“When We Came Up With The Band Name, We Did Have a Video Game Main Menu Screen Running In The Background. So Yeah, The Name Really Came From That Whole Idea Of Pressing a Button To Enter a Virtual World.
DISC REVIEW “FROM MIRROR TO ROAD”
「実はバンド名を考えていたとき、後ろでビデオゲームのメインメニュー画面が開いていたんだ。だから、ボタンを押せば、ワクワクするようなバーチャルな世界に入れるという発想がバンド名の由来になった。僕らの場合、その世界は音楽のサウンドスケープなんだけどね」
ビデオ・ゲームで育った世代なら、”Press Enter” の文字を見るだけで血湧き肉躍るに違いありません。カートリッジを装着して、未知なる冒険へと繰り出すその入り口こそ、”Press Enter” なのですから。ゲームの中で私たちは、いつも無敵で全能でした。
同様に、未知なるバンドの始まりのリフやメロディが天高く、もしくは地響きのようにアルバムの幕開けを告げる瞬間はいつもワクワクするものです。どんな音がするのだろう?想像を絶するスリルやサスペンス、もしくは狂気はあるのだろうか?歌われるのは希望?それとも絶望?内なる五感を熱くさせるのだろうか?…おもちゃ箱をひっくり返したようなデンマークのプログレッシブ・トリオ PRESS TO ENTER は、そのワクワク感、ロックやメタルの全能感を何よりも大事にしています。
「HAKEN の “1985” という曲と、彼らが現代のプログレッシブ・ミュージックに80年代のサウンドを使っていることにすごくインスパイアされたんだ。それに、Dua Lipa はそういったオールドスクールなサウンドをとてもうまく料理して、新しい新鮮な方法で使っている。面白いことに、僕たちは80年代に直接インスパイアされるというよりも、80年代にインスパイアされたサウンドを使う現代のアーティストに影響を受けているんだと思う」
PRESS TO ENTER の音楽には、ゴージャスで全能感が宿っていた80年代の世界から飛び出してきたような高揚感と華やかなポップネスが蔓延しています。ただし、彼らのアルバム “From Mirror to Road” はただ過去の焼き直しではなく、モダンな Djent のセオリーや洗練されたプロダクション、ネオ・ファンクやネオ・フュージョンのグルーヴ、それに21世紀の多様性を胸いっぱいに吸い込んだごった煮の調理法で、独自の個性と哲学をデビュー作から披露していきます。あの ARCH ECHO 肝入りの才能に納得。
「私は不安症と身体的苦痛障害と呼ばれるものを抱えていて、4年前に顎の手術を受けることになったの。その後、長い間落ち込んでいて、しばらく歌うこともやめていたの。Lucas と Simon が “Evolvage” のボーカルに誘ってくれたとき、私は新たな希望を得たわ。あの曲をレコーディングしたとき、私は本当に音楽とつながることができた。自分にとって自然な感じだったし、新しい方法で自分を表現する機会を与えてくれたのよ。私のボーカルは、このバンドの音楽に新しい色を加え、特別な味わいを与えていると思う」
PRESS TO ENTER がこの暗澹たる2020年代にロックの全能感と期待、そして希望を蘇らせたのは、自らも一度は傷つき不安と共にあったから。他人と自分を比べることで鬱状態に陥り、極度の不安を抱えていたボーカルの Julie は、自らの歌声がこの奇抜で好奇心に溢れたプログレッシブ・メタルに命を吹き込むことを知り、前へと進み始めました。実際、マドンナから始まり、アギレラ、ペリー、レディ・ガガの系譜につながる彼女のポップで力強い歌声は、プログの世界にはないもので、だからこそ輝きを放ちました。
「僕らの曲 “Cry Trigger” のアンビエント・セクションは、”バイオハザード・ゼロ” のテーマ ”Save Room” に非常にインスパイアされているんだ。それに僕は、日本のアニメの大ファンでもある。”ワンパンマン” や “進撃の巨人” は大好きな作品だよ。僕らの曲 “Frozen Red Light” の一部は、間違いなくアニメ音楽の影響を受けている。あと日本の音楽では、CASIOPEA と彼らの昔のベーシスト、櫻井哲夫が大好きなんだ。彼は僕のベースプレイに大きなインスピレーションを与えてくれた。それに、RADWIMPS も大好きだよ」
最後のピースとして、PRESS TO ENTER は日本の文化を隠し味に加えました。それは、日本のアニメやゲーム、音楽の中に、失われつつあるワクワク感が存分に残っているから。そうして PRESS TO ENTER の軽快で複雑でポップな世界は、視覚的にも広がりを得て3次元の立体感を得たのです。もちろんそれは、彼らが敬愛する地元の英雄 DIZZY MIZZ LIZZY と同じトリオだからこそ、得られた自由。
今回弊誌では、PRESS TO ENTER にインタビューを行うことができました。「DIZZY MIZZ LIZZY の Tim Christensen、Tosin Abasi, Plini が僕のスーパー・ヒーローだね。彼らをたくさん聴いたことで、自分のサウンドや音楽におけるクリエイティブな考え方が形成された気がする」 Tosin というより、かの Manuel Gardner Fernandes 直伝のスラッピング、それに曲中の魔法のようなテンポ変化が実にカッコいいですね。どうぞ!!
