんだ。そんな中で、Fabio がムーグでジャミングを開始し、オープニングリフに新たなモチーフを重ねてくれたんだ。こんな風に、スタジオでは瞬く間にひらめきで変更が加えられることがあるね。

In Procession

もともとはアルバムの最初の曲であり、シングルにしようと思っていたんだけど、おそらくこれほど多くの変更が加えられた楽曲はないね。2つの部分に分かれていて、最初の部分はクラッシックな ELDER のリフとサイケデリックなヴァースの間を行ったり来たりして、後半部分はジャムセッションが進展しながら構築され、グルーヴィーでポリリズミカルな終幕へとに至るんだ。
作曲の観点から見ると、”In Procession” は ELDER の基準としては非常にシンプルで、全体的な特徴も、”The Gold & Sliver Sessions” のジャムを基盤とした性質に近いよね。
非常にブライトかつ刺激的な楽曲で、常に前進している世界を説明するエネルギーに満ちた歌詞を伴うよ。これは、この架空の文明が創設された時から常に成長、消費、発展する必要を伝えているんだ。ただし、”In Procession” の “行進” は同時に、軍事的または葬式的なものとしても解釈できるよね。つまり崩壊につながることを示唆してもいるんだ。

Halcyon

このように長い曲だと、ボーカルは比較的少ないんだけど、音楽が代わりに語ってくれる。”Halcyon” はまさに今この時についての楽曲。崩壊の直前、この世界の美しさを理解する最後のチャンス。死を避けられないものとして受け入れてきた文明において、自由の中で生きる一種の陶酔の瞬間。
“Omens” は他のレコードよりも時間をかけ、それほど根を詰めず製作して、有機的に “部品” を開発していったんだ。オープニングの4分間はスタジオで行ったいくつかのライブジャムの1つで、このやり方をよく表しているね。もともとこのジャムは10分を超えてたんだけど。ファンの忍耐力もテストしているわけさ。ライブで何が起こるだろうね!
僕の考えでは Halcyonは、”Lore” に最も近いかもしれないね。レコードの中で最も長くて最も壮大なトラックとして、センターピースの機能を果たしているからね。何度も聴けばギターとキーボードの多重なるレイヤーを紐解き、時には複数のドラムまで明らかにしするよ。最後のリフは、ジョン・カーペンターと GOATSNAKE が出会ったような感じだね。まさにアルバムを代表するリフだよ。

Embers

比較的明るいトーンにもかかわらず、”残り火” というタイトルが示すように、燃え尽きて消えていく世界のシーンを描いた楽曲だよ。おそらく僕たちが今まで書いた中で最もオルタナティブな楽曲で、ストーナーやドゥームよりもオルタナティブロックとの共通点が多く存在するね。つまり、良くも悪くもジャンルにあまり注意を払わないとこうなるという一例なのかもしれないね。前代未聞だよ。
僕たちは未知の海で泳いでいるから、ELDER らしく聴こえるかどうかにはあまり関心がないんだ。だから “Embers” はすぐに完成したよ。最後のリフは “パールジャムリフ” と呼ばれているくらいさ。

One Light Retreating

オープナーとは逆に、”One Light Retreating”は、最後に作業を終えた曲だった。レコードの浮き沈みが激しいから、このようなヘヴィーかつモメンタムなリフで終了するべきだと感じだね。つまり前作から “Omens” へのジャンプを完全に要約する、ひねりを加えたクラシックな ELDER ソングだよ。アルバムのクリーンなプロダクションが、スペーシーなエンディングで輝いているよね。
物語が幕を閉じると、世界の光が1つずつ消え、夜の暗闇に消えていくんだ。だけど僕たちのアルバムすべてと同様に、強い希望も存在する。新しい緑の生命が世界中の廃墟から成長し、また新たなサイクルが始まるんだ。

ELDER “OMENS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PURE REASON REVOLUTION : EUPNEA】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JON COURTNEY OF PURE REASON REVOLUTION !!

“First Time Labelled “Prog Rock” I Think We Were a Little Surprised. For Us It Was Mix Of Grunge, Fleetwood Mac Vox, Floyd, Massive Attack & DJ Shadow. So To Get Labelled With What Was Just a Small Section Of The Influences Felt a Little Odd. Now We’re Proud To Be Progressive.”

