COVER STORY : CORONER “DISSONANCE THEORY”
“Even people like Mikael Åkerfeldt from Opeth, he came to me and was like, ‘Back in the day, when I didn’t know how to go on with a song, I asked my band, ‘What would Tommy do?’ I almost fell, you know? I mean, Åkerfeldt is a genius. I love Opeth to death. It was like, ‘Okay!’ We never made a lot of money, but this feels very good.”
DISSONANCE THEORY
怪物 CORONER が最後にアルバムをリリースしてから30年以上が経ちましたが、待望の復活作 “Dissonance Theory” を聴けば、そこに長いブランクを感じる人はいないでしょう。というより、ほんの数週間しか休んでいなかったかのようです。スイス出身のこのバンドが体現していた革新的なスラッシュメタルへのアプローチは、今も全て健在。Tommy Vetterli の難解にして激烈なギターリフは今も楽曲の中心を駆け抜け、驚異的なテクニックと巧妙な数式、そして記憶に残るサウンドを巧みに融合させています。Ron Broder のベースラインは、トリオらしい脈打つような対位法的グルーヴを生み出し、彼の唸り声のようなボーカルは相変わらず不気味に響きます。そしてオリジナルメンバーの Marky Edelmann に代わり Diego Rapacchietti が担当するドラムは、力強くも軽快で、世紀の不可思議リズムを自然な楽曲へと昇華させていきます。”Dissonance Theory” は、バンドにとって復活であり、また更なる前進を意味する作品でもあります。過去の作品においても、アルバムごとにテーマがあり、独特のサウンドを新たな領域へと押し進めていた CORONER。その探究心こそがまさに、”Dissonance Theory” の原動力となっているのです。CORONERだからこそ、そして今だからこそ生み出せた奇跡のアルバムと言えるでしょう。
「曲作りを始める前、今のバンドのサウンドはどうあるべきか、ずっと考えていたんだ」と Vetterli は語ります。「でも、すぐに、そんな考えは全く意味をなさないって気づいた。1987年のデビュー作 “R.I.P.” をもう一度書くことはできない。なぜなら、今の僕はあの頃とは全くの別人だから。もうすぐ60歳になるけど、当時は20代だった。もうあれを再現するのは不可能だよ。だから、ただ落ち着いて、どんなものが出てくるか見てみようって決めたんだ」
“Dissonance Theory” は “R.I.P.” ではないかもしれませんが、少なくとも “R.I.P.” との連続性は保持しています。CORONER の始まりは伝説的なものでした。よく語られる物語は多少脚色されてはいるそうですが。1986年、バンドは CELTIC FROST のフロントマンで、同じくチューリッヒ出身の Tom G. Warrior に、 “Death Cult” のデモでボーカルを依頼しました。数ヶ月後、Tom G. は Vetterli と Edelmann に、CELTIC FROST の次の全米ツアーのローディーとして来ないかと声をかけたのです。これは若い彼らにとって非常に重要な経験でしたが、一部の人が言うように、CORONER 結成のきっかけになったわけではありませんでした。
「みんなは僕たちがただのローディーだったと思っていて、それで “バンドも組める!” って思ったみたいに勘違いしている。でも、実際はそうじゃなかったんだ」と Vetterli は説明する。「ツアーの進め方を体験するチャンスだった。それに、Tom がインタビューを受けるたびに、インタビュアーに僕らのテープを渡してくれていた。デモテープは既にリリースされていたし、それは僕たちにとってとても良かったよね。良いスタートだった。でも、このツアーの後、ドイツかベルギーのどこかでローディーとしてあと1公演やっただけで、それで終わりだったと思う」
原始的なブラックメタル、デスメタル、ドゥーム、スラッシュ・メタルを独自に自由に融合させた CELTIC FROST のように、CORONER も特定のサブジャンルに固執することはありませんでした。Edelmann は DISCHARGE のようなハードコア・パンクや、VENOM のような初期エクストリーム・メタルに傾倒していました。そして、Vetterli と Broder はそもそもチューリッヒで DOKKEN 風のハードロックバンドで活動していましたが、IRON MAIDEN ような、よりヘヴィでテクニカルな音楽を演奏したいと切望していたのです。そうして3人は、デンマークに共通の基盤を見つけました。コープスペイントをまとったフロントマンが、ギター・ハーモニーの洪水と複雑な構成の中を闊歩する偉大なバンドに。