“The Odd Thing About Djent Is That It Is Supposedly a Subgenre Of Progressive Metal, But While Progressive Metal Is All About Breaking The Boundaries Of Genres And Musical Norms, Djent Seems To Be More Focused On Copying a Specific Style And a Specific Sound, And Where Is The Progressiveness In That?”
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JESPER GRAS OF IOTUNN !!
“The Immense Exploration That Was So Essential To Rock Music In The 60’s And 70’s Are Now an Essential Part Of Big Parts Of Metal Music, I Think That Makes The Coming Years And Decades Of Metal Music Extremely Exciting.”
DISC REVIEW “ACCESS ALL WORLDS”
「このアルバムは僕にとって創造性にフォーカスした作品だ。真に探求し自由であろうとする創造性は、文明や社会、人間の生活に光を当てるもので、逆に言えばそういった場所からこそ創造性は生まれるんだ。つまり、すべては生命で、共に呼吸しているんだからね」
デンマーク、フェロー諸島の雄大な自然、神秘的な伝承、豊かな感情に囲まれて育った IOTUNN のメンバーにとって、音楽とは変化を続ける人生を表現する手段です。その逆もまた真なり。滴り落ちる音の雫には、表現者の絶え間ない営みが宿っているのです。
「デンマークのメタルシーンは非常に良い状態にあり、常に動き続けているから、そこに参加していて本当に楽しいんだよ。MYRKUR は、僕にとってこの波を象徴するアーティストなんだ。彼女は、音楽をこれまでのデンマークのメタルアーティストが到達したことのないような場所までに持っていこうとしたんだよ。そして、音楽と自然、時間軸を超えた物語、感情を結びつけることの重要性を示したと思うね」
Lars Ulrich のルーツにして KING DIAMOND の母国デンマークは、古くから様々なメタルの交差点でした。PRETTY MAIDS, DIZZY MIZZ LIZZY, ARTILLERY, SATURUNAS, MANTICOLA。彼らが纏った、常に変化を誘う自然と空間、時間、感情の多様な繋がりは、今、VOLBEAT, MYRKUR, VOLA, MOL といったデニッシュ・メタル新たな波へと増幅されながら引き継がれているのです。
「IOTUNN とは、古ノルド語で “巨人” を意味する言葉なんだ。僕にとってこの言葉は、絶え間ない変化と変革を強いる自然と宇宙の力を表していて、それによって人間の謙虚さ、好奇心、そして人生や創造性における開放性をも表そうとしているんだよ」
遅れてきたデンマークの巨人は、デビューフル “Access All Worlds” で文字通り、メタルに根差すすべての世界へとアクセスし、変化を恐れず表音力の限界を突破します。巨人に似つかわしい巨大なサウンド。アグレッションの畏敬からアトモスフェリックな没入感まで、グルーヴとメロディーの多彩な感情に彩られたレコードは、壮大と荘厳を極めながらリスナーを宇宙と自然、そして人生の旅路へと誘います。BARREN EARTH や HAMFERD で世代最高の歌い手と評される Jon Aldara が紡ぐ旋律を、美しき星の導きとしながら。
