EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MANUEL GAGNEUX OF ZEAL & ARDOR !!
“Nowadays Black Americans Are Being Harassed And Shot To Lay Dead In The Streets. It Is Still a Regular Occurence And Basically Accepted As Normal. I Find This Even Stranger. That’s Where The Name “Stranger Fruit” Comes From.”
DISC REVIEW “STRANGER FRUIT”
過酷な奴隷制、差別の中から産声を上げた嘆きと抵抗、そして救いを包含するゴスペル、ブルース、ソウル。スピリチュアルで魂宿る黒人音楽をエクストリームメタルへと織り込み、刻下の不条理を射影する ZEAL & ARDOR はヘヴィーミュージック未踏の扉を開く真なる救世主なのかもしれません。
全ての始まりはインターネットの功罪を象徴する匿名掲示板でした。スイス人の父とアフロ-アメリカンの母を持つ Manuel Gagneux は 4chan のメッセージボードである募集を行いました。2つの異なるジャンルをミックスして音楽を作るのでその候補を挙げて欲しいと。
彼の目にとまったのは、ネット上に一定数存在する所謂 “ヘイター” からの投稿でした。「 “ブラック” メタルと “黒人” 音楽をミックスしてみろよ。」その人種差別主義者からの言葉は、アフロ-アメリカンの血を引くアーティスト Manuel を掻き立てるに十分の悪意を纏っていたのです。
そうして Manuel は、”もし黒人奴隷がイエスではなくサタンを信仰していたら?” をコンセプトにブラックメタルとスピリチュアルを融合し、ZEAL & ARDOR のデビュー作 “Devil is Fine” を完成させました。つまり、エクストリームミュージックにとって肝要な未踏の領域への鍵は、皮肉にも人種差別主義者に対する究極の “Fxxk You” だったと言えますね。
Manuel のソロプロジェクトだった ZEAL & ARDOR をフルバンドへと拡大し、リスナーのみならず PROPHETS OF RAGE や CONVERGE といったメガアクトからの注目までをも一身に集めた最新作 “Stranger Fruit” は、作品のテーマ、音楽共に更なる進化を果たしたマイルストーンに仕上がりました。
「今日でも、アメリカの黒人はハラスメント行為を受け、街角でも撃たれて死んでいっているのが現状だよ。そうしてそういった差別や事件は、未だに当たり前で普通の出来事として受け入れられてしまっているんだ。僕は差別を当然に思うそっちの感覚の方が “Stranger” おかしいと思うんだよ。」とインタビューで Manuel は語ります。Bille Holiday が “Strange Frute” でおよそ80年前に告発した人種差別の陰惨は、現代でも決して消え去ることはなく、むしろ完全な日常として定着してしまっている。
Manuel のそうした想いは墓掘り人、奴隷、隠者といった歴史のトラウマ、過去の遺物にも思える存在を墓場から掘り起こし、現代社会が抱える闇と巧みに対比しオーバーラップさせながら人に備わる罪と不条理を浮き彫りにしています。「このアルバムの歌詞が過去について歌っているのか、現在について歌っているのか不確かな事実はとても興味深く、そしてまた非常に悲しいことだと思う。」
対比と言えば、「2つを融合することで、それぞれのインテンスはさらに高まりを見せるんだ。」 と語るように、もちろん ZEAL & ARDOR の顔であるブラックメタルとスピリチュアルのコントラストは鮮やかさを増しています。そしてそのインテンスが、拡大するバンドの多様性に導かれていることは明らかです。
トレモロリフがブルースとポストブラックの境界を消失させる荘厳なイントロダクションから、エスカレートするピアノの響きがソウルフルなコール&レスポンス、重厚なコーラスハーモニー、唸りを上げるギターノイズを導く “Gravedigger’s Chant” への流れはダークで濃密、エクレクティックなバンドの伸長するサウンドステージを決定づけます。
サティとドゥビッシー。惹かれあったファンタジックなフランス印象派のイメージを Wendy Carlos のフィルターでエレクトロニックに昇華した至高のインストゥルメンタルピース “The Hermit”, “The Fool”, “Solve”。SYSTEM OF A DOWN をも想起させるドライブする狂気のゴスペル “Row Row”。Tom Waits のポップセンスとドローンの実験性を同時に抱きしめる “You Ain’t Coming Back”。
3分台のコンパクトな楽曲が大半を占めるアルバムは、各トラックがユニークなシグニチャーサウンドを披露しながらも、トータルで浸ることの出来る映画のような48分間を実現しているのです。
そうしてアルバムは、ブルースにゴスペル、究極にポップなエモーションとポストブラックの激情を詰め込んだ心揺さぶるフェアウェルソング “Built on Ashes” で、完璧なまでにリスナーの感情と同調しその幕を閉じました。
今回弊誌では、バンドのマスターマインド Manuel Gagneux にインタビューを行うことが出来ました!「メタルは今まさに偉大な進化を遂げようとしているんだ。」どうぞ!!