「MERCYFUL FATE については、皆の意見が一致したね。彼らは僕たちにとって、初期に最も重要なバンドだった。メロディアスでありながらテクニカルで、少しプログレッシブなサウンドだったからね。僕らは基本的にはスラッシュメタルのプログレッシブ形式なんだ。つまり、ファストフードではなく、じっくりと聴き込むことで、20回聴いても新しい発見があるようなもの。僕たちは他人が何をしているかにとらわれることなく、常に自分たちだけの、唯一無二の、本物のサウンドを作り上げてきたんだよ」
CORONER は “R.I.P.” の時点ではまだ完成形に達していませんでした。(”たくさん練習したってことを見せたかったんだと思う” と Vetterli)しかし、道は既に開かれていました。続く4枚のアルバム――1988年の “Punishment for Decadence”、1989年の “No More Color”、1991年の “Mental Vortex”、そして1993年の “Grin” を通して、バンドはスラッシュ・メタルの輪郭を膨張させて、再定義していきました。自明の技術力の高さを、キャッチーなメロディー、型破りなリズム、異様なサウンドのテクスチャー、そして奇抜なソングライティングと見事に融合させていったのです。そうして彼らの特異性は “Grin” で頂点に達しました。このアルバムは、テクニカルなスラッシュ・メタルと、きらびやかで現代的なインダストリアル調のグルーヴ・メタルの狭間で揺れ動いていました。だからこそ、この時初めて CORONER は、限界にぶつかったような気がしたのです。
「奇妙な時期だった。メタルは衰退しつつあった。チューリッヒではテクノ・ミュージックが流行っていてね。実は、音楽的にオープンマインドだった僕らにとっては、それは興味深いことだった。常に少し新しいこと、自分たちの好きなことをやろうとしてきたからね。テクノ・パーティーにもよく出入りしていたんだ。精神状態を変えるようなドラッグを摂取することもあったけど、それはとても楽しかった。ヒップホップまで取り入れた。そして、もしかしたら、何か別のことをする時期が来たのかもしれない…と思ったんだよね」
バンドは “Grin” のセッションを始めた時点では活動休止するつもりはありませんでしたが、ツアー・サイクルの終了に伴い、互いに合意の上で解散することになりました。Edelmann は Tom G Warrior のインダストリアルメタルプロジェクト APOLLYON SUN に参加し、Vetterli はジャーマン・スラッシュの巨匠 KREATOR のアルバム “Outcast” と “Endorama” に参加した後、チューリッヒ郊外にニュー・サウンド・スタジオを設立しました。そして Broder は音楽活動から完全に距離を置きました。CORONER が再び演奏活動を始めたのは、アルバム “Grin” のリリースから20年近く経った2011年のこと。Vetterli は、再結成が実現した理由のひとつが、フェスティバルのオファーが高額になり断れなくなったからだと皮肉っぽく語っています。しかし、CORONER が後進のバンドに与えた影響が時を経て、無視できないものになっていたというのもまた、事実でした。
「YouTubeで若いミュージシャンたちが僕らの曲を演奏しているのを見て、”20年前の僕らの曲をまだ聴いてくれる人がいるなんて、不思議だ” と思ったよ。OPETH の Mikael みたいな人でさえ、僕のところにやってきて、”昔、曲作りの進め方が分からなかった時に、バンドのメンバーに “Tommy Vetteri ならどうしただろう?” って聞いたものだった” って言うんだよね。Hellfest でたまたま同じ時間に演奏した時には、観客に向かって “君らのために演奏するのはうれしいけど、本当は CORONER が見たい” って言ってくれたしね。もう、びっくりしたよ。Mikael は天才だよ。僕は OPETH が死ぬほど好きなんだ。 “やった!” って感じだった。大金を稼いだわけじゃないけど、すごくいい気分だよ。そう、音楽で大金を稼いだことはないけど、僕らが残してきたものを他の人に今見せられるのは、本当に素晴らしいことだと思う。僕らが時代を先取りしていたという話はよく聞いたり読んだりする。だから僕らはこう言ったんだ。”今新しいアルバムを作るなら、自分たちが一番楽しめる、最高に素晴らしいものを作ろう” ってね」