「60年代、70年代のロックに不可欠だった膨大な探求心は、今ではメタルの大部分にとって不可欠な要素となっているよ。だから、多様性はメタルのこれからの数年、数十年を本当にエキサイティングなものにしていくと思う」
62分のレコードの中で、バンドはプログ・メタルの再構築、再発明に挑みました。CYNIC のスペーシーなプログ・デス、KATATONIA の仄暗きアトモスフィア、ENSLAVED の神話のブラック・メタル、INSOMNIUM の知的なメロディック・デスメタル、MASTODON の野生、それに NE OBLIVISCARIS のモダンで扇情的な響き。
重要なのは、心に響くメロディーであれ、流麗なギターソロであれ、重厚なデスメタルの力であれ、IOTUNN は先人の生きた足跡を噛み締めつつ、フェロー諸島という環境、そして自らの人生で養った表現力を遺憾なく発揮して前人未到のスピリチュアルな境地へとメタルを誘った点でしょう。その彼らの創造性という飽くなき好奇心は、アルバムを締めくくる14分、神話とSFが出会う場所 “Safe Across the Endless Night” に凝縮しています。
今回弊誌では、ギタリスト Jesper Gras にインタビューを行うことができました。「創造的に正しいと思うことは何でも行うという自由。この自由の中で僕たちは、世界で常に提示され、強制されているすべての境界線を破ろうという意思表示なんだ」 どうぞ!!
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ANDY LAROCQUE OF KING DIAMOND !!
“I Think The Difference Between King Diamond And Mercyful Fate Is, Mercyful Fate Gotta Little More Maybe 70’s, Roots In It’s Music Style. In My Opinion, While Kind Diamond Has Always Been Little More Murderer.”
MASQUERADE OF MADNESS
GHOST が存在する遥か以前から KING DIAMOND の劇場的オカルトはメタル世界を侵食していました。コペンハーゲン郊外に生を受けた Kim Bendix Petersen は、サタニックメタルの始祖 MERCYFUL FATE で King Diamond への羽化を完全に果たします。
MERCYFUL FATE が80年代初期に残した二枚のアルバム “Melissa”, “Don’t Break the Oath” は実際、メタルの歴史を変えました。コープスペイントで頭蓋骨を仰ぎ、足の骨でマイクスタンドを拵える真性の異端児。地獄の底から絞り出すような唸り声から、悪魔が囁くファルセットまで、奇々怪界を紡ぐため死の世界から舞い戻った幽鬼。そんな King のオカルティックな詩篇とシアトリカルな美学は METALLICA, SLAYER から後の北欧ブラックメタルシーンにも多大な影響を及ぼしたのです。
では、King の特徴的なファルセットやシアトリカルな仮装はどこから来ているのでしょうか?
「あのファルセットは、BLACK ROSE 時代にファンからもっとファルセットを使えと言われたのが始まりなんだ。おかげで歌唱のテクニックや空気のコントロールなど多くのアイデアを得ることができたんだ。シアトリカルな仮装は Peter Gabriel と Alice Cooper だね。GENESIS のライブを見て、音楽に合わせた “演劇” の重要性を悟ったんだ。」
象徴的な “Melissa” の頭蓋骨はどこで手に入れたのでしょう?