ZEAL & ARDOR “STRANGER FRUIT” : 10/10
INTERVIEW WITH MANUEL GAGNEUX
Q1: It all started with 4chan comments. One day, it seems you asked posters to give you two genres and you’d combine them, right? Then, you choose Black metal and Negro spirituals. What made you pick these two up? Did they have things in common?
【MANUEL】: The contrast between the two is fascinating to me. Both have an emotional weight to them. With metal it’s an aggressive response and with the spirituals it makes you want to be part of it and sing along. Putting them together made them even more intense. Thanks to the contrast the black metal seems more brutal and the spiritual part is more alluring.
Q1: 全ては匿名掲示板 4chan から始まったようですね?あなたはそこで、2つのジャンルをミックスして音楽を製作すると宣言し、その候補を募集しました。多くの候補が挙がった中で、ブラックメタルとニグロ・スピリチュアルを選んだ理由はなぜでしょう?
【MANUEL】: 僕にとって、その2つのジャンルが生み出すコントラストが魅力的だったからだよ。まずどちらもそれぞれ感情的な “重み” を持っているよね。そしてメタルに関してはアグレッシブな反応を、スピリチュアルに関しては音楽の一部となりシンガロングを喚起させる力があるよね。
それら2つを融合することで、それぞれのインテンスはさらに高まりを見せるんだ。
つまり、コントラストのおかげでブラックメタルはよりブルータルに、そしてスピリチュアルなパートはより魅惑的となったわけさ。
Q2: Before Zeal & Ardor, you created a chamber pop project called Birdmask. It seems you have really wide musical background. So, could you tell us about your musical upbringings?
【MANUEL】: Both my parents are musicians. My father is a guitarist in a salsa group and my mother is a jazz vocalist. There was always music playing in our house and we always had a piano that I was allowed to play. It was a tremendously important thing to me, because I had the possibility to experiment early on. I never lost that fascination with music and that playful approach to it.
Q2: あなたは ZEAL & ARDOR 以前には、チェンバーポッププロジェクト BIRDMASK でも知られていました。非常にワイドな音楽的バックグラウンドをお持ちのようですね?
【MANUEL】: 僕は両親共にミュージシャンなんだ。父はサルサグループのギタリストで、母はジャズボーカリスト。だから家にはいつも音楽が流れていたし、僕は好きな時にピアノを弾くことが出来たんだ。
そうした環境は僕にとって掛け替えのないものだったね。なぜなら、おかげで早い時期から音楽で実験を重ねることが出来たんだから。そうして僕は音楽に対する好奇心を失うことなく、遊び心を持ってアプローチすることとなったんだ。
Q3: Initially, Zeal & Ardor started your solo project. But after you released “Devil is Fine”, Zeal & Ardor expanded to a full line-up. Adding two backing vocalists is very interesting, but how did you find them? Was that natural for you to transfer from solo project to actual band?