CORONER の再結成から数年が経ち、Vetterli は再び曲作りへの衝動に駆られ始めました。同じ頃、ドゥームバンド、TAR POND に専念するため CORONER を脱退した Edelmann の後任として、Rapacchietti がドラムを担当するようになりました。その頃には、ニュー・サウンドでのバンドのレコーディングが Vetterli の時間のほとんどを占めるようになり、プロデュース作業と同じ空間で作曲するのは不可能だと感じていました。しかし、時にひどく時間がかかることもありましたがその後10年かけて、後に “Dissonance Theory” となるアルバムをゆっくりと作り上げていったのです。
「一人で山へ行き、気分を盛り上げる必要があった。そうしたらうまくいくようになった。でも、時間を見つけるのは少し大変だった。他にも色々あった。人が亡くなったり、離婚したり、そしてクソみたいなコロナが起こったり。それに、少し先延ばし癖もあったかもしれない。自分たちへの期待があまりにも高かったから、少し怖かったのかもしれないね」
Vetterli のプロデューサーとしての経験は、アルバムの成熟に役立ちました。
「プロデューサーとしての経験はテクニックを成長させたわけではないかもしれないけど、それ以上の成長には繋がっている。つまり、頭の中では自分の実力以上に上手く演奏できていると思っているんだ。問題は、自分の期待に応えられないこと。でもこれは、ただの音楽であって、生死に関わることではないということを常に自分に認めなければならないよね(笑)。
最近のYouTubeでは、16歳かそれ以下の若者がものすごく速くて正確な音楽を演奏している動画をたくさん見ることができる。だけどね、いくつかの例外を除いて、どれも僕の心には響かないんだ。僕にとって、感情と意味はこれまで以上に大切になった。
だから、速くてオールドスクールなスラッシュパートを演奏することに決めたのは、できるからではなく、それが合っているからなんだ。その結果、新しいアルバムは以前よりも聴きやすくなった。それが僕たちの成長だと思う」
“Dissonance Theory” は、その自らに課したハードルを、徹底的な緻密さでクリアしています。Verterli は「50個のリフのうち、アルバムに収録されたのは1個くらい」だと語ります。アルバムからの先行シングル第1弾であり、32年ぶりの新曲となった “Renewal” のオープニング・リフは、Vetterli が2015年にタイで書き下ろし、10年近くかけて調整と再アレンジを重ねてきました。Rapacchietti のドラムパートは、全体で2回録音されました。1回は Broder がベースラインを録音する前、もう1回はベースが曲の雰囲気を変えていることが明らかになった後。Vetterli はアメリカ人の友人 Dennis Russ を共同プロデューサーに迎え、作詞も共同で行い、宗教、人工知能、そして原爆といったテーマを皮肉たっぷりの緻密さで切り取ることになりました。
Vetterli はギタリストとしてもキャリア最高の状態にあります。”The Law” や “Trinity” といった曲は、不気味で思索的な始まりから、大胆なメロディーの華麗な旋律に彩られたクライマックスへと突き進み、 “Consequence” や “Renewal” では、そのテクニックも未だワールドクラスであることを証明しています。ほぼ全ての曲に華々しいシュレッドとソロがあり、シュレッダー志望者は耳を休める暇もありません。 “Dissonance Theory” のテクニカルな過激さは、初期の CORONER ように即効性のあるものではないかもしれませんが、だからといって彼がギタリストとして衰退したわけではありません。ただ、もう何も証明する必要がないというだけで十二分に創造的。
「一番の違いは、昔はテクニカルな演奏をただテクニカルに演奏していたのが、今はムードやヴァイブ、そして表現の方がずっと重要になっているということだと思う。速いパートがあっても、見せびらかすためではなく、そこに必要だと思うから演奏するんだ」
“Dissonance Theory” というタイトルは音楽の話ではありません。
「変なコードを弾くから、不協和音というタイトルが僕たちの音楽と何か関係があるのではないかと考える人もいる。確かにそうかもしれないね(笑)。でも、僕たちがここで言っているのは認知的不協和、いわゆる不協和理論です。例えば、君が肉を食べるのが好きだとしよう。一方で、動物に危害を加えたくはない。すると、選択肢はベジタリアンになるか、そうでなければビタミンB12欠乏症になるかだ。もしくは、自分自身の真実を作り出すか。人類が様々な分野でこの問題にどう対処するか、これは非常に興味深い概念だと思うよ。
“Consequence” は、AI、あるいは現代の技術革新全般について。人類にとって非常に良いことは、一方で非常に危険なことでもある。特にAIの登場によって、人々は職を失うだろうし、何かが真実なのか、現実なのか、どうすればわかるのだろう?