「兄から貰ったんだ。マイクスタンドにしていたクロスボーンもね。彼の友人の父が医者をしていて、提供された死体を使って学生に授業をしていたんだ。授業が終わると、皮膚を剥ぎ取って骨を樽に入れていた。それで手に入れることができたんだ。だけど彼女はショウで盗まれてしまったんだよ。」
METALLICA との邂逅は印象的でした。
「84年に MOTORHEAD が USツアーに連れていってくれたんだ。その時誰かが METALLICA を教えてくれたんだけど、ドラマーがデンマーク人だという。よくよく調べると Lars の父親は有名なテニスプレイヤーだったんだ。だからアンコールでステージに上げたんだよ。そうして、”Ride the Lightning” をコペンハーゲンで録音することになったのさ。あの時彼らが泊まっていた私のアパートはお化け屋敷だったんだけど (笑)」
MERCYFUL FATE が “音楽的方向性の違い” により分裂した後、Kind は自らの名を冠した新たな魑魅魍魎 KING DIAMOND を結成し、これまで以上にエピカルでシアトリカルな道を辿ります。1987年にリリースした “Abigail”は、霊と家族の暗い秘密をコンセプトに認めて今でもメタルのオールタイムクラッシックとして名を馳せ続けています。
「ファーストアルバム “Fatal Portrait” には、MERCYFUL FATE のために書かれた楽曲もあったけど、5曲のミニストーリーも存在したんだ。それがとてもしっくりきて、ホラーコンセプトアルバムを作りたいと思ったわけだよ。音楽もそれに伴い進化して、より演劇的になっていったね。BLACK SABBATH はたしかにダークサイドを音にし掘り下げていたけど、私たちはフェンスの向こう側に立って別の視点から見ていたんだよ。」
長年の相棒、ギタリストの Andy LaRocque は弊誌独占インタビューで MERCYFUL FATE と KING DIAMOND の違いについてこう語ります。
「MERCYFUL FATE はより70年代的で、ルーツを探るような音楽スタイルだよ。一方で、KING DIAMOND は僕の考えではいつだってより猟奇的なんだ。」
後のブラックメタルサークルが起こした一連の事件に対して King はどのような感情を抱いていたのでしょうか?
「ちょっと大げさだったよね。だって暴力や放火に関わっていたのはほんの一部でしょ。ほとんどのバンドは関わっていなかった。もちろん、殺人や暴力を肯定しているわけじゃないよ。私は蜘蛛も殺せないんだ。捕まえて逃すだけさ。」
以後、King は時に復活した MERCYFUL FATE と二足のわらじを履きながらその怪奇譚、悪夢の物語を綴り続けました。創作が暗礁に乗り上げたのは、2010年。心臓発作に苛まれた King は、3度の心臓バイパス手術を受け、死の淵を彷徨います。回復の過程で、長く音源のリリースから遠ざかりましたが遂に今年、KING DIAMOND として完璧な新曲 “Masquerade of Madness” を発表。MERCYFUL FATE も再度の復活を宣言し、古の悪魔の不死を証明しています。
「あれ以来、タバコも一本も吸っていない。健康的な食事と運動も欠かさないよ。全てが良い方向に向かっている。2度目のチャンスを得たんだからね。」
間違いなく復活のマスカレード “Masquerade of Madness” には失った時を取り戻す魔法がかけられています。Andy はこう力強く語りました。
「80年代の僕たちと “Masquerade of Madness” にはたしかに多くの共通点があるね。
実は、僕たちはファーストアルバムを振り返って、最初の最初に実際何をやっていたのかチェックしてみたんだ。この曲のライティングやレコーディングを行なっている時、これはあの曲のあの部分ぽくしようなんて思ったわけじゃないんだけど、それでもあの振り返りのおかげで間違いなくこの曲にはオールドアルバムのヴァイブがあるよね。」
NIGHTMARE
2014年、KING DIAMOND のキャリアを総括するコンピレーションとしてリリースされた “Dreams of Horror”。そのタイトルはまさにバンドと King の全てを体現していました。
デンマークから現れた怪異は、黒のトップハットにコープスペイントを施し、悲鳴のようなファルセットで瞬く間にメタル世界の台風の目へと躍り出ました。その KING DIAMOND が抱える不気味と不吉の元凶は、King が長い間悩まされてきた夜の恐怖に端を発しているのです。
「散々悪夢を見てきたよ。目が覚めたら誰かを殺してしまったと思うこともあった。それから15分くらい、どうやってその殺人を隠蔽しようか考えていたりね。」
とはいえ、King Diamond ほどの知名度で捜査の手から逃れることは難しいでしょう。オカルトメタルのパイオニア MERCYFUL FATE のフロントマンにして、Church of Satan のメンバー、”Abigail” や “Them” といったコンセプチュアルホラーの創立者は、メタル史において最も認知されている “声” の1人に違いありませんから。