DISC REVIEW “EUPNEA”

「間違いなく、男女混成ボーカルは僕たちにとって鍵となる要素だし、このハーモニーが他のバンドと僕たちを区別化しているとさえ思うよ。おそらく、このスタイルを取るバンドは増えていくと思うよ。」
純粋な理性を革命に導くプログレッシブな哲音家 PURE REASON REVOLUTION は、めくるめく陰極陽極のハーモニーで沈んだ世界を緩やかに溶かします。
「最初にプログロックのラベルを貼られた時、僕たちは少し驚いたんだ。僕たちにとって当時の自らの音楽は、グランジ、FLEETWOOD MAC のボーカル、PINK FLOYD, MASSIVE ATTACK, DJ SHADOW をミックスしたものだったから。だからそんな影響の中からとても小さな部分だけを切り取って、プログロックとレッテルを貼られることは少し奇妙な感じがしたんだよ。まあ、今はプログレッシブのラベルを誇りに思っているけどね。」
PORCUPINE TREE や COHEED AND CAMBRIA を導火線にプログレッシブの新たなビッグバンが勃発した00年代。PURE REASON REVOLUTION が放ったデビュー作 “The Dark Third” の鮮烈さは明らかに群を抜いていました。
グランジオルタナティブの遺伝子を纏いながら、電子のレンズを通して映すPINK FLOYD のサイケデリック。さらにそこには、極上のフックとハーモニーが添えられていたのです。仮にモダンプログレッシブが、勃興したモダンなジャンルの音の葉を取り込む多様性の万華鏡だとしたら、まさに PURE REASON REVOLUTION こそがアプレゲールの象徴だと言えました。
「間違いなくデビュー作 “The Dark Third” と近い場所にあるけれど、同時に他の2作からも切り取ったような部分があるよね。だから、願わくば “Eupnea” が僕たちのデビュー作を少し思い返させながら、進化したようにも思えるサウンドであれば良いね。」
2010年の “Hammer and Anvil” 以来実に10年ぶりの復活作となった “Eupnea” はバンドの集大成にして出発点なのかもしれませんね。アルバムは “New Obsession” の緩やかな電子パルスでその幕を開けます。徐々に顕となる音建築、バンドの過去と未来を繋ぐ架け橋。
スペーシーでダークなエレクトロの波動を発端に、流動するギターのクランチサウンドとポップなハーモニー。そうして PRR は全ての出発点へと回帰しながら、シネマティックな “Hammer and Anvil”、ダークなシンセウェーブ “Amor Vincit Omnia” の情景を重ね、さらにサウンドの幅を広げていくのです。
ポストロックにも通じるアトモスフィアを主戦場としていた PRR ですが、プログのラベルに誇りを感じているの言葉通り、”Ghosts & Typhoons” では難解でアグレッシブなギタードライブ、BRING ME THE HORIZON のスピリットまで披露。一方で、SMASHING PUMPKINS の哲学を宿す “Maelstorm” や 7/4の魔法 “Beyond Our Bodies” ではさらにメロディーの流麗に磨きをかけてレコードの対比を鮮明にしていきます。
そうしてアルバムは、真の感情的ジェットコースター、13分のタイトルトラック “Eupnea” で PORCUPINE TREE や ANATHEMA に寄り添いながら、時代の激動と愛娘の吐息を遠近法で描写して幕を閉じるのです。
今回弊誌では、ボーカル/マルチ奏者 Jon Courtney にインタビューを行うことができました。「男女混成のハーモニーは、FLEETWOOD MAC, CSNY, THE BEACH BOYS からの影響だね。僕たちのメロディーは常に THE BEACH BOYS から本当に強力な影響を受け続けている。Brian Wilson こそがメロディーの王様さ。」どうぞ!!

PURE REASON REVOLUTION “EUPNEA” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SPELL : OPULENT DECAY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CAM MESMER OF SPELL !!