【MANUEL】: At first I was worried that having other people involved would diminish the project’s intensity. That all changed when I asked friends of mine to join. to me it’s very important to have people playing with me that I like. Since music is like a language it makes sense to want to communicate with people you feel comfortable with. They immediately understood what the music was about and it makes itself noticeable in live shows. It is far more intense.
Q3: ZEAL & ARDOR はあなたのソロプロジェクトとしてスタートしましたが、”Devil is Fine” をリリースした後2人のバックボーカル擁する興味深い布陣のフルバンドへと拡大を遂げていますね?
【MANUEL】: 実を言うと、最初は他のミュージシャンを ZEAL & ARDOR にかかわらせることで、このプロジェクトのインテンシティーが減退するのではと心配していたんだ。だけど友人たちに参加を頼んでからは全てが変わったね。
とにかく僕にとっては、仲の良い人と一緒にプレイすることがとても重要なんだよ。というのも、音楽は言語のようなものだから、その言語で快適だと思う人たちとコミュニケーションを取りたいと思うことは理に適っているよね?
彼らは即座に僕の音楽が意図することを理解してくれるし、特にライブでは彼らが居ることで音楽がより際立つようになったんだ。むしろよりインテンスを増したと感じるね。
Q4: You offered a unique merchandise deal during your 2018 shows, fans could get free merchandise if they branded the band’s logo onto their skin. How did you come up such a unconventional idea?
【MANUEL】: The branding was more of a statement. I have problems with how musicians are in focus more than their music. It seems to me that the persona of a musician tends to be more important than the music itself. This leads to a cult of personality rather wherein people blindly follow someone they don’t even know. They basically let themselves be branded. So I thought we could offer literal brandings to illustrate this. If you do, you’re just an idiot who is following, not thinking for yourself. To my surprise people did not understand and wanted to get the branding. So they confirmed my theory.
Q4: そのライブショウでは、バンドロゴの焼印を肌に刻めば、ファンが無料でマーチを手に入れられるという試みも行われていましたね?
【MANUEL】: 焼印を肌に刻むことはより強烈なステイトメント。僕は音楽以上にミュージシャンが注目されることを問題視していてね。僕には音楽それ自体よりも、ミュージシャンのペルソナが重要視されているように思えるんだ。
ファンが知りもしない人物を盲信している様は、パーソナリティのカルト化を導いているね。彼らは基本的にそうやって自らを占有される (Branded) ことを許しているわけだよ。
だから僕はその状況を可視化するために、文字通り焼印 (Branded) をオファーしたんだ。もしそれを押せば、自らで思考せず何かに追従する愚か者だよ。驚くことに、その意図を理解しない人は焼印を押したがったんだ。ある意味、僕のセオリーが実証されたと言えるね。
Q5: So, let’s talk about your newest record “Stranger Fruit”. First of all, it seems Billie Holiday–referencing title, right? What’s the meaning behind that?
【MANUEL】: The Billie Holiday song speaks about strange fruit hanging from the poplar trees, but really means the dead bodies of lynched black people hanging.
Nowadays black Americans are being harassed and shot to lay dead in the streets. It is still a regular occurence and basically accepted as normal. I find this even stranger. That’s where the name comes from.
Q5: では最新作 “Stranger Fruit” について話しましょう。このタイトルは Bille Holiday に関連していますよね?
【MANUEL】: Bille Holiday の楽曲 (Starange Fruit) は表面上はポプラの木から”Strange Fruit” おかしな果実がぶら下がっていると歌っているけど、実際にはリンチを受けた黒人の死体がぶら下がっていることを隠喩していたんだ。
今日でも、アメリカの黒人はハラスメント行為を受け、街角でも撃たれて死んでいっているのが現状だよ。そうしてそういった差別や事件は、未だに当たり前で普通の出来事として受け入れられてしまっているんだ。僕は差別を当然と思うそっちの感覚の方が “Stranger” おかしいと思うんだよ。だからこのタイトル (Stranger Fruit) を思いついたんだ。
Q6: Regrading lyrical themes, words like gravedigger, servants are, at first glance, they seem like a past, historical story, but actually it also overlaps with the current story or political climates, right?