事実、METALLICA の秀逸なカバーは語るまでもありませんし、Phil Anselmo からの敬愛、さらに Kerry King は SLAYER の “Hell Awaits” が MERCYFUL FATE の子供であることを認めています。
King を突き動かすのは彼の鮮明な悪夢。「目が覚めた時はホッとしていることが多いね。人が死ぬ、ペットが死ぬ、奇妙なことが起こる、車が粉砕されたり、争いに巻き込まれたり。大抵は非現実的な夢だよ。飛び立ったあと急に落下して、地面に墜落する直前に目が覚めたりね。起きた時に叫んだり、汗びっしょりだったりするよ。片腕は痺れていて、今のは何だったんだ?って思うんだ。」
それでも、自らの地獄のような夢の世界を探求することは、King にとって生涯の使命であり、創造性の源とも言えます。
「悪夢を見るとその原因を考える。時には同じシナリオの悪夢を連続してみることもあるよ。それで本当にその悪夢が現実になるんじゃないかとか思ったりしてね。眠りに落ちて、また同じ夢に吸い込まれ、あんな悲しい思いはしたくないって思うよ。だけどたまには、あの場所に戻って解決できるかみてみたいと思うこともあるんだ。」
昨年、およそ20年ぶりの再結集を発表した MERCYFUL FATE。バンドの金字塔である1984年の “Don’t Break The Oath” に収録された “Nightmare” も King の悪夢に根ざしていました。
「子供のころの夢さ。兄が隣のベッドで寝ていてね。そしたらフードを着た男が突然部屋に入ってきて、オマエの運命は尽きかけている!と私を指さすんだ。私は恐ろしくて兄を起こそうと叫ぶんだけど、声は出なかった。」
King は現在、2007年 “Give Me Your Soul…Please” 以来となる新作の制作に熱を上げています。2010年、生死の境を彷徨った心臓のバイパス手術から蘇る不死の王。
「とても特別な方法で書かれたアルバムになるよ。1枚で全てを語ることはできないから、2枚組になるだろうな。これまでで最悪の悪夢だよ。あの心臓手術から目覚めて、私は窒息しそうな気がしてパニックになった。口から人工呼吸器のチューブを抜こうとしたんだよ。妻リヴィアがすぐに走ってきて、ようやく私は医師たちが命を助けようとしていると悟ったんだけど、ベットに縛り付けられていた。まるで METALLICA の “One” の世界観だよ。」
故に、人工呼吸器の音を新譜のイントロやライブのエフェクトに使用しても不思議ではありません。
「地獄がどんなものかはわからないけど、あのゆっくりとしかし確実にいつも首を絞められているような感覚よりはマシだろうな。私はあの人工呼吸器の音を聞くだけで悪夢を見てしまうだろうな。」
ただし、そのライブに纏わる悪夢も King を悩ませてきました。
「私はショウの前に衣装やメイクで長い時間が必要なんだが、目覚ましが鳴らなくてスッピンで出る羽目になるってシナリオもあったな。ギタリストの Andy が普通のロックンロールをプレイし始めて、シアトリカルなメタルを期待しているファンから物を投げられたりする悪夢もあったよ。私はステージ裏に身を潜めていたが、コープスペイントの女性に見つかりマイクスタンドで応戦したりね。フルメイクで逃げ惑って一線を超えたファンを振り払いながらバスに乗り込んだんだ。」
定期的に見るのは戦争の夢。1987年に亡くなった父が、第二次世界大戦中、デンマークのレジスタンスに参加していた時の話を King はよく聞かされていました。
「ナチスに追われる夢を見るんだ。ドイツ軍に占領されていた5年間、ここでも多くの粛正が行われた。父は連合軍のコペンハーゲン奪還を手伝ったんだよ。子供のころは、父に誰かを殺したことがある?ってよく尋ねていた。彼は決して答えなかったけどね。」
夢が現実になることもあります。20年以上前に King は “From the Other Side” という楽曲を仕上げ、”The Spider’s Lullabye” のオープニングに収録しました。
「あの曲を聴くとまるで手術台の上にいるような気分になる。そして突然体から離脱して、自分のために戦っている医師たちを天井から見下ろすんだ。自分はセカンドチャンスを得られるのか、得られないのか。後に心臓の手術を受けた時、下を見下ろすと悪魔が魂を奪い去ろうとしていた。だから悪魔と戦わなければならなかったのさ。最初は夢だったんだが、私は後にそのシナリオを経験したのさ。」
いつか正夢になって欲しい夢もあるのでしょうか?
「宝くじに当たるとか?時々はそんな夢も見るよ(笑)」
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TIM CHRISTENSEN OF DIZZY MIZZ LIZZY !!