“We Think Our Music Is a Lot More Diverse Than That. We Never Try To Write ‘Heavy Metal Songs’ – We Just Try To Write The Best Songs We Can! Sometimes It Might Sound Like Pop, or Prog, or Gospel, or Disco, or Goth”

DISC REVIEW “OPULENT DECAY”

「カナダには偉大なバンドがたくさんいるけど、RUSH はアンタッチャブルな存在さ。19枚ものアルバムを全くの駄作なしで製作できるバンドが他にいるかい?彼らはキャリアを通じて何度も進化を遂げているし、常に適切で興味深い存在であり続けた。」
RUSH, TRIUMPH とカナダが生んだトリオは須らく、その音楽に絶佳の魔法を宿してきました。そしてその魔法は文字通り “呪文” の名を冠する若き三銃士 SPELL へと受け継がれていきます。
「”NWOBHM” や “NWOTHM” のラベルが貼られることが多いようには思えるね。おそらく CAULDRON, SKULL FIST, ENFORCER といった “ニューウェイブオブトラディショナルヘビーメタル” のムーブメントが勃興した時にバンドを始めたからだろうな。」
たしかに、SPELL はそのキャリアを通じてトラディショナルなメタルを磨き上げ、鮮やかな光沢を付与することに多大な貢献を果たしています。ただし、その狭い世界のみにとどまるには、SPELL の魔法はあまりに虹色です。
「僕たちの音楽は彼らよりもはるかに多様だよ。なぜなら僕たちは “ヘヴィーメタルソング” を書こうとはしていないから。ただ、できる限り最高の曲を書こうとしているんだ。だから時にはポップ、プログレッシブ、ゴスペル、ディスコ、ゴスのように聞こえるかもしれないね。良い音楽ならジャンルなんて気にしないのさ。」
“Opulent Decay” のサイケデリックな波光を受けて、SPELL の術式は神秘的なオーラとアクティブな胎動の共存を可能にします。エアリーなギタリズム、幾重にも重なるエセリアルなシンセ、叙情と憂いのハーモニー。時に Steve Harris を想起させる縦横無尽のベースラインはバンドの強力な碇です。
ポップ、プログレッシブ、ゴスペル、ディスコ、ゴスを巧みに操るメタルの新司教と言えば GHOST でしょう。ただし、バンドの首脳 Cam は GHOST や OPETH を目指しているわけではないと断言します。
「僕たちが自らを “Hypnotizing Heavy Metal” と称するのは、他のラベルが当てはまらないからなんだ。僕たちは音楽が魔法だと信じている。人々の現実を変える力を持った魔法だよ。”催眠術” をかけるようにね。それこそが僕たちの目標なんだ。」
ヒプノティックヘヴィーメタル。夢見心地の催眠術を施すヘヴィーメタルは、よりニッチでアンダーグラウンドな場所から現実を変える波動です。
BLUE ÖYSTER CULT の神曲 “(Don’t Fear) The Reaper” のヴァイブを纏う死神の哲学 “Psychic Death”、地下スタジアムの匂いを響かせるタイトルトラックに、よりリズミカルプログレッシブな “The Iron Wind”。何より、GHOST 成功の要因を抽出し黒魔術のポットで煮詰めたような “Deceiver” のロマンティシズム、訴求力にはただならぬものが感じられますね。
今回弊誌では、ベース/ボーカル Cam Mesmer にインタビューを行うことができました。「日本のバンドは大好きだよ!聖飢魔II、CROWLEY, LOUDNESS, GISM, THE EXECUTE, TOKYO YANKEES, THE COMES, G-SCHMITT, GHOUL なんかだね。日本には最高に強力でユニークなヘヴィーメタルとパンクの文化が根付いていて、僕はそこから最も影響されているんだよ。」どうぞ!!

SPELL “OPULENT DECAY” : 9.8/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【JAZZ SABBATH : JAZZ SABBATH】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MILTON KEANES (ADAM WAKEMAN) OF JAZZ SABBATH !!

“They Basically Made It Simpler, So Anyone With a Guitar And Half a Brain Could Play It. Yes It Appealed To The Masses, But Generally I Like To Think My Original Version Was More Intellectual.”

DISC REVIEW “JAZZ SABBATH”