“Sacrificial Lamb” では状況が異なるね。これは、自らを犠牲の子羊と見なす大量殺人犯の物語。彼は、島に行ってティーンエイジャーを撃つことで人類のために貢献していると考えている。なんてひどい話だろう?
つまり、これは様々な真実についての物語。あなたにはあなたの真実があり、他人には別の真実がある。そしてそれは単なる事実だ。歌詞のテーマをまとめるには、刺激的なコンセプトだと思ったね」
アートワークはまるで DNA のよう。
「カバーにあるDNA構造は、下に向かって崩壊していくのだけど、これは人類の没落を象徴している。アルバムタイトルは、本当は “Oxymoron(矛盾)” にするべきだったかもね。もっと広い意味では、これは知性と愚かさを同時に意味する。つまり、人類の象徴だよ。あらゆる功績を残したにもかかわらず、それと共に自ら墓穴を掘るほど愚かなのが人間。それが最初のアイデアだった。ただ、この言葉は主に文章を書く際に使われるため、多くの英語話者はこのタイトルを嫌がった。そこで別のタイトルを探して、すぐに “Dissonance Theory(不協和理論)” を思いついたんだ。僕にとっては、今となっては全てがしっくりくるよ」
“Dissonance Theory” というアルバムを3つの言葉で表すとすれば?
「厳しく、妥協がなく、正直。僕は常に自分自身を成長させ、異なる意見を受け入れ、誰かを批判しないように努めている。暴力ではなく、会話と議論で問題を解決しようとしているんだ。これが、朝起きた時の僕の目標。嫌な奴にならないこと」
“Dissonance Theory” のデラックス版には、Tom G Warrior がボーカルを務め、40年前に CORONER をこの道へと導いた “Death Cult デモ”のリマスター版が同梱されます。CORONER の最古の曲と最新の曲を立て続けに聴くのは、ちょっとした混乱を招くかもしれませんね。”Death Cult” の大胆で先祖返り的な曲と、”Dissonance Theory” の洗練された技巧の間には、大きな隔たりがあるのは当然です。しかし、それらを並べて聴くことで、このバンドが初期から溢れ出ていた共通の目的意識、挑発的な探究心、そして限界を押し広げようとする野心が、同時に浮かび上がってくるのです。
「当時僕は自動車整備士をしていて、”Death Cult” を作るために1週間の休暇を取ってスタジオに入ったんだ。これが僕の人生を変えてくれた。この1週間の後、両親に “ミュージシャンになりたい。車の修理はもうやめたい。そういう仕事には興味がない” と伝えることになった。その後のことは、歴史が語る通りだよ」
日本盤のご購入はこちら。DIW on Metal / Daymare Recordings
参考文献: Bandcamp Daily:Great Thrash Never Dies: The Return of Coroner




