PHOTO BY JANNICK BOERLUM
“Pelican Is a Big One For Me. As Is Russian Circles. MONO From Japan Is Also a Favourite. And There Are So Many More. Elder, Uncle Acid, YOB, Kerretta, Earth, Electric Wizard, Katatonia, Lowrider, Gojira, And I Could Go On.”
“We’re Trying To Place Ourselves In The Minds Of People From 2,000 Years Ago, 3,000 Years Ago, 4,000 Years Ago. What Are The Sounds The People Heard? Of Course, It’s The Nature Sounds. There’s An Ever-changing Use Of Instruments And Sounds That We Collect In Nature.”
HOW HEILUNG DESCRIBES “THE DOWNFALL OF THE KNOWN WORLD” AND SURVIVAL WITH PAGANISM
「過去と繋がるためには、現在と断絶する必要がある。」とChristopher Juul は語ります。この言葉は発言主であるデンマークのプロデューサーがドイツの Kai Uwe Faust、ノルウェーの Maria Franz、2人の歌い手を誘うヒプノティックなプロジェクト HEILUNG のマニフェストとなっています。
アンプから歴史を紡ぐ HEILUNG。青銅器の芽生えからヴァイキングの荒波まで、北欧の野生と原始を呼び起こすグループの使命は、鹿と水牛の角、動物の皮、人骨、剣、世界最古の片面太鼓フレームドラム等の古代遺物とルーンストーンやアミュレットから再文脈化された陰鬱なリリックを融合させることとなりました。
Christopher が充すパーカッシブな海洋の中で、チベットの聲明を醸し出す Faust とノルウェーの伝統を紡ぐ Maria はせめぎ合い、闇と生命の複雑なバランスを構築します。
チベットの聲明を身につけたことも人生を大きく変えました。
「SLAYER や SEPULTURA も聴いていたけど、あれはメタルよりダークだよ。チベットの歌い手たちは、どんなメタルシンガーよりも深い。まさに探し求めていたサウンドだった。」
タトゥーへの情熱は遂に音楽への目覚めと交差します。戦士、古代のシンボル、鹿をフィーチャーした華やかなネオノルディックの印。Faust のアートは Christopher の目に留まり、2人はスタジオで一気に HEILUNG の原型を創造しました。ただし、あまりに狂気じみていたため、よりメロディックでエセリアルなイメージを求めて Christopher のガールフレンド、元バンドメイト Maria を呼び寄せることになったのです。そうして3人のミュージシャンは、奇しくもヴァイキングの文化によって集うこととなりました。
男性と女性が存在する自由も HEILUNG の強みでしょう。さらに、”Ofnir” が男性的に振れたアルバムだとすれば、振り子の針は”Futha” で女性側へと振れました。事実 ‘Svanrand”, “Norupo” といった不気味な聖歌、神々のため息において女声の存在感は確実に増していますし、歌詞にしても 1000年前の女性が暗唱したアイスランドのマジカルな呪文がもとになっているのですから。
「自然な流れだと思う。自然界ではバランスが重要なんだ。プラスとマイナス、昼と夜、黒と白。全ては両極の間を浮遊しているのだから。」
オープナー、”Galgaldr” はアルバムのテーマである “既知の世界の崩壊” とそこから生まれる “避け難き再生” を象徴する楽曲です。同時にそのテーマは、”Futha” のレコーディング中 Christopher と Maria が区画整理によって愛する家を手放さざるを得なくなった事象とリンクしています。
「Maria は庭で過ごし草花を育てることを愛していた。重機や業者は彼女の目の前でその庭を引き裂いたんだ。彼女は涙を流していたよ。だから彼女に大丈夫、今は恐ろしいけど全てを見ておくんだ。いつか全てが解決する日が来ると伝えたんだ。」
実は異教の司祭の息子で、幼い頃から儀式を幾度も取り扱ってきた Christopher が語るストーリーはおとぎ話ではなく現実ですが、それでも彼らはいつかより素敵な家を見つけ新たな幸せを噛みしめるはずです。それこそが再生の精神だと彼らは感じています。暗闇から現れる黄金の門。慣れ親しんだ価値観の破壊から生まれ来る真なる癒しと自由。人生という3人の旅路は、まさにアルバムの意思と見事にシンクロしているのです。
2020年代を前にして、メタル世界は自然崇拝や地霊信仰といったペイガニズムの波を全身に浴びています。Anna Von Hausswolff, Myrkur, Chelsea Wolfe など女性がムーブメントを後押ししているのは確かでしょう。そして HEILUNG はその最前線に位置しています。
「人間は自然と繋がることで、肉体的、精神的オーガニズムを感じるんだ。生命は全てが一つ。人間だけじゃなく、植物や海だって養ったり捕食したりしながら僕たちと関係しているんだから。」
しかしなぜ、エクストリームミュージックの住人は特段異教の世界に惹かれるのでしょうか? Christopher はその理由を理解しています。
「ルーン文字やペンタグラム、オカルトのシンボルは若者が大半を占めるエクストリームメタルの文化において重要な背徳感を備えているからね。」
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH NIKOLAJ SLOTH LAUSZUS OF COLD NIGHT FOR ALLIGATORS !!