1968年、バーミンガムの4人の青年、Tony Iommi, Bill Ward, Geezer Butler, Ozzy Osbourne が結成した BLACK SABBATH はヘヴィーメタル始まりの地として絶対的な信頼を得てきました。ただし、世界はその認識を覆すべきなのかも知れません。なぜなら、彼らの楽曲は完全なる “盗品” だったのですから。
60年代から70年代初頭にかけて、英国ジャズの新たな波を牽引していた JAZZ SABBATH。リーダーの凄腕ピアニスト Milton Keanes は将来を嘱望されていましたが、心臓の病で倒れ入院を余儀なくされてしまいます。
おかげで1970年にリリースを予定していたデビュー作の発売は延期となり、退院した Milton はまさかの事態に愕然とします。なんと BLACK SABBATH という見ず知らずのバンドが、彼の楽曲をヘヴィーメタルの雛形にアレンジして世に出してしまっていたのです。
「ちょうど入院していて、退院したら何が起こったのか全てを理解したよ。もちろん激怒したね。だけど真実を語る僕の言葉には誰も耳を傾けなかったし、信じてもくれなかった。」
Milton の怒りはもっともでしょう。その事件によって彼は以後50年間も辛酸を舐め続けることとなったのですから。
ただし、遂に真実を伝えるチャンスが巡ってきました。紛失していた JAZZ SABBATH のマスターテープが現在になって奇跡的に発見されたのです!!
「信頼できるアーティストたちを集め、このバンドを再開し、真実を伝えるのにこれほど長くかかってしまった。」
それでも魅力的な JAZZ SABBATH の音楽が、時の狭間へと埋もれずに済んだ事実は僥倖でした。世界中で何百万もの人々が崇拝しているヘヴィーメタルの教祖が、実際には音楽的なシャルラタンにすぎず、入院した寝たきりの天才から音楽を盗んだことの確かな証としても。
「彼らは基本的に僕の楽曲をよりシンプルにしていたね。だからギタープレイヤーなら誰でも、脳みその半分でプレイすることができたね。まあ、だからこそ大衆にアピールしたんだろうな。だけど、僕は自分のオリジナルバージョンの方がより知的だったと考えているよ。」
実際、JAZZ SABBATH のイービルなジャズは決して脳みそ半分で演奏可能なほどシンプルではありません。ウォーキングベースにピアノのインプロヴァイズ、4ビートのドラム。60年代のビバップスタイルが JAZZ SABBATH の基本です。
“Children of the Grave”, “Evil Woman” のようにドゥーミーな原曲に近いものもあれば、もとい BLACK SABBATH がわりと忠実にコピーを果たしたような楽曲もあれば、”Iron Man” のように突拍子も無いエアリーなアレンジで後のメタルへの移行が信じがたいような楽曲も存在します。
何より、名曲 “Changes” の神々しきピアノの調べ、コードの魔法は、いつ何時誰が演奏をしたとしても圧倒的な陶酔感と得も言われぬノスタルジアを運んでくれるのです。
今回弊誌では、このクソ下らない架空の物語を生み出した Milton Keanes こと Adam Wakeman にインタビューを行うことができました。
「僕が幼い時…いやゴメン、Adam が幼い時…というかきっと彼は父の影を少なからず追っていたと思うんだよね。だけど自分の足で立ち、自らの道を歩み出すときっと父に対して誇りと賞賛の気持ちしかなくなるはずなんだ。」BLACK SABBATH, Ozzy Osbourne との共演、さらに父はあの YES の心臓 Rick Wakeman です。どうぞ!!

JAZZ SABBATH “JAZZ SABBATH” : 66,6/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW【ESOTERIC : A PYRRHIC EXISTENCE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH GREG CHANDLER OF ESOTERIC !!

“We Always Knew That Our Music Would Not Be Too Popular, Because It Is Extreme And Requires Attention To Process All Of The Details In The Sound And Repeated Listens To Become Familiar With It.”

DISC REVIEW “A PYRRHIC EXISTENCE”