【MANUEL】: That was exactly what I was trying to accomplish. The fact that it is unclear if the lyrics talk about the past or current times is both interesting and very saddening. I always had a fascination for things that can be viewed in more than one way and thought it interesting to try my hand at it.
Q6: そういった視点で歌詞を紐解くと、例えば墓掘り人や奴隷といった過去の遺物に思えるテーマも、実は現代の社会問題にオーバーラップさせているようにも思えます。
【MANUEL】: まさにそれこそ僕がこのアルバムで成し遂げたかったことなんだ。実際、このアルバムの歌詞が過去について歌っているのか、現在について歌っているのか不確かな事実はとても興味深く、そしてまた非常に悲しいことだと思うんだ。だってそれって人が進化していない証明でもあるからね。
とにかく、僕は常に複数の方法で見ることが出来るものに魅力を感じ、それを自らの手で成し遂げれば面白いと思ったのさ。
Q7: We always talk about your Black metal and Spiritual aspects. But definitely, there is lot’s of inspirations outside of those two realms in “Stranger Fruit”. Actually, more synth sounds and electronic elements is one of them, I feel. Do you agree that?
【MANUEL】: Yes. I was inspired by Wendy Carlos, a synthesizer pioneer, who reimagined Bach pieces on early Moog synthesizers. At the time (the 1960s) synthesizers were not considered real instruments and in an effort to have them be taken seriously Wendy turned to classical music. I tried to expand on the idea and incorporated elements inspired by Erik Satie and Claude Debussy. I adore both those composers’ work.
Q7: 音楽的には、常にブラックメタルとスピリチュアルの融合が取り沙汰される ZEAL & ARDOR ですが、今作には間違いなくそれ以外にも多数のエレメントが流入しています。シンセサウンドやエレクトロニカの要素もその一つですよね?
【MANUEL】: その通りだよ。僕は Wendy Carlos にインスパイアされたんだ。シンセサイザーのパイオニアで、バッハの楽曲を初期のムーグシンセでリイメージした人物なんだけどね。1960年代当時、シンセサイザーはリアルな楽器とは考えられていなかったんだけど、Wendy がクラッシックに落とし込むことによってシリアスに捉えられる道筋がついたのさ。
僕はそのアイデアをさらに拡大し、サティやドゥビッシーにインスパイアされた要素を織り込んだわけさ。僕は彼ら2人のコンポーザーとしての仕事を崇拝しているからね。
Q8: Kurt Ballou mixed the record, and you opened for Prophets of Rage for two shows in London and Germany in 2017. Definitely, big names and the world pay huge attention to you. Actually, I feel you have similar mood, attitude and possibility when Rage Against the Machine, Tool, Deftones, System of A Downemerged to the scene. I think metal scene needs young heroes. Do you think you can be the “Savior” of metal scene?
【MANUEL】: I think thinking I can be a savior of anything would be arrogant. There is a great development in metal right now with bands like Igorrr, Batushka and Schammasch where the boundaries are being experimented with. I would not say that I am alone in this, but I am glad to be a part of it. We will see if any saving happens.
Q8: PROPHETS OF RAGE のオープニングを務めたり、Kurt Ballou がミキシングを手掛けたりとビッグネームやシーンからの注目も巨大なものがありますね。
実際、メタルシーンが若い “救世主” を求めているとしたら、あなたにはその風格と才能が備わっているように感じます。
【MANUEL】: 僕が何かしらの “救世主” になれるなんて考えることはちょっと傲慢だと思うよ。メタルは今まさに偉大な進化を遂げようとしているんだ。それこそジャンルの境界線で実験を重ねる IGORRR や BATUSHUKA、SCHAMMASCH のようなバンドと共にね。
だから決して僕一人で革新を担っているわけではないんだよ。ただし、その一端を担っているのは嬉しいね。さて、メタルが救われるか見てみようじゃないか。