“You Can Have The Most Unique Mix Of Influences And Gimmicks In The World, But If You Can’t Write a Catchy Or Captivating Piece Of Music, Nobody’s Going To Care.”
DISC REVIEW “FERVOR”
鋭利な牙鰐には冷たい夜を。無機質なテクニックには色彩豊かな旋律を。瑞々しきプログメタルの都コペンハーゲンに郡居する奔放なアリゲーター、COLD NIGHT FOR ALLIGATORS は甘美なるフックとインテンスを同時に捕食しモダンプログの水面を貪欲に揺らします。
「僕たちの音楽はエモーショナルかつ実験的だと紹介したいね。グルーヴィーで風変わりなメタルを楽しむ人にはピッタリさ。テクニカルな要素もありながら、リスナーを惹きつけるフックとメロディーにもフォーカスしているんだよ。」 Nikolaj が語るように COLD NIGHT FOR ALLIGATORS の音楽は実際、肉食獣の貪欲さに満ちています。
ダウンチューンのチャグリズム、エレクトロニカの華麗なダンス、洗練のハイテクニックにシルクのプロダクションは、VEIL OF MAYA や BORN OF OSIRIS が育んだモダンメタルコアの Djenty なニュアンスを漂わせ、一方で感情の泉に湧き出でるエセリアルなメロディーラインと多様なポストモダニズムはバンドの確固たるオリジナリティーをまざまざと見せつけるのです。最新作のタイトル “Fervor” はまさに情熱と創造性の証。
アルバムのムード、デザインを濃縮した “Violent Design” で光と闇の劇場はその幕を開けます。新世代らしい不協和のグルーヴで始まる Tech-metal の獰猛は、しかし神々しきギターラインとクリーンボーカルでその姿を瞬時に変化させました。
緊張と緩和をシームレスに繋ぐ虹色のメロディーは天国への階段でしょうか? THE CONTORTIONIST にも通じる夢幻の回廊は、いつしかアートロックとポップに祝福を受けながら、アップリフトなコードワークとエモーショナルなコーラスワークでリスナーを至上のカタルシスへと誘うのです。
「リスナーをフックやメロディー、楽曲構成に浸れる機会を作りたいんだよ。その上で、リスナーの注意を引く方法の一つとしてテクニカルな要素を散りばめていると言う訳さ。アルバムを通してテクニックにフォーカスするんじゃなくね。」ポストハードコア、プログレッシブ、そして R&B まで織り込まれたフックの魔境 “Canaille” は、”ノン・メタル” な素材を存分に発揮してその言葉を実証するアルバムのメインディッシュだと言えるでしょう。
実際、ヘンドリックスが憑依するブルースの哀愁がミニマルな電子音、マスマティカルなデザイン、現代的なアグレッションと溶け合う楽曲は、モダンプログレッシブの理念をあまりに的確に、しかしドラマティックに描き出しているのです。
隠し味としてアルバムを彩る R&B のフレイバーは ISSUES に、キャッチーな旋律の煌めきは VOLA にもシンクロし、さらに “Nocturnal” では TesseracT のアトモスフィアを、”Get Rid of the Wall” ではジャズのモーションをもその血肉として消化する雑食の王。そこに “テクニカルであるためのテクニック” は一欠片も存在してはいません。
今回弊誌では、ドラマー Nikolaj Sloth Lauszus にインタビューを行うことが出来ました。Euroblast, Tech-Fest などで鍛え上げた実力は本物。さらにマスタリングは Jens Bogren が手がけます。「世界で最もユニークな要素やギミックをミックスしたとしても、キャッチーで魅力的な音楽を書かなければ誰も注目しないんだよ。」どうぞ!!