「”Esoteric” の英語で最も一般的な定義は、”少数の人に向けた、もしくは理解している人だけに向けた” という意味なんだ。僕たちの音楽がとても人気があるわけじゃないことは理解しているからね。それは、この種の音楽が極端で、サウンドに乗せられたすべての詳細を処理し、それに慣れるため繰り返し聞く必要があるからだと思う。」
オカルトやサタニズムの秘伝を弔いの鎮魂歌へと封じる、英国の沈鬱 ESOTERIC。フューネラルドゥームの開祖は、超重超遅の二重奏に飽き足らず、デス、サイケデリック、インダストリアル、プログレッシブ、さらには寂寥のアトモスフィアからノイズの酸性雨までジャンルの可能性を拡大する特異点として偉大な足跡を残し続けています。
「フューネラルドゥームというジャンルが、ESOTERIC に完璧にフィットすると思ったことはないんだ。なぜなら、僕たちの音楽はそれよりも少し実験的な性格を帯びているからね。」
1993年、悪夢のような質感と哀しみに満ちたルグーブレで “フューネラルドゥーム” のフレームワークを築いた “Esoteric Emotions” でも、結局彼らはより遅くより深く苦痛の万華鏡を投影したかっただけでしょう。
ESOTERIC にとって重要なのは、深悼痛惜なドゥームの中に独自のスタイルを構築することでした。そうしてその軌跡と哲学は、BELL WITCH をはじめ KHEMMIS, PALLBEARER, ELDER, INTER ARMA といった現代ドゥーム革命の潤色な担い手たちへ脈々と受け継がれているのです。
「ライティングプロセスにおいて楽曲の長さは考慮していないんだけど、だから短ければ3分で、長くなれば26分にもなるんだろう。だけど基本的には、7分から16分の間で収まっているよ。」
BELL WITCH 83分の厖大なエピック “Mirror Reaper” に呼応するように、8年ぶりの蘇生 “A Pyrrhic Existence” は27分の緩やかな落魄 “Descent” でその幕を開けます。
高所からの自死を試みる時、人はこういった光景を目の当たりにするのでしょうか。永遠にも思えるスロウモーションのモノクロ映画は、アンビエントな静寂とプログレッシブなドラマ性、そして厳粛な轟音の狭間で、陰鬱、恐怖、絶望の影を反映していきます。
きっと、この瞬間にして久遠の葬送曲は、アルバムタイトルでもある世界の不条理や自己犠牲に端を発しているのでしょう。勝利からは程遠い勝利。見方を変えれば、Greg Chandler 語るところの 「よりアグレッシブで圧倒的にダークなアトモスフィアを加えた」 PINK FLOYD の宇宙。
“Descent” に端を発する、精神の荒野を漂う仄暗き死の旅路は、トレードマークであるトリプルギターと流麗なリードで今際の際のドラマ性を神聖なまでに高めた “Rotting in Dereliction”、最後の旅を意味するアンビエントなシンセの不吉 “Antim Yatra” とその魂の窓を少しづつ解放していきます。”Culmination” で見せる巧みな場面展開も秀逸。そうして98分2枚組の壮大極まる悲壮劇は、”Sick and Tired” でメランコリーと不協和、そしてノイズの波音を掻き集め闇の帳へ奉納しながらその幕を閉じるのです。
今回弊誌では、創立メンバーでギター/ボーカル Greg Chandler にインタビューを行うことができました。「音楽のジャンルが広がりすぎる時、影響の似たバンドが増えすぎるのは僕には唯一の欠点に思えるね。独自のサウンドやスタイルを創造するバンドじゃなく、他のバンドのようなサウンドを作りたいバンドが人気を博してしまう傾向があるようにね。」どうぞ!!

ESOTERIC “A PYRRHIC EXISTENCE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MORON POLICE : A BOAT ON THE SEA】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SONDRE SKOLLEVOLL OF MORON POLICE !!

“A Lot Of The Music From The Super Famicom Was Also Very Proggy! The Soundtrack Of Secret of Mana (Seiken Densetsu 2) Was Mindblowing When I First Heard It! Beautiful Melodies Mixed With Interesting Technical Parts, Weird Time-Signatures And Atmospheric Landscapes.”

DISC REVIEW “A BOAT ON THE SEA”

「ノルウェーにおけるプログの “魔法” って何なんだろうね。60年代後半からプログバンドはずっとここにあって、長い間人気を博して来たから、若い世代に刷り込まれているんじゃないかな。だから僕たちがここにいるんだよ!」
“プログレッシブ” の遺産と血脈を受け継ぐ綺羅星の中でも、2019年特に印象的なレコードを残した寵児がノルウェーを拠点とすることは偶然ではないのかも知れませんね。
電子の海で主流とプログを交差させた LEPROUS、エピックの中で多様とハーモニーを追求する MAGIC PIE、そしてプログレッシブポップの革命を牽引する MORON POLICE。共通するのは、プログレッシブ世界の外へと目を向ける野心でしょう。
「様々なジャンルを股にかけることも大好きだね。メタルの要素が減退したから、これまでより多様になれた部分はあるだろうね。ポップミュージックは完膚なきまで崇高になり得るし、ポップミュージックがテクニックと重ね合った時、僕にとって最高に魅力的なものとなるんだ!」
ノルウェーの異形 MAJOR PARKINSON にも籍を置くユーティリティープレイヤー Sondre Skollevoll は、これまで充分に探索が行われて来なかったポップと崇高、ポップとテクニックの融合領域へと MORON POLICE で海図なき船出を果たしました。ノアの箱船で GENESIS の息吹、プログレッシブの遺伝子を守りながら。
「アートワークは、僕たちは “この地球の一員” ってメンタリティーと、音楽のメランコリックな側面を反映しているんだ。」
メタリックな一面を切り離すことで音楽的自由を謳歌する “A Boat on the Sea” で、Sondre は以前に増して表現の自由をも享受し世界を覆う暗雲を薙ぎ払っていきます。
米国の小説家 Kurt Vonnegut がポストベトナム世界を風刺した、”Hocus Pocus” からタイトルを頂くメランコリックなピアノ語りを序曲とするアルバムは、”The Phantom Below” で無機質なデジタルワールドへの皮肉と憧憬を同時に織り込みます。
「大半のスーパーファミコンの音楽はとてもプログレッシブだよね!”聖剣伝説2 Secret of Mana” のサウンドトラックを初めて聴いた時はぶっ飛んだよ!美しいメロディーが、興味深いテクニカルなパート、奇妙な変拍子、アトモスフェリックなサウンドスケープとミックスされていたんだからね。」
最終的にSondre の目指す場所とは、幼き日に熱中したスーパーファミコンの、アナログとデジタルが交差する、目眩く色彩豊かな音楽世界なのかもしれませんね。
ノルウェーという小さな国のプログシーンが注目を集めるきっかけとなったストリーミングサービスの恩恵を認識しながらも、8bit のオールドスクールな情味と温もり、知性の頂きはバンドの原点であり精髄でしょう。狂気のスキルとイヤーキャンディー、それに北欧のメランコリーをミニマルなゲームサウンドと同期させる “Isn’t It Easy” はその象徴に違いありません。
“Beaware the Blue Skies” のレゲエサウンドで、平和大使の仮面の裏で米国の戦術ドローンを大量生産する母国ノルウェーの偽善を暴き、”The Dog Song” のカリビアンや “Captain Awkward” の奇妙なスキャットで自らの多様性を証明する MORON POLICE。それでも、一貫して燃え盛る灯台の炎となったのは煌びやかで心揺さぶるメロディーの光波でした。
「僕はね、強力なメロディーは、きっといつだって純粋なポップ世界の外側に居場所を得ると思っているんだ。そしてそんな音楽がより注目を集めつつあることが実に嬉しいんだよ。」
THE DEAR HUNTER を手がける Mike Watts の航海術も旅の助けになりました。そうして MORON POLICE はプログ世界の外洋へと船を漕ぎだします。
今回弊誌では、Sondre Skollevoll にインタビューを行うことが出来ました。「僕はゲーム音楽の大ファンなんだよ。特に任天堂のね。近藤浩治、植松伸夫、菊田裕樹、David Wise のような音楽家を聴いて育ったんだよ。僕はそういったゲーム音楽にとても影響を受けていると思うし、そのやり方を音楽に取り込んでいるんだ。」MARQUEE/AVALON から日本盤の発売も決定。どうぞ!!

MORON POLICE “A BOAT ON THE SEA” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【BLOOD INCANTATION : HIDDEN HISTORY OF THE HUMAN RACE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ISAAC FAULK OF BLOOD INCANTATION !!

“I Believe That Questioning Mainstream Archaeology, Even If The End Goal Isn’t Proving The Existence Of Aliens, Is a Great First Step To Questioning Everything We Have Been Taught About Our Own Society.”

DISC REVIEW “HIDDEN HISTORY OF THE HUMAN RACE”