“I Would Describe The Band As An Adventurous Rockband With Tendencies Towards Metal And Electronica. We’re Very Keen On Experimenting And Not Being Bound To One Label Or Genre.”
DISC REVIEW “APPLAUSE OF A DISTANT CROWD”
モダンプログレッシブのフロントランナー VOLA は、ジャンルのアイデンティティーを保ちながら進化を遂げる荊棘を成し遂げるユトランドの至宝。
Djent 由来の重厚なグルーヴ、シンコペーションの創造性をメロウでヴィンテージなイヤーキャンディーで包み込み、シンセウェーブのフィヨルドへと注ぎ込む彼らのやり方は、まさしくデンマーク発祥のトレンド、”ヒュッゲ” “甘美な時” をリスナーへと運びます。
レトロ&フューチャーが交差する衝撃のデビューフル “Inmazes” から4年。世界一幸福と言われるデンマークに降臨した “時をかけるバンド” が次なるテーマに選んだのは、皮肉にもテクノロジーや SNS が人類にもたらす栄華と暗部、幸せの価値。
「タイトルの “Applause of a Distant Crowd” “遠方の観客から届く拍手喝采” とは、僕たちが SNS を通してコンスタントに賞賛や承認を求めていることを表しているんだよ。だけど、そうやって喝采をくれる人たちは遠く離れていて、そこでの関係性が何か実りをもたらすことなんてないだろうはずなのに。」と新たなドラムマイスター Adam Janzi が語るように、インターネット& SNS の発展は利便性の向上と同時に、承認欲求、嫉妬、欺瞞、憤怒といった人に巣食う闇の部分をこれまで以上に助長させ、世界は生きづらさが増しているようにも思えます。
“We Are Thin Air”、アルバムの幕開けは、そうした息苦しさを “空気が薄い” と表現する究極のメッセージ。THE ALAN PERSONS PROJECT を彷彿とさせる暖和で壮大なメロディーの洪水は、コーラスの魔法と浮遊感を伴って、あたかも水中で暮らしているかのようなイメージを摩訶不思議に演出し描写します。
同時に、80年代の甘くキラキラした、しかしどこか切ないデジタルの波はコンテンポラリーなディストーションサウンドと融け合い、その波動は “Ghost” のエセリアルなセンチメント、感傷の波へと集約していくのです。
レトロとフューチャーを自在に操る時間魔法師の煌きはすなわち “ビタースイート”。そしてよりオーガニックに、オルタナティブの領域へと接近した新たな旅路は、MEW や MUSE のインテリジェントな方法論とも入念にシンクロしていると言えるでしょう。
一方で、「それでも僕たちは、今でもプログやメタルを愛しているよ。それは変わらないね。」と語るように、MESHUGGAH や DECAPITATED の凶暴なポリリズムが一際そのサウンドスケープを拡大させていることは明らかです。
“Smartfriend”, “Alien Shivers” におけるシンコペーションアグレッションはまさしくプログメタルの系譜を引く証ですし、その場所に VOLA 特有のポップセンス、アトモスフィアが流入した響きには、”Post-djent” を導くヒントが隠されているのかも知れませんね。
さらに、”Vertigo”, “Green Screen Mother” で見せるダークでスロウな一面は、バンドと作品の二面性を際立たせ、モダンプログの骨子である多様性とダイナミズムを一際浮かび上がらせることとなりました。そして、当然そこには、Adam が人生を変えたアルバムで挙げている Chelsea Wolfe, Nick Cave からの仄暗く、ノワールな影響が存在するはずです。
今回弊誌では、その Adam Janzi にインタビューを行うことが出来ました。「もしこのバンドを一言で表すなら、アドベンチャーロックバンドかな。メタルとエレクトロニカの要素を持ったね。」 さて、この作品を耳にして Steven Wilson は何をおもうのでしょうか。どうぞ!!