「僕たちの音楽、アートワーク、歌詞の主な目標は、人々に先入観を疑わせることなんだ。音楽的にだけじゃなく、概念的にも限界を押し広げることが重要なんだよ。そのため、エイリアンや次元を股にかける存在だけじゃなく、何かにインスパイアされて自分自身の内なる世界を拡大することもまた重要なテーマなんだ。」
宇宙、異次元、エイリアンをビッグテーマに “アストラルデスメタル” の称号を得る BLOOD INCANTATION は、しかし自らの存在や哲学を “サイエンスフィクション” の世界に留め置くことはありません。SF を隠喩や象徴として扱う “デス・スター” 真の目的は、現実世界のリスナーに森羅万象あらゆる “常識” に対して疑問を抱かせることでした。
「主流の考古学に疑問を呈することは、例え最終的にエイリアンの存在を証明出来なかったとしても、僕たち自身の社会について教えられてきた全てに疑問を投げかける素晴らしい第一歩だと思うんだよ。」
BLOOD INCANTATION の叡智を司るドラマー Isaac にとって、ギョペグリ・テペやギザのピラミッド、ナスカの地上絵が宇宙人の創造物であろうがなかろうが、究極的にはどちらでも構わないのかも知れませんね。なぜなら、彼の最終目標は宇宙よりも未知である人の心、暗く危険な内部空間の探索にあるからです。
Isaac は現在の人間社会、政治システムを完全なる実験の失敗だと捉えています。故に、この文明社会こそ人類の最高到達点で良好な進歩を遂げているという固有概念に疑問符をもたらすため、寓話的に SF を使用しているにすぎないのです。
「僕たちの新しいレコードは、人類という種が記憶を失っていて、その過去はまだ明らかにされていないという概念に焦点を当てているんだ。」
“Hidden History of the Human Race” で描くのは忘却の彼方に追いやられた人類の隠された歴史。大胆不敵な宇宙旅行者が作成する、失われた古代の歩みを取り戻すアストラルレコードの使命は、そうしてデスメタルとプログレッシブのロマンを取り戻す旅ともリンクしていきます。
「僕はね、”プログレッシブデスメタル” ってタグはあまり気に入っていないんだよ。だってそこに分類されるバンドの大半が、僕がプログレッシブロックがもともと志していたと考える音楽をプレイしていないんだからね。」
プログレッシブの名を冠しながら、モダンなテクニックの博覧会を志向する昨今のバンドとは一線を画す BLOOD INCANTATION のロマンチシズム。それは YES, PINK FLOYD, RUSH, KING CRIMSON といった神代の巨人への憧憬を根源としています。
“Echoes”, “Close to the Edge”, “The Gates of Delirium” といったプログエピックを指標した18分の異次元探索 “Awakening from the Dream of Existence to the Multidimensional Nature of our Reality (Mirror of the Soul)” を聴けば、そこに古の技術やイデアを元にした音のペイガニズムが存在することに気がつくはずです。
同時に、テクニカルデスメタル、ブルータルデスメタル、デスコア等の台頭により次元の狭間に埋もれた “OSDM” オールドスクールデスメタルの “レコンキスタ” を司る十字軍の役割も忘れるわけにはいきません。
HORRENDOUS, TOMB MOLD, GATECREEPER を従え津波となった OSDM リバイバルの中でも、BLOOD INCANTATION の映し出す混沌と荘厳のコントラスト、プログの知性やドゥームの神秘まで内包する多様性は傑出しています。その理由は、GORGUTS を筆頭に、DEATH, CYNIC, DEMILICH といったデスメタルに異世界を持ち込んだ異形の “血の呪文” を受け継いでいるからに相違ありません。
逆説的に言えば、ブラックメタルやドゥームメタルほど神秘や謎、アトモスフィアを宿していないデスメタルの領域でその世界の “DEAFHEAVEN” を演じる事は簡単ではないはずです。しかし、”Inner Paths (to Outer Space)” に内包された爆発的なエネルギー、リフノイズの海に鳴り響く美麗邪悪なアコースティックギター、複雑怪奇なフレットレスベースの胎動、アナログアンビエントな音の葉を浴びれば、彼らの野心が文字通りコズミックに拡大を続ける宇宙であることに気づくでしょう。
今回弊誌では、Isaac Faulk にインタビューを行うことが出来ました。「プログレッシブロックとは、様々なジャンルを過去のスタイルから生まれ出るテクニックと融合させ、異なる方向へと導くような音楽だよ。」 音楽にしても、時に “メインストリーム” に疑念を抱くことはきっと必要でしょう。どうぞ!!

BLOOD INCANTATION “HIDDEN HISTORY OF THE HUMAN RACE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE NUMBER TWELVE LOOKS LIKE YOU : WILD GODS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ALEXIS PAREJA OF THE NUMBER TWELVE LOOKS LIKE YOU !!

“Our Music Similarly Doesn’t Follow The Traditional Form Or Structure Of Most Music Out There. Overall It’s Fairly Volatile And Can Take Off In Any Direction At Any Given Time. We Have Always Enjoyed Exploring The Vast Possibilities Of Music And Prefer Not Be Cornered Into One Genre.”

DISC REVIEW “WILD GODS”

「僕たちの音楽は全体的にかなり不安定で、いつでもどの方向にでも進路を取れる。常に音楽の広大な可能性を探求して楽しみ、一つのジャンルに追い詰められることを望まないんだから。」
トワイライトゾーンのディストピアな未来において、画一化された “No.12” の外観を頑なに拒む伝統の破壊者 THE NUMBER TWELVE LOOKS LIKE YOU。デスメタル、ハードコア、スクリーモ、プログレッシブ、ワールドミュージック、ミニマル、ジャズといった幾千もの奇妙な混合物に数学的溶媒を注いだマスコアのパイオニアは、類稀なるライブのカタルシスを伴って00年代に君臨した怪物でした。そう2010年に人知れずその姿を消してしまうまでは。
ボーカリスト Jesse の言葉を借りれば失われた10年は “成長のための必要悪”。そして、インタビューに答えてくれたギタリスト Alexis に言わせれば “成長を実証” するためシーンへと帰還したモンスターは復活作 “Wild Gods” で拡散と成熟を同時に見せつけています。
「僕たちの音楽は常に変化を遂げている。僕の目標はつまり自分たちの過去を繰り返さないことなんだ。アルバムをいくつかリリースして、休息し、今はチャレンジ出来る。リスナーがオープンマインドで、ジャンルなど気にせずただ音楽に身を任せてくれたら嬉しいね。」
THE NUMBER TWELVE LOOKS LIKE YOU は確かに変化と共に進んできました。妥協を許さないアグレッシブなメタルコアとグラインドの紅い薔薇 “Put On Your Rosy Red Glasses” を出発点に、ポストハードコアを可能な限り最も苛性で迷路のような反復へ誘う “Grind. Sad. Nuclear”。 さらに “メランコリー” にヘヴィーとキャッチーを両輪に据えた出世作 “Mongrel” に、”ノン・メタル” な冒険を推し進めた “Worse The Alone” まで、ポリリズムと数学者の威厳を宿した “Polymath” の称号を手にしつつも、彼らは画一的な場所からは程遠い多種族のキメラとして常に保守、伝統へと挑んできたのです。
「確かにアルバムにはコンセプトがあるね。僕たち自身、そして自然界に纏わる現在の問題を反映しているんだよ。」
隠遁した10年の間に顕となった世界を覆う黒い雲。歌詞を書き上げた Jesse はこのアルバムがフィクションのように非常識極まる地球を宇宙人へと紹介する広告で、子供を虐待する司祭、司祭を守る教会、女性より優れていると信じる男性、動物を虐殺する人類といった “Wild Gods” をどうぞ見に来て下さいと嘯きます。そうしてバンドはその闇に、鋭き牙はそのままに咲き誇る多様性の嵐で贖うのです。
狂気とスリルに満ちた世の夜会を彩るサルサのダンス “Gallery of Thrills” はエクレクティック極まるアルバムの華麗なる招待状。エレクトロシンセとストリングスのサウンドスケープが過去と未来を行き来する “Ruin the Smile”、ラウンジジャズのアトモスフィアとメタルコアの残虐、プログレッシブの複雑がいとも容易く噛み合った “Raised and Erased”、サンバやボッサのメタリックな嘶き “Tombo’s Wound”。そうした多種多様な景観の中でも、テンポやムードは全て計算の下で刻々と移り変わり、さらに音の表情を増していくのですから驚きです。
“Ease My Siamese” が象徴するように、Jesse の囁き、荘厳に歌い紡ぎ、泣き叫ぶボーカルレンジがもたらすエモーションの振れ幅も絶妙に豊かで、フラメンコを基にした “Of Fear” では妻の Eva Spence (ROLO TOMASSI) と極上のデュエットまで披露しています。そうしてアルバムは、”Interspecies” のシロフォンとストリングスで異種間交流のロマンを運んだ後、ラテンのリズムと言語で究極の破滅をもたらす “Rise Up Mountain” で幕を閉じるのです。
2016 年に THE DILLINGER ESCAPE PLAN が活動を終えてから3年。CAR BOMB の新作と共鳴しながら “Wild Gods” は再びマスコアの時計を動かし始めます。今回弊誌では、Alexis Pareja にインタビューを行うことが出来ました。「MONO, envy, Melt-Banana みたいな日本のバンドはライブや音源を楽しんでいるよ。それにジャズの世界でも、上原ひろみ、福居良みたいな驚異的ミュージシャンがいてインスパイアされるね。」 昨年、来日も果たしています。どうぞ!!

THE NUMBER TWELVE LOOKS LIKE YOU “WILD GODS” : 9.9/10